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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「ハルチカ」(日本映画):小学三年で引っ越してバラバラになったハルとチカは高校入学式で再会し一緒に廃部寸前の吹奏楽団を立て直す。

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公開されて1週間、良い評判しか聞こえてこない。昨日(17日)の12時50分の回の渋東(TOHOシネマズ 渋谷)に駆けつけると席が余り無い。前方が少し空いているだけの9割方満員だ。春休み中のJKに混じっておじさん一人肩身を狭くして見る。

静岡市の何処か、桜並木を走る満員のバス。 
カーブで曲がったところ立っている女の子が座っている男の子にバンとぶつかる。「ごめんなさい」と謝るがまたカーブ、仰ぎ見る男の子を見て「ハルタ?」「チカ」と声を合わせて出す。
二人は小学校3年生の時にハルタが東京へ引っ越してしまうまで幼なじみだったが、高校入学式の日に運命的な再会を果たす。

 「オッキクナッタじゃん,チビのハルタが」と言いながらチカ(橋本環奈)はイケメンのハルタ(佐藤勝利)の頭をポカポカ殴り、飛び蹴りを背中に浴びせる。

入学式の直後、ずっと憧れていた吹奏楽部に入部を心に決めていたチカ。
しかし、吹奏楽部はなんと廃部寸前の危機だった。先輩部員たちは楽譜を捨て楽器を運び出している。何で部が無くなるのか、映画では何も説明しない。
校長が廃部届けを既に受け取っているがチカは諦めない。吹奏楽には最低9人のメンバーが必要だが4月一杯までには集めますと宣言する。

大好きなフルートを諦めきれず(マイフルートを持っているんだよと)、チカはホルン経験者のハルタを巻き込んで部員集めに奔走しビラ配り、個人説得など大童。

新任の音楽教師草壁(小出恵介)、がチカの後押しをして校長に喰ってかかる。草壁は指揮コンクールで二位に入った才能の持ち主で、吹奏楽のために作曲をしている。オリジナルだろうが、何度も繰り返されるこのテーマ曲はメロディアスで素晴らしい。

二年生の部長、片桐(前田航基)と彼女のわかば(二階堂姫留)は集まった部員を纏めようとする。
部員は皆ワケあり。肩を痛めて野球を諦めた宮本(平岡拓馬)、チューバコンテストで入賞した実績を持つが素直でない妙子(上白石萌歌)登校拒否のカイユ(清水尋也)など。

カイユは祖父の死は自分の責任だと介護ホームの老人たちと一緒に引き籠る彼の耳に吹奏楽の「上を向いて歩こう」のメロディが届く。
楽団員の友情にほだされて楽団に戻って来る。
これは使い古された手法。
イギリス映画「ブラス!」や「アンコール」でお馴染みのシーンだ。

部員一同、心を合わせ静岡地区コンクール出場という一つの目標に向かってひたむきに突き進む。
ここで問題が発生。
チカのフルート(ピッコロ)がテンポと音を外す。
草壁先生は冷たく突き放し、30分の休憩を設けるから練習して来いと。

チカを助けるハルを初め団員の友情は暖かい。
頑張るチカの姿を見て、ただの幼なじみだったハルタのチカを想う気持ちに変化が生まれ始める。

コンクール当日、立派な演奏を終わってもそれが入賞したのかスカだったのか結果を映画は知らせない。
ただエンディングで授業中に夫々の教室から楽器を出して大合奏が感動する。

原作は初野晴の人気青春ミステリー小説で、テレビアニメ化もされた「ハルチカ」シリーズを映画化。

主人公は「Sexy Zone」の佐藤勝利が上条春太(ハルタ)役で映画初出演。
美男子で演技も悪く無い。

相手役の穂村千夏(チカ)を「セーラー服と機関銃 卒業」で初主演を飾った橋本環奈。
美形で頭脳明晰なハルタと、気は強いが前向きで天真爛漫のチカ。
佐藤と橋本のコンビの息が合った芝居を監督市井昌秀は上手く引き出している

43歳の市井昌秀は元お笑い芸人、劇団東京乾電池を経て「箱入り息子の恋」や「僕らのご飯は明日で待ってる」など注目される作品を送り出している。
市井式ユニークなスタイリッシュな本と画面は今後も期待できる。

TOHOシネマズ 渋谷他で公開中

「たたら侍」(日本映画):出雲の山奥にある「たたら村」では名刀を生み出す1000年錆びないといわれる鋼の製造が一子相伝で受け継がれてきた

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監督・脚本・原作と一人舞台の錦織良成は島根県出雲市出身。
「守ってあげたい」「白い船」「RAILWAYS」「わさお」「渾身」などの脚本や監督をしているが総て裏日本、島根や鳥取、対馬を舞台にしている。
つまり裏日本を日本国民や世界に知らしめようと創作に励む映画大使だ。

彼の名前を「にしごり」と呼ぶことを知って世界ランキング5位のテニスプレーヤー「錦織」を正しく発音できた。錦織圭も島根県松江市出身だ。島根や鳥取に多い苗字なのだろう。


島根県隠岐諸島の伝統行事・古典大相撲を通して、島とともに生きる家族の姿を描いたヒューマンドラマ「渾身 KON-SHIN」は印象に残っている映画だが、主演した「劇団EXILE」の青柳翔が錦織良成監督と再びコンビを組んだ本格時代劇だ。

EXILE HIROが映画初プロデュースを手がけ、戦国時代の奥出雲の村で伝統の継承を背負った青年が、様々な葛藤を経て真の武士へと成長していく姿を描き出す。

出雲の山奥にある「たたら村」では、天下無双の名刀を生み出す1000年錆びないといわれる幻の鋼の製造が受け継がれてきた。

少年・伍介は村で唯一たたら技術を継承する村下(むらげ)の長男として、秘伝の製鉄技術「たたら吹き」を守る宿命を背負わされていた。しかしある時、村が鋼を狙う山賊たちに襲撃されてしまう。

数年後、立派な青年へと成長した伍介(青柳翔)は、強くなって村を守るため、幼なじみの新平(小林直己)と共に武術の鍛錬に明け暮れていた。

父の弥介(甲本雅裕)は祖父の喜介から村下の座を受け継いだ頃、鋼を求めてやって来て取引を申し入れた金物問屋の総兵衛(笹野高史)から、農民でも侍に成れる時代が来たと伝える。
村を出て侍になり強くなって村を守りたいと旅立つ伍介、見送る祈祷師の三州穂(奈良岡朋子)と許嫁のお國(石井杏奈)。

そんな時に、秘伝の技術に目をつけた近江の国の商人、与平(津川雅彦)が傭兵(菅田俊他)たちを連れてやって来て、村を守ってやると村長(山本圭)に申し入れ、村人の味方を装い製鉄技術を我が物にしようとするのだ。

ややこしいのは映画は伍介に焦点を合わせきれない点だ。
村を守ると称して尼子真之介(AKIRA)が密偵お京(田畑智子)と出没したり、村長の息子、平次郎(豊原功補)や新平が伍介に関係無く単独で動いたりする。

村を出た伍介は蜂須賀軍に加わり、雑兵頭、井上辰之進(早乙女太一)や仙吉(音尾琢真)と親しくなる。

 終盤には与平が傭兵たちを連れて再び現れひと暴れして火筒を発砲する。
一発撃ったら終わりの銃など乱戦では役立たずだ。

騒動が収まったところへ惣兵衛が徳川家家臣(佐野史郎)を連れて村を訪れる。

登場人物が夫々エピソードを伴って現れるから「たたら村」出身の侍、伍介の「たたら侍」には焦点が当たらず映画全体が何を言いたいのかぼやけて来る。
山賊が襲うと怯えていた「たたら村」はどうなったのだ?


共演は「EXILE」「三代目J Soul Brothers」の小林直己、EXILE AKIRA、早乙女太一らの他に、
笹野高史、佐野史郎、中村嘉葎雄、山本圭らベテラン勢が顔を揃える。

監督・脚本・原作の錦織良成は豪華なキャストに美しい裏日本の風景を前に舞い上がってしまい、
展開にあれもこれもと取り入れてトッ散らかった映画にしてしまった。

 主人公が伍介なら彼一本に絞って本を書き直す必要があるのではないか。
錦織良成、一世一代の大作だけにじっくりと整理し筋を通して観客を納得させなければならない。


5月20日よりTOHOシネマズ日本橋他で公開される

「台北ストーリー」(1985年)(青梅竹馬 Taipei Story)(台湾映画):日本とアメリカの文化の波に洗われる台北、廸化街。幼馴染の若いカップルは恋を成就しようと努力する

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アメリカで昨日(19日)までの週末に封切られたウォルトディズニーのエマ・ワトソン主演「Beauty and the Beast」(邦題「美女と野獣」:WD配給4月21日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される)は3日間で4210館にて公開され170M(192億円)と言う3月公開映画としてはとてつもないBO新記録を打ち立てた。

海外市場でも180Mで,この週末デビューBOだけで350M(394億円)を挙げている。この週末に中国で上映が始まるので100億単位の興行成績がうわ積みされるだろう。2月末までは昨年と比べ6%減のBOだったが
3月に入り狼男の「Wolverine」のスピンオフ、ヒュー・ジャックマン主演の「Logan」(邦題「ローガン」:FOX配給で6月1日より2D3Dで公開される)が大ヒット。、

2週目は「Kong: Skull Island」(邦題「キングコング:髑髏島の巨神」:WB配給2D3DImaxで丸の内ピカデリー他で3月25日より公開)が更なる大ヒットを重ね、
そしてこの「Beauty and the Beast」のメガヒットで今年はハリウッド最高の年になるだろうと既にスタジオ関係者は色めきだっている。

しかしよく考えて見ればウォルトディズニーの一人勝ちでれも一重に数千億円を投じて
Pixar, Marvel,そしてLucasfilm をMagic Kingdomに引き入れた結果だ。

昨年は映画観客数1/4超のシェアをディズニーは獲得し、
今年もこの「Beauty and the Beast」に加え、「Guardians of the Galaxy」や「Cars」,そして「Thor」などのヒットシリーズものを続き「マウスハウス」は繁栄をつづる。


 ホウ・シャオシェン監督「悲情城市」が85年、ヴェネチア映画祭でグランプリ(金獅子賞)を受賞し、1980年代半ばは台湾映画界に新しい潮流をもたらした「台湾ニューシネマ」。

 だがシャオシェン監督の盟友、エドワード・ヤン(楊徳昌)監督は長編7本しか残していない。
2007年に6月に癌の合併症で59歳の短い生涯を閉じたからだ。

 今年はヤン監督の没後10年、生誕70周年に当たるのを記念して「牯嶺街少年殺人事件」「台北ストーリー」がマーティン・スコセッシ率いるフィルム・ファウンデーションのワールド・シネマ・プロジェクトにより、4Kによるデジタル修復がホウ・シャオシェンの協力を得て実現した。
この作品は日本では上映されなかったと思う。僕は初めて見る。

 ヤン監督は83年「海辺の一日」でデビューしたがこの映画は、名作「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(91)の前、「恐怖分子」(86)の前年('85)に撮りあげた長篇第2作だ。
盟友ホウ・シャオシェンは既に「風櫃(フンクイ)の少年」「冬冬の夏休み」などを発表していた流行作家だったが、エドワード・ヤンのために自宅を抵当に入れてまで製作費を捻出し、完成へとこぎつけたと言う、友情溢れたいわくつきの作品である。
尚シャオシェンが世界的に名を馳せた「悲情城市」はそれから4年後の89年だ。
 
 主演は(これが俳優として唯一の主演作となる)ホウ・シャオシェンと、
この後エドワード・ヤンと結婚することになる台湾の人気シンガー、ツァイ・チン。
ほか、「光陰的故事」でエドワード・ヤンらと共に監督を務めたクー・イーチェン、「恋恋風塵」「悲情城市」などの脚本でも知られるウー・ニェンチェンなど、自分の親しく信頼できる仲間だけで固める、というエドワード・ヤンの仲良し配役。

「台湾ニューシネマの最も幸せな瞬間」に誕生した奇跡の一本で凄まじい爆発力を孕んだ野心作だ。
 
 そしてこの映画を紡ぎ出す、80年代なかばの大都市、台北がその背後にある。
日本の台北かアメリカの台北か、どっと東西の文化が流れ込んで若者たちは翻弄されながた楽しみ享受する。

 台北市内の大きな空き家のマンションを訪れる若い二人の男女。TVはここ、ステレオはあそこと女の夢は膨らむが男は気の無い返事。

 「内装に金がかかりそうだな」
「私今度昇進しお給料もあがりそうだから大丈夫」

女はアジン(ツァイ・チン)。中堅の不動産デベロッパーで働くキャリアウーマン。
男はアリョン(ホウ・シャンシェン)。
少年時代はリトルリーグのエースとして1968年アメリカでの世界選手権で主戦投手として活躍しワールドチャンピオンに輝いたこともある。

 1982年の現代都市、台北。
日本とアメリカのニュースがリアルタイムで流れている。
カラオケ、ディスコやサッチャー中曽根会談、近鉄広島の日本シリーズ、石原裕次郎のCM,富士フィルムの巨大な電飾看板。
マイケルジャクソン、大リーグ中継、ブルックリンの古いアパートの壁の大きなグラフィティ。

 今は稼業を継ぎ廸化街で布地問屋を営んでいるアリョンとアジンとは幼馴染。過去にはいろいろあったが何となく付き合いが続いている。

 順調に思えたアジンの人生だったが、突然勤めていた会社が買収され解雇されてしまう。
居場所を見失ったアジンは、アリョンの義理の兄を頼ってアメリカに移住し新たな生活を築こうと、アリョンに提案する。

 しかしアリョンにはなかなか踏ん切りがつけられない。ここには少年野球の仲間もいるし家業もある。
一度は決心して資金を作るため家も売るが、昔気質のアジンの父親が事業に失敗するとその肩代わりに借金をするなで支援に奔走することになる。

 すきま風が吹き始める二人の間にあるアジンの過去の出来事(男関係)が重なり新天地アメリカでの再出発の夢は潰える。そして思いも寄らない結末が訪れる。

 いじけた小男アリョン役のホウ・シャオシェンの上手いこと。この時38歳だが20代の鬱屈した青年を大きな近視眼鏡をかけて熱演する。
アジン役のツァイ・チンは27歳、男を操縦する活発な現代美人だが、最後にアリョンを手放さざるを得ない。

 その積りが無いのにナイフで下腹部を刺されるエンディングは「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」と酷似している。

 台北の日本、台北のアメリカ。
バッハ無伴奏チェロ組曲で始まり、ベートーベンのチェロソナタなどが挿入されるが、
圧倒されるのは日本の歌謡曲とアメリカのロックンロール。
日本の女性誌やキャラクター、ゲームが溢れる台北、廸化街。

