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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「孤狼の血」(日本映画):ヤクザ抗争の中でサラ金所長が行方不明になる。ベテラン悪徳刑事とコンビを組んだ正義感と使命感に燃える新米刑事は悩みながらも違法捜査に従う

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一昨日(18日)の丸の内TOEIでのプレミアム試写は立ち見が出るほどの熱い空気に包まれて満席。
試写後に登場した白石和彌監督を迎えた観客の万雷の拍手。
久し振りに「東映らしい」ヤクザ映画を堪能したと言う拍手だ。おどろいたことに9時近くになるが誰も席を立って帰る人もいない。

ヤクザ映画なんていつの間にかワンパターンになって先が読める単純なものが多く客が離れて行った。
だがこの映画、何が良いかと言うと「本」なんだろうと思う。
柚月裕子の原作が抜群に優れているのだ。登場人物をヴィヴィッドに描いて複雑なプロットを構成しその展開がカタルシスを伴って興味深い。

池上純哉の脚色(脚本では無い。念の為)が巧みにテンポとツボを捉え、冴えわたる芝居の才能を秘める役所広司を筆頭とする役者軍団を見事に司どり意のままに演出する白石和彌が存在して仕上げた作品はヤワでは無く2017年の掉尾を飾る強烈な映画となった。

冒頭はヤクザの凄絶な拷問を受け手足の指を1本1本切り取られて行くサラ金の所長,上早稲二郎(駿河太郎)の悲痛な叫び声から始まる。

物語の舞台は暴対法成立以前、1963年の広島県の架空の呉原市。暴力団が割拠してシマを巡り抗争を続けている。

地場の「尾谷組」の組長、尾谷憲次(伊吹吾郎)が刑期を務める間に広島市から五十会会長、五十子正平(石橋蓮司)の命を受け傘下の加古村組の組長、加古村猛(嶋田久作)を筆頭に若頭野崎康介(竹野内豊)や構成員、古田慈(音尾琢磨)、勝矢(苗代広行)などが広島から出張って呉原市で暴れ回っている。

サラ金は尾谷組のフロント企業。呉原市へ進出を狙う加古村組は尾谷組を潰し進出資金を捻出するにはサラ金所長を痛めつけ本店の金庫を開けさせごっそり資金を頂こうと言う寸法だ。

妹、上早稲潤子(Megumi)の上早稲二郎失踪を受け呉原警察は動き出す。主任、大上章吾巡査部長(役所広司)とコンビを組む新米の日岡秀一巡査(松阪桃李)。
広島大学出の秀才だがベテランの大上主任のやることには驚くことばかり。聞き込みに行った暴力団から分厚い札束入りの封筒を受け取るし、飲み食いするレストランやバーは無銭飲食。地取りの捜査もしないでパチンコ三昧。文句を言おうとすると端で打っている大男に喧嘩をしろと言う。コーヒーを間違ってかけた振りで殴り合いになるが丁度大当たりのラッキー7が出た大上は見向きもしない。ようやく腰を上げて大男、勝矢を二人がかりで押さえボコボコにしながらサラ金所長の行方、死体を何処に隠したと問い詰める。大男は苗代と言う加古村構成員だが核心に触れると恐怖に駆られ公務執行妨害や車にパケがあったと抑えると10年のムショ行きと脅しても効果が無い。

冒頭からこの辺り、殺人事件と大上が察知するまでの畳みかけるテンポに暴力団同士の抗争の火蓋を切る切っ掛けとなるシーンへの展開が素晴らしい。

広島大学を出て警察学校を終え理想に燃えて初めての事件に取り組む日岡巡査の現場で、大上主任の悪徳警官振りに驚く。が捜査方法が規定に外れたとは言え確実に殺人犯の跡を追跡するカンの素晴らしさに感銘する。おまけにヤクザを人間扱いにしないが、堅気の一般市民の安全安心に気を配る人間性にも感銘を受ける。

大上章吾を演じる役所広司が素晴らしい。彼くらいのベテランになると所謂「臭さ」が出るのだが、完璧にリセットして上辺は「悪徳刑事」を装い、違法捜査をブルドーザーのように猛進する姿は日岡で無くとも危惧を覚えるが、内面は暖かい人間性に溢れたハートを秘めている芝居は下手な役者が演じるとシラけるものだがさすが役所は凄い。

日岡秀一の松阪桃李が成長している。映画の中で大上に従いながら反発しそして大上のエッセンスを鳩首して成長する。そんなニュアンスの変化を細かく演じ切っている。

ヤクザ映画に女は付き物だがクラブ「梨子」の美人ママ、高木里佳子の真木よう子も官能的な芝居で蠱惑する。真木にこんな色っぽい演技ができるとは思わなかった。

僕は柚月裕子の作品は好きで沢山読んでいる。最初は検事ものシリーズだった。
「最後の証人」、「検事の本懐」、「臨床心理」「検事の死命」「蟻の菜園(アントガーデン)」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」そして「孤狼の血」検事ものからスタートし警察ものへ移行していく。中でも2年前に出版された「孤狼の血」が一番感動した。
柚月裕子は「『仁義なき戦い』なくしては生まれなかった作品。女が入ろうとしても入れない世界だからこそ格好いいというか、憧れました」と語っている。
「第69回日本推理作家協会賞」受賞、「本の雑誌が選ぶ2015年度ベスト10」第2位、「このミステリーがすごい!」(2016年度版)第3位。更に「第154回直木賞」にノミネートもされた。
大沢在昌や佐々木譲、乃南朝、黒川博行などは警察ものから直木賞を勝ち得たが柚月は彼らを凌ぐがノミネートはされども未だ無冠の女王だ。

「仁義なき戦い」(シリーズ1作目)から44年。再びあの強烈な暴力団抗争と介入する警察、その混沌とした死闘を裁こうとする一匹狼。悪徳警官を装いながらあらゆる(汚い違法な)手段で情報を手に入れケジメを付けて歩き回る大上の生き様はまさに「孤狼」だ。

所轄捜査二課の新人刑事・日岡秀一と、捜査のためには手段を選ばず、署内の上下関係は無視、ヤクザとの癒着すらしている異端刑事の大上章吾主任。正義感と警官の使命を全うしようとする日岡は蛇蝎の如く大上を嫌った。
違法行為は当たり前の大上のすさまじい行動力と大胆な判断に驚異の目を瞠るうちに、やがて大上の暖かい人間性に触れ、そして尊敬してやまない存在にまで昇華する。いってみればこれは今流行りの「バディ・ムービ-」ではないか。

白石和彌監督は2010年の「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で長編映画デビューを果たし、これまでに「凶悪」や「日本で一番悪い奴ら」「牝猫たち」など4作品を撮っている。理詰めでテーマを観客に納得させ理解させ確実にヒットに導く力量は知っていたが、この作品では余すところなくその才能を開花させていて間違いなく彼の代表作となるだろう。

2018年5月12日より丸の内TOEI他で全国公開される。

「ジャスティス・リーグ」(Justice League)(アメリカ映画):地球を襲う宇宙の敵、ステペッテンウルフに逆襲し追い払うスーパーヒーローたちの活躍は単純に楽しめる

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原題Justice Leagueは「正義の仲間たち」と大上段に振りかぶりスーパーマン喪失後の地球を襲う凶悪なステペッテンウルフとその手下たちと死闘を尽くす。単純なスーパーヒーローたちの話だが思った以上に興奮し楽しめた。

アメリカでは17日から公開され5本目の「DC Extended Universe」(DCEU)の中でも最低のデビュー。全国4051館で公開され、少なくとも110Mを突破するとの予測も裏切る96.0M(108億円)止まり。
好調なMarvelのMCUに対抗しているDCEU(DC Extended Universe)5作品の中でも最低の出だしだ。DCEUは2013年の「Man of Steels」の116.6Mからスタートしている。

しかし「Justice League」は海外では愛されていて65カ国で185.5M(208億円)の週末デビューで、特に中国単独で51.7M(58億円)は注目に値いする。
同様南米でも好調でブラジルでは史上初の14.2Mを記録しています。ワールドワイド総計は当初の予測値325Mを下回る281.5M(316億円)で着地している。
プロの批評はやや辛口だし出口調査ではB+評価、ロットントマトは40%で客足が止まった。

冒頭、子どもたちがスーパーマンにインタビューをしているスマホの粗い画面。
「地球にとって良いことって何?」
スーパーマン(ヘンリー・カビル)は答えず真っ暗闇になり地球に危機が訪れている暗示となる。
レオナード・コーヘンの曲が流れる「Everybody Knows」「誰でも知っている戦争は終わったのだ。誰でも知っているグッドガイは死んだのだ」

このスーパーヒーロー集団映画はかなりフィロソフィカルだ。
スーパーマン亡き後、地球の荒廃と危機を察知し悩むのがバットマンことブルース・ウエイン(ベン・アフレック)。

スーパーマンの母親マーサ・ケント(ダイアン・レイン)の家は銀行に差し押さえられ、難民受け入れに反対の悪党どもがムスリムの衣料雑貨屋を襲う。絶望的な崩壊が処々に見られる。

バットマンがダイアナ姫・ワンダ―ウーマン(ガル・ガドット)に「遠くから敵、ステペッテンウルフ(シアラン・ヒンズ)とその手下たちはやって来る」と呟くとプリンスは「やって来るどころかもう来ているわよ」と。

我々だけでは防ぎようがないとスーパーヒーローたちに声を掛ける。
オンリーワンの超人たちが顔を揃えるプロセスのは昔の「ミッション・インポシブル」形式だ。
全身が機械に覆われている謎の男、サイボーグ(レイ・フィッシャー)はかつてアメフットの花形プレイヤーだったが交通事故で半分機械半分人間、デジタルデバイスで世界のデータをアッと言う間に収集できるし、怪力で無愛想な海の王者アクアマン(ジェイソン・モモア)はアトランティスの継承者で水中のことなら何でも任せられる。一番年少のフラッシュ(エズラ・ミラー)は光速で走ることが出来る。
このように前代未聞のお友達の居ない孤独なヒーローを集めてリーグを結成する。

バットマンカーに乗せたフラッシュに「あなたは何ができるの?」と聞かれたバットマンは「俺は超金持ちだ」と答えるのが可笑しい。

相変わらず執事のアルフレッド(ジェレミー・アイアンズ)にかしずかれるおぼっちゃまのブルース。
新種の武器と色々のアドバイスを貰う。

チームを統率するリーダーだが時々弱音を吐くバットマン。美女戦士ワンダ―ウーマンがチームを任せて欲しいとバットマンに迫る自信たっぷりのダイアナ姫の強気のシーンもある。彼女はヘスティアの縄と何でも跳ね返す盾と言う無敵の武器を操る。

マーベルの17本のMCU作品群に対抗してDCのヒーローたちの世界を描く「DCUW」はこれで5本目。DCは未だMarvelに敵わない。

監督は、「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」のザック・スナイダー。(しかしザックの家庭に不幸がありアベンジャーの監督だったジョス・ウェドンが引き継いだのは良いが本を書き直し再撮を入れて制作費は300M(322億円)にまで膨れ上がったと言う。

WBは予想以下のBOと急増した制作費を抱え真っ青になって善後策を考慮中。

出演は、バットマンに「夜に生きる」のベン・アフレック、「ワンダーウーマン」で一躍スターになったガル・ギャドット、アクアマンに「DEBUG/ディバグ」のジェイソン・モモア、光速で走るフラッシュに「プリズン・エクスペリメント」のエズラ・ミラー、機械人間サイボーグに「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」のレイ・フィッシャーなど。

監督交代制作費倍増などビハインドシーンのことは分からないが仕上がった作品は悪くない。
お友達の居ないスーパーヒーローが集うとこんなことが出来るんだ。

今週末の11月23日(祝日)より丸の内ピカデリー他で全国公開される

「彼女が目覚めるその日まで」(Brain on Fire)(カナダ・アイルランド映画):仕事もロマンスも順調な若い女性ジャーナリストが突如「脳が燃える」難病に襲われる

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日本でも千例以上あるらしいが、非常に稀有な病気「抗NMDA受容体脳炎」に罹った若い女性ジャーナリスト、スザンナ・キャラハンが再生するまでの実話を描いた「脳に棲む魔物」(Brain on Fire: My Month of Madness)の映画化。

この珍しい病気「抗NMDA受容体脳炎」とは、ある時は凄い幸福感に包まれているかと思うと次の瞬間絶望的に被害妄想となり廻りの人を家族であれ同僚であれボーイフレンドであれ、罵倒し始めるのだ。

ニューヨーク・ポスト紙(タブロイド版で日本で言えば夕刊フジのような大衆紙)で実習生として働く21歳のスザンナ・キャラハン(クロエ・グレース・モレッツ)は、いつかフロントページに自分の署名入りの記事を夢見て仕事に励んでいる。

ボーイフレンドのスティーヴン(トーマス・マン)はプロのミュージシャンを目指し、二人は仲良く結ばれる将来の夢を見ていた。

だがスザンナに異変が起きる。段々と物忘れがひどくなり、先輩記者のマーゴ(ジェニー・スレイト)の推薦もありVIPの上院議員への重要な取材に出かけるがそこでとんでもないミスをしてしまう。
職場に戻って来ても、さらに幻覚、幻聴、けいれんに悩まされるが、どこの病院へ行ってもどんな先生に検査をしてもらっても結果は異常なし。

スザンナの症状は見るに堪えないような凄まじさだ。
ベッドで寝ていても、そしてもがき、喘ぎ、暴れ回り、看護する人たちをなぎ倒す。か弱いスザンナに悪魔が摂りついたとしか思えない。「エクソシスト」のリンダのようだ。

離婚していた両親、父トム・キャラハン(リチャード・アーミティッシュ)も母、ローナ・ナック(キャリー・アン・モス)も病院に駆けつけるが手の施しようがない。
異常なしと診断した先生たちは、会話もままならなくなったスザンナを精神科への転院を勧める。徐々に手足も動かなくなってくる.

