Quantcast
Channel: 恵介の映画あれこれ
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live

「ビニー/信じる男」(Bleed for This)(アメリカ映画):世界チャンピオンのビニー・パジェンザは交通事故で首を骨折し下半身不随になる。しかし不屈の精神力で世界王者に返り咲く実話の映画化

$
0
0
 ビニー・パジェンザ、アメリカ北東部ロードアイランド州クラストン生まれのイタリア系プロボクサー。1983年に21歳でデビューし2004年41歳で引退するまで世界チャンピオンの座に5回輝き、ライト級からスーパーミドル級まで3回級制覇を遂げている。

 こう言ってしまえば世界チャンピオンボクサーの輝かしい経歴に過ぎないが王者の道途中で地獄を見ているのだ。そこからどう這い上がって来たか、その過程が観客に感動を与える(Bleed For This=原題)。
1987年6月7日、IBF世界ライト級王者グレグ・ホーゲンと対しチャンピオンなるも、ホ-ゲンとのリターンマッチに敗れ王座を失う。

 王者奪還に燃えるビニー・パジェンザ(マイルズ・テラー)。

映画は1988年11月7日のWBC世界スーパーライト級王者ロジャー・メイウェザー戦の前から始まる。裸のガールフレンドアッシュを侍らせ、サランラップを腹に巻き自転車を漕いで精いっぱいに減量しギリギリの140ポンド(63.5キロ)で計量パスをする。

しかし初回にダウンを奪われ、12回戦い抜くも判定負けで3連敗。マネージャーのルー・デュバ(テッド・レヴィン)はTVのレポーターに「顎が弱い。3連敗じゃ引退だな」と吐きすてる。

 ビニーは評判を聞きつけてトレーナーのケビン・ルーニー(アーロン・エッカート)を訪ねる。モハメッド・アリを育てた男としてジムの壁には写真がベタベタ張ってある。

この映画は事実に基づいているがケビンは実在したかどうか?ウエブで調べても分からない。フィクションとしてもここから二人三脚で16年間協力しあうのだから主役でもある。

 ケビンは大酒飲みで絶えず酔っぱらっているが、ビニーがジムの前で見かけたポルシェカレラから判断して生活には困っていないようだし、練習生は多い。

「今何ポンドだ?」「165ポンド(74.8キロ)あるよ」
ケビンはメイウェザー戦をTVで見ていて、「あの無理な減量で脱水症状を起こしていて力が発揮されていない。これからはあるがままの体重で戦え」と最初のアドバイスをする。
「幾ら何でもそれは2回級上でしょう」「いやお前はパンチ力があるのだから、それで戦え」

 酔っぱらっていても名伯楽。
鋭い観察眼のトレーナーの下で鍛えられ、そして無敗の世界ジュニアミドル級(スーパーミドル級)王者、フランスの黒人ボクサー、ジルベール・デュレを下しチャンピオンになる。地元プロビデンスのシヴィック・センターだから万雷の声援と拍手で称えられる。

大金のファイトマネーが転がり込み真っ赤なスポーツカーを友人に運転させ、インディアン居住地のカジノへ向かう途中、レーンを外れて猛スピードで突っ込ん来た黒の乗用車と正面衝突。

意識を取り戻したビニーに医者は言う。首の骨を折り瀕死の重傷。頭蓋骨に穴を開けボルトで止める脊椎固定(ハロー)手術を受ける。
映画を見ているだけでもキリキリと痛む。ベッドからは動けない。歩けるようになることですら奇跡の中、ましてもう一度ボクシングが出来るとは思えない。

その痛々しい姿に、誰もがビニーの選手生命は絶たれたと思い、金目当てで近づいてきていた人間たちやガールフレンドも離れていく。ベッドから夢想するストリップバーの女の子たちの姿が天使に見える。

だがビニーは諦めていなかった。彼は命を懸けトレーナーのケビンと共に、どん底から王座奪還をめざす。

ケビンは毎日ビニーの家を訪ね、地下に父親、アンジェロ(キアラン・ハインズ)が作ってくれたジムでトレーニングを始める。

このビニー一家が変わっていて面白い。
気性は荒いがボクシングに夢中で息子には献身的な父親のアンジェロ(キアラン・ハインズ)とお祈りばかりの迷信を信じる母親ルイーズ(ケイティ・セイガル)たちと共に彼は穏やかな日々を過ごす。

ハローをつけたまま父母や姉、そしてフィアンセを入れたイタリア人家族は愉快だ。殆ど毎日がパスタなどを中心のイタリア料理だが大勢で囲む食卓は楽しい。
アイルランド人のケビンは一員となって毎食付き合う。

宗教は同じカトリックだから壁に張り巡らした聖母マリアなどのアイコンには違和感は無いが大酒飲みの酔っ払いはアイリッシュのケビンだけだ。

ビニーの周囲の人間たちは、彼はもうリングに立つことはないだろうと思っていた。離れていくプロモーターやガールフレンドたち。

しかし父アンジェロがトレーニング中のケビンとビニーを見つけ、二人は激しく非難される。他の家族も同様だ。愛する家族の全員反対にあいながらも、チャンピオン防衛期限が後6か月と迫った中でビニーはトレーニングを続ける。

そして事故から1年が過ぎた頃、彼は生涯で最も大きな試合となるスーパーミドル級チャンピオンのロベルト・デュラン(エドウィン・ロドリゲス)との対戦のためにラスベガスMGMグランドで再びリングに上る。

意外なことにこの運命的な試合を含め、在りものニュースやTV映像は使用されていない。改めて試合を採録するので思った程迫力は無い。

だが描きたかったビニーの誰もが予想だにしなかった不屈の精神力で再び世界王者に帰り咲いたことだけは見る者に最大のカタルシスを齎す。

主人公は「セッション」(Whiplash)で信じられないドラマーを演じた29歳のマイルズ・テラー。ミュージシャンから筋肉モリモリのアスリートと役者も楽じゃない。このためにテラーは体85キロの体重を76キロに、19%の体脂肪を6%にまで落としている。

名トレーナーのケビン・ルーニー役に「エリン・ブロコビッチ」(00)の主演で注目され「ハドソン川の奇跡」(16)などの48歳のアーロン・エッカートが頭を剃って熱演する。

マーティン・スコセッシ製作総指揮の下、「マネー・ゲーム」(00)で世に出たが暫くハリウッドで忘れられていたベン・ヤンガーが監督・脚本を手掛けた。
しかし「Prime」(日本未公開)(05)以来10年も遠ざかっていた演出にはやや鋭さに欠けているのも見逃せない。間違いなくヤンガー監督の代表作になるだろうが、主役2人の熱演に負うところが大きい。

初夏TOHOシネマズシャンテ他で公開される

「赤毛のアン」(L.M.Montgomery’s Anne of Green Gables)(カナダ映画):お馴染み「赤毛の」痩せっぽちアンがプリンス・エドワード島の美しい自然をバックにあどけない悪戯

$
0
0
 日本では劇場用映画として公開されるが、アメリカではPBSで放映された1時間半のTV映画だ。カナダのL.M.モンゴメリが(原題にL.M.Montgomery作Anneと作家名が含まれている)一世紀以上も昔の1908年に出版して世界的ベストセラーとなり世代を超えて愛され続ける少女アンは、日本では根強い人気がTV映画とて構わない、実写映画として大きなスクリーンで見たいと言う要求は変わらない。

余談だが今年の夏休み、8月26日に帝国ホテルのディナーショーでサマーファミリーイベントの舞台で演じられる。おひとり様23000円と目の飛び出る料金だが「赤毛のアン」のファン層はそれほど広い層に浸透している証左だろう。

カナダのプリンス・エドワード島。

花が一斉に咲き誇る春、農場を営む年配のマシュウ・クスバート(マーティン・シーン)と妹マリラ(サラ・ボッツフォード)の緑の切妻(Green Gables=原題の一部)の家にひとりの少女がやって来た。
孤児のアンは里子として貰われて来たのだ。

痩せっぽちでそばかすだらけと言う僕らの既存のイメージに比べ演じるエラ・バレンタイン余りに可愛く美人過ぎる。
オーディションによって選ばれたカナダ出身のエラ・バレンタインはこれからの新人。ミュージカル「レ・ミゼラブル」のトロント公演でコゼットを演じたこともある。

夢見がちで楽しいおしゃべりが好きな11歳の少女はアン・シャーリー(エラ・バレンタイン)。
働き手となる11歳の男の子を孤児院から引き取るつもりだった兄妹は戸惑うが、むげに追い返すわけにもいかず、アンに別の引き取り手が見つかるまで家に置くことにする。
昔の孤児院は慈善施設と言うより奴隷売買的に親の無い子どもを斡旋して金儲けに走りがちだ。

 翌日からアンは、厳格なマリラに命じられて慣れない家畜の世話などを甲斐甲斐しく手伝う一方で、口べたで内気、余り喋らないが話を聞くことが好きな兄のマシュウにいろんな話をする。

5歳で両親を亡くし、他人の家や孤児院で過酷な生活を送ってきたアン。辛い暗い話だがアンは屈託なく何でも話すことでマシュウ爺さんはすっかりアンのファンになる。辛いときに助けになったのがアンの豊かな想像力だった。

 でも容姿だけはどうしようもない。
隣家の口喧しいリンド夫人(ケイト・ヘニッグ)に「やせっぽちで、赤毛で、そばかすだらけ」とけなされたアンは、腹を立てて無礼な態度をとり、謝罪を命じるマリラにまで反抗して部屋に閉じこもってしまう。
しかしマシュウが話かけそっと背中を押すと、アンは素直にリンド夫人に謝罪し、丸く収まった。マシュウはすでにアンの心の友だった。

 マシュウを演じるマーティン・シーンは今年77歳。地獄の黙示録」(79)で世界に注目され「ガンジー」「ウォール街」「ディパーテッド」などベテランの名優で、他の共演者が殆ど無名だけにシーンは目立つし芝居も上手い。
この映画でもアンを助けようと心臓が悪いのに凍った海に飛び込み命を危うくするシーンは一番のハイライトだった。息子たち、エミリオ・エステベスやチャーリー・シーンは著名な俳優であり監督だ。
アンの次から次へと巻き起こす騒動が映画を引っ張る。

 マリラが頭痛で寝込んだため、教会へひとりで行くことになったアン。道端の花を摘んでは挿すうちに帽子は花の山となり、あとでマリラに恥をかかせることになる。

 アンに同年代の友達が必要だと考えたマリラは、近所のバーリー夫人(リンダ・カッシュ)の美しい娘ダイアナ(ジュリア・ラロンド)を紹介。
アンとダイアナは意気投合し、親友になることを誓いあう。
エラに負けずジュリアも美少女。
画面の上で楽しそうな二人へ絵になる。

 アンは秋から学校に通い始めるが、登校初日にハンサムなギルバード・ブライス(ドゥルー・ヘイタオグルー)に容貌をからかわれて石板で頭を殴りつけるなど大喧嘩したりと次々と騒動を巻き起こす。

 騒動の原因は殆どアンの容貌で「赤毛でソバカスだらけの痩せっぽいのブス」の筈だから、アニメや小説や実写映画を何度も見ている観客に納得させなければ物語は迫力も説得性もなくなる。

 余りにブスでは誰も見たくなくなるが前述のように2001年生まれのエラ・バレンタインは役柄よりも年上で典型的な美人女優(もう子役ではない)なのが問題なのだ。

 最初は戸惑っていたマシュウとマリラは、アンの豊かな想像力と楽しいおしゃべりに引き込まれ、いつしかアンは家族同然の大切な存在となり、孤児院から男の子を貰ってくることなどとうの昔に忘れている。

 1時間半のTVムービーだけにアンの魅力を描くのには充分な余裕が無く、エピソードも紹介するが端折、キャラクターも平板になってしまったのは惜しい。

 ロケーションは実際にプリンス・エドワード島で行われた。花が一斉に咲き誇る春から、白銀の冬まで、世界一美しいと言われる小さな島の四季を背景に、カナダ映画界の精鋭スタッフが地元の誇りを世界に紹介しようと愛情を込めて織り上げたアンの世界。映画そのものより景色を楽しむ。

 監督はTVドラマ演出のベテラン、ジョン・ケント・ハリソン。勿論日本では誰も知らない。TV映画や短編は多く監督しているが長編劇場映画は一本も撮っていない。

5月6日より新宿バルト9他で公開される。

「ある決闘―セントヘレナの掟―」(By Way Of Helena)(アメリカ映画):トランプ大統領が唱える、「アメリカ・ファースト」「白人至上主義」の深い闇をウェスタンの時代劇に託して見せる。

$
0
0
この映画で国境のリオ・グランデ川を越えて密入国して来たメキシコ人がジャンジャン殺される。それも「人間狩り」のゲームで参加料200ドルを取って逃げるメキシカンを射殺するのだ。ドナルド・トランプには気に入る映画だろう。

映画完成時は選挙戦真っ只中で「メキシコ人は誰もが犯罪者で暴行魔(レイピスト)だ」と過激なことを言って遊説していたが、ウディ・ハレルソン扮する町を牛耳る説教師に言動がそっくりなのは意図したことだろう。

気になるのはアメリカ映画なのにこの作品は昨年6月上映館数を限定して公開すると同時にDVDが発売された。やはり西部劇は本場のアメリカでも当たらない。
鳴り物入りで公開された「マグニフィセントセブン」も不発だった。

そこでこの映画では単なるシュートアウトでは無くて相当にミステリーの要素を盛り込んだり、オカルト的な説教師が町を支配し特命を受けた保安官が潜伏して説教師を探ると言う複雑なプロットを展開する。

ウェスタン・ノワール第2弾で「悪党に粛清を」(The Salvation)(14)に続く第2弾。
第一弾は1870年代、敗戦で荒れたデンマークから新天地アメリカへと旅立った元兵士のジョンは、7年後、事業も軌道に乗ったことから妻子を呼び寄せ再会を喜ぶ。しかし、喜びもつかの間、目の前で妻子を殺されてしまい、ジョンは怒りのあまり犯人を撃ち殺す。殺した相手が一帯を仕切る悪名高いデラルー大佐の弟だったことからジョンは凶悪な軍団と一人で戦う羽目になる。


 この作品も不思議な出だしだ。1866年、雨の中二人の男、神を信じないジェーシー・キングストンと神の狂信者エイブラハム・ブラントが互いの左手手首を縛り接近戦でナイフで戦う。泥にまみれて凄惨な殺し合いだ。勝ったのはエイブラハム、虫の息のジェシーに駆け寄る幼い息子。
それから22年後の1886年、メキシコとの国境リオ・グランデ川に何十というメキシコ人の死体が流れ着いた。

この不可解な事件を捜査するため、知事から特命を受けたテキサス・レンジャーのデイビッド・キングストン(リアム・ヘムズワース)は川の上流、20キロほどにあるマウント・ハーモンへ美人のメキシコ人妻・マリソル(アリシ―・ブラガ)と向かう。

