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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「グランド・イリュージョン 見破られトリック」(Now You See Me 2)(アメリカ映画):大晦日のロンドンで天才科学者に圧倒された劣勢を一気に挽回する大逆転マジックのカタルシス。

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アメリカでは6月1日に新登場し、首位は奪えず2位争いで猛烈な死闘を展開しているJon M. Chu監督の「Now You See Me 2」は3232館で23.0M。

 しかしマカオが重要な舞台になっている中国だけで3D作品の150M超(160億円)の爆発的ヒットのおかげで、先週末の7月17日時点でアメリカの累積は63.5Mなのに対し、海外市場での累積は203.7M、ワールドワイド総計で203.7M(218億円)と好成績を残している。しかしオリジナル前作には未だ追い付かない。

 3年前のオリジナル「グランド・イリュージョン」はマジシャンとして一流の腕を持つ、フォー・ホースメンというスーパーイリュージョニストグループがマジックショーの中で、ラスベガスから一歩も動くことなく、パリにある銀行から金を奪う。権力者や大企業の不正をFBIや警察を出し抜いて見つけマジックショウで暴露するヒーローにして犯罪者、そして奪った不正な大金は貧しい庶民にばら撒くロビンフッド的正義の犯罪集団「フォー・ホースメン」。

その年の夏映画で一番利益率が高くグローバル総計で351.7M(376億円)を挙げている。
続編であるこの映画は更に派手に舞台を移すので増やした制作費は90M(96億円)だが、後50億円ほどで利益が出る。


 映画の冒頭はリーダーのダニエル・アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)の少年時代。父親の大マジシャンが金庫に入り河に沈められた金庫から脱出に失敗するシーンから始まる。アトラスのトラウマは後を引く

大仕事を終えた1年後、あらゆるイリュージョンに精通したリーダーのアトラスは新「フォー・ホースメン」を立ち上げ懐かしいメンバーが再結集する。

カ-ドマジシャンのジャック・ワイルダー(デイヴ・フランコ)、メンタリストのメリット・マッキニー(ウディ・ハレルソン)紅一点のイズラ・フィッシャーに代わってイリュージョニストのルーラ(リジー・キャプラン)が加わる。
どちらも脇役専門女優だがオマーン生まれのイズラより、LA生まれの34歳、リジーの方が美人で僕の好みだ。

新たなミッションは巨大IT企業「オクタ」社の個人情報売買の暴露。CEOを催眠術でコントロールしウェイター、警備員、イベントスタッフと早変わりして、NYでのスマフォ事業の会場に潜入しプレゼンテーションをハイジャックして事業の裏にある不正を暴く。

 ところが逆にFBIに逆ジャックされホースメンの素性を暴露され追われて会場を脱出する。避難先がチャイナタウンの小さな中華料理店だと思って外へ出ると中国のカジノの本場マカオと言うのがオカシイ。これも観客を騙すテクニック。


しかし中華料理を食べる間もなく高級ホテルのスィートルームに連れて行かれ、そこで天才エンジニア、ウォルター・メイプリー(ダニエル・ラドクリフ)に出会う。実は彼らのプレゼン・ハイジャック計画を阻止したのはウォルターなのだ。

 その裏には、ホースメンを利用して「オクタ」社から世界のどのシステムにアクセス可能なチップを盗み出すように脅迫する。そのチップで世界を大混乱に陥れる陰謀だった。

可愛い顔をした「ハリーポッター」のダニエルも明日(23日)が誕生日で27歳になる。茶色の口と顎鬚に覆われた上半分に光る目付きは鋭く光る。
 子役から大人の俳優への道は険しく成功しているのは少ないがダニエルはB級ホラー映画「ウーマン・インブラック」や「ビクター・フランケンシュタイン」などの他このような大作の脇役で着実に道を歩んでいる。今後、主演で一発大ヒットが必要だが。
全てのトリックを破る科学の前になす術なく徐々に追い詰められるホースメン。

ホースメンたちはチップを持ち逃げしてロンドンへ逃走。
追いかけるウォルターにプライベイトジェットで付き添う大富豪の父親アーサー・トレスラー(マイケル・ケイン)。

最終決戦の地ロンドンでホースメンたちは各人得意の魔術を披露する。カードを入れ替えクィーンを充てさせたり兎を思わぬ処から出して見せたりフツ―のマジックから雨を止めたり、下から上へ逆に降らせたり凄いイリュージョンの果てに、ルーラが「空から大きな船を振らせてテームズ河」に浮かべると不思議な予言をする。

 ところがウォルターとアーサーはホースメン4人を一網打尽、手錠をかけてジェト機に連れ込み、銃を突きつけ秘匿した「チップス」を取り戻す。
その上飛び立ったジェット機から全員が放り出され「何だホースメンの負けか」と思った瞬間に一発大逆転のスーパーイリュージョンが起きる。
流石にネタバレは出来ないが、観客も見事に騙される終盤は最近の映画では秀逸のコン映画になっている。

ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、ウディ・ハレルソンなどの主要メンバーが再結集し、アトラスの父親の友人だった老マジシャンにモーガン・フリーマン。

マカオのマジック商人、リー役でなどの台湾人、ジエイ・チョウ。「グリーン・ホーネット」でハリウッドへ進出し大活躍をしている。僕はチュウのデビュー作「頭文字D」に感激したことを覚えている。

 監督は中国系アメリカ人で「G.I.ジョー バック2リベンジ」などのジョン・M・チュウ。ジャスティン・ビーバーなどのMTVで大ヒットを飛ばしている。

 中国・台湾系の役者や監督が活躍しマカオでロケが行われるなどかつての洋画王国・日本は完全にパッシング。
特に興行面で中国がハリウッドを支える構図は益々拡大される。

9月1日よりTOHOシネマズ スカラ座・みゆき座他で公開される。

「BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」(THE BFG)(アメリカ映画):子供たちに「夢」を届けている優しい巨人・BFGと少女ソフィーは固い友情で結ばれ悪い巨人をやっつける計画を立てる

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 アメリカで独立記念日を控えた7月1日より上映が始まったこの作品、いきなり興行面でズッコケ(DOA=Death on Arrival=病院到着時、既に死亡)た。

 スピルバーグ監督の往年の大ヒット作「ET」を思わせるタイトル、エイリアンではないが人間の数倍の背丈や体躯を持つ巨人と10歳の孤児の少女との交遊。
面白そうな要素を満載し期待一杯に映画を見始めるが10分もするとアクビが出る。
詰まらない!

 スピルバーグはブロックバスター作品制作の感触を忘れてしまっている。
晩年の黒澤明監督がそうであったように(「8月のラプソディ」や「まあだだよ」など)才能は枯渇しバーンアウトしてしまったのか?

 制作配給のウォルトディズニー(WD)は複雑な気持ちだろう。今まで雲の上の存在のマエストロと初めて手を組み、スタジオに新風と新たな財源を持ち込んでくれるだろうと期待していたに違いない。

 一方では「Finding Dolly」でドンドン稼いでいるが、初め迎えた巨匠・スピルバーグ監督の「アンブリン」の「BFG」が140M(152億円)と言う目の玉が飛び出るほどの制作費をつぎ込んだにも関わらずチャートで首位に輝くどころか、遥か下位の4位に留まったのだから大慌て。

 デビュー週末(7月1日―3日)3357館で19.6Mと冴えません。430M稼がなければ黒字にならないのにスタートが、僅か20Mにも達しないと言うことは将来を予想すると絶望的なのだ。

 そんな大金を制作につぎ込んでいるので作品単体のP/Lで見れば財政的には赤字を免れないだろうが、ウォルト・ディズニー(WD)は「ズートピア」「ジャングルブック」でがっぽり稼ぎ、そして同時に走っている「ファインディング・ドリー」が大ヒットしているリッチなスタジオだから余裕がある。

 観客を調べると、ファミリー層が60%とコアを成し、女性層が54%を占める。WD配給のEVP,デイブ・ホリスは「今後ファミリー層と海外マーケット」に期待していると業界紙に語っているが元気が無い。

 共同脚本のロールド・ダールの人気、児童小説の映画化。
(因みに「ET」などのもう一人の共同脚本家・メリッサ・マシソンは2015年の11月に死亡してエンドクレジットに献辞がある)

 孤児の主人公少女、ソフィー役は、イギリスで何千人のオーディションで選ばれたルビー・バーンヒル。演技経験の無い素人の女の子。美人では無い普通のこまっしゃくれた女の子、ヒロインとして魅力が無いんだなあ。

 そしてやさしい巨人・BFG役は、スピルバーグ監督作品「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー助演男優賞に輝いたイギリス人俳優、56歳のマーク・ライランス。
今年5月のカンヌ国際映画祭でプレミアム上映し絶賛され映画評も悪く無く、出口調査ではA-評価を受けている。

 知名度の高いアメリカ人スターが出ていない、イギリスの無名俳優ばかりだと言う懸念はあったものの、巨匠スピルバーグの「ET」や「ジョーズ」を彷彿させるファンタジー作品と前評判は高かった。
いざ蓋を開けた本番の上映でこれほど悪い成績になろうとは誰も想像できなかった。

 物語の舞台はロンドン、児童養護施設に住む好奇心旺盛な10歳の少女ソフィー(ルビー・バーンヒル)。
いつものように寝付かれない(インソムニア)ある夜、ベランダから外を覗いていると、大きな手に持ち上げられ大地を高速で走り抜け高い山もひとっ飛び、崖からジャンプし海を越え「巨人の国」に連れて来られてしまった。

 ソフィーをロンドンから連れ去ったのは、子供たちに夜ごと「夢」を届けるやさしい巨人BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント(マーク・ライランス)。身長は7メートルを超え、耳は象のように大きいが優しい目を持った初老の巨人だ。

 ひとりぼっちで先生や仲間からも疎外されていたソフィーは、巨人だけど孤独なBFGとお互いに心を通わせ、すっかりお友だちになる。

 スクリーンをよく見るとライアンスは実写ではない。
少女ソフィーはライブだが巨人はディジタルの画像だ。ライアンスの演技をキャプチャーしたディジタル映像だ。

 BGFの仲間の巨人、9人、夫々,フレッシュランプイーター(肉塊食者)やボーンクラッチャー(砕骨者)とかミートドリッパー(肉をポタポタ落とす人)などと言う恐ろし気な名前がついている。
しかもBFGの2倍以上の大きさ。BGFは菜食主義で腐ったような巨大な瓜を主食としているのに、他の巨人は肉食主義、特に子供の肉は柔らかく美味しいと人間の世界へ出かけ子どもを攫って来て食べている。
意地が悪く短気で巨人といえども身長が半分以下のBFGを「巨人の恥さらし」と苛める。

 巨人たちもBFG同様にキャプチャーのCG画像でディジタルの冷たさや情緒に欠けた特徴が冷血で極悪非道の巨人たちの描写に似合っている。
9人の巨人は、鼻が良く嗅覚に優れていてソフィーの存在を直ぐに気付きBFGの洞窟の住居での追跡劇はかなりのホラーだ。

 やがて、ソフィーは人間界に害を及ぼす巨人たちを排斥しなくてはと、意志を固める。ソフィーの小さな勇気が大きなBFGを動かし、イギリスやヨーロッパを巨人たちから救おうと立ち上がる。
それにはロンドン・バッキンガム宮殿の女王陛下(ペネロープ・ウィルトン)に訴えて助力をお願いするのが一番手っ取り早い。
ソフィーが女王は巨人退治にきっと協力してくれる筈だ。

 BFGが女王への拝謁が傑作で笑える。
字幕翻訳は不器用で充分に伝えられないが舌足らずで田舎弁のBFGと女王の華麗なアクセントのウィーンイングリッシュの絡みがオカシイ。
BFGのお土産、泡が上から下へ降りる手製のシャンペンを飲むと美味だが、一斉にオナラが出る。女王の小太りの身体が宙に浮き、可愛がっている3匹のコギーがジェット推進で宮殿のフロアを驀進する。

 イギリス空軍の数十機のヘリコプターを案内して少女とBFGは巨人の国へ飛び、眠りこけている巨人9人を文字通り「一網打尽」にする。

 ストーリーは「ET」や「ジョーズ」同様に興味深く観客を楽しませる筈なのだが、スピルバーグはそのツボを見つけ際立たせるテクニックが錆びついてしまった。
メリハリが効いていないのだ。だからカタルシスもクライマックス感も希薄になる。

残念ながら、巨匠・スピルバーグのバーンアウト現象は顕著だ。

 9月17日よりTOHOシネマズ系劇場で全国公

「人生は狂詩曲(ラプソディ)」(BRABANÇONNE)(ベルギー・ルクセンブルグ映画):言語が違い仲の悪い二つの地区のベルギー人同士が吹奏楽で欧州代表の地位を争う

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週末になると試写は無いし、日比谷、銀座地域の映画館は既に試写で見た作品ばかり。だから土曜は渋谷や新宿のミニシアターで見逃した映画を漁る。

その一つが伊勢丹から明治通りを挟んで細長いペンシル雑居ビルに角川シネマと同居しているシネマート新宿で、昨日(23日)16時半の回を見た。

公開されて1週間が経って40人ほど3割程度の込み具合はソコソコの興行成績を挙げていると見える。TOHOシネマズの近代的でデラックスな階段状シアターに比べ、古びて狭い椅子や雑然として薄汚い場内は新宿の小屋ならではのミニシアターの雰囲気だ。

この映画を理解するには、国土は日本の約12分の1、人口は1130万人と言う小さな「ベルギー」と言う国の現状を把握しなければならない。
実は国は言語で三分されているのだ。そして互いに仲が悪い。

ウィキペディアに依れば、ベルギーの首都ブリュッセルは欧州連合(EU)の本部など主要機関の多くが置かれているため、「EUの首都」とも言われ、その通信・金融網はヨーロッパを越えて地球規模である。
もともとは19世紀に「ネーデルラント連合王国」から独立した国家で、オランダ語の一種である「フラマン語」が公用語の北部フランデレン地域と、「フランス語」が公用語の南部ワロン地域とにほぼ二分される。建国以来、単一国家であったが、オランダ語系住民とフランス語系住民の対立(言語戦争)が続いたため、1993年に「フランデレン地域」と「ワロン地域」と「ブリュッセル首都圏」の区分を主とする連邦制に移行。

この映画の欧州吹奏楽団コンテストでベルギー代表は「フランデレン地域」代表と「ワロン地域」代表が一位の座を争い、あの手この手を使って熾烈な争いをする。
地球規模の通信・金融網を誇る「EUの首都」ベルギーのベルギー人同士の代表争いと仇敵を超えた「ロミオとジュリエット」的ロマンスが美しいメロディーと踊りをフィーチャーしたミュージカル形式で展開される。

