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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「斉木楠雄のΨ難」(日本映画):超能力者のPK学園、男子高校生・斉木楠雄(山崎賢人)は自身が超能力者であることがばれないように静かに生活している

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僕は緒能力者に憧れていて、子どもの頃から成れないかと色々試したがダメだった。だからこの映画は大好きだ。

この映画のタイトルも超能力者じゃなければ読めないのか?
「Ψ」とは、超能力を表すギリシア文字だそうで「Ψ」は英語の発音に倣って「サイ」と読まれているとのこと。だから「Ψ難=災難」なんだ。

原作は麻生周一の「少年ジャンプ」の5年に亘る連載からコミックス22巻を発刊、部数は500万を超える人気作だと言う。ギャグ漫画の先端を走る。

それに加えて監督・脚本の福田雄一が凄い。ギャグマンガを映画化するのは難しい。

自ら旗揚げした劇団「ブラボーカンアパニ―」の座長兼座付き作者。芝居は見たことが無いが、(チケットは絶対手に入らないと言う)自分の舞台を映画化し監督デビューを果たした「大洗にも星はふるなり」(09)は大笑い(おおあらい?)した。夏休み中、茨城県・大洗の海の家でともにバイトをしていた4人の男女がクリスマス・イブの大洗に再び集まるが、その洒落た会話やジョークが新鮮でツボを突いていた。

超能力者のPK学園男子高校生・斉木楠雄(山崎賢人)は自身が超能力者であることがばれないように目立つ事を避けて生活している。目立たない出で立ちが赤毛で髪の中に串団子を刺している。超能力をセーブする役割を果たすもので、照橋心美が抜いてしまった時は世界戦争が始まるボタンが押されるような大騒動になる。

夫婦仲が良くて絶えずベタベタしている楠雄の両親(田辺誠一と内田有紀)の息子の超能力に気付かない能天気ぶりにも笑える。

プロローグから面白い。散歩で可愛いプードルがリースを離れて道路に飛び出す。そこへっ小型トラックが。飼い主も近所の人も敷かれて車の下敷きに、と思った瞬間、トラックはひょいと空中に持ち上がり犬は無事。

 斉木楠雄は超能力を情報の伝達するESP(Extra-sensory perception、)でも、物体に力を及ぼすサイコキネシス(念力、PK)の両方が出来る。
だからテレパシー(Telepathy)も予知(Precognition)透視(Clairvoyance) も念力(:Psychokinesis)テレキネシス(Telekinesis)サイコメトリー(Psychometry)瞬間移動(Teleportation)など何でも来い。

トラックを念力で持ち上げるなんて朝めし前だ。
カジノでルーレットであれバカラであれ、ブラックジャックであれ予知能力を使えば連戦連勝、大金持ちに直ぐなれる。

しかしそんなことをして自分の能力が知られれば大騒ぎになり、平穏な高校生活など望めない。だからカジノにも競馬競輪などギャンブルには近寄らない。
見ている観客には勿体ないと思う、

だが、学校で楠雄のテレパシーでも読めない「究極のバカ」な燃堂力(新井浩文)と謎の組織と戦っていると勘違いする「中二病患者」の海藤瞬(吉沢亮)に付きまとわれるようになる。
さらに楠雄の超能力をイリュージョンと勘違いした蝶野雨緑からも師匠として慕われるようになる。

もっとやっかいなのは自分をPK学園アイドルで学園一の美少女と思い込んでいる照橋心美(橋本環奈)楠雄に向かって「身の程知らずの恋をしてもいいのよ」とスリスリして来る。無視して通り過ぎると照れていて口もきけない」と勘違いするから手に負えない。学校の行きかえりに付き纏われ勘違いがエスカレートするから愉快だ。橋本自身それ程美少女で無いから学園一の美少女役もギャグだろうか。

山崎賢人をはじめとして随分ひねた高校生ばかりの役者たちは皆上手い。燃堂力の新井浩文なんかは顎にタマタマをぶら下げバカを演じている。38歳で高校生役だぜ。
海藤瞬役の吉沢亮だって33歳で高校生。

そうこうする内に毎年恒例のPK学園文化祭が近づく。何か事件でもあれば来年から文化祭が中止になると言う。一癖も二癖もあるクラスメイトが大人しくしている訳がない。
実際次々と災難が楠雄に降りかかり超能力を使わねば収まらない。

体育館に閉じこもり成層圏を抜け、宇宙まで飛び出す超能力に今更ながら驚かされる。たかが文化祭なのに地球滅亡の危機が訪れると言うバカバカしさに笑いながら2時間近い長尺を飽きもせず見終わる。


10月21日より新宿ピカデリー他で公開される

「キングスマン:ゴールデン・サークル」(Kingsman: The Golden Circle)」(英映画):キングスマンのが、謎の「ゴールデン・サークル」の攻撃で壊滅。残された2人はアメリカに飛ぶ

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 今朝はこれから成田へ向かう。主宰するNPO法人「子どもに笑顔」がミャンマー・ヤンゴンで口唇口蓋裂のこどもたちへ無料手術(ミッション)を行うボランティアの医師団&看護師に随行するのだ。
ヤンゴンへはこれで3回目になる。雨季(4月―9月)はようやく終わり兎唇の子供を連れた母親たちが押し寄せる。

人口5千万人を超えるミャンーマに形成外科医は45人しか居ない。金持ちはマレーシアかシンガポールへ飛び手術を受けるが大多数が貧困に喘ぐ人たちは我々のミッションを心待ちにしている。

北米のこの週末(6日―8日)で3週目になるFOXとMarv Filmの「キングスマン:ゴールデン・サークル」は3488館で8.1M。国内累積は80.0M 、海外では70か国で25.3M)を加え,ワールドワイド総計は253.6M(285.6億円)になる。

前作「Kingsman: The Secret Service」(15)が総計414Mだから追いつくのは時間の問題だろう。
表向きはシックなロンドン・サヴィル・ロウに構える紳士服店だが秘密の地下にはスパイ組織「キングスマン」の本部がある。007のようなMI6に負けない強固なエージェントを揃えている

前回はヴァレンタイン(サミュエル・L・ジョンソン)がこのまま人口が増えれば地球は滅亡する、そのためには人類抹殺計画を実施する寸前でキングスマンの活躍で計画を防いだ。ヴァレンタインの主張は正論だが大量に人が殺されるのを見るのは忍びない。

それから1年後エグジー・アンウィン(タロン・エガートン)はスーツの着こなしも板についてキングスマンのエージェントに成長していた。

冒頭からいきなりカーチェイスに銃乱射のアクション。
元キングスマン候補生だったが資格が取れなかった裏切り者のチャ―リー(エドワード・ホルクロフト)が強力なロボットアームを装備してエグジーを襲うがどうにか撃退したが車の残ったアームはキングスマンの機密を盗み出していた

そのキングスマンの拠点が、謎の組織「ゴールデン・サークル」の攻撃を受けて壊滅した。
残されたのは、一流のエージェントに成長した主人公エグジーと、教官兼メカ担当のマーリン(マーク・ストロング)のみ。

攻撃を仕掛けたのは世界の麻薬市場を制覇した組織のボスで残忍でサイコパスのポピー・アダムス(ジュリアン・ムーア)。

驚くね、オスカー女優のムーアが美人で冷酷な悪役だぜ。
その王国「ポピーランド」はカンボジアのジャングルの中にあり,50年代のダイナー風だが内部は広大で
更にビックリ、小太りチビのエルトン・ジョンがポピーの言うがままにピアノを弾きショウの舞台を勤めている。

ポピーは裏社会からアメリカの表舞台へ躍り出ることを狙い、ドラッグを世界中にばら撒き、その解毒剤をエサにアメリカ大統領(ブルース・グリーンウッド)に迫り、ドラッグの合法化と組織の起業化を狙っている。

本部が壊滅した2人は同盟関係にあるアメリカのスパイ機関ステイツマンに協力を求めアメリカ・ケンタッキー州の蒸留所の本部を訪ね協力を求める。

ところがショットガンを構えた若者、テキーラ(チャニング・テイタム)が現れ、カウボーイスタイルの投げ縄を武器にエグジーと、マーリンは捕虜になる。
そこで出会ったのが眼帯をしたハリー・ハート(コリン・ファース)だった。キングスマンのチーフで死んだと思っていたが片目を失っただけ。

テキーラを初めステイツマンの連中と英国文化に強い影響を受けたキングスマンとは正反対の、コテコテにアメリカンなチームでソリが合わない。だがジンジャー(ハル・ベリー)のように両組織に属している女性リサーチャーもいる。

しかしステイツマンのボス、シャンパン(ジェフ・ブリッジス)から協力すると言う言質を取り付け、ハリーやマーリン、エグジーはゴールデン・サークルの行方を探りカンボジアの密林にあるポピーランドへやって来る。

コリン・ファースは眼帯を掛けて渋くカッコ良い。
エグジー役のタロン・エガートンだけは僕らになじみが薄いだけに主役のインパクトに欠ける。
マーリンのマーク・ストロングが良い。
ツルツルのスキンヘッドの大男。「ポピーランド」のすぐ傍で地雷を踏んでしまい動くと爆発するのを承知で敵護衛を引き寄せ一緒に爆死する。
大きな声でジョン・デンバーの「カントリー・ロード」をフルコーラス歌い終わらせてからだ。

マシュー・ボーン監督も凝ったスタイリッシュな演出だ。
一流の役者たちを揃え1人1人の個性を活かした演出は見事だ。前作に続き、今回も冴えわたりマシュー・ボーンの代表作になっている。これまでは「キック・アス」シリーズのボーン監督だったが。

気が付くと良いのは英国、悪いのは米国。
前回のヴァレンタインや今回のポピー、それに協力する大統領。
それにキングスマンに歯向かうテキーラ。
最後にウサを晴らすようにテキーラをシュレッダーにかけて裁断してしまう。

先に紹介した「ブレードランナー2049」が2時間43分で長すぎたが、この作品の2時間21分は少しも長く感じない。それ程中身が充実していた証拠だ。

1月5日よりTOHOシネマズ日劇他で全国公開される。

「ゲット・アウト」(Get Out)(アメリカ映画):黒人カメラマン、クリスは白人のガールフレンド、ローズに誘われ泊まり込みでNY郊外の実家でのパーティに参加することになる

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 昨夜ヤンゴンに着いた。7時間ほどの旅だし,成田からの直行便だから草臥れない。9時過ぎだと思ったら6時半、そう時差が半端で2時間半日本より遅れている。
日本医師団は6名、今回は欧米からは誰も来ず東南アジアからだけで30名の集団。明日が問診でふるい分けが行われ5日間で120名ほどの手術が行われる。
8月に来た時は雨季の真っ最中で豪雨ではないが朝から小雨が晴れ間も無く降り続いていた。
ミッションのミャンマーでの橋頭保たるヤンゴンジェネラル・ホスピタル(日本の基金で建てたのでジャパン・ホスピタルと呼ばれる)が古くなったので別棟か全面改装をJICA基金でできないかその可能性を確かめに来ている。
何しろ安倍首相は2年前、アウンサンスーチーさん来日の際、8000億円の資金援助を公約している。その窓口がミャンマーJICAなのだ。0
 
ノア・ホーリー著の「晩夏の墜落」(Before the Fall)(早川書房:2017年7月刊)。カズオ・イシグロで当てた早川書房の翻訳ものがこのところ面白い。
NY生まれのNY育ちの50歳、ノア・ホーリーはミステリー作家と映像プロデューサーの二足の草鞋

一念発起、ケープコッドの沖合の島のぼろ屋を借りてアトリエにし、高校時代は水泳の選手だった往時を思い出し毎日泳いで身体をシェイプアップし、キャンバスに向かう毎日を送っていた。
を履く。
この小説でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を授与されている。

主人公は売れない画家、スコット・バーローズ。47歳で独身。若い頃は将来を期待されていたがいくら描いても売れない内に馬齢を重ね酒と女に溺れて気が付くと単なる飲んだくれの中年男になっていた
8月のある日、久しぶりに彼の絵がNYの画商の目にとまり、個展の打ち合わせをしたいと言う。

フェリーでケープコッドからNYへ向かおうと考えてマーケットで買い物をしている時に知り合いのマギー・ベイトマン夫人から今晩プライベイトジェットでマーサーズ・ヴィンヤード島からニュージャージーのテターボロ空港まで飛ぶから同乗しないかと勧められる。
同乗者は11人、24時間ニュース放送「ALCニュース」代表のデイヴィッド・ベイトマン、
妻でスコットを誘ったマギー、夫妻の9歳の長女、レイチェル、4歳の長男、JJ。,
ベイトマン家護衛、ギル・バルク、ウォール街の投資銀行の経営者、ベン・キプリングとその妻、サラ。そして機長のジェイムス・メロディに副操縦士のチャーリー・ブッシュ、CAのエマ・ライトナー。

 しかし島を飛び立って16分後彼らを乗せたプライベイトジェット、ガルウィング613便は北大西洋に墜落してしまう。
 夜の海に投げ出されたスコットは子どもの声を波間に聞く。ベイトマン夫妻の幼いJJだ。スコットは何十マイルを幼児を抱えて8時間も泳ぎ切る。

