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Channel: 恵介の映画あれこれ

「残された者-北の極地―」(Arctic)(アイスランド映画):厳寒の雪原の中サバイバルを賭けて筆舌に尽くし難い苦役の果てに男は希望の一筋を掴む

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 飛行機遭難事故の映画は数多くあるが、このアイスランド映画ほど変わった作品は初めてだ。
 アイスランド映画とは言うものの監督と脚本はブラジル出身のジョー・ペナが、
主演はデンマークの国民的俳優、マッツ・ミケルセン。
アイスランドはこの映画の原題の「北極」に近いと言うだけだ。
(ひょっとしてLAに本拠を置きハリウッドで活躍するプロデューサーのクリス・ルモールがアイスランド出身かも知れない)
 
飛行機遭難映画と言うが他の作品のように雪山にクラッシュするフラッシュバックは全くない。
映画が始まった時には名前も不詳の大男が雪山を彷徨っている。
ねぐらにしているのが墜落し破損しているプロペラ機だ。
それも単発の小さな飛行機だから客を運ぶ旅客機でないことは確かだ。
だから多分男はパイロットなのだろう。
彼の日常のルーティンは食糧を手に入れることと、雪に大きく「SOS」の文字を書くなど救助の手立てを作り待つことの2つだけだ。
ともかく生きながらえなければならない。
 
空腹になると氷を割りその下の川から魚を器用に釣って生身でむしゃむしゃ食べる。
火を起こす方法も無いし知らない。
 
セリフやナレイションも無い無言劇。
観客は自分で想像し補いながらバックグラウンドや状況を推測するしかない。
サービスの悪い映画だが、いつもよりスクリーンを一生懸命に見つめている自分を発見する。
監督&脚本家など制作者の思惑にまんまと引っ掛ってしまう。
それにしても遭難パイロットのオボァガードに扮するマッツ・ミケルセンの熱演は凄い。イケメンでない、どちらかと言うとモサイ髭面の醜男に
いつの間にやら極寒の北極の雪原に付き合わされている。
 
やがてヘリの音が近づく。救助に飛んで来たヘリコプターだ。
やれ嬉しやと手を振るが、あろうことかヘリは雪山にぶつかり墜落してしまう。
現場に駆け付けるが操縦士は息絶え、若い女性(マリア・テルマ・サルマドッティ)が重傷を負って口もきけない状態。
息も絶え絶えの自分が他人など救える状態でないと、見捨てて歩き出すが心暖かい男は見捨てることはできず墜落でヘリが沈んでいる大きな穴に降りて行き女性に手を差し伸べる。
極寒の白い荒野にたった一人取り残された男。彼を囲むのは、寒さ、飢え、そして肉食獣の大熊。

やがて、その孤独が終焉をむかえたとき、男は待つことをやめた。とどまることを捨てた。ここに留まることは「死」を意味する。
「座して死を待つより、生きることを求めて行動しよう」
破壊されたプロペラ機のねぐらを捨て動けない若い女性を即製の橇に載せ、救助を求めて山頂まで登ろうとする。自らの心の奥底に何を見るのか?今サバイバルを希求し、明日の「生」に向けて一歩一歩雪と氷を踏みしめて歩き出す。
は自らがそこにいたらどうするかなどを考えながら観ることが出来る体感型映画にもなっている。

 ブラジル出身の監督/脚本家、ジョー・ペナの演出をデンマークを代表する国際派俳優、マッツ・ミケルセンの熱演に引きずり込まれ息苦しい雰囲気のまま終盤に持ち込まれる
そして味あうエンディングのカタルシスにはリベンジを果たした気持ちで見終わる。
 
118日より新宿バルト9他全国公開される。


「愛なき森で叫べ」(日本映画):実録連続殺人鬼事件からインスパイアされた希代の詐欺師「村田」と映画を撮影しながら官憲の目を潜り抜ける犯人「シン」とのアンビバレントな愛憎を描く。

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 劇場では見られない、ネットのストリーミングで家庭のホームシアター用に制作された映画と言うのがある。詰まらない作品ならどうでも良いが今年のアカデミー賞受賞作品「ロマ」はNetflix配信映画なのだ。
今ハリウッドが一番敵視しているのはNetflixAmazon, Ufuruなどのオンライン・ストリーミング。映画人口のパイの大きさはほぼ決まっているので映画館に足を運ぶ観客の収奪戦をスタジオの間で繰り広げていたが、気が付くと大きな家庭のホームシアターの受像機で2Kや4Kなど密度が濃い画質の優れた作品が見られる環境になって来て、ストリ-ミングが映画人口を蚕食し始めた。
 
このことに最初に気付いたのがウォルト・ディズニー社会長のボブ・アイガー。すぐれが作品を制作できるスタジオとしての基盤を固めようとピクサーやルーカス・フィルム、マーベルを買収したのに続き90年の伝統を誇る老舗の20世紀フォックス社もこの6月で吸収合併してしまった。
ハリウッド産業の27%を占める巨大スタジオの誕生だ。
アイガ―会長をしてこれほどまでにウォルト・ディズニーを巨大化させたのは一重にオンライン・ストリーミングへの対抗である。
ストリーミングも体制が出来ても見たい作品が無ければ映画館に足を運ぶ。
しかし今年のオスカーやゴールデン・グローブ賞をそうなめにするアルフォンソ・キュアロン監督の「ローマ」のような作品がNetflixでしか見られないとなるとアイガー会長の危機感は杞憂では無いと分かる。
幸い日本ではシネスィッチ銀座で上映されたので見られたが。
 