 5月6日より渋谷ユーロスペースにて公開される

「夜明け告げるルーのうた」(日本映画):離婚した父と祖父と3人で小さな漁村に住む中学生のカイはいつも気鬱だが、ある日出会った人魚ルーの歌と踊りで心が開かれ行く

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この世代のSF作家と言おうか、いやむしろ警察小説作家と言うのだろう。
宮様の親戚みたいな名前、高殿円の「メサイア 警備局特別公安五係」(講談社:2016年5月刊)は日本の警視庁にもキラー・エリートを選りすぐって対象者を抹殺しても構わない、MI6の殺しの番号を持った五係が登場する。

B級エンターテインメントだが、今の日本の自衛隊や警察が出来ない日本人としてのウサを晴らしてくれる。
例えば主人公海棠鋭利とメサイアと呼ばれる相棒の御津見珀と二人で日本領海を侵犯し尖閣諸島へ向かう中国の漁船100隻を台湾の「海賊」に化けてエンジン室をロケット砲が破壊し投げ出された船員たちを銃で皆殺しにする。
海上自衛隊も海上保安庁も手を出せない腕を拱いて見守るだけの傍若無人の蛮行を一日で消滅させたりする。

舞台は皇歴117年と言うのが分からない。皇歴というのは皇国日本の暦のことだから神武天皇即位紀元または神武紀元は、「日本書紀」の記述をもとに設定された日本の紀年法である。古事記や日本書紀で日本の初代天皇とされる神武天皇は、日本書紀によれば紀元前660年1月1日 (旧暦)に即位したとされ、この即位年を明治に入り神武天皇即位紀元の元年となった。

その伝から言えば今年(2017年)は紀元2677年の筈、未来の日本の公安の物語だから紀元ではなく「皇歴」はどういう勘定になるのかね。
皇歴117年は、世界から軍隊が消えて10年。戦争は武力闘争から諜報戦に姿を変えている。北のロシア共同体と西のアメリカ・ユニオンの二大勢力の対立は深まるばかり。

世界的な「軍縮」の取り決めで自衛隊は解体し警察組織の中に吸収されている。
だから警察特に公安の力は増している。
戸籍を奪われ死者と同じ扱いを受けながら最前線の戦いを強いられる者たちが、日本にはいた。対スパイ殺人権を持つ特公五係、通称「サクラ」と呼ばれる精鋭集団。

両親を惨殺され一人生き残った主人公の海棠鋭利と幼いころ兄と生き別れた御津見珀は戸籍を剥奪されたスパイ集団、特別公安五係、通称「サクラ」に候補生としてスカウトされる。桜のように潔く散る、それが彼らの流儀だ。
海棠鋭利は、唯一無二の相棒(メサイアと呼ばれる)御津見珀と共に総理大臣の息子、牛尾由也の護衛を命じられる。それはサクラになるための卒業試験であり、同時に国を守る特務でもあった。
高殿円 は 1976年、兵庫県に生まれる、40歳。2000年、第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。以降ファンタジーを中心に50作以上のSF小説を送り出す。未だこれと言った賞は獲得していない。

知らなかったが映画化され2011年公開されている。
月刊ASUKA5月号(2011年3月24日発売)から連載がスタートしたメサイアプロジェクト原作・高殿円ストーリー原案による日吉丸晃の同名漫画を実写映画化したもので、監督は、「DEATH NOTE」2部作の金子修介。
オカシイのは「メサイア」刊行記念に初版限定書下ろし短編、「サクラノモリ」が巻末に折り畳んで貼り付けてあること。
僅か12Pの短さでは事件も起こらない。


紹介するアニメは少し変わっている。
歌が大好きな人魚が主人公なのだ。「夜明け告げるルーのうた」


寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイ(下田翔大)は、父親(篠原信一)と日傘職人の祖父(柄本明)との3人で暮らしている。
もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。
父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。

唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。ある日、クラスメイトの国男(斉藤壮馬)と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。

しぶしぶ練習場所である港の中程にポツンと立つ人魚島に行くと、人魚の少女・ルー(声:谷花音)が3人の前に現れた。
大きな丸い目の可愛い幼女だ。確かに脚は無い。
大きな声で楽しそうに歌い,ピョンピョン踊る、ルー。

気鬱のカイもそんなルーと毎日過ごすことで心が開かれて来る。

しかし日無町の住人は人魚は災いを齎す者と信じられている。
そしてチョッとした事でルーと町の人たちの間に大きな溝が生まれ、そして町を脅かす大きな危機が訪れる。カイはルーと町を救うことが出来るだろうか?

ルーが面白いのは歌いだすと足が生えて踊れることだ。弱点は海に住んでいるので、陸に上がることは出来るが陽に当たると燃えてしまう。ドラキュラみたいだ。噛んだ生き物を人魚に変えるのはドラキュラと大違い。
カイに仄かな恋心を抱き「スキ」だと思う。

一方カイも周囲の仲間を避け一人ぽっちで心を閉ざしていたが、陽気なルーに出会い気持ちが和らいで行く。勿論ルーのことは「スキ」だ。

物語はルーとカイの意識しないロマンスの行方も探る。

主題歌に使われている斉藤和義の「歌うたいのバラッド」が良い。
20年前のアルバムの曲だが、「本当のことは歌の中にある。いつもなら照れくさくて言えないことも」と主人公たちを代弁している。

キャラクター原案は「午前3時の無法地帯」の漫画家・ねむようこ、親しみやすい優しい絵は一目で好きになる。

監督は「四畳半神話大系」「ピンポン THE ANIMATION」「マインド・ゲーム」「ケモノヅメ」などの湯浅政明監督。

長編アニメのデビュー作「マインド・ゲーム」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞を授与された湯浅監督のファンは多い。

この「夜明け告げるルーのうた」は湯浅監督初めての完全オリジナル作品で彼の真価を問う作品だけに力が入っている。

5月19日(金)よりTOHOシネマズ日本橋他で全国公開される

「BIOHAZARD VENDETTA」(日本映画):バイオテロリスト、アリアスを追う元ラクーン市警の特殊部隊「S.T.A.R.S.」の同僚、クリス、レオンそしてレベッカ。

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昨年暮れ12月23日に日本で世界最速で公開された「バイオハザード:ザ・ファイナル」はアメリカでは余りヒットしなかったが、日本はゲーム発祥の地と言うことで長く首位の座を維持した。
ワールドワイド総計は先週末で307.2M(347億円)も稼いでようやく終焉を迎えようとしている。

実写のミラ・ジョヴォヴィッチに代わってバイオハザードのフルCG長編アニメ版が今日紹介する作品だ。

しかし驚くね、先週末の日本でのチャート、トップ10のうち7本がアニメ作品。新作5作品がランクインする激戦の週末だった。
新作5本のうち4本、トップ10中7本がアニメーション作品。
そちて新登場でトップは「ミニオンズ」「ペット」など大ヒットアニメを手掛けてきたイルミネーション・スタジオの最新作「SING/シング」が興収5億5千万円をあげ、堂々の首位を飾った。

今やアニメ作品でなければヒットはしないのではないかとさえ思われる。

このバイオハザードフルCG長編アニメーション映画はこれで3作目だと初めて知った。
2008年に「BIOHAZARD DEGENERATION」
2012年に「BIOHAZARD DAMNATION」
そして2017年に「BIOHAZARD VENDETTA」とほぼ5年毎に送り出している。
VENDETTAとはイタリア語で血の復讐と言う意味だ。


対バイオテロ組織「BSAA」(Bioterrorism Security Assessment Alliance)のクリス・レッドフィールドは、確かな情報を受けて、メキシコにある武器密売組織の拠点と思われる謎の洋館へ突入する。

 しかし誰もいない空き家だと思い探索の最中、クリスは国際指名手配中のグレン・アリアスと対峙するも、信じがたい光景を目の当たりにし、結果アリアスを逃してしまう。

アリアスこそは元軍人で今は武器商人。
実業家で飲料水の製造など幅広い製品のメーカー「アクア社」の設立者でもあった。
頭が切れるタフなバイオテロリストとして当たるを幸いなぎ倒す戦闘能力を持つ強敵だ。

 舞台は殆ど外国で、NYが中心なのでセリフは総て英語なのに驚く。
日本語の字幕が出るので日本映画の雰囲気ではない。

 元ラクーン市警の特殊部隊「S.T.A.R.S.」の一員だったレベッカ・チェンバースは、現在は大学教授として、「死者が甦り、凶暴化する」という不可解な事件の調査と研究に携わっていた。
事件を深耕している内に原因は「新型ウィルス」が関係していることを突き止めたレベッカは、「ウィルス治療薬」の開発に成功する。

 未だ十分に治験ができていない時に、研究所が何者かに襲撃され、レベッカは拉致され監禁されて死の危険にさらされてしまう。

 協力を求めて、新型ウィルスが関わる事件を最もよく知る人物、アメリカ大統領直轄のエージェント組織「DSO」(Division of Security Operation)所属のレオン・S・ケネディに会うクリス。

 主要人物3人、クリスもレベッカもレオンも元ラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.に所属していた元同僚なのだ。

 再会を果たした二人は、アリアスの真の目的が「バイオテロ」だと確信し、陰謀を阻止しようと、彼を追いニューヨークへと向かう。

 動きはモーションキャプチャーでCGに取り込むが、容姿や体型はアニメだけにどうにでもなる。
クリスもレオンもイーサン・ホークかキアヌ・リーブスの面影があるイケメンだが、
レベッカが美人だが何か薄っぺらな気がする。迫真感がなく人形のようだ。
ちょっとガッカリ。

 歴代ゲームに登場した人気キャラクター達や、不気味なゾンビの大群に加え映画オリジナルの巨大モンスターなど新キャラクター達がクリスやレオンに襲い掛かり、何でもありのバトルを繰り広げる。

 エクゼクティブ・プロデューサーに「呪怨」でハリウッドにJ-ホラーの旋風を巻き起こした清水崇。

 監督は低予算で質の高いCGアニメを次々と送り出し「The Next Generationパトレイバー」シリーズなどの辻本貴則。
 
 フルCGアニメ制作では今業界で注目を集める「マーザ・アニメーションプラネット」。旧「セガサミービジュアルエンタテインメント」で「最高の物語を、世界中のこどもたちへ」と世界へ乗り出そう制作に励んでいる。
その経営方針に従って世界的大ヒットのサバイバルホラーゲームの「バイオハザード」シリーズをハイクオリティCG技術で描く。

 5月27日より新宿ピカデリー他で公開される。

「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけど」(雖然媽媽説我不可以嫁去日本)(日本・台湾映画):台北に住むママは日本人と付き合うことを絶対に許さない。特に東京へお嫁に行くとは飛んでもないと怒り狂う。

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 これは楽しい愉快な映画だ。実話だけに迫力があるし、台北のママが東京へお嫁に行ってしまいそうな娘への愛情がヒシヒシと伝わり涙が零れる。

そもそものスタートは日本人の彼氏を持つ、とある台湾人の女の子が作っFacebookページ「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど(雖然媽媽說我不可以嫁去日本)」が、20万いいね!を突破したことから始まる。

茂木さん(日本人の彼氏)との何気ない日常を写した写真がアツアツ、ページが立ち上がってから2年間の顛末が単行本(新潮社刊)として発刊されたのプロデューサーの目にとまり映画化された。
主人公、リン・イーハン(ジエン・マンシュー)は台湾の大学で日本語を学ぶ23歳。茂木洋路(中野裕太)は車の設計士として働く29歳。

日本を襲った東日本大震災で世界中を震撼としているさなか、日本のドラマやアニメが大好きで、大学でも日本語を専攻する台北の女子大生・リン・イ―ハンがFacebookに「日本頑張れ!」(日本活力)とエールを載せたところ1通のメッセージが届く。

それは、復興支援をしてくれた台湾の人に興味を抱いた日本人の青年、モギ(茂木)からだった。「あなたは台湾の方ですか?」

相手が男か女か分からない。
年齢も職業もだ。
手探りで相手に質問し互いに写真をとり交わして好感が持てそうな人物だと認識して第一関門が突破されれば後は興味津々で男女の仲は進行する。

フェイスブックでの遣り取りはアバターのアイコンの後、文字で画面に表示される。だから画面的には間が持たず歌や楽曲がバックを補う。

2人はFacebook上で互いの国のことや日常を話しはじめて気持ちが傾いて来る。
モギは同僚の2人(大谷圭水&岡本孝)とタイへ行く予定を強引に台湾に決め、休暇を利用してリンに会うため安い切符(HIS)で台北へ向かう。

 初めて顔を合わせた2人は互いに一目惚れ、一ぺんに距離を縮め、茂木が帰国してからは毎日、他愛もない会話がオンラインデートになり、ついに互いの気持ちが海を越える。

 リン・イ-ハンを演じるジェン・マンシュ―(簡嫚書)が親しみ易い美人だったことが映画が成功した要因の一つだ。
実年齢も役と同様27歳、アグネス・チャンをふっくらさせてもっと美人にしたような容姿は日本人好みの可愛い子ちゃんだ。

 茂木洋路を演じる中野裕太は「新宿スワン2」で横浜のチンピラ役で顔を出す程度の役者だが主役級の役柄を貰って、屈託を抱え世の中の憂鬱を総て抱え込む陰気なキャラを熱演している。

 Facebookやラインで台北と東京は直ぐ傍にリアルタイムで存在する。
映画はこの特徴を活かしている。

 特にリンの元カレが誕生日に台中から遥々ケーキと大きなシロクマを抱えてやって来て、
リンのママ(ワン・サイファー)が無理矢理泊めてしまったことで、イジイジと悩むのが、
二人の間の波風を立てることになる。

 このママがタイトルになっているように、絶対に日本人と付き合うことを許さない。特にお嫁に行くとは飛んでもないと。
元カレを振ってしまったリンに怒り、誕生日祝いをもってやって来た元カレとヨリを戻させるためには絶好のチャンス。
顔を見たくないとベッドに寝ているリンを引っ張り出して強引にバースデイパーティを開く。

 リンは嘘をつくのは大嫌い。元カレの訪問と泊まっていったことや、
プレゼントの大きなシロクマの縫いぐるみ(写真を添付して)フェイスブックに載せる。
不機嫌になったモギはリンの問いかけに無言を続けている。

 ママは三度の飯より麻雀好き。
勝つまで夜も昼も無く皆を返さないので相手の医者や巡査は大迷惑だがそんな泣き言には耳を貸さない。麻雀とリンがママの生き甲斐なのだ。

 だから仮病を使って「余命幾ばくも無い」と麻雀相手の医師に言わせて
リンを日本から呼び寄せた最後の最後、娘がそれ程までにモギを愛していることを悟り、
結婚を許すシーンは涙涙で盛り上がる。

 演じる小太りのワン・サイファーにジコチュー演技は周囲を振り回す。48歳のワンは台湾では有名な歌手でTVではヴァラエティ番組の常連だと言う。
TVドラマ「拝啓、民泊様」などを手がけた韓国在住の若い36歳谷内田彰久が監督。恐らく長編劇場用映画は初監督ではないだろうか。それにしてはしっかりした演出をしている。

