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「ヴィクトリア」(VICTORIA)(ドイツ映画):マドリードからやって来たフリーターのヴィクトリアが4人のドイツ人の若者たちに出会ったばっかりに警察に追われベルリンの街を逃げ惑う

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この映画で思い出すのは同じドイツ映画で「ラン・ローラ・ラン」(98)。
恋人のために20分以内で10万マルクの大金が必要になりベルリンの街を走り回る。
父親から借りられず銀行強盗をしてその後に警官に包囲され射殺されるなど3パターンのストーリーがある。

 ローラを演じたフランカ・ポテンテはその後「チェ 28歳の革命 / 39歳 別れの手紙」などに出演するなど国際スターの仲間入りをしたがヴィクトリア役のライア・コスタはそこまで成れるか?


ベルリンの街を銀行強盗で追われて走り回るヴィクトリアはローラのエピゴーネン。
あれから17年経っているが、ここまで状況を同じにして良いものか?
しかし手法やテクニックは全く異なる。

 全編140分を主人公ヴィクトリアと男4人を手持ちカメラで追いワンカットで描いている点だ。
わずか12ページの脚本をもとに俳優たちが即興でセリフを入れ、街をロケ撮影中に発生したハプニングもカメラに収めながら、ベルリンの真夜中から夜明けの街中を疾走する登場人物たちの姿をリアルタイムで追う。

3カ月前に母国スペイン・マドリードからドイツにやって来たヴィクトリア(ライア・コスタ)は、クラブで踊り疲れて帰宅する途中、地元の若者4人組に声をかけられる。
スキンヘッドノボクサー(フランツ・ロゴウスキー)、ひげ面ノブリンカー(ブラック・イーイット)、少年の面影を残している若いフース(マックス・マウフ)そしてリーダーでヴィクトリアにしきりに喋りかけるゾンネ(フレデリック・ラウ)。
4人はクラブへの入場を断られ外で立ちんぼをしていたがタチの悪い不良連中ではなさそうだ。

まだドイツ語が喋れず寂しい思いをしていた彼女は4人とビールを飲みながら楽しい時間を過ごす。
まして今夜はフースの誕生日だ。
夜も更けヴィクトリアは仮眠をとるためアルバイト先のカフェへゾンネに送ってもらう。

カフェにはピアノがありゾンネに頼まれるまま、彼女はリストの「メフィスト・ワルツ」を見事に弾いて見せる。
ピアノは16年半練習したがマドリードの音楽院(コンセルバトワール)で自分より遥かに腕の立つ仲間が大勢降り、プロのピアニストを諦めフリーターとして生きてきた。
ドイツへやって来たのも気まぐれからだ。

二人にロマンスが生まれかかかった時に仲間3人が連れだってゾンネを呼び出す。
緊急事態が発生したと。
実はボクサーが刑務所で拘留された時も彼を虐めから救い親代わりになって守ってくれた男が大金を必要としている。
彼は裏社会の人物で5万EU(約630万円)の借りを返すため、銀行強盗を命じられた。
若いフースは酔っぱらってゲロを吐いてグロッギー、使いものにならない。
恋心を抱き始めたゾンネの頼みとあれば強盗に使う盗難車の運転は任せてくれとハンドルを握る。

ここから上述のローラに似た街中を走り回る逃走劇が始まるのだ。
全編140分ワンショットと恰好は良いが、手持ちカメラは1台だけ、揺れて見難いし、カメラの切り替えが無いので状況も掴めないこともしばしば。
肝心の銃を持って支店長や行員を脅すシーンもヴィクトリアに張り付いているから分からない。

しかし銀行強盗に成功したからと言ってクラブに全員で繰り込んで踊ったり強い酒を煽るのはバカじゃないの?と思う。
警察に追われているんだろう?