僕の信念では映画館の大スクリーンで見ない限り映画では無い、と思っていたが上述のように4Kの画質で大きなモニターに配信されるストリーミング作品は映画として観客を映画館に行くのを足止めする。
問題は「ローマ」のような佳作が次々と制作され配信されるかどうかにかかっている。
 
去る6月25日に日本橋室町のマンダリン・オリエンタル・ホテル東京のバンクェットルームで開かれた「Netlixオリジナル作品祭」で今後のスレート発表があった。
蜷川実花監督が中谷美紀や池田イライザを従え監督作品「フォロワーズ」のトークショーを見た。せめてトレーラーでも見せてくれれば良いのにお喋りの中身が分からないい。
他にも山田孝之が主演映画「全裸監督」について語った。
しかしこの秋のNetflixオリジナル作品の目玉は園子温監督の「愛なき森で叫べ」に尽きる。
「愛なき森で叫べ」は、園監督が「冷たい熱帯魚」(2011)、「恋の罪」(2011)と同様に、実際の猟奇的殺人事件からインスパイアされた、狂気と愛憎が渦巻く戦慄のサスペンス・スリラー。
世界中でまん延している猟奇的殺人事件の被害者の姿や、彼らが加害者に転じてしまう人間社会の恐ろしさと闇を、園監督ならではのユーモアとバイオレンスを交えて描いていく。
僕は10年ほど前「愛のむき出し」と言う6時間の映画を見て園とその作品を愛し尊敬し始めた。並みの監督では無い。親から与えられる愛情がほぼ完全に欠如した状態で育ち、その空虚感を埋め合わせるために変態行為、暴力、宗教などに走る若者たちの姿を描いた。浅田次郎のデビュー作「ゲルマニウムの夜」に通じる、エスタブリッシュメントをはなから否定する傍若無人の映画だった。
その後東北大震災をテーマの作品や「リアル鬼ごっこ」などSF映画も悪く無いが、猟奇殺人事件を題材にした「冷たい熱帯魚」「恋の罪」などに引き続き登場する村田、美津子、妙子、シンといった同じ名前のキャラクターにすっかり愛着を覚える。
「冷たい熱帯魚」では、でんでんによる元祖「村田」が狂気に満ちた芝居で存在感をアピールしたが、この作品で椎名が演じる「村田丈」は、軽妙な話術で人の心を操りながら、人を人と思わぬ冷酷な殺人を演出する映画狂の詐欺師に度肝を抜かれる。大げさな言動や誇大妄想な嘘で相手を煙に巻くが、自分では殺傷に手を貸さず徹底した自己中心的なキャラクターを演じきっている。
基本的にはこれはピカレスク映画で主人公、村田丈は骨の髄まで悪漢なのだ。
天才的詐欺師の村田丈(椎名)をは人たらし。世間を騒がせている「連続射殺魔」事件の最中に上京してきた謎めいた青年・シン(満島真之介)や、村田のターゲットとなる尾沢茂(でんでん)、アズミ(真飛聖)、夫妻の他、長女の妙子(日南響子)、次女の美津子(鎌滝えり)といった被害者たちも村田を好きになり、次々と餌食になる。
感電させたり水に漬けたり首を絞めたりメチャクチャな拷問の末に殺した死体の処理をじっくりとカメラを追う。鉈で死体をバラバラに切断し、大鍋でグツグツ煮て柔らかくしてからミキサーにかける。乳状になった物を味噌でまぶして肉団子にし一個ずつ湖に捨てる。村田は殺しにしても死体処理にしても自分の手を汚さない。全て#2のシンに任せる。園子温に必ず登場する詐欺師「村田」を椎名桔平は手慣れた芝居でこなしている。
2時間41分の長尺を全く飽きさせず、詐欺師「村田」と映画を撮影しながら官憲の目を潜り抜ける犯人「ン」とのアンビバレントの愛憎物語に堪能する。


監督・脚本は園子温、 プロデューサーは武藤大司。
出演は椎名桔平、満島真之介、YOUNG DAIS、長谷川大、真飛聖、でんでんの他、新人の日南響子、鎌滝えりの二人は絡みのシーンや拷問の場面でたっぷりヘアヌードのサービスがある。

Netflixにてこの秋よりストリーミング配信される。劇場公開は無い。

「アナベル 死霊博物館」(Annabelle Comes Home)(米映画):超現象研究家、ウォーレン夫妻の地下の保管室に呪いの凶悪人形「アナベル」が厳重に鍵をかけたガラスケースに閉じ込められていた

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 アメリカでは626日より公開された「アナベル 死霊博物館」は「死霊館」のスピンオフとなるホラーシリーズ第4弾。
3613館で上映され20.4M(22億円)は「死霊館」4本の中で最低のデビュー週末の興行成績だ。プレビューを入れて5日間だと31.2M.33億円)

シリーズものの金属疲労(FranchiseFatigue)は夏の大作ばかりでなくホラー映画の分野にも及んでいる。

 
公開されて4週間経った現在、ワールドワイド総計は$134.8M(141億円)に達し安い制作費の作品だから大幅な利益を出している。
 
ウォーレン夫妻は自宅地下に呪われた品々を厳重に保管していたものの、夫妻の留守中、娘ジュディの世話をするためにやってきた昔の家庭教師とその友人がアナベル人形の封印を破ってしまう。解き放たれたアナベルの力によって、ありとあらゆる展示物に死霊が憑りつき、少女たちに最恐の呪いが襲い掛かることになる。
 