 途中ヘレナの町が栄えている。人々にビッコの子供の足をその場で治すなど奇跡を見せ、ヘレナの人々を完全に掌握している説教師・エイブラハム・ブラント(ウディ・ハレルソン)に出会う。
暫くホテルに滞在することになった夫妻はエイブラハムから食事に招待されるなど歓待をうけ、デイビッドは町の保安官になってくれと頼まれる。

 体調を崩している妻のマリソルはエイブラムが祈祷で治すと自分の家に連れて行く。薬を飲ませ蛇を使った秘儀でメキシコ美人のマリソルは女たらしのエイブラムの餌食となる。
このマリソルの存在が不要ではないかと僕は思う。すっかりエイブラムの獲物の身に安んじてデイビッドを顧みない。

 エイブラハムは南北戦争時にはリー将軍の麾下の将校で勇猛を馳せ、インディアンを皆殺しにする戦績を挙げている。

 デイビッドはエイブラムがメキシコ人虐殺のホシと見て証拠を探すが難航する。見つけたのは骸骨の山。メキシコ人やインディアン、中国人が多いが白人の頭蓋骨は一つもない。
 様子を探っているとやがて「マンハント‣ゲーム」が始まる。牢に閉じ込めていたメキシコ人3人を森の中に逃がす。国境を越えたら自由の身になると約束し1時間後に騎乗した3人が追いかけライフルで射殺する。

 エイブラハムと一緒に彼の息子アイザック(エモリー・コーエン)に逃げる女性を殺させる。
殺した後は頭の皮を剥いで土中に埋めるように命じる。
「メキシコ人は糞だから、殺すと凄い臭いを出す。」と。

 アイザックは埋めるのは面倒だとリオ・グランデ川へ投げ込む。デイビッドはこのようにして大量のメキシカンの遺体が下流に流れ着いたと知る。
すると何処か他にもメキシコ人たちの牢屋がある筈だ。

 その前に彼はバーへ行き、エイブラムに身分を明かす。本名はデイビッド・キングストン、22年前に殺されたジェシーの息子だと。
アイザックはデイビッドに「決闘」を申し出る。両手首を縛る「セントヘレナの掟」でナイフを振るい殺し合う。

 この映画の複雑なストーリーをリードするのがエイブラハムに扮するウディ・ハレルソン。オスカー候補に何度も指名されたベテランが頭と眉を剃り、体中に落書きのような刺青をしクリーム色のスーツに白いテンガロンハット。異常ないで立ちで暴れ回る。

 主人公のデイビッドを演じるのは「ハンガー・ゲーム」シリーズで人気が出たリアム・ヘムズワース。26歳になったハンサムなオーストラリア人は頬髭口髭の覆われたハンサムな顔でヒーローを颯爽と演じる。

オーストラリアのキーラン・ダーシー=スミスが監督を担当。監督作品は少なくないが日本ではこの映画が初めて公開される。俳優として「地獄の変異」などに出演してきた。

トランプ大統領が垣間見せる、「アメリカ・ファースト」「白人至上主義」の深い闇をウェスタンの時代劇を通して紹介する。

6月10日より新宿バルト9他全国で公開される。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(Manchester by the Sea)(アメリカ映画):悔悟に満ちた主人公リーの過去に冒した過ちへの贖罪と陰鬱なムードを抱えた故郷、マンチェスター・バイ・ザ・

$
0
0
マンチェスター・バイ・ザ・シー (Manchester-by-the-Sea)は、イギリスのリバプールのマンチェスターだと思っていたが、調べてみるとボストンから40キロ北東のマサチューセッツ州エセックス郡ケープアンに位置する人口5千人の町で大西洋につながるマサチューセッツ湾の北岸に面している景色のいい浜辺や景勝地で知られるとある。

世界各国で映画賞を総なめし、本年度アカデミー賞でケイシー・アフレックが主演男優賞、監督のケネス・ロナーガンが脚本賞の2冠に輝いた「マンチェスター・バイ・ザ・シー」。東宝東和での試写は毎回超満員の盛況だ。

劇的なドラマがある訳でもないが、アフレックの悔悟に満ちた過去の贖罪に悩む好演とマンチェスターの陰鬱なムードを抱えた港町が映画を引っ張る。

アメリカ・ボストン郊外で4棟のアパートの用務員(Janitor/handyman)として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。バスの水漏れやトイレの修繕ゴミ出し、ペンキ塗りと雑用をこなす腕は確かなのだが愛想が無く住人に暴言を吐くので評判は悪い。仕事が終わると毎日一人で酒場に行き、殆ど喋らないがちょっとしたことで喧嘩に明け暮れる。

そんなリーのもとに、ある日兄ジョー(カイル・チャンドラー)の親友ジョージ(C.J.ウィルソン)から電話が入る。
兄が倒れたという知らせだった。
リーは車を飛ばして故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーの病院に到着するが、兄ジョーは1時間前に息を引き取っていた。前々から心臓疾患をかかえており余命5カ月と言われていたが突然の訃報だ。

冷たくなった兄の遺体を抱きしめお別れをすると、医師や友人ジョージと共に今後の相談をする。

それに何よりも兄の息子で、リーにとっては甥にあたる16歳の高校生、パトリック(ルーカス・ヘッジス)にも父の死を知らせねばならない。

ホッケーの練習試合をしているパトリックを迎えに行くため、リーは町へ向かう。生まれ育ち思い出の詰まった町並みを横目に車を走らせるリーの脳裏に、過去の記憶が浮かんでは消える。
酒に溺れたジョーの妻エリーゼ(グレッチェン・モル)と離婚したものの、幼いパトリック(ベン・オブライエン)を連れてジョーと3人で釣りに行った楽しかった夏の午後。

仲間や家族と笑い合って過ごした日々、美しい思い出の数々に混じって、この町を去らねばならなかった悲痛な記憶も浮かび上がって消える。

兄の遺言を聞くためパトリックと共に弁護士の元へ向かったリーは、遺言を知って絶句する。「俺が後見人だと?」

兄ジョーは、パトリックの後見人にリーを指名していた。弁護士は、遺言内容をリーが知らなかったことに驚きながらも、この町に移り住んでほしいことを告げる。
「この町に何年も住んでいたんだろう?」

弁護士の言葉で、この町で過ごした記憶が再び鮮烈によみがえり、リーは過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。
なぜリーは、心も涙も思い出もすべてこの町に残して出て行ったのか。なぜ誰にも心を開かず孤独に生きるのか。

リーは金髪の美人妻ランディ(ミシェル・ウィリアムス)と結婚し二人の女の子と一人の男の子を授かっていた。

ある夜、仲間を集め酒やドラッグをとりギャンブルや談笑をして深更に及んでいた。
ランディが怒って子供たちも寝付かれないから「皆、帰って!」と追い出す。
飲み足らないリーはコンビニへビールを買いに出かける。
薪が燃えている暖炉をスクリーンで覆うことをせずに。

 ビールを買って帰ると家は燃えている。
ランディは子どもたち3人が二階で寝ていると半狂乱。
小さな3人の遺体を前にしてランディはリーと別れることを宣言する。

娘たちが自分の傍に柔らかい身体をすり寄せる夢を時々見る。
だからこの町には住めない。
ボストンでしがない用務員の仕事に励むのが贖罪だと思っている。

父を失ったパトリックは喧嘩をし反抗はするが叔父のリーが大好きだ。
この町に残って一緒に新たな一歩を踏み出して欲しいとせつに願っている。

断片的な回想シーンと現在の寡黙で暴力的なリーの姿が結びつくのに時間がかかるが観客はしっかりとリーの心境を把握できる。

後半は後見人に指名されたリーとパトリックの確執だ。
パトリックは典型的な現代っ子。
ガールフレンド二人を二股かけ、下手なバンドのドラマーとして練習に夢中になり、
ガールフレンドの部屋で母親の目を盗んでセックスに励む。

相談する誰もが後見人を引きうけ友人たちや親戚も多い故郷マンチェスターに住むことを助言する。
だがその思いを挫くのは亡くなった小さな3人の子供たちへの贖罪だ。


「ジェシー・ジェームズの暗殺」「インターステラー」の41歳、ケイシー・アフレックがどう過去と向き合うか悩む中年男を好演する。
主演男優賞は当然の報酬だ。

元妻役で「マリリン 7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズ、兄役で「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「キャロル」のカイル・チャンドラーが共演

兄、ベンの親友マット・デイモンが最初このリー役を演じることになっていたがケーシーに譲ってプロデューサーを務めている。

ケネス・ロナーガンが監督、脚本を務める。
「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」や「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本で知られる54歳のロナーガンとしては3本目の監督作品で遂に満開の花が咲きオスカーを獲得する。

この作品はインディの祭典「サンダンス」から勝ち上がり、第89回アカデミー賞では作品賞ほか6部門にノミネートされ、アフレックが主演男優賞、ロナーガン監督が脚本賞を受賞した。

5月13日よりシネスィッチ銀座他で公開される。

「フィフティ・シェイズ・ダーカー」(Fifty Shades Darker)(アメリカ映画):よりを戻したクリスチャンとアナ。アナは積極的に苛めBSDMの「赤い部屋」へ誘う。

$
0
0
アメリカでバレンタインデイに合わせ2月10日から公開されたユニバーサル配給の「Fifty Shades Darker」は3710館で40.8M。前作の半分にも達しなくスタジオの予測を遥かに下回るものだった。
制作費は50M。アメリカだけで3月末までに130Mを稼いでいるから制作費は回収できている。

出口調査はB+評価でオリジナルのC+を超えるものだったが前回の女流監督、サム・テイラー・ジョンソンに代わって監督はジェームズ・フォーリー、主演は引き続いてダコタ・ジョンソンとジェイミー・ドーナン。ナイアル・レオナルドが 女流作家E. L. ジェイムスの同名のデビュー小説を脚色。

巨大企業の若き起業家でCEO、女性ならば誰もが憧れる超イケメンのクリスチャン・グレイと、それまで恋の経験も無いウブな女子大生アナスタシア・スティールの、特異な恋愛模様を過激な描写で人気を博したEL ジェイムズの小説の実写映画。
BSDM(緊縛・拷問・家畜・陵辱・サド・マゾ)の契約書と全裸でその実行のセックス描写は凄いものだが、女性の視点で捕らえた画像はスタイリッシュだった。。

恋愛になれていないしBSDMは過激すぎる。
純粋な女子大生アナスタシア・スティール(ダコタ・ジョンソン)と、大企業の創業者で富豪のクリスチャン・グレイ(ジェイミー・ドーナン)。
二人は強く惹かれあいながらも、グレイの歪んだ愛の形をアナは受け入れきれず、彼の許を去る。


そしてその第2章。女性から男性のベテラン監督、J・フォーリーに代わると描写も全く変わって来る。
官能世界の過激さはもちろん、より深さとヴァラエティに富んだドラマティックな展開が繰り広げられる。

大学を卒業し、出版社に就職し新生活を始めるアナ。編集部に配属され新人作家発掘で腕を挙げる。特にオンライン小説は新分野だけに彼女の独壇場だ。編集長、ジャック・ハイド(エリック・ジョンソン)はアナの才能を認めるが、それ以上にアナ自身に関心を示し始める。

友人で写真家ホセ(ヴィクター・ラサック)の個展でアナのポートレート6枚が忽ち売れる。
買主はアナの想像通り、クリスチャン。「君の写真を他人に見せたくないからね」
別れたとは言えクリスチャンに魅力をたっぷり感じているアナは誘われるまま食事をつき合う。

グレイはこれまでの女性には持つことのなかったアナへの愛情に改めて気づき関係を戻したいとストーカー並みにアプローチする。

スーパーで買い物をしているアナに突如現れたクリスチャンに
「貴方も買い物をするの」
「するさ、この前はカナダの飛行場で買い物をした」
「何を買ったの?」
「カナダの飛行機会社だ」
スケールが大きい。

 編集長のジャックと話をしているアナに突然近寄る。
「君は誰だ?」
「アナのボーイフレンドだ」
「俺は彼女のボスだ。邪魔をしないでくれ」
ジャックの抗議も構わず、連れ去るクリスチャンは
「俺は君のボスのボスのボスになる」と囁く。
「え、それって出版社SIMを買収するってこと!」

秘かにグレイを思い続けていたアナはクリスチャンの出現とユーモアを交えながらの強引な誘惑に喜びを感じながら、クリスチャンは結婚を前提に両親や家族を紹介する。特に母親グレース(マーシャ・ゲイ・ハーデン)はアナを一ぺんで気に入る。

クリスチャンの誕生日パーティには新しいドレスと似合う髪型が必要と彼が連れて行ってくれた美容院の店長は年増の美人。エレナ・リンカーン(キム・ベイシンガー)は「私が従属(サブミッション)のトレーニングをしてクリスチャンを一人前にしたの。でも貴方は彼に相応しく無いから別れなさい」
黙って聞いているクリスチャンに腹を立てるアナ。

新人の顔を知らない役者ばかりの映画にようやくゲイ・ハーデンとベイシンガーと言うオスカー女優、二人が現れ何だかホッとするし画面も引き締まる。

相変わらずクリスチャンの性技は興奮させられる。裸の尻を思い切りの平手打ちで真っ赤にするなど序の口、二連の鈴をアナの穴に挿入し外出する。

れすとらんでパンティを脱がせ、降りる満員のエレベーター内で指でまさぐる。「未だ行くな」(Don’t come yet!)なんて命令にも声を堪えて必死に耐えるアナ。

ベネチア風、仮面舞踏会でシルバーのドレスと身体ピッタリのドレスをつけたアナのゴージャスなこと。「O嬢の物語」風の雰囲気だ。
今度はアナの方から「新たな条件」を要求する。あのBSDMの「赤い部屋」で思い切り苛めてくれと。

2人が結婚を前提の未来に新たな「刺激的な生活」や「幸福」が広がるかに見えた矢先
「それは許さない」と突如現れたのは、グレイに従属を教えた年上の女性でビジネス・パートナーのエレナ、
従属女性だったがクリスチャンが消えたと亡霊のように付き纏うストーカー、手首を切ったレイラ(ベラ・ヒースコート)。
合鍵でクリスチャンの部屋へ入り込みアナを拳銃で射殺しようとする。

更にNYへ一緒に出張しようと執拗にアナに迫り誰も居ない編集室で犯そうとする上司の編集長ジャック、ビジネス旅行のヘリがシアトル近郊の森の中へ墜落するなど予期せぬ危機が2人を襲う。

そして徐々に見えてきたグレイの秘められた驚くべき過去が、2人の未来を壊すかのように付きまとう。

ジェームズ・フォーリーはB級エンターテインメントを撮らせたらピカ一。「ロンリー・ブラッド」(86)や「摩天楼を夢見て」(92)「チェンバー」(96)などで不動の地位を築き最近はNetflixのドラマ「ハウス・ オブ・カード 野望の階段 シーズン1〜2」での評価も高い。