 忽ちヒーローとなったスコットだが病院でJJと受診と看護を受けている最中にマスコミに囲まれるだけならともかく、スコットの過去をほじくり出し始める輩がいる。

数百億円の遺産相続人となったJJとその叔母エレノア。
宿無しスコットに部屋を貸す富豪の女流画商レイラとの関係を異常に思うクビを突っ込んで来る、FBI捜査官やクビ寸前だったALCニュースキャスター、ビル・カニンガムからあらぬ疑惑を持ち出される。

墜落はテロ行為か単なる事故か搭乗者一人一人のバックグラウンドも夫々興味あるエピソードを構成しているが、フライトレコーダーとヴォイスレコーダーが海底から回収されダメッジを修復して思わぬ真実が暴露される。

原題はBefore the Fall,「墜落前に」だが、Fallは秋の意味があるので「晩夏」としたようだが、詰まらぬ翻案だ。

だが今年読んだ中で最高のミステリーだった。

先日紹介した「ドクター・エクソシスト」同様にホラー・ブランドのブラムハウス・プロダクションと言うのも観客に影響を与えている。
「パラノーマル・アクティビティ」「インシディアス」「ヴィジット」「スティル」などホラー作品を立て続けに成功させているジェイソン・ブラムがプロデューサーで総指揮を務める。

アメリカでは今年初めの2月28日より公開され低予算でホラー映画にしては予想外の首位の座につく。
制作費は超低予算5M(5.6億円)のB級恐怖映画で、2777館で上映され30.5M(34.5億円)を稼ぎ、いきなりモトを取ってしまった。

NYタイムスやWSJなどの批評家からも好評を得、ロットン・トマトでも驚きの99%フレッシュ度と観客のウケも最高に近い。
「脚本が良く書けているからだ」とコムスコアのアナリスト、ポール・デルガラネディアン。
「素晴らしい本から出来上がった秀作は金がかからないものだ」

NYに住むカメラマンの黒人青年、クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)は白人の彼女ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)のNY郊外の邸宅を訪問する。ローズの亡き祖父の例年の偲ぶ会に出席するためだ。

ローズの両親に挨拶する。 父、ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)や母、ミッシー(キャサリン・キーナー)は娘のボーイフレンドが黒人だと知らない。

シドニー・ポワティエの「Who's Coming to Dinner」(招かねざる客)(68)に状況は似ているがこれはホラー映画。

ローズの両親は下にも置かぬもてなしで気持ちの悪いほどクリスを持ち上げるが弟のジェレミー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)だけはクリスに突っかかる。

邸宅には黒人たちが使用人として働いている。執事のウォルター(マーカス・ヘンダーソン)や家政婦のジョージナ(ベティ・ガブリエル)、二人とも慇懃無礼、ゾンビのように言われたことをやるだけ。同じ黒人のクリスに対しても感情を表わさない。

彼らは拉致され働かされているのではないかと。ローズの家族に疑惑をいだくうちにクリスは ローズの母、精神科医のミッシーによって彼の悪癖・喫煙をやめさせるような催眠術にかけられ、身動きが取れなくなる。夢の中で幼い頃に母親を交通事故で亡くしたトラウマが現れる

翌日亡き祖父を称える会に裕福そうな白人ばかりの客がリモやSUVで集まって来る。(一人だけ日本人タナカ(オオヤマ・ヤスヒコ)がいたが)盲目の美術商だとか、神話に出てきそうなやせっぽちの少女とか一

同はキューブリック風の娯楽室に集まるなど、人も場所も不替わりなとり合わせだ。
唯一かなり年配の白人妻と連れ立って若い黒人のローガン(レイキッシュ・スタンフィールド)が居るのを見つけたクリスは嬉しくなり、フラッシュを焚いて彼の写真を撮る。その瞬間ローガンは鼻血を出し、涙を浮かべて「出て行け!」と襲い掛かる。

出て来る黒人は何か異様でオドオドしている。恐らくゲストの黒人、ローガンだけが必死で何かをクリスに伝えようとしたのだろう。

設定はNY北部の郊外となっているがロケはアラバマ州モービル。僕も一度だけ行ったことがあるが南北戦争以前のように黒人は従順で僕に対しても一々「イエス、サー」を付ける。ポロ競技を見物に2泊したがアナクロ的な白人至上主義の街で驚く。

スポイラーになるので細かなことは書けないが最後に明らかになるアミテージ一家の陰謀は人種差別的で怖ろしい。

終盤の可愛い女の子だったローズがロングヘアを巻き上げ顔の輪郭を露わにし本性を現して、吊り上がった目でクリスに迫る。美女だけに一段とその冷徹な恐ろしさは暗い森をバックに浮き上がる。
人気お笑いコンビ「キー&ピール」のジョーダン・ピールコメディアンのジョーダン・ピールの長編劇場用作品の監督デビュー作。こんなしっかりした演出をしたのではコメディアンなどやって居る場合でない。ピールは次回作のオファーも来ていると言う。

ホラー映画に人種問題や差別社会を絡めて恐怖映画の新しいフィールドを広めた功績は大きい。
主演のクリスを演じたイギリス俳優、ダニエル・カルーヤもこの一作で有名になりハリウッドでの将来は明るい。

10月27日よりTOHOシネマズ・シャンテ他で全国公開される

「従妹レイチェル」(My Cousin Rachel)(イギリス映画):早くから両親を亡くしたフィリップは従兄を兄と慕っていた。従兄を財産目当てに結婚して殺害したと疑われるイタリア女レイチェル。

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昨日からミッション(集団無料手術)がスタート。オープニングセレモニーでシンガポール駐ミャンマー大使や厚生大臣に交じって僕が指名されたのには驚いた。主宰団体「スマイル・アジア」のカウンシルの中で僕が一番の長老だからと言う理由だ。

父親が80歳で死に、僕も後10か月で父の死んだ歳になる。余命は幾何もないが(My says are counrinf)だが切った張ったの広告業を引退してこんな世のため人のためになル慈善事業に携われて幸せだと挨拶した。詰まらないスピーチで
拍手は皆無。事前に教えてくれたらもっとうまく喋れたのに突然の指名に大慌ての醜態だった。

さてミッション開始。100人を超える申し込みがあるが,初日のScccreening(問診)では水頭病とか火傷など口唇口蓋裂に意外の症状を併発している子供たちは除外される。肩を落として帰路につく母子の姿は辛い。お金持ちならシンガポールやタイにトンんで治療を受けるのだが我々の無料手術を心待ちにしていた人たちだ。
今回の医師団は30名で日本人ボランティアは6名を数える。珍しく欧米からの医師はいない。


今日紹介の映画の原作はイギリスの女流作家ダフネ・デュ・モーリアによる1951年に発表された小説。
1952年に「謎の佳人レイチェル」(古めかしいタイトルだ)としてオリビエ・デハビランとリチャード・バートンの2大スターが主演で、名匠ヘンリー・コスタが監督し映画化されているので、今回はリメイク。だが65年も経っているから誰も見ていない、オリジナルと考えていい。

ダフネ・デュ・モーリアはアルフレッド・ヒッチコックが大好きな小説家で「鳥」や「レベッカ」を映画にしている。ロマンティックな恋愛小説に巧みに薄黒いミステリーが影を潜めているからだ。

この映画の主人公、ファム・ファタールの未亡人レイチェルを、「ファウンテン 永遠につづく愛」「ラブ・ダイアリーズ」などのレイチェル・ワイズが演じる。レイチェル役をレイチェルにキャストする遊び心もあるのかな。
ハンガリー人の父とオーストリア人にの母を持つ47歳だが若く見える。「ナイロビの蜂」(05)でアカデミー助演女優賞を受賞。最新作「否定と肯定」(Denial)で「ホロコーストは無かったと主張する」ネオ・ナチ系の英国学者と法廷で争うユダヤ系米国歴史学者は熱演だった。

時代は19世紀中頃のイングランド、コーンウォール。両親を早く亡くし歳の離れた従兄アンブローズに育てられた25歳の青年フィリップ(サム・グラフィン)。
一族は大地主で富豪,豪勢な生活をしている。

アンブローズはイタリアに遊びに行きそこでレイチェル(レイチェル・ワイズ)と言う美女に出会い一目ぼれ忽ち結婚をしてしまう。

弟のように思うフィリップのもとへは毎週手紙が届く。幸せの絶頂もつかの間、体調を崩したという知らせも間もなく亡くなったという手紙が親戚から舞い込む。

フィリップが親・兄弟と慕っていた女嫌いの従兄アアンブローズは遠い親戚にあたるイタリア人女性レイチェルと結婚した後、突如の病死。なにか胡乱の匂いがする。

イタリアでは身寄りのないレイチェルがイギリスのフィリップの元にやってくるが、彼は従兄の死の原因はレイチェルにあると疑い、財産目当てにコーンウォールへやって来たのだろうと敵意むき出しで彼女を迎える。

こーウォールは海辺に面した街。断崖絶壁から臨む海岸線は美しいし崖に沿った緑豊かな大平原を白い馬で駆けるレイチェルはまるで妖精だ。

男の中で育ったフィリップは女性への免疫が出来ていない。
たちまち憎き筈の悪女、レイチェルの魅力に取りつかれてしまい、彼女に夢中になってしまう。レイチェルは財産目当てにフィリップを陥落させるのは簡単なことだ。
年増女がウブな若者を手玉に取るシーンは面白い。
レイチェルは真剣に若い坊ちゃんに惚れたように見える。

しかしアンブローズの手紙の他に書付けだとかメモが弁護士や友人に託した本や書類、引き出しの中から出てくる。
少しずつフィリップの中に疑惑が芽生え、一つ一つ検証していくうちに化けの皮が剥がれて行スリラー描写が上手い。

どうやら猛毒を含んだ花の種を煎じて紅茶に混ぜているのではないかとの推論に至るまでのフィリップの悩み。自分は財産など要らない、ただレイチェルと一緒になりさえすれば。

監督は「恋とニュースのつくり方」「ノッティングヒルの恋人」などのロジャー・ミッシェル。ヒッチコックには及ばないが見ごたえのあるロマンティックスりラーに仕上げている。

レイチェルの相手役、若いフィリップを演じるサム・グラフィはイギリスの売り出し中の若手俳優「Hunger Game」シリーズで名を挙げ、自殺志望の青年「Me Befpre You」でたっぷり泣かせてくれた。

日本での公開は未定。

「ビッグ・シック」(The Big Sick)(アメリカ映画):パキスタン系アメリカ人でモスレムのコメディァンと白人アメリカ人で名門大学院生の「文化・宗教・階級」を超え難関突破のロマンス

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今朝(14日)6時半にヤンゴンから成田へ着いた。ボーイング730の大型機なのにビジネスもエコノミーも満席。ヤンゴン市内やホテルで日本人の観光客の多く会った。ヤンゴンは今や人気スポットなのだ。


アメリカで7月14日より全国公開となったこのマイナーな作品ながら話題を呼び、3週目は5位に入って注目を集めている。
アマゾンとライオンズゲイト制作の「The Big Sick」は拡大興行で数字を伸ばし。限定公開でたった72館からスタートして、2週目に326館そしてこの週末に2597館に拡大して7.6Mを稼いでいる。

ロマンティックコメディ得意のマイケル・・ショウウォルター監督はこれまでの「きみといた2日間」「ラブコメ処方箋 甘い恋のつくり方」や「ドリスの恋愛妄想適齢期」などを凌駕する映画を送り出した。

この映画初上映は2017年1月のサンダンス映画祭。
アマゾン・スタジオズやフォックス・サーチライト・ピクチャーズなど複数の配給会社が権利を争い、アマゾン・スタジオが配給権を獲得した。

アメリカで活躍するパキスタン出身のコメディアン・クメイル・ナンジアニと、アメリカ出身の脚本家&プロデューサーであるエミリー・V・ゴードンの交際期間中の実和をもとに描かれている。

コメディアンのクメイル(演じるのも同名のクメイル・ナンジアニ。
パキスタン生まれのコメディ俳優クメイル(クメイル・ナンジアニ)と白人のアメリカ人大学院生のエミリー(ゾーイ・カザン)は、出会った瞬間に惹かれ合い、付き合い始めます。

もっとも最初のコンタクトはそんなにロマンティックではない.
シカゴ・コメディクラブでのスタンダップ・コメディを頑張るクメイルのジョークをエミリーは野次った。

その夜ウーバータクシー(白タク)を運転していた車に偶然エミリーが乗り込み送る途中、話に花が咲き興じた二人が付き合うようになる。

二人は順調に交際を続けるが、真実を打ち明ければ家族との衝突が避けられないことをわかっているクメイルは、家族にエミリーを紹介できず悩んでにいた。

同じムスリム・コミュニティの理想的な女性と結婚してほしいと願うクメイルの両親にとって、息子が白人女性と付き合っているという事実は悪夢でしかない。

ところがある時、エミリーが原因不明の病気(Big Sick)で倒れてしまう。昏睡(コーマ)状態でICUに収容される。病気は「大病」(Big Sick)だけでなくもっと知りたい。

クメイルはエミリーの闘病生活を支えながら、ようやくエミリーの両親(ホリー・ハンター&レイ・ロマーノ)や、自分の家族に紹介をして真剣に向き合うようになる。

主人公クメイル役を演じるのはクメイル・ナンジアニ。1978年パキスタン出身の俳優、コメディアンです。2008年テレビ番組「Saturday Night Live」が最初のキャリア。TVドラマなどに現在も出演中。「The Lego Ninjago Movie」など2017年に公開される映画は合計で4作品。
妻は「ザ・ビッグ・シック/The Big Sick」の脚本を共に手がけたエミリー・V・ゴードン。