初夏新宿シネマカリテにて公開される。

「パージ:大統領令」 (THE PURGE: ELECTION YEAR) (アメリカ映画):昨年の大統領選挙、ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンのキャンペーンを下敷きにしたアンチ・トランプ映画

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2013年から始まった「パージ(PURGE)」シリーズ。PURGEとは(敵や望ましくない人物の)追放、粛清、処分の意。

経済が崩壊した後のアメリカでは、NFFA(the New Founding Fathers of America=「新しいアメリカ建国の父たち」)を名乗る集団が政権を握り全体主義的な統治を行っていた。
NFFAは1年に1回、殺人を含むすべての犯罪が合法化される夜(パージ)を設けた。それは夜7時から翌朝7時までの12時間続く。
この間、すべての警察、消防署、医療サービスが停止される。

大ヒットした「ハンガーゲーム」シリーズも日本映画の「バトル・ロワイアル」など皆殺しの映画は多数あり、殺し合いは人間の本能なのかもしれない。

しかし「パージ」単なる殺し合いでは無い。金看板の大義名分がある。

パージの導入によって、犯罪率と失業率は1%にまで低下し、経済状況も改善した。
市民はパージにより経済の破綻を防ぎ社会の安定をもたらしてくれる年間行事だと思っていたが、実際はNFFA(父たち)が大衆を圧制し支配する政策であった。
パージの夜に犯罪の標的となるのは富裕層ではなく、貧困層などの弱者を中心に狙い撃ちをするのだった。

13年の「パージ」第1弾の主演はイーサ・ホークだった。サンフランシスコ近郊の富裕層の居住区に住むサンディン家は、パージの前に逃げ込んできた男を匿ったために、犯罪者たちと戦うことになってしまった

14年の第2弾「パージ:アナーキー」はロスアンゼルス。主演はマイケル・K・ウィリアムズとフランク・グリロ。反パージ集団は人々に抵抗を呼びかけている。警察官のレオは、飲酒運転で息子の命を奪ったウォーレン・グラスへの復讐を胸に誓い、重武装して町へ出る。

そして16年、シリーズの第3弾。
舞台はワシントンDCに移る。

昨年の大統領選挙の前に全国公開されたこの作品は、ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンのキャンペーンを下敷きにしたアンチ・トランプ映画だと直ぐに気付く。

残念ながら選挙結果はトランプの地滑り的勝利になりクリントンは200万票の差でリードしたが、投票人制度いう日本人には理解できない間接選挙で大統領の座を獲得し、トランプはNFFA的な「アメリカ・ファースト」を打ち出しているのは周知のとおりだ。

映画の冒頭はパージの前日、DCの下町でデリ(コンビニ)を経営するジョー(ミケルティ・ウィリアムソン)にパージ保険が今日から値上げだと一方的な通告がある。パージで受ける損害を補償する保険だが掛け金が数千ドルも上がると聞いて小さなデリでは無理だ。

そんな時にチョコバーを万引きするJK二人組を見つけ品物を返すか代金を支払へと言うジョーにセクハラ親父と逆に食ってかかる生意気なJK。

そこへスリムな黒人女性が仲裁に入る。
JKたちは知っている。
昔ヤンキーで暴れまわったレイニー(ベティ・ガブリエル)だ。火をつけたら恐ろしい。
それでも捨て台詞を吐いて店を出ていく。

 ジョーはシャッターを閉め屋上で狙撃銃を据え店を守る構えた。
レイニーは仲間たちと大型バンに乗り街をパトロール。

 一方大統領候補に名乗りを上げたNFFAのオーエンズ牧師(カイル・セコー)は強力にパージ法を支援し実行しようとするが、
反パージを掲げる女性上院議員、チャーリー・ローン(エリザベス・ミッチェル)が良識ある市民たちの支持を受け頭角を現す。

ローン上院議員は18年前パージで一家全員を惨殺されていた。
国内は賛成派と反対派に分断される。

パージをめぐる大統領選の最中、全ての犯罪が合法となる一夜が幕を開ける。警察も病院も機能しないパージの夜、NFFAから暗殺の標的となったローンと彼女を護衛するSPのレオ(フランク・グリロ)は、悪夢の12時間を生き延びるため頑丈にセキュリティを施したローンの自宅に籠る。
レオは前作の「パージ2」でLA市警(PD)刑事から転職していた。

 チャーリー・ローン上院議員役、ミッチェルのメイクと容姿がいけない。
大きな眼鏡をかければインテリに見えると思ったのだろうか、まるで似合わない上に、
眼鏡の下が色っぽいので高級娼婦に見える。ミスキャストだ。

そこへ行くとレオは引き続いての主演で落ち着いたもの。ロイ・シャイダーのようなクールでタフな魅力をたたえている。

ローンの自宅も白人至上主義のNFFA特殊部隊に襲われ命からがら邸宅の秘密通路を抜け出し、
レイニーの大型バンに拾われる。

オーエンズ牧師率いる極右政権NFFAの送り出す特殊部隊は鍵十字(ハーケンクロイツ)のエンブレムをつけて強面。
 スラム街を襲い、ホームレスや貧乏人を殺戮すれば富裕層が支援の必要が無くなるし、その上犯罪抑制の手段となると信じて疑わないオーエンズ。

「パージ」こそがアメリカを世界の強国にしている「アメリカ・ファースト」と確信していたが、
貧困層や弱者を守り支援してこそアメリカは偉大な国になると訴える無所属のローン上院議員らの反対主張も強い抵抗力を示す。

だが、映画を見る限りローン上院議員には仲間の政治家は見当たらない。
それに上院議員と言うのは殆ど終身務めるので、爺さんや婆さんばかりで30台のピチピチした若い女性上院議員など存在しない。
何てお粗末な本だろう。

調子に乗った殺戮集団が街で略奪し通行人を捕まえ街路樹に吊るすなど暴れ回る。
ニクソンやリンカーンのお面を被り大型拳銃や軽機関銃をぶっ放し、大音響の自動車をLED電灯で飾り立て街を練り歩く。

 特に冒頭にチョコバーを万引きした女子高生。
しつこくジョーのデリへやって来て、チョコバーを「どうしても食いたい」と店のシャッターを電動のこぎりで壊し始める。
レイニーは上院議員共々駆けつけJKたちを皆殺しにするが、オーエンズ率いる特殊部隊はドローンで索敵し攻撃ヘリで大型バンを追う。
 GPSでも無いのにどうして複雑な迷路を正確に追跡できるのか?
逃走中に被弾したレオは気付く。肩から入って肋骨で止まっていた銃弾が電波を発し追跡が出来る。
麻酔無しにナイフで抉り弾を取り出すレオ。そしてその弾を公園の隅に置く。押し寄せるNFFAの武装軍団。痛快なシーンだ。

 ここからが波乱万丈、窮地に陥った上院議員やレイニー、レオたちを救うのはビショップやエンジェルを首領とする「元ギャングの黒人集団」だ。

ジョーの友人たち元黒人ギャング団は特殊部隊をせん滅した後、返す刀でオーエンズ牧師が主催するNFFAのミサが行われている教会に忍び込む。

 カルト集団のような罪人とされ椅子に雁字搦めに縛り付けられた男女をナイフで処理する。
一人はいつの間にか拉致されたローン上院議員だ。

 「パージ」シリーズの前2作同様に
「パラノーマル・アクティビティ」「インシディアス」などのジェイソン・ブラムと
「トランスフォーマー」のマイケル・ベイがプロデューサーを務め、
ジェームズ・デモナコが監督を務め脚本を書いた。3作も書くとデモナコはパージの齎す恐怖の本質が理解して説得力を増している。

 ジェイソン・ブラムは低予算でヒットホラームービーを作り出す名手。
このシリーズも3-4億円の超ミニバジェットで300億円ほどの水揚げがワールドワイドで挙げている。

 主演は「キャプテン・アメリカ」シリーズで知られるフランク・グリロが、前作「パージ:アナーキー」に続けてレオ役で活躍をする。

 大統領候補オーエンズ牧師役のカイル・セコーはトランプをスリムにした感じだが、雰囲気や断定的な喋り方はトランプだ。

シリーズ3作の中で大統領選に絡めていたので一番出来が良く面白かった。

4月14日よりTOHOシネマズ日劇他で全国公開される

「LOGAN ローガン」(LOGAN)(アメリカ映画):18年間に1本の作品を送り出した「X-メン」シリーズの掉尾を飾るに相応しい秀作

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昨夜(24日)TOHOシネマズ六本木ヒルズ・スクリーン2の試写会で観賞。「X-Men」シリーズで10本目の作品で、「Wolverine」のみならず「X-Men」シリーズも恐らく最後の映画になるだろう。
映画の中で他のミュータントは皆死んでしまいローガンが最後の生き残りだと言うセリフがあるが、そんな感傷とは別に今までで一番感動した。
スーパーヒーローものではなく「Wolverine」こと人間「ローガン」のヒューマン・ドラマだからだ。

アメリカでは3月3日より上映がはじまりいきなり首位。ヒュー・ジャックマン主演で初めてR-レイト作品。次々と現れるスーパーヒーローものの作品群で差別化をするためにこの作品は敢えて「Rレイト」指定にしたと言う。

制作費は97M(110億円)。
この20日まででワールドワイドで550億円を突破し興行成績は積み上げている最中だから何処まで行くだろうか。
日本では6月を待たねば公開されないが、マーブルコミックものは日本では期待できない。

ヒュー・ジャックマンが演じるウルヴァリン/ローガンを主役に描く「ウルヴァリン」シリーズの第3作。この作品でジャックマンは17年間のウルヴァリンを終える。

舞台は2029年メキシコとの国境近くリオグランデを望むテキサス州エルパソの郊外にある駐車場。オンボロ大型リムジンから雇われ運転手でカツカツの生活をしているローガン(ジャックマン)が扉を開けて降りて来る。
5-6人の地元のチンピラたちがタイヤを外して盗もうとしている。やめさせようと注意するとナイフで切りつけ銃を向けてくる。

簡単に鍵爪を出してやっつけると思いきやナイフで刻まれ銃弾を数発浴びる。死にはしないが昔なら弾を撥ね付けていた。やっとの思いで不良どもを退治し、帰宅して洗面所で気張るとコロンコロンと胸から銃弾が落ちる。

鏡に映るローガンの顔。もじゃもじゃの揉み上げは顎鬚に繋がり、シミだらけで不健康な肌が髯の下に連なる。スーパーヒーローは確実に衰えている。

ローガンは国境近くの廃工場の倉庫に匿われているプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア(パトリック・スチュアート)を訪ねる。
脳溢血で倒れて以来意識もおぼろげで車椅子から離れられない。
コントロールできず発作でテレパシー能力を発すると周りの人々は固まってしまう。
チャールズの看護は陽に当たることが出来ないミュータントのキャリバン(スティーブン・マーチャント)が付き添っていた。

不死身の治癒能力が失われつつあり、生身の人間ローガンに戻ろうとしているウルヴァリンも、あれほど権威主義者だった学園長のプロフェッサーXも年齢には勝てない。ミュータントの世は終わったのだと認識し始める。

そこへメキシコ人看護婦のガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)が11歳の女の子、ローラ(ダフネ・キーン)を連れて来る。「あんたの子だよ、ノースダコタへ連れてい行っておくれ」と。カナダ国境近くのノースダコタ北部に「EDEN」と言うミュータントの子供たちが集まるユートピアがあると言う。

エルパソから2日半もかかる遠距離だし、疲れ切って運転も出来ない。ましてEDENなんて所がある訳は無いとコミックブックを見るとキルディア山脈をバックに崖の上の建つ大きな建物が描かれている。マンガの上だけだろうと思うが一緒に連れて行くチャールズの頼みもあり、3人の旅は始まる。南部から中西部そして国境近くの北部へとロードムービーはスリル満点で迫力がある。

ローラは一言も喋らないが悪戯盛り、店に入れば平気で万引きするしエレベーターに乗ればボタンを全部押す。
疲れ果てたローガンを眠らせて、代わって11歳のローラが大平原・荒野の一本道を盗んだピックアップトラックを猛スピードで走らせる。

子どもたちを使ってミュータントの実験を行っているトランシジェン研究所から看護婦に連れられてローラは逃げ出して来たのだ。
遺伝子学者Drライス(リチャード・E・グラント)は研究所からローラを追い連れ戻すように冷酷なピアース(ボイド・ホルブルック)に命令し、武装集団を送り出している。

死を目の前に控えるプロフェッサーXと絶滅危機のミュータント唯一の希望となるローラは「生」と「死」の好対照だ。
ローラと一緒にTVで「シェーン」を見ながらチャールズはアラン・ラッドのセリフを引用してローラに諭す。
「人を殺した者は烙印を押され平和な谷に住むことは出来ない」と。最後まで人間とミュータントの共存共栄を望んでいる。

ミュータントの火を絶やさぬためローラを守るローガンはノースダコタの森林で展開される命をかけた壮絶な最後の戦いに挑む。
子どもたちの能力は完成間近だが充分に機能しないのがもどかしい。

ネタバレになるがローガンが埋葬された土森に立っている十字架を横に寝かせるローラ。
十字架は「X」になる、洒落たシーンを創造するマンゴールド監督だ。

 2000年にブライアン・シンガー監督の「X-メン」から始まって18年間に10本のシリーズ作品を送り出した。49歳になるヒュー・ジャックマンはチョイ見せも含めオーストラリアンの律義さで殆ど付き合った。ご苦労さまだ。
74歳のパトリック・スチュアートもジャックマン同様長い道のりを付き合って来た。

この映画でデビューを飾るキュートな11歳のローラ役のダフネ・キーンに(続編があれば)後を託する。

総てのマーベルコミックはウォルトディズニーに移行したが唯一FOXに残った原作も絶滅すると思うとFOXファンの僕にはこみあげて来るものがある。

監督はシリーズ前作「ウルヴァリン:SAMURAI」も手がけたジームズ・マンゴールド。「17歳のカルテ」(99)や「ウォーク・ザ・ライン」(05)で出演女優達にオスカーを齎し、ミステリーからアクション、ウェスタン、コメディと何でもござれのヒットメーカーの名匠になって来た。
「X-メン」シリーズの掉尾を飾るに相応しい秀作だ。

6月1日より2D3DでTOHOシネマズ日劇他で全国公開される。

「破裏拳ポリマー」(日本映画): 「仮面ライダー」のスピンオフ、「パワーレンジャー」がアメリカ市場で大ヒットの波及効果で、同じコンテクストのこの作品も大きな波に乗れると良いのだが

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一昨日の3月24日より新登場したアメリカ版「「Power Rangers」は2週連続首位の「美女と野獣」に果敢な挑戦をしている。結果は明日まで待たなければならないが首位は無理にしても、同時に新登場のSonyの宇宙ホラースリラー「Life」とWarner Bros.の70年後半-80年代の前半のTV人気番組「白バイ野郎ジョン&パンチ」の 「CHIPs」に伍して健闘している。

日本と同じく、特別な力を与えられた若者たちが変身し、悪の軍団と戦うというもの。
アメリカで1993年のTVシリーズ開始から約20年の歴史を持つ「パワレン」(24シーズンを迎えて放映続行中)は著作権を所有するサバン・エンターテインメント/インターナショナが配給、日本の東映とライオンズゲートの共同制作。

総製作費120億円と日本で作るより100倍の予算だ。ハリウッドで培われたVFX技術とCGアクションの経験が、日本のスーパーヒーローに注力されアメリカ版「Power Rangers」(邦題「パワーレンジャー」:東映配給:7月15日より丸の内東映他で公開される)が誕生している。

監督はディーン・イスラエルズ、脚本は「Xメン ファースト・ジェネレーション」のアシュリー・ミラーとザック・スタンツ。
主演の5人にデイカー・モンゴメリー、ナオミ・スコット、RJ・サイラー、ベッキー・G、ルディ・リン、ビル・ヘイダー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」)ブライアン・クランストン(「GODZILLA」「トータル・リコール」)、エリザベス・バンクス(「スパイダーマン」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ)。若者たちは無名だが脇はベテランで固めている。

遡ること時は紀元前。古代の地球で世界の運命を決する、大きな闘いが終焉を迎えていた。ある5人の戦士たちによって守られた地球。そこにはやがて新しい命が芽生え、物語は現代に還ってくる。

小さな町、エンジェル・グローブに、普通に暮らす5人の若者がいた。ありふれた日々を過ごす彼ら。しかし、運命に導かれるように出会い、やがて訪れる脅威に立ち向かう「新たな力」を手にする。
その力は、なぜ彼らに与えられたのか?