前作から引き続いてアナ役をダコタ・ジョンソン、グレイ役をジェイミー・ドーナンが演じる。

ジェイミー・ドーナンは北アイルランド出身で、イギリスのTVで活躍しているのでこのシリーズで日本のファンには初めてだ。獰猛な目をしたイケメンで胸の筋肉が割れて立派な肉体がアナを蹂躙する。

ラストシーンでリベンジを誓う出版社をクビになったジャック・ハイドが不気味な笑みを浮かべ、エンディングクレジットを割いて第三弾「フィフティ・シェイズ・フリード」のトレーラーが挿入される。こちらも期待される。

6月よりTOHOシネマズにて全国公開される。

「ローマ法王になる日まで」(CHIAMATEMI FRANCESCO - IL PAPA DELLA GENTE)(伊映画):2013年に第266代ローマ法王に就任したフランシスコの伝記映画

$
0
0
2013年に史上初となるアメリカ大陸出身のカトリック教会長として第266代ローマ法王に就任したフランシスコの半生を、実話をもとに描く。

1938年、イタリア移民の子、二世としてブエノスアイレスに生まれたホルヘ・マリオ・ベルゴリオ。

コンクラーベ(教皇選挙)のためバチカンを訪れたベルゴリオ枢機卿(セルヒオ・エルナンデス)は運命の日を前にして何て場違いの所へ来てしまったと自分の半生を振り返る。

1960年、ブエノスアイレス。談笑していた学友たちは神に仕えようとするとベルゴリオ(ロドリオ・デ・ラ・セルナ)を翻意させようとしていた。特に彼に想いを寄せるガブリエラは必死だった。彼も結婚するならガブリエラだと思っていた時期があった。

大学で化学を学んでいたのだが、20歳の時に司祭になることが自分の道と確信し、イエズス会に入会。
神学を学び、その指導力が認められ35歳の若さでアルゼンチン管区長に任命される。

そんな中、1976年からアルゼンチンでは軍事独裁政権の恐怖政治による軍の圧力がベルゴリオの周囲にも強まっていった。
83年まで続く内戦「Dirty Wars」だ。
時はビデラ軍事独裁政権下、数千人単位の多くの市民が反勢力の嫌疑で迫害され、仲間や友人も失っていく。

暗黒のエピソードが幾つか紹介される。
神学生だと言われ軍に追われている3人(内1人だけが神学生)を匿い、ウルガイ国境へ逃がしたり、
上司のクアラチノ枢機卿に命令され二人の神父の保護を解いたところ軍に拉致される。
いつもアドバイスを貰うアリシア・オリベイラ判事(ムリエル・サンタ・アナ)は
いつの間にか軍から目を付けられたのを知り学院の宿舎に隠す。

更に学生時代の恩師エステル・バレットストリーノ(メルセデス・モラーン)から妊娠中の娘が20日前に失踪したままと連絡を受けたベルゴリオは
単身大統領官邸を訪れ大統領にミサを捧げ行方不明者へ慈悲を与えるように訴える。

アルゼンチンはカトリックの國、司祭の願いは無下に出来ない。
エステルも二人の神父も道路に放り出されているのが発見されたと思うのも束の間、
失踪者名簿を新聞に公表しようとしたところを再び拉致され飛ぶ飛行機から次々と落とされる。

 如何にビデラ政権が冷酷無比かそしてホルヘ・マリオ・ベルゴリオが戦ったかがノワール風に描写される。

 この苦難の時代こそがローマ法王への道を歩ませ、ベルゴリオの信仰と勇気をより強いものにしていく。

 約600年ぶりに生前退位した先代ベネディクト16世の後を継ぎ、2013年3月13日にコンクラーベで教会の煙突から白い煙が登り新法王が生まれる。

初の南半球出身、初のイエズス会出身のローマ法王フランシスコが誕生した瞬間だ。選挙では各地域の大司教たちが淡々と「ベルゴリオ」の名前を投票用紙に書き込んで行く平和で静かなプロセスだ。
若い頃からも額は後退していたが、法王就任の時代は役者が代わり(39歳のデ・ラ・セルナから59歳のエルナンデスへ)二人とも法王と似ていて好演している。

独裁者と戦い法王への道を歩む者と法王に就任し世界を見守る者になる貫禄の差が良く出来ている。

アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のイタリア移民2世で、
サッカーとタンゴをこよなく愛する庶民派だ。
「ロックスター」法王と呼ばれ、人々に親しみを持たせ熱狂させる。

教皇の伝記映画など興味は無いが独裁者と戦ったホルヘ・マリオ・ベルゴリオだけは別だ。

 監督はイタリア生まれのダニエーレ・ルケッティ。「マイ・ブラザ-」「我らの生活」「ハッピー・イヤーズ」などが日本に紹介されているが、それほど優れた才能を持った人ではないがコンスタントに映画を撮り続けている。

昨年初夏の東京での「イタリア映画祭2016」では「フランチェスコと呼んで みんなの法王」の原題を直訳したタイトルで上映された。
カトリック教徒の少ない日本でこのようなFaith Movieがどの程度受け入れられるか興味がある。
アメリカでも映画祭や大都市での限定公開はされているが全国公開はされていない。

6月3日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」(Ghost in the Shell)(米映画):世界最強のサイボーグ、「少佐」はサイバー・テロリストのクゼを倒すこと。主役S・ヨハンソンは全身ぴっちりのシルバー戦闘服

$
0
0
 アメリカで3月31日から上映が始まった。
首位の怒れる赤ん坊「THE BOSS BABY」や2位の実写版「BEAUTY AND BEAST」に水を開けられながら新登場作品として3位に食い込んでいる。

日本の士郎正宗のコミック「攻殻機動隊」を原作とし、ハリウッドで化粧をして里帰りした作品だ。
監督はヒット作「スノー・ホワイト」のルパート・サンダース。スカーレット・ヨハンソン主演のこの「Ghost in the Shell」は3440館で19M(21億円)を挙げた。

 日本発のコミック「バイオハザード」が日本での大ヒットを尻目にアメリカではソコソコの成績で終わったように、この映画もアメリカでは熱狂的に受け入れられた訳ではない。

 アメリカよりこのカルトマンガが人気の海外特に東南アジアなどでは53カ国で開け40.1M。
だがドル箱の中国と日本はこの週末(4月7日)より上映が始まる。
メガヒットになるだろうから週末3日間の興行成績の結果は待ち遠しい。

 制作費は110M(124億円)。高年層の男性にうけて61%が男性、25才以上は76%を占める。ワールドワイド総計は今のところ59.1M(65.5億円)、リクープには程遠い。

既に押井守がアニメ版を2本制作していてカルトフィルムとして人気がでているが、これは初めての実写版。

 マンガと同様に大規模な核戦争による第3次核大戦 、および第4次非核大戦を経て荒廃した2029年より始まる。

 世界は「地球統一ブロック」となり、科学技術が飛躍的に高度化した日本が舞台の筈だが映画ではどこかの架空都市「ニュー・ポート・シティ」。東京か香港の面影をのこしつつブレードランナーのLAの要素も強い。

 マイクロマシン技術を使用して脳の神経ネットに素子(デバイス)を直接接続する電脳化技術や、義手・義足にロボット技術を付加した発展系であるサイボーグ(義体化)技術が発展、普及している。
結果、多くの人間が電脳によってインターネットに直接アクセスできる時代が到来した。生身の人間、電脳化した人間、サイボーグ、アンドロイド、バイオロイドが混在する社会の中で、テロや暗殺、汚職などの犯罪を事前に察知してその被害を最小限に防ぐ内務省直属の攻性公安警察組織「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)が創立される。

「攻殻機動隊」マンガもアニメもこの映画もその活動を描く。
公安9課の名は出てくるがそれが内務省直属とは言っていない。「少佐」と呼ばれるヨハンソン演じるセクシーなサイボーグの大活躍を追う。悲惨な事故から脳以外は最新技術で総て義体化されている。
少佐は捜査組織公安9課の先頭に立ち「対サイバーテロ」を阻止する世界最強で完璧な戦士。

 僕ら日本人のファンとして、主人公名「少佐」は意味を持たない。
草薙素子じゃないのが残念だが、身体全体をピッタリと覆うシルバーの戦闘服はかなりセクシー。ファイトの度にヨハンソンの大きな胸が上下に踊る。

士郎正宗の原画のマンガが映画ではコラージュ風に編纂され西欧風になって行くようにヨハンソン以外の配役もグローバルだ。

 中でも公安9課の指揮官・荒巻大輔に扮するBeat・タケシ・北野は冷静な判断で適格な指示を「日本語」で発する。英語の中で唯一たけしのセリフが目立つ。

 フランスを代表するオスカー女優、ジュリエット・ビノッシュのオウレイ博士は「ハンカ・ロボティックス」を率い「少佐」を作り出した科学者だ。少佐の活躍を母親の目で見守る。
ハンカのCEOカッター(ピーター・フェルディナンド)が「少佐は機械ではない。『武器』でわが社の将来は少佐にかかっている」と本音を漏らす。

 そのハンカの将来もクゼ(マイケル・ピット)の出現で脅かされる。公然とハンカの重役たちを襲う。人工頭脳にゴースト・ハッキングして狂わす。
少佐の使命はクゼ追跡して倒すこと。しかし彼女の個人的な過去は洗い出され、ハッキングされた箇所は不具合を起こし動かなくなる。

アジアと西洋をカバーする文化的な混合は行われているがやはり全体的にオリエンタルや日本の雰囲気は薄れている。クゼを始め、サイトー、イシカワ、トグサなどは日本の役者が演じていない。
「バイオハザード」シリーズがジョボ・ミラノビッチで大ヒットしたように、この映画も当たってシリーズ化して欲しい。主人公、少佐のスカーレット・ヨハンソンのセクシータイツ姿での豪快なアクションは映画のセンター・ピラーだ。

 スカーレット・ヨハンソンはすでに大スターだ、トニー賞、英国アカデミー賞を授与されている。「アベンジャーズ」「LUCY/ルーシー」などのアクションものに加え東京を舞台にした「ロスト・イン・トランスレーション」で日本のファンを増やし「耳飾りの少女」や「マッチポイント」など種々の作品にひっぱりだこ。
少佐も当たり役になることを願う。

4月7日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国公開される

「ちょっと今から仕事やめてくる」(日本映画):過労とパワハラのブラック企業で働く真面目サラリーマン青山に、あの世から過労死で自裁したヤマモトの幽霊が助っ人に

$
0
0
 電通新入社員、高橋茉莉さん(当時24歳)が過労とパワハラで自裁したのが1昨年のクリスマス。
 それを切っ掛けに労組と企業間の36協定と残業時間、上司の苛めなどのハラスメントが社会問題と大きく取り上げられ、安倍総理や塩崎厚労省大臣も介入して余韻は未だ収まっていない。

 映画の冒頭とエンディングにバヌアツ共和国が出て来る。真っ黒な黒人の子供たちに囲まれるのが天国だと。
真っ白なビーチに透き通る青空、確かに素晴らしい環境に包まれて東京の雑踏から逃げ出せば、主人公たちが天国と仰ぐ国(島?)だ。

英連邦に属する南太平洋のシェパード諸島の火山島上に位置する共和制国家である。西にオーストラリア、北にソロモン諸島、東にフィジー、南にフランス海外領土のニューカレドニアがある。

 ブラック企業・電通を想定したような、風変わりな長いタイトルと軽妙な語り口で、重いテーマ「長時間労働」「パワハラ」「自殺」などを扱った北川慶恵海の60万部超のベストセラー小説「ちょっと今から仕事やめてく」を原作としている。良く知らないが電撃小説大賞を受賞して作家デビューした大阪生まれの女性。文庫本からコミックにもなっている。

何を業種としているか不明だがブラック企業で働く青山隆(工藤阿須加)は、営業としてノルマを果たせず、部長の山上守(吉田鋼太郎)から部員全員の前で罵倒され胸を押す足を蹴飛ばすなどの暴行を受けている。
悪鬼の様相で青山を苛め抜く吉田の熱演に見ている方も怯える。
電通の鬼十則のような社是が壁に大書され、朝のラジオ体操の後に罵詈雑言の朝礼は度が過ぎている。

真面目で融通が利かず、就活最後に救われた会社だけに必死にしがみつく。
残業代もつかない徹夜が続き疲労のあまり駅のホームで意識を失い、危うく電車に跳ねられそうになってしまう。
意識を失ったのか飛び込み自殺を図ったのか分からない。
線路へ転落寸前でアロハにチノパンツの男が腕を引っ張り、すんでのところで青山は救われる。

小学校時代の幼馴染みのヤマモト(福士蒼汰)と名乗る男。だが、青山には彼の記憶がまったく無い。

大阪弁でいつでも爽やかな笑顔をみせる謎の男、免許証で山本淳と記名されているヤマモトと出会ってからというもの、青山は本来の明るさをいくらか取り戻し、仕事の成績も次第に上がってゆく。

しかし気になる青山がヤマモトについて調べると、何と3年前に自殺していたことが分かる。それも務めていた製菓会社の凄まじいまでの強制された過重労働で自殺をしていた。
それではヤマモトと名乗る、あの男は一体何者なのか?