クメイルのガールフレンド、エミリーを演じるのは34歳のアメリカ生まれのゾーイ・カザン。祖父は「欲望という名の電車」「紳士協定」で知られるエリア・カザン監督。イェール大学で演劇学を専攻。映画デビュー作は2007年「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」。2016年公開「The Monster」ではキャシー役で主演。

エミリーの母ベスは59歳のホリー・ハンター。1993年に公開されたジェーン・カンビオン監督作「ピアノ・レッスン」に主人公エイダ役で出演し、アカデミー主演女優賞を獲得。ディズニー/ピクサー作品「Mr.インクレディブル」ではミセス・インクレディブルを演じている。

若いパキスタン系ムスリムのコメディアン(クメイル・ナンジャ二)と彼のアメリカ人のガールフレンド(ゾー・カザン)を軸にエピソードは展開する。人種、宗教、階級の壁は高い。育った「文化の差」の壁を乗り越えようとする若い二人のロマンティックコメディ。

異色な映画はハリウッドでも稀有なジャンルの作品で早くも賞レースの参加者に数えられている。

日本公開未定。オスカーの有力候補にでもなれば入って来るでしょうね。

「シークレット・スクリプチャー」(The Secret Scripture)(アイルランド映画):精神病院に入れられた100歳の老婆の若い頃の奔放な生き様を、V・レッドグレイプとR・マーラが熱演

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オスカー監督のジム・シェリダン、オスカー女優のヴァネッサ・レッドグレイプ、話題のルーニー・マーラに原作がセバスチャン・バリーのブッカー賞最終候補のベストセラー小説と豪華布陣の作品で期待満々で見始めたが途中から失望する。

プロットが出鱈目、一貫性が無い、筋が通らない、どうしてこうなるの?何故???の疑問だらけの作品で、最後の最後で取り繕って観客を落ち着かせる。

精神病院の院長で精神科医、ステファン・グリーン(エリック・バナ)が病院に第二次大戦終了後に乳幼児殺害の罪で収容されているローズ(レッドグレイプ)を健診し他の患者と一緒に新しい施設に移るよう説得する。
その問診に沿って映画は展開する。だからナレーションはローズだ。

患者の退去はこの病院が温泉スパのリソースを利用しリゾートホテルに建てなおすからだ。
ローズを除いて患者たちと親族は待遇も医療設備も素晴らしい新精神病院に移ることに大喜びだが、ローズだけは断固拒否。
「私の息子が迎えに来るから」と。

100歳のローズの回顧が始まる。

1944年、第二次大戦も終わりに近づいてはいるもののヒットラーの最後の反撃でロンドンは空爆され、両親を亡くした若い女子学生のローズ(ルーニー・マーラ)は故郷アイルランドへ疎開する。

舞台は故郷の田舎、カウンティ・スリゴ・ヴィレッジ。
 母の姉にあたる叔母のカフェで女給を務めながら青春を送る。医学生だったローズが女給となる段差に驚くが、更に男たちに言い寄られても拒否しないローズは人気の的。

人付き合いの良い日雇い労働者のジャック(エイデン・ターナー)、愛想の良い旅人だと思っていたが村の教会に赴任して来るゴーント神父(テオ・ジェームス)、空軍パイロットのマイケル・マクナルティ(ジャック・レイノール)、どういう訳かローズを待ち伏せしてマイケルと付き合うなと警告する弁護士のテイラー(トム・ボーン)などなど多士済々。

特に神父ゴーントは一目でローズに惚れてしまい、ローズが相手をしないとストーカーとなりローズの身辺に付き纏っていた。
カトリック教徒が多いアイルランドで神父をおちょくる描写は如何なものか。

ジャックと神父はダンスパーティーの夜ローズを巡って大喧嘩。
叔母はローズを一家の小屋へ閉じ込める。

ある日海岸で一人寛ぐローズを目がけて戦闘機スピットファイアが急降下し,それを何回も繰り返す。マイケルだ。
ビックリするのは戦闘機が砂浜に激突し炎上する。ローズはコックピットからマイケルを引きずり出すと瞬時にスピットファイアは爆発。

マイケルを人は知られていない森の中の納屋にかくまい治療をする。看護の知識はあっても重篤な患者は病院へ連れて行くだろうが。
テイラーに扇動された村人たちはマイケルを探し出し殺そうとするのも不可解。

戦闘機が墜落し地獄に落ちたとマイケルは意識を取り戻す。とローズが上に乗っている天国だった。二人は毎日毎晩が愛欲に耽溺する天国で過ごす。
だがストーカーの神父ゴーントはローズとマイケルの愛の巣も知っていた。

ローズがいつしか妊娠に気付いた時にはマイケルは軍隊に戻っていた。
せり出し大きくなり目立つローズの下腹に「父親は誰だ?」の詮索が始まる。神父も噂の最右翼。

 ローズは堕胎を決意したのか深夜冷たい海に泳ぎ出て洞窟の中で陣痛が始まり、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえる。石を振り上げ赤ん坊目がけて振り下ろすところで暗転。
観客はローズの殺人を目撃しないが認識する。

タイトルは「秘密の日記」とでも訳そうか、ローズの若き日のロマンスが事細かに記されている。
精神病院に入院している100歳の老婆と院長の対話でレッドグレイヴのナレーションと言うかモノローグで映画は展開する。

原作者のセバスチャン・バリーは、英国とアイルランドの文学賞、コスタ賞を2009年に受賞し、ブッカー賞最終候補のベストセラー小説を映画化したもの。

監督は「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」や「父の祈りを」でオスカーを受賞しているジム・シェリダン。

主演は77歳になるヴァネッサ・レッドグレイヴ。「ジュリア」でオスカー助演女優賞を授与されている。
実質的主演はルーニー・マーラ。スタッフもキャストもアイルランドとイギリスで占められている中ただ一人、スェーデンの「ドラゴン・タトゥーの女」で世界の注目を集め「キャロル」で好演している。。

日本での公開は2018年に彩プロ配給で上映の予定だが日時は未定

「セキュリティ」(Security)(アメリカ映画):元海兵隊大尉のエディ・ディーコンは3年も職が無く,切羽詰まって紹介された低賃金の夜間警備員の職に就く

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アメリカでは限定公開の後、直ぐにブルーレイのDVDとなっている。日本では1館(ヒューマントラスト渋谷)で1日だけ上映されてNetflixのリストに入る。

タイトル前のプロローグ。
連邦保安官の3台の黒いSUVが謎の車数台に襲われる。
先頭の車は道路上に撒かれた鉄楔でパンクし横転炎上、2台目の後部座席には人形を抱いて少女が眠っている。
無線もスマホもどういう訳か通ぜず圏外になり助けも呼べない。

保安官たちは少女を守って猛烈な銃撃戦になり隊長(マーク・バスナイト)は少女を丘の森の中へ逃がした後、銃弾に倒れる。

タイトルが出て髭面で尾羽打ち枯らしたヨレヨレのエディ―・ディーコン(アントニオ・バンデラス)が職業紹介所を訪れる。

アフガニスタンで戦った海兵隊大尉だったが、キャリアが高すぎるのと心的障害(トラウマ)を抱えで何も仕事が無く3年間を無為に過ごした。
無一文になり妻と娘を養って行けない。生きるためにはどんなところでもどんな職でも必要だった。
 
時給9ドル50セント(1060円=マックの学生アルバイトより安い)で深夜勤務の警備員(セキュリティ)。遠く離れた所にあるので妻子と離れモーテル暮らしになる。

モールの警備員は6人で責任者はヴァンス(リアム・マッキンタイア)が司令室で同僚を紹介する。皆素人同然で拳銃は携帯せずスタンガンとビニールの手錠だけが武器だ。

会話が可笑しい。「海兵にいたんだってね。階級は軍曹かい?」
大尉と聞いてぶったまげるが、
「でも警備員チームでは俺が一番上だからね」


その直後に深夜のショッピングモールに連邦保安官のSUVから逃げた少女が助けを求める、
娘が家出をしてね、と父親、チャーリー(ベン・キングズレー)を名乗る初老の男が現れ、娘を返してくれたら巨額な現金を提供すると言う。勿論エディは犯罪集団のボスと見破り、命を狙われた少女ルビーを守るため犯罪組織とエディ率いる警備員たちの戦いとなる。

少女の両親は金融会社を経営していたが犯罪組織に狙われ殺害され、ルビーは殺害現場の目撃者で裁判で証言することになっている。

警備員は拳銃を携帯していない。スタンガンとビニールの手錠のみ。
仕方が無い。モールの夫々のゾーンに「ホームアローン」のようにいろんな罠を仕掛ける。

しかしショッピングモールのセットがお粗末。サウンドスタジオにチャチな仕掛けをアチコチにセットするがどうも迫力が無い。

映画のストーリーは予想可能のシンプルなもの、しかし様々なアクション映画からパクリのシーンは結構楽しい。警備員たちはプロの殺し屋集団の前に全員ダウンして、エディとルビーだけが餌食になりそうにだ。


犯罪組織のボス役チャーリーに「ガンジー」でオスカーを授与されたベン・キングズレー、60歳半ばで若く見えるし貫禄がある。

アントニオ・バンデランスも「デスペラード」で注目され、、「シュレック」の長靴をはいた猫の声が評判になり、メラニー・グリフィス夫人との仲も上手く行っている。しかし出演作や声の吹き替えは多いが主演映画は久し振りだ。

監督のアラン・デロシェールはTVドラマで活躍するが長編商業映画は初めてのようだ。
アントニオ・バンデラスとベン・キングズレー以外のキャストは名前も知らないが、バンデランスと肉弾戦で死闘するデッド・アイ役のカン・リーはマーシャルアート出身者だろう。

ルビー役のガブリエラ・ライトは小太りチビ。もう少し可愛い子が居ないのかね。
セキュリティチームのリアム・マッキンタイア、チャド・リンドバーグ、キャサリン・デ・ラ・ローシャなど無名の役者も頑張る。

ヒューマントラストシネマ渋谷にて「未体験ゾーンの映画たち2017」として3月に1日だけ上映された。

「IT/イット:“それ”が見えたら終わり」(It)(アメリカ映画):ハリウッドの凋落を食い止めた超ヒット作。凶悪で謎のピエロ・ペニーワイズを探し求める少年たち。

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今年9月に古稀(70歳)になったばかりのホラー小説の第一人者スティーヴン・キングの小説は翻訳されたものは多く読んでいる。映画化されたものも多く、ホラーやスリルは読むものじゃなく見るものだと知る。

デビュー作の長編「キャリー」(74年)は映画で見てショックを受け本を読んだ。血みどろのプラム、雨の夜の墓の下から手が伸びて主人公の女子学生シシー・スぺイセク、を掴むシーンには声を出した。(これの模倣シーンはその後幾つかの映画でパクられている)

ホラー小説だが舞台は殆ど自分の生まれ育った合衆国北東の隅カナダと国境を接するメイン州のごく平凡な町の普通の主人公の詳細な日常生活を描いている。

「キャリー」でもそうだが主人公は大抵いじめられっ子たちだ。「IT」でもその子たちが徒党を組んで「The Losers」(負け犬組)と開き直っている。

僕は「IT」は余り好きじゃなかった。しかし読んで面白くもない「キャリー」や「炎の少女チャーリー」「ペットセメタリ―」「スリープウォーカーズ」などが映画になると興奮そ怖ろしいのはホラーは視覚からだと良く分かる。

僕の好きなキングの小説は映画にもなった「スタンド・バイ・ミー」や「ショウシャンクの空」「ミゼリー」「ドロレス・クレイボーン」などだがこの映画は夏休みの終わりに山中の死体(Corp)を探しに行く仲良し少年たちのホラー版の雰囲気だ。

「IT」は何度も映画化やTVミニシリーズになっているのもそのせいだ。読んでいて踊る道化師、「ペニーワイズ」のケバケバしい恐ろしさは分からない。

この「IT」もメイン州の小さな町デリー。いつものように少年たちが主人公だがいじめられっ子グループが力を併せてヘンリーをガキ大将とする苛めっ子たちと子どもたちを誘拐する道化師「ペニーワイズ」と戦う。
この

映画はアメリカでは9月8日から公開された。
New Lineとワーナー・ブラザース制作の「It」(邦題「IT/イット:“それ”が見えたら終わり」)は4130館で上映され週末3日間の興行成績(BO)は、予想を遥に超えた117.2M(127億円)でトップになった。内IMaxは377館で7.2M。海外市場は46か国で開け62M。ワールドワイド総計は僅か3日で179.2M(194億円)。

10月15日までの直近のBOでは国内累積は314.9M、海外では315.7M,ワールドワイド総計で630.6M(705億円)

低迷で終わった夏映画は昨年のサマーシーズンBOにくらべ14.6%のダウンの3.8B(4115億円)と言う悲惨な成績だった。

このままではハリウッドは凋落の一歩手前にこの「IT」が白馬に乗った救いのプリンスとして登場した。
「この『It』はハリウッド『救いの神』となり、前年とくらべ年初頭からの総BOが6.5%下がっていたのを上方修正の5.5%ダウンまで持って来た」とポール・ダーガラベディアン・ComScoreのシニアメデア・アナリストは語る。

