原作は、ユダヤ系米人作家ダイアン・アッカーマンによる2007年のノンフィクション「ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語」(亜紀書房刊)。
第二次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、動物園の園長夫妻ヤンとアントニーナがユダヤ人を動物園の地下の動物用檻に匿い、300名もの命を救った感動の実話だ。
1939年、ポーランド・ワルシャワ。ヤン・ザビンスカ(ヨハン・ヘルデンベルグ)とアントニーナ(ジェシカ・チャステイン)夫妻はヨーロッパ最大の規模を誇るワルシャワ動物園を営んでいて市民の憩いの場となっていた。
冒頭のシーンが可愛い。餌をやるために園内を走り回るアントニーナ。彼女を追いかけるラクダの子。ぴったりと伴走するキュートさでアントニーナの動物への愛情の深さが分かる。動物たちを母性で包み込むアントニーナ。彼女は言う「動物は信用できるが、人間は信用しない」と。
1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。ナチの絨毯爆撃で動物園も被弾し炎上、動物たちが逃げ出し、街頭でポーランド警察に2頭の象が射殺される。
そしてナチの軍隊がワルシャワを占領して動物園の存続も危うくなる中、ヒトラー直属の動物学者で親衛隊将校のルッツ・ヘック(ダニエル・ブリュール)が親切ごかしに言う。
「あなたの動物たちを力を合わせて一緒に救おう」と言う暖かい言葉と「絶滅種の動物を預かり安全なベルリンへ移送しよう」との申し出に不審の念を抱く。果たして後になって分かるがアントニオーニに下心を抱いていた。
動物園を存続させるために夫婦は知恵をしぼり、軍隊に豚肉を供給する「養豚場」を作る。これならナチの許可が降りる。
夫のヤンから「この動物園を隠れ家にする」という驚くべき提案をしてくる。ヤンがユダヤ人強制居住区・ゲットーから買い入れた干し草を運ぶ時にユダヤ人たちをトッラックに次々と忍び込ませて、動物園の檻に運び込もうと言うのだ。
だが映画ではホロコーストとか占領軍のナチの圧制とか逃亡するユダヤ人の危機と言う恐怖シーンは全く描かれていない。
一番感動するのは戦争やナチとは関係ない、象の赤ちゃんが難産で心肺停止状態の中、アントニーナがいきり立った母象に踏み殺される危険を冒して赤ん坊を心肺停止から蘇生させるシーンだ。
ユダヤ人たちも無名の集団で誰ひとり個性的に描かれている人は居ない。
アントニーナは得意のピアノや温かい食事で、彼らの傷ついた心を癒していく。
時にそのピアノは曲によって「安全よ、出て来ても良い」とか「隠れて」「逃げて」などの暗号になった。
ヤンがゲリラに加わり街頭戦で首を討たれて重傷を負う。ドイツ軍に捕らえられたことは事実で、夫の行方を探るためにヘッツのアパートへ押しかける。情報を教える代わりに交換のものをとアントニーナはベッドに押し倒される。
映画はセックスがあったかどうか顛末を伝えず、次のシーンに移動するが、おそらく身体を許したに違いないと僕は疑う。
ナチの恐怖やユダヤ人の悲劇、アントニーナの貞操モラルなどを飛ばして動物園を描くので、気が付くと戦争は終わって1945年の秋になっている。ドイツ敗戦から5カ月が経っているのだ。
そんなことで、この「救出活動」がドイツ兵に見つかったら自分たちだけでなく息子、リスザルド(ヴァル・マロク)の命すら狙われてしまう。危険を冒しながら、アントニーナはいかにして300人のユダヤ人の命を救ったのか?と言う肝心な描写は曖昧のままだ。
映画のテーマとして曖昧に描かれているのは、自らの命の危険を冒してでも、ナチス・ドイツに対して勇敢に立ち向かった夫婦の強い信念なのだがポイントを外れた描写ばかり。
終戦の平和になった動物園の事務所の柱に「ダビデの星」を描くアントニーナとトムの姿はテーマを強調するための「蛇足」の感がある。
主人公・アントニーナを演じるのは、シールズのウサマ・ビン・ラディン暗殺を描く「ゼロ・ダーク・サーティ」に主演してアカデミー賞他多くの賞レースにノミネートされたジェシカ・チャステイン。強さと優しさを兼ね備えた美しい女性を熱演している。
監督はニュージーランド出身の41歳、ニキ・カーロ。長編2作目の「クジラ島の少女」(03)は世界の注目を集め数々の賞を授与されている。ハリウッドに招かれた女流監督は戸惑いながら演出をしている。