スザンナの両親や恋人のスティーヴン、先輩記者のマーゴは「精神病院か」とショックで疑問を感じる。

そこに救世主として現れるのがシリア人の医師、スーヘル・ナジャー(ナヴィッド・ネガーバン)。
彼女に時計の絵を描かせたところ数字が総て右半分に集中している。
これは脳が炎症を起こしている証左だと言う。
専門的なことは分からないが自己免疫症にかかり脳が炎症を起こして身体を攻撃しているのだと。

アメリカの偉そうな白人の医師たちがスッタモンダの末,自己弁護のため落ち着く先は精神病棟。
映画はスザンナの狂気の病状を描くのは良いが、発症の原因を究明し突き止めた医師をヒーローとして描くべきだ。ましてや今は世界の嫌われ者になっているシリア人だぜ。

難病映画でカタルシスが味わえるの原因を突き止め明らかにする「ダイアグノシス」(diagnosis)だ。
シリア人として白人の中で肩身が狭いキャリアを送っているナジャー医師にもっと拍手を送り称えるべきではないだろうか。

クロエ・グレース・モレッツは熱演しているが、
監督の27歳アイルランド人ジェラルド・バレットでは人生の経験も苦労もしていないだろう。スザンナの家系はアイルランド、だから若くとも国民性が分かっているアイリッシュの監督で、とはイージーすぎると言うのは考えすぎかな。

人種はともかく、こんな難病の本を書き、撮るのは大変で手に負えないだろうと言う気がする。
原作はスザンナ・キャラハンが実際の闘病生活を描いた自伝の「脳に棲む魔物」。
1か月半だけで職場復帰ができた功績は、このはダイアグノシスを確定したシリア人医師、スーヘル・ナジャーだからスポットライトをもっと当てるべきだ。

製作総指揮はオスカー女優のシャーリーズ・セロン。
主演は「キック・アス」シリーズなどのクロエ・グレース・モレッツ。19歳だがポスト紙の記者と言うのはリアリティが無い。仕事も恋愛も順調な新聞記者見習いが、幻覚や幻聴、全身のけいれんの原因がわからず苦悶する演技は迫力がある。
トーマス・マン、キャリー=アン・モス、リチャード・アーミティッジ、タイラー・ペリー、ジェニー・スレイトらが脇を固める。
12月6日より角川シネマ有楽町にて公開される。

「シェイプ・オブ・ウォーター」(The Shape of Water)(米映画)米ソ冷戦の真只中宇宙開発の最先端、秘密の宇宙開発センターに持ちこまれたアマゾンの半魚人に恋をする中年の清掃係女性

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週末の映画動員ランキングで首位になったのは「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」。
興収2億円を上げ、公開から3週目にして初の1位を獲得した。WBは派手な宣伝活動をしなかったので出だしは躓いたが、口コミの効果で高校生など若年層を取り込むことに成功し、16日間の累計興収は11億4400万円を超えた。

初登場でベスト10に引っ掛ってようやく9位につけたのは、引退を宣言し4年振りの
監督に復帰したスティーヴン・ソダーバーグのクライム・ムービー「ローガン・ラッキー」。
素人の脚本家が書いたNASCARの売り上げを奪う話は余り良い出来では無く、アメリカでも不振。日本でも3千万円にも届かず。45億円の制作費の半分をソダーバーグ監督が自身で負担しているから相当懐は痛んでいる。

今年53歳になったメキシコ人監督、ギレルモ・デル・トロは少し変わった天才だ。アメリカで映画の勉強を終えメキシコに帰国後特殊メイク・造形の会社を立ち上げ10年以上特殊メイクに関わった。

1993年、29歳の「ミクロス」からは映画監督にも乗り出す。最初の企画「ヘルボーイ」の映画化は彼が長年夢見ていた企画でヘルボーイ役にロン・パールマンの起用を主張しスタジオと対立。説得に7年もかかって04年に公開した「ヘルボーイ」のヒットでユニバーサルから「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」続編が08年に公開された。

01年の「デビルズ・バックボーン」に続いて06年、スペインで製作した「パンズ・ラビリンス」は世界的に高い評価を得、ファンタジー映画のヒットメイカーとして世界の注目を浴びた。
ハリウッドのメジャースタジオからの依頼で「パシフィック・リム」(13)や「クリムゾン・ピーク」(15)の監督をして成功を収めている。

引き続きこの巨費を投じる2作品のシリーズ監督の依頼が来ていたがあっさり断り低予算のこの「シェイプ・オブ・ウォーター」の原案・製作・脚本・監督に集中している。

「ヘルボーイ」からの一連のブラック・ファンタジーがデル・トロのメインストリームだ。

観客が驚くのは、ファンタジーと言えど、聾唖の便所掃除の中年女性が狂おしく恋する水陸両棲の得体の知れない生物の出現だ。
こんな映画、デル・トロの頭の中からしか出て来ない。

舞台は1962年、アメリカとソ連は冷戦真只中で宇宙開発での覇を争っている。
ワシントンDCにほど近いバルチモアにある古びた映画館の2階のアパート。一人で暮らすイライザ(サリー・ホーキンズ)は小さい頃受けたショックのトラウマで声が出ない。真夜中に清掃員としてアメリカの政府機関、「宇宙航空研究センター」に出勤している。

友だちは居ない。顔を合わせるのは政府機関のセンターで、同じ便所掃除係りのゼルダ(オクタビア・スペンサー)と隣の部屋に住む貧乏画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)だけ。猫を飼っている。ホモでダイナーの店員(モーガン・ケリー)にちょっかいを出して広告イラストレイターの職まで失う。

そんな中,新しく異動して来たホフステトラ―博士(マイケル・スタールバーグ)のチームが厳重な警備のもと不思議な生き物を持ち込む。
孤独に単調な毎日を送るエリサは政府機関の実験室に勤めている。ある日、彼女は施設の中で飼われている半魚人と出会うことで人生が一変することに。

数日後ゼルダとイライザに緊急呼び出しがかかる。清掃してくれと言われたセンターの床は血だらけ。どうやら威張り腐っていた将校のストリックランド(マイケル・シャノン)が生物の逆襲に会ったようだ。

ストリックランドの上司、ホイト元帥には有人宇宙飛行の前にアマゾンの奥地で捕まえた生物をロケットに乗せてソ連の開発に対抗すべきだと主張している。

血を拭きとりながら閉じ込められた檻の中の生き物を見るイライザ。青緑の鱗に覆われた痩身の彼(ダグ・ジョーンズ)は一目でイライザの心を捉える。

次の夜からイライザは彼の檻へ通い始める。聾唖の彼女の「手話」は生き物と会話が進み、心が通じるようになる。

性に刺激を受けバスタブに漬かりながらマスターベーションに耽るイライザは単なるお掃除オバサンを脱して段々綺麗になるようだ。

段々と生物とのロマンスが発展し檻から解放しバスタブで愛を交わしタブを出て部屋中を水浸しにして水の中のラブシーンはファンタジーの世界だ。

41歳の美人でも無いイギリス人女優、ウディ・アレンの「ブルー・ジャスミン」で認識した程度のオバサン女優が全裸になり生物と絡む場面は水槽の中を覗き込んでいるような気になる。

映画全体はタイトルのように「水の形」から発展して「グリーン」一色の濃淡で描かれている。古いアパートの壁、ダイナースのインテリア、豪華なキャデラックまで緑だ。

そして古い50年代から60年代の映画を見ている感じになる。例えば生物はあの「アマゾンの半魚人」を彷彿させる。

「パシフィック・リム」や「クリムゾン・ピーク」といった大作のシリーズを断りと「パンズ・ラビリンス」のような小規模なファンタジードラマこそがデル・トロ監督の心の拠点なのだなと納得する。

今年の第74回ベネチア国際映画祭では、最高賞にあたる金獅子賞に輝き、来年のオスカーを狙う本作はアメリカでは12月4日から公開される。

主演のサリー・ホーキンズは『パディントン』『ブルージャスミン』などに顔を出しているが日本の観客には馴染みが無い。声を発することができないが不思議な生物を恋してしまった中年女を表情豊かに演じている。

イライザの同僚で真夜中の清掃係に「ヘルプ」や「ドリーム」などのオクタヴィア・スペンサー。
売れないホモの画家は「扉をたたく人」などのリチャード・ジェンキンスがイライザを温かく支える。

「マン・オブ・スティール」などのマイケル・シャノンがイライザたちを執拗かつ残忍に追い詰めるエリート軍人にふんしている。

ギレルモ・デル・トロ監督の原点復帰の作品はファンには必見の作品だろう。

数々の賞の発表が終わった3月1日より全国公開の予定。

「オリエント急行殺人事件」(Murder on the Orient Express)(米映画):雪に閉じ込められた豪華寝台車の密室で刺殺されたアメリカ人富豪。事件解明に取り組む名探偵ポアロ。

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 昨日(22日)の試写会が行われたTOHOシネマズ六本木ヒルズ・スクリーン2は満員の盛況。9時過ぎまでの上映を熱心に見つめていた。
アメリカでは11月10日に始まりチャート第3位。3341館で上映され予測を超えた28.2 M。
制作費は55M(62.5億円)

海外市場では25,903スクリーンで先行上映されており累積は57.2M。ワールドワイド総計は112.2M。
これでフォックスの赤字は免れる。

17日からの2週目は5位に入って3354館で13.8M,10日間累積は51.7 M。
海外で20.7M積み上げ96.5M、グローバル総計は148.2M(165億円)になる。


1934年の初版から世界で愛されているアガサ・クリスティーのクラシックミステリーの映画化を名探偵エルキュール・ポワロの監督・脚本そして主演のケネス・ブラウナウが演じる
他に、乗客にはジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、ウィリアム・デフォー、ジュディ・デンチ、ミシェル・ファイファー、ジョッシュ・ガッドなど豪華なオールスターキャスト。

僕は1974年のMGM制作、シドニー・ルメット監督の豪華キャストの大作で、地味な宣教師役のイングリッド・バーグマンがアカデミー女優助演賞を授与された(大した演技でもないのに)この「オリエント急行殺人事件」第一弾を思い出す。

キャストにはポワロ役にアルバート・フィニー、ラチェット役にリチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンス、マーティン・バルサム、ヴァネッサ・レッドグレイヴ

43年振りの映画化された第2弾も豪華なキャストだ。
ただケネス・ブラウナウのエルキュール・ポアロの八文字のグレイな口髭だけは映画TVで見慣れたものの1.5倍はあるのだろう。
顔半分を隠している。57歳になったシェイクスピア役者のベルギー人名探偵はみものだ。

中東での仕事を終えたポアロ(ケネス・ブラウナウ)は、雪の降りしきるイスタンブールを後にして、フランスのカレー行きのオリエント急行に乗り、ヨーロッパへの帰途に就く。

列車に乗り込む際、偶然出会ったアメリカ人、エドワード・ラチェット(ジョニー・デップ)から護衛を頼まれる。
「殺すぞ!」と切り文字の脅迫状を受け取っており、ポアロに必死に訴えるが、ラチェットは凶悪なギャングだと知っているポアロは断る。

その夜、オリエント急行の一等寝台車のベッドで、エドワード・ラチェットが12か所を刃物で刺され殺されていた。

一等車両はポアロの他、教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人という目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となってしまう。