「仮面ライダー」が生まれて半世紀弱経つがこのアメリカ版「パワーレンジャー」のように、コピーと言うか亜流は未だ手を変え、品を変えて生まれている。

今日紹介するこの「破裏拳ポリマー」も変身すると体全体がアーマーで覆われ強い男が更に力を発揮する。「破裏拳」と漢字で書かれていると分からないが声に出してみると「ハリケーン」とアメリカの暴風雨を読み込んだカンフーテクニックをLA在住で前述TV版「Power Rangers」のアクション監督を務める坂本浩一が演出する。

タツノコプロの55周年記念作品だが、ハリウッド映画「Power Rangers」の日本公開が7月15日だから2か月前にアクション市場を席捲して花道を作ってやることが出来る。両作品に関係する坂本監督は嬉しい悲鳴だろう。

「破裏拳ポリマー」は43年1974年にタツノコプロがアニメで制作した同名の映画を本格アクション映画としてライブアクションにして活性化したもの。

映画の冒頭はLAのスラム街の地下の納屋。
賭け格闘技で連戦連勝の日本人青年、鎧武士(よろいたけし)(溝端淳平)。ジャッキー・チェンのように小柄ながら筋肉モリモリマンで倍以上もどでかい黒人やメキシカンの荒くれ者をカンフー技で倒して行く。

話は変わって、日本の警視庁と防衛庁。
特殊装甲スーツ「ポリマースーツ」を開発しているが、強い武芸者がスーツを身に着けると攻撃力が最強最大になってしまうことが危惧され、開発を中止してしまった。

核兵器の拡散防止で核兵器廃棄をするようなものだ。
そんなことは開発前から分かっていることじゃないか?何のために開発したのか?こういういい加減な前提は腹が立つ。

物語りはそこから始まる。
警視庁はポリマースーツの開発を再開するが、テスト版のスーツ3着の内2着が何者かに盗まれ、そして犯罪に悪用されてしまう。

実際、凶悪ギャング団「バルクール強盗団」がスーツを着用したポリマーレッグカスタムを引き連れ、白昼堂々銀行や宝飾店に乗り込み人を殺しまくって金品を奪っている。

スーツ奪還のため、手元に残る完全版ポリマースーツの使用を決めるが、スーツ着用するのは最強の者でなければならない。

警視庁の刑事部長、土岐田垣(長谷川初穂)が選んだのは最強拳法・破裏拳流の奥義を身につけた放浪のストリートファイターで今は帰国して探偵をしている鎧武士だった。

刑事部に警視庁科研から派遣されている美貌のリケ女、稗田玲(原幹恵)は
ポリマー研究者で、ポリマーの起動に必要となるのが、
鎧の声によるダイアローグコードだった。

そして鎧が唱えるのが「この世に悪のある限り、 正義の怒りが俺を呼ぶ!」

鎧に惚れて押しかけ探偵助手に南波テル(柳ゆり菜)。
原も柳もいろどりを添えるだけだと思っていたら稗田玲は飛んだ食わせものだと後で分かるが、
これも納得性が乏しい。

納得するのはリケ女の割に胸が大きく剥き出しでそそることだ。
案の定、刑事部の同僚で鎧に力を貸す来間譲一(山田裕貴)はメロメロだ。

しかし來間は真面目で臆病で凶悪犯に銃の引き金も引けないなんて刑事が居るかね?

スター俳優が誰も居ないのが淋しい。
主人公・鎧武士役の溝端淳平は「スワンシリーズ」で横浜の悪の端役で見ただけだ。
見事な筋肉マンやカンフーアクションはCGの助けを借りて披露する。

56歳の坂本浩一監督は前述のようにアメリカでスタントマンやアクション監督として「パワーレンジャー」など数多くの作品に参加し、帰国して日本で監督作として「仮面ライダーエグゼイド」「ウルトラマンX」などを手がけてきた。
アメリカ市場で「パワーレンジャー」の大ヒットの波及効果でこの映画も大きな波に乗れると良いのだが。

5月13日より新宿バルト9他で公開される。

「Don’t Blinkロバート・フランクの写した時代」(Don’t Blink)(アメリカ映画):幼い頃にスイスから移住し、アメリカを独特の視点で描写する90歳の天才写真家、ロバート・フランク

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この週末のアメリカでの興行成績が出た。エマ・ワトソンのベル、ダン・スティブンスの野獣を演じるこの映画、4210館で上映され僅か49%ダウンの88.3M, 国内10日間累積で317M(350.6億円)に達している。
これは10日間累積記録で歴代第4位になる。
 海外は51か国で373.3M、ワールドワイド総計で既に690.2M(763.3億円)。

 他の好調なKongやGet Out, Logan、The Lego Batmanなどと共に3月単月で未だ5日を残して、
アメリカ国内累積BOは1B(1106億円)の新記録。

そんな中で2位に入ったのが昨日のブログで予告した、日本オリジナルの「Power Rangers」(邦題「パワーレンジャー」:東映配給:7月15日より丸の内東映他で公開される)が3693館で行っても30M位だろうとの予想を大幅に上回る40.5M(44.8億円)と大健闘。

観客の60%は男性で、出口調査(CS)ではA評価、観客の30%は18歳以下で彼らの評価はA+

 日本と同じく、特別な力を与えられた若者たちが変身し、悪の軍団と戦うというもの。
アメリカで1993年のTVシリーズ開始から約20年の歴史を持つ「パワレン」(24シーズンを迎えて放映続行中)は著作権を所有するサバン・エンターテインメント・インターナショナが配給、日本の東映とライオンズゲイトの共同制作。

 総製作費100M(110.6億円)と日本で作るより100倍の予算だ。ハリウッドで培われたVFX技術とCGアクションの経験が、日本のスーパーヒーローに注力されアメリカ版「Power Rangers」が誕生している。
監督はディーン・イスラエルズ、脚本は「Xメン ファースト・ジェネレーション」のアシュリー・ミラーとザック・スタンツ。

 主演の5人の高校生は無名のティーネージャーたち。
レッド・レンジャーにデイカー・モンゴメリー、ピンク・レンジャーにナオミ・スコット、ブルー・レンジャーにRJ・サイラー、イェロ―・レンジャーにベッキー・G、ブラックレンジャーにルディ・リンの高校生5人が地球を守るために立ち上がる。

 他の大人役はベテラン俳優たち。
ビル・ヘイダー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」)、ブライアン・クランストン(「GODZILLA」「トータル・リコール」)。
悪役はエリザベス・バンクス(「スパイダーマン」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ)でエイリアン魔女役。


 このドキュメンタリ映画の監督、ローラ・イスラエルが先週金曜(24日)、外国特派員協会(FCCJ)で映画を上映した後Q&Aに応じた。

ローラが映画の冒頭、NYの下町で歩行者を捕まえて質問する。

街頭で写真家と言えば誰を思い出すかと言うインタビューに誰もロバート・フランク名前を言及しない。ローラはそれではフランクと言えばと誘導するが出て来たのは「あ、ロバート・キャパだ」と。

90歳になるロバート・フランクの名前は一般の人々には無縁のようだ。しかし、昔二足三文で売った写真がネットオークションで55万ドル(6160万円)で売れたと言う話も出て来る。もっとも彼の懐に入るのでなく買った誰かがオークションに出したので相変わらずロバートは貧乏だ。

ローラは小太りの老嬢だがロバートとは90年代から20数年来の付き合いがある。
ロバートは映画を何本か撮っているが、何れもローラとのコラボレーションだ。彼の二番目の妻、ジューン・リーフも顔を出すが、(美醜は別として)親しみと以心伝心で伝えるコミュニケーションは見事。

それだからこそこの記録映画はロバートの内面に入り込み、本音を引き出している。言葉使いもファッキングやマザー・ファッカー(あの糞野郎)なんて悪口が頻繁に出て来る。

1988年頃のインタビューの映像。NYの高層ビルを背景に質問に答えているうちにイライラして来る。「カメラの前でじっとしていられない。俺の仕事は撮ることであって撮られることではない」("I can't stand to be pinned in front of a camera, because I do that to people. I don't want it to be done to me!")スタスタと歩いて行ってしまう。フランクの性格を良く表している。

スイス生まれのロバートは少年時代に父から貰った一眼レフで忽ち写真の虜になる。このスイス時代の記録もちゃんと残っている。
クロニカル(年代順)にロバートを追う。NYに渡って来た青年時代、カメラマンとして成長を遂げたペルーへの旅、写真界に激震をおこした新技術を駆使した「The Americans」、ローリングストーンズと協働作業の1972年のドキュメンタリ「Cocksucker Blues」。

1958年にフランスで出版された「The Americans,」は9カ月間、アメリカを30週かけて巡り1万マイルを走破し767巻のフィルムを費消して27000枚の写真を撮った。アメリカの淋しい、取り残された、人種偏見に満ちた社会を描いて騒然とさせた。ある批評家はフランクの作品は病んだ人々をうたう哀しい詩」だと評している。

最初の妻メアリ・フランクとの別れた理由。2番目の妻ジューン・リーフとの出会い、ノヴァ・スコティアのマボウの小屋で淋しい独居生活。そしてビートニクな詩人、アラン・ギンスバーグやジャック・ケロウアックとの交遊。特にジャックには「The Americans」や「Pull My Daisy’s」のナレーションを書いて貰っている。

物凄いスピードでスナップショットのコラージュを使って足跡を振り返る。
その中に愛娘、アンドレアが1974年に飛行機事故で死亡したこと、知的障害を抱えた息子、パブロが1994年に亡くなったことも含まれる。

過去の映像や写真を除いて、「I hate these f***ing interviews」俺は糞インタビューは嫌いなんだよなと呟きながら、娘みたいに愛しむローラのインタビューは、フランクとローラの次の映画のコンセプトやスケジュールを記した黒板の前で行われる。粗末な事務所の窓の外にはNYの乱雑な下町の風景が広がる。

フランク・ロバートは知られざる天才写真家であり映画監督であることが良く分かる。

映画として良く出来ているが商業的に儲かるドキュメンタリではない。アメリカではローカルのフェスティバルやNYなどのアートハウスで上映されたが全国公開には至っていない。

このような公開をするのはドイツと日本だけだろう。

 4月29日よりBunkamuraル・シネマにて公開される。

「ノー・エスケープ 自由への国境」(Desierto)(メキシコ・フランス映画):焼けつく砂漠を徒歩で国境を越えて来たメキシコからの不法移民を狙撃銃と獰猛な犬で1人1人殺していく大酒飲みの愛国者・サイ

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アメリカのド田舎、インディアナ州ブルーミント生まれの67歳になる女流作家、カレン・ジョイ・ファウラー(Karen Joy Fowler)の自伝かと思わせる「私たちが姉妹だったころ」(白水社:2017年1月刊)はとても変わっていて面白かった。途中に予想だにしていないサプライズがあるからだ。

 主人公ローズマリー・クックの父はインディアナ大学の心理学教授で特に動物心理学を専攻している。

 古い8ミリフィルムを見ると、子どもの頃はお喋りだったローズマリーは成長するにつれ寡黙になる。
 物語を人生の真ん中から始めなさいと父親の忠告に従って次の8ミリ映画は父が撮った1966年の冬になっている。家族は父、母、私の3人で兄と最後に会ってから10年、双子の姉が行方不明になってから17年経っている。

めったに二人のことを思い出さないローズマリーはカリフォルニア大学デイヴィス校で5年目を迎えグダグダしていて未だ3年生だ。カフェテリアで食事をしていると若いカップルの喧嘩に巻き込まれ騒動の張本人の女子学生と一緒に警官に捕まり後に親友となる演劇科のハーロウ・フィールディングと出会う。

話を主人公の生まれた時に戻す。父は自分の家族をモデルにある実験を試みる。娘のローズマリーと数カ月前に生まれたチンパンジーのファーンを双子として育てる。二人は昼夜を分かたず一緒に過ごし、やがてローズマリーはファーンの気持ちを総て理解する代弁者になる。ローズマリーはチンパンジーの習性を身につけ、ファーンは自分は人間だと思い込んで育ってしまう。

ある日祖父母に預けられていたローズマリーが家に帰ってみるとファーンは居なくなっていた。
父は酒に溺れ、母は神経を病んで引き籠りになり、10歳上の兄ローウェルは家族に心を閉ざし、高校卒業間際に家出をし、愛する妹を慰めたい一心でファーンが送られた研究施設に侵入し、テロリストとしてFBIに手配される身となり以来行方が知れない。

アメリカではチンパンジーを家庭で育てる言語活動実験が盛んにおこなわれたらしいが幼いチンパンジーは子どもの頃は可愛いが大人になると猛獣化して手に負えなくなった実例が幾つもあるらしいが、それにしても家族を描くのに突拍子もないストーリー展開だ。
ローズマリーの大学時代から始まり、失踪の背景を探りながら過去の幼児期に何度も戻りながら遂にファーンに再会する現在に至る。家族の愛の崩壊と再生の物語だが荒唐無稽になりがちな複雑な話をユーモラスに読者に納得させながら運ぶテクニックは見事だ。元々カレン・ジョイ・ファウラーはSF作家のバックボーンを背負っている。

この小説は2014年にPEN/フォークナー賞を授与され、マン・ブッカー賞の最終候補となっている。



メキシコ=アメリカ間の砂漠の国境。
合衆国の4つの州とメキシコの6つの州は国境を接している。
そこには検問所を通って正規に出入国する人々が年間3.5億人いるが、貧困から抜け出すため合衆国で働きたいとパスポートも持たず密入国者が跡を絶たない。