2013年公開のオリジナル「死霊館」に初登場した「アナベル」は、アメリカ・コネティカット州にある博物館で実際に保管されている呪いの人形。

現在もなお月に2回ほど、神父による祈祷が行われているというアナベル人形は、その恐ろしい誕生と経緯について、「死霊館」に続く「アナベル死霊館の人形」(2014)、「アナベル 死霊人形の誕生」(2017)で描かれている。

 
そんなアナベル人形が再びスクリーンにカム・バック(Comes Home)する「アナベル 死霊博物館」は、「死霊館」と「アナベル」を繋ぐ重要な位置づけとなる作品、原点帰りのスピンオフとみても良い。
かつてある夫婦を恐怖のどん底に陥れたアナベル人形を、「死霊館」シリーズお馴染みの超常現象研究家のエドとロレインのウォーレン夫妻が引き取ることからストーリーは始まる。
アナベルを後部座席に乗せてコネチカットへ向かう森の中の曲がりくねった道路で車が故障したり、暴走して来た大型トラックに跳ねられそうになったり、「アナベル」の祟りは既に始まっている。
自宅の地下の保管室は、ウォーレン夫妻がこれまで回収してきた「死霊の呪い付き」の禁断の品々が封印されて眠る場所。その中でも強大な呪いを持つアナベル人形は、ゴードン神父の立ち合いのもと、ガラスケースの中に厳重に封印された。
時々日本語が聞こえる。保管室にはこれまでのシリーズで回収された幾つものアイテムがある。オルゴール、アコーディオンを抱えたトイ・モンキー、そして大きなサムライの鎧だ。日本語はこの鎧のつぶやきだ。
 
ウォーレン夫妻は所用で一晩留守にしなければならなくなる。夫妻の愛娘のジュディ(マッケナ・グレイス)が淋しいだろうと留守宅のもとに元家庭教師だったメアリー・エレン(マディソン・アイズマン)と一緒にやって来たクラスメートのダニエラ(ケイティ・サリフ)によって、アナベル人形がガラスケースから保管室の中に放たれてしまう。
あらゆる展示物に夥しい死霊が憑依したその保管室は、まさに「死霊の博物館」と化してしまう。逃げ場のない館で、狙われた少女たちに最恐の呪いが襲いかかる
ウォーレン夫妻役は、「死霊館」のシリーズ3本と同様、パトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが続けて出演してシリーズを繋げるチェーンの役割を果たしている。
そしてウォーレン夫妻の一人娘であり、今回主人公となるジュディ役を、ギフテッドや「キャプテン・マーベルに顔を出している子役、マッケナ・グレイスが演じるが金髪のお人形のように可愛い。
監督・脚本を務めるのは、ホラー映画史上No.1のヒットを記録した「IT/イット 『それ』が見えたら、終わり。」のゲイリー・ドーベルマン。

また、「ソウ」や「死霊館」シリーズの他「ワイルド・スピード SKYMISSIONアクアマン

」など大ヒットさせた中国系のジェームズ・ワンがストーリーと製作を担当する。
 
この充実した有能なスタッフの手にかかると、やはり怖い映画に仕上がっている。
 
920日よりTOHOシネマズ日比谷他IMax/4Dなどで全国公開

「王宮の夜鬼」(Rampant)(韓国映画):韓国のゾンビは政治に関与し王宮を支配しようとする悪人が操る。敏捷で噛まれると白目になる怖ろしい死人。韓国映画ファンを満足させるスリルとホラーに満ちている

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昨夜渋谷ショウゲイトでの試写が5時前に終わったので渋谷再開発で駅前の246沿いのビル群が殆ど工事中になっている中、贔屓にしている
焼肉の「台所家」に行ってみた。
1カ月振りだが若い店主は歓迎してくれる。ここの和牛上カルビ、「ざぶとん」は最高でそれにビビンパとキムチで満足、満足。6時までハッピアワーは火ボールやサワーの類は88円。
韓国料理も韓国人も今日紹介する韓国映画も一流でぼくの好みに合っているが、慰安婦、徴用工、レイザー照射に続く軍事同盟GSOMIAの破棄と文大統領は気でも狂ったか。
 
1997年僕はソウルで休暇を取っていた。明洞の映画館の前にデモ隊がピケをはり大ヒット作「タイタニック」に入ろうとする観客をおし止める。
国家存亡の秋にアメリカ映画なぞ見て貴重な外貨を費消するな、と言っている。
97年国家と日本して二進も三進も立ちいかなくなり「デフォルト」を宣言し国際通貨基金(IMF)の管理下に入った
11月公開のIMF管轄下の韓国を描く「国家が破産する日」を見て猛省を促したいね。
 
だが上述のように韓国食と韓国映画は大好きだ。
今はゾンビ映画が世界的流行だが韓国ではゾンビなどと安易な言葉を使わない。
この映画では「夜鬼」だ。
2年前にソウルから釜山へ向かう新幹線がゾンビに汚染され乗客乗員の逃げ惑う「新感染ファイナル」が面白かったが
今回は時代を朝鮮王朝に戻している。
役者が良い。
まだ若いが作品ごとに見事な変身でヒットを生み出し続けるヒョンビンと、5度の青龍映画賞を受賞したベテラン俳優チャン・ドンゴンの豪華2大スターが競演。
剣を自由に操っるヒョンビン演じる王子の強烈なアクション、と絶対悪の鋭い眼差しのチャン・ドンゴンの対立を軸に壮烈なアクションが展開される。
 