半世紀以上も昔にハリウッドで流行ったミュージカルの伝統的手法がベルギーのコメディにぴったり嵌って物語は進む。

吹奏楽の欧州決勝コンクール出場チームを選ぶ大会に参加したベルギーのフランドル地方の楽団「サン・セシリア」。
ライバルであるワロン地方の「アンナバン」の演奏に圧倒されながらも“必ず勝つ”という決意で挑んだ結果は、アンナバンと同点1位。

2チームとも決勝コンクール進出を果たす。ところが、チームの要であるトランペットソロのウィリー(イヴァン・ペチュニク)が演奏直後、心臓発作で急死。文字通り「命がけのソロ」は審査員の同情票も買ってタイに漕ぎつけたのだ。

悲しみに暮れるサン・セシリアのメンバーは、戦意喪失してしまう。ウイリーが居なければ勝負は決まったも同然。
それでも、コンクールは待ってくれない。

葬儀の後、ウィリ-の死を無駄にしないためにも、メンバーたちはある作戦を思いつく。
それは、アンナバンの天才トランペット奏者ユーグ(アルテュール・デュポン)をスカウトすることだった。
スカウトと言えば聞こえが良いが我儘ユーグを懐柔してサン・セシリアに引き込むことだ。
指揮者のヨセフ(よす・ヴェラビスト)の下で意思は固い。

早速、ユーグ引き抜きのため、ワロン地方に向かうサン・セシリアのメンバーたち。アンナバンは、突然のライバルチーム来訪を訝しむ。

タイミングが良いことにユーグは自作の曲「プレイ・ジャズ」を欧州決勝コンクールで演奏するよう、アンナバンの指揮者の兄ミシェル(マルク・ワイス)に申し出るが、全く相手にされずに兄弟喧嘩の真っ最中。

アンナバンのメンバーが働く工場を見学していたサン・セシリアの指揮者の娘でステージマネジャーのエルケ(アマリリス・アイテルリンデン)は、ふて腐れるユーグを発見し、「チームにきてほしい」と頼み込む。

承諾したユーグはサン・セシリアの用意したホテルに泊まりこむ。
サン・セシリアの練習でトランペットを手にしたユーグが姿を現す。ウィリーを超える素晴らしい演奏でメンバーを感動させるが、演奏も含め要求が多く聞き入れられないと辞めると不貞腐れる我儘な男だった。

トランペット以外は適当で自分勝手なユーグ、イケメンなので宿泊しているhテルのメイドを始め近所の女の子たちはメロメロで、世話係を任されたエルケは怒り心頭。
練習以外の場で2人の口論は絶えない。

エルケはコンサート後に地元で一番の金持ち、不動産王の息子ルナート(デヴィッド・キャンテス)と結婚することになっており、吹奏楽団の送迎バスや練習場はルナートの父親からの支援を受けている。

美人のエルケにイケメンのユーグ。
観客の予想通り、二人は愛し合うようになっている。
二人のデュエットは甘く美しい。

問題は果たして、無事に決勝コンクールを迎えられ、欧州ナンバー1の吹奏団の地位を確保できるのか?興味津々で終盤を迎える。。

主演は、ベルギーで歌手・女優として活躍するアマリリス・アイテルリンデン、日本では初お目見えだが美人で歌も上手い。

我儘トランぺッターは「大統領の料理人」のアルテュール・デュポン。彫りの深い顔のイケメン。こんな才能溢れる俳優がベルギーと言う小国で活躍しているんだ。
因みにサキソフォーンはベルギーで生まれた楽器だ。

監督はヴィンセント・バル。レトロなミュージカルとしてベルギー国内の吹奏楽団争いと情熱的なロミオとジュリエット的ロマンスを描写している。

今時珍しい時代遅れのスタイルだが美男・美女の主役と流れるメロディーの華麗さに魅惑されて汚い劇場を後にする。

シネマート新宿で上映中

「TSUKIJI WONDERLAND 築地ワンダーランド」(日本映画):80年の長きに亘り日本の食文化を支えて来た築地市場の裏表をじっくりと紹介するドキュメンタリの秀作

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小路幸也の「アシタノユキカタ」(祥伝社:2016年2月刊)。札幌から熊本まで2000キロのロード小説が面白い。

ある日突如現れたキャバクラ嬢の三芳由希が10歳の少女、あすかと一緒に現れ、「先生、この子を母親のところまで連れて行ってくれないかしら」と言う。
主人公の詐欺師、篠田孝之は親友の高校教師、片倉修一の部屋でゴロゴロしているところを先生と間違われたのだ。
主人公自身がなりすましのコン小説。

どうせ仕事も無いしい暇を持て余している篠田は片倉と間違われたまま、軽の車で車中泊をしながら二人を連れて熊本の病院に入院中のあすかの母親、鈴崎凛子に会いに行く羽目になったのだ。修一は教え子だった凛子とは離れているが昔は恋仲であすかは修一の娘ではないかと孝之は疑っている。

日本縦断7日間の旅は由紀が分かれた恋人から追い回されたり、ヤクザに脅かされたり波瀾万丈のトリップ。

著者の小路幸也は北海道生まれの55歳。02年に「空を見上げる古い歌をくちずさむ」でメフィスト賞を受賞して作家デビュー。
下町で古書店を営む大家族が主人公の「東京バンドワゴン」シリーズが人気を呼んでいる。



冒頭の料理評論家、山本益博の言葉が印象的だ「築地は世界一の魚市場では無い。世界で『唯一の魚市場』で世界一もニも無い」

僕は電通に入社した1961年以来、銀座7丁目の本社、築地本社、聖路加ビル別館、引退して歌舞伎座裏のオフィスとアメリカ駐在の4年を除いた半世紀近くを築地市場の傍で過ごしている。場内でのランチ、寿司や和食、ラーメンなどの大衆食の他にフランス料理や吉野家の牛丼1号店もある。米国産牛肉が狂牛病で輸入禁止になっていた時もどういう手段でかアメリカンビーフの牛丼には感激した。

食事で世話になりながら何も築地市場を知らなかったことをこの映画で分かった。

後3カ月後、2016年11月に豊洲への移転を予定している東京都中央卸売市場築地市場を、東京魚市場卸協同組合の全面協力のもと、1年間以上にわたり密着したドキュメンタリー。だから市場の四季も網羅しているし、今流行りのドローン撮影で市場の大川の光を反射する轡型の全景を収めている。

日本橋の三越前から移転して来た昭和10年(1935年)以来、日本の食文化をd80年以上支え続けた築地市場は、仲卸の人々と料理人によるプロ同志の真剣勝負が繰り広げられ、食のプロから世界中の観光客までをも魅了している。

1年を通じ表情を変えていく築地の姿や、四季折々の魚たちなど、これまでカメラが入ることがなかった築地市場のさまざまな顔が描かれる。

市場場長が築地のスケールを数字で教えてくれる。
市場で働く人が1万8千人、魚を買いに来る人が2万4千人、合計4万2千人が仕事をしている。
開場当時の昭和10年は「街外れの辺鄙な場所」だったものが大川と呼ぶ隅田川に面し、銀座から徒歩15分と今では東京観光の代表的コースになっている。

市場時間は24時間、仲卸しの出社は23時、午前0時過ぎにはセリ場に荷が降ろされ並ぶ。相対のセリ場で取引開始。
4時半を過ぎると鮮魚、ウニ、活魚、マグロと時間を追って次々とセリがはまり、終わると5時半頃から仲卸店舗の営業が始まる。寿司屋や割烹、日本料理屋などの板前との商売だ。昼頃に終了。

 場長は市場が直面して来た問題を語る。流通革命で「産地直送」ブームの時は価格の安さ新鮮さでかなりの危機だったが、魚を吟味し適切な客に繋ぐ仲買人、仲卸の人々が必要なことが分かり。直送ブームは終わった。

都内の庶民の台所に日常接する、街の魚屋の数が激減していることが今一番の危機だそうだ。
給食で魚を食べて貰う習慣をつけるため苦労をしている。高級な魚は出せないが焼いたノドグロを出しているが小骨を器用に抜く小学生に一安心する。

魚貝類,数の子、イカタコ、活魚などに引き続き、真打はマグロのセリと仲買人たちの解体ショー。
毎年「寿司ざんまい」の親父が億単位の巨大初マグロを競り落とすが、寿司職人が「マグロは寿司の4番バッターだ」と言う言葉が印象的だ。

年齢地位に関係無くタメ口で語り合う築地で働く人々の思い、プライドや粋、魚河岸文化は観客を魅了する。

 80年前市場がオープンした当時のニュースフィルムが見つかった。市場の建設風景、竣工式や関係者入場の大行進。
市場の中に鉄道のレイルが敷かれ倉庫の入口からプラットフォームがあって長い貨物列車が氷と魚を詰めた箱を山積みにして運んでいる。いまでも残骸はのこっているが高速道路の発達と大型保冷車の進歩で鉄道輸送は遺物となっている。
ディジタルリマスター版は80年前の見事なイメージを伝えてくれる。

年間数回は市場に訪れ市場の人たちとすっかり顔なじみになっているハーバード大学社会文化人類学教授、テオドル・C・ベスタ―は市場を愛し、水産業を支え日本人の食生活を支えている築地市場の歴史と伝統を著書に残している。
鮨、てんぷら、刺身、出汁。洗練・多様化された魚食文化、そして、世界的ブームにもなっている日本食を支えてきた築地市場。
フランシス・コッポラのような髯もじゃのむさい、小太りの教授がペラペラと日本語をしゃべり仲買人たちとお友達になっているのに驚く。

監督は広告やミュージックビデオなどを幅広く手掛け、本作が劇場用映画初監督作品となる遠藤尚太郎。撮影もさることながら、ジャンル別に整理し編集する手腕には驚く。これはクールジャパンとして外国人に売り込むべき作品だ。

10月1日より築地・東劇にて公開される。

「将軍様、あなたのために映画を撮ります」(THE LOVERS AND THE DESPOT)(イギリス映画):韓国から拉致されたとはいえ映画好きの将軍様の下で自由に贅沢に17本の映画を撮った監督と女

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 将軍様ことキムジョンイルは拉致を認め謝罪した小泉首相とか南北雪解けの金大中大統領との会談をTVニュースで見てイメージとは違うユーモラスな人間だと思った。

特に大統領歓迎晩餐会で金大中夫人が遅れて大統領が探しているのを見て「拉致されたんじゃないですか?」との皮肉は笑った。映画好きでなければあんな余裕やユーモアは出て来ない。

このイギリスのロス・アダムスとロバート・カンナン共同監督のドキュメンタリー映画は、金正日の肉声のテープや拉致された韓国女優と監督との3ショットの写真とか隣国日本ではレアものの映像や音源が一杯に詰まっている貴重な作品だ。

今でも89歳で生きている女優チェ・ウニの拉致前と後について北のスタジオで、二人で撮った17本の作品の撮影期を交えて生々しいインタビューを軸に描かれる。

英語の原題は「恋人たちと独裁者」
冒頭で映画マニアだった将軍様こと故・金正日がぼやいている(肉声の録音)。

「北朝鮮から国際映画祭に出せるような映画を出したい」「我が国の映画のレベルは低い。何かと言えば直ぐに泣く。全編泣き通して映画が終わる」(だが金正日の葬儀の時に泣かなかった6人家族は消される)
南のレベルの高さに追いつかなければならないと、将軍様の命により北朝鮮に拉致された、韓国人女優チェ・ウニ(雀銀姫)。

1978年1月「ゴールデン・トライポッド・フィルム」と言う聞いたことが無い映画会社からのオファーで香港へ飛び、それが見事な罠で拉致され、香港から疑心暗鬼と不安な8日間の一人旅で南浦港に到着する。驚いたことに港には金正日その人が出迎えていて手を差し伸べて「ご来訪ありがとう」と言ったと。

生命の危機を感じていたが金は最大の尊敬と持成しでウニを遇する。そして金の映画に対する情熱を肌で感じる。どの部屋にも上映機具が揃っていてウニ主演映画も総てストックされていた。
洋の東西併せ2万本のフィルム・DVDがアーカイブにあった。部屋には共産党に関する書籍も備わっていたがウニは読まなかった。

ウニと結婚していながら外で浮気をし子供まで作って離婚された映画監督のシン・サンオク(申相玉)は半年後の7月、別れた妻の失踪を探ろうと香港の北エージェントのフィルム会社を訪ねて拉致されることになった。
彼の場合は直接将軍様の指令では無かったから悲惨だ。
平壌に連れて来られ独房で拷問や懲罰を受けて5年を過ごす。
 
 1983年金正日主催のパーティで二人は再開する。
南の大監督が刑務所に拘置されていたことを知った金正日は「部下の手違いからとんでもないことをしてしまった」と丁重に詫び、縁りを戻し再婚したサンオクとウニに映画を作ってくれと頼む。
金とウニ、サンオクの3ショットの写真はこの時に撮られた。将軍様を真ん中にハッピーな笑顔の3人に相克の跡も見られない。

 1983年から3年弱でサンオク監督、主演ウニの作品が何と17本も制作される。
「帰らざる密使」はチェコ国際映画祭で特別監督賞を受賞。
「塩」でモスクワ映画祭主演女優賞を、ゴジラそっくりの「ブルガサリ伝説の大怪獣」は北朝鮮始まって以来の大ヒットとなる。しかしこれらの作品は北以外では公開されていない。(DVDは手に入る)

 シン・サンオク監督のインタビュー。「
最高の環境だった。金は欧米から最先端の撮影機器を取り寄せ、スタジオ施設もハリウッドに負けなかった。おまけに企画には口を出さず、好きなように映画を撮らせてくれた」
二人の北に於ける絶頂期なのだろう。

 じかし二人の子供たち(養子)も待っている韓国への望郷の念抑えがたく、1986年ウィーンの映画祭に参加した折、アメリカ大使館に駆け込み亡命する。

 真相に迫るドキュメンタリー。
1978年の拉致以来、1986年に亡命に成功するまでの、およそ8年にわたる北朝鮮での日々を、ひそかに録音した金正日の生の声を交えて描写する。

 しっかりした口調で当時を思い出すチェ・ウニをはじめ、二人の養子や元CIA職員やアメリカ国務省関係者らに語らせている。亡命から30年が経ち、明らかになる北朝鮮のベールに包まれた内情と映画好きの将軍様の人柄など知らないことばかり。