第45代大統領のドナルド・トランプは就任早々の1月25日、「メキシコ国境の安全を確保するべく、物理的な壁をただちに建設、充分な人員による監視を行い、不法移民、違法薬物、人身売買、テロ行為を未然に防ぐ」と布告し、そのために3152キロに亘る壁(Great Wall=万里の長城)を建設し費用はメキシコ政府に払わせると宣言した。

この映画は2015年に制作されアメリカで公開されたので、時間的に大統領令は関係無く、そのテーマは全く別な所にあった。

しかし2年遅れて日本で公開スケジュールが組まれると大統領令のお陰で俄然注目が集まる。映画配給会社のPRマンはホクホク顔だ。

監督・脚本のホナス・キュアロンは父親のアカデミー受賞作「ゼロ・グラビティ」のように限られた条件や空間でのサバイバル・ゲームの作品を撮ろうと考えた。「ソウ」シリーズのような密室での手を変え品を変えての生存競争も面白かった。

アメリカとメキシコの国境は荒地で大きな砂漠が横たわっている。
具体的に名前は出て来ないがおそらくカリフォルニア州とアリゾナ州、メキシコのソノラ州の国境のソノラ砂漠だと思われる。日本の本州がすっぽり入る大きさだ。

 砂漠を徒手空拳で渡ると昼は50度を超え、陽が落ちる夜は氷点下の寒さに震える。だから熱中症、脱水症状、低体温症などで命を落とす。

まさにそんな条件でメキシコから密入国をはかるメキシコ人15人を乗せたトラックが砂漠を走っていた。国境を越えたところで突然故障。動かなくなったトラックを横目に警備隊に捕まらないようにアメリカの小さな町を目指して歩き始める。
 
不法入国を試みるモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)と15人の移民たち。有刺鉄線で出来た国境を越えて砂漠を歩いて決死の不法入国を試みる。

そんなとき15人の移民たちに突如襲いかかる銃弾。正確に頭を撃ち抜かれて次々と砂漠に血を吸われながら命を落として行く。
砂漠とて身を隠す場所も無い。
残った5人ほどを連れてモイセスは砂漠の丘陵を駆け上る。
誰が何処から撃ったのか襲撃者の正体は暫く分からない。

太陽がジリジリと焼き付けて摂氏50度。水なし。武器なし。携帯の電波も届かず通信手段なし。

襲いかかる正確な銃弾。襲撃者は正体不明。
やがて照準器付の狙撃銃を構えバーボンを飲み続ける初老の男、サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)。カウボーイハットに白髪交じりの揉み上げに口ひげ。典型的なレッドネック(南部田舎者)で愛国者だ。(こう言うレッドネックの支持を受けてトランプは当選した。

メキシコのマザーファッカー(糞たれ)どもを入国させるものかの信念に燃えるサイコパス。おまけにトラッカー(追跡者)と呼ぶ敏捷な黒いシェパードを連れている。チリジリに逃げたメキシコ人を嗅覚鋭く追跡し追いつくとジャンプして喉に噛みつき食い殺す。

照準器に捉え1人1人射殺し、姿が岩陰やサボテンに隠れるとトラッカーが追跡し嚙み殺す。恐ろしいコンビだ。

遂にモイセスと少女、アデラ(アロンドラ・イダルゴ)の二人だけになってしまった。隠れた場所はガラガラ蛇の巣だ。

二人の捨て身の反撃が観客を元気づけカタルシスを齎すが、冷徹なサイコパスにも最後は同情できるような余地を作る35歳の若いホナス・キュアロンの度量も見事だ。

主人公を演じるのは「バベル」や「恋愛睡眠のすすめ」などのメキシコを代表する美男俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。
大酒飲みのレッドネックのサイコパス、サムを演じるのはジェフリー・ディーン・モーガンでTVドラマで活躍していると言うが初めて見る。なかなか貫禄があって器用な役者だ。

 構想8年をかけてメキシコ=アメリカ間の移民問題を題材にした本作は第89回アカデミー賞外国語映画賞メキシコ代表に選ばれ、第40回トロント国際映画祭では国際批評家連盟賞も受賞している。

5月5日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開される。

「台北ストーリー」(1985年)(青梅竹馬 Taipei Story)(台湾映画):日本とアメリカの文化の波に洗われる台北、廸化街。幼馴染の若いカップルは恋を成就しようと努力する

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アメリカで昨日(19日)までの週末に封切られたウォルトディズニーのエマ・ワトソン主演「Beauty and the Beast」(邦題「美女と野獣」:WD配給4月21日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される)は3日間で4210館にて公開され170M(192億円)と言う3月公開映画としてはとてつもないBO新記録を打ち立てた。

海外市場でも180Mで,この週末デビューBOだけで350M(394億円)を挙げている。この週末に中国で上映が始まるので100億単位の興行成績がうわ積みされるだろう。2月末までは昨年と比べ6%減のBOだったが
3月に入り狼男の「Wolverine」のスピンオフ、ヒュー・ジャックマン主演の「Logan」(邦題「ローガン」:FOX配給で6月1日より2D3Dで公開される)が大ヒット。、

2週目は「Kong: Skull Island」(邦題「キングコング:髑髏島の巨神」:WB配給2D3DImaxで丸の内ピカデリー他で3月25日より公開)が更なる大ヒットを重ね、
そしてこの「Beauty and the Beast」のメガヒットで今年はハリウッド最高の年になるだろうと既にスタジオ関係者は色めきだっている。

しかしよく考えて見ればウォルトディズニーの一人勝ちでれも一重に数千億円を投じて
Pixar, Marvel,そしてLucasfilm をMagic Kingdomに引き入れた結果だ。

昨年は映画観客数1/4超のシェアをディズニーは獲得し、
今年もこの「Beauty and the Beast」に加え、「Guardians of the Galaxy」や「Cars」,そして「Thor」などのヒットシリーズものを続き「マウスハウス」は繁栄をつづる。


 ホウ・シャオシェン監督「悲情城市」が85年、ヴェネチア映画祭でグランプリ(金獅子賞)を受賞し、1980年代半ばは台湾映画界に新しい潮流をもたらした「台湾ニューシネマ」。

 だがシャオシェン監督の盟友、エドワード・ヤン(楊徳昌)監督は長編7本しか残していない。
2007年に6月に癌の合併症で59歳の短い生涯を閉じたからだ。

 今年はヤン監督の没後10年、生誕70周年に当たるのを記念して「牯嶺街少年殺人事件」「台北ストーリー」がマーティン・スコセッシ率いるフィルム・ファウンデーションのワールド・シネマ・プロジェクトにより、4Kによるデジタル修復がホウ・シャオシェンの協力を得て実現した。
この作品は日本では上映されなかったと思う。僕は初めて見る。

 ヤン監督は83年「海辺の一日」でデビューしたがこの映画は、名作「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(91)の前、「恐怖分子」(86)の前年('85)に撮りあげた長篇第2作だ。
盟友ホウ・シャオシェンは既に「風櫃(フンクイ)の少年」「冬冬の夏休み」などを発表していた流行作家だったが、エドワード・ヤンのために自宅を抵当に入れてまで製作費を捻出し、完成へとこぎつけたと言う、友情溢れたいわくつきの作品である。
尚シャオシェンが世界的に名を馳せた「悲情城市」はそれから4年後の89年だ。
 
 主演は(これが俳優として唯一の主演作となる)ホウ・シャオシェンと、
この後エドワード・ヤンと結婚することになる台湾の人気シンガー、ツァイ・チン。
ほか、「光陰的故事」でエドワード・ヤンらと共に監督を務めたクー・イーチェン、「恋恋風塵」「悲情城市」などの脚本でも知られるウー・ニェンチェンなど、自分の親しく信頼できる仲間だけで固める、というエドワード・ヤンの仲良し配役。

「台湾ニューシネマの最も幸せな瞬間」に誕生した奇跡の一本で凄まじい爆発力を孕んだ野心作だ。
 
 そしてこの映画を紡ぎ出す、80年代なかばの大都市、台北がその背後にある。
日本の台北かアメリカの台北か、どっと東西の文化が流れ込んで若者たちは翻弄されながた楽しみ享受する。

 台北市内の大きな空き家のマンションを訪れる若い二人の男女。TVはここ、ステレオはあそこと女の夢は膨らむが男は気の無い返事。

 「内装に金がかかりそうだな」
「私今度昇進しお給料もあがりそうだから大丈夫」

女はアジン(ツァイ・チン)。中堅の不動産デベロッパーで働くキャリアウーマン。
男はアリョン(ホウ・シャンシェン)。
少年時代はリトルリーグのエースとして1968年アメリカでの世界選手権で主戦投手として活躍しワールドチャンピオンに輝いたこともある。

 1982年の現代都市、台北。
日本とアメリカのニュースがリアルタイムで流れている。
カラオケ、ディスコやサッチャー中曽根会談、近鉄広島の日本シリーズ、石原裕次郎のCM,富士フィルムの巨大な電飾看板。
マイケルジャクソン、大リーグ中継、ブルックリンの古いアパートの壁の大きなグラフィティ。

 今は稼業を継ぎ廸化街で布地問屋を営んでいるアリョンとアジンとは幼馴染。過去にはいろいろあったが何となく付き合いが続いている。

 順調に思えたアジンの人生だったが、突然勤めていた会社が買収され解雇されてしまう。
居場所を見失ったアジンは、アリョンの義理の兄を頼ってアメリカに移住し新たな生活を築こうと、アリョンに提案する。

 しかしアリョンにはなかなか踏ん切りがつけられない。ここには少年野球の仲間もいるし家業もある。
一度は決心して資金を作るため家も売るが、昔気質のアジンの父親が事業に失敗するとその肩代わりに借金をするなで支援に奔走することになる。

 すきま風が吹き始める二人の間にあるアジンの過去の出来事(男関係)が重なり新天地アメリカでの再出発の夢は潰える。そして思いも寄らない結末が訪れる。

 いじけた小男アリョン役のホウ・シャオシェンの上手いこと。この時38歳だが20代の鬱屈した青年を大きな近視眼鏡をかけて熱演する。
アジン役のツァイ・チンは27歳、男を操縦する活発な現代美人だが、最後にアリョンを手放さざるを得ない。

 その積りが無いのにナイフで下腹部を刺されるエンディングは「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」と酷似している。

 台北の日本、台北のアメリカ。
バッハ無伴奏チェロ組曲で始まり、ベートーベンのチェロソナタなどが挿入されるが、
圧倒されるのは日本の歌謡曲とアメリカのロックンロール。
日本の女性誌やキャラクター、ゲームが溢れる台北、廸化街。

 5月6日より渋谷ユーロスペースにて公開される

「夜明け告げるルーのうた」(日本映画):離婚した父と祖父と3人で小さな漁村に住む中学生のカイはいつも気鬱だが、ある日出会った人魚ルーの歌と踊りで心が開かれ行く

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この世代のSF作家と言おうか、いやむしろ警察小説作家と言うのだろう。
宮様の親戚みたいな名前、高殿円の「メサイア 警備局特別公安五係」(講談社:2016年5月刊)は日本の警視庁にもキラー・エリートを選りすぐって対象者を抹殺しても構わない、MI6の殺しの番号を持った五係が登場する。

B級エンターテインメントだが、今の日本の自衛隊や警察が出来ない日本人としてのウサを晴らしてくれる。
例えば主人公海棠鋭利とメサイアと呼ばれる相棒の御津見珀と二人で日本領海を侵犯し尖閣諸島へ向かう中国の漁船100隻を台湾の「海賊」に化けてエンジン室をロケット砲が破壊し投げ出された船員たちを銃で皆殺しにする。
海上自衛隊も海上保安庁も手を出せない腕を拱いて見守るだけの傍若無人の蛮行を一日で消滅させたりする。

舞台は皇歴117年と言うのが分からない。皇歴というのは皇国日本の暦のことだから神武天皇即位紀元または神武紀元は、「日本書紀」の記述をもとに設定された日本の紀年法である。古事記や日本書紀で日本の初代天皇とされる神武天皇は、日本書紀によれば紀元前660年1月1日 (旧暦)に即位したとされ、この即位年を明治に入り神武天皇即位紀元の元年となった。

その伝から言えば今年(2017年)は紀元2677年の筈、未来の日本の公安の物語だから紀元ではなく「皇歴」はどういう勘定になるのかね。
皇歴117年は、世界から軍隊が消えて10年。戦争は武力闘争から諜報戦に姿を変えている。北のロシア共同体と西のアメリカ・ユニオンの二大勢力の対立は深まるばかり。

世界的な「軍縮」の取り決めで自衛隊は解体し警察組織の中に吸収されている。
だから警察特に公安の力は増している。
戸籍を奪われ死者と同じ扱いを受けながら最前線の戦いを強いられる者たちが、日本にはいた。対スパイ殺人権を持つ特公五係、通称「サクラ」と呼ばれる精鋭集団。

両親を惨殺され一人生き残った主人公の海棠鋭利と幼いころ兄と生き別れた御津見珀は戸籍を剥奪されたスパイ集団、特別公安五係、通称「サクラ」に候補生としてスカウトされる。桜のように潔く散る、それが彼らの流儀だ。
海棠鋭利は、唯一無二の相棒(メサイアと呼ばれる)御津見珀と共に総理大臣の息子、牛尾由也の護衛を命じられる。それはサクラになるための卒業試験であり、同時に国を守る特務でもあった。
高殿円 は 1976年、兵庫県に生まれる、40歳。2000年、第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。以降ファンタジーを中心に50作以上のSF小説を送り出す。未だこれと言った賞は獲得していない。

知らなかったが映画化され2011年公開されている。
月刊ASUKA5月号(2011年3月24日発売)から連載がスタートしたメサイアプロジェクト原作・高殿円ストーリー原案による日吉丸晃の同名漫画を実写映画化したもので、監督は、「DEATH NOTE」2部作の金子修介。
オカシイのは「メサイア」刊行記念に初版限定書下ろし短編、「サクラノモリ」が巻末に折り畳んで貼り付けてあること。
僅か12Pの短さでは事件も起こらない。


紹介するアニメは少し変わっている。
歌が大好きな人魚が主人公なのだ。「夜明け告げるルーのうた」


寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイ(下田翔大)は、父親(篠原信一)と日傘職人の祖父(柄本明)との3人で暮らしている。
もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。
父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。

唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。ある日、クラスメイトの国男(斉藤壮馬)と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。

しぶしぶ練習場所である港の中程にポツンと立つ人魚島に行くと、人魚の少女・ルー(声:谷花音)が3人の前に現れた。
大きな丸い目の可愛い幼女だ。確かに脚は無い。
大きな声で楽しそうに歌い,ピョンピョン踊る、ルー。

気鬱のカイもそんなルーと毎日過ごすことで心が開かれて来る。

しかし日無町の住人は人魚は災いを齎す者と信じられている。
そしてチョッとした事でルーと町の人たちの間に大きな溝が生まれ、そして町を脅かす大きな危機が訪れる。カイはルーと町を救うことが出来るだろうか?

