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「エンド・オブ・キングダム」(LONDON HAS FALLEN)(米・英映画):アメリカ大統領が国葬でロンドンを訪問中、アラブのテロリストたちが襲い掛かる

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品川プリンスホテル・アネックスのボウリング場上の3Fにある映画館が「T・ジョイPRINCE品川」と名称を変え4月より新装オープンしたと言うので出かけた。

 新幹線も止まるし常磐線の始発駅にもなりハブ駅として品川には人が集まっている。
帰りにシンガポール・シーフードやオイスターバー、つばめグリルなどを覗いたが何れも一時間ほど待たされることになるので駅ビルのバーでパテとハンバーグをつまみにワインを1本開けた。

「T・ジョイPRINCE品川」は驚いたことに座席が従来より2割ほど広くキヨスクで買った飲み物や軽食が置けるサイドテーブルが大きいし、座り心地もラクジュリアス。

 残念なことにIMAXはなくなったが、贅沢なアベックシートなどそなえたZEROを入れるとスクリーン数は11、1913席のシネコンプレックスになっている。座席数は最小96席から多くて219席、シアターZERO・273と上映フィルム数を多く見て貰える11スクリーンは観客サービスに徹している。

昨日(11日)の5時35分の回は4割程度の入りだが2週間を経過しても
これだけ入っているのは立派だ。

むかしから歌われている童謡に
London Bridge is falling down,
Falling down, falling down.
London Bridge is falling down,
My fair lady.
(ロンドン橋落ちる 落ちる 落ちる
ロンドン橋落ちる 可愛いお嬢さん)
がある。

この映画のタイトルはこの歌を連想させるし実際「ロンドン橋」はテロリストが爆破しててムス河に落っこちてしまう。

 3年前に「エンド・オブ・ホワイトハウス」(Olympus has Fallen)があった。
大統領を人質にホワイトハウスを占拠するテロリストたちを相手に、元シークレット・エージェントの男マイケルがたった一人で戦いを挑む。

 マイケルはホワイトハウス周辺を担当する警備員。独立記念日を迎えたホワイトハウスをアジア人のテロリスト・グループが占拠し、大統領の解放と引き換えに日本海域からの米海軍撤収と核爆弾作動コード開示を要求する。
シークレットサービスのマイケル(ジェラルド・バトラー)と同様に大統領ベンジャミン・アシャー(アーロン・エッカート)、副大統領はモーガン・フリーマンと前回と同じ顔ぶれだ。

監督も引き続き「トレーニング デイ」「ザ・シューター/極大射程」などのアクション得意のアントワーン・フークア。

イギリスの首相が就寝中に謎の死を遂げ、ロンドンで行われる国葬に、世界72カ国の首脳陣が出席することになる。
アメリカ合衆国大統領ベンジャミンも当然盟友国の首相の葬儀に出席することになる。

 2年前にアジア人テログループによるホワイトハウス陥落に立ち向かったシークレットサービスのマイケルも彼を護衛するために同行する。各国首脳がロンドンへと結集する中、彼らをターゲットにした同時多発テロが発生する。


 冒頭のシーンは中東の何処か。アラブの部族長の娘の結婚式にテロリストを狙ったアメリカの巡航ミサイルが命中し親類縁者が絶滅する。
花嫁の父と二人の息子が生き残り、サルタン・マンスーン(メーディ・デ-ビ)の指揮の下、アーミール(アロン・アボウトボール)とカルラン(ワリード・ズアイター)兄弟がアメリカへのリベンジを誓っていた。

 イギリス首相を毒殺し国葬で世界の首脳をロンドンに集めて大統領にリベンジすると言う、どうもまどろっこしい復讐劇だ。
それならワシントンDCに飛び、ホワイトハウスに忍び込めば済むことだが、そうすると前編と同じ筋書きになるから避けたのだろう。

 テロリストたちは黄色のユニフォームのロンドン市警官や赤い上着に熊の毛皮の帽子 (Bearskin)のバッキンガム宮殿近衛兵に扮しているg突如テロリストに変身して各国首脳を襲う。
 日本の中島首相(役者名不明)はロンドンブリッジを渡っている最中に橋が爆破されテムズ河の藻屑となる。(警備も無しにリムジンを運転する男と首相だけと、これもアリエネー)

 ロンドン塔、ビッグ・ベン、セントポール大聖堂、タワー・ブリッジなど歴史的建造物が次々と爆破され崩壊し、無数の犠牲者が続出する。各国首脳もテロリストの襲撃で命を次々と落とす。

 生き残ったのはアメリカ大統領とイギリスの新首相のみ。
大統領を追うカーチェイスが始まり、ヘリでエアフォースワンに向かう途中もテロリストの追撃で随行員が次々と倒れ、飛行場へは諦め森を抜け街中へ戻りMI-6の支部へ隠れるがここもテロリストは目を付けていた。

舞台はアラブの都市では無い。
自由世界の真っただ中のロンドンが完璧にテロリストたちの支配下になり、二人だけになったベンジャミン大統領とシークレットサービスのマイケルだけとは信じ難い。

 映画の始めに二人はホワイトハウスの廻りを毎日ジョッギングでトレイニングしているシーンが出ていたが、鍛えた健脚はテロリストを出し抜くには役立つ。

 マイクとベンジャミン大統領を襲うてロリスたちは執拗だ。あらゆる種類おの火器にRPGロケット砲や手榴弾、ミサイル何でもありの攻撃は凄まじい。
唯々逃げ回るだけの映画で、裏切り者はホワイトハウスの中の一人居るが、それもアッサリばれて書分っされる。
余りに単純でシンプルなストーリーだ。

 アラブのテロリストが世界の隅々まで浸透しているならワシントンDCのマイケルの家で臨月を迎えている妻を襲う筈だがそんな気配は毛頭ない。

 副大統領はホワイトハウスで銃後をしっかりマネージし適切な命令を下し、マイケルは身を挺し手大統領を守り切る。
そして、サルタン・マンスーン親子はマイケル達に殲滅される。

次々と爆破される建造物、市街地での銃撃戦やカーチェイスなど壮絶な見せ場の連続に息つく間も無いが終わってみれば、ハッピー・エンドのB級アクション映画。時間つぶしに十分で堪能する。

T・ジョイPRINCE品川他で公開中

「X-MEN:アポカリプス」(X-MEN:APOCALYPSE)(アメリカ映画):「俺たちは一人でない!」とプロフェッサーXは叫ぶ。神=アポカリプスにX-Menが力を併せて立ち向かう

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ウォルトディズニーがマーベルコミックスの映画化を独占する中、ソニー映画が「スパイダーマン」フォックスが「X-MEN」を死守しドル箱として次々と映画化している。

「X-Men」が世に出てはや15年。
過去9作にわたって製作されたシリーズもついに完結を迎える。

前作を最後に生まれ変わった新たな世界で、ヒーローチーム「X-MEN」誕生を描くのが最新作「X-MEN:アポカリプス」。
前日譚を描いた「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」や「X-MEN:フューチャー&パスト」のシリーズの続編。と言っても紀元前3600年から5000年を経た1983年。
だから現代より33年も前だ。登場するミュータントは総て若い。

プロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアは禿の車いすの老人、パトリック・スチュワート(76歳)と相場が決まっているのだが、年代に合わせると36歳のジェームズ・マカヴォイに任せなければならない。
プロフェッサーXはミュータントと人類の共存のために学園を創設したばかり。若いミュータントとX-Menに育てている。

X-Menになる前の、超能力の若者のエピソードが面白い。
例えばスコット・サマーズ。
ひ弱な体つきでオズオズしているスコット(タイ・シェリダン)は苛めの対象。
暴れん坊で苛めっ子がトイレでしゃがんでいるスコットを引きずり出そうとする。
すると目から猛烈なビーム状の破壊光線が飛び出し便所ごと苛めっ子をぶっ飛ばす。
目を開ければ光線が辺り一面照射するので包帯を巻いて学園に連れて来られ
プロフェッサーから特殊なサングラスを貰い、別称「サイクロップス」として学園に入学X-Men修行をする。

 ポーランドのユダヤ人、エリック・レーンシャー(マイケル・ファスビンダ-)はナチスドイツにアウシュビッツに送り込まれ塗炭の苦しみを味わう。
腕の刺青の数字が痛ましい。

戦後鉄工場で働いていたが磁力を操り金属を思い通りに動かせる「マグニートー」だとバレポーランド警察に追われて学園に逃げ込みプロフェッサーの右腕となる。

前半はX-Menの紹介で手一杯。
ジェニファー・ローレンス扮する「ミスティーク」はあらゆる人間に姿を変えられる。
クィックシルバー(エヴァン・イータース)はマグニートーと血縁関係があり超高速の移動が出来る。
ストーム(アレクサンドラ・シップ)は気象をコントロールする能力を持っている。

さて問題は5000年の眠りから目覚めたアポカリプス(オスカー・アイザック)。

人類の文明誕生以前からミュータントの力を使い、「神」として世界を支配していたアポカリプスは、人類の文明が間違った方向に発展したと考える。ソドムとゴムラやノアの方舟の「神」のようだ。

見上げるような大男。テレパシー能力、不老不死、テレポーテーション能力。X-Menたちの能力はすべて備えている。
全身を黒い鎧で覆い顔面のマスクからのぞく鋭い眼が不気味だ。

 マグニートーを筆頭に4人のミュータント、背中に翼を持つエンジェル(ベン・ハーディ)、サイキックナイフの遣い手・サイロック(オリヴィア・マン)長い尾で接触した相手と共に瞬間移動できるナイトクローラー(コディ・スミット=マクフィー)などと学園を襲撃する。

プロフェッサーXやミスティークらが率いる若きX-MENたちは、アポカリプスの企みを阻止するため立ち上がる。

戦う内にアポカリプスが根本的に間違っていることに気付いて次々と離脱しマグニートーを初めとして教授に加担しX-Menになって行く。

プロフェッサーとアポカリプスのタイメンの死闘は凄絶だ。プロフェッサーの息はとまる。
意識を取り戻した教授は叫ぶ。
「俺たちは一人でない。お前は一人だから敗れる」何処かで聞いたセリフだがここで使うと印象的でこのシリーズの締めの言葉になる。

5月27日に全米公開を迎え好調なスタートを切った。
メモリアル・デーの5月29日を除く3日間の全米興行収入は65Mドルを記録。
週末の全米興行収入第一位を獲得した。
しかしペースは次第に落ち、3週目の昨日(12日)までの北米累積は136M。海外の方がむしろ頑張って累積は342M、グローバル総計は478M(510億円)と500Mは目前だ。

監督はシリーズを連続して演出するブライアン・シンガー。ストーリーも担当して益々冴える腕前は「MR.X-men」だ。2時間半の長尺も長く感じない。

キャストも先に挙げたジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンス、オスカー・アイザックという豪華な顔ぶれ。

 8月11日よりTOHOシネマズスカラ座他で公開される

「グッバイ、サマー」(MICROBE ET GASOIL)(フランス映画):休みを利用して田舎を巡るロードムービーを通してクラスから浮いた14歳の二人の少年の大人への通過儀礼を描く。

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ミシェル・ゴンドリーはフランスの自らもドラマーとして在籍していたロックバンドOui Ouiのミュージック・ビデオ(MV)からキャリアを始める。1993年のビョークの「ヒューマン・ビヘイビア」が評判になり数多くのMVを手掛ける。
MVとCMでキャリアを積みながら長編映画に乗り出す。

04年の監督第二作「エターナル・サンシャイン」でチャーリー・カウフマン、ピエール・ビスマスと共にアカデミー脚本賞を受賞して一躍注目される。
他に「恋愛睡眠のすすめ」「僕らのミライへ逆回転」など、僕に言わせれば子どもっぽい創造性と遊び心に満ちた独特の世界観でヨーロッパでは多くのファンがいる。

しかし前作「ムード・インディエゴ」が映画的にも興行的にも失敗した時に友人のオドレイ・トトゥからファミリー・ポートレイトを撮ってみないかと示唆を受けたと言う。
両親がヒッピーだったゴンドリー監督はその頃の常識破りのエピソードを沢山持っており今までの作品にも取り入れており、半自伝的な映画の企画をすすめた。

画家を目指すダニエル(アンジュ・ダルジャン)は中学生になっても髪の毛は長くかわいらしい女の子姿で喋りを聞いても人は女だと思う。
クラスメイトから「ミクロ」(チビ)とバカにされ、恋する同級生のローラ(ディア―ナ・ベニエ)にもまったく相手にされない。

おまけに教師の母親は過干渉で、兄は下手なロックを掻き鳴らす暴力的なパンク野郎だ。
そんなある日、ダニエルのクラスに変わり者の転校生・テオがやって来る。革ジャンを来てロングヘアの目立ちたがり屋で、自分がカスタマイズした奇妙な自転車を乗り回し、趣味の機械いじりのせいでガソリンのにおいを漂わせている。
早速、綽名はガソリン野郎と付けられる。

映画の原題は「チビ(ミクロ)とガソリン野郎」だ。
周囲から浮いた存在のダニエルとテオは意気投合し毎日行き来する親友になる。
休みを利用して息苦しくてうんざりする日常を脱け出そうと、スクラップを集めてエンジンを組み立てシャーシの上にログハウスを建てる。

道路交通法違反で公道を走れないので警察に見つかったら道路端に止めて車輪を小屋の裾で隠し、完璧にカモフラージュをする。
自分たちで作った「夢の車」ドリームカーで森や湖を廻ろうと言うのだ。
ダニエルには深慮遠謀がある夏休みを湖で過ごしているローラに逢う目的があるがテオには知らせていない。

14歳の男の子たちの関心はセックスだ。童貞の二人はオナーに耽る。ダニエルは割れ目をしっかり描き込んだ美女を前にセッセと励む。もっともベッドの下に隠した大量の絵を母親に見つかり擦れられてしまう。

旅の途中に長い髪の毛を切り普通の男の子になろうとして理髪店が締まっていて変な風俗店に入る。日本語を喋る東洋系の女がアジア系のチンピラたちに囲まれ頭の中央に電気バリカンを入れる。ダニエルは恐ろしくなり逃げ出すが男たちに捕まり10ユーロもふんだくられる。

後半男たちがアメフットに興じているがダニエルとテオはボウルを奪い男たちと乱闘になる。
ストーリーもドタバタだし、不条理で興が削がれるがこの展開こそゴンドリー監督の真骨頂だ。
だが少年期を抜け大人になろうとする男たちの通過儀礼のロードムービーと言う意義は伝わって来る。

 ダニエルやテオなど出演する少年少女たちはオーディションなどで選ばれた素人。しっかりとキャラクターを好演しているのはゴンドリー監督の年季の入った演出のお陰だ。

  9月からYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国公開される

「ケンとカズ」(日本映画):無名の新人監督と俳優たちの描く覚醒剤に毒された日本の裏社会の実態

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「イスラム国」での経験で名を売った横田轍の「戦場中毒 撮りに行かずにいられない」(文藝春秋社:2015年10月刊)はキワモノ的だがタイムリーで興味が湧く。

