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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「おじいちゃん、死んじゃったって。」(日本映画):祖父の死で葬儀に集まった春野家の人々。長男・昭雄と次男・清二の犬猿の仲を軸に激しい憎しみと罵り合い。果たして春野家の人々にリユニオンの機会はあるのか?

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34年前の映画「再会の時」(The Big Chill)は今でも強い印象に残っている。
主人公ハロルドとサラ夫妻は、電話で友人、アレックス友人の死を知らされ、そして彼の葬儀で大学時代の友人たちと15年振りに会うところから話が始まる、ローレンス・カスダン監督、ケビン・コスナーとグレン・クロース主演のこの映画は、それから葬式映画の元祖的役割を果たす。

今日紹介するこの作品の舞台は九州のどこかの田舎の町になっているが、ロケ地は熊本南部と鹿児島、宮崎と県境を接する熊本県人吉市だ。人口は3万4千人。

見渡す深緑の水田の中に川が蛇行し住宅がポツリポツリと建っている。
最近の映画は、空撮が多く、水田を低く舐めるのもドローンが多用されているからだろう。
映画が立体的な広がりを見せるのは喜ばしい。

冒頭は若い男女が真昼間からセックスに励んでいる。
そこへ電話のベルが,行為の途中未だイッテない男,圭介(松澤匠)は無視だが下に敷かれた春野吉子(岸井ゆきの)は中断して電話を取るとそのままベランダに出て庭で木に水をかけている父,清二(光石研)に声をかける。

「おじいちゃん、死んじゃったって。」

祖父、功(五歩一豊)の病室では清二が兄の昭男(岩松了)と葬儀の段取りでもめている。互いに親父のことを大切にしなかったと非難し合う。この兄弟の仲の悪さといがみあいが映画を引っ張る。

「みんなもたいして悲しそうじゃなかったですね」と病院の屋上で昭男の別れた妻、野村ふみ江(美保純)が連れたセーラー服の千春(小野花梨)が吉子が抱いている考えと同じことを言う。二人でうまそうに紫煙を空に向かって吐く。

祖父の葬式を実家で行うことにし、自宅へ運ぶとそこにはボケて自分の息子たちを「どなた様?」と問う祖母ハル(大方斐沙子)がいる。

集まった親戚の目の前でスカートを上げオシッコを畳の上にしてしまう程、
痴呆症は進行している。どこの介護ハウスも満員で空室待ち。どう押し込むかも家族には大変な問題だ。

東京の大学へ通う吉子の弟、清太(池本啓太)も帰って来た。親戚には黙っているが、父、清二はリストラされ再就職もままならず学費も払ってもらえるかどうか頭が痛い。

昭男の長男、洋平(岡山天音)は引き籠りの浪人生だが母、ふみ江に無理矢理連れ出され通夜に参列する。

真っ赤なフェラーリが春野家の庭に颯爽と入って来る。
降り立った中年の美人は昭男と清二の妹、薫(水野真紀)だ。
独身で地位も名誉も金もある薫は男など不要だと広言してはばからない。
ただ子どもだけは欲しいと。

工場の万年工員で下っ端の長男昭雄は清二がクビになり今後立ち行かなくなったことを非難するが、才覚も無くうだつも上がらず一生下働きの工員で終わる昭雄に言われたく無い!と取っ組み合いの大喧嘩。

香典が盗まれたり親戚同士でいがみ合い罵りあいの通夜を終え、一行は火葬場で最後の見送り。
一瞬正気に戻った祖母、ハルが火葬されている夫に向かい「お爺ちゃん!」と絶叫するのに驚かされる。

翌日薫はハルをフェラーリに乗せ老人介護ハウスへ向かう。
涙を流しながら薫はハルに声をかける。

「ごめんね、お父さん,死んじゃたって。」

どたばた騒動を描いていても映画の質は上がらない。
脚本の山崎佐保子と監督の森ガキ侑大は主人公吉子をインドへ送り込む。

森ガキはCMの世界が長く映画は初めて。
カッコつけてスタイリッシュに撮ろうとして変な省略やインドロケなど文脈に関係無いものを入れようとする。

30年前の「再会の時」とは比べるべくもない、かなりレベルの低い作品になってしまった。

余り気張らずバラバラ家族のリユニオンを単純に地道に描いて欲しかった。

NHK大河ドラマ「真田丸」で売り出した旬の若手女優・岸井ゆきのを主演にしたのも間違いだ。名前ばかりで演技力が無い。

祖父の葬儀をきっかけにそれぞれの事情を抱えた家族たちが久しぶりに顔を揃え、それぞれが抱えるやっかいな事情が明らかとなり、それぞれが本音をさらけだして互いに相手にぶっつけて戦う内に本当の家族として未来へと踏み出していく。

このテーマに絞り込んで仕上げるべきだった。終わって見てケジメが付いてない問題がいくつも残っている。吉子の訃報の最中に圭介とセックスに励んでいたという思いが忸怩としてトラウマになるのは着想として面白い。

それを解消しようと田圃の真ん中に軽トラを止めてリターンマッチは愉快でこれはケジメがついている。
しかしインドでは死体が道路に転がっていて犬が食うなんて出鱈目を検証のため遥々インダス河を訪ねる旅に出るのは、やり過ぎだと思う.。

11月14日よりテアトル新宿ほか全国公開となる。

「月と雷」(日本映画):幼い時に互いの連れ子として半年仲良く遊んだ康子と智。大人になって出会った二人に昔の感情が戻って来る

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 冒頭の乱雑な部屋で小学生1年生の男の子と女の子がかくれん坊や鬼ごっこをしてはしゃぎ回っている。女の子は「背中から抱きしめられる」などののが好きだ。
背景の台所では顔が見えないが中年の女性が食事の支度の最中。

後年、部屋はキチンと整理され誰の姿も見えない。
幼いころに母親が家を出て行って以来、一般的な家庭を知らずに育った泰子(やすこ)(初音映莉子)は、スーパーのレジ係として働いている。
彼女は亡き父(村上淳が)残した家と職場・スーパーを往復する毎日を送っている。
スーパー出入りの食品会社の山信太郎(黒田大輔)に惚れられ結婚の約束をしている。

そこへ突如、智(さとる)(高良健吾)が姿を見せたことにより、彼女の生活は一変する。
智こそ半年と短かったが仲良く遊んだ男の子だ。康子の父親の愛人,直子(草刈民代)の息子だった。直子が父を追い出して、智と康子の3人は一緒にくらしたのだ。

智は何の仕事をしているか分からない、自転車に飛び乗り自宅を目指す康子をただ夢中になって「康子ちゃん、康子ちゃん!」と子供のように追いかけてくる。
仕方なく自転車の荷台に乗せて自宅に戻る。

懐かしい昔の家に感激する智にいつしかほだされ昔みたいに「背中から抱いて」貰って肉体関係を持ってしまう。
フィアンセのいる女が幼馴染の男にほだされアッという間にセックスに至る微妙な描写を安藤監督は巧みに演出している。

フィアンセの山信太郎はスーパーの裏庭に車をとめ冷たくなった康子に迫るが厄介なだけと逃げてしまう。妊娠した康子と智はそのまま暮らしているがやがて智の母直子がふらりと現れ住み始める。

康子は実の母親(服部まこ)に会いたくTVの尋ね人で探してもらうがフッドコーディネータとして成功し亜利砂(藤井武美)と言う娘を設けている。
康子は全く知らない異父妹に戸惑うが、亜利砂は素直な良い子だ。
カレーライスが大好き。つわりが酷い康子は匂いを嗅いだだけでトイレへ駆け込む。

主人公は何となく民代に移って行く。
男から男へとの暮らしは自然の流れ。「気の合った男に会えば前の男と別れその男と暮らす。

智や康子と暮らし始めても整理整頓は出来ず乱雑で気ままに暮らしている。
草刈にどうしてファムファタールのような魔力があるか分からない。
康子の家に未練たっぷりの石屋、岡本(木場勝巳)も押し寄せてくる。

ある朝出勤途中の康子はカバン一つを持った直子と出会う。もうあの家を出る時期だと。自分と智と智のお母さん、3人仲良く暮らしているのに何が不満か?一緒にずっと居ようよと説得するが無駄。
誰も愛さず誰も憎まず、人生を漂流するだけの直子の生き方は今更変わらない。

残された智と子供が生まれる康子の将来は順風満帆かと言うと、保証できないことをラストシーンは示唆する。
 
主演の初音映莉子は「ノルウェイの森」などに出演したと言うが脇役なので馴染みが無い。美人でも無いし35歳と言う年増女優を何故主演に持って来たのだろうか?

相手役の「横道世之介」などの高良健吾が上手い。
母親と同様、能天気で人生に真摯に取り組まず安きに流れるように漂流している様を好演している。

ピンク映画出身の安藤尋監督は多作で詰らない作品も多いが著名な作家の原作を映画化した作品が光っている。
この角田光代の原作も瀬戸内寂聴の「花芯」もあるが秀作は中沢けいの「海を感じる時」だ。青春映画の典型のようだが深耕し素晴らしい作品に仕上げている。

脚色は、「人のセックスを笑うな」などの本調有香が直木賞作家・角田光代の同名小説のエッセンスを生かして巧みに絵に転化している。

10月7日より新宿テアトル他にて公開される。

「ポンチョに南の風が吹く」

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昨夕(1日)から会津高原温泉に来ている。
外国特派員協会(FCCJ)の仲間と「腱引き」の施術と講習を受けるためだ。

東武の特急リバティの車中や夕食の席で話題になるのは
1年後(18年9月)に移転が決まった馬場先門の東京商工会議所及び東京會舘の跡地に建つ新ビルへの移転のことだ。

現在FCCJが入居している有楽町駅前の電気ビルをたて直すことになり転居せざるを得ない状態に追い込まれている。

ところがFCCJでの窓口、移転担当のS氏は家主の三菱地所に利害関係があるらしく地所の言うなりに設計をのんで来たようだ。

気づいた在籍46年のメンバー、高橋淳一さんが異論を唱え始めた。

今まで20階にあったFCCJが何故5階6階と低層階で我慢しなければならないのか?
バーやレストラン(記者会見場を兼ねる)への廊下は狭くトレイを積んだワゴンがすれ違えない。
エレベーターは30階のレストラン街への直行は11時まで運行するがそれ以外は9時でストップだからFCCJの出入りは地下の駐車場経由でなければならない。

レストラン兼記者会見場は200人収容できるがウェイティングロビーは50人しか入れない。
レストランのトイレは男女兼用で1か所だけは常識外れだ。(欲しかったら完成後400万円補償するから自分たちで作れとの回答もナンセンスだと)
などなど要求を突き付ける。

三菱地所は既に設計は決まっており契約書にサインを貰っている。破棄するなら違約金5億円4千万円をはらわなければならないから契約を続行するとアソシエイトジェネラルミーティングで説明があった。

高橋さんは不動産会社で設計長と営業部長を経験した弟さんを連れてきてFCCJ理事会でボランティアとして正論を述べた。
そもそも三菱地所一社に決めてかかるのが間違いだと言う原点復帰まで示唆した。
しかし彼の正論はFCCJのHP委員会のS副委員長の策謀で無かったことにして抹消されている状態の中で突然の事故が起こる。

新ビル「(仮称丸の内3-2計画)」の入居予定の5階から作業員3人が転落して亡くなられた。
8月11日(金)の午後のことだ。

高橋さんは呆れる。
業界の常識では施主に報告謝罪し、事故現場で「お清め」をするだろう、指摘されるまで何もしないで、入居させるのは事件事故のあったアパートに契約済みだから大人しく入れと言われているようなものだ、と。

改めて他の入居先を考えるべきであり、三菱地所の頑迷固陋な態度を改めさせようじゃないか。
この問題提起を巡っては僕を含めてメンバーで賛成の手を挙げる人が大多数だ。

将来への希望を持つことができず、毎日をやり過ごしている又八(太賀)、ジン(中村蒼)、ジャンボ(矢本悠馬)の男子高校生三人組。
仲間の中田(染谷将太)と共に卒業式を乗っ取ってライブを強行しようと計画する彼らだったが、その前に高校生最後の旅に出ようと思い立つ。
高校生で18歳以下だから無免許だが、委細構わずジャンボの父親の車に乗って飛び出した三人は、行く先々でクセありワケありの人々と出会い、さまざまな出来事を体験しながら、それぞれ自分の生き方を見いだす。
やがて、中田が待つ卒業式に間に合うように車を飛ばしギリギリで卒業式に間に合う。卒業証書授与で壇上に飛び乗り校長からマイクを奪い、ライブが始まる。
これがデビュー作になる監督・廣原暁が、早見和真の同名青春小説を若手俳優で実写映画化。
主人公3人は初めて見る顔だが端役でいろんな映画に出ている。
「淵に立つ」の太賀がお調子者の主人公・又八役、
「東京難民」の中村蒼が知的でクールなジン役、
「ちはやふる」の矢本悠馬が心優しいジャンボ役だが、主役の3人とも気張りすぎて演技も素人同然だ。
ただ一人顔なじみは「ヒミズ」など染谷将太のみ。3人の帰りを待つ中田役を演じる。
他に刺身のツマ的出演でグラビアアイドルの愛役を佐津川愛美、風俗嬢・マリア役を阿部純子が演じる。

