Quantcast
Channel: 恵介の映画あれこれ
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live

「ジェイソン・ボーン」(JASON BOURNE)(アメリカ映画):自分の過去を知り、元CIAで暗殺された父親の仇をとろうとするボーン

$
0
0
 これで5作目になるシリーズ。前作の「The Bourne Ultimatum」から9年ぶりのカムバックになる。良くできた面白い映画になっている。

7月31日よりアメリカで公開がはじまったUNIの「Jason Bourne」が4026館で60.0M(61.8億円)でトップ。

喪失した記憶を取り戻そうと9年振りに復帰したCIA秘密捜査官「ジェイソン・ボーン」は「The Bourne Ultimatum」 (07)の69Mに次ぐシリーズ第2位の興行成績を挙げている。

制作費は120M(124億円)もかけているが回収は問題無いと思えます
観客のウケも出口調査でA- CinemaScoreと高評価。口コミが広がるとスタジオ関係者は期待しています。
2週目になると「スーサイド・スクワッド」の驚異的成績に圧倒され62%ダウンの22.7M。
既にロバート・ランダムの原作を離れキャラクターのみが活きているストーリー展開だ。

今回の敵はアメリカに歯向かう外国でもテロリストでもない。エドワード・スノードンやジュリアン・アサンジェのようなハッカーであり内部告発者のクリスチャン・デソルト(ヴィツエンツ・キーファ)。
ウィキリースならぬ「ディープ・ドリーム」と言うSNSでCIAの陰謀「トレッド・ストーン」計画を暴いている。

映画は、ギリシャとマケドニアの国境近くの賭け格闘技で小銭を稼いでいる。大男を素手のパンチで倒すシーンから始まる。

CIAは人事が一変したがボーンを知っている元同僚のニッキ―・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)がボーンにSNS掲載の「トレッド・ストーン」計画を教える。

ボーンはCIAだった父、リチャード・ウェッブ(グレッグ・ヘンリー)が立案者でベイルート支局長の時に自動車に仕掛けられた爆弾で殺される。
その時、ボーンはCIAに応募し「トレッド・ストーン」計画の一員になったことを知る。自分の本名もデイビッド・ウェッブなのだ。

 記憶を失くしたボーンが自分の過去を徐々に知る。デソルトを追い情報をもっと収集しなければならない。

この9年の間に、CIAは一変している。残っているのはニッキ―だけ。
長官のロバート・デューイ(トミー・リー・ジョーンズ)はエージェントを次々と殺したボーンを許せない。ITなんかまるで分らないオールドスクールの頑固者をリー・ジョーンズは憎々し気に好演する。

アセットと呼ぶ殺し屋(ヴァンサン・カッセル)に命じてボーンを狙撃させる。アセットとボーンの死闘も見ものだ。

デューイの腹心の部下で天才ハッカーがいる。
ソーシアルメディアを分析して世界の紛争地を見出す諜報員、ヘザー・リー(アリシア・ヴィンキャンデル)が活躍する。ボーンにCIA作業員・アセットの待ち伏せを教え恩を売ってCIAに連れ戻そうと画策する。スエーデン出身のオスカー女優はこんなアクションものも上手い。

CIA長官と女諜報員、そしてボーンとの丁々発止の遣り取りと駆け引きはこの映画のキモでエキサイティングだ。

舞台もギリシャからべイルート、ベルリン、ロンドン、ワシントンDC,ラスベガスとロケを敢行し観光案内も忘れない。

「ボーン・アイデンティティー」「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」の3部作を手がけたポール・グリーングラスが監督。

グリーングラス監督は「ドグマ95」の信奉者。
手持ちカメラで照明は使わず自然光、短いカットを排し長廻しを信条とする。だからリアリティのある画面は迫力がある。

10月7日よりTOHOシネマズ新宿他で2D,3D,IMAXで上映される。

「ラスト・ウィッチ・ハンター」(THE LAST WITCH HUNTER)(アメリカ映画):800年も魔女と戦って来たウィッチ・ハンターは復活した女王がNYを絶滅しようとする陰謀を撃退する

$
0
0
入院も5日目になると退屈で仕方が無い。個室でシャワーやTV付きでネット環境は最高だが、毎食出されるコントロールされた病院食が不味いし量が少ない。。アルコールやスィートが一切ダメと言うのがこたえる。

アイソトープやMRIなどの検査が一通り終わり「メネシット」の投薬も始まって、リハビリの一定のコースが終了すれば退院だが、リハビリ担当の先生がお盆休みだと。顔を出すのが来週初めだから無駄な時間を閉じ込められたまま過ごす。


39歳の黒人アクション俳優として「ワイルド・スピード」シリーズなどで多くの客を呼べるドル箱スターになったヴィン・ディーゼル。
グローマン・チャイニーズ・シアターであは手型と足型をフェーム・オブ・ザ・ロードでは星を刻むハリウッドを代表する役者にまでなっている。

ヴィン・ディーゼル扮するコールダ―は800年にわたり戦い続ける魔女ハンターだ。タイトル前のプロローグでヨーロッパの小国スノウシルヴァニアの出身であることが知れる。頭はモヒカン刈りで口髭顎鬚と顔半分が覆われた姿はヴィンとは気づかない。やはりスキンヘッドがトレードマークだ。

14世紀、カトリック教会の戦士として討伐した魔女の女王(ジュリー・エンゲルブレヒト)の呪いが原因で不死身となり、ある組織のため800年にわたり魔女ハンターとして戦闘を続けてきたコールダー(ディーゼル)。

カトリック教会の神父は代々「ドーラン」と名乗ってコールダ―に協力し魔女退治をしてきた。

舞台はいきなり現代のニューヨーク。スキンヘッドに精悍な顔つきのコールダ―はアッパーイーストサイドの自宅ロフトでスッチーなどと毎夜歓楽を尽くすプレイボーイ。

だが引退した36代目のドーラン(マイケル・ケイン)が行方不明となり殺害されたと思われる事件が発生。
あとを継いだ37代目ドーラン(イライジャ・ウッド)と共にミステリアスな事件を捜査する。

分かったことは殺した筈の魔女の女王が復帰し、ニューヨークを「黒死病」で滅ぼそうとしている。
ヨーロッパの人口を半減させた黒死病の蔓延は14世紀半ばだから、歴史的に800年を超えて病原菌をばら撒いているのだろう。

CGで作成したドロドロと薄気味悪い油状の液体が流れる。
魔女はコールダ―の殺された妻と娘を思い出させトラウマで苦しめる。良い魔女でアートクラブのオーナー、クロエ(ローズ・レスリー)の協力も力強い。

 特殊効果を駆使して魔女の凄惨な終焉を見せるがそれで感動はしない。

 オカルトスリラーなどヴィン・ディーゼルには似合わないし、観客の期待するアクションヒーローには程遠い。キャストは豪華だが夫々の役者がいきていないのは勿体ない。

共演するのは「ダークナイト」などのオスカー俳優のマイケル・ケイン。
「ロード・オブ・ザ・リング」などのイライジャ・ウッド。

 ヨーロッパでは人気のドイツのベテラン女優、ジュリー・エンゲルブレヒト。美しいジュリーも魔女のメイキャップでオドロオドロの恐ろし形相。
クロエ役はイギリスの若手女優で「ハネームーン」などのローズ・レスリー。

監督は「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」のブルック・アイズナー。長編は2本目で演出は未熟だ。

9月30日よりTOHOシネマズ六本木他で公開される。

「ダーティー・コップ」(THE TRUST)(アメリカ映画):オファーのあった作品は何でも受けてしまう借金苦のオスカー俳優、ニコラス・ケイジ

$
0
0
親友同士で組んで大金を狙う2人。気心がしれた長い付き合いだが最後の最後信頼(TRUST)が出来るかどうか?原題はTRUST.
邦題は汚職警官(ダーティ・コップ)とレッテルを貼っている

ラスベガスの警官ストーン(ケイジ)とウォーターズ(ウッド)は、うだつの上がらない日々の仕事に嫌気がさしていた。証拠物件(Evidence)係りのつまらない仕事をしている。

ケイジ演じるストーンは見るからにワルだが、真面目な顔のウォーターズに映画の冒頭売春婦とのファックシーンを監督は挿入する。
全裸で騎乗位の女を見上げるやる気の無い警官を印づける。

押収物を横流しするチンケな小銭稼ぎをしていたある日、盗難車のエンジンえにドラッグを隠し持っていたケチな売人が20万ドル(2千万円)と言う多額の保釈金ですぐに自由の身になっていることに気付いた。

小者の売人に大金20万ドルを即座に払えるボスは何者だ?
保釈金は麻薬組織からだ。大量のキャッシュを持つと睨んだストーンはウォーターズに組織から現金を奪おうと考える。

「このおまわりの仕事は好きになれないし今やることが無いからな」と言うのが動機だ。

保釈金の出所をたどり、ディーラーを追って地下鉄に乗り、ホテルで身分を偽り潜伏捜査などちょっとばかりハラハラさせて住宅街のアパートへ行き着く。そこでは売人と若い女性(スカイ・フェレイラ)が居る。
抵抗する売人を射殺したストーンにウォーターズは食ってかかる。「銃は脅かすだけの筈だ」
女はドラッグを買いに来ただけのジャンキーで命乞いをするので部屋の隅で拘禁する。

この地下に大金庫があることを事前に予測していたストーンは手際よくドイツ製のドリル式掘削機を用意している。

ここから後半が退屈。
ドリルはコンクリートの床を突き破れない。何本も刃こぼれし最後は鑿をハンマーで叩く。延々と見せるシーンでは無い。

ようや金庫の内部に穴を開け内視鏡で鍵の裏側を除き解錠の数字を地下の金庫前にいるウォーターズに伝える。

金庫内はキャッシュが山とあるかと思うが小さな貸金庫のようなボックスがありその中にはダイアモンドがどっさりと収容されていた。

ウォーターズの良心と言うか恐怖心が芽生える。キャッシュならともかく数十億円はするだろうダイアモンドを強奪すれば組織に命を奪われる。止めて帰ろうとストーンを説得するが聞く耳を持たない。
大金を掴んだら空港へ直行し外国でノンビリ暮らす。チケットも二枚用意してある。

狂ったような計画にとらわれ、徐々に狂気を帯びるストーンに、不気味ささえ感じ始めるウォーターズだが、「顔を見られたから女を射殺しろ!」との命令には納得できない。

「汚職警官が足のつかない悪人のカネを盗む」というのは、70年代から80年代にかけてよく使われた設定だ。B級コップ(警官)映画だ。

ニコラス・ケイジ自身も「バッド・リューティナント」(09)で麻薬に溺れ大金を掴もうとする汚れた警部補を演じている。。

「リービング・ラスベガス」(96)でアカデミー主演男優賞のニコラス・ケイジもニュー・オルリンズで泥酔運転で逮捕されたり、豪華な車や墓にピラミッドを作ったりと乱費を重ね税務署から所得税滞納で追っかけられている。
沢山の映画に出て出演料を稼ぐしかない。
だからオファーのあった作品は何でも受けてしまう。

「ダーティー・コップ」などと言う映画の世界を知らないアレックスとベンのブリューワー兄弟のデビュー作品でも構わない。
(兄弟はスタイリッシュな画面を撮ろうと腐心しているが)

実際今年はこの後「Dog Eat Dog」「Snowdon」など5本の作品が公開される。52歳のケイジは未だ老け込む年齢では無い。

一方35歳のイライジャ・ウッドは「ロード・オブ・ザ・リング」の後は作品に恵まれずTVシリーズに出演しているが、昨日のブログの「ラスト・ウィッチ~」とかこの作品のように大物俳優の相手役のオファーを受けている。

アメリカでは劇場公開とDVD販売の1カ月前にDRTVで有料放映されている。だから映画としてはその程度の作品だと言うことだ。

8月20日より角川シネマ新宿で公開される。

「ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~」(POVERTY, INC.)(アメリカ):「あなたの『善意』が、誰かを傷つけている」、支援活動は殆ど失敗し栄えるのは貧困援助の巨大ビジネス

$
0
0
途上国への慈善活動や海外支援は両刃の剣だと思い知らされる。

映画の冒頭でクリントン元大統領がしきりに謝っている。(インターン事件以来謝ることに慣れているが頻繁に「I am sorry」を連発する。

ハイチで任期中に貿易自由化を主導し、米(ライス)の税率が大幅に引き下げられたことで安い米がどっと雪崩れ込みそれまで繁栄して来た米作農家が壊滅的打撃を被った。

ハイチでは太陽光発電の若い起業家が悲痛な顔でインタビューを受ける。
大地震の後、電力不足を補うため工場を起ち上げ月産50枚を売り上げ従業員200人を雇っていた。ところが外国の善意の支援団体が太陽光パネルを無料で配布し始めた。
今では月に2枚売れるかどうか。スラム街から雇った従業員は殆ど解雇せざるを得なかった。