案の上、車で寝ていたフーラが拘束され銃を構えた警官たちに追われることになる。
バカじゃないの?と思えるシーンは沢山あるが、ヴィクトリアの一夜の大冒険と、寛容な心で見ればそれなりにスリリングで面白い。

顔を出す俳優たちは無名なのが知らないドイツの役者ばかり。
ヴィクトリアを演じるライア・コスタは29歳のスペイン新進女優だと。

監督は「ギガンティック」のゼバスティアン・シッパー。
この映画は2015年ベルリン国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞、ドイツ映画祭でも作品賞をはじめ6冠に輝いた。昨年(15年)の第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映。
と言ってもアメリカで公開の予定は全く無い。


5月より渋谷イメージフォーラムにて公開される

「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」(BATMN V SUPERMANDAWN OF JUSTICE)(アメリカ映画):スーパーマンは人類の敵か?

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今日から丸の内ピカデリー他で一斉に封切られるこの映画に僕は違和感を覚える。

「DCコミックス」の実写化映画作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品群として扱う「DCエクステンディッド・ユニバース」(DCEU)シリーズとしては第1作品目がスーパーマン誕生の原点帰り映画「マン・オブ・スティール」(今晩NTV金曜洋画劇場で放映される)として2013年に公開されたが、同じザック・スナイダー監督がヘンリー・カビルをスーパーマンにロイスをエイミー・アダムスと役柄をそのままに、この映画にキャスティングしている。

DCEU第二弾となるこの映画はバットマンに軸足を置くのでベン・アフレックを新たに起用する。

しかし不振のワーナーブラザース財務立て直しの長期的計画を見据えたDCEUはかなり無理があるのではなかろうか。
少なくともスーパーマン・ファンは満足しない。

そもそも異なるスーパーヒーローを戦わせて何が面白いのだろう。
ゴジラ対ガメラだったら悪玉ガメラと戦うゴジラが勝って欲しいと思うが、バットマンもスーパーマンも夫々が独立した絶対の「神」的存在だ。
そしてどちらも正義の味方の筈だ。だがその「正義の味方の筈」に疑問符をつけている。

僕は昔からスーパーマン・ファンだから余り機嫌が良くない。
同じNYマンハッタン(ゴッサムと言う名も出るが)でもう一人「スパイダーマン」が出て来ないだけでもホッとする。

彼はMARVELコミックの看板のスーパーヒーローだからDCEUに入らないが、それでも戦ってバットマンにやられてしまったら後味が悪い。

しかし現地NYでは盛り上がっている。今週のデビュー週末で3週連続首位を走る「ZOOTOPIA」を蹴落とすことは間違い無い。

冒頭は襲われ破壊されたマンハッタン。ブルース・ウェインも為すすべもなく逃げる群衆の中を車を走らせる。誰がこの災厄を齎したのか?

 スーパーマンを称える人々の群れ。街中に彫像がドカンと建っている。しかしその像の胸には「FALSE GOD(ニセモノの神だ)」とスプレイの落書きが。
スーパーマンは人類の敵になるのか?

群衆の中で厳しい表情の男ブルース・ウェイン(ベン・アフレック)がいる。悪を倒すためにバットマンとなった彼に決断の時が迫る。
バットマンのマスクが鋼鉄で頑丈に出来ているのが目立つ

 クリンプトンからやって来たスーパーマン(ヘンリー・カイル)は人類の味方なのか?
それとも、宇宙人だけに将来には誰も刃向かえない人類の敵となってしまうのではないか?