制作費は35M(38億円)。特殊効果(ヴィジュアル・イフェクト)を多用するスーパーヒーロー大作では200億円近い巨額のプロダクションコストがかかる。ホラー映画は他のCGIを多用する作品に比べ制作費は安くつき、(ブラムハウスの作品は5億円程度はザラ)このようにヒットすれば粗利益は莫大なものになる。

今年はホラー映画が本当にヒットする。
10月13日から始まったUNIとJason Blum's Blumhouseの「Happy Death Day」(日本公開未定)は先週トップの「Blade Runner 2049」を簡単に破った。3149館で上映され15-20Mの予測を遥かに超える26.5Mで着地。主人公の女子大生は就寝中に仮面をかぶった何者かに殺され翌朝、目を覚まして生き返る。夜、殺されると翌朝に生き返り、また夜に殺される日々を繰り返す。

このループを抜けるには自分を殺す殺人犯を見つけ出し相手を殺すしかない。
観客層は54%が女性、若い層にウケて65%は25歳以下Rotten Tomatoesで87%のfreshは悪く無い。出口調査のCSはB評価。観客層はホラー映画なのに女性層が51%、男性が49%。1/3は25以上。


さて本題に戻そう。(邦題は酷い表現だが)
1988年のメイン州デリーで、子供だけを狙った連続殺人事件が発生する。病気がちの兄ビル・デンブロウ(ジェイデン・リーベラー)に紙の舟を作って貰った幼い弟、ジョージー(ジャクソン・ロバート・スコット)が舟を排水溝に浮かべ流す。

舟は排水溝口に吸い込まれる、覗くとそこにピエロの顔が見え舟を返すからとジョージ―が手を伸ばすとそのまま捕まり引き込まれる。

デリーの町は他の州や町の6倍以上も行方不明者が多く、子どもだけとなると10倍にもなると言う。
ジョージーが排水溝に引き込まれたのを見ていた(猫とおばさん)の証言でその下流の川をジョージーの

兄、ビルと友人たちは遺体を探し、犯人を追及始める。
自分を責めるビルの前に突如現れた「それ」を目撃して以来、彼はピエロ姿で神出鬼没、変幻自在でその恐怖は並みのものではない。

吃音のビルに加勢をする友人たちは、眼鏡のチビ、リッチー・トージア(フィン・ウルフハード)紅一点の美女だが不良と噂のベバリー・マーシュ(ソフィア・リリス)、スタンリー・ユリス(ワイアット・オレフ)、黒人故に暴力を振るわれるマイク・ハンロン(チョーズン・ジェイコブス)、エディ・カスプブラク(ジャック・ディラン・グレイザー)などの負け犬グループは、
マスタングに乗ったヘンリー・バウワーズ(ニコラス・ハミルトン)を大将とする苛めっ子たちの餌食だった。
苛めっ子たちの妨害にめげず団結して諸悪の根源のピエロをやっつけようと7人は本拠の廃屋となった「古井戸の家」に乗り込むのだった。

子役たちの名前は知らない。唯一見覚えのあるのはピエロ、ペニーワイズ役で「シンプル・シモン」などのスェーデンのベテラン俳優、ビル・スカルスガルドだけだ。
監督はアルゼンティンのホラー映画「Mama」などで知られる新鋭アンドレス・ムシェッティ(Andy Muschietti)。

「Chapter One」と出てエンディング。
つまり第二章が続くと言うことだ。
エンディングに出るがシリーズ化して「負け犬組」の7人が力を併せ道化師「ペニーワイズ」を退治したことを祝いあい、成人してまたここで会おうと血で誓う。
28年後に町に戻ると再び子どもたちの誘拐、行方不明の事件が起こっている。
27年周期は本当だったんだ。大人になってからの負け犬組の「IT」との死闘の方が複雑で更に怪奇で面白い。
道化師役は変わらないが子役は総入れ替えで誰がどうなうか?いつ第二章が公開されるか楽しみだ。

11月3日より丸の内ピカデリー他全国公開される

「花筐」(日本映画):太平洋戦争前夜、自分の意思で生きようとする純粋で自由な青春を謳歌していた。だが戦争が始まると「青春は戦争の消耗品だった」

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大林監督がデビュ-作「ハウス」以前に書きあげていたと言うこの作品の本。原作者檀一雄が左翼思想事件に巻き込まれ学校から逃れて佐賀県唐津で魂の癒しと自由を取り戻したと言う。

戦後72年、大林のテーマは「平和」その三部作の集大成で仕上げの意味でこの作品は重要である。

内容は濃く充分堪能できるが、しかし何としても長い。
「ブレードランナー」が2時間45分の長尺でコケたがこちらは2時間49分もある。

カット出来るエピソードも散見される。例えば吉良が子犬を絞殺するシーン。締める絵や遺体などを写さないのだから無理に押し込めた感じだ。憲兵が自殺するシーンも前後のコンテクストに繋がらない。

ジョン・か―ペンターは映画で居心地よく見られるのは1時間半くらい。どんなに長くても2時間を超えてはいけない、と言っている。
 
 1980年代の尾道3部作をはじめ大林監督の映画は「虚構の中の真実」へと連れて行ってくれた。
「転校生」では思春期の男女の体が入れ替わり、
「時をかける少女」は時空を超えるタイムトラベルを、
「さびしんぼう」は男子高校生の初恋と失恋の切なさを少女時代の母親を登場させて描いた。
「異人たちとの夏」では、中年の男が死んだはずの両親と浅草雷門で再会しすき焼きを食べる。浅田次郎の世界だが、僕は大林作品でこの映画が一番好きだ。


監督は出身地の尾道(広島県)だけでなく、柳川(福岡県)、小樽(北海道)、臼杵(大分県)、長岡(新潟県)といった街や東京の下町を舞台にして来た。

今度の作品は佐賀県唐津市。
原作者の壇一雄の勧めで唐津を選んだという。
十代の終わりに共産党に関わり学校を追われ唐津の町に住み着き放浪生活を送った。大林は言う「大日本帝国軍部の圧政下で己の魂の純血を貫こうとすれば政治的というよりむしろそういう事件を自然と起こすに至った一雄少年は、多くの唐津の里人に会い話しをし、生きる知恵と温もりを学びその相克の中で
人や街を慈しむ大林監督の愛と、平和を願う切なる思いはつながっているに違いない。
 一時は余命宣告まで受けた大林監督だが、治療の効果も表れているという。
「平和」をテーマの戦争三部作として「この空の花」「野の七七日の続く映画作りの集大成と位置付ける新作がこの「花筺」だ。
舞台は太平洋戦争の始まる前の1941年春、寺子屋のような旧制高等学校予備校の20人ほどの生徒たち。

映画の語り部となる17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)はアムステルダムに住む両親のもとを離れ、唐津に暮らす叔母(常盤貴子)の元に身を寄せる。
転校生として夫々異能な級友たちに出会う。ギリシャ神話のアキレスのような筋骨逞しい鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような出で立ち(実はキリスト教信者だった)のような吉良(長塚圭史)、絶えず咳をしているお調子者の阿蘇(柄本時生)などと断崖絶壁からの高飛び込みなど「勇気を試す冒険」に興じる日々を送っている。
その男どもと「不良」なる青春を謳歌するあきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)など。千歳は写真を撮るのが大好きで写真機を手放さない。吉良の従妹で小さいときは吉良の布団で一緒に寝た。
映画のマドンナは肺病を患いはかない命の美女、美那(矢作輔香)。榊山の従妹ながら恋心を抱いているがあきねとのロマンスも捨てがたい。

戦争の足音が近づいて来る。「殺されないぞ、戦争なんかに!」と皆の想いは同じだが夫々自分の意思で生きようとする純粋で自由な青春。
だが「青春は戦争の消耗品だった」と大林。

映画のバックに絶えず流れる「愛国行進曲」。赤紙を貰い二等兵で出征する学校の「教授」。途中で出会った阿蘇に中国戦線で病死した山中貞夫監督の平和を熱望する映画「人情紙風船」を絶対見ろ!と言い残し愛用のハーモニカを渡す。

赤と血が象徴的に使われるが「美女と野獣」のように赤い薔薇の花が一瞬にして血に変わるシーンはこれほど頻繁に出ては邪魔なだけだ。
大林監督は「ハウス」以来踏襲している独得の耽美的で自由闊達なスタイルがあり、リアリティが一瞬にしてフィクションに変わるモードに観客は慣れている。

青春謳歌の一コマで鵜飼と一緒に榊山も真っ裸になり盗んだ軍馬に跨って浜辺を駆けるシーンは絶品だ。同性愛の世界も垣間見せる。
そうかと思うと月の光を浴びながら鵜飼と美那の抱き合う場面はロマンスのパラダイス。
男性たちのヌードだけでなく、門脇麦も年増の常盤貴子も全裸で海に入るシーンで魅せる。

病身、純白のウェディングドレスをつけた美菜の最後となる誕生日。奇しくも真珠湾攻撃で日本中が湧きに湧いている夜。若者たちは最後の自由と贅沢を享受する。
「俊之、お前だけが戦争を生き残るだろな」と言う皆の思い通り、エンディングは戦後72年経った佐賀唐津の空爆を受けていない昔の儘の邸宅で寛ぐ榊山。仲間たちは皆戦争に飲まれて誰も居なくなった。

ハイライトは終盤に登場する「曳山」。昨年ユネスコ無形文化遺産に指定された「唐津くんち」が派手に画面を飾る。
10-11月にかけて開かれる唐津神社の秋季例大祭。乾漆で製作された巨大な「赤獅子」「黒獅子」や千歳が好きでミニチュアを持っている「真っ赤な鯛」などの曳山が、笛・太鼓・鐘の囃子にあわせ、鵜飼や吉良たちも加わった曳子たちの「エンヤ、エンヤ」「ヨイサ、ヨイサ」の掛け声とともに、唐津市内の旧城下町を練り歩く。


12月16日より有楽町スバル座で公開される

「ジャコメッティ 最後の肖像」(Final Portrait)(イギリス映画):アルベルト・ジャコメッティはアメリカ人の友人、ジェイムズ・ロードをモデルにして失敗を繰り返し18日間も肖像画に挑む

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芸術家、アルベルト・ジャコメッティと言って分からくとも、細くて長い人物像の彫刻は誰でも一度は見たことがある筈だ。ジャコメッティは彫刻ばかりか絵画でも超一流の芸術家で、彼が死ぬ前年に最後の肖像画(Final Portrait=原題)を描いたエピソードだ。

フランスで活躍したアルベルト・ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)はイタリア系スイス人として1901年に生まれた。父ジョバンニは後期印象派の画家と知られ、アルベルトの兄弟3人とも芸術家として育てられる。

1922年にパリへ右腕の弟、ディエゴ(トニー・シャブール)とともに移る。
目に見える現実を写し取るのは不可能だと感じシュールレアリズム作品を展覧会に出品し成功を収める。
映画の中でも自分は不器用だからキッチリと写実は出来ないと呟いている。

第二次大戦中ナチに占領されたパリを離れジュネーブへ疎開。1943年にアネット・アーム(シルヴィー・テステュー)と知り合い結婚する。

戦争が終わった1945年にパリへ戻り、終生の住み家、モンマルトルのイボリット=マンドロン通り46番のアトリエとその隣のベッドを置いた汚い住居部分はプロダクション・デザイナーのジェームズ・メリフィールドによって見事に再現されている。

46年からトレードマークの細長い彫像を制作し絶賛されて世界的に名が知られる。妻をそっちのけでカロリーヌ(クレマンス・ポエジー)と呼ばれる、娼婦イヴォンヌ・ボワロデュと親密な関係になり30年間モデルとして仕えさせる。

ジャコメッティは1966年の亡くなるのだがその2年前の1964年、友人でアメリカの作家、美術評論家のジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)をモデルにして失敗を繰り返しながら18日間も肖像画に挑んだ様子を描いたドラマ。

1964年、パリ・モンマルトル。細長肖像が所せましと並んだジャコメッティ(ラッシュ)のアトリエに立ち寄ったアメリカ人青年のジェームズ・ロード(ハマー)に肖像画のモデルを依頼する。
「なーに、2-3時間で終わるが念のため明日も来てくれ」
週末にNYへ帰国予定のロードは日にちに余裕があるのでジャコメッティの気軽な頼みを喜んで引き受ける。

が、すぐに終わると思われた肖像画の制作作業は、「糞ったれ!」(ファッカー)の叫びと共にまた最初からやり直し。灰色で塗り始め黒や青を使うが「糞ったれ!」の罵声で白い絵の具で全面を消す。

猫背で大柄な身体をゆったりと動か、クシャクシャな髪の下眼鏡をかけて上目使いにモデルをねめつける。ちょっと顎を引いただけ、指を動かしただけでも「動くな!」と元の位置に戻されるほど観察眼は鋭い。埃だらけの背広とレインコートを着て歩き回るジェフリー・ラッシュは名演技だ。