 映画を愛した独裁者なればこそ観客の感情移入もあり、映画が終わると将軍様のファンになっている。

後継者の金 正恩(キム・ジョンウン)は映画好きではないようだ。発言の端端に父親をバカにする文言も散見される。30過ぎの小太りの容姿にサイコパスの影がちらつく。

9月24日より渋谷ユーロスペースにて公開される

「ライト/オフ」(LIGHTS OUT)(アメリカ映画):明かりが消え暗闇になると「それ」は現れ人を襲う

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巨額な制作費185M(197億円)大作「スタートレックBEYOND」が低迷する先週末(22-24日)に、新登場して元気なのはその1/10の低予算のホラー映画「Lights Out」(邦題「ライト/オフ」)。
2818館で21.6Mを挙げると言う期待以上の成績で,これも巨費を投じた3Dアニメ「Ice Age」を抜いて第4位とは立派な成績だ。

元々スエーデンの短編映画作家、デイビッド・F・サンドバーグがセリフ無し超低予算の3分動画「LIGHTS OUT」をネットにアップロードしたところ、世界中に「怖すぎる」と口コミが広がり忽ち1億6千万回の再生になった。

この現象は未だ続いているが、3分を81分の長編劇場映画にするにはドラマが必要、部屋で1人の女性が暗闇で怖い思いをすると言う単純な展開では無理。
素人監督サンドバーグには手に余る。
そこでホラー映画の巨匠、ジェームズ・ワンがプロデュースすることになる。

レベッカ(テリーサ・パーマー)は離れて暮らす幼い腹違いの弟、マーティン(ガブリエル・バイトマン)から「電気を消すと何かが来る」と言う不思議な話を聞かされる。
実はレベッカが数年前に家を出たのも、「それ」が原因のひとつだった。
シングルマザーの母、ソフィー(マリア・ベロ)は暗闇で「それ」を「ダイアナ」と呼んでいた。
母の想像上の化け物か?異次元からの幽霊か?
レベッカには分からない。しかしどうやらソフィーの昔からの知己らしい。

今年50歳になった母親役のマリア・ベロはパーマーと姉妹に見えるくらいに若々しい。
ミュージカルを何本か見たが、D・クローネンバーグ監督の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(05)で、田舎町のダイナーを営む夫(V・モーテッセン)に付き添い都会のギャングたちと戦う妻役が印象に残っている。
あれから11年も経っているんだ。

 さてレベッカは脅える弟のために、今度は逃げずに「それ」の正体を突き止めようと決意する。
沢山の懐中電灯やロウソクを用意して実家に乗り込む彼女だったが、母が隠していたダイアナについての残酷な秘密が明らかになった時、ひとつ、またひとつ、電気が消えていく。

準備万端して夜に備えるが、どういう訳か次々と明かりが消え、暗闇から「それ」がレベッカたちを狙い始める。

 911に緊急電話してLAPDの警官を呼ぶ。「迷惑電話だ」と疑っていた大男の警官は隣室の騒音を調べている内に襲われ、黒人の女性警官は「オフィサー・ダウン!」(警官がやられた)と肩口のマイクから通話した後、暗闇に引きずり込まれる。

 ヒューズ盤も壊されており、レベッカとマーティンは納屋から電池で青白く光る「ケミカル・ライト」を見つけ出す。電気程の明るさや威力は無いが「それ」の居場所を探る手立てにはなる。

 「それ」はいったい何なのか?どこへ逃げても、そこに暗闇がある限り襲いかかって来る。
その上ケミカル・ライトが照っていても「瞬き(まばたき)」(Blink)すれば一瞬に「暗闇」が出現する。
 レベッカは弟にも「まばたき」禁止令を出す。
幽霊屋敷かはたまた超常現象か、何れにせよ古いホラー映画のテクニックだが、ともかく「怖い!」

「ソウ」や「死霊館」などのホラー映画や「ワイルド・スピード7」などのヒットメイカーの中国系オーストラリア人、ジェイムス・ワンの制作で、短編のデヴィッド・サンドバーグの監督デビュー作。実力が認められワンの下で、この後直ぐに「アナベル 死霊館の人形」の続編でメガホンを取っている。

リメイク版「エルム街の悪夢」や「ファイナル・デッドブリッジ」「遊星からの物体X ファーストコンタクト」を手がけたエリック・ハイセラーが脚本を担当。

レベッカ役を「ウォーム・ボディーズ」「X-ミッション」のテリーサ・パーマーが演じる。主演級の女優では無いが芝居は上手い。

 暗闇から現れる「それ」のダイアナにはスタントのアリシア・ヴェラ・ベイリー。
元体操の選手でアクロバティックな手足の動きで幽霊を演じる。

 大金を払って大物スターを連れて来なくてもホラー映画は内容次第。
お客が怖がって友達に言い触らせば映画はヒットする。
既に制作費は回収済みでこれからは純利益のみを楽しむプロデューサー、ジェイムス・ワンだ。

8月27日よりシネマート新宿他で公開される

「アスファルト」(MACADAM STORY)(フランス映画):古い郊外の団地に住む住人達の泣き笑いの突拍子もないコメディ

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島田荘司の「屋上の道化たち」(講談社:2016年4月刊)は京都大学医学部卒の探偵、御手洗潔シリーズの50巻目になる。1981年12月の「占星術殺人事件」から35年間と長寿のシリーズは好調だ。

子どもの頃カバヤキャラメルと言うのがあった。岡山県に本社と工場がありカバの形の宣伝カーが僕の住む長野市まで度々やって来た。キャラメルなら森永なのだがキャラメルの箱についている玩具(ミニカーだとか列車や飛行機など)や玩具の他にも巨人軍カードついていてそれが欲しくていつもカバヤだった。

そのカバヤと「一粒100メートル」の大阪道頓堀のグリコキャラメルが一緒になった「プルコキャラメル」がモデルでこの推理小説の舞台になっている。ブームも去って会社も創業者社長が亡くなったが神奈川県のT見市の古びたデパートの壁面に巨大な1粒400メートルと走る青年の立体看板が錆び付いたまま残っている。
看板の隣りは二階建ての銀行の屋上だ。屋上には盆栽の海、死んだ大女優の集めた数百に及ぶ盆栽が簀の子の上に並んでいる。

まったく自殺する気がないのに、その銀行ビルの屋上に上がった男女4人の行員は次々と飛びおりて、死んでしまう。いずれも住田係長のグループだ。

最初に飛び降りた岩木俊子は幸せの絶頂で絶対に死ぬはずが無かった。デブブスで30過ぎの現在までデートもしたこともない俊子はトムクルーズ似のイケメンの彼氏(目が悪いのではないかと係長は聞く)と同棲し来月で結婚のよていだった。
2番目の小出の場合、直前まで冗談を言い合って屋上に行き転落死している。
3番目の細野は夫婦仲も円満で奥さんが妊娠中、初めての生まれる子どもを楽しみにしていた。
最後の住田係長は自分の部下だけに起こる悲劇にノイローゼ気味だった。

目撃者の話では屋上の低い柵を超えて背中から落ちて行ったと言う。足から落ちたら重傷でも生き残れるが頭からコンクリートに叩き付けられるから即死だ。
 
 「屋上の呪い」をめぐる、あまりにも不可思議な謎を解き明かせるのは、満を持して登場する名探偵・御手洗潔!快刀乱麻、あっさりとオカルトめいた呪いの死を解いて見せる。かなりご都合主義で粗雑な部分もあるが420Pにナンナンとする大分な小説を一気に読了する。
  
作者の島田荘司は今年68歳。広島市福山生まれで武蔵野美術大学卒。
御手洗潔シリーズ第一弾「占星術殺人事件」で1981年にデビュー。このシリーズは累計600万部を超える。2008年に「日本ミステリー文学大賞」を受賞した以外は無冠の帝王。


今年6月の朝日新聞ホールで行われたフランス映画祭で上映され、早速配給会社ミモザフィルムが日本での上映権を手にいれた。

フランス式のユーモアが分からないアメリカやカナダなどでは公開は見送られている。
日本では坂本順治監督、藤山直美の住民(やエイリアン)との交流を描く「団地」や作家の夢を捨てきれない団地に住む男を描く是枝裕和監督「海よりも深く」などが最近上映されたばかりだから、その延長で「団地」やその住民たちに抵抗が無い。

フランス郊外の寂れた12階建ての団地を舞台に6人の孤独な男女の偶然の出会いとドラマをコミカルに描く。監督サミュエル・ベンシェトリが子供の頃に住んでいた団地を題材に10年前に書いた短編集「アスファルト・クロニクル」を原作として映画化。

郊外の何もない荒野の真ん中に古びた時代遅れの12階建ての団地。故障ばかりして閉じ込められたリボ
タンが過熱して火傷を負ったり動きがスローモーなエレベーターを修理しようと住民集会が開かれる。
一家族当たり498EU(約5万7千円)の負担だ。誰でも賛成票を投じる中、自称カメラマンのスタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴァン)は自分は2階で階段を歩きエレベーターに乗らないと支払いを拒否。

管理組合長が「団結とか連帯」と言う言葉を知らないのかと非難する。ユダヤ人監督ベンシェトリはユダヤ人。このエゴイズムは実にユダヤ的だ。
だが住民もそれを認める。だがデブを少しスリムにしようと室内自転車ワークアウトを一日中熱中する余り左足を骨折。車いす生活を余儀なくされる。さてエレベーター無しでどうやって上り下りするのか?3日かけて統計をとる。夜の11時53分から朝の5時45分までは誰も乗らない。冷蔵庫が空っぽになり

真夜中下に降りて地上を彷徨うがコンビニもスーパーも開いていない。ようやく見つけた病院の自動販売機。ポップコーンやコーラなどを買い菓子パンを押したところでヴェンディングマシーンがスタック。すきっ腹を抱えトボトボ帰ろうとすると深夜勤務の看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に出会う。一目惚れ、毎晩1時過ぎに休憩で病院の入口で煙草を吸うことを知ったスタンコヴィッチは毎晩会うことにして深夜デイトを楽しむ。
写真家だと言った手前、作品をみせてと言われTVディスカバリー・チャネルの画面を次々と撮ってアルバムを見せるのがオカシイ。

真打登場は女優ジャンヌ(イザベル・ユペール)。引っ越してきたばかりの落ちぶれた女優と親しくなった少年シャルリ(ジュール・ベンシェトリ)は、昔の舞台「ネロ」のオーディションを受けに行き顔見知りのプロデュサーからすげなくされた彼女に「15歳のヒロインよりも90歳の役に挑戦するよう」助言する。
厳しいが63歳になるユペールの素顔をみていると昔取った杵柄を忘れられない(本音だろう)を監督に代わって鋭く指摘する実の息子のジュール・ベンシェトリは正鵠を得ている。しかしこの息子凄い美男子。43歳の監督にハイティーンのイケメンがいてもおかしく無い。芝居も上手いしスターが居ないフランス映画界を背負って立つ若者だ。

一番つまらないし如何にもフランス的なのは老婦人、マダム・ハミダ(タサディット・マンディ)とカプセルごと宇宙飛行士団地の屋上に落っこちて来た雨中飛行士、ジョン・マッケンジー(マイケル・ピット)。NASAが失敗を恐れて2日間匿うことになる。英語とフランス語のチャラポランはともかくカプセルが団地へ落下なんてありえない。

ともかくもフランスのコメディとしては良くできた方でしょう。笑い声が観客の間から漏れていた

9月3日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される

「人間の価値」(IL CAPITALE UMANO)(イタリア映画):ひき逃げ事件が明らかにするミラノ近郊の金持ちの住む住宅地で富裕層、中流階級、貧困層の人々の人生の秘密が明らかになる

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昨夜(28日)の常磐線は酷かった。渋谷のヒューマントラストの試写が終わり、品川駅に着いたのが9時過ぎ、21時31分発取手行きに乗り込んで発車まで2時間近く待たされる。北千住と松戸間で人身事故発生、処理後も警察の現場検証がゆっくりと行われている。
 
地下鉄千代田線に西日暮里から接続する常磐線の緩行列車をアナウンスでしきりと勧めているが、誰も席を立とうとしない。
 隣のおじさんはビールをグビグビ飲んでいたが腹が減ったと見えて駅弁の稲荷ずしなどに缶チューハイに切り替えている。

 乗客は度重なるJRの「運転見合わせ」に慣れっこになっているのだろう。
結局3時間ほどかかって家に到達したのは0時近く、寝不足で今朝は眠い眠い。

イタリア映画をバカにしているのではないが、この作品はイタリアっぽくなく、しっかりした構成、スタイリッシュな画像、ミステリーでスリリングな展開で金で測れる「人間の価値」を問うている。

アメリカのステファン・アミドンの小説「HUMAN CAPITAL」を原作として、舞台を裕福な人たちの住む東部コネチカットからミラノ近郊のコモ湖畔、富豪の豪邸などにステージを移し現代のイタリア人の群像を描く。

特に3人の登場人物に焦点を合わせて、富裕層、中流階級、貧困層が夫々描かれ3部作として物語は進む。イタリア映画としてはかっちりし論理的な構成に情熱的な若者のロマンスを軸に「誰が轢き逃げ犯人か?」の推理を交え興味をそそるヒューマンドラマだ。

映画の冒頭はクリスマス・イブ。「コッタファーヴィ賞」の垂れ幕が見える高校の表彰式、年間をとうして優秀な生徒を表彰する晩餐会。パーティが終わりウェイターの男が自転車で帰宅の途につく。狭い森の道を黒い車が自転車の男を跳ねる。

第一章「ディーノ」は事件の6か月前。小さな不動産屋、中年の髯もじゃのディーノ・オッソラ(ファブリッツィオ・ペンティポリオ)が高校生の娘セレーナ(マティルデ・ジョリ)をボーイフレンド、マッシ・ベルナスキ(G・ピネルティ)の住む豪邸に送り届ける。

出迎えたマッシの母親、カルラ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に挨拶をした後、緑に囲まれた丘の上に立つ瀟洒な大豪邸を見学したくて堪らない。庭の小道を進むとテニスコートで当主、ジョバンニ・ベルナスキ(ファブリッツオ・ジフィーニ)がテニスを楽しんでいる。マッシのGF、セレーナの父だと自己紹介しテニスを通じて親しい友人になろうとする。狙いはジョバンニが仲間と企画している「ファンド」が40%の高利回りで運用されているのを小耳にしたからだ。

ディーノの強欲が頭をもたげる。総資産の20%以下しか投資出来ないと言う契約書にサインするが、実は自宅や不動産を担保に銀行から70万EUを借りての投資だ。
観客は予想するがファンドは破綻し90%の損失、彼の手元には7万EUしか残らない。

このままではディーノ家は一家離散、破滅の道をまっしぐらだ。
何とかして元金と利息4割を入れて98万EU(約1億2千万円)、おまけに惚れているカルラの本物のキスをと要求する。「轢逃げ犯」と警察の追われる息子マッシモの疑惑を晴らす証拠を渡すと言う条件だ。

カルラは夫との隙間を埋めようと家事以外に古い劇場をリフォームする慈善活動をしている。夫ジョバンニは税対策にと出してくれたファンドは結局マンション用に使うことになる。
失望したカルラを慰める芸術監督のドナート(ルイジ・ロ・カージョ)に心が傾いていく。ディーノは横恋慕だ。

カルラ役のバレリア・ブルーニ・テデスキは昨日の「アスファルト」でも紹介したが深夜看護師と自称カメラマンとの煙草を吸いながら人生に疲れた演技は秀逸だったが、ここでも富豪の妻ながら心に隙間風が吹きすさぶ孤独な中年女性を熱演している。イタリアのダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演女優賞を獲得している。

強欲な父親より娘のセレーナのストーリーがメインストリーム。
金持ちのボンボン、ジコチューのマッシモに嫌気がさしたセレーナは同級生の暗いルカ(ジョヴァンニ・アンサルド)に惹かれていく。
 芸術家のルカはセレーナをいつもスケッチしているのに気付く。
大麻を500グラム所持していたとして逮捕され休学していたルカ。
実は一緒に住んでいる叔父が麻薬患者の上にアルコール依存症。
貧乏のどん底で喘ぎながら大麻所持の罪は未成年だから軽いと叔父に押し付けられたものだ。

 セレーナとルカは愛し合うようになる。
そして映画は、冒頭の高校表彰式の晩餐会に戻る。
家で寛ぐセレーナとルカの下に電話が。
マッシモが泥酔し意識が無いから自宅へ送ってくれと。
セレーナは父親の車にマッシモを乗せ、ルカはマッシモの大型車を運転してパーティ会場を後にする。
そして冒頭の轢き逃げのシーンに戻る。
果たして誰が運転していた車がウェイターを跳ねたのか?

