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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「探偵はBARにいる3」(日本映画):売れない探偵としがない大学助手、日本のバディ・ムービーもレベルが高くなった。

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大泉洋と言う役者は僕が知る限りハンサムでもないし芸達者でも無い、脇専門の俳優だった。額が後退した44歳の中年男にとって幸運なことには北海道(江別市)産まれだったことだ。
北海道札幌ススキノを舞台にしたローカル劇「探偵はBARにいる」シリーズが思わぬヒットを重ね主演した大泉は今や押しも押されもされないスターに成りあがった。

作家・東直己にしてもそうだ。髭もじゃの熊のような太った体躯を持て余すかのような小説家で、日本推理作家協会賞(01年)以外に主な文学賞の受賞歴は無い。

1956年北海道札幌生まれの61歳。北海道大学中退後、カラオケ外勤、土木作業員、タウン誌記者などを経て北海道が舞台のハードボイルド小説を中心に執筆するが出版の見込みは皆無だった。だが1992年「探偵はBARにいる」で作家デビュー。

この作品は思いがけないヒットで好調な「ススキノ探偵シリーズ」。
最初から主演している大泉洋と松田龍平の実写映画化した人気シリーズ「探偵はBARにいる」の第3作。

冒頭のシーンにインパクトがある。
毛ガニを積んだトラックが女子大生、麗子(前田敦子)を助手席に乗せ細い雪の田舎道を走っている。
前方に白いバンが斜めに止まって道を塞ぐ。

麗子と前の晩過ごした大男の運転手は怒って拳銃を携えバンの窓を叩く。
一瞬閃光が車内に光り銃声が響いて運転手が倒れる。

ヤクザ風のバンの運転手は保冷トラックの後ろ扉を開け毛ガニを取り出す。
甲羅にはギッシリビニール袋に詰められた白い粉末見える。
バンの運転手は助手席に怯えて身を屈めている麗子を引きずり出す。

タイトル前のプロローグとして良く出来ていて一瞬で観客を映画に引き込む。

札幌にあるアジア最北の歓楽街・ススキノ。
この街の裏も表も知り尽くす探偵のもとに、ある夜、相棒の大学助手の高田(松田龍平)がバ―カウンターで寛ぐ探偵(大泉洋)に、自分の教え子飯田の婚約者で大学生の麗子が突如行方不明になったと捜索話を持ってくる。

モデルだったとの情報で調査を進めていくと、いかがわしい、デルヘリのようなモデル事務所の美人オーナー・マリ(北川景子)にたどり着く。
探偵と高田はミステリアスなマリに振り回されるうちに、マリの背後にいる闇の組織に襲わる。

腕自慢の探偵も松田もまるで歯が立たない背の高い男が現れる。北城の用心棒である波留(はる)を「帝一の國」など志尊淳が「最強の男」として登場する。腕も立ち頭も切れる二人が呆気なくノックアウトされるシーンは見ものだ。闇の組織を牛耳る北城(リリー・フランキー)はマリの情夫だと判明し更に大きな事件に巻き込まれる。

前作の「探偵はBARにいる2」より4年を経た作品。
裏社会に影響力を持つ冷酷非道な大物実業家・北城役をリリー・フランキー、マリ役を北川景子、麗子役を前田敦子がそれぞれ演じる。
このシリーズ初登場のリリーは何をやらせても上手い。
飄々とボスを演じ、顔で笑っているが腹はどす黒い。

美人でヒロインの北川景子は悪人のようだがプロデューサーは悪女の役をやらせないだろうと思っていたら案の定、土壇場で「良い人」になる。
キャスティング、人気度、美醜で物語の先が読めるとは日本の制作者やキャスティングディレクターは考えた方が良い。

昔僕はある自動車会社を担当していていつも事前にTVドラマの試写を見たが、
スポンサーの車に乗るキャラは悪人に見えても良い人でギャングや犯人は外車に乗っていた。
これなんか2時間の推理ドラマだったが車の車種で話が読めたから面白くも何とも無かった。
そうかと言って犯人をクライアントの車に乗せて埠頭から海に転落させれば番組を降りられてしまう。

監督は前2作の橋本一から「疾風ロンド」の吉田照幸にバトンタッチ。吉田監督の方が合っているでしょうね。

脚本はシリーズ全作を手がける古沢良太。名匠、古沢良太が付いていれば監督は誰がなっても映画の質は落ちない。

今までで一番堪能できた作品だ。

日ハムの栗山監督はCSRにも日本シリーズにも関係ないから生でイベントに顔を出し愛嬌を振り撒いており、ピストルの音で恐怖に顔を引きつらせ逃げる場面など芝居も上手い。

そんなことよりハンカチ王子を潰してしまったから同じ早稲田出身の清宮を何としてでも育てて欲しい。
そして次回の「探偵BAR」でカクテルを呑むところを見せてくれ。

12月1日より丸の内TOEI他で公開される。

「はいからさんが通る 前編」(日本映画):跳ねっかえりの17歳の紅緒は伯爵家跡継ぎの陸軍少尉伊集院忍と結婚するも、夫はシベリア出兵で行方不明。

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漫画の「はいからさんが通る」については何度も聞いたことがありTVアニメや実写映画や宝塚の舞台に乗ったことも知っているが、コンテンツの詳細を知ったのはこの劇場用アニメの試写を見て初めてだ。だから随分と遅れているが、「大正ロマンもの」が好きな僕はいっぺんに気に入った。

プレスによると、原作の「はいからさんが通る」は、1975年〜1977年まで「週刊少女フレンド」にて連載された、大和和紀による漫画作品。
1978年にはテレビアニメシリーズ(全42話)が放送され、
その後、劇場実写映画(1987年公開 主演 南野陽子・阿部寛)、
TVドラマ(1979年、1985年、2002年)など、これまでに多くのメディアミックス展開がされてきたと言う。

今日紹介する、このアニメ映画は連載40周年を記念して、新作劇場アニメーションとして前後編で復活する。昨日のワーナーブラザースの試写室は補助椅子を出しても満員の盛況。如何にこの作品に皆が期待しているか分かる。

前編は戦死をしたと言う陸軍少尉の夫、伊集院忍(声・宮野真守)が馬賊を率いて中国を暴れ回っていると言う噂を聞いて、主人公、花村紅緒(声・早見沙織)が汽船で上海へ向かうところまでで終わる。
時は大正7年、西暦で1918年。この時代の背景説明が必要だろう。
この年に生まれていれば99歳で「白寿」のお祝いだ。

日清日露の戦争に勝ち、この年、1918年に第一次世界大戦が終結し日英同盟の義務で連合軍に加わった日本は中国山東省と青島に出兵しドイツ軍を破り、その後の中国侵攻の切っ掛けになる。
国内は飢饉であちこちに米騒動が起こり花村紅緒も群衆に加勢して米蔵を解放し警察に捕まっているが名家のプレッシャーで釈放されている。

未だ軍部が圧制を敷く前の時代で国内での工業化も進み、鉄道網の形成や汽船による水運が発達、流通や商業が飛躍的に発展した。近郊鉄道の敷設、都市内交通手段の発展により都市化が促進された。録音や活動写真の出現、大衆向け新聞・書籍・雑誌の普及など、これらの新しいメディアによって文化・情報の伝播も拡大的に飛躍した。

所謂「大正ロマン」の真っ只中にほおり込まれた、主人公の「はいからさん」こと17歳の花村紅緒は自由闊達に動き回り活躍する。

竹刀、大槍を握れば向かうところ敵なし、跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘と世間は見る。
矢絣の着物に赤い袴、大きな赤いリボンを結んで竹刀を担ぎ闊歩する姿は美しい。
そんな時ひょんなことから知り合ったハンサムで笑い上戸の青年将校・伊集院忍。
実は祖父母の代からの仕込まれていた許婚と聞かされる。

忍は伊集院伯爵家の跡取り息子、ロシア貴族だった母から生まれた混血児は眉目秀麗、知勇兼備で陸軍のホープ。まさに王子さまだ。

忍に心ときめくものを感じながらもそのまま受け入れてしまうほど素直になれない紅緒は必死の抵抗を試みて数々の騒動を巻き起こす。
伯爵・伊集院家に招かれ、花嫁修業をすることになった紅緒だったがそこでも相変わらずの跳ねっかえりを周囲の人々は優しく見守ってくれる。
しやがて紅緒と忍はお互いをかけがえのない存在と思うようになるのだが、非情な運命によって引き裂か
れてしまう。

日本帝国陸軍はイギリス帝国・アメリカ合衆国・フランス・イタリアなど組んだ連合国に属し「ロシア革命軍によって囚われたチェコ軍団を救出する」という大義名分でシベリアに出兵しロシア革命に対する干渉を行う。

出征した伊集院忍は酷寒のシベリア戦線の陸軍小隊長としてロシア兵に包囲され必死に戦っていた。
だが遺骨は届かぬまま、忍の戦死の公報が届き、未亡人となった紅緒は没落しかけた伊集院家を支えるべく働きに出る。

手に職の無い紅緒はどこでも採用されず最後に行き着いたのがオンボロ出版社で上司の青江冬星編集長に野次馬根性が面白がられて雑誌記者となる。
革命に揺れるロシアから亡命したミハイロフ侯爵の姿に我が目を疑う。侯爵は容姿・性格ともに亡くなったとされる忍に瓜二つであった。忍を忘れ去ることなど出来ぬまま、それでも力強く生きる紅緒の姿に女嫌いの青江も同情する。

紅緒は人の噂でシベリア出兵で脱走した日本人将校が馬賊を率いて中国本土を暴れ回っていると聞き、忍だと直感する。青江は旅費滞在費日当を出して紅緒を上海へ送り出す。

監督・脚本は「るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―」や「らんま」シリーズなどの古橋一浩。

軽薄な現代のJKものが溢れる日本映画に憤懣やるかたもない僕は「大正ロマン」と聞いただけでもうれしく、単純で先が読めるストーリーも楽しめる。

11月11日より新宿ピカデリー他で公開される

「ジグソウ:ソウ・レガシー」(JIGSAW)(アメリカ映画):ヒットシリーズ「SAW」の第8弾。10年前に死んだ筈の凶悪殺人鬼「ジグゾウ」が蘇り怖ろしい仕掛けで次々と男女の命を奪って行く

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 アメリカで夏の長い映画興行成績の不振は「IT」で一旦は断ち切ったが、新たに「10月スランプ」が始まっている。
昨年同月比に比べ大幅な13%のダウン。

興行成績が落ち込むとホラーが強い。
先週末(27-29日)で1位2位フィニッシュのライオンズゲイトの恐怖映画2作品も低レベルでの相対的な上位ランキング入りだ。

この週末で新登場はライオンズゲイトの「Jigsaw」とジョージ・クルーニー監督の「Suburbicon」それにユニバーサルの「Thank You For Your Service」の3本。

首位はハロウィン直前に上映が始まった「Jigsaw」はは2941館で16.3M。
ヒット作「Saw」シリーズだから少なくとも20Mは行くだろうとの関係者の予測は裏切られる。スランプ状況はそれほど酷い。

2010年公開の第7弾「ソウ 3D」以来となる7年目の再開第8弾。

13年前のインディ映画「SAW」の監督、オーストラリア系中国人ジェイムス・ワンこそハロウィンを恐怖映画の根城と定着させたのだ。

この作品を踏み台に巨費を投じた大作「ワイルドスピード7」などで大ヒットを飛ばし、辣腕名匠ヒットメーカーの地位を獲得したジェイムス・ワンはハリウッドでも引きが凄い。

以降ワンが監督しなくともSAWシリーズは毎年ハロウィンになると新作を出し首位の座を譲らなかった。
ところが2009年に「Paranormal Activity」にトップをとられて翌年の2010年に第7弾を「SAW/The Final 3D」と銘打って最終章とした。

それから10年(とナレーションは言うが)、最後だぜ、と宣告した筈のシリーズがジョン・クレイマー(トビン・ベル)は復活したばかりか「SAW」8弾目として7年振りに物語が始まる。

連続殺人事件が発生し、街で発見された死体に共通する奇妙で残酷な殺され方から確認できる犯人は、2006年公開の第3弾で死んだはずの殺人鬼「ジグソウ」のジョン・クレイマーを名指ししている。

映画の世界は何でもありで、商売になると思ったら息の根を止めた殺人鬼だって生き返り復活するのだ。

ジグザグに切断されたおぞましい死体が次々と発見される。その常軌を逸した状態から、かつてジグソウという名で多くの人間を惨殺したジョン・クレイマー(T・ベル)の犯行そっくりだ。前担当刑事ハロラン(カラム・キース・レニー)はクレイマーは死んでいる筈だから「模倣犯」(コピーキャット)の仕業と捜査を始める。
が警察の捜査で浮かび上がる。しかし、彼は十数年前にこの世を去っていた筈だ。ジグソウに後継者がいたのか、彼に心酔する者による犯行なのかと、さまざまな推測が飛び交う。

鎖に繋がれた5人の男女に迫る天井からのジグゾウの声。鎖が引っ張られれば辿り着く壁に大き鋸歯車が回っている。鎖が引っ張られれば絞殺される。金属の首輪の中には注射器がビルトインされ毒薬を注入されて死ぬ。
5人とも過去に悪事を働いたことがある。ガンと宣告された時エックス線の名義を間違えたとか、役人で賄賂を取り仲間を中傷して蹴落としたとか車を暴走させ仲間を事故死させたとか、ジグゾウは「告白し悔い改めよ」とキリストみたいな口ぶりで迫る。そこで嘘や偽りがあればたちまち死体となり刻まれる。