現場には燃やされた手紙が残されており、そこから解読されたのは「小さいデイジー・アームストロングのことを忘れ」という言葉だった。

ラチェットはかつて、富豪アームストロング家の幼い娘、デイジーを誘拐して殺害した犯人だったのだ。
「翼よあれがパリの灯だ」で知られる大西洋無着陸横断飛行で富豪になったリンドバーグの幼児が誘拐され殺害された事件にヒントを得て
アガサ・クリスティーはいまだ捕まらない犯人にミステリーの上で復讐を遂げ鬱憤を晴らして人気が出て
34年発行の本は売れ現在まで続いている。

出演者の中では女優陣が印象に残る。皆クラシックな上品な衣装をキッチリと身に着けているだけに禍々しさが目につく。

未亡人のキャロライン・ハバード夫人に「ダークシャドウ」などの59歳のミシェル・ファイファー。(オリジナルでは妖艶ローレン・バコールだった)「マラヴィータア」依頼4年振りに見るが赤毛のボブカットで未だ瑞々しい、

宣教師のピラール・エストラバドスは「それでも恋するバルセロナ」などのスペイン女優、ペネロペ・クルス。いつもの派手な役柄と打って変わり地味なグレイのセーターに身を包む。

ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人扮する83歳のジュディ・デンチ。007シリーズで8回連続でMI6の「M」を演じたが、この映画では我が道を行くの勝手気まま婆さんで列車内を荒らし回る。

被害者のエドワード・ラチェットを演じるジョニー・デップはアメリカ人の還暦のギャングで富豪。額が後退し口髭と鋭い目が光る。オリジナルのリチャード・ウィドマークは見るからにギャングだったがデップは紳士らしさを残している。

ストーリーは密室犯罪の時代物で、犯人や動機や殺しの方法まで知っているガチガチものでフレクシブルな変更の余地は余り無いが、歌舞伎や文楽の鑑賞のようにその時その場で演じる役者と演出する監督そして美術やカメラを楽しむ。

古典芸能の堪能の方法だ。

12月8日(金)よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー

「オリエント急行殺人事件」(Murder on the Orient Express)(米映画):クラシックな豪華列車で雪に閉じ込められた密室で刺殺されたアメリカ人富豪。事件解明に取り組む名探偵ポアロ

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 昨日(22日)の試写会が行われたTOHOシネマズ六本木ヒルズ・スクリーン2は満員の盛況。9時過ぎまでの上映を熱心に見つめていた。
アメリカでは11月10日に始まり第3位。は3341館で上映され予測を超えた28.2 M。制作費は55M(62.5億円)

海外市場では25,903スクリーンで先行上映されており累積は57.2M。ワールドワイド総計は112.2M。ここでフォックスの赤字は免れる。

17日からの2週目は5位に入って3354館で13.8M,10日間累積は51.7 M。
海外で20.7M積み上げ96.5M、グローバル総計は148.2M(165億円)になる。


1934年の初版から世界で愛されているアガサ・クリスティーのクラシックミステリーの映画化を名探偵エルキュール・ポワロの監督・脚本そして主演のケネス・ブラウナウが演じる
他に、乗客にはジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、ウィリアム・デフォー、ジュディ・デンチ、ミシェル・ファイファー、ジョッシュ・ガッドなど豪華なオールスターキャスト。

僕は1974年のMGM制作、シドニー・ルメット監督の豪華キャストの大作で、地味な宣教師役のイングリッド・バーグマンがアカデミー女優助演賞を授与された(大した演技でもないのに)この「オリエント急行殺人事件」第一弾を思い出す。

キャストにはポワロ役にアルバート・フィニー、ラチェット役にリチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンス、マーティン・バルサム、ヴァネッサ・レッドグレイヴ

43年振りの映画化された第2弾も豪華なキャストだ。
ただケネス・ブラウナウのエルキュール・ポアロの八文字のグレイな口髭だけは映画TVで見慣れたものの1.5倍はあるのだろう。
顔半分を隠している。57歳になったシェイクスピア役者のベルギー人名探偵はみものだ。

中東での仕事を終えたポアロ(ケネス・ブラウナウ)は、雪の降りしきるイスタンブールを後にして、フランスのカレー行きのオリエント急行に乗り、ヨーロッパへの帰途に就く。

列車に乗り込む際、偶然出会ったアメリカ人、エドワード・ラチェット(ジョニー・デップ)から護衛を頼まれる。
「殺すぞ!」と切り文字の脅迫状を受け取っており、ポアロに必死に訴えるが、ラチェットは凶悪なギャングだと知っているポアロは断る。

その夜、オリエント急行の一等寝台車のベッドで、エドワード・ラチェットが12か所を刃物で刺され殺されていた。

一等車両はポアロの他、教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人という目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となってしまう。

現場には燃やされた手紙が残されており、そこから解読されたのは「小さいデイジー・アームストロングのことを忘れ」という言葉だった。

ラチェットはかつて、富豪アームストロング家の幼い娘、デイジーを誘拐して殺害した犯人だったのだ。
「翼よあれがパリの灯だ」で知られる大西洋無着陸横断飛行で富豪になったリンドバーグの幼児が誘拐され殺害された事件にヒントを得て
アガサ・クリスティーはいまだ捕まらない犯人にミステリーの上で復讐を遂げ鬱憤を晴らして人気が出て
34年発行の本は売れ現在まで続いている。

出演者の中では女優陣が印象に残る。皆クラシックな上品な衣装をキッチリと身に着けているだけに禍々しさが目につく。

未亡人のキャロライン・ハバード夫人に「ダークシャドウ」などの59歳のミシェル・ファイファー。(オリジナルでは妖艶ローレン・バコールだった)「マラヴィータア」依頼4年振りに見るが赤毛のボブカットで未だ瑞々しい、

宣教師のピラール・エストラバドスは「それでも恋するバルセロナ」などのスペイン女優、ペネロペ・クルス。いつもの派手な役柄と打って変わり地味なグレイのセーターに身を包む。

ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人扮する83歳のジュディ・デンチ。007シリーズで8回連続でMI6の「M」を演じたが、この映画では我が道を行くの勝手気まま婆さんで列車内を荒らし回る。

被害者のエドワード・ラチェットを演じるジョニー・デップはアメリカ人の還暦のギャングで富豪。額が後退し口髭と鋭い目が光る。オリジナルのリチャード・ウィドマークは見るからにギャングだったがデップは紳士らしさを残している。

ストーリーは密室犯罪の時代物で、犯人や動機や殺しの方法まで知っているガチガチものでフレクシブルな変更の余地は余り無いが、歌舞伎や文楽の鑑賞のようにその時その場で演じる役者と演出する監督そして美術やカメラを楽しむ。

古典芸能の堪能の方法だ。

12月8日(金)よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー

「ザ・リング/リバース」(Rings)(米映画): 12年ぶりに復活したシリーズ第3弾は、いきなりビデオを見た男の乗った旅客機をサマラ(アメリカ版貞子)がハイジャックし墜落させる驚愕のシーンから始まる

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アメリカでは今年の2月3日から公開されたが、その週はスーパーボールの中継で映画館へ足を運ぶ人がすくなかった

1位は3週目のM・ナイト・シャマラン監督・脚本ホラー・スリラー「Split」(邦題「スプリット」:東宝東和配給。5月12日よりTOHOシネマズ系で全国公開)でホラー映画対決で新登場「Rings」を下し首位の座を守っている。。

2位に入ったのが、僅差で追いかけるパラマウント映画のホラーシリーズ第3弾.新登場の「Rings」第3弾は12年ぶりの復活。2931館で公開され13Mは立派なものだ。
制作費は25M(28億円)。

3週目の2月17日の週で12位にランクされ2.3M、17日間の累積で25.7M。加えて1月末から海外市場では先行公開されBOは加算されているので赤字にはなっていない。

冒頭のエピローグ、シアトルへ向かう飛行機でサマラ・モーガン(貞子ではなくアメリカ名、サマラと変えている)のビデオを若い男の乗客は見ている。

死を予告された7日目は丁度過ぎたところで「やった!」と叫んだ男は、途端に体調を崩しトイレに駆け込むが、男の巻き添えで順調に飛んでいた飛行機までがエンジン不調で墜落する。それほどサマラ(ボニー・モーガン)の怨念は強いのだろう。
飛行機はサマラにハイジャックされ墜落したのだ。

それから2年後シアトル空港で生物学の大学教授、ガブリエル・ブラウン(ジョニー・ガレッキ)は墜落した飛行機から掘り出したと言う中古のVCRを買う。

今はこんなもん使う人も居ない博物館行きだと商人は言うがVCRの中には死んだ乗客が見ていたヴィデオテープが入っている。


2002年のオリジナル「The Ring」はゴア・バービンスキー監督で日本の「リング」(1988年、中田秀雄監督)のリメイクだった。ワールドワイドで249.3M(280億円)を挙げた。

2005年の「The Ring Two」は162M(182億円)のでホラー映画としては上出来の成績だ。
ハリウッド製であろうともJホラーの金字塔「リング」のリメイク版である「ザ・リング」シリーズ第3弾。

観ると7日後に死んでしまう呪いのビデオを目にした女性が、呪いを回避しようとする中で想像を絶する恐怖を味わうのがコアなのだが色々なエピソードが付く。

お馴染みのビデオを観た者には直ちに電話がかかって来てビデオをコピーし誰かに見せなければ確実にTVから黒髪の長い女サマラが現れ殺される。

ブラウン教授は実際に目の前でその影響を実験したいと考える。
手を挙げて実験台になった学生がホルト(アレックス・ロー)だった。
行方不明になったボーイフレンドのホルトを探し出して
彼の身代わりにジュリア(マチルダ・ルッツ)は7日後に死が訪れるという呪いのビデオを観てしまった。

ホルトはいくら自分を愛してくれているとは言えジュリアの狂気でむこうみずの行動に驚き
ブラウン教授を探し出して、3人は呪いを断ち切って

死から逃れる方法を探ろうと、一緒にビデオや呪いの根源をたどり「死のサイクル」を断ち切ろうとする。

言い伝えられれているように死をのがれるにはコピーをとって誰かに見せること。
だがジュリアはようやく探したVCRにかけるがコピー(複製)がとれない。
悪いことに今までに無かった絵まで加わって来る。

必死にルーツを探り,謎を解き明かそうとして3人はサマラと近しい一人の少女エブリン(ボニー・モーガン)に辿り着く。
そして運命を解く鍵はエブリンの抱えている深い「哀しみ」だと分かる。

ハッキリ言うとVCRが時代遅れでITの時代になったことでテレビ、パソコン、スマホなどあらゆるデバイスに呪いを増殖していくストーリーの予測はつく。
そういう意味で後半は怖くも無いしスリルも無い。

唯、このシリーズを今まで見たことが無い若い観客はブラウンや井戸から長い髪を引き摺って蜘蛛みたいに這って出て来るサマラは度肝を抜かれ怖いだろう。

この映画で一番興味があり刺激的のはエピローグのサマラの航空機ハイジャックのシーンと、バーク老人(ヴィンセント・ドノフリオ)からのエブリンの情報を聞く場面だ。バークは盲目だからヴィデオを見られないし影響を受けない。

 監督をスペインのF・ハビエル・グティエレス。処女作「アルマゲドン・パニック」(98)で注目されたが19年ぶりに撮るこの作品は監督2作目。以前は自主製作だったがメジャーのスタジオ(パラマウント)で撮らせてもらい幸せだろう。

主演のジュリアに扮するのは新人のイタリア人のマチルダ・ルッツ・
ボーイフレンドのホルトを演じるアレックス・ローはイギリスの新人、「フィフス・ウェイブ」に顔を出している
ガブリエル・ブラウン教授はベルギーの俳優ジョニー・ガレッキ・「ハンコック」や「タイム」などに出演している
盲目のバークを演じるヴィンセント・ドノフリオはアメリカの俳優。「ジュラシックワールド」や「マグニフィセント・セブン」に顔を出している。

いずれも脇の役者でスターは一人も居ない。
何んとスタッフキャストとも皆、国籍が違う。セットで言葉が通じたかしら。

邦題「ザ・リング/リバース」も苦しい。画面一杯にRebirth(再生)とワードで打っているのにゆっくりと「復讐」と出る。
観客の英語力をバカにしてはいけない。

1月26日よりYOHOシネマズ新宿他全国公開される

「泥棒役者」(日本映画):昔の泥棒仲間に脅された真面目な若者、はじめは侵入した大童話作家の豪邸で人間違いをされ進退窮まるドタバタ喜劇。

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ヘンテコなタイトルだなと言う意識だけで大した役者が出ている訳でもなく興味も湧かず見たいとも思わなかった。