戦場カメラマンと言えば古くは澤田教一、一の瀬泰造、最近では渡部陽一と相場が決まっているが「イスラム国」取材の経験がある横田轍がスポットライトを浴びている。

茨城県生れで今年45歳の横田轍は落ちこぼれで定職も無かったが97年のカンボジア取材を切っ掛けにフリーランスの報道カメラマンとして活動を始める。

東ティモール独立紛争、コンボ紛争など世界を巡り歩く内に911同時多発テロの直前アフガニスタンでタリバンに従軍取材したのが注目される。07年から4年までは反対勢力のアメリカ軍に継続的に従軍取材をする。

懐具合が細かく記されていて興味深い。
フリーランスだから新聞社やTV局に写真や動画、記事を売って初めてお金になる。
現地までの飛行機運賃、宿泊費や食費などは自前だから下手をすれば赤字になりかねない。
ネタをマスコミに売って100万程残れば御の字だ。

アメリカ軍の従軍取材でそのロジスティックスに感動している。
豊富な肉野菜デザートアルコール等々、記者証さえ手に入れれば現地でのヘリでの移動などは自由だ。宿泊施設は佐官級のテントやホテルが供給される。

本のタイトルになった「戦場中毒」について横田は語っている。
「カンボジアの従軍取材をきっかけにずーっと私の身体の中に燻っていたものが無くなり。私はアフガニスタンでの従軍取材、そして危険が生み出す興奮に満ちた「戦場」と言う麻薬の虜になった。最高い幸せだった」と。

マスメディアの社員たち特派員は決して危険な場所へは行かずこういうフリーランスのジャーナリストが命を賭して取材したネタを買って報道する。
イスラム国」に捕らえられビデオの前で斬首されるのは彼らフリーランスのジャーナリストなのだ

その実態を「幸運?」にも命ながらえて活躍している横田轍の半自伝で理解するのだ。


さて、今日の映画、は無名の新人監督と俳優たちの描く覚醒剤に毒された日本の裏社会だ。

子どもの頃からの腐れ縁のケン(カトウシンスケ)とカズ(毎熊克哉)。2人は、千葉県市川市にある小さな自動車修理工場で修理工として働きながら、元締の藤堂(高野春樹)のもと新入りのテル(藤原季節)と共に覚醒剤の密売をして金を稼いでいた。

藤堂が「おホモだちじゃねえのか?」と聞く程ケンとカズは仲が良く絶えずつるんでいる。
藤堂は修理工場のオーナーであり、ケンとカズとの中学高校時代そして部活の先輩で組長だ。先輩後輩の間柄以上に友達付き合いをしている。

ケンにはカズに秘密にしていたことがあった。
恋人の早紀(飯島珠奈)が妊娠したのだった。
常にカズと一緒に行動してきたケンだったが、次第に今まで歩んで来た汚れた人生を捨てて、早紀と生まれてくる子供と一緒に人生を再スタートさせようと考えるようになる。
それは早紀が「悪」の道から早く足を洗って欲しいと言う強い願いに応えるものだった。

ある日、覚醒剤を売りさばいているとカズの携帯が鳴る。いつもと様子の違うカズを不審に思ったケンは、テルに問いただしカズの松戸の実家を見に行く。
そこで見たのは、痴呆症のカズの母親の姿だった。
市川から松戸の実家まで(国道16号線で小一時間かかる)つけて来たケンに激怒するカズ。

父親はとっくに亡くなっているのに生きていると信じる母を、首を絞めたり水に漬けたり拷問を繰り返すが「ババア」と呼ぶ母親への愛情から毎回深く後悔し詫びるのだ。
ケンはカズを問いただすが何も答えない。

2人の間には埋められない溝が確実に刻み込まれていたのだった。カズはケンを女に振り回される「決断力の無い男」と罵り、カズはケンを単なる「マザコン」と決めつける。
そんな時、ケンが覚醒剤の密売中に敵対グループに襲われてしまう。
2人はこれにけりをつけるため敵対グループの安倍と会う。
カズは、安倍に手を引けと迫るが全く取り合わない。

「なら手を組んで狭い市川ばかりでない販売ルートを拡大しよう」
ケンは初めてカズの狙いを知ることになる。
修理工の給料は安い捌く薬は高すぎて客は減っている。
母親を老人ホームに入れるために纏まった金を稼ぐ必要がある。
だから元締の藤堂を裏切り相手グループに乗り換えようというのだ。

ケンは反発する「そんなことは出来ない。自分は手を引く」とカズに告げる。
しかし、カズはケンを決して離さない。
「ガキが出来たのはいいけどなあ、てめえの都合で辞めるじゃねんだよ」カズは子供が出来たことを知っていたのだった。それ以上何も言えないケン。

仕方なくこれを最後の仕事にしようと決意したケンだったが、二人の不審な行動は組長の藤堂の知るところとなり、上部組織のヤクザたちに目をつけられ次第に追いつめられていく。

ケンのカトウシンスケは優しい顔の若者、カズの毎熊克哉は口ひげを蓄え下から睨む目つきは鋭く、不良顔だ。
藤堂役の高野春樹はいつもアロハを来て後輩たちと油に塗れて車の修理。
殆どのパートがブロックでITコントロールの車になり昔ながらの修理工場は流行らない。だからヤクザになってパケを捌こうと言うのだが二股膏薬ではうまく運ばない。
それでも組長と胸をはる藤堂役を高野は好演する。
早紀の飯島珠奈は美人では無いが清楚な感じ。胸が意外と大きいので驚く。気の弱い人の良いケンを叱咤激励して足を洗わせようと熱演する。

出演者は総て素人。それを言うなら29歳の小路紘史も長編劇場用映画デビュー作になる。
監督ばかりか脚本も演出も兼ねている。

気になるのはアクションシーンになると必ず手持ちカメラでクローズアップ。スローモーションも入るので揺れて落ち着かない画面は見難くて仕方が無い。
アクションは良いが男も女も直ぐに手をだして殴る。
これはバイオレンスを軸に据える監督の意図なのだろう。

清原和博ドラッグ事件注目されている覚醒剤密売。その裏社会でしか生きられない男たちの運命と生きざまを描いて迫力ある作品に仕上がっている。

昨年の東京国際映画祭(日本映画スプラッシュ) 作品賞受賞もした。

7月30日より渋谷ユーロスペースで公開される

「祈りのちから」(WAR ROOM)(アメリカ映画):仲の悪い離婚寸前の夫婦が老婆の一言「祈りなさい」で問題が解決していく神の導き

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タイラー・ペリーと言う黒人コメディアンをご存知だろうか?出す作品はアメリカではことごとくヒットするが日本に入って来ない。特に女装するキャラは大人気で女性ファンが多い。ところが日本には殆ど入って来ない。端役で顔をだした「ゴーンガール」位。つまり黒人主役の黒人映画は日本で上映するだけ人気は無いし成績も上がらず無駄と言うことだ。

ところがこの作品、主要な登場人物は全員黒人。日本では稀有な映画だ。
これも不振のソニー映画がアメリカ深南部のキリスト教信者が多く住む「バイブルベルト」向けの映画を低予算で制作し損ばかりしている大作を尻目にソコソコの利益を挙げている。
日本にも信者や教会は多い。小さな小屋だが交通の便も悪くないヒューマントラスト渋谷で4週間限定公開すれば利益が出るだろうとの計算だ。
アメリカでヒットした3本を揃えた。キリストの磔から3日で蘇えった「復活」(RISEN)と不治の病の少女が大木から落ちて病気が治る「天国からの奇跡」(MIRACLES FROM HEAVEN)そしてこの「祈りのちから」(WAR ROOM)だ。
3本の内最初から最後まで「神に祈る」ことを説くこの作品が一番の信仰映画(Faith Movie)だ。
黒人俳優のみ、ギトギトのクリスチャン映画、日本人には馴染まないこの作品の興行成績はどうなるだろうか?

ソニーの子会社「AFFARM FILMS」の制作で出演者は本物の牧師を含めてクリスチャンばかり、プロの俳優は居ない。それにしても芸達者な黒人ばかりだ。
原題「War Room」とは作戦指令室。
冒頭クララ(カレン・アバクロンビー)が幼い息子を連れてレオン・ウィリアムス大尉の墓の前に佇む。ベトナム戦争中に作戦本部で心臓麻痺で亡くなった夫の墓だ。
それから40数年同じ墓の前に1人たつ老婆クララ。夫は戦争にかまけて戦地を転々とし家族への愛情に欠けていた。

ある日、老婆クララは、家を売却するため不動産屋のエリザベス(プリシラ・シャイアー)を呼んだ。
彼女は不動産エージェントとして働きながら夫トニー(T・C・ストーリングス)と小学生の娘ダニエル(アリーナ・ピッツ)を育てている。

一見理想的なこの家族のように見えるが、トニーは製薬会社のトップセールスマンで出張ばかりで家に居ない。たまに帰って来るがダニエルのことなど興味が無い。
エリザベスは怒り、トニーが応戦するので夫婦仲が悪く口喧嘩が絶えない。娘ダニエルは両親の喧嘩が耐えられない。

そのエリザベスから愚痴を聞いたクララは、彼女を自室のウォーク・イン・クローゼットに案内し「祈る」ことを勧めた。

そこは人生を幸せにおくる為の作戦室(WAR・ROOM)=「祈りの部屋」でもあった。最初は渋々だったエリザベスだが、自宅のクローゼットにで聖書の中の詩句やウィシュリスト、宗教的なインスピレーションを貼り、祈り続けた。

すると不思議な出来事が起こり始める。夫に対する怒りも消え、娘ダニエルの心配も無くなる。
僕らみたいな無信仰な輩にはどうにも作り話めいて俄かに信じられないが「祈り」は敷衍し影響する。
トニーは会社のサンプル薬を私物化しクライアントに収める製品をごまかし秘書を口説いて遊びまくっていた悪いやつだが、会社に露見しクビになる。

エリザベスの「祈り」が効いて会社のトップに会い横領した薬と現金1万9千ドルを返還する。コールマン社長は告訴し刑務所へ送ることも考えたがトニーの正直さに打たれて復職はさせないが告訴もしない。

暇になったトニーは家の仕事に励み、娘ダニエルの夢中になる「ジャンピンゴロープ」チームに加わる。高速の二重の縄跳びでトニーとダニエルの見せるアクロバティックな縄跳び術の見事さ。
実際ロケ地ノースカロライナにあるコンテストで準優勝のトロフィーを勝ち取る。

エンディングは祈りの言葉を歌い込んだ大ゴスペルの合唱と踊り。黒人大群衆の臭いが画面から伝わって来る。

キリスト教をテーマにした作品を既に4本も手がけてきたアレックスとステファン・ケンドリック兄弟がジョージア州からノースカロライナのシャーロットにケンドリックス・ブラザーズ制作会社を創立し、第一回作品。

ケンドリックス兄弟は監督と脚本を共同で担当,教会に属する牧師でもあるアレックスとステファン兄弟が「祈る」という事の大切さを最初から最後まで訴える。
条理を飛ばしての奇跡的なエピソードは作為的でもあるが、信心深い人たちにはスンナリはいるのだろう。

こんな宗教映画が昨年秋封切りされるや、全米興収ランキングで1位を飾るなど大ヒットを記録した。
 
キリスト教をテーマにした作品を手がけてきたアレックス・ケンドリック監督が、祈り続けることで不思議な出来事に遭遇する女性の姿を描く人間ドラマ。
ほとんど無名の俳優を起用しながらも、大作が目白押しの全米興収ランキングで1位を飾るなど、異例の大ヒットを記録した。

7月9日よりヒューマントラスト渋谷にて公開される。

「Boyhood(韓国):「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」での短編部門でも韓国映画の質やレベルの高さは日本を含めアジア諸国を圧倒する

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「ショートショートフィルムフェスティバル」の噂は聞いていたが短編映画には余り興味が無いので会場に駆けつけることも無かった。

プレスによると米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭。世界100以上の国と地域から集まった、約6000本の作品から選りすぐりの約200作品を上映するショートフィルムの祭典。
今年のテーマは、Cinema Carnival ~Explore Your Emotions~
1999年に設立されたショートショート実行委員会が開催する短編映画のシネマ・カーニバルは今年で18回目と言う持続性のある大会だ・

知人の元ソニー映画のMさんがシダックスの広報の責任者となり、渋谷のシダックス・カルチャー・ホールで上映が行われると言うので誘われるまま出かけた。

 渋谷駅から10分、消防署の隣のビルは私が現役の頃担当したマックスファクタービルでは無いか。
友人が開発し、後に「SK供廚箸覆觚怯佞鮖噌濕8海筌優ぅ潺鵐亜▲沺璽吋謄ングで通い詰めた場所だ。

 Mさんの案内で本社ビルに入ると1階はスポーツバーのような大型モニターを備えた「東京メインダイニング」でピザやパスタなどカジュアルな料理をご馳走になる。
中央に円形のステージは夜になると本業のカラオケのメッカになるんだろうな。

 隣の元東京電力だったビルがシダックス・カルチャーホールで銀座のソニーショウルームに似た洒落た展示でシダックスの業務内容をヴィデオで紹介している。
ガラス張りで透けたエレベーターで8階がホール。140席位だろうか小ホールとして使い勝手が良さそうだ。

 二つのジャンル 「アジアインターナショナル&ジャパンプログラム1」からから4作品、
香港のHaolu Wang監督の相手の愛情を試す「サンダル」(FLIP FLOPS)とタイの Aroonpheng監督の「観覧車」(FERRIS WHEEL)と日本の作品が2本。

 どれも出来が悪いが「観覧車」がやや目を引く。
ミャンマーから国境を密入国して来た親子の物語。
この母親が、女優の名前は知らないが、丸顔でとてつもないブス、髪を振り乱し居なくなった幼い息子を探す熱演に圧倒される。

 母親は知らなかったが近くに遊園地があり着ぐるみの動物が息子を連れて行ったのだ。着ぐるみを見つけて殴る蹴るの暴行の末に目を上げると息子が観覧車に乗って手を振っている。
不安と狂騒の後でなんとも平穏で心落ち着くエンディングに堪能する。

 日本からの2作品の監督・俳優陣が登場して舞台から挨拶する。

 倉田監督の「EVERYTIME WE SAY GOODBYE」と英語を使ったタイトルは洒落ているが内容はお粗末。
末期ガンを宣告された妻と、彼女が好きな「ツチノコ」を探しの旅を続ける。モノクロの画面が「ツチノコ」を手にいれたラストショットでカラーになるなど工夫を凝らしている。