監督は、2009年自主制作の「世界グッドモーニング!!」で「ぴあフィルムフェスティバル」審査員特別賞を受賞した経歴を持つ廣原暁。
したがってこの作品が初の長編劇場用映画のデビューとなる。

10月18日より新宿武蔵野館にて公開される。

[アナベル 死霊人形の誕生)(Anabelle Creation)(アメリカ映画:荒唐無稽のホラーシーンの連続でバカバカしいが本当い怖い。

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昨日から会津高原温泉での「癒し健康法の会」で色んな施術を経験している。
足指マッサージ、足湯、腱引き、武術式骨マッサージ、などなど。その中で特異なのが「自然ヘナ・シローダ研究会」のストレス解消施術。インドの「アーユルヴェーダ」と呼ばれる知恵を通して健康作り、未病社会作りに励んでいる頭のマッサージから独特に開発した液体を30分以上かけて髪の毛に垂らし濡らす。終わってみれば頭はスッキリする。今朝もこれから昨日同様な様々な施術を受けることになる。


8月11日にアメリカで公開され週末BOのトップはWBとNew Lineのシリーズ4作目のホラー映画「Annabelle: Creation」は3,502館で公開され低レベルの35Mを挙の座についた。女性客が52%でマジョリティを占め、25歳以下は46%。

海外市場では39か国で開け35Mを挙げています。海外での累積は36.7M、ワールドワイド総計は71.7Mです。北朝鮮とトランプの狭間での韓国は6.6Mと好成績を挙げている。

時代は1940年代後半から始まり10年以上たった1950年代半ばから物語が動き出す。
幼い愛娘ビー(サマラ・リー)を事故で亡くす悲劇に見まわれた人形職人、サミュエル・マリンズ(アンソニー・ラパリア)とその妻エスター(ミランダ・オットー)の住む家が舞台になる。

悲劇から12年後、倒壊した孤児院のシスター・シャーロット(ステファニー・シグマン)と孤児院の少女たち7人が避難して来る。

暗い陰鬱なマリンズ家を明るくしてくれる少女たちの笑い声や話し声にエスターは力付けられる。
シスター・シャーロットは一番幼いジャニス(タリタ・ベイトマン)への細心の配慮を忘れない。ジャニスはポリオ(急性灰髄炎)にかかっており他の5人と同じように走ったり動いたりできないばかりか動くことさえままならない。

ジャニスは死んだビーの部屋が気になりそこへ忍び込んでしまう。
人形のアナベルがロッキングチェアに座ってギーコギーコ言わせている。
これが怖い。悪魔みたいに少女たちに憑依するのでは無い。怪奇現象が次々と起こるのだ。ジャニスの親友リンダ(ルル・ウィルソン)は悪の元凶はアナベル人形だと古井戸に放り込むが逆襲にあって井戸へ引きずり込まれそうになる。

シスターに助けられ家に戻ると阿鼻叫喚の世界。究極は隣部屋に人形つくりの奥さん、ミランダが胴体を切断され磔刑にされている。そして少女たちは職人の作った単なる「人形アナベル」に狙われ襲われ、恐怖の呪縛に次々と捉えられていく。

荒唐無稽のホラーシーンの連続でバカバカしいが本当に怖い。椅子から飛び上がり悲鳴を挙げそうになる。

WB国内配給社長ジェフ・ゴールドスタインも「こう沈滞した市場で30M以上も稼げたことだけでハッピーだ」と語っている。

ワーナーブラザーズは「Wonder Woman」「Dunkirk」そして「Annabelle: Creation」と熾烈な夏シーズンで3本が首位を取り他社が苦しんでいる中、今年は良い年だった。

昨年(16)の「The Conjuring 2」の週末デビューは40.4M、最終のワールドワイド総計は320.3Mだった。
翌週も2位は2週目のWBとNew Lineのシリーズ4作目のホラー映画「Annabelle: Creation」は3542館で15.5M。

前週より56%の低落(ホラー映画としては低いダウン数字)。
海外市場では56か国で累積96.7M。グロ-バル総計は160.7M.

3週目も2位で、3週目のWBとNew Lineのシリーズ4作目のホラー映画は3565館で7.4M。17日間の累積は北米で77.9M、ワールドワイド総計は215M(237 億円)と言うから他の大作がこける中低予算のホラー映画なりの立派な成績を残している。

全世界興行収入がシリーズ累計1000 億円以上の大ヒットを記録し、現代ホラーの定番となった「死霊館」シリーズ最新作で、アナベル人形の原点となる作品だ。

製作総指揮は中国系オーストラリア人、ジェームズ・ワンは「ワイルド・スピード SKY MISSION」をシリーズ最高のヒットに導いたメガヒットメーカーとしても知られている。

そんなワンが、自分が始めた「死霊館」の世界をさらなる拡張を図った。みなぎる才気に加え、そこには身の毛もよだつほどにスリリングな展開が見て取れるに違いない。

監督はワンの弟子の一人、デイビッド・F・サンドバーグ。師匠とは「ライト/オフ」に続くタッグとなる。

「死霊館」(13)に登場し、全世界に鮮烈な印象を与えた実在の人形「アナベル」。
今でもアメリカ、コネティカット州のオカルト博物館に厳重に保管され、月に2回、神父が祈禱しているという。

その人形の原点を探る「アナベル 死霊館の人形」(15)では呪われた本性を見せ、観客を恐怖のどん底に突き落とした。

助けを求めてもその声は届かず、祈りも十字架も役に立たない。究極の恐怖。視覚聴覚、蝕覚を刺激する演出はオーバーだが怖い。

弱みを見せたら、最後。怖がるほど憑いてくる。
逃げ場のない館で狙われた6人の少女とシスター、アナベルは容赦はしない。

10月13日より新宿ピカデリー他で公開される。

「ナミヤ雑貨店の奇跡」(日本映画):時空を超えて人々の悩みや苦しみに寄り添い適切な助言の手紙を送るナミヤ雑貨店店主、波屋雄治。

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2日から南会津高原での「伝統療法カンファレンス2017」で色んな施術を経験して昨夜帰宅した。

昨日のブログで施術のことは一部報告したが、他に面白かったのは人のオーラの写真撮影の「オーラ写真館ハートバウンド」で、自身のオーラの色やその意味、チャクラのエネルギーレベルを測定しパーソナリティや対人関係仕事などに応用のアドバイスをしてくれる。僕は白のオーラで100人中1人しかいないと言う。パーソナリティなどはマル秘。

外の庭では「セグウェイ」を運転させてもらった。最高速度時速20キロ、体重の移動だけで右左と方向やスピードを変えることが出来る。一回充電すれば8時間持つという。10分程だが貴重な経験をさせて貰った。

アメリカ映画界は危機的状況。
今日(4日)はレイバーデイ(LD)。ちょっと前まではLDまでは年間興行成績(BO)の1/3を上げるサマーシーズンの最終日だった。

今年は最悪の夏映画の成績。昨年の同じサマームービーにくらべ15.7%ダウンの3.78B(4170億円)。
2006年に4B(4412億円)をクリアできなったがそれ以来のことだ。
また15.7%というのは2014年に14.6 %ダウンの記録があり、それに次ぐ急激な落ち込み。

週末3日間の総BOは85M(94億円)で90年代半ば以来、20年振りの最低記録で、昨年の1/3の成績。LDを入れても100Mに達しない。

今年初めからのBO総計は前年同期比で5.7%のダウン。
逆に海外のここまでの年間BOは中国のお陰で4%のアップだ。
中国人がせっせとアメリカ映画を見てくれるからハリウッドは生き延びている。


32年の時空を超えて悩み相談を請け負う雑貨店主がなんて飛んでもない想定を涙涙の物語にした東野圭吾の小説は読んだ時は凄く感動したが、それをどう映像で表現するか荷が重い。
監督は「余命一カ月の花嫁」で泣かせ「PとJK」でわらわせたベテラン廣木隆一。

主人公と言うか狂言廻しを、3人の若者が演じる。
矢口敦也(山田涼介)が幼馴染の小林翔太(村上虹郎)、麻生幸平(寛一郎)と何やら悪事を働いて1軒の廃屋に逃げ込む冒頭のシーンから画面に引き込まれる。

2012年。養護施設出身の敦也は、幼なじみの翔太や幸平と何か悪さをして追われると思い1軒の廃屋に逃げ込む。

そこは若者たちは知らないが、30年以上前、町の人々から悩み相談を受けていた「ナミヤ雑貨店」だった。
現在はもう廃業して荒れ果てた店内で一夜を過ごすことに決める3人だったが、深夜、シャッターの郵便受けに何かが投げ込まれたことに気づく。

投げ込まれていたのは1980年に書かれた悩み相談の手紙で、敦也たちは戸惑いながらも、当時の店主・浪矢雄治(西田敏行)に代わって返事を書くことになる。

すると、また別の手紙が投げ込まれ、それにも返事を書く。するとまた手紙が投げ込まれて返事を書く。

これまで世をすねて真面目に生きてこなかった敦也だが、人々の悩みに触れ、真剣に返事を書いているうちに、いつしか人を思いやる心に気付くのだった。
手紙毎に人生の悩み苦しみを訴えておりそのエピソードを繋ぐのだが
その中で敦也が一番関心を持ったのは「迷える子犬」と名乗る女性、18歳の田村晴美(鳴海璃子)のもので、映画のメインストリームとなり終盤に繋ぐ。

恩返しにまとまったお金が必要なので金持ちの愛人になりたいが迷っている。実は晴美は敦也たちと同じ養護施設で育てられたのだ。

東野はここでバブルが弾けるまでの最高の年、89年までに少ないお給金を株に投資し、利益(当然出る)をマンション購買に充て更に売ってマンションを買い続けバブルが弾ける寸前に全部売却することを勧める。
バブルなんて知らない晴美はその手紙通りに投資し回収して大富豪になり会社の経営者に登り詰める。

僕ら観客は過去の経緯を知っているだけに気持ちが良い。
女社長晴美(尾野真千子)は恩返しのために自分を育ててくれた養護施設にお金を注ぎ、海を見晴らす丘の上に立派な建物を作ってあげる。

80年以前の雑貨店の店主・浪矢雄治の西田敏行が出て来るとその存在感に圧倒され、観客は西田の演技に引き込まれる。西田も今年古稀(70歳)を迎え体重も少し減らしたようで未だアクティブ。

現実に背を向けて生きてきた養護施設出身の青年と悩み相談を請け負う心暖かい雑貨店主の時空を超えた交流に感動する。

80年12月の「一晩だけの奇蹟」が起こす物語は2時間を超える長尺だが飽きさせない。

「Hey! Say! JUMP」の山田涼介は上手い。一般的にミュージシャンは俳優のトレーニングを受けた役者より表現が優れている。
 他に成海璃子、門脇麦、林遣都、萩原聖人が顔をそろえた。

9月23日より丸の内ピカデリー他全国公開される。

「静かなふたり」(Droles d’oiseau)(フランス映画):田舎出の若い女性と祖父位の年齢差のあるカルチェラタンの古本屋主人との静かに忍び寄るラブ・ロマンス

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ガエル・ファイユと言うフランス人(白人)の父とルワンダ難民(黒人)の母との間に生まれた34歳のフランス国籍の作家のデビュー作「ちいさな国で」(Petit Pays)(早川書房:2017年6月刊)。
聞いたことが無い国、ブルンジ共和国での暴力と殺戮の間で生き抜く少年たちを描いて興味深かった。

ブルンジは無名だがその隣国のルワンダは名が知れている。
20世紀末に起きた大虐殺で悪名が轟いた。両国とも多数派のフツ族が少数派のツチ族を民族浄化の名のもとに大虐殺をおこなったのだ。
宗主国フランスが悪い。「分裂させて支配する」と言う戦略が火を付け、1994年の100日間でルワンダでは80-100万人が殺され、ブルンジでも93年に内戦が勃発、15年ほど続いた戦争で30万人が殺され、70万人以上が難民となった。