咬まれると白目になり牙が生え、人の生き血を求める“夜鬼”へと豹変する謎の感染爆発が蔓延する朝鮮時代。存亡の危機に陥った朝鮮に帰還した王子イ・チョン(ヒョンビン)は、至る所にはびこる夜鬼の群れと戦う朝鮮随一の武官パク従事官(チョ・ウジン)らと出会い、成り行きで彼らと行動を共にすることになる。

一方、国を掌握しようと企む国王の側近である絶対悪キム・ジャジュンは、国家転覆を謀り、夜鬼を利用して最終手段に打って出る。


本作の主演を務めるヒョンビンは、「コンフィデンシャル 共助」では韓国との初の共助捜査に挑む北朝鮮の刑事、「スウィンダラーズ」では詐欺師のみを騙す詐欺師など作品ごとに成長を見せている。

04年の「ブラザーフッド」で釜山映画祭で食事をして以来ファンになっているチャン・ドンゴンと二人が揃う映画は見逃せない。
監督はスリリングな「コンフィデンシャル」を撮ったキム・ソンフン。
西洋のゾンビと違い素早い動きで噛みつく夜鬼は恐ろしい。
「新感染」「夜鬼」と続く伝染し感染するとんでっも無いバイキンのシリーズは佳境に入ったが
前作に比べ夜鬼はおぞましくなったがストーリーが平板で盛り上がりや捻りに欠ける。
 
920日よりシネマート新宿他で公開される。

「最高の人生の見つけ方」(日本映画):バカにして見始めた同病相憐れむ友情のはハリウッド版名作のリメイクは本歌を凌駕する感動の作品に仕上がっている。

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2007年の同名のアメリカ映画のリメイク。
無茶なことをやるな、ダメに決まっている、と思った。
大富豪の実業家ジャック・ニコルソンと整備工場のメカニックモーガン・フリーマン主演、ガンで余命幾ばくも無い
 
初老の男2人がのこりの僅かな人生を希望に満ちた時間ですごす人間讃歌。
アカデミショウ受賞の2人の名優に監督は「スタンド・バイ・ミー」などの名匠ロブ・ライナー。
病室で知り合った2人がひょんなことから意気投合し、「死ぬやりたいことリスト”に基づき、残りの人生を生き生きと駆け抜け遺灰をエヴェレスト山頂に埋める。笑って泣いた感動の名作だった。
 
ところがこの作品を見て驚いた。
吉永映画としてこの30年では最高の傑作ではないか。
本が良い。
オリジナルを換骨奪胎し完璧に翻案したものを吉永と天海に宛書きしたスクリプトが最高の出来栄えなのだ。
 
大富豪のニコルソンと一介のメカニック。白人と黒人。そんなはっきりした識別差別は、この日本映画にない。

人生のほとんどを家庭のために捧げてきた糞真面目な主婦・幸枝(吉永)と、貧乏のどん底から女手ひとつ、仕事だけに生きてきて今では大金持ちの女社長・マ子(天海)。病院で出会った二人はレベル4で余命宣告を受けている。
どちらも一生懸命に尽くしたのに家庭は恵まれていない。
 
幸枝の亭主(前川清)はぐうたら、息子は引き籠り、娘(満島ひかる)は妊娠している。
マ子は亭主(賀来賢人)を副社長に抜擢したのに若い女と浮気をし会社の金を使い込んでいる。
幸枝とマ子は病院で偶然に出会う。
余命幾ばくも無い二人は「同病相哀れむ」
すっかり意気投合し友情を深めるが,
家庭を振り返って初めて人生に空しさを感じていた彼女たちがたまたま拾ったのは、
入院中の少女が書いた「死ぬまでにやりたいことリスト」だった。
 
最初はロスアンジェルスで「スカイダイビング」.
幸枝とマ子は、残された時間をこのリストに書かれた突拍子もないことすべてを実行するために費やす決断をし、自らの殻を破っていく。
昔子どもの自分を捨てた父親に会ったり、絶対に不可能だった鉄棒の「逆上がり」にトライするマ子。
圧巻はどうしても着たかったウェディングドレスを着て改心した亭主と二度目の結婚式を挙げる幸枝。
これまで決してやらなかったことを体験していく中で、気づくことのなかった生きる楽しさと幸せがユーモラスに描かれる。
 
監督は「ジョゼと虎と魚たち」「眉山」「のぼうの城」などで知られる犬童一心。
浅野妙子と一緒に書いた脚本の出来が良くリメイクをオリジナルのレべルまで高めた。
 
老婆心ながら「死ぬまでリスト」の少女を最後に登場させたのは「蛇足」だった。
 
バカにして見始めた同病相憐れむ友情のリメイクはひょっとして本歌を凌駕する感動の作品にまで仕上がっている。
 
1011日よりTOHOシネマズ日比谷他全国公開される。

「お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~」(Note Book from My Mther)(韓国映画):認知症になった母親が残した一冊の料理帖。言葉にできない気持ちを料理に代え母は長い人生を歩んで来た。

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  タイトルから母親が秘伝のレシピを息子に教える料理の映画だと思っていたが,嬉しく裏切られる。
実によくできた「母子モノ」で、一子相伝の料理法などは重要だが物語の添え物に過ぎず、映画も終盤に入ると涙そうそうだ。


