ビニー・パジェンザ、アメリカ北東部ロードアイランド州クラストン生まれのイタリア系プロボクサー。1983年に21歳でデビューし2004年41歳で引退するまで世界チャンピオンの座に5回輝き、ライト級からスーパーミドル級まで3回級制覇を遂げている。
こう言ってしまえば世界チャンピオンボクサーの輝かしい経歴に過ぎないが王者の道途中で地獄を見ているのだ。そこからどう這い上がって来たか、その過程が観客に感動を与える(Bleed For This=原題)。
1987年6月7日、IBF世界ライト級王者グレグ・ホーゲンと対しチャンピオンなるも、ホ-ゲンとのリターンマッチに敗れ王座を失う。
王者奪還に燃えるビニー・パジェンザ(マイルズ・テラー)。
映画は1988年11月7日のWBC世界スーパーライト級王者ロジャー・メイウェザー戦の前から始まる。裸のガールフレンドアッシュを侍らせ、サランラップを腹に巻き自転車を漕いで精いっぱいに減量しギリギリの140ポンド(63.5キロ)で計量パスをする。
しかし初回にダウンを奪われ、12回戦い抜くも判定負けで3連敗。マネージャーのルー・デュバ(テッド・レヴィン)はTVのレポーターに「顎が弱い。3連敗じゃ引退だな」と吐きすてる。
ビニーは評判を聞きつけてトレーナーのケビン・ルーニー(アーロン・エッカート)を訪ねる。モハメッド・アリを育てた男としてジムの壁には写真がベタベタ張ってある。
この映画は事実に基づいているがケビンは実在したかどうか?ウエブで調べても分からない。フィクションとしてもここから二人三脚で16年間協力しあうのだから主役でもある。
ケビンは大酒飲みで絶えず酔っぱらっているが、ビニーがジムの前で見かけたポルシェカレラから判断して生活には困っていないようだし、練習生は多い。
「今何ポンドだ?」「165ポンド(74.8キロ)あるよ」
ケビンはメイウェザー戦をTVで見ていて、「あの無理な減量で脱水症状を起こしていて力が発揮されていない。これからはあるがままの体重で戦え」と最初のアドバイスをする。
「幾ら何でもそれは2回級上でしょう」「いやお前はパンチ力があるのだから、それで戦え」
酔っぱらっていても名伯楽。
鋭い観察眼のトレーナーの下で鍛えられ、そして無敗の世界ジュニアミドル級(スーパーミドル級)王者、フランスの黒人ボクサー、ジルベール・デュレを下しチャンピオンになる。地元プロビデンスのシヴィック・センターだから万雷の声援と拍手で称えられる。
大金のファイトマネーが転がり込み真っ赤なスポーツカーを友人に運転させ、インディアン居住地のカジノへ向かう途中、レーンを外れて猛スピードで突っ込ん来た黒の乗用車と正面衝突。
意識を取り戻したビニーに医者は言う。首の骨を折り瀕死の重傷。頭蓋骨に穴を開けボルトで止める脊椎固定(ハロー)手術を受ける。
映画を見ているだけでもキリキリと痛む。ベッドからは動けない。歩けるようになることですら奇跡の中、ましてもう一度ボクシングが出来るとは思えない。
その痛々しい姿に、誰もがビニーの選手生命は絶たれたと思い、金目当てで近づいてきていた人間たちやガールフレンドも離れていく。ベッドから夢想するストリップバーの女の子たちの姿が天使に見える。
だがビニーは諦めていなかった。彼は命を懸けトレーナーのケビンと共に、どん底から王座奪還をめざす。
ケビンは毎日ビニーの家を訪ね、地下に父親、アンジェロ(キアラン・ハインズ)が作ってくれたジムでトレーニングを始める。
このビニー一家が変わっていて面白い。
気性は荒いがボクシングに夢中で息子には献身的な父親のアンジェロ(キアラン・ハインズ)とお祈りばかりの迷信を信じる母親ルイーズ(ケイティ・セイガル)たちと共に彼は穏やかな日々を過ごす。
ハローをつけたまま父母や姉、そしてフィアンセを入れたイタリア人家族は愉快だ。殆ど毎日がパスタなどを中心のイタリア料理だが大勢で囲む食卓は楽しい。