 監督の姉が末期がんで作品は姉に捧げたものだったが完成前に亡くなってしまったと言う倉田監督の話にホロッとする。「死」という難しいテーマを扱っているが、単に陰鬱にならず笑いもあり、白黒から色がつくラストシーンは将来への希望を託している。監督と言っても20代半ばか、お姉さんも若い人で、がん細胞が活発で全身に転移したのだろう。

 第1回Book Shorts アワード受賞原作を映像化した「HANA」。
芥川龍之介の小説「鼻」から発想した作品。
ペチャパイ女子高生が抱える「胸の大きさへの憧れ」をユーモラスに描いた作品。胸に詰め物をして巨乳にしてユサユサさせながらバスケをして見せても面白くもおかしくも無い。
岡元雄作監督と先生役で出演したお笑いタレントのゆってぃさんが登場し愛想を振りまくが、4作品中一番の駄作。

 質の高いのは相変わらず「KOREA」部門。

 METHOD」は映画の撮影現場。下着姿の女性が血を流して倒れている傍で壁にもたれてピストルをコメカミに当てて自殺しようとする男のシーン。監督のダメだしが30回近くになる。男優は苛立つが監督の言うことに従わなければならない。
助監督が次のシーンが時間切れになるからOKにしましょうと囁くと「俺は監督だ!」と逆切れ。
迫力を出すため本物の銃を渡してスリリングにしようとする。
そして銃から弾が発射され飛び散る血潮。

 タイトルの「エチュード」とはアクターズスクールなどで使うスタニスラフスキーシステムの練習法。アドリブ劇を意味する。韓国映画作家は良く勉強している。

「韓国・アシアナ国際短編映画祭プログラム」から、同映画祭プログラマーのKristin Jiと「BOYHOOD」(少年期)のHyung-dong Ko監督が登場し、国民的俳優アン・ソンギが実行委員長を務める、韓国最大級!アシアナ国際短編映画祭の報告と韓国のショートフィルムの現状や上映作品について解説する。

 この「少年時代」も秀作。
体操着代1万5千ウォンを100ウォンで1回出来る「ジャンケンポン」のゲームで使い込んでしまう。
因みに映画の中に登場する日本製のコインゲーム機は、監督が20年ほど前に実際に遊んでいたもの。探し出すのにとても苦労したとか。
そのお金を取り戻すために数万枚のビラ貼りに奮闘する姿がいじらしい。少年時代の話で「失敗から成長していく」というテーマは分かり易い。

 痛み止め薬「TYLENOL」から麻薬を密造しマフィアに捕まる二人の親友同士の話も波瀾万丈の活劇だ。
殆どが無料で上映されている

6月26日までシダックス・カルチャー・ホールや二子玉川ライズなどで公開されている

「死霊館 エンフィールド事件」(The Conjuring 2)(アメリカ映画):11歳の次女に摂り付いた悪魔がロンドン郊外に住む5人家族を襲う

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アメリカで先週末(10日)に封切られて夏の大作の居並ぶ中を押しのけて首位スタート。3343館で上映40.4Mの興行成績。
海外市場では44カ国で開けて50M,ワールドワイド総計でいきなり100億円に迫る90.4M(94億円)になる。
3年前の2013年7月の前作「The Conjuring」(邦題「死霊館」)に次ぐホラー映画デビューとしては41.9Mにピッタリと離れない2番目の成績だ。シリーズものは2作目になると成績が落ちているがJames Wan監督作品は例外だ。

そして出口調査(CinemaScore)での観客の反応もホラー映画としては異例のA-評価。(前作も同様A-評価受けている)プロの映画評も悪くない。
前作は僅か20M(21億円)の制作費で、ワールドワイド総計で318M(331億円)を稼いだが、今回は倍の40Mを投じているが1週目にしてしっかり利益を確保している。

それにしても競合する他の夏の大作(Tentpole)150M-200Mも掛けているのに比べれば微々たるものだ。
この映画を語る前に天才・ジェームズ・ワン監督に触れたい。
1977年マレーシア生まれの39歳、幼少の頃オーストラリに移住し映画に興味を抱いた中国系オーストラリア人で本名、溫子仁。

 ハリウッドに乗り込んできて低予算のホラー映画、オカルト映画を悉くヒットさせる。
最初は「ソウ」シリーズだ。
密室に閉じ込められた男3人のサバイバルゲーム。
サンダンス映画祭で大喝采を浴びシリーズは7作に及んだ。
僅か数億円の制作費で巨万の富をたたき出す。

同様に「インシディアス」シリーズや「デッドサイレンス」「狼の死刑宣言」などの低予算ホラーやオカルト映画でしっかりと儲けている。

 しかし何と言っても彼の名声を高めたのはヒットシリーズで主演のポール・ウォーカーの急死でいきなり呼ばれた脚本・監督の「ワイルドスピードSKY MISSION」(15)だろう。3月公開されたこの作品は4週首位を保ち、世界興収15億ドル(1540億円)と言う歴代6位の記録を樹立する。
制作費200億円の大作の後に古巣の低予算(40億円)ホラー映画に戻って来ると言うジェームズ・ウォン監督の心意気が嬉しい。

 実話に基づく話を、手を抜かず2時間を遥かに超える長尺で飽きさせず観客を恐怖のどん底に叩き込む手腕は油が乗り切って冴えわたる。

 前作「死霊館」では、1971年にアメリカのロードアイランド州ハリスビルにある屋敷で実際に起きた出来事「アミティヴィル事件」が描かれた。心霊研究家ウォーレン夫妻は売名行為だとマスコミで叩かれるが二人の信念は変わらない。
その6年後、海を渡った1977年にロンドン北部のエンフィールドのホジソン家で実際に起こった不可解な現象が描かれる。

 シングルマザー、ペギーホジソン(フランシス・オコーナー)は大家族で別れた夫との養育費も送られず苦しい生活の中で、幼い娘2人と息子2人との5人家族を維持している。
異変が起こったのが11歳の次女ジャネット(マディソン・ウルフ)が突然年寄の男の声で「これは俺の家だ、出ていけ!」と叫ぶ。
この声の不気味さは「エクソシスト」(77)でリンダ・ブレアのクビが360度廻った時と同様に驚いたし怖くなった。

 警察を呼んで対応を頼むが警官の目の前で椅子が動いたり天井でドカンドカンと大音が聞こえても警察マターでは無いと手を引いてしまう。

 カトリック教会の依頼を受け(前作に引き続き)実在の心霊研究家、エド(パトリック・ウィルソン)とロレイン(ベラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻が登場し、正体不明の音や不穏な囁き声、人体浮遊など、数々の不可解な出来事に苦しむ母親と4人の子どもたちを救うため、現地調査に訪れたウォーレン夫妻が再び恐怖の元凶と対峙する。

 ジャネットが寝ているベッドが浮遊したり部屋のベタベタ張り付けた十字架が逆様になったり、末息子のドモリのジョニーに摂りついたり家中を荒らしまわる。

 ビル・ウィルソンと言う72歳の老人が現れる。墓場からやって来た死者のビルは自分は悪魔に使われいるだけだ、生まれてから死ぬまで一生付きまとう物を追及せよ、と告白して消える。

 ロンドン市の民生課職員は生活保護を受けたいための猿芝居だと言い放つ。

ロレインは一生付きまとうものは「名前」だ気付き、その名前こそ悪魔を突き止め悪魔払いのキーポイントだと聖書の中に無意識に書きなぐった名前を探す。

エンドクレジットで実際にエドがジャネットへの質疑応答が流れる。
ジャネットは長い間悪魔に摂りつかれていたがウォーレン夫妻の「悪魔祓い」で救われたのだ。

テープばかりか40年前の写真やヴィデオを見せると悪魔が実在しジャネットに摂り付いてホジソン家が大混乱に陥る状況が決してフィクションで無いことを証明する。

 ウォーレン夫妻を演じたベラ・ファーミガとパトリック・ウィルソンが続投。ベラの預言的な心象風景が物語を推進する。
ウィルソンの歌うプレスリーの「Can’t help falling in love」が聞かせる。

ポルターガイストの恐怖に苦しむ少女ジャネットを、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」「Joy」などの注目の子役マディソン・ウルフが好演している
シングルマザーの一家の大黒柱、ペギーをオーストリア出身の舞台女優フランシス・オコナーが凛々しく演じる。

ホラー映画とは言え2時間を超える長尺を飽きずに見せるワン監督に感嘆しながら見終わる

7月9日(土)新宿ピカデリーほか全国公開

「ゆずの葉ゆれて」(日本映画):老夫婦と隣家の小学生との付き合い。遠い親戚より地域の人間の繋がりが人生の幸せをもたらす

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2010年に「再開」で江戸川乱歩賞を受けた横関大はよほどのプロレスファンに違いない。
元プロレスラーたちを主人公にした「炎上チャンピオン」(講談社:2016年4月刊)は血沸き肉躍るプロレス技の連発で読者をカウントスリーに追い込む。
プロレスが自粛されて10年の日本。
元レスラーが立て続けに襲われて病院に担ぎ込まれる。現役でなくとも昔取った杵柄でそんなヤワで無い連中だが歯が立たないらしい。

一方元レスラー世界チャンピオンのファイヤー武蔵と3人組が「便利屋」をやっていて電気器具の修理からゴミ屋敷の掃除、果ては人質の救出まで何でもこなす。
しかし彼らは偽物で小学生誘拐事件は自分たちが3千万円を欲しいが為の犯行だった。それを見破り3人組を退治したのは本物のファイヤー武蔵と3人組。

この便利屋の活動が面白かったのに突如本物がアメリカから帰国と言うドンデンは興を削ぐ。

武蔵の天敵は流小次郎で二人はチャンピオンベルトを交互に奪い合うライバル。実力も伯仲し武道館でのチャンピオン戦でレスリング熱最高潮に達したのが10年前。
武蔵からベルトを奪い返した小次郎は嬉しさの余り泥酔し、ガールフレンドを連れて入ったコンビニで銃を発砲して客を人質にし立て籠もり事件を起こす。
冤罪を主張するが懲役刑を食らった流小次郎がようやく出所して来たのだ。

一方横須賀小梅と言うキャバクラ嬢のヒロインがいる。便利屋に拾われ下働きをしていたが武蔵に助け出され彼に仕える。
 小梅の母は有名な銀座のママで武蔵と小次郎と二股をかけて付き合っていたのでどちらが父親か分からず小梅の悩みの種。

小次郎は元プロレス雑誌の記者前園の助けでマスコミに現れ、人質事件の真犯人の究明と武蔵との空白だった世界選手権争奪戦を提案する。

いやいや凄いスピードでプロレス技を使いながら展開するのが痛快だ。
但しストーリーはご都合主義でドンデンに継ぐドンデンに戸惑う。

一番強いプロレスラーが武蔵の付け人、モンゴル人だとは笑わせる。
ファンには分からぬようにベイビーフェイス(善玉)とヒール(悪玉)が試合の段取りを決めて必殺のギミックを使うとは知らなかった。小次郎も武蔵もズルいぜ。


松原智恵子の半世紀に亘るファンの僕としては見逃せない映画だが、主演作品と言っても子役が主人公だから余り活躍の場が無い。

16歳で芸能界入りを果たし、日活映画「明日に向かって突っ走れ」(61)のヒロインデビューを皮切りに、120本以上の映画に出演してきた松原智恵子。今年で芸歴55周年を迎える彼女は71歳、さすがにシワクチャ婆さんだ。
 
松原が演じるのは、海と山に囲まれた小さな町で、畑仕事をしながら病床の夫(津川雅彦)を看取る妻ゆうこ。

舞台は鹿児島県喜入地区の小さな町。小学校4年生の風間武(山崎聰真)はばあちゃん(松原)に呼び止められる。隣に住む武はじいちゃん(津川)の大の仲良し。両親を早く亡くした武の父親、俊之(西村雅彦)を支えてくれた二人を本当の家族のように思っていた。

走ることが大好きなじいちゃんは駅伝の喜入チームの監督をしていた。チームが駅伝で優勝した夜お祝いの酒に酔い帰り道、脳溢血で倒れてからはリハビリに励み杖をついて歩けるまでになっていた。
二度目の脳梗塞で寝たきりになったじいちゃんを訪ねる足が遠のいた武にばあちゃんは顔だけは出してあげてと頼む。

その夜武はじいちゃんの夢を見ていた。姉の裕美(平岡真衣)に起こされると父俊之と母美和子(小林綾子)が隣のじいちゃんの家に行けと言う。夜明け前にじいちゃんは息を引き取った。

葬儀に駆けつけた2人の娘たち(芳本美代子と真由子)も遠くから駆けつける。真由子が津川にしがみついて泣く場面は迫力がある。42歳の彼女は76歳の津川と朝岡雪路の実娘だから当然だ。こういうのを楽屋落ちと言う。

葬儀の遺影をアルバムから探しながらばあちゃんはじいちゃんとの40年近い夫婦生活を回想する。

ここから若い久雄(辻本祐樹)と柚子(中村美沙)の物語になるから松原の出番は無くなる。電車を必死に追いかける久雄。
出会いで財布を落としたまま電車に乗った柚子を久雄が追うのだ。一駅で追いついちゃうから漫画だね。柚子は大きな旅館の娘だが親から押し付けられた結婚を嫌がり久雄の求愛を受け付ける。貧乏な水飲み百姓に嫁ぐ柚子。

何てくだらない手垢で汚れたストーリーだと腹が立つ。
走ることが生きがいで1000Mの国体選手に選ばれた久雄だが、柚子が難産で母子ともに生死が危ぶまれると言うことで国体をドタキャンして付き添う。周囲から悪口雑言を浴び、選手生活を引退する。これもクリシェ。

話のポイントは葬儀の日、武は見知らぬ少年、ヒサオから走り方やランナーとしての心構え、そしてに柚の樹の根元に埋めた宝物を掘り出してユウコに渡してくれと言って消える。
武はばちゃんがユウコで漢字で「柚子」だと知らず、見知らぬ少年、ヒサオはじいちゃんの霊魂だと後になって知る。

原作は、児童文学作家の佐々木ひとみによる、椋鳩十児童文学賞受賞作「ぼくとあいつのラストラン」(ポプラ社刊)。鹿児島でなく茨城県北部の山間で育った佐々木が、自らの故郷に想いを馳せて描かれたこの物語は武少年を中心とした成長譚として描かれている。だから松原智恵子は主演では無いし、芸能生活55周年記念と言うのは無理がある。

それにしても、脚本を書き監督をした神園浩二の無能さに呆れかえる。
劇場用長編映画はこれが初めて。
しっかりした原作がありながら陳腐なエピソードに転化してしまった。
少し映画を知っていたらこんな作品にはならなかったと言う見本のような作品。