この「フーダニット」(犯人は誰だ)がダレた後半を引き締め終盤の大団円に雪崩れ込む。
エンドクレジットに原題「IL CAPITALE UMANO=Human Capital」の意味を解き明かす。これは保険用語で死亡慰謝料のこと。被害者の推定収入額に将来性、遺族の人数などを勘案して計算される「人間の値打ち」のこと。因みにこのウェイターには21.9万EU(約2670万円)支払われた。ファンドでディーノの手にする額の1/5に過ぎない。皮肉で風刺的な「締めの言葉」だ。

日本でも紹介された「見わたすかぎり人生」などのパオロ・ビルツィ監督。
この作品でもイタリア・アカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最優秀作品賞ほか7部門を獲得している。

 出演は、前述の大女優で「ふたりの5つの分かれ路」などのバレリア・ブルーニ・テデスキ。妹はフランスの元大統領サルコジ夫人だ。

 強欲な不動産屋ディーノに「ブルーノのしあわせガイド」のファブリッツィオ・ベンティボリオ、
「レインマン」などのバレリア・ゴリノらベテラン俳優に伍して新人マティルデ・ジョリが主役のセレーナ役で熱演している。若手の女優が見当たらないイタリア映画界のホープだ。

10月8日より渋谷Bunkamuraル・シネマにて公開される

「四月は君の嘘」(日本映画):母の死でピアノを遠ざけてしまった有馬公正を子供の頃から憧れていたヴァイオリニスト・宮園かをりが自分の命を賭して、天才ピアニストの軌道に引き戻す。

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7月26日、72歳の誕生日の翌日に大腸がんで亡くなったピアニストの中村紘子。
ショパン国際ピアノコンクールで優勝して以来世界的に有名になった中村の著作に「ピアニストという蛮族がいる」と言う名著がある。

有名なピアニストが如何に常識がなく奇行や蛮行を繰り返しているかを面白おかしく紹介している。

この映画の主人公は高校生ながらかつて天才ピアニストと呼ばれていた有馬公正(山崎賢人)もその例に洩れない

公正は母(壇れい)の死がきっかけであれほど熱心に練習に励んでいたピアノに向き合わなくなる。心的悩みで自分弾くピアノの音が聞こえなくなると思い込む。
かつて「ヒューマンメトロノーム」と呼ばれ、正確無比の演奏を武器とする天才ピアニストだったのに。

ピアノから離れてしまった公正は新譜の譜面起こしのアルバイトが、音楽との唯一の接点だった。
本格的にピアノを弾くことをやめてから数年経ったある日、公正は、幼馴染の澤部椿(石井杏奈)の紹介で同じ高校の生徒でヴァイオリニストの宮園かをり(広瀬すず)と出会う。宮園かをりは屈託が無く明るい性格の才能溢れる演奏家だ。

かをりは同級生の澤部椿に体育会系の渡亮太(中川大志))を紹介してほしいと頼んだことがきっかけで、椿や亮太の共通の友人である有馬と出会うことになる。

亮太を紹介して欲しいとかをりのついた「嘘」が、この映画のキーになり、これがタイトルになっている。

かをりは公正にコンサートで自分のヴァイオリンの伴奏者になって欲しいと頼むが、ピアノに触ることが出来ない公正は断る。
実はかをりや亮太、椿たちはもう一度天才ピアニストに公正を復帰させようとのたくらみだったのだ。

かをりが真っ赤なドレスを着てパガニーニの曲を弾くシーンは公正をもう一度音楽への魅力を取り戻させようとする意図が込められているだけに情熱的で広瀬の熱演が目を引く。

一方の公正は母との思いでの「愛の悲しみ」が何回となく繰り返される。子供時代の公正役の子ども(名前は分からないが)山崎によく似ている。幼年期の回想シーンは現在の失意や挫折に結び付き、かをりの回想へと繋がる重要な要素となる。

この辺りのストーリーテリングは巧く観客を巻き込む。
それでもかをりや、幼馴染の椿、渡亮太に背中を押され、公正は少しずつピアノに向き合い始めるが、肝心のかをりが体調不良で倒れてしまい、本番のギャラコンサートにもドタキャンで伴奏者の筈の公正のソロ演奏になってしまう。

ここで公正の華美なソロ演奏、ショパンの「ballade 第一番ト短調」が披露される。

新城毅彦監督の上手いところは演奏終了後に大歓声や拍手が起こるだろうがそれを一切省くところだ。僕はいつも観客の過剰な反応でパーフォーマンスを盛り立てようとする映画にいつもシラケていた。
愁嘆場にしてもそうだ。
ヒロインが亡くなれば友人両親親族が泣き喚く。
新城は遺影一枚をさりげなく紹介するだけで、公正宛ての病室で書き残した手紙一通でかをりの心情を描写している。

日本や韓国の母ものや悲劇では愁嘆場を延々とそれも過剰にやり客の同情や落涙を誘おうとする。新城のシンプルで感情移入など抑える演出の方が却ってなだそうそうになる。
「僕の初恋をキミに捧ぐ」「潔く柔く」など恋愛映画得意の新城だがこういう情緒を抑えたテクニックが上手い。

しかしかをりの「死に至る病」は何だったのだろうか?この辺りの不明さも演出の一部か?
見終わって振り返ると明るくて、気が強くて、でも寂しがり屋のかをりがついた「たった一つの嘘」から物語は始まっていたのだ。

公生の想い、かをりの想い、椿の想いや渡の想い、皆の気持ちが伝わってきて「一つの嘘」が奇跡を起こす切ないラブストーリーは感動的だ。

「月刊少年マガジン」(講談社刊)にて連載され、第37回講談社漫画賞を受賞、 2014年10月から放送されたアニメも「SUGOI JAPAN Award2016」でアニメ部門第一位を獲得するなど高い評価を受けた「四月は君の嘘」。
累計発行部数400万部を超える大人気ベストセラーが、 広瀬すず×山賢人主演のライブ実写で映画化された。

主演の山崎賢人は、「今日、恋をはじめます」「L・DK」「ヒロイン失格」「orange」など、人気漫画の実写化に出演が多い。ピアノの鍵盤へのタッチやペダルの踏みようは本物っぽく、演奏シーンは見事だ。

広瀬すずは「海街diary」で注目されて以降売れっ子。コミック原作の「ちはやふる」シリーズも好評だった。広瀬すずのヴァイオリン演奏シーンも指遣いや弓の動きも曲と合っている。

他の出演者では、E-girlsのメンバーの石井杏奈が椿役で、若手俳優・中川大志の亮太役と共に、友情厚くコースを外れた公正をピアニストの天才軌道に引き戻す努力は心を打つ。

9月10日よりTOHOシネマズ日本橋他で公開される

「シン・ゴジラ」(日本映画):原子炉を内部に核融合でドンドン大型化するゴジラは東京都を破壊しながら進撃する。ゴジラの弱点は何だ?

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土曜(30日)の朝、お気に入りの劇場「T・ジョイPRINCE品川」の15時30分の回をネットで申し込むと207席の内203席が空いていたが、時間になって場内に入ったら半分以上が埋まっていた。

タイトルもいい加減な「シン・ゴジラ」だしPRも広告も見ないし期待していなかったが、これが思いがけなく面白く、2時間の長尺も飽きずに堪能できたのはうれしかった。

プリンス品川での映画の後は、駅前のグランドパシフィックの中庭のジャングルの中にある「SINGAPORE SEAFOOD REPUBLIC」でキンキンに冷えたタイガービールを飲み、チリソースで辛い辛いカニを食べるのが僕のゴールデンコース。帰りは品川発の常磐線が眠っていてもゆったりと天王台の駅へ運んでくれる。

大災害「セカンドインパクト」後の世界を舞台に、人型兵器「エヴァンゲリオン」のパイロットとなった少年少女たちと、第3新東京市に襲来する謎の敵「使徒」との戦いを描いた「世紀エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野秀明が監督・脚本の新生「ゴジラ」だけに、ダブルイメージで「ゴジラ」を通して311震災後の近未来の日本を描いているように思える。

 東京が滅びても日本国が生き延び存続するにはどうすれば良いかが論じられる。都知事選挙でも取り上げられている「東京都一極集中」の是非が興味深い。

ただ初めてCGで作られているというゴジラがとてもチープだ。どう見ても横浜中華街の龍舞の張りぼて龍に似ている。

「インディペンデントデイ」「ホワイトハウスダウン」などハリウッドのフルCGの特殊効果に慣れている映画ファンには児戯の玩具で迫力が無い。
庵野秀明は特撮物のマニアでVFXや特殊効果には思い入れがある筈でこの程度のゴジラでは納得すまい。

さて物語は、東京湾アクアトンネルが海底へ崩落し走行中の車が巻き込まれる事故が発端。
首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)が「海中に潜む謎の生物」が事故を起こした可能性を指摘する。

 アンシャンレジームをものともせず立ち向かう矢口を演じる長谷川博己が凛々しく勇ましい。
しかしスター級の役者でない長谷川にはハローイフェクトは期待できない。
「進撃の巨人」とか「セーラー服と機関銃」などで馴染みの顔だが映画ファンとしてはもう少し格の上の役者を使って貰えないものかと願う。

 矢口の発言に「そんなわけがないだろう」と内閣の諸大臣たちから冷笑を浴びせられる。
しかしその後、矢口の指摘通り海上に巨大不明生物が出現という未曽有の事態に官僚機構は即応できず、有効な対策が打てない。
 首相補佐官・赤坂(竹野内豊)の計らいで、矢口の元に各省庁の異端児を集め、対策チームが作られる。

 「想定外」の事態と言う言葉が出席者から盛んに発せられるのが気になる。
強気の発言を繰り返す余貴美子の防衛大臣が小池百合子そっくりで笑える。
2007年、第一次安倍内閣での小池防衛大臣はこの映画通りだった。

 巨大不明生物は一旦海中に戻ってから体は2倍以上に大きくなり鎌倉に再上陸し、街を破壊しながら突進していく。
巨大生物の内部は原子炉のような核分裂メキメキと大型になっているのだ。市民は逃げ惑い、政治家は成す術もなく浮足立つ。放射能を帯びた巨大生物は自衛隊の迎撃を退け、高層ビルや鉄道や橋を崩壊し都心に向かい街を焼き払う。

 政府の緊急対策本部は自衛隊に対し防衛出動命令を下し「ゴジラ」と名付けられた巨大不明生物に立ち向かう。自衛隊だけでは心もとなく日米安保条約に基づく米軍の協力も仰ぐ。ゴジラから紫の光が発射され自衛隊のジェット戦闘機も後ろから攻めようとする米国の無人操作機「プレデータ」も一定の距離に近づくと光線で撃墜されてしまう。

 米大統領から送り込まれた特使、カヨコ・アン・パタースン(石原ひとみ)は矢口に協力しながらも、10年後に女性大統領を狙う野心をチラつかせる。祖母が日本人で日本語はペラペラだ。石原の英語の発音はネイティブに聞こえる。

ゴジラに力で正面からぶつかっても勝ち味が無いと考えた矢口はゴジラの弱みを見つけ出す。
ゴジラの血液を凝固させる薬液を特機を使って大きな口から注ぎ込む作戦だ。
ゴジラの後を追い大きなクレーンを何台も使うシーンは庵野の得意のレパートリー。ミサイル、火器、銃器が全く近寄れないがあっさり特機が口に薬液を注入するなんてバカバカしいが。

 ストーリーは60年も昔のオリジナル「ゴジラ」(1954)と同じだ。
その後ゴジラは人間の味方になり友人となってモスラなどの他の巨大生物と戦うことになるが、この時点ではゴジラは悪者、悪魔、地獄からの使者だ。

 時代はアメリカの南太平洋、ビキニ環礁での水爆実験、被爆した第五福竜丸事件、そして自衛隊の発足があった。

 オリジナル「ゴジラ」は見世物的怪獣映画だったが、その年の水爆に汚染された社会の空気が20年しか経ていない大空襲を思い出させるものだった。

その伝で、311の東北大災害から立ち直る若い日本人の意欲とエネルギーが描かれている。 

TOHOシネマズ日本橋他全国で公開中

「いきなり先生になったボクが彼女に恋をした」(日本映画):沖縄出張中に東京での彼女に振られ、会社が倒産して何処へも行けない韓国人青年が突然先生になり魅力的な生徒に出会う

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ニュージーランド生まれの26歳の青年、ベン・サンダースのデビュー作「アメリカン・ブラッド」(早川書房:2016年7月刊)が実にスリリングで面白い。

写真を見る限り眉目秀麗なサンダースはアメリカを遠く離れたニュージーランドでアメリカ人の魂を揺さぶる「血」を描いている。

 元NY市警の潜入捜査官ジェイムズ・マーシャル・グレイドは巨大な麻薬組織のボスを有罪にした後、証人保護プログラムで政府の保護下のサンタフェ近郊のド田舎で隠棲していた。ダメージを受けた組織は復讐を誓い、最強の殺し屋「ダラスの男」を送り込む