ルーが面白いのは歌いだすと足が生えて踊れることだ。弱点は海に住んでいるので、陸に上がることは出来るが陽に当たると燃えてしまう。ドラキュラみたいだ。噛んだ生き物を人魚に変えるのはドラキュラと大違い。
カイに仄かな恋心を抱き「スキ」だと思う。

一方カイも周囲の仲間を避け一人ぽっちで心を閉ざしていたが、陽気なルーに出会い気持ちが和らいで行く。勿論ルーのことは「スキ」だ。

物語はルーとカイの意識しないロマンスの行方も探る。

主題歌に使われている斉藤和義の「歌うたいのバラッド」が良い。
20年前のアルバムの曲だが、「本当のことは歌の中にある。いつもなら照れくさくて言えないことも」と主人公たちを代弁している。

キャラクター原案は「午前3時の無法地帯」の漫画家・ねむようこ、親しみやすい優しい絵は一目で好きになる。

監督は「四畳半神話大系」「ピンポン THE ANIMATION」「マインド・ゲーム」「ケモノヅメ」などの湯浅政明監督。

長編アニメのデビュー作「マインド・ゲーム」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞を授与された湯浅監督のファンは多い。

この「夜明け告げるルーのうた」は湯浅監督初めての完全オリジナル作品で彼の真価を問う作品だけに力が入っている。

5月19日(金)よりTOHOシネマズ日本橋他で全国公開される

「BIOHAZARD VENDETTA」(日本映画):バイオテロリスト、アリアスを追う元ラクーン市警の特殊部隊「S.T.A.R.S.」の同僚、クリス、レオンそしてレベッカ。

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昨年暮れ12月23日に日本で世界最速で公開された「バイオハザード:ザ・ファイナル」はアメリカでは余りヒットしなかったが、日本はゲーム発祥の地と言うことで長く首位の座を維持した。
ワールドワイド総計は先週末で307.2M(347億円)も稼いでようやく終焉を迎えようとしている。

実写のミラ・ジョヴォヴィッチに代わってバイオハザードのフルCG長編アニメ版が今日紹介する作品だ。

しかし驚くね、先週末の日本でのチャート、トップ10のうち7本がアニメ作品。新作5作品がランクインする激戦の週末だった。
新作5本のうち4本、トップ10中7本がアニメーション作品。
そちて新登場でトップは「ミニオンズ」「ペット」など大ヒットアニメを手掛けてきたイルミネーション・スタジオの最新作「SING/シング」が興収5億5千万円をあげ、堂々の首位を飾った。

今やアニメ作品でなければヒットはしないのではないかとさえ思われる。

このバイオハザードフルCG長編アニメーション映画はこれで3作目だと初めて知った。
2008年に「BIOHAZARD DEGENERATION」
2012年に「BIOHAZARD DAMNATION」
そして2017年に「BIOHAZARD VENDETTA」とほぼ5年毎に送り出している。
VENDETTAとはイタリア語で血の復讐と言う意味だ。


対バイオテロ組織「BSAA」(Bioterrorism Security Assessment Alliance)のクリス・レッドフィールドは、確かな情報を受けて、メキシコにある武器密売組織の拠点と思われる謎の洋館へ突入する。

 しかし誰もいない空き家だと思い探索の最中、クリスは国際指名手配中のグレン・アリアスと対峙するも、信じがたい光景を目の当たりにし、結果アリアスを逃してしまう。

アリアスこそは元軍人で今は武器商人。
実業家で飲料水の製造など幅広い製品のメーカー「アクア社」の設立者でもあった。
頭が切れるタフなバイオテロリストとして当たるを幸いなぎ倒す戦闘能力を持つ強敵だ。

 舞台は殆ど外国で、NYが中心なのでセリフは総て英語なのに驚く。
日本語の字幕が出るので日本映画の雰囲気ではない。

 元ラクーン市警の特殊部隊「S.T.A.R.S.」の一員だったレベッカ・チェンバースは、現在は大学教授として、「死者が甦り、凶暴化する」という不可解な事件の調査と研究に携わっていた。
事件を深耕している内に原因は「新型ウィルス」が関係していることを突き止めたレベッカは、「ウィルス治療薬」の開発に成功する。

 未だ十分に治験ができていない時に、研究所が何者かに襲撃され、レベッカは拉致され監禁されて死の危険にさらされてしまう。

 協力を求めて、新型ウィルスが関わる事件を最もよく知る人物、アメリカ大統領直轄のエージェント組織「DSO」(Division of Security Operation)所属のレオン・S・ケネディに会うクリス。

 主要人物3人、クリスもレベッカもレオンも元ラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.に所属していた元同僚なのだ。

 再会を果たした二人は、アリアスの真の目的が「バイオテロ」だと確信し、陰謀を阻止しようと、彼を追いニューヨークへと向かう。

 動きはモーションキャプチャーでCGに取り込むが、容姿や体型はアニメだけにどうにでもなる。
クリスもレオンもイーサン・ホークかキアヌ・リーブスの面影があるイケメンだが、
レベッカが美人だが何か薄っぺらな気がする。迫真感がなく人形のようだ。
ちょっとガッカリ。

 歴代ゲームに登場した人気キャラクター達や、不気味なゾンビの大群に加え映画オリジナルの巨大モンスターなど新キャラクター達がクリスやレオンに襲い掛かり、何でもありのバトルを繰り広げる。

 エクゼクティブ・プロデューサーに「呪怨」でハリウッドにJ-ホラーの旋風を巻き起こした清水崇。

 監督は低予算で質の高いCGアニメを次々と送り出し「The Next Generationパトレイバー」シリーズなどの辻本貴則。
 
 フルCGアニメ制作では今業界で注目を集める「マーザ・アニメーションプラネット」。旧「セガサミービジュアルエンタテインメント」で「最高の物語を、世界中のこどもたちへ」と世界へ乗り出そう制作に励んでいる。
その経営方針に従って世界的大ヒットのサバイバルホラーゲームの「バイオハザード」シリーズをハイクオリティCG技術で描く。

 5月27日より新宿ピカデリー他で公開される。

「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけど」(雖然媽媽説我不可以嫁去日本)(日本・台湾映画):台北に住むママは日本人と付き合うことを絶対に許さない。特に東京へお嫁に行くとは飛んでもないと怒り狂う。

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 これは楽しい愉快な映画だ。実話だけに迫力があるし、台北のママが東京へお嫁に行ってしまいそうな娘への愛情がヒシヒシと伝わり涙が零れる。

そもそものスタートは日本人の彼氏を持つ、とある台湾人の女の子が作っFacebookページ「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど(雖然媽媽說我不可以嫁去日本)」が、20万いいね!を突破したことから始まる。

茂木さん(日本人の彼氏)との何気ない日常を写した写真がアツアツ、ページが立ち上がってから2年間の顛末が単行本(新潮社刊)として発刊されたのプロデューサーの目にとまり映画化された。
主人公、リン・イーハン(ジエン・マンシュー)は台湾の大学で日本語を学ぶ23歳。茂木洋路(中野裕太)は車の設計士として働く29歳。

日本を襲った東日本大震災で世界中を震撼としているさなか、日本のドラマやアニメが大好きで、大学でも日本語を専攻する台北の女子大生・リン・イ―ハンがFacebookに「日本頑張れ!」(日本活力)とエールを載せたところ1通のメッセージが届く。

それは、復興支援をしてくれた台湾の人に興味を抱いた日本人の青年、モギ(茂木)からだった。「あなたは台湾の方ですか?」

相手が男か女か分からない。
年齢も職業もだ。
手探りで相手に質問し互いに写真をとり交わして好感が持てそうな人物だと認識して第一関門が突破されれば後は興味津々で男女の仲は進行する。

フェイスブックでの遣り取りはアバターのアイコンの後、文字で画面に表示される。だから画面的には間が持たず歌や楽曲がバックを補う。

2人はFacebook上で互いの国のことや日常を話しはじめて気持ちが傾いて来る。
モギは同僚の2人(大谷圭水&岡本孝)とタイへ行く予定を強引に台湾に決め、休暇を利用してリンに会うため安い切符(HIS)で台北へ向かう。

 初めて顔を合わせた2人は互いに一目惚れ、一ぺんに距離を縮め、茂木が帰国してからは毎日、他愛もない会話がオンラインデートになり、ついに互いの気持ちが海を越える。

 リン・イ-ハンを演じるジェン・マンシュ―(簡嫚書)が親しみ易い美人だったことが映画が成功した要因の一つだ。
実年齢も役と同様27歳、アグネス・チャンをふっくらさせてもっと美人にしたような容姿は日本人好みの可愛い子ちゃんだ。

 茂木洋路を演じる中野裕太は「新宿スワン2」で横浜のチンピラ役で顔を出す程度の役者だが主役級の役柄を貰って、屈託を抱え世の中の憂鬱を総て抱え込む陰気なキャラを熱演している。

 Facebookやラインで台北と東京は直ぐ傍にリアルタイムで存在する。
映画はこの特徴を活かしている。

 特にリンの元カレが誕生日に台中から遥々ケーキと大きなシロクマを抱えてやって来て、
リンのママ(ワン・サイファー)が無理矢理泊めてしまったことで、イジイジと悩むのが、
二人の間の波風を立てることになる。

 このママがタイトルになっているように、絶対に日本人と付き合うことを許さない。特にお嫁に行くとは飛んでもないと。
元カレを振ってしまったリンに怒り、誕生日祝いをもってやって来た元カレとヨリを戻させるためには絶好のチャンス。
顔を見たくないとベッドに寝ているリンを引っ張り出して強引にバースデイパーティを開く。

 リンは嘘をつくのは大嫌い。元カレの訪問と泊まっていったことや、
プレゼントの大きなシロクマの縫いぐるみ(写真を添付して)フェイスブックに載せる。
不機嫌になったモギはリンの問いかけに無言を続けている。

 ママは三度の飯より麻雀好き。
勝つまで夜も昼も無く皆を返さないので相手の医者や巡査は大迷惑だがそんな泣き言には耳を貸さない。麻雀とリンがママの生き甲斐なのだ。

 だから仮病を使って「余命幾ばくも無い」と麻雀相手の医師に言わせて
リンを日本から呼び寄せた最後の最後、娘がそれ程までにモギを愛していることを悟り、
結婚を許すシーンは涙涙で盛り上がる。

 演じる小太りのワン・サイファーにジコチュー演技は周囲を振り回す。48歳のワンは台湾では有名な歌手でTVではヴァラエティ番組の常連だと言う。
TVドラマ「拝啓、民泊様」などを手がけた韓国在住の若い36歳谷内田彰久が監督。恐らく長編劇場用映画は初監督ではないだろうか。それにしてはしっかりした演出をしている。

初夏新宿シネマカリテにて公開される。

「パージ:大統領令」 (THE PURGE: ELECTION YEAR) (アメリカ映画):昨年の大統領選挙、ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンのキャンペーンを下敷きにしたアンチ・トランプ映画

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2013年から始まった「パージ(PURGE)」シリーズ。PURGEとは(敵や望ましくない人物の)追放、粛清、処分の意。

経済が崩壊した後のアメリカでは、NFFA(the New Founding Fathers of America=「新しいアメリカ建国の父たち」)を名乗る集団が政権を握り全体主義的な統治を行っていた。
NFFAは1年に1回、殺人を含むすべての犯罪が合法化される夜(パージ)を設けた。それは夜7時から翌朝7時までの12時間続く。
この間、すべての警察、消防署、医療サービスが停止される。

大ヒットした「ハンガーゲーム」シリーズも日本映画の「バトル・ロワイアル」など皆殺しの映画は多数あり、殺し合いは人間の本能なのかもしれない。

しかし「パージ」単なる殺し合いでは無い。金看板の大義名分がある。

パージの導入によって、犯罪率と失業率は1%にまで低下し、経済状況も改善した。
市民はパージにより経済の破綻を防ぎ社会の安定をもたらしてくれる年間行事だと思っていたが、実際はNFFA(父たち)が大衆を圧制し支配する政策であった。
パージの夜に犯罪の標的となるのは富裕層ではなく、貧困層などの弱者を中心に狙い撃ちをするのだった。

13年の「パージ」第1弾の主演はイーサ・ホークだった。サンフランシスコ近郊の富裕層の居住区に住むサンディン家は、パージの前に逃げ込んできた男を匿ったために、犯罪者たちと戦うことになってしまった

14年の第2弾「パージ:アナーキー」はロスアンゼルス。主演はマイケル・K・ウィリアムズとフランク・グリロ。反パージ集団は人々に抵抗を呼びかけている。警察官のレオは、飲酒運転で息子の命を奪ったウォーレン・グラスへの復讐を胸に誓い、重武装して町へ出る。

そして16年、シリーズの第3弾。
舞台はワシントンDCに移る。

昨年の大統領選挙の前に全国公開されたこの作品は、ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンのキャンペーンを下敷きにしたアンチ・トランプ映画だと直ぐに気付く。

残念ながら選挙結果はトランプの地滑り的勝利になりクリントンは200万票の差でリードしたが、投票人制度いう日本人には理解できない間接選挙で大統領の座を獲得し、トランプはNFFA的な「アメリカ・ファースト」を打ち出しているのは周知のとおりだ。

映画の冒頭はパージの前日、DCの下町でデリ(コンビニ)を経営するジョー(ミケルティ・ウィリアムソン)にパージ保険が今日から値上げだと一方的な通告がある。パージで受ける損害を補償する保険だが掛け金が数千ドルも上がると聞いて小さなデリでは無理だ。

そんな時にチョコバーを万引きするJK二人組を見つけ品物を返すか代金を支払へと言うジョーにセクハラ親父と逆に食ってかかる生意気なJK。

そこへスリムな黒人女性が仲裁に入る。
JKたちは知っている。
昔ヤンキーで暴れまわったレイニー(ベティ・ガブリエル)だ。火をつけたら恐ろしい。
それでも捨て台詞を吐いて店を出ていく。

 ジョーはシャッターを閉め屋上で狙撃銃を据え店を守る構えた。
レイニーは仲間たちと大型バンに乗り街をパトロール。

 一方大統領候補に名乗りを上げたNFFAのオーエンズ牧師(カイル・セコー)は強力にパージ法を支援し実行しようとするが、
反パージを掲げる女性上院議員、チャーリー・ローン(エリザベス・ミッチェル)が良識ある市民たちの支持を受け頭角を現す。

ローン上院議員は18年前パージで一家全員を惨殺されていた。
国内は賛成派と反対派に分断される。

パージをめぐる大統領選の最中、全ての犯罪が合法となる一夜が幕を開ける。警察も病院も機能しないパージの夜、NFFAから暗殺の標的となったローンと彼女を護衛するSPのレオ(フランク・グリロ)は、悪夢の12時間を生き延びるため頑丈にセキュリティを施したローンの自宅に籠る。
レオは前作の「パージ2」でLA市警(PD)刑事から転職していた。

