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「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」(The Quiet Passion)(英映画):19世紀半ばのストイックな女性詩人エミリ・ディキンスンの生涯を淡々と描く。

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アメリカの女性詩人エミリ・ディキンスンの生涯を「セックス・アンド・ザ・シティ」のシンシア・ニクソン主演で映画化。

エミリ・ディキンスンは日本で(本国アメリカでも)知られていない19世紀後半の女性詩人。
土曜のブログに書いたジム・ジャーミシュの「パターソン」の中でも
詩人でバスの運転手の主人公が尊敬し口ずさむ詩の一篇にディキンスンの作品が登場している。

ニューイングランドの小さな町の屋敷から一歩も出ることなく、生前にわずか10編の詩を発表したのみで、無名のまま生涯を終えた女性詩人、エミリ・ディキンスンは、その死後に妹の手により隠匿していた約1800編の詩が発見される。

他に無数の手紙。エミリは書くことは好きなようだったが、自分の写真は女学生時代の一枚だけしか残っていない。真摯な瞳でまっすぐ前を睨むようにレンズを見つめている。

妹の手で発見された繊細な感性と深い思索の中で編み出された詩の数々は、
後世の芸術家たちに大きな影響を与えていると言われる。

 1886年、北米マサチューセッツ州の小さな町アマストで、妹のラヴィニア(ヴィニー)・ディキンスンは整理ダンスの引出から、清書されて46束にまとめられた1800篇近くに及ぶ詩稿を発見する。
それらは腎臓病で亡くなった姉エミリのものだった。

「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」は、アメリカを代表する女性詩人エミリ・ディキンスン(1830-1886)のベールに包まれた半生を描いた作品である。

 映画の冒頭は家族を離れマウント・ホリヨ-ク女子専門学校に通うエミリ(エマ・ベル)は
校長から信仰について問いただされる。
福音主義に確信を抱いていないエミリは正直にそのことを皆の前で宣言する。
(正直なのは良いが嫌な女だと言う印象を受ける)

 富豪で弁護士の父親、エドワード(キース・キャラダイン、ピシット旧式のスーツで決めるとよく似合う)はエミリを中退させアマストの自宅へ連れ帰る。

父親は校長にへつらわず反抗的態度は良しとしないが、娘の意志を尊重し自宅へ連れ帰るのは立派だ。

家には兄オースティン(ダンカン・ダフ)
妹、ヴィニー(ジェニファー・イーリー)と共に過ごすことになる。

何事も本音で語るヴィニ-にエミリも影響を受ける。
教会で牧師と「祈り」について牧師と異なる祈りへの考えを述べ、反抗的な態度をとる。
父親も堪りかねて注意するが宗教を強要されることを嫌うエミリは「私の魂は私のものよ」と譲らない。

エピソードが進む中に突然、歴史が入って来る。
「南北戦争」の勃発だ。
結婚して父親と一緒に弁護士をしているオースティンは当然志願する。

 ここでの会話が興味深い。
父エドワードは「公債500ドルを買っているから徴兵は免れられる。
ディキンスン家はお前が戦死したら途絶える」。

 友人や仲間が皆、南軍と戦うのに自分だけはそんなことは出来ないと延々と議論が激しくなる。
天皇継承で女帝は認めない日本と同じ考えだ。
泣く泣くエドワードは父親に従うが、
60万人以上の戦死者を出した戦争は終わり、
奴隷制度は廃止される。

兄エドワードは美しい妻スーザン(キャサリン・ベイ)との間に男の子を設け
エミリはこの甥を可愛がる。

エミリ自身も聖職者、チャールズ・ワズワース牧師(エリック・ローレン)に
心を奪われるが牧師は妻帯者。
やがてサンフランシスコに赴任し激しい喪失感に襲われる。

 その癖兄エドワードの浮気現場を見つけると烈火のように怒りまくるエミリの本性は分からない。

 父親の紹介で地元ボストンのローカル紙に詩を投稿し載せてもらった歓び。
だが編集長は作者の名を明記しない。
「女が詩なんて書くものでは無い」と。

 句読点を勝手に入れたこともエミリの怒りの種。
原作に手を入れるのは、作者だけの権利で貴方にそんな権限は無い。
「読者に読みやすくしてあげている親切心だ」と反論。

母親エミリー(ジョアンナ・ベイコン)が腎臓の病で苦しみながら亡くなり一家が黒い喪服で母親の喪失を悼んでいる時に「
真っ白」なドレスでエミリは現れこれが私の喪服だと、
同じ腎臓病で死ぬまで白いドレスで通し、
家から一歩も外へ出ず詩作に没頭する。

 清教徒主義の影響を受けるアメリカ東部の上流階級で生まれ育ったが様々な試練を経て、やがて後に伝説となる、白いドレス姿で屋敷から出ることなく、孤独な生活を送り、数多くの詩を書き残した。

彼女の詩は、自然や信仰、愛や死をテーマに、繊細な感性と深い思索のなかで記されたものだ。その独特のスタイルは型に嵌らず、詩作への強い信念が感じられる。
たった10編の詩しか公表されなかったエミリは生前に評価されることは、ほとんどなかったが、いまや文芸にとどまらず、多くの芸術家に影響を与えている。

 例えば、サイモン&ガーファンクルは彼女にまつわる歌「エミリー・エミリー」「夢の中の世界」をアルバムに収めている。

ウディ・アレンはエミリのファンで、著書の短編集のタイトル「羽根むしられて」(Without feathers)は、エミリの詩の一節、「希望は心の中にとどまる羽根のあるもの」からの引用だ。
人間は羽根のない生き物で、地上でバタバタしているとのだと。

 この映画は、日本人の殆どが知らないエミリ・ディキンスンという偉大な詩人に捧げられた
オマージュである。

 撮影はマサチューセッツ州アマストのエミリが実際に暮らした屋敷とスタジオで行われ、約20篇の彼女の詩を織り込んでいる。

 彼女のかたくななまでに思いを秘めた女子学生時代から、
母親の病死で白いドレスを纏い、一歩も邸宅を離れることなく、
詩作を心の拠りどころにした晩年から死までを静かに淡々と描いている。
(2時間を超すとは、やや長すぎる感があるが)

「人生」と「死」、そして「永遠」を真正面から直視する孤独な魂の描写はストイックな観客ならその琴線にふれるだろう。

監督は、レイチェル・ワイズとトム・ヒドルストンが主演した「遠い声、静かな暮し」(1988)などのイギリスのテレンス・デイヴィス。70歳を過ぎてこの作品を入れて3本しか撮っていないし、日本に紹介されたのもこの映画くらいだから馴染みの無い映画作家だ。
主演のシンシア・ニクソンは人気テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダ役でエミー賞助演女優賞を受賞している。19世紀のストイックなエミリと自由奔放に世間を駆け抜けるミランダとの間には天地の差があるが、さすがはベテラン女優、シンシア・ニクソン。真反対の女性像を演じ分けている。
紛れもなくシンシアにとっては生涯一度の大役。彼女の代表作になるだろう。

7月29日より岩波ホールにて公開される。

「二人の旅路」(Magic Kimono)(ラトビア・日本映画): ラトビアの首都リガで開催される「着物ショー」に参加したケイコは、25年前の阪神淡路大震災で行方不明になっていた夫が突然現れ、何とも不

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大林宣彦監督はCM監督時代にコーヒー「マキシム」のCMで何度もLAロケをして貰い親しくしていた間柄だ。

学年は上だが1938年と同年の生まれ。

最近顔を見ないし映画も撮っていないなと思っていたら衝撃のニュースが入って来た。
 11日(日)、都内原宿で行われた国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」の授賞式に出席。

公式審査員として総評のコメントをする中で、去年の8月に「肺がん第4ステージ」で余命3ヶ月と宣告されていたことを明かした。

僕の中学生以来の親友だった朝日新聞のK君も肺がん第4ステージを宣告され、3カ月を2年持ち堪えたが、1昨年ホスピスで亡くなった。

 杖を突きながら登壇した大林監督は、医師の宣告どおりなら「本当はここにいないのですが、まだ生きております」とあいさつ。
そして「生きてるならば皆さんに、映画こそが世界に平和を齎すエンターテインメントだと、黒澤明監督が残された遺言を伝え若者に映画制作に励んでもらいたい」と語った。この人の頭の中には映画のことしか無い。

余命宣言をうけた監督のスピーチで、年齢、不治の病、生涯の使命、戦争と平和、いろんなことを考えさせられる。

「幸せの黄色いハンカチ」(77)で初々しい女子学生を演じた桃井かおりもあれから40年経って66歳、還暦は遥か昔、古希に近い。

フランスワインの「ボジョレー騎士」かと思っていたら、最近は北ヨーロッパの小国、ラトビアの首都リガの文化大使を名乗っている。
この映画でコンビを組んで3本目のマーリス・マルティンソーンス監督の縁らしい。

離婚に続いて娘の死をきっかけに心を閉ざし、神戸で孤独な日々を送っていたケイコ(桃井かおる)。

ある日、和服の美しさを世界にショウアップする「着物フェスティバル」に参加するため、
ラトビアの首都リガを訪れた彼女は、
かつて震災で行方不明になった夫(イッセー尾形)と再会をする。

 再会と言ってもケイコは不気味な老人のストーカーだと思いこんでいる。
後に夫だと判明するが、会った時はすっかり白髪になっている夫を認識できない。

 それにしても、何故ラトビアなんだ?
単にマーリス・マルティンソーンス監督の祖国だと言うことだけだろうと疑うが、実は神戸市とラトビアの首都、リガが姉妹都市をむすんでいてその提携40周年を記念して共同製作が実現したのだと言う。

「ラトビアまでの経路をスウェーデン経由のFINN航空で飛ぶのよ」と説明まで丁寧にしている。
タイアップで無料航空券を貰っているなと直ぐ分かる。

それ以来、夫は度々ケイコの前に現れるようになるが、
ケイコは現実だと思えず邪険な態度を取り続ける。
尾形の羽織袴姿はサマになっていて良く似合う。

ショウが成功裏に終わった後、ついに夫を受け入れたケイコだが、
悲しい別れが待ち受けていた。
これはラフカディオ・ハーンの世界の話だ。

ラトビア出身のマーリス・マルティンソーンスが監督・脚本・編集を手掛けた作品で、桃井とはこれが3度目のタッグとなる。

「雨夜 香港コンフィデンシャル」なんてワケの分からないヘンテコな映画を見た覚えがあるが、あの映画でマルティンソーンス監督と組んだことを今知った。
その後「OKI-In the middle of the ocean」は見ていないが、劇場公開はされていないほど箸にも棒にも掛からぬ映画なのだろう。

3度目のコンビとなる桃井かおりと、マーリス・マルティンソーンス監督によるミステリーで、前2作に比べても(マシで)どうにか見られる作品に仕上がっているようだ。

しかし何でクリス・マルティンソーンス監督と組むのか良く分からない。監督の伝手で桃井はラトビアのリガ文化大使と言う名誉職を勤めている。
この監督に才能があるとはこれまでの作品を見ていて思わない。
むしろ「火 Hee」を監督し脚本を書き主演した桃井の才能の方が数段優れている。

神戸に住むケイコは一人娘の死をきっかけに自分の殻に閉じこもり、1人寂しくアパートで暮らしていた。
たまに散歩して丘に立つ公園で神戸港を見下ろす。

神戸を離れたくないが、強引に誘われるまま、
ラトビアの首都リガで開催される「着物ショー」に参加することになったケイコは、
そこで25年前の阪神淡路大震災で行方不明になっていた夫(イッセー尾形)と
何とも不思議な出会いをする。

白髪に羽織袴姿の老人をとても四半世紀も行方不明のままの夫と思えない。悪い冗談だと敬して遠ざけていたが夫と称する老人は付き纏う。

船の上,イベント会場、ホテル、レストランなど様々な場面に「神出鬼没」に
現れる夫に邪険な態度を取り続けるケイコ。

やがて、彼女は徐々に夫と認め初め、心もいつしか開いてようやく老人を夫を受け入れるが、
再び悲しい別れが訪れる。

消える間際に洒落た会話がある。
イベント会場からホテルの建物を二人で見ている。
どの部屋も真っ暗だがただ一つだけ明かりの灯る部屋があると夫が指さす。
「ああ、あれは私の部屋よ。お化けが怖いからいつも電気を点けているの」
幽界からわざわざ妻に会いに来た夫に言う言葉じゃないが、洒落たダイアログを最後に夫は消える。

PTSDを抱え殻に閉じこもっている老女が、北ヨーロッパの見知らぬ異国ラトビアへとやって来る。
最初は萎縮していたものの、着物をという文化を通じて心優しいラトビアの人たちと付き合い、
夫と称する老人に付き纏われるうちに、心の殻が綻び始め一歩ずつ前へ進み始める。

「太陽」以来2度目となる桃井かおりとイッセー尾形共演の日本ラトビア初共同製作映画。

監督・脚本・編集は、ラトビア出身の映画監督マーリス・マルティンソーンス。
ホームグラウンドに皆を引きずり込んで勝負をかけた作品だ。

6月24日より丸の内TOEIにて公開される。

「ベイビー・ドライバー」(BABY DRIVER)(アメリカ映画):自分好みのリストで音楽を聞きながら、銀行強盗の仲間たちを乗せ、卓越した運転テクニックの赤いスバルで警察の追求を交わす天才ドライバー、

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先週末、愛知県東名高速道路で観光バスのフロント・シールド乗用車が中央分離帯を跳び越えて、47人の乗客乗員の観光バスに「空中を回転しながら衝突」した事故があった。

 映画の1シーンをみているようでTVニュースは何十回と衝突映像を繰り返し放映した
バスはフロント部分が滅茶苦茶に壊れ、飛び込んだ乗用車は原形が分からないほど壊れた。

事故を運転席の正面から捉え車が舞いながら突っ込んで来るこんな動画に熱狂する。

だから今日のような「ベイビー・ドライバー」のような映画は大好きだ。

抜群の運転テクニックを持つ男が銀行強盗などを助けて逃走(ゲッタウェイ)、ポリスカーを抜き去り高速道路を逆走し細い裏道を抜けて逃げおおす。

観客が好むこの手の映画は無数に作られている。

 カーチェイスをお得意とするフランス映画ではジェイソン・ステイサムのようなスターを生み出したが(「トランスポーター」シリーズなど)、
アメリカ映画でも古くは40年も前に、ライアン・オニールとイザベル・アジャーニの
「ザ・ドライバー」や、
歌と踊りの「ラ・ラ・ランド」で今年のオスカーを受賞したライアン・ゴスリンの
「ドライブ」(11)、
クリント・イーストウッドの後継者と言われるベン・アフレック監督・主演の
「夜に生きる」(16)などは逃走の天才ドラーバーを描いている。