だが、マーシャルは地元の若い女性の失踪事件に首を突っ込んだばっかりに平保護プログラムは破綻をきたし組織の追跡線上に姿を捉えられる。

一方地元アルバカーキ市警麻薬課の女刑事ローレン・ショアは夜のバーで一人飲んでいる最中に二人組の強盗に襲われる。バーテンダーに拳銃を突き付けt、カウンター席の客たちから財布を巻き上げている強盗に客の一人、背の高いブロンドの男があっという間に素手で拳銃強盗を叩きのめしその処理をローレンに任す。

マーシャルとローレンの出会いはカッコ良い。
以降二人は助け合いながら若い失踪女性、アリス・レイの行方を捜し、麻薬カルテルのボス、レオンとその部下たちと戦うことになる。

 更にNY時代の不動産経営者、トニー・アサロは表看板裏のギャングビジネスに精を出している。息子のロイドは親の後を継ぎ娘クロエはマーシャルと関係を持つ。

 地元のサンタフェ郡犯罪捜査課保安官ビル・マスターズや連邦保安官ルーカス・コーエンなど危険なキャラクターが絡み派手な殺し合いが展開される。様々な種類の拳銃やショットガンなどの火器を使ってのシュートアウトは頭が吹っ飛び体中ハチの巣になり凄惨だ。
ヒーローの大柄ブロンド男のマーシャルの強いこと。
早速ハリウッドはブラッドリー・クーパー主演で映画化が決定している。



なんて詰まらないタイトルだと思って見始める。大体長すぎて意味不明だ。
しかし見始めると結構面白い。

何処にも就職できず滑り込みで旅行会社「沖縄ツーリスト」の面接で社長(武野功雄)に韓国語ができるとウソを言って臨時職員に採用された桜(佐々木希)。

事業提携で韓国の観光会社のチェ社長(姜東均)が沖縄訪問も決まり、韓国語をマスターしなければ、会社をクビになる。
5歳の息子圭(上地悠聖)を抱えたシングルマザーの桜は職を失う訳には行かない。そこで看板を見つけた桜は「川本外国語学院」に通い始める。

そこの韓国語教師は東京で恋人にフラれ、沖縄出張中に会社が倒産し無一文になったイ・ヨンウン(イェソン)。帰る家もないヨンウンが先生をすることになる運命。こちらも人生の危機を迎えている。

川本校長(佐藤正宏)と奥さんではないパートナーの小百合(ふせえり)は無職のイ・ヨンウンを強引に口説き韓国語講師に仕立て上げる。
教師の資格も無い人に教えたことも無いイ・ヨンウン。韓国人だからハングルは読めるし書けるし話せる、ただそれだけだ。
そして、タイトル通り「いきなり先生になったボク」なのだ。

日本映画だが韓国人気のポップスターを引っ張り出したことでイェソンが主役で彼の目線で物語は展開する。

イェソンはツルリとした韓国顔のイケメン。セリフの訛りのある日本語はチャーミングで、当然のように歌は上手い。このキャラクターはぴったりだ。

そんな二人はさくらの通う韓国語学校で当然のように先生と生徒として出会う。
取引先のVIPが来日するまでに、さくらはヨンウンに週末の個人レッスンを頼む。
ヨンウンは幼い息子のために一生懸命なさくらに心を動かされ、一生懸命に教えるがそんなに簡単にマスターできるものではない。

バーのマスターが秘密兵器を持ち出す。耳に挟み込むイヤホーンは200M離れて通信できる。
韓国からの要人、チェ社長(姜東均)との会話はヨンウンが聞き取り、韓国語で応対、一切をマイクで通信する。

このチェ社長は桜に一目ぼれ、部屋に連れ込みレイプ寸前をヨンウンが助け出す。
そして気が付けば二人の距離はぐっと近くになって離れられなくなっている。

松竹喜劇のベテランで「釣りバカ日記」シリーズの朝原雄三監督がメガホンを取った。笑いのツボはしっかり押さえている。
喜劇以外でも「武士の献立」や「愛を積むひと」などのヒューマンドラマの名手だ。

 主演のイ・ヨンウン役のイェソンはアジアを中心に絶大な人気を誇るスーパー・エンタテイメントグループ「SUPER JUNIOR」のリード・ヴォーカル。

 劇中で沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」をジュリーより上手く歌うので驚く

 そこへ行くと共演の佐々木希がやや落ちる。
最近でも「星が丘ワンダーランド」や「嫌な女」に脇で顔を見せているくらいで、
何で子持ちの美人でも無い30過ぎの桜にチェ社長が一目ぼれし、ヨンウン先生が夢中になるのか分からない。もっと華のある女優を使ってほしいものだ。

11月3日より新宿ピカデリー他で公開される。

「奇蹟がくれた数式」(THE MAN WHO KNEW INFINITY)(イギリス映画):インドの独学で数学を研究し数々の「定理」や「証明」を行った天才数学者、スルナヴァサ・ラマジャンの短い人生を描

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インドの無学だが天才的数学者となるラマジャンの話は知っていた。
ハーバード大学生だったマット・デイモンとベン・アフレックが共同で脚本を書いた。映画を見た瞬間の本歌取りだと分かった。

MIT(マサチューセッツ工科大学)に勤める若い用務員が数学教授の誰も解けない難問を解く数学の天才に関する脚本を5年かけて完成させた。その脚本が1997年「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」として映画化され、1998年公開。ベン・アフレックと共にアカデミー脚本賞を受賞し、マット・デイモンはアカデミー主演男優賞にもノミネートされた。

舞台をインドやロンドンからボストンに移しているが、明らかにラマジャンを念頭に置いた翻案のスクリプトだ。

そのプレスでも今回、この映画でも「グッド・ウィルハンティング」に触れていない。
フィクションと実録映画の差はあるもののプロットは酷似しているが、流石にアメリカ映画の方がメリハリははっきりつけ、主人公のロマンスを盛り込んでドラマとしては完成している。しかし友情やインドへ残した妻への想い、若くして不治の病に冒され研究の途中で亡くなるなど悲劇の主人公を追うだけで涙を流させる感動作品となっている。

映画の中でラマジャンの略歴を紹介している。
南インドのタミル・ナードゥ州タンジャーヴール県クンバコナムの極貧のバラモン階級の家庭に生まれた。幼少の頃より母親から徹底したヒンドゥー教の宗教教育を受ける。学業は幼い頃から非常に優秀で、数学にも強い関心を寄せていた。

奨学金を得てマドラスのパッチャイヤッパル大学に入学したが、数学に没頭するあまり他の科目の授業に出席しなくなり、奨学金を打ち切られて中途退学。
つまり学歴は高校卒だけ。
物語は1913年のインド・マドラスから始まる。スルナヴァサ・ラマジャン(デヴ・パテル)生活のため働き始めた港湾事務所の事務員の仕事は上司の理解もあって暗算など数字を駆使して早めに終えて、職場で専ら自我流で数学の研究に没頭していた。
しかしインド人同士は親切でもボスはイギリス人。虫けらのように扱われる1910年代初頭のインド社会は英連邦の植民地だ。

結婚は見合いで無理矢理ジャナキ(デビカ・ビセ)と暮らし始める。ところがジャナキに扮するビセは小顔で色は黒いが美人、観客もすっかり見とれるが当然ラマジャンにしても最愛の妻になる。
ラマジャンはその後、大学や学者たちの勧めもあって、1913年、イギリスのヒル教授、ベイカー教授、ボブソン教授など数学のお歴々に研究成果を記した手紙を出す。しかし手紙は「インディアンの戯言」と黙殺される。

インド人(インディアン)は植民地の奴隷で「まともに」相手にせずと言う態度だ。
しかし改めて出した手紙と数式をケンブリッジ大学教授のG.H.ハーディ(ジェレミー・アイアンズ)とジョン・リトルウッド(トビー・ジョーンズ)は読み、最初は「狂人のたわごと」だとバカにしていたが、読み進む内にその内容に驚く。
ラマヌジャンの成果には明らかに間違っているものや既に他の学者の証明したものもあるが、手紙には

ハーディ教授が「この分野の権威である自分でも真偽を即断できないもの」、「自分が証明した未公表の成果と同じもの」がいくつか書かれている。
感動したハーディ教授は周囲の反対を押し切りラマヌジャンをケンブリッジ大学トリニティ校に招聘し、喜び勇んだ青年は1914年に渡英する。

狂信的なヒンドゥー教の母親は泣いて反対し新婚の妻は悲しむ。一緒にロンドンへ連れて行ってくれと懇願するが無理な話。残された嫁姑は仲が悪い。
しかしイギリスでの生活はラマジャンにとって辛い物だたった。学生も含め教授陣は戦争が始まり同僚や

仲間が戦場で死んでいるのにのんびりと奨学金を受け取って学究生活を送るインディアン奴!と見る。
キリスト教の中での異端のヒンドゥー教、肉食主義者に交じってのヴェジタリアン、植民地の有色人種、馴染むことができず、やがて結核の病いを得てインドに帰国する。

インディアンながら数学の業績を強調するハーディの強力な推薦を受け「フェロー」の地位を獲得するが、その勲章を携えて故郷へ錦を飾るのだ。宿舎から研究室への芝生を歩いていたラマジャンを用務員がフェローだけが「芝生を歩けるのだ」と注意するシーンがある。
授与式の朝ハーディが「もう芝生を歩いて良いんだよ」と囁く場面はジーンと来る。
ラマジャンは見送るG.H.ハーディとジョン・リトルウッドに1年経ったら戻って来るからと約束をしてタクシーに乗り込む。

1920年、そろそろロンドンへ帰国かと待ち受けるハーディにジャナキ(デビカ・ビセ)からの訃報が。愁嘆場も無い淡々とした悲しみのアイアンの演技が良い。

 ラマジャンの定理はアインシュタインのブラックホール発見にも.寄与したと言われるし死後遺品の中にあった「定理」はベートーベン第10番交響曲の発見と同じ価値を持つと言われる。
原題は「無限を知った男」でラマジャンの業績のキモであるInfinity(無限級数)や「定理」,「証明」「数学解析」「数論」などを観客にもう少し丁寧に分かり易く説明が欲しい。

 アインシュタイン並みの天才と称されるラマヌジャン役を、「スラムドッグ$ミリオネア」のデヴ・パテルが熱演している。

 英国人数学者G.H.ハーディ役には、「ダメージ」でアカデミー賞を獲得したジェレミー・アイアンズ。
監督・脚本はマシュー・ブラウン。この作品が二作目と言う経験が浅いがしっかりとした演出をしている。

 2016年10月22日(土)より、角川シネマ有楽町ほか全国の劇場で公開される。

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」(INGRID BERGMAN IN HER OWN WORLD)(スウェーデン映画):小国スウェーデンからアメリカへ渡り黄金期のハリウッドを征服した伝説の

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All timeで一番好きな映画と聞かれれば躊躇わず「カサブランカ」と答える。

1942年の大戦中に制作されたのだが1946年の戦後に入って来た。父親に連れられて行った映画だが小学生の僕にはイングリッド・バーグマンが女神のように美しく輝いていた。
ハンフリー・ボーガートの白いタキシードがカッコ良かった。
ナチ将校と仏警官たちのバンド合戦もおかしかった。

サムの弾く名曲「as time goes by」(時の過行くままに)や名翻訳「君の瞳に乾杯!」(Look into your eyes)も相俟って何十回と見た筈だ(DVDを入れると100回は超える)

考えてみればパリで有夫の身でボガートにメロメロになるバーグマンも不可解だし、一緒にカサブランカから逃げ出す約束を土壇場で夫と飛び立つのも納得できない。
映画としてはB級メロドラマだがバーグマンの美しさで持っている作品だ。
それが生涯僕のNo1だ。

鼻筋がスラッと通って見るからに知性溢れる美貌に天与の素晴らしい演技力で1939年に乞われて渡米した黄金期のハリウッドで大活躍し、アカデミー賞に7度ノミネートされ、3度の受賞を果たしたバーグマン。

「ガス燈」(44)「追想」(56)で女優主演賞「オリエント急行殺人事件」(74)で助演賞、最後の映画をベルイマン監督した「秋のソナタ」(78)で主演で締めるなどスウェーデン出身のレジェンド、イングリッド・バーグマンのドキュメンタリー映画にはすっかり堪能した。

 映画ファンには知っていることばかりだが、タイトルで敢えて「In Her Own Words」(自分の言葉で語る)自伝と言っているように、バーグマンの関心は舞台や映画では無く子供のこと、夫(たち)のことと家庭に集中している。

 だからナレーションのアリシア・ヴィキャンデルはバーグマンの視点(POV)で物語を進める。ヴィキャンデルは今年「リリーのすべて」でアカデミー助演女優賞を獲得したスウェーデン出身の若手女優。バーグマンのリインカーネーションだ。

 そしてその貴重な宝庫はバーグマン自身の日記や手紙、それに莫大なホームムービーが山のように発見されたことだ。キチンとした整理魔で自分の幼少期のノートや絵、成績簿、子どもたちの記録など完璧に揃っている。

 父親は一人娘のバーグマンに絶えずカメラを向けていた。父親の影響でバーグマンが肌身離さず持ち歩いていたカメラで撮影された貴重な写真やホームムービーそして文書類は初めて紹介される。 

 大戦中は、中立国スウェーデンの実家は戦火の洗礼を受けることなく平和になったアメリカやローマ、そして終の棲家のパリのアパートで貴重な宝物が掘り出され整理され子供たちを始め夫や親族、友人、映画関係者たちの証言で裏打ちされながらスクリーンに映し出される。

 監督・脚本は映画批評家のスティーグ・ビョークマン。
女優のイザベラ・ロッセリーニから「母イングリッド・バーグマンの映画を作らないか?」と依頼されたことが発端。

 映画の評判やスキャンダルなどは派手に画面を飾るがバーグマンの女優としての資質は余り論じられていない。

 彼女がついた監督、最後のイングマール・ベルグマンからハリウッドで初めのヴィクター・フレミング(ジキル博士とハイド)マイケル・カーティス(カサブランカ)アルフレッド・ヒチコック(汚名)ジョージ・キューカー(ガス灯)追想(アナトール・リトヴァラ)そして夫になり6本も撮ったロベルト・ロッセリーニ(ストロンドボリ・他)など演出法も随分違う筈なのに女優として肝心の演技について論じられていないのが気になる。

 最初の夫は医者で包容力のあるペター・リンドストロームで、その優しい夫と子供たちを捨てて妻帯者・ロッセリーニの下へ走ったことは清教徒の多いアメリカ人の憎悪の的になりボイコットの対象となる。
 実際バーグマン主演の映画6本はまるであたらなかった。