ただテーマとして強調する「人と人との絆」は注目する。
娘たちが母親を自分たちの家に引き取ろうとするが、母親は夫と過ごした土地を離れない。

遠い親戚より地域に根差した人間同士の交流や繋がりが生き甲斐を与えることを教えている。「人と人との絆」と人生の幸せのありかたを、老夫婦と隣家の少年武とのふれあいを通して描いているの褒めても良い。

少年・風間 武を演じるのは、九州を中心にCMや雑誌で活躍する山時聡真。地方の子どもタレントだが無難にこなしている。武の父母には、「新・牡丹と薔薇」(15)の西村和彦と「おしん」(83)の小林綾子。

奄美大島出身の歌手・元ちとせが主題歌「君の名前を呼ぶ」を提供している

8月20日より有楽町スバル座にて公開される

「超高速!参勤交代 リターンズ」(日本映画):金山のある磐城国の小藩・湯長谷(ゆながや)藩を乗っ取ろうと悪老中、松平信祝の陰謀

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外資系のサラリーマンから歴史小説家に転じた伊東潤の「敗者列伝」(っ実業の日本社:2016年5月刊)は知っている人物の知られざるエピソードに満ちていて面白かった。

敗者たちにつくキャッチフレーズが面白い。
「ことを急ぎ過ぎてすべてを失った独裁者」の平清盛、己の力量を過信した天才武将」源義経、「建武の新政をぶち壊した婆娑羅者」高師直、「白と黒の二面性を併せ持った謀反人」明智光秀、「有能でありながら狭量の困った人」石田三成、「思い付きで動き回って自滅した小才子」徳川慶喜、「そして誰もいなくなった」大久保利通。

 歴史上の人物を語りながら現代に生きる我々への教訓を説く。
例えば維新の元勲の一人、江藤新平。近代民主主義国家の根本である法治主義こっそ国家の安定に必須と説く。正論だ。長州藩の山形有朋や井上博文が政商に便宜を図って賄賂を取っているのを暴く。江藤は長州藩から目の敵にされて殺される。

西郷隆盛も正義を貫き野に降りて親友と思っていた大久保利通の官軍と戦い西南戦争で敗れ自害する。自分の肥大化した唯一無比の正義を通すカリスマリーダーと言う虚像に飲み込まれて行く。

一本気の正義感の危険性を危ぶむ。昨今の集団的自衛権反対の人々は闇雲に反対を叫び他の機縁に一切耳を傾けない。政権与党のやることは総て悪だと決め是々非々を考えない。そう言う法案を創る原因となった中国や北朝鮮に対しては如何に非人道的なことをしても沈黙を通し大使館前で抗議活動をしない。
伊東はそこに「亡国の予兆」があると指摘する。

中国の「ポピュリズム」で意気盛んな習近平の危うさを指摘する。「尖閣諸島」を日本から奪取すれば大衆は快哉を叫び習の長期政権は安泰となる。そして大衆は「次は沖縄だ」と叫び始めるだろう。
 世界は未曾有の大戦争に向かって舵を切り始めている。
始めは局地戦であっても10年20年と言う長いスパンで見れば大規模な戦争に繋がって行くと警鐘を鳴らす。


舞台は江戸時代、8代将軍・徳川吉宗治(市川猿之助)世下の享保20年(1735年)。
前回の「超高速!参勤交代」の後編で江戸まで行ったから今回は国に帰らなければならない。幕府から突然の参勤交代を命じられた弱小貧乏藩の奮闘を描いた時代劇コメディ「超高速!参勤交代」の続編だ。笑いに笑った前作に触れなければ分かりにくい。

磐城国の小藩・湯長谷(ゆながや)藩(現・福島県いわき市)の藩主・内藤政醇(佐々木蔵之助)は、1年間の江戸での勤めを終えて湯長谷に帰国した。ところが、間もなく江戸屋敷に居るはずの江戸家老・瀬川安右衛門(近藤公園)が、江戸幕府老中・松平信祝(陣内孝則)の命令を携えて政醇の前に現れる。帰国を果たしたばかりの政醇に対し、「5日のうちに再び参勤交代せよ」というものであった。
信祝は湯長谷藩が所有する金山に目をつけ、金山を手に入れようと無理難題をふっかけて、湯長谷藩を取り潰そうと企んでいたのだ。

石高1万5,000石の湯長谷藩には4年前の飢饉の影響もあって蓄えがなく、参勤するための費用がない。
政醇は家臣と領民を守るために、理不尽な参勤を受け入れることに決め、家臣一の智恵者である家老・相馬兼嗣(西村雅彦)に意見を求めた。相馬は、少人数で山中を走り抜け、幕府の役人の監視のある宿場のみ日雇い中間を揃えて大名行列を組むことを提案。随分突飛なアイディアだったがこれがマンマと成功する。

今回はその参勤交代の帰り道 「交代」に出た湯長谷藩一行が、宿敵である老中・松平信祝の陰謀によってさらなるピンチに陥る。

江戸への参勤を果たした湯長谷藩の藩主・内藤政醇らは、故郷に帰るため江戸を出発する。ところがその道中、湯長谷で一揆が発生したとの情報が入る。制作費が少ないので一揆と言っても数十人の百姓がチョッと騒ぐだけ。ストーリーの展開で付け足したような一揆だ。

前回、政醇らに打ち負かされた老中・信祝が、叔父の松平輝貞(石橋蓮司)の「親戚だから」とのお情けで「蟄居」を解かれ、復讐のため湯長谷藩を壊滅させようと仕組んだ一揆だ。
騒動を収めるためには2日以内に湯長谷へ帰らなくてはならず、精鋭の部下6 人を引き連れ、政醇らは走りに走り、行きの倍の速さでどうにか故郷へ帰り着く。政醇が惚れた牛久の宿で飯盛女をしていたお咲(深田恭子)を帯同しながらの走破はかなりきつい。

しかし、湯長谷藩城は老中・松平信祝の指示のもと、伊賀の忍者を引き連れた尾張柳生の一派に既に乗っ取られてしまっている。僅か1万5千石にしては姫路城のような立派な構えだ。

ドタバタ喜劇調になるからストーリーも滅茶苦茶、柳生の頭柳生幻道(宍戸開)や諸坂三太夫(渡辺裕之)が肝心の死闘の最中に松平信祝の言動に腹を立て、突然剣を引いて尾張へ帰ってしまったり、戦いの最中に現れた南町奉行、大岡忠相(古田新太)が信祝の将軍暗殺の計画を暴いたりする。
将軍を暗殺して自分が将軍職に就こうと言う野心は荒唐無稽もいいところだ。

抜け忍の雲隠段蔵(伊原剛志)が儲け役。湯長谷藩の旅先案内人ながら火薬を使った爆発物や煙幕で敵陣を攪乱し、藩主・内藤政醇ら家中を窮地から救い出す。

飄々と殿さまを演じる佐々木蔵之介ら前作から引き続いた陣内や深田、西村らのキャストたちに加え、古田新太、渡辺裕之らが新たに加わる。豪華な配役だ。
こういう軽いエンタメに強い本木克英が引き続き監督を務め、脚本の土橋彰宏と息の合ったコンビを組む。

バカバカしいけどオカシクて最後にしっかりと松平信祝にケジメをつけてカタルシスを味わせてくれる。

9月10日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「AMY」(AMY)(イギリス映画):27歳で夭逝したイギリスの天才女性歌手,AMY WINEHOUSE

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今年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞は「AMY」に与えられたことは知っていたが,どんな内容かは分からず、主人公の歌姫(ディーバ)AMY WEINSTEINの実態と生きざまをこの映画で知り驚愕。

5年前、2011年7月23日にアルコールの過剰摂取と摂食障害のため心臓麻痺を起こし27歳で亡くなった、エイミー・ワインハウス。
ワインハウス何て名前では生まれつきアルコール依存症のようだ。
ユダヤ人は後付けで姓を付けるから飛んでもないのが出てくる

1983年、イギリス北部・ミドルセックス州、エンフィールドのユダヤ系家庭に生まれた。
余談ながら「エンフィールド」はアメリカで大ヒット中のホラー映画「死霊館 エンフィールド事件」(日本では秋公開)(The Conjuring 2)の舞台、現地でロケ撮影を見る限り郊外の淋しい中産階級の住宅街だ。

 映画の冒頭は14歳のバースデーパーティ。「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」と歌うAMYの歌声は声量もあり部屋中に轟き亘る。

 監督のアシフ・カパディアはこのようなプライベート映画を足を棒にして集め、友人知人関係者、ファンの100人以上にインタヴューをしたとオスカー受賞後に語っている。

 昨年日本でも公開された「アイルトン・セナ~音速の彼方へ」で英国アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した、新進気鋭の映像作家アシフ・カパディア。プロデューサーから企画を持ち込まれて即座に引き受ける。カパディアもエンフィールドの出身だ、知人でなくともご近所さんの親しみがある。

この2年間に家族や友人、音楽関係者への長時間にわたるインタヴュー取材をおこない、ホテルや自室でリラックスしながらギターをつまびきノートに歌詞を書きつける様子や、幼なじみの友人たちとのパーティー、スタジオでのレコーディング風景、ライヴ直前のバックステージなど、関係者以外誰も知らなかったエイミーの貴重なプライベート映像や未発表曲を収録。
「僕はAMYのファンとして、ファンのためにこの映画を作った」と。

AMYの音楽のキャリアを追うと、10代でレコード会社と契約を結び、20歳で完成させたデビュー・アルバム「Frank」で大きな評価を得た後、続くセカンド・アルバム「Back To Black」が全世界1200万枚のセールスを記録、そしてシングル「Rehab」も大ヒットし2008年のグラミー賞で5部門受賞を成し遂げた時が人生の最高頂点・クライマックス。

ハリウッドの会場に臨まず、関係者と親族に囲まれてロンドンの特設スタジオで受賞の知らせを聞く。皆の拍手を受けながら両手を高く突きあげて大きな歓声を挙げAMYのクローズアップ。目も大きいが口は極端にデカい。

ユダヤ人女性顔で何となくバーブラ・ストライサンドに似ている。
しかし乳房や下腹部を含めて稚拙な漫画のような刺青が肩から全身を覆っているのには驚く。
(特に日本人は刺青はヤクザを連想し嫌悪感を持つ。しかし欧米人の若者はポップなファッションとして捉えるのだろう)
ブラッド・ピットと付き合う前のアンジェリーナ・ジョリのようだ。しかし彼女はすっかり墨を消して純白な肌をしている。

幼少期からジャズに親しみ、ダイナ・ワシントン、サラ・ヴォーン、トニー・ベネット、キャロル・キング、ジェイムス・テイラーらの音楽を聴いて育ったエイミーは、思春期にニューソウル、ヒップホップ、カリビアン・ミュージックとの衝撃的な出会いを経験。

 50年代のジャズ、60年代のソウル・ミュージックをアップデートしたサウンドにのせられたグルーヴ感満載の彼女のヴォーカルは、ハスキーな歌声でヴォリュームたっぷりに迫って来る。
全編を通して彼女自身の楽曲が流れて来る。目を瞑って聞くと黒人のソウルのような歌い方だ。

映画ではグラミー賞のプレゼンターで憧れの大御所トニー・ベネットやラッパーのヤシーン・ベイ(元モス・デフ)らが顔を見せ一緒に歌う。

 話はそれるが、ジャニス・ジョップリンをモデルにした、ベット・ミドラー扮する天才歌手「ローズ」がドラッグで地獄を彷徨う。ベトナム戦時中の60年代、酒と麻薬に溺れながらも歌いつづけたローズがフラフラになりながらLet Me Call You Sweetheartとスローワルツの曲を途切れ途切れにアカペラで歌いながらステージで倒れる。

「ローズ」の倒れるシーンとAMYの死ぬ1カ月前のステージが僕の頭に重なる。ドラッグからのリハビリ療養を兼ねて活動を休止していたが、2011年6月にヨーロッパツアーを再開。
欧州ツアーで初日のベオグラードの野外劇場で大観衆を前にフラフラと酔っぱらったAMYが現れる。前奏が始まっても歌おうとしない、否歌える状態で無いAMYにブーイングとヤジの嵐。「彼女は歌う準備が全く出来ていなかったけど、やらざるを得なかった」と関係者がコメントが痛烈だ。

そしてその1カ月後、ロンドンのアパートで発見された時には心臓発作でなくなっていた。
直接の死因は摂食障害にアルコール依存症だが過去のヘロイン、コカインとクラックの過剰摂取の後遺症もあった。

 才能豊かなミュージシャンは、27歳の若さで突然死するという話がある。
「27クラブ」と呼ばれ、カート・コバーンを始め、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリンなど、人気絶頂時の27歳と言う若さで亡くなってしまうミュージシャン達。彼らの時代は薬のコントロールや管理の仕方が分からなかった。

 今や施設でのリハビリや治療法も発達していて「27クラブ」への新規参入者は居ないと思われたのにAMYは新メンバーとなった。

AMYは家庭環境が複雑で、両親の離婚が引き金になり、情緒不安定になってしまった。劇中で当時のマネージャーが「エイミーは自分自身の事を歌にせずにはいられない。そこには、彼女自身と音楽との純粋な強い繋がりを表している。曲は作らないが詩を書く、それも自分自身のことばかりだ」と。
 
自分で選べない家庭環境に育ち、空いてしまった心の隙間を埋めるかのように、彼女は自分自身を音楽に投影した。

相思相愛の夫、ブレイク・フィルダー・シビルがAMYに逃避としてアルコールとヘロイン、コカイン、クラックなどドラッグを教えた。
すっかり依存体質となり摂食障害にアクセルをかけている。
ブレイクはロンドン市警に司法妨害で逮捕され刑務所に入れられるが罪状は映画では不明でどうやらAMYとは無関係の事件のようで彼女は逮捕されない。

 夫•ブレイクは、完璧なジャンキー、ドラッグ中毒者だった。
AMYがドラッグを止めようとするが、ブレイクは気にもしない。彼女の稼ぎに乗るヒモのドラッグ中毒という最悪のクズに惚れた弱みで夢中になるAMYは可愛いい。

 刑務所でパパラッチの撮った海岸で男と戯れるタブロイド紙を見たブレイクが頭に来て離婚を切り出す。
良かったじゃないかと僕らは考えるが、未だブレイクにくびったけのエイミーは再び情緒不安定に陥る。感受性の強いエイミーは、再びアルコールへの依存と摂食障害の悪化に拍車が掛かかる。

ファンやパパラッチに追いかけられるような「スターになるつもりはなかったのよ」とAMYの正直な激白。フツ―の恋する女になりたかったが周囲が放っておかない。

 父親のミッチなどは療養中の島にTVクルーを引き連れてやって来る。「ダッド、お金っが欲しいなら私が上げるからそっとしておいて」と必死に頼むAMYはいじらしい。

 実況中継のようにアシフ・カパディア監督はTVのニュースやタブロイド紙、ファンやパパラッチたちの証言とプライベイトフィルムやヴィデオを収集し繋いで物語の流れを途絶えさせない。