「Jigsaw」にはミステリーや謎解きの要素は少ない。見せ場は如何に残酷な仕掛けで捕らえて男女5人を殺していくかだ。
7年も余裕があったせいかアイディアや仕掛けは恐ろしい。それだけで入場料を払った価値がある。

出演者は、元スーパーガールのローラ・ヴァンダーヴォート(「スモールヴィル」)、
「ウォークラフト」(2016年)のカラム・キース・レニー、
テレビ版「リーサル・ウェポン」のマット・パスモア、
「オール・マイ・チルドレン」のブリタニー・アレン。
そして死んだはずの殺人鬼ジグソウのジョン・クレイマーを演じるトビン・ベル。

監督は新鋭の「ディプレインカー」「プレデスティネーション」などのMichaelとPeterのスピエリッグ兄弟。
観客の出口調査(CS)はB評価。B級ホラー作品でB評価は立派なものだ。

制作配給のライオンズゲイトは「Jigsaw」に続いてホールド・オーバーの「Tyler Perry's Boo 2! A Madea Halloween」(日本公開未定)が2位に入っている。これは黒人コメディアンが女装したバカをやるシリーズで不況になっても黒人婦人層は離れな35.5M。|

B級ホラー映画がトップを飾る中、惨憺たるDOA(即死)状態で9位に何とか滑り込んだのが新登場の「Suburbicon」(日本公開未定)。

ジョージ・クルーニーがコーエン兄弟の80年代に書いた脚本を監督した作品で、2,046館で2.8M、「ジグソウ」の興行成績の1/5にも及ばない。
G・クルーニー監督キャリアで最悪の成績。主演がマット・デイモンとオスカー女優、ジュリアン・ムアーと言う大スターだぜ。ブーイングする観客の出口調査では何と稀有なD-評価。

B級ホラー映画が首位の座を占め続ければハリウッドの明日は無い。

11月10日よりTOHOシネマズ新宿ほかで全国公開される。

「バーフバリ 王の凱旋」(Baahubali2: The Conclusion)(印映画):凶悪で王位を狙う叔父、バラーラデーバにより地獄の底に落された伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語

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 アメリカでは今年4月28日に上映が始まり、他の強敵「ワイルドスピード8」などに伍し3位につけた。
興行成績よりも驚くのは大作なら3000館から4000館の上映だが、その1/10、僅か420館ながら10.1M(15億円)を上げる効率の良さだ。

翌週には7位に落ちたが416館で3.4M、まだ効率は良い。
同じ週末(5月5日―7日)に世界を見れば、ワールドワイド総計は147.3M(168億円)で「ワイルド~8」を抑えて堂々の2位だからボリウッド映画をバカにしてはいけない。

中国は14億5千万の民がいてハリウッドでダメな映画を救っている。その上ITコマースで富豪になった大企業がハリウッドのインディスタジオを買収する。
インドにも12億の人口がいて皆映画大好き人間だ。

しかし日本では今一つ、「マハラジャ」でインド映画が再認識され「スラムドッグ&ミリオネア」で地歩を固めたと思ったが、長すぎる上に途中で全員が歌い踊るヘンテコミュージカルのインド映画は基本的に違和感があって受け入れられない

その伝で15年4月に公開されたが日本では不調だったオリジナルの「Baahubali: The Beginning」(邦題「バーフバリ 伝説誕生」)の続編で完結編をこれから紹介する。

小屋も前回同様、新宿ピカデリーのような一流館で正月映画として勝負するから配給元「ツイン」は必死の覚悟だし、インド映画の将来を占う大事な興行だ。

これまでの興行成績でワールドワイド総計では2015年の「バーフバリ 伝説誕生」は114億円、この2017年の「バーフバリ 王の凱旋」は303億円も稼いでいる。

当然制作費もインド映画としては破格だ。オリジナルの第一作では31億円、この完結編で42.5億円、2作品併せると73.5億円も注ぎ込む。ハリウッドの基準からは並み以下だが日本映画では破格の制作費をかけている。しかしワールドワイドで420億円も稼げば73.5億の巨費を投じてもリクープ出来ている。

勿論インドは世界に冠たるIT国、従ってCGを多用したVFXの見事さはハリウッドを超える。
だから日本で年末から始まるが正月興行でどれだけ積み上げられるだろうか見ものだ。

舞台は、遠い昔、インドに栄えたマヒシュマティ王国原作はインドの叙事詩「マハーバーラータ」中国の「三国志」のようなものだと言う。

荒唐無稽な伝説だから詳細は書かないが度肝を抜く冒険譚は見ていて楽しい。基本はリベンジ劇の常で最初は痛めつけられボロボロになった主人公がフェニックスのように飛翔し反撃する復讐劇だからカタルシス満点だ。

蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利してマヒシュマティ王国の王に指名されたアマレンドラ・バーフバリ(プラバース)は、クンタラ王国の王女デーバセーナ(アヌシュカ・シェッティ)と恋に落ち王妃として迎える。

だが王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーバ(ラーナー・ダッグバーティ)は邪悪な策略で彼の王座を奪い、バーフバリだけでなく生まれたばかりの息子、シブドゥの命まで奪おうとする。

 乳母の機知で赤ん坊は王宮の裾を流れる葦の茂った小川に、小舟に乗せて逃す。旧約聖書のモーゼのようだ。

インド映画で分りやすいのは俳優の顔を見れば悪い奴かどうか直ぐに知れる。
王座を略奪したバラーラデーバ役のラーナー・ダッグバーティは屈強な体躯に顔半分髭もじゃで目付きが邪悪で、見るからに悪人だ。

それから25年後、自らが伝説の王バーフバリの息子であることを知った若者シブドゥ(プラバース=2役)は、マヘンドラ・バーフバリとして暴君バラーラデーバに戦いを挑む。

2役と言うのも見ている方は混同しやすい。あれ、殺された男が生き返ったんだと思ってしまう。
自らが伝説の英雄バーフバリの息子であることを知ったシヴドゥは、かつての父の家臣から裏切りによって命を絶たれ、王座を奪われた父の悲劇を聞かされる。

父バーフバリはなぜ殺害されたのか?
母デーバセーナはなぜ25年もの間、鎖に繋がれていづのか、全てを知ったシヴドゥは出自を明らかにするためマヘンドラ・バーフバリと名乗り、暴君と化したバラーラデーバに戦いを挑む。

橋を落とされ高い城壁を攻める秘策が笑える。盾で囲んだ兵士6人が高いヤシの木に張り付き高い樹を地面に着く程に引っ張り放つと濠を飛び城壁を超え敵陣まっただ中の城内へ着地し縦横無尽に暴れ回る。
ユーモア溢れる秘術や武術でさしものバラーラデーバ軍を完膚無きまでに叩きのめす。
ああ快感!

バーフバリ役のプラバースの6ピースに別れ盛り上がった筋肉の美しさ。それを見せるためか最後には鎧兜を脱ぎ捨て裸で死闘を見せてくれる。インドの男は半黒だが美男だねえ。

伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語の完結編となる第2作。

ハエを主人公にしたヒット作「マッキー」などの監督・脚本のS・S・ラージャマウリや主演のプラバースをはじめ、全員、スタッフやキャストが再結集した。

今年は44歳のラージャマウリ監督、主役の38歳のプラバースの2人にとって最高の年となった。

12月29日新宿ピカデリー他で公開される

「アバウト・レイ16歳の決断」(About Ray)(アメリカ映画):16歳の誕生日を迎え突如男の「レイ」になるとFTM・トランスジェンダーを宣言する少女「ラモーナ」

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原題は「3 Generations」で3世代の女性たち(娘、母、祖母)の特異な生き様をドラマティックに描く。
ナオミ・ワッツ、エル・ファニングス・スーザン・サランドンと夫々の世代を代表する3人のスターたちの競演が見ものと単なるトランジェスター奮闘記と思っていると終盤に思わぬ波乱があり楽しめる。

平穏な家族の女性3世代の営みが、16歳の娘「ラモ-ナ」(エル・ファニング)が、本当の自分を求め、心も身体も男になりたいと家族の同意を求める。
突如のトランスジェンダー(FTM)宣言。
少女が男性名「レイ」を名乗りたいと家族に通告する騒動から映画は始まる。

 冒頭、母マギー(ナオミ・ワッツ)と祖母ドリー(スーザン・サランドン)に付き添われ医師の診断と処置を受ける。
女性の「ラモーナ」が男性「レイ」になるのは医学的には難しくなさそうだ。
テストステロンのホルモン療法が主で男性的になって行くと。
生理は殆ど無くなるが乳房は大きくならないが現在のものより縮まない。
ペニスや睾丸は移植しなければならないが、ラモーナ、否レイは今はそこまで望まない。

ドリー婆さんが苛立つ。「男になって女を愛するんだろ。そんなら私と同じレズビアンで良いではないか!」

ドリーには長年夫婦同然に同棲しているフランセス(リンダ・エモンド)と言う女性がいる。
言われて見ればそうかと思うがレイの思惑はレズとは遠い。

恋多き母親でシングルマザーのマギーはラモーナの主張を理解し、お婆ちゃんのドリーもレズと性転換の差が分かるようになる。

最初は「ラモーナからレイへの決断」に戸惑いながらも、次第に誰よりもレイの一番の理解者となっていく母と祖母。


この騒動だけで映画になるが、後半になると更に複雑な問題が出来する。
医者がトランスジェンダー(FTM)の施術を実行するには両親の署名が必要だ。
マギーは書類を見て眉を顰める。

母親のサインは問題無い、
だが妊娠中のマギーを捨てて他の女性と結婚しNY郊外に住んで居る実父、クレイグ(テート・ドノバン)とは殆ど行き来が無い。

マギーが逡巡しているのでレイが直接クレイグ宅を訪ねる。

クレイグも驚くが、歓待してくれる。
が少しヨソヨソしさは隠せない。

若い妻(マリア・ディジア)は若く美しく、腹違いの3人の娘たちもあどけなく事情を説明すれば「お姉ちゃん」否「お兄ちゃん」と懐きそのまま夕食を囲むことになる。

レイはクレイグと二人だけの時に意外なことを聞く。
「俺はマギーと婚約していたが結婚はしていない。そして君は僕の子じゃない」

クレイグは何故愛するマギーと別れたか?そしてそこに登場するのはクレイグと仲の良かった弟、マシュー(サム・トランメル)の存在だ。

終盤で主役がファニングで無く、シングルマザーのマギー役、ナオミ・ワッツであることが良く分かる。恋多き女性マギーはクレイグとマシューの仲を裂き、彼らの家庭を滅茶苦茶にしていたのだ。
オーストラリア生まれの49歳、まだ若く油の乗り切った演技を披露する。

アカデミー賞に2度のノミネートされた71歳のスーザン・サランドンが、破天荒なレズビアンのおばあちゃん・ドリーを演じる。「男しか好きにならないなら、私みたいにレズになりなさいよ」と同じ陣営に引き込もうとする陽気な老女を好演する。

騒動の中心人物、レイを演じるエル・ファニング。髪を短く切りボーイッシュなカジュアルウエアを纏ったエル・ファニングはキュートで可愛らしい男の子に一足先に成りきる。マレフィセント」のオーロラ姫役で一躍人気を博し、少し前まではダコタの妹と形容詞がついたがエルはダコタを抜いたのではないか。16歳のキャラクターを演じる29歳の女性は倍近い年齢の物理的差を乗り越えている。

監督・脚本はゲイビー・デラル。イギリス人で短編とTVドラマで活躍しアートフィルム系の長編劇場映画も何本も撮っているが日本では未公開。この作品でお目見えとなるが内容が特異な本を書きしっかりとした演出をしている。

2月13日より新宿ピカデリー他全国公開される

「風の色」(日本・韓国映画):「自分とそっくりな女性が北海道にいる」という死んだ恋人の言葉に従い、人気マジシャンの涼は「私たちはまた会える」との彼女を信じ札幌へやって来る

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「猟奇的な彼女」や「僕の彼女を紹介します」などの韓国のクァク・ジェヨンが脚本を書き監督を務めるというのでファンの僕は期待して見たのだがどうも空振りだった。

消えた恋人の「ドッペルゲンガー」とか「流氷の海に消えた魔術師」「たちまち人気者となる天才的マジシャン」など、余りにも奇抜な要素を盛り込んでそれをスタイリッシュに描こうと言う写真は納得性も無く違和感を起してついて行けない。

プレスでクァク・ジェヨン監督は「自分史上、最高のラブストーリー。生まれ変われるなら自分もこんな恋をしたい」と語っていると知り、ジョエン監督のレベルはこの程度なのかと、愕然とする。もうジョエンとその作品は見限る。

最初の舞台は東京。
恋人、川口ゆり(藤井武美)を自動車事故で亡くし100日もの間引きこもっていた無職の青年 涼(古川雄輝)は、ゆりとの思い出の品々が入った鞄をマジックバーのマスター(竹中直人)から受け取る。どうして恋人の自分で無くバー「フーディーニ」のマスターにあずけていたか訳が分からない。

マスターから紹介されたマジシャン橘田(小市慢太郎)と出会い、魔術師を志すようになり、失意の日々から抜け出していく涼。そして忽ち人気者に。

そこで恋人のことを考える余裕が。
生前ゆりが語っていた「自分とそっくりな女性が北海道にいる」という言葉や「私たちはまた会える」、「流氷が見たい」と言っていた彼女の言葉に導かれるように、北海道へと向かう。

旅の途中、列車で偶然出会った最上亜矢と名乗る、ゆりと瓜二つの女性(藤井/二役)に驚く。
亜矢もまた、2年前に水中脱出マジックの事故により行方不明の、涼と瓜二つの天才マジシャン・隆(古川/二役)との再会を待ち望んでいた。

行方不明で遺体が見つからないと言うのも嘘っぽい。水中脱出は狭い範囲の海で行われるもので、実際、涼が浮上する途中で波止場の直ぐ下にタキシード姿の隆の死体に出会うのだから。

今更ながら涼は、隆と亜矢が自分とゆりのドッペルゲンガーではないかと思い始める。

モノローグで語ってしまうのでゆりを失った喪失感などはリアリティの伴わない絵空事になる。
ファンタジーは良いが、何とまあ、ご都合主義で不条理な展開だろう。

幾ら過去にヒット作を飛ばしていたとは言え、長い間仕事のオファーも無かった韓国人映画作家の本と演出を日本人プロデューサーたちはチェックも検閲も修正もせず、そのままの形を黙認していたのだろうか?