 チャーリー・ローン上院議員役、ミッチェルのメイクと容姿がいけない。
大きな眼鏡をかければインテリに見えると思ったのだろうか、まるで似合わない上に、
眼鏡の下が色っぽいので高級娼婦に見える。ミスキャストだ。

そこへ行くとレオは引き続いての主演で落ち着いたもの。ロイ・シャイダーのようなクールでタフな魅力をたたえている。

ローンの自宅も白人至上主義のNFFA特殊部隊に襲われ命からがら邸宅の秘密通路を抜け出し、
レイニーの大型バンに拾われる。

オーエンズ牧師率いる極右政権NFFAの送り出す特殊部隊は鍵十字(ハーケンクロイツ)のエンブレムをつけて強面。
 スラム街を襲い、ホームレスや貧乏人を殺戮すれば富裕層が支援の必要が無くなるし、その上犯罪抑制の手段となると信じて疑わないオーエンズ。

「パージ」こそがアメリカを世界の強国にしている「アメリカ・ファースト」と確信していたが、
貧困層や弱者を守り支援してこそアメリカは偉大な国になると訴える無所属のローン上院議員らの反対主張も強い抵抗力を示す。

だが、映画を見る限りローン上院議員には仲間の政治家は見当たらない。
それに上院議員と言うのは殆ど終身務めるので、爺さんや婆さんばかりで30台のピチピチした若い女性上院議員など存在しない。
何てお粗末な本だろう。

調子に乗った殺戮集団が街で略奪し通行人を捕まえ街路樹に吊るすなど暴れ回る。
ニクソンやリンカーンのお面を被り大型拳銃や軽機関銃をぶっ放し、大音響の自動車をLED電灯で飾り立て街を練り歩く。

 特に冒頭にチョコバーを万引きした女子高生。
しつこくジョーのデリへやって来て、チョコバーを「どうしても食いたい」と店のシャッターを電動のこぎりで壊し始める。
レイニーは上院議員共々駆けつけJKたちを皆殺しにするが、オーエンズ率いる特殊部隊はドローンで索敵し攻撃ヘリで大型バンを追う。
 GPSでも無いのにどうして複雑な迷路を正確に追跡できるのか?
逃走中に被弾したレオは気付く。肩から入って肋骨で止まっていた銃弾が電波を発し追跡が出来る。
麻酔無しにナイフで抉り弾を取り出すレオ。そしてその弾を公園の隅に置く。押し寄せるNFFAの武装軍団。痛快なシーンだ。

 ここからが波乱万丈、窮地に陥った上院議員やレイニー、レオたちを救うのはビショップやエンジェルを首領とする「元ギャングの黒人集団」だ。

ジョーの友人たち元黒人ギャング団は特殊部隊をせん滅した後、返す刀でオーエンズ牧師が主催するNFFAのミサが行われている教会に忍び込む。

 カルト集団のような罪人とされ椅子に雁字搦めに縛り付けられた男女をナイフで処理する。
一人はいつの間にか拉致されたローン上院議員だ。

 「パージ」シリーズの前2作同様に
「パラノーマル・アクティビティ」「インシディアス」などのジェイソン・ブラムと
「トランスフォーマー」のマイケル・ベイがプロデューサーを務め、
ジェームズ・デモナコが監督を務め脚本を書いた。3作も書くとデモナコはパージの齎す恐怖の本質が理解して説得力を増している。

 ジェイソン・ブラムは低予算でヒットホラームービーを作り出す名手。
このシリーズも3-4億円の超ミニバジェットで300億円ほどの水揚げがワールドワイドで挙げている。

 主演は「キャプテン・アメリカ」シリーズで知られるフランク・グリロが、前作「パージ:アナーキー」に続けてレオ役で活躍をする。

 大統領候補オーエンズ牧師役のカイル・セコーはトランプをスリムにした感じだが、雰囲気や断定的な喋り方はトランプだ。

シリーズ3作の中で大統領選に絡めていたので一番出来が良く面白かった。

4月14日よりTOHOシネマズ日劇他で全国公開される

「LOGAN ローガン」(LOGAN)(アメリカ映画):18年間に10本の作品を送り出した「X-メン」シリーズの掉尾を飾るに相応しい秀作

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昨夜(24日)TOHOシネマズ六本木ヒルズ・スクリーン2の試写会で観賞。「X-Men」シリーズで10本目の作品で、「Wolverine」のみならず「X-Men」シリーズも恐らく最後の映画になるだろう。
映画の中で他のミュータントは皆死んでしまいローガンが最後の生き残りだと言うセリフがあるが、そんな感傷とは別に今までで一番感動した。
スーパーヒーローものではなく「Wolverine」こと人間「ローガン」のヒューマン・ドラマだからだ。

アメリカでは3月3日より上映がはじまりいきなり首位。
ヒュー・ジャックマン主演で初めてR-レイト作品。
次々と現れるスーパーヒーローものの作品群で差別化をするためにこの作品は敢えて「Rレイト」指定にしたと言う。

制作費は97M(110億円)。
この20日まででワールドワイドで550億円を突破し興行成績は積み上げている最中だから何処まで行くだろうか。
日本では6月を待たねば公開されないが、マーブルコミックものは日本では期待できない。

ヒュー・ジャックマンが演じるウルヴァリン/ローガンを主役に描く「ウルヴァリン」シリーズの第3作。この作品でジャックマンは17年間のウルヴァリンを終える。

舞台は2029年メキシコとの国境近くリオグランデを望むテキサス州エルパソの郊外にある駐車場。オンボロ大型リムジンから雇われ運転手でカツカツの生活をしているローガン(ジャックマン)が扉を開けて降りて来る。
5-6人の地元のチンピラたちがタイヤを外して盗もうとしている。やめさせようと注意するとナイフで切りつけ銃を向けてくる。

簡単に鍵爪を出してやっつけると思いきやナイフで刻まれ銃弾を数発浴びる。死にはしないが昔なら弾を撥ね付けていた。やっとの思いで不良どもを退治し、帰宅して洗面所で気張るとコロンコロンと胸から銃弾が落ちる。

鏡に映るローガンの顔。もじゃもじゃの揉み上げは顎鬚に繋がり、シミだらけで不健康な肌が髯の下に連なる。スーパーヒーローは確実に衰えている。

ローガンは国境近くの廃工場の倉庫に匿われているプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア(パトリック・スチュアート)を訪ねる。
脳溢血で倒れて以来意識もおぼろげで車椅子から離れられない。
コントロールできず発作でテレパシー能力を発すると周りの人々は固まってしまう。
チャールズの看護は陽に当たることが出来ないミュータントのキャリバン(スティーブン・マーチャント)が付き添っていた。

不死身の治癒能力が失われつつあり、生身の人間ローガンに戻ろうとしているウルヴァリンも、あれほど権威主義者だった学園長のプロフェッサーXも年齢には勝てない。ミュータントの世は終わったのだと認識し始める。

そこへメキシコ人看護婦のガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)が11歳の女の子、ローラ(ダフネ・キーン)を連れて来る。「あんたの子だよ、ノースダコタへ連れてい行っておくれ」と。カナダ国境近くのノースダコタ北部に「EDEN」と言うミュータントの子供たちが集まるユートピアがあると言う。

エルパソから2日半もかかる遠距離だし、疲れ切って運転も出来ない。ましてEDENなんて所がある訳は無いとコミックブックを見るとキルディア山脈をバックに崖の上の建つ大きな建物が描かれている。マンガの上だけだろうと思うが一緒に連れて行くチャールズの頼みもあり、3人の旅は始まる。南部から中西部そして国境近くの北部へとロードムービーはスリル満点で迫力がある。

ローラは一言も喋らないが悪戯盛り、店に入れば平気で万引きするしエレベーターに乗ればボタンを全部押す。
疲れ果てたローガンを眠らせて、代わって11歳のローラが大平原・荒野の一本道を盗んだピックアップトラックを猛スピードで走らせる。

子どもたちを使ってミュータントの実験を行っているトランシジェン研究所から看護婦に連れられてローラは逃げ出して来たのだ。
遺伝子学者Drライス(リチャード・E・グラント)は研究所からローラを追い連れ戻すように冷酷なピアース(ボイド・ホルブルック)に命令し、武装集団を送り出している。

死を目の前に控えるプロフェッサーXと絶滅危機のミュータント唯一の希望となるローラは「生」と「死」の好対照だ。
ローラと一緒にTVで「シェーン」を見ながらチャールズはアラン・ラッドのセリフを引用してローラに諭す。
「人を殺した者は烙印を押され平和な谷に住むことは出来ない」と。最後まで人間とミュータントの共存共栄を望んでいる。

ミュータントの火を絶やさぬためローラを守るローガンはノースダコタの森林で展開される命をかけた壮絶な最後の戦いに挑む。
子どもたちの能力は完成間近だが充分に機能しないのがもどかしい。

ネタバレになるがローガンが埋葬された土森に立っている十字架を横に寝かせるローラ。
十字架は「X」になる、洒落たシーンを創造するマンゴールド監督だ。

 2000年にブライアン・シンガー監督の「X-メン」から始まって18年間に10本のシリーズ作品を送り出した。49歳になるヒュー・ジャックマンはチョイ見せも含めオーストラリアンの律義さで殆ど付き合った。ご苦労さまだ。
74歳のパトリック・スチュアートもジャックマン同様長い道のりを付き合って来た。

この映画でデビューを飾るキュートな11歳のローラ役のダフネ・キーンに(続編があれば)後を託する。

総てのマーベルコミックはウォルトディズニーに移行したが唯一FOXに残った原作も絶滅すると思うとFOXファンの僕にはこみあげて来るものがある。

監督はシリーズ前作「ウルヴァリン:SAMURAI」も手がけたジームズ・マンゴールド。「17歳のカルテ」(99)や「ウォーク・ザ・ライン」(05)で出演女優達にオスカーを齎し、ミステリーからアクション、ウェスタン、コメディと何でもござれのヒットメーカーの名匠になって来た。
「X-メン」シリーズの掉尾を飾るに相応しい秀作だ。

6月1日より2D3DでTOHOシネマズ日劇他で全国公開される。

「破裏拳ポリマー」(日本映画): 「仮面ライダー」のスピンオフ、「パワーレンジャー」がアメリカ市場で大ヒットの波及効果で、同じコンテクストのこの作品も大きな波に乗れると良いのだが

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一昨日の3月24日より新登場したアメリカ版「「Power Rangers」は2週連続首位の「美女と野獣」に果敢な挑戦をしている。結果は明日まで待たなければならないが首位は無理にしても、同時に新登場のSonyの宇宙ホラースリラー「Life」とWarner Bros.の70年後半-80年代の前半のTV人気番組「白バイ野郎ジョン&パンチ」の 「CHIPs」に伍して健闘している。

日本と同じく、特別な力を与えられた若者たちが変身し、悪の軍団と戦うというもの。
アメリカで1993年のTVシリーズ開始から約20年の歴史を持つ「パワレン」(24シーズンを迎えて放映続行中)は著作権を所有するサバン・エンターテインメント/インターナショナが配給、日本の東映とライオンズゲートの共同制作。

総製作費120億円と日本で作るより100倍の予算だ。ハリウッドで培われたVFX技術とCGアクションの経験が、日本のスーパーヒーローに注力されアメリカ版「Power Rangers」(邦題「パワーレンジャー」:東映配給:7月15日より丸の内東映他で公開される)が誕生している。

監督はディーン・イスラエルズ、脚本は「Xメン ファースト・ジェネレーション」のアシュリー・ミラーとザック・スタンツ。
主演の5人にデイカー・モンゴメリー、ナオミ・スコット、RJ・サイラー、ベッキー・G、ルディ・リン、ビル・ヘイダー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」)ブライアン・クランストン(「GODZILLA」「トータル・リコール」)、エリザベス・バンクス(「スパイダーマン」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ)。若者たちは無名だが脇はベテランで固めている。

遡ること時は紀元前。古代の地球で世界の運命を決する、大きな闘いが終焉を迎えていた。ある5人の戦士たちによって守られた地球。そこにはやがて新しい命が芽生え、物語は現代に還ってくる。

小さな町、エンジェル・グローブに、普通に暮らす5人の若者がいた。ありふれた日々を過ごす彼ら。しかし、運命に導かれるように出会い、やがて訪れる脅威に立ち向かう「新たな力」を手にする。
その力は、なぜ彼らに与えられたのか?


「仮面ライダー」が生まれて半世紀弱経つがこのアメリカ版「パワーレンジャー」のように、コピーと言うか亜流は未だ手を変え、品を変えて生まれている。

今日紹介するこの「破裏拳ポリマー」も変身すると体全体がアーマーで覆われ強い男が更に力を発揮する。「破裏拳」と漢字で書かれていると分からないが声に出してみると「ハリケーン」とアメリカの暴風雨を読み込んだカンフーテクニックをLA在住で前述TV版「Power Rangers」のアクション監督を務める坂本浩一が演出する。

タツノコプロの55周年記念作品だが、ハリウッド映画「Power Rangers」の日本公開が7月15日だから2か月前にアクション市場を席捲して花道を作ってやることが出来る。両作品に関係する坂本監督は嬉しい悲鳴だろう。

「破裏拳ポリマー」は43年1974年にタツノコプロがアニメで制作した同名の映画を本格アクション映画としてライブアクションにして活性化したもの。

映画の冒頭はLAのスラム街の地下の納屋。
賭け格闘技で連戦連勝の日本人青年、鎧武士(よろいたけし)(溝端淳平)。ジャッキー・チェンのように小柄ながら筋肉モリモリマンで倍以上もどでかい黒人やメキシカンの荒くれ者をカンフー技で倒して行く。

話は変わって、日本の警視庁と防衛庁。
特殊装甲スーツ「ポリマースーツ」を開発しているが、強い武芸者がスーツを身に着けると攻撃力が最強最大になってしまうことが危惧され、開発を中止してしまった。

核兵器の拡散防止で核兵器廃棄をするようなものだ。
そんなことは開発前から分かっていることじゃないか?何のために開発したのか?こういういい加減な前提は腹が立つ。

物語りはそこから始まる。
警視庁はポリマースーツの開発を再開するが、テスト版のスーツ3着の内2着が何者かに盗まれ、そして犯罪に悪用されてしまう。

実際、凶悪ギャング団「バルクール強盗団」がスーツを着用したポリマーレッグカスタムを引き連れ、白昼堂々銀行や宝飾店に乗り込み人を殺しまくって金品を奪っている。

スーツ奪還のため、手元に残る完全版ポリマースーツの使用を決めるが、スーツ着用するのは最強の者でなければならない。

警視庁の刑事部長、土岐田垣(長谷川初穂)が選んだのは最強拳法・破裏拳流の奥義を身につけた放浪のストリートファイターで今は帰国して探偵をしている鎧武士だった。

刑事部に警視庁科研から派遣されている美貌のリケ女、稗田玲(原幹恵)は
ポリマー研究者で、ポリマーの起動に必要となるのが、
鎧の声によるダイアローグコードだった。

そして鎧が唱えるのが「この世に悪のある限り、 正義の怒りが俺を呼ぶ!」

鎧に惚れて押しかけ探偵助手に南波テル(柳ゆり菜)。
原も柳もいろどりを添えるだけだと思っていたら稗田玲は飛んだ食わせものだと後で分かるが、
これも納得性が乏しい。

納得するのはリケ女の割に胸が大きく剥き出しでそそることだ。
案の定、刑事部の同僚で鎧に力を貸す来間譲一(山田裕貴)はメロメロだ。

しかし來間は真面目で臆病で凶悪犯に銃の引き金も引けないなんて刑事が居るかね?