またこれから公開されるC・イーストウッドの息子スコット・イーストウッドが主演する
「Overdrive」(9月TOHOシネマズ・スカラ座他で公開される)も
狂暴なマフィアに高級クラシックカーで対抗する車が主人公になるクライムミービーだ。

だからこの映画の主人公も目新しく無いが、
VFXの最新技術を駆使したドライブテクニックは
40年前のオニールが見たら目をまわすだろう。

ドライブに付加価値を付けるのは主人公、ベイビー(アンセル・エルゴート)が絶えず聞いている音楽の特異さだろう。
実際この映画のタイトル「ベイビー・ドライバー」はサイモンとガーファンクルの曲だ。

舞台はジョージア州アトランタ。
天才的なドライビング・センスを買われ、犯罪組織の「逃がし屋」として活躍する若きドライバー、通称「ベイビー」(アンセル・エルゴート)。
彼の最高のテクニックを発揮するための小道具、それは自分が作り上げた完璧なプレイリストが揃っているiPod。

 だからエドガー・ライト監督にすればゲッタウェイ映画で無く、ミュージック映画を作ったと信じ込んでいるようだ。

「ベルボトムス」(ジョンス・ペンサー・ブルース・エクスプロージョン)から始まり、
ボブ&アールの「ハーレム・シャフル」、
デイブ・ブルーベックの「アンスクエア・ダンス」
コモドアーズの「イージー」
T.レックスの「デブラ」
その他サム&デイブ、バリー・ホワイト、クィーン、サイモン&ガーファンクルなど
全29曲をたっぷり流す。

そうなるとターゲットはライト監督好みの曲が好きな若い観客に絞られて行く。

子供のころの事故の後遺症で耳鳴りが激しく難聴のベイビーだが、
自分の好みリストの音楽にノって外界から完璧に遮断されると、
耳鳴りは消え、真っ赤な「スバル」を自在に操る抜群のテクニックを発揮する、
クレイジー・ドライバーへと変貌する。

絶えずlPodからイヤホーンを差し込んでいる。
一番好きな曲は病気でベッドに横たわる母(スカイ・フェレーラ)の歌ってくれた歌を
絶えず聴いている。

 ダイナーで働く女の子、デボラ(T.Rexの「デブラ」じゃないわよと)(リリー・ジェームズ)を
好きになったのもママに似ているからだ。
ベイビーは完璧のマザコン。

デボラにしてみれば母親の喪失でトラウマに囚われた男に手を差し延ばしただけで
愛とかロマンスでは無い。

しかしベイビーは、優しい目をしたファムファタールに出会ってしまった感の
未熟児は犯罪仲間から足を洗うことを決意する。それは妄執となり固い決心だ。

しかし彼の才能を惜しむ組織のボス(ケヴィン・スペイシー)はベイビーの変節にデボラの存在を嗅ぎ付けられ、脅かされて普通なら手を出さない無謀な強盗に手を貸すことになる。

ボスの下の強盗仲間は種種雑多の魅力的な連中だ。
ウォール街の銀行マンから転向したバデイ(ジョン・ハム)や
若くて狂暴なダ―リーン(エイザ・ゴンザレス)、
直ぐに切れて銃を乱発するバッツ(ジェイミー・フォックス)などがいる。
このバッツがベイビーの態度が怪しいと最初に気付きボスの耳に入れたのが始まりだ。

主人公、ベイビーことアンセル・エルゴートはテイーンの頃に「ダイバージェント」や「きっと、星のせいじゃない」などに脇で顔をだしている22歳の若手俳優。
子供っぽい顔、ベイビーの容貌だ。
193センチの長身でモデルや歌手としても活躍する。初めての主演で気をいれて好演をしている。

43才のイギリス生まれの映画監督エドガー・ライト。
20才の時に「A Fistful of Fingers」で長編映画デビュ―と言うがそんなものは、
評判にもならないし日本にも入って来ない。
その後脚本家としてTVドラマで活躍したと言う。
これが初のハリウッド長編デビュー。

ボス役は「ユージュアル・サスペクツ」や「ハウス・オブ・カード」などのケヴィン・スペイシー。こんな悪役はひさしぶりだ。
他に脇を固めるのが「レイ」でアカデミー主演賞を獲得しこれから公開される「パニッシャー」も期待できるジェイミー・フォックス。

バディ役の46才、ジョン・ハムは「ザ・タウン」や「ミリオンダラー・アーム」など出演作は好評だ。

ダーリンのエイザ・ゴンザレスは27才のメキシコの巨漢。
ロバート・ロドリゲス監督の「フロム・ダスク・ティル・ドーン」の芝居は強烈だった。

特異なB級のアクション&ミュージック映画、お気に召せばそれだけ若いと言うことだ。

8月19日より新宿バルト9他で公開される

「台湾萬歳」(日本映画):戦時中日本の占領下で暮した台湾の人々。懐かしく日本との思い出を語る。

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池澤直樹は余り読まないのだが、1300年の時空を超える考古学ミステリーと銘打った惹句に釣られて「キトラ・ボックス」(KADKAWA:2017年3月刊)を読んだ。
日本の奈良時代に遡る古代史を勉強しながら読み終わる。

途中から気付くのだが、2-3年前に読んだ「アトミック・ボックス」の続編だと思いつく。日本でも戦時中に自分の父親は原爆の開発をしていたと暴露した宮本美汐が引き続き重要な役柄で出て来る。

しかし今回の主人公は中国の官憲の手を逃れて日本にやって来た新疆ウイグルの女性考古学者、可敦(カトゥ)。
大阪千里の国立民族学博物館研究員で准教授の資格を持つ30歳の美女。

奈良天川村-トルファン-瀬戸内海大三島。
それぞれの土地で見つかった禽獣葡萄鏡が同じ鋳型で造られたと推理した讃岐大学准教授の藤波三次郎は、国立民族学博物館研究員の可敦の協力を求める。

新疆ウイグル自治区から赴任した彼女は、天川村の神社の銅剣に象嵌された北斗が、キトラ古墳天文図と同じであると見抜いた。

なぜウイグルと西日本に同じ鏡があるのか。剣はキトラ古墳からなんらかの形で持ち出されたものなのか。

謎を追って、大三島の大山祇神社を訪れた二人は、突如二人組の男たちの襲撃を受ける。
可敦の腕を掴み拉致しようとする襲撃犯を玉石を投げて肩や腕に命中させ撃退し窮地を救った三次郎は甲子園を目指した球児だった。
だが、可敦は警察に電話をしないでくれと懇願する。

襲撃犯は日本人ではない。
新疆ウイグル自治区分離独立運動に関わる兄を巡り、北京が送り込んだ刺客ではないかと可敦は推理する。

三次郎は昔の恋人である美汐を通じ、元公安警部補・行田に協力を求め、可敦に遺跡発掘現場へ身を隠すよう提案する。
この行田も面白いキャラだ。公安を引退し今は因島でのんびりと郵便を配達して生計をたてている。しかし昔取った杵柄、鋭い勘で襲撃犯の背後関係を調べ上げる。

1987年の「スティル・ライフ」で、88年に第98回芥川賞を受賞して30年になる。池澤自身も72歳だ。

「スティル・ライフ」とは天地の差がある、この考古学ミステリーは池澤の新ジャンルだろうか?
最初の古墳から鏡と剣を盗む中世の泥棒の出だしは詰らなかったが、現代に戻り、可敦や三次郎や元公安警官で今は郵便配達夫の行田が出て来てストーリーが動き出し面白くなる。


台湾映画は見ていて気持ちが良い。
韓国や中国のように日本への恨み節が無いからだ。
半世紀以上も大日本帝国の支配下にあり日本の統治下で多少の軋轢はあったものの日本人への友情や尊敬、愛情が感じられる。

日本も産業の育成、教育の普及、電力の増加や道路などインフラに巨額な国費を投入している。朝鮮や中国(満州)にも同じ施策は行っているが、台湾だけが感謝しているのが嬉しい。

中国国民党が毛沢東に敗れ台湾に逃亡し台湾を我が物顔に支配して以来「2.28事件」などを経てより日本への愛着を増している(犬は去ったが豚が来た)が、それは映画にも現れている。

2.28事件を扱った侯孝賢の「非情城市」(89)以外は沈滞をしていた台湾映画界も2010年を過ぎるころから好調に転じた。そのきっかけが2008年の魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督作品「海角七号 君想う、国境の南」で、監督も俳優も無名だったにもかかわらず、台湾映画業界史上歴代2位の興行成績を収めた。
徳聖監督の「セデック・バレ」、葉天倫監督の「鶏排英雄」、九把刀(ギデンズ・コー)監督の「あの頃、君を追いかけた」とヒット作が続き、国内だけでなく、中国や、海外でも好成績を上げている。その後の「KANO 1931海の向こうの甲子園」「大稻埕」はいずれも日本統治時代を舞台としていて日本人への親しみを感じる。
台湾には韓国・中国と同様に慰安婦や強制労働問題があるが、日本が長崎・広島原爆のアメリカを許したように、台湾の日本人への恨み節は聞かれない。
お返しと言っては何だが日本からも台湾礼賛のドキュメンタリー作品がこのところ多い。
黄インイク監督の「海の彼方」は日本の統治時代の30年代に台湾から沖縄石垣島へ60世帯の農家が移り住み農業に従事した。
その中の一人、88才になる玉木玉代婆さんにスポットを当てる。台湾から一番近い八重山諸島(石垣島を含む10の島々)に散らばる玉木家の100人を超す家族に囲まれている。この映画の紹介は監督の黄さんのトークショウ(8月3日)を聞いてからブログに上げたいと思う。

今日紹介するのは酒井充子監督が15年かけて完成した台湾三部作、「台湾人生」(09)、「台湾アイデンティティ」(13)に続いてこの最終編「台湾萬歳」だ。
渋谷の美学校で満席の試写前に細身で黒縁の眼鏡をかけた酒井充子監督が挨拶をする。1969年山口県生まれの48才。大学卒業後新聞記者となるが98年、29才の時、台湾の蔡明亮監督の「愛情萬歳」を見て感激し「非情城市」ロケ地見学で台北を訪れた際見知らぬ老人から日本語で話しかけられ、日本語教師の思い出を聞いたのを切っ掛けに2000年「台湾映画を作る」と映画の世界へ入ったと言う。
僕も80年代に何度も台湾出張をしたが、台湾の老人たちからそんな日本への愛着を聞かされている。空港から台北市に向かう運転手は小学唱歌を20曲も歌ってくれた。勿論正しい日本語で「ラ抜き」言葉などありはしない。
酒井充子監督の台湾三部作の幕開けとなった「台湾人生」では、激動の歴史に翻弄された5人の日本語世代たちの日本統治時代、戦後の国民党独裁時代を経て現在に至るまでの人生に焦点を当て、「台湾アイデンティティー」では、第二次世界大戦、二二八事件、白色テロという歴史のうねりによって人生を歩み直さなくてはならなかった6人を通して台湾の戦後の埋もれた時間を描き出した。
そして最終章「台湾萬歳」では時代が変わろうとも、台湾の海に、大地に向き合い、汗を流して 生きてきた人々がいる。
台湾の原風景が色濃く残る台東縣。そこで暮らす人々の生活の中心には今でも「祈り」、「命への感謝」、「家族」がある。
主人公は張旺仔さん、85才と妻の李典子さん77才。元カジキ漁漁師。10人兄弟の9番目として生まれ、9歳から国民学校へ通う。2年生の時に台東縣成功鎮に引っ越し、米軍の空襲や機銃掃射も受けた。14才、国民学校を卒業する年に戦争終結。19才からカジキ漁船に乗りやがて船長となり49才で病気のため引退している。現在は畑での芋やパパイヤ、バナナなど農業が主体。
映画の冒頭に旺仔さんが畑に入って行く後姿から始まる。リスが台湾バナナを綺麗にくり抜いて食べた跡がある。旺仔さんは少しタドタドしいが正確な日本語で人生を振り返り日本人達との付き合いを語ってくれる。

無料奉仕で駆り出され築港の工事をさせられた話には少しばかり恨みも込めていた。

張さんの甥のオヤウさんはカジキ漁を受け次いでいるが、日本軍でなく戦後国民軍に徴兵され捕虜になって中国大陸で43年間も苦役に従事した話は如何に台湾人は中共を憎んでいるか分かる。
台東県は人口約22万5千人。アミ族、ブヌン族、タオ族など多様な民族が暮らしている。
台東県の中心の成功鎮は人口約1万5千人。原住民族と漢民族系の人たちがほぼ半数ずつ暮らしている。台湾の南東部、太平洋と山脈に囲まれ、もともとアミ族が暮らしていた地域。1920(大正9)年、「マラウラウ(麻荖漏)」から「新港(しんこう)」に改称された。1932(昭和7)年に漁港が竣工して以降、日本人や漢民族系の人たちが移住し、漁業と農業の街が作られていった。日本人移民が持ち込んだ「カジキの突きん棒漁」がいまも続けられている。日本の琉球諸島の南西に位置しており、最も近い与那国島との距離は110km以下。ちなみに、沖縄から与那国は約400km。

7月22日よりポレポレ東中野にて公開される。

「バッカス・レディ」(The Bacchus Lady)(韓国映画):高齢男性に「死ぬほど素晴らしい」技術で昇天させてくれる老売春婦・ソヨン。依頼を受け「死ぬ思い」で天国へ送ってくれる地獄の天使となる

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「バッカス」とは日本の「ユンケル」や「リポビタンD」のようなセックス強壮剤。
韓国人が聞けば売春婦のことと思い当たるらしい。

老人相手の客となれば強壮剤はベッドへ入る前にサービスする優しい娼婦。
韓国人が聞けば売春婦のことと思い当たるらしい。

60代も半ばのソヨン(ユン・ヨジョン)は引退した高齢男性たちの間で
「死ぬほど上手」と評判の売春婦。
細身面長で、昔は美人だっ残滓は散見されるものの、還暦を過ぎて容姿では売れず、
テクニックで老人が死にそうになる程良い気持ちにしてくれると噂が広がり、客は後を絶たない。

 料金も高く無いし(ラブホ代込みで3万ウォン=2700円程度)
爺様のお小遣い程度で楽しませてくれる。
アメリカへ留学させている一人息子に学資生活費を送っているので、
ソヨンの生活は貧しいし、カスカス食べて行ければ良いと思っている。