主人公ギャビーことガブリエルはフランス人の父とルワンダ難民の母、そして幼い妹アナの4人家族でブルンジの首都ブジュンブラでこの内戦を経験し生き残る。

パリに住む成人したギャビーが自分の10歳から12歳の少年時代の日々を回想するスタイルを取っている。
 両親の不仲や戦いの影はあるものの、ギャビーは学校や近所の仲間たちと楽しく幸せな日々を送っている。
 そして初の大統領選挙を契機に平穏だった住宅地「袋道」に暴力が入り込んで来て、どちらかの陣営につくことを強いられる。

いきなり少年時代が終わり,無理矢理銃を握らされ、大人として争いに参加せざるを得ない哀しみと悔悟の追憶。

必ずしもガエル・ファイユ本人の自伝では無いが、背景や舞台、経歴などは本人を追随している。

「ブルンジでは自分は白人だと、フランスでは黒人だと感じさせられた」と述べているようにアイデンティティを求める主人公の悩みも描かれる。

最初はとっつき難いストーリーもすっかりギャビーに感情移入をして読み終わる。



美人女優イザベル・ユペールは64歳だからお婆ちゃんの年齢だ。
でその娘であるロリータ・シャマも33歳の女優。
お母さんのイザベルは最新作「エル」でもレイプシーンや暴行シーンを演じ堂々とヌードを見せて還暦過ぎの年齢とも思えず数々の映画賞を授与されているが、娘のロリータの方は日本では馴染みが無い。だからイザベルが声援のメッセージを送り支援をファンに呼びかける、ロリータ主演の一風変わったラブストーリー「静かなふたり」には本人より映画に出ていない母親の方が力を入れている。

27歳のマヴィ(ロリータ・シャマ)はツールの田舎からパリへ出てきたばかり。本名ヴィヴィアン・ドルマンヌだがそれではあまりにもドンくさい。

名前をマヴィに変え、なんとかしてパリジャンになろうとするが、無口で社交性が無く、読書だけが趣味で不器用な彼女は都会でのせわしい落ち着きのない生活になじめないでいた。
小さなアパートを貧乏画家のフェリシア(ヴィルジニー・ルドワイヤン)と猫のジャックとシェアするが、毎晩フェリシアが愛人ミゲルを連れ込み激しいセックスで眠れやしない。
パリでは飛んでいるカモメが突然足許に落ちて来るなど不思議なことばかり。

 目だけ大きく細長い顔の地味なロリータは本人のキャラクターそのままにマヴィを演じられる。ただ27歳の若い娘に成りきるには33歳の年齢が邪魔をするように見える。

そんなある日、カフェでみた張り紙に、カルチェ・ラタンで住み込み従業員募集をしていることを知り小さな古書店「緑の麦畑」を訪れる。そこで、謎めいた老人で店主ジョルジュ(ジャン・ソレル)と出会う。

70歳近いジョルジュは人間嫌いで偏屈だが情熱的でもあった。
猫のジャックを連れて鞄一つをさげて引っ越しい。住み込み店員として、ジョルジュの書店で働くことになったマヴィ。白と黒の仔猫、ジャックはじゃれつき可愛い。

ジョルジュとマヴィは、祖父と孫ほどの年齢差がありながら、
書物や作家などの激論を通じて(マルグリットデュラスのナルシスト論など)心を通わせた2人は、やがて互いの孤独を共有し、次第に惹かれあっていった。

ロマンスが形になって始まろうとする瞬間に、ジョルジュが姿を消す。

観客にも分かるが人間嫌いで社交性の無い古本屋店主には何か謎に包まれた過去が散見される。ある日突然男が訪ねて来る。席を外したマヴィが店に戻ると男が倒れている。
1人店番をしているマヴィに二人の男がジョルジオと言う男を探しているとやって来る。夜ジョルジュが告白する。

そうジョルジュは偽名で本名はジョルジオ・パオロ・サリーナ、元「赤い旅団の編集者でこの29年間逃亡しており時効まで後一年。
店のことがばれた以上、友人のいるコルシカへ身を隠すと、書置きを残して姿を消す。
そう、老人は若い頃シシリアン・マフィアにも関わっていたのだった。

ヴィの視点から描かれるストーリーではジョルジュの過去は詳細には分からないが、突如姿を消したことだけは事実だ。

そこでマヴィが警察を巻き込んで活劇が始まる訳でなく、猫のジャックと暮らす彼女の生活は余り変わらない。

地味で「静かなふたり」を女流監督エリーズ・ジラールと撮影監督のレナード・ベルタは淡々と描き、じゃ、ただ音楽のベルトラン・ブルガラだけは画面の眠気を吹っ飛ばす、ジャズっぽい元気な曲を入れてくれる。

ユッペールの娘、ロリータ・シャマがマヴィ役、「昼顔」のベテラン俳優ジャン・ソレルが古書店店主のジョルジュ役をそれぞれ演じる。
エリーズ・ジラール監督は「ベルヴィル・トーキョー」でデビュー本作は長編劇場映画に策目だ。原題「Droles d’oiseau」はStrange Birdの意味。打ち合わせ中のロリータの動きが鳥のようだったと。

主人公マヴィ役を演じるロリータ・シャマは、イザベル・ユペールの娘で映画「マリー・アントワネットに別れをつげて」などに脇役で出演していて主役は初めて。目だけ大きいが芝居がそれ程上手いとは思えない。

10月14日より新宿武蔵野館にて公開される

「悪魔祓い、聖なる儀式」(LIBERA NOS)(伊・仏映画):「エクソシスト」は,映画の世界だけではない。現代でも神父たちは忙しく悪魔に憑かれた者達を助ける毎日を送っている

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今から45年前、ウィリアム・フリードキン監督の映画「エクソシスト」は世界的に大ヒットした。
我々日本人には馴染みがないがキリスト教社会では、悪魔に憑かれた者たちが多く存在し、ジェイソン・ミラー扮するデミアン・カラス神父のように十字架と祈祷の言葉を武器に悪魔の前に立ちはだかり追い払おうとエクソシストの儀式を行う。

摂り付かれた人々は年齢に関係なく、主演のリンダ・ブレアのような少女にも摂り付く。(ベッドに座ったリンダのクビが360度廻るシーンの恐ろしさは今でも忘れない9

初期キリスト教時代から全盛の中世、魔女狩りの時代を含め、民間人や異教徒の悪魔祓いがいたがヴァチカンは法王が認定したものだけをエクソシストとした。

だからエクソシストの神父たちは、映画のフィクションではなかった。
現代の神父たちもカトリックの総本山ヴァチカンとイタリアを中心に、日毎に増える悪魔祓いの需要に対応しており、数が足りなくなってヴァチカンで新人神父を対象にトレーニングや教育が行われている。

今日紹介する映画は、これまで外部に閉ざされてきた悪魔祓いの儀式にカメラが潜入し、現代の悪魔祓い師と悪魔の臨場感溢れるせめぎ合いをリアルに描写するドキュメンタリーだ。
儀式的にはカソリックと言うよりエスコパル派の様式に似ている。
少々嘘っぽいしやらせ的なシーンも散見されるが殆どがノンフィクションだろう。

映画の前半の主人公はシチリア島・パレルモの世界的に名の知れたエクソシストの
カタルド・ミグリアッオ神父の教会へは科学や医療では解明できない問題や病を抱えた人たちが殺到する。
人々は悪魔が自分の魂にとりついたと信じている。大部分は低層から中産階級の人々で富裕層はいない。
小太りで頭頂が禿げ、メタルフレーム眼鏡のコメディアンのような、カタルド神父は神様のように君臨する。

だが、少なくともカタルド神父ばかりでなく他のエクソシストたちが映画を見ている限りで成功している例は無い。症状はサイコであり偏執狂であり神経衰弱であり強迫観念の持ち主だ。

可哀相な人たちだが映画の観客はコメディを見ている感覚だ。

監督は、イタリア出身のドキュメンタリー監督、フェデリカ・ディ・ジャコモ。
この映画は昨年の第73回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門最優秀作品賞を受賞している。

ナレーションなしで撮影対象の真の姿を浮かび上がらせ、独特のユーモアで観客を引き込む。
美しい神秘のシシリア島を舞台に、究極の「癒し」の儀式を披露する。


11月より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開される。

「SONITA ソニータ」(SONITA)(スイス・ドイツ・イラン映画):持参金9000ドル目当てで母親の強制する「児童婚」を逃れてアメリカへ。

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東海テレビのプロデューサー阿武野勝彦氏と話したことがある。僕の主宰するNPO法人「子どもに笑顔」のマニラミッションの取材をお願いした時だ。

THKドキュメンタリー番組は、「ヤクザと憲法」「人生フルーツ」などといった作品で知られるが、このドキュメンタリーは今、テレビ業界の内外で大きな注目を集めている。

毎年、コンクールで受賞するのはもちろん、番組を再編集して劇場公開も行い、単館上映で4万人もの観客動員を達成するなど異例のヒットを続けている。

 僕が話題にしたのは、2016年秋にポレポレ東中野他全国公開となった「ホームレス理事長 退学球児再生計画」で完全に破産して借金取りに追い立てられ路上で寝泊りしている理事長が撮影中の番組のディレクターに土下座して少しだけでもと借金の申し入れをする。

断固として断るが、ドキュメンタリーでは制作側は被写体である取材対象をあるがままに客観的に撮しその自然体を視聴者に伝えるのが鉄則だと阿武隈は言う。
 
その日の食事も欠きながらドロップアウトした球児の面倒を見ている理事長には頭が下がり同情するが、被写体とのインターフェイスで言動やその後の歩みや人生が変えてしまうのは断固阻止しなければならない。

そんな意味ではこの記録映画「ソニータ」は女流監督、ロクサレ・ガエム・マガミはソニータにインボルブし過ぎだ。

ソニータが撮影に興味を持ちカメラを取り上げ自分で写したり,ロクサレムに私的な相談をしたり、一番許せないのは2000USドルを借りることだ。

おまけにアメリカへ同行し知人の居ないソニータに自分の友人・知人を紹介し面倒を見させる。
阿武隈さんのドキュメンタリー哲学から言えば禁じ手の連発映画だ。

16歳のソニータは反政府武装勢力・タリバンの影響力が強まるアフガニスタンから単身で隣国・イランの首都テヘランに逃れ、NGOの支援するシェルターで暮らしている。

ソニータの理想の両親はマイケル・ジャクソンとリアーナ。マイケルの写真の隣の女性に自分の顔写真を張り付けている。
もしパスポートを持っていたら名前はソニータ・ジャクソンにしたいと言う。スクラップブックに書いた夢は有名な「ラッパー」になること。

アフガニスタンに住む母親は古くからの慣習どおり見ず知らずの男性に娘を嫁がせようとするが、彼女にその意志はない。母親は花婿の持参金9000USドルが目当てだ。

「なぜ自分の人生を選べないの?」。

友だちが次々と結納金と引き換えの結婚を強いられるなか、ソニータはアフガニスタンの少女たちが抱える怒りや悲しみをラップ音楽にぶつけ、次第に才能を開花させる

彼女のファンはイランの首都テヘランの子ども保護施設の子どもたちだけ。確かに少女の哀しい運命のヒッポホップ曲は快調で聞くものの心を動かす。
しかし、イランの法律で女性が歌うことは禁じられている。歌の収録をしようとしても女性のソロアーティストや、無許可であることを理由に断られてしまう。

アフガニスタンに住んでいる母からは、「アフガニスタンでは女の子が音楽を作るということは不体裁である」と言う。結婚せずに音楽を作り続けたいというソニータをアフガニスタンに連れて帰ろうとする。兄の結婚資金(9000ドル)を得るために結婚を強制される。

アフガニスタンで問題になっている「児童婚」の問題を曲にし、それを自ら歌うことによって少しでも慣習が変わってほしいと願うソニータ。

ロクサレ・ガエム・マガミ監督は、取材対象の人生に関与すべきかどうか悩みながらも、同じ女性としてこの問に答えるようにソニータの夢と人生に深く関わることとなる。

「先ず結婚を」とうるさく迫る母親に2000ドルを渡し6か月の猶予期間を取りあえず貰い、ラップのビデオクリップを製作すると、様々な国やメディアに配布すっる。

そしてソニータの運命を変える出来事が起きる。
ソニータは歌うことで自らの運命を変えていく

東海テレビでは絶対に許されない禁じ手に乗り、ソニータは夢にまで見たパスポートを手に入れ、アメリカユタ州へ飛び、地元の高校へ奨学金生徒として受け入れられ、ラップもマスメディアに取り上げられる。人生を変えるチャンスをものにするチャンスに出会う。

サンダンス映画祭2016ワールドシネマ部門においてグランプリ&観客賞ダブル受賞のドキュメンタリー。
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)2015 観客賞を授与される。

 テヘラン生まれの女流監督、ロクサレ・ガエム・マガミ。女優として通るほど美しい。
テヘラン芸術大学で映画制作とアニメーションを学ぶ。これまで短編製作が多かったがこの作品は長編第二作、これで世界に注目された。