また社会的企業として注目される「トムスシューズ」は一足の購入ごとに発展途上国に一足の靴を贈る「慈善活動」は地域の零細な靴メーカーの成長を妨げている。

アフリカで国際的なソフトウェア会社を設立した起業家、ハーマン・チナリー・ヘッセは「私たちは援助団体に統治されている」と話す。

営利目的の途上国開発業者や巨大なNGOなどにより、慈善活動や海外支援の一部はビジネス化し、今や数十億ドルにも及ぶ「貧困産業」となっていると言う。

この映画は海外支援の問題点や課題について主に「支援される側」からの視点で描いている。
途上国とどう向き合うべきなのか?ハイチやアフリカを主な舞台に、“支援される側”の人たちの生の声を伝える

「貧しい気の毒な人たちのために手を差し伸べよう」
「彼らは無力で何もできない」

U2のボノらが歌で支援する。「Do they know Christmas」
アフリカには冬が無いし雪も無い。だが豊富な資源があるが先進国に搾取されている。

「『無邪気な善意』を操るのは、経済的恩恵だけでなく、精神的至福をも、もたらす。一度入ったら、なかなか止められない業界なのだ」とコメントする大学教授もいる。

しかし我々はアフリカの実情を知らない。
外国から見た、そんなイメージを謳い、繰り広げられてきた営利目的の途上国開発は、今や数十億ドルに及ぶ巨大産業 となっていると言う。

POVERTY INCのみが成功し、本来の援助活動は殆ど失敗に終わって、援助の受け手がもともと持っている能力やパワーも破壊している。本末転倒だ。

「あなたの『善意』が、誰かを傷つけているかもしれない」と言う大きな疑問がこの映画を見ていて起こる。

私自身も慈善団体NPOを主宰し形成外科医を東南アジアの途上国に送り込み口唇口蓋裂(兎唇)の子供たちに無料手術を行っている。(今日14日からはミャンマー・ヤンゴンで100人の子供たちを手術する)
上述の点は配慮している。

途上国には形成外科医は少ない。例えばフィリピンでは人口1億近くに75人しかいない。
我々が頻繁に訪れ施療する訳には行かないので現地の医学生、レジデントを集めて日本の高度な医療技術を見学させる。こうしてローカルで医師を育成する。
今では6割の手術は現地の医師が担当できるようになった。

地元の医療を育てることを我々は最初から念頭に置いているからジャンルは違うが上述のような蹉跌は起こらない。

この映画は20ヶ国で200人以上のインタビューを重ね、貧困産業の実態に迫り、私たち一人ひとりに援助のあり方を問いかけるドキュメンタリーで、目から鱗の作品だ。

プロデューサー兼監督のマイケル・マシスン・ミラーは「Poverty Cure」の設立者で哲学、国際開発、国際ビジネスの学士号を持つ。
主要メディに執筆し出演をしてポバティキュアの啓発を行っている。

渋谷アップリンクで公開中。お見逃し無きよう。

「ジャングル・ブック」(THE JUNGLE BOOK)(アメリカ映画):総ての撮影はケニアでもタンザニアでもない「LAのダウンタウン」で行われ、主人公モーグリ以外の動物や大自然はすべて特殊効果。

$
0
0
アメリカでは4月の半ばに開けてデビュー週末3日間で103.6M(106億円)と言う大ヒットとなっている。

1967年、いまから半世紀前のディズニーアニメーションの名作を、「アイアンマン」シリーズなどのヒットメイカー、ジョン・ファヴロー監督が実写映画化したもの。

動物たちに育てられ、大自然の厳しさを教わった人間の少年モーグリが、やがて自分の居場所を模索していく姿が描かれる。
モーグリ以外の動物や大自然はすべて特殊効果。

ケニアかタンザニアでロケをしたかと思っていたらエンドクレジットで「Filmed In Downtown LA」と出て来るので驚く。LAダウンタウンのフリーウェイ110を見下ろす12階建てにビルの中で総てのCG撮影が行われたのだと言う。

ある旅人の赤ん坊がジャングルの川辺で1人取り残されてるのを、黒ヒョウのバギーラ(声:ベン・キングスレー)が見つけてオオカミの、ラクシャ(ルピタ・ニョング)とアケラ(ジャンカルロ・エシポシート)夫妻に預ける。
夫妻は愛情を持って赤ん坊を育てる。

そして10年後、成長した少年、モーグリ(ニール・セディ)。

バギーラからは、自然の厳しさや生き抜くための知恵を教わり、母代わりのラクシャからは惜しみない愛を注がれ、すくすくと育っている。

だがある日、人間に憎しみを抱く片目のベンガル・タイガーのシア・カーン(イドリス・エルバ)が戻って来る。
モーグリが危ないと考えたオオカミ達は、モーグリを人間の村へと戻した方が良いと考える。

 モーグリをバギーラに預け、人間の村へと連れて行こうとする。
いやがるモーグリを連れながら、2人は木の上で一晩過ごす。
しかし、蛇のカア(スカーレット・ヨハンソン)が現れ、モーグリを襲うが、間一髪バギーラに助けられる。

ジャングルに残りたいモーグリは、村に連れて行こうとするバギーラに抵抗する。
自分のしたいようにすると決意したモーグリは、仲良くなった熊のバルー(声:ビル・マーレイ)と遊び始める。

そこへサルの大群が現れ、モーグリを拉致する。モーグリは、サルの王キング・ルイ(クリストファー・ウォーケン)のもとへと連れてこられ、火の作り方を教えろとキング・ルイに迫られるが、モーグリは知らない。
サルの騒ぎに乗じて、再びバギーラとバルーはモーグリを救い出す。

ルドヤード・キプリングの同名小説を原作。
忠実にストーリーを追っているが途中の怠け者で愛想のよい熊のバルーに出会いから後半のミュージカル風の展開になると原作を大きく逸脱し少年も動物も自由に動き始める。

今まで知っていることをなぞるだけだったが小説を離れて初めて楽しくなる。
ファブロウ監督も腕が存分に振るえる。

熊のバルーの性格はビル・マーレイそっくり。
これは「あて書き」をしたみたいに思える。
怠け者だが優しく動作は鈍い。いかにもユーモラスだ。

実写で画面に現れるのは12歳の少年、ニール・セディだけ。
緑をバックに孤軍奮闘の芝居だろうが実に楽しく演じている。

姿は見えないが、ベン・キングズレー、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、クリストファー・ウォーケンら豪華キャストが動物たちの声を演じる。
 
シア・カーンが逃げていき、再びジャングルは安全になる。
そんな時に突如人間の女の子が、歌いながら水をくみに、ジャングルの川辺へとやって来る。
女の子にひきつけられたモーグリは、そのまま彼女についていっていく。
エンディングは淋しさが残るがこれ以外の解決は無いのだろう。

丸の内ピカデリー他で2D3Dにて上映中

「アリス・イン・ワンダーランド~時間の旅~」(ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS)(アメリカ映画):T・バートンに代わったが、当たらなかったのはボビン監督の所為では無い

$
0
0
アメリカでは5月下旬に上映がはじまったが、期待していた首位をとれない。3763館で公開し28.1M(28.7億円)。
週末にかけての口コミの弱さもあるが、土曜はファミリー映画の書き入れ時だからスタジオは55M(56億円)以上行くだろうとの予測が半分に終わってしまった。観客は女性層が57%、成人の客が57%でファミリー層の32%を超えている。

しかし不振の一番の原因は女性ファンのお目当て、主演のジョニー・デップのスキャンダルだ。妻、アムバー・ハードへの暴行で一時は警察に拘禁され、接近禁止令が出ていることが大々的に喧伝され、それが映画の成績に直接響いた。

報道によると女優アンバー・ハード(30)はジョニー・デップ(52)との離婚を申請。次いでジョニーからの度重なるDV被害を訴えた。

アンバーは2015年2月に結婚以来、ジョニーに暴力を振るわれることは何度もあったと主張。離婚申請後の5月27日、裁判所にジョニーに対する接近禁止令を請求し、これも認められた。
巨額の制作費を投じた夏の大作の目玉映画の公開直前に主演男優のゴタゴタが観客の出足に影響を及ぼさない訳は無い。
パパラッチの追い回されたデップは映画PRのツアーも中止せざるをえなかった。

WD配給チーフのデイブ・ホリスは「残念だった、予想していた数字に達しなかった」と認めながら観客出口調査のシネマスコアでA-の高評価を受け、これから好転するだろうと付け加えている。しかしその願いも空しく制作費の回収は夢となっている。

だがディズニー全体でみると今年は、例年より早く既にグローバル総計で4B(4080億円)を突破している。内訳は「Captain America: Civil War 」(1.11 billion), Zootopia」(992M) 「The Jungle Book」(880M)「Batman v. Superman: Dawn of Justice」(871.1M)

ジョニー・デップのスキャンダルなどキャッシュ・リッチで懐が深いウォルト・ディズニーにとってはどうってことは無い。アッと言う間に吸収し傷口をふさいでしまう。

アメリカに遅れること1カ月と1週間の日本では、デップのスキャンダルなんて関係無い。7月1日から、女性ファンが続々とつめかけランキングのトップに躍り出た。未だ続映中だが20億円は軽く超えるのでは無いか。ガラパゴス状態も時にはハリウッドのスタジオ関係者を安心させる。

しかし日本が幾ら頑張っても160億円を超える制作費の回収は無理。

さてこの映画は「不思議の国のアリス」のその後を描いて大ヒットを記録したティム・バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」のシリーズの第2弾。
監督はジェームズ・ボビンに代わっての続編だ。

前作から3年が過ぎ、少女から大人になったアリス(ミア・ワシコウスカ)は亡き父の後を継ぎ、船長として大海原で活躍していた。少女から大人になってもワシコウスカのキャストは変わらない。

3年に亘る航海を終え積み荷を無事ロンドンの下ろした船長のアリスの足を引っ張る輩がいる。若い女は荒海の船長は適さない無いと言うのだ。愛した父親や友人を自分から奪い去る「時間」に敵意を抱く。抽象的な「時間」が敵とは哲学的だが目の前の現象は彼女を窮地に追い込む。

ある日、親友のマッドハッター(ジョニー・デップ)の悲しい過去が、彼を窮地へ追いやっていると言う噂を聞く。過去に心を奪われ、帰らぬ家族を待ち続けるマッドハッターを救うためにアンダーランドに行こうと決める。

そんな彼女の前に美しい青い蝶が現れる。アンダーランド随一の賢者で芋虫だったのが羽化してアブソレムと名乗る蝶(声:アラン・リックマン)となっていた。

アブソレムに導かれるまま不思議な大きな鏡の前に行く。そのまま足を勧めると鏡を通り抜け(ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS=原題)
いきなり落下して宙をどこまでも飛びアンダーランドに到着する。

再びワンダーランドに訪れたアリスの前に、時を操るタイム(サシャ・バロン・コーエン)が立ちはだかる。

悲しい過去に心を奪われ、帰らぬ家族を待ち続けるマッドハッターを救うため、時間をさかのぼるアリスの冒険がつづられる。ジョニー・デップやミア・ワシコウスカらに加え、「時間の番人」タイム役でサシャ・バロン・コーエンが新たに加わる。

アンダーランドの統治者でアリスに同情した白の女王(アン・ハサウェイ)はマッドハッタ―を助けるための秘策を授ける。それは時間をさかのぼりハッタ―の過去を変えること。それが出来るのはアリスだけだと。

アリスは時間の番人、タイム(サシャ・バロン・コーエン)と戦うために、過去へと旅立つ。
彼女を待ち受けるのは、秘められた真実とタイムとの戦い。

一方アリスによってアウトランドに追放になっていた残忍な赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)はアリスを捕らえようと陰謀を巡らす。

アリス以外はオドロオドロしいメイキャップの登場人物。
デップの白塗りの顔に縞模様の目張り、欠けた前歯、茶色の髪はエキセントリックなキャラクターを強調する。

破天荒なコメディアン、コーエンはいつもよりまともで尊大にして孤独な万物の大時計のガーディアン。口髭と皮で包まれたスラブ風の容貌が似合う。

チェシャ猫や白うさぎ、デブの双子、ヤマネ、ベイヤードなど人間以外のキャラクターはCGで精密に作られて活躍する。

ルイス・キャロルの児童文学小説「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」を原作としているがキャラクターだけを活かし全く別のアリスの物語になっている。
ストーリー自体は悪く無い。