女手ひとつ、住宅街の片隅で三十年も続く惣菜店と二人の子供を懸命に守ってきた母・エラン(イ・ジュンシル)。

しかし長男,ギュヒョン(イ・ジョンヒョク)は大学の万年非常勤講師。教授の座を求め10年間あの手この手で攻めるが全くダメ、生活能力もなく妻に頼りきり。
夫に代り生活費を稼ぐスジン(キム・ソンウン)はそんな亭主に仕えている。
エランは孫の世話まで見なければならないことも多く、亡くなった自分勝手な旦那の影を息子ギュヒョンに見てはつい小言ばかり言ってしまう。
それでも、家族のためなら昼夜を問わず料理を作る。そんな平凡な日々をいつものように送っていたエランだが、予想もしなかった認知症の症状が現れはじめ、子供たちの荷物にだけはなりたくないと老人ホームに入る前に、薄れていく記憶の端を掴もうとする。そしてせっせとレシピをイラスト入りで手帖に書き留める。


ギュヒョンはついに母を介護施設に預け、店の片付けをしていると、客がお惣菜を求めて次々とやって来る。

近所の人たちでは無い。遠いところから車に乗って列車を乗り継いでやって来る。
客は店が無くなりエランが介護ハウスに入ると聞くやパニックに捉われる。
子どものアトピーが治ったとか胃がんが消えたとか聞くとギュヒョンは単なる耄碌ばあさんだと思っていた母親の意外で偉大な顔を見出し驚く。
お惣菜というがエランの売り物は長い間熟成させた酵素系食品でアトピーやガンにも効くことを初めて知る。
 

店の押し入れに分厚い一冊のノートがあった。そこには自分や孫に宛てた自家製レシピと、家族への想いが切々と綴られているのだった.
そこには認知症の母が遺した料理帖から溢れ出る、家族への切実な想いが切々と綴られている。

 
幼い時に湖で溺れたギュヒョンの兄と他所の子と間違えたり、認知症独特の哀しいお笑いを交えてエラン婆さんを嫌がる介護ハウスへ入所させたのは間違いでは無い、と確信しつつ教授昇格面接を受けているギュヒョンは突然面接を受けずにがらんどうのエランの総菜店へ戻る。そして介護ハウスからエランを引き取る。
「これからは息子の俺が婆ちゃんのお惣菜を作る。料理法と素材を教えてくれ」
足の引っ張り合いや相手を蹴落とすことばかりの大学教員生活などは
エラン婆さんに総菜店に比べれば何と世の為人の為になるのだろう!
介護ハウスのプレッシャーを脱したエラン婆さんも料理に向かうとボケなぞ吹っ飛ぶ。
 
「犬泥棒完全計画」で注目を浴びたキム・ソンホ監督が実体験を元にしたというリアルな演出。
思わず親の顔を思い浮かべてしまう厳しい小言、机に並べられる実家の料理の暖かさ、そしてどうしても向き合わなくてはならない家族のトラブル「。
料理帖が繋ぐ、記憶の断片、家族への愛。
 
エラン役は「新感染 ファイナル・エクスプレス」などにも出演している、キャリア50年以上のベテラン女優イ・ヒュシル。
「犬どろぼう完全計画」などのキム・ソンホ監督と脚色は自分の実体験を元にしたというリアルな演出の通り、思わず親の顔を思い浮かべてしまう厳しい小言、机に並べられる実家の料理の暖かさ、そしてどうしても向き合わなくてはならない家族の問題。料理帖が繋ぐ、記憶の断片、家族への愛。
 
52回大鐘賞の監督賞部門にノミネートされるなど、優れた演出力を認められた。
そして第3回ソウル国際料理映画祭のオープニング作品に選ばれ「映画と料理が与えてくれる心の癒しを分かち合える作品」と賞賛された。
トが。そこには息子や孫に宛てた自家製レシピと、家族への想いが切々と綴ら
913日よりアップリンク吉祥寺他で公開される。

「サラブレッド」(Thoroughbreds)(米映画):親友同士のプレップスクール女子中学生のアマンダとリリーは私生活にまで口を出す継父マークの完全殺人を企む

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 NYの郊外コネチカット、富裕層の住宅街で長年疎遠だった幼馴染みの親友同士、アマダ(オリヴィア・クック)とリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)はプレップ・スクールの同級生として再会する。二人ともティーネージャーの楚々ととした美しさを讃えながら性格tなるとガラリと変わる。

アマンダは感情が無くよそよそしく無表情,リリーのパパの葬式でも涙ひと付零さない。それに反してリリーは感情的で社交的、アマンダもそうなりたいと思っている。リリーはアマンダの一切の感情を持たずに行動できる能力を羨んでいる。
宮殿のような豪邸に住みながらリリーは不満とフラストレーションで爆発しそうなのだ。
リリーの富裕な義父、マ-ク(ポール・スパークス)には我慢出来ない。母と一緒の3人暮らしなので私生活にまで口を挟んで来る。
マークをそれ程憎んでいることがアマンダにもわかったことから、2人は更に心を通わせ、友情を深めていく。
そして、殺害計画を練るうちに自身の中の凶暴性をあらわにしていく。
完全犯罪でなければならない。折角殺したのに刑務所へ入れられて自由を奪われたくない。
 