12月15日よりTOHOシネマズみゆき座他で全国公開される
第二次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、動物園の園長夫妻ヤンとアントニーナがユダヤ人を動物園の地下の動物用檻に匿い、300名もの命を救った感動の実話だ。
1939年、ポーランド・ワルシャワ。ヤン・ザビンスカ(ヨハン・ヘルデンベルグ)とアントニーナ(ジェシカ・チャステイン)夫妻はヨーロッパ最大の規模を誇るワルシャワ動物園を営んでいて市民の憩いの場となっていた。
冒頭のシーンが可愛い。餌をやるために園内を走り回るアントニーナ。彼女を追いかけるラクダの子。ぴったりと伴走するキュートさでアントニーナの動物への愛情の深さが分かる。動物たちを母性で包み込むアントニーナ。彼女は言う「動物は信用できるが、人間は信用しない」と。
1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。ナチの絨毯爆撃で動物園も被弾し炎上、動物たちが逃げ出し、街頭でポーランド警察に2頭の象が射殺される。
そしてナチの軍隊がワルシャワを占領して動物園の存続も危うくなる中、ヒトラー直属の動物学者で親衛隊将校のルッツ・ヘック(ダニエル・ブリュール)が親切ごかしに言う。
「あなたの動物たちを力を合わせて一緒に救おう」と言う暖かい言葉と「絶滅種の動物を預かり安全なベルリンへ移送しよう」との申し出に不審の念を抱く。果たして後になって分かるがアントニオーニに下心を抱いていた。
動物園を存続させるために夫婦は知恵をしぼり、軍隊に豚肉を供給する「養豚場」を作る。これならナチの許可が降りる。
夫のヤンから「この動物園を隠れ家にする」という驚くべき提案をしてくる。ヤンがユダヤ人強制居住区・ゲットーから買い入れた干し草を運ぶ時にユダヤ人たちをトッラックに次々と忍び込ませて、動物園の檻に運び込もうと言うのだ。
だが映画ではホロコーストとか占領軍のナチの圧制とか逃亡するユダヤ人の危機と言う恐怖シーンは全く描かれていない。
一番感動するのは戦争やナチとは関係ない、象の赤ちゃんが難産で心肺停止状態の中、アントニーナがいきり立った母象に踏み殺される危険を冒して赤ん坊を心肺停止から蘇生させるシーンだ。
ユダヤ人たちも無名の集団で誰ひとり個性的に描かれている人は居ない。
アントニーナは得意のピアノや温かい食事で、彼らの傷ついた心を癒していく。
時にそのピアノは曲によって「安全よ、出て来ても良い」とか「隠れて」「逃げて」などの暗号になった。
ヤンがゲリラに加わり街頭戦で首を討たれて重傷を負う。ドイツ軍に捕らえられたことは事実で、夫の行方を探るためにヘッツのアパートへ押しかける。情報を教える代わりに交換のものをとアントニーナはベッドに押し倒される。
映画はセックスがあったかどうか顛末を伝えず、次のシーンに移動するが、おそらく身体を許したに違いないと僕は疑う。
ナチの恐怖やユダヤ人の悲劇、アントニーナの貞操モラルなどを飛ばして動物園を描くので、気が付くと戦争は終わって1945年の秋になっている。ドイツ敗戦から5カ月が経っているのだ。
そんなことで、この「救出活動」がドイツ兵に見つかったら自分たちだけでなく息子、リスザルド(ヴァル・マロク)の命すら狙われてしまう。危険を冒しながら、アントニーナはいかにして300人のユダヤ人の命を救ったのか?と言う肝心な描写は曖昧のままだ。
映画のテーマとして曖昧に描かれているのは、自らの命の危険を冒してでも、ナチス・ドイツに対して勇敢に立ち向かった夫婦の強い信念なのだがポイントを外れた描写ばかり。
終戦の平和になった動物園の事務所の柱に「ダビデの星」を描くアントニーナとトムの姿はテーマを強調するための「蛇足」の感がある。
主人公・アントニーナを演じるのは、シールズのウサマ・ビン・ラディン暗殺を描く「ゼロ・ダーク・サーティ」に主演してアカデミー賞他多くの賞レースにノミネートされたジェシカ・チャステイン。強さと優しさを兼ね備えた美しい女性を熱演している。
監督はニュージーランド出身の41歳、ニキ・カーロ。長編2作目の「クジラ島の少女」(03)は世界の注目を集め数々の賞を授与されている。ハリウッドに招かれた女流監督は戸惑いながら演出をしている。
12月15日よりTOHOシネマズみゆき座他で全国公開される