監督は「ザ・マペッツ」などファミリー映画得意のジェームズ・ボビン。
ティム・バートン監督に代わってメガホンをとったが、当たらなかったのはボビンの所為では無い。

TOHOシネマズ日劇他で公開中

「カノン」(日本映画):アルコール性認知症を患った母と三姉妹を繋ぐ心の曲はパッヘルベルのピアノ曲「カノン」だった。

$
0
0
中学校の音楽の時間でカノン(canon)と言う曲の様式を教わった。複数の声部が同じ旋律を異なる時点からそれぞれ開始して演奏する。日本語で「輪唱」と言う。

その中で17世紀のドイツのヨハン・パッヘルベルの「CANON IN D」が最も有名で,
クラシックなど滅多に聴かない僕も頻繁にCDをかけている。
元々は3つのバイオリンのための協奏曲だがピアノ演奏の方がすっかりポピュラーになっている。

この映画はその「カノン」を軸に展開される。

北陸の街と東京を舞台に、三姉妹と母親の絆を描いているがストーリー自体は予測の付くB級の展開だ。
冒頭、東京を離れた田舎での祖母葬儀で手紙を渡され、家族の秘密を教えられる三姉妹と言う出だしは,
是枝裕和監督の昨年のヒット作「海街diary」似ている。

それぞれ石川・金沢、富山・黒部、東京に住む三姉妹が、祖母の葬式で集まったことをきっかけに、19年前に別れそして数年前に「死んだ」と聞いていた母親が「生きている」と祖母が残した手紙で知る。
「許して下さい。あなた達のお母さんは生きています」

富山県黒部市に住む小学校教師の次女・岸本藍(比嘉愛未)、東京で夫と二人の子どもと暮らす専業主婦の長女・宮沢紫(ミムラ)、金沢で祖母の残した老舗料亭の若女将業に勤しむ三女・岸本茜(佐々木希)。

母・美津子(鈴木保奈美)は、姉妹がまだ幼かったころ、父の死をきっかけに酒に溺れ、19年前に火事で重傷を負い入院してからは一人離れて暮らしていた。

この辺りをもっと明確にしなければならない。
伝聞の形で「父の死を切っ掛けにアルコール依存症」になる三人の幼い娘を抱える母親像は具体的に頭に浮かばないし納得性が無い。
父親が死ねば残された幼子をしっかりと面倒を見て育てなければと、普通の母親だったら考える。
それに料亭を経営していた裕福な祖母も健在だった筈だ。

火事はどうして起きたのか?
後のシーンで現れる母親には火傷の痕跡は見えない。
映画のブレイキング・ポイントだけに母親の子供たちを捨てる動機や気持ちと行動は的確に描かなければならないと思うのだが。

幼い三姉妹は金沢で料亭を営む父方の祖母・辰子(多岐川裕美)に引き取られ、母宛の手紙を書き続けたが返事はなく、数年前に母は亡くなったと祖母から聞かされていたのだ。その母が生きているとは思いも寄らなかった。

葬儀の翌日、金沢から母がいる富山の介護施設へ向かう三姉妹。
トッ散らかった部屋で長年の飲酒が原因のアルコール性認知症を患った母は、娘たちを見ても誰だか思い出せずにいる。あの憧れの美女、鈴木奈保美の成れの果てだ!

施設の部屋には母が宝物のように大事にしているオルゴールがあり、蓋を開けると、パッヘルベルのカノンが流れ出す。
それは一家が幸せだった頃、母が教えてくれて、三姉妹で連弾していた忘れようにも忘れられない懐かしい曲だ。

離れて暮らすようになった後も、三姉妹が母を慕いリサイタルに母が見に来ることを期待して、ピアノの発表会では必ず演奏した「CANON IN D」だった。
グランドピアノを3台舞台に乗せ小さな子が一生懸命に取り組む「カノン」の3連弾をたっぷり聞かせる。

 黒部で母がアルコール依存症の治療を受けた病院や、退院後に住み込みで働いていた場所を訪ね、雇用主の澄子(島田陽子)をはじめとする人々から母の思い出話を聞く三姉妹。
やがて彼女たちが真実に辿り着いた時、眩しい光の中で「カノン」のピアノ三重奏が再び響き渡る。

B級映画もヨハン・パッヘルベルの「CANON IN D」のピアノ曲で救われる。観客の心は甘い優美なメロディにとろけて詰まらないストーリー展開をも許してしまう。

三姉妹の次女・岸本藍役をNHKの連続ドラマで売り出すも映画では経験の少ない30歳の比嘉愛未、
長女・宮沢紫役をTVドラマで売れている32歳のミムラ、
三女・岸本茜役を「天使の恋」「嫌な女」などの28歳の佐々木希が演じる。
若手女優達に「海街」のスターのようにオーラが無いのが残念だ。

そこへ行くと脇はベテラン女優たちの勢ぞろい。50歳の鈴木保奈美、63歳の島田陽子、65歳の多岐川裕美など久しぶりの顔見世だ。

監督は「チェスト!」で注目され「リトル・マエストラ」の音楽ものを上手く演出した雑賀俊郎。脚本は「チェスト!」で雑賀と組んだ登坂恵里香。

10月1日より角川シネマ新宿他で公開される

「にがくてあまい」(日本映画):野菜嫌いの28歳のキャリアウーマンと30歳のオーガニック野菜料理得意のイケメン高校教師

$
0
0
ウェイン・ワン監督の「女が眠るとき」は期待外れの映画だった。
ビートたけしを主演に迎えて挑んだワン監督初の日本映画。一週間の休暇で妻とともに郊外のリゾートホテルを訪れた作家の清水健二。妻とは倦怠期を迎え、作家としてもスランプに陥り就職が決まっていた健二は、ホテルで無気力な時間をすごしていた。
そんな健二が目を奪われたのが、初老の男・佐原と若く美しい女・美樹のカップルだった

「ベルリン国際映画祭」で特別銀熊賞を受賞した「スモーク」などで知られる香港出身のウェイン・ワン監督が、65歳のスペインのハビエル・マリアスの短編の原作者を映画化したものだ。

だがハビエル・マリアスの小説で初めて読んだ長編「執着」(東京創元社:2016年6月刊)は随分と変わった小説だ。

ストーリーは推理小説風で面白い。
舞台は現代のマドリッドで主人公は30代の出版社の腕利き編集部員、マリア。
いつも出勤途中でカフェに座る夫婦の姿に見とれていた。その夫のミゲルがコーヒーを飲み終わり近くに駐車していた車に乗り込もうとする時に精神異常の浮浪者に襲われナイフで16か所も刺され死亡する。

 被害者は映画制作会社の他多数所有していた映画館を整理し不動産で稼ぐ裕福な実業家だった。その日は丁度50歳の誕生日だと言うことをマリア走る。
後日カフェに1人でいる未亡人になったルイスにお悔やみを言うとルイスもマリアのことは良く知っており夫婦で「知的なお嬢さん」と呼んでいたと言う。

マリアは改めてカフェに近いルイスの豪邸を訪れた時、ミゲルの親友だと言うハビエルに出会う。ルイスと残された幼い二人の子どもを心配して日に二度も三度も訪問しているのだと言う。
 マリアはルイスに一目惚れ。肉体関係にまで発展するがハビエルの心はルイスに向けられたまま。ハビエルも裕福で独身、女性関係も派手なプレイボーイだ。

しかしある日ハビエルのベッドで情事の後の心地よいうたた寝をしている時に、隣室でハビエルと突然訪ねて来たゲシュタポの皮コートを着たルイベリスと言う60絡みの男との言い争いを聞いてしまう。
 
ハビエルの命令でルイベリスが浮浪者に示唆してミゲルを殺させたのではないかとの疑惑がマリアの頭に浮かぶ。

文章がダラダラ長く途切れが無いので読みにくい。
おまけに登場人物の心の中の思考や言葉が内面化して出て来るのでややこしい。死んだはずのミゲルとハビエルが対話を始める。

シェイクスピアの「マクベス」やバルザックの「シャベール大佐」デュマの「三銃士」などを延々と引用し「恋愛」を至上主義として常識に反する「不処罰」を説いてハビエルを擁護しようとする。

 人生真っ盛り50歳の誕生日に仕事も私生活の絶頂期に殺されなければならなかったミゲルの秘密とハビエルの絡みを追及するスリリングな推理に読みにくい文章も気にならなくなる。



タイトルは直訳すると「Bitter Sweet」だが、「ほろ苦い」との意味になる。映画の内容にも関連してくる言葉だ。

広告代理店を経て漫画家になった小林ユミヲによる同名コミックを実写映画化したもの。小林の特技は食マンガ+ラブコメディでこの作品は典型的な代表作だ。

ヒロインの江田マキ(川口春奈)は農家の娘だが野菜が嫌い、料理はできない、部屋は荒れ放題、私生活はだらしない。

しかし大手広告代理店に務め同僚や上司の信頼は厚く仕事に燃えるキャリアウーマン。
一見華やかそうに見える華麗なOLのマキだが、私生活の方は目も当てられない。掃除家事などを全くしないため部屋は散らかり放題で汚く、彼には振られられて気が付けば独身で28歳。

そんなマキが行きつけのバーでやけ酒を飲んでいると、超絶美形のイケメン高校教師・片山渚(林遣都)が野菜を抱えてやって来た。
酔いつぶれたマキを渚が自宅まで届け翌朝まで介抱してくれておまけに部屋の片づけをしていた。朝起きたマキはベッドで着衣が全く乱れていないことに気付く。
セックスが無かったのかとガッカリするマキの表情が可笑しい。川口は男に飢えた演技が上手い。
一晩一緒にすごして指一本触られていないのにはがっかりするが、それでもイケメン教師はアパートでせっせと料理をしてくれているのが嬉しい。渚は野菜をたっぷり使ったお手製の料理(ラタトゥーユ風)をテーブルに並べる。
野菜は大嫌いなのだけど、と一口スプーンで飲んで思わず「…おいしい!」と口に出る。

彼女もいないし、料理が上手く家事全般が大好きで、何よりもイケメンの高校教師をマキが離す訳が無い。
マキが激しく迫るがイケメン美術教師・片山渚は、何と「ゲイ」で女に興味は無いと告白する。林遣郎はどう見てもゲイにならないのが難点。

どうもコミックには「ゲイ」をブレイキング・ポイントに使うのが多い。物語にアクセントが付くが手垢がついている展開だ。

セックス無しでも良いとマキは、渚の住む長屋に押しかけ無理矢理同居生活を始めることになる。
なにかと衝突するマキと渚だったが、渚の作るオーガニック野菜料理に野菜嫌いのマキが癒されていくのに気付く。

偏食家で野菜嫌いだったはずのマキが、幸せそうな顔で渚の料理を食べている。
渚は母親とマキは父親との確執を抱えているが、それぞれが抱える問題を解決していく中で、マキと渚はお互いが無くてはならない「大切な存在」に変わっていく。

ハッピーエンディングなんだけど、肝心の28歳の女と30歳の男の「セックスレス」と言う大問題はどうなるの?