観光客を集めたい「札幌コンテンツ特区」が誘致した映画だけに無理がある。それでも,すすきの交差点、さっぽろテレビ塔、大通公園、電車事業所、JR札幌駅ほか観光は楽しめる。札幌を離れ、知床や北見の沖、流氷を分け入って航行するフェリーも美しい。

「ライチ☆光クラブ」やNHK朝ドラでブレイクした主人公の古川雄輝はカッコ良い。
薄っぺらな人物像だが監督の責任で古川の演技力とは関係ない。

相手役の憧れの恋人役、藤井武美はオーディションで選んだズブの素人だと言うがもう少し美人が居なかったのかね?
ブスとは言わないが芝居が上手い訳でもないし、もさっとしただけのフツーの女の子だ。

1月26日よりTOHO シネマズ 日本橋ほかで公開される

「Destiny 鎌倉ものがたり」(日本映画):鎌倉は、人と人ならざる妖怪魔物たちが仲良く暮らす街。歳の差が離れた若い亜希子は鎌倉住人、小説家・一色正和に嫁いできたが驚くことばかり

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鎌倉には妖怪魔物が住んでいて黄泉の国との往来も可能だし、貧乏神や死神との付き合いもできる映画と聞いて、そんな突拍子も無い破天荒な作品は僕の任では無いと,半ば諦め半ば、からかい気味に見始めた。

ところが流石にVFX出身の山崎貴監督、納得性のある結構なリアリティで面白おかしく仕上げているではないか。

2時間を超す長尺ながら全く飽きもせずに堪能しながら見終わる。
鎌倉に暮らすミステリー作家・一色正和(堺雅人)のもとに嫁いだ20歳以上も年若い妻・亜紀子(高畑充希)は、一緒に暮らして初めて知る正和の私生活に驚くばかり。

映画の冒頭で正和・亜希子夫妻の佇む前を得体の知れない小動物が走り去る。
「今のは何?」
「河童だろ」
「えー、河童?」
「ただの河童だよ。驚くことは何も無い」

道を歩けば、魔物や幽霊、妖怪や仏様、死神(安藤サクラ)貧乏神(田中泯)までも現れるのだ。
どうやらここ鎌倉は、人と人ならざるものたちが仲良く暮らす街らしい。死神と言っても陽気なサクラは茶髪にソフト帽を被った粋なお姉ちゃんだし、貧乏神の田中泯などは薄い髪を肩まで垂らし頭頂は剥げた不機嫌な老人だ。

正和は本業の小説執筆に加え、鎌倉署の大仏署長(國村隼)や心霊捜査課の稲荷刑事(要潤)など捜査にも協力する。
署長は名前通り大仏の顔をしているし
稲荷刑事は狐のように鼻がとんがって鼻の頭は黒くなっている。
恐山刑事(神戸浩)は巫女みたいにブツブツ予言をしている。

忙しい夫・正和なのに家は貧乏。亜希子はようやくお金が無い理由を見つける。
夫の秘密の部屋にはギッシリと鉄道模型が収集され、部屋の1/4を占める大きな水槽には華麗な熱帯魚が泳いでいる

小説家なのに多趣味でもあり忙くて肝心の財源確保の原稿は中々仕上がらない。編集担当の本田(堤真一)は徹夜で書きあがるのを待つ日々だ。

そんな一色家には、実年齢130歳(は超えている)の家政婦・キン(中村玉緒)がご先祖さまの話をしてくれるし、編集者の本田は遅い原稿のせいで一色家の一員のようだし、
いつの間にか貧乏神が居座るなど個性豊かなキャラクターが現れて騒がしい。

結婚前に亜紀子の想像していた理想とはちょっと違うけれど、楽しい新婚生活が始まった。
しかし、正和には亜紀子に隠していた秘密があった。
多くの女性にもてる正和はなぜ亜紀子を見初めたのだろうか?

ある日、病に倒れた正和が昼遅くに目を覚ますと、亜紀子の姿が消えていた。夫への愛にあふれた手紙を残っている。亜紀子は不慮の事故で亡くなっており、黄泉の国に旅立っていたのだった。

正和は亜紀子の命を取り戻すため、一人黄泉の国へ向かう決意をする。失って初めて気づく妻・亜紀子への愛。
この黄泉の国行きの電車はお馴染みの古い単車両の「江ノ電」なので嬉しい。
最初はいつもの「江ノ電」コース。

鎌倉の街並みを肩をすぼめて狭い軌道で走るが鎌倉を抜け黄泉の国に近づくとレールは宙に浮いたまま、下は千尋の谷底か炎の地獄。
このシーンは秀逸だ。VFXで恐ろしさを十分に味あう。

そこで正和を待っていたのは、亜紀子を黄泉に連れさった魔物たちとあの人の姿だ。
一色夫婦の命をかけた運命が、今動き出す。

「ALWAYS 三丁目の夕日」でブレイクし世に出た山崎貴監督が、同作の原作者・西岸良平のベストセラーコミック「鎌倉ものがたり」を実写映画化し主演は堺雅人と高畑充希が年の差夫婦役で仲睦まじいファンタジードラマ。

共演にも堤真一、三浦友和、安藤サクラ國村隼、薬師丸ひろ子、中村玉緒ら豪華キャストが脇を固める。僕の好きな古田新太がクレジットされているが「天頭鬼」という魔物で声だけの出演だった。

12月9日よりTOHOシネマズ日劇他にて全国公開される。
正月映画としてヒットする予感。

「南瓜とマヨネーズ」(日本映画):夢を追いかける無職のミュージシャンと彼を支えるため身を売る女の現実感

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男3人に挟まれて揺れる女心を描くロマンティック・コメディ。原作コミックは20年前に描かれたものだけ幾分ズレが見られる。

その女心と言うのが、過去に捕らわれずその場で出会った男に心を動かされ寝てしまう様子が面白い。20年前と言えど今も通じる「現代っ子」なんでしょうね。

ライブハウスで知り合ったツチダ(臼田あさ美)とせいいち(太賀)。二人は一緒に住み始める。
ツチダはミュージシャンで名を挙げたいせいいちのことが大好き。
彼の夢をかなえるため、ツチダはウェイトレスを辞めキャバクラで働き生活を支えている。言ってみればせいいちは「ヒモ」(PIMP)だね。

スランプで曲が書けないせいいちは仕事もせず自堕落にヒモ生活を送っていた。
しかし、ツチダがキャバクラの客(光石研)にお金をもらって愛人関係になり、生活費を稼いでいることを知った彼はやはり心を入れ替え働きだす。

一方ツチダはキャバクラでハギオ(オダギリジョー)に出会う。
ハギオこそ、今も好きな元恋人。
だから彼との関係にものめり込む。いつもは善人役のオダギリジョーが女たらしでツチダとのジューシーなキスシーンをたっぷり見せてくれる。

夢を追いかける恋人せいいちと、忘れられない昔の男ハギオとの間で揺れる女性ツチダ。ハギオは女たらしのダメ男で、ツチダも妊娠して中絶していたのだが。

「せいちゃんが振ってくれたら楽なのにな」とツチダの正直で繊細な心情を痛々しいほどリアルに描いている。

終盤の真面目になり良い曲が書けて、コンテストに応募し凄い賞を取り、7時半に舞台で自分が歌ってツチダに贈る曲を披露する計画を胸に秘めたせいいちと既に別れを決意したツチダとの会話がハイライト。

せいいちはようやくツチダの苦労に報える喜びでワクワクしているが、ツチダはあの背広もこのリングもそしてこの高級なレストランも全部自分の財布から出ていると、せいいちの話も上の空。
賞を取ったと聞いていきなり
「賞金は幾らよ?」
「米ドルで3万ドルかな?」
「日本円で400万円。私の借金は400万円を超えているわ」

男の夢と女の現実の距離感をこれほど見事に描いたシーンは暫く見なかった。

原作は「ストロベリー・ショートケイキ」などでも知られる漫画家・魚喃キリコの代表作「南瓜とマヨネーズ」。

20年前のストリートファッションとカルチャーを牽引した宝島社の雑誌「CUTiE Comic」1998年から1999年にかけて発表されたもの。

監督は「パビリオン山椒魚」(06)、「乱暴と待機」(10)、「ローリング」(15)などで知られるアートフィルムの鬼才・冨永昌敬

1984年10月17日生まれの31歳。ツチダが支える無職の恋人を「走れ、絶望に追いつかれない速さで」などの太賀、

そのほか、昔の恋人を「血と骨」などのオダギリジョー。
若葉竜也、光石研らが脇を固める。

11月11日より 新宿武蔵野館ほかで公開される

「マイティ・ソー バトルロイヤル」(THOR: Ragnarok)(アメリカ映画):スーパーヒーローものながらユーモアたっぷりで笑いながらアクションを堪能する

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日米同時公開で大ヒットとなった。
この週末(03/11-05/11)でダントツ首位は新登場のこの作品。
アメリカでは391のImaxスクリーンを含み 4,080館で上映され、
121M(138億円)の大ヒット。先週首位の「Jigsaw」が16.1M。
僅か1/5でしかないからそのヒットのスケールの大きさが分かる。
Imaxはグローバルで25.4Mの貢献をしている。

私も土曜の午後2時の回に日劇3で見たが6割方は埋まっていた。
興行成績のランキングを見るとこの映画は、土日2日間で動員15万9千人、興収2億3100万円を上げ初登場1位。

驚くことにアメリカで夏の大作が当たらずハリウッド凋落かと思われたが9月半ばに登場してアメリカ映画産業に「活!」をいれた「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」に打ち勝っていることだ。
「IT」は、週末の動員は13万8千人、興収1億8400万円を上げ2位からのスタートを余儀なくされている。

夏から大作が不甲斐なく沈む中で一旦は「IT」で救われたものの「ブレードランナー」や「ジオストーム」のように150億円を超える巨額な制作費をかけても映画館に足を運ばず「OCTOBER SLUMP」と呼ばれていたが、凋落傾向に歯止めをかけた功績は大きい。

121M(138億円) の興行成績は13年の前作「Thor: The Dark World」の85.7M(98億円)を41%上回る成績だ。

先行上映している海外市場ではこの週末に開けた中国の56M(64億円、凄い成績だ!)を加え151.4Mになり海外市場累積は306M、ワールドワイド総計は427M(487億円)という驚異的数字を挙げている。

マーベルのマクロ的マーケティングで「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)シリーズと称し、様々な「マーベル・コミック」の実写映画を同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)シリーズをスタートさせているが、この映画は17番目の作品となる。過去総て16本のMCU映画が週末デビューでトップだったようにこの作品も例外ではない。

これまでのMCU17作品は総額13B(1482億円)となり1作品平均が800M(912億円)と言うからMCU構想はまんまと当たり、我が世の春を謳歌している。

「マイティ・ソー バトルロイヤル」は観客のウケも良く、Marvel同僚の「アイアンマン」や「キャプテンアメリカ」を抜いてRotten Tomatoes は97% fresh rating。
出口調査(CS)ではA評価。MCU作品としては連続13回目のA評価。
CSの深耕調査では28%が「もう一度見たい」とし、84%が「是非見るように友人家族に勧める」と答えている。

アメリカン・コミック「マイティ・ソー」の実写映画シリーズとしては第3作目。
原題のサブタイトル「ラグナロク」(古ノルド語:Ragnarøk(Ragnarök、ラグナレク)、「神々の運命」の意)とは、北欧神話における「世界の終末」を意味する。
「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」から2年。

雷神ソー(クリス・ヘムズワース)はアベンジャーズのメンバーから離れていたが、故郷のアスガルドに重大な危機が迫っていると告げられ、急遽戻ると、そこで待っていたのは死を司る女神として恐れられる邪悪な敵ヘラ(ケイト・ブランシェット)だった。
ヘラはソー自慢のハンマー「ムジョルニア」を木っ端微塵に破壊し、辺境の惑星サカールへとソーを吹き飛ばす。

椅子に縛り付けられ身動きできず囚われの身となったソー。
統治者グランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)が主催するグラディエーター・格闘大会に出場させられるが、対戦相手として現れたのはかつての戦友・超人ハルク(マーク・ラファロ)だった。

監督はタイカ・ワイティティは42歳。ニュージーランド・ウェリントン出身。監督・脚本家・俳優・コメディアンとして活躍。監督と脚本を手がけ出演した「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」(15)で世界的に注目された。