10月21日よりアップリンク渋谷にて公開される

「はじまりの街」(La Vita Possibile)(伊・仏映画):家庭内暴力を逃れ、住み慣れた世界を捨てた母と息子が、ほんの少しの勇気と愛する気持ちがあれば未来へと進み始めることが出来る

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「幸せのバランス」(12)「われらの子供たち」(14)などのイヴァーノ・デ・マッテオ監督による人間ドラマ。
テーマは家庭内でのトラブルを描いていつも観客に深く考えさせているイヴァーノ・デ・マッテオ。

例えば「幸せのバランス」ではたった一度の過ちから人生を狂わせていく中年男性。不倫のツケを支払うために家族との別居を決めた主人公が資金繰りに困り、次第に追い詰められていく。
「われらの子どもたち」では仲の悪い兄弟同士の家族の子どもたちが起こす事件。
この映画も家庭内のトラブル。

最初は上手く行っていた家庭がバラバラに崩れる。

この映画では前2作品と違い、最初から夫のDVで家庭は破壊されている。
夫の暴力を逃れローマからトリノにやってきた女性とその息子、二人を見守る人々。

息子の前でも殴る蹴るの夫の暴力から逃れ、13歳の息子ヴァレリオ(アンドレア・ピットリーノ)と共に、ローマから親友が暮らすトリノにやってきたアンナ(マルゲリータ・ブイ)。
ヴァイオレンスのシーンはあっさり描く。
分かり切っているがアンナの顔の傷を見れば酷さが分かる。

トリノ駅に迎えに来たカルラ(ヴァレリア・ゴリーノ)は、傷心のアンナとヴァレリオを笑顔で抱きしめ、自身が住む小さな家の一部屋を明け渡してくれた。
カルラは好きな演劇にのめり込む陽気な独身女性で心からマリアとヴァレリオを歓迎してくれる。

落葉が輝く晩秋の美しい街、北イタリアのトリノ。
一刻も早く生活の基盤を築こうと、仕事探しに焦るアンナ。

一方、活発なサッカー少年だったヴァレリオは、孤独をかかえて自転車で走り回るだけの日々。

映画の実質的主人公は13歳のヴァレリオだ。
傷つきやすいティーネージャー、そして大人への通過儀礼の微妙な心理状況。

ヴァレリオは近所のビストロのオーナー、マチュー(ブリュノ・トデスキーニ)に出会い
父親に似た感情を抱く。
マチューは元プロのサッカー選手、
訳ありで故郷フランスを離れイタリアの田舎で古里の料理を作っている。

マチューもつらい過去を経験しており、少年を可愛がる。
父の居ない淋しさをヴァレリオはマチューを代理父として慕う。

ヴァレリオが関心を抱く女性がいる。
自転車で公園に行くといつも居る若い娼婦、ラリッサ(カテリーナ・シュルハ)だ。
最初はガキ扱いされたが少年が自転車で転倒した時は傷の手当をしてもらい、
それから仲良くしている。

マチューも冤罪で警察に拘束された時、ラリッサの証言で助かったこともある。
孤独なマチューは純真なラリッサを慈しみ一緒に暮らし始める。
 
そんなある日、夫からアンナの父親を介してヴァレリオ宛てに小包が届く。
息子から父を奪ってしまった自分の選択は正しいのだろうかといつも自問自答して、
心乱されていたアンナは、その手紙をヴァレリオから隠してしまう。

清掃係だがアンナの仕事が決まり、足取り軽く帰宅した彼女を待っていたのは、
手紙を読んでしまったヴァレリオの失踪。

マチューの助けもあり、ヴァレリオを見つけるが、彼の心は母親を憎む硬い鎧をまとったままで、
怒りに任せて母親に暴言を吐く。

主演の新星、アンドレア・ピットリーノが良い。2002年ローマ生まれの16歳。複雑で感受性豊かなティーネージャーと大人への入口、通過儀礼などを感性豊かに巧みに演じる。
見知らぬ土地で新たな生活を築こうと奮闘する母親、マリアを「母よ、」などのマルゲリータ・ブイが、
マリアの親友カルラを「あなたたちのために」などのヴァレリア・ゴリーノ、
少年が父のように慕うマチューを「ソン・フレール -兄との約束-」などのブリュノ・トデスキーニらが脇を固める。

何としても、マリアは息子と心機一転やり直すつもりだ。
見知らぬ土地での再スタートはそう簡単なことではない。

しかし、過ちを嘆いたり、幸運を忘れたり、 それでも人生より素晴らしいものはないと確信するマリア。

気を取り直したヴァレリオは母親に暴言を謝り、休日だったマリアは息子を連れて気球に乗る。
北イタリアの一面に広がる野原や山林、
美しい街トリノ、一面の落葉が黄金色に輝く公園。
石畳の裏通り。アーチ橋の下を流れるポー川の煌めき。
空からトリノの街を見下ろしている内に人生の新たなスタート、
人生の可能性や希望が沸々と湧いて来るのを感じる母子。

住み慣れた世界を捨て、見知らぬ土地で生きていく母子が、嵐を乗り越え、ほんの少しの勇気と愛する気持ちさえあれば未来へと進み始めることが出来ると示唆して、シャーリー・バッシー「This is my life」が、今を生きる全ての人々を祝福するかのように力強く響いて映画は終わる。

イヴァーノ・デ・マッテオ監督は1966年1月22日、イタリア・ローマ生まれの51歳。
劇団での活動を経て、俳優や記録映画監督のキャリアを経て2002年に「Ultimo stadio」で長編劇映画の監督デビュー。 この映画は長編劇場映画として4本目にあたる。

この世に人生ほどいいものはない。イタリア映画の伝統的手法ネオ―リアリズムで見る者のハートに迫る人間ドラマだ。


10月28日より岩波ホールにて公開される。

「アトミック・ブロンド」(Atomic Blonde)(米映画):冷戦真只中のベルリンでブロンド美人のスパイに扮するオスカー女優、シャーリーズ・セロンがKGBや二重スパイ相手に痛快無比の大アクション

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 アメリカでは「ダンケルク」が連続首位を維持していた熱いさなかの7月28日に新登場。4位にランクされたFocus FeaturesとSierra/Affinityの「Atomic Blonde」。3304館で上映され18.6M。海外は5.9M。
制作費は $30M(32.5億円)と抑え気味。観客の出口調査CSはB評価と余り高く無い。

 Oni Pressのベルリンの壁崩落直前のMI6スパイを描くグラフィック・ノベル「The Coldest City」のを原作として映画化。昔ながらのスパイ・アクションスリラー。
世界を揺るがす最高機密のリストが消えた。

9月3日現在では北米累積40.0M、海外累積は39.4M ワールドワイド総計は89.8 M(97.2億円)だからこの厳しい夏映画にあって制作費は回収し、利益もソコソコでたからご同慶の至りだ。

冷戦末期、ベルリンの壁崩壊直前の1989年。
東独に潜入していたがベルリンの壁を越え、西側に極秘リストを持ち出そうとしていたMI6の捜査官、ガスコイン(サム・ハーグレイブ)が西独側に入った瞬間に殺される。KGBとMI6裏切り者の仕業だ。
「サッチェル(二重スパイの仮名)がお前だとはな」と言葉を残して息を引き取る。

彼の持っていた最高機密の極秘リストが紛失してしまう。
敵はKGB。同盟国アメリカCIAのカーツフェルド主任(ジョン・グッドマン)を交えた会議で、
MI6の裏切り者サッチェルからリストの奪還と、二重スパイ、サッチェルの正体を見つけ出すよう命じられたMI6諜報員ロレーン・ブロートン(セロン)は、早速東ベルリンに飛ぶ。

今まで西と東に分かれていた超大国同士が同盟を組みはじめようとしていた。
そこで、各国のスパイを相手に極秘機密リストをめぐる争奪戦が繰り広げられる。

ロレーンは超人的な戦闘能力を発揮しながら立ちはだかる敵をバッタバッタと倒していく。
ロレーヌ・ブロートンはベルリン支局の局長デヴィッド・パーシヴァル(ジェームス・マカヴォイ)と連携するよう命じられるが、二人はウマが合わず反発しあう。

だが紆余曲折ありながらも二人はタッグを組み素晴らしい連携が生まれ、西側諸国を脅かすKGBのスパイを次々と倒して行く。

KGBの繰り出す数十台の車をかわすカーチェイスが凄い。パーシヴァルと同乗したアウディの性能が素晴らしい上、ロレーンのハンドル捌きも超人的。ただ最後は水中に転落しパーシヴァルは足を挟まれたまま水死するシーンはロレーンにもショック。

シャンパンを飲んで寛いでいる最中に襲われるシーンも痛快。武器のサイレンサー銃はボトルを冷やした氷の中に埋めてあり、取り出すと目にも止まらぬ速射で半ダースほどの敵を始末する。

アントニー・ジョンソンによる人気グラフィック・ノベルを原作に映画化したアクションスリラー。

監督は「ジョン・ウィック」シリーズや「デッドプール」続編などアクション得意のデビッド・リーチ。

主人公、ロレーヌ・ブロートンを演じるのは現在41歳の女優シャーリーズ・セロン。2003の「モンスター」で実在した女性アイリーン・ウォーノスを演じ、アカデミー主演女優賞を受賞。
アクションは慣れてないかと思ったが「マッドマックス 怒りのデス・ロード」にフュリオサ大隊長役で派手な活劇を見せ、さらに今年の大ヒットした「ワイルド・スピード」シリーズ最新作「ワイルド・スピード アイスブレイク/The Fate of the Furious」で悪役で大活躍。

共演に「X-MEN」「ウォンテッド」のジェームズ・マカボイや
「キャプテン・アメリカ」のトビ-・ジョーンズ、
「キングスマン」「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」のソフィア・ブテラ
「キングコング 髑髏島の巨神」や「バートン・フィンク」などのジョン・グッドマンなど。

観客は完璧に騙される。
最後のシーンは大どんでん返し。
スポイラーになるので書けないが、ロンドンから発つプライベイトジェットにロレーンが乗り込むとそこにCIAのカーツフェルド主任が葉巻を吸っている。

そこでの2人の短い会話がショック。
観客はすっかり騙されていたことを知る。

面白いのは冒頭の会議で異論を唱えるカーツフェルドに向かいロレーンは「Cock Sucker!」と罵っているのに、トレーラー(動画予告編)を見ると「Ass hole!」と言い替えてある。Ass holeの方が上品なのだ。
機内で「俺はCock Suckerかね?」と問い直す。Cock Suckerは文字通りにはチンポコ舐め野郎とか転じておべっか使いやゲスの意。

久し振りのクラシックなスパイものをすっかり堪能する。

10月20日よりTOHOシネマズみゆき座他全国公開される

「ナインイレヴン 運命を分けた日」(9/11)(アメリカ映画):2001年9月11日、8時46分、ニューヨーク・ワールドトレード・センタービルのエレベーターに偶然乗り合わせた5人。

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あれから随分経ったような気がする。
明日(9月11日)は悲劇から満16年になる。
風化したとは言わないが9・11を知らない子供たちが殆どだ。

映画では06年にそのものズバリの映画「ワールドトレード・センター」(World Trade Center)が公開された。監督、オリバー・ストーン、主演はニコラス・ケイジとマイケル・ペーニャの警官2人が崩壊したワールドトレード・センター(WTC)の地下に閉じ込められながらも命を賭して救助に当たる実話を基にしている。

余りにも歴史的な大惨事で、TVの中継で大型旅客機が突っ込む瞬間や倒壊し灰燼に帰す模様が事細かに人々の頭に焼き付いているだけに映画は意外と少ない。

この作品もNY小劇場で上演された舞台劇「エレべ-ター」を原作として映画化したものだ。
演劇における規則「三一致の法則」または「三単一の法則」が当てはまる。
同じ時間帯の「時の単一」、1つの場所(エレベーター)の(「場の単一」)、1つの行為(救助を求める)だけが完結する「筋の単一」という劇作上の制約。
これに従えばロケは無いし制作費は格安に上がる。

似た「三一致」原則の作品は多い。
例えば2011年の映画「エレベーター」はマンハッタンのウォール街に立つ超高層ビル。その最上階にある会場で開かれるパーティーに向かう9人がエレベーターに乗り込む。大富豪から警備員、妊婦、自爆テロを企む中年女性と様々な社会層や人種が混じっているのも似ている。

さて本題に入ろう。
2001年9月11日、ニューヨーク。
ワールドトレード・センタービル(WTC)のエレベーターに偶然乗り合わせた、ウォール街の投資信託会社の経営者で大富豪のジェフリー・ケイジ(チャーリー・シーン)と離婚を訴え調停中の妻のイヴ(ジーナ・ガーション)、
バイクメッセンジャーのマイケル(ウッド・ハリス)は幼い娘の誕生日パーティに遅れるわけにはいかない。、