監督はこの作品がデビュー作となる31歳の草野翔吾。ミュージックビデオの経験はあるが劇映画は初めてで、未だ演出がしっかりできていないね。

9月10日よりTOHOシネマ新宿他で公開される

「カンパイ!世界が恋する日本酒」(KAMPAI! FOR THE LOVE OF SAKE)(日本・アメリカ映画):外国人の視点から日本酒の魅力を見つめなおすドキュメンタリ

$
0
0
蒼井上鷹の「お隣さんは、名探偵 アーバン歌川の奇妙な日常」(角川文庫:2016年4月刊)。
千葉県生まれの蒼井上鷹は48歳、大学卒業後サラリーマン中の36歳に書いた「キリング・タイム」で小説推理新人賞をとったのを機に勤めを辞めて作家生活に入る。
ついで40歳で「堂場警部補とこぼれたミルク」が日本推理作家賞・短編部門賞の候補となるが、未だ大きな賞には恵まれていない。

緑豊かな郊外に建つ古びたマンション「アーバンハイツ歌川」騒動のすべての始まりは、隠居した大家さんのお父さんが可愛がっていたペットのトカゲ失踪だった。

主人公はいつも笑顔のおばあちゃん探偵、平本あや。
さりげない世間話から、マンションの住人たちの意外な「秘密」を見抜いてしまう。
オートバイ事故でお笑い芸人を諦めたタカ・タカオ、結婚詐欺詐欺容疑の妻が失踪し探している男、美貌の教育カウンセラーと様々な人物が登場する。

痛快なユーモア・ミステリーながら女性が二人も殺されて埋められているとか若い家主の住民を追い出す陰謀とかドロドロした内面はユーモア小説のタッチでさりげなく描かれている。

ユーモアもさして面白くないし、事件も唐突に始まりトッ散らかっており文章も推理小説として緻密でない。
暇潰しに片手間に読む軽い小説だ。



書き忘れていたが、6月28日に外国特派員協会で珍しいFilm Screeningがあった。
上映前の6時から7時の1時間、岩手の酒蔵「南部美人」の5代目蔵元・久慈浩介が大量の「美人」を持ち込み外人記者を目くらましをしたのだ。
美人に酔った記者たちのペンはこのドキュメンタリに少し甘い批評をする。

この記録映画は日本酒そのものを扱うのではなく、日本酒に魅せられた3人のアウトサイダーを描いている。

京都・木下酒造に勤める初の外国人杜氏のフィリップ・ハーパー、神奈川・鎌倉在住の米ジャーナリストのジョン・ゴントナー、そして唯一の日本人は岩手の酒蔵・南部美人の5代目蔵元・久慈浩介、に密着し、彼らを通して日本酒の謎、奥深さ、魅力などを絵解きする。

 だから個々の日本酒について純米酒がどうの吟醸酒がどうのとの議論も無ければ日本の名酒、「久保田」とか「田酒」「越乃寒梅」なども取り上げていない。
タイトルから判断した内容と随分と違う。
日本酒に魅せられた3人に焦点を当てて主観的に「日本酒の何が私を虜にしたか?」を追っている。

酒の知識をクドクド説かれても困るが、少しはアウトラインで日本酒のことを教えて欲しかった。

 一番興味深い人物は、外国人として史上初めて杜氏(とうじ)となり、注目の新商品を次々に世に送り出しているイギリス人フィリップ・ハーパー。
1966年イギリスのコーンウエル生まれで名門オックスフォード大卒の50歳。
 
 英語教師派遣プログラムで88年に初来日し日本酒の魅力にとりつかれる。奈良県の梅乃宿酒造で蔵人として10年働き2001年に南部杜氏資格選考試験に合格して木下酒造に迎えられ初年度から全国新酒鑑評会で金賞を獲得。その後次々と挑戦的な酒造りでファンも多いと言う
母国英国よりも日本在住が長く、流暢な日本語の淡々とした語り口は学者のようで一言一言重みがある。茶色のカーリーヘアにキャップ姿は良く似合う。

 鎌倉に住むアメリカ人ジャーナリストのジョン・ゴントナーは「日本酒伝道師」として、日本酒ワークショップや本の執筆などを通して日本酒の魅力を世界へと発信し続けている。

 1962年アメリカ・オハイオ州生まれの54歳。ジョンも英語教師派遣プログラムで88年に来日、日本酒の魅力にとりつかれる家庭はフィリップと同じだ。94年から「The Japn Times」で連載コラム執筆。
英語で日本酒を教えるコースを国の内外で開催。
「日本人も知らない日本酒の話」など著作も多数ある。
日本とアメリカを頻繁に行き来しながら「日本酒伝道師」は忙しい。

この映画で最も時間を割いてスポットライトを当てるのは当然のことながら大震災の洗礼を受けた岩手の老舗酒蔵を継ぐ南部美人・五代目蔵元の久慈浩介。

 1972年岩手県うまれの54歳。東京農大卒業して卸店で販売の経験を積んで帰郷。
2年目に造った大吟醸が全国新酒醸品評会で金賞を受賞するラッキーなスタート。
ノンシュガーの梅酒とかユダヤ教のコーシャ資格のある日本酒とか新たな発想で日本酒造りに励む。
更に日本酒輸出協会を起ち上げ世界を飛び回りながら日本酒を世界で味わって貰うように活動を続けるエネルギッシュな人だ。

 外国特派員協会でも一生懸命に英語を喋り「南部美人」の素晴らしさを説いていた。
小林亜星を小型にしたような小太りの身体一杯に使って酒造の藍い印半纏をはち切れそうに着こなし背の高い外人相手に奮闘する姿は今までに見なかった東北のビジネスマンだ。
 杜氏の仕事は少しお休みをしているのだろうか?

 ロスアンゼルス在住の映画ジャーナリスト、小西未来は外国から日本をそれも愛する日本酒を見る視点は普通の日本人とは異なって来る
ジャーナリストとして企画し始めて監督し、更にクラウド・・ファンディング・サイト「MotionGallery」で製作資金を募って製作して生み出した作品だが、映画経験が浅いだけに素材をそのまま並べる粗いドキュメンタリーになっている。
だが小西のコンセプトやフィロソフィーは伝わる。

「KAMPAI! FOR THE LOVE OF SAKE」のタイトルで世界各国の国際映画祭に出品してその成果を問うている。

映画を見終わるとワイン党の僕も今晩は刺身をうまみに日本酒でと言う気分になる。

渋谷シアター・フォーラムにて公開中

「手紙は憶えている」(Remember)(カナダ・ドイツ映画):家族全員を殺された90歳のユダヤ老人が元アウシュビッツ殲滅収容所の看守長SS隊員に復讐するために老人介護ハウスを抜け出す

$
0
0
 カナダに住むエジプト人監督アトム・エゴヤンの最新作。
作りはB級作品だがエゴヤン作品の中で一番面白く最後の驚愕のドンデンは冴えわたる。

現代のNY郊外の老人介護施設。
軽い認知症が始まった90歳の主人公ゼヴ・グットマン(クリストファー・プラマー)は今朝も目を覚ますと「ルース!」と声を挙げて呼ぶが妻は現れない。

ルースは1週間前に死んで、ユダヤ教の「シヴァ」は明けたばかり。
居間で仲良しのマックス(マーティン・ランドウ)が車椅子で近づいて来る。
「いよいよ実行に移そう」と。
ゼヴもマックスもアウシュビッツの絶滅収容所で拷問を受け家族は皆殺しにあっている。その当事者で収容所のSS看守長を仇討ちをするのは今しかないと言うのだ。

 SSの看守長は刑死しら捕虜の名前と戸籍を盗み「ルディ・コーランダー」と言う名前で北米に潜伏していると言うのだ。
戦後70年、今を逃したらSSの看守は死んでしまう。
命のある内に「命を奪おう」と言う気持ちは分かる。

弱々しいが90歳のゼヴは未だ動ける。
車椅子に縛り付けられたマックスは動きが取れない。
マックスは詳細に年齢経歴などを調べ上げ4人の「ルディ・コーランダー」の居場所と地図を手渡す。

マックスの手引きで介護ハウスを抜け出し、列車に乗ってカナダに向かう。
途中で中古の拳銃と弾丸を購入。

 最初のコランダーはトロント。カナダ国境を超える時に拳銃を発見されないかとヒヤヒヤするがぼけ老人はそのまま通される。

カナダのコランダー(ブルーノ・ガンツ)はナチの料理人でアウシュビッツは関係無かったり、
年が若すぎ軍隊に入っていなかったりと、トロント、オハイオ、アイダホと探し廻る旅は実を結ばない。

夫々本人や家族が証言するがアイダホでは手古摺る。

本人は死んでいるが息子のジョン・コランダー(ディーン・ノリス)がユダヤ人嫌いでネオ・ナチの保安官。
ゼヴを逮捕しようとするレッドネックのシェリフを射殺する。
 撃った本人が驚くほどのまぐれ当たり。
向こうも90の老いぼれにピストルを向けられても屁とも思わずなめていた。

最後はネヴァダ州リノの高級住宅。ようやく捕まえた本物のコランダー(ジャーゲン・プロクチウ)は銃を向けられても慌てない。

ゼヴの息子ヘンリー(ヘンリー・ツェニー)はNYから駆けつけ父親を止めようとする。
コランダーはゼヴに近づき腕を捲りアウシュビッツの刺青の数字を読む。
その数字はコランダーの腕にもある刺青と一つ違いの数字だった。


 修学旅行児童のバス転落事故と弁護士の活躍を描く「スウィート ヒアアフター」(97)でカンヌのグランプリを受けたエゴヤン監督は推理劇も得意のジャンル。
「アララトの聖母」(12)ではトルコのアルメニア人大虐殺の謎を追っている。

この作品はエゴヤンではなくずぶの素人、TVのキャスティング・ディレクターだったベンジャミン・オーガストのデビュー脚本。

エゴヤンの得意ジャンルの推理や過去のホロコーストを盛り込んだオリジナル脚本を監督は気に入ったようだ。

主人公・セヴ役を演じるのは、「人生はビギナーズ」(10)で史上最高齢のアカデミー賞助演男優賞のクリストファー・プラマー、87歳。

不自由な体をで車いすのマックス役は83歳のマーティン・ランドー。やはり「エド・ウッド」(94)で アカデミー賞助演男優賞を授与されている。

そのほか、、ブルーノ・ガンツ、ヘンリー・ツェニーらが脇を固めている。

「ホロコーストの生き残りの老人が家族を殺したナチ残党を見つけ出し復讐する」というストーリーは決
して目新しい題材ではないが最後の5分間のドンデンが見事で作品に花を持たせて終わる。

若い美男美女も登場せず、老人ばかりの退屈な映画だと眠くなるが、保安官を射殺したあたりからのゼヴの活躍に目を見張る。

最近稀に見る興奮する映画だけにお見逃しの無きよう。

10月28日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「セルフレス/覚醒した記憶」(SELF/LESS)(アメリカ映画):覚醒した特殊戦闘能力と大富豪の経験と知性は無敵の殺人集団を叩きのめす

$
0
0
「NYを創った男」と呼ばれる超セレブで大富豪の建築家ダミアン・ヘール(ベン・キングズレー)は、ガンを患い余命半年と言い渡される。
莫大な財産と政財界にも影響を及ぼす権力を手にいれるが死んでしまっては何もならない。
 
映画を見ながら共和党の大統領候補で不動産王ダグラス・トランプを思い浮かべていたが、エンドクレジットでトランプへの献辞が出る。五番街の「トランプタワー」の内部や外部で撮影したことへのお礼だ。

ダミアンは一人娘クレア(ミシェル・ドッカリー)との関係もぎくしゃくしている。クレアの主宰する慈善団体を訪ね巨額の寄付を申し出るがことわられる。

娘にも見放されたダミアンは自らの運命を呪うが、そこへ天才科学者を称するオルブライト(マシュー・グード)が現れダミアンに不死身になれると提案する。

彼のラボ、フェニックス・バイオジェニック・コーポレーションに250M(260億円)を払えば遺伝子操作で新たに創造した肉体に、68歳のダミアンの頭脳を転送するというものだった。
但し別の人間として生きると言う条件。

戸惑うダミアンに「偉大な知性の喪失は人類の損失だから力を貸したい」とのオルブライトに自尊心をくすぐられ、それに後6カ月の余命で失うものは何もないとOKする。

悪魔に魂を売り渡した「くたばれヤンキース」の野球狂の実業家のようなオルブライトの気持ちは観客も共感する。

ラボではMRIのようなかまぼこ型の照射機に通され目が覚めると死んだ自分の横に若い男(ライアン・レイノルズ)が横たわっている。
男の名前はエドワード。両親と姉を交通事故で亡くし身寄りはいない。

公式にダミアンの死が発表され葬儀が行われた後、若いダミアンはニューオルリンズに身を隠しながら休暇をとるようにそして毎日服用するように薬を渡される。

ダミアン生まれ変わりのエドワードは隣に住むアントン(デレク・ルーク)と仲良くなりナイトクラブやスポーツ、スーパーカーで女をナンパし、「若者の青春」を謳歌する。

ある夜、薬を飲み忘れたダミアンは幻覚を見る。かぼちゃの描かれた給水塔のの傍に住む自分の妻と娘が助けを求めている。オルブライトは記憶と感情のもつれからの幻覚だと診断され気分転換にハワイへ行って休養するように命じられる。

ネットで調べたエドワードは給水塔はセントルイスにあると知りハワイをキャンセル、セントルイスへ飛ぶ。

女性はマデリーン(ナタリー・マルティネス)と娘(ジェイニー=リン・キンチェン)でダミアンの肉体はクロ―ンでは無くマデリーンの夫、マークだと言う。マークは特殊部隊の辣腕の兵士だった。

秘密を知られたオルブライトは今や殺人鬼と化したアントンと暗殺部隊を送り込みエドワードの抹殺を図る。

ここからのアクションが山場。マークの特殊部隊の戦闘能力にダミアンの知性と知識を加えたパーフェクトな武器で屈強な殺し屋アントン集団との死闘が始まる。
素手の殴り合い、カーチェイス、銃での撃ち合い、CGを駆使しての凄絶な戦いアクションが繰り広げられる。

主役は「「デッドプール」の大ヒットでスターの地位を確保したライアン・レイノルズ。
「ガンジー」でオスカーを授与され、ナイトの爵位を持つインド系、ベン・キングズレーは73歳を迎え渋い演技に磨きがかかる