僕の印象では雷神ソーはハンマー「ムジョルニア」をぶんまわすだけの単純で乱暴な神だった。
前作「Thor: The Dark World」は父親、オーディン(アンソニー・ホプキンス)の殺害を巡り、姉や弟ロキ(トム・ヒドルストン)との確執を中心に暗い家庭内トラブルを扱っていた。

ところがコメディアン出身の監督タイカ・ワイティティは映画の底流にユーモアを持ってきてソーにつき纏う「暗さ」を一掃する。これが客を惹きつけた。

ソーの2倍程の体躯で6パックの筋肉をピクピクさせながら迫るハルクとの死闘が見せ場の一つとなっている。
二人は昔からの親友の筈でソーは乱闘の最中に耳元で「俺たち友達だろ!」と叫ぶがハルクの耳に届いたとしても理解していない。
究極の武器、ムジョルニア・ハンマーを木っ端みじんにされムジョルニア無しの雷神ソーはもはや「雷神」ではあり得ない。ソーがハンマー無しで無敵のヘラにどう立ち向かうかが新鮮でユーモアたっぷりで面白いのだ。

ソーはリンカーンみたいなカッコ良いことを宣言する。「アスガルド」は国ではない。「アスガルド」はそこに住む民の心の中に存在するのだ、と。
映画産業自体が沈滞している中でトマトメーターが100%新鮮、出口調査がA評価と言う観客の評価が、可笑しなソーに転生させたワイティティ監督の功績だ。

雷神ソー役続投のクリス・ヘムワースは1983年生まれオーストラリア・メルボルン出身の34歳。
テレビ・ドラマで活躍後、「スター・トレック」(09)の主人公カークの父親ジョージと言う脇役で映画デビュー。11年の「マイティ・ソー」でソー役に抜擢され、一躍スター俳優になったシンデレラボーイ。この作品で更に明るいスターの道を歩み始める。

悪役の死神にケイト・ブランシェット1969年生まれオーストラリア・メルボルン出身の48歳。
オスカー二度受賞の経歴は死神のカリスマ性を裏付けている。
「エリザベス」(98)でゴールデングローブ賞ドラマ部門主演女優賞等を受賞。『アビエイター』(04)でアカデミー助演女優賞、「ブルージャスミン」(13)でアカデミー賞主演女優賞を受賞している大スター。

他にハルク役のマーク・ラファロ、弟・ロキ役にトム・ヒドルストン、
ヘイムダル役イドリス・エルバ、グランドマスターをブラム・ゴールドバーグ、
あっさり殺されるホーガンに浅野忠信らが脇を固め、
カメオでアンソニー・ホプキンスが回想シーンに父親として現れる。

スーパーヒーローものながらアクションですら笑えて楽しい作品。

11月3日よりTOHOシネマズ日劇他で公開中

「Mr.Long ミスター・ロン」(Mr. Long)(日本・香港・台湾映画):台湾人殺し屋・ロンは、六本木で台湾マフィアボスの暗殺に失敗し重傷を負って郊外の田舎町へ逃れて来る。

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今年の第67回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品されたバイオレンス・アクション映画。賞にはカスリもしなかったが、まあ出品されたことで良しとする作品だろう。
2時間超の長尺は無駄も多い内容だが中身は暖かいヒュマンドラマになっている。

冒頭は小さなナイフ一本で台湾ギャングたちを相手に凄絶な立ち回りで皆殺しにすると、次の仕事は日本と「Mr.ロン」(チャン・チェン)と呼ばれる殺し屋は忙しい。

プロローグと終盤は日本のヤクザと派手な殺しに挟まれてはいるが二つのバイオレンスに挟まれた中身は
ヤワで暖かいコミカルな人間ドラマで、そのギャップが大きな映画だ。

台湾、香港との国際的な共同制作でSABUの張り切り過ぎたスタイリッシュな演出に手持ちのカメラの落ち着かなさで2時間を超す長尺で疲れるが、エンディングのケジメで幸せなフィーリングを味合わせて終わる。

ナイフの達人で殺し屋を生業としている台湾人のロン(チャン・チェン)は、高雄での仕事の後、六本木にいる台湾マフィアの暗殺を引き受けるが失敗に終わる。逆に撃たれて重傷を負い、東京から遠くない田舎町に流れ着いた。

廃屋の連なる路地で血を流しているロンをじっと覗いていた5歳ほどの少年、ジュン(バイ・ルンイン)は食べ物、薬、古着、泥のついたままのネギなどの野菜を次々と無言で運んで来る。

「お前はこの前助けた犬の生まれ変わりかよ」と呟くロン。

自分で傷口にマーキュロを塗りガーゼをあて白いさらしを巻いて服を着替える。
中国語で感謝の気持ちを伝えるとジュンは分るので驚く。

「僕のお母さん台湾人だもの」

鍋スプーンお椀を手に入れたロンは(一体何処から?)焚火で野菜を煮てスープを作りジュンと食べていると住人が通りかかり一口飲んでその美味しさに感激する。

中国語でジュンを呼ぶ母親、リリー(イレブン・ヤオ)はシングルマザー。
嫌がるジュンは、命令に仕方がなく、お金を受け取り乗用車を路上に止めているサングラスの男から球状の塊を買う。

球の中は小さなパケットが幾つか。そう、リリーは薬中で自宅に客を呼び込み売春で親子が暮らしている。

住人たちは有機栽培の農園主をリーダーに肉屋、魚屋、近所のオバサン達などなど。
日本語のわからないロンに屋台や什器,鍋窯,食材の面倒を見てくれ、近所の神社の境内に「台湾牛肉麺」(ニュウロウミェン)の看板で屋台を置かせて貰う。
ジュンは勿論ロンのアシスタントで食器洗いなど甲斐甲斐しい。

住民たちの異常な優しさに触れながら、屋台には多くの客が集まるが、六本木ギャングが居所を突き止め数十人が田舎町に襲来する。

話の展開はご都合主義で納得性が乏しいが口髭と難しい顔をしながら子供好きのロンのキャラクターに惹かれていつしか画面に引き込まれる。

でも野球の場面と言いピンポンの勝負と言い,
ド下手な住人の歌舞伎を延々と見せられる内にイライラして来るのも事実だ。
なんでセリフ回しもままならない素人歌舞伎に10数分も費やすのだろうか?
上述のこの辺りを削除したら30分は短縮できる。2時間を越すの映画は観客を拷問にかけているようなものだ。

この作品のオリジナル脚本も書いている、53歳のSABU監督はファッションデザインやパンクロックを経験して映画作家となった。「天の茶助」などの作品で知られる。スタイリッシュな手法でアートフィルム的な手法が好きなファンも多い。

主演は「レッドクリフ」「グランドスター」などで知られる台湾の人気俳優チャン・チェン。楊昌(エドワード・ヤン)監督の「牯嶺街少年殺人事件」(91)で内気な少年を演じ衝撃的なデビューを飾ったことは記憶に残っている。


その他、賢次役に「たたら侍」などの青柳翔、母親リリーにイレブン・ヤオ、少年ジュンはバイ・ルンインらが脇を固める。

12月16日より新宿武蔵野館他で公開される

「ローガン・ラッキー」(Logan Lucky)(アメリカ映画):失意のどん底の主人公、ジミーは人生を一変させる大犯罪計画を立てる。

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アメリカでは8月18日から公開され3位は、「サイドイフェクト」を撮り終わって一旦は引退を発表したスティーブン・ソダーバーグ監督がズブの素人レッベッカの描いた脚本を気に入り、引退を取り消して4年振りの新作。
3031館で公開され8.1M。
ソダーバーグ監督作品としては2002年のスペース・オデッセイ「Solaris」の後塵をはいする無残な成績だ。

宮崎駿もそうだが大々的に引退宣言をしてもしばらくすればまたぞろ映画の虫が騒ぎ出し現場に引き返す。宮崎は2019年に公開予定の「君たちはどう思うか」を制作中だ。76歳の宮崎が老骨に鞭打ってカンバックをしているのに22歳年下の54歳そダーバーグは前言を翻すのは想定内だ。
南部ウェストヴァージニア育ちの友人レベッカ・ブラントが初めて書いた脚本を持ち込んで来た時にはジョージア州アトランタ生まれの同じ南部人としての血が騒いだのだろう。素人の脚本に飛びついて引退宣言撤回の挙に出た。

このスケールの作品にしては制作費はミニマムの29M(33億円)だが、海外市場でのプリセールで大部分を賄った上、ソダーバーグ自身の希望でハリウッドシステムを外して独自のマーケティングを行いたいと自分の財布から20M(23億円)の資金を出しインディ系の配給会社Bleecker Streetを使用している。余程ハリウッドのスタジオに苛められて来たのでしょうね。

出演はソダーバーグ監督を慕うチャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ダニエル・クレイグセス・マクファーレン、ケイティ・ホルムスそれにヒラリー・スワンクがケジメを付けるFBI捜査官と、安いギャラで出演している。

2人の兄弟(テイタムとドライブ)がメモリアル・デイにコカ・コーラが主催するノースカロナイナでのNASCARレースの売上金を強奪しようと言うアクション・コメディ。
Rotten Tomatoesで93 percent fresh ratingと観客には好評。とは言うものの出口調査(CS)はB評価。

2週目の8月25日の週末は全体でも8月で最悪の興行成績(BO)を記録した週末で、2001年の911後の週末BO以来15年振りの悲惨な成績。

この週末は5位に入る。3031館で公開され4.4 M。10日間の累積は15M。
制作費29Mの回収可能領域に近づく。

5位は3週目はは2975館で公開され4.4 M。17日間の累積は21.5M。

9月15日の週は11位で1.0M累積は27M。
翌週からはチャート外になりアメリカでの売り上げは30Mにたっしたかどうか?制作費はリクープできたかどうか?日本が今週末上映開始だから祈るように日本の動向を見守っているだろう。

舞台はウェスト・バージニア。
ジョン・デンバーのウェスト・バージニアを称える「Take Me Home to Cuontry Roads」南部田舎者のエレジーがバックに流れる。

ジミー・ローガン(チャニング・テイタム)は娘のサンディ(ファラーマッケンジー)をピックアップトラックに乗せてカントリーロードを合唱している。この映画のテーマ賛歌だが、誰も信じていない。
確かに景色ば目に鮮やかな美しさだが、水は汚染され鉱山は不況で閉鎖直前、リストラが行われている。

大学生の頃、ジミー・ローガンはフットボールの花形選手としてNFLからもドラフトがありキャリアが約束されていたかに見えていたが、膝のケガその道を諦めざるを得なかった。
それ以来、ジミーは建設作業員として働いていたが、ボスにビッコを見とめがめられシャーロット・モーター・スピードウェイでの作業中に解雇されてしまった。

失意のうちにあったジミーだが唯一の楽しみは娘サンディと出かけること。
その日は仮装行列を見に行く約束で、元妻のボビー・ジョー(ケイティ・ホームズ)の家を訪れた。
ボビー・ジョーは近々リンチバーグへと引っ越すのだという。
それは娘に会うことが困難になることを意味していた。

先の見えない状況に苛ついたジミーは兄のクライド・ローガン(アダム・ドライバー)が経営する酒場に足を運んだ。

クライドはイラク戦争に従軍して左腕を失ってしまったため、今は義手を装着してバーテンダーをしていた。
酒場で飲んでいたマックス(セス・マクファーレン)は義手をはめたクライドを嘲笑したため、ジミーは憤慨して彼に殴りかかった。

2人が喧嘩をしている時、クライドはマックスの乗ってきた車に火炎瓶を仕掛けていた。酒場を出て行くマックスの姿を見ながら、ジミーは「カリフラワー」と叫んだ。

それは兄弟が子供の頃に悪戯をする際に使用した合い言葉であった。

翌日、ジミーはメモリアルデイに開催されるNASCAR会場のスピードウェイから大金を盗み出す計画をクライドに打ち明けた。
空調設備を利用してサーキットから一気に大金を奪い取ろうというのであった。

ジミーの計画に同意したクライドはその道に専門のプロを集めようとしたが、なかなか優秀な人間をスカウトすることができない。

結局そこそこの腕前の連中を集める。、

頑丈な金庫を爆破する職人、ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)とその2人の弟、サム(ブライアン・グリーソン)とフィッシュ(ジャック・クエィド)、
そしてジミーとクライドの妹であるスピード狂のメリー・ローガン(ライリー・キーオ)が現場から盗んだ大金を運ぶと言う寄せ集めの雑魚チームが計画に参加することとなった。

連中の喋る言葉が汚いマザーファッキングやディープシットやらアス・ホールなどをゆっくり巻き舌のサウザンドロウアル(南部訛り)でやられるから参る。字幕も付いて行くのに精一杯でニュアンスなどそっちのけ。

アリバイ作りは面白い。
一行は金庫破りで収監されているジョーを刑務所から連れ出し、事が済み次第彼を刑務所に送り届けるという無謀な計画を立てていた上に、ジョーの脱獄が誰にも気付かれないという前提で物事を考えていた。
ジョーはわざと酒気帯び運転でコンビニに車を突っ込み9カ月の微罪で刑務所に潜入することに成功した。

サムとフィッシュはサーキットの金庫室に大量のゴキブリを放ち、清掃員がやって来た隙を突いて部屋の寸法を測る。

強盗のための装備を調えていたジミーは、かつての同級生であったシルヴィア・ハリソン(キャサリン・ウォーターストーン)と再会した。
彼女は医者として生計を立てていたが、金に困っていた。計画を知ったシルヴィアはジミーに破傷風のワクチンを打ってあげた。
恩を売られたジミーは恋心も湧き、シルヴィアにも奪った金を分け与えることにした。