アイルランド人のケビンは一員となって毎食付き合う。
宗教は同じカトリックだから壁に張り巡らした聖母マリアなどのアイコンには違和感は無いが大酒飲みの酔っ払いはアイリッシュのケビンだけだ。
ビニーの周囲の人間たちは、彼はもうリングに立つことはないだろうと思っていた。離れていくプロモーターやガールフレンドたち。
しかし父アンジェロがトレーニング中のケビンとビニーを見つけ、二人は激しく非難される。他の家族も同様だ。愛する家族の全員反対にあいながらも、チャンピオン防衛期限が後6か月と迫った中でビニーはトレーニングを続ける。
そして事故から1年が過ぎた頃、彼は生涯で最も大きな試合となるスーパーミドル級チャンピオンのロベルト・デュラン(エドウィン・ロドリゲス)との対戦のためにラスベガスMGMグランドで再びリングに上る。
意外なことにこの運命的な試合を含め、在りものニュースやTV映像は使用されていない。改めて試合を採録するので思った程迫力は無い。
だが描きたかったビニーの誰もが予想だにしなかった不屈の精神力で再び世界王者に帰り咲いたことだけは見る者に最大のカタルシスを齎す。
主人公は「セッション」(Whiplash)で信じられないドラマーを演じた29歳のマイルズ・テラー。ミュージシャンから筋肉モリモリのアスリートと役者も楽じゃない。このためにテラーは体85キロの体重を76キロに、19%の体脂肪を6%にまで落としている。
名トレーナーのケビン・ルーニー役に「エリン・ブロコビッチ」(00)の主演で注目され「ハドソン川の奇跡」(16)などの48歳のアーロン・エッカートが頭を剃って熱演する。
マーティン・スコセッシ製作総指揮の下、「マネー・ゲーム」(00)で世に出たが暫くハリウッドで忘れられていたベン・ヤンガーが監督・脚本を手掛けた。
しかし「Prime」(日本未公開)(05)以来10年も遠ざかっていた演出にはやや鋭さに欠けているのも見逃せない。間違いなくヤンガー監督の代表作になるだろうが、主役2人の熱演に負うところが大きい。
初夏TOHOシネマズシャンテ他で公開される
こう言ってしまえば世界チャンピオンボクサーの輝かしい経歴に過ぎないが王者の道途中で地獄を見ているのだ。そこからどう這い上がって来たか、その過程が観客に感動を与える(Bleed For This=原題)。
1987年6月7日、IBF世界ライト級王者グレグ・ホーゲンと対しチャンピオンなるも、ホ-ゲンとのリターンマッチに敗れ王座を失う。
王者奪還に燃えるビニー・パジェンザ(マイルズ・テラー)。
映画は1988年11月7日のWBC世界スーパーライト級王者ロジャー・メイウェザー戦の前から始まる。裸のガールフレンドアッシュを侍らせ、サランラップを腹に巻き自転車を漕いで精いっぱいに減量しギリギリの140ポンド(63.5キロ)で計量パスをする。
しかし初回にダウンを奪われ、12回戦い抜くも判定負けで3連敗。マネージャーのルー・デュバ(テッド・レヴィン)はTVのレポーターに「顎が弱い。3連敗じゃ引退だな」と吐きすてる。
ビニーは評判を聞きつけてトレーナーのケビン・ルーニー(アーロン・エッカート)を訪ねる。モハメッド・アリを育てた男としてジムの壁には写真がベタベタ張ってある。
この映画は事実に基づいているがケビンは実在したかどうか?ウエブで調べても分からない。フィクションとしてもここから二人三脚で16年間協力しあうのだから主役でもある。
ケビンは大酒飲みで絶えず酔っぱらっているが、ビニーがジムの前で見かけたポルシェカレラから判断して生活には困っていないようだし、練習生は多い。
「今何ポンドだ?」「165ポンド(74.8キロ)あるよ」
ケビンはメイウェザー戦をTVで見ていて、「あの無理な減量で脱水症状を起こしていて力が発揮されていない。これからはあるがままの体重で戦え」と最初のアドバイスをする。