 映画では、彼女を死に追いやった決め手はメディアだと家族や友人たちは言うダイアナ妃もそうだった。だがメディアは発言に責任を持たない。

 2時間を超える長尺だがしっかりと天才歌手AMYの女性としての生きざまをしっかりと時には残酷に描

 いている。

7月16日より角川シネマ有楽町他で公開される。

「後妻業の女」(日本映画):高齢者社会に寄生し富裕老人たちの後妻に収まり遺産をそっくり手にいれる阿漕な「後妻業」

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直木賞作家・黒川博行といえば関西を舞台にした数々の犯罪小説で、オリジナリティに溢れたテンポある会話と、リアリティに満ちた描写、そして一気に読ませるストーリーテラー。実際に似た事件もあっただけにコメディタッチながら迫力がある。
高齢化は益々拍車をかけ老人層の総資産は1500兆を超えるとあらば身近に起きても不思議でない。

その黒川博行の「後妻業」を原作に監督ご指名の大竹しのぶと豊川悦司を主演に、脚色と監督をYTV出身の鶴橋康夫が務める。
ディレクター卒業後、「愛の流刑地」「源氏物語 千年の謎」など長編映画佳作に引き続き映画化した。
「後妻業」とは初めて聞く言葉だが高齢者社会の環境と老人層に富みが集中している現状を考えると突拍子な話ではんあい。

結婚相談所主催のリゾート海岸でのパーティーで可愛らしく「63歳独身で、読書と夜空を見上げることが大好き」と自己紹介する武内小夜子(大竹しのぶ)の魅力に、70代や80代の老人たちは夢中になる。
その一人、80歳の元女子短大教授・中瀬耕造(津川雅彦)は小夜子に一目惚れして結婚し9番目の夫となる。
二人は幸せな結婚生活を送るはずだったが、2年後、耕造が脳梗塞で倒れる。

葬式の場で、小夜子は耕造の二人の娘・朋美(尾野真千子)と尚子(長谷川京子)に葬式代400万円の半分を負担して欲しいと頼んだうえで「遺言公正証書」を突き付ける。
公正証書は小夜子が全財産を相続する事を明記している。

納得のいかない朋美が学生時代の友人の守屋弁護士(松尾諭)に調査を依頼すると、元府警の探偵、本多芳則(永瀬正敏)を付けてくれる。

 調査の結果分かったことは、小夜子は富裕な老人の後妻に入り死後に財産を奪「後妻業の女」であることが発覚する。
中瀬の前までに8人の夫が居て死亡後莫大な財産を受け継いでいる。
つまり「後妻」は商売として成り立っているのだ。

 小夜子の黒幕は、結婚相談所の所長・柏木亨(豊川悦司)。
1600人の会員名簿から餌食として条件を備えた老人を次々と小夜子に紹介し、生前夫に作らせた「遺言公正証書」を基に根こそぎ財産を奪い、柏木と山分けする。

 いつもは善人の役が多い大竹も豊川も実に極悪非道の悪人を演じる。
互いに相手を信用しないが、金の亡者では似通っていて、何千万円と言うキャッシュを山分けするおぞましいシーンが連続する。

 映画は基本的に悪人が主人公のピカレス・コメディ。
小説では小夜子は悲運の最期を遂げるが、どういう訳か生き残って「ハッピー」な笑顔をエンディングで見せている。

 朋美は裏社会の探偵・本多(永瀬正敏)とともに、次々と「後妻業」を繰り返してきた小夜子と柏木を追及し、中々死なない夫を四国まで連れ出し崖下へ車ごと突き落とした犯行を突き止める。

内縁であっても確実に「遺言公正証書」を押えているので遺族は法的措置もとれず二人の資産は増えるばかり。

 一方中瀬を亡くした小夜子は、柏木所長の紹介する次のターゲット、不動産王・舟山喜春(笑福亭鶴瓶)に出会い早速のベッドイン。
裸になって、おチンチンを突き出した船山は自慢げに
「俺のは通天閣ではないぜ。スカイツリーや!」 
いかにも小さそうな持ち主の鶴瓶が言うからオカシイ。

小夜子はデカチンの性戯にメロメロになり船山を本気で愛してしまう。
柏木が小夜子に耳打ちする。
船山は「竿師やで」。
自分の大きな持ち物とテクニックで女をメロメロにして財産を巻き上げるのが「竿師」。
「後妻業」の「天敵」だ。

 年の功でサッと立ち直った小夜子は3000万円を融資してくれと土下座して頼む船山の本性を見抜き冷たく断る。
途端に豹変する船山は小夜子に襲い掛かり暴力を振るう。

 大竹と鶴瓶のオーバーな芝居には笑い転げる。

 物語もハチャメチャでバカバカしい展開にシラけることしきり。死んだ筈の小夜子を詰めた大型トランクが何故かってに動くの?

 しかし真面目なドラマを作り続ける鶴橋康夫が破天荒なピカレスク・コメディを作ったことに意義があるのだろう。大目に見て細かいことは忘れ大竹&豊川のザッパだが、器用な芝居と悪事を追及する嗅覚ス鋭い永瀬の名探偵ぶりを楽しもう。
 
 脇に「エヴェレスト 神々の山嶺」の尾野真千子、「桜田門外ノ変」の長谷川京子、「ふしぎな岬の物語」の笑福亭鶴瓶、「プライド 運命の瞬間」の津川雅彦など芸達者たちがかためる。

8月27日よりTOHOシネマズで全国公開される

「人間爆弾『桜花』-特攻を命じた兵士の遺言ー」(フランス映画):太平洋戦争末期、「人間爆弾」と呼ばれる小型特攻機への乗員を命じた元海軍大尉・林富士夫の苦悩に満ちた遺言と鎮魂歌

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この映画は昨年11月に公開された「サクラ花~桜花最期の特攻~」と似たようなタイトルと内容なので続編かと思ったが、前者は劇映画、後者は特攻へ送り出した海軍大尉で林富士夫と言う今は90歳を超えた老人へのインタビューで終始するドキュメンタリーだ。

両方の映画が題材にしているのは大平洋戦争末期(昭和19年)に生み出された「桜花」という小型特攻機。0式戦闘機の体当たり特攻ではなく、機首に1.2トンの爆弾を搭載した一人乗りの「桜花」。1式陸上攻撃機の胴体につりさげられ、標的の敵艦近くで切り離される特攻機だ。エンジンを持たない滑空だけで飛び乗務のパイロットが目標に向かう。勿論プロペラが無いので突撃だけで激突したら爆破する「人間爆弾」と呼ばれた、余り知られれていない特攻兵器だ。たくさんの若者を「人」ではなく「爆弾」に変えたその兵器だ。

劇映画の方の監督は「オールナイトロング」や「天心」などの松村克弥。主演は『恋空』でデビューした後、テレビドラマ「永遠の0」で戦時中の兵士を演じた大和田健介。他、緒形直人、磯山さやか、林家三平、三瓶などしっかりした役者たちが人間爆弾「桜花」に取り組んでいた。
プロペラも、車輪も、燃料も積んでいない。敵に向かって突撃するためだけに作られた小型特攻機だ。一度乗れば二度と生きては戻れない。

今ならセンサーも発達し「プレデータ」などと呼ばれる軍用の無人ドローンともUAVとも呼ばれる攻撃機が地球の反対側のアフガンやパキスタンなどのテロリストをアメリカ・ラスベガスの基地からモニターを見ながらミサイル攻撃を操作できる。
残念ながら「桜花」は殆ど戦果が挙げられなかった。母機の1式陸上攻撃機が目標に近づく前に殆ど撃墜されていたからだ。生きていれば戦後の日本復興の力となった優秀な若者たちの命をあたら無駄にしたものだ。

そんな意味でこのドキュメンタリー「人間爆弾『桜花』-特攻を命じた兵士の遺言ー」は延々と語るだけで当時のフーテージも紹介しないが、特攻を命令した本人だけに迫力がある。
鉛筆一本で特攻を命じた隊長・海軍大尉だった林富士夫は今、心から悔恨する。「俺は育てて、鉛筆1本で殺したんだ」と。

痩身でキッチリと背広を着ネクタイを結んだ林富士夫老人。
若い頃はバイオリニストか声楽家を目指していたと言う林は戦争に巻き込まれ父親が軍人でもあったこおともあり1939年(昭和14年)に海軍兵学校入学、1942年(昭和17年)兵学校を卒業し少尉任官、
海軍大尉として筑波航空隊「神雷部隊」(特攻隊)に移り、桜花を使った攻撃を実行した「神雷部隊桜花隊」に任官し、23歳の若さで上官から「桜花」の出撃隊員を選ぶように命じられた林冨士夫。

「おれは育てて、鉛筆の先で殺したんだ」と当時を振り返る。軍隊だから上官の命令の反抗できず、多くの部下たちを死へ送り出すという苦悩と悔恨と戦い、自分の出撃を待たずして終戦を迎えた。
生き残っても欝々とした日々を過ごさざるを得なかった胸の内を吐露する。

敗戦の混乱と激動の時代の中で林富士夫は、神雷部隊桜花隊での1年半の苦悩の記憶を語り継ぐことを自身に課したという。70年前の、亡き特攻隊員に語りかける林富士夫の遺言の鎮魂独白だ。

昨年(2015年6月)に93歳で永眠するまで桜花で殉死した若者の悲話を語り継ぐ。
映画は全編林の語りだが90過ぎとは思えぬ滑舌の良さ、当時の記憶の確かさ、自分への責め苦を込めてインタビューに答える。
 
監督は澤田正道。在仏30年の澤田が制作費を調達しているのでこの作品は「フランス映画」と言うことになっている。
本来は澤田はプロデューサーで深田晃司監督作「淵に立つ」、河瀬直美監督作「あん」「2つ目の窓」、黒沢清監督作「岸辺の旅」、今村昌平監督作「カンゾー先生」などを制作したベテラン・プロデューサー。

終戦記念日に合わせて上映される桜と散った若者への鎮魂歌はエンターテインメント要素は皆無だが鎮魂歌としてじっくり考えるよすがとなる。

8月下旬より渋谷シアター・イメージフォーラムで公開される(劇映画「サクラ花~桜花最期の特攻~」は小屋で公開されず自主上映だった)

「トウモロコシの島」(SIMINDIS KUNDZULI)(グルジア映画):戦闘状態にある「アブハジア」と「グルジア」。その国境中間の小さな島でトウモロコシを育てる老人と孫娘

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昨日(23日)は珍しいグルジア映画の試写が2本もあるので雨中の足下が悪い中出かけた。最初の「みかんの丘」は1年程前に見た記憶がある。国立近代美術館フィルム・センターでEU大使館が共同開催していたEU FILM DAYSでグルジア大使館の出品だった。
ただし「ミカン」と言う邦題がついていたので違う作品かと二度見る羽目になった。

グルジアでは無くエストニア代表で昨年のオスカー外国語賞に応募するほどレベルが高い映画で二度見ても損はしない。

ソ連邦が崩壊した1991年より連邦内の自治共和国「アブハジア」のアブハズ人は自主独立を唱える「グルジア」の民族主義者たちと対立している。1992年にグルジアの西部にあるアブハジアは独立を宣言し内戦が勃発する。

そんな背景を知らなければこの二つの映画は理解できない。

二人のミカン栽培に従事するエストニア人老人。家族は皆故国エストニアに避難したが二人はミカン栽培と収穫のために現地に留まる。ミカンの木箱を作るイヴォはある日、戦闘で傷ついた二人の兵士を自宅に隠し介護する。
一人はアブハジアを支援するチェチェン兵、もう一人はグルジア兵で敵同士だった。

イヴォは自分の家に居る限りは戦うことも殺し合うことも禁じると二人に命じる。
老人の寛大な心とヒューマニズム寒々とした戦闘の中で一時的ではあるが平穏な日々が訪れる。人間の尊厳を訴える感動作だ。
 


「トウモロコシの島」の背景も同じだ。紛争状態にある「アブハジア」と「グルジア」。2つの地域の真ん中で畑を耕す年老いた百姓と若い孫娘の淡々とした日常が大きなドラマに巻き込まれる。

ジョージア最西端に位置するアブハジアが独立を主張してグルジアと戦争を開始した1992年。

両者の間を縫ってエングリ川が悠々と流れる。
この川は春の雪解けとともにコーカサス山脈から肥沃な土砂を運び川の真ん中に「中州」を作る。
アーモンド型をした小さな中州にできた島に陽に焼けたタン色の肌をした老人(イルヤス・サルマン)が上陸する。

土壌を調べ、材木をどこからか集めて小さな小屋の枠組み建て藁で屋根を葺き丸太小屋を作る。
やがて老人の痩せて楚々とした孫娘(ミリアム・ブツリシュヴィリ)も手伝いにやって来て種を蒔き、二人でコーンを育てはじめる。

孫娘は布の人形を抱えていたが小屋に着くと片隅の置きそれからは見向きもしない。少女期を脱し成人の女性への通過儀礼としてオヴァシュヴィリ監督は描いている。

行き来する二人の住処は何処だろうか?娘の両親はどこに居るのだろうか?普段はどんな生活をしているのだろうか?