誰かに実行させようと2人は、土地のチンピラでドラッグを細々と売っている(2gで120ドル)の小者、ティム(アントン・イェルチン)を雇い殺害を依頼するが「被害海岸一のマフィア」のなると豪語しているくせにビビッて逃げてしまうのがオカシイ。
いつもはホテルの駐車係りをしている小心者のイェルチンはコミカルな芝居を見せて笑わせる。この撮影後事故で死んだロシアの若者を惜しむ。

リリーが殺したら因果関係がはっきりしているから直ぐ疑われる。その点「動機」が無いアマンダはヒチコックの「見知らぬ乗客」のように疑惑n目を向けられない。
 
アマンダ役を演じたのは、「レディ・プレイヤー1」でヒロインに抜擢され主人公のプレップスクール生徒を大胆にこなすオリヴィア・クック
リリー役には、「スプリット」で注目され、この作品でもストーリーを引っ張るアニャ・テイラー=ジョイ
そして、エンドクレジットで献辞を捧げられている本作が遺作となったアントン・イェルチン。
 
ニューヨークで演出家・劇作家として活躍していたが、この作品がデビュー作となる新人監督コリー・フィンリーがスタイリッシュにティネージャーの殺人事件を描く。
サンダンス映画祭観客賞を始め、ゴッサム賞脚本賞やインディペンデント・スピリット賞新人脚本賞など、インディペンデント作品を対象とする映画賞に多数ノミネートされた斬新な感覚のサスペンス。
ちょっと気負い過ぎてよりスタイリッシュにしあげようとしているがこれで充分だ。
楽しめる少女ピカレスク映画になっている。
 
927日より新宿シネマカリテ他で公開される。

「真実」(The Truth)(日本映画):是枝裕和監督はフランスの大女優・カトリーヌ・ドヌーブを主人公に据えてパリ郊外の邸宅でテーマ、「家族の絆」を解析する

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 2019828()、第76回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門 オープニング作品として公開された。
「世界三大映画祭」と呼ばれる歴史深い本映画祭で、日本人監督作品がコンペティション部門のオープニング作品に選ばれるのは大変栄誉なことだ
だからSNSへの書き込みは28日過ぎるまでダメとのお達しで今日までブログは控えていた。
 
是枝裕和監督が何故日本を離れ、登場人物は総て外国の俳優を使いこんな映画を撮ったか分からない。
僕は「歩いても、歩いても」を筆頭に「海街Diary」「万引き家族」「そして父になる」など是枝作品は総て好きだが、それはあくまでも日本人の家族の親和力であり家族を結ぶ絆であり家族をシェアする感情に感動を覚えたからだ。
 
同じように家族を描くのにフランスの大女優を軸に自伝本の刊行で起因する波乱や確執などは違和感を覚えるのでないかとの予感は当たる。
 
物語は国民的大女優、ファビアンヌ・ダンジェヴィル(カトリーヌ・ドヌーブ)が「真実」(La Verite)と言う自伝本を出すことから始まる。
一家の内情を描いているから一大事だと、パリ郊外のファビエンヌの森に囲まれた瀟洒な邸宅におっとり刀で全員集まって来る。
その日に刷り上がったばかりで誰も目を通していない。
元亭主で尾羽打ち枯らしたピエール(ロジェ・ヴァン・オール)などは当然自分の描写があるのだから著作権料を貰いたいと現れる。
「あんたは本の中では死んだことになっているから何も無いわよ」と言われ退散する姿には笑える。
 
ハリウッドで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエッタ・ビノシュ)は夫のTV俳優、ハンク・クーパー(イーサン・ホーク)と7歳の娘シャルロット(クレモンティール・ググルニエ)を連れてパリの実家へ戻って来る。

迎える長年の秘書リュック(アラン・リボル)と現在のパートナーで「料理専門」のジャック(クリスチャン・クラエ)だ。大女優は一人では暮らしていない。
読み終わった翌朝、リュミエールは機嫌が悪い。
「この本の何処に『真実』があるのよ」
「小さい頃学校まで迎えに行った」なんて真っ赤な嘘だ、と決めつけるリュミエールに「真実なんて退屈だわ」と嘯くファビアンヌ。
「何で一度もライバルで親友だったサラおばさんの名前が無いのよ!」
サラが亡くなって「更の再来」と評判のマノン(マノン・クラヴェル)が主演だからと次の作品にファビアンヌは出演することが決まっている。
秘書のリュックはあれだけ盡したのに「一度も自分の名前が無い」のは
「人生を否定された」と辞職し娘に秘書をやってくれるように頼み込む。
一冊の「自伝本」が「真実」を伝えていないと持ちあがる騒動に
泰然と対応する大女優ファビエンヌは興味深い。
そしてこの「自伝」は、次第に母と娘の間の愛憎渦巻く「真実」をも露わにして行く。
 
是枝監督は「人生とは何か」を語りたいと思うのだが、やや舌足らずの面があり観客は戸惑い頭を傾ける。
 
主人公・ファビエンヌには、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」などで日本にもファンが多い76歳のカトリーヌ・ドヌーヴ。映画の中のイメージと重なる「国民的大女優」は威風堂々としている。
娘・リュミエール役に「ポンヌフの恋人」や、アカデミー助演女優賞を勝ちとった「イングリッシュ・ペイシェント」の55歳になるジュリエット・ビノシュ、
娘婿・ハンク・クーパー役は、「恋人までの距離」三部作や「6才のボクが大人になるまで」でアカデミー賞助演男優賞にノミネートのイーサン・ホークが務める。出番は少なく役柄としては重要では無いが一番印象に残っているのは僕のハリウッド好きの所為だからか。
それにしてもヨーロッパでは秋にかけて順次一般公開が決まっているが、アメリカで上映されるかどうかがペンディングになっているのが気になる。
 