「糞ったれ!」毎にNYへ電話を入れアポを取り消し、延期を頼み、飛行機会社にチケットの変更を申し入れる。
ジャコメッティはどんなに見事に完成しても満足せず、「糞ったれ!」と叫んで最初からスタートする。
生活のために画商に作品(失敗作と信じている)を売るが益々評判は良くなり絵も彫刻も高く売れる。

エイジェントが茶の紙袋に入れた札束を画商から預かったと渡す。200万フラン(当時のお金で3千万円ほどか)を無造作に分けて、ハイこれはお前の手数料、弟のディエゴにも幾らか、残りをベッドの下に放り込む。

ジャコメッティは失敗作と信じる作品が売れに売れて既に富豪だが還暦を過ぎても廃屋のようなアトリエに住み着き娼婦のカロリーヌといちゃつき大型のアメ車などを買ってやったりしている。

ジャコメッティの苦悩により、肖像画制作は終わりが見えなくなっているが。その中で、ロードはジャコメッティのさまざまな意外な顔を知ることとなり、それはジャコメッティの死後20年経って著作に記されている。

尚日本人の友人でイサク(タカツナ・ムカイ)が留守中にアトリエに入り込み娼婦と遊んでいるが、イサクは後の著名な仏文学者、矢内原伊作のこと。父親は東大総長だった矢内原忠雄。入学した時に安田講堂の上にあった総長室に父に連れられ挨拶へ行ったことを覚えている。

このままでは永遠に帰れないと悟ったジェイムズはディエゴと共謀し肖像画は絶品だと褒め殺しにして逃げるようにアトリエを去る結末には笑える。

監督は、「ハンガー・ゲーム」シリーズや「トランスフォーマー」シリーズなどではユーモラスで味のある脇役として活躍したスタンリー・トゥッチ。「シェフとギャルソン、リストランテの夜」や「インポーターズ」などを送り出しているがこの作品がベスト。

主演のジャコメッティ役に「シャイン」でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ「英国王のスピーチ」などのジェフリー・ラッシュ。

モデルになるアメリカ人の友人、ジェームズ・ロードには「ソーシャル・ネットワーク」「コードネーム U.N.C.L.E.」などのアーミー・ハマー。映画のナレーションも担当している。

1月5日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「8年越しの花嫁」(日本映画):結婚式を3か月後に控えた尚志と麻衣。岡山市に住むラブラブのカップルを突然の悲劇が襲い麻衣はコーマに陥る。

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10年ほど前の映画「余命1ヶ月の花嫁」には泣かされた。
24歳で末期がんに冒された女性が何としての死ぬ前にウェディングドレスを着たいという願いを恋人とその友人たちが実現してあげる。
TBSでドキュメンタリーが放映された後広木隆一監督で映画化され松竹配給で全国公開された。

この映画は同じコンビでTBS放映されたドキュメンタリーを瀬々敬久が監督し映画化したものを松竹配給で正月映画として全国公開する。

切っ掛けは2014年12月に挙式した2人の様子を、結婚式場の運営会社が撮影し、その映像が15年2月に「8年越しの結婚式」としてYouTubeに投稿されると、瞬く間に口コミで広がり、TBSのテレビ番組「奇跡体験!アンビリーバボー」で紹介された。

映画は物語の主人公、中原尚志と中原麻衣の著書で15年7月に出版された「8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら」を原作としている。

舞台は岡山市。二人が出会ったのは今から11年前。 友人の紹介で知り合い意気投合、交際がスタートした。

 そして 付き合いはじめて、ちょうど2年目の記念日、2人は結婚を決める。 半年後の3月に結婚式を挙げるため、二人はその日、3月17日に式場を予約した。
06年、結婚式を3か月後に控えていた西澤尚志(佐藤健)と中原麻衣(土屋太鳳)。岡山市に住むラブラブのカップル。

しかし、ある日麻衣が突如発症し心肺停止状態となり一命は取り留めたが、その後昏睡状態になってしまう。
発症率が300万人に1人という卵巣に腫瘍ができ抗体が健全な細胞を冒すと言う難病「抗NMDA受容体脳炎」と診断されてしまう。長い昏睡状態が続くなか、尚は諦めずに回復を祈り続ける。

2007年5月17日。 麻衣の卵巣の腫瘍を取り除く手術が行われた。結婚しても子供ができない可能性が高まる。

毎朝勤め先の修理工場へ向かう前に2時間かけて病院へ顔を出し麻衣を見舞う。
尚志は、麻衣の両親(杉本哲太&薬師丸ひろ子)から回復の見込みのない麻衣を見限りほかの女性を探すように諭される。

が、彼女のそばから離れようとせずに回復するのを待ち続ける。
自動車修理工場の社長柴田(北村一輝)が言う。入社試験に時に尚志の答えた自動車修理のモットーは「愛」一筋だと。理屈抜きで「愛」一筋に頑固に忍耐強く麻衣の回復を待ち続ける尚志。

そして2008年7月、奇跡的にコーマから目を覚ました麻衣だったが、記憶障害に陥って尚志が誰なのかわからない状態になっていた。これではコーマと同じ状況ではないか。尚志が婚役者と認められなければ無意味なのだ。

ショックに打ちひしがれながらも、毎日のように彼女を訪ね思い出の場所に連れまわす尚志だが、記憶を取り戻させようとする尚志がプレッシャーを麻衣に与えて障害になっているのではないかと考え、別れを告げて小豆島へ渡り小さな修理工場に勤める。

実話だから仕方が無いが物語は予測可能でサプライズやどんでん返しは余りない。
その上映画の前半に画面を二つに割ったり、スローモーションやボーカルを延々と流したりスタイリッシュなモードにしようとする瀬々監督の無駄な努力。本筋に入るとあっさりスタンダードなカメラに戻ってしまう。

暫くは画面に没頭できず感情移入も湧かない。とは言うものの終盤になると結構泣く。
そして遂に2015年12月21日。 両親に支えられながら、ヴァージンロードを自分の足で歩く。愛する尚志のもとへ。8年越しの結婚式だ。

エンドクレジットにもう一度ハイライトをおさらいシーンが出て来るが、実物の西澤尚志と中原麻衣の現在を紹介すべきだ(1カットのみ出たが)
ましてや今は卵巣除去を克服して子どもも出来たのだから、ハッピーエンドを強調するためにも現在のカップルの映像は必須だった。どうも画竜点睛を欠く。

監督は「64 ロクヨン」シリーズ「ヘブンズストーリー」などのベテラン瀬々敬久が演出、「いま、会いにゆきます」などの売れっ子岡田惠和が脚本を担当。

「るろうに剣心」シリーズのアクション得意な佐藤健が純真な愛を求める青年を演じるのも新鮮だ。

相手役の麻衣は「PとJK」などの土屋太鳳が、カップルを演じる。気になるのはベッドに縛り付けられ点滴で栄養補給をしているだけの麻衣が少しもやつれていないし痩せもしない。特殊効果でもっとリアリティを出せないものか。

今一つの出来だが実話だけに迫るものがある。

12月16日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「人生はシネマティック」(Their Finest)(イギリス映画):1940年、第二次世界大戦下のロンドン。ドイツの空爆が激しさを増す中、英国政府は国民の不安を取り除き戦意を高揚させる宣伝映画を作る

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第二次大戦は1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドへ侵攻したことで口火がきられた。9月3日にイギリス・フランスがドイツに宣戦布告。ノルウェー、ベネルクス、フランスなどを次々と攻略し、「ダンケルクの戦い」で連合国をヨーロッパ大陸から追い出し、イギリス本土を空襲で連日攻撃した。
軍事面から見ればイギリスなどは弱小な国、只管軍事大国のアメリカの参戦を促しているが、モンロー主義を国是としている合衆国は好戦的なルーズベルトも傍観を決め込んでいる。
(1941年12月8日の日本の真珠湾攻撃で初めて連合軍に食わる)

このままでは大英帝国はナチの猛攻に耐え切れず「風前の灯」と言うのがこの映画の背景だ。

1940年、第二次世界大戦下のロンドン。ドイツ軍からの空爆が日毎に激しさを増す中、イギリス政府は国民の不安を取りのぞいて戦意を高揚させるための宣伝映画(=プロパガンダ映画)を製作していた。
ドイツ空軍の猛攻で破滅的大惨事に直面しているイギリスを救うため、映画好きのヤンキーの興味をそそりアメリカを「連合国に加わり参戦の大義」に巻き込む必要があった。
祖国の防衛のため若い男達は根こそぎ徴兵されていたが、映画のライターも兵隊に持って行かれ、そして、ひとりの女性に白羽の矢が立つ。たまたま書いた銃後の守りとイギリスの勇気の惹句が情報省映画局特別顧問バックリー(サム・クラフリン)の目に留まったのだ。
これまで一度も執筆経験のない広告のコピーライターの秘書、カトリン・コール(ジェマ・アタートン)が、徴兵されたプロの男性ライターの代わりに政府に「徴用」され新作の脚本を書くことになる。カトリンの夫、エリス(ジャック・ヒューストン)はスペインでの戦争で脚を負傷し空襲監視員を務めながら画家になる夢を捨てきれない。カトリンの仕事で家計が潤うと喜ぶがエリスの絵は売れるような代物ではない。

 映画のテーマは決まっている。フランスのダンケルクでドイツ軍の包囲から英軍兵士を救出するのにイギリス海軍の艦隊が機能せず民間の漁船や遊覧船を徴用して撤収を助けたが、その中の、双子の姉妹の物語だ。

今日本でも公開中のクリストファー・ノーランの「ダンケルク」でも遠浅のダンケルク沖は大型戦艦は乗り入れられずイギリスから動員された民間の遊覧船・ドーソン船長(M・ライランス)は10代の息子ピーター(T・ギリアン・カーニー)と一緒にドイツの砲弾が雨霰と迫る中命を賭して兵士を運ぶ。

この感動秘話をバックリーとバーフィット(ポール・リッター)の3人の共同脚本挑む彼女だったが、いざ製作が始まると、情報省のフィル・ム-ア(レイチェル・スターリング)から呼び出しを喰う。姉妹の乗る船のエンジンが故障するシーンがあるがイギリスのエンジンが不調とはけしからん。かき直せと。
ことほど左様に政府の検閲や軍部の横やり、かつては一世を風靡したベテラン俳優、アンブロース(ビル・ナイ)のわがままや、セリフ棒読みのド素人の出現や、更に軍部からアメリカの参戦をもっと促すためにアメリカ人パイロットを加えろと言う。男社会の女性差別も加わり、脚本が二転三転するトラブルにもめげずカトリンは最後まで与えられた見ションをやり遂げる。

 それでも根っからの映画好きのかとリン。戦争で疲弊した国民を勇気づけるため、無茶な要求にも負けず、彼女は必死にベストを尽くす。そんな姿に出演者やスタッフは共感し、現場の結束力は高まっていく。

カラーのプロパガンダ映画の劇中劇はモノクロでその対比は面白いし、ダンケルクの戦場を銃後の平穏なスタジオでデイリー試写を見るコントラストなどを織り交ぜた、独創性あふれる設定。
基本的にはコメディータッチのパロディ映画なので観客は楽しめる。
それに何と言っても日独伊三国同盟は72年前に破綻し連合国は大勝利を味あうと言う結末が分かっているだけに余裕をもってこの時代劇を鑑賞する。

一癖も二癖もあるが魅力的な登場人物たちが繰り広げる、軽妙洒脱でウィットに富んだ台詞の数々と行動。

主人公の新人脚本家カトリン・コールは、「007/慰めの報酬」(08)のボンドガール役で一躍脚光を浴び、「アンコール!!」(12)、「ボヴァリー夫人とパン屋」(14)などで地味ながら人間ドラマの主人公を演じたベテラン女優、31歳のジェマ・アータ-トン。

彼女をスカウトし共同で本を書くバックリー役には、優秀だが皮肉屋。口髭あ似合うイケメン。 「あと1センチの恋」(14)、「世界一キライなあなたに(16)でヒロインの恋人役を演じ、世界中の女性から熱い視線を浴びているサム・クラフリン。
過去の栄光にすがり、カトリンと対立する落ち目のベテラン俳優には「ラブ・アクチュアリー」(03)、「パイレーツ・ロック」(09)などで日本でも大人気の70歳のビル・ナイ。出番は少ないが顔を出すとその存在感だけで圧倒される。

さらに、脇を固めるのは「運命の逆転」(90)でオスカー俳優ジェレミー・アイアンズ、映画界のサラブレッド俳優、ジョン・ヒューストンを祖先に持つジャック・ヒューストンがひも的夫役、「おみおくりの作法」(13)のエディ・マーサン、「キャロル」」(15)のジェイク・レイシー、「LOGAN/ローガン」(17)のリチャード・E・グラントなど、ハリウッド映画では見知らぬ英国を代表する一流のキャストが結集している。

監督は、「幸せになるためのイタリア語講座」(00)でベルリン国際映画祭銀熊審査員賞を受賞し世界的に注目されているオランダ生まれの58歳、女性監督ロネ・シェルフィグ。
キャリー・マリガン主演の「17歳の肖像」(09)ではサンダンス映画祭観客賞を受賞し、アカデミー賞も作品賞を含む3作品にノミネートとされている。

原作はリサ・エヴァンスのユーモア小説「Their Finest Hour and a Half」

11月11日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される

「はじまりのボーイ・ミーツ・ガール」(Le Coeur en braille)(仏映画):目が見えなiことを隠して権威ある音楽院の入学オーディションを受ける12歳の少女。陰で支える同年の男の子