バーグマンの口から「ハリウッドが私に与えるワンパターンのキャラクターにうんざりした。『無防備都市』のリアリズムに感動した」と見ず知らずのロッセリーニに投げ文のラブレターを送る。育ててくれたハリウッドを悪し様に罵りながらローマに移り略奪婚の夫と映画作りに励む。

結婚生活も上手く行かなくなり映画のオファーも少なくなるとバーグマンは面白いことをインタビューで言う

 「女優も45歳を過ぎると脇役か老け役ばかり。だから舞台に主戦場を移す。10歳以上15歳位若い役をやっても違和感は無い。なにしろ客席からステージまで離れているでしょう。ところが映画はクローズアップを多用するからメイクで幾ら皺を隠してもダメなの」


バーグマンはほぼ10年ごとに夫を変え、活躍の舞台映画からステージと変えながらパパラッチの好餌となる不倫騒動などスキャンダラスで波乱万丈の人生を送った。

スティーグ・ビョークマン監督に制作を依頼したイザベラ・ロッセリーニは「母は殆ど家に帰って来なかったが家に帰ると映画や女優の話は一切せず、子どもたちと遊び食事をし短期間ながら十分の母親だった」と懐かしむ。

 家族を愛するひとりの女性としての姿も子供たちとの交流の中に浮かび上がる。

 1時間半に満たない短いドキュメンタリーながらバーグマンの人生を十分に理解させ映画ファンを堪能させる。

8月27日よりBunkamuraル・シネマにて公開される

「ブリュゴーニュで会いましょう」(Premiers Crus)(フランス映画):生まれ育ったブリュゴーニュの実家のを捨ててワイン評論家としてパリで有名になったシャルルは倒産寸前の父親のワイナリーを自分

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古川日出夫の仰々しいタイトルのSF小説「あるいは修羅の十億年」(集英社:2016年3月刊)は400Pを超す大分な長編だ。

50歳の古川は1998年に「13」で作家デビュー、その後「アラビアの種族」で日本推理作家協会賞と日本SF大賞を、その後三島由紀夫賞、読売文学賞と数々の賞を与えられている。

舞台は東京オリンピックから6年後、2026年の東京。東京は巨大な鯨の化石の上に立っていた。

原発事故で放射能汚染された被災地「島」からやって来た天才騎手、喜多村ヤソウ。
昔大井競馬と呼ばれた「東京ネオシティ競馬場」の厩舎で寝起きしている。
東京オリンピックでテロがあり、スラム化した高級住宅地「鷺ノ宮」を偵察する「島」生まれの喜多村サイコ。
先天性心臓病に原子炉を入れて生き延びるロボットの谷崎ウラン。
17歳と19歳、18歳の若い3人が出会った時東京を揺るがす大事件が勃発する。

テロの為東京オリンピックが間に合わなくなりそうな事態を重く見た政府は労働者として移民や難民を受け入れるようになる。そして難民受け入れで東京はスラム化する。
荒廃した東京で秘かに「茸の菌糸」による生物兵器が開発されつつあった。

2026年の「未来の歴史を幻視」するメチャ面白いSF小説。



この映画を見ていて、新約聖書ルカの福音書15章に登場するたとえ話を思い出す。
生前分与を受けた息子は遠い国に旅立ち、そこで放蕩に生きて散財した。大飢饉が起きて、その放蕩息子はユダヤ人が汚れているとしている豚の世話の仕事をして生計を立てる。豚のえささえも食べたいと思うくらいに飢えに苦しんだ。

我に帰った時に、帰るべきところは父のところだと思い立ち、帰途に着く。父は帰ってきた息子を走りよってだきよせる。息子の悔い改めに先行して父の赦しがあった。
フランス・ブリュゴーニュ地方を舞台に、老舗ワイナリーを営む家族の再生を描いたヒューマンドラ.
英語のタイトルは「First Growth」。初めての収穫と言う意味だろうか。

聖書と違うのは20歳で生まれ育ったブリュゴーニュの父の家を離れた放蕩息子シャルリ(ジャリル・レスペール)は、子ども時代から培ったテイスティングの味覚に磨きをかけてパリで著名なワイン評論家として活躍していた。ワインの辛口ガイドブックは好評で7冊目を出版する勢いだ。

出版記念パーティの翌日、妹のマリー(ローラ・スメット)とその夫の義弟マルコ(ラニック・ゴットリー)からブリュゴーニュの実家の「ワイナリー」が倒産寸前で日本の銀行(また悪者だ)と隣接するライバルのワイナリー「ドメーニュ・モビュイソン」が手を挙げていると言う。
妹夫妻の父親への心配を聞いて、シャルリは実家へと戻る決心をする。何か手を打たねばフランス革命以来の「シャリル家」350年の歴史を誇るワイナリーが消滅する。

黄金色のパッチワークが丘陵を覆うフランス東部のブリュゴーニュ(Bourgogne)は、ブリュゴーニュ・ワインの産地として世界的に有名。この景色はいろんな角度からじっくりと見せてくれる(ドローンによる空撮も美しい)。

ブリュゴーニュ地方には、ルネッサンス時代や中世の城が数多く点在。四季折々の美しい葡萄畑はもちろん、この地方のシンボルであるクロ・ド・ヴージョ城、900年台に建てられた協会を要するピエールクロ城などが紹介されている。

久しぶりに父、フランソワ(ジェラール・ランバン)との再会を果たすシャルリだったが、父はワイナリーを捨てて出ていった息子を許すことができなかった。

代々「ワイン造りは家族で行うもの」という家訓を守ってきた父は、家を捨てて出て行った息子を許すことができず、シャルリもまたそんな父親を疎ましく思っていた。
しかし、家業であるワイナリーを手放すということは、家族の思い出が詰まった家を失うということ。

シャルリは悩みながらも自身の手でワイナリーを再建しようと決意する。
テイスティング能力は一流でも、葡萄栽培やワイン造りは全くの素人。
それでも父の反対を押し切って自然風土を大切にしたワイン造りを取り入れたシャルリは、妹夫婦や幼馴染みで隣家の敵対ワイナリー「ドメーニュ・モビュイソン」の娘ブラシュ(アリス・タグリオーニ)に助けられ、その真髄に近づいていく。

ブラシュとシャリルは家が敵対しながらも惹かれあう。
まるで「ロミオとジュリエット」ですな。

農薬や害虫駆除液を全く使わない新しい有機栽培の技法を取り入れるシャルリと、そのやり方を受け入れられない父。

日本でも小説や映画で有名になった「奇跡のリンゴ」がある。「無農薬無肥料栽培でのリンゴの栽培に成功した」木村秋則という青森県のリンゴ農家の話に酷似している。
ぶつかりあう2人だったが、最高のワインを作り、ワイナリーを再建させるため、いつしか心を通わせ協力し合うようになる。

しかし一番の難関は収穫のタイミングだ。早すぎれば「味」が無い。遅すぎれば「熟成しすぎ」で味は落ちる。原題「Premiers Crus」(First Growth)でどのタイミングでブドウを摘むか?ピッカー(採取人)たちを集めて籠に無傷で入れること、投げ入れたらその場でクビだ。何日もシャルルはブドウを口に」含み、首を横に振る。

収穫期を過ぎ雨のそぼ降る日にシャルルは飛び上がりブドウを父に食べさせる。皮ごと噛んで聞く「どんな後味だ?」「リコリスに似ている」ハーブ系のリコリスの香りこそ、シャルルが求めていたものだった。

大成功の「Premiers Crus」の赤ワインにいつしかオレゴンの恋人と別れたブラシュとのロマンスの再燃。こういうご都合主義のヒューマンドラマは、見ている観客をはハッピーにする。
所詮B級ドラマはそれでよい。

しかし案の上、アメリカでの公開予定は全くない
アメリカ人の好きなREUNIONを描いているがフランス本国での上映の他は台湾と日本だけ。
ヨーロッパでも見向きもされないなんてどうしたことだろう。

台湾と日本だけでフランスの隣国、ヨーロッパ諸国でも上映されていない。

主人公のシャルリ役を「イヴ・サンローラン」で監督・脚本を務めたジャリル・レスペールがここでは役者として熱演する。
頑固な父親役に「そして友よ、静かに死ね」などで知られるフランスのベテラン俳優、ジェラール・ランバン。

監督のジェローム・ル・メールは短編映画作家。4年かけて仕上げたこの作品が長編劇場映画としては2本目だがデビュー作は日本未公開。
丁寧に自然の美しさを拾い描いている。

11月19日よりBunamuraル・シネマにて公開される。

「青空エール」(日本映画):吹奏楽部に憧れるつばさは、「甲子園で戦う大介をスタンドで応援する」と約束を交わし、大介は「つばさを甲子園に連れて行く」と誓う

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臭いセリフに予想通りのストーリー展開。
コミック作家、河原和音は「俺物語」で食傷気味なのに、いつの間にか映画に引き込まれて感情移入。涙が止まらない。

数々の大人気漫画を生み出している「別冊マーガレット」。
その中でもこれまで「高校デビュー」「俺物語!!」などの傑作を生み出してきたヒットメーカー・河原和音の代表作「青空エール」は、2008年の連載開始当初から大人気、累計発行部数340万部を突破。TVアニメを経て実写映画として今年の夏、甲子園真っ最中に上映される。

舞台は北海道・札幌。野球と吹奏楽の名門・白翔高校。新入学した小野つばさは、野球部のトロフィーを眺めていた野球部員の山田大介と出会う。

吹奏楽部に憧れるつばさは、「甲子園で戦う大介をスタンドで応援する」と約束を交わし、大介は「つばさを甲子園に連れて行く」と誓う。
その約束を実現させるため、2人は互いに惹かれあいながらも、デイトも恋も封印して、それぞれの部活動に邁進していく。

つばさはトランペットが全くの初心者ながらも名門の吹奏楽部にオズオズとしながら扉を叩き、持ち前の粘りで入部し、夢をひたむきに追い続ける。
ヒロイン・小野つばさ役には「まれ」、「下町ロケット」、「orange-オレンジ-」など話題作のヒロインを次々に演じ人気の女優・土屋太鳳。

甲子園を目指す野球部員で、つばさと共に応援し合いながら夢に向かって進む山田大介役には「仮面ライダードライブ」の主人公や「下町ロケット」で注目を集めた新人の俳優・竹内涼真。
こちらは余り知られていない。だが背の高いイケメンだ。
竹内はサッカー推薦で大学に入学するほど運動能力が高く、初めて野球のキャッチャー役に挑戦する。サマになっている。

土屋太鳳と竹内涼真が並ぶと小人と巨人。身長差は40センチほどあるのではないか?こりゃジャンプしなければキスは出来ないなとおもっていたら、竹内が身を屈め、土屋が背伸びしつま先立ちで唇を合わせるので安心した。

夏の青空のように爽やかな2人が、互いを好きになりながらも部活で物理的時間も取れないまま「両片想い」で支えあう。「つばさを甲子園に連れて行く!」がモチベーションで映画を引っ張る。

つばさの吹奏楽部の先輩でトランペットを一から教える・森優花役に「これが最後の制服姿」と意気込む志田未来。
もう23歳を過ぎているのだから高校生役は冒涜だ。

トランペットチームのリーダー格だが、腱鞘炎を起こして杉村顧問からチームを外される。頭に来た森は退部届けを出して家に引きこもり誰にも会わない。
ただつばさだけが連日優花に罵詈雑言を浴びせられるが懲りずに通い詰める。
いつもは冷たい実力トランぺッターの水島亞希(葉山奨之)など他の仲間も翼に同調し優花の家に押しかけ門前で吹奏楽を演奏する。これはイギリス映画「ブラス!」のコピーだね。

葉山奨之はNHK連続ドラマ小説「まれ」でも土屋と共演した

吹奏楽部の教師・杉村容子役には、数々の音楽映画を経験し、今回初の指揮者役として新境地を見せる上野樹里が出演。30歳の上野は流石に吹奏楽の顧問役。
「泣いているのは3年間すべてをかけて来た人だけ。奇跡は起こらないし、まぐれも無い』と手厳しい。
他に葉山奨之、堀井新太、小島藤子、松井愛莉、平祐奈、山田裕貴など新人のフレッシュな顔がズラリと揃う。

主題歌はGReeeeNの「キセキ」を妹分・whiteeeenがカバー。
野球応援の吹奏楽は不思議なことに立教大学の「St. Paul’s will shine tonight.St. Paul will shine」が繰り返し演奏される。

出しゃばった応援でつばさがトランペットソロを吹いて大目玉を食らう。
(僕らの時代は英語が聞き取れないので「リコージャナイナイ、リコージャナイ」と替え歌でヤジった。続いて「バカだバカだ、リコーじゃない」。今はどうだろうか?) それに山本リンダの「どうにも止まらない」この2曲だけ。

監督の三木孝浩は、MTVやCMを経験した後2010年の「ソラニン」で監督デビュー。大ヒットを受け「アオハライド」「ホットロード」「僕等がいた」など数々の漫画原作映画を手がけている。そんな意味で「青空エール」はホームグラウンドでの横綱相撲だ。

つばさがブラスバンドに入部した高校一年生の春から、高校三年生の夏までの部活や学校生活の3年間の喜怒哀楽を丹念に描いている。

甲子園や吹奏楽コンクールを目指し練習に死に物狂いで励むだけでなく、部活動の人間関係の葛藤や挫折のドラマやスランプなどさまざまな出来事を通してつばさや大介二人の人間性は成長していくのを追う

8月20日よりTOHOシネマズ日本橋他で公開される

「華麗なるリベンジ」(A VIOLENT PROSECUTOR)(韓国映画):刑務所内で知り合った元熱血検事と前科9犯のイケメン詐欺師

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ジェイムズ・エルロイの「背信の都」(文藝春秋社:2016年5月刊)は読了するのが難関辛苦。何しろ上下巻あわせて800頁を超え、主要な登場人物は70人を超える。馴染みのない欧米人の名前は一々インデックスで参照しなくては前に進めない。

人種差別の汚い言葉が飛び交う。
ジャップやチンク(支那人)、ジュウ(ユダヤ人)、ニガー(黒人)、ナチ、アカ(共産党員)。
真珠湾攻撃の前後だけに、どのページにもジャップが並ぶ。日本人の読者としてはかなり抵抗のある警察小説だ。

LA四部作、「ブラック・ダリア」「ビッグ・ノーウエア」「LAコンフィデンシャル」「ホワイト・ジャズ」はロスアンジェルスの1946年から1958年までを描いている。
アンダーワールドUSA三部作、「アメリカン・タブロイド」「アメリカン・デス・トリップ」「アンダーワールドUSA」は1958年から1973年をカバーする。

第二のLA四部作では先行するシリーズに登場する実在および架空の人物をかなり若くした上で第二次大戦中のロスアンジェルスに配している。これら三つの連作は31年間に亘る。

物語は1941年12月6日、「真珠湾攻撃」の前日、ロスアンジェルスで日系人ワタナベ一家4人が惨殺されるシーンから始まる。

主人公はLAPDの鑑識官を務める日系二世、ヒデオ・アシダ。スタンフォード大学で科学と工学で博士号を取った怜悧な青年だ。

アシダがダドリー・スミス巡査部長から連絡を受け踏み込んだ屋敷は血の海だった。
翌日の真珠湾奇襲攻撃で白人たちのジャップへの憎悪が燃え上がり日系人が捕らえられ拘置されるのは未だマシで、路上でいとも簡単に射殺されるリンチが続発する。
無線の機器が見つかった渡辺一家は第五列(スパイ)だったのだろうか?