1011日よりTOHOシネマズ日比谷他全国公開される。

「毒戦」(Believer)(韓国映画):巨大麻薬組織のボスとして悪名は天下に鳴り響くが誰一人としてその顔も本名も知らない麻薬王「イ先生」。麻薬取締局のウォンホ刑事は長年にわたって行方を追い続けていた

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 こんなにホッとしたことは最近無かった。
NPO法人「子どもに笑顔」として兎唇の子どもたちに無料手術を行うためミャンマー・ヤンゴンに送り出した8人の日本人医師団の内6人が初日に倒れたのだ。
素人の僕が現地へ飛んでも役に立つ訳でも無し,ヤキモキしていたが今朝7時前に無事成田へ着き成田へ着いたとのメイルを医師団チームリーダーのH先生から受け取った。
初日こそ6人が寝込む程だったが(多分食あたり)、一晩で全員体調を持ち直し2日目から施術を行い100人近くの子どもたちの手術に成功したと言う。
ぼくも6年程昔に注意して水を飲まなかったがコークに氷を入れたのが間違いで腹痛に七転八倒した苦い思い出がある。
お医者さんや看護師が8人もいるのだから大丈夫と思いながらそれでも「無事全員帰国」の報を聞くまでは落ち着かなかった。
 
それでも世の中「不慮の事故」と言うものがある。
今日紹介する韓国映画「毒戦」の準主役キム・ジュヒョクへの献辞がエンドマークに流れると身が引き締まる。
映画は17年夏にクランクアップしたが、その直後の20171030日に交通事故によって亡くなりこの作品が遺作となってしまった。
享年45歳、演技に油が乗りこれからの韓国映画界を背負う矢先の悲劇だった。アホな大統領には「不慮の事故」は起こりそうもない。「悪い奴程よく眠る」
本作が遺作となった故キム・ジュヒョクへは第39回青龍映画賞、第55回大鐘賞映画祭で助演男優賞が授与された
 
さて物語は、巨大麻薬組織のボスとして悪名をとどろかせながらも、誰一人としてその顔も本名も経歴も知らない麻薬王「イ先生」。
麻薬取締局のウォンホ刑事(チョ・ジヌン)は長年にわたって行方を追い続けていたが、未だにその尻尾すらつかめずにいた。
ところが秘密の麻薬工場が謎の爆発事故の直後、焼け跡に駆けつけた刑事ウォンホの前に組織の後見人オ・ヨンオク(キム・ソンリョン)と組織に捨てられた組員ラック(リュ・ジュンヨル)があらわれる。
彼らは進んで刑事に協力を申し出て彼らの手引きでアジア麻薬市場の大物ジン・ハリム(キム・ジュヒョク)と組織の隠れた人物ブライアン(チャ・スンウォン)に接触する機会が与えられる。
大物に会いさえすれば、その実態に関する決定的な証拠を見つけることが出来るのだ。
 
ストーリーは至ってシンプルと言うか、先が読める程クリシェに満ちているが、見世物は単純な麻薬王との戦いを如何に派手に華々しく展開するか、と言うアクションだ。拳銃は当たり前、軽機関銃や迫撃砲、ロケット弾や手りゅう弾など重火器での死闘の過ごさったら無い。勿論、国技のテコンドーを駆使しての肉弾戦もありだ。
 
2012年香港のジョニー・トー監督作「ドラッグ・ウォー 毒戦」を、「お嬢さん」の脚本家チョン・ソギュンの大胆な脚色でリメイクし、韓国で動員500満人を超える大ヒットを記録したノワールサスペンス。
 
主人公には42歳のチョ・ジヌン。「お嬢さん」「タクシー運転手 約束は海を越えて」や「工作 黒金星」などキャリアは申し分が無いベテラン、執念の麻取刑事を熱演している。
そして注目は「グローリーデイ」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」などに顔を見せている32歳の新鋭のリュ・ジュンヨル。組織に捨てられた負け犬ラック役の熱演は見事だ。
組織の謎の人物で残虐なクリスチャンを演じたブリアン理事役のチャ・スンウォンや闇マーケットを牛耳るボスを圧倒的な存在感で演じた故キム・ジュヒョク。
そして名犬「ライカ」も忘れてはいけない。
登場人物が特異でストーリーにドンでンやクライマックス、そしてカタルシスを齎す2時間を超える長尺だが充分に堪能させる。
 
104日よりシネマート新宿他で公開される。

「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」(The Hummingbird Project)(米映画):株式の高頻度取引勝つため、カンザスからNYの1600キロを一直線でケーブルにを施設し

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株の取引はミリ秒(0.001秒)単位の差で、莫大な損得が発生するので、ヴィンセントとアントンのトレス・サッチャー社もそのレイテンシー(遅延)を減らすべく、システムを構築することに血眼になっていた。トレス・サッチャー社では、マイクロ波タワーの建設や光ケーブルを計画中だが、巨額となる予算などに難航していた。
ヴィンセント・ザレスキ(ジェシー・アイゼンバーグ)と、従兄弟のアントン(アレクサンダー・スカルスガルド)は、ニューヨークで株の高頻度取引を進めるそのトレス・サッチャー社で働いていた。 。
ヴィンセントが思いついたのは、カンザス州にあるデータセンター近辺と、ニュージャージー州にあるNY証券取引所のサーバーまで、1,600kmの直線距離に光ファイバーケーブルを敷くことだった。シカゴとニューヨークの間での最短アクセスが可能になり、大金をもたらすという仕組み第一。
カンサスからNYの1600KMを一直線に通信回線を設置し0.0001秒短縮できれば他のコンペティターを出し抜いて年間500億円を超える利益を上げることが出来る。
その0.0001秒とはスズメバチ(ハミングバード)が一回羽ばたきをする時間だと言う。従ってこの設置計画を「ハミングバード・プロジェクト」と呼ぶ所以だ。
 