だがどうも最近、小尿に血が混じるしオリモノがあって下着に黄色のシミがつく。
医者の診断も「淋病」。
「あの爺い、商売道具を傷つけやがって」と毒づくが遅い。

それでもソヨンを求めてやって来るファンの客を拾いホテルへ。
「生理なの」とセックスを拒むのが笑える。
「口と手」で大サービス。
客の満足度は落ちない。

 通院して抗生物質の注射などを打ってもらうクリニックで、
外国人(東南アジア系)の女性が医者を捕まえてヒステリックに喚きだす。
相手にされないと見るや事務机の上の鋏を掴み医者の胸を刺す。
警官が大勢押し寄せる。

 ソヨンは商売柄、警察は苦手、
クリニックの入口に立っている男の子(チョイ・ヒュン・ジュン)はどうやら女性の連れて来た子供らしい。
警察に連行されればロクなことにならないと自分の住むシェアハウスへ、人目を避けて戻って来る。

韓国語は喋れない。ソヨンのヘンテコな英語が少し通じてどうやらフィリピンから来たことが分かる。

母性本能(祖母性本能)に目覚めたソンヨは商売そっちのけで子供の面倒を見ようとするがそれでは食っていけない・
自分のねぐらでワケありの人たちが身を寄せるシェアハウの隣人たちに子どもの世話を頼む。

風変りの住人達は親切だ。
義足のフィギュア作り(ユン・ゲサン)は手先は器用だが売れない。

ゲサンのボーイフレンドで性転換のナイトクラブ・シンガー(アン・アズー)も
少年を可愛がりソウルの下町を連れまわす。
アズーはぞっとする美形でナイトクラブで踊って歌うルンバも上手い。

韓国は日本以上に高齢化社会。
引退した老人が公演や喫茶店の所在なさげにたむろしている。

未だセックスの熾火がちょろちょろと燃えている爺さんは3万ウォンを握りしめ、「死ぬほど良い」性テクニックに酔いしれる。

やっかいなのはセックスをしたくとも勃起せず、男として機能しなかくなった連中だ。
女房子供に先を越されアパートで孤独死を待つだけの老人たちがソヨンを頼り始める。

「生きるのがつらい」からと、崖から突き落としてくれとか、
薬を飲んで死ぬから添え寝をして息を引き取るのを見守ってくれと言う頼みも真剣だ。

 気の良いソンヨはクライアントと言うか、今ではボーイフレンドの頼みを聞いてやる。
安楽死を肯定するアメリカの「死の医師」ジャック・ケヴォーキアン的役割だ。

主演は韓国の国民的女優ユン・ヨジョン。北朝鮮出身の70才。
「ハウスメイド」「ハハハ」や12年の「蜜の味」(カンヌ国際映画祭コンペティションに出品)などで知られる大ベテラン。

共演に「プンサンケ」(11)「グッドワイフ」(15)などの、アイドルグループ出身39才、ユン・ゲサン。
「我が心のオルガン」(06)「私の愛、私の花嫁」(14)などの北朝鮮出身の76才、チョン・ムソン。

監督は短編映画出身で「情事」(98)「スキャンダル」(03)などの恋愛劇得意なイ・ジェヨン。
社会の底辺で待ち構える高齢者問題を老売春婦を通してコミカルタッチで描くジャンルフィルムで
ヒットは期待していない。

身につまされる思いで見終わる。

この映画は昨年、2016年モントリオール・ファンタジア国際映画祭で主演女優賞と脚本賞をダブル受賞した。

7月22日よりシネマート新宿にて公開される。

「パワーレンジャー」(Saban’s Power Ranger)(アメリカ映画):悪の戦士=リタ・レパルサが蘇り、再び世界を滅ぼす力(ジオ・クリスタル)を求め地球滅亡を企む

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僕がNYで勤務していた1993年の暮れに秘書(アメリカ人)が姪のクリスマスプレゼントに
「イェロ―レンジャー」のフィギュアが欲しいんだが
「シュワルツ」にも何処のおもちゃ屋(トイザらスは未だ存在しなかった)にも品切れで無い、
何とかならないか?と

美人で良く働くキャシーのために東京の本社に頼み込んでクライアントから
レアものイエロー・レンジャーを手に入れて貰ったことがある。

土曜の午前中のTVは「セーラームーン」や「ポケモン」や「パワーレンジャー」にしても
日本発のお子様番組が満載されポピュラーだったことを思い出す。
(今でもシリーズは続いていると聞く)が、
劇場用映画としては「Turbo:A Power Rangers Movie」(97) 以来20年振りだ。

 この映画は、今年3月24日より全米公開されたが、圧倒的強さで連続首位の「Beauty and the Beast」に次いで第2位。

 日本発の「Power Rangers」などは、まあ行っても30M(31億円)位だろうとの
業界の予想を大幅に上回り、3693館で、40.5M(448億円)と大健闘だった。

4月7日からの3週目になると2978館で6.8M。10日間累積で75.1M。
海外市場累積は42.1M,ワールドワイド総計は117.2Mと低調だ。

観客の60%は男性で、出口調査(CS)ではA評価、30%は18歳以下で彼らの評価はA+。
18歳以下は全く新しいスーパーヒーローとして捉えている。

その後の興行成績は4月14日の4週目は2171館で2.9M。17日間累積80.6M
そして、4月21日の週からチャートから消えている。

制作費だけだけで120億円も投じているので、
日本では夏休みの7月半ばから上映が始まるものの結局は赤字になりそうだ。


アメリカで1993年のTVシリーズ開始から約20年の歴史を持つ「パワレン」(24シーズンを迎えて放映続行中)は著作権を所有するサバン・エンターテインメント・インターナショナが配給、日本の東映とライオンズゲイトの共同制作。
(つまり東映も巨額な制作費を分担している訳だ)

総制作費110M(120億円)と日本で作るより100倍の予算だ。

ハリウッドで培われたVFX技術とCGアクションの経験が、日本のスーパーヒーローに注力されアメリカ版「Power Rangers」が生れている。

しかしこれまでの成績を見る限り、日本発の「Ghost In The Shell」と同様振るわずチャートから瞬く間に消えてしまった。制作費をいくらかでもカバーするため夏休みに向けキャンペーンを張って
日本で上映するこの映画に観客の親子連れが増えると良いのだが。

主演の5人の高校生は、
レッド・レンジャーにデイカー・モンゴメリー、
ピンク・レンジャーにナオミ・スコット、
ブルー・レンジャーにRJ・サイラー、
イェロ―・レンジャーにベッキー・G、
ブラックレンジャーにルディ・リン
の高校生5人が地球を守るために立ち上がる。

高校生たちは皆新人だが他の出演者はベテラン揃い。
ビル・ヘイダー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」)や
ブライアン・クランストン(「GODZILLA」「トータル・リコール」)が顔を並べる。

悪役はあの美人女優、エリザベス・バンクス(「スパイダーマン」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ)でエイリアン魔女役。ぴっちりと身体にフィットした戦闘服に身を包み歌舞伎役者のような隈取りのメイクアップのバンクスはセクシーでカッコ良い。

遡ること時は紀元前。古代の地球で世界の運命を決する大きな闘いが終焉を迎えていた。
ある5人の戦士たちによって守られた地球。そこにはやがて新しい命が芽生え、物語は現代に還ってくる。

 カリフォルニアの小さな田舎町、エンジェル・グローブに、普通に暮らす若者たちがいた。
高校生としてありふれた日々を過ごす彼ら5人は、偶然にも同じ時間・同じ場所で
不思議な「コイン」を手にし、そして超人的なパワーを与えられる。


ジェイソン・スコット=レッド・レンジャー(ディカー・モンゴメリー)、キンバリー・ハート=ピンク・レンジャー(ナオミ・スコット)、ビリー・グランストン=ブルー・レンジャー(RJ・サイラ―)、トリニー=イエロー・レンジャー(ベッキー・G)、ザック=ブラック・レンジャー(ルディ・リン)の5人。

いつも不満に思うが日本発のスーパーヒーローに日本人俳優の顔が見えない。
唯一のアジア人はブラックのリンで中国人だ。
人気のトリニーはスーパーヒーロー初のLGBTだ。どう見たってゲイだもの。

突如与えられた自分たちの力に困惑する彼らの前に現れたのは、遥か昔、世界を守っていた5人の戦士=パワーレンジャーの一人・ゾードン=元レッド・レンジャー(ブライアン・クランストン)で肉体は消滅しまうも魂だけが救われた「壁の中」の人物で壊れたTVのブラウン管に現れるような幽霊だ。それにお喋りロボットの機械生命体・アルファ5(声:ビル・ヘイダー)。最後の闘いから6500万年もの間、新たな若者たちのパワーレンジャーを待ち続けて来た。そしてその甲斐があり無邪気だが逞しいユーモア溢れる高校生レンジャーたちが現れる。

古代の地球でパワーレンジャーたちを滅ぼすが残ったゾードンによって封印された悪の戦士=リタ・レパルサ(エリザベス・バンクス)が深海の底から蘇り、再び世界を滅ぼす力(ジオ・クリスタル)を求め始める。

高校生の5人はその脅威に立ち向かうべくコインに選ばれた、新たな「パワーレンジャー」であることが明かされる。だが若者たちは、自分たちに備わった力を解放できずにいた。地球に残された時間はあとわずか。果たして彼ら普通の高校生に、
この世界を救うことができるのか?
巨大化した悪の戦士のリタ・レパルサと5人が合体したパワーレンジャーとの死闘が凄まじい。

監督はディーン・イスラエルズは南アフリカ出身、デビュー作は日本未公開だからこの2本目の作品で日本の観客にお披露目となる。バラバラに成りがちの5人の若い俳優を上手く纏め、VFXに器用にマッチさせた画面は見応えがある。
スーパーヒーローものの氾濫する映画興行世界。どうやら日本以外では既に一敗地にまみれたこの作品が夏休みに子供たちにどれだけ好かれるかが東映の懐にも関係する。

7月15日より丸の内東映他で公開される。

「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」(Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales)(米映画):最強の敵を倒すのはスパロウの友人の息子ヘンリ

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5月26日のメモリアルデイの週末からスタートしたこの作品。
首位はとれたが、4276館で62.2M、祝日を入れた4日間では77M。

このところヒットシリーズもの大作に影がはっきりと見える。
2003年の第1作「Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl」(パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち)こそ46Mだったが、
2011年の「On Stranger Tides」は90M,
2007年の「At World’s End」は114.7M、
2006年の「Dead Man’s Chest」に至っては135.6Mと数字を挙げているので,
この第5作目は実質的に最低の成績なのだ。

制作費は230M超(256億円)をかけている。
国内だけの興行では赤字の怖れもあるが、海外ではこの週末208.4M、ワールドワイド総計は270.6Mで4日間合計では300M(340億円)を超える。

すっかり大作シリーズは海外依存型となっている。特に14億の映画好きの民を抱える中国の貢献は大きい。

そして海外市場のお陰で「Pirates of the Caribbean」シリーズ5本はワールドワイド総累計4B(4520億円)を達成している。(この数字はまだまだ伸びる)

観客の反応はRotten Tomatoesで32 percent freshと余り芳しくない。

ジョニー・デップ主演による世界的大ヒットシリーズの第5弾。

言うまでもないが、この映画はジョニー・デップ(53歳)で持っている。
それが妻で女優のアンバー・ハード(31歳)への家庭内暴力やが離婚申し立てで
デップの評判はガタ落ち。

もろにデップ主演映画「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」に影響した。

それから1年半は経っているがデップの人気に影がさすのは免れない。

しかしスキャンダルは国内どまり,一旦海外へ出ると腐ってもジョニー・デップ様、特に中国ではデップ人気は少しも衰えない。

全く同じことがトム・クルーズにも言える。インチキ宗教、クリスチャン・サイトロジーの布教に身を入れ過ぎて評判が悪く国内での興行に影響が出るが海外では人気は落ちることは全く無い。

孤高の海賊、ジャック・スパロウ(デップ)の誕生の秘密を知る最強の敵「海の死神」サラザール(ハビエル・バルデム)が解き放たれた時、サラザールは手あたり次第に海賊を殺し始める。
英国軍の水兵になったヘンリー・ターナー(ブレントン・スウェイツ)が船に乗っていたところ、
サラザールの襲撃に遭うが、ただ一人殺さず逃したのはヘンリーだけ。
スパロウと親しいところから神秘なコンパスを盗み出させようというもの。

ヘンリーは、幽霊船に閉じ込められたウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)とエリザベス・スワン(キーラ・ナイトレイ)の間に出来た息子だが、ヘンリーは両親に会ったこともない。
ヘンリーは、過去に伝説の海賊ジャック・スパロウと旅をした父のウィル・ターナーの呪われた運命を、
 
 閉じ込められた幽霊船・フライング・ダッチマン号の束縛を解こうと考えていた。
前回顔を出さなかったブルームとナイトレイは懐かしいが、
年を取った二人に成り代わってスパロウを助け、サラザールを攻撃する重要な役割を果たす。

ヘンリーに処刑寸前に牢獄から助け出される天文学者であり美しい魔女、
カリーナ・スミス(カヤ・スコデラリオ)がヘンリーと共に
世代交代でこのシリーズを引っ張ることになるのではないか。
ブレントン・スウェイツはオーストラリア生まれの27歳、「マレフィセント」の王子役、キング・オブ・エジプト」での主演と注目され初めた有望な若手男優だ。

 カヤ・スコデラリオは25歳のイギリスのこれからの可能性を秘めた女優だ。
古い世代の顔役、キャプテン・バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)が相変わらずスパロウの味方か敵が分からない。しかしバルボッサの可愛がる「猿のジャック」はスパロウが嫌い。
歯をむき出して敵意を示す。

ジャックがサラザールの復讐から逃れ唯一の方法は伝説の秘宝「ポセイドンの槍」を手に入れることだ。

終盤の主役はヘンリー。彼の目を瞠る活躍で映画は締まる。

監督は、海洋アドベンチャー「コン・ティキ」でアカデミー外国語映画賞にノミネートされたヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリ。
ノルウェイ生まれの2人は幼馴染でCMや短編映画を撮りながら「コン・ティキ」1本で勝ち上がりハリウッドの大作に辿り着いた。

公開から3週間が経った6月上旬で北米での累積は135.8M(150億円)だが
海外市場は464.4M(515億円)、
ワールドワイド総計は600M(665億円)を超えるから大ヒットをしていると言って良い。

7月1日よりTOHOシネマズ日劇他全国公開される。

「オーバードライブ」(OVERDRIVE)(アメリカ映画):マドリードを舞台に数十億円もする世界のクラシックカーを盗む、兄のアンドリュー、弟のギャレットの辣腕フォスター兄弟

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 カート・ヴォネガットは現代アメリカ文学を代表する作家の一人と言われている。第二次大戦で戦いドイツの捕虜になったこと、家が火事で焼け火傷を負って入院したことなどを活かして人類に対する絶望と皮肉と愛情を、シニカルかつユーモラスな筆致で描いている。捕虜時代と連合軍のドレスデン大爆撃の経験「スローターハウス5」が代表作だがこれから読むところだ。

2007年に84歳で亡くなって10年になるが、シニカルな現代社会批判が炸裂する遺作エッセイ「国のない男」を読んだが彼は「ジョージ・W・ブッシュは、彼の周囲に歴史も地理も全く知らないお坊ちゃん学生を集めた」と書いていた。2004年のブッシュとジョン・ケリーの大統領選挙についてのシニカルな論評は痛快だ。

一気に読み終わったのは「人みな眠りて」(While Mortals Sleep)(河出書房新書:2017年4月刊)はヴォネガット没後の11年1月に出版された16の短編からなる最新版。

復員してシカゴ大学大学院で人類学を学び、同時に City News Bureau of Chicago と言うローカル紙で働いた。

1947年、シカゴからニューヨーク州スケネクタディに移り、ゼネラル・エレクトリック(GE)の広報で働くようになり、小説を書き始める。短編集の最初の章「ジェニー」(Jenny)はGEの営業マンジョージが自分で開発した女性型ロボット冷蔵庫をアトラクションとして販売拠点を回ると言う一風変わったSF小説だが、あまり面白く無い。
次の「エピぞアティック」も自殺病の流行を扱いながらどうすれば家族が養えるかを論じる。
「百ドルのキス」から興に乗って来る。プレイボーイなどのセンターフォールドの全裸美女とどうしたら電話で話すことが出来るか?