だが先週末(18&19日)の興収ランキングに見慣れない邦画が4位に堂々とつけている
アメリカでも大ヒットした「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」が公開から3週目にして初の1位を獲得し、興収2億、3週累積興収は11億5千万円を突破している。そんなハリウッド製の大作でなく低予算のこの「泥棒役者」は、土日2日間で動員6万7000人、興収8900万円を上げて4位にランクインしたのに目を瞠る。

遥か下の9位にウロチョロしているのが、あの巨匠スティーヴン・ソダーバーグの監督復帰作となる自動車レースから売り上げを強奪する「ローガン・ラッキー」なのだから。役者だってチャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ダニエル・クレイグとスターを揃えている。

そんな訳で昨日(24日)5時50分の回を道玄坂の澁谷TOHOスクリーン1に駆けつけた。ウィークデイの夕刻で時間も飲み会などの書き入れ時なのだが小屋は7割方埋まっていた。邦画でこの混み方は嬉しいじゃないか。

そして映画も若い観客が多く笑えた笑えた。
劇作家、西田征史が06年の自作の喜劇の舞台を映画化したもの。

演劇を勉強する時に最初に教えられるのは「三一致の法則」で、時間、場所、エピソードは同一、つまり戯曲を創作する上での約束事、「ひとつの場所で、一日のうち、ひとつの行為だけが完結されること」という規定を守る。

舞台の映画化はロケに出なくて良いし舞台美術も1杯か2杯、(ここでも1階の居間と2階の書斎だけ)制作費が安く済む。

問題はセリフが重要で脚本がしっかりしていないと映画にならない。西田征史は上手い書き手だし,それにノッテいる。次に演じる役者。

関ジャニ∞の丸山隆平が主演する演技を初めて見たが上手いものだ。
それを芸達者の市村正親やユースケ・サンタマリア、片桐仁のようなベテランが支えるから万全の構えだ。

ストーリー自体はクリシェで既視感がある。昔の仲間に脅されて絵本作家の豪邸に忍び込んだ元泥棒が屋敷の中で出会う人々に間違えられ、正体がばれないようにと奮闘するプロットは目新しいものではない。 それでも笑える楽しめるのは「本」の力、絶品のダイアログの冴えだ。

真面目で働き者の溶接工員、大貫はじめ(丸山隆平)は、未成年の頃、手先が器用なのを仲間に利用され金庫破りで捕まり少年院に収容された過去がある。工場の社長が心の広い人ではじめの秘密を守り他の工員と平等に扱ってくれる・。

はじめは美沙(高畑充希)と付き合い始めて8カ月、一緒に暮らして3カ月。幸せな同棲生活を送っていた。

しかしある日美紗の誕生日祝いを買うために待ち合わせをしていると、、突然昔の泥棒仲間・畠山則夫(宮川大輔)に出会い拉致される。宮川の関西弁の脅しは板についている。
これから盗みに入る豪邸の鍵を開け中の大金庫の錠前を破るにはどうしてもはじめの錠解きの技術が必要だと詰め寄る。

断ると既に美沙に接触していてスマホに撮った彼女の写真を見せて
「お前の少年院の過去のことをバラす」と脅され、渋々引き受けるざるを得ない。

豪邸に盗みに入ったものの、家主の絵本作家・前園俊太郎(市村正親)からは原稿を取りにきた編集者と間違われ、本物の女性編集者 (石橋杏奈)、絵の教則本のセールスマン(ユースケ・サンタマリア)からは作家の前園と間違われる。

大作家の市村が裸で現れたり女装したり鬘を色々と変えるカメレオン的芝居が可笑しい。
仲間の則夫はクローゼットに隠れたままで役に立たない。

余り面白くないギャグは、女性編集者の名前が「奥」。だから皆ははじめが奥さん同伴で原稿とりに来たと勘違い。

根本的な問題は前園がバーンアウトして一行も書けなくなり、可笑しいのははじめが童話を前園に代わって書き始める場面だ。

「むかしむかし」と陳腐な出だしは前園が注意する。子供時代の体験などは童話にならない。

さらに屋敷の隣りに済むユーチューバー・高梨(片桐仁)が生活音が煩いと怒鳴り込んで来たり、
奥の上司にあたる編集長(峯村リエ)が前園の才能を見限ったり、高梨の110番を受けて警官がかけつけたりドタバタ度は増すばかり。
閉塞状態が一層厄介な事態になっていく。


「関ジャニ∞」と言えば映画は「エイトレインジャー」のように全員主演か、ドラマや舞台でも目立つのはヴォーカルの渋谷すばるか錦戸亮、ドラムの大倉忠義でベースの丸山隆平などは陰の人だったが、映画単独初主演を堂々と務め、それも熱演で笑わせるコメディをやってのけるので驚く。

NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、人気アニメ「TIGER & BUNNY」などの西田征史は、原作・脚本・監督デビューの向井理と片桐はいり主演の「小野寺の弟・小野寺の姉」でいきなり注目を浴びた。

西田が2006年に作・演出を手がけた同名作品を映画用にリライトし、自身の2作目となる監督作品として送り出したもの。

元泥棒のはじめ役を丸山隆平、その恋人の美沙役を高畑充希のほか、市村正親、石橋杏奈、ら芸達者なキャストが脇を固める。

こういう小洒落た作品が市場をにぎわせば日本映画の興行もリッチになる。
寡作の西田征史さんもっと書いてよ。

TOHOシネマズ新宿他で公開中

「はじめてのおもてなし」(Welcome to Germany)(ドイツ映画):ミュンヘンの平穏な住宅街に引き取られて来たナイジェリアからの難民、ディアロ少年の巻き起こす大騒動

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原題は「ドイツへようこそ」それが邦題の「おもてなし」になるようだ。

第二次世界大戦でナチス・ドイツが600万人とも言われるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の贖罪として難民の受け入れと人権の尊重を憲法で定めている。
ユダヤ人はイスラエルが国家として認められるまで世界に散った難民でディアスポラだった。

1960年代にトルコ難民、1990年代にベルリンの壁が崩壊後の東欧諸国、旧ユーゴスラビア難民などを受け入れてきた。今や8000万人の全人口の約20%、1600万人が移民だ。

更にこのところ急増しているシリア難民80万人を受け入れるとメルケル首相が「人道的責任を果たす」と発言しているのは、そんな歴史的経緯もあるからだ。

ドイツは第二次世界大戦の敗戦国として、道義的責任を今でも果たしており、成熟した先進国の中でも工業大国として、働き手を求めていること。EU諸国では、最も経済的な優等生でもあるからだ。

同じ敗戦国ながらGDP3位の国の日本はドイツを見習わなければならない面は多い。
しかし難民受け入れはドイツ国内ではそんな美談で済まされず大きな問題を抱え、市民の間で反発が出ているのだとこの映画で始めて知る。

ドイツ・ミュンヘンの閑静な住宅街に暮らすハートマン家。教師を引退して時間を持て余す母親がアフリカからの難民を受け入れたいと言い出す。

一見、平穏そうに見えるハートマン家。母親がアルコール依存症でお互いを理解できずにバラバラになっていた家族の面々。

ある日ディナーの席で教師を引退して生き甲斐を見失った母、アンゲリカ(センター・バーガー)は、難民の受け入れを宣言。

夫のDr.リヒャルト・ハーマン(ハイナー・ラウター)の反対を押し切って、難民を自宅に住まわせるようとする。
アルコール依存症になったアンゲリカを心配した夫が難民たちの面接に臨む。

ディアロが神妙な面持ちで「僕が仕事で留守中に家族は殺された」と告白する姿にうたれてナイジェリアから来た難民の少年、ディアロ・マカブリ(エリック・カボンゴ)を選ぶ。

15歳のディアロは決して卑屈にはならない。自我や誇りを持ち娘のソフィー(バリンナ・ロジンスキー)などハートマン家や周囲の人々と触れ合い楽しく過ごす。

しかし住宅街の人々はそうはいかない。ディアロの退去を呼びかけるプラカードを持ったデモが起きる。

ドイツはネオナチ党や右翼の連中は難民に反対している。
トランプ大統領と一緒で職を安い移民難民に奪われているのが理由だが、犯罪者が増加するとも主張する。

しかしここで大騒動が起きてしまう。永住権をとるためにディアロは「亡命申請」をするが却下されてしまうのだ。

果たして、崩壊寸前の家族と天涯孤独の青年は、平和な明日を手に入れることが出来るのだろうか?
基本的にはシリアスなドラマでは無く、外国人との文化や習慣の違いによる数々の事件がオカシイ喜劇なのだが、日本人には余りにかけ離れていて違和感があり笑えない。

アメリカでは公開もされていないから日本の方がマシだ。
ドイツ人だけが笑えるドイツ国内向けの映画だ。

しかしどんなハプニングでも難民問題が底にあれば陽気に冗談まじりに受け取るのは難しいのではないだろうか?

「ドイツアカデミー賞」観客賞を受賞し、2016年度ドイツ映画興行収入NO.1を記録。
監督は俳優としても活動する「デッド・フレンド・リクエスト」などのベルリン生まれ45歳のサイモン・バーホーベン。

主役のアンゲリカは「戦争のはらわた」の76歳のセンタ・バーガー、しかしアルコール依存症で夫を悩まし、難民受け入れの口火を切るものの物語の中心人物ではない。

実質的主役はディアロ・マカブリを演じるエリック・カボンゴ。アフリカのキンシャサ生まれの33歳で15歳の少年を演じるから驚く。

夫のDr.リヒャルト・ハーマンに扮するハイナー・ラウターは悦楽晩餐会〜または誰と寝るかという重要な問題〜』(97)でブレイクした人気俳優。
他に「君がくれたグッドライフ」のフロリアン・ダーヴィト・フィッツらが出演。

1月より銀座シネスウィッチで公開される。

「THE LEISURE SEEKER(原題)」(THE LEISURE SEEKER)(伊映画):認知症の夫を介護している妻は末期ガンの宣告を受け、二人はボストンからキーウェストへの最後の旅に出る

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 未だ邦題も決まっていないイタリア映画だが、GAGAの内覧試写会で見て感動したのでフライイング気味だが書かして貰う。

 マサチューセッツ州のボストン郊外、ウェルスリーに住む老夫婦、エラ(ヘレン・ミレン)とジョン・スペンサー(ドナルド・サザランド)はある日、息子や娘夫婦に黙ってボロボロのキャンピングカー「レジャー・シーカー」号に乗って南に向かう。

 半世紀以上も仲良く夫婦として暮らして来た。グレイのふさふさとした髪の毛に口髭は元気溌剌に見えるジョンだがこのところ認知症が急速に進みボケが激しい。

しっかり者のエラは、しかし癌が転移し余命幾ばくもないと病院から宣言されている。栗色のボブの鬘を取ると銀色の髪の毛は薄く、2人とも崖っぷちにたっている夫婦だ。

病身であってもエラはしっかりしていて認知症の進行しているジョンの面倒をいそいそとするが、時には苛立ち時には余りのボケ振りを楽しささえ覚える。

 大人の息子ウイル(クリスチャン・マッケイ)夫妻と娘ジェーン(ジャネル・モローニー)に旅行のことを相談すればそんな身体で無理よ、と反対されるのは決まっているので朝早くそっとキャンピングカーで抜け出す。

ハンドルを握れば名運転手のジョンだが、運転したままコーラ瓶の蓋を開けようとして蛇行運転、ハイウェイパトロールに捕まったかと思うと田舎道に降りたところでパンク。通りかかった二人の若者が手伝うと見せかけてピストルを取り出し強盗に早変わり。

ジョンの分厚い財布を抜き取りニンマリしながら開けると8ドルしか入っていない。エラは宝石や財布は車の中だと入って出て来た時にはショットガンの引き金に指をかけている。
ジョンのコメカミに銃をあてショットガンを捨てろ爺さんを殺すぞ!と脅かすも
「爺さんは直ぐ死ぬ運命だから殺しなさいよ。あんたらの銃よりこっちが威力があるんだから」

2人は大童で車に飛び乗り一目散に逃げ出すシーンは快感!
70代夫婦、ジョンとエラ。大好きなキャンピングカーで人生最後の最高の旅に出る!