この「背信の都」は第二のLA四部作の第一作。
「ホワイト・ジャズ」から20年、現代警察小説の巨匠ジェイムズ・エルロイが「新・暗黒のLA四部作」を始めるがその開幕編。

原題の「PERFIDIA」はグレン・ミラー楽団などのスタンダード・ナンバー。裏切りの意味を持つ曲の名前だ。LAのナイトライフ、高級クラブやダンスホールで演奏されている。

周囲のジャップの罵詈雑言の中でLAPDで生き残るヒデオ・アシダの独白で自分は日本人では無い、アメリカ人の愛国者だと最後にd再確認をさせている。
やはりエルロイの小説ではジャップは免れない。



バディ・ムービー(BD)はハリウッド得意のジャンルだが、韓国映画も頑張って少し捻ったBDを作り上げた。

普通、バディは警官仲間とか幼馴染とかが同志を組むのだが、刑務所内で受刑者同士で知り合った、たたき上げの元敏腕刑事と前科9犯の天才詐欺師と言う異色さが売り物。

冒頭は国内最大のリゾート施設建設反対の環境保護団体デモと強制排除の警官隊乱闘シーンから始まる。警官1人が重傷。保護団体から雇われていたハン・チウォン(カン・ドンウォン)は本能的に身の危険を感じ、自撮り写真を撮って現場から逃げ出す。この写真が後に大きな意味を持つことになる。

暴力団を使って環境保護団体を装わせ暴動を起こさせ保護団体の評判を落とそうとする極東開発社長、チャン・ヒョンソク(ハン・ジェヨン)の陰謀を嗅ぎ付けた、たたき上げで正義感の強い熱血検事・ピョン・ジェウク(ファン・ジョンミン)。警官殴打で逮捕された暴力団員、イ・ジンソク容疑者は喘息もちで吸入器が欠かせない。

のらりくらりと逃げる容疑者。翌日ジェウクが取調室に入ると容疑者は死んでいる。
ピョン・ジェウク(ファン・ジョンミン)はまったく過剰取り調べだと、身に覚えのない殺人容疑で逮捕され、刑務所に収監されてしまう。

「冤罪」だと再審請求を試みるも、何者かに圧力をかけられて失敗する。
刑務所内で出会ったイケメン詐欺師のハン・チウォンがデモに参加しており写真を撮っていて事件の鍵を握っていることを知る。

ジェウクが「自分に協力してくれたら昔の献辞仲間と協力して出所させてやる」とチウォンに打診、二人は同盟関係を結ぶ。
そしてジェウクが塀の中から指示を出し、出所したチウォンが塀の外でミッションを遂行する「リベンジ作戦」が始まる。

ネタバレになるので詳しく書けないが、創造国民党のカン・ヨンソプ議員の選挙運動に協力する極東開発社長、チャン・ヒョンソクの賄賂と陰謀が絡んでいるようだ。

韓国の財政界は賄賂と謀略で泥まみれ。歴代の大統領が退任後に逮捕され失敬判決を受けた者すらいる。もっとドロドロした社会派ドラマをユーモラスに皮肉って良いのだが、詰めは甘い。

最後の法廷で証拠の録音と重大な「証拠品」で逆転勝利を勝ち取るシーンだけがカタルシスを感じる。

検事ピョン役を「国際市場で逢いましょう」「ベテラン」の46歳、ファン・ジョンミン、
ピョンの相棒となる詐欺師ハンを35歳の人気スター カン・ドンウォンがそれぞれ演じる。
しかしバディムービーと言いながら二人の間のケミストリーは余り感じない。

監督・脚本はイ・イルヒョン。
この映画で長い助監生活を終えデビュー作。
2時間を超える必要のない長尺はもう少し整理しても良い。
それにテンポが欠ける。

映画は今年上半期で最大のヒットだと言う。
新人としては頑張ったが勉強して出直せば韓国映画界の将来を担う資質はある。

11月17日よりシネマート新宿で公開される

「太陽の目覚め」(LA TETE HAUTE)(フランス映画):親の愛を知らない少年に愛の手を差し伸べる女性判事、フローランス

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昨年11月と12月に仲間が立て続けに亡くなった。
元和光大学学長三橋修さんと脇役で長い舞台生活を送っていた古山圭司さん、この二人は東京大学演劇研究会の仲間だった。

有楽町駅前の外国特派員協会メインバーの「偲ぶ会」に集まった8人全員が後期高齢者で傘壽近い老人男女だが、一番若い僕が幹事。
二人の枠に入った遺影に白い花を飾ってサマになる。
 
60年安保を前に(古いね)「芸術至上主義」か「社会から乖離した芝居はありえない」などと論争し劇団が分裂したことが昨日のように思い出す。
 
古山さんは享年79歳、僕が新入生で赤坂公会堂の「修善寺物語」に出させてもらった時に面打ちの主人公を演じた。
上手い人がいるものだと感心したが卒業して役者の道は大成しなかった。
 
その時の演出は吉沢孝治さんで後に毎日新聞に入り英文毎日の編集長を務められた時に英字新聞を2年間購読させられた。
吉沢さんは3年前に亡くなられている。
 
三橋修さんは1937年の生まれだから享年78歳で死者の中では一番若い。
三橋さんの奥さんが吉沢瑛子さんで孝治さんのお姉さん。
集まった中で一番のお年寄りだ。
案の定記者クラブまでの道が分からなくて15分も彷徨ったという。
 
三橋さんが58年の安田講堂での五月祭の舞台でジャン・アヌイの「メデェ」の主役を演じたことを思い出す。
今ではアヌイなんて誰も見向きはしないだろうがその頃フランス演劇は全盛だった。

稽古の合間二食の上の部室の開け放った窓に座り足の指で器用に窓のレイルを挟んでいる姿を見て「オラン・ウータン」みたいだと、オラン・三橋の綽名がついた。

そのころ最上級生で芝居も上手い上に博覧強記のスターだったのが鴨下信一さんだ。
卒業後仲間たちの会合に顔をだしたことが無い。
いつも「忙しい」の言い訳ばかり。

今朝(7日)の日経朝刊終面で「生者と死者の共演」と題して若尾文子と共演して嬉しがった巨泉のことや沢村栄治と長嶋茂雄の対決、桂米朝師匠の「地獄八景」などを取り上げて蘊蓄を傾けている。

誰かが死ぬと集まる同窓・偲ぶ会。来年も開けるだろうか?



さて今日の映画、カトリーヌ・ドヌーブが主演と言っても73歳になろうという彼女に色香が残ってはいない。恋愛ラブロマンスは誰も見たがらない。
だから主演に担ぎ出しても社会派ドラマ。

1人の不良少年に焦点を当て、司法判断を下すのにセンチメンタルな同情を一切排して、人間として生きていくことの厳しさを自助努力をさせる。本当の人間関係はどうあるべきかというシリアスな問いかけを投げかける。

 主人公マロニーの母親は若くして父親の違う子供2人を育てるシングルマザー。新しいボーイフレンドとうまくいかないのは息子のせいだと暴れ、男に振られた夜は息子に泣きつく。

母親自体がまだ大人になりきれず、もがいている。そしてその母親に置き去りにされた6歳の少年マロニーを保護した家庭裁判所の判事フローランス(ドヌーブ)は、10年後、16歳になったマロニー(ロッド・パラド)と再会する。

母親の育児放棄により心に傷を負ったマロニーは、学校にも通えずに非行を繰り返していた。車を奪う事件を起こしたとき、女性判事フローランスは彼に温情をかけ、矯正施設の少年院ではなく、より自由な生活のできる更生施設に送る。

 そこでマロニーは教育係のヤン(ブノワ・マジメル)から指導を受ける。
ヤンはマロニーと似た境遇にありながら立派に更正して教育係になっているのだ。
フローランスとヤンはマロニーにやさしく手を差し伸べる。

マロニーは無免許運転で事故を起こすなど問題児だが、自分勝手でだらしない母親が責任を問われると、母親をかばう愛情をもっている。

施設での友人関係や苦手な勉強で波乱の半年を過ごしたのち、マロニーはヤンのおかげで飲食店の仕事に就く。

しかし、生活態度はあらたまず無断欠勤してヤンと口論となり、ヤンから殴打される。
ヤン自身も非行少年あがりで、判事フローランスに救われた1人だった。事情を聞いた判事は、ただマロニーの手を握って励まし、ヤンには赦しをあたえた。

問題を抱える青年たちが集まる施設での生活が始まり、ガールフレンドや様々な人との出会いを経てマロニーも少しずつ更生していく。

 だが、マロニーの幼い弟が養護施設に送られると、マロニーは施設に駆けつけ弟を救出しようとする。
自分のなかに抱えこんだ暴力衝動と幼すぎる愛情への渇望に挟まれて、フローランスの望まない悪い方向に転がってゆく。

 不幸な子供たちをなんとか善に導こうとする判事、ドヌーブと教育係、マジメル。苦しむ若者たちに最善の手立てを模索する。


「モン・ロワ」で女性弁護士、トニー役を演じて第68回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得したエマニュエル・ベルコが一切顔を見せないで監督を担当。
美人のベルコーに女性判事フローランス役を演じて欲しかった。

少年を何でも許してしまう判事なんてどうにも理解を超えるが、理性的に演じるドヌーブは過去の出演作には無いキャラクターで新局面を切り開く。でももう一度見たい役柄ではない。

マロニー役を映画初出演となる新人ロッド・パラドが演じる。キラリと閃く芝居の才能とハンサムな面立ちで次回作が待ち遠しい。
フランスにはイケメン俳優が居ない。

シネスイッチ銀座にて公開中。

「ミュータント・ニンジャ・タートルズ・影」(Teenage Mutant Ninja Turtles: Out of the Shadows)(アメリカ映画):カメ忍者たちレオナルド、ラファエロ、ミケ

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熱狂的な野球ファンだったルーズベルト大統領が言っていた。
「ベースボールで一番面白い試合は8対7のゲームだ」
そんな謂れから8対7の試合を「ルーズベルト・ゲーム」と呼ぶ。

昨日の巨人ー広島戦は典型的な「ルーズベルト・ゲーム」だった。
しかも7対6で負けていた試合を9回裏2死の土壇場から本塁打と2塁打のサヨナラ・ゲームだった。

だが首位を争う相手チームの「ルーズベルト・ゲーム」なんてクソ面白く無い。
お陰で悔しくて夜も寝られなかった。
今日から3週間入院のボクに手荒な送別試合だった。



辻堂魁の2010年から始まった「風の市兵衛」シリーズは売れない辻堂をたちまち累積110万部を突破するヒットメーカーに仕上げ毎年数本を送り出し本作で17作目を数える。

主人公は一風変わった算盤の得意で用人稼業の唐木市兵衛、奈良の寺で鍛えた「風の剣」を得意とするところから「風の市兵衛」の異名をとる。
ある日、北町同心の「鬼しぶ」こと渋井鬼三次が手下の岡っ引きたちと訪ねてくる。岡場所を巡る諍いを仲裁してくれと言う。

見世に出向いた市兵衛の交渉はこじれ用心棒の藪下三十郎と刃を交えるが互いの剣に惹かれ二人は親交を深めていく。

物語の中心は藪下三十郎で本名戸倉主馬、奥羽南城藩で11年前蔵役人の頃上士の登茂田次郎右衛門と猪川十郎左、勝田亮之介の三人と蔵元や掛屋の不正を下士でドウでもよい戸倉に押し付け、戸倉は罪を一人で背負って藩を欠け落ちする。両親や妹の面倒を見ると言う約束は反故にされ三十郎を待ちわびる一家は絶滅する。それを知った三十郎は江戸の南城藩下屋敷で3人に敵討ちを挑むが用心棒の浪人竹川に返り討ちに会う。

ここからが風の市兵衛の出番で痛快無比の刀で悪人どもを相手にカタルシスを味わうことになる。
算盤侍唐木市兵衛こと風の市兵衛。算盤片手に生計を立てる飄々とした渡り用人ながら若い頃奈良で修業した「風の剣」圧政を引くもの強き権力者に立ち向かう。
辻堂魁の「風の市兵衛」から始まった時代劇書き下ろしシリーズは累積110万部を超える。

最新作第17弾「うつけ者の値打ち」(祥伝社文庫:2016年4月刊)はいつも通り北町同心渋井鬼三次と手を組みながら、一度は斬りあいもした特異な貧乏浪人、藪下三十郎が現れ市兵衛との親交を深める。
岡場所を巡る諍いの仲裁に出向いた算盤侍唐木市兵衛。交渉はこじれ、用心棒の薮下三十郎と刃を交えるが、互いの剣に魅かれたふたりは親交を深めていく。愚直ゆえに過去の罪をひとりで背負い込む三十郎を、市兵衛は心配する。

辻堂魁は高知県生まれの68歳。早稲田大学を卒業後出版社勤務を経て時代劇作家に。目ぼしい賞は何一つ獲得していないが、「風の市兵衛」シリーズには固定ファンがついている。

次作18巻目は「はぐれ烏 日暮し同心始末記」が待機している。


どう見てもグロテスクなカメ忍者たち。
生誕30年を記念して新シリーズ「ミュータント・ニンジャ・タートルズ」(2014年)がマイケル・ベイのプロデュースする実写映画がスタートした。

マーベルやDCなどの大手コミックとは関係なく、1984年にミラージュ・スタジオから出版されたケヴィン・イーストマンとピーター・レアードによるアメリカン・コミックが「タートルズ」の原作である。
この小スケールで出版された白黒漫画がやがて世界的に成功し、1987年のアニメシリーズ、1990年の実写映画に至る多数の関連作品を生み出す。