疑問は山ほど湧き上がるが何の説明どころか、二人の間に会話も無く話は淡々と進みコーンはやがて二人の背丈を追い抜く。

2人は黙々と作業を続けていく。老人は柳で編んだ籠で魚を獲り、娘は内臓を処理したいように干し保存食を作る。

ある朝、孫娘が全裸で泳いで小屋へ帰る途中、若い兵士を発見する。
傷ついて動けなくなったグルジアの若い兵士(イラクリ・サムシア)が島の波打ち際で倒れていたのだ。

老人と娘は応急手当をしベッドへ寝かせる。
アブハジア軍の小隊長(タメール・レヴェント)が軽エンジンのボートで傷ついた兵士を追ってやって来る。

巧みに兵士を隠す老人と孫娘はこれで「中立」ではなくなる。
兵士も信用できるかどうか未知だ。
自分自身と孫娘の安全は脅かされることになるが、傷ついた兵士を敵対する勢力に引き渡す訳には行かない。

 アブハジア語の老人と孫娘はグルジア兵士の言葉は理解できない。
言葉は通じないが孫娘はすっかり兵士に恋してしまったようだ。

 両陣営の兵士たちは、そんな島の二人の様子を横目にボートで通り過ぎて行くだけだったが、
収穫もま近なある夜大暴風雨が島を襲い、エングリ川は増水し危険水域に達する。

殆どセリフ無しの無言劇だが老人のヒューマニズムがひしひしと伝わって来る。

 その1年後新たに出来た中州に別の老人がやって来る。柔らかな土を少し掘り起こすと布の人形の伸びた手が出て来るラストシーンはショックで感銘深い。

 僕は初めて知るザザ・ウルシャゼ監督は、これが二作目。
長い年月をトウモロコシの成長と収穫、それに雪解け水の運ぶ中州の島に取り組む制作意欲は並大抵なものでは無い。

ハリウッドでは作り得ない稀有で真摯なヒューマンドラマ作品だ。

チェコのカルロビ・バリ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞し、米アカデミー賞の外国語映画賞ジョージア代表作品にも選ばれた。
一昨年、2014年・第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では「コーン・アイランド」のタイトルで上映されたので見た人も多いと思うがようやく一般公開に漕ぎつけた。。

9月11日より岩波ホールにて公開される

「ファインディング・ドリー」(FINDING DORY)(アメリカ映画):忘れん坊のドリーがニモとマーリン親子とともに「両親探し」の旅へ出る

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 6月12日週末の時点でシリーズものの大作「不思議な国のアリス」や「WARCRAFT」「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影」など軒並み不振で、興行成績は昨年夏に比べ22%もダウンしていて関係者を不安がらせていた。

 そんな悩みを杞憂として吹き飛ばしてくれたのが16日から開けたPixarとWDのこの新作アニメだった。

 前作「Finding Nimo」から13年振りのファミリー向けアニメ「Finding Dory」(ファインディング・ドリー)は4305館で136.2M(142億円)の堂々たる新記録を樹立した。

 今までは2007年のドリームワークス・アニメーション(DWA)の「Shrek the Third」(シュレック3)がアニメオープニング記録の121.6Mだった。

 Pixarアニメでは2010年の「Toy Story 3」(トイ・ストーリー3)の110.3Mがトップだった。
オープニングBO記録も全作品のトップ20で18位にランクされる。

 ウォルトディズニー(WD)が「Zootopia」(ズートピア)や「The Jungle Book」(ジャングルブック)「Captain America: Civil War」(キャプテンアメリカ)など大作で業界を支配している影響も無縁ではない。

観客の出口調査(シネマスコア)はA評価。
観客の最大層がファミリーで65%、成人が26%、ティーネージャーが9%の順になっている。
Imaxなど立体についてはファミリー層は入場料の事もあって敬遠しがちだったが、この作品では5Mの成績を挙げている。

 WDの国内配給チーフのデイブ・ホリスはコメントを述べる
「13年も前作から離れていれば,『見たい』『見なければならない』と言う予期せぬ不思議な衝動に駆られる。それにPixar作品としては連続17回目の出口調査A評価を獲得した謂れだ」と。A評価を獲得すれば口コミにのる。

 しかし映画興行界の最大の敵、観客が映画館に足を運ばなくなっている一番の要因は「アマゾン・プレミアム」(AMAZON PREMIM)や「ネットフリックス」(NETFLIX)にあることに関係者は気付いている。

 日本でもアマゾン・Pの「モーツァルト・イン・ジャングル」やNETFLIXがお笑い芥川賞作家又吉直樹の「火花」を10話にして放映をして関心を集めている。
ラインアップは海外作品を入れると3000点にも及ぶ。

 外出しなくとも、劇場へわざわざ足を運ばなくても、手ごろの料金で自宅の2Kモニターでレベルの高い新作オリジナル映画が見られる。
 若者のゲームで映画離れした一時の現象より更に深刻な状況に映画界は直面しているのだ。

 その打開策を「ファインディング・ドリー」は示してくれた。
即ち「ファミリー層向けの動物アニメ」と言うジャンルだ。3Dの立体なら尚更良い。

 夏の大作の中でいち早く1ビリオン(1000億円)を突破したのはマーベルコミックのテントポールではない、ウサギの警官が活躍する3Dアニメ「ズートピア」だった。

 話は変わるが、昨日(24日)東宝で見た邦画アニメ「ルドルフとイッパイアッテナ」(8月6日公開)も黒猫のルドルフの冒険譚の3Dアニメは良く出来ていて感動作だった。

 仲間同士の助け合い、友情や思いやり、人間への憧れ。
「ファインディング・ドリー」と同じジャンルのコンセプトでおそらく大ヒットするだろうとの予感がする。


 ストーリーは「ファインディング・二モ」から1年後のある日、ニモの親友、ナンヨウハギのドリーは突然子供のときの記憶を取り戻す。ドリーには離れ離れになった両親がいるのだった。

 はっきりとは居場所が分からないドリーの両親を探すためドリーはカクレクマノミの親子、ニモやマーリンと一緒にカリフォルニアの海を目指す。
 真っ青の海中では派手な赤色が目立つニモ親子と対照的にドリーのナス紺は冴えない。

 旅の途中、巨大イカに遭遇するなど様々な危険に会うが、やがて3匹は海を越えて「カリフォルニア海洋生物学水族館」へとたどり着く。

 カリフォルニア海洋生物学水族館でドリーは友達になったタコのハンクやシロイルカのベイリー、ジンベエザメのデスティニーなどの力を借りて両親を探し出そうとする。
ドリーは海の仲間たちの友情、そして家族の愛情を再認識するのだった。

 しかし同じ顔を、姿をした数百匹、数千匹のナンヨウハギの中から良くぞ両親と認識したものだ。ドリーは感動的なリユニオンを果たす。
 
 ナットキング・コールの懐かしのメロディーが印象的に使われている。
水槽入りのドリーを積んだトラックを高速道路から海へ落とすシーンはスローモーションで「What a Wonderful World」が、
エンドクレジットはシーンを振り返りながら「Unforgettable」がフルコーラス流れる。

 はっきり言ってストーリーは前回の「~ニモ」より面白く無い。
トッ散らかって拡散し纏まっていない。
しかしこの驚異的な記録、成績の示すものは「ファミリー層向けの動物アニメ」の強さ、しぶとさと言う点だろう。
AMAZONやNETFLIXに対抗し劇場に足を運ばせるにはこの手の作品しかない。

 監督は、前作「ファインディング・ニモ」や「ウォーリー」を手がけたアンドリュー・スタントンとアンガス・マクレーン。アンガスはアニメーターとしてPIXARの総ての長編映画に携わって来たが、これで監督デビュー作となる。

 7月16日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で全国公開される

「モン・ロワ」(MON ROI)(フランス映画):女性弁護士トニーは遊び人のレストラン経営者ジョルジョに再会し情熱の炎を燃え上がらせたまま結婚してしまう

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昨日(25日)は外国特派員協会でBBCの1976年制作「シェイクスピア映画」シリーズの「ヘンリー八世」を見た。
正確な原題は「THE FAMOUS HISTORY OF THE LIFE IF KING HENRY 次or All IS TRUE」.

 コメンテーターはジェフリー・チューダー。元日本航空・海外PR部長でJALの御巣鷹山の事故などを扱い、長いJAL勤務後、定年退職。日本に40年以上も住んでいる。特派員協会の特別会員で仕事を引退した今は週に3度ほど顔を見せている。

ジェフリー・チューダーは何がユニークかと言えば、名前の示す通り「チューダー王朝」の末裔、特にこの映画のヘンリー八世はチューダー王朝二代目で、離婚を認めないローマ法王と喧嘩をして、イギリス国教を創設した人だけにジェフリーの力も入る。

昨日はイギリスのEU離脱が決定した日、ヘンリー八世も500年前にヨーロッパを支配するローマカトリックを離脱した。奇妙な運命的な日に解説にも力がこもる。

貧民上がりで野心家の枢機卿、ウォルジー(ティモシー・ウエスト)がチューダー王朝でヘンリー八世(ジョン・ストライド)の執政を取り仕切り財産の1/6を納めさせる酷税を課すなど私腹を肥やす悪政や天敵バッキンガム侯爵(ジュリアン・グローバー)を讒言でロンドン塔に送り処刑を行っている。
王妃キャサリン(クレア・ブルーム)はウォルジーを嫌いぬき王に忠告をするが信頼が厚く解任されない。

キャサリンは王の兄アーサーの未亡人で20年も結婚生活を送っているが世継ぎができないのが悩みの種。
キャサリンは身を引き、若くて美人のアン・ブーリン(バーバラ・ケラーマン)が新しく王妃の座に就く、戴冠式のパレードを見つめるキャサリンの気持ち。
アンは娘を生み後のエリザベス1世となる。

1979年のTVミニシリーズだが役者が上手く見応えがある。シェイクスピア劇につきものの戦いなどのアクションは無く、宮廷内での駆け引きに終始する。

主人公は枢機卿ウォルジーでイギリス王朝を仕切って何れ法王の座を狙う術策がやがてヘンリー8世の知るところとなり自殺に追い込まれる悲劇が中心となる。
アラゴンの女王で王妃キャサリン役のクレア・ブルームが懐かしい。殆どイギリスのTVで活躍していて今年85歳で未だ現役だ。
4時間になんなんとする長尺をすっかり堪能する。


外国特派員協会の後は朝日新聞ホールに駆けつける。

フランスの最新映画を日本に紹介する「フランス映画祭2016」が行われており評判の「モン・ロワ」を見るためだ。
今年の映画祭は新作12本、クラシック1本の全13本の上映作品が発表された。

今年は、「愛と死の谷」「アスファルト」の2作品を携えて来日する団長イザベル・ユペールを筆頭に、人種差別と闘った黒人道化師の実話を映画化した「ショコラ(仮題)」に主演し、近年ハリウッドに活躍の場を広げるオマール・シー、カトリーヌ・ドヌーブ6年ぶりの主演作「太陽のめざめ」で監督、男女の激しい10年愛を紡いだ「モン・ロワ」で主演を務めたエマニュエル・ベルコら総勢15人が来日した。

「太陽のめざめ」などで監督としても活躍するエマニュエル・ベルコが第68回カンヌ国際映画祭女優賞に輝き、第41回セザール賞にもノミネートされたドラマ。
監督としてもしっかりとした演出をするし女優としても美人で芝居も上手い。
例えがオカシイが日ハムの大谷みたいに打って良し投げて良しだ。

映画の冒頭は山の急傾斜を猛烈な勢いのスキーで突っ込む女性弁護士トニー(エマニュエル・ベルコ)。見た目には自殺をしようとしたんではないかと思える。

 「膝というのは後ろにしか曲がることのない関節で、そこを怪我したということは、過去に何か原因があるのでは?」と医師は謎めいたことを言う。

 その言葉を契機にトニーは過去を、つまり元夫ジョルジオとの波乱に満ちた関係を振り返りはじめる。これほどまでに愛憎を覚えた男とは一体何者であったのか。10年の愛憎は一体何だったのだろうか?

 入院しているリハビリセンターではトニーはリハビリ仲間の男性たちの人気の的。仲間にはアラブ人やアジア人、アフリカ人など種々多様な人種がいる。移民や避難民を受け入れているフランスの現状を反映すると同時に受け入れ拒否のイギリスのEU離脱を考えてしまう。

 このリハビリシーンの長いこと。
少し摘めば2時間を超す長尺にならなかったのではないか。

 リハビリに励む彼女は、夫であったジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)との10年の結婚生活から破綻、離婚に至る日々を思い出していた。

 11年前、憧れの存在だったレストラン経営者ジョルジオとクラブのダンスフロアで偶然の再会を果たしたトニー。

 お互いに激しく惹かれ、そのままベッドへ。二人は運命を感じて結婚する。
朝から晩まで昼も厭わずセックスに励む二人の精力にあきれ返る。
西洋人と日本人の差だろうか。よくも飽きないものだ。

 やがてトニーのお腹に新たな命が宿り、幸せの絶頂を迎える。
生まれた子は丸々太った男の子。
ジョルジョは独断で「シンドバッド」と名付ける。

 だがジョルジオの態度が怪しい。
元恋人のモデルで精神が不安定なアグネス(クリステレ・セント・ルイス・オウグスティン)がいて、自殺未遂をしてはジョルジオの気をひく。

 ジョルジオは自分には責任があると言って、元恋人との行き過ぎた関係をやめようとはしない。女性問題に限らず金銭問題、派手な友人たちとの遊び、一人になりたいと勝手に別居を決める身勝手さ。おまけにドラッグにもいつの間にか依存症になっている。

トニーの弟ハレル(ルイ・ギャレル)の意見が一番妥当だし常識的だ。
アグネスをトニーに紹介する時にシンドバッドの「ゴッド・マザー」だと。トニーが怒りを抑えているのか沈黙を守る。

 ハレルの意見に従い家族もジョルジョとの離婚を勧めるが、トニーは「結婚とはそういうものではない。子どもをつくって別れるために何年も待ったわけではない」と長く待ち続け、ようやく見つけた愛する人に見切りをつけることができない。

 しかし次第にトニー自身も精神を病み、生活もままならなくなる。
ジョルジオには精神が不安定な元恋人がいて、自殺未遂をしてはジョルジオの気をひく。ジョルジオは自分には責任があると言って、元恋人との行き過ぎた関係をやめようとはしない。女性問題に限らず金銭問題、派手な友人たちとの遊び、一人になりたいと勝手に別居を決める身勝手さ、ここまでくればあっぱれというしかないダメっぷりに周囲は離婚を勧めるが、トニーは「結婚とはそういうものではない。子どもをつくって別れるために何年も待ったわけではない」と長く待ち続け、ようやく見つけた愛する人に見切りをつけることができない。しかし次第に自身も精神を病み、生活もままならなくなる。

トニーとジョルジオのセックスも激しいが喧嘩も半端では無い。火花が飛び散る口論の果ては互いに殺してしまうのではないかと思える肉弾戦。
日本人の僕らににはとても着いていけない。

トニーは思い込んだら命がけの情熱を膨らませすぎるし、ジョルジオはトニーを愛しながらもアグネスも遊び仲間も諦めない。
自分は好き勝手をし続けるくせにトニーを手放す気はない。

10歳になったシンドバッドを連れて見舞いに来たクリニック前に広がる海岸を3人で歩く姿は幸せそうな家族に見える。

ようやく日本での配給元も決まり来春一般公開される。

「少女」(日本映画):心に「闇」を抱えた高校2年生の「少女」たちの夏休みが始まる。

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東山彰良の直木賞受賞作「流」(講談社2015年8月刊)の400頁を超える大河小説に圧倒される。

東山は1968年台湾生まれの47歳。年少の頃を台湾で過ごし9歳で日本へ移住。福岡県在住。
2003年35歳で「逃亡作法」で「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞、「路傍」で大藪春彦賞を受賞し作家デビュー。ほかの著書に「ラブコメの法則」など。

毎年数多くの直木賞作家が生まれるが東山彰良の直木賞受賞作「流」ほど感銘した作品は無い。難しい台湾語の諺や詩句、慣用句に苦労しながら読み終える。

ストーリーは台湾を舞台にして主人公たちの青春ドラマから、祖父の足跡や葉一家のルーツを探り、抗日戦争を経て毛沢東の共産党と蒋介石の国民党の死闘にまで遡る。

17歳の台北の高等中学生の葉秋生(イエ・チョウ・シェン)を主人公に幼馴染の悪友趙戦雄、通称、小銭(シャオジャン)幼馴染で初恋の二歳年上の看護師、毛毛(マオマオ)を軸にストーリーは展開する。