過労とパワハラで自殺した男が幽霊になって、同じ悩みで死を考える男の傍に現れいろいろと助言すると言うコンセプトが面白いし好きなストーリーだ。

しかし好事魔多し。調子に乗って大口の受注を勝ち得た筈だが納品の段階で得意から大クレーム。発注書と違うスペックで製品が仕上がっていると言う。
上司の五十嵐美紀(黒木華)が一緒に得意先へ行き謝罪するが山上部長は担当を外し総てを五十嵐に任せてしまう。

ヤマモトに励まされ順調に行ったと思った仕事は元の木阿弥。

両親に会いヤマモトに相談して朝礼の終わった会社へ飛び込み、「やめます」と宣言するのは良いが、池井戸潤のような10倍返しの「半沢直樹リベンジ」などサラサラ無く、結果だけ見ると「負け犬」で終わっている。

救いの謎の男・ヤマモトを演じるのは大阪弁もぎこちない福士蒼汰、23歳。
「神様の言う通とおり」で日本アカデミー賞新人賞を授与され、以降ひっぱりだこ。

ブラック企業で働く真面目で融通が利かないサラリーマン・青山隆に工藤阿須加。
NHKの連続ドラマで売り出し、「百瀬、こっちを向いて」などで注目された。

その他、女だてらに営業成績ナンバー1で青山の憧れの先輩社員に黒木華、
ヤマモトの謎を知る女性大場玲子に小池栄子、
青山を追い詰め苛め抜くパワハラ営業部長に吉田鋼太郎など。

監督は「八日目の蟬」「ソロモンの偽証」「ふしぎな岬物語」など大作を手慣れた演出でこなす成島出。

エンディングに流れる主題歌「心」をコブクロが担当。

前半は幽霊ヤマモトでグイグイ引っ張るが後半は失速気味。
「天国」は蛇足。10分は削れる。

5月27日よりTOHOシネマズ日本橋 公開される

「こどもつかい」(日本映画):こどもを苛めると関わった大人は3日後に突然死ぬ。それも口や目に詰め物をされて残酷な死体で発見される。

$
0
0
「ダッハウの仕立て師」(早川書房:2017年1月刊)と言う興味を引く魅力的なタイトルに惹かれて読み始めた。
著者は1947年生まれと言うから69歳になるオックスフォード・ブルックス大学名誉教授、メアリー・チェンバレン(Mary Chamberlain)。女性史などを専門とする歴史学者で初めて書いた小説。歴史学者だけに細部に至るまで詳細に時代考証は出来ている。
ナチスドイツが政権を握って程無い1933年に創設され他の強制収容所の見本となった「ダッハウ」を舞台としている。

その中に創造したフィクシャスな主人公、エイダ・ヴォ―ンと言う女学校を出たばかりの18歳の少女を登場させる。エイダ一dの家はテムズ川の直ぐ近くランべスにある労働者階級一家でエイダはテムズ川の向こうのウェストエンドにある職場に通っている。婦人服仕立て技術を身につけココ・シャネルのような世界に通じるドレスメーカーになりたいと思っていた。

そんな夢を挫いたのがオーストリア=ハンガリーの伯爵を自称するスタニスラウスに夢中になり両親に内緒にパリへ行き、スタニスラウに命令されるままベルギーのナミュールに。そこでナチスドイツが侵攻し彼は姿をくらまし女子修道院に保護されるもつかのま、イギリス人女子修道女5人とともに捕虜としてミュンヘンに送られ、その後一人だけダッハウ収容所長の屋敷に移送され監禁される。
そこで奴隷のようい家事労働を強いられながら、屋敷に出入りするドイツ人の女性たちをファッションブックから華やかなドレス作りに励む。そのドレスを作ってあげた女性の一人がエヴァ・グリーンでヒトラーの最後の愛人だった。

戦争が終わりようやくアメリカ兵に解放されロンドンに戻って来たエヴァは生き残った家族からも見放され、カフェで働きながら売春で糊口をしのぐ。そこで出会った客の一人がスタニスラウ。自分を騙してパリへ連れ出し、自分だけは侵攻前に脱出し捕虜にされて塗炭の苦しみを味わされた憎い男。セックスの後、寝入ったところにガスをつけ放しにして中毒死させる。
リベンジに成功するがその後自首して捕まり死刑判決を受けると言う結末は決してハッピーでは無い。

その裏では生き残りは対独協力者にする傾向があり、その犠牲者ともいえる。
カタルシスを味わえないが中々興味あるストーリーの展開で一気に読了する。


この世で一番怖いのは、こどもの怨み、なのだそうだ。
子どもを苛めると苛められた子どもは一旦姿を消し、現れてホッとするのも束の間、苛めた親が3日後に死ぬと言うのだ。「貞子」のVTRを見ると電話がかかって来て殺される「リング」の焼き直しだ。

映画の冒頭で悪いことをしたと幼い女の子を母親はベランダに押し出し鍵をかける。「ごめんなさーい、ごめんなさーい」と泣き叫ぶ子を放っておくと泣き声が止む。ベランダに子どもは居なくなる。大騒ぎをして探し回るが数時間後ベランダでぐったりしている女の子。しかしかなり弱っている。看病している母親は3日後、目にフォークを突き刺されて死んでいる。

 類似の子ども苛めから関わった大人の突然死、それも口や目に残酷な詰め物をされて死んでいる。
ある郊外の街で子どもたちが次々と行方不明になり、さらにその周辺で
大人たちが相次いで不審な死を遂げる事件が発生。

行方不明になった後に帰ってきた子どもと遭遇した大人が、3日後に謎の死を遂げるという噂がネット上でかけめぐっていた。

地方新聞の記者・江崎駿也(有岡大貴)は、事件に興味を抱き真相を追いはじめる。
一方、駿也の恋人で保育所に勤める原田尚美(門脇麦)は、ある男の子の母親が夜中になっても迎えに来なかったため、その男の子を自分のアパートへ連れて帰った。

 そこへ謎の男「こどもつかい」(滝沢秀明)が部屋に忍びよる。おうやら事件の鍵を握っているのが奇妙な恰好のこの男らしい。

 久々の主演の滝沢秀明にしては詰らないキャラをあてがわれたものだ。「デスノート」の悪魔のような派手な西洋風の衣装を身につけ、魔法の杖が変じた黒いフルートでヘンテコなメロディを吹くと目が来る抜かれた子どもたちがゾロゾロ現れる。

これは明らかに「ハメル―ンの笛吹男」のパロディでもある。
そしてこの不思議なメロディを失踪した子供たちが皆ハミングするのが恐ろしい。

 江崎が調べて行くと、その起源は昭和初期に伊勢にあったサーカスのピエロだ、と横溝正史風の因縁を巡る謎まで持ち込むがストーリーはハチャメチャだ。

 ヴィジュアルで脅かせばそれで充分とJ-ホラーの巨匠清水崇は小手先だけで怖がらせるがロジックは納得性が無い。

 ジャニーズの「タッキー&翼」の滝沢秀明も35歳、子どもの霊を操って大人に呪いをかける謎のこどもつかい役で新境地を拓こうとしているのだがどうだろうかとクビを捻る。

 むしろ「Hey! Say! JUMP」の有岡大貴が事件を追う記者・駿也役を生真面目に演じて儲け役。
「二重生活」などの門脇麦が駿也の恋人・尚美を演じているが、クローズアップが多い準主演なのでキュートで中々の「美人」の印象を残す。

「呪怨」シリーズや「雨女」4DXなどの清水崇監督はホラーの仕掛けと演出は流石に手慣れていて上手い。しかし何処かで見たものばかり。何か新しいトリックを考えて欲しい。

6月17日より新宿ピカデリー他で公開される。

「あの日、兄貴が灯した光」(My Annoying Brother)(韓国映画):韓国映画の泣かせのパターン、相思相愛の二人の片方が不治の病で亡くなる悲劇、ただしこの映画では男同士、兄弟としての愛情だ

$
0
0
韓国映画の泣かせのパターンは決まっている。相思相愛の二人の片方が不治の病で亡くなり一方が悲嘆に暮れる。
二人の性格やバックグラウンドを変たり色んな手を使って観客の涙を強制して来るがまんまと乗せられて大泣きして見終わる。上手いね、本当に。

この映画の場合、男性同士、それも兄弟で賢弟愚兄の典型的な経緯がある。
何しろ弟はオリンピックを目指す国家的英雄の柔道選手、コ・ドゥヨン(D.O.)で兄は出所したばかりの詐欺前科10犯のコ・ドゥシク(チョ・ジョンソク)なんだから。

 ブラジルオリンピックの前哨戦、世界選手権の柔道60キロ級の決勝で日本の玉田選手と対戦し「技あり」で優勢に試合を進めていたが、払い腰で見事な一本をとられてマットに叩き付けられる。
そればかりかそのショックで視力までを失ってしまった弟ドゥヨン(D.O.)。

その事故をだしにして、天涯孤独の二人きりの兄弟だから面倒を見なくてはならないと保釈審議委員に泣きつき、(普通なら絶対にありえない)仮釈放を勝ち取った詐欺師の兄ドゥシク(チョ・ジョンソク)。

何と15年振りに実家の戻り兄弟は再会する。年齢は10歳以上も離れている筈なのに36歳のジョンソクは若く見えるから24歳のD.O.と同じ年のようだ。

父母がなくなってから家を出るまで「仲が良かった」と話しかけるが、当時18歳だった弟はなかなか打ち解けられず、気持ちがすれ違う2人。

積年の憎しみをぶつけ合い、ドゥヨンは兄が作る食事も手をつけないので栄養失調で倒れてしまう。そんな弟にそんな弟に「俺に迷惑かけずに死ねないなら、生きるんだな」と厳しく冷酷な言葉をかける兄ドゥシク。

ドゥシクは冗談めかして母親の話をする。高校生の頃、俺の弁当はすげー豪華で皆に羨ましがられた。そんな豪華弁当に加えて毎日のように母親は鍋焼きうどんを届けてくれるんだ。

隣のおばさんが教えてくれた。俺の本当の母親は俺が小さい時に病気で死んで、その時のおっかさんは実母の看護婦だったんだ。「財産狙いで後釜に入ったんだ」といつもの悪い冗談。
弟のコ・ドゥヨンも初めて聞く話だ。
 
 そんな愛する(義理の)母親と父親が死んだのはドゥヨンの18歳の時、悲嘆にくれたドゥシクは家を飛び出し放蕩の末罪を重ねる。
ドゥシクの母(ドゥヨンの実母)への想いを聞きドゥヨンは母の兄への思い遣りや配慮に感動し2人の葛藤が氷解する。

そして何よりもブラジルでのパラリンピックで果たせぬ夢に花咲かせようと女性コーチ、ス・ヒョン(パク・シネ)が付き添いトレーニングに励む。

あれ程ドゥシクは弟の傍にぴったりと付き添って居た筈だし、弟も兄さん一緒にブラジルへ来て応援してよ、と言う懇願にもス・ヒョンが付いているから大丈夫とソウルを離れない。隠していたが病気はカウントダウン状態に入っていたのだ。

TVでトルコの選手に一本勝ちで金メダルを取ったのを確認した兄の姿はフェードアウト。ここからは涙が止まらない。

映画の前半から手の内は分かっているのにまんまと涙そうそう。韓国の作家は誰も上手いね。

監督は「裸足のギボン」(06)で家族愛を描いて好評だったクォン・スギョン、10年振りの演出だ。
「7番房の奇跡」や「ハッピー・ログイン」など売れっ子の女流脚本家をのユ・ヨンアが本を書いた。脚本の出来は秀逸だった。

柔道一筋で真面目な性格の弟ドゥヨンに、俳優としても活躍するEXOのメインボーカルのD.O.。
兄弟でサウナに入るシーンがあるがアスリートの割に筋肉が無いのが気になる。金メタルを取る体格では無い。

詐欺師として生きてきて、弟の金さえだまし取ろうとする、だがコペルニクス的転回で弟を愛し始める兄ドゥシクに「建築学入門」などいま韓国で最も売れている俳優チョ・ジョンソク.


失明したドゥヨンを支える女性柔道コーチを「ビューティ・インサイド」などのパク・シネが演じている。26歳、なかなかの美人だ。

5月19日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開される

「ブラッド・ファーザー」(Blood Father)(英・仏映画):数々の悪行によりハリウッドから干されたメル・ギブソンが悔い改めのステップとしてB級映画で自身を模した主人公を演じる

$
0
0
 メル・ギブソンの評判は芳しくない。
同棲中のロシア人歌手オクサナへの暴言・暴行を行ったとされるテープが流出し警察からドメスティック・バイオレンス(DV)として捜査を受けた。

 マリブの海岸線に沿ったハイウェイでレクサスLS430を運転中に飲酒運転および67キロを超すスピード違反で逮捕。
連行される際にユダヤ人警官に対し「糞ユダヤ人め!世界の戦争は全部貴様らユダヤ人たちのせいだ」などと反ユダヤ的な差別発言をした。

自分は敬虔なカトリック教徒だからユダヤ人は許せないのだ。(「パッション」と同じだ)

「マッド・マックス」シリーズ、「リーサル・ウェポン」シリーズが大当たりし、監督業に乗り出し95年には「ブレイブハート」でアカデミー監督賞を受賞、更に私財35億円を投じて監督した04年の「パッション」は700億円の世界的メガヒットを遂げたのだが、上述のような悪行のお陰で「ハングオーバー」の主演もなくなり、マリブの28億円の豪邸も売りに出されていると言う。

 要するに映画界、ハリウッドから干されていたのだ。

そのギブソンが、あのマッド・マックスが生き返ったような父親とマフィアに追われる放蕩娘とのロードムービーでカムバックを狙ったのがこの映画だ。

 それは落ち目のリーアム・ニーソンが似合わないアクション「96時間」シリーズで蘇えったのに似ている。ギャングに拉致された愛娘を取り戻すのも同じプロットだ。

かつて犯罪の世界に身を置き長い刑務所暮らしを終え、現在はアルコール中毒のリハビリをしながら、トレーラーハウスに住んで刺青師をして糊口をしのぐジョン・リンク(メル・ギブソン)。
ジョンの紹介カットはクローズアップで始まるが髭ぼうぼうの白髪混じりのボサボサ頭、
世の荒波に揉まれ疲れ切った初老の男はギブソンとは見えない。
贖罪の一環とも思える容姿だ。

その上AA(禁酒会)の仲間の前で過去を、アルコールで起こした事件の数々を告白する内容(テスティモニアル)はギブソンの犯したあやまちをなぞっている。

LA郊外のトレーラーパークでボロボロのトレーラーに住み、誰とも付き合わないが、唯一、AAの仲間で若いカービー(ウィリアム・H・メイシ―)だけがジョンを理解し付き添ってくれる。

彼のもとに1年前から前妻の家を出たまま行方不明となっていた16歳の一人娘、リディア(エリン・モリアーティ)からコレクトコールでSOSがかかって来る。

 映画の冒頭はリディアを情婦にしているメキシコのギャング、ジョナ(ディエゴ・ルナ)が、叔父でドラッグカルテルのボスから持ち逃げして隠してあった金と大量のドラッグを仲間たちと取り返そうとするところから始まる。
銃を持たされ見張りだけの筈が撃ち合いになり、ジョナを間違って撃って逃亡する。

オレゴンの田舎で起きたこのトラブルで、警察、殺し屋たちから追われているリディアを守ることを決意したジョン。年式の古い大型ビュイックで娘を救出に駆けつける。

そこからメキシコギャングや警察に追われる娘を庇いつつ逃走のロードムービーが始まる。
70年代のパルプフィクションのグラインドハウス映画の雰囲気だ。
B級エンタメも良いところ。
途中のモーテルでモジャモジャ髭と髪を綺麗に処理するとメル・ギブソンが現れ、大型ハーレーダビッドソンの後部にリディアを乗せて殺し屋と戦いながら逃走する様は「マッド・マックス」そのものだ。

撃たれて死んだ筈のディエゴは生き返り、子分たちの軍団を引き連れ親娘を執念深く追う。かつて身に着けたサバイバル術を駆使し、冷酷で凶悪な敵を迎え撃つジョンはチープだが紛れもないヒーローだ。
「俺は総てを失ったが、一つだけ生き甲斐がある。それは愛娘リディア」だと心情を吐露するシーンは良い。