アルツハイマーの夫ジョンと、末期ガンの妻エラの夫婦は、ボストンからフロリダにあるヘミングウェイの生家をめざし愛車のキャンピングカーで旅に出る。
ヘミングウェイ研究家で大学の文学教授だったジョンはヘミングウェイが最も充実して傑作を書いて9年暮らしたその家を訪ねるのが長年の夢だった。

南部に入るとトランプの演説「アメリカファースト」の演説がキャロル・キングの「Too Late」に混じって聞こえたりトランプのキャンペーンに反対のデモにぶつかったりするが政治的メッセ―ジは見当たらない。

介護ホームに旧友を訪ねるが全く覚えていないどころか喧嘩腰に追い払われたり。
キャンプ地で皆を集めて夫妻の来し方のスライドを見せることを楽しみにしている。

だが家族の中に混入して来た若い女リリアン(ダナ・アイヴィ)が写るとエラは不機嫌になる。ジョンとリリアンは自分の居ない時に浮気をしていたと確信しているからだ。

ガス欠寸前にガソリンスタンドに飛び込む。
エラはジョーダン混じりに「私の名前は?」と聞く、
しばらく考えていたジョンはヒント「エル」から始まると言うとすかさず
「リリアン!」と答える。
憎い浮気相手なのに「何よ」と思いながらも一度考える時間を与えて
「エラ」(Ella)と答えさせるシーンは笑える。

オマケが付く。満タンにしたジョンは車に乗り込みトイレに入ったエラを忘れて発進してしまう。暴走族に頼んでバイクで追いかけるエラ。

高級レストランで立ち眩みしたお折れて救急車で病院へ運ばれるエル。診察ン結果末期がんと直ぐに判明マサチューセッツの病院へ送り返す相談中に医師に化けたジョンがエルを連れての脱走劇は迫力がある。

ヘミングウェイ文学館でジョンは2人の子ども連れのかつての教え子に出会う。勿論ジョンは覚えていないが、「老人と海」を卒論に選んだという。「老人と海」の一節を二人は暗誦しだすとジョンは細部に亘り女子学生を思い出す。

キーウエストの観光地はどのホテルも満杯。最高級の500ドルのスィートに泊まった二人はシャンペンを空けながらフロリダの海を眺める。ふかふかのダブルベッドで久しぶりに催すジョンはエラにのしかかる。
「入ったよ」「行った」と漏らすがそうとは思えない淋しさ。

その夜当初の旅の目的を果たした2人は子どもたちに手紙を書き「レジャー・シーカー」号に戻り、
エルはジョンに睡眠薬を飲ませ自分もジョンの横に添え寝をする。

エンドクレジットにジャニス・ジョップリンの歌声が響く。「自由と言うことは何も失うものなど無いと言うことよ」彼らの「レジャー・シーカー」号のバンパーにも同じ歌詞が貼ってある。

監督・脚本のパオロ・ヴェルズイは「はじめての大切なもの」と「人間の値打ち」と言う注目を浴びたヒュマンドラマの後にアメリカとイギリスのベテラン男優と女優を主演に人生の見事な「終活」を観客に与えてくれた。

82歳のドナルド・サザランドと72歳のヘレン・メリルの熱演が無ければ納得性があり、涙と痛烈な苦痛を伴う辛い人間ドラマは描き切れなかっただろう。

1月に改めて邦題を付けてTOHOシネマズ日本橋他で公開される.

「かぞくへ」(日本映画):介護で育った親友や婚約者を窮地に陥れた主人公、旭の知人の事業計画。それが全くの詐欺で、誰も悪く無いのだが主人公の旭の家族同然の親しい人々の心は離れて行く

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澁谷美学校での試写の前に長身で痩身、髭もじゃの春本雄二郎監督が覇気の溢れた元気な挨拶をする。日本大学藝術学部映画学科卒業後、松竹京都撮影所にて助監督として演出の基礎を学び、「鬼平犯科帳」「必殺仕事人2009」など本格時代劇を多く経験する。2010年からは東京でフリーの助監督として様々な映画やドラマに携わる。

この映画は卒業制作「門出」以来、約10年ぶりに、助監督業務と並行しながら撮り下ろした監督デビュー作だ。39歳の初監督とは遅いスタートだけに本人も必死だ。

長崎県の離島、五島列島の養護施設で育ち 現在は東京のボクシングジムでトレーナーとして働く旭(松浦慎一郎)は、恋人 佳織(遠藤祐美)との結婚を間近に控えていた。

この旭の出自と経歴は実話で松浦がジムのトレーナーの仕事の合間を縫って撮影に臨んでいる。自分が役者になって自身の実話を演じるのは不思議な気持ちだろう。

旭と同じ施設で幼い時から兄弟のように育った親友で漁師の洋人(梅田誠弘)に良かれと思い飲食店を経営するジムの客の喜多(森本のぶ)からダイニングバー出店計画を聞きそこに魚を大量におろす仕事を紹介すべく、東京に呼び寄せる。

契約も滞りなく済み、すべてが順調にいくかに見えたが、ダイニングバーに納品している魚の代金が喜多から払い込まれていないとパニクる用人。結局ダイニングバーは幻の事業企画で喜多は金を持ってドロン、詐欺だったのだ。

好意で喜多の出資話を紹介するのだが、結果 洋人を詐欺被害に遭わせてしまう。新規事業のため船を新たに発注した洋人は負ったローンの他嫁の家族に頭金を出して貰っている用人は上京して喜多を探しながらトラックドライバーの仕事を始める。

苦境に立たされた洋人を放ってはおけず、旭は金を工面するため佳織の結婚式に貯めたア預金にまで手を付け,更に式の延期を提案する。

しかし香織も結婚を急ぎたい理由がある。 認知症の祖母に一日でも早く花嫁姿を見せたいからと反対される。

家族同然に育った洋人 これから家族になろうとしている佳織
本来天秤にかけることなどできないはずの存在を前に、旭は選択を迫られていく。

血縁関係以外明確な定義を持たない「かぞく」のカタチ・繋がりを描いた春本の脚本は面白い視点から「かぞく」を規定しようとする。

守るべきは、家族のように育った親友か、これから家族になる最愛の女性か?
一つ見にくいのは手持ちの揺れるカメラだ。照明も無く暗い揺れる画面は旭の心情を表しってい。のだろうか。
だが観客にとって揺れる暗い画面はプレッシャーになる

旭を演じる松浦慎一郎の体験した実話を脚本に仕上げ、編集も製作も兼ねた監督の春本雄二郎にとってデビュー作にして今後のキャリアの代表となる秀作。
追い込まれる主人公を観ていて苦しい八方ふさがりの作品だ。旭も洋人も佳織も悪くない。
詐欺を働いた男,喜多がすべての元凶なのに、その怒りをぶつけるべき喜多が行方不明なので皆が苦しんでいた。

持て余した怒りが 憎しみが 悲しみが、旭と香織の間に亀裂を産み皆の心を蝕んでいた。
芽生えた怒りや不安を取り除かなければ、前へ進むことは出来ない。

昨年、2016年東京国際映画祭スプラッシュ部門で上映され観客から万雷の拍手を受けた。

その後フランス・ヴズール国際アジア映画祭では、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)などを授与されている。

主演は、「百円の恋」や「あゝ、荒野」シリーズなどで本職のボクシング指導をし役者としても出演してきた松浦慎一郎

洋人は小劇場の舞台で活躍しながら「フローズンライフ」などに顔をだした梅田誠弘、
佳織には「ろくでなし」などの遠藤祐美。
何れも駆け出しの俳優で名前のしれた人は誰も居ない。春本の演出は不器用な新人たちを見事なアンサンブルに仕上げている。

2月より渋谷ユーロスペースにて公開される

「パンとバスと2度目のハツコイ」(日本映画):好きな人は振り向いてもくれないし、好きでもない相手から追いかけられる。それが女同士だったり、とグチャグチャな人間模様。

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 昨夜(27日)の周年記念の祝宴は感慨深いイベントだった。
米国食肉輸出連合会(USMEF)日本オフィス創立40周年を祝うパーティが八重洲シャングリラホテルで開かれた。
僕が電通で現役の頃アメリカ牛を日本人に食べて貰おうと新聞広告やPRを引きうけ連日「過労死」も厭わずスタートしたのが70年代の後半。

その頃の事務局長はフィリップ・セングさん。
モスクワ・オリンピックの柔道アメリカ代表で日本の講道館で修行をして4段の有望な選手だったが、
アメリカ不参加で幻のオリンピック選手となってがっかりしていた。
日本人の奥さんを貰い息子も産まれ故郷もUSMEFの本部があるデンバー・コロラドで
友人知人に畜産関係者が多ければ食肉協会とは縁が切れない。

それからの付き合いで、今は本部に戻ったセングさんとは久し振りの顔合わせ。
席に挨拶に行くと大歓迎、その頃の電通のスタッフは僕一人、そしてイベントを担当していたコスモPR会長の佐藤久美さんも欠席し、昔話が出来る僕の出現は嬉しかったようだ。
セングさんの長男を僕が電通子会社、ワンダーマンで預かりITを担当して貰ったのだが今は広告業を卒業して、セングJrはアップルのリージョナルマネジャーに出世してシンガポールに在住と言う。Jrも40歳を超え3人の子持ちだと。
僕も杖をついているがセングさんも前頭部は禿げて年齢を感じる。

そんな話に花を咲かせていたら気付くとセングの隣にアメリカ駐日大使、ウィリアム・F・ハガティが座っている。
セングさんに紹介してもらい早速僕の主宰するNPO法人「子どもに笑顔」の説明をさせて貰った。
何故東南アジアなのか、ミッションの状況、ボランティアと日本の医者の熱意など質問も交えてたっぷり話せたのは幸運だった。


さて今日紹介する映画はアイドルグループ「乃木坂46」の元メンバーで、グループ卒業後は女優として舞台やCMで活躍してきた深川麻衣の映画初主演作と言う程度の知識しかなく、あまり興味を持たなかった。

しかしこれが面白い。中学卒業後10年を経てパン屋で働く、深川扮する市井ふみはある日、中学時代の初恋相手・湯浅たもつ(山下健二郎が)と偶然出会う。

ふみはその頃付き合っていた相手からプロポーズされたものの
「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」
という考えを持っており、折角の結婚申し込みを断ってしまう。
とかくふみは理屈っぽいし思いこんだら簡単にフィロソフィーを変えない。
だから結婚に踏ん切りがつかず恋人を別れたばかりのところに、突如現れた初恋の相手だったたもつ。

離婚した元妻が新しい彼氏と上手くやっていて子どもも生まれるのだが、今でも忘れられずにイジイジして、ふみがいくらスリスリしても肝心な応えはない。

それだけでもヤヤコしいのに、またもや突如、中学時代を通してふみのことを好きだった元恋人が現れる。
それが女性だから要するに「S」の繋がり。
このヘンテコな三角関係を考えオリジナル脚本を書き監督をした今泉力哉は天才だ。

セリフの基本は「褒め殺し」。
「それだけ長い間、冷たくされてもじっと想いを貫くのはエライ」心にもないことを言ってこちらの陣営に引き込む。

直截な言い回しだと感情を害するが軽妙洒脱なセリフがポンポン飛び出し煙にまく。

互いに好きなのにたもつはふみを受け入れないし、ふみは一時迷ったが断固として彼女を振る。仕方なく今は結婚して二人の子持ち。

下手な演出だとドロドロになってしまうのを軽いタッチでサラリと描くので笑える、笑える。演じる役者も歌や音楽ではプロだが芝居は素人同然。今泉監督の演出力は素人集団をアンサンブルにしてハーモニーのとれたコミカルな群像劇に仕上げている。

「サッドティー」「知らない、ふたり」などの恋愛映画で名を挙げた36歳、福島県出身の今泉力哉監督が、こじらせた男女の新たな恋模様を描く。

主演のふみ役を元乃木坂46の深川麻衣が務めるが自然でコミカルで上手いものだ。
相手役のイジ男、たもつを「三代目 J Soul Brothers」の山下健二郎が演じるが、ミュージシャンは表現性が豊かだ。
そのほかの共演は伊藤沙莉、志田彩良、安倍萌生ら。

2月16日よりイオンシネマ系で全国公開される。

「ジオストーム」(Geostorm)(アメリカ映画):天候を意のままに操作できる宇宙ステーションがある日システムがウィルスに感染し暴走し始め世界中に大惨事を巻き起こす

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原題GeostormのGeoはgeostationary orbitの略で「静止軌道」のことだろう。世界の気象をコントロールをする衛星が暴走を始める。

アフガニスタンで砂漠を走る国連軍の機動戦闘車群が凍り付いてしまう。
リオネジャネイロの海岸で戯れる水着の若者たちを襲う大津波が氷結、
東京銀座では5Mの塊になった大きな雹が落ちて来る、インド・ムンバイでは地上のあらゆるものを空高く巻き上げる竜巻が同時に多発する。