2008年リーマン・ショック後は政府の規制が強まり、大手金融機関はどこも巨大リスクを賭けて荒稼ぎ出来なくなった。
その隙に乗じて、最先端マシンに超高速で売買を大量に実行させる「高頻度取引」がアメリカで台頭してくる。ライバルを出し抜こうと、瞬速を極限まで高めた結果、勝率100%の「先回り」で巨富を独り占めにする企みが生まれた。

「タイムマシンで未来へ行き、当選番号を知った宝くじを、今買うようなもんです」
主人公のヴィンセントは、そう囁いて投資家を誘う。

株式市場の総本山、ニューヨーク証券取引所と、1,600㎞離れたカンザス州のデータセンターを、最短の一直線でつなぐ専用回線を敷くプロジェクトだ。
完成すれば、回線を独占する投資家は、0.001秒(ミリ秒)だけ時間が短縮できる。他の回線で送られる注文よりも、先回りで大量に売買すれば、濡れ手に粟の大儲けになるというわけだ。
投資家は「君はイカレてる、だが面白い」と手ごたえがあった。
かくて2011年、野心家のヴィンセントと、従兄弟でオタクの天才アントンが組んで、0.001秒速い光ファイバー回線を極秘で敷設する「ハミングバード・プロジェクト」が始まった。
だが、艱難辛苦の連続である。野越え、山越え、川越え、住宅地も農地も牧場も委細構わず、ただ一直線に地下に直径10㎝のパイプを敷いていくのだ。予定地の地主は一万件、札束で顔をはたき、国立公園は政治に頼って、壮大な地上げを敢行する。その奇抜な「冒険」に気づいたやり手女性の元上司エヴァ・トレス(サルマ・ハエック)から、手段を選ばぬ妨害工作が仕掛けられる。
しかもヴィンセントを病魔が襲い余命宣告を受ける。次第にプロジェクトは命懸けの様相を帯び、二人は狂気にとり憑かれていく。
映画に登場するスプレッド・ネットワークス社は実在している。そのチャレンジは、ノンフィクション作家マイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」(文藝春秋刊)の冒頭に描かれ、アメリカ議会でも規制が論議されたほどだ。
マイケル・ルイスは大リーグ野球を舞台にした「マネーボール」やリーマン危機で大儲けした男たちが主人公の「世紀の空売り」などでベストセラーを続々と出している。
主人公ヴィンセントを演じるのは、「ソーシャル・ネットワーク」の、Facebook創業者マーク・ザッカーバーグ役でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、ジェシー・アイゼンバーグ。『グランド・イリュージョン』の主役や、『ジャスティス・リーグ』のレックス・ルーサー役など多方面で活躍している。世間を驚かす一大プロジェクトに周囲を巻き込む熱血漢ぶりと、病魔に犯されても何かに取り憑かれたように突き進むキャラクターに、観ているこちらも思わず感情移入してしまう。
行動派のヴィンセントに対し、知性派のアントンを演じるのは、「ターザン:REBORN」などのアレクサンダー・スカルスガルド。長身でマッチョな役もこなしてきた彼が、今回のアントンでは、なんとハゲ頭でスクリーンに登場。ヴィンセントにそそのかされ、アルゴリズムの計算に真剣に取り組むが見ている方にはにコミカルで官憲に追われ逃げ惑うシーンには思わず笑ってしまう。これまでのイメージを一新する怪演だ。
そして2人の元上司エヴァを冷酷で筋を通す強い女性を演じるのが、「フリーダ」でアカデミー賞主演女優賞ノミネートのサルマ・ハエック。
監督・脚本を務めたのは、カナダ出身のキム・グエン。2012年の「魔女と呼ばれた少女」がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、2017年、地球の反対側にいる男女の恋を描いた『きみへの距離、1万キロ』がベネチア国際映画祭で上映されるなどの俊英監督が、「最先端のテクノロジー」を軸に展開する人間ドラマに仕上げている。

複雑なので描かれているポイントを要約すると
カンザス〜NY間をつなぐ直線1,600kmを光ファイバーケーブルで繋ぐために直線上の地主全員から土地買収一万件も実施。
例え国立公園でも、政府から許可を取って掘り進む(安倍首相も友人の為に似たようなことをした)
絶対秘密主義で掘削作業員も何のための工事なのか知らない。
そして天才アントンが新しいアルゴリズムの開発に成功するものの、「証券取引法違反」でFBIに逮捕され拘置されても諦めない。
凄惨なのは病魔に侵され意識を無くして余命数年までと宣告を受けても、治療を先延ばしにしてプロジェクトを進めるヴィンセント。

 

これほど幾多の障害を前に彼らは、どこまでも真っ直ぐに信念を貫くことができるのだろうか。

 
927日よりTOHOシネマズシャンテ他全国公開される。




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