ギブソンのほか、メキシカン・ギャング、ジョナは「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などにも顔を出すディエゴ・ルナ、
友達の居ないジョンの唯一のスポンサー、カーヴィーは「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシー。親娘を助けに駆けつけるがジョナに無残にも射殺される。

アウトローの主人公ジョンを取り巻く、トレーラーハウスで暮らす住人たち、凶悪なメキシコに本拠を置くドラッグカルテル、時代に取り残されたバイカー集団、KKKなど人種差別主義者などアメリカ社会の暗部の住人たち、考えてみればダグラス・トランプ大統領を支持する人たちがゾロゾロ登場し父娘を追いかける。

 監督は05年の「アサルト 13 要塞警察」など、アメリカ人では作れない西部劇的なアメリカの様式美を追求するフランス人監督ジャン=フランソワ・リシェだ。他に「ジャックメスリーヌ フランスのパブリックエネミーNo1と呼ばれた男」などノワールな作品を送り出している。

監督も二流なら作品もB級のクズ映画だが、メル・ギブソンが悔い改めながら演じた昔の晴れがましい英雄に立ち返るステップとして寛容な心で見てあげようじゃないかと言う想いで見終わる。

 この映画の後、10年ぶりに監督をして、第2次世界大戦の沖縄戦で75人の命を救った米軍衛生兵デズモンド・ドスの実話を描く戦争ドラマ「ハクソウ・リッジ」(6月24日公開)で、第89回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門でノミネートされ、編集賞と録音賞の2部門を受賞した。
カムバックしつつあるメル・ギブソンだ。

6月3日より新宿武蔵野館にて公開される

「夜に生きる」(LIVE BY NIGHT)(アメリカ映画):ギャングたちが抗争する禁酒法時代を生き抜く主人公ジョーの愛と暴力に明け暮れる生き様を描く

$
0
0
デニス・ルヘイン(DENINS LEHANE)はアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンのドーチェスターに1965年8月生まれた51歳のミステリー作家。

アメリカの老舗ブランド「シアーズ・ローバックス」の職場主任をしていた父親と、公立学校の食堂で働いていた母親の間に生まれ、奨学金を得てフロリダ州のエッカード・カレッジで創作を学び始め、本人曰く「暗い難解な短編やシナリオばかり」を書いていたと。

そして在学中「遊びのつもりで」書いたという小説が指導教官の目に留まり、推敲を重ねた上で出版エージェントに送った所見事に出版が決定。それがデビュー作となった長編「スコッチに涙を託して」だった。
 
1994年、29歳の時に出版された同作品はアメリカ私立探偵作家協会(PWA)の主催するシェイマス賞の最優秀処女長編賞を受賞する栄誉に輝き、以後はデビュー作にも登場した探偵パトリック&アンジーを主人公に生まれ故郷のボストン舞台にした長編を次々に発表。第3長編「穢れしものに祝福を」では1998年のシェイマス賞最優秀長編賞の候補作になり、同年のネロ・ウルフ賞を受賞している。

「シャッター・アイランド」(2003年)や1999年に探偵パトリック&アンジーものの第5長編「雨に祈りを」を発表した後はノンシリーズ長編を発表している。

2001年の「ミスティック・リバー」は、3人の立場の違う男たちが少年時代に心に負った傷のために悲劇に巻き込まれていくサスペンス・タッチの人間ドラマ。
全米ベストセラーとなりアンソニー賞の最優秀長編賞を受賞。

その後2003年にクリント・イーストウッド監督で映画化もされ、第76回アカデミー賞の作品賞をはじめとする6部門にノミネートされるなど大ヒットし、ルヘインは一気にブレイクする。
 
2010年には前述の「シャッター・アイランド」がマーティン・スコセッシ監督レオナルド・ディカプリオ主演で映画化された。不可解な事件が起きた孤島を舞台に、謎解きを展開する本格ミステリーだが、これは余り面白く無く当たらなかった。
何れにせよ、ルヘインは現代ミステリー界で最も注目を集めている作家だ。

「夜に生きる」(LIVE BY NIGHT)は20世紀前半のアメリカ・ボストンを舞台にコフリン家を描く大河小説三部作の第二弾だ。

第一弾の「運命の日」(The Given Day)は、父親も叔父も警官と言うアイルランド系の家族で、主人公・コフリン家の長男ダニーもボストン市警の警官だったが、市警の労組委員長に祭り上げられ1919年の市警ストライキやその後の大混乱に巻き込まれる。ベーブルースやジョンフーバーなど実在人物も登場する。

第二作の「夜に生きる」(Live byNight)は少年だった三男のジョーが主人公。
地元のチンピラで強盗に明け暮れ、押し入った賭博場で恋してはならないアイリッシュマフィ・マフィアの情婦に恋して刑務所入りとなる。
そこで知り合ったイタリアン・ギャングのボスのコネで、出所後フロリダ州タンパに移り、親友だったディオン・バルトロや有力者、エステバン・スアレスと知り合い裏社会で大物になって行く。

僕は三部作の第3弾から読み始めた。
「過ぎ去りし世界」(WORLD GONEBY)(HAYAKAWA POCKET MYSTERY:2016年4月刊)は第二次世界大戦下のフロリダ州タンパ。
抗争のさなかで愛する妻を失って以来、元ボスのジョー・コグリンは、表向きはギャング稼業から足を洗い、一人息子を育ててきた。
だが、そんな彼を狙う暗殺計画の情報がもたらされる。
いったい誰が、何の目的で?

組織を託した旧友のディオンや、子飼いのリコらが探っても、その真偽すらつかめない。
時を同じくして新たな抗争が勃発し、平和を保ってきたタンパの町は揺れ動く…変わりゆく社会の裏で必死に生き残ろうと足掻く男たちの熾烈な攻防が展開される。


そして今日紹介するのは、その第二弾「夜に生きる」で三男ジョー・コフリンが主人公の禁酒法時代のアイリッシュ・ギャングとその破滅的な愛の物語、エドガー賞受賞の同名小説の映画化だ。

20年代から30年代にかけて禁酒法時代のボストンを舞台に展開する。
ひと度地下に潜れば、そこには独特の闇が広がっている、そんな時代を背景に、1人の青年がギャングの世界に足を踏み入れ、運命を狂わすほどの女性に出会う様を描いた。

監督、主演、脚本はベン・アフレック。監督作品としては4本目だ。
「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(07)で監督デビュー、「タウン」(10)に次ぐ
10年の「アルゴ」ではアカデミー作品賞を獲得している。
親友マット・デイモンと共同で書いた「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」ではアカデミー脚本賞を受賞しているハーバード卒の才人だ。

そして5年ぶりの監督作品が「夜に生きる」。

「夜に生きる」は、過去の監督作品「ザ・タウン」「ゴーン・ベイビー・ゴーン」のように、自身の育った街ボストンが舞台となる。

 1920~30年代の禁酒法時代(プロヒビション)のボストン。野心と度胸さえあれば権力と金を手に入れられる狂騒の時代(ローリング20s)に厳格な家庭に育ったジョー・コフリン(ベン・アフレック)は、ボストン市警幹部である父トーマス(ブレンダン・グリーソン)に反発し、やがて仲間2-3人でギャングの世界に入りこんでいく。

銀行を襲ったりしていたある日、ジョーは強盗に入った賭博場でエマ・グールド(ジェナ・ミラー)と出逢い一目惚れ、エマはアイリッシュ・マフィアのボス、アルバート・ホワイト(ロバート・グレニスター)の愛人だった。

ホワイトの鼻先で情事を重ねるジョーとエマ。
エマは奔放なディーバ。
だがそれは裏社会においては絶対に越えてはいけない一線であり、間もなくバレてジョーは捕らえられエマは撃たれる。
エマは殺されたと思い復讐を誓うジョー。

 父親トーマスの画策で刑務所で僅か3年間で出所したジョーはアイリッシュと対立するイタリアンマフィアのマソ・パスカトーレ(レモ・ジローネ)に頼み込んで幹部に採用される。

 マソはジョーをフロリダ州・タンパに送り込む。
タンパを基地としてビールやウィスキーなどの密造酒は北のボストンへ送られて来る。
ジョーは親友の小男、ディオン(クリス・メッシーナ)と組み、たちまちの内に競争相手をなぎ倒しタンパを支配するギャング団を作り上げる。

 ラム酒を糖蜜から醸造するグラシェとエステバン・スアレス姉弟と出会う。キューバ出身だけに半黒だが美人のグラシェにジョーの女好きのスケベ根性は発情し夢中になる。

白人のギャングたちは「ニガーかスペイン系か?」と聞くが「両方だ」と答える。
ニガーと結婚するなんて非常識だと言う白人が多い中グラシェの間に男の子を設ける。

 もう一人ややこしい女性が登場する。
地元タンパ市警の本部長フィギス(クリス・クーパー)の娘ロレッタ(エル・ファニング)だ。
賄賂をたっぷり握らせたフィギスは大人しいが女優志望でLAに行くが夢を果たせず帰郷したロレッタは信仰心あつき説教師となり、地元に大賭博場を建設しようとするジョーを非難する。
KKKばかりでなく一般市民もロレッタを支援し始める。

 ボストンの親分、マソはロレッタを暗殺せよと厳命を下すが、ジョーは女性を殺すに忍びないと反抗する。

 分からないのは、ジョーは心底良い奴になったり極悪非道な冷血漢になったり、観客は落ち着かない。仲間を思い遣り、敵と言えど余り極道なことはしない。
ボーイスカウトのような中途半端なギャングだ。

 怒り狂ったマソはボストンから軍団を引き連れジョーを退治にやって来るが迎え撃ったジョーはディオンと共に殲滅してしまう。

 そして組織をそっくりディオンに譲り自分は引退して良きパパを演じるがその家庭をホワイト達ギャングが襲いグラシェは流れ弾に当たり亡くなる。
身も世もあらず泣き崩れるジョー。

そしてジョーの転落の元となったエマは生きていた。

 復讐と野心と裏切り、そして悲しくも切ない愛。禁酒法時代の激動の世の中を生き抜こうとするギャングたちの生きざまの描写。

 見終わってB級エンターテインメント作品と見極める。ベン・アフレック監督作品としては賞狙いの筈だが仕上がりを見るとオスカーには遥か届かない。

 だからアメリカではそれも考慮にいれて昨年中には上映されず、今年の1月13日に全国公開している。

 ジョーには、自ら主演を務めるベン・アフレック。自分が監督をしているから主人公の存在感は十分以上に発揮している。
運命の悪女、ファム・ファタールのエマ・グールドには「GIジョー」「アメリカン・スナイパー」「二つ星料理人」などのシエナ・ミラー。

ジョーの野望を挫くロレッタ・フィギスは「マレフィセント」「ネオン・ディーモン」などのエル・ファニング、18歳だが老けた顔をしている。名子役、ダコタ・ファニングの妹だ。

 ロレッタの父親役、市警フィギス本部長はオスカー俳優のクリス・クーパー。賄賂を取ったり娘を応援してカジノ建築を妨害したりで忙しいが相変わらず渋い芝居でどっしりとしている。
ジョーのキューバ人妻、グラシェは「アバター」のゾーイ・サルダナ。

 ベン・アフレックの監督第4作はどうも不発のようだが、「ゴッド・ファーザー」以来ギャング映画はB級でも楽しいしスリリングだ。

 5月27日より丸の内ピカデリー他全国で公開される。

「クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ」(日本映画):どこに居ても居心地の悪い宇宙人の子供、シシリが一番落ち着く所はしんちゃんのお尻だ。

$
0
0
 1昨日の土曜(8日)は外国特派員協会の「沙翁土曜午餐会」で「ヘンリー4世のパート2)。
2か月に一回、土曜の午後をランチを取りワインを飲みながらBBC制作のシェイクスピア劇のVTRを見るのを習慣としている。

前回から東大演劇研究会の仲間だったYさんやT君も加わる。
特にT君は今でもOBたちを集めて年1回、水天宮のホール(中央区日本橋公会堂)で「真夏の世の夢」や「テンペスト」などシェイクスピア劇をやっているから興味津々だ。

昨年まで解説はチューダー朝の末裔を自称する元日本航空広報部長で日本人妻を持ち日本在住のジェフリー・チューダーさんがやってくれたが体調を崩し,
杏林大学の副学長、ポール・スノードン教授が懇切丁寧に有名なセリフなどを抜き取って解説をしてくれる。

この午餐会はこのところ「史劇」が中心だ。
史劇ははっきり言って余り面白くない。
取りあえず梗概を書く。

BBCは原作を忠実に描いている。

この芝居は日本でも昨年11月に新国立劇場鵜山仁演出で上演されている。

Part1は王ヘンリー四世は、前王リチャード二世から王位を簒奪した罪悪感に苛まれていた。
一方、長男ハル王子は大酒飲みの、無頼の騎士フォールスタッフと放蕩三昧。そのころノーサンバランド伯の息子パーシーが謀反を起こす。
シュルーズベリーに出陣したハル王子とパーシーの一騎打ち。

引き続いてPart2はサブタイトル「戴冠」 

フォールスタッフはシュルーズベリーの戦いで手柄を立て、過去の罪状を許されるが、ノーサンバランド伯の討伐軍に加わることになる。

第2の反乱が起きたので、徴兵しながら戦場に向かう。
その途中、グロスタシャーで法学院時代の悪友だったシャロー判事と再会し、思い出話に花を咲かせる。
痩せぎすの白髪シャロ―判事とでっぷり太ったフォルスタッフは凸凹コンビ。

フォルスタッフはハル王子が王を即位してヘンリー五世になったことを知り、報償を期待して、シャローを引き連れて、どんな地位でも付けてやると約束してロンドンに行く。

意気揚々と新王の前に姿を現すフォールスタッフを待ち受けていたのは思いもよらぬ王子の心変わりだった。

 生まれ変わったヘンリー五世はフォルスタッフを見たことも無い男だと拒絶する。
その上王はペテン師フォルスタッフ卿のこれまでの罪状をあげつらい監獄に送り込んでしまう。

ある地位に就くと人間性も変わるのが不思議だ。
王子の豹変に目を白黒するフォルスタッフ卿が笑える。

6月の「沙翁土曜午餐会」は続編のハル王子が継いだ「ヘンリー五世」だ。

「クレヨンしんちゃん」劇場映画は1993年から始まり24年目の今年で25作目を数える。四半世紀に及ぶ長寿アニメだ。

原作者の漫画家臼井 義人は2009年、登山していた荒船山の岩壁で高さ120mの崖下に転落し死亡しているのだが、臼井の没後8年間も本人が生きているかのように、途絶えることなくシリーズは続いている。

いつもは同じ春休み時期に上映される「名探偵コナン」の方が面白いが(昨年はコナンは63.3億円で邦画の3位、しんちゃんは21.1億円で14位)このところ青春映画で流行りの「百人一首」に便乗した謎解きは余りにも詰らなく、変てこな宇宙人を登場させ下ネタとお尻で攻めるしんちゃんの方が100倍楽しめる。