スター俳優が誰も居ないのが淋しい。
主人公・鎧武士役の溝端淳平は「スワンシリーズ」で横浜の悪の端役で見ただけだ。
見事な筋肉マンやカンフーアクションはCGの助けを借りて披露する。

56歳の坂本浩一監督は前述のようにアメリカでスタントマンやアクション監督として「パワーレンジャー」など数多くの作品に参加し、帰国して日本で監督作として「仮面ライダーエグゼイド」「ウルトラマンX」などを手がけてきた。
アメリカ市場で「パワーレンジャー」の大ヒットの波及効果でこの映画も大きな波に乗れると良いのだが。

5月13日より新宿バルト9他で公開される。

「Don’t Blinkロバート・フランクの写した時代」(Don’t Blink)(アメリカ映画):幼い頃にスイスから移住し、アメリカを独特の視点で描写する90歳の天才写真家、ロバート・フランク

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この週末のアメリカでの興行成績が出た。エマ・ワトソンのベル、ダン・スティブンスの野獣を演じるこの映画、4210館で上映され僅か49%ダウンの88.3M, 国内10日間累積で317M(350.6億円)に達している。
これは10日間累積記録で歴代第4位になる。
 海外は51か国で373.3M、ワールドワイド総計で既に690.2M(763.3億円)。

 他の好調なKongやGet Out, Logan、The Lego Batmanなどと共に3月単月で未だ5日を残して、
アメリカ国内累積BOは1B(1106億円)の新記録。

そんな中で2位に入ったのが昨日のブログで予告した、日本オリジナルの「Power Rangers」(邦題「パワーレンジャー」:東映配給:7月15日より丸の内東映他で公開される)が3693館で行っても30M位だろうとの予想を大幅に上回る40.5M(44.8億円)と大健闘。

観客の60%は男性で、出口調査(CS)ではA評価、観客の30%は18歳以下で彼らの評価はA+

 日本と同じく、特別な力を与えられた若者たちが変身し、悪の軍団と戦うというもの。
アメリカで1993年のTVシリーズ開始から約20年の歴史を持つ「パワレン」(24シーズンを迎えて放映続行中)は著作権を所有するサバン・エンターテインメント・インターナショナが配給、日本の東映とライオンズゲイトの共同制作。

 総製作費100M(110.6億円)と日本で作るより100倍の予算だ。ハリウッドで培われたVFX技術とCGアクションの経験が、日本のスーパーヒーローに注力されアメリカ版「Power Rangers」が誕生している。
監督はディーン・イスラエルズ、脚本は「Xメン ファースト・ジェネレーション」のアシュリー・ミラーとザック・スタンツ。

 主演の5人の高校生は無名のティーネージャーたち。
レッド・レンジャーにデイカー・モンゴメリー、ピンク・レンジャーにナオミ・スコット、ブルー・レンジャーにRJ・サイラー、イェロ―・レンジャーにベッキー・G、ブラックレンジャーにルディ・リンの高校生5人が地球を守るために立ち上がる。

 他の大人役はベテラン俳優たち。
ビル・ヘイダー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」)、ブライアン・クランストン(「GODZILLA」「トータル・リコール」)。
悪役はエリザベス・バンクス(「スパイダーマン」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ)でエイリアン魔女役。


 このドキュメンタリ映画の監督、ローラ・イスラエルが先週金曜(24日)、外国特派員協会(FCCJ)で映画を上映した後Q&Aに応じた。

ローラが映画の冒頭、NYの下町で歩行者を捕まえて質問する。

街頭で写真家と言えば誰を思い出すかと言うインタビューに誰もロバート・フランク名前を言及しない。ローラはそれではフランクと言えばと誘導するが出て来たのは「あ、ロバート・キャパだ」と。

90歳になるロバート・フランクの名前は一般の人々には無縁のようだ。しかし、昔二足三文で売った写真がネットオークションで55万ドル(6160万円)で売れたと言う話も出て来る。もっとも彼の懐に入るのでなく買った誰かがオークションに出したので相変わらずロバートは貧乏だ。

ローラは小太りの老嬢だがロバートとは90年代から20数年来の付き合いがある。
ロバートは映画を何本か撮っているが、何れもローラとのコラボレーションだ。彼の二番目の妻、ジューン・リーフも顔を出すが、(美醜は別として)親しみと以心伝心で伝えるコミュニケーションは見事。

それだからこそこの記録映画はロバートの内面に入り込み、本音を引き出している。言葉使いもファッキングやマザー・ファッカー(あの糞野郎)なんて悪口が頻繁に出て来る。

1988年頃のインタビューの映像。NYの高層ビルを背景に質問に答えているうちにイライラして来る。「カメラの前でじっとしていられない。俺の仕事は撮ることであって撮られることではない」("I can't stand to be pinned in front of a camera, because I do that to people. I don't want it to be done to me!")スタスタと歩いて行ってしまう。フランクの性格を良く表している。

スイス生まれのロバートは少年時代に父から貰った一眼レフで忽ち写真の虜になる。このスイス時代の記録もちゃんと残っている。
クロニカル(年代順)にロバートを追う。NYに渡って来た青年時代、カメラマンとして成長を遂げたペルーへの旅、写真界に激震をおこした新技術を駆使した「The Americans」、ローリングストーンズと協働作業の1972年のドキュメンタリ「Cocksucker Blues」。

1958年にフランスで出版された「The Americans,」は9カ月間、アメリカを30週かけて巡り1万マイルを走破し767巻のフィルムを費消して27000枚の写真を撮った。アメリカの淋しい、取り残された、人種偏見に満ちた社会を描いて騒然とさせた。ある批評家はフランクの作品は病んだ人々をうたう哀しい詩」だと評している。

最初の妻メアリ・フランクとの別れた理由。2番目の妻ジューン・リーフとの出会い、ノヴァ・スコティアのマボウの小屋で淋しい独居生活。そしてビートニクな詩人、アラン・ギンスバーグやジャック・ケロウアックとの交遊。特にジャックには「The Americans」や「Pull My Daisy’s」のナレーションを書いて貰っている。

物凄いスピードでスナップショットのコラージュを使って足跡を振り返る。
その中に愛娘、アンドレアが1974年に飛行機事故で死亡したこと、知的障害を抱えた息子、パブロが1994年に亡くなったことも含まれる。

過去の映像や写真を除いて、「I hate these f***ing interviews」俺は糞インタビューは嫌いなんだよなと呟きながら、娘みたいに愛しむローラのインタビューは、フランクとローラの次の映画のコンセプトやスケジュールを記した黒板の前で行われる。粗末な事務所の窓の外にはNYの乱雑な下町の風景が広がる。

フランク・ロバートは知られざる天才写真家であり映画監督であることが良く分かる。

映画として良く出来ているが商業的に儲かるドキュメンタリではない。アメリカではローカルのフェスティバルやNYなどのアートハウスで上映されたが全国公開には至っていない。

このような公開をするのはドイツと日本だけだろう。

 4月29日よりBunkamuraル・シネマにて公開される。

「ノー・エスケープ 自由への国境」(Desierto)(メキシコ・フランス映画):焼けつく砂漠を徒歩で国境を越えて来たメキシコからの不法移民を狙撃銃と獰猛な犬で1人1人殺していく大酒飲みの愛国者・サイ

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アメリカのド田舎、インディアナ州ブルーミント生まれの67歳になる女流作家、カレン・ジョイ・ファウラー(Karen Joy Fowler)の自伝かと思わせる「私たちが姉妹だったころ」(白水社:2017年1月刊)はとても変わっていて面白かった。途中に予想だにしていないサプライズがあるからだ。

 主人公ローズマリー・クックの父はインディアナ大学の心理学教授で特に動物心理学を専攻している。

 古い8ミリフィルムを見ると、子どもの頃はお喋りだったローズマリーは成長するにつれ寡黙になる。
 物語を人生の真ん中から始めなさいと父親の忠告に従って次の8ミリ映画は父が撮った1966年の冬になっている。家族は父、母、私の3人で兄と最後に会ってから10年、双子の姉が行方不明になってから17年経っている。

めったに二人のことを思い出さないローズマリーはカリフォルニア大学デイヴィス校で5年目を迎えグダグダしていて未だ3年生だ。カフェテリアで食事をしていると若いカップルの喧嘩に巻き込まれ騒動の張本人の女子学生と一緒に警官に捕まり後に親友となる演劇科のハーロウ・フィールディングと出会う。

話を主人公の生まれた時に戻す。父は自分の家族をモデルにある実験を試みる。娘のローズマリーと数カ月前に生まれたチンパンジーのファーンを双子として育てる。二人は昼夜を分かたず一緒に過ごし、やがてローズマリーはファーンの気持ちを総て理解する代弁者になる。ローズマリーはチンパンジーの習性を身につけ、ファーンは自分は人間だと思い込んで育ってしまう。

ある日祖父母に預けられていたローズマリーが家に帰ってみるとファーンは居なくなっていた。
父は酒に溺れ、母は神経を病んで引き籠りになり、10歳上の兄ローウェルは家族に心を閉ざし、高校卒業間際に家出をし、愛する妹を慰めたい一心でファーンが送られた研究施設に侵入し、テロリストとしてFBIに手配される身となり以来行方が知れない。

アメリカではチンパンジーを家庭で育てる言語活動実験が盛んにおこなわれたらしいが幼いチンパンジーは子どもの頃は可愛いが大人になると猛獣化して手に負えなくなった実例が幾つもあるらしいが、それにしても家族を描くのに突拍子もないストーリー展開だ。
ローズマリーの大学時代から始まり、失踪の背景を探りながら過去の幼児期に何度も戻りながら遂にファーンに再会する現在に至る。家族の愛の崩壊と再生の物語だが荒唐無稽になりがちな複雑な話をユーモラスに読者に納得させながら運ぶテクニックは見事だ。元々カレン・ジョイ・ファウラーはSF作家のバックボーンを背負っている。

この小説は2014年にPEN/フォークナー賞を授与され、マン・ブッカー賞の最終候補となっている。



メキシコ=アメリカ間の砂漠の国境。
合衆国の4つの州とメキシコの6つの州は国境を接している。
そこには検問所を通って正規に出入国する人々が年間3.5億人いるが、貧困から抜け出すため合衆国で働きたいとパスポートも持たず密入国者が跡を絶たない。

第45代大統領のドナルド・トランプは就任早々の1月25日、「メキシコ国境の安全を確保するべく、物理的な壁をただちに建設、充分な人員による監視を行い、不法移民、違法薬物、人身売買、テロ行為を未然に防ぐ」と布告し、そのために3152キロに亘る壁(Great Wall=万里の長城)を建設し費用はメキシコ政府に払わせると宣言した。

この映画は2015年に制作されアメリカで公開されたので、時間的に大統領令は関係無く、そのテーマは全く別な所にあった。

しかし2年遅れて日本で公開スケジュールが組まれると大統領令のお陰で俄然注目が集まる。映画配給会社のPRマンはホクホク顔だ。

監督・脚本のホナス・キュアロンは父親のアカデミー受賞作「ゼロ・グラビティ」のように限られた条件や空間でのサバイバル・ゲームの作品を撮ろうと考えた。「ソウ」シリーズのような密室での手を変え品を変えての生存競争も面白かった。

アメリカとメキシコの国境は荒地で大きな砂漠が横たわっている。
具体的に名前は出て来ないがおそらくカリフォルニア州とアリゾナ州、メキシコのソノラ州の国境のソノラ砂漠だと思われる。日本の本州がすっぽり入る大きさだ。

 砂漠を徒手空拳で渡ると昼は50度を超え、陽が落ちる夜は氷点下の寒さに震える。だから熱中症、脱水症状、低体温症などで命を落とす。

まさにそんな条件でメキシコから密入国をはかるメキシコ人15人を乗せたトラックが砂漠を走っていた。国境を越えたところで突然故障。動かなくなったトラックを横目に警備隊に捕まらないようにアメリカの小さな町を目指して歩き始める。
 
不法入国を試みるモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)と15人の移民たち。有刺鉄線で出来た国境を越えて砂漠を歩いて決死の不法入国を試みる。

そんなとき15人の移民たちに突如襲いかかる銃弾。正確に頭を撃ち抜かれて次々と砂漠に血を吸われながら命を落として行く。
砂漠とて身を隠す場所も無い。
残った5人ほどを連れてモイセスは砂漠の丘陵を駆け上る。
誰が何処から撃ったのか襲撃者の正体は暫く分からない。

太陽がジリジリと焼き付けて摂氏50度。水なし。武器なし。携帯の電波も届かず通信手段なし。

襲いかかる正確な銃弾。襲撃者は正体不明。
やがて照準器付の狙撃銃を構えバーボンを飲み続ける初老の男、サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)。カウボーイハットに白髪交じりの揉み上げに口ひげ。典型的なレッドネック(南部田舎者)で愛国者だ。(こう言うレッドネックの支持を受けてトランプは当選した。

メキシコのマザーファッカー(糞たれ)どもを入国させるものかの信念に燃えるサイコパス。おまけにトラッカー(追跡者)と呼ぶ敏捷な黒いシェパードを連れている。チリジリに逃げたメキシコ人を嗅覚鋭く追跡し追いつくとジャンプして喉に噛みつき食い殺す。

照準器に捉え1人1人射殺し、姿が岩陰やサボテンに隠れるとトラッカーが追跡し嚙み殺す。恐ろしいコンビだ。

遂にモイセスと少女、アデラ(アロンドラ・イダルゴ)の二人だけになってしまった。隠れた場所はガラガラ蛇の巣だ。

二人の捨て身の反撃が観客を元気づけカタルシスを齎すが、冷徹なサイコパスにも最後は同情できるような余地を作る35歳の若いホナス・キュアロンの度量も見事だ。

主人公を演じるのは「バベル」や「恋愛睡眠のすすめ」などのメキシコを代表する美男俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。
大酒飲みのレッドネックのサイコパス、サムを演じるのはジェフリー・ディーン・モーガンでTVドラマで活躍していると言うが初めて見る。なかなか貫禄があって器用な役者だ。

 構想8年をかけてメキシコ=アメリカ間の移民問題を題材にした本作は第89回アカデミー賞外国語映画賞メキシコ代表に選ばれ、第40回トロント国際映画祭では国際批評家連盟賞も受賞している。

5月5日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開される。
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