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何を言ってるか分からない邦題だがフランス語の原題を英語に意訳すると「Heartstrings」=「心の琴線」と言うこと。つまり人の心の奥深くにある感動し共鳴する感情」のことだ。

学業も品行もトップの12歳の少女、マリー(アリックス・ヴァイヨ)は友達を寄せ付けない孤高の女王だ。
クラスで一番のイケメンで秀才のロマン(マックス・ガラン=ブレーグ)がスリスリしても追い払う。

クラスには彼女と正反対のガサツな男の子、ヴィクトール(ジャン=スタン・デュ・パック)がいる。勉強はさっぱりできないが友達が多くて人気がある。

新学期の最初のテストで案の定0点だ。
次の数学のテストもさっぱり分からず途方に暮れるヴィクトールに「正解」を書いた紙をそっと渡してくれる。

親友のアイカム(アントワーヌ・コールサン)は「マリーはお前に気があるよ」と囁かれ嬉しくなったヴィクトールに聞くと、「私は負け犬の味方なの」と痛烈な返事。

このトントン拍子のイントロダクションは面白いし何が起こるか楽しみを抱かせる。
しかしヴィクトールは小柄ながら可愛いが肝心の主人公、マリーは大柄でポチャっとしていて可愛いく無い。
このことに違和感を覚えると、感情移入も控えめになってしまうのは残念だ。

マリーの夢はただ一つ、プロのチェリストになこと。
そのためには権威ある国立音楽院の入学オーディションに合格することが最初のステップだ。

だがマリーは大変な問題を抱えている。
遺伝的な疾患で視力が徐々に失われているのだ。
マリーの両親はそのことを知っているので音楽学校へ入学できても前途多難でやっていけないと、オーディションには猛反対。
マリーはちゃんと見える、視力はそんなに落ちていないと両親を騙すのに大童。

大富豪のマリーの父親(シャルル・ベルリング)は競売人、母親は美術バイヤーで2人とも留守にしがち。
初めてマリーの邸宅に連れて行かれその豪奢さに驚く。と言うのはヴィクトールには母親はおらず自動車修理工の父親(パスカル・エルベ)と二人で暮らすあばら家とは大違いだからだ。

春休みになり湖の秘密基地に彼女を誘うが桟橋でマリーは身体が動かなくなり硬直し、しがみ付かれて二人とも湖に落ちる。
必死に岸にたどり着いたマリーに「失明の危機」に瀕している秘密を初めて聞く羽目になる。
往来の激しい道路に歩き始め跳ねられる寸前をヴィクターに助けられたりする。

両親を騙し、健常者のように目が見え行動できるようにするために命令に忠実な「負け犬」を探し出し、「目」の代行をさせる必要があったのだ。

ヴィクトールは傷つきマリーと別れようとするが、マリ―を愛しすぎているのに気付く.ホッペにされたキスの温もりも残っている。
打算的だったマリーにも心境の変化が見られ始める。

プリティーンの少年少女の仄かなロマンスは初々しく美しく純粋で観客を感動させる。

最後にギリギリオーディションに間に合ったマリーの弾くバッハの協奏曲が朗々と審査員の前で鳴り響くラストシーンは印象に残る。

監督はチュニジア移民でパリ国籍のミシェル・ブジュナー、65歳。コメディ俳優として活躍し、03年に「Pere et fils」(日本未公開)で監督デビュー。この作品が3作目となる。長い俳優生活で培った治験を演出に込めた映画は評判が良い。

原作者ミシェル・ルテールは長い教師生活を総て込めた処女作「Le Coeur en braille」=「点字で書かれた心」(12)がベストセラーで2人の3年前と4年後の続編を既に発表しているので、映画もシリーズ化されるかもしれない。

主役の子どもたちは無名の子役。ブジュナー監督の演出の下素直に自然に演じているのが好感を与える。

12月16日より新宿シネマカリテ他で公開される

「嘘八百」(日本映画):陶芸家の佐輔といかさま古物商利夫の一世一代の大芝居は見事成功し、関西の威張っている目利きたちに偽物一杯の蔵ごと売って大金を巻き上げる

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「終わりなき道」(REDEMPTION ROAD)(早川書房:2016年8月刊)は600ページになんなんとする大分な警察小説だが片時も読者を飽きさせない。著者ジョン・ハートの腕は大したものだ。50歳の推理作家は「川は静かに流れる」と「ラスト・チャイルド」でアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を連続受賞。
本作で5作目だから外れが無い。

主人公の女刑事エリザベス・ブラックは停職中の身。拉致された少女を救出の際、犯人2人に十八発の弾丸を撃ち込み過剰防衛でバッジを取り上げられたのだ。
舞台はノースカロライナの何処かの街、市街地に10万人、郊外に20万人が暮らすソコソコの規模なところだが、不景気で商店街ではシャッターを下ろす店が目立ち荒れ果てて来ている。

エリザベスの上司だったエイドリアン・ウォールが13年振りに出所する。捜査の過程で知り合った人妻、ジュリアン・ストレンジを殺害した罪だが、出所したとたん、同じような女性殺しが連続して発生する。エイドリアンは無罪だとエリザベスは信じている。誰かに嵌められたのだ。
エイドリアンをつけ狙うのは、服役していた刑務所の所長、エリザベスが救出した少女チャニングやエイドリアンに母親をころされたと信じる少年、ギデオンはエイドリアンを母親の仇と付け狙う。

家族を軸に考えれば推理の枠で物語は進行しない。エイドリアンの出所後似た犯行は誰が犯したのか?更に教会の地下には10数人の女性の遺体が発見される。

凄絶な犯行は誰がいつ犯したものか?
日経の書評で最高の5星が与えられている。



30年以上も続いているだろうか、テレビ東京系で放送されている「開運! なんでも鑑定団」。あなたの家の、お宝探し!史上最強のお宝鑑定ガイドの大ヒットにあやかった映画。

関東では大物狙いで空振りばかりの古物商「獺(かわうそ)」の小池則夫(中井貴一)が千利休を生んだ茶の湯の聖地,大阪堺市に伊万里(森川葵)を連れて乗り込む。ラジオの占いに「西に吉あり」を信じて車を走らせていると古い蔵の連なる大きな屋敷に行きつく。
 
門から中を伺っているとそこの亭主、野田佐輔(佐々木蔵之介)が帰って来る。
佐助は古物のことは分からないこれ一つで車一台が買えると聞く」と茶器を差し出すが則夫は一目で偽物と見抜き、売りつけた古美術商の名を聞き、贋物を売りつけたと脅し高額で引き取らせる積りだったが、店主の桶渡(芦屋小雁)と大御所鑑定士、棚橋(近藤正臣)に軽くあしらわれてしまう。

しかしリベンジがはじまる。バカにした桶渡と棚橋が相手だ。
詐欺師グループが凄い。
警察の筆跡鑑定もくぐりぬける達筆のマスター(木下ほうか)紙に詳しい表具屋のよっちゃん(坂田利夫)、このチームが利休直筆の「譲り状」を仕上げる。
そしてどんな箱でも作り上げる材木屋(宇野祥平)が加わり譲り状を収めた「箱」は彼の作品だ。

道具は完璧に揃った。
桶渡と棚橋など目利きを集めて、利休直筆の「譲り状」と「箱」を則夫は見せるがそれなら本物は何処に?と二人は食い付いて来る。
佐輔は昔の情熱を取り戻し,作り上げた茶器は「本物より凄いモノ」に仕上げていた。

則夫がご一同さんを集めて口上を切る。
「利休が切腹する直前に残した形見の茶器が見つかりました」と黒焦げ茶色の茶碗をこの道のプロが集まる前に差し出すシーンはどうなるかと思いドキドキする。

ご一同さんを連れて佐輔の蔵を聡ざらえしたところ、何と「利休形見の茶器」が(うまく?)現れる。国の文化庁、文化部長と学芸員(福地武雅)も食い付く大騒動。海千山千の達人たちが、だましだまされる応酬に大笑い。
陶芸家の佐輔といかさま古物商、利夫の一世一代の大芝居は見事成功し、偽物一杯の蔵ごと大金を払って買い上げる。

日本版「スティング」も快感!カタルシス満点だ。

ヒット作「百円の恋」の武正晴監督と脚本家の足立紳が再び組み「幻の利休の茶器」をめぐるだまし合いの合戦をユーモアたっぷりに描き出す。
関東から堺に移り住み、古物商を営んでいる男性、則夫を演じる中井喜一は中井貴一。貴一の関西弁はやはりギコチ無い。仕方が無い東京生まれで東京育ち。付け焼刃の関西訛りは直ぐにばれる。

1961年9月18日生まれの56歳。1982年にNHKのTVドラマの主演でデビューした早速翌年のTBS系ドラマ「ふぞろいの林檎たち」で人気を集めるが、「アゲイン」などの映画を軸に活躍する。

関西地元の陶芸家・佐輔を演じる佐々木蔵之介は1968年2月4日京都生まれ。
2014年に初主演のコミカルな時代劇「超高速!参勤交代」は大ヒットし、2016年には続編も公開された。
中井と同様にシリアスな役からコミカルな役、現代劇から時代劇、主役から脇役まで幅広く演じる。

武正晴監督は愛知県生まれの50歳。
「ボーイ・ミーツ・プサン」で長編商業監督をデビュー。「カフェ代官山」シリーズの演出を経て「百円の恋」(14)で一挙にブレイク。数かずの賞を授与されている。最新作「リング・サイド・ストーリー」は佐藤江梨子と要太のコンビで笑わせる。武監督のコミカルな演出は冴えている。

1月5日より新宿武蔵野館他で公開される

「ヒトラーに屈しなかった国王」(The King’s Choice)(ノルウェー映画):ノルウェー国王ホーコン7世の下した「ヒトラーに屈しなかった」決断と運命の3日間

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週末(20/10-22/10/2017)のアメリカの興行成績を見ると「Tyler Perry's Boo 2! A Madea Halloween」や「Geostorm」「Only the Brave」と「The Snowman」「Same Kind Of Different As Me」。

しかし5本とも不発で8-9月のような沈滞ムードを吹き飛ばす爆発力はありません。
首位はライオンズゲイトの「Tyler Perry's Boo 2! A Madea Halloween」(日本公開未定)は2388館で21.7M。トップなら120億円や150億円が当たり前の興行界で僅か25億円以下の成績で首位が取れるなんてアメリカの映画産業も淋しく前途も明るくない。

第2次世界大戦時、ナチスドイツの侵攻に激しく抵抗したり戦った国はフランスやイギリス、ソ連などが頭をよぎるが小国、ノルウェーのことは殆ど知らない。

ノルウェー国王ホーコン7世の下した「ヒトラーに屈しなかった」決断と運命の3日間と言う惹句で関心を寄せる。
歴史的なコンテクストで見てみると、第二次世界大戦は1939年9月1日に、ドイツ軍がポーランドへ侵攻したことから始まり、9月3日にイギリス・フランスがドイツに宣戦布告。9月17日にはソ連軍が東からポーランドへ侵攻し、西部戦線では散発的な戦闘のみが行われた。

そして1940年4月にノルウェー、ベネルクス、フランスなどを次々と攻略し、今、上映中の「ダンケルク」の戦いで連合国をヨーロッパ大陸から追い出し、イギリス本土上陸作戦の前哨戦となる大空襲も行われた。

この映画はナチスドイツが英仏の宣戦布告を受け、牙を剥きだしてノルウェー、ベネルクス、フランスに迫った時期にあたる。

映画の冒頭は、1940年4月9日、ノルウェー。
孫と遊んでいる国王、ホーコン7世(イェスパー・クリステンセン)の居間に息子のオラフ皇太子(アンドレス・バースモ・クリスティアン)からドイツ軍がノルウェーに侵攻し始めたと聞くところから映画は始まる。

ホーコン7世はデンマーク国王、クリスチャン10世の弟で、1905年にノルウェーが独立した時にデンマーク王室から移りノルウェー国王になって35年になるが、政治的な発言権も指導権も無い象徴的存在。
政治は議会と内閣、その首相によって動かされていた。

ドイツ軍が侵攻して来ても議会と内閣が対応するはずだが、強力なドイツ軍を前に議論は種々に乱れ方針は決まらない。
ホーコン7世は政治に多大な関心を持つ息子のオラフ皇太子に任せようかと思案していた。
 
そうこうしている内に海軍がフィヨルドでドイツ巡洋艦を撃沈したことで強大な戦力を持つナチスドイツ軍はたけり狂い、首都オスロをめざして侵攻を進め、主要都市は次々と占領されてしまう。

戦場へ向かう兵士たちは皆若い。一人の少年兵が「国王のために戦います!」と叫ぶが、「私のためでなく祖国のためにドイツをやっつけてくれ」と返す。
未熟な若い兵隊たちは猛訓練で鍛えられたドイツ兵たちと戦火を交えて命を落とすのかと暗澹たる気持ちで送る国王の顔は険しい。

この時68歳のホーコン7世を演じるイェスパー・クリステンセンは69歳。
「007」シリーズの悪役ミスター・ホワイトや、「僕とカミンスキーの旅」などで知られる役者。
実年齢に近い、頬はこけ額の皺も深い痩身の老俳優で熱演し、その当時の国王に酷似しているようだ。黄土色の軍服と軍帽が良く似合う。

ナチスドイツ軍は降伏を迫るが、ノルウェーの内閣と議会は議論百出の上一応は拒否する。
国王、ホーコン7世は立憲君主制を守りノルウェーの独立を保つためにドイツの要求をことごとく跳ね除けプレッシャーに耐える。

ここで道化ものが登場する。
ナチスドイツ軍は再度降伏を求めるべく、ドイツ公使、クルト・ブライアー(カール・マルコヴィクス)を使者として国王ホーコン7世への謁見を要求する。
小国ノルウェーの公使など小物の政治家の仕事。

そのブライアーに総帥ヒトラーから直々に電話がかかって来るから慌てるのなんの。
受話器を取って直立不動、「ハイル、ヒトラー!」と大声で応対。

ドイツ軍はノルウェーに対し降伏を要求し、ドイツ公使ブライアーと国王ホーコン7世との謁見の場が設けられるが、ホーコン7世はその場で、ナチスの要求に従うか国を離れて抵抗を続けるかの選択を迫られる。国民と家族のために結論を出さなくてはならなくなる。

ブライアーは戦後ソ連に捕らえられシベリアで重労働8年の刑に服し帰国したとエンドクレジットに流れる.