ジミーは強奪実施をメモリアル・デイの週末に開催されるNASCAR:コカ・コーラ600なら十分な人出を見込めると踏んでいよいよ計画を実行に移し始める。

ストーリーを追うのに苦労するほど登場人物は多く、計画は杜撰でとっ散らかる。
でもその間抜けさと破天荒な計画が観客を楽しませる。

半世紀以上前、ラスベガスのカジノから大金を奪う名作「オーシャンと11人の仲間」があり、似た作品だが、ウェスト・バージニアやシャーロットを舞台にしたことと主人公たちのバックグラウンドを考えると明らかに政治的主張が盛り込まれている。

不景気、斜陽産業、環境汚染、リストラ、失職。イラク戦争帰還兵のトラウマ。

ジョン・デンバーの南部賛歌と対極の世界のリアリティと人々の生き様をブラック・ユーモアを交えてヴィヴィッドに描き出す。

「トラフィック」や「オーシャンズ」シリーズなどのオスカー監督スティーヴン・ソダーバーグ監督の再起を賭けたクライムムービーを装ったポリティカル映画。

主人公ジミー・ローガンは監督ご贔屓の「マジック・マイク」や「フォックスキャッチャー」などのチャニング・テイタム、

準主役の爆破男に「007」シリーズなどのダニエル・クレイグのほか、兄貴役に「ハングリー・ハーツ」などのアダム・ドライヴァー、妹メリーに「マッドマックス 怒りのデス・ロード」などのライリー・キーオ。

他に終盤に現れケジメを付けるFBI捜査官にオスカー女優・ヒラリー・スワンクなどが脇を固める。

僕は個人的にはFBI捜査官など登場させずにバカなヒルビリーを天国にそのまま遊ばせて欲しかったと思う。

11月18日(土)TOHOシネマズ 日劇他で公開される

「ロープ 戦場の生命線」(A Perfect Day)(スペイン映画):マリ―ネ・デートリッヒの反戦歌「「花は何処に行ったの」に載せて「完璧な一日」が終わりを告げ「戦争の愚かさ」の教訓を残す

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原題:完全な一日は皮肉なブラックユーモアだと終わる瞬間まで思っていた。
世界で一番有名なピート・シガーの反戦歌「花は何処に行ったの」をPPMでもキングストントリオでもブラザーズ・フォーでも無く、何とマリ―ネ・デートリッヒのしっとりとした歌声をバート・バカラック編曲でフルコーラス聞いている内に、
「どんでん返し」に原題通り「A Perfect Day」になる見事さに唖然とする。拍手を送りたいくらいだ。

映画は1995年、停戦直後のバルカン半島の何処かの国を舞台に、国際援助団体NGO「国境なき水と衛生管理団」の活動を描いている。
戦争が起きた時に欠乏するのは食料と水、国もNGO団体もフィクションだが想像は付く。
この映画では如何に綺麗な水を戦争で生き残った住民に飲ませようかと腐心する。「きれいな水を提供する」NGOは僕の記憶にあるだけで10を超える。Global Water Charity Water, CARE, Water Org.ウォーター・エイド・ジャパンなどなど。

だから架空のNGO「国境なき水と衛生管理団」と名乗る団体のリアリティは決して虚構の活動とは思えない。
今も中近東やアフリカなど世界各地で続く内戦や紛争、そして途轍もない大地震や大津波などの自然災害。

そうした地域で困難に陥り、命の危機にさらされながら援助を求めている多くの人々。政府や国連(UN)など、官僚的で教条的、動きの鈍い巨大組織が手をこまねきたたらを踏む中、いち早く現地に向かい、自らの危険を顧みず援助活動を続ける国際援助活動家たち。映画の主人公たち4人のNGO「国境なき水と衛生管理団」はその典型的な団体だ。

実際映画の中でUNはいたるところで顔を出すが官僚的で主人公のNGOメンバーの邪魔ばかりしている。映画ではむしろ「邪魔者」か「敵」として描かれている。

1995年長かった戦争は終わり、バルカン半島に平和が訪れる。
映画の冒頭、ある村には3つの井戸があるが2つの井戸は手榴弾で破壊され、
残る一つの井戸に大男の死体が投げ込まれている。

NGOのチーフメンバー・マンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)は、同僚のビー(ティム・ロビンス)や、新人のソフィー(メラニー・ティエリー)それに通訳で現地人、ダミール(フェジャ・ストーカン)の4人のチーム。

死体が投げ込まれ、生活用水が汚染されてしまった井戸から死体の引き上げを試みるがもう少しのところでロープが切れてしまう。
デブ男の死体で汚染された水は飲めない。

それは水の密売ビジネスを企む武装勢力の仕業だった。
タンク一に詰めた給水車で水をバケツ一杯6ドルで飛ぶように売れている。
早く死体を引き上げ、水を清浄(Purify)するのが彼らの仕事

国籍も年齢もバラバラの4人で構成される国際援助活動隊はやむなく、武装集団が徘徊し、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を、1本のロープを求めてさまようが、村の売店では外国人に売れないと断られ、国境警備の兵士は旗に結んだロープをおろすと「降参」を意味するからダメとことごとく断られ、
簡単だと思ったロープをなかなか手に入れることができない。

 そんな中NGO本部から現地視察にやって来たのがカティヤ(オルガ・キュリレンコ)。ややこしいのはマンブルゥの元恋人でどうも彼も落ち着かない。
映画のプロット的にはカティヤは余計な夾雑物だ。

チームはロープを求めて彷徨う中、不良少年たちにサッカーボールを奪われ悄然とする少年二コラ(エルダー・レジドヴィック)と出会う。

二コラは疎開して来てお祖父ちゃん、ゴヨ(セルジ・ロペス)と住んでいるが丘を越えたキリスト教徒とイスラム教徒が隣り合う住宅地の両親の家にロープはあると言う。
確かにロープはあった。だがそのロープは獰猛なハスキー犬が繋がれチームに猛烈に吠える。

ビーはソーセージに鎮静剤を混ぜて犬に食べさせるとトロンとして来る。
二コラの家は完璧に破壊されている。近所のムスリムがクリスチャンの二コラの実家に忍び込み、内部で爆薬を仕掛けたと見え天井や壁が無い。

そしてロープは庭で見つかった。
二コラの母親が首吊り自殺をしていた。
ハスキー犬に鎮静剤は効かず犬の綱を諦め死体を降ろしたロープを持ち去る。
衝撃の真実と向き合ってしまった新人ソフィーはショックの余り吐いてしまう。

ようやくロープは手に入るがここから軍隊と国連の邪魔が入りNGO「国境なき水と衛生管理団」はミッションを遂行できないまま撤収を余儀なくさせられる。

次の指令は難民キャンプのトイレ作り。雨が降れば下水はウンチとオシッコで溢れる。雨よ降るな!と願う隊員たちのジープに瀧のような大雨が叩き付ける。
「何が完璧な一日だ!」

原作は「国境なき医師団」(MFS)に所属する医師でもある作家パウラ・ファリスの小説「Dejarse Ilover」(完璧な一日)に基づいて映画化。長いMFSでの活動実績を活かしているので現実感の迫力がある。

監督と脚色はスペインの俊英フェルナンド・レオン・デ・アラノア。脚本家としての長いキャリアを経て監督デビュー作「カット!」でゴヤ賞最優秀監督賞を受賞後、「月曜日に日向ぼっこ」(02)「アマドールからの贈り物」(10)などを撮りこの作品で6本目の劇場長編映画。

主人公マンブルゥに「トラフィック」や「ボーダーライン」のスペインの世界的俳優、ベニチオ・デル・トロ。

相棒のビーに「ショーシャンクの空に」「ミスティック・リバー」などのアメリカのスター、ティム・ロビンス、

マンブルゥの元恋人・カティヤ役に「007/慰めの報酬」のロシア女優、オルガ・キュリレンコ、

通訳で現地人、ダミール役のフェジャ・ストーカンはサラエボ生まれのサラエボ育ち。ボスニア軍の特殊部隊兵士だった経歴を持つ。

新人ソフィーには「海の上のピアニスト」に端役で顔を出したフランスのメラニー・ティエリーなど、国際的な演技派男優女優を揃えている。

最後のマリ―ネ・デートリッヒの反戦歌「「花は何処に行ったの」に載せて「完璧な一日」が終わりを告げる。

2月10日より新宿武蔵野館他で公開される

「The Promise 君への誓い」(The Promise)(米・西映画):20世紀初頭の第一次大戦中150万人のアルメニア人キリスト教徒の大虐殺を行ったイスラム国家オスマントルコの圧制を描く

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 映画はヒットしたとは言い難い。
プロデューサーのエリック・エスレイリアンは「我々は興行成績には関心無い。映画のあがりは全額チャリティに寄付をする。目的は一般アメリカ市民にトルコのアルメニア人大虐殺を知って貰いたいだけだ」語っている。

テリー・ジョージ監督のアルメニア人大虐殺を描いたこの映画「The Promise」はアメリカでは今年4月21日より2251館で上映され、9位の4.1Mと低調な出だしだった。
1か月でチャート・ランキングから消えたが興行成績は30M(35億円)未満と言うところだろうか。

しかし恐ろしいのはトルコの右翼団体からの脅しと脅迫。「歴史的な暗殺は今やディジタル抹消で我々に迫っている」と。

後述するカナダのアルメニア系アトム・エゴヤン監督は何度も脅迫を受け、彼の映画を上映しようとしたトルコの映画館もプレッシャーをかけられ公開中止に追い込まれている。

制作費100M超(114億円)の大作。昨年6月に98歳で亡くなったカーク・カ―コリアン(Kirk Kerkorian)が全額出資している。

カーコリアンはアルメニア系アメリカ人でオスマントルコ帝国末期に起こった150-200万人ともいわれるアルメニア人大虐殺を描くハリウッド作品が全く無いことを憤慨していた。

MGMを買収しラスベガスのカジノに投資し、自動車製造に熱を入れた富豪カーコリアンは、2人の娘の名をとって命名された「リンシー財団 (Lincy Foundation)」は、主にアルメニア問題に関する慈善事業を、これまでも10億ドル(1140億円)を超す寄付をしてきた。

大虐殺のトルコに怒るカナダのアルメニア系アトム・エゴヤン監督の「アララトの聖母」などの作品や、トルコを出自とするファティ・アキン監督の「消えた声が、その名を呼ぶ」がホロコーストを描いて何も知らない欧米の一般市民にショックを与えたが、ハリウッドは全く関心を示していなかった。

アメリカ国内には50万人と言われるアルメニア系アメリカ人がいる。作家のウィリアム・サロイアン、テニスのアンドレ・アガシ、女優で歌手のシェール、タレントのキムとコートニー・カーダシアン姉妹。安楽死を肯定する「死の医師」のジャック・ケヴォーキアンもアルメニア系だ。

中近東のイスラム教国に囲まれたアルメニアは唯一のキリスト教国。だがトルコは大虐殺を認めないし今だ謝罪もしていない。

レジェップ・タイイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdoğan)トルコ大統領は国連やローマカトリック、EU議会や歴史家たちからの非難に対し、「あれは戦争中の不幸な出来事でトルコ市民もアルメニア人同様に沢山死んでいる」と開き直り、謝罪する態度も気持ちも無い。

加盟申請して30年経つトルコのEU加盟にこのキリスト教徒大虐殺がネックになっているのは明らかだ。
特に30万人のアルメニア人が国内に抱えるフランスはトルコの責任を追求し非難を続けている。

映画の中でもフルネ提督(ジャン・レノ)率いるフランス艦隊がトルコ軍に銃弾や迫撃砲で追撃される4000人のアルメニア難民を救出するシーンが出て来る。

さてストーリーだが、アルメニア人の医学生ミカエル(オスカー・アイザック)と、
米国人のAP特派員クリス・マイヤーズ(クリスチャン・ベール)の2人が
同じ女性、フランス人のアナ(シャーロット・ドゥ・ボン)を愛し、
その三角関係のロマンスがもつれる中、オスマン帝国がソ連との戦争に突入し、
アルメニア人の大虐殺が発生する。

ヒトラーのユダヤ人600万人のホロコーストの影に隠れるが20世紀に入って最初の大虐殺は第一次世界大戦中の1915年にオスマントルコ帝国(現在のトルコ)で起きた150万人のアルメニア人大虐殺だが、100年以上経った今、余り知られていない。

トルコ南東部のアルメニア人の村で生まれた青年ミカエルは医師を目指して首都コンスタンチノープル大学医学部に入学。裕福な従兄の家に下宿し、そこで従兄の娘たちにフランス語を教える家庭教師アナと知り合う。
華やかな都会暮らしを味わう内にアナの恋人でアメリカ人ジャーナリスト、AP通信のクリスと友達となる。

大都会の医科大学に通うには学費や生活費に金がかかる。貧乏なミカエル家は余裕が無く村一番の素封家から医師になったら村に戻る条件でその娘と結婚し金貨400枚を受け取っている。
心の通わぬ結婚とは言え妻帯の男が大都会で会った美人の家庭教師と恋に落ちそしてその女性の恋人と三角関係とは、ありふれた話で前半はそれに終始するから映画は詰らなくなる。

ソ連との戦争が始まり徴兵されそうになるが袖の下を渡し医師だからと逃げるがアルメニア人の弾圧は逃れられず鉄道敷設の強制労働に駆り立てられる。ヤワな身体と繊細な神経はとてもじゃないが労働には耐えられない。

「アルメニア人は腫瘍だ、トルコ体内に宿る『癌』だ」と嘯くトルコ将校たち。
奴隷としての強制労働は一部紹介されるがアルメニア人集落の攻撃、
国外への追放などはまるで描かれていない。

両親と妻の安否を気遣い、強制労働現場から脱走して森を抜け急坂な山道を越え故郷の村へ辿り着いたミカエルは村の外れの河川敷に積み上げられたアルメニア人の死体を見る。
妻の腹は裂かれ胎児は子宮から引き出されて母子ともに死んでいる。

ここで初めてジェノサイドを描くのだが、
それまでの極楽とんぼのようなミカエルとその仲間の交友などのプロットは甘すぎる。

河川敷での大量な遺体は予想できたし、それだけに観客のショックも少ない。

ミカエルはクリスやアナと一緒にキリスト教牧師の率いるアルメニア人難民に加わり、
トルコ軍とのゲリラ戦なども描かれるが、これもちょっとばかり初戦に勝利するなど甘い。

もっとピンボケは駐トルコのアメリカ大使、ヘンリー・モーゲンソー(ジェームス・クロムウェル)がAP特派員のクリスの保護とアルメニア人への迫害を止めるようにトルコ軍司令官に申し入れる。
「あんたはユダヤ人だろう」とそらされ問題をはぐらかされるが、激怒した大使が「俺はアメリカ人でアメリカ合衆国の市民を保護する義務がある!」と激高する。歴史的事実があればともかくフィクションならユダヤ問題には触れるべきではない。大使の言うように問題が違うのだ。

役者は熱演しているが監督・脚本のテリー・ジョージがどうも冴えない。
脚本家上がりで「都父に祈りを」「ボクサー」などの良質な本を書き、「ホテル・ルワンダ」などの監督・脚本は絶賛を浴びたが、どうもこの作品は熱が籠っていない。愚にもつかない三角関係で道草をして、どうホロコーストに焦点を合わせ観客の関心を集中させられるか?