香港は大地震の地割れで車が次々と落下すると同時に真っ赤なマグマが噴き出す。
オーランドでは高速道路やドームを突きさす雷が、ドバイでは大洪水、モスクワは突然の熱波で高く積もった雪が忽ち溶解する。

この強烈なインパクトのプロローグで世界の異常気象現象が起こす惨状が次々と紹介される。

ジューシーな見せ場はタイトル前に皆見せてしまった感じだが3DやImax,座席を揺らす4DXなどで見るべき作品だろう。

 僕は新橋のWBの試写室で2D上映を見たのだが、せめて3Dで見たかった。
この映画はストーリーの面白さやドラマの展開を追う作品では無く
場面場面の刹那的な大衝撃を楽しむものだ。

アメリカでは今年の10月20日より上映されたが首位をとれない
トップはライオンズゲイトの日本では公開されない「Tyler Perry's Boo 2! A Madea Halloween」。
48歳の黒人、タイラー・ペリーが女装してマディアを演じ、脚本・監督・制作をするコメディのシリーズ。

ペリーの映画は黒人文化や黒人社会の問題を主題に扱いアメリカの黒人女性層から圧倒的支持が高く必ずヒットする。この映画も女性観客層は65%を占める。

タイラー・ペリーの後塵を拝して
2位になったのがこの映画、「Geostorm」は3246館で公開され、13.3M。
制作費は120M(137億円)もかけているので海外で稼がねばならない。

デビュー週は50か国で開けて49.6M。韓国で5.4Mと健闘しているがグローバル総計は62.9M(69億円)でリクープの道は険しかった。

27日からの2週目は3位に落ち、3246館で公開され59%の落下率で、5.7M、国内累積は23.6M。

海外では頼みの綱の中国が開け、34.1Mと予想通りの興行成績で海外累計は115M,ワールドワイド総計は140M(159億円)に達しているが巨額な制作費をリクープするにはまだまだ足りない。

3週目は5位に落ち、2666館3.0M、累積は28.8M。

4週目に7位に落ち1685館1.5M、累積は31.6M。

「Justice League」が首位となる5週目、11月17日の週末からはチャート外に姿をけしている。日本では正月第二弾の1月19日からだから、赤字を免れるためには何としても頑張らねばならない。

近未来、天候を人々の意のままに操作できる宇宙ステーションが開発された。
これにより東北大震災のような津波やフロリダやテキサスを襲うハリケーン「アイリーン」のような大暴風雨、中国・四川大地震のような未曾有の自然災害に襲われることがなくなる。

海に面した堤防の穴を指を突っ込んで決壊を防いだオランダの少年に因んで命名された「ダッチボーイ」と言う相互防災ネットワークシステムが開発され稼働しはじめる。

ところが運用開始から2年後、天候をコントロールする「ダッチボーイ」が、ある日ウィルスに感染し、暴走し始め世界中に大惨事を巻き起こしはじめた。

巨大災害が同時多発的に起きる地球壊滅災害「ジオストーム」の発生を防ぐため、宇宙ステーションの開発者ジェイク(ジェラルド・バトラー)と彼の弟マックス(ジム・スタージェス)が立ち上がる。

主人公の天才科学者、ジェイクを「オペラ座の怪人」や「300 (スリーハンドレッド)」などとこれまでの作品とはがらりと変わった頑固な科学者のキャラクターを演じるジェラルド・バトラー。
ジェイクを支援するその弟でプロジェクトを計画した政治家、マックスに「クラウドアトラス」や「ハイネケン誘拐の代償」などのジム・スタージェス、その恋人サラ・ウイルソンにアビ―・コーニッシュ。

他にアメリカ大統領アンドリュー・パルマにアンディ・ガルシア、国務長官はエド・ハリス)、ら豪華キャストが顔を揃えるが物語のメインストリームには関係無い。

ディザスター・ムービーと聞けばローランド・エメリッヒが監督だろうと思うが、「インディペンデンス・デイ」(ID4)の製作・脚本を担当したディーン・デヴリンが長編劇場映画監督デビューとなる。

VFXのディザスターは良く出来ており凄惨で暴力、破壊的だがプロットが希薄で中身が無いのが惜しい。

1月19日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される

「一陽来復」(Life Goes On)(日本映画):あれから6年、季節は移り、景色も変わり、人々の暮らしも変わった。東北の各地で生まれている小さな希望と幸せを暖かく紹介するドキュメンタリ映画

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昨夕(29日)の澁谷ショウゲイトでの試写前にピンクのジャージーに身を包んだ中年のふっくらした女性が挨拶する。

ユン・ミア(尹 美亜)監督、長野県佐久市出身で42歳。津田塾大学を出てカナダ留学、帰国してPR会社やIT企業の広報担当後映画の世界へ入る。

NHKドキュメンタリー制作などに携わったが、これが初めての監督作品だそうだ。

東北大震災の映画はフィクションもドキュメンタリーも多々あるがその中で強烈に印象に残っているのは16年の記録映画「サンマとカタール」だ。

舞台は宮城県女川町。その名を一躍世界に知られたのは、高台から見下ろす町並みの家や車が津波の引き潮に流され町は完全に破壊され殲滅される映像だった。
この日574名の住民の内半数近くの235名の死者、行方不明者を出し、8割以上が住まいを失った。

監督の乾弘明はTV朝日の「報道ステーション」のディレクター、TV用に撮ったフーテージは十分すぎるほどある。それをどう編集しナレーションをつけるかがポイントだった。
これを担当したのがユン・ミア。

女川はサンマの町。震災の年も休むことなく続けられた「秋刀魚収穫祭」では大勢の客が町にやって来て獲りたてのサンマに舌鼓をうった。しかしサンマは冷凍倉庫が無ければ日持ちがしない。そこに中東のカタールから「冷凍倉庫建設費」として何と27億円の巨額の援助の手が差し伸べられると言う国際的なエピソードだった。

この「サンマとカタール」を遥に凌ぐ感動のドキュメンタリーがユン・ミアの初めての監督作品だ

「一陽来復」とは冬至のことでこの日が終われば一日ごとに日が長くなる、希望が持てると言う意味でつけたと。10か月間、現地に入り100人以上の被災者にインタビューをした。

「監督の私とプロデューサー2人の3人で試写会やPR活動をしているので今日の観マスコミ関係の皆さんに是非お力添えいただきたい」と熱い挨拶があった。

あれから6年とのナレーションと字幕で映画は始まる。
山寺宏一のしみじみとしてよく通る声で「2011年3月11日の東日本大震災から6年あまり」。季節は移り、景色も変わる。人々の暮らしも変わった。

ドキュメンタリーの焦点は震災によって甚大な被害を受けた宮城県石巻市・南三陸町と岩手県釜石市、
そして福島県川内村・浪江町の3地区に当て、そこで生きる多くの人が喪失感や葛藤を抱えながら、新しい一歩を踏み出している。

木工職人遠藤伸一さんは黙々と本棚を作っている。16年間東京で修業し一本立ちの職人隣妻綾子(リョウコ)と一緒になり故郷石巻市へ戻り開業した。避難させた娘2人と息子1人の3人の子供を失った。
子供を亡くした場所に同じ被災者である仲間のための集会スペースを作る。全部手作りの木造の小屋は笑い声が途絶えない。

綾子さんは離婚も考えて東京へ戻ろうかと思ったこともあると言う。伸一さんも同じ考えだった。しかし子どもたちの命が眠るこの場所を離れられない。それならいっそ集会スペースを作り皆で陽気に過ごしながら亡くなった人たちを鎮魂する場所を作ろうと。

遠藤夫妻の子どもたちに英語を教えていたテイラー・アンダーソン先生も授業中の万石浦小学校から自転車で帰宅中に津波に襲われた。24歳だった。
テイラーさんの父母アンディさんとジーンさんはテイラー・アンダーソン基金として14年に設立、毎年来日基金で作った本棚と数千冊を超える本の贈呈式を行う。

どのエピソードを聞いても涙がこぼれる。

 発電所から15kmにある「希望の牧場」で316頭の牛の世話を続ける吉沢正己さん。飼育した牛は売れないし食べられない。殺傷するしかないが毎日飼料を与え生 かし続ける。

 南三陸町のリサトちゃんは5歳。ソロバン教室に通い、暗算が得意なリサトちゃんがママのお腹にいる時にパパは津波の犠牲になった。写真の中だけのパパに膣も話しかける。

 同じ南三陸町の丘の上に一軒だけ残ったホテル。被災者を受け入れていたが、復興なった今は宿泊客や観光客に「語り部バス」を運行し、被災地を巡り災害が風化しないように当時に模様を伝える。

しかし津波は悪いことばかりでは無かった。汚泥と毒素の湾を浄化しリセットしてくれた。海の恵みに気づき、以前とは異なる養殖を始めることができたカキ漁師。

東北の各地で生まれている小さな希望と幸せは「復興」という一言では言い現せない、一人ひとりの独自で確かな歩みを自然豊かな風景とともに紹介する。

涙なしでは見られない感動のドキュメンタリーだ。

3月3日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「嘘を愛する女」(日本映画):食品メーカーに勤める川原由加利は、研究医である優しい恋人・小出桔平と同棲5年目を迎え楽しく暮していた。ある日警察が訪ねてくる。桔平がくも膜下出血で意識を失って倒れていたと

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ファッションデザイナーのトム・フォード監督の最新作「ノクターナル・アニマルズ」の真似かと思った。
経済的には恵まれながらも心は満たされない結婚生活を送るスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、20年前に離婚した元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた小説『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』が送られてくる。その小説はスーザンに捧げられ、暴力的で衝撃的な内容だった。

ところが全く違う、意識を失った愛人の残した小説を辿る旅は刺激に満ち満ちており、どんでん返しの連続に観客は翻弄される。
ともかくストーリーが面白い。細かく書くとスポイラー(ネタバレ)だと叱られる。

ややトウが経って来たが長澤まさみと、今一番の売れっ子の高橋一生が主演かと思ったら高橋一生はベッドに寝た切り。主演と言うなら探偵役の吉田鋼太郎だ。

映画の冒頭は2011年3月11日。大地震で交通がストップしパンプスでは歩けなくなった由加里を見て自分のスニーカーを脱いで裸足で歩き去る桔平から始まる
その親切さ優しさ気配りに一ぺんで恋におちる気持ちもわかる。

食品メーカーに勤める川原由加利は、研究医である優しい恋人・小出桔平と同棲5年目を迎え、公私ともに充実した日々を送っていた。
そんなある日、自宅で桔平の帰りを待つ由加利のもとに、警察が訪ねてくる。桔平がくも膜下出血で意識を失っているところを発見されたのだが、桔平の所持していた運転免許証や医師免許証はすべて偽造されたもので、職業も名前も全てが嘘であると判明したのだ。ショックを受けた由加利は桔平の正体を突き止めるべく、私立探偵の海原匠(吉田)と彼の助手キム(DAIGO)に調査を依頼。

桔平が書き溜めていた700ページにも及ぶ未完成の小説が見つかる。その内容をもとに、いまだ病院で眠り続ける桔平の秘密を探るため会社の仕事を放り投げ海原とともに瀬戸内海の島々をへ巡る由加利。

「ゆうちょ銀行」シリーズなど数々の人気CMを手がけた中江和仁が辻仁成のエッセイから実話を探り出しフィクションにして長編映画初監督となった。CMシリーズで次々とヒットを飛ばしている中江のストーリー作りや絵を切り取る美しさや構図は素晴らしい・

本は第1回「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」でグランプリに輝いた企画を映画化したラブストーリー。
出演は「世界の中心で愛を叫ぶ」で大ブレイクし「散歩する侵略者」などの長澤まさみ、「シンゴジラ」「blank13」やなどの高橋一生、そして一番印象に残る芝居は「帝一の國」や「三度目の殺人」などの吉田鋼太郎。いつも脇だが完全に長澤や高橋を喰っている。元妻が浮気して出来たと疑う娘に「父じゃない」と怒鳴ってしまって後悔し中学生の下校を待ち受けて土下座して謝るのに大笑い。

この映画は単発読み切り型だが続編は中江監督脚本で、探偵・海原匠シリーズを作って欲しい。

1月20日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国公開される

花筐(日本映画):太平洋戦争前夜、青春を謳歌していた学生たち。だが戦争が始まると「学生たちの青春は戦争の消耗品だった」

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昨夜(1日)外国特派員協会で映画上映後、大林宣彦監督とプロデューサーの恭子夫人とが記者会見を行った。