同じくインド系のターセム・シン監督はデビュー作「ザ・セル」(00)で注目を浴びたがこれも人間の潜在意識や夢の中に入り込む技術を研究する心理学者の話で似ている。科学的SFアクションはターセム・シンの得意分野だ。

映画の出来はそれほど良い訳ではないが新進スター、ライアン・レイノルズの颯爽とした活劇は結構楽しめる。

9月1日よりTOHOシネマズ シャンテにて公開される。ほでょ

「神聖なる一族24人の娘たち」(CELESTIAL WIVES OF THE MEADOW MARI)(露映画):ヴォルガ河畔の草原に住む独自の宗教と哲学のマリ人。その娘たちの「性」と「生」を描く

$
0
0
 このところ田中角栄ブームだと言う。角栄本が久しぶりに氷河時代を迎えている出版界に賑わいを戻している。
その中でも突出して100万冊近くを売り上げベストセラーのトップを走るのが石原慎太郎の「天才」(幻冬舎:2016年1月刊)だ。

角栄のことは良く知っているようで半分以上は初めて読む話で興味は津々、読み終わてもう一度読み直す。

ただ一人称で書かれていることに抵抗を覚える。行間に厚かましい暴言を吐く慎太郎がチラチラ見えるからだ。伝記小説では慎太郎の「弟」が一番好きだ。裕次郎の人生を愛情のオブラートに包んで届けてくれる。

初恋の新潟の電話交換手「三番さん」とのロマンスにその後女色に溺れる角栄もこんな純愛もあったのかとホロリとする。新潟を鈍行列車で出発する時見送りの人々に隠れホームの柱影を探すが居ない。次の駅で1人佇む「三番さん」に歓喜する角栄に政治家と違う顔を見る。代議士になり遊説中に最前列で赤ん坊を抱いている「三番さん」に気付き微笑みを送る。良い話ではないですか。

総理大臣になり人臣を極めても成るべくして成ったようにさしたる感動も無いように
描写されているがこれは本当だろう。
感想を聞かれた母フメのコメントが良い。

「アニに注文なんてござんせんよ。人さまに迷惑をかけちゃならねえ。この気持ちだけだな」 この母にしてこの子ありだ。

角栄の功績は何と言っても「列島改造」だ。裏日本と太平洋岸を繋ぐ新幹線を走らせ構想宮藤路を巡らし各県に飛行場を作り「地方」を失くす。
それに日中国交。台湾に執着している保守政治家の反対を押し切っての快挙にその後の日本の発展に繋がった。

日中国交回復がアメリカの激怒とするところになり、ロッキード事件を仕掛けられて失墜すると言う慎太郎の推論は面白い。
成るほどそう言えば思い当たる節がある。キッシンジャーもニクソンも角栄を嫌っていただろう。

 榎本運転手の別れた女房の「蜂の一刺し」にはこんなに参っていたのかと思い知らされる。日本に無い司法取引を持ち込まれ逆指揮権発動で実刑判決。

 娘の真紀子は酷い女だ。二子を設けた元芸者の辻和子や秘書の佐藤昭子への仕打ちは人間では無い。
,
 脳梗塞で倒れて担ぎ込まれた病院が飯田橋の逓信病院で,僕は今ここに3週間も入院している。
僕の友人で2年前に亡くなった脳外科医師安藤幸彦は脳梗塞前から長く角栄の主治医で中国で国交回復交渉時も付き添っていたのでエピソードは沢山聞いている。

確かに総選挙時には300億をばら撒くという金権政治を齎した角栄は汚れた政治家だが、素晴らしいのは将来のヴィジョンを持っていたとと言うこと。

今の安倍首相には口は巧いが実行力が伴わず長期ヴィジョンが無い。
清濁併せ持つ角栄のような政治家が現れ閉塞感に満ちた日本を救って貰えないかしら


500年もの間、ヴォルガ河畔で独自の言語と文化を保ってきたMari(マリ)人たち。ロシア連邦の中で際立って特異な民族で、どこにもない宗教、キリスト教やイスラム教からみれば異端なシャーマニズムや、民間伝承を信じている。
マリ・エル共和国はモスクワから643キロ、欧亜大陸の中東部に位置し人口は69万人。

ドキュメンタリ監督のアレクセイ・フェドルチェンコはそんなマリ人に興味を持ちクルーと一緒に1年間、ヴォルガ河左岸の牧草地(草原)マリ人の村に住んで撮影を続けた。

テーマはマリの女性たちの「生」(Fertirity)と「性」(Sexuality).
容貌はアジア人でもない強いて言えばスラブ系の薄茶の髪に白い肌。美男美女は見当たらない。

名前がOから始まる23人の娘たち(邦題は24人となっているが)エピソードがトッ散らかりながら展開する。

夫を選ぶ目を養うためにバケツ一杯のキノコの形を調べるオシチュレーチェ、
小枝のようにか細いオシャニクを豊満な体にするため、裸の身体布を拭くまじないを施すオカナイおばさん、
友達に教えられ夫の浮気を調べるために夫の股間を嗅ぐオーニャ、
男の亡霊たちの気まぐれに乗せられ裸で踊る姉たちを覗き見る少女オルマルチェ。
森に棲む巨人、陰部に囀る鳥が隠れていると呪文で追い払う巫女。

ヘアヌードはふんだんに出て来るが劣情(古いね)を催さない。
デカメロンの世界だ。

監督のアレクセイ・フェドルチェンコは、長編記録映画デビュー作「First on the Moon」(05)で、ヴェネチア映画祭にてオリゾンティ・ドキュメンタリー賞を受賞。
その後、民俗学者であり、作家のデニス・オソーキンと組んで制作した『Silent Souls』(10)は、ヴェネチア映画祭コンペ部門の撮影賞と国際批評家連盟賞を受賞するなど、ドキュメンタリー作家として注目を浴びている。

フェドルチェンコは、四季の移り変わりによって様々に彩られる風景と、世俗的な近代性に染まることなく、独自のフォークロアの中に生きる女性たちの美しさを瑞々しく、鮮やかに描き出ている、
沢山の記録映画を見たがこんな不思議な作品は狐につままれたようだ。

9月下旬、渋谷シアター・イメージフォーラムで公開される

「アンフレンデッド」(UNFRIENDED)(アメリカ映画):女子高生ローラの泥酔した恥ずかしい動画を見て苛めた友達が次々と謎の死を遂げる。

$
0
0
これまで3億部と言われるベストセラー作家のシドニー・シェルダンは本名をシドニィ・シェヒテルと言うユダヤ人。1917年生まれでこの時代の人たちはアングロサクソン風の名前を名乗り(例えばカーク・ダグラスやトニーカーティスのように)ユダヤ人の出自を隠す。

小説家になる前は映画の脚本家で1947年には「独身者と女学生」でアカデミー脚本賞を受賞している。
僕は「真夜中は別の顔」を読んでこんな面白い本は初めてだと思った。映画化された「血族」や「華麗なる相続人」も興奮した。

その内に原作を短く更に翻案したような超訳が出始め、オーソン・ウェルズが吹き込んで英語の教材になってシェルダン本を離れた。

久しぶりで超訳の「運命の25セント」(THE ADVENTURE OF A QUARTER)(アカデミー出版:2016年7月刊)は相変わらずワクワクする。
値段も税込みで1000円ポッキリと言うのも良い。

たった1枚の硬貨が人の運命を変えてしまうという12の短編が収められている。
時代は1950年代から60年代だろうか。舞台は主にロスアンジェルスかニューヨークと言う大都会だ。

 冒頭はオレゴンの田舎から女優になりたくてハリウッドにやって来たローズマリーだがどのスタジオも門前払い、ウェイトレスをしながら頑張ったが夢破れ故郷へ帰るバスのチケットを買ったら無一文、たった一枚残ったピカピカのクォーターを財布に入れアパートへ戻る途中強盗に会い財布を取られる。
たまたまジョッギング中の医師、チャールズが彼女を救う。辣腕の医師は大病院に勤務し院長の娘を貰う事になっていたが気が進まない。救った彼女は(女優を目指していただけに)超美人。一目惚れで結婚を申し込み故郷のアイオワの田舎に戻り開業医となり幸せな一生を過ごす。

65歳のアリスはとても不幸だった。娘が一人いてタクシー運転手と結婚し同居していたが、娘夫婦はアリスから総てを奪う。死んだ夫の生命保険金から立派な家の権利書などすべての財産を甘言でだまし取られる。信じたばっかりに騙される格好になったが、その上娘夫婦は遠いアリゾナの老人介護ホームに入れようとする。ピンピンしているのにそんな年寄だけの使節に入れられるのは嫌だがどうしようもない。施設へ向かう途中でラスベガスで一泊。娘夫婦は老人を置いてご馳走を食べに出かけ手持無沙汰のアリスはスロットマシーンに一枚だけ持っていたクォーターで挑むとこれがジャックポットで50万ドル。
娘夫婦は手のひらを返したようにバカ丁寧にアリスを遇し50万ドルを自分たちに預けろと迫る。
今回は断固として断り世界一周のクルーズに出かけローマで出会った寡夫の老紳士と出会い結婚し幸せな生活を送る。

不幸な例もある。成功している建築会社の共同経営者が会社を独り占めにしようと相手を殺しNY郊外の山林に埋める。深い穴を掘り完全犯罪かと思われたが傍にピカピカ光る硬貨が落ちていて殺人が露見する。
ことがあるものだろうか? 1枚の硬貨が人を大金持ちにしたり、犯罪者にしたり、そんな奇妙なことが? 本書はコイン1枚で人生が一変してしまうさまを描いた実験味あふれる作品である。

 他に愛人と新生活を送ろうとコニーアイランドで自殺を偽装するNYPD刑事、週末休みを利用し会社の100万ドルを盗み故郷のメキシコの小さな村へ逃げようとする会計士、父親から6カ月と期限を着られた青年はノースカロライナの山の中でせっせと最後の原稿を書きNYの大手出版社へクォーターで切手を貼って送る。出版社の名編集長コバヤシは青年の秘められた素晴らしい才能を八卦市その後も面倒を見てベストセラー作家に育て上げる。

 人々は夫々大志を抱いて努力しているがままならないことが多い。それがコイン1枚で人生が思いもよらない方向に突き進んでいく。コインが富をもたらしたり、犯罪の発覚に一役買ったり、命の瀬戸際を救ったりと、様々にコインが大活躍する。

 ご都合主義で嘘っぽいストーリーも心地良くいつの間にかシェルダンの術中にはまっている。新書版の大きさで250ペ-ジの長さであっと言う間に読み終わる。

全編、PC画面上のSNSのみで展開するホラー映画。
ハッキリ言って面白くなさそうだし、ITを題材にした恐怖映画なんて好きになれそうもない。
映画と言うものはTVやPCと違い大きな画面で派手な(派手でなくとも)アクションや芝居でナンボのものだ。

それを最初から最後までPCの狭い画面に閉じ込めてスナフ動画などみせられても興奮しない。
ヴィデオやスカイプだけで表現しようと言うのだから退屈する。確かに画期的な新企画と謳っているが、つまらないから誰もやらないだけ。

それにロケも大仕掛けのセットも使わないし、顔を見たことの無いティーネージャーたち(実際は30近い新人女優達)を使っているので超低予算で済む。
監督ですらCM畑出の新人だ。

邦題は何を言ってるか分からないが原題UNFRIENDEDは友達がいない、と言う意味でネット上で恥ずかしい姿を晒させられて(円楽みたいに)友達が居なくなった状態を指すのだろう。

女子高生ローラ・バーンズ(ヘザー・ソッサマン)は泥酔したときの恥ずかしい動画がネット上にアップされ、それを苦に自殺してしまった。ローラは人気者で友達が多かったが女の子と言うものは、態度一変して苛めに変わるから分からない。苛め(Bullying)の犠牲者だ。

事件から1年。
ローラの友人の一人ブレア(シェリー・ヘニッヒ)はボーイレンドのミッチ(モーゼス・ストーム)とスカイプで親密な会話をしていた。

そこに友人たちからの着信があり、出てもいないのに勝手に繋がってしまう。
不審に思いながらも他の友人たちも加わりスカイプで他愛もない会話を交わしていた。
しかし、その中に見知らぬアカウントが存在することに気付く。

死んだはずのローラのFacebookアカウントからブレアにメッセージが届く。
「ブレア、何を見ているの?」
彼女はミッチとスカイプをする前にYouTubeで彼女の自殺した動画を見ていたのだった。

誰もが悪質ないたずらだと一笑に付したものの、やがてローラの死にまつわる友達や仲間の嘘が、パソコンの画面上で次々と暴露されてゆく。

嘘のひとつひとつが明かされる度に、1人また1人と謎の死を遂げる仲間たち。
これは、ローラ・バーンズのリベンジ、呪いなのだろうか?