「幾ら何でもそれは2回級上でしょう」「いやお前はパンチ力があるのだから、それで戦え」
酔っぱらっていても名伯楽。
鋭い観察眼のトレーナーの下で鍛えられ、そして無敗の世界ジュニアミドル級(スーパーミドル級)王者、フランスの黒人ボクサー、ジルベール・デュレを下しチャンピオンになる。地元プロビデンスのシヴィック・センターだから万雷の声援と拍手で称えられる。
大金のファイトマネーが転がり込み真っ赤なスポーツカーを友人に運転させ、インディアン居住地のカジノへ向かう途中、レーンを外れて猛スピードで突っ込ん来た黒の乗用車と正面衝突。
意識を取り戻したビニーに医者は言う。首の骨を折り瀕死の重傷。頭蓋骨に穴を開けボルトで止める脊椎固定(ハロー)手術を受ける。
映画を見ているだけでもキリキリと痛む。ベッドからは動けない。歩けるようになることですら奇跡の中、ましてもう一度ボクシングが出来るとは思えない。
その痛々しい姿に、誰もがビニーの選手生命は絶たれたと思い、金目当てで近づいてきていた人間たちやガールフレンドも離れていく。ベッドから夢想するストリップバーの女の子たちの姿が天使に見える。
だがビニーは諦めていなかった。彼は命を懸けトレーナーのケビンと共に、どん底から王座奪還をめざす。
ケビンは毎日ビニーの家を訪ね、地下に父親、アンジェロ(キアラン・ハインズ)が作ってくれたジムでトレーニングを始める。
このビニー一家が変わっていて面白い。
気性は荒いがボクシングに夢中で息子には献身的な父親のアンジェロ(キアラン・ハインズ)とお祈りばかりの迷信を信じる母親ルイーズ(ケイティ・セイガル)たちと共に彼は穏やかな日々を過ごす。
ハローをつけたまま父母や姉、そしてフィアンセを入れたイタリア人家族は愉快だ。殆ど毎日がパスタなどを中心のイタリア料理だが大勢で囲む食卓は楽しい。
アイルランド人のケビンは一員となって毎食付き合う。
宗教は同じカトリックだから壁に張り巡らした聖母マリアなどのアイコンには違和感は無いが大酒飲みの酔っ払いはアイリッシュのケビンだけだ。
ビニーの周囲の人間たちは、彼はもうリングに立つことはないだろうと思っていた。離れていくプロモーターやガールフレンドたち。
しかし父アンジェロがトレーニング中のケビンとビニーを見つけ、二人は激しく非難される。他の家族も同様だ。愛する家族の全員反対にあいながらも、チャンピオン防衛期限が後6か月と迫った中でビニーはトレーニングを続ける。
そして事故から1年が過ぎた頃、彼は生涯で最も大きな試合となるスーパーミドル級チャンピオンのロベルト・デュラン(エドウィン・ロドリゲス)との対戦のためにラスベガスMGMグランドで再びリングに上る。
意外なことにこの運命的な試合を含め、在りものニュースやTV映像は使用されていない。改めて試合を採録するので思った程迫力は無い。
だが描きたかったビニーの誰もが予想だにしなかった不屈の精神力で再び世界王者に帰り咲いたことだけは見る者に最大のカタルシスを齎す。
主人公は「セッション」(Whiplash)で信じられないドラマーを演じた29歳のマイルズ・テラー。ミュージシャンから筋肉モリモリのアスリートと役者も楽じゃない。このためにテラーは体85キロの体重を76キロに、19%の体脂肪を6%にまで落としている。
名トレーナーのケビン・ルーニー役に「エリン・ブロコビッチ」(00)の主演で注目され「ハドソン川の奇跡」(16)などの48歳のアーロン・エッカートが頭を剃って熱演する。
マーティン・スコセッシ製作総指揮の下、「マネー・ゲーム」(00)で世に出たが暫くハリウッドで忘れられていたベン・ヤンガーが監督・脚本を手掛けた。
しかし「Prime」(日本未公開)(05)以来10年も遠ざかっていた演出にはやや鋭さに欠けているのも見逃せない。間違いなくヤンガー監督の代表作になるだろうが、主役2人の熱演に負うところが大きい。
初夏TOHOシネマズシャンテ他で公開される