謎の宇宙人「シリリ」が登場。宇宙人でも「尻」の名前に拘る。
ある日、宇宙船が埼玉県春日部市のローンが残っている野原家の屋根に衝突し二階部分は大破。
降り立った子供の宇宙人「シリリ」が、手にバットを持って抵抗する一家に謎のビームを浴びせる。

ビームは25歳若返り効果があり、父親ひろしは若い青年に母みさえは子どもの姿になってしまう。

喜んだとーちゃんのひろしはパンツをのぞき込み一物(いちもつ)を確かめる姿に笑える。
子どもに見せる映画でそんなのいいかと思えるが楽しい。
どこに居ても居心地の悪いシシリが一番落ち着く所はしんちゃんのお尻にぴったり引っ付いている時だと言うのも可笑しい。

ひろしもみさえも、若くなったらそれなりの苦労がある。やっぱり元の姿に戻して欲しい。
聞くとシリリの父親だけが大人に戻るビーム銃を持っていると言うので、野原一家は日本のどこかに着陸しているシリリの父親を捜しに日本縦断の大旅行へ出発する。

宇宙規模のおバカしんのすけと謎の宇宙人シリリがコンビを組んで大暴れ。埼玉県春日部言葉で丁々発止とセリフもテンポも快調。25本の中でも上位にランクされる出来の良さだ。

4月15日よりTOHOシネマズ日劇 他全国公開される。

「Star Sand-星砂物語―」(オーストラリア・日本映画):太平洋戦争末期、日米脱走兵と16歳の少女が夢を託す「星砂」をばら撒いた「天の川」は日本とアメリカの平和と友好の架け橋。

$
0
0
昨夜(10日)の外国特派員協会のスニーク・プレビューは色んな意味で大変興味深かった。

上映後に監督・脚本・原作のロジャー・パルバースが登壇し、
一緒に主演の16歳少女、海野洋海役の織田梨沙と脱走日本兵、岩淵隆康役の満島真之介が
Q&Aのためひな壇に並ぶ。

映画を持ち込んだロジャー・パルバースは180センチを超す長身で額は禿げ上がり後頭部は白髪の白人。米国生まれだがベトナム戦争を忌避してオーストラリアに移住し日本に興味を持ってこの半世紀の間、オーストラリアと日本に半分ずつ暮らし、日本語はペラペラ。
日本の文学や映画作品に接し、沢山の著名な日本の文化人を友人に持ち、徐々に日本への想いが深まったと言う。

日本語で書いた小説を原作として映画を撮りたい希望を強く抱くも、資金面で折り合いがつかずようやくオーストラリアと日本から支援者を得て監督作品を送り出せることになった。古稀を過ぎた72歳の新人監督(Emerging Director)だ。

ロジャーが描きたかったのは太平洋戦争末期、激戦地となった沖縄で日米夫々の脱走兵と二人を巡る少女の話だった。
脱走兵は「卑怯者」、しかし彼らこそが平和の実践者だと言うこと。

映画の冒頭は透明な海の底をサンゴ礁やヒトデを舐めるように泳ぐ裸の少女をカメラは追う。

1945年4月の沖縄。
戦禍から遠く離れた沖縄の伊江島で暮らし始めた16歳の少女・海野洋海(ひろみ)(織田梨沙)は、ガマ(洞窟)に隠れ住む日本兵・岩淵隆康(満島真之介)とアメリカ兵・ボブ(ブランドン・マクレランド)という2人の青年に出会う。

戦うこと、人を殺すことが厭になって軍を離れた「卑怯者」の日米2人の脱走兵に島に移住して1か月、知り合いのいないひろみとの間には、穏やかで平和で不思議な関係が築かれてゆく。

ボブがサンフランシスコから軍艦に乗り込んだ時、空にはミルキーウェイが広がっていた。
日本とアメリカを結ぶ「天の川」。
そのキラキラした砂が「星砂」をひろみが毎日伊江島の遠浅の海底から掬い取り牛乳瓶に集めている。
その帰りに人里離れた洞窟(ガマ)の前に海から必死の思いで辿り着いたボブを見かけたのだ。

食べ物は島に住む隆康の農場主の叔父がそっと運び込んでくれる。
隆康は一日中瞑想に耽っている。
ボブは正座してあんなに長い時間座っていられるのは信じられないとクビを振る。

ひろみはロスアンジェルス生まれの日系二世、戦争が始まる気配で父と一緒に帰国したが父親は長崎の工場労働者として徴用され一人になって島へ来たのだ。

それにしてはひろみの英語は下手だ。
だが惹かれあいいつしか愛しあうようになったかと思うと、隆康とボブは髯を剃るのに互いに石鹸泡を塗りっこしてホモみたい。

辛口で言うが、時代考証は出鱈目。
ひろみをはじめ女性たちは、取りあえずモンペ姿になるが様になっていない。
芋や大根を掘って葉っぱをポイポイ捨てる。
僕ら国民学校生徒の疎開組は草の根っこや木の皮、虫まで食べたがさつま芋の葉っぱなどは貴重なご馳走だ。

外に光が漏れないよう、電灯に被せる深い傘が必要だし、
爆風で窓ガラスが飛散しないように和紙を細い短冊に切り、糊で格子状に貼らなくてはならない。
隣の叔母さん吉上(渡辺真紀子)がプカプカ紙巻煙草を吸っているが戦争末期には全く手に入らない代物。

それに(質問した人もいたが)どうして皆、標準語を喋るのだろう?ひろみは来たばかりだから除外されるが,地元の人間、隆康とその家族、近所のおばさんの吉上、大阪から戻って来たばかりの儀間(寺島しのぶ)が標準語の会話は違和感を覚える。

ロジャ―は沖縄弁を練習する時間が無かったと言うが、沖縄語はこの映画には不可欠の要素で、言い訳は言語道断だ。

おまけに儀間は良いが沖縄には独特の姓がある。
岩淵や吉上などは沖縄姓に変えるべきだ。
儀間(寺島)が(恐ろしい体験を語り始めるが)、大阪で「爆撃機が」と話しはじめる。
襲来する爆撃機は総て「B29」だ。
日本人はその名を皆知っていて誰も「爆撃機」とは言わない。

 26歳の娘が包まれる「火の玉」のことは「油脂焼夷弾」または「焼夷弾」の名前で呼んでいた。

 ここで平穏な日々が敗れる事件が起こる。
戦争で足が不具になった隆康の兄、一(はじめ)(三浦貴大)が、松葉杖を突き拳銃を携えて食料を運ぶ叔父を脅しながら洞窟の中へ侵入して来た。

「俺が大切にし、命を捧げるのは親兄弟でも家族でも無い。天皇陛下を頂く日本国だ!」突如として3人の育んで来た平和は崩れ去る。

2016年の東京。
大学生の志保(吉岡里帆)が卒業論文の題材として教授(石橋蓮司)から手渡された日記には、1945年に沖縄の小島で暮らしていた16歳の少女の見聞きしたことが書かれていた。その日記を辿りながら顛末を追う。

「天の川」と「星砂」を介して、日本とアメリカの邂逅(East meets West)を寓話的に描き、未来へ平和と希望を託すコンセプトだが、話の流れにプロットの綻びが目立つのには目を瞑らなければならない。

 ロジャ―の欠陥を補って余りあるのはDPの小川武のカメラだ。透き通る伊江島の海と底に横たわる星砂とサンゴ礁。ガマ(洞窟)の明暗のコントラストの妙とボブとヒロミのシルエット。見とれて物語の展開を忘れてしまいそうだ。

素人の織田梨沙を見つけ出したこと、満島真之介を口説いて出演させたことが映画の成功に繋がったとロジャー・パルバースの弁。

祖父が進駐軍で、沖縄に生まれ育った満島真之介は沖縄の化身でもあるが、
撮影場所のガマ(洞窟)は実際100人ほどの日本兵が隠れ戦った場所で火炎放射器と機銃掃射で玉砕した兵隊たちの魂が彷徨っている。
撮影前に「毎日『香』を焚いて鎮魂して臨みました」と。

6月21日より沖縄桜坂劇場、8月4日より渋谷ユーロライブにて公開される

「おとなの恋の測り方」(Un Homme A La Hauteur)(仏映画):恋人居ない歴3年間を過ごした美人弁護士の前に白馬の騎士のように現れた富裕な建築家は身長1.35Mの小人だった

$
0
0
 フランス人てのはヘンテコなことを考えるものだ。イケメン男だが身長が恋人の半分しかないと言う前代未聞のラブロマンス。

そのイケメン小人を演じるのが「アーティスト」(11)でフランス人俳優唯一アカデミー賞男優主演賞に輝いたジャン・デュジャルダンなのだから話題を呼ぶ。
ミジェットになる身長は4f5inchと言うから1M35C。

 ディジタルでその比率で縮小しているので腕や脚が細く身体が薄い。
気味が悪いがこれがツボだから外せない。
せめて、時間と費用がかかるがCGで身長は低いが身体の薄さなどは修正出来なかったものか?

内容に踏み込めばお粗末の限りだが、デュジャルダンのユーモラスで余裕の芝居で救われている。

舞台はフランス南部コートダジュールのリビエラの上流社会。夕陽に照らされた海岸線に繋がるリビエラ市街。未だベル・エポックの名残がある。

主人公は辣腕弁護士ディアーヌ(ヴィルジニー・エフィ)。
浮気症で女たらしの夫、ブルーノ(セドリック・カーン)と離婚して3年も経つのだが、
毎日元夫と顔を合わせなけらばならない。
なにしろ二人はパートナーでリビエラを見下ろす瀟洒な高層ビルに弁護士事務所を構えているのだ。

だから日々衝突を繰り返し不機嫌になり新しい恋のチャンスはまるで無かった。
そんな彼女にある日「自宅ですか?」と男から電話がかかって来る。
声もソフトで優しい。
拾った携帯のコール・リストから宛先「自宅」を押して電話したと言う。

男は建築家のアレクサンドルと名乗り、ディアーヌがレストランに置き忘れた携帯電話を拾ったので渡したいという知的でユーモアあふれる口調に、仕事でむしゃくしゃした気持ちも一変し機嫌も直る。

まだ見ぬアレクサンドルに颯爽と白馬に載った王子様が哀れなお姫様を救いに来るイメージを抱く。

ときめきを覚えたディアーヌは、さっそく彼と会う約束をする。
久しぶりに胸の広く開いたドレスで飾り立て、期待に胸を躍らせる彼女の目の前に現れたアレクサンドル(デュジャルダン)の身長はディアーヌよりもずっと低かった。
 小人だ、自分の肩までも届かない。

がっかりしたディアーヌは、早めに切り上げて帰るつもりが、建築家で成功し富裕で独身、茶目っ気たっぷりで自信満々のアレクサンドルの話術にいつしか魅了されていく。
そして会って1時間後に3千フィート(1000M)の高さから一緒にパラシュートで飛び降りていた。

「僕は恋人?」と尋ねられると困惑し即座に返答に迷う。だが他人が彼をMidget(小人)と侮辱すると、腹を立てるなど心の底には好意はあるものの、身長を気にしてあと一歩を踏み出せないディアーヌ。
普通の人間が異常なマイノリティに露骨に示す偏見の幾つかが考えさせられる。

 例えば聾唖者を恋人にしているディアーヌの母(マノエル・ゲイラード)娘が「奇形な男」と結婚しようとしていると気が舞い上がり車を一方通行の逆方向へ突っ込み衝突大破する。

 踏み切れないことでアレクサンドルを失望させた上に、友人からは「小さいのはあなたの方。心の器がね」と指摘されて号泣し、自分が本当に望んでいる「幸せ」を考え直していく。

 小さなイケメンは「アーティスト」などのジャン・デュジャルダン。優しくて知的でハンサムだが、身長が低い男性と出会った女性の恋の行方を追う。

 ヒロインで背の高い女性弁護士に「ターニング・タイド 希望の海」などのヴィルジニー・エフィラ。

監督は、「プチ・ニコラ」「アステリックスの冒険 秘薬を守る戦い」などのローラン・ティラール。

馬鹿げた映画だと思いながらも、美男美女のジャン・デュジャルダンとヴィルジニー・エフィラのユーモラスな好演で映画は楽しめる。

6月17日より新宿ピカデリー他で公開される。

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(Lo chiamavano Jeeg Robot)(伊映画):ハリウッド製の「スーパーヒーロー」と違い、イタリア・ローマのスーパーヒーローは薄汚く、志は低い。

$
0
0
「スーパーヒーロー」の定義づけの映画だ。蜘蛛に刺されたとか宇宙からやって来たと言うハリウッド製のヒーローは最初から人類や地球を守り世界の平和のために活躍するが、イタリア、ローマの貧民窟に住むエンツォ(クラウディア・サンタマリア)はやがてヒーローになるが今は薄汚い小悪党。
コソ泥をして盗んだ商品を売りその日一日が過ごせれば良い。

友だちもおらず一人ぽっちで大好物のヨーグルトを食べアダルトビデオを見るのが唯一の楽しみと言うから情けない。

食べ物も小銭も無くなったのでいつものように盗みを働き、運悪く見つかり追われてローマを流れるテヴェレ川に足を踏み外し落ちてしまう。
流され溺れて手足をバタバタしている内に川底に遺棄されていたドラム缶に嵌ってしまう。

「放射性廃棄物」とステンシルで記されていた。
やっとのことで浮かび上がり這う這うの体で家に戻り、バタンキューとぐっすりと寝込むエンツォ。

数日後ようやく体調が回復し、唯一人の友達、「オヤジ」と呼ぶセルジョ(ステファノ・アンプロジ)に会いに行くと、ゴロツキどもがジンガロ(ルカ・マリネッリ)を囲んで麻薬取引の計画を立てそのために現金輸送車を襲うと密談をしている。

 究極にはエンツォの天敵になるこのジンガロはホモのナルシスト。目バリを入れて隈取をし悪魔のような容姿だ。

 エンツォはセルジョの家に招かれるとそこに愛娘アレッシア(イレニア・パストレッリ)がいる。後にエンツォのディーバになる女の子だ。

アレッシアは日本の永井豪原作の「鋼鉄ジーグ」アニメの大ファン。リアルタイムで見られなかったDVDを手放されず時間があればジーグの世界に嵌りこんでいる。
そしてエンツォをジーグの主人公、司馬宙(ヒロシ)と混同し、「ヒロ」と呼ぶようになる。スーパーヒーローは「父さんを救い、皆を救わなきゃ、皆の為なの、ヒロ」と諭す。

しかしギャングたちの抗争の中で父親は建築現場の9階から落ちて死に、同じように落下したエンツォはむっくり起き上がり何事も無かったように立ち去る。川に落ちた時から超人的なパワーが身についたことを初めて確信する。

ナポリから子分を引き連れ乗り込んだマフィアの女親分ヌンツィア(アントニオ・トルッポ)やジンガロたちとの闘争に巻き込まれたエンツォは相手構わず超パワーを発揮してバッタバッタと倒していくのが痛快だ。

しかしアレッシアを人質に取ったジンガロに超パワーの秘密を教えざるえを得なくなり、同じ能力を持った同士の死闘が終盤のハイライトとなる。

 スーパーヒーローものは子ども向けだが、ホモのジンガロが男同士のカーセックスとか、慕うアレッシアをドレスルームで強姦してしまうエンツォ、とイタリア製「スーパーヒーロー」はダーティだ。

「スーパーヒーローは正義の味方でマスクで顔を隠して空を飛ばなければならない」と今は亡きアレッシアの言葉を心に刻んだエンツォはラストシーでタイツとド派手なタイガーマスクを着けて高層ビルの屋上からローマ市街に向けて飛び立つシーンは今までの汚辱に塗れた生き様を清算するかのように可笑しいが落とし前をつけている。これはシリーズになるのだろうか?