VHSテープを見ていると電話がなり見ている人が殺される。
携帯電話に知らない人からかかって来て応答すると死ぬ。
時代が変わるとメディアも進化する。SNSで動画を見ていると死んだローラが現れて死が齎される。

ローラは貞子なのだ。企画自体は独創性も無いコピーキャット。だが狭い小さなPC画面上の展開は観客は飽きてしまうのが難。

「パラノーマル・アクティビティ」などのプロデューサー、ジェイソン・ブラムが製作。
監督はグルジア生まれの46歳のレヴァン・カブリアーゼ。CM界では名が知れた存在だが長編劇映画はこれで2本目。新人女優達を相手に演出で四苦八苦している。

新宿シネマカリテ他で公開されている。

「ダゲレオタイプの女」(フランス・ベルギー・日本映画):モデルは1時間以上身体を拘束機具で固定され苦痛に満ちた古式撮影法・ダゲレオタイプ

$
0
0
 世界のクロサワと言えば一昔前までは黒澤明のことだったが、今や黒沢清が「世界のクロサワ」だ。

「岸辺の旅」で2015年・第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞した黒沢清監督が、オール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた初の海外作品。

 19世紀前半にフランスで開発されたと言う世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」が引き寄せる愛と死を描いたホラーラブストーリー。
と言ってもストーリー自体はホラーでもラブでも底が浅い。
 
 むしろオドロオドロしい「ダゲレオタイプ」と言う、誰も知らないカメラを見つけ出し、その写真技法を描いてそこから無理無理物語を作り出した感がある。

 物の本で調べると「ダゲレオタイプ」写真技法では銀メッキをした銅板などを感光材料として使う「銀板写真」で、ポジティブ画像を直接撮るのが特徴。
つまり普通のカメラは明暗の反転したネガティブ画像を最初に撮り、そこから反転しないポジティブ画像をプリントする。

 ダゲレオタイプは銀板上に定着されたポジティブ画像そのものが最終的に鑑賞に供される画像となる。つまりダゲレオタイプの写真は焼き付けることが出来ないので一枚しか存在しない。

こんなカメラも作品も商業上成り立つとは思えないし、それの専門写真家に弟子入りすると言う想定もリアリティや納得性に欠ける。

 でも世界の黒沢だ、ホラー映画に仕立て上げ、写真家の娘と弟子のロマンスまで絡める。

パリの古い路地に佇む古い大邸宅。周辺は開発工事が広がっている。その屋敷の中にある不穏さを漂わせる空気に満ちたスタジオを職を探していたジャン(タハール・ラヒム)は訪ねる。
そして写真家ステファン(オリビエ・グルメ)の弟子として働き始めることになる。

ステファンはクラシカルなドレスを纏った娘のマリー(コンスタンス・ルソー)を長時間にわたって拘束器具に固定し、ダゲレオタイプの写真の被写体にしていた。

この拘束機具が曲者だ。身体が動くとブレて綺麗な写真が取れない。だからモデルの背後に機具を立て動けないように拘束する。それも60-70分間だ。これは苦痛が耐えがたくなるような映画独特の誇張で精々20分程度が常識だ。

 江戸時代の志士、坂本龍馬などの写真を見ると拘束機具など使っていない。
椅子に座っているか立っている場合は傍のテーブルなどに体重を預けて動かないようにしている。

ステファンの屋敷では、苦痛に耐えかねて庭の植物園で首を吊って自殺した妻のドゥニーズも、娘と同じようにダゲレオタイプ写真の被写体となっていた過去があり、ステファンはドゥニーズの亡霊におびえていた。

マリーに思いを寄せるジャンは、モデルを連日勤めていて、母親の二の舞になることを心配し、屋敷の外に連れ出し一緒に逃げようと提案する。

古式撮影の芸術に取りつかれた偏執狂的アーティストの写真家ステファンのエゴイスティックさ、
父を慕いながらも拘束され続ける撮影に悩み、家を離れ念願のトゥールーズの植物園で自らの人生をつかみたいマリーの想い、

 古式撮影に魅かれながらも愛するマリーとともに生きたいジャンの願い、
そして、撮影スタジオに忽然と現れる、自死したステファンの妻、ドゥニーズの幽霊。

世界最古の撮影を通した愛の物語、愛から始まる悲劇のエンディング。

カンヌ、ヴェネチア、ベルリンといった世界三大映画祭に出品され、ヨーロッパでは高い評価を得ている黒沢清監督。

2015年カンヌ国際映画祭ある視点部門(新人に与えられる)で「岸辺の旅」が監督賞を受賞し、本年も「クリーピー 偽りの隣人」がベルリン国際映画祭に出品されている。
僕は両作品とも高い評価点を与えている。

黒澤監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語のオリジナルストーリーで挑んだ初めての海外進出作品。
だが上述したように無理な前提に不条理な動機、おまけにホラーの筈が少しも怖く無い。明らかに胸を張って映画祭に出せるレベルに達していいない。

主人公を演じるのはジャック・オディアール監督作品「預言者」でセザール賞の主演男優賞と有望若手男優賞をダブル受賞したほか数々の映画賞を受賞したタハール・ラヒム。

ヒロインマリーには「女っ気なし」などのコンスタンス・ルソー。27歳の楚々とした美人だ。
そして写真家ステファンを演じるのは「息子のまなざし」でカンヌの主演男優賞を授与されたオリビエ・グルメ。ベルギー生まれの53歳のグルメはヨーロッパを代表する俳優だ。

10月15日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「四畳半襖の裏張り&Nikkatsu Roman Reboot」(日本映画):日活ロマンポルノの再スタート。43年前の神代監督のスタイリッシュの作品に酔いしれる

$
0
0
入院16日目に初めて外出した。
外国特派員(FCCJ)で「NIKKATS ROMN REBOOT」と題してロマンポルノを名だたる監督たちに撮って貰いその意気込みを聞く記者会見が行われる。

昔の日活ロマンポルノ(RP)のファンとして映画委員としても厳しい外出許可を取って出席をしない訳には行かない。その上女性ながら熱烈なRPに好意的だった評論家、北川れいこさんにも声をかけてある。

 冒頭に日活佐藤社長が何故今ロマンポルノか?を説明する。
RP40周年記念で2010年宍戸錠と代表的作品を上映しながら、世界を廻った。USC(南カリフォルニア大)で「こんなに素晴らしいものをどうして止めてしまったのか?」とかもっと女性に見せるべきだ」と言う意見が続出した。

そこで考えた。日本は世界では稀な現象で、邦画は洋画を圧倒している。邦画花盛りだが実は「自由」と言うものが無い。

日活ロマンポルノは映画界が斜陽になった1970年に一週間の撮影、70分程度の尺、10分に1回の濡れ場、完全オリジナル脚本、それに何より低予算。

この条件を満たしてくれればスリラーでも反体制でも政治でもコメディでもアクションでも何でも良いと監督たちに任せた結果、田中登、神代辰巳、鈴木清順、藤田敏八、根岸吉太郎、小沼勝、金子修介などその後の日本映画を背負って立つ映画作家を輩出した。

今年は45周年。再び若い気鋭の監督五人に依頼して「自由」にRP作品を作ってもらうことにしたのだと。

 5分程度のメイキングを上映した後RPの新作を紹介する。
塩田明彦(「黄泉がえり)「どろろ」など)は「風に濡れた女」、
白石和彌(「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」など)は「牝猫たち」、
園子温(「冷たい熱帯魚」「新宿スワン」など)は「アンチポルノ」、
中田秀夫(「リング」「クロユリ団地」など)は「ホワイトリリー」、
行定勲(「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」など)は「ジムノペディに乱れる」
について質問に答える。

ハリウッド映画を圧倒する邦画に「自由」は無いのかの問いに塩田が簡潔に答える。
「無い」と。
自分のオリジナルの脚本はまず通らない。
原作、それも殆どがコミックで何百万部売れたものとか、TVで当たった特番映画に限定されてしまう。キャスティングも自由はきかない。
売れていて客が呼べる役者ばかり。映画のキャラクターの適否も考慮しない。
ロケも季節も自由がきかない。
スタジオやプロデューサーの言いなり。

中田も同意見だが、メジャーの邦画は資本主義の塊で金が儲かるかどうかが判断基準だ。
因みに中田秀夫のみが往時の日活ロマンポルノ時代に助監督として空気を吸っている。

日活時代の経験や知識、撮影法やテクニックを活かして「貞子」で大ヒットを飛ばしハリウッドに招かれてJ-ホラー作品を何本か撮っている。
このレズを描いた「ホワイトリリー」は釜山映画祭の招待作品となっている。

可笑しいのは園子温だ。
ともかく昨年から「怒って」いる。映画のテーマは何でも「怒り」だ。日活から話が来た時も怒って、断ったらその「怒り」をテーマにロマンポルノを創れと言うから「アンチポルノ」になった。

もっと笑えたのは行定勲。
田舎の中学生だった頃ロマンポルノで映画が好きになった。
今度の日活の提案で「自由」にどんなテーマでも良いと言うから自伝的要素を盛り込んだ[スカトロ企画]を提案したら撥ね付けられた。
「どうもウンコの話はねえ」だと。
ちっとも「自由」じゃない。
そうかと言って少年時代から憧れていたRPはどうしても撮りたいので
サティの名曲をタイトルに「ジムノペディに乱れる」と大逆転の美しいタイトルで勝負したと。

白石は、ロマンポルノは役割を終わったと言う。
70-80年代は男の子たちがRPで「抜けた」。
だが今やAVが本番を見せてそれ以上のことをやっている。
RPのソフトな絡みは抜きたい男には関心が無い。

最近RPをゲリラ的に上映すると観客の6割以上は女性客だ。
ターゲット層を女性に絞ってREBOOTをすれば必ずやブームを巻き起こす。

そんな意味で名匠五人の監督作品の観客動向を精査しロマンポルノを発展させたいと会社側は意気軒高だ。

記者会見が終わり、ロマンポルノの全盛期、1973年の神代辰巳監督の名作が上映される


時代はシベリア出兵に端を発し米騒動が頻発する1918年ごろ。舞台は東京の花街。

芸者の袖子(宮下順子)は初見の客であるにもかかわらず、信介(江角英)の手練手管に喘ぎっぱなし。置屋の女将から早く「イカせて」とっとと帰って来るのだよの忠告も無視して袖子は何べんも「イキ」最後は信介のあそこを刺激して抱き続けて貰う。

今じゃ単なる「67歳の糞婆あ」の宮下順子もこの時23歳。「恥ずかしい!」を連発しながら段々積極的になり全裸で色んな体位に挑む宮下は実に色っぽい。潤んだ目が良い。絡みのシーンには黒幕が局所を覆う。それもオーバーな長方形や四角の黒幕なので興を削ぐこと著しい。

この延々と続く絡みがベースの低音通奏となり芸者たちのエピソードと米騒動の社会現象が挿入される。

芸者の花枝(絵沢萠子)と花丸(芹明香)はお茶をひき、女二人で絡み合うレズビアン。
芸者の夕子(丘奈保美)は幼馴染の幸一(粟津號)との逢瀬を楽しみたいのだが、
陸軍一等兵の幸一には時間が無い。
お座敷で着物の端をたくし上げ尻を突き出した処を幸一がパンツを脱いで突き刺す。

お座敷芸で全裸の芸者が積み上げた硬貨の筒に腰を落とし、コインを一枚づつ落として行く。
最近は見かけないが昔は流行った芸者芸だ。

太鼓持ちの山谷初男が、旦那の命令でクビをくくらされて死に損なうとか。山谷も45年前はなかなかのイケメンだった。

神代辰巳のスタイリッシュな前衛的画面は今見ても時代を先取りしている。
翌年のキネマ旬報ベスオ10に選ばれた。

この後、同じ宮下順子主演で「赫い髪の女」(79)はロマンポルノの代表作と言われる。

11月より新宿武蔵野館にてご監督作品は順次公開される

「闇金ウシジマくんPart3」(日本映画):金に困った客たちは10日で5割、1日3割との超高利でもウシジマ君に助けを求める

$
0
0
神経内科でパーキンソン病の治療と投薬が一段落したとこで、29日(月)に四半世紀悩まされ耐えて来た脊柱管狭窄症の手術を受けることにした。
実は11年前の2005年5月にMRIやX線などすべての検査が終わりさあ手術だと言う時に「敵前逃
亡」したのだ。