テリー・ジョージ監督はアイリッシュだからだろうか。アトム・エゴヤンのようにアルメニアの血が混じらないと外野席から見ているように主観的な怒りをかきたてられない。アルメニア人でなくとも良い、ホロコーストを真摯に受け止める映画作家は幾らでもいるだろう。プロデューサーの監督・脚本家の選択を誤った。

 大虐殺を真摯に訴えるならもっと凄絶な戦いや葛藤などに正面から取り組まねばならなかった。実際に行われたムスレムのキリスト教徒への圧政やアルメニア人の悲劇がはっきりと見えない。

LAで行われたプレミアム上映にはアルメニア系の祖先を持つ米女優のシェール、タレントのキム・カーダシアン、コートニー・カーダシアンなども参加して盛り上がったと言うが、映画本体は所期の目的を達成できないでいる。

クレジットにプロデューサーとして名を残しているカーク・カ―コリアンも草場の影で残念がっているだろう。

2月3日より新宿バルト9他で公開される

「スリー・ビルボード」(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)(英映画):暴行し殺された娘の犯人の目星もつかぬ警察署長非難の3枚の大型屋外広告が大問題に

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 久し振りに素晴らしい映画を見た。未だ感動で涙が出そうだ。
 
 今年の第74回ベネチア国際映画祭で脚本賞、そしてトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞し先週終わった東京国際映画祭で特別招待作品として上映され万雷の拍手を受けた。

 無名の47歳のイギリス生まれの監督、マーティン・マクドナーはドエライ映画を作ったものだ。

 ミズーリ州の架空の田舎町エビング。アンジェラ・ヘイズという名前のティーンエイジャーがレイプされ拷問され焼き殺されると言う凄惨な事件が発生した。

それから7ヶ月が経過した後も、シングルマザーのミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は娘を奪われた悲しみから立ち直れずにいた。

 女手一つで育ててきた娘の死は何よりも耐え難いものだった。しかし、時が経つにつれて、ミルドレッドは犯人の手掛かりを何一つ発見できない警察に不信感を抱く。

それはやがて警察への怒りへとなった。そこで、ミルドレッドはエビング広告社に赴き社長のレッド・ウィロビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に3枚のビルボード(屋外広告)を借り切る。

1枚目は「死の恐怖の中でレイプされたというのに」
2枚目は「未だに犯人が捕まらない」
3枚目が激しい「どういうことだ、ウィロビー保安官?」
というメッセージ広告を高速道路入口に近い町の外に設置した。

警察を敬愛してきたエビングの住民たちはミルドレッドの行動に憤慨した。

名指しで批判された警察署長ビル・ウィロビー(ウッディ・ハレルソン)は意外なことに冷静に受け止める。

しかし署長を尊敬し黒人苛めのレイシストとして悪名高いジェイソン・ディクソン巡査(サム・ロックウェル)は腹の中で怒りを煮えたぎらせていた。

広告板の設置が原因で、ミルドレッドとアンジェラの弟で息子のロビー(ルーカス・ヘッジス)は住民たちから嫌がらせを受けることとなったが、ミルドレッドはそれを意に介さなかった。

孤立無援のミルドレッドの心の支えは、何としてもアンジェラの無念を晴らしたいという思いであった。保険金の残りを叩いて掲載料、月額5千ドルを前払いする。

映画自体が異常だ。
「ファッキング」や「マザーファッカー」「アスホール」「カント」「ビッチ」「シット」と
卑猥な4文字俗語のオンパレード。
南部訛りでゆっくり引きずるように発音するから強烈だ。
こんな言葉を「看板には使えないわね」とレッド社長に真面目な顔で確かめるミルドレッド。

登場人物たちが夫々特異で尋常でない。

署長のウィロビーは急速に体調を崩している。
膵臓癌が全身に転移しの末期症状であった。抗がん剤もホスピスも全部拒否、動ける間は署長を務めようとするが血を吐いて署内で倒れ救急車で搬送されたりする。
自分の死期が近いと悟ったウィロビーは、退院後に妻と2人の娘と過ごす1日を設け、
楽しい思い出を作った後に自殺。
心残りは若い妻と幼い娘たちのこと。
泣けるのはピストル自殺をし、遺産の中から1か月分の広告掲載料5千ドルをミルドレッドに贈っていることだ。

ウィロビーを父親のように慕うディクソン巡査。
警官になって3年だが昇格試験は全て落ちる頭の悪さ。
ポリスアカデミーも落第続きで6年かかって卒業。
黒人嫌いで何もないのに殴る蹴るで逮捕する典型的なレイシストのアホさ加減。
30過ぎても独身で半分認知症の母親に頭が上がらないのが笑える。

ディクソンはミルドレッドの行動を警察官である自分への敬意を著しく欠いた振る舞いであると見なしていた。
ミルドレッドを何としてでも屈服させてやると決意したディクソンは、
彼女に広告板を提供していりレッドを脅迫し、言うことを聞かないと窓や扉を蹴破りオフィスに乗り込み殴る蹴るの暴行の果て、レッドを二階の窓から放り投げる。手持ちカメラで追うディクソンの憤りは迫力がある。
けれどもバカだよね、その結果(Consequences)を考えない。

署長の友人である神父も歯医者も意見するがミルドレッドは聞く耳を持たず逆に反撃に出る。

口髭を生やしたチビ(ミジェットと差別言葉を使っている)の中古車セールスマン、ジェームス(ピーター・ディクレイン)も可笑しい。
ミルドレッドが大事件を起こしているのを目撃しながらデートしてたんだと偽アリバイを作る。
それからもミルドレッドと寝たいばっかりに高級レストランのディナーを誘う。

別れた夫チャ―リー(ジョン・ホークス)もやって来るが、離婚原因は直ぐに手を出す暴力男だからだ。二まわりも若い動物園勤めの妻が臭いとミルドレッドに詰られてシュンとなる。
チャーリーは粗野な人物だが、そんな彼ですらも屋外広告が引き起こす事態を恐れていた。
彼はミルドレッドに「アンジェラが殺される1週間前、あいつは「俺と一緒に暮らしたいと言ってきたんだ」と語る。シュンとなるミルドレッド。

署長の自殺で町中の人物たちを敵にしたミルドレッドに思わぬ人物が協力を申し入れ、閉塞事態の中で問題解決の道を見つけ始める。

監督・脚本・制作は47歳のイギリス生まれのマーティン・マクドナー。
26歳で舞台の脚本家としてキャリアをスタート。
劇作家としてデビューし、演劇界で数々の受賞を経て

映画入りは04年の短編「シックス・シューター(原題)」で、アカデミー賞短編実写部門受賞、
その後08年に長編劇場映画デビューは「ヒットマンズ・レクイエム」(日本未公開)
そして2作目が12年の「セブン・サイコパス」だが、日本で上映されるもまったく当たらなかった。
新聞広告を使って「サイコパス募集」などは三作目のこの作品に似ているブラックユーモアのクライムコメディ。
サム・ロックウェル、ウディ・ハレルソンはこの映画からマクドナー監督のお気に入りだ。。

主人公の娘のために孤独に奮闘する頑固な母親ミルドレッドに扮するのはイリノイ州生まれのフランシス・マクドーマンド。
映画の出来の良さは彼女の熱演に負う。
60歳のマクド―マンドは「ブラッドシンプル」などコーエン兄弟作品の常連。

警察署長ビル・ウィロビー役のウッディ・ハレルソンが素晴らしい芝居を見せる。
人間の内部の弱さと強さを見事に演じ切る。

もっと凄いのは黒人苛めのレイシストとして悪名高いジェイソン・ディクソン巡査のサム・ロックウェル。
ウィロビー署長に代わって新任の黒人が机に座るのをそうとは知らず罵倒してクビになるシーンは笑える。
カリフォルニア生まれの49歳、「コンフェッション」でブレイクしたちょっとイカレタ役は上手い。

口コミで映画の評判は広がるだろうが、見逃せない作品だ。

2月1日から全国公開。

「ベロニカとの記憶」(The Sense of An Ending)(イギリス映画):ロンドンで60歳を過ぎ、ひとり静かな生活を送るトニーの元に届いた、一通の手紙。そこから「記憶」をたどる物語が始まる

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ロンドンで60歳を過ぎ、引退生活を送るトニーの元にある日、見知らぬ弁護士から手紙が届く。あなたに日記を遺した女性がいると。その亡くなった女性とは、40年も前の初恋の人ベロニカの母親セーラだった

ヨーロッパでインド映画の歴史を書き換える大ヒットを記録し、そして日本でも評判になったので見た「めぐり逢わせのお弁当」(Lunchbox)は面白かった。
インドの大都会ムンバイでは、「ダッバーワーラー」と呼ばれる弁当配達人たちがランチタイムに弁当をオフィスに届けて回る。
ある日、主婦のイラ(ニムラト・カウル)が心を込めて作った弁当が誤ってサージャン(イルファン・カーン)のもとに届く。イラは料理を通じて夫の愛を取り戻したいと願い、妻に先立たれたサージャンは久々の手料理の味に心動かされる。

「めぐり逢わせのお弁当」で大ブレイクしたインド生まれのリテーシュ・バトラ監督の第二弾だと期待して見たのだが手が込んでいて頭が混乱する。
インド人は全く現れず登場人物はイギリス人でセリフは総て映画だからデビュー作と二作目は大きく違う。

リテーシュ・バトラ監督の第二作目は、イギリスでもっとも権威のある文学賞、ブッカー賞に輝いたジュリアン・バーンズの小説「終わりの感覚」(新潮社)を映画化したものだけにバトラ監督も持て余したのだろうか。見ている方も落ち着かない。

ロンドンで60歳を過ぎ平穏な引退生活を送りながらライカの中古カメラ店を経営するトニー・ウェブスター(ジム・ジム・ブロードベント)。客はあまり来ないし商売で儲かっているように見えないが、トニーは年金でかなり賄えるから問題ないと呑気だ。

離婚した元妻マーガレット(ハリエット・ウォルター)は弁護士で忙しいが今でも友達付き合い。娘のスージー(ミシェル・ドッカリー)はもう直ぐシングルマザーになる予定。父親の名は明かさない。

トニーの許にある日、見知らぬ弁護士から手紙が届く。「あなたに日記を遺した女性がいる」と。
その女性とは、40年も前の初恋の人ベロニカ(フレイア・メーバー)の母親で一度だけ会ったことのあるセーラだった。

遺品の日記は、トニーの学生時代の親友エイドリアンのものだった。なぜベロニカの母親の元にその日記があったのか?そこには一体何が書かれているのか?