 バットマンはただの人間であり、スーパーマンのような超人的な力は持っていないものの、執事アルフレッド(ジェレミー・アイアン)の提供するバットマン・カーを初めとして「科学」の力によって生み出された数々の武器を所有している。

 人類は強い異星人にただ守られるだけではなく、自分の力で自分たちの世界を守るべきではないのか?というスーパーマンの存在自体を問うことなとんでもない。
アメリカの傘の下で日本は安泰なのだ。少し違うか。

 スーパーマンとロイスの仲は益々睦まじいが、ロイスは最初から新聞の記者同僚のケント・クラークだと知っている。
 公衆電話ボックスに飛び込んで衣装替えなんてもう見られない。

捨て子のスーパーマンを拾って育てたケント夫妻だが義母、マーサ(ダイアン・レイン)とその名前マーサは交通事故死したバットマンの母親と同じ名前で一瞬二人の間が和むのだが。
義父を演じるケビン・コスナーは「フィールド・オブ・ドリームス」を思わせるサービスもある。

 上映前に監督ザック・スナイダーがスクリーンに現れ「くれぐれもSpoiler(ネタバレ)をしないように」と厳重忠告があるだけにブログも書き辛い。

主役は「アルゴ」などのベン・アフレック、ケープ姿も様になってブルース・ウェイン=バットマンを気持良く演じる。
新登場する「ワンダーウーマン」は、イスラエル出身の新星ガル・ギャドット。正確に言うとダイアナ・プリンス=ワンダーウーマンに扮する。
スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーには「ソーシャル・ネットワーク」「グランド・イリュージョン」のジェシー・アイゼンバーグ。
バットマンと同様に謎の「ホワイト・ポルトギーズ」を追っている。

ザック・スナイダーが「マン・オブ・スティール」に引き続き監督を、脚本は「アルゴ」でアカデミー賞を受賞したクリス・テリオが知恵を絞る。

3月25日(今日)より丸の内ピカデリー他で2D,3D,IMaxで公開される。

「追撃者」(THE REACH)(アメリカ映画):マイケル・ダグラス扮する大富豪ハンターが間違って砂漠で彷徨う老人を撃ち、黙らせようとした青年が言うことを聞かないので青年を殺そうと付回す

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昨日アップロードの途中でPCが故障、SEが来宅して修理中で改めて続きを書きます。

 タイトルが紛らわしい。ブレンダン・フレーザーに2001年の映画も5-6年前の韓国映画も「追撃者」だった。映画ファンは昔の作品かと思う。配給会社はもう少し頭を捻って新しい題名を考えて欲しい。

主演に久しぶりのマイケル・ダグラス。もう古稀を過ぎ71歳になる。
2010年に咽頭癌を克服したが映画の仕事はグンと減ってしまった。
奥さんのキャサリン・ゼッタ=ジョーンズが色んな作品で華やかに活躍しているのと対象的に仕事は無くヒモのような感じもする。
この映画も自分で制作費を出している。昔なら見向きもしないB級映画なのが淋しい。

マイケルとは40年前に食事をしたことがある。
コーヒー(MAXIM)のCMタレントで父親のカーク・ダグラスと長らく付き合って貰いすっかり仲良くなった。
電話がかかって来て「息子のマイケルが『カッコーの巣の上で』アカデミー賞作品賞を取ってジャック・ニコルソンと東京へ行くからメシでも食わしてやってくれ」

銀座のお座敷しゃぶしゃぶ(八芳園)でランチをしようと待っていたらマイケルだけがやって来た。
ジャックは?さっき出かける前に連絡を入れたら一晩中飲んでいて、今帰ったところでメシは食えないと。
マイケルは7歳年上の大先輩には何も言えなかった。

日本が好きで映画の宣伝で来日したニコルソンとはこの後も何度か付き合い六本木に繰り出したことがあるが、いつも共演した女優(「愛と追憶の日々」のデブラ・ウィンが―など)や日本の接待女優を引っ張り出して大酒を飲む。
公私ともに自由奔放なやんちゃな役者だ。

マイケルとの食事に戻そう。係りの女性が皿一杯に盛り合わせた
薄く切った神戸牛を出すや否やマイケルは箸を器用に使いフグ刺しのように摘み上げるとそのまま食べてしまう。女性がビックリして口をあんぐりしていたが、タルタルステーキの例もあるし僕は黙ってみていたが二皿ペロリとたいらげた。