大きな手術、それも失敗すれば下半身不随になるようなチャレンジはとてもできない、チキンハート。
MRIの結果が脳神経外科に廻され診察室に伺うと紛れも無く逃げてしまったの川本先生だ。
11年前と同様シェイプされた体躯に優しい言葉。私のことはしっかりと覚えていらっしゃった。今回は逃げませんよと宣言をし、今日は朝から先生の手術の説明と同意書のサイン。

「僕は800人ほどオペをしたが失敗例は皆無」だが人間のやること「もし失敗したら下半身が不随」と脅かされる。

脊柱管に沿って脳からの馬尻神経(馬の尻尾のような房)脊柱管最深部で椎間板の膨隆、黄色靱帯の肥厚、 椎間関節の肥厚変形など、背骨に加齢に伴う変化によるものだと言う。難しい言葉は覚えられないがMRIの断面図を見せながらの説明は分かり易い。
馬尻神経を圧迫している個所の管を2.5倍に拡大すると言う。説得性のある説明で不安は吹っ飛ぶ。

それからの検査や準備が大変。心電図、超音波検査、X線、CTスキャン。血液凝固チェックなどなど。
 ブログを書く暇が無い。

世の中お金に困った客たちで溢れている。
10日で5割、時には1日3割というとてつもない金利で金を貸し付け、返済が少しでも滞る債務者には容赦し
ない手段で回収する闇金「カウカウファイナンス」

武富士やSFCJが立ち行かなくなった今の法律(貸金業の祖量規制や利息制限法)では間違いなく違法で「おそれながら」とお上に訴えたらカウカウファイナンスなどは一発で倒産だ。
しかし漫画の世界、真鍋昌平の人気コミックではウシジマ君は闇金の世界で生き延び思う存分の活躍をする。

どこの闇金でもお金を借りられなくなった客に、違法な利子で金を貸す「「カウカウファイナンス」は丑嶋薫(山田孝之)を頭に、右腕で幼馴の柄崎(やべきょうすけ)元ホストのイケメン、高田(崎本大海)。外部からはウシジマの幼馴染で情報屋戌亥(綾野剛)も友だちを助ける。

ウシジマ君の山田孝之は小太り貫禄十分で顎髭で威圧するキャラクターを熱演する。ハンサムでもないし二枚目は無理かなと思う芸達者、このキャラは山田以外では考えられないはまり役だ。
カウカウファイナンスに最後に頼らざるを得ない人間はダメ人間、負け犬だ。

フリーターで食いつなぐ沢村真司(本郷奏多)はある日、「ネットで秒速1億円を稼ぐ」と言う天生翔
(浜野謙太)の広告を見かけ、「誰でも稼げる」というセミナーに半信半疑で参加した真司は、人生の一発逆転を狙った億単位のマネーゲームに巻き込まれていく。

妻がいながらキャバクラに通うサラリーマンの加茂守(藤森慎吾)は、美人キャバ嬢,花蓮(筧美和子)を落とそうと躍起になっている。会社では人事査定を改ざんして蹴落とした同僚に不倫を嗅ぎ付けられたと思い金で解決しようとする。
加茂の前に突如ライバルの女闇金の犀原茜(高橋メアリージュン)が部下、村井(マキタスポーツ)を連れて現れる。

どうにも行き場所が無くなったダメ人間にウシジマ君は「無情」にも金を貸してやる。

この堂々と開き直ったピカレスク(悪漢)映画は結構楽しめる。

9月22日よりTOHOシネマズで公開される。

「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」(JANIS:LITTLE GIRL BLUE)(アメリカ映画):友達も居ない孤独な天才歌姫はドラッグに溺れ27歳の絶頂期に夭折する。

$
0
0
「27クラブ」(27Club)と呼ばれる、著名なミュージシャンたちが呪われたように、油の乗り切った「27歳」で死んでいる。

「ザ・ローリング・ストーンズ」のブライアン・ジョーンズ、
「ニルッヴァーナ」のカート・コバーン、
シンガーソングライターのジミ・ヘンドリックス、
「ドアーズ」のジム・モリソン、
RMのシンガーソングライターのエイミー・ワインハウス、

そしてこの映画の主人公、ジャニス・ジョップリン。
死因は病気だったり、プールで水死したり、ホテルの部屋での突然死だったりまちまちだがジャニスの場合はその頃アーティストの間で大流行していたドラッグの過剰摂取だった。

「27クラブ」にジャニスの他にもう一人の女性がいる。
時代も40年のへだたり、国もアメリカとイギリスと違うが「エイミー・ワインハウス」がクラブ・メンバーだ。

エイミーはジャニスが居なければ存在しなかった。ジャニスの生き様を真似しシンガーソングライターとしてジャニスを師匠としていた。
二人ともドラッグとアルコール依存症で酒瓶をはなさなかった点も似ている。

映画「AMY」の方が1年ほど先に公開されている。
どちらもドキュメンタリー映画で時間をかけて関連フーテージを集め、本人や関係者のインタビュー、そ

ジャニスの場合はプライベートな家族や恋人に宛てた大量な手紙を丹念に収録している。
淋しがり屋の癖に社交的でないジャニスは手紙を書く相手も少なく少数の人たちに宛てどっさりと自分の音楽現状や心理状態を書き綴っている。

エイミー・バーグ監督は記録映画専門作家で社会性の強い「フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜」(アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネート)ほか6本の作品を送り出している。

ナレーションをキャット・パワー(Cat Power)ことショーン・マーシャルに担当させ、スタイリッシュを排し保守的でスタンダードな記録映画になっている。

 思い出すのはベット・ミドラー主演の映画・名作「ローズ」だが、ジャニス・ジョプリンがモデルとなっている。
ドラッグでフラフラになりながら途切れ途切れ「Let Me Call You Sweetheart」をアカペラを歌い終わってステージで倒れるマーク・ライデル監督の演出する冒頭のシーンが印象的だった。

映画と違い、ジャニスはジャンキーだったしアルコール依存症だったが一旦舞台に上がると音程も歌詞も間違えることは無かった。

1969年のウッドストックのステージでフラフラと袖から覚束ない足でマイクを掴むと凄い迫力で歌い始めるシーンをとらえている。

 1943年1月19日、ジャニスはテキサスの保守的なド田舎の小さな町、ポート・アーサーで、ごく普通の中流の家庭に生まれた。

ニキビだらけで普通以下の容姿(ブス)へのコンプレックスや元来の内気で繊細な性格ながら反抗心だけは旺盛でクラスメートから嫌われ苛めを受け孤立を深めていく。

公民権運動の黒人差別撤廃のデモに参加したりしてコンサーバティブな近隣の人々からも嫌われている。
母親は「20歳に成るまでにお前は刑務所にいるか犯罪人になっている」と見放されていた。

驚くのは高校卒業10周年同窓会に有名人になったジャニスが出席しても誰もはなしかけず「シカト」している風景を同行しているTV番組のカメラが捉えている。

中学生時代、偶然歌ったことでその声が絶賛され教会の聖歌隊に入るが反抗的でグループの規律を乱すと追い出される。ジャニスの「三つ子」の魂や性格は直らない。

テキサス大学生の頃フォークやロックに出会い自分でも歌い始める。

そして1963年、大学3年で退学した22歳のジャニスはヒッピーやフラワー・ムーヴメントの中心地サンフランシスコへひとりで行く。ノースビーチヤヘイト・アシュレーに住む。

そこでハスキーで圧倒的な歌唱力の歌手としての存在感を認められ、男性グループ「ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー」に女性ヴォーカリストとして加入する。

オーティス・レッディングがジャニスの歌声を聴いて「本当に白人か?」と洩らしたと言う。
確かに黒人のソウル・シンガーを凌駕する迫力あるシャウトする歌声だ。

1967年、「モンタレー・ポップ・フェスティバル」での腹の底から魂を歌い上げる絶唱のライブで観客を熱狂の渦に叩き込み、マスメディアを興奮させ一夜にしてスターダムにのし上がる。しかしジャニス自身はボブ・ディランに出会ったことで大感激をしえいる

その後どのギグも超満員のファンで溢れ、1969年のウッドストック・フェスティバル、

1970年の列車に乗ってカナダを横断しながら行うツアー「フェスティバル・エクスプレス」など精力的に活動するようになる。

 誰にも相手にされないテキサスの田舎町から大都会、サンフランシスコのポップ・カルチャーのアイコンに変身する様は芋虫から大アゲハ蝶に脱皮するのに似ている。

 60年代後半の公民権運動やベトナム反戦運動、ウーマンリブなどカウンターカルチャーが吹き荒れる激動時代のアイコンとしてミリオンレコードも出し総て順調だった。

しかし1970 年 10 月 4 日、アルバム「パール」のレコーディング中にヘロインの過剰摂取で宿泊中のモーテルの一室でベッド脇に倒れているのを顔を見せないのを訝ったレコーディング・ディレクターに発見される。

遺族、特に妹のローラと弟のマイケルの全面協力により、バンドのメンバーや親しい友人、昔の恋人、家族ら身近な人々からのインタビュー映像と、家族や恋人に宛てた個人的な手紙を基に、ディーバでなく、一人の普通の若い女性としてのジャニス・ジョプリンを紹介する。僕らの知らないジャニスの裏面は驚きの連続だ。
 アーカイブ映像では、ジョン・レノン&オノヨーコ、ピンク、ジュリエット・ルイスなどもジャニスのことを語る。

シンガーソングライターとして自作の曲をふんだんに盛り込むが僕には知らな曲ばかり。
ただガーシュウィンの「サマー・タイム」とクリス・クリストファーソンの「ミー・アンド・ボギー・マギー」は覚えている。
何れもカバー曲ながらジャニスが大胆な編曲と特異な歌唱法でオリジナルを完璧に離れている。

「AMY」と言い「JANIS」と言い27歳で夭折した天才的歌手は映画の中から観客に歌いかけ魂を揺さぶる。

2015年ヴェネツィア国際映画祭、トロント国際映画祭、ロンドン映画祭正式出品作品。

9月10日よりシアター・イメージフォーラムにて公開される

「エブリバディ・ウオンツ・サム 世界はボクラの手の中に」(EVERYBODYWANTS SOME)(アメリカ映画):テキサスの大学に奨学金を受け野球部寮に足を踏み入れた主人公に先輩たちの手荒い歓迎

$
0
0
1960年テキサス州ヒューストン生まれのリチャード・リンクレイター監督の一連の作品には繋がりがある。
3作目の「バッド・チューニング」(93)は70年代の高校卒業式前夜を描いた出世作、6歳の少年の実際の12年間を描く「6歳のボクが、大人になるまで」(14)では最後のシーンは大学に入るために故郷を去る主人公。

そしてこの映画では野球奨学金を受けて大学野球部の寮に入り先輩たちに新入生歓迎の荒っぽい儀式を受ける3日間を描く。何れもテキサスの小さな町が舞台だ。

その後、卒業し成人になってヨーロッパを旅する男と列車で出会う女とのロマンス。別れそして再会の「ビフォア~」の三部作と通じる。
これも1995年から2013年の18年間の長丁場のストーリーだ。
 
リンクレイターは世界中の映画祭での受賞は数えきれないが、LAに移らずテキサス州オースティンに居を構え活動している。

ヒューストン生まれのリチャード・リンクレイターは実生活では高校時代は有望な野球選手として奨学金を受け、サム・ヒューストン大学へ進学する。
嘱望されたアスリートだったが故障で野球を断念せざるを得なかった。そのお陰で映画に専念し現在のリンクレイターがある。

この映画は1980年代の大学野球部を舞台の青春群像劇はリンクレイターの自伝的映画。
演じるのは無名の新人ばかりで誰も名前も顔も知らない。
それに野球部と言うのに野球の試合は一つも無い。

 フィールドでの練習も少しだけで,殆どが新人苛めや酒を飲みポットを廻し、大学女子寮から女子大生をハントしてのセックスに明け暮れる3日間の乱脈生活の青春グラフィティだ。
 寮長が「連れ込んでセックスするのは良いが二階の個室はダメだ.1階のリビングルームでやれっ」てどんな大学寮だ。

1980年秋。サウスイースト・テキサス大学(Southeast TexasUnversity)(仮想)野球チームの一年生のジェイク(ブレイク・ジェナ-)は72年型オールズモービル・クーペをころがして古びた野球部の寮にやって来る。

 先輩は夫々仲間意識で迎えるのと敵意むき出しの挨拶するのとマチマチ。ジェイクに向けてでは無いが「俺は外野手だからピッチャーは嫌いだ」なんてへそ曲がりも居る。

野球部だと言うのに黒人はデイル(クイントン・ジョンソン)だけ。南部テキサスと言う特殊の黒人差別州のせいだろうか、35年も昔はこんな状況なのだろう。
デイルはナイスガイで仲間同士上手くやれるような配慮もする。