「人身後見人」からは計算通りに結末がついたかどうか分からない短編が続く。
「スロットル全開」は熱烈な鉄道模型愛好家の2人の中年オタク。母親が夕食が出来たと何十回呼んでも地下室の0ゲージの模型から離れない。

「ガール・プール」は口述筆記用のディクタフォンを速記しタイプに仕上げる女性社員群の中でのロマンス。社内に逃げ込んだ強盗が絡むのが面白い。

カバーストーリーになった「人みな眠りて」はNY郊外の住宅地でクリスマスに向け野外イリュミネーションのコンテスト。スクルージのような相性の良く無い編集長と戦いながら記者の取材活動を描く。

「消えろ、つかの間のろうそく」は友達を求めて雑誌でペンパル欄を通して仲が良くなった老寡婦の夢。

1950年代のヴォネガットの初期の16の短編はSF的であったり、ヘンリー・オスカー調だったりトーンが変わるがストーリーテラーとして読ませる。


9月に公開と言う映画をプレスも無しの内覧で見せて貰った。車好きな僕には涎の出るような内容だ。
エンドクレジットでも気付かなかったが、これはリュック・ベッソン一家の作品に違いないと確信する。

地中海を望む断崖絶壁のワインディング・ロード、数々の垂涎の名車、ギャングやマフィアの登場、凄いドライビング・テクニックのカーチェイス、ビルからビルへ飛躍するヤマカシ。

役者で言えばベッソンはジェイソン・ステイサムやミラ・ジョヴォヴィッチ、ナタリー・ポートマンを発掘し、紳士のリーアム・ニーソンをアクションスターとして再生させた。

新人だが血筋の良い、クリント・イーストウッドの息子、スコットを主役に置き、相手役に無名ながら有望な美女、アナ・デ・アルマスに重要な若い女性を割り振った、

高級クラシックカーの数々がマルセイユの地中海に面した崖っぷちの細い道を猛スピードで駆け抜ける。

この中の目玉商品は「62年型フェラーリ2500GTO」で3800万ドル(42億円)でオークション落札された走る芸術品だ。

高級クラシックカー専門の強盗団、フォスター兄弟。
兄のアンドリュー(スコット・イーストウッド)は頭脳、弟のギャレット(フレディ・ソープ)はメカニックを担当する。

「ワイルド・スピード8」で死んだポール・ウォーカーに代わりファミリー入りするかどうか、新人として印象的なデビューをしたスコット・イーストウッドの主演映画。
(初主演の「ロンゲスト・ライド」(日本未公開)はコケてしまった)

今年31才、母親は客室乗務員のジョセリン・リーヴス、で両親は結婚しなかったため、母の姓リーヴスを名乗って、「父親たちの星条旗」(06)や「グランド・トリノ」(08)など父親が監督する映画に出ている。

今やイーストウッド姓を名乗りクリント・イーストウッドの長男であることを明確にしている父親似のイイ男だ。
スターになる星の下に生まれて来た。

アンドリューの弟役のギャレットはフレディ・ソープと言う男が演じるが過去に「ヘッドハンター」に出演したと言う位しか分からない。細面の精悍な顔付だがスター性に欠ける。

今回のオークション会場で搬出されたのは世界に2台しかない、「37年型ブカッティ・タイプ57」を競り落とすことになっていたが、アッと言う間に代理人に「41ミリオン(45億円)の値で落とされてしまう。

このクラシックカーは何としても手に入れなければならないと、崖から車を収納したトレーラーに飛び乗ったり、BMW7シリーズを横転させトレーラーをクラッシュさせるなど追跡劇を展開する。

そしてトレーラーを止めて「ブカッティ」を奪うが、落札したのが残忍なマフィアのジャコモ・モリエール(サイモン・アブカリアン)だったため、逆にモリエールに捕まって兄弟は囚われの身になる。

命を助ける条件は、敵対するマフィアのマックス・クランプ(クレメンス・シック)が所有する「62年型フェラーリ」を1週間以内に盗み出すこと。

アンドリューの恋人で天才ハッカー、ステファニー(アナ・ドゥ・アーマス)や指名手配中の女掏摸、デヴィン(ガイア・ルイス)や爆弾オタクの(ムッサ・マアスクリ)など寄せ集めチームで統一が取れていない。それでも丘陵に建つ広大なクランプの門やガレージを爆破するとフェラーリばかりで無い、マスタング67年のカブリオーレ、マセラッティ、アストン・マーチン10数台のクラシックカーが並んでいる。

それを全部頂くと、今度は当然ながらクランプ一家のギャングたちに追われる。空から山から、橋を爆破して道路も塞がれてしまう。

クラシックカーのカーチェイスは難しい。撮影中に傷一つ付けては行けない。ベッソン一家のチェイシング技術と撮影法もロングショットで撮り、クローズアップはCG処理に任せねばならない。

それでも崖に沿った細いまがりくねった道,深い峡谷にかかる吊り橋、港湾の倉庫街、フェリーボートと派手なカーアクションは観客を飽きさせない
出て来る俳優は名前が分からないが夫々個性的で奇抜な役柄を与えられている。

スコット以外にベッソンが売り出そうと狙う女優が目立つ。

天才ハッカー役のアナ・ドゥ・アーマスはキューバ出身で半黒の彫が深い29才の美人。リブートされるR・スコットの「ブレードランナー」の撮影に入っている。期待される女優だ。

掏摸の名人デヴィン役のガイア・ルイスもアラサーだが特異の風貌にオーラがある。港でトレーラーを操り一行を追うマフィアを葬るドライバーはカッコ良い。


ストーリーも陳腐、役者も演出もB級だが、リュック・ベンソン一家の映画は見る人へのサービスを忘れない。

9月TOHOシネマズみゆき座他にて公開される

「心が叫びたがってるんだ。」(日本映画):目の前の好きな人に「好き!」と言えないもどかしさ。興行収入11億円超の大ヒットアニメが実写映画化された。

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映画を見始めて、これは前に見たぞ、とい出す。そう2年前にアニメで感動した映画が実写で映画化されているのだ。

アニメで自然だった動きも実写では不自然に見えることも多い。例えば喋るとお腹が痛くなり悶え苦しむのは実写では演技過剰になる。

 そうかと言って登場人物が実際の俳優がやると親密さとか実感が深くなる。
一長一短だが、僅か2年の間にアニメと実写とは,制作者側で「旬のうちに」収穫を刈り取ってしまいたいという気持ちは分かる気がする。

超平和バスターズの人気コミックを原作とした長編アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。(2015)」は興行収入11億円超を記録したこの手のジャンルでは大ヒットしたが、2年後の今年、実写映画化した「心が叫びたがってるんだ。」を前に戸惑いはある。

埼玉県秩父市が舞台とされているが、横瀬駅や大慈寺(秩父三十四箇所札所十番)など、秩父郡横瀬町の風景も多く登場する

少女・成瀬順は小学生の頃、憧れていた山の上のお城(実はラブホテル)から、父親と見知らぬ女性(浮気相手)が車で出てくるところを目撃する。順は二人が「お城から出てくる王子様とお姫様」だと思い込み、それを母親、泉(大塚寧々)に話したことで両親は離婚をしてしまう。お姫様はパパの愛人だったのだ。

家を去る引っ越しトラックの前で父親から「全部お前のお喋りせいじゃないか」と言われ、ショックを受けた順は夕景の坂道でうずくまって泣く。

そこに玉子の妖精が現われ、「お喋りが招く苦難を避けるため」という理由で、順の「お喋り」を「封印」した。これが喋れなくなるトラウマ。
時は流れ、高校2年生になった順(芳根京子)は、「話すと腹痛が起きる」という理由で他者とはメモか携帯のメールでしか意思疎通ができない。

そのため、周囲の人々からは、「ヘンな子」という扱いを受けている。そんな彼女は、担任教師の城嶋一基(荒川良々)からクラスメイトの坂上拓実(中島健人)・仁藤菜月(石井杏奈)・田崎大樹(寛一郎)とともに「地域ふれあい交流会」実行委員に指名されてしまう。

坂上は子供の頃成績を追及する母親に「ピアノが好き」と言って悲しませ、両親は離婚している。自分と似た環境の順に同情し尽くしている。
仁科はチアリーダー部長で学科の成績は抜群の優等生。幼馴染の拓実が大好きだが順に優しくしている彼を見て言い出せない。

田崎は野球部のエース、甲子園を目前に肘にケガをして休部、夢を追う順を見て好意を寄せ始める。
4人は普段から特に親しい間柄ではない上、指名されたこと自体に困惑・反発する。だが4人が夫々だれかに好意を抱き口に出せないでイベントにとりかかるところが休火山の上に座っている4人の主人公を思わせる。

城嶋は会合をボイコットした大樹を除く3人に対し、出し物として過去に例のない「ミュージカル」を提案し、順の心は動くが拓実と菜月には良い反応はなかった。
拓実からミュージカルをやりたいかと問われた順は、携帯で幼少の頃に起きた出来事で玉子の妖精からかけた「呪い」を話す。

拓実は「歌なら呪いも関係ないかもしれない」と話す。帰宅した順は、歌うと腹痛が起きないことに気づく。

順は、自らの生い立ちをモチーフにした物語を携帯で拓実に送り、自分の言葉を歌にしてほしいと伝えた。

拓実は順の物語をミュージカルにすることを考え、菜月と大樹も賛同する。
クラス会での討論で他の生徒たちもやる気にはなり、主役級のキャストは実行委員の4人が引き受け、順は

最も台詞(歌)の多いヒロインの少女役を、拓実はその相手の王子役を、大樹は少女を唆す玉子役を演じることになった。やがて、クラスの他の生徒たちもミュージカルを成功させるために一丸となる。

ミュージカルと言ってもメロディはオリジナルでなく、チャイコフスキーの「悲壮」のテーマに加え明るい歌をと「オーバー・ザ・レインボー」を加えてデュエットにするのが心地良い。

最後の最後に順のトラウマが発症しカーテンが上がったが本人が現れないと言う、この手の芝居の常套クライシスがあるが、そんなものは観客は読み込み済み。

大団円で仁科と拓実は愛を確認し合い、田崎は大声で順にコクる。受け入れられた田崎は改めて甲子園を目指す熱い球児に復活する。

23才でも高校生役が映える「Sexy Zone」の中島健人、NHKの連続TV小説から勝ち上がって来た20才の芳根京子、「E-girls」から女優転向の19歳、石井杏奈、20才から俳優になったガタイのでっかい寛一郎の4人のコンビネーションが素晴らしい

「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命された高校生たちが、ミュージカル公演の準備を通じて人間もロマンスも成長していくさまを描く。

監督熊澤尚人は短編映画出身。「ニライカナイカからの手紙」(05)で長編映画デビュー。「ジンクス!!!」(13)「近キョリ恋愛」(14)などテンポの良いロマンス劇でヒットを飛ばしている。フジTVの仕切りの作品だが、映画のことは分らないポット出のフジTVディレクターに監督を任せなかったのが良い結果を出している。

やはりアニメより実写の方が迫力があり迫るものを感じる。

7月22日よりTOHOシネマズ日本橋他で全国公開される

「天使の入り江」(La Baine des Anges)(フランス映画):ギャンブル依存症の人妻に惚れてしまった地味な銀行員の夢とロマンス

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昨日(20日)の午後3時半からの美学校試写室は信じられない程混雑していた。
満席の上、補助椅子代わりに階段にクッションを敷き、さらに消防署の目を掻い潜って立ち見も許可する大盤振る舞いに冷房も効かないほどの熱気に溢れていた。

ジャック・ドゥミ監督、ミシェル・ルグラン音楽と言えば「シェルブールの雨傘」(64)や「ロシュフォールの恋人たち」(67)など後世に残る傑作を生みだした名コンビ。
それが「シェルブール~」前年に糞みたいな映画を作っている。

その当時の東和映画の川喜多夫妻は映画を見る目を持っていた。
例え黄金コンビと言っても、例え人気絶頂の女優、ジャンヌ・モローが主演していても、駄目なものはダメ。
だから半世紀以上経ったこの「天使の入り江」は本邦初公開となる。
美学校の試写室も満員になるのは想定内のことだった。

地味な銀行員ジャン・フルニエ(クロード・マン)は雨の中を歩いていると同僚キャロン(ポール・ゲール)が車から呼び止められ送ってくれると言う。銀行の給与じゃ変えないのに車はどうしたと聞くとギャンブルで買ったと言う。そしてジャンをカジノに誘う。
地元アンガンの小さなカジノでルーレットを試すジャン。ビギナーズラックか、半年の給料分を1時間足らずで稼いでしまう。
フロントでキャッシュに変えているとゴージャスなブロンド美女が騒ぎを起こしたと警備員に連れ出され路上にほおり出される。