長い間忘れていた青春時代の記憶、高校時代のトニー(ビリー・ハウル)は独自の歴史観を持ち、ディラン・トーマスの詩を愛する転校生エイドリアン(ジョー・アルウィン)と親しくなる。
エイドリアンはケンブリッジへ進み、自分は格下のブリストル大学へ進むも付き合いは途絶えなかった。

学生のパーティでトニーはライカ・カメラを持ったベロニカと出会いミステリアスな彼女に惹かれて付き合い始める。ライカを最初に貰ったのはベロニカからだった。

週末にベロニカの実家に招かれたトニーはベロニカの母親セーラ(エミリー・モーティマ)の大人の魅力に惹かれる。

セーラは「ベロニカに振り回されないで」と忠告してくれるがトニーは結局彼女とはうまくいかず別れる。数か月後、エイドリアンからベロニカとの交際を報告する手紙が届く。

「全く構わないよ」と返事を書くが、恋人を親友に奪われた「負け犬」の気持ちは否めない。だが、やがてエイドリアンは自殺してしまう。

若くして自殺した親友、初恋の秘密。回想の中でパトリック・ラグランジと言う学者の歴史と記憶の不確かさについての学説が紹介されるが、何を言っているか、映画の中での主張かどうか、エイドリアンの自殺の責任を逃れようとしているのかどうか、曖昧だ。この辺り僕には分からないから教えてもらいたいものだ。

SNSを通して現在のベロニカ(シャロット・ランプリング)との再会を果たすことになるが、トニーの記憶は大きく揺らぎ始める。

主人公の忘れていた過去の記憶を辿ることになるトニーには、「アイリス」でアカデミー賞を受賞した名優ジム・ブロードベント。

トニーの初恋の人ベロニカには、半世紀以上にわたって映画界で活躍する71歳のシャーロット・ランプリング。さすがに43年前「ナイトポーター」(夏の嵐)で見せてくれたセクシーでかんの的な魅力は消失してしまった。

さらに弁護士で元妻マーガレットに「つぐない」などのハリエット・ウォルター、
シングルマザーになる娘、スージーに「ダウントン・アビー」などのミシェル・ドッカリ―、
ベロニカの母親セーラにエミリー・モーティマなどイギリスで活躍していると言う顔ぶれだが、TVや舞台は知らない。
ジム・ブロードバンドとシャーロット・ランプリング以外は馴染みが無い。

1月シネスイッチ銀座他で公開される

「LADY GUY レディ・ガイ」(The Assignment)(カナダ映画):ギャングのボスに捕らえられ、マッド・ドクターに手術されて女に性転換した凄腕の殺し屋、フランク・キッチンのリベンジ

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 邦題では何が何だか分からないが映画を見ていて分かり始める。
配給会社の宣伝やPR担当が知恵を捻った結果がこのタイトルだと同情したくなる。

原題のassignmentは「任務」と言うか主人公に与えられた「課題」とでも訳した方が良い。Woking Title(仮題)はTomboy: A revenger’s tale、「男女の復讐物語」と分かりやすかった。

それにしてもベテラン、75歳の後期高齢者、ウォルター・ヒルが、低予算のBムービーはいつものことだが、こんな突拍子もないアクション映画を作るとはね。

元々ヒル監督はB級のアクションかクライム映画が得意な分野。
「ストリート・オブ・ファイヤー」「48時間」など、巨額な予算を使い、ニック・ノルティやポール・ニューマン、マイケル・ペレ、エディ・マーフィ、シルベスタ・スタローンなどのスターを主演に男の世界を描き続けてきた。

中でも監督デビュー作でチャールズ・ブロンソン主演の「ストリート・ファイター」(75)が一番印象に残っている。あれから45年、最低の映画に与えられるゴールデン・ラズベリー賞は何度も受賞したが、オスカーに全く関係のない典型的なB級映画監督だ。

「バレット」以来4年間、まともなオファーが無かったのか、新企画の作品は男の世界でなく女性を主人公にするのだが、一筋縄で行かないのは性転換手術でバリバリのマッチョマン殺し屋が女にされてしまうと言う飛んでもない発想なのだ。

男から女へ、怒り狂った主人公は暗殺者から復讐者へ。
「俺を女にしたヤツらをタダじゃおかない」と復讐の鬼と化す。

B級だろうとオカルトだろうと見ている者にしては面白い素材だ。
腕の良い形成外科医のDr.レイチェル・キー(シガニー・ウィーバー)は不品行で問題ばかり起しているので医師免許は剥奪されている。

彼女が猛烈に怒っているのは可愛い弟を殺したサンフランシスコの闇社会のならず者で辣腕の殺し屋だ。友達のギャングのボスに相談をする。

ならず者の男の名はフランク・キッチン(ミシェル・ロドリゲス)。

ある日、フランクの隠れ家にチャイナタウンを中心に街を仕切るクライアントのマフィアのボス、オネスト・ジョン(アンソニー・ラバリア)が何人もの手下を連れてやって来る。
「お前は敵を作りすぎた」ボスがそう言った瞬間、部下が銃を取り出し、銃撃戦になるが多勢に無勢。

被弾して意識を失ったフランクは、見知らぬ安ホテルのベッドで目覚める。
フランケンシュタインのように全身に巻かれた包帯を取って鏡の前に立った瞬間、彼は驚愕する。
そこにいたのは、まぎれもない女。豊満な胸にくびれた腰、突き出たお尻。
フランクは性転換手術を施されていたのだ。ベッドの脇に置かれたテープレコーダーを再生すると、女の声が。

声の主はDr.レイチェル・キーと言う医者で、手術はフランクへの復讐を意味しているという。
精神科医Dr.ラルフ・グリーン(トニー・シャル―ブ)がレイチェルを問診しながらフランクへの復讐のための施術と処置を聞きだし、観客は経緯と動機を知る。

大切なタマタマとオチンチンを奪われ、女となった殺し屋フランクは、銃に加えて女の官能美と妖艶な色気を武器に、復讐に立ち上がる。

相手はボス、オネスト・ジョンと性転換手術をした女医Dr.キーだ。
ドンデンも無ければ、クラシックなリベンジストーリーは予想通り展開する。ただ一旦捕らえられもう一度手術をするとオネスト・ジョンは宣言する。Dr.キーを連れて来て腕を切り落とし「魚のヒレ」に付け替えると言うのだ。「二度と銃を持てない身体にする」と。

フランクは反撃に出る。ボスのオネスト・ジョンとその手下どもはいつもの殺しのテクニックと作戦で簡単だ。

女医の方も捕まえ監禁して復讐を果たす。
さて、そのリベンジはどんな形で成されるのか。映画のエンディングでアッと言わせる見事な復讐が果たされる。

突拍子もない設定を、サンフランシスコの名探偵サム・スペードのようにハードボイルドなトーンでしかもミシェルのセクシーなアクションでバッタバッタと殺しまくる映画は快感!

主人公フランクを演じるのは男女の女優ミシェル・ロドリゲス。「ワイルド・スピード」シリーズのレギュラーで半黒のセクシードライバーは顔馴染みだ。

性転換後も、男時代のフランクが残っていて可愛い看護婦ジョニー(ケイトリン・ジェラード)にコナをかけてレズ的な絵も出て来て可笑しい。
も自ら演じる気合の入りようだ。

フランクを女に変えた天才マッド・ドクターはシガニー・ウィーバー。
「エイリアン」のイメージ、強い戦闘的なヒロインの印象を持つが「ゴーストバスター」シリーズではコメディアンヌだ。
180センチの大柄なシガニ―はもうすぐ古稀の68歳。未だ若い。最後のシーンはバスタブに漬かっていて乳房が半分見える。
立ち上がらなくて良かったがここでフランクのリベンジの効果を見る。

ちょっといつもと趣向は変わっているが、ウォルター・ヒルのB級クライムアクション映画は期待を裏切らない。

1月6日より新宿シネマカリテ他にて公開される

「ブランク13」(日本映画):父が家を出て13年。一家が再会するのが葬儀の場。大ブレイクして売れっ子の高橋一生が主演し、ベテラン俳優転じて斎藤工が長編映画監督でデビュー

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日本の興行成績はアメリカが凋落傾向にあるが、ソコソコ堅調だ

先週末の首位は
「HiGH&LOW THE MOVIE」は16年から始まり今年8月に第二弾「END OF SKY』に引き続き「HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION」が、この週末土日2日間で動員23万7千人、興収3億円を上げ初登場1位を獲得。先行上映分を含めると、既に動員28万3000人、興収4億3千万円に到達。カジノ用地を巡ってヤクザの団体に挑む4つの若者グループとの死闘。物語は想定でき毎回ワンパターンだが日本のアクションシーンは凄絶を加えハリウッドにひけをとらない見応えがある.

2週目となり上映劇場が52スクリーン増え、うち31スクリーンで4Dでの上映がスタートした「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」は、動員17万人、興収2億2500万円と、動員・興収ともに先週を2割上回り2位をキープ。10億円の大台も見えてきた。

さて今日紹介する映画はかなり期待していた。
大ブレイクして売れっ子の高橋一生が主演し、どんな役でもこなせるベテラン俳優転じて監督になり数々の短編の評判が良い斎藤工が長編映画監督でデビューすると言うから当然だ。題名も「blank13」とカッコ良い。

出だしは好調だった。
廃屋のようなボロアパートに毎日押し掛けて来て扉や窓を叩き大声で罵声を浴びせる借金取りの群れ。息を殺して居留守を使う松田家の家族、父母と幼い少年2人の4人家族。
ギャンブル好きの父、松田雅人(リリー・フランキー)は働きもせず昼間から麻雀荘に入り浸り。競馬競輪競艇と勝てる訳がなく一家は貧乏のどん底に喘いでいる。

雨の降る日曜日、ちょっとタバコを買ってくるわ、と父雅人は家を出たまま帰って来ない。母、洋子(神野三鈴)は新聞配達や夜のホステス、寝る間を惜しんで内職と働き詰めで子どもたち、ヨシユキとコウジを育て父の借金を返している。

13年前に家を出た父は末期の肝臓がんだと言う知らせが届くが誰も見舞いに行こうとは言いださない。
兄ヨシユキ(斎藤工)は「父のようになりたくない」と苦学して大学を卒業し今は大手広告代理店のパリパリの社員。

現金輸送車の警備員をしている次男のコウジ(高橋一生)はキャッチボールをしバッティングを教えてくれた父に悪い思い出が無い。

その半年後、雅人は亡くなり一家は葬儀場で兄コウジを喪主として雅人を見送っている。
この辺りまでは何処かで見た話でドーってことは無い。

斉藤工の脚本と演出の技量が問われるのはここからだ。

ハッキリ言って詰らない。
葬式に出席した人々を描くのだが、内容がスカスカ。

葬儀場に二つの葬式が行われていて両方とも松田家。雅人の葬儀には会葬者が少ないことを際立たせようとするが、その設定がチープで受付が一々その旨を伝えるのもいら立つ。

そして会葬者たちの故人の思い出。麻雀仲間の岡宗(佐藤二朗)が「人が好過ぎて金を貸してた」、オカマが出て来て「抱かれてみたかったわ」、病室で同居の病人がジュースを買って来てくれて優しかった、カラオケで「つなぐ」が愛唱歌だったなどなど他愛のない話を延々と続ける脳の無さ。

良い役者が揃っているのに本がダメなんだ。

俳優の斎藤工の長編監督デビュー作はどうも不発で終わったようだ。それでも素材として実を結びそうなネタは幾つもある。
これを反省の糧としてもう一度斉藤工映画を送り出して欲しい

2月3日よりシネマート新宿にて公開される。

「はじめてのおもてなし」(Welcome to Germany)(ドイツ映画):ミュンヘンの平穏な住宅街に引き取られて来たナイジェリアからの難民、ディアロ少年の巻き起こす大騒動

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原題は「ドイツへようこそ」それが邦題の「おもてなし」になるようだ。

第二次世界大戦でナチス・ドイツが600万人とも言われるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の贖罪として難民の受け入れと人権の尊重を憲法で定めている。
ユダヤ人はイスラエルが国家として認められるまで世界に散った難民でディアスポラだった。

1960年代にトルコ難民、1990年代にベルリンの壁が崩壊後の東欧諸国、旧ユーゴスラビア難民などを受け入れてきた。今や8000万人の全人口の約20%、1600万人が移民だ。

更にこのところ急増しているシリア難民80万人を受け入れるとメルケル首相が「人道的責任を果たす」と発言しているのは、そんな歴史的経緯もあるからだ。

ドイツは第二次世界大戦の敗戦国として、道義的責任を今でも果たしており、成熟した先進国の中でも工業大国として、働き手を求めていること。EU諸国では、最も経済的な優等生でもあるからだ。

同じ敗戦国ながらGDP3位の国の日本はドイツを見習わなければならない面は多い。
しかし難民受け入れはドイツ国内ではそんな美談で済まされず大きな問題を抱え、市民の間で反発が出ているのだとこの映画で始めて知る。

ドイツ・ミュンヘンの閑静な住宅街に暮らすハートマン家。教師を引退して時間を持て余す母親がアフリカからの難民を受け入れたいと言い出す。

一見、平穏そうに見えるハートマン家。母親がアルコール依存症でお互いを理解できずにバラバラになっていた家族の面々。

ある日ディナーの席で教師を引退して生き甲斐を見失った母、アンゲリカ(センター・バーガー)は、難民の受け入れを宣言。

夫のDr.リヒャルト・ハーマン(ハイナー・ラウター)の反対を押し切って、難民を自宅に住まわせるようとする。
アルコール依存症になったアンゲリカを心配した夫が難民たちの面接に臨む。

ディアロが神妙な面持ちで「僕が仕事で留守中に家族は殺された」と告白する姿にうたれてナイジェリアから来た難民の少年、ディアロ・マカブリ(エリック・カボンゴ)を選ぶ。

15歳のディアロは決して卑屈にはならない。自我や誇りを持ち娘のソフィー(バリンナ・ロジンスキー)などハートマン家や周囲の人々と触れ合い楽しく過ごす。

しかし住宅街の人々はそうはいかない。ディアロの退去を呼びかけるプラカードを持ったデモが起きる。

ドイツはネオナチ党や右翼の連中は難民に反対している。
トランプ大統領と一緒で職を安い移民難民に奪われているのが理由だが、犯罪者が増加するとも主張する。

しかしここで大騒動が起きてしまう。永住権をとるためにディアロは「亡命申請」をするが却下されてしまうのだ。

果たして、崩壊寸前の家族と天涯孤独の青年は、平和な明日を手に入れることが出来るのだろうか?
基本的にはシリアスなドラマでは無く、外国人との文化や習慣の違いによる数々の事件がオカシイ喜劇なのだが、日本人には余りにかけ離れていて違和感があり笑えない。

アメリカでは公開もされていないから日本の方がマシだ。
ドイツ人だけが笑えるドイツ国内向けの映画だ。

しかしどんなハプニングでも難民問題が底にあれば陽気に冗談まじりに受け取るのは難しいのではないだろうか?