翌年カークが来日したので「ざくろ」でしゃぶしゃぶを注文しマイケルの話をいているところへ肉が出てきた。
皿の山盛りの生肉をマイケル同様にいきなり箸で一杯掴んで「こんな具合に食ったか?これはダグラス家の牛肉の食べ方なんだ」と威張っていた。

話をマイケルに戻そう。1987年に「ウォール街」でアカデミー主演男優賞を取ったが、彼の生涯で大ヒットした作品は「危険な情事」(FATAL ATTRACTION).30年前にもなるだろう。

若い弁護士ダン(マイケル)が妻子の留守に一晩の情事で雑誌編集者のアレックス(グレン・クロース)と知り合い、肉体関係を結んでしまう。
ダンにとっては一夜の遊びであったが、アレックスはそれを運命の出会いと思い込み、ダンにつきまとい始める。クロースのストーカー振りが凄まじかった。真夜中に忍び込み可愛がっていた兎を煮て殺し、やがて深夜の寝室や浴室にまでダンを追いかけて来る。

この「追撃者」ではマイケルは、男と女の違いはあるがグレン・クロースを凌ぐストーカーになる。
マイケルに追いかけられる若者役はイギリスの若手俳優、ジェレミー・アーヴァイン。B級アクションながら往時を思い出し「危険な情事」とダブルイメージですっかり堪能した。

日中は気温が50度にもなるアメリカ南西部の広大なモハーベ砂漠でトレッキング・ガイドをしているベン(ジェレミー・アーヴァイン)は、ある日、保安官(ロニーコックス)を通して、狩猟家で大富豪のマデック(マイケル・ダグラス)のガイドを依頼される。

1日1000ドルも払ってくれる好条件で、孤児のベンはお金さえ貯まれば恋人のライナ(ハンナ・マンガン=ローレンス)と一緒にデンバーの大学で学びたいと言うので直ぐに飛びつく。

前の晩別れのベッドの中で祖父からのネックレスを貰ったベンは休暇の間ライナに教えたピストルをプレゼントする。(この銃は終盤大切な役目を果たすのだが)

全米に一台しかないと言う6000万円のベンツに乗って絵狩猟ポイントに到着するや、マディックは物陰で動くものに発砲。オーストリア製のハイテクライフルの威力は凄まじい。
すぐさま確認しに行くと、そこには撃たれた老人チャーリーが転がっていた。変わり者のチャーリーはベンの友達、砂漠の岩の洞窟に住んでいる。

瀕死のチャーリーを病院ヘ運ぶため、通報しようとするベンに今中国人に自分の会社を150億円で売ろうとしている最中でマスコミ沙汰になると拙いと金銭的買収やライナと同じ大学で学ぶ奨学金を出そうと持ち出す。

しかし正直者で曲がったことが嫌いなベンは断るとマディックは態度を急変させ、ベンの銃でチャーリーを撃って止めを制す。
服を脱がせ、靴を脱がせ、下着一枚で灼熱の砂漠に放り出す。
そして離れた場所からライフルの銃口をベンに向けるのだった。

恐ろしい人間狩り(マンハント)の獲物となったベンは、トレッキング・ガイドで得た知恵を駆使し、マディックから逃げようとする。
チャーリーは洞窟の中で砂漠でのサバイバルのコツをベンに教えていた。

マディックもキッチン完備SUVの隣にデッキチェアに腰を下ろし、朝はエスプレッソ、夜はマルガリータを楽しみながらベンを双眼鏡で追尾する。
バックに流れる曲はモーツアルトのピアノ協奏曲作品22番。血だらけになり砂漠の暑さと夜の寒さに負けずに逃げ惑うベンとマディックとは天国と地獄だ。

ヘンテコな中国語を喋りながら商売を続ける大富豪は「ウォール街」のゴードン・ゲッコーの生まれ変わりか?

エドガー・アラン・ポー賞を受賞したロブ・ホワイトのスリラー小説を映画化したもの。

マイケル・ダグラスは制作主演