ハリウッド映画なら如何に小国が戦争大国と戦ったかを華々しく描くところだが、
エリック・ポッペ監督は戦争アクションより、国王と内閣や息子の皇太子との議論・ディベイトに終始する。

この国をどう救おうか国家を維持するにはどうすれば良いか?

主人公のホーコン7世を脇で支える皇太子、オラフは「コン・ティキ」などのアンドレス・バースモ・クリスティアンセン、
ドイツ公使、ブライアーは「ヒトラーの贋札」などのカール・マルコヴィクス。

監督と脚本のエリック・ポッペはオスロ生まれの57歳。ジャーナリストのカメラマンや撮影監督を経て98年に「バンチ・オブファイブ」(未)で監督デビュー自伝映画「おやすみなさいを言いたくて」で数々の賞を受け注目された。

実話だけに感銘深く、77年前のヒトラーの脅威に晒される小国の恐怖を生々しく伝えてくれる。

12月シネスィッチ銀座にて公開される

「赤い襷」(日本映画):世界遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」。その製糸場に携わり明治政府の富国強兵の国策に尽くした工女たちの血と汗と涙の物語

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2014年、世界遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」。その製糸場に携わり富国強兵の国策に尽くした工女を描こうと言う意図は良く理解できる。
制作は富岡市と富岡製糸場映画製作委員会。低予算で一生懸命に記録に残る映画を作ろうとしたのだろう。

 しかし余りに稚拙な本に演出、素人に毛の生えた程度の出演者たちでは映画の体をなしていない。
普通映画の終わりに監督XXXXと大書した名前が出るのだがそれが無い。
ドラマ監督、足立内仁章とドキュメンタリー・ディレクター、路川敬の2名が挙がっているが、誰が全体を一貫して演出したのだろう?

肝心の脚本家の名前も見当たらない。
企画製作・富岡市で製作総指揮は岩井賢太郎とあるが岩井さんは何処の所属で映画の経験はどれほどあるだろう?

キャストが素人集団だと思ったら、スタッフはそれに輪をかけたド素人なんだろうとプレスから想像される。

誰がどう作ったかはどうでも良い。
実際にスクリーン上の作品がしっかりし見応えがあれば文句は言わない。
富岡製糸場の生い立ちとその歴史は興味がある。

明治6年(1873年)春、長野県松代区長の娘・横田英(水島優)は反対する父を説得し、松代と新しい日本の為、同郷の河原鶴(吉本実優)らとともに富岡製糸場に工女として峠を越え3日を費やしてたどり着いた。

明治政府は英や鶴が工女になる1年前の明治5年、群馬県富岡市に西洋と日本の技術を融合した世界最大規模の製糸工場を設立したが、そこで働く工女集めに難航していた。

フランスから招いた「生糸の神様」と呼ばれる紳士のポール・ブリュナ(ジり・ヴァンソン)をはじめとするフランス人たち赤ワインを食事に飲む風習を見て「生き血を抜かれる」というバカげた根も葉もない流言飛語が全国に広がっていたからだ。

それより僅か20年前の1853年7月に浦賀に入港したぺリル総督の蒸気船で徳川幕府のお歴々があれ程騒ぎ恐れた後の唐人たちと赤ワインに庶民少女たちだから噂話に惑わされるのも無理もない。
英や鶴はそんな「風評」を吹き飛ばすためにやって来たのだ。

しかし、製糸場に到着した英が目にしたのは、これまで見たこともない別世界、美しいレンガの建物とピカピカの銅製の器械、そして西洋式の労働環境の中で真摯に糸を引く先輩工女たちの姿だった。

全国から集まった工女たちは、紅い襷を掛けることが許されている一等工女になり、一日も早く技術を習得し故郷に戻ることを夢見ていた。

分からないのは一等工女とか二等工女の認定や基準は何か?
どうして試験も無いのに誰がどう決めるのかと言う点。

工場内で工女たちの間を経めぐり目を光らせているフランス人教師、アレキサンドリーヌ・バラン(太田緑ロランス)が一人採点をしているのだろうか。
女工たちの、命である成績簿なのだから明確にすべきだ。

先輩工女たちの勤労態度とその姿に刺激された英と鶴らも、「一等工女」のみ許される「紅い襷」を皆で目指すことを誓った。

だが現実は甘くない。フランス人教師、アレキサンドリーヌ・バランの厳しい指導での容易ではない糸取り作業、時には出自の待遇の差、苦労の連続だった。

冷酷で峻烈なアレキサンドリーヌ・バラン嬢は端正な容姿で美しい。だが蒸気立ち込める薄汚い工場内をローブデコルテとは言わないが上流社会のダンスパーティに着て行くような華美なドレスを毎日着て女工を監視しているのだろうか?
作業服を普通なら身に着けるね。

細かなことはさて置き、富岡製糸工場は、かつて日本人とフランス人の女性がともに、時代を切り開いた歴史上のエポックなのだ。

明治初期、日本の近代化を大きく牽引した輸出品は重厚な機械や兵器ではなく、しなやかな「絹」だった。
そしてその生産を支えていたのは、地方から集まった名もなき女性たちの手であった。糸をひき続けた若き工女たちと、フランスから、製糸業を通して日本の近代化に尽力した、製糸場の首長ポール・ブリュナとエミリ夫人、そして厳しくも温かいフランス人女性教師バラン嬢。
工女たちも病に倒れたり、長州藩と小藩子女などの軋轢など、それぞれの不安や葛藤を抱えながらも、次第に身分や国境を超え、近代化という扉を自ら開いた先で手にしたものは、
「日本の国益」に大きく利するものだった筈だ。

その点を映画の中でもっと強調すべきだった。

出演者たちは主演の水島優をはじめとする素人集団。芝居の稚拙さに目を瞑って良いがもう少し美人を見付けられなかったのか?彼女には「華」が無い。

50年後の英(和田英)役を大空真弓、製糸場長・尾高惇忠役を西村雅彦、渋沢栄一役を豊原功補などプロの役者が顔を出すと落ち着く。

原作は和田(旧姓横田)英の追想録「富岡日記」をベースにして、新しい知見も加えた富岡製糸場での工女たちの生き様と実態の物語を映画化した「赤い襷」。
近代工場制度が日本に初めて導入された中での若い女性の活躍に加え、政治的には明治維新を成し遂げた薩長土肥の勢力が政府を動かしていた時代に、長州から来た女性たちが威張りまくるのを信州松代藩出身の横田英が踊りなどでリードをとりけじめをつける場面などもあるが、さっと描かれるだけで観客には確執は分からない。

このような消化不良のエピソードがいきなり現れるのに戸惑う。蛇足だが私はこの週末「松代温泉」に行って来た。女性たちは今でも松代訛りがある。NHKのアナウンサーもビックリの英や鶴の標準語は何とかして欲しい。

この映画は長さを半分以下にして、世界遺産の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の観光客に見せるべきで、大都市の映画館で上映するレベルの作品ではない。

12月2日より渋谷シネパレスにて公開される。 

「女の一生」(Une Vie)(フランス映画):幸せいっぱいの清純な乙女が詰まらぬ男に引っ掛って一生を送る。

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去年夏にビックカメラで買ったキャノンのジェットプリンターが最初から頻繁に紙詰まりを起して調子が悪い。それでも騙し騙し使っている内に動かなくなった。電源が入らないのだ。
サービス番号6000がでて指示通りキャノンマーケティングサービスに電話を入れた。
修理なら13000円を越し、ヤマトで送り返りで14000円を超す。

高いな、と洩らすと、待ち構えたようにコールセンターの親切な若い魅力的な声の女性が
「それなら」と新型TS6030を購入なさったら如何ですか?と。
価格は佐川(ヤマトから変わる)の送料を含めて15500円。小型になりインクはそのまま使えて、保証も2年つくと。修理だと1週間以上かかるが明日にはご購入製品はお届けできます。
結局乗せられて買ってしまったが悪い気がしないのはどうしてだろう?


フランスの文豪ギイ・ド・モーパッサンが1883年に発表し、映画化されやすい題材なので一世紀の間何度も制作されてきた。
何を今更と言う感じだが、飽きもせず「女の一生」を、新たな作品として鑑賞すると別の味わいもある。

 最初に驚くのはスクリーンのサイズだ。前の座席の人の頭の右側が高いなと思っていたらスクリーンが頭を避けて画像が出る。横にひろがるシネマスコープでなくてもヴィスタサイズでもない昔ながらのスタンダード(1.33:1)になっている。先週IMaxで見たばかりなので小さい小さい。

原作は19世紀末の古典なんだと視覚面で思い知らされる。

1819年、ノルマンディー。男爵家の一人娘、17歳の少女ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は修道院の寄宿学校から戻ったばかりの清純の処女。
彼女はこれから始まる自由な暮らしへと心踊らせながら、父(ジャン=ピエール・ダルッサん)と菜園の苗に銅製のジョウロで水やりをしながら田園生活を満喫している。
やがて、彼女が住むレ・プープルの屋敷近くに引っ越してきたジュリアン・ド・ラマール子爵(スワン・アルロー)が男爵である父と連れ立って彼女のもとを訪れる。麗しい美青年ジュリアンとジャンヌはすぐに打ち解け、急速に互いに惹かれ合っていく。
これがジャンヌの運命の別れ道になり「女の一生」を方向づけることになるとは知る由もない。

その後2人は「ずっと一緒よ」と結婚すると、あふれる愛に妻のジャンヌは幸せの絶頂にいた。
しかし季節が秋に移ろう頃、過度の倹約家であるジュリアンは、ジャンヌが寒がっても暖炉に薪を焚べるのさえ渋るようになり、妻であるジャンヌに対し愛情より倹約をして金を貯めると言うことで,夫がジュリアンを無くしたことにほかならない。
詰らぬことが契機になるもんだ。

さらには、ジャンヌは女癖が悪い。乳姉妹として育った女中のロザリ(ニナ・ミュリス)に手を付け、ジュリアンの赤ん坊を身ごもっていた。更にジュリアンはロザリのことを冷淡にも追い出そうとする。
混乱で暗くなったジャンヌの気持ちを一新させてくれたのは、フールヴィル伯爵(クロチルド・ペリエ)夫妻だった。特に伯爵夫人(クロチルド・エム)との交流はジャンヌにとって救いになる。
そんなある晩のこと、夫ジュリアンは伯爵夫人と断崖の上の小屋で情事に耽っているところを伯爵に見つかり伯爵は小屋ごと2人を断崖絶壁から海におとして死なせてしまう。

これで未亡人になり落ち着いた生活が送れると思うのも束の間、2人の間に残された息子ポール(フィネガン・オールドフィールド)がジュリアン以上に手に負えない。パリで放蕩生活を送り借金の山をこさえ、農園から土地まで売り払う羽目になるが、ジャンヌの一生は夫と息子で完璧に破壊しつくされる。

モーパッサンの凄いのはどうしようもない土壇場で一瞬の内に救いの光を投げかけることだ。ネタバレになるから詳細は触れないがやはり名作の映画化と言う印象は残る。

監督はステファヌ・ブリゼ。共同で脚本の執筆をしたフロランス・ヴィニョンからモーパッサン原作本『女の一生』を薦められたのは20年前。19世紀の四季折々のノルマンディーの美しい風景を映像美で見せてストイックなまでの挑戦的な表現方法で作品を完成させました。ただ撮影監督アントワーヌ・エベルレのハンディ・キャメラは落ち着かなくてイケナイ。

主人公ジャンヌを演じ切ったジュディット・シュムラ(Judith Chemla)は、1985年7月5日生まれのフランスの女優。自身で作詞もする歌手でもある。美しいし一生の60年を演じ切る熱演に感動する。

12月9日より岩波ホールにて公開される。

「52Hzのラヴソング」(52Hz, I Love You)(台湾映画):バレンタインデイの群像ミュージカル。エピソードは浅くキャラクターも薄いが、全編に流れる甘いラブ・ソングが欠点を補い余りある