「ドイツアカデミー賞」観客賞を受賞し、2016年度ドイツ映画興行収入NO.1を記録。
監督は俳優としても活動する「デッド・フレンド・リクエスト」などのベルリン生まれ45歳のサイモン・バーホーベン。

主役のアンゲリカは「戦争のはらわた」の76歳のセンタ・バーガー、しかしアルコール依存症で夫を悩まし、難民受け入れの口火を切るものの物語の中心人物ではない。

実質的主役はディアロ・マカブリを演じるエリック・カボンゴ。アフリカのキンシャサ生まれの33歳で15歳の少年を演じるから驚く。

夫のDr.リヒャルト・ハーマンに扮するハイナー・ラウターは悦楽晩餐会〜または誰と寝るかという重要な問題〜』(97)でブレイクした人気俳優。
他に「君がくれたグッドライフ」のフロリアン・ダーヴィト・フィッツらが出演。

1月より銀座シネスウィッチで公開される。

「星めぐりの町」(日本映画):50年の役者人生で初主演の小林捻侍の「豆腐屋の親父」の芝居を堪能する

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ハッキリ言って黒土三男監督は僕の中では05年の「蝉しぐれ」で終わっている。
電通が制作費を負担し俣木楯夫社長がタイトル前にエクゼクティブプロデューサーとして一枚看板で登場する。37年東宝助監督受験に落ちた俣木がその夢を実現させた作品だが巨額の制作費を投入して質的にも量的にも、何のリターンも得られなかった。

山本周五郎の名作を黒土監督に脚本を任せたのが失敗で俳優は市川染五郎、木村佳乃と一流なのが揃っているのに人物が描き切れていない、ドラマが盛り上がらない、薄っぺらなリベンジもので終わってしまった。

演出は助監督として下積みが長いので「絵」はしっかりしたものを撮る。しかし本を書かせたら途端に才能が無いのがバレる。

この映画でも、監督は良いが原案、脚本を任せたのが間違いだろう。
主人公の豆腐屋、島田勇作だけは思い通りに力を込めているのでヴィヴィッドに描かれている。
「頭文字D」のおやっさんのイメージにも重なる。

和紙を濾して水を作り、そこに浸して素晴らしい豆腐作る。包丁を入れ小さく切った真っ白な一切れを冷たい水からすくい上げ一口食べて満足そうな表情が良い。
そして期間限定の「絹漉し豆腐」の湯豆腐、京揚げに焼き目をつけて大根おろしをかけた「雪虎」など画面から豆腐と豆腐料理が迫って来る。

僕は小林捻侍が好きだから、寅さんのように自分のフィロソフィーを宣告し理屈を捏ね自己主張を曲げず義理人情に溺れて行く姿は興味深く見た。50年の俳優人生で初めての主役と言うのも嬉しい。

早くに妻を亡くし、娘の志保(壇蜜)と2人で暮らす島田勇作。
豆腐屋の勇作は毎朝、手間と時間をかけて作った豆腐を近所の主婦や料理屋に届ける生活を続けている日常は画面で順調だ。

しかし勇作を取り巻く人物が描かれていないし、ドラマが全く無いのだ。

娘、志保の壇蜜のキャラは何?自動車修理工場の敏腕のメカニックって今頃存在するの?
色っぽい壇蜜だけに、男を咥え込んでのロマンスを盛り込むが、それだけの尻切れトンボ。

岩手で震災に会い一家全滅の中生き残って勇作に引き取られる木内政美役の少年、新井陽太をオーディションで選ばれたシンデレラボーイと絶賛しているが、ブスで無表情(震災の後遺症かも知れないが)、芝居はまるで出来ない。オーディションなら他にも一杯候補の少年がいるだろうが。

平田満扮する自動車製造会社の社長がお忍びで豆腐を買いに来て売り切れを無理やり手に入れ、社員幹部を集めて「モノづくりの原点を見た」と演説をぶつのもオーバーだし有り得ない。

終盤に突如、勇作と政美少年が宮沢賢治の「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」を斉唱で吟じるが取って付けた違和感は免れない。

千葉の浦安で震災に会い豐田市に移住しトヨタ自動車とその関連会社や豊田市を巻き込んでの地元映画。

黒土監督も12年振りの作品だ。

豊田の山里の豊かな自然と文化の中で「ものづくりの魂」と「こころの復興」をテーマにしているのは分かるが、地元は突然降って湧いたような「厄災」に戸惑っている。

主役の小林捻侍や壇蜜の他に高島礼子、平田満、六平直政、神戸浩ら錚々たる役者が脇を固める。
50年の役者人生で初主演の小林捻侍に拍手を送ってそれで満足だ。

1月27日より丸の内TOEI他で公開される。

「カンフー・ヨガ」(Kung Fu Yoga)(印中合作映画):ジャッキー・チェンのボリウッド映画。カンフーとヨガの死闘も集団ダンスもたっぷり楽しめる正月作品。

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中国では今年1月28日の旧正月の書入れ時、インドでは共和国記念日の1週遅れの2月3日から公開が始まり、両国とも大ヒットとなっている。全世界では既に280億円を突破していると言う。

中国14億5千万人、インド12億5千万人、人口世界1位と2位の国で娯楽が少ないせいか両国ともに映画が大好きな国民性がある。ところが互いに相手国の映画を輸入していない。中国は早くからアメリカに興味を持ちAMC(映画館チェーン)を買収したりリージェンシーと言うインディ最大のプロダクションを手中に収め今ではメジャーのパラマウントを狙っている。

そこへ行くとインドは内面志向のドメスティック。言語が多様化しているので、ボリウッドと言われるように世界一の800本以上の作品を撮っているのに自国内のみで公開している。
おまけにインド映画には厳然たる「あらすじも結末もわかっている」定番の物語のスタイル。

そして長い、3時間、4時間当たり前。
おまけに唐突に集団でダンスを始める。
だから日本では今一つ、「マハラジャ」でインド映画が再認識され
「スラムドッグ&ミリオネア」で地歩を固めたと思ったが、長すぎる上に途中で全員が歌い踊るヘンテコミュージカルのインド映画は基本的に違和感があって受け入れられない

しかしアメリカでは2年前のの「Baahubali: The Beginning」(邦題「バーフバリ 伝説誕生」)とその続編で今年の「バーフバリ 王の凱旋」(Baahubali2: The Conclusion)シリーズや15年の「Bajirao Mastani」(日本未公開)などがヒットして、インド映画への関心は高まっている。
「バーフバリ 伝説誕生」は今年4月28日に上映が始まり、他の強敵「ワイルドスピード8」などに伍し3位につけた。

興行成績よりも驚くのは大作なら3000館から4000館の上映だが、その1/10、僅か420館ながら10.1M(15億円)を上げる効率の良さだ。

翌週には7位に落ちたが416館で3.4M、まだ効率は良い。
同じ週末(5月5日―7日)に世界を見れば、ワールドワイド総計は147.3M(168億円)で「ワイルド~8」を抑えて堂々の2位だからボリウッド映画をバカにしてはいけない。

日本では15年4月に公開されたが不調だったオリジナルの「Baahubali: The Beginning」(邦題「バーフバリ 伝説誕生」)の続編「バーフバリ 王の凱旋」は、新宿ピカデリーのような一流館で正月映画として勝負するから配給元「ツイン」は必死の覚悟だし、インド映画の将来を占う大事な興行だ。

これまでの興行成績でワールドワイド総計では2015年の「バーフバリ 伝説誕生」は114億円、この2017年の「バーフバリ 王の凱旋」は303億円も稼いでいる。
当然制作費もインド映画としては破格だ。オリジナルの第一作では31億円、この完結編で42.5億円、2作品併せると73.5億円も注ぎ込む。ハリウッドの基準からは並み以下だが日本映画の制作費と比べると破格の費用をかけている。

しかしワールドワイドで420億円も稼げば73.5億の巨費を投じてもリクープ出来ている。勿論インドは世界に冠たるIT国、従ってCGを多用したVFXの見事さはハリウッドを超える。


話を本筋に戻すと、ジャッキー・チェン主演の「カンフー・ヨガ」は、インドと中国にとって、初の映画での合弁事業となる。 現在の中国市場では、インド映画はほとんど上映されていないので、この映画がヒットすれば(インド)ボリウッド映画の中国市場への売り込みの足掛かりになると言う思惑が強い。

 監督は91年の「Stone Age Warriors」(日本未公開)でデビューし、「ポリスストーリー3」や「レッド・ブロンクス」などでチェンと組んでいる香港生まれ58歳のスタンリー・トン。

残念なのはインドと中国の文化を取り入れ、ヨガとカンフーの競合を描くべきなのに、スタンリー・トンは自国、中国の観客におもんねて中国寄りになっているのが惜しまれる。

主役は、兵馬俑博物館で考古学者を務めるジャック(ジャッキー・チェン)なのだが悪者はランドル(ソーヌ―・スード)と言うマガダ王国反乱軍リーダーの末裔だ。

話は古い。西暦647年、天竺(インド)は友好関係にあった唐(中国)へ財宝を献上しようと旅に出る。天竺で権力の座を確保したアルジェカは財宝を強奪しようとして雪崩に会い財宝諸とも埋まってしまう。このエピローグで圧巻は巨象の王の軍団に襲い掛かる反乱軍の騎馬兵たちの戦闘だ。VFXも相俟って見事な戦闘シーンは「バーフバリ」を彷彿させる。

1世紀半飛んで現代。
中国・西安市の博物館に勤務する名高い考古学者ジャック(チェン)は、同じく考古学者で国際博物館研究所から来たヨガの達人でもある若いインド美女のアスミタ(ディシャ・バタミ)から彼女の持ち込んだ古い地図に歴史に隠された失われた財宝の埋められた場所が分かると言う。興味を掻き立てられたジャックは助手のシャオヴァン(レイEXO)とヌゥオミン(ムチミ)ジャックの親友の息子ジョーンズ(アーリフ・ラスツール)それにアスミタとその妹で助手のカイラ(アミラ・ダスツール)の一行は探検旅行に出かける。

約1500年前にインドと中国の間で起きた混乱の中で消えてしまった財宝は地図の通り洞窟の中で埋まっていた。
ところがあっさりと13の金貨がぎっしり詰まった箱に秘宝ピンクのダイアモンド「シバの目」を見つけたものの大富豪ランドル一味の窃盗団に襲われ奪われてしまう。しかしゴタゴタの争奪戦の中ダイヤを持ち逃げしたのはジョーンズだから呆気にとられる。
探す財宝は見つけた金貨の数100倍もありそのありかがダイアモンドに隠されていると言う。そして味方の筈のジョーンズは何でダイアを盗んだのか?話は複雑だね。

その2週間後、盗まれた秘宝である212カラットのダイアモンドがドバイのオークションに出品されると言う情報を得る。ジャックたちは友人から借金をして1億6千万ドル(180億円)で競り落としジョーンズは大喜び。ところがそのダイアがまたもや奪われアスミタがランボルギーニでのカーチェイスが凄い。

ストーリーに納得性が無いが、ライオンが出て来たり、ハイエナの群れの中に飛び込み仲間を救ったり、ハチャメチャアクションの連続。

ハイライトはジャックのカンフーとランドルのヨガ対決。両方とも一歩も譲らず目にも止まらぬ早業を駆使するが息も絶え絶えの63歳のチェンが意気軒高の44歳のスードと死闘を延々と繰り広げるが凄い迫力で目が離せない。

中国、インド、ドバイ、アイスランドとドローンの空撮も多用し世界を巡っての観光も楽しめるコミカルなアドベンチャー。

そして大団円のお楽しみはボリウッド映画に必須の集団ダンス。打楽器に合わせジャッキー・チェンに美男悪漢、ソーヌ―・スードも仲良く、チャーミングな女優たち、ディシャ・バタミもアミラ・ダスツールも揃って器用に綺麗に踊りまくる。、

主人公ジャックに扮するジャッキー・チェンは今年だけでも「レイルロード・タイガー」や「スキップ・トレース」など3本を数える。還暦は遥に過ぎているが、まだアクションスターとして現役だ・
悪役、ランドルを演じるのはインドの人気俳優ソーヌ―・スード、日本では馴染みがないが筋骨たくましいハンサムガイだ。

トレジャーハンターのジョーンズは「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」などの香港の人気俳優アーリフ・リー。

インド女優はアスミタ役のディシャ・バタミも、妹のカイラに扮するアミラ・ダスツール、彫が深く目が大きく笑顔が美しい女優ばかり。

他にアイドルグループ「EXO」のレイらが出演している。

ジャッキーお得意のカンフー・アクションに「インディー・ジョーンズ」や「300」を掛け合わせ、
インド映画ボリウッドを巻き込んで1時間47分と超短い娯楽活劇。「カンフー・ヨガ」はバカにして見始めたが笑う笑う、見逃せない正月映画だ。

12月22日よりTOHOシネマズスカラ座他で全国公開される
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