今年初めガンで余命宣告された監督は抗がん剤と医師団の懸命の施術で地獄から生還して、40年来暖めていた企画を仕上げた。ライフワークの「平和」をテーマにした「花筐」だけは何としても世におくりだしたいと言う執念。

後1か月で傘寿を迎える監督は流石に病みやつれして背は低くなり杖を突いて歩く。
しかし声はハリがあって若々しく発音も明瞭だし論理的に喋る。

戦争前夜の1946年春。
寺子屋のような旧制高等学校予備校の20人ほどの生徒たち。
映画の語り部となる17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)はアムステルダムに住む両親の家を離れ、唐津に暮らす叔母(常盤貴子)の元に身を寄せる。

転校生として夫々異能な級友たちに出会う。

ギリシャ神話のアキレスのような筋骨逞しい鵜飼(満島真之介)、
虚無僧のような出で立ち(実はキリスト教信者だった)のような吉良(長塚圭史)、
絶えず咳をしているお調子者の阿蘇(柄本時生)などと断崖絶壁からの高飛び込みなど「勇気を試す冒険」に興じる日々を送っている。

その男どもと「不良」なる青春を謳歌するあきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)など。
千歳は写真を撮るのが大好きで写真機を手放さない。吉良の従妹で小さいときは吉良の布団で一緒に寝た。

映画のマドンナは肺病を患いはかない命の美女、美那(矢作輔香)。榊山の従妹ながら恋心を抱いているがあきねとのロマンスも捨てがたい。

戦争の足音が近づいて来る。「殺されないぞ、戦争なんかに!」と皆の想いは同じだが夫々自分の意思で生きようとする純粋で自由な青春。

だが「青春は戦争の消耗品だった」と大林。
三島由紀夫は「男は戦争に行って殺されるか、ヤクザになるしか道は無かった」
と言っている。

監督は出身地の尾道(広島県)だけでなく、柳川(福岡県)、小樽(北海道)、臼杵(大分県)、長岡(新潟県)といった街や東京の下町を舞台にして来た。
原作者の壇一雄の勧めで唐津を選んだという。40年前最晩年の檀に会った時に舞台は佐賀唐津と指定されたと言う。
檀は十代の終わりに共産党に関わり学校を追われ唐津の町に住み着き町の人々と和み快適な放浪生活を送ったと言う。

大林は言う「大日本帝国軍部の圧政下で己の魂の純血を貫こうとすれば政治的というよりむしろそういう事件を自然と起こすに至った一雄少年は、多くの唐津の里人に会い話しをし、生きる知恵と温もりを学びその相克の中で
人や街を慈しむ大林監督の愛と、平和を願う切なる思いはつながっているに違いない。

映画のバックに絶えず流れる「愛国行進曲」。赤紙を貰い二等兵で出征する学校の「教授」。途中で出会った阿蘇に中国戦線で病死した山中貞夫監督の平和を熱望する映画「人情紙風船」を絶対見ろ!と言い残し愛用のハーモニカを渡す。

赤と血が象徴的に使われるが「美女と野獣」のように赤い薔薇の花が一瞬にして血に変わるシーンはこれほど頻繁に出ては邪魔なだけだ。
大林監督は「ハウス」以来踏襲している独得の耽美的で自由闊達なスタイルがあり、リアリティが一瞬にしてフィクションに変わるモードに観客は慣れている。

青春謳歌の一コマで鵜飼と一緒に榊山も真っ裸になり盗んだ軍馬に跨って浜辺を駆けるシーンは絶品だ。同性愛の世界も垣間見せる。
そうかと思うと月の光を浴びながら鵜飼と美那の抱き合う場面はロマンスのパラダイス。
男性たちのヌードだけでなく、門脇麦も年増の常盤貴子も全裸で海に入るシーンで魅せる。

ハイライトは終盤に登場する「曳山」。昨年ユネスコ無形文化遺産に指定された「唐津くんち」が派手に画面を飾る。これはプロデューサーの恭子夫人が見つけて来たもので掉尾を飾るに相応しい平和な神事だ。
10-11月にかけて開かれる唐津神社の秋季例大祭。乾漆で製作された巨大な「赤獅子」「黒獅子」や千歳が好きでミニチュアを持っている「真っ赤な鯛」などの曳山が、笛・太鼓・鐘の囃子にあわせ、鵜飼や吉良たちも加わった曳子たちの「エンヤ、エンヤ」「ヨイサ、ヨイサ」の掛け声とともに、唐津市内の旧城下町を練り歩く。

僕は監督に質問したのは如何にも2時間49分の尺数は長すぎる。吉良が鵜飼の犬を殺すシーンは無駄でそんな箇所をカッとすれば40分は短縮できるのでは?
大林宣彦監督は「私は納屋の8ミリで映画を撮り始めたアマチュアで、黒沢さんの東宝とか小津さんの松竹とか新藤さんの大映などスタジオで働いたこともなければ方針を押し付けられたことも無い。長い短いは商業主義でアマチュアはそんなことにかかずらわらない」と

3月16日より有楽町スバル座で公開される。

「花咲くころ」(In Bloom)(独・仏映画):政情不安で暴力のまかり通るグルジア社会で清冽に溌剌と生きる少女たち

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昨日ブログで抜けているが、大林宣彦監督と僕との40年を超える関係に触れたいが長くなるので明日に持ち越そう。。

スペルが同じなので英語圏の人々はジョージアと呼ぶ「グルジア」は中央アジアのカフカス地方にある人口約430万人の国で、1991年のソ連崩壊で独立した。
因みに1996年に米国で開催されたアトランタ・オリンピックでは同市がジョージア州の州都なのでグルジア=ジョージアの名前は皆知るところとなった。

独立国となり、ガムサフルディアが初代大統領に就任したのは良いが反対勢力が多く内戦が勃発し大統領が逃亡して街にやや平穏が戻って来たものの政情は不安定で生活物資が欠乏し配給に長い行列が出来る。

物語は1992年春、独立後に起こった内戦のきな臭さが残るジョージアの首都トビリシ。
父親が殺人罪で収監され不在の14歳のエカ・ヒザニシュヴィリ(リカ・バブルアニ)は母親アナ(アナ・ニジャラゼ)と姉ソフィコ(マイコ・ニヌア)の干渉に反発を感じている。
親友のナティア・ザリゼ(マリアム・ポケリア)の家庭はアル中の父親(テミコ・チチナゼ)のためにすさんでいた。

生活物資は不足し配給には長い行列ができるが、ふたりにとっては楽しいおしゃべりの時間だった。
世界のどこにでもいるティーネージャーの女の子だ。
映画は通学する、家庭で寛ぐ、夕食をとる(あらまた豆なのとナティア)などの風景を切り取りグルジアの風俗習慣を見せる。

ナティアはふたりの少年ラド(タタ・ザカレイシュヴィリ)とコテ(スラブ・ゴガラゼ)から好意を寄せられている。
ナティアはその一人、ラドから実弾入りの拳銃を贈られる。身の安全は自分で守れとボーイフレンドの愛情の表現だ。

ある日、いつものようにパンの行列に並んでいるナティアをコテが不良仲間と一緒に車に押し込め拉致する。エカは必死に止めようとするがまわりの大人たちは黙って見ているだけ。エカが非難すると逆に殴られる。

裕福なコテ家で豪華な結婚式が行われる。誘拐され無理矢理結婚なのにナティアは結構幸せそうだ。ラドの方が好きだが、あんなキチガイじみた我が家を抜け出せればコテ家でも良いか、と言う感じのナティア。ところが結婚したナティアは学校へも行かせて貰えない。常時コテの家の者が彼女を見張っている。

それでもナティアは抜け出しエカと実家でお婆ちゃん、ナテラ(ベエルタ・ハバヴァ)の用意してくれたご馳走で誕生を祝っていると、外にラドがいることに気付き近づく。
コテは嫉妬し仲間とラドを刺殺する。

グルジア以外の国では青春を謳歌し恋愛も自由な女の子たちが政情不安定で内戦が続き暴力や殺人が当たり前になっている世界に身を置かざるを得ない若者。
これは政治を批判する映画、暴力を否定する作品だが、ここで描かれているグルジアの若者たちにはいつも起こっていたことだったのだ。
市民が対立した内戦は、人々に大きな禍根を残した。しかし社会に不安がたちこめていても、2人の少女はどんなことがあっても仲良しで強い絆で結ばれ、のびやかに愛の歌をうたい、踊りまくり、夕立の中をキャキャ叫びながら走り抜ける。
少女たちは青春を謳歌している。

グルジア映画と言えばワイン工場で働く若者たちの日常を描くオタール・イオセリアーニ監督の「落葉」(66)や監督ゲオルギー・シェンゲラーヤの「放浪の画家 ピロスマニ」(69)など多くの名作を世界に発信してきた。

しかし、内戦や紛争が次々と起こり、国内は荒廃して映画どころでなくなった。
政情が落ち着いた近年、グルジア映画は見事に復活をとげ、例えば昨年岩波ホールで上映された「みかんの丘」や「とうもろこし島」や、この映画のように新しい世代の作品が世界の映画祭で注目を集めている。

「花咲くころ」は、ベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞を初め、世界中の映画祭で高く評価され、30もの受賞を果たした。

監督はナナ・エクフティミシュヴィリとドイツ出身のジモン・グロス。
近年、グルジアは女性監督の躍進が目覚しい。
39歳のエクフティミシュヴィリ監督は政情不安で暴力がまかり通った社会ですごした自分の少女時代を振り返って脚本を書いた。

厳しい時代に生き抜く庶民の生活や風俗、習慣を映すとともに、戦争や暴力の不毛さを批判し、女性の権利、フェミニズムも主張している。

主役に抜擢された10代の少女2人、リカ・バブルアニとマリアム・ポケリアには、サラエボ映画祭で最優秀主演女優賞を授与された。

2月3日より岩波ホールにて公開される

「ミッドナイト・バス」(日本映画):冬の雪道を東京と新潟を走る長距離バス。転職して運転手となった利一は、住む新潟には離婚してバラバラになった家族が、トンネルを抜けて東京には居酒屋で働く若い女性が待つ

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この映画で思うのは川端康成の「雪国」
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」そこでは妻子持ちの中年男を優しく迎え入れる若い芸者がいる。

仏映画「ヘッドライト」も懐かしい。初老のジャン・ギャバン扮するトラック運転手ジャン。冷たく暗い家庭に嫌気が差していた妻子持ちのジャンは街道筋の常宿でF・アルヌール扮する年若い女中クロチルドと出会い、恋に落ちる。

夜汽車やトラックとバスの違いはあるが、長い道程の果てには異なる世界が待ち受けている。

この映画の主人公、中年の高宮利一(原田泰造)は、東京での過酷な仕事を辞め、故郷の新潟で長距離深夜バスの運転士として働く。見下す訳ではないが何故バスの運転手かと言う理由が欲しい。

 ある夜、利一がいつもの東京発-新潟行のバスを発車させようとしたその時、滑り込むように乗車してきたのが、16年前に離婚した妻・加賀美雪(山本未来)だった。突然の、思いがけない再会。
美雪は東京で新しい家庭を持ち、新潟に独り暮らしている病床の父親を見舞うところだった。

 美雪の疲れ果てた様子が気になる利一。利一には、美雪との間に怜司(七瀬公)と彩菜(葵わかな)という成人した子どもがいる。その子供たち2人が夫々問題を抱えて新潟の父親、利一の家に転がり込んで来る。

 利一自身は東京で定食屋を営む恋人・古井志穂(小西真奈美)との再婚を考えている。
利一は、元妻の美雪が夫の浮気と身体の不調に悩み、幸せとはいえない結婚生活を送っていると知る。
利一と美雪の離婚で一度ばらばらになった家族が、今、それぞれの問題を抱えて、故郷「新潟」に集まってくる。

どうして再婚したのか、と利一は美雪に聞く。「淋しかったから」
どうして独身だったの、と利一に聞く。「淋しく無かったから」
この辺りのセリフの遣り取りはテンポも良く絶妙だが、それ以外はイジイジしていてじれったい。

利一が志穂に「君に与えるものより奪うものの方が多い」なんて傲慢ではないか。別れの口実を探しているとしか思えない。

早い話が「焼け棒杭に火がついた」だけの話。かつて一緒に暮らし子どももいる。そんな2人が再会し、ものすごく近づいていく。ここで一家が纏まってしまったら志穂にどう申し開きをするんだい?
やっぱりケジメはつけているのは褒められる。