出演者は個性的な顔立ちの役者を監督は厳選している。

主人公、エンツォは「緑はよみがえる」などのクラウディオ・サンタマリア。決して美男では無い。小太りの優しい顔は髯もじゃでむさ苦しいが愛嬌がある。「ヒロ」と呼ばれすっかりアニメの「宙」に成りきっている。

ナルシスト天敵、ジンガロは「グレート・ビューティー/追憶のローマ」などのルカ・マリネッリ。

アレッシアのイレニア・パストレッリが素晴らしい。決して美人では無いが目、鼻、唇と夫々の造作が大きく男好きがする。モデル出身で女優としては経験が浅い。

40歳、ローマ生れの監督ガブリエーレ・マイネッティの劇場用長編映画のデビュー作。短編映画では「Tiger Boy」(12)がオスカー候補になったことがある。

日本では昨年5月の朝日新聞ホールで開かれたイタリア映画祭で上映された。
映画賞レースでは、イタリア・アカデミー賞と言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、最多16部門にノミネート、新人監督賞を始め、最多7部門受賞。2016年のイタリア映画を代表する一本となった。

マイネッティ監督は永井豪原作によるアニメ「鋼鉄ジーグ」の大ファン。75年に日本で放送開始、79年にイタリアでも放送されて大人気を呼んだ。
子供の頃から日本アニメの大好きだったガブリエーレ・マイネッティ監督が、40年近く経った今もなお、イタリア人の心の中に深く刻まれるその「鋼鉄ジーグ」からインスパイアされてイタリア的ダークヒーローを生み出した。

5月20日よりヒューマントラスト有楽町や新宿武蔵野館にて公開される。

「セールスマン」(The Salesman)(イラン映画):シャワーを浴びている最中に襲われた妻。警察に通報して犯人を捕まえたい夫と、表沙汰にしたくない妻の感情はすれ違い始める

$
0
0
イラン映画は1979年のイラン革命後、政府による検閲が(おもに宗教的な面で)強化され、直接的な政府批判を避けるため子供を主人公にした作品をつくるアッバス・キアロスタミ、モフセン・マフマルバフなどが主流になりヨーロッパの映画資本と組み海外映画祭にも多数作品を出品・受賞して存在感を訴えた。

イスラム革命以後もエブラヒム・ハタミキアが評判だが何れも素人を使い貧乏くさい子供や老人の話も興味をひいた。

イラン映画を他の先進国の映画と競い世界のヒノキ舞台に登場させたのはアスガー・ファルハディ監督の一連の作品だろう。従来の貧困層や子供たちではなく中産階級の人々をネオリアリズムで描写しベルリンなどの国際映画祭やアカデミー外国語賞の常連になっている。

例えばカスピ海岸へ旅するイラン人グループが遭遇する悲劇を描いた「彼女が消えた浜辺」では2009年ベルリン国際映画祭の銀熊賞 (監督賞) を受賞している。

2011年のベルリン国際映画祭に出品した「別離」はもっと華やかだ。金熊賞および銀熊賞 (女優賞) と銀熊賞 (男優賞) を獲得した。
その上12年のアカデミー外国語賞も獲得している。
ナデルとシミンは14年来の夫婦で、11歳の娘テルメーとテヘランで暮らしている。家族は中産階級の上流に属し、夫婦は離婚の淵に立たされている。シミンは夫と娘とともに国を出たいのだが、ナデルはアルツハイマー型認知症を患う父のことを心配し、国に留まりたいと考えている。そこでシミンは家庭裁判所に離婚許可を申請するが、認められなかったため、彼女はいったん夫の許を離れ実家に帰る。ナデルは父の世話のためにラジエーという若く敬虔で貧しい娘を雇う。
ラジエーは短気な夫ホッジャトに無断でこの仕事を得ていた。しかもホッジャトが無職のため家族の生活はこの仕事に依存していた

この「セールスマン」も昨年(16年)のカンヌ国際映画祭でも脚本賞と男優賞をW受賞し、更に今年2月のアカデミー外国語賞も勝ち取ったのだ。

しかし1月に発足したドナルド・トランプ政権による中近東8カ国の大統領令による入国制限への抗議のためアスガー・ファルハディ監督はと主演女優タラネ・アリドゥスティが、、アカデミー賞授賞式の出席をボイコットしたことで世界の注目を集めている。

この映画こそ話題騒然、世界が待ち望んだイランの名匠ファルハディ監督の新たなる挑戦だ。
主人公はテヘランで教師をしているエマッド・エテサミ(シャハブ・ホセイニ)と同じく教師の妻ラナ(タラネ・アリドゥスティ)は、自由時間に小さな劇団に所属し、俳優としても活動している仲の良い夫婦。

冒頭はドーンと大きな音が響き建物が崩壊すると人々が逃げ惑う。イランではアパートやオフィスビルの不法建築が多く、崩壊は日常茶飯事だと言う。
幸い倒壊は免れたが新しいアパートに2人は移る。

このアパートも同様な危険があり移った部屋には前に住んでいた女性(どうも娼婦らしい)の家具や荷物が残されている。

 ある日、劇団の練習を早く終えたラナは引っ越して間もない自宅でシャワーを浴びていた。扉をノックするのでエマッドと思って開けると知らない男で停電の暗闇で顔も見えないまま頭部を鈍器で殴られ意識を失う。

 エマッドが帰宅すると階段には血の跡が点々としている。逃走した犯人のものだ。
映画ではレイプされたのかどうかははっきりしないがタオルを巻きつけただけのラナが殴打され気を失ったのは間違いない。
車で病院へ運ばれ頭部を縫うが意識を取り戻したラナは軽症で済んだようだ。

 警察に通報して犯人を捕まえたい夫と、表沙汰にしたくない妻の感情はすれ違い始める。
この辺りの二人の感情の微妙な行き違いの描写が上手い。

女性の大騒ぎしたくない心理と男性のストレートな正義感。
感情と理性のズレが仲の良かった二人の間に隙間風が吹き抜け始める。

エマッドはアパートの近くで携帯と鍵の束を見つけ、男の乗ったピックアップ・トラックの持主を追跡し若い男を突き止める。彼の探偵能力は大したものだ。

 エマッドはその男の家に行き引っ越ししたいからトラックで荷物を運んで欲しいと頼み込む。
断られたが代わりにと男と結婚する予定の娘の父親と名乗る老人がやって来る。

 ガッカリしたエマッドはそれでも老人に脅迫を交えていろいろ質問をし始める。
心臓に疾患を抱えた老人は息も絶え絶えに答える。
ここでも名探偵エマッドの推理は鋭く真相に迫る。

 尋問を見ていたラナは老人を解放するように頼むが聞き入れず、
トコトン追及するエマッドとはもうやって行けないと観念する。

静かに進んでいた展開も後半はエマッド探偵でクライマックスを迎えるが夫婦の仲は破局を迎える。

この夫婦が演じる芝居がアメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーのピューリッツァー賞受賞作「セールスマンの死」。
映画のタイトルは劇中劇からとって来た。

ファルハディ監督は、時代の変化に取り残されたこの戯曲の主人公の年老いた63歳のセールスマン、ウィリィ・ローマンとその家族の物語を急速に近代化が進むイランの社会状況に重ね合わせている。

エマッド演じる42歳のシャハブ・ホメイニは「別離」でも主演でベルリン国際映画祭で銀熊賞(男優賞)を授与されている。

 ラナ役のタラネ・アリドゥスティはテヘラン生まれの32歳。17歳の時から女優になりファルハディ監督とは「彼女が消えた浜辺」(09)など本作を入れて4本目の出演だ。

 劇中ではエマッドとラナが出演する「セールスマンの死」の舞台シーンが随所に挿入され、
映画に豊かな含蓄(コノテーション)を与えるとともに、「別離」と同様に現代的なライフスタイルと伝統的な価値観の狭間で生きる夫婦の姿を描いている

 エマッドは「犯人」を追及し心理的にも痛めつけ見事に復讐を果たすが、ラナの言う通りそれが何と「空しいもの」か、観客も納得する。

 リベンジはむしろトランプ大統領に向けるべきだろう。折角勝ち取ったオスカー像を自らの手で受け取れなかった恨み辛みはどんな形でも果たすべきだ。

 6月10日よりBunkamura ル・シネマにて公開される住人。

「心に吹く風」(日本映画):23年振りに出会った高校時代の恋人同士。「冬のソナタ」を翻案し「マディソン郡の橋」を付け加え、北海道富良野を舞台にした大人のラブロマンス

$
0
0
今朝、ブログを書き始めたら友人のS君から電話がかかって来た。
「どうして石井社長や松島常務が辞めなけれいけないんでしょうね」
彼は電通時代にこの二人に仕えたので動揺は大きい。

 電通を早期退職したが「愛社精神」横溢のS君は、
電通が新入社員高橋まつりさんの自殺で「ブラック企業」と叩かれていることに
ショックを受け心を痛めている。

 電通は世評で言われているような「過労とパワハラ」で社員を殺す「ブラック企業」では無いと、
僕はS君を励ます。
そして高橋さんの自殺の真相は「失恋」だったと教える。

 長く付き合っていた彼女の恋人は某人材派遣会社の米国駐在員。
「正月休み」で4か月振りに帰国し12月24日の夜は高橋さんのアパート(門前仲町の電通借り上げ女子社員寮)で過ごすことになっていた。

 その日(24日)の夕刻、同僚や上司の話を聞くといつもよりはしゃぎまわり
幸せそのものだったと言う。
翌朝自殺する人間とはとても思えなかったと。

 手づくりのご馳走とケーキやシャンパンでクリスマス・イブを過ごそうと思っている矢先に
突如「別れよう」と青天の霹靂の話が持ち出された。

夜を徹して話し合い撤回させようとしたが彼の決心は固かったようだ。
ここからは推測になるが、若い恋人同士の男女が長く離れていれば亀裂が入ったり新しいガールフレンドが出来るのは必定だ。

朝になり彼はアパートを出て行く。
仕事は面白く無い、会社は詰らない、せめて彼の胸に抱きしめられ慰めてもらいたいとの希望も呆気なく消えてしまった。

4階の階段踊り場へ出て時間をかけ逡巡しながら「飛び降りた」と言うのが
実情ではないだろうか?
見ていた通行人が110番に電話している。
パトカー到着寸前に飛び降りてしまった。

 高橋さんのような東大現役組は月に500-600時間も机に向かう。
「4当5落」(4時間しか寝ないと合格し5時間寝ると落ちる)を信じるからだ。
だから36協定30時間オーバー位でフィジカルな過労にはならない。

また上司は東大卒でない限り「三流大学出のボスに何を言われても平気」と言う構えがある。

「過労やパワハラでは自殺をしない」と言い切れるのも、
僕自身が東大現役で電通入社し超多忙なセクションで奴隷労働をし
上司に苛め抜かれた経験からハッキリ言える。
また同期で新入社員だった東大経済卒のT君がその年の大晦日に失恋で自殺した事件と妙に符号する。

まつりさんの母親は、川人博弁護士の指示で動いている。
川人弁護士は電通ラジオ局社員で2000年に自殺したO君を過労死で訴え、最高裁まで戦い1.8億円の慰謝料を勝ち取った敏腕弁護士だ。
電通のどこをどう押せば降参するか、弱点を知り抜いている。
労災申請を昨年9月に認めさせると、電通を「ブラック企業」と世間に訴えO君の3倍近い慰謝料を電通から受け取った。

 最近、まつりさんの母親は「過労死遺族の代表」と言う肩書でマスコミに登場している。
電通の支払った和解金は、この問題ではこれ以上叩かないでくれ、と言う意味合の筈だが、
これではまるで10億円を受け取って「慰安婦像」を撤去しないばかりか
更に労働者像も付けたして世界中に建立しようと言う韓国の朴槿恵とその反日一派と同じではないか。

高橋まつりさんは「過労死」では無い、「失恋自殺」だと書いてくれたのは「週刊新潮」だけ。
所轄の警察がボーイフレンドを同行して門前仲町の現場検証を25日のクリスマスの午後行ったことをマスコミは皆承知しているが、誰も書こうとしない。

それどころか朝日新聞は自社内に労働基準法違反で労基査察が入っているのを、べた記事で処理し、大見出しの記事、社説、コラム、天声人語、あらゆる手段で電通攻撃の先鋒を突き進んでいる。
ありもしない「南京大虐殺」や「慰安婦強制拉致」などに火をつけ中国や韓国の反日感情を煽った売国奴・朝日新聞に言われたくない。

振り返ってみればマスコミをコントロールして来た電通へのリベンジかも知れない。
それにしても電通の反論もせずにひたすら頭だけ下げ、社長のクビを差し出す「自虐的態度」には
電通OBとして我慢が出来ない。

このような論旨の記事を載せてくれるメディアをどなたか紹介してくれませんか?