恋人と別れに来たハッとする美人のティナ(オルガ・フォンダ)、彼女が最初に恐怖のパニック症状に陥る。
ビルの保全技術者(ハンディマン)のエディ(ルイス・ガスマン)の5人。

白人(&ユダヤ人)黒人、ラティーノと人種も社会的階層も宗教も違うNY的「人種のるつぼ」の縮図だ。

午前8時46分、突如、WTCに正体不明の飛行機が激突し、
(アメリカン航空11便、ボーイング767-200型旅客機、が北棟100階付近に激突)
彼らは北棟の38階辺りに閉じ込められてしまう。

外部との唯一の通信手段はインターコムを通じて話せる昇降機オペレーターのメッツィー(ウーピー・ゴールドバーグ)だけ。グループセラピーとしてアドバイスをし励ましながら、何とかしてこの5人を助け出そうと苦慮し探し求める。

イヴはスマホで偶然母親(ジャクリーヌ・ビセット)と話ができる。
(あの時携帯は全くつながらむかった)
母親から固定電話を使い連絡の取れないエレベーター同乗者の家族、友人たちへ現状を報告してもらう。

刻一刻と崩れ落ちつつあるビルと閉じ込められた恐怖と闘いながら外への逃げ道を模索するが、そんな時、5人はそれぞれの人生を振り返る。
回想シーンと極限状態が交互に織りなす画面は脱出しようとする努力と諦観が入り混じる。
ジェフリーとイヴは彼らの20年以上の結婚生活は決して悪くは無かったと互いに思う。少なくとも死に直面している現実と比べれば。
改めてイヴの存在の大きさを感じたジェフリーは、イヴに約束をする。
「二度と淋しい想いはさせない」

この映画は主演のチャーリー・シーンの復活の映画だ。
父親のマーティン・シーンも兄のエミリオ・エステべスも真面目な役者だがチャーリー・シーンだけは出来が悪い。5000人の女性とセックスをしたと豪語する好色漢、ラジオで人種差別的暴言もあり妻への暴力(DV)や麻薬やアルコール依存症で入院もした。
小さな作品「マチェッーテ・キルズ」(13)で、シーンと言う芸名でなく本名のカルロス・エステベスで端役のラスコック大統領役を演じた以外、「ウォールストリート」(10)から7年の空白期間で地獄を見ている。
52歳でまだまだ働き盛り、僕の好きな役者だけに今後の活躍を期待したい。
72歳のジャクリーヌ・ビセットも元気な顔を見せている。

監督はマルティン・ギギ。1965年、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれの52歳。映画監督であると同時に音楽家でピアニスト、作曲家、音楽監督、音楽プロデューサーとして活躍する。
映画監督として、「アイ・ソウ・ザ・デビル~目撃者~」(未)など9 つの長編映画と数本のドキュメンタリー映画を監督、さらに16本の脚本や十数本の製作総指揮、20本を超える映画やテレビ音楽、30枚の音楽アルバムを手掛ける。
ギギ監督は語る。「16年前、この悲劇を通して、私たちは同じ感情を分かち合いこの国は団結した。でも今私たちはそれを忘れかけています。だからこそ、いまこの映画、物語に挑戦してみたかったのです」と。

映画のエンディングで犠牲となった人たちへ献辞がささげられている。
自国主義、テロリズム、人種、移民、経済格差、性差別も大切なテーマだが、家族の愛という本当に大切な人への想いを偲び魂に語りかける。

出演者は他に「ゴースト」や「天使にラブ・ソングを…」シリーズなどのウーピー・ゴールドバーグ、
ジェフの妻イヴ役で「ショーガール」のジーナ・ガーションらが脇を固める。

チャーリー・シーンは最後には八方美人で皆に楽しい嬉しい約束をしまくる。
シーンが一人頑張るが映画の出来はそれほど良く無い。

ラストシーンで救助に駆けつけた消防士が上からの手を伸ばしジェフリーの指を掴もうと言う図は、ミケランジェロが描いたヴァチカン宮殿システィーナ礼拝堂の天井画「アダムの創造」に似ている。神が人間を創造し、命を与える瞬間だ。

丸の内TOEI他にて公開中。

「猫が教えてくれたこと」(Kedi)(トルコ映画): 猫を愛し、猫とともに生きる街・イスタンブールの猫ドキュメンタリー

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原題Kediとはトルコ語で「猫」のこと
猫好きのトルコ出身の女性監督ジェイダ・トルンがイスタンブールで7匹の外猫を追いかけてカメラを廻す。地上スレスレの猫の視点でイスタンブールの雑踏を縫って行く描写が楽しい。屋根に上って狭い路地を見下ろすシーンもあるが、大部分は上から目線ではダメ、地上10センチの高さを這って初めて猫の世界が理解できる。

映画の質を論じなければ、猫好きには堪らない1時間半を楽しみ堪能できる。
ヨーロッパとアジアの文化の交流地点であり、数千年ものあいだ世界有数の大都市として繁栄を誇ってきたトルコの古都、イスタンブール。
この街に住む外猫(野良猫)たちは、人々から食料や寝床を与えられながら、ある人にとっては生き甲斐として、ある人にとっては生涯の相棒として、周囲に生きる希望と癒しを与えながら自由気ままに生活している。

アメリカや日本なら役所のお犬狩りや猫狩りに捕らえられ殺されるところだが、員スタンブールの猫は自由気ままに雑踏を闊歩する。
ドブネズミを捕まえて来てはレストランの主人に見せびらかして可愛がられて猫はハッピーだ。ケーキ屋を覗く猫は内気で店に入って行けない。
この映画に登場する主役は7匹の個性的な猫たち。
生まれたばかりの子猫たちにエサをあげるため、市場の食べ物を狙う虎猫「サリ」、目の見えない仔猫が必死で食べ物を追う。
なでられるのが大好きなメス猫「ベンギュ」、
レストラン近くでネズミ退治を仕事にしている「アスラン」、
喧嘩が強く、旦那を尻にしいているくせに嫉妬深い「サイコパス」、
下町の市場で働く商売人や客と触れ合う看板猫の「デニス」、
遊び人風で周囲の大人たちの心を虜にする「ガムシズ」、
高級なデリカテッセンにいつも美味しいエサをもらっている礼儀正しい「デュマン」。
生まれも育ちも全く違う彼ら彼女らを主人公に、自由奔放に暮らせるイスタンブールの幸せな猫たちに迫る。



監督を務めたのはイスタンブール出身の女性監督ジェイダ・トルン。幼少期から街の猫に親しんでおり。同作の撮影ではカメラの位置を地面近くに設定し、猫の目から見た街の様子を、猫にしか見ることのできない街並みを見せながら、不思議な旅へ案内してくれる優しい映画だ。

僕みたいな老人は映画の中でも誰かが言っているが、え猫は「人生を再点火して元気つけてくれる」

11月よりシネスィッチ銀座にて上映される

「密偵」(The Age of Shadows)(韓国映画):1920年代大日本帝国支配下の朝鮮で独立運動の義烈団を取締る、朝鮮人の日本警察ジョンチュル警部。スタイリッシュで古典的なスパイアクション

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 スティーブン・キング原作、New Lineの「It」(邦題「IT/イット:“それ”が見えたら終わり」WB配給:11月3日より丸の内ピカデリー他全国公開される)が4130館で予想を遥に超えた117.2M(127億円)で首位。

内IMaxは377館で上映され7.2M。海外市場は46か国で開け62M。ワールドワイド総計は179.2M(194億円)。
低迷で終わった夏映画は昨年のサマーシーズンBOにくらべ14.6%のダウンの3.8B(4115億円)と言う悲惨な成績でした。

「この『It』はハリウッド『救いの神』となり、前年とくらべ年初頭からの総BOが6.5%下がっていたのを上方修正の5.5%ダウンまで持って来た」とポール・ダーガラベディアン・ComScoreのシニアメデア・アナリストは語る。

今年になって3位となる週末BOデビュー記録で、上は「Beauty and B~と「Guardians of the Gala~2」の2作品のみ。
制作費は35M(38億円)。ホラー映画は他のCGIを多用する作品に比べ制作費は安くつき、このようにヒットすれば粗利益は莫大なものになる。


日本人が悪者になる中国や韓国映画は多い。
配給会社も酷いものは輸入しないようだが、このような大作になると在日の人々は勿論、日本人でも見てみようかという人も現れる。

ましてやクライム・サスペンスの最高峰、「悪魔を見た」(11)のイ・ビョンホンとキム・ジウン監督が再びコンビをくむのだから。

韓国映画が好きな僕は真っ先に駆けつける。
(イ・ビョンホンが端役でがっかりしたが)

日本帝国支配の1909年から終戦の45年までの36年間は朝鮮の人々にとって屈辱と忍耐の時代だった。
しかし日本は国家予算の多くを割いて道路、鉄道を整備し、文盲が殆どの人たちに教育制度を確立し、ダムを造り電力を全国に供給し、国家として体を成していなかった朝鮮のインフラを作ってあげた
それが今では全く感謝されるどころか「日帝36年の屈辱」としてとらえられていないのが淋しい。

今でも苦い思い出は現役の営業局長時代にサムソンのショウルームのデザインを依頼され完成式に招かれリー会長と流暢な日本語で会話を楽しんだことだ。
その後がいけない。通訳やガイドをしてくれたサムソンの若い社員を飲みに連れて行った時だ。かなりジンロが廻ったところで一人が「日帝36年を貴方はどう反省されてますか?」と聞く。

日本政府が如何にインフラに巨額の国家予算を費やしたか、彼らは知らないし、知っていても気にもとめない。むしろどれだけ朝鮮総督府が圧制をしいたかの話ばかり。

戦争を知らない若者と戦中派の僕とでは意見は最初からすれ違い。全部僕がご馳走してあんな不味い飲食は無かった

そう言う韓国人向けに大ヒットした映画だと日本人として見る前に構えてしまう。

大日本帝国への反乱は幾つかある。三・一運動は、1919年3月1日に日本からの朝鮮独立運動。独立万歳運動や万歳事件とも呼ばれるが、その三・一運動の非武装路線を批判し、同運動の失敗後は国外での武装闘争を模索していた金元鳳ら13名によって吉林省にて結成されたのがこの映画で描かれる「義烈団」だ。
正義と猛烈を朝鮮独立精神の基軸に置き、「日本帝国主義の心臓部に弾丸を撃ち込む」必殺主義を掲げた。

義烈団は日本の朝鮮半島における植民地組織とその要人への直接攻撃を実施し、1920年に釜山警察署などの警察機関を爆破、翌年には朝鮮総督府爆破を実行し、更に1922年には、呉成崙を中心とする3名が、上海へ立ち寄った田中義一陸軍大将狙撃事件をひきおこした(未遂)。
1923年には申采浩によって「朝鮮革命宣言」が出され、武装闘争による日本支配の破壊と朝鮮民族の覚醒と決起を促す。

この映画は1920年代末、日本が韓国に立てた主な施設を破壊しようと、ハンガリーから上海を経由して京城(ソウル) に爆弾を持ち込もうとする義烈団と、彼らを追う日本警察との暗闘と懐柔、かく乱作戦を描いている。

冒頭のシーンから引き込まれる。
レジスタンの闘士、パク・ヒスン(キム・ジャンオク)が日本警察の一個中隊に包囲され民家に逃げ込む。朝鮮人でありながら日本警察の、イ・ジョンチュル警部(ソン・ガンホ)は部下に殺すな、生け捕りにせよ!と命令する。
イとパクは旧友でパクを逃がしてやりたい。

ここで僕は安心する。これは単純な反日映画では無い。主役のソン・ガンホは二重スパイで無く、純真に日本警察に忠実だ。

朝鮮総督府警察局東部長(鶴見辰吾)の命をうけ過激な武装独立運動団体・義烈団を監視しろとの特命を受け、イ警部は義烈団のリーダー、キム・ウジン(コン・ユ)に接近する。

キムは古美術商に扮し壺を紹介したり、写真屋でポートレートを撮ったり、果ては陶器を焼く窯まで見せてくれる。イ・ジョンチルはキムをしっかりと監視する。

この辺りで団長のチョン・チェンサンが出てたっぷりイ・ビョンホンのご尊顔を拝めるかと思ったが、本当にチョイ役でがっかりする。

この存在感の無さからか義烈団・団長は戦後まで生き残る。

スパイ合戦は狐と狸の化かし合い。
出処不明の情報が双方間で飛び交い、誰が密偵なのか二重スパイか分からない中、義烈団は日本統治下の主要施設を破壊する爆弾を京城に持ち込む計画を着実に進めていた。
そんな中、日本警察は義烈団を追って上海へ。そこでハンガリーから持ち込んだダイナマイトを受け取ることになっている。