ジャンがジャッキー・ドメール(ジャンヌ・モロー)に最初に出会ったのがアンガンだ。

2度目に会ったのはジャンが銀行から休暇を取りニースの海岸通り、通称「天使の入り江」と呼ばれる大きなカジノに出かけた時だ。

モノクロの画像ながらモローの着るピエール・カルダンのドレスが映えること。
モローは「死刑台のエレベーター」(57)で注目され「恋人たち」(58){雨のしのび逢い」「突然炎のごとく」(61)などで人気絶頂の時だったが何でこんな作品に出たか頭を傾げる。
モローは時々カメオ出演をするが、今年88才で矍鑠としている

ハンサムなジャンを演じる、クロード・マンも今年77才で元気だ

 リリカルなミシェル・ルグランの音楽に導かれて、煙草の煙とシャンパンの香りが漂う暗いカジノから一歩外へ踏み出すと、目も眩む明るい真っ白な浜辺のと輝くニースの太陽が飛び込む。

キャンブルにのめり込む金髪の美女・ジャッキー(ジャンヌ・モロー)に悲壮感はない。
「金持ちと貧乏の両方を味わえるのがギャンブルよ」

ジャンもジャッキーに付き添い、大勝ちしたかと思うと大負けの繰り返し。
だが夫々800万フランと900万フラン(円換算で1000万円を超える)を勝った晩、カジノのメッカ、モンテカルロの「グラン・カジノ」で勝負しようと言うことになる。
その為にジャンはタキシードをジャッキーはカルダンの衣装をとっかえひっかえ着て見せるのは常套手段の撮影法だ。

肝心のロマンスは同じ部屋に寝泊りしてても生まれない。ジャッキーは夫がいるがそれは気にしない。
ファム・ファタールに出会ったと気もそぞろのジャンを連れまわすのは「ルーレットに幸運を齎すから」と「懐いた犬を連れて歩くのと同じよ」。

何よりも「スリルがあるからこそ、生の実感があるのだ」とギャンブルにのめり込むジャッキーの哲学がすっかりジャック自身の身につき、達観しているのに驚く。

不治の病、ギャンブル依存症のジャッキーのことはすっかり諦めパリへ帰る途上に思わぬ天からの贈り物があるのはジャック・ドゥミの奥の手だ。

7月22日より渋谷イメージフォーラムにて公開される

「戦争のはらわた」(Cross of Irons)(英・西独・映画):鉄十字勲章を欲しがる貴族出身の大尉に仕える人間味溢れる部下思いの軍曹。

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この映画については僕の個人的な思い入れがある。

それは1976年のことだった。
僕は広告代理店の営業を担当していたがK紡績が新規クライアントとして
紳士服「RKG」を大大的に宣伝したい,アカウントは10億円を超えると。

 K紡績の専務がジェームズ・コバーンならアラン・ドロンに拮抗出来る、
だからコバーンを獲得せよ、との命令が役員から降りて来た。

1週間かけてNYのマネージャー(弁護士)に交渉していたが埒が明かないので、
NYに飛んだ。
「CMに興味は無いし、何で日本のCMになぞ出なければならないのか?」と言うのが
コバーンの返事だと知らされた。

それでもしつこく迫る僕に、そんなら今ユーゴスラヴィアで映画を撮っているから
「直接本人に当たって見たら」と、ロケ場所と宿舎を教えてくれた。

ユーゴのザグレブへデュッセルドルフ経由で飛び、
レンタカーで田舎道をドライブして宿舎を探し当てると古い城だった。
スタッフキャストもブラブラして撮影をしていない。

監督が今朝起きて突如、娼婦のレイプシーンを入れると言い出し、オーディションの準備だと言う。

コバーンが城の宿舎から出て来て、遠い所をご苦労様、だが僕の返事は変わらないよ、
「CMは絶対にノー」だと。

古城の中庭でドイツ兵がウロウロしている間に立ちつくしがっくりしていた僕のところへ、
コバーンとの会話を聞いていた白髭の爺さんがチョコチョコとやって来る。
白髪に真っ赤なバンダナを巻き、
「お前は日本から来たのか?」と聞く。
事情は立ち聞きしていたから分かっているがこの爺さん誰だ?

「俺か、サムだ、サム・ペキンパーだ」と。
僕は彼の映画は全部見ているのに本人の顔を知らなかった。

「俺はどうしても日本へ行きたいんだ。
俺がジム(コバーン)を口説いてCMに出させるからCM監督は俺にやらせ、
そして日本へ招待してくれ」

10億円のアカウントが取れればお安い御用だ。
二つ返事でOKし映画のポストプロダクションをしていた
ロンドン・パインウッドスタジオで撮ったCMも
「この紳士服を着れば超能力がつく」と、
コバーンの「ナイフ投げ」編を含め
ペキンパーらしい3本のコマーシャルが仕上がった。

かくして「CMのお披露目」と「戦争のはらわた」のPRのために翌年の77年、
コバーンとペキンパーご一行は来日する。

「何故そんなに日本へ来たかったか?」など後日談は色々あるが、このブログでは余裕が無い。


 さて映画の方だが、舞台は第二次大戦中、ドイツの敗色が見え始めた1943年のロシア戦線。
ドイツ軍の一中隊での、人間味ある軍曹と冷徹な中隊長との確執、
最高の名誉とされた「鉄十字章」をめぐるドロドロの人間ドラマが展開する。

 第二次世界大戦中の1943年の東部戦線、クリミア半島東隣のタマン半島でソビエト軍と対峙しているドイツ軍のクバン橋頭堡。

そこに西部戦線のフランスから、シュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)が志願して着任してきた。
プロイセン貴族であるシュトランスキーは名誉欲が強く、戦争が終わって故郷へ帰る時にどうしても「鉄十字勲章」をクビから下げて錦を飾りたい。

シュトランスキーは、上司であるブラント大佐(ジェイムス・メイスン)や同僚のキーゼル大尉(デビッド・ワーナー)らの信任の厚い小隊長、シュタイナー軍曹(コバーン)と最初から意見が合わない。

 そのシュタイナーの直属上官となったシュトランスキーだが、
鉄十字勲章を得るには有能なシュタイナーを味方につけた方が得策だと考え、
ブラント大佐に推薦してシュタイナーを下級曹長に昇格させる。

だがシュトランスキーはソ連軍の攻勢に直面すると狼狽し、
地下壕から出て防戦の指揮を執ることを拒む。
塹壕での白兵戦でシュタイナーと仲の良かった第2小隊長マイヤー少尉が戦死、
シュタイナーも負傷して後方の病院へ送られるが、完治を待たずに復帰する。

このことはブラント大佐も察知することになり軍法会議ものだといきり立つ。

がそんな時間も無いままにソ連の陸軍と英米の空軍の攻撃にさらされ戦争は地上の白兵戦に突入する。
ソ連軍の大攻勢が開始されると、シュタイナーの小隊はT-34型戦車へ対戦車地雷を用いた肉薄攻撃を敢行するなど奮戦するが、ドイツ軍は敗退。シュタイナー小隊は自軍の地下壕に辿り着くが
怯えたシュトランスキーは小隊に機銃掃射を浴びせる。

 逃げ支度をしているシュトランスキーの前に現れたシュタイナーはMP40の弾倉再装填法が分からずにあわてふためくシュトランスキーを見てたっぷりと復讐を果たす。

「諸君、あの男の敗北を喜ぶな。世界は立ち上がり奴を阻止した。だが奴を生んだメス犬がまた発情している」とエンドクレジットにベルトルト・ブレヒトの意味深な格言が刻まれる。

 サム・ペキンパーが「ワイルドバンチ」あっと言わせて世に認められた
「血しぶきと破片、硝煙の飛び散る銃撃描写を、超スローモーションで映し出す」
という独特な手法を、本格的戦争映画に持ち込んだ。

 しかし脚本が良く無いし、テーマも単なる復讐劇に堕してしまってチープだ。

ペキンパーの映画はこの作品を境に人気も質も落ちて行くが、
次作「コンボイ」の撮影中のある事件が引き金になっている。

その話も僕だけが知っている秘話なのでいつか機会を見て話そう。

8月26日より新宿シネマカリテにて公開される。

「幼な子われらに生まれ」(日本映画):原作も脚色も優れているが演出が今一歩迫力に欠ける、「血のつながらない家族」と「血のつながった他人」の家庭内騒動

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 原作を読んだ時にはもっと泣けたと思ったが映画の方は今一つだった。
僕は正直言って三島有紀子監督の演出法は好きでない。

「しあわせのパン」(12)だの「ぶどうのなみだ」(12)などパレードが突然出てきたり変にメルヘンティックでわざとらしい。
「繕い断つ人」(15)でようやくフツーの映画に戻ったが、しかし一つ一つがオーバーでわざとらしさは変わらない。

重松清の同名小説を原作として、脚色を大ベテラン荒井晴彦が担当すれば
間違いないと思っていたのだが、やはり三島有紀子監督のトーン&マナーは全編に溢れる。
どうして世間は三島監督を女流監督の第一人者として持ち上げるのだろうか?

 バツイチ、再婚。
一見良きパパを装いながらも、実際は妻の連れ子とうまくいかず、
悶々とした日々を過ごすサラリーマン、田中信(浅野忠信)。

 勤務先の一流商社でも家庭のことがあり、
休日出勤や残業、仲間との飲み会を断ったりしたことが原因で
左遷されて倉庫の製品管理係。

 この落差はあんまりだし、プラクティカルではない。
それでも信は真面目に勤めるが。

妻・奈苗(田中麗奈)は、男性に寄り添いながら生きる専業主婦。

信はキャリアウーマンの元妻・友佳(寺島しのぶ)との間にもうけた実の娘、詩織(鎌田らい樹)と
3カ月に1度会うことが、必ずしもそれを楽しみにしているとは言えない。
だが友佳の現在の夫、江崎はがんで余命宣告を受けている。

信と奈苗の間には、新しい生命が生まれようとしていた。
血のつながらない連れ子の長女、小学6年の薫(南沙良)はそのことでより辛辣になり、
放った一言が胸に突き刺さる。

「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」。
母の奈苗にも突っかかる薫。
次女の幼稚園児、恵理子(新井美羽)は妹が出来ると喜んでいるのに。

今の家族に息苦しさを覚え始める信は、怒りと哀しみを抱えたまま半ば自暴自棄で
長女の言うまま奈苗の元夫・沢田(宮藤官九郎)と会わせる決心をする。

沢田は2年半の結婚生活で奈苗にべったりと纏わりつかれ癇癪を起し、
妻だけでなく子供にまで家庭内暴力(DV)を振い別れたのだ。

「姉の薫もお袋そっくりで二人に付き纏われて離婚し清々した」と嘯く。

「考えても見て、田中さん。
たまに7時前に帰って来るとうちのアパートだけ煌々と電気が点いているんだよね。
奈苗が卓袱台におかずを並べ味噌汁を用意してい居るかと思うと
ぞっとしてそのまま通過して飲み屋へ行ってしまうんだ」
沢田を演じる宮藤の身勝手な男の感情の表現は上手い。

そうは言っても沢田は相変わらずのギャンブル狂でマチ金に追われる毎日。競艇場で捕まえて10万円の手間賃を払うから薫に会ってくれと強引に約束させる。

薫の反抗、奈苗の夫依存症、田中は家庭の平和のために後4か月で生まれる子を堕し、
離婚するのが最良の道だと考え始める。
ガラガラポンでリセットするのだ。

四方八方から責め立てられながら耐える田中を浅野忠信は熱演する。
浅野の芝居なしではこの映画は成り立たなかっただろう。

田中麗奈はもっさりとしながら家庭内を特に薫を必死にコントロールしようとする。

トラブルメーカーの薫役の南沙良は好演している。
本当の「パパ」と今の「父親」と明確に名指しをして区別するのが本音で無いことが、
自分のことを分かっていない「パパ」がシロクマの縫いぐるみをくれた時に判明する。

「赫い髪の女」「キャバレー日記」と日活ロマンポルノ時代からファンの僕は
「大鹿村騒動記」や「ヴァイブレータ」「共喰い」などの
70歳を過ぎた脚本家・荒井晴彦の作品は好きだが、
どうもこの映画は荒井の本としてはピンと来ない。

「血のつながらない家族」と「血のつながった他人」と興味ある組み合わせだが、
大団円のシーンや結論はこれで良いのかね。

8月26日よりシネスィッチ銀座にて公開される。

「ボンジュール・アン」(Paris Can Wait)(米映画):フランシス・コッポラの妻、エレノアが80歳にして初めて長編劇映画の監督・脚本を手掛け、自身の体験を基に女心を描くロマンテック・コメディ

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カンヌから2日もかけた長旅の、最後のデザート「クレームブリュレ(Crème brûlée)を食べ終わってようやくパリへ着く。
表面を焦がしたカスタードはクリームと卵黄がねっとりと柔らかく、濃厚な味わいに仕上がっている。
アンとジャックが食べたのはバニラ味だが、チョコレートや酒、フルーツなどで味付けしたものもパティシェリはサンプルとしてテイスティングさせてくれる。

フランシス・フォード・コッポラの妻、エレノア・コッポラが80歳にして初めて長編劇映画の監督・脚本を手掛け、自身の体験をもとに描いたロードムービー。

巨匠コッポラの妻であり、また「ロスト・イン・トランスレーション」などの女流監督、ソフィア・コッポラの母、エレノア・コッポラ。

夫の「地獄の黙示録」のメイキング映像でエミー賞も授与されたエレノア・コッポラが、自らの実体験を基に監督、脚本、製作長編劇映画。
80歳にしてしんどい監督デビューと言うから凄い。
傘壽の女性の活躍で元気が貰える。

人生の岐路に立った女性が、パリへの旅を通して自分自身を見つめ直し、人生の希望を見出していく姿を描く。フランスの景色や料理や小粋な会話が心地良い大人のロードムービーだ。

 20年も連れ添ったやり手の映画プロデューサーの夫,マイケル・ロックウッド(アレック・ボールドウィン)は、制作する映画も次々とヒットを飛ばし成功を収めている。
妻、アン(ダイアン・レイン)には余り関心も寄せず無頓着。

 夫婦の一人娘、アレックス(声:エレノア・ランバート)もカリフォルニア大学へ入りアパート暮らし。
子育ても落ち着き、アンは自由を感じているが生き甲斐を失い、人生の岐路に立っていた。