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見ているうちに2010年のアメリカ映画「バレンタインデー」(Valentine's Day)を思い出す。
ロサンゼルスに住む10組の老若別々のカップルのさまざまな男女のそれぞれのバレンタインデーをグランド・ホテル形式で描いたラブコメディ。
監督は「プリティ・ウーマン」のゲイリー・マーシャルだったが余りヒットしなかった。

その台湾版でミュージカル形式にしたのがこの映画だ。
その上「バレンタインデー」 +、今年のオスカーを総ざらえした「LA LA LAND」をミックスした作品のように思える。

監督のウェイ・ダーションは僕の一番お気に入りの映画作家だ。
ダーションは心の底から日本を愛してくれている。
台湾映画史上最高額を投じたアクション大作で日本統治下時代の抗日暴動・霧社事件を描いた「セデック・バレ」2部作でも、一部に悪い日本人に怒った高砂族などの原住民が暴動を起こすが大部分の日本人は心根が優しいと言う描き方だ。

他にヒットした「海角七号 君想う、国境の南」や製作・脚本で参加した永瀬正敏主演作「KANO ~1931海の向こうの甲子園~などは本当に日本と日本人を愛してくれている。

その台湾のヒットメーカー、ウェイ・ダーションが6年ぶりにメガホンをとったラブストーリーと言うだけで大変な興味が湧く。
もっとも、この作品ではレストランチーフ役で女優、田中千絵が演じる以外は、日本は直接関与して来ない。

舞台はバレンタインデーの台北。
書き入れ時の花屋にはいろんな人々がやって来る。
プロポーズ用の花束を注文する男性、ダーハー(スミン)、台北市が主催する合同結婚式に向かう女性同士のカップル、メイメイ(リー・チェンナ)とチーチ(チャン・ロンロン)。

だが一緒に過ごす恋人がいない淋しい花屋の主人、シャオシン(ジョン・ジェンイン=ex.katncandix2)と、同じように片想い相手にチョコレートを作る孤独なパン屋職人・シャオアン(リン・ジョンユー)が接触事故を起こしたことから、仕方なくバイクで一緒に両方の配達をすることになる。
一方、同棲10年目になるミュージシャンのレイレイ(チェン・メイフィ)と2人の生活を支えて来た公務員のダーハー(スミン)は、別れとプロポーズという正反対の思惑を抱えながらバレンタインの朝を迎えていた。

台湾の音楽事情に疎いので僕は良く知らないのだが、出演者は皆ミュージシャンでシンガーソングライターも多く素晴らしい声にメロディアスで印象的な曲を披露しながら、夫々のエピソードを群像劇として展開する。

その中で極楽トンボのシンガーソングライターのレイレイと、10年間にわたり同棲しながらレイレイを支えて来たダーハーのエピソードが泣けるし感動的で最後のカタルシスが暗雲を吹き飛ばす。

豪華なライブショウレストランでレイレイは浮き浮きしてダーハーに話しかける。7時半にある切っ掛けでプロポーズしようとしているのだ。しかしダーハーは10年間の同棲生活を公務員の給与で支え続け疲れ果てている。今晩は食事の後キッパリと別れようと固く心に誓っている。
だから2人の会話は噛み合わない。レイレイは結婚後のバラ色の生活を夢見ながら興奮して語り、ダーハーはレイレイの身に着けているもの総てを、自分が受け取った婚約指輪だって私が払った。まして今晩のこんな豪華レストランの支払いは誰がするの?
飛び出し駐車場の大きな車に座るダーハーに「仕方ない。告白しよう。僕の歌が大きな賞を取ったんだ」別れる決心をしているダーハーは聞く耳もたない。

「米ドルで3万だよ。90万元になる」
「私の抱えている借金はそれより多いわ」
「これがスタートでビッグに成れる僕は稼ぐよ」

ライブショウでは舞台に上がったバンドのメンバーがレイレイを探している。本人が登場しないので受賞曲を演奏し始める。

そのレストランは花屋の主人・シャオシンとチョコレート職人・シャオアンの最後の届け先だった。

ほかのクジラとは鳴き声の周波数が違うため、ひとりぼっちで大海をさまよっているといわれる「52ヘルツの鯨」からとったと言う。誰もそんなクジラのことは知らないし変なタイトルに目クジラを立てる人もいない。

メインキャストは台湾で活躍するミュージシャンたち。役者としても一流の演技を見せる。プレスによると、台湾の人気バンド宇宙人 (Cosmos People) の作詞・作曲およびボーカル&キーボードを担当するシャオユーを始め、元・棉花糖のシャオチョウ、「KANO」で主題歌を歌ったトーテムのスミン、小男孩樂團のミッフィーなど台湾の人気スターが勢ぞろいだそうだ。

2時間近い内容もエピソードは浅くキャラクターも薄いが、何よりも全編に流れる身体が溶けてしまいそうな甘いラブ・ソングで補って余りある。何しろ最後は総て上手く収まるハッピーエンディングだから。

12月16日より渋谷ユーロスペースにて公開される。

「アランフェスの麗しき日々」(Les Beaux Jours d’Aranjuez)(仏・独・ポルトガル映画):美しい夏の午後、遠くにパリの街並みが霞んで見える丘のテラスで、中年男女の延々と続く会話劇

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72歳のドイツ生まれのヴィム・ヴェンダース監督は3歳年上の75歳のオーストリア人の文学者、ペーター・ハントケを気に入っている。

72年の「ゴールキーパーの不安」から始まり、「まわり道」(75)などやカンヌのパルムドールを獲得した「ベルリン・天使の詩」(87)以来となる5本目の30年振りのコラボレーションは12年の舞台劇「アランフエスの麗しき日々」だ。

三一致の舞台劇でパリ郊外の田園地帯にある邸宅とその広い庭園で
が舞台。手持ちの3Dカメラが360度回転して4人の登場人物を捉える。画面はスタンダードサイズだ。スぺクタル大作でもないのになぜ立体か分からない。
美しい緑に囲まれた庭で白いテーブルと椅子に座った40台とおぼしき中年のカップルが際どい会話をしている。

原作者アントケがこの作品を「夏のダイアローグ」と呼んでいるように殆どをフランス語でそれを早口で喋るので忠実に追う字幕(日本語も英語も)読み切れない長さだ。目の悪い僕は半分しか読めない。
白い服に口髭の男、レダ・カテブが聞く

「君の初夜は何歳の時?」
「夜で無くて昼。それにわ太氏は男でなくて女で性の意識もない9歳の時よ」と答える白のツーピースをピッタリと着こなすソフィー・セミン。

真夏の庭園は俗世間から切り離された「エデンの園」のように「現実離れ」のように思える。深緑の林と草に鳥の鳴き声、花の香りが漂う。

ここから哲学的な会話に入って行くが、喋るのはソフィーで女「女性」(Woman)であることの実感。男は駒鳥(ロビン)や野イチゴの香りや古いスペインの城のことなど他愛のない話題。

庭に向って大きく開け放たれた静かな書斎では作家(イエンス・ハルツ)が一人電動以前の手打ちタイプライターで小説を書いていると言うか、庭園の2人を観察している。2人のセリフを書いているようにも見える。

もう一人世界的に熱狂的ファンを持つニック・ケイヴがピアノをソロで弾き歌う。
ケイヴの演奏は長くない。廊下に置かれた大型のミュージックボックスから絶えず流れる音楽が作品の底流を流れる。

冒頭タイトル前の「完璧な夏の日」はデイヴィッド・ボウイの歌声から始まる。
耳に慣れ親しんだポピュラ―な曲は難しいテーマの間を埋めてくれる。

他にルー・リードの名曲「パーフェクト・デイ」や、画面のニック・ケイヴがピアノで甘く「イントゥ・マイ・アームス」を弾き歌う。ガス・ブラックの「ザ・ワールド・イズ・オン・ファイア」で締めくくる。

第73回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品作の「アランフエスの麗しき日々」は、ヴィム・ヴェンダース監督にとって初のフランス語映画であり、「生涯で初めて100%自分の思いのままに撮り上げた映画」と語る。

しかし商業性の無い稀有で典型的なアートフィルムでもある。

主演の男役はベルリン国際映画祭でオープニング上映作品で、このブログでも紹介した伝説のジャズギタリスト、「永遠のジャンゴ」や「預言者」などに主演したレダ・カテブ。

女性役はヴェンダース映画は「愛のめぐりあい」に次いで2本目となり原作者ペーター・ハントと結婚しているソフィー・セミン。

作家役をバイエルン国立歌劇俳優のイェンス・ハルツが演じ、熱狂的なファンをもつシンガーソングライターのニック・ケイヴが特別出演している。

12月16日よりYEBISU GARDEN CINEMAにて公開される

「アウトレイジ 最終章」(日本映画):「全員悪人」の「アウトレイジ」三作目。大胆不敵で一匹狼の大友はガンクレイジーの市川の助けを借り巨大なヤクザ組織に戦いを挑む

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10月7日から登場して3週間。デビュー週末はトップだったものの3位になりえ5位に落ちた「アウトレイジ」は、3作目で最終章は累計興収12億円を突破している。

だが12年に公開された2作目の「アウトレイジ ビヨンド」が14億5千万円の興行収入を記録しているからこの現状では残念ながら追いつかないだろう。

昨日(28日)の11時からの回を覗いて見た。丸の内ピカデリー2は1/4の入り。

「全員悪人」のキャッチフレーズで、
2010年公開の第1作目「アウトレイジ」は、巨大組織である「山王会」の内部抗争でのヤクザ同士の無残な殺し合いに驚いた。
タケシは山王会の三次団体大友組組長で規模こそ小さいものの武闘派として名を知られ下剋上で上の組織を潰す。

続く2012年の「アウトレイジ ビヨンド」では5年が経過しており、出所した大友はヤクザ稼業から足を洗う積りが、関東の「山王会」と関西の「花菱会」それに警察とのメガ戦争に巻き込まれ、陰謀や裏切りの中で流血の大惨事を巻き起こす。

普段の言動もユーモアたっぷりだが荒っぽく乱暴な北野武が本を書き映画にすればこうなるだろうと観客が思う通りの出来栄え。

子どもには見せられないR-15指定 で、ファミリー映画になり得ない。だからローカルのシネコンでは上映できないものの、都市の大劇場にケシファン軸の大人の動員で大ヒットとは行かないが制作費を賄い幾分利益が出る程度のシリーズで3作目を迎えた。

ビヨンドで新たに登場した関西最大の勢力を誇る「花菱会」。花菱会の布施会長は殺され、その花菱会の新会長の野村(大杉漣)は威張るだけで子分たちの人気は無い。

若頭の西野は死んだ筈だが生き返り勢力を振るう。狡猾でずる賢い、人を食ったような態度で大友のことも一チンピラとしか見ていない。

やがて野村を蹴落とし頂点に立つ西野を演じる西田敏行は面やつれして凄みが出ている。画面に登場するだけで重みを感じる。

「全員悪人」のキャッチフレーズは続く。
しかし驚くね、絶えず怒鳴り合いながら、二言目には「バカヤロウ!」「コノヤロウ!」の繰り返し。ヤクザは(北野武は)語彙が足りない。

強力な個性を発揮する西野と並んで若頭補佐の中田(塩見三省)や会長付け若頭補佐・森島の岸部一徳。加えて、物語を大きく動かす直参幹部の花田はピエール瀧。
彼は電気グルーヴとして音楽活動もしている。

これら個性的な部下たちを束ねる力量が新会長野村にあるかどうかが映画の展開とともに明らかになる。

済州島を手に入れたい花菱会と韓国勢・済州島グループの対決が前半のメイン。張会長(金田時男)に信頼の厚い大友が幹部の崔(津田寛治)や市川(大森南朋)と共に韓国勢の部下を殺して騒ぎを起こした花菱会の花田と抗争を始める。

出所後日本に居づらくなり張大成を頼った大友が当然のように韓国勢に手を貸し、共に花菱会に対峙する。

エピソードの発端となる韓国の済州島グループの市川は済州島から帰国した大友を助け共に花菱会と戦争に突入する。大友が花菱会を嫌うのは「関西弁が嫌なんだよな」と単純。

市川を演じる大森南朋が無口で髭もじゃだが武器の趙達や扱いに優れ大友の盟友として活躍する。

誰と誰がどう言う因縁でどう結びつきどう対抗しているかは複雑過ぎて書けない。
これに警視庁のマル暴、組織暴力対策部の菱田刑事(松重豊)が死んだ片岡刑事(大日方文生)の敵討ちの執念を持って大友を追い回すからややこしい。

ストーリーは飛躍し納得性の行かない部分はあるが、
ともかくガンクレイジーの大友と市川が拳銃ばかりかトカレフや軽機銃などでやたらと殺しまわるのはタランティーノもビックリだ。

殺害方法が凝っている。嫌われ者の新会長・野村は森の中の車の往来がある小道にクビだけ出したまま生き埋めにされ、暗闇の中ベンツに敷かれる。

若者頭の中田は趣味のSMプレイでベッドに手枷足枷で繋がれているところを襲われ花火を口一杯に詰め込まれ導火線に火を付けられやがて爆破される。

殺人をユーモアたっぷりに描く北野監督の狙いは「バイオレンスエンターテイメントの世界を表現したい」だと語る。

そう映画ってものは見て楽しめればそれで充分だ。

丸の内ピカデリー2他で全国公開中
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