クラシックなスパイ映画は爆弾を積んだ列車が登場するのは常識。
シュッポシュッポと蒸気機関車は国境を越えて京城へ向かう。

主演は韓国を代表する実力派俳優ソン・ガンホ。日本警察イ・ジョンチュル警部に扮し、
「サスペクト 哀しき容疑者」のコン・ユが義烈団リーダーであるキム・ウジンとして対立し火花を散らす。

東警視の鶴見辰吾も50代で若い頃の軽さが無くなりいい味を出している。
ソン・ガンホや部下の橋本になるオム・テグの日本語も流暢で及第点。
変な日本語を喋られるとその時点で映画はシラケる。

美術の時代考証も完璧だ。朝鮮総督府警察署内部、T-フォード、人力車、大日本帝国警察の制服などなど文句の付けようがない。

背後に流れる音楽が秀逸。途中のアクションくを盛り立てる場面はパーカッションで刻み、少し余裕が出てルイ・アームストロングの「When You Are Smiling」で和ませ、終盤のクライマックスへのアクセスに「ボレロ」で伴走する。
巧みな音楽の使い分けに舌を巻く。

スタイリッシュでクラシカルなスパイアクションはたっぷり観客を魅了する。
「クワイエット・ファミリー」「反則王」「箪笥」「甘い人生」「グッド・バッド・ウィアード」「悪魔を見た」「ラストスタンド」とどれを取っても名作を送り出しているキム・ジウン監督は僕の採点では韓国ナンバー1の映画作家だ。

11月11日よりシネマート新宿にて公開される。

「一礼して、キス」(日本映画):高校・弓道部エースの後輩男子が、弓道部部長の先輩女子に、恋をした。伝統を誇る小河原流弓道の静謐で躍動的でダイナミックな弓道を通して燃え上がる高校生ラブロマンス

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日本の映画興行を見ると、9日(土)スタートの「ダンケルク」が、動員22万人、興収3億2千4百万円をあげ、初 登場1位を飾った。
2位は邦画の「三度目の殺人」も、土日2日間で動員18万人、興収2億3千3百万円。
アメリカと違って日本映画興行成績は順調のようだ。


日本古式の武術は礼儀正しいし、正しく無ければその時点で負け。
柔道にしろ剣道にしろ弓道にしろ一礼してから始まる。

小学館「ベツコミ」で連載され、コミック累計100万部を突破した「色気の魔術師」の異名を持つ、加賀やっこによる同名人気コミックの映画化。

しかし主演の2人は見たことが無い。
ヒロインの弓道部部長の岸本杏に扮するのは人気モデルの池田エライザ、
「動物戦隊ジュウオウジャー」シリーズなどの声の出演をしていた中尾暢樹が先輩女子に恋する下級生部員の三神曜太を演じる。
要するに主演二人は映画初出演と言うことだ。道理で馴染みが無い。。

「色気の魔術師」だけに加賀やっこの高校生ラブ・ストーリーのセリフには「触れなば落ちむ」とするセックスを思わせる際どい言葉が羅列される。そのくせキスが最大の表現で身体に触れるがセックスまでには及ばない、寸止めを楽しめる。

岸本杏が3年で2年の三神曜太の「先輩」であると言う制限付きのシチュエーションが、三神は年上の女性を尊敬しつつ征服しようとする、岸本は下級生を支配しようとするがメロメロになって屈服する、と言う

そんな男女夫々の心理的な葛藤が良いんだな。

中学生のときから6年間弓道に打ち込んできた高校3年生の岸本杏(池田エライザ)は、
弓道部の部長として夏の大会に挑んだが、団体戦も個人も不本意な結果に終わってしまう。
一方、ろくに練習もせずに入部当初から才能を発揮してきた後輩の三神曜太(中尾暢樹)が個人優勝を飾る。

3年生の杏は大学受験を控え、この夏の大会を最後に引退を決意して三神に部長を引き継ごうとすると、
三神は「引退は秋の大会まで延ばしもう一度弓を引いて欲しい」と懇願される。
そして杏への一途な思いを募らせていたことを告白する。

「入部してから俺は先輩の事、ずっと見てましたよ」
杏の背中を見つめ続けていた三神の一途な愛がさく裂する。

三神の不器用ながら一途な杏への想いと、ひたすらに、三神の想いに応えようとする杏。
二人は両想いなのに、すれ違ってしまう関係はモタモタしている間に、
同じ剣道部のイケメンたちの杏への恋慕で、ゴタゴタが起こる。

映画初出演の2人の主演の脇を固めるのは
三神曜太の親友で余命幾ばくもない、由木直潔役には「超特急」のタカシとして活躍中の松尾太陽。
杏と曜太を取りく弓道部のイイ男たちに「特命戦隊ゴーバスターズ」などの鈴木勝大。
2.5次元舞台を中心に活躍中の前山剛久、
ダンス&ヴォーカルグループ「lol(エルオーエル)」の佐藤友祐、
ハイパープロジェクション演劇の結木滉星ら、イケメンスターが総出演。

 監督は早稲田大学文学部を出て美学校で学んだ古澤健、45歳。1998年「home sweet movie」で PFFアワード脚本賞とぴあフィルムフェスティバル脚本賞を授与されデビュした。
監督作品は「クローバー」「今日、恋をはじめます」「ReLIFE リライフ」など。
素人の主演男女2人を見られる程に仕上げた演出は褒めて良い。

850年の伝統を持つ小河原流弓道の指導を受けながら躍動的な静謐な中にダイナミックな弓道シーンを表現している。

11月11日より新宿バルト9他で公開される。

「ユリゴコロ」(日本映画):人間の死でしか心を満たすことができない、美紗子という女性ののこしたノート

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随分乱暴でロジックが通らない話と展開なのだが、細かなことを気にせず総体を見れば面白い。
そこそこ繁盛しているカフェを経営する亮介(松坂桃李)は、男手一つで自分を育ててくれた父がガンで余命宣告され、さらに婚約者千絵(清野采名)が突如姿を消したのでパニックに襲われる。

父は家で死にたいと強引に退院し戻って来た実家で荷物を整理していた亮介は「ユリゴコロ」と書かれた1冊のノートを見つける。

そこには人間の死でしか心を満たすことができない、美紗子(吉高由里子)という女性の衝撃的な告白がつづられていた。亮介は、創作とは思えないノートの内容に強く引き寄せられている。
タイトルの「ユリゴコロ」は心の「拠りどころ」のことらしい。

中学2年生の美沙子(清原果那)は同級生の女の子を溺れさせ、妹の帽子を溝から拾い上げようと上半身を鉄板の下に潜らせていたが、その鉄板に体重をかけて男の子の上に落とし殺してしまう。
その時の鉄板を持ち上げていたのが大学生の洋介(松山ケンイチ)。

警察では洋介が鉄板を落としたことになり、過失傷害致死で3年の実刑を受け3年間の刑務所暮らし。
出所後のキャリアは滅茶苦茶になり、アルコール依存症からガンを発症し死の床についている。

父洋介を看護しながら亮介はそのノートを読んで人間の死に「生き甲斐」を見つける異常な関心を寄せる女、美沙子こそ自分を産んだ母だと確信する。

すると自分には「人殺しの血」が流れているのだ!
嘆き苦しみ病身の父を責める亮介のところへ失踪した千絵の元同僚だったと言う細子(木村多江)が訪ねて来て、千絵は無事だ、昔の愛人だったヤクザに捕まっているだけで殺されたり傷つけられたりはしていない、と伝言を持って来る。
ここから急転直下の大団円。

ここから以下はスポイラー(ネタバレ)になるから読むのを避けた方が良い。
細谷からの連絡がある。千絵の監禁されているアパートが見つかった。住所を片手に亮介は部屋を訪ねると、ヤクザは3人とも床に血を流して死んでいる。血の中に通称「引っ付き虫」が転がっている。キク科の「オナモミ」の種子で実家の庭に群生している。細子こそ亮介の母で「ユリゴコロ」の筆者だったのだ。 どうして亮介が気づかなかったか?「ひっつき虫」が教えてくれるまで分からなかったのか、いい加減なロジックが多い。(整形したと言うが声まで変わってはいないし、気づかれる)(それに細子はサイコと読める)

でも冒頭に述べたように細かなことを気にせず「悪魔のような女」の半生記は恐ろしく、クライムサスペンスとしては問題なく堪能できる。
第14回大藪春彦賞を受賞し、第9回本屋大賞にもノミネートされた沼田まほかるのミステリー小説を映画化。

主演のファムファタール、宿命に振り回され、苦しむ殺人者・美紗子を、「蛇にピアス」などの吉高由里子が全裸も厭わず熱演する。宿命に振り回され、苦しむ殺人者・美紗子を、「蛇にピアス」などの吉高由里子が熱演する。2012年の「僕等がいた 前篇・後篇」で主演を務めて以来、5年ぶりの主演作品。
時代を隔てて、美沙子に振り回される若い男に松坂桃李と松山ケンイチ。大物男優の芝居は安心して見ていられる。

他の出演者に佐津川愛美 清野菜名 清原果耶そして木村多江。
観客も木村多江の細子にすっかり騙される。

脚本・監督を務めるのは、このところ「君に届け」(10)、「近キョリ恋愛」(14)とヒットを飛ばす熊澤尚人。

9月23日よりバルト9他で公開される

「光」(日本映画):離れ島の3人の幼馴染。四半世紀前の忌まわしい記憶に翻弄される男女の姿を通して、人間の心の底に蠢くバイオレンスとセックスを描く 。

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このところ日本映画が面白い。

三浦しをん原作の「まほろ駅前多田便利軒」シリーズ1と2のシリーズ映画化が好評だった大森立嗣監督が、再び三浦の小説を原作に描く、今回はがらりと変わったサスペンスドラマ。

過去の忌まわしい記憶に翻弄される3人の幼馴染の姿を通して、人間の心の底に蠢くバイオレンスとセックスを描き出す。

東京の離島・美浜島で暮らす14歳の中学生、黒川信之(福崎那由他)は、幼馴染で唯一の同級生である美少女・美花(紅甘)と付き合い、森閑とした木立の陰でセックスする仲になっている。
二人の後を9歳の小学生の輔(岡田篤哉)が付き纏う。
輔は酔った父親、洋一(平田満)から毎日暴行を受け生傷が絶えない。

ある夜、信之は、バンガローを営んでいる美花の家に宿泊客がいるから会えないと言われブラブラしていると神社の境内の森で美花が宿泊客とセックスをしているのを目撃する。

美花は楽しんでやっているように見えるが、その癖口では「殺して」と声を出す。
客も美花に誘われて合意のセックスだと主張するが、激情に駆られた信之は客を絞め殺してしまう。
輔は現場と死体をカメラに収める。

いきなり中学生のセックスと殺人で驚くことばかりの冒頭だ。あれよあれよと思う間っもなくタイトル「光」が出て本編が始まる。

ただ絶世の美少女でファムファタルの美花役の紅甘がブスなので、がっくりする。もっと美少女は居なかったのかね。この映画は美花の言動が男2人を振り回す展開なのでミスキャストは残念だ。


そんなある日、島を大津波が襲い、信之と美花、信之を慕う年下の輔、そして数人の大人だけが生き残る。
島での最後の晩、信之の美花を守るためとはいえ恐ろしい暴力の痕跡も津波とともに流されて消えた。

それから25年後。
島を出て今は東京都下の小さな街の市役所勤務の39歳の信之(井浦新)は、若い妻、南海子(橋本まゆみ)と5歳の椿(早坂ひらら)と3人で平穏に暮らしている。

だが生活に飽き足らない南海子は工場務めの野性的な34歳の輔(瑛太)に惹かれ週に3回程セックスをしている。そして、そんな時に椿は暴漢に襲われる。

これも唐突で何故輔と信之の妻、南海子なんだ?と思う。ストーリーがかなりのご都合主義。

奈美子役の橋本まゆみはグラビアアイドル出身でヌードはお手の物。輔のベッドで男を攻め抜き、いつも全裸で歩き回り、出勤の輔をドアまで送る。

金が欲しいのか兄貴と呼びたいのか、輔が信之の前に現われ、奥さんの浮気と椿のレイプをビラに書いて撒くよと脅す。

市役所勤務に支障も出るだろう。おまけに25年前の美浜島での宿泊客絞殺事件の真相をバラすと脅し、証拠写真もあると仄めかす。

クールな信之は妻の浮気は承知していたし、椿のレイプもどうにもならないと諦めていたから取り合わない。大体が輔を見下し、やれるものならやって見ろと見限っていた。

だが美花に関わって来ると信之は人が変わる。
美花はは今では大女優、篠浦未喜(長谷川京子)として世に知れ渡っている。

輔の部屋に転がり込んで来た父、洋一はアルコール依存症でボロボロだが、昔のように輔を殴る蹴ると昔通りの暴行を加え、金を要求する。

輔は暴行を受けながら父と相談の上、篠浦未喜に写真のコピーを送り金を無心する。

信之は何としてでも篠浦未喜(=美花)守ろうとするが、輔は記憶の中の信之を取り戻そうとするかのように2人を脅しはじめる。

信之は未喜から受け取った300萬円をそのまま輔に渡し、大量の睡眠薬を酒に混ぜて父親を殺すように指示する。

封印したはずの過去が再び動き始め、昔の信之兄貴の再現に喜ぶ輔は喜々として指示に従う。

これまで映画化された三浦作品とはかなり趣の違うバイオレントな作品だ。
その上、輔と南海子のセックスシーンは延々と繰り広げられる。あの宿泊客絞殺以来何も感じなくなったと言う未喜役の長谷川京子のベッドシーンも大胆だ。
(長谷川京子の顔がかなり変わっている。整形を受けたか?)