成績証明書の偽装など朝飯前、コーチに呼ばれて30歳を過ぎた年齢がバレ練習場の仲間に挨拶をして去っていく仲間など様々なエピソードが挿入される。

ジェイクが初めて出会う異種人たちとの新たな友情関係、そして数々のハチャメチャ行動は日本人観客にとっても興味が湧く。

ベトナム戦争はとっくに終わり、イスラムのテロの脅威も未だ無い、のどかな時代にノビノビと野球を楽しんでいる。

バックに流れる懐かし曲は80年代リンクレイター監督の好きだった曲のオンパレード。特にヴァン・ヘイレンの「Every Wants Some!!」が映画のタイトルになっている。
「何でも欲しい、やりたい」と言う当時の若者の気持ちを良く表現しているとリンクレイターお薦めのナンバー。

出演はテレビシリーズ「glee」のブレイク・ジェンナー、「ヴァンパイア・アカデミー」のゾーイ・ドゥイッチ、テレビドラマ版「ティーン・ウルフ」のタイラー・ホークリンなどTVの新人俳優だけに日本では知名度が無いのが興行成績にどう響くだろうか。

11月より新装改築なった新宿武蔵野館で公開される。

「はじまりはヒップホップ」(HIP HOP-RATION)(ニュージーランド映画):平均年齢83歳のニュージーランドのダンスチーム「ヒップ・オペレーション・クルー」は南太平洋を飛んでラスベガスのヒップ

$
0
0
今朝、これから手術を受ける。
看護師が迎えに来て3階の手術室に向かう。
腰椎脊柱管狭窄症で「部分椎弓切除術」と言うややこしい手術だ。
2時間半かかって昼前にはバイタル・メーターを付けて病室へ戻される。
担当医の川本俊樹先生は「今まで800人手術をしたが失敗例は一例も無い」と自信たっぷりに仰って下さり僕を安心させる。

一昔前の2005年5月、術前のMRIやX線などあらゆる検査を終えてさあ手術と言う前日に逃げてしまったことを良く覚えていらっしゃる。
脊髄にメスを入れられるのは何とも怖い。
しかしもう3週間以上も入院していると幽閉され状態で逃げようが無い。



地球の下側、ニュージーランド東部の人口わずか8,000人の島ワイヘキ。
のどかな島で誕生した平均年齢83歳の世界最高齢ダンスグループ「ヒップ・オペレーション」の挑戦を活写する元気の出る映画だ。

どこかでこんな映画を見たなと思い出したのが5-6年前の「YOUNG@HEART」
ただしダンスでは無くて高齢者コーラスグループのドキュメンタリー映画だ。

アメリカ・マサチューセッツ州の「ヤング@ハート」の練習風景、団員へのインタビューでその経歴やコーラスに参加した動機などを尋ねたり、ついこの間まで元気に歌っていたメンバーが亡くなった悲しみ、そしてコンサートの模様などを描いている。

ヒップホップの素人老人に比べ35年の歴史を誇るプロ集団だ。
音楽監督と指揮を担当するボブ・シルマンが、地元ノーサンプトンの公営住宅ウォルター・サルヴォ・ハウスに住む高齢者を集め、ロックやR&Bを歌うというコンセプトで結成された歴史を持つ。世界巡業でオーストラリアや日本にも来ている。

だから同じようなコンセプトで世界最高齢のダンスチームが、ヒップホップの世界大会目指して奮闘する姿などはまるで想像もつかない。

歌なら老人でも声を出せば良いが、ダンスそれも激しく動き廻るヒップホップなど踊れる訳が無い。
平均年齢83歳のダンスチーム「ヒップ・オペレーション・クルー」はニュージーランドから遥々南太平洋を飛んでラスベガスで開かれる世界大会に挑戦するとは冗談の世界だ。

だがこれは絵になる、映画に撮れば人々の興味をかきたてる。

超個性的なメンバーたちのエピソードも面白い。
94歳のメイニー・トンプソンは最年長で島のアイコン。さすがに身体にガタが来て踊れない。
テリー・ウーエウモア=グッドウィンは結婚生活70年を超える主婦。
認知症の夫を病院に見舞う方々ダンスに明け暮れる。

ローズマリー・マッケンジーは初期からのメンバーだが視力が落ちて盲ら同然。
元オペレッタ歌手のアイリッシュ・エヴァンスは元気一杯。
「この年(74歳)になっても楽しめるものがある」と一番熱心だ。

振り付けを考えるのも一苦労。
マネージャー兼振付師のビリー・ジョーダンが、文字通り手とり足とりをして教えても、
ダラダラ踊る老人たちに目標と動機を持たせようとラスベガスで行われる世界最大のヒップホップダンス大会への出場を提案したのだ。

耳慣れないアップテンポのリズムに、若い頃のように自由に動かないポンコツ体。
持病もあるし、家族にも迷惑をかける。
ラスベガスまでの旅費も、パスポートもない。

前途多難ではあるけれど、それでも老人たちには失うものは何も無い。
死ぬ前に冥途の土産に一発やってやろうと言う「勇気」を奮って大会へやって来た。

映画の中では曖昧にしているが、大会では正式参加では無い。
エキジビションでステージに上がる。
そうでしょう。
予選を勝ち抜いた世界の若者のヒップホップに敵う訳もない。

老人たちは本場の舞台をエキジビションでも踏めたことで欣喜雀躍。その喜びようが微笑ましく、この映画のクライマックスになっている。

長編劇場ドキュメンタリーなど経験の無いブリン・エヴァンスは、フォトジャーナリストとしては国際的なキャリアを積み、テレビのドキュメンタリーを撮ったがコンセプトが受け数々の映画祭でドキュメンタリー作品賞や観客賞を授与されている。

あんなヨボヨボ婆さん達がヒップホップ(マガイだが)を踊るのを見ると、老け込んでしまっている自分も未だやれるんだ、と元気が貰える映画だ。

シネスィッチ銀座で公開中

「エミアビのはじまりとはじまり」(日本映画):「笑いと死」と言う重いテーマをお笑いのコンビの悲喜劇を通して描く

$
0
0
 手術の翌日。体中チューブやらカテーテル、バルブ(小水排出用)酸素マスクなどに繋がれて、身体はベッドから動かせないので、日曜日に書いた予定原稿を掲載する。

最近読んだ本で小保方晴子の「あの日」(講談社:2016年1月刊)は渦中の人物だっただけにマスコミに登場しなくなって1年になり、その心境を吐露する手記は興味を持った。

「あの日」は、15章・253ページで構成されており、小保方の幼少時代から現在に至るまでが克明に綴られている。

前書きでは、一連のSTAP細胞騒動について「世間を大きくお騒がせしたことをおわびします」と謝罪し、自らの視点、自らの言葉で、騒動の過程を詳細に説明している。一時は、その重すぎる責任から自殺まで考えたと述べている。

さらに「あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、いつからやり直せば騒動を起こさなかったのか」と自問している。これが手記のタイトル「あの日」の由来だろうか。

前半はサクセスストーリー。
小保方晴子は研究者としてのキャリアは、早稲田大学大学院からスタート。再生医療を研究テーマに選び、博士課程修了後にはハーバード大学にも留学。夢のようなエリートコースだ。
ハーバード大のバカンティ教授から研究発表を指名され、彼のアドバイスから、後のSTAP細胞のアイディアの基本部分を得たという。

小保方は2011年4月に理研CDBに入所し、若山照彦博士の研究室に配属され恩師と出会うことになる。この
時代は蜜月期間だがやがて「恩師」は「不倶戴天の敵」となるとは考えも着かなかった。
若山研究室で小保方は、STAP細胞の存在を裏付けるキメラマウスの作製を何度も試みたが失敗に終わり、

「キメラマウスは作製できない」と結論付けようとした。
しかし、若山教授が諦めず、独自の方法で実験を続けたのだと。
理研の時の恩師で後に山梨大学教授になる若山が、問題が発生すると、ガラリと態度を変え彼女を裏切り敵となって小保方を叩く。

小保方を最後まで擁護した理研の上司、笹井博士は自殺してしまう。
マスコミの攻勢と悪意ある報道が心身ともに小保方を痛みつける。
特に毎日の須田桃子と名を挙げて非難している。NHKの藤原淳登も悪辣だ。
何れも理研内部に人脈を持ち秘匿資料や内部の方針などをリークし、それを増幅する報道がフィードバックされてバッシングに発展する。

理研の最後の記者会見で「STAP現象を発見することは出来なかった」でチョン。おまけに多数の共著なのに「ネイチャー誌」投稿費用60万円まで払わされる。
「体細胞が多機能マーカーを発現する細胞に変化する現象」は確認済みで「STAP細胞はあります!」の発言は開き直りながら立派だ。

とどめは9年間通った早稲田大学から博士号をキャンセルされたこと。
最初から世論に押された「結論ありき」で、要求通り何度修正しても形式だけの遣り取りで冷たい宣告を受ける。

「こうして私の研究者の道は幕を閉じた」と万感の思いで結んでいる。

手記を読み終わってもSTAP細胞の有無は確認できないが、昨日の友が手のひらをかえしたように今日の敵になる恐ろしさとマスコミの「偽造」と決めつけた一方的な報道の暴力をまざまざと感じる。


渡辺謙作は脚本家だと思っていたら監督もやるんだ。
「フレフレ少女」は渡辺の作品だと思い出した。野球選手に恋をした高2の主人公が不純な動機で応援団に入部する「フレフレ少女」は良く出来た作品だったが、それ以来8年ぶりの監督作品だと言う。

渡辺が脚本でハイライトを浴びたのは「舟を編む」で第37回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した。
ただしこれは脚色賞とすべきだ。原作があれば脚色、無ければオリジナルなら脚本賞。日本映画は混同している。脚色と脚本はその価値が全く違う。

お笑いの世界を描いた作品は多いが、シラケるのは映画そのもので無く、漫才のネタやオチの平凡で詰まらなさだ。

「火花」なんて短い小説から連続10作品制作するが増量剤に絶えず漫才を挟み込む。そしてネタの詰まらなさに映画のレベルは高いのに引きずりおろしてしまう。

この映画は焦点が「死と笑い」というフィロソフィカルなコンセプトに当てていてそれは成功しているが、やはり笑いのネタは平凡だ。

ボケ役の海野一哉(前野朋哉)と茶髪ロンゲに実道憲次(森岡龍)による若手漫才コンビ「エミアビ」は人気が高まりつつあったが、海野は同乗していた婚約者の雛子(山地まり)と一緒に自動車事故で死んでしまう。

嵐のよる、海野はマネージャーの高橋夏海(黒木華)を連れ立って黒沢拓馬(新井浩文)に会いに行く。
黒沢は海野と共に亡くなった雛子(山地まり)の実兄で数年前まではお笑い界におり、「エミアビ」にとっては先輩であり恩人でもある存在だった。

両親の交通事故死をきっかけにお笑いから足を洗ってしまったのだ。

夏海は黒沢に芸能界に復帰して海野とコンビを組んで貰えないかとお願いするのだった。

10年来の相方を亡くした実感がわかず、涙が出てこない実道。
黒沢はそんな実道に「エミアビ」の大ファンだった雛子のために遺影の前で、もう一度ネタを見せてほしいと言う。
実道は遺影を抱いた黒沢を前に一人ネタを披露するが、黒沢はダメ出しし続ける。
「死ぬ気でやれ!死ぬ気で笑わせろ!」と怒鳴りまくる黒沢。
どうしても黒沢を満足させられない実道の前に「ドッキリカメラ」の看板を持った夏海が飛び込んできて黒沢は笑い転げる。

強制的に「笑わせる」シーンは映画のそこここに現れるツボだ。
生前、海野と雛子は土下座してプロポーズの最中に三人組のチンピラに襲われる。雛子を庇い金属バットで滅茶苦茶に殴られても「何でもしますから!」とネタを色々披露するが笑わせられない。

すると海野は空高く「跳んで」見せる。チンピラは笑い転げて去って行く。
黒沢は夫々別のコンビを組んでいた海野と実道に「お前ら組め。二人だったら跳べるぞ!」と言う。物理的に跳ぶこととお笑いでブレイクすることがこの映画のキーワードとなっている。

漫才コンビ「エミアビ」実道役を「見えないほどの遠くの空を」などの森岡龍、海野役を「鬼灯さん家のアネキ」などの前野朋哉が演じている。森岡も前野も主役は荷が重い。
「百円の恋」などのベテラン新井浩文は流石に上手い。
他に「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華や新人、山地まりらが脇を固める。

9月3日よりヒューマントラスト渋谷にて公開される
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live




Latest Images