再会から数ヶ月が過ぎ、小雪が舞う中を、美雪は利一に見送られ、東京行きの深夜バスに乗るシーンで落ち着く。

伊吹有喜の原作は「家族の再生と再出発の物語」で加藤正人の脚色の方が納得性はある。

高宮利一役の原田泰造がなかなか渋くいい味を出している。
脇専門かと思っていたら竹下昌男監督の長編デビュー作「ジャンプ」で主演をしている。
夜の雪道をヘッドライトで照らしながら走る長距離バスは詩情が漂う。トンネルを抜ければ若い愛人が待っているし、トンネルを通って戻ってくれば家族の団欒が楽しめる。いい御身分ではないですか。

1月27日より有楽町スバル座にて公開される。

「スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット」(Starship Troopers:Traitor of Mars)(日・米映画):植民惑星の火星でバグと呼ばれる巨大エイリアンとの死闘

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先日のブログで抜けているが、大林宣彦監督と僕との40年を超える関係に触れたい。

 僕は電通で営業の現役時代はAGFの高級FDコーヒー「MAXIM」を担当し、直に大スター・カーク・ダグラスのベバリーヒルズの自宅を何回も訪れ交渉しCMタレントとになって貰った。

だからCM監督も超一流でなければならないと数人の候補の中から電通CR局今村昭ディレクター(映画評論家・石上三登志)の強い推薦があり、大林宣彦に白羽の矢をたて多くのコマーシャルをLAとその近郊で撮って貰った。

大林宣彦監督のアングラ16ミリの大傑作「「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」で石上は主役を演じている。プロダクション電通映画社の喜多村寿信Pも準主役だ。早い話、「MAXIM」CMチームはドラキュラのスタッフ・キャストから成り立っていた。

75年から77年にかけて1週間のロケを3年続けただろうか。
当然のことで監督スタッフを含め全員映画好きで「スター・ウォーズ・ピソード4」とか「未知との遭遇」の初日に必ず行けるスケジュールを組むのが僕の仕事だった。
ハリウッドBLVDの「チャイニーズ・シアター」やヴァイン通りのドーム型「シネラマ・シアター」の前に夜遅く長い列でチケットを買ったのを覚えている。

スタッフが夜遅くまでビールを飲んでいるのを監督は注意して「明日は早い。飲まず食わず(Coors)で頑張ろう!」などとハッパをかけられた。
 映画通の彼はシーン毎にカークの相手役を指名する。このシーンにはサム・ジャッフェがいいな、ここはLQジョーンズだな。
僕も映画通だと自認しているがそんな脇役専門の役者の名前は知らない。監督の博覧強記には驚いた。

77年最後のCMを撮り終わると頭を下げられた。
これでコマーシャルから足を洗い「念願の映画(ハウス)を撮る」と。CM撮影中にも準備に入っていた。

「ついてはLA在住の映画評論家で原田真人君と言う友人がいて有能な男だから私の後任として使ってやってくれ」。もさっとして無口の原田真人を紹介された。

そして半年後に新CM撮影。
カークの相手役は作家のアーサー・ヘイリー、レイ・ブラッドベリーや作曲家のヘンリー・マンシーニなど。
原田から撮影監督はヴィルモス・ジグモンドにしてくれと大林より注文はきつい。
ジグモンドはオスカーをとったばかりの売れっ子だった。
LAでCM監督デビューした原田真人は、帰国して今では押しも押されもせぬ日本映画を担う巨匠と呼ばれる。


 20年前になると言うが、ポール・バーホーベンの「スターシップ・トゥルーパーズ」は面白かった。近未来の地球連邦では軍部を中心とした「ユートピア社会」が築かれていた。社会は清廉で、人種・男女の差別なくまったく平等に活躍しているが、兵役を経た「市民」は市民権を有し、兵役につかなかった「一般人」にはそれが無い。人種差別の新しいパターンだ。

 銀河全体に殖民を始めた人類だが、その先々で遭遇した先住の巨大な昆虫型宇宙生物(アラクニド・バグズ)の領域を侵したため紛争が発生する。
 
 今日紹介する作品はシリーズ5弾目だが、1作目は$105M(118億円)も製作費をかけたのにアメリカ国内での上がりは54M(60億円)しかならないと言うので手を抜いたチープな映画になってしまったので、暫くシリーズを見ていなかった。

昨日も期待せずに澁谷美学校の試写をのぞいたら、画面はいつの間にか実写から3DCGアニメになっていて自由に発想し描ける、面白さから言えばバーホーベンのオリジナル作品に勝るとも劣らないほどの素晴らしい映画に仕上がっている。

 バグと呼ばれる昆虫型の巨大エイリアンと人類が戦闘を繰り広げている未来世界。地球の植民惑星となった火星が舞台。
主人公は引き続き、対バグ戦争の英雄ジョニー・リコ(声:オリジナルから引き続き、キャスパー・ヴァン・ディーン)。
植民地火星でリコが率いる部隊は「はぐれ小隊」と呼ばれ落ちこぼれ連中が集められている。

そんな中、バグの大群が火星に出現するという緊急事態が発生する。
砂漠を真っ黒に埋め尽くしたカマキリ型エイリアンのバグ。
野心家の地球連邦軍総司令官スナップスは自分の昇進を賭けて核爆破以上の破壊力を持つQB爆弾を仕掛け、バグと戦っている部隊を見殺しにし火星ごと爆破する冷酷な作戦を立てていた。異常なバグの大群もスナップスの陰謀だったのだ。(マッチポンプだね)

 壊滅状態の火星を守るため、そして軍人としての誇りを保ち続けるため、リコと「はぐれ小隊」は命を懸けた戦いに挑む。

ハイライトはバグに襲われ小隊が砂漠に聳えたつテラフォーミング・タワーの頂上に追い詰められた時カルメン艦長が小宇宙船で救助に来るが風が強く着陸出来ない。ホバーリングしている船に隊員がジャンプして飛び乗るシーンはハラハラドキもの。

 隊員を無事避難させたリコはバグの犠牲になったと思ったらファンタジーシーンに入る。そして死んだ筈の恋人ディジー(声:ディナ・メイヤー)に再会する?ミステリー。

「APPLESEED」などで異能振りを発揮する監督、荒牧伸志と共同監督・松本勝。そのSOLA DIGITAL ARTSが前作に続いて制作。

 少し前までのミャンマーや中国のように軍隊(党)が支配する管理社会と市民との軋轢や帝国主義的侵略と原住民エイリアンのバグとの戦いはシリーズ通してのテーマだ。

久し振りにSDCGアニメの宇宙冒険ものに堪能した。

試写は字幕だったがローカルのシネコンはスクリーンが小さいので日本語吹き替え版で上映すると言う。

2月10日より新宿ピカデリー他で公開される

「犬猿」(日本映画):似ていないようで何処かそっくり。真面目で優しい弟と乱暴者でトラブルメーカーの兄。仕事が出来るがブスな姉とルックスは良いがバカな妹

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監督・脚本が吉田恵輔と聞いて見逃せないと思った。

「さんかく」「麦子さんと」「ヒメアノール」など見終わってがっかりした作品は一本も無い。
オリジナル脚本としては「麦子さん」以来4年振りの映画を昨日(5日)東映の試写室で見た。
東映の試写室は満席なことは滅多に無いが補助椅子も出る盛況で、期待通りと言うか、
今までの吉田作品では一番笑って泣けるヒューマンコメディだ。

プロローグから可笑しい。
スーパーで買い物をして駐車場へ戻った金山和成(窪田正孝)は隣に止めてあった黒いベンツのヤクザからイチャモンをつけられる。

「てめぇ-、車ぶっつけただろう」
身に覚えのない和成が車を降りるとぶん殴られる。
傷がついた、全部塗り替えるから100万だ」
助手席に乗っていたチンピラが飛び出す。
「兄貴、ダメです。卓司さんの弟さんですよ」
急にペコペコし始めるヤクザ。
「あの卓司さんどうしてます?」
「会ってないけど昨日出所したようです。傷はどうします?」
「イエイエ、何ともありません。卓司さんに宜しく」

ある地方都市が舞台、印刷会社営業マンの和成。
イケメンだが、真面目で堅実な彼は、父親(阿部亮平)が友人の保証人になって作ってしまった借金をコツコツと返済しながら、老後のために毎月わずかな貯金をする地味な生活を送っていた。

ヤクザに脅された夜、和也のアパートに、金庫強盗の罪で服役していた兄の卓司(新井浩文)が転がり込んでくる。

卓司は和成とは対照的に、金遣いが荒く、凶暴な性格でトラブルメーカー。
出所しアパートに居候を決めたその夜にキャバクラで暴れたり、
弟の留守中に部屋にデリヘルを呼んだりとやりたい放題。

和成はそんな卓司に頭を抱えるが、気性の激しい兄には文句のひとつも言えない。
言うと殴る蹴るの暴行を受ける。和成はそんな卓司を天敵だと思いこの世から消えて欲しいと思っている。

そんな和成に仄かに恋心を抱いている女性がいた。
和成が頻繁に印刷を依頼する、小さな印刷所の幾野由利亜(江上敬子)である。

病気で倒れた父親から引き継いだ会社を切り盛りする由利亜は勤勉で頭の回転も速く、寝たきりの父親の介護もしながら仕事をテキパキとこなししっかりと利益も上げている。
40近く婚期を逸しているのは、眼鏡をかけたデブで見た目がよくないブス。

その由利亜にも天敵がいる。
妹の真子(筧美和子)だ。
由利亜の下で印刷所の事務手伝いをしている真子は、姉と違って仕事の要領が悪く、
頭も決してよくない、早い話がバカだが、顔やスタイルの良さから、
女優を目指しプロダクションに属して時々グラビア撮影やイメージビデオに出演するなど
芸能活動もしている。
取引先や街の若い男性にも人気がある。

由利亜は仕事もできないバカなくせにチャラチャラして、チヤホヤされているそんな妹にいらつき、
真子も節制できずに絶えず間食をし大食いでぶくぶくと太っているだけのブス姉のことをバカにしていた。

だがデカいことを言うだけだと思っていた卓司が始めた輸入業が成功したようで、白いBMW7シリーズを乗り回し、父親の借金を全額返済した。
和成の心に兄貴を見直す複雑な気持ちが芽生え出す。

仕事で貸しを作った和成を強引に富士急ハイランドに引っ張ってデイトに成功した由利亜の恋心は一気に燃え上がる。

ところが和成と真子がつき合い出すどころか婚約したと聞いてから、嫉妬に燃えた由利亜がストーカー化する。

一方の女優志望の真子は、AVまがいのエロ映画に出演したり一向にタレントに卒業できない焦りから
枕営業へと走り、ラブホテルで卓司と鉢合わせしてしまう。

兄弟・姉妹はまさに「犬猿」の仲だが、愛憎半ばするアンビバレント(相反する感情が同時に存在するさま)なもつれた糸を吉田は見事な手法で予定調和へと導く。

兄弟、姉妹だからこそ最大の理解者で、いろいろ知っているだけにうっとうしくて、似ていないようでどこかそっくり。
お互いにあんな風にはなりたくないと思いながらも、羨ましく思ったり。
あまり関わりたくない事もあるけれど、血の繋がりもあってそう単純にはいかない存在。

クソ真面目で優しいが、実は姑息な弟・金山和成を「ラストコップTHE MOVIE」「東京喰種トーキョーグール」などの窪田正孝が好演。

凶暴でトラブルメーカーの兄・卓司には「銀魂」「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」「斉木楠雄のΨ難」などで多彩な役柄を演じている新井浩文。

さらに、最高の傑作で役柄ぴったりの、仕事はできるがデブ・ブスな姉・幾野由利亜に江上敬子。お笑いコンビ「ニッチェ」で鍛えているだけに可笑しい可笑しい。デイトの後踊り狂う江上の面白さは映画のハイライトだろう。

ルックスや愛嬌はよいけれど頭の悪いおバカな妹・真子をモデルの筧美和子が演じて、和成を中にデブ姉との間で火花を散らす。

監督・脚本吉田恵輔は埼玉県出身の42歳。東京ビジュアルアーツを卒業し専門は照明技師と言うのも面白い。
照明をあてながら脚本を書き映画の演出をして来た。
06年に自主制作監督「なま夏」が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。

08年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、脚色・監督で映画化。
それ以降は、「さんかく」(10)、「ばしゃ馬さんとビッグマウス」(13)、
「麦子さんと」(13)や、「銀の匙 Silver Spoon」(14)「ヒメアノ~ル」と結構多作だ。

しかしこの「犬猿」が吉田作品の中で最高の出来だと思う。
1時間43分、すっかり堪能させて貰った。

2月10日よりテアトル新宿にて公開される。こんな小さな二流劇場で単館興行とは勿体無い。
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