映画は「暴力とは何か?」を全編をとうして問う。
「暴力」で繋がる人間関係、「暴力」があるから「生きていける」人生。「日常に潜む暴力」とその先にある希望を見出そうとする。

主演の信之を演じるのは「さよなら渓谷」などで大森監督とタッグを組んできた井浦新。大森監督作品への参加は3度目。

もう一人の主役の輔を演じる瑛太と大森監督とは「まほろ駅前多田便利軒」シリーズに主演し気心は知れている。大森立嗣ワールド全開を楽しんでいる。

ひとつ気になるのは内容がバイオレンスとセックスだけに映画をスタイリッシュにまとめようとしていること。抽象画やアブストラクトなオブジェ、場違いなジャズなど目障り、耳障りだけだ。

11月25日より新宿武蔵野館他で公開される。

「先生」(日本映画):女子高生と大人の先生との禁断の恋。主人公の剣道部JKを演じる広瀬すずとその先生の生田斗真の芝居が清々しくて好感が持てる

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 飯田橋の逓信病院には毎月通っているが、昨日(15日)午前の受診が終わって病院を出ると警官隊と街宣車が2台連なって揉めている。

病院の脇道を100Mも登ると「朝鮮総連」で、朝の中距離弾道ミサイル(IRBM)発射に抗議しているのだ。

僕は知らなかったが、スマホのニュースによると北朝鮮は15日午前6時57分ごろ、平壌郊外の順安(スナン)区域から東北東方向に弾道ミサイル1発を発射した。約3700キロメートル飛行して北海道上空を通過、午前7時16分ごろ襟裳岬の東約2200キロメートルの北太平洋に落下したとのこと。

機動隊の警官は20名程、病院駐車場横に車輪の着いた移動式の鉄のレールを張り巡らし通行止めをしている。

右翼の街宣車は「バカヤロー、てめえ、ミサイルなぞ発射しやがって」調のやくざ言葉で怒鳴っている。
傍は逓信病院の大きな建物だけで朝鮮総連へは怒声の講義も届く距離で無いので、通行止めにした警官隊に「テメーラ、それでも日本人か!」と怒りをぶちまける。

もう一台の街宣車は女性の澄んだ声でとうとうと「核弾頭を打ち上げられるようなミサイルの開発を中止せよ」と日本国家を代表するような論理的な説得をしている。

韓国や中国の日本大使館の前では韓国人や中国人が堂々とデモの示威行為を行い時には生卵や汚物を投げこみ、慰安婦像や労働者像を建てるのを官憲は止めようとしない。

右翼の街宣車が怒るように、建物正面に車を止めて抗議行動が何故許されないのか?
単に騒動やゴタゴタを避けたいために数十人の機動隊員を出動させて街宣車を追い返すのは如何と思うが?

朝鮮総連への怒りをぶちまける、右翼のやくざ調のおっさんに僕は賛成だ。

広瀬錫扮するヒロイン・島田響が弓道着をまとい、凛々しい表情で弓道に励む。
先日紹介した「一礼してキス」も弓道を素材としているJKものなので混同する。ただ「一礼~」は上級生の女子に下級生の男子生徒が恋をする話だが、こちらは冴えない世界史の先生に女子生徒が熱烈なラブコールを送る。
そして何よりも無名の俳優しか顔を出さない「一礼~」と違い、広瀬すずと生田斗真と言う旬のビッグスターが登場する。

このところこの映画のように若い女性たちが日本古代の武術、「弓道」とか薙刀(なぎなた)の「あさひなく」や剣道に励む、「武士道シックスティーン」や
柔道にとりくむ「柔道ガ-ルズ」など、日本映画は伝統のマーシャル・アートに素材を求める作品に溢れている。

 主人公は南高校2年17歳の弓道部員、島田響(広瀬すず)。武器用でオクテな女の子で未だ本当の恋を知らない。
クラスメイトで同じ弓道部員の千草恵(森川葵)や川合浩介(竜泉涼)は任帰郷しの関矢正人(中村倫也)や美人教師、中島幸子(比嘉愛未)に夫々熱を上げているが響きにはピンと来ない。

でもそんな響にもちょっと気になる先生がいる。世界史教師・伊藤貢作(生田斗真)だ。いつも寝ぐせのついたボサボサ頭にダサイ眼鏡をかか、受け答えもぶっきらぼうで滅多に冗談も言わない。何をを考えているか分からない響きにとっては「大人の先生」。

響は、いつも部活に精を出していて、恋をしたことがない女子高生。「好き」がどういうことなのかすら初めて気付く純な彼女は、アプローチも何もかもまっすぐで不器用。

授業を忘れてベンチでうたた寝をしていたり、居残りを命じられた響に命じた関矢先生はとっくに帰宅したのに最後まで付き合ってくれる優しさ。

クールで生真面目だが実は生徒への愛に溢れる世界史教師・伊藤貢作にいつしか響は真剣な恋心を抱いてしまう。

 逆に薫から目が離せない伊藤は教師の身、生徒との付き合いは「禁断の恋」だ。
伊藤に想いを寄せる様々な思いが交錯する中、初めての恋の相手である教師の伊藤と不器用で純粋すぎる

「じれったい恋」のエピソードが種々紹介され、観客を笑わせ同情をひく。
しかし思わず、知らず接近した響と伊藤が唇を衝動的にあわせてしまうところから当然のことながら大騒動が持ち上がる。

主人公のタイトルロール「先生」の伊藤貢作を演じるのは、32歳の生田斗真。
作家太宰治を描く「人間失格」(10)で注目された生田は、幅広い役に挑戦し体当たり”の演技を見せているが、トランスジェンダーの男女の役を演じた「彼らが本気で編むときは、」は勇気ある試みだった。生田にとっては「僕等がいた」(12)以来5年ぶりとなる、普通の男性役だ。

そして伊藤に人生初めての恋をしてしまう女子高生、島田響役に19歳の広瀬すず。
2年前の「海街ダイアリー」で注目されるや否や、日本映画のアイドル的存在で快調に伸びて来た美少女広瀬すず。
余りに不器用で男女関係に無知なので「カマトト」的な嫌味を感じるが、広瀬の演技力は物語の展開とともにそんな印象を払拭してくれる。
弓道練習は過酷を極め、「いままでで一番難しかったです」と広瀬は言う。

 他に響が所属する南高弓道部の部長・川合浩介役の竜星涼、響の親友でおなじく南高弓道部員の千草恵役の森川葵、響たちが通う南高と同じ地区の北高弓道部のエース・藤岡勇輔役の健太郎、伊藤の同僚である関矢先生役の中村倫也らが脇を固める。

原作の著者・河原和音は、2016年公開となった映画「青空エール」や「俺物語!!」など、その作品が続々と実写化される人気少女漫画家だ。
1996年から2003年まで別冊マーガレットで長期連載されていた、累計発行部数570万部突破している同名の大ヒットコミック河原和音の人気少女漫画「先生!」の映画化。
倫理的なことなど忘れれば気軽に楽しめる青春コメディ。

10月28日より新宿ピカデリー他で公開される

「ヒットマンズ・ボディーガード」(The Hitman's Bodyguard)(米映画):民族浄化と称し大虐殺を行った元大統領の有罪判決証言のために、殺し屋が俊椀ボディガードを雇う

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 8月18日からアメリカで上映が始まったLionsgateのこの作品は夏の大作が「疲労」で映画興行が落ち込む中、低レベルだが3週連続首位の座を占めた。

 4週目はS・キング原作のホラー映画「IT」に首位の座を追われて3位におちて、3322館で4.9Mに終わったが、
4週目国内累積が64M、海外26カ国で開けて累積は60M.。ワールドワイド総計は125M(139億円)になる。始まって4週目でこの数字ならまずまずの成績だろう。

話の大筋は、殺し屋ダリアス・キンケイド(サミュエル・L・ジャクソン)は国際司法裁判所で証言することになり、 安全に移動するために世界最高のボディーガード、マイケル・ブライス(ライアン・レイノルズ)を雇う。

2人はダリアスを殺し証言を阻止しようとする凶悪な刺客たちを蹴散らしながらオランダ・ハーグの裁判所を目指す。

派手なカーチェイスや銃撃戦、裏切りや内通者などの陰謀を交えたシンプルなストーリーのB級アクション映画だが、詰らない夏のシリーズ大作が犇めいたサマーシーズン終了間際の間隙を縫って出て来たニッチェ作品だ。

監督は「エクスペンダブルズ3 ワールドミッション」(14)などのアクション・コメディ。得意のパトリック・ヒューズ。

この映画は調べてみると、日本では劇場公開の予定が無く8月25日からネットで公開されている。

仕方が無いのでそのNetflixに申し込み、大画面では無くPCのモニターのVOD(月額650円)で見た。PCモニターの小さな画面で鑑賞したものを映画と呼べるかどうか疑問に感じるね。
映画業界の衰退を加速させるものでしょうね。

主演はカナダ出身の40歳、ライアン・レイノルズ。
ウルヴァリンなどで誰でも知っているが今一つ人気が無い。
ところが昨年、大ヒットした異色なスーパーヒ-ロ―「デッドプール」のユーモラスなアクションで風向きが変わって来た。
その勢いでこのB級アクションもののヒーローも乗りに乗っている。

批評家はB級作品とバカにしているが観客の評価も出口調査(CS)で「B」評価と余り高くない。観客は女性層が48%と大半を占める。

元CIA捜査官で辣腕のボディーガード、マイケル・ブライス(ライアン・レイノルズ)は日本人の武器商人、クロサワ(サオトメ・ツクオ)の護衛を担当する。任務を無事に終えたと思った矢先、プライベイトジェットに乗り込んだクロサワはブライスにジェット機の窓から手を降ったところを狙撃銃で額を撃ち抜かれてしまった。ブライスの護衛警備の名声は地に落ち三流の仕事しか回ってこない。

それから2年後。ブライスは一線を退き、民間の会社社長の護衛をすることで生計を立てていた。
その頃、ベラルーシの独裁者、デュコビッチ(ゲイリー・オールドマン)は民族粛清と称し大量殺人を犯したとして国際司法裁判所(the International Court of Justice)で審議され裁かれることになっていた。しかし、彼が犯した罪を追及することは目撃者も死亡し少なうなっており、困難を極めていた。

デュコビッチは自らの罪を立証できるような人間を片っ端から殺していたためである。国際司法裁判所の最後の希望は混乱と暗殺の中を生き延びているダリウス・キンケイド(サミェル・L・ジャクソン)の証言であった。
デュコビッチに扮するゲイリー・オールドマンは顔中髭だらけの悪人面。憎々しさは上手い。

観客は、十数万人以上の死者を出したボスニア・ヘルツェゴビナ内戦当時、セルビア人武装勢力の司令官で、戦争犯罪などに問われているラトコ・ムラディッチがモデルだと簡単に想定がつく。デュコビッチとムラディッチは日本人は区別できない。

ムラディッチ被告はボスニア東部のスレブレニツァで95年、イスラム教徒約8000人が虐殺された事件を指揮したとして、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア戦犯法廷から国際司法裁判所へ虐殺、戦争犯罪、人道に対する罪で起訴された。

凄腕のヒットマンとして知られるキンケイドは、刑務所暮らしの妻(ソニア)(サルマ・ハエック)の釈放と引き替えにデュコビッチを有罪にする証言をすることで司法取引に同意した。

インターポールの高官、ジャン・フーシェ(ジョアキム・デ・アルメイダ)はアメリア・ルーセル(エロディ・ユン)をキンケイド護送チームのリーダーに任命した。

ルーセルはブライスの元カノでもあった。
護送部隊はデュコビッチの息がかかった者たちによって襲撃され、キンケイドとルーセル以外の全員が殺されてしまった。

アクション映画といいながら退屈でスローなシーンが続くがこの熾烈な護送部隊襲撃事件で眠りから覚める。

安全な場所に身を隠した2人は、インターポール内に内通者がいる可能性を疑っていた。その可能性が高い以上、インターポールに救援を求めるのは危険だと判断したルーセルは、昔のボーイフレンド、ブライスに協力を要請した。