 いつものように、カンヌ国際映画祭にやって来たアンは、
そのままマイケルとバカンスを楽しむつもりだったが、
夫は急遽ブダペストへ飛ぶことになる。

「何しろハンガリーで撮れば制作費は1/10で済むからな」

このところ、耳が痛んで苦しんでいるアンは気圧の関係で
飛行機(プライベイト・ジェット)には乗れない。

 そこで夫婦を空港まで送って来た、夫の仕事のパートナー、ジャック・クレマン(アルノー・ヴィアール)がオンボロプジョーでカンヌからパリへ車で向かうからアンを送っていくことに決める。

それはただの7時間のドライブのはずだったが、
ジャックがまず寄り道をしたのは南仏のエクス=アン=プロヴァンス。

ローマ人がプロヴィンス(県)と呼んだのが地名となったのだと蘊蓄を傾ける。
右手に見える丘陵はポール・セザンヌの絵で有名な「セント・ヴィクトワール山」。
山を過ぎると、2000年前の水道橋から始まる名所巡りのスタート。

 南仏へは何度も来ているが、名所、旧跡に行くのは初めて。
ラベンダー畑など美しい南仏の景色やおいしい食事、ワインをディジタルカメラに収め、
そしてジャックとのユーモアと機知に富んだ会話とモーツアルトやサティの音楽を楽しむ
2日間の車の旅となっていく。

ミシェランのスターにランキングされた種々のレストラン、
子羊料理、何百種類ものチーズ、ステーキ肉や冒頭に挙げたデザートの数々。

リヨンでは映画の祖・リュミエール兄弟の映画研究所、織物博物館、
ヴェズレ―でのサント・マドレーヌ大聖堂などに寄り道、そして最高級の料理とワイン。

 少し2人の間の風向きが変わったのはプジョーが道路端でエンコしてしまった時からだ。
陽気なジャックは車そっちのけで川の畔へ降り、ワインを開け、
ソーセージとチーズでピクニックと洒落込む。
マネの裸婦を挟んで「草上の昼食」の絵が挿入される。

 車に戻ると厳しい現実が待ち構えている。
エンジンはウンともスンとも言わない。
ジャックはメカに弱い。アンが調べるとファンベルトが切れている。
「後ろを向いてて!」とパンティストッキングを脱いでベルトの代用とすると、
車は走り出す。
 ジャックはアンの下着を脱ぐ瞬間を盗み見る。

マイケルは電話で絶えず注意する。
「ジャックは親友だが、フランス男だ。女に手が早いから注意しろ」と。

アンより一回り年上のジャックはバツイチだが長い間独身で女性と遊び回るプレイボーイ。
パリを目前にしてヴェズレーの大聖堂を見た後から、
友人から借りたパリ市内のアパートまで盛んにフェロモンを発してアンを口説き始める。
熱いキスを2度3度交わすがアンはそこからピシャリとジャックを拒絶しアパートから追い出す。

ほとんどエレノア・コッポラの蘊蓄を傾ける観光映画なのだが、
映画プロデューサー、マイケルとその親友、ジャックが
マイケルの妻アンを巡って心理的駆け引きが
道を外れたロマンスになるのか道徳的な結末になるのかが、
観客の興味を支える。

主演はダイアン・レイン。
デビュー作の14歳でローレンス・オリビエと共演した「リトル・ロマンス」(79年)が
大ヒットしたのを知っている人は少なくなった。

フランシス・コッポラ監督が可愛がり10代の終わり頃に「コットンクラブ」や「アウトサイダー」「ランブルフィッシュ」に出演した。
最近では「運命の女」(02)でオスカー候補になり、最近では「トスカーナの休日」などもヒットしている。もう52歳になるんだ。

僕はダイアンの20歳から26歳まで6年間、マックスファクターのCMに出て貰い、
毎年日本で小森のオバちゃまと一緒に全国を廻った。
(ダイアンの後はウィノナ・ライダーを起用した)。

夫マイケル役は出番が少なかったが、「ブルージャスミン」などのアレック・ボールドウィン、
そしてプレイボーイのフランス男、ジャックを「メトロで恋して」の監督・脚本を手掛けたアルノー・ビアールが演じた。
フランス語訛りの英語がチャーミングだ。

映画としての出来はそれほど褒めたものでは無いが、80歳で長編劇映画監督デビューと言う快挙に拍手を送りたい。

7月7日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される

「海底47m」(47 Meters Down)(アメリカ映画):巨額の大作に混じって、B級・低予算のサメ・ホラー映画は夏の束の間の清涼剤だ。

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23日(木)の各紙の朝刊一面に「電通社長らを違法残業で聴取 東京地検、法人略式起訴へ」 と大きな活字が躍っている。

電通の違法残業事件で、東京地検が山本敏博社長ら同社幹部を任意で事情聴取したことが明らかになった。

山本社長らは「法人としての責任を認めた」とみられる。東京地検は労働基準法の両罰規定を適用して法人としての電通を近く略式起訴し罰金刑を求める方針。
 
社員が自主的に残業していた時間も多く、書類送検された同社幹部については、残業を強制するなどの悪質な行為を確認できなかったとして不起訴処分(起訴猶予)にする見通し。

 東京労働局は昨年12月、1年前の2015年12月に過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24)らに労使協定の上限を超える違法な残業をさせた疑いで、本社の当時の上司を書類送検していた。

 同社は中部(名古屋市)、京都(京都市)、関西(大阪市)の3支社でも違法残業をさせたとして幹部が書類送検されたが、検察当局はそれぞれ不起訴(起訴猶予)にする方向で、一連の捜査は終結する見通し。

僕はこのブログで何度も主張しているが、高橋まつりさんの自死は「過労」からでも「パワハラ」からでも無い。
長年の恋人に振られての「失恋自殺」なのだ。

電通を長年苛める辣腕「人権弁護士」の巧みな世論やマスコミ操作で裁判に持ちこませず5億円を越える「慰謝料」をせしめた。

東大現役合格組は基本的には「頭が悪い」。
なぜそんなに確信を持って言えるかというと不肖筆者も現役合格組だからだ。

頭が悪いが努力家で「4当5落」を絵に描いたように実行する。即ち「4時間しか寝なかったら東大に受かり5時間寝ると落ちる」。

月に換算すれば600時間机に齧りついていた勘定になる。そんな人が36協定を30時間オーバーしたところで「過労」にならない。

また上司は殆ど東大など出ていない。
幾ら罵倒されても「三流大学のヘッポコが怒鳴っている」位しか感じないのだ。
だから「パワハラ」など有り得ない。

あるとしたら感情的な打撃、それが全身全霊で愛していた恋人から「突然の別れ」を宣言された時だ。
高橋まつりさんは人材派遣会社社員で米国駐在のボーイフレンドが居た。

「正月休み」で4か月振りに帰国した。クリスマスイブは高橋さんの心尽くしの手料理を食べシャンパンを飲みながら一夜を過ごすよていだった。

それが「青天の霹靂」の決別の宣言。押しとどめようと数時間押し問答を繰り返したが(既に別のガールフレンドがいる)恋人の決心は固かった。

彼が門前仲町の電通借り上げマンションを明け方に出てから数時間後、クリスマスの朝、4階の踊り場から飛び降りた。

マスコミは警察の現場検証を通じてこの事情を掴んでいるのに、
「週刊新潮」だけが今年の1月と2月の2回に亘って取り上げ、まつりさんは「過労死」でも「パワハラ死」でもない「失恋死」だと書いた。

だが朝日を初めとして一般のマスコミは完全無視、
日頃仕事の上で電通に痛めつけられているのだろうか、ここぞとばかり「ブラック企業」と呼んで罵詈雑言を浴びせ憂さ晴らしをしている。

情けないのは山本社長など電通幹部。
「自虐主義」なのか、何であろうと「フタ」が閉じさえすればそれで良いと言う態度で
「私が悪うございました」の一辺倒。

それが功を奏して電通を不起訴処分(起訴猶予)にする見通し。幕を閉じればそれで良いと言う訳には行かないのが僕など電通OBたち。

電通人心の憲法の「鬼十則」を否定し、6500円近かった株価は下がりっぱなしで5300円台を低迷していて、僕の主宰する非営利慈善団体「子どもに笑顔」への寄金(リソース)も減るばかりだ。

電通としてはともかく「週刊新潮」と同じ趣旨でまつりさんは
「過労死」でも「パワハラ死」でもない「失恋死」だと世に訴えるべきだ。

 5億円も口止め料を貰ったまつりさんのお母さんは「過労死遺族代表」でマスコミにペラペラ喋り電通を非難し続けている。


 2004年公開の「Open Water」と言う作品があった。
ツアーで20数人の仲間とともにダイビング中に手違いから海に取り残された夫婦の恐怖を、
実際の事件を基にして描いている。
10万ドルを少し超える(1300万円ほど)低予算ながらヒットした。

この映画は実話ではないが同じようにサメに襲われる恐怖感は続編のような感じがする。

 アメリカで先週末(6月16日)に新登場でトップ5に食い込んだのが、このサメ恐怖映画は2270館で公開され11.5Mで堂々5位にランク入りだ。
水深47メートルの海に沈んだ檻の中で、人喰いザメの恐怖と対峙する姉妹の姿を描いたシチュエーションパニック劇。

 メキシコで休暇を過ごすリサ(マンディ・ムーア)とケイト(クレア・ホルト)姉妹は、
現地の男友達から、海に沈めた檻の中から野生のサメを鑑賞する
「シャークケージ・ダイビング」に誘われる。

 恋人に振られたばかりの臆病なリサは尻込みするが、好奇心旺盛なケイトに強引に押し切られたこともあり、元カレにも自分は勇気があることを見せたくて挑戦することに。

 姉妹を乗せた檻はゆっくりと水深5mの海へと降りていく。初めて間近で見るサメの迫力に大興奮の二人だったが、突然ワイヤーが切れ、檻が水深47mの海底まで落下してしまう。

 そこは、無線も届かない海の底。助けを呼ぶ声は届かない。急浮上すれば潜水病で意識を失ってしまい、海中に留まればサメの餌食になること必至。

無線は通じず、ボンベに残された酸素もわずかという絶望的な状況で、海底47Mに落下した檻から脱出を図る姉妹。
全てが極限状態の海底での脱出劇に、生還できるのだろうか?

主人公の姉妹は「塔の上のラプンツェル」で声優を務めたマンディ・ムーアと、
テレビシリーズ「イア・ダイアリーズ」などのクレア・ホルト。

 監督は、「ストレージ24」などのヨハネス・ロバーツ、と言っても日本でヒットした訳でも無いので馴染みが無い。

 主演の女性二人は中々の美女で水着姿もセクシーだが、日本では無名。妹ケイトはテレビシリーズ「アクエリアス 刑事サム・ホディアック」などのクレア・ホルト。姉リサは歌手としても活動しているマンディ・ムーア。

 B級ホラーやスリラーは高いギャラを払って有名なスターを使わず制作費をミニマムに抑える。

 姉妹は無名だが一人だけ知っている出演者はボートの船長ヘンリー役のマシュー・モディーンだけ。モディーンがどうして出るの?と誰もが思うが、それも短い顔見せだけだからギャラも安い。
この船長がとてもじゃないが客を無事に岸へ戻せるとも思えないのがオカシイ。

制作費を安く抑えるのは良いが手持ちカメラとライティングは何とかして欲しい。
画面が暗い上に絶えず揺れ動くので見難いたらありゃしない。

無線は届かず、ボンベの酸素もそう長くはもたない極限状態で、姉妹はおりを囲む人食いザメにおびえながらも生還を目指す。

 ボンベの窒素で脳に異変が起き錯覚のままエンディングに向かい観客は上手く騙されるがそのカラクリは自然と明かされ、ホラーは増す。

 サメはコンピューター操作の大きな化け物、ロンドン郊外の大きな水槽とドミニカ共和国で海中シーンは撮影された。

夏のホラー映画はB級だから無責任になれて楽しめる。

 8月12日よりシネマート新宿にて公開される。

「いつも心はジャイアント」(The Giant)(スェーデン映画):頭の骨が変形する狭頭症という難病のため、会話も困難な30歳の青年リカルド。巨人になり、のし歩く幻想と隔離されている母親に会うためペン

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東南アジアの子どもたちの口唇口蓋裂の無料手術を行うNPO「子どもに笑顔」を主宰しているので患者たちの問診に随分と立ち会った。その中で頭蓋が変形した「水頭症」の子どもを見て驚いたことがある。

この主人公リカルドは狭頭症。
背は伸びず小男だが、それよりも恐ろし気な顔付。大きな顔の右半分に大きなコブで右目が塞がっている。

口の悪い連中は「エレファント・マン」とか「ジャバ」と呼ぶ。
スターウォーズのガマのお化けみたいな「ジャバ・ザ・ハット」を縮めたもの。
エレファント・マンをジョン・ハートが演じたように、
この奇形の青年、リカルドを俳優クリスティアン・アンドレンが演じる。
毎日顔に変形したマスクをつけメイクアップに3時間半かかったと言う。

頭の骨が変形する狭頭症という難病のため、会話も困難な30歳の青年リカルド(クリスティアン・アンドレン)。
施設で暮らしている彼には父親がおらず、母親はリカルドを産んだ直後に精神を病んでリカルドを育てることが出来ず別の施設にいる。
特殊な病で異形なため他人から差別的な目で見られるつらい日々を送るうちに、彼は自分が小人では無く、雄大な山岳地帯をのっしのっしと歩く、天を突くジャイアント(巨人)に変貌した空想の世界に浸るようになる。

ある日、彼はペタンクという球技に出会い、自分に才能があることを発見する。
カーリングのように2チームで争い、どれだけ的に金属製のボール(玉)を集められるか、どれだけ相手の玉をはじき出せるかを競うゲームだ。それを機にローランド(ヨハン・シレーン)と親友になり練習を通じて多くの仲間ができる。

 ペタンクの大会で優勝すれば、いまは会えない母にも元気を与え、一緒に暮らすことができると考えたリカルドは、ペタンクに打ち込んでいく。

スウェーデンのクラブ役員はリカルドを北欧選手権に出場させると厄介ごとを抱えるだろうとリカルドを出場停止にする。

リカルドは親友ローランドと組み、「チーム・スッギ」と言う新チームを造り試合に出場し連戦連勝決勝戦で地元のデンマークチームと対戦することになる。

この映画はジャイアントになるファンタジーを夢見ながら、奇病と戦うヒューマンドラマであり、ペンタクと言うスポーツ劇でもある。特に主人公の心象風景を具現化した幻想的なビジュアルがタイトルになっている。

現在公開されているスペイン映画「怪物はささやく」(A MONSTER CALLS)に似ている。学校では苛められ祖母とは折り合いが悪く、身勝手な父は家庭を捨ててアメリカへ行ってしまい、末期がんの母親を抱え途方に暮れる13歳の少年コナーに庭のイチイの大樹が近づき3つの寓話を話してくれる。
大樹の巨人とのファンタジーは似ているが、この映画の監督のヨハネス・ニーホルムの方によりオリジナリティがあり感動が違う。


奇病を患いながらも懸命に生きる青年の姿を描いたスウェーデン発のスウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞で作品賞を含む3部門を受賞。

監督は短編を中心に活躍してきたヨハネス・ニーホルムの長編デビュー作。
リカルド役のクリスティアン・アンドレンと共に「ミレニアム」シリーズなどのヨハン・シーレンの友情溢れる熱演が素晴らしい。

精神を病んだ母と離れて暮らすリカルド(クリスティアン・アンドレン)の日常を、リアリティあふれるドキュメンタリータッチで描くのでドラマとの境界線が分からなくなる。
リカルドがスウェーデンの美しい街並みを自転車で疾走する様子や、
「ペタンク」の競技中に仲間とハイタッチを交わしたり、真剣な表情でボールを握っているシーンは印象に残る。

ただ難を言えばラストシーンは何なのだろう?
ばったり倒れたのはリカルドが死んだことを意味するのだろうか?
僕なりに解釈すれば希望と夢に包まれて死ぬと言うことか?