山東省出身の祖父の葉尊麟(イエ・ヅウゥン・リン)の国民党時代の村全体を老人女子供を含めて惨殺したという残虐な行為の足跡を追う主人公。蒋介石死去の翌年殺害された事件も追う。
叔父の胖子(パンズ)は街のチンピラで少年たちの天敵。小戦の親分で高鷹羽(ガオ・インシャン)は街を取り仕切るギャング団のボス。
 
不良学生やチンピラたちの蝟集する台北の下町の様子が詳細に描かれる。
幼少時代を台北で過ごしたと言う東は台湾の風習や文化習慣風俗に通じており台湾語を通じて異国文化を紹介する。

主人公の葉は今では40歳を超え、自分のルーツを探りに国交が途絶えている中国に日本経由で山東省の祖父出身の村へ行き、当時の模様を調査する。

17歳の葉秋生は何者でもなかった。ゆえに自由だった。
1975年、無軌道に生きる秋生には、蒋介石の死後殺害された愛すべき祖父の生きざまは謎に包まれわからなかった。

大陸から台湾、そして日本へ。謎と輝きに満ちた青春が迸る。
友情と恋、流浪と決断、歴史、人生、そして命の物語。


1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。


何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。

大陸から台湾、そして日本へ。謎と輝きに満ちた青春が迸る。
友情と恋、流浪と決断、歴史、人生、そして命の物語。

エンタメのすべてが詰まった、最強の書き下ろし長編小説だ。

さて直木賞と言えば、この映画の原作者湊かなえも平成28年上期の直木賞候補に「ポイズンドーター・ホーリーマザー」が2度目のノミネートを受けている。

母と娘。姉と妹。男と女。ままならない関係、鮮やかな反転、そしてまさかの結末。読んでいていやな気持にさせる「イヤミス」の女王、湊かなえが人の心の裏の裏まで描き不愉快にさせるミステリー短編6編を収めている。

2009年、「告白」が、第6回本屋大賞を受賞。翌年、映画化された「告白」は、小説に端を発する様々なメディアミックス戦略効果で累計発行部数300万部を超える空前の大ベストセラーとなり、映画は38.5億円の興行収入を記録し、その年の興行収入ランキングで第7位にランクイン、「イヤミス」という新ジャンルを世に広めることとなった。

そんな湊が「告白」の次に発表した作品が「少女」である。
心に闇を抱える由紀と敦子、2人の高校2年生の女の子が、「人が死ぬ瞬間」を見たいという欲望と願望を胸に、別々の夏休みを過ごす。

「人が死ぬ瞬間を見てみたい!」。本当の意味で「死」に向き合えると思うからと言うのが少女たちの本音だ。

高校2年生の夏休み、桜井由紀(本田翼)は小児科病棟でボランティアをしていた。読書好きで時間があると一人で静かに本を読み、授業中は小説を書いている由紀。
クラスで集団の苛めがエスカレートして倒れた親友、草野敦子(山本美月)は保健室のベッドで「死にたい」と漏らす。

そんな「闇」を抱える敦子に由紀は「暗闇の中を一人ぽっちで綱渡りをしている気持かも知れない。しかし陽が登ると足元は大きな橋があって安全にわたれる」そして由紀は書きかけの小説を完成させる。しかし体育の授業中にその小説が誰かに盗まれてしまう。鞄から原稿を取り出す手が見えるが顔まで分からない。

この盗まれた小説が文芸誌に佳作として入選し国語教師の名前、児島一哉(小倉和樹)が作者になっている。だから盗人は国語教師、児島一哉だ。

どう考えても荒唐無稽だ。何で生徒の原稿を先生が盗むのだ?後で贖罪か原稿を粉々に破いて電車に飛び込む。その粉々に破いた血しぶきのついた紙片がビニール袋に入れて由紀に届けられる。

夏休みに入る少し前、転校生の滝沢詩織(佐藤玲)が「親友の死体を見たことがある」と少し自慢げに話していたことに、言い知れぬ違和感と、ちょっとした羨ましさを二人は感じる。

それならば自分は詩織よりも強く「死」の瞬間を目撃したい。そして、その時を誰よりも面白く演出したいと考えた由紀は、残酷にも不治の病で短い生命を終えようとしている少年たちと仲良くなり、自らの思いを遂げようと画策していた。死んで行く少年たちと仲良くなり現場を見たいと思うなんて飛んでもないね。

由紀の親友・草野敦子もまた、由紀には告げずに老人ホームでのボランティアに出かけていた。陰湿ないじめにあい、生きる気力を失いかけていた敦子は、老いさらばえた老人が多ければ死ぬ瞬間を見られる。見たら生きる勇気を持てるのではないかという期待を持っていた。これも酷い話だ。

桜井由紀は、親友の敦子から見ても、何を考えているのかつかめないところがある女子高生。家族とともに痴呆症の祖母の介護をしているが、ある一件から祖母によって左手に一生消えない傷を負わされ、祖母に対して憎悪と嫌悪感を抱いている。普段明るい役柄を演じる事の多い本田だが、ここでは知的で繊細で、どこか暗い役柄を演じている。

山本美月演じる草野敦子は、天真爛漫で空気が読めないところがある。過去にいじめられた経験があり、過度の不安症から人の悪意に触れると過呼吸になってしまう。

高校2年生の夏。心に闇を抱えた「少女」たちの衝撃的な夏休みが今、始まる。
3人、それぞれの視点で語られる一見すると異なるストーリーが、終盤に向けて何重にもリンクしながら繋っていく展開はいつもの港の手法だが、どう見ても「イヤミス」を強調するあまりカタルシスが感じられない。

ストーリー自体はハチャメチャになっているのを三島有紀子が脚色しスタイリッシュな自分なりの手法で監督するから目も当てられない。
「しあわせのパン」(12)「ぶどうのなみだ」(14)「繕い裁つ人」(15)等の作品は映像の細部までこだわり親密な雰囲気を醸し出すヒューマンドラマが得意の三島と今回の「イヤミス」映画はミスマッチだ。

女子高生の「生死観」という重いテーマは三島監督には手に余っているのではないか。
主役の2人に、ドラマ・映画・CMなど多方面で活躍する本田 翼・山本美月が演じているが高校生にしては老け過ぎている。
そうだろう、佐藤玲も含めて3人の女子高生役は20代半ばの女優たちが演じている。

10月8日より丸の内東映他で公開される。

「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」(LITTLE BOY)(アメリカ映画):8歳の少年は大好きな父親を戦場から戻すため神の言葉と奇術師の呪文を一緒に唱える

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公開寸前に軽井沢バス事故で大学生が多数死傷したことを受けて冒頭の場面が酷似していたことで延期されていた宮藤官九郎監督のコメディ『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』が288スクリーンで公開され、土日2日間で動員18万8千人、興収2億5812万円をあげ、初登場首位に輝いたことは喜ばしい限りだ。
他の洋画がたたらを踏む中、快進撃を続けるWDの3D動物アニメ「ズートピア」が興収72億円突破。100億円達成も時間の問題だ。

第2次世界大戦末期のカリフォルニアの小さな町を舞台。父と8歳の少年との絆を描く感動のヒューマン・ドラマ、と言いたいが日本人が主要な役割を担って町に登場し「ダーティ・ジャップ」と蔑まれ迫害を受け、挙句の果てに「広島原爆投下」が町中で「快挙」と喝采を受ける展開に複雑で鈍痛のような思いが沈む。日本人観客には辛い映画だ。
1944年、アメリカ西海岸カリフォルニアの小さな町オヘア。8歳の少年ペッパー(ジェイコブ・サルバーティ)は背が低く、ガキ大将のフレディ(マシュー・スコット・ミラー)や仲間たちから、「小人」(Midget)とか「リトル・ボーイ」とからかわれていた。実際8歳で99センチしか無い。Midgetは悪い言葉。汚い言葉が度々出て来ることでPG13(大人の付き添いが無ければ13歳以下入場禁止)。ファミリーフレンドリーの作品にこの指定はアメリカでは打撃を被ったろう。
ペッパーの楽しみは、唯一の「相棒」である父、ジェイムズ・バズビー(マイケル・ラパポート)との空想ごっこと、父の好きなベン・イーグル(ベン・チャップリン)の奇術を一緒に見ること。
ベンが呪文「I believe I can do this!」と唱えると奇跡が起こる。オバマ大統領のスローガンのような呪文だがペッパーは固く信じる。少なくともベンの実演の舞台に指名され呪文を唱えたらペプシの瓶が動いた。
小さな自動車修理工場を遣り繰りする父と愛し合う優しい笑みを絶やさぬ母、エマ(エミリー・ワトソン)そしてぶっきらぼうな10歳年上の兄、ロンドン(デヴィッド・ヘンリー)と貧しいながら幸せな一家だった。
日本の真珠湾奇襲攻撃で怒ったアメリカは第二次大戦に参戦し、愛国心に燃えるロンドンは陸軍に志願する。だが徴兵検査は4Fで失格、偏平足だった。「足が扁平で鉄砲が撃てない訳はないだろう」と怒るが規則は規則。
そしてロンドンの代理として、父が南太平洋のフィリピン戦線に駆り出されることになりる。徴兵制度に代理があるなんてオカシナ話だ。映画はかなり無理な設定やご都合主義なところがあるが目を瞑る。
父親をなんとかして危ない戦場から呼び戻すことを固く決意したペッパーは、ベンの呪文とオリバー神父の教えを信じる。インチキ奇術師の呪文と司祭の聖書の教えを一緒にする少年が可愛い。
すべて達成することができれば父親が帰って来ると言う大願がかなうリストをオリバー司祭(トム・ウィルキンソン)から授けられ、父親奪還大作戦に向けて動き出す。飢えた者に食事を、ホームレスにシェルターを、病人を見舞う,死者を埋葬する、など7つのリストを総てクリアしなければならない。
しかし町に天敵のジャップが現れる。ハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)は強制収容所に入れられていたがアメリカへの忠誠心が強いことで釈放され町の外れの一軒家に住んでいる。
移住して43年もアメリカに居るハシモトは日本のことは何も知らない。しかし真珠湾で息子を戦死させたサム(テッド・レヴィン)を始めハシモトは町中から爪はじきにされる。自分が町で虐められているのにペッパーは兄ロンドンと一緒にハシモトを迫害する。
日本人がジャップと呼ばれ嫌われ者として落書きや投石されるシーンは分かっているけど居心地は良くない。
しかし邪心の無いハシモトは苛めっ子たちからペッパーを救ったり、リストにある「他人に親切にする」指示で司祭の友人であるハシモトと仲良くなる。苛めっ子たちは「ジャップ・ラバー」と囃し立てるが父親を呼び戻すリストの一つだと信じるペッパーは仲良く過ごす。
アイスクリームを食べたいが売ってくれない屋台からハシモトの要求通りダブルクープのバニラコーンを買う。一口食べたところでハシモトに取られてしまう。「次はチョコレートな」とオカシイ。
ハシモトの家で家族の写真や絵本を見せて貰う。モンゴルが攻めて来た時にペッパーのような小さな「サムライ」が敵の鬼をやっつける絵本を見てペッパーは大きさなんて関係ない、勇気と信念だと更にオスカー司祭のリストを守り父親の生還を願う。
苛めっ子や町の人たちに追い詰められ「山をも動かす」信念と勇気を示そうと呪文を大声で唱えると丁度「大地震」が勃発。一気に信頼が厚くなる。
南部バイブルベルトで大流行の信仰映画の「奇跡」に似ているがアレハンドロ・モンテヴェルテ監督の意図では無い。
ハシモトから日本は海岸から太陽の沈む方向にあると教えられ毎夕波止場に出かけ夕陽に向かい大声で呪文を叫ぶ。時に8月5日午後5時15分。日本時間で6日の8時15分ペッパーと同じ名前のウラニュウム型原爆「リトルボーイ」が広島に投下され15万人の無辜の広島市民が殺される。
「リトルボーイ」ペッパーの快挙と町民たちの歓呼でクライマックスを迎えるが苦々しくおもうのは僕だけではあるまい。

8歳の少年ペッパー役ジェイコブ・サルバーティがキュートで芝居上手で救われている。
少年との絆を育む日本人をケイリー=ヒロユキ・タガワが好感が持てる演技で日本人の面子と尊厳を保つ。
少年の母親を「博士と彼女のセオリー」のエミリー・ワトソンが好演。
メキシコ人監督アレハンドロ・モンテヴェルデは日本人の心をカバーするまでには至らない

8月27日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「永い言い訳」(日本映画):妻を亡くして1年、一緒に事故で死亡した妻の親友の子ども二人の世話をする内に「愛するべき日々に、愛することを怠ったことの、代償は小さくない」ことを悟る

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脚本と脚色は違う。オスカーでもはっきりと区別されているが日本ではあいまいでコミックを原作に脚色しただけなのに脚本XXXと堂々と名乗る。
日本ではしっかりとオリジナル脚本を書く映画作家は多くない。

その中でもカンヌでグランプリの「殯の森」などの河直美などは「あん」で初めて脚色をしたがオリジナル脚本に拘る。

自分で小説を書いて脚本と監督するのが「サッド・ヴァケイション」や「EUREKA」などの青山真治や「歩いても歩いても」「そして父になる」などの是枝裕和がいるが、傑出しているのは小説が独り歩きし、決して映画の付け足しでない(ノベライゼーション)西川美和で、「ゆれる」「ディア・ドクター」などは単行本としても売れ行きは好調だ。。

この「永い言い訳」(2015)は第153回直木賞候補作にもなった同名の小説で、評判になり売れた後に改めて監督、脚本により映画化している。

広いマンションで長い髪の毛をカットして貰っている中年の男。人気小説家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)でその妻で美容院を経営している夏子(深津絵里)は、カットし終わると忙しそうに大型キャスターを押しながら出かける。

幸夫も夏子も事務的に短い挨拶を交わすが特段愛情の籠ったものではない。
妻を送り出した幸夫は若い女性編集者(黒木華)とセックスに励む。そのバックで映りっ放しのTVニュースが山形県でがけ下に転落したバスの事故を伝えている。

夏子は高校からの親友の大宮ゆき(堀内敬子)と一緒に旅行してこの事故であっけなく亡くなってしまう。大学時代に知り合い20年の結婚生活を送っている46歳と44歳の夫婦は既に冷え切っており、骨壺を抱いて葬儀場を出て来た幸夫は報道陣の前でも涙一つ零れなく悲しむことができない。

 幸夫は夏子の親友で共に命を落としたゆきの夫・大宮陽一(竹原ピストル)に会う。事故を起こしたバス会社幹部の謝罪会見で灰皿を投げつけ「妻を返せ!」と大泣きをしている。