日本に韓流ブームを巻き起こした韓国ドラマ「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督。
「冬のソナタ」のミュージカルの舞台演出などTVドラマの遺産で食べている。

そのソクホ監督が日本に招かれ初めて劇場用長編映画の監督と脚本に取り組む。
春の北海道を舞台に、高校時代の初恋相手と再会した男女が綿々と織り成す2日間を描く大人の純愛ドラマ。

日本人のプロデューサー、井田寛がどうユン・ソクホ監督に話したかしらないがTVドラマ「冬のソナタ」を翻案し「マディソン郡の橋」を付け加えて北海道富良野に置き換えただけだから先が読めるし感動もしない。

冬ソナも音楽がキーポイントだったから韓国からスタッフのイ・ジスを連れて来て音楽を担当させている。
ピアノを中心にストリングスのBGMは異国で自己主張をするかのようにやたらと大きく画面にそぐわないこともしばしばある。


仕事で北海道、富良野を訪れたビデオアーティストの日高リョウスケ(真島秀和)は、高校時代の元恋人・春香(真田麻垂美)と23年ぶりの再会を果たす。
春香は既に結婚して娘もいたが、春香をずっと想い続けていたリョウスケは独身を貫き彼女をモデルとしたビデオ撮影に誘う。

春香は戸惑いながらもリョウスケに同行し、忘れかけていた想いをよみがえらせていく。
失った時間を取り戻すように急接近していく2人は、ついに越えてはならない一線を越える決意をする(かと思いきや)。

韓ドラは相思相愛でも片方が不治の病か突然の事故で死ぬが、リョウスケはスコットランドの冷たい湖で水死体になって発見される。街のギャラリーでリョウスケアートの個展で突如知らされる春香のショック。

旭川から富良野にかけての北海道田舎の美しい自然は高間賢治のカメラで紹介される。禁断の恋はクリシェだが春の新緑に覆われた丘陵や草原は心を打つほど見事だ。

主演は「心中エレジー」や「ボクの妻と結婚してください。」などの41歳、眞島秀和。大きな眼鏡と口髭で見間違えてしまう。

六本木アスミック・エースの試写室で上映前に挨拶する真田麻垂美は「16年ぶりに女優復帰で、新人同様ドキドキしてます」と。96年の「月とキャベツ」で注目されたが01年の「忘れられぬ人」の後の映画出演は無かった。今年39歳で素顔の真田は女優らしくない素朴な女性だ。

 この二人の芝居が琴瑟相和すとは行っていない。
亭主が出張中の人妻相手だから派手な感情表現は出来なかっただろうが、それにしても地味で控えめ過ぎる。
大人の恋愛劇だから「フィフティ・シェイズ・ダーカー」まで行かないまでも
もっとセックスに及ぶ何かがあっても良いのでは無いだろうか?
手を握り合うなんて高校生でもバカバカしいと思うレベルで我慢とは情けない。
リョウスケは23年間お待たせしましたの再会だろう?

ワザワザ韓国のTVドラマ演出家を招へいして初めて長編映画を撮らせなければならない程、日本には映画作家が払底しているのだろうか?ドラマと映画は違うことを念頭に入れておかなければならない。

 6月新宿武蔵野館にて公開される。

「20センチュリー・ウーマン」(20th Century Women)(アメリカ映画):母さん、今の僕があるのは、ちょっと不器用なあなたと普通じゃない2人の彼女たちと過ごさせて貰ったあの夏のお陰です

$
0
0
 映画の冒頭、ドロシア・フィールズ(アネット・ベニング)と15歳の息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)が居間で「トーキング・ヘッド」に合わせて踊っている。ダンススタイルは夫々の世代に流行ったスタイルでマチマチ。

TVでカーター大統領の「アメリカ人の自信の喪失の危機(Crisis of Confidence)」についての演説を聞いている。トランプ大統領のツィッターに通じる「アメリカファースト」に通じるバカげた演説。70年代末の風景だ。

「人生はビギナーズ」では72歳でカミングアウトしてゲイを告白した自分の父親を描いたマイク・ミルズ監督が、今度は母親をテーマに撮った笑って泣けるヒューマンドラマ。

1979年、LAの北にあたる富裕層の住む太平洋岸の街、カリフォルニア、サンタバーバラ。

1925年の大恐慌時代に生まれ40歳の時にジェイミーを生み今や55歳の母親、ドロシア(アネット・ベニング)が主人公。
父親はとうの昔家を出て行方不明。
母一人子一人の二人だけの家族だ。

近くのスーパーで母の誕生日パーティの買い物をしていると駐車場で車が突如炎上する。
ショッピングバッグをさげて外へ出ると燃えているのは自分たちの車「フォード・ギャラクシー」だ。
「名車だったのに」と家出した夫の唯一の財産、年代不明の古いギャラクシーを名残り惜しそうに見つめる.
「いつもガソリン臭く、オーバーヒートしてたよ」とジェイミーはクールだ。
「でも消火してくれたって消防士さんたちをパーティに呼ぶか?」
ドロシアは少し変わっている。

二人の住む家は築70年を経ている古いが広大な屋敷。
抵当流れの物件をドロシアが安く手に入れたもの。
部屋数も多いので2人に貸している。

実は息子が学校でスタントの真似をしてケガをしたりクラスメイトの苛めに会ったりして心配で、自分の手に負えない教育を間借り人たちに助けを求めているのだ。

NYでアーティストを目指していたが子宮頚がんにかかって故郷に戻って来て治療を受けている、自由奔放な20代半ばの女性写真家アビー(グレタ・ガーウィック)。
元ヒッピーで何でも修理してくれる便利屋男のウィリアム(ビリー・クラダップ)。
女ばかりに囲まれて育つジェイミーに父親役をやらせるために部屋を貸している。

もう一人同居人では無いが毎晩ジェイミーの部屋に樹に登って忍び込んで来る幼馴染のジュリー(エル・ファニング)がいる。
2つ年上のキュートな美女だが一緒にベッドで過ごすがセックスは許さない。「そんなことをしたら友情が無くなるよ」と。

しかし2人の間のきわどいセックス談義が可笑しくて笑える。
「快感はワギナじゃなくてクリトリスなんだ」
耳学問のジェイミーは主張する。
「クリトリスに指かバイブで刺激を与えればいいんだ」

ドロシアは1925年の大恐慌の時代に生まれ第二次大戦を経験している。
戦場に出かけた訳では無いが多感なティネージャーで見た反戦映画、特に「カサブランカ」(44)に影響されている。ボガートとバーグマンのラブシーンが黒白画像で写る。

あの世でハンフリー・ボガートと一緒になるのが夢。カメラがサンタバーバラの海岸から澄んだ青空にパンするとテーマ曲「As Time Goes By」が流れる。
だから空を飛ぶパイロットに憧れ軍で飛行士として戦いたかった。
複葉機を操縦しサンタバーバラ上空を爽やかに飛翔するドロシアの満足気なほお笑み。

 全員揃ってテーブルを囲みセラピー紛いの談話に入る。
ジュリーが話に加わらなく寝ている。
「起きなさい。貴女だけ何ですか?」
「だって月経だもん」
ジェイミーやウィリアムなど男たちにも
「月経」(Menstruation=メンストルエーション)と声を合わせて言わされるシーンは爆笑。
語尾を上げてはダメ!下げるの。何回も繰り返し発音させられる。
 
ジェイミーは10歳の年上のアビーにセックスのことを聞く。
「セックスって楽しい」
「一度も良くなったことは無いし終わったら半分は後悔しているわ。」
「じゃ何故するの?」
「半分は後悔しないもん」

「母さん、今の僕があるのは、普通じゃない彼女たちと、ちょっと不器用なあなたと、3人の女性たちと過ごさせて貰ったあの夏のお陰です」
大人になったジェイミーは1979年を振り返って独白する。。
世代の違う3人の女性とのさまざまな経験を経て大人へと成長していく少年ジェイミーの通過儀礼の夏をユーモラスに爽やかに描く。

主役の思春期を迎えた息子を持つシングルマザーを「アメリカン・ビューティ」や「キッズ・オールライト」などのアネット・ベニングが演じる。本作の演技でゴールデン・グローブ(GG)女優主演賞にノミネートされた。

15歳のジェイミーを演じるルーカス・ジェイド・ズマンはシカゴ生まれd「フッテージ デス・スパイラル」(12)で映画デビュー。主演級のこの作品が実質的に初お目見えだ。目がキョロっと大きくキュートなティネージャーだ。

自由奔放のアーティスト、アビーをGG賞候補になった「フランシス・ハ」や「ジャッキー」などのグレタ・ガーウィグ、

姉のダコタがショーン・ペンと主演する「アイ・アム・サム」に2歳でデビュー、名子役で鳴らした後「SOMEWHERE」などを経て「ネオン・デーモン」や「夜に生きる」など28歳の演技派女優に育ったエル・ファニングが幼馴染のジュリー。

ウィリアムの49歳・ビリー・クラダップは口髭の似合うイケメン。「スリーパーズ」(96)でデビュー。「M:I3」(06)や「スポットライト」(15)など脇に徹して大作に顔を出している。

前作「人生はビギナーズ」(10)で、75歳でゲイとカミングアウトした父親と自分自身の関係を描いたマイク・ミルズ監督。
50歳になって6年ぶりの新作は、自身が生まれ育った故郷サンタバーバラを舞台に、今度は「母と息子」の物語を仕上げた。
そして長編3本目のこの作品は今年のアカデミー賞脚本賞にノミネートされた。

2時間たっぷりのアートハウス向けの作品でこんなに笑って堪能できるとは思わなかった。

6月3日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「ワイルド・スピード ICE BREAK」(The Fate of The Furious)(米映画):ドムのファミリー背信で始まるシリーズ8作。隠された肉親愛の障害を超えファミリーの結束は増々固く

$
0
0
このイースターの週末(14日―16日)にアメリカを始め世界65カ国で上映がはじまった。
 ダントツで首位に躍り出たのがこの作品。4310館で上映され100.2M(109億円)で
イースター週末史上2番目のBO、シリーズでも2番目の成績にもなる。

しかし前作「Furious7」が147.2Mだったので、この5割近い落ち込みはシリーズに影を落とす。

それを吹き飛ばしたのが中国を中心とした海外市場63か国で開け432.3Mの快挙、ワールドワイド総計はたったの3日間で532.5M(580億円)の超メガヒットだ。
このシリーズはこれでワールドワイド総計は4.4B(4800億円)で映画史上8位の成績になる。

マッスル・カーとファミリーの結束は北米に留まらず世界的規模で受け入れらている。
更にFFシリーズを発展させようとするなら中国のような場所に観客のベースを設置すべきだ。
単独でこの週末に何と190M(207億円)も挙げている。
前作F7は総計で24億2600万元=$390M(425億円)をたたき出している。
この勢いでそれと同額かそれ以上の成績が期待できる。

一つ問題があるとすれば(政治的な規制やクォータで)BOからスタジオに入るのは25%に過ぎず、他国の半分なのだ。

かつて8%―10%を超える経済成長もこのところ停滞気味でチケットの売り上げに影響している。
中国元が米ドルに対して強くなっていることも関係がある。
だが中国の観客は大型画面での大作を楽しんでいる。
これだけ稼いでくれればパーセンテージを克服できスタジオも息がつけると言うもの。

UNI海外担当社長、ダンカン・クラークは「映画評が高い評価を与えていること、劇場の観客の感動の興奮などが、それらの懸念を追い払ってくれる」と。

IMAXのCEOグレッグ・フォスターは「観客は誰でもショックを必要としている。エンジン回転数(レブ・アップ)を上げた娯楽を提供すれば中国はしっかり反応してくれることが分かった」と。

「FFはグローバルなシリーズだ。ファースト・カーに驚くべきスタント。この映画はどんな国の文化にも翻訳され入って行ける。誰でもが愛する国際的な言語なのだ」とコム・スコアのポール・デルガラビディアンは語る。

ポールのコメント通り、海外市場では中国ばかりではなく、メキシコで17.8M、英国で17M,ロシアで114.1M、ドイツで13.6M,ブラジルで12.8Mと軒並み好成績。
大型のプレミアムスクリーンでの興行も好調で31.1Mと歴代4位の世界興行成績だ。

制作費は何と250M(273億円)。
フェラーリやベントレーなど高級車をあれだけボコボコにすれば制作費も天井知らずだ。

ファミリーからポール・ウォーカーが抜けた最初の作品。
寂しさを感じるがファミリーメンバー候補のイーストウッドの息子、スコット・イーストウッドなどの新顔が沢山揃う。


 実にバカげた事件や出来事が最初から続発するが、観客は織り込み済みで楽しむ。
そんな意味で余りにも荒唐無稽なこの作品はシリーズでも一番面白かった。

 このアウトロー連中が大切にしているのはファミリーだが、誰よりもファミリーを大切にしてきたはずのドムことドミニク・トレット(ディーゼル)が皆に背を向けることから物語は波乱を迎える。
ナンバー2のホブス(ジョンソン)やドムと結婚したばかりのレティ(ミシェル・ロドリゲス)、ローマン(タイリース・ギブソン)らはドミニクの真意を探り彼の心をファミリーへ取り戻そうとする。

 冒頭はドムとレティが新婚旅行で訪れたキューバの街。50年代のアメ車が溢れる中、借金のかたに伊達男に車を取られそうになる若者。
彼のオンボロ車でハバナの街を男と勝負。エンジンが不調で最後のストレッチをギヤをバックに入れて勝利する場面は原点帰りでプリミティブだが興奮する。

 キューバから帰ってきた一行に待ち受けていたサイファー(シャーリーズ・セロン)からドムに連絡が入る。サイファーは天才ハッカーでサイバーテロリストとして危険人物。

 連絡を受けた途端ドムはファミリーに背を向け、サイファーの指示に従い始める。

度胆を抜かれる場面は二つ。
NYマンハッタンのカーチェイスでサイファーはあらゆる車をハッキングして自動運転して進路を妨害するばかりか、高層ビルの駐車場から車を雨霰と「降らせる」。自動車爆弾だ。

 タイトルにもなっているIce Breakとはロシアの凍った海の下から原子力潜水艦のことで、ミサイルや魚雷で攻撃する。そして最後は氷を割って浮かび上がりドムたちのコンボイを襲う。
しかしオカシイのは、全速力で走る車同士でドムの指示は無線で無く怒鳴るだけ。どうして命令が伝わるのか?
一番訳が分からないのはドムの裏切り。その動機は直ぐに判明するが、ドムに白人の隠し妻がいてドムの6か月になる息子をサイファーが人質に取ったこと。ファミリーより肉親愛が強いと言うことだが、ちょっと待ってよ、ドムとレティはこの7年間ぴったり一緒になって活躍していた筈で、白人妻なんてワケが分からない。

 もう一つ分からないのが最大の敵だったデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)がファミリーの味方になり手を組んで大脱獄をする。
細かなことを言わずに楽しく見ていれば、こんな派手なアクションは無い。

 悪人で天才的なハッキングやIT技術を持ったサイファーは史上最強の敵だ。
シャーリーズ・セロンはクールな美人科学者に扮する。

 追う刑事からファミリーの一員になり準主役だったポール・ウォーカーが居なくなったのは寂しく感じるシリーズ作品。C・イーストウッドの息子、イケメンのスコット・イーストウッドなど新戦力がファミリーに加わる。

 監督はシリーズ初演出のF・ゲイリー・グレイ。黒人監督で15年の「ストレイト・アウタ・コンプトン」と言うラップ映画を撮って評判を呼んだ。でもアクション映画では無い。他に「ミニミニ大作戦」や「交渉人」などは地味なスリラーだ。

こんな荒唐無稽の派手な作品は、ミュージック・ビデオを得意とするグレイの経歴でも特異で、起用した製作総指揮と脚本のクリス・モーガンの慧眼に拍手を送りたい。

 4月28日[金]よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国公開される。
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live




Latest Images