それに絶えず気にかけている母親を具体的にしっかり描いて欲しかった。

とは言うものの心に届く感動作であることには変わり無い。

8月19日より新宿シネマカリテにて公開される

「50年後のボクたちは」(TSCHICK)(独映画):14才のマイクとチックは盗んだロシア製オンボロ車に乗り、チックの祖父が住んだと言う地図に無い「ワラキア」を目指して南へ向けて走らせる

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 英語のタイトルは「Goodbye Berlin」だが、原題の「Tschick」(チック)は大胆不敵なロシア生まれの転校生の名前だ。

 邦題は何のことやら分からないが旅の途中で出会った奔放の若い女性イザを交えて3人で50年後に会おうと言うセリフから取ったもの。

 余り意味の無いセリフだが、人名「チック」では日本人に無理だと言うなら(8月の世田谷のシアタートラムの舞台はこの題名)英語題の「グッバイ・ベルリン」を採用すべきだった。

原作は、ドイツ国内で220万部以上の大ベストセラーとなった直後の10年に脳腫瘍が発見され、13年に48歳で亡くなったヴォルフガング・ヘルンドルフによる小説「14歳、ぼくらの疾走」。

 もう子どもでもない、だが大人になり切っていない(だからちょっとした犯罪も罪にはならないと推定される)「14歳」という一瞬の煌めきを捉え、かつての自分を思い出させてくれるような
爽やかで切ない2人の少年の「通過儀礼」を描いたヤングアダルト(YA)小説だ。

 忽ち舞台になりそして当然のように映画化され、2016年の「ドイツ映画祭」のオープニング作品として上映される栄誉に輝いている。

主人公の14歳の少年、マイク・クリンゲンベルク(トリスタン・ゲーベル)はベルリンの高校へ通う1年生。

 学校では目立たず、書かされた作文で自分の家庭環境を赤裸々に発表する。
母親(アニャ・シュタイナー)はアルコール依存症、
宅地開発会社の幹部を務めている父親、ヨーゼフ(ウーヴェ・ボ-ム)は浮気をしまくり
家に余り寄り付かないと言う不穏で退屈な毎日を送る。

正直に書けと言ったヴァーゲンバッハ先生(ウド・ザメル)はそこまで暴露するか、とマイクに体罰を加える。

 勉学にも身の入らないマイクの唯一の楽しみはクラス一の美女、
タチヤーナ(アニヤ・ウェンデル)を授業の間盗み見をすることだ。

ある日、ロシアからやって来たと言う背の高い、モヒカン刈りに似た髪型の
風変わりな転校生のチックが隣の席に座る。
チックの本名は非常に長く紹介する先生も正確に言えないのでチックで良いと皆に言う。

 自分はユダヤ系ロマ人だと言うがそんな係累は存在しない。
どうやらロシア系ドイツ人らしい。
物怖じせず、苛めようとする同級生の耳元で「俺の叔父はロシアン・マフィアだぜ」と一言で
ビビらせる。

 2人が急速に仲良くなったのは、タチヤーナが同級生全員に「バースデイ・パーティ」
へ招待しているのに、マイクとチックだけは呼ばれていない。

夏休みに入りマイクの父親が2週間ほど出張し母親はウォッカを飲みながらマイクに好きなように
しなさいと言う。

 そこでチックは無断で借用した(盗んで来た)オンボロ車で、
地図にない場所「ワラキア」を目指して走りだす。
車は70年代後半に作られたロシア製の「ラーダ・ニーヴァ」でギアシフトのマニュアルSUV.
もちろん14歳のチックは免許を持っていない。
警察に捕まるとやっかいなことになるから裏道や田舎道を走る羽目になる。

マイクの弄っていたスマホをチックは窓から放り出す。
きままな旅にスマホは要らないしGPSで居場所を追跡される。
ダッシュボードからウォッカの瓶をマイクは捨てる。
怒るチックに「安全運転のため」だ、とすまし顔。

古いっカセットテープが見つかる。リチャード・クレイダーマンのヒット集だ。
「リヒャルト・クレイダーマンだぜ」とマイクはふざけるが、
大ヒットしたデビュー曲「渚のアデリーヌ」を何度も流すのでテーマ曲のようになっているが、二人は何も気にしていない。

ガソリンがなくなり廃墟に入ったところでプラハの姉を訪ねる途中のイザ(メルセデス・ミュラー)に出会う。
乱暴な言動で二人は弄ばれ、マイクとの間にロマンスも芽生えるがプラハ行きの長距離バスを見つけると簡単にバイバイしてしまう。

破天荒で自由気ままなチックに導かれるように、マイクの人生にとって忘れがたい旅は更に続く。
足を怪我したチックに代わって生まれて初めてマニュアルの「ラーダ・ニーヴァ」を
高速道路で運転し大事故を起こす。

14才だから総て「免責」はチックの吹き込んだ大ぼらで裁判で有罪になるが、
チックの行方は杳として知れない。
主役の少年二人が素晴らしい演技を見せる。
マイク役のトリスタン・ゲーベルは13歳だが4歳から子役として活躍している。
チックのアナンド・バトビレグ・チョローンバータルはオーディションに合格しこれがデビュー作。辺りを睥睨し誰も尊敬しないと言う物怖じしない態度は地で演じられたのだろう、すっかりチックに成りきっている。

トルコ移民の子孫で今やドイツを代表する43歳のファティ・アキンが監督。
作風はシリアスな話もユーモアを交えて語るエンターテインメントに焦点を合わせることが
この映画の成功に繋がっている。

ファティ・アキン監督は、「愛より強く」(04)でベルリン国際映画祭金熊賞、「そして、私たちは愛に帰る」(07)でカンヌ国際映画祭脚本賞、そして「ソウル・キッチン」(09)でヴェネチア国際映画祭審査員特別賞と、世界三大国際映画祭の全てで主要賞を受賞し、最新作「In The Fade」も今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されダイアン・クルーガーが主演女優賞を受賞している。

9月16日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「ハイジ アルプスの物語」(Heidi)(ドイツ・スイス映画):目を瞠るスイスの 山奥を舞台にした懐かしいTVアニメ「アルプスの少女」が40年振りに実写映画となって戻って来た。

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 1880年スイスの作家ヨハンナ・シュビリの描いた児童小説は世界60もの言語に翻訳され5000万部以上が売れていると言う「少女ハイジ」の物語。

生まれたスイスとヨーロッパ各国の他は日本で特に愛されている。
 それは今はスタジオ「ジブリ」で巨匠として君臨する
宮崎駿と高畑薫の74年からTVで放映されたアニメ「アルプスの少女ハイジ」のお陰だろう。
確か「カルピスマンが劇場」として1年間放映され、
その後ダイジェスト版が79年に劇場用長編映画として上映された。
映画はDVDやヴィデオになり80万本も売れた。

 だから日本はハイジの「第二の故郷」のようなものだ。

その頃リアルタイムで放映を見た子供たちはすっかり還暦近い老人になっている。
懐かしいかも知れないが、この映画のターゲットはあくまでも子供で、
初めて接するアルプスの山奥のプリミティブな羊飼いの日常と
ドイツ・フランクフルトの富豪の上流階級のギャップをどう捉えるのだろう。

この映画もスイス・ドイツからの制作費で2015年に撮り終え欧州各国で上映されたが、
アメリカでは16年の暮れに南カリフォルニアの「フレズノ映画祭」と言う小さな映画祭で
1度公開されただけで直ぐにDVDになっている。

ハイジ好きの日本は8月26日よりYEBISU GARDEN CINEMAで堂々と公開される。
制作費はハリウッド程かけておらず$8.8M(10億円弱)だが元を取らなければならないから暖かく迎えてくれる日本でも必死のPRだ。

幼い頃両親を亡くした孤児のハイジ(アヌーク・シュテフェン)は、
厄介払いと冷たい伯母のデーテ(アンナ・シュニッツ)に連れられて父親の父、
つまり祖父のアルムおんじ(ブルーノ・ガンツ)のところへ預けられる。

アルプスの山奥の大自然の中で、頑固で人間嫌いのおんじだが,
根は優しい人柄でヤギを飼い農業で生活していた。

緑に囲まれた森や草原、雪の降り積もった丘陵、ハイジは野生の子供のようにはしゃぎまわり、頑固なおんじと直ぐに打ち解ける。

アルムおんじ役のブルーノ・ガンツは、この映画の出演者の中で唯一人の有名俳優。
日本の東映作品で捕虜になり「第9」を演奏する「バルトの楽園」で日本にファンも多い。
因みに新宿のシネコンプレックス「バルト9」はこの映画からとったもの。
スイス出身の75才、「ベルリン・天使の詩」(87)や「ヒトラー~最後の12日間~」(04)で世界の注目を浴びた。
すっかり好好爺になってハイジが可愛くてならない演技は気がこもっている。

 ハイジは羊飼いのペーター(クイリン・アグリッヒ)とも大の仲良し。
朝早くから沢山の阿ヤギを集めて山の草が茂る牧場へ連れて行く。
ハイジも一緒に付いて行き、納屋の干し草の山で寝ながら夢を語るのが好きな時間の過ごし方だった。

 ある日、またデーテ叔母さんがやって来て、ハイジをおんじから引き離し、大都会フランクフルトに行くことになる。

 おんじが反対しても歯牙にもかけない。
金銭に汚いデーテは大富豪、ゼーゼマン(マキシム・メーメット)からかなりの資金を受け取り、
足が悪くて車椅子生活を送るお嬢さん、クララ(イザベル・オットマン)の話し相手として
住み込みで連れて来られたのだ。

 明るく素直なハイジを一変に好きになったクララはハイジの言うことを聞き、次第に元気になっていく。

ゼーマン家は良い人ばかり。
ゼーマン自身は仕事熱心で家には滅多に居ないのでクララが気に入ったハイジは手放したくない。
執事のセバスチャン(ペーター・ローマイヤ―)はハイジに優しく
家庭教師のロッテンマイヤー(カタリーナ・シュッとラー)が厳しく礼儀作法を躾けるのを
陰で励ましてくれる。

食事の作法、ナイフフォークの使い方など知らない野生の子、ハイジの獣のような食べ方は観客までもビックリするが、それにも増して字の読み書きが全くダメ。そういえばアルプスの山奥でヤギを飼って育てている分には学問は不要。

 ロッテンマイヤーは怒髪天を突き怒り狂うが皆ハイジの味方。
面白いのはベッドの中に白いパンが一杯隠してある。
見つけた執事が
「どうしたの?」と聞くと
「お婆ちゃんは歯が悪いので柔らかい白パンを貯めてお土産にするの」

このところハイジはいつもの元気が無い。
クララが聞いても答えない。クララのお婆さん(ハンネローレ・ホーガー)だけが見抜く。

「ハイジがアルプスの山奥に戻りたがって『夢遊病』のように夜歩き回っているのよ」
ハイジもおんじと暮らしたい、だがクララを置いてはいけない。
皆から可愛がられ慕われているだけにハイジのジレンマは半端でない。

ハイジに扮するアヌーク・シュテフェンは、500人の候補の中からグスポーナー監督は一目で選んだと言う。芝居は素人だが野生のハイジをのびのびと演じる。

山羊飼いの少年ペーターにはクイリン・アグリッピが皆からアニメでの「顔がそっくり!」と言われたことからオーディションに応募したと言う。

足が悪く孤独を抱えるお嬢様クララにはTV映画に子役として活躍する14才のイザベル・オットマン。上品なブロンド美人だ。

スイス人監督のアラン・グスポーナーが演出。スイスには有能な映画作家はいない。
しかし何度も見たハイジの話は歌舞伎やオペラを見ているようなもので
何処で笑うか何処で泣くか分かっているから、オーソドックスに撮ってくれて正解なのだろう。

8月26日よりYEBISU GARDEN CINEMAにて公開される。

「サーミの血」(SAMI BLOOD)(スウェーデン・デンマーク・ノルウェー映画):差別を受け忌み嫌われ侮辱されるサーミ族の少女、エレ・マリャはスウェーデン人に成りすまそうと心に決める

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北欧スウェーデンの少数民族サーミ人の少女の成長物語を描いたドラマ。

この映画ではじめて知ったが世界で尊敬されているスウェーデンの少数民族で忌み嫌われ侮辱され差別を受けているサーミ人の存在だ。

サーミ人は、スカンジナビア半島北部ラップランド及びロシア北部コラ半島に居住する先住民族。
総人口は227千人。
フィン・ウゴル系のうちフィン・サーミ諸語に属するサーミ語を話すが、ほとんどがスウェーデン語、フィンランド語、ロシア語、ノルウェー語なども話すバイリンガル。

北方少数民族として、日本のアイヌ民族などとの交流もある。
宗教は、森羅万象に宿る様々な精霊を対象とした精霊信仰で聖霊の声を聴くシャーマンは必要不可欠な存在。
キリスト教信者が少数なことも侮蔑の一因ではないのだろうか?