 妻が親友同士なので陽一は幸夫と初対面と思えない。慣れ慣れしい口を利く陽一に引くが、しかし幸夫は家を空けて稼ぐ長距離トラックの運転手陽一は憔悴しきっており子どもの面倒を見られないことを知る。

 成績優秀で麻布か開成を狙い塾に通っている小学6年の真平(藤田健心)は父親から進学を諦めさせられている。
幸夫は何も考えずに突発的に申し入れをする。
マンションから毎日大宮の家に通い、幼い子供たち2人、小学6年の真平と幼稚園児の灯(白鳥玉季)の世話をすると。
その理由は幸夫自身にもよくわかっていなかった。

 子役二人の芝居の上手さに舌を巻く。父親に反抗する真平の藤田健心の凛々しさと健気さ。
エビカニアレルギーで駄々っ子の幼稚園児・灯、白鳥玉季。
幼稚園の送り迎えを、自転車の後部座席に乗せた幸夫が坂を上り切れないと「ママはちゃんと登ったよ!」とハッパをかける。
西川の演出力が子供たちを引っ張る。

 この幸夫の異常とも思える心理状態を西川監督は納得性ある説明で観客に説く。幸夫は担当編集者から「この3年間、あなたは燃え尽きてしまい、書くものに覇気も情熱も感じられない」と罵倒される。
桜見物の酒宴のさ中にこの辛口の物言いは幸夫ばかりか観客の耳に突き刺さる。担当マネジャー岸本信介(池松壮亮)から「小説のネタにするんですよね」と言われ後付けで考えてもいなかった理由がつく。この辺り西川の独壇場だ。

その様子を目にした幸夫は、大宮家へ通い、兄妹の面倒を見ることを申し出る。なぜそのようなことを口にしたのか、「愛するべき日々に、愛することを怠ったことの、代償は小さくない。」ことを悟る。タイトル「永い言い訳」の謂れだ。

西川美和監督は3年ぶりの作品。ストーリーテリングの巧みさに加え繊細で鋭い心理描写は相変わらず上手い
主演は「おくりびと」などで数々の映画賞を受けた本木雅弘。
共演は、「悪人」などの深津絵里だが死んでしまうので出番は少ない。
子ども二人を抱える長距離トラック運転手はミュージシャン兼俳優の竹原ピストル。粗野で短気だが涙もろい好人物を演じる。吃音のこども科学館の学芸員、鏑木優子(山田真歩)に惹かれゆきを徐々に忘れて行く。

 話を聞く子どもたちに石灰水に息を吹き込むと白濁するのは何の所為かと質問する?
「ニ」のつくものだ、に手を挙げた陽一は「ニンニク臭い息」と答えて大笑い。
小学生の真一が「二酸化炭素でしょ、酸素のために光合成する植樹もするし」と言われさっぱり分からなくなる父親陽一。

最後は収まるところに収まり長い言い訳も終わりとなる。
ハッピーな気分で映画を堪能できた。

10月14日より全国公開される

「ぼくのおじさん」(日本映画):寅さんのセンを狙った松田龍平の「おじさん」は今一つ

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昨日(29日)、渋谷円山町のユーロスペースで珍しいドキュメンタリ映画を見た。
「チリの闘い」(LA BATALLA DE CHILE)の三部作だ。1975年から78年にかけてチリ、フランス、キューバと三国制作映画。上映時間263分、4時間40分に及ぶ長尺でモノクロの画像。
 
1部:「ブルジョワジーの反乱」左翼アジェンデ政権が揺らぎなきものになった1973年3月の議会選挙で社会主義政策を阻止出来ないと知った右派は国民投票から街頭闘争へ展開する
 
2部:「クーデター」は1973年6月29日の右派クーデター未遂事件。しかし左派は分裂し右派は着々と軍による権力掌握を進め73年9月11日にクーデターが実行されアジェンダ大統領は国民に向けて演説をした後自殺する。
そしてピノチェト将軍を議長とする軍事政権の発足を宣言。
 
3部:「民衆の力」普通の労働者や農民が協力しあい「民衆の力」と呼ばれる無数の地域別グループが組織されていくダイナミックな姿を追う。

NYタイムスが暴露するが右派の街頭闘争やストライキにはアメリカCIAが500万ドルを超える資金を提供していたと。

キューバのカストロ政権が樹立後アメリカは共産化を恐れ、ベトナム戦争に直接参戦しラテンアメリカではCIAの暗躍で各国の右派を援助し赤化を防ぐ。南端のチリもその例外でないことが分かる
40年以上も前の歴史的な左派や共産党のアメリカと右派に対する闘争は初めて画像で紹介される。

街頭闘争を撮影していたカメラマン射殺されるが直前までの画像や故・撮影監督、ホルヘ・ミューラー・シルバへの献辞もされている。
この映画の監督、パトリシオ・グスマンは撮影した16mmフィルムをキューバで6年かけて完成する。

海外でチリの右派政権を非難する映画を制作し続ける。今年72歳。


原作者は北杜夫、「夜と霧の隅で」や奇人変人が多かった齋藤家の歴史を描いた「楡家の人びと」などシリアスなものや「ドクトルマンボウ」などは読んだが、こんな子供向けの小説を書いていたとは知らなかった。

この映画の名前を聞くとジャック・タチ監督・脚本による1958年のフランス映画を思い出す。第31回アカデミー賞外国語映画賞、第11回カンヌ国際映画祭審査員賞の名作だ。しかし「おじさん」は「伯父さん」で中身が違う。

売れっ子の松田龍平が「おじさん」を演じて甥っ子に威張って会話を交わすと言う、今までに無い役柄に取り組むがどうも板についていない。寅さんの線を狙ったと言うが噛み合わず、すれ違いの隙間風が吹く。

小学生のぼく、春山雪男(大西利空)は学校の作文コンクールに課題を出される。
「自分のまわりにいる大人」がテーマ。公務員の父(宮藤官九郎)や専業主婦の母(寺島しのぶ)を書いても平凡すぎて面白く無い。
だが雪男が毎日顔突き合わせている中に、一人異色な大人がいる。兄(=父)の家に居候し、運動神経も鈍くスポーツもできないし、財布は空っぽで雪男にたかるほどでお金もない。万年床でひねもすゴロゴロしているだけ。
大学の臨時講師として週に一コマだけ「哲学」を教えているせいか、屁理屈ばかりこねている「おじさん」。確かに寅さんと満男の関係そっくりで監督山下敦弘はそのセンを狙ったと思われるが、渥美の演技力も風格や自然に湧き出るユーモアも松田龍平に求めるのは無理だ。実際監督から要求された芝居を松田は無理矢理演じるがシラけるだけだ。

そんなおじさんに突如として「お見合い」の話が舞い込む。父親の妹、太っちょの智子おばさん(キムラ緑子)が紹介して来た、ハワイの日系4世の美女、稲葉エリー(真木よう子)を一目見ておじさんは「ぶっ飛ぶ」。

だがお見合いもソコソコにエリーは祖母から受け継いだハワイのコーヒー農園を経営に専念するためアメリカへ帰ってしまう。

さあそれからが大変、宣伝で「XXXジュースを飲んでハワイへ行こう」を見るやシールを集めるためカンとビン集め。山のように応募はがきを出すが当然のように「スカ」。
そんな時に雪男の作文がトップの栄冠を勝ち取りハワイへ「保護者」として行けるようになる。

 こんな話は昔は在った。電通時代に私の部下で直木賞作家となった故・藤原伊織は小学校の時に作文コンクールで優勝しオーストラリアへ行ったと自慢していた。
「栴檀は双葉より芳し」だ。藤原も北も小学校の作文コンクールでこんな経験があっただろう。
美女となると目の色が変わり、すさまじいエネルギーとやる気を見せる。しかしどれも他力本願だったり、運任せのものばかり

ハワイは海も空も美しい。ワイキキの観光ばかりでなく、溶岩だらけのハワイ島のコーヒー農園もコーヒーの樹や実も実際のロケをおこなっているから迫力はある。
寅さん同様マドンナには本命が出現し失意の内に雪男と帰国するおじさん。

本名は分からない「おじさん」役の松田龍平。映画『探偵はBARにいる』シリーズなどと違った芝居をしなければならないので辛い。
重要な雪男役には、子役の大西利空。オーディションを勝ち抜いた大西は山下監督の演出の下名演技を見せる。松田は食われてしまった。

「天然コケッコー」以来、山下敦弘ファンの僕だがどうもこの映画は出来が期待したほどではない。

11月3日より丸の内東映他で公開される。

「日本で一番悪い奴ら」(日本映画):「正義の味方、悪を絶つ」の信念で北海道警察の刑事になった諸星要一警部の成れの果て

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日本警察史上最高の恥さらし、北海道道警の「稲葉事件」を基に映画化した作品。

その稲葉事件は、2002年7月に北海道警察夕張警察署の生活安全特別捜査隊班長である稲葉 圭昭警部が覚せい剤取締法違反容疑と銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕、有罪判決を受けた事件。

エンドクレジットでも説明しているが道警ぐるみの犯罪だが有罪になり刑務所に送られたの稲葉警部だ
け。道警の悪のルーツは未だ宿っているが、その映画化には興味がある。

25日の土曜から封切されたと言うので昨夜(30日)に丸の内TOEIに足を運んだ。
プランタンの真横と言う好位置につけながらこの劇場で満席は滅多に無い。
それにしても昨夜6時45分の回はパラパラとしか観客が居ない。
目のこで数えてあの広い小屋で40人も座っていたかどうか。東映はどうしても東宝や松竹の後塵を拝する。

大学(東洋大学)柔道部での腕を買われ北海道警察に勧誘された諸星要一(綾野剛)は道警を日本チャンピオンの座につける。

26歳で北海道警察本部の刑事となるが、捜査も事務も満足にできず、周囲から邪魔者扱いされる。スポーツ選手は事務能力に欠けると捜査資料を一生懸命書き写している。

署内でも抜きんでた捜査能力を発揮する刑事・村井定夫(ピエール瀧)は諸星に、刑事が認められるには犯人を挙げて点数を稼ぐことが必要、そのためには協力者=S(スパイ)を作れ、と説く。キャバレーで大きな胸のホステスに「S」と指でなぞって小太り酌婦が色っぽい声を挙げる・

諸星は自分の名刺をばら撒き、その効果がでて内通があり、暴力団組員を覚せい剤・拳銃所持で逮捕する。
ビギナーズラックで組員の部屋の何処を探しても何も無い。水を飲もうと冷蔵庫の瓶の底にシャブを見つけた嬉しさ!

 その手柄で道警本部長賞を授与されるが、令状のない違法捜査に暴力団側が激怒する。

 組の代貸・黒岩勝典(中村獅童)と出会い話し合う諸星は無鉄砲な性分を買われ克典と兄弟盃を交わす。
 東京や関西から大きな組が北海道へ進出を企てている。
道警もすすき野の弱小組も団結して北海道を守ろうと言う意気に賛同したのだ。

この映画全編に流れるのは北海道vs関東で、例えば後半の大きな山場でシャブを見逃しても関東のヤクザの手に落ちれば北海道の市民は安全だと言う税関と道警の連帯意識。

 兄弟分の黒岩が諸星のSとなるからシャブも拳銃も思いのままに挙げられる。
諸星は31歳で札幌中央署暴力犯係(マル暴)に異動し、ロシア語が堪能な山辺太郎(YOUNG DAIS)を黒岩から紹介される。

 さらに太郎からロシアルートの拳銃横流しに精通するパキスタン人アクラム・ラシード(植野行雄)を紹介され、共にSとして付き合う。
特に警察庁の長官が銃撃されてからと言うもの、拳銃はロシア人や中国人から金を出してでも手にいれると言う本末転倒。

 道警本部に銃器対策課が新設され、諸星は第二係長を拝命する。新設部署の面子のため手っ取り早く拳銃の摘発をしたいと上司に相談されると、所持者不明(首なし)の銃をコインロッカーに入れて摘発を偽装する。

 これをきっかけに摘発手段はエスカレートしていき、ロシア人から1丁2万円でトカレフを購入して摘発件数を水増しするようになる。
諸星は銃器対策課から予算を引き出し、太郎とラシードを拳銃の仕入れにロシアまで向かわせるが、1丁しか購入できなかった。

 そこで手頃な値段で拳銃を売る東京のヤクザを頼るが、拳銃が一般の宅配便で送られてきたため警視庁の知るところになり、この影響でヤクザの拳銃の販売価格が高騰する。

 諸星は資金不足を補うため、黒岩の提案でシャブを捌くことに。
これが諸星の転落の切っ掛けとなる。

 大学時代に柔道で鍛えた腕っ節の強さを買われて、北海道警の刑事となった諸星要一をシャブの取引に来たヤクザの幹部が警官だと見抜くシーンが興味深い。

 柔道高段者になると耳が潰れてカリフラワー状になる。柔道上がりの警官は多い。ヤクザの慧眼には恐れ入るが勝典がすかさず飛び込んで中に入り諸星はアマチュアレスリングの選手だったと取り成す。
レスリングは警察に関係無いが、上手い言い逃れで虎口を脱する。

 絶対にシャブに手を付けなかった諸星は公私ともにSとの関わりを深めていく。
黒岩はさらに大きな計画を諸星に持ち掛け、税関、道警を巻き込んだ日本警察史上最大の不祥事を引き起こす。
しかし黒岩は既に兄弟分の諸星を裏切る陰謀を企んでいたのだ。
 
中村獅童はヤクザ役が良く似合う。サングラスを夜でもかけアロハを粋に着こなし、道警エースの諸星を手玉にとる。

 「新宿スワン」などの綾野剛も上手い。悪に手を染めた始めた23歳から50歳の刑事として過ごす26年間を、年齢にあわせて体重を10キロ増減させるなどして演じたと言う。

 敏腕刑事の村井役のピエール瀧も貫禄がある。
「刑事は点数。点数を稼ぐには裏社会に飛び込み、『S』をつくれ」と刑事の「イロハ」を新米の諸星に叩き込む。

 監督として劇場長編デビュー作となる山田孝之主演の映画『凶悪』(2013年公開)が国内の数々の賞に輝いた白石和彌。

 良い役者をズラリと並べて演出しているがまだまだ経験不足。東映Vシネマ並みのチープな画面になっているのは惜しい。
ヌードはフンダンに溢れてR15 指定になっているが少しもエロチックで無いのは白石のワンパターンの絡みの所為だ。

 原作は「日本警察史上最大の不祥事」の「稲葉事件」を描いた稲葉圭昭、本人の著書をもとにしたもの。

駆け出しの時から可愛がっていた山辺太郎(YOUNG DAIS:好演)が妻子に見放され拘置所内で自殺するに及んで全貌を告白したかに思えた稲葉は道警の名誉を守るためか自分以外の道警ぐるみの犯行を黙秘していると言う。

 丸の内TOEIで公開中
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