ルーセル役のエロディ・ユンはカンボジア人の父親とフランス人の母親の間に生まれた36歳のフランス国籍の女優。日本では馴染みが無いがフランスではTVドラマで活躍し

キンケイドとルーセルに裏切られた因縁があるブライスはその要請を断ろうとしたが、
これまでの汚名返上に協力することを条件に、キンケイドの護衛に参加することにした。

ルーセルは報告のためにインターポールに向かい、ブライスとキンケイドは追っ手から逃げ続けることとなった。
キンケイドとブライスはウマがあい仲の良いバディ・ムービーに逃走のロードムービーの要素が加わる。
インターポールの内通者(もぐら)はやはりフーシェであった。
フーシェはキンケイドを売り渡す見返りをデュコビッチに求めたが、デュコビッチはフーシェの腕を突き刺し、「報酬を払うのはキンケイドが死んだときだ」と冷たい。

追っ手の殺し屋たちは、キンケイドのスマートフォンから居場所を割り出すことに成功し、2人を奇襲する。終盤にかけてのカーチェイスと銃撃戦は今までのスローさを挽回するゆに盛り上がる。

国際司法裁判所への出頭時間の締め切りまで息を尽かせぬハラハラドキドキ場面の連続だ。
証言されたら身の終わり。
デュコビッチとフーシェは次々と手を変え品を変えてキンケイドとブライスを襲撃する。

ユーモアやジョークを散りばめるが観客の方にそれほど余裕が無い。

今後劇場の大スクリーンへの上映に替えPCやスマホでお手軽に映画が見られるようになるが、僕はあくまでも小屋の大スクリーン、何と言っても3DやImaxに拘りたい。

ネット映画は「映画」ではない。ストーリーを追うだけの紙芝居だ。

インターネットのNetflixのVODで上映中

「ああ、荒野」(日本映画):東京オリンピック後の新宿歌舞伎町で出会った2人の男がボクシングを通じて友情を育て、憎しみ合い、何よりも愛し合う。

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原作は寺山修司の唯一の長編小説と言うか、15章からなる連作短編集。天井桟敷の芝居は見たがエッセイ集は「書を捨てて町へ出よう」以外は読んでいないのでこんな長編小説があるのを初めて知った。

寺山自身も言っているように各章ごとにジャズのアドリブの乗りで書いたと。新宿歌舞伎町で出会った2人の男が友情を育て憎しみ合い愛し合いボクシングをするだけの話だけだが、2人を囲む登場人物が一癖も二癖もあるチャーミングで男臭く魅力的で興味が湧く。

更に「もう戦後ではない」昭和60年台の歌謡曲や、小説、詩などのフレーズが散りばめられていたり、猥雑でセクシーでバイオレントな歌舞伎町のいろんな「荒野」が物語の舞台となっている。

この粗削りで粗野な素材からエッセンスとテーマ、スピリットを抜き出し翻案し現代(というか近未来の)2021年に再現した共同脚本の岸善幸と港岳彦の力量は並々ならぬものだ。

殆ど港と岸のオリジナルと呼んでも良いのではないか。両方の時代とも東京オリンピックの後と言うのも面白い。

 21歳の沢村新次(菅田将暉)。オレオレ詐欺の仲間、山本裕二(山田裕貴)のだまし討ちに相手を叩きのめしたことで少年院に入れられ3年振りに出所した。どこにも居場所は無い、燃えているのは「復讐」だけだ。だがプロボクサーでデビューしたばかりの裕二にあっさり叩きのめされる。

倒れかかった新次に手を指し延ばし助けたのは通りがかった二木健二(ヤン・イクチュン)。一部始終を見ていた元ボクサーの片目の堀口(ユースケ・サンタマリア)で強くなりたかったらボクシングを習えと、歌舞伎町の裏通り、自分の「海洋(オーシャン)拳闘クラブ」に誘い込まれた新次と健二。

 床屋で働く健二は吃音障害と赤面対人恐怖症で引っ込み思案で人前に出ない。
韓国人の母親は幼い頃に亡くなり元自衛官の父親、建夫(モロ・師岡)は健二を暴力で支配していたが、堪りかねた健二は住んでいた家を出て堀口の勧めるままにボクサーになり新次と共にジムで寝泊りする。

引退して18年、ボクシングで失った左目が見えない堀口に喧嘩が強い信次はまるで通用しない。優しい健二は相手を殴れないがたまたま出す右パンチは鋭く威力満点だ。

10歳年上の健二を「兄貴」と呼ぶ新次は優しい健二を慕う。
堀口はリングネームを考える。
「新宿・新次」、床屋が本職の健二は「バリカン健二」だ。二人も周りの人間も堀口のネーミングが気に入る。

やがてプロライセンスの取得し合いをパスしたバリカン・二木建二と、やがてライバルになる新宿新次との青春を軸に、セックス好きの曽根芳子(木下あかり)、トレーナーの恐ろしい強面馬場(でんでん)、など多彩な変わったキャラクターが繰り広げる人間模様が飽きさせない。

しかしボクシングと関係無い、「自殺防止研究会」や自殺のライブ中継とか「社会奉仕プログラムの自由化」とかの意味が分からない。何でこんな異質な要素を大切に扱うのか?

終盤、「新宿・新次」と戦うためにのみ他のジムに移籍した「バリカン健二」。
「愛するために憎む」と言うフィロソフィーを掲げリングに上がるがパンチを80回以上食らうシーンは見ておれない。煮詰めたテーマがここにあるのだろう。

主人公の新次には「仮面ライダー」出身の若手俳優で「キセキ」などの24歳の菅田将暉。

もう一人の主人公バリカン健二には09年、監督・主演の「息もできない」で数々の賞を授与された42歳の韓国ヤン・イクチュン。

さらに、片目のジムオーナー堀口にユースケ・サンタマリア、
新次の幼い時に捨てた母親、君塚京子に木村多江、好色な芳子に木下あかり、ジムの不動産社長、宮本太一に高橋和也、勃起せずAVや覗き見専門と言うのがおかしい。

バリカンの暴力的父親をモロ師岡、新宿新次の天敵、山本裕二を山田裕貴、酒を飲みながら暴力的トレーニングをつける馬場役をでんでんなどといった芝居の上手い魅力あふれる役者陣が顔を揃える。

監督・脚本はデビュー作「二重生活」が注目された岸 善幸。
前編、後編を併せて5時間を超す超長尺作品を飽きもさせずたっぷりと堪能させる。

試写室も補助椅子を出して超満員。日本映画が面白い。

U-Nextで有料配信も劇場公開前にVODでされると言う。

10月7日より前編を10月21日より後編が新宿ピカデリー他で公開される

「ノクターナル・アニマルズ」(Nocturnal Animals)(米映画):スーザンの開催するパーティ会場へ宅配便で「スーザンに捧ぐ」と献辞入り小説原稿が届けられる。18年前に離婚した元夫だった

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世界的ファッションデザイナーのトム・フォードが、監督した2009年の「シングルマン」以来7年ぶりに手がけた映画監督第2作。

「シングル~」は、1960年代のLAが舞台、ホモの大学教授、ジョージは8ヶ月前交通事故で恋人のジムを亡くして以来、生きる目的を失い、ピストル自殺を企てる。
弾丸を購入し、荷物を整理し、遺書をしたため準備を進めていたが、生徒のケニーが彼に近づいてく。
ヒットしなかったがジャンル映画で面白かった。

この映画もアート作品のジャンルだろう。
原作はアメリカの作家オースティン・ライトが1993年に発表した「Tony and Susan」(邦題「ミステリ原稿」)を自ら脚色し映画化したサスペンスドラマ。 

冒頭のパーティ場面に驚く。スーザン・モロー(エイミー・アダムス)が経営するアートギャラリーのパーティだ。

会場に設えた群衆に囲まれた丸い小さな舞台の上でロックの激しいビートに合わせて真っ白な裸の肉塊が踊っている。
真っ黒な背景にスポットライトを浴びた白い巨大な肉塊は全裸で秘所も隠していないのに腹部の脂肪が垂れ下がりアソコはまるで見えない。

ファッション・アイコンのトム・フォードならではのインパクトあるイメージから映画はスタートする。

パーティ会場へ宅配便で箱に入った部厚い原稿が届けられる。
18年前に離婚した元夫だったトニー・ヘイスティング(ジェイク・ギレンホール)からだ。
「スーザンに捧ぐ」と献辞入り。献辞までされたら読まずには居られない。喧噪の届かない二階のオフィスでページを捲る。

主人公、スーザン・モロー(アダムス)はアーティストではないが美術に関心があり、LAの繁華街でアートギャラリーを営んでいる。

アートディーラーとして成功を収めているものの、再婚した夫ハットン(アーミー・ハマー)との関係も退屈で心が満たされずがうまくいかない。

そんな彼女のもとに、パーテイ最中に、元夫のエドワードから謎めいた小説「夜の野獣たち」(Nocturnal Animals)と題された原稿が送られてくれば直ぐに目を通したくなる。。

原稿を読み始めたスーザンから、カメラの視点はそこに書かれた不穏な物語の主人公、トニー(ジェイク・ギレンホール二役)の視点へ移り、現実とフィクションに別れて行来する。
カットバックやフラッシュバックは良く使う手段だがフォード監督はスムーズに移動し違和感が無い。

小説は古いメルセデスに荷物を積み込み、一家揃ってテキサス州マルファへ向かうところから始まる。
西テキサスの夜の漆黒なハイウェイ。2台の不審な車がぶっつけて来る」。

運転中のトニーをスーザンは元夫、エドワードに置き換えている。
逃げ込んだドライブインで、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)ら3人に襲われ、トニーは昏倒する。

トニーの妻、ローラ(アイラ・フィッシャー)と幼い娘、インディア(エリー・バンバー)は拉致された。
家族を見失ったトニーは警察を呼び、担当のボビー・アンディーズ警部補(マイケル・シャノン)と共に行方を探す。

ローラを自分に見立てると娘のサマンサ(インディア・メネズ)が心配になり電話で元気な声を聴き安心して小説に戻る。

スーザンの家はハリウッドヒルの小高い丘の上にありLAの夜景を見渡せる宮殿のような豪壮な邸宅。

スーザンに捧げられたその小説は暴力的で衝撃的な内容だった。
精神的弱さを軽蔑していたはずの元夫の小説に、それまで触れたことのない非凡な才能を読み取り、に奇妙な既視感を覚えて、一度エドワードに会ってみたいと思うようになるスーザン。リッチな生活を送る主人公と元夫が書いた過激な小説の世界がリンクしているのではないかとさえ考える。

エドワードは何故小説を送って来たのか?
18年経っても,まだスーザンに未練をのこしているのか?それともこれは念の入った復讐なのか?

アートギャラリーのオーナー、主人公スーザン・モローを演じるのは43歳イタリア生まれのエイミー・アダムス。
2005年の「June bug(原題)』で演じた妊娠アシュリの演技で注目を浴び、
2008年「魔法にかけられて」ではおとぎの国から現実のNYへ迷い込んだプリンセスの役で、GG賞主演女優賞にノミネート。
その後も2013年の「マン・オブ・スティール」ヒロイン役、魔性の女性役で13年の「アメリカン・ハッスル」、聡明な言語学者に扮した今年5月の「メッセージ」など活躍している。

エイミーの元夫で小説家のエドワード、そして小説の主人公、トニーの二役を演じるのは36歳のジェイク・ジレンホール。
芸歴は多彩1999年の「遠い空の向こうに」の主演を評論家から高い評価を得た。2006年「ブロークバック・マウンテン」ではアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

小説に登場するボビー・アンディーズ警部補はマイケル・シャノン。
2009年の「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」の脇役演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。

スーザンの2番目の夫、妻に無関心で浮気ばかりしているウォーカーを演じたのは、アーミー・ハマー。2010年の「ソーシャル・ネットワーク」でウィンクルボス兄弟、2015年のスパイコンビ映画「コードネーム U.N.C.L.E.」でイケメンスパイを演じた。

暴行殺人犯のレイ・マーカスはアーロン・テイラー=ジョンソン。警察が駆けつけると家の前庭に便器を置きウンチをしているのに笑っちゃう。
イギリス生まれの27歳。
この作品でGG助演男優賞を授与されている。

ファッション・アイコンのトム・フォー監督の世界に閉じ込められる2時間弱のスタイリッシュでファンタジーの世界を楽しむ。

11月3日よりTOHOシネマズ・シャンテ他で全国公開される。
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