映画は現代のラップランドの教会。
クリスティーヌ(マイ=ドリス・リンビ)は妹ニェンニャの葬儀に息子と孫娘と一緒に向かう。

50年前、家族も友達も故郷全部忘れ、そして本名、エレ・マリャを捨てスウェーデン風のクリスティーナにしてから半世紀振りに葬儀で帰って来たのだ。
ホテルのバーで1人回顧に耽る。

1930年代、スウェーデン北部の山間部に居住する少数民族サーミ族は、支配勢力のスウェーデン人によって劣等民族として差別を受けていた。

エレ・マリャ(レーネ=セシリア・スパルロク)は妹と一緒に親元を離れサーミ語を禁じられた寄宿学校に通っていた。成績も良くスウェーデンの高校進学を望んだが、
女教師(ハンナ・アルストロム)からは
「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げられてしまう。
「あなたは優秀かも知れないが、サーミ族の中で優れているだけでスウェーデン社会に入ればやって行けない、絶滅する人種なのよ」
綺麗な顔をして物凄いことを言う先生だ。絶対に推薦状は書かないと断言する。

失意のエレ・マリャは、街を彷徨い列車の中でドレスを盗んでサーミの地味なドレスに着替える。背の高いスウェーデン人たちの中で小太りで小さなエレは直ぐに分かるが彼女はドレスで変身できたと舞い上がる。

そしてオープンテラスの夏祭り会場にスウェーデン人のふりをして忍び込んみ、都会的でウブでイケメン大学生、ニクラス(ユリウス・フレイシャンデル)と出会い恋に落ちる。
ニコラスも悪い気もせず(据え膳だぜ)キスをする。

寄宿舎を抜け出しニコラスの豪華な邸宅におしかけ泊めて貰うが、ニコラスの両親はサーミ族と見破られ追い出される。

故郷へ戻ればトナカイを飼育し、テント暮らしのプリミティブな部族の生活からに戻らなければならないと思っていたエレは、ニクラスを頼って街に出る。

映画を見ていてエレに同情をするものの、ドレスを盗んだりニコラス家から追い出されても女中で使ってくれなどと、強引で押しつけがましい性悪女に思える。
祖父の遺産のトナカイを殺し内臓を取り出すシーンには目を背ける。

スウェーデンの高校に潜り込んだところを校長につかまり、
2学期分学費200クローナ(約3万円)を請求され、
家に戻り両親に祖父から受け継いだトナカイを買い取ってくれと談判するが断られる。
ただ銀貨を嵌めこんだ皮のベルトを貰ってストックホルムへ戻る。

言いたいことは分るが進行がスローで主人公に感情移入が出来ないせいもあり、
途中で飽きが来る。
2時間近くを費やす作品では無い。

美しいラップランドの風景を遠景で押さえ、苦悩するエルをクローズアップで捕らえるコントラストが良い。

監督のアマンダ・シェーネルはサーミ人の血を引いており、自身のルーツをテーマにした短編映画を手がけた後、同じテーマを扱った本作で長編映画デビューを果たした。

主演エレ・マリャ役はノルウェーでトナカイを実際飼い暮らしているサーミ人のレーネ=セシリア・スパルロクが演じる。
役者では無い素人だ。

2016年・第29回東京国際映画祭に出品された本作で審査員特別賞および最優秀女優賞を受賞した。

アメリカにはサーミ人は3万人ほど住んでいるが、この映画への関心は薄い。
昨年のサンダンス映画祭で上映され、ウィスコンシンやクリーブランドなどの小さな映画祭で紹介されたが劇場公開は無い。

アートフィルムファンが多い日本では
9月16日より新宿武蔵野館他で公開される

「忍びの国」(日本映画):堅牢な門があっても簡単に破る。門が無いに等しいので「無門」と呼ばれる。戦場で無敵の英雄でも家に帰ると美人女房お国の言いなり、口答えも出来なく、尻に敷かれている。

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 原作となった和田竜の小説は未だ読んでいないが、「のぼうの城」や「村上海賊の娘」を読む限り半分歴史上の事実、半分フィクションでサービス精神旺盛に楽しませてくれる。

 この映画も2009年、第30回吉川英治文学新人賞候補になった「天正伊賀の乱」(1579年)を題材とした小説「忍びの国」を原作としている。

だから見る前から期待度大の映画だ。
勿論映画を見終わったら小説も読んでみる。

 冒頭の戦場、「無門」(大門智)がアクビをしながら戦況を眺めている。
堅牢頑強な城は忍者を寄せ付けない。忍者の手口を知り尽くした敵は攻めの裏をかく。
城に入れなければ勝ち味は無い。

「無門、出番だぞ!」の声で
「幾らくれる?」
上忍の伊賀評定衆たちと値段の駆け引きが終わり、
300貫の褒賞で引き受けた無門はあっさり城内に入り込み門は簡単に内側から開く。

彼の前では門があっても無いに等しいので「無門」と呼ばれる。

 戦場の英雄でも家に帰ると惚れた美人女房、お国(石原ひとみ)の言いなり口答えも出来ない程、尻に敷かれている。
無門の人物設定が抜群で、序盤の展開はテンポも良く面白い。

 伊賀の忍者で腕はピカ一なのに怠け者で女房の尻に敷かれる無門を演じる大門智がいい味をだして好演している。
「嵐」の元メンバーでジャニーズ所属の大野も37才になる。
SMAPが解散して大門のような力がありソコソコ活躍していたが目立たなかったキャラが
今後スポットライトを浴びるだろう。

 魔王、織田信長は諸国と戦い勝って次々と支配下に治めていたが
ただ一国、伊賀だけは攻めあぐんでいた。

天正4年(1576年)、織田信長の次男、北畠信雄(知念侑孝)は義父で元伊勢国司の北畠具教(國村隼)を討った。

 北畠具教が討たれたことにより伊賀の国は織田家の軍門に下ることを決め、その決定を信雄に伝える使者として伊賀家十二家評定衆の一人、下山甲斐(でんでん)の長男、平兵衛(鈴木亮平)が選ばれた。

 戦場で無門と無意味な決闘をし、わが子、次郎兵衛(満島真之介)が殺されても
「あれは次男だからな。次男は人間じゃない」と平然としている父に内心反発していた平兵衛は、信雄に伊賀攻めを進言する。

信雄は伊賀攻めを決め、手がかりとして伊賀の丸山城の再建をすすめることにした。
織田方から使者が来ると聞き、百地三太夫(立川談春)と下山甲斐はほくそ笑む。
平兵衛の裏切りは予想していた2人の策だったのだ。

計画通り織田方の資金で城を再建し、完成させたところで三太夫は城に爆薬を仕掛け焼き払う。

怒った信雄は父、信長に働きかけ天正7年(1579年)、とうとう織田方が攻めてくることになる。
自衛のための戦なので銭は出ないという評定衆の申し伝えに下人たちは反発し、半数が逃散すると決めた。

忍者は忠義心など無い。闘うのは「金のため」と言うドライさが面白い。
その状態では勝てるわけはなく、伊賀が滅びては元も子もないと考えたお国は
「なぜ逃げねばならぬのか」と不機嫌になる。
「私は伊賀に留まる」と宣言する。
お国は言い出したら止まらない。

 弱った無門は織田方に直接交渉に行くが、
信男の第一の家臣、日置大膳(伊勢谷友介)との談判はうまくいかず、直接、信雄の寝込みを襲うが失敗する。
信男が家臣を呼ぶが簡単に無門に仕留められてしまう。
そのまま寝首を掻き切れるが「命、暫し預けた」などカッコ良いことを言って退散sる。

伊賀攻めが始まり、数の上でも装備の上でも劣る伊賀者は劣勢に立たされる。
下人たちは皆、金が無ければ戦えないのだ。

 下人を引き留めるには金しかない。
無門はこの状態を見て思い直し、
信男の政略結婚した女房、北畠凛(平裕奈)が父の仇、夫の信男を討ってくれと、
北畠家の家宝「小茄子」を無門に渡す。

小茄子の価値は一万貫以上する。
下人たちを集め「雑兵首には十文、兜首には十貫、信雄が首には五千貫を払う」と伝え、形勢逆転をはかる。金が総て、下人たちのモチベーションは高まり戦況は一変する。

出演は、伊賀一の忍びながら、妻には頭が上がらない主人公・無門に大野智。
大ヒット作「映画 怪物くん」以来、6年ぶりの主演映画。まあSMAPが消えたお陰でこの熱演だ、オファーが増えるだろう。

無門が心を許し尻に敷かれるのを厭わない最愛の妻・お国に石原さとみ、いつしか三十路を超えたが増々キレイになっている。

 心技体に優れる織田軍最強の武将・日置大膳に伊勢谷友介、口髭が似合いイケメンが冴える。
評定衆に策に引っ掛る、下山平兵衛に鈴木亮平、
強面の北畠具教に國村隼、

他にでんでん、立川談春、知念侑李、マキタスポーツなど個性的なキャストが脇を固める。

山努のクールで突き放したようなナレーションがユーモラス。

そして、監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」(07)でブレイクし、異色時代劇「殿、利息でござる!」で笑わせ「ゴールデン・スランバー」(10)「予告犯」(15)スリラーをヒットさせた実力派の中村義洋。撮った作品で、「スカ」が無いのが見事だ。

戦国エンターテインメント「忍びの国」に引き続き,司馬遼太郎の大作「関ヶ原」と
今年の夏は「中世日本の夏」だ。

7月1日(明日ですよ)よりTOHOシネマズ日劇他にて公開される。

「きっと、いい日が待っている」(Der kommer en dag)(デンマーク映画):少年養護施設の先生や職員に苛め抜かれる2兄弟の幼い弟が、生き残りを賭けて「月に向かって飛ぶ」奇跡の物語

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最近一番泣かされた映画だ。このところスゥェーデン(サーミの血)とかアイスランド(ハートストーン)など福利厚生も環境も良いと思われている北欧諸国でとんでもない差別や虐待を描いた作品が続くが、この映画もデンマークの養護施設での幼児虐待の実話に基づく映画化だと言う。

 デンマークは最近の国連調査では「世界一幸せの国」のトップだが映画の舞台となった67年は「躾」の名のもと、こんな体罰ばかりか、違法薬物アンフェタミン投与(朝、眼をぱっちり開けるための覚せい剤)や小児性愛を含む蛮行がまかり通っていたかと思うと恐ろしい。

孤児院での虐待といえばチャールズ・ディッケンズの「オリバー・ツイスト」があるがディッケンズもデンマークの底意地悪い教師たちには兜を脱ぐだろう。

半世紀前、デンマークで2人の幼い兄弟が起こした命を賭して起こした奇跡の実話を映画化したものだという。

1967年、コペンハーゲン。父親は家を出て病気がちの母親は働けないと言う下層階級の貧困家庭の兄弟。スーパーや雑貨屋、レコードショップで万引き常習犯の少年2人。
追いかけられて逃げるが、兄は足が速い。弟は内反足で足が悪く満足に走れない。
その上に高所恐怖症で塀をよじ登った所で立ち止まり捕まってしまう。

13歳のエリック(アルバト・ルズベク・リンハート)と10歳のエルマー(ハーラル・カイサー・ヘアマン)は、病気の母親と引き離され、コペンハーゲンのシェラン島北部、
「ゴズハウン少年養育施設」に預けられる。
しかし施設では、「躾」という名のもとの先生や職員たちから猛烈な体罰が横行していた。

初日からヘック校長(ラース・ミケルセン)に生意気な口をきいたと、いきなり取り巻きの先生からビンタで張り倒される。
エリックたちは慣れない環境に馴染めず、上級生たちからもイジメの標的にされてしまう。
しかし上級生たちは自分たちも受けている暴力沙汰で同病相憐れみ徐々に同情し始め仲間意識をもつようになる。

ある日、母の弟で兄弟が憧れている叔父が施設にやって来て
「一緒に暮らそう」とヘック校長に要請するが
「学生運動専門家で稼ぎが無い、兄弟を引き取る資格もない」とに一蹴される。

 悲観したエリックとエルマーは叔父にも見放され施設からの逃亡を図ろうとするが忽ち捕まる。
唯一兄弟を理解し味方になってくれた女性教師ハマーショイ(ソフィー・グローベル)は校長のパワハラで施設を辞める。

少年たち、エリック役のリンハートもエルマー役のヘアマンも長編映画初出演でも
堂々とした演技を見せる。

特に寝小便で先生たちの体罰の的になるエルマーの「宇宙飛行士の夢」がサブプロットで浮彫にされる。

時あたかも「Man On the Moon」が実現した67年7月20日。
エルマーはTVを見て興奮するが、校長が15歳のエリックの退所を許さないことでカッと怒り、
校長の愛車に傷をつける。

それからが校長命令で職員たちが寄って集って集団暴行。
エリックは意識不明で死の淵を歩む。
救急病院へ運ぼうと言う職員の声を無視し、
「死んだら神の思し召し」だと。
官憲も監督官庁も「証拠が出ない限り」校長の言うままだ。

デンマーク・アカデミー賞2017では、最多となる6部門を総嘗めするなど、
デンマークを中心に欧州諸国では評判が高い。
しかしアメリカではパームスプリング映画祭と言うちっぽけなフェスティバルで
1回上映されただけ。
一般劇場でしっかり一般公開される日本とは大違いだ。
僕が感動するくらいだから必ずや話題を呼ぶ作品になるだろう。

監督を務めるのは、TVドラマ出身の55歳のイェスパ・W・ネルスン。
映画は撮っているようだが日本に紹介されていない。

熱演の主役の2人の少年の他に
校長役のラース・ミケルセン(「SHERLOCK」「THEKILLING/キリング」「ハウス・オブ・カード」などで見覚えがある。
少年たちに同情し「幽霊になるのよ」とアドバイスする女教師を「THEKILLING/キリング」などのソフィー・グローベルが演じる。
終盤彼女が「白馬の騎士」よろしく、検査官を連れて養護施設へ乗り込んで来て、
校長以下、施設ぐるみの悪行が暴露されるシーンは痛快だ。

素晴らしいエンディングだが一つ物足りない。
オリバー・ツイストは窃盗団の頭フェイギンは捕らえられ絞首刑、サイクスは逃走の末事故死する。
しっかりと「悪は滅びる」が、
この映画のエンドクレジットでその後の養護院が廃止された始末記を書いている。
しかし、養護院の校長以下先生たちはクビになったかも知れないが罰を受けたとは記されていない。
「ケジメ」は付いていないようだ。
半沢直樹の「倍返し」に慣れている我々には不満が残るエンディングだ。

8月5日より YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
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