その後2003年の新アニメシリーズの成功受けて、2007年のCGアニメ映画により、タートルズの人気は再び高まり、そして前述したように2014年からはマイケル・ベイ製作で映画化し人気を博したSFアクションのシリーズが始まりワールドワイドで500億円を超えるヒットで第二弾に突入した。しかしどうみても低能で無教養、やる気のない主人公たちは前作と変わりない。

ルネッサンス時代のセレブから名前をとった、レオナルド、ラファエロ、ミケランジェロ、ドナテロの4兄弟が、仲間を守り、世界を救うためにエイリアンやら天敵に戦いを挑む。

マイケル・ベイがヒットシリーズ「トランスフォーマー」で披露したVFXや特殊効果を駆使したCG映画と言っても過言では無い。パラシュート無しのフリーフォールや熾烈な空中戦、特にカーチェイスのクラッシュで数十台の車が宙を飛ぶシーンは度肝を抜かれる。タートルズはモーションキャプチャーで微妙な動きも表情も捉えられる。

タートルズと一緒に戦うヒロイン、忍者たちの業績をTVを通じて知らせるジャーナリストのエイプリルは引き続きミーガン・フォックス、カメラマンの助手ヴァーン(ウィル・アーネット)がタートルズのスポークスマンを務める。ミーガンの美しい顔がグロテスクな忍者の間から出てくるとホッとする。

リーダーのレオナルド、熱血漢のラファエロ、ムードメーカーでピザが大好きなミケランジェロ、メカに強いドナテロの4兄弟からなるタートルズ。喋ることや行動はバカっぽいし教養が無い。DCコミックやマーベルと違って知的レベルは低く、大人向けでもない。

監督がジョナサン・リ-ベスマンから新人のデイブ・グリーンに変わってもM・ベイの基本方針は揺るがない。

前作で倒した筈の宿敵シュレッダー(ブライアン・ティー)が再び脅威となる。
マッドサイエンティストのバクスター・ストックマン博士(タイラー・ペリー)と、マヌケな子分ビーバップ(ゲイリー・アンソニー・ウィリアムズ)&ロックステディ(ステファン・シェイマス・ファレリー)の協力で移送中の護送車から脱獄する。

タートルズは、TVレポーターのエイプリル・オニール(ミーガン・フォックス)、新たに仲間となったホッケーマスクをかぶった刑務官上がりのNY市警のケイシー・ジョーンズ(スティーヴン・アメル)やその上司、警察局長レベッカ(ローラ・リニー)らとともに、再びニューヨークを恐怖に陥れようとするシュレッダーの悪事に立ち向かう。

しかし彼らの前に、イノシシとサイのミュータントに変貌したビーバップ&ロックステディが立ちはだかる。

シュレッダーはストックマン博士の協力で異次元の扉を開け新たな敵、悪の帝王クランゲを呼び込み世界征服を狙う。

戦いの舞台はニューヨークからブラジル、そして空中戦へともつれ込む。
そんななか、固い絆で結ばれていたはずのタートルズに意見の相違から口論が始まりチームに分裂の危機が訪れる。

戦いの舞台はニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンやグランドセントラル駅、タイムズスクエアなどからブラジルの美しい豪壮なイグアスの滝の後は終盤のクライマックスへともつれ込む。

8月26日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される。

「ベストセラー 〜編集者パーキンズに捧ぐ〜」(GENIUS)(イギリス映画):名編集者は無名の作家に一かけらの天与の才を見出せば、猛烈に鍛えて世に送り出す

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昨日(8日)の朝から飯田橋の逓信病院に入院している。命に関わる喫緊の症状がある訳ではないので5月末に入院を命じられていたのを延期しのだ。

主宰しているNPO「スマイル・ジャパン」が形成外科医麻酔医などヴォランティアの先生方を東南アジアに派遣する仕事が一段落した。口唇口蓋裂の子供たちへ無料手術を施すためだ。
派遣地域を東南アジア諸国に絞るのは、わが黄色人種は白人種や黒人種の2倍の4~500人に1人と言う高い発症率のためだ。

話を元にもどして東京逓信病院は友人の脳外科医が勤務医だった関係で脳外科、ペインクリニック、眼科と20年以上外来患者で馴染みが深い。

飯田橋駅から歩いて7分、500近い病床を誇る病院はカフェ、食堂、コンビニ、ゆうちょ銀行と何でもある。最近は幾つかのTVドラマの舞台になっているらしく、昔は逓信病院と言っても「何それ?」だったが誰でも直ぐわかるにはお驚く。

春は見事な桜土手を眼下に収められたが、隣接していた「警察病院」跡地に巨大な商業ビルが建って景観は諦めなければならない。近くに朝鮮総連があるので警察のチェックは厳しいから人通りが絶えた夜道も安全だ。

この1年、左腕が震えだし(Resting Tremer)歩行も動作も緩慢になる無動(Anesia)と言う症状が見え5月末に神経内科でパーキンソン病の疑い在りと入院を勧められていたもの。
一仕事終わって病院の中。

ネットも繋がるしTVもBSが入り、若い看護婦が入れ替わ来立ち替わりチェックに来るのが落ち着かないのとシャワー室が狭い他は他人に煩わされることも無く快適だ。
神経内科は椎尾先生をチーフに4人の医師団が付く、VIP対応だ。
これから約3週間、命の洗濯に入る。

主人公はアメリカの小説家トマス・ウルフ(Thomas Wolfe)と名編集者でウルフを世に出したマックス・パーキンズ(Max Perkins)。

何れも実在の人物だが、僕はウルフを読んだことが無いし裏方の編集者など知らない。
ただマックスが編集者として担当をしているのがスペインの内線に参加する直前のアーネスト・ヘミングウェイと「偉大なるギャツビー」が売れず貧乏の底で喘ぐスコット・フィッジェラルドで、文豪で有名人になる二人が無名の主人公たちを浮きださせる。

1929年のニューヨーク。大手出版社、チャールズ・スクリブラー社の敏腕編集者、マックス・パーキンズ(コリン・ファース)の下にシングル・スペースで打った1000ページを超す原稿がドサリと届けられる。「俺の文章には一文(a dime)の価値も無いのか!」とトマスの嘆き。
総ての出版社から断られた文章をマックスは数ページ読んで28歳の無名のトマス・ウルフ(ジュード・ロウ)に天与の才能を認める。

マックスは、F・スコット・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイらの名著を世に送り出してきた「編集の天才」(原作=Max Perkins: Editor of Genius)なのだ。

編集者と作家は顔を合わせる。16歳年下の若者は意気込んでいる。郊外の自宅に帰るマックスは「4章読んだよ。今晩中に終えるから明日話し合おう」。列車を見送りながらトマスは「後98章あるよ!」
不況時代のもの淋しいグランドセントラル・ステーションを背景に二人の男が友情で結ばれるシーンは印象に残る。

マックスは妻、ルイース(ローラ・リニー)と娘たち5人の家庭に戻るが食事もソコソコにクローゼットに引きこもりトマスの原稿を徹夜で読みふける。

ルイースは仕事熱心の余り家庭をかえり見ない夫から心が離れて行く。特にトマスには入れ込み過ぎだ。
読了した原稿を前にマックスは作者に大幅削除を命じる。

冒頭は文の中途から始まるし、パラグラフも無しにダラダラと長いだけ。
そんな原稿にマックスは読みながら目に光るものがある。
激論と改稿を重ね完成したトマスの自伝的小説「天使よ故郷を見よ」(Look Homeward, Angel)は好評に支えられスクリブラー社としては記録的ベストセラーになり、トマス・ウルフの名前は広がる。

 トマスは自伝小説後半を「時と河の」(Of Time and the River)を引き続き書き始めるがマックスとの口論は絶えなかった。

 9カ月の戦いでようやく原稿になったが更に2年をかけてブラッシュアップし35年に出版された時はトマスは酷評を怖れパリへ逃避し、マックスとの交信を絶つ。

 ところがこの2作目が処女作を凌ぐ大ペストセラー。

 マックスの前にアリーン・バーンスタイン(ニコール・キッドマン)が現れる。
トマスが24歳の時に出会い愛人関係にある18歳年上のアリーンは著名な舞台衣装デザイナーで夫も息子も居ながらトマスの傍に仕え、作家の貧困生活を支えて来た。
処女作にアリーンへの献辞が捧げられている。

2作目の献辞は「マックスへ」で、アリーンはトマスを奪われたとパリから帰国するトマスが着く前の波止場でマックスに銃を向ける。

アイリーンの嫉妬もさることながら編集者マックスのお陰でベストセラーを連発したとの批判を耳にしたトマスはマックスから離れる。

 マックスは「それも良いだろう」と争いもせず寂しそうな一言で別離を告げるシーンは胸が締め付けられる。

3年後1938年、トマスの母親から知らせを受ける。メリーランド州 ボルチモアの海岸にて倒れ病院に収容され2週間で亡くなる。脳腫瘍が全身に転移していた。享年37歳。

死んだ直後、NYの出版社にマックス充ての病院のレターヘッドの手紙が届く。タドタドしい字で書かれたトマスの感謝の手紙だった。
このラストシーンも泣かされる。

 名編集者マックスと死闘の末にうまれた「天使よ故郷を見よ」(1929年)が大ベストセラーになり(この映画の邦題にもなっている)、食い詰めたヒモ男が一躍有名になる話は「アメリカン・ドリーム」として喧伝されもっと華やかになっても良かった。

 しかしロンドンの舞台で名を馳せた演出家、マイケル・グランデージは映画を知らない。
コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマンと言うだいすたーを使いながら芝居の地味な演出に終始する。出来上がりもモデストなクロニクルの伝記映画になってしまった。素材が良いだけにハリウッドの大物監督を起用して欲しかった。

しかし役者は、コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、ガイ・ピアース、ローラ・リニー、ドミニク・ウエストなど殆んどイギリス人なのでイギリス人演出家なのだろうか。

10月14日よりTOHOシネマズ・シャンテシネにて公開される

「キング・オブ・エジプト」(GODS OF EGYPT)(アメリカ映画):古代エジプトの王位争いは神々やスフィンクス、モンスターを巻き込む奇想天外の大アクション劇

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どうも乗れない映画だ。

 アメリカで今年2月26日より公開され、チャートでは2位につけた。企画はシリーズ化も期待された作品で、制作費を140M(150億円)もかけている、
蓋を開けると予想を遥かに裏切った。3117館で上映され14Mと言う体たらく。海外でも68か国で開けて24.2Mと言う惨憺たる成績。

4週目を経てもBOは1.1M、 21日間累積で29.5Mとチャート12位まで落ちる。
最新のデータは無いがワールドワイド総計でも100Mも行かなかっただろうと想像される。

そんな意味でも日本で9月から始まる公開に期待すること大だ。
制作費を幾らかでも回収する必要がある。PRや広告などマーケティング費もかさみ350億円を売り上げなければ赤字は免れない。

制作会社「ライオンズゲイト」はメガヒットシリーズ「ハンガー・ゲーム」や「ダイバージェント」でキャッシュ・リッチになって、行け行けどんどんのシリーズ企画だが、どうやら目論見が外れた。

しかし財務的には完成前に外国へプレセールで大ヒットと吹き込み、かなり高額で売りつけ、オーストラリアロケで政府から46%の還元を受けるなど、ダメージはかなりくいに止められた。詐欺だね。

 紀元前3000年のエジプト。
人間と神が共存していた「黄金の楽園」の平和な整然とした街並みやピラミッドの俯瞰がCGで紹介される。

 長い間エジプト王だったオシリス(ブライアン・ブラウン)は神々と折り合いをつけ、共存し法と秩序は守られエジプトは平穏で安泰だった。

 王位が長すぎると感じたオシリスは退位(天皇陛下のように「生前退位」だね)を決め王冠を息子の「天空の神」ホルス(ニコライ・コスター=ワルドー)に譲渡する。

戴冠式の日、嫉妬に駆られたオシリスの弟、「砂漠の神」セト(ジェラルド・バトラー)は王宮のバルコニーで前王・オシリスの首を刎ね、決闘を挑んで左目を刳り抜き敗退させたホルスから王座を奪う。
オシリスの弟にしてはバトラー扮するセトは若すぎるのでは?

王座に座ったセトは思いのままで圧政をひく。高額の税で庶民を苦しめ多くの人々を奴隷に落として強制労働をさせる。そんな中、良心ある神々は、暴君セトに反逆を試みる。

ここで悪と戦う正義の味方が出て来る筈だが、そうは簡単でない。

 出現したのは若いイケメンの盗賊・ベック(ブレントン・スウェイツ)。
ある日、セトの神殿の宝物庫に侵入したベックは、サソリの大群や得体の知れない巨像の攻撃をかわしキラキラと光る球体「神の目」を奪う。

それはホルスが再び王座に就くための「神器」だった。
王座にはもう一つの「神の目」が必要だ。その上セトはベックの恋人、ザヤ(コートニー・イートン)が捕らえられている。

セトに敗れ隠遁し、やる気を無くしていたホルスも立ち上がり、セトを倒す決意を固める。
2人はホルスの祖父、太陽神・ラー(ジェフリー・ラッシュ)の助言を受ける。

悪王、セトは2匹の大蛇を操る戦いの神やスフィンクスの仕掛ける謎などを解き、数々のハンターを撃退する。
特殊効果のおどろおどろしい化け物なんか迫力もないし絵空事はバカバカしい限りだ。

最後にはセトはエジプトばかりか宇宙まで支配しようとする荒唐無稽さにあきれる。

「アイロボット」や「ノウイング」などのオーストラリア人・アレックス・プロヤス監督。トッ散らかった2時間を超える内容をもう少し整理して欲しかった。

主人公ベック役に「マレフィセント」で顔をだしたオーストラリアのブレントン・スウェイツ、
ベックの恋人役に「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のコートニー・イートン、これもオーストラリア人、
王子ホルスにはデンマーク出身のニコライ・コスター=ワルドウ、アメリカ映画なのに無名の外国人俳優が占める。
3人とも美男美女だが「オーラ」が無い
若手でもハリウッドの名の知られた役者を使って欲しかった。

敵役はスコットランド人「300 スリーハンドレッド」のジェラルド・バトラー、
若い二人の主人公にアドバイスをする「太陽神」はオーストラリアのオスカー俳優、ジェフリー・ラッシュが顔を見せる。

 キャスティングで問題となっているのはエジプトなのに白人しかいない、と言う点だ。神は勿論のこと、兵士や庶民に至るまで白人。
3000年前のエジプトに、それほど白人は居なかった筈。日本人は気にしないがアメリカではマイノリティの観客が騒いでいると聞く。

タイトルから期待していた内容と異なりプロットの荒唐無稽さに戸惑いながら映画を見終わる。

 9月9日よりTOHOシネマズスカラ座・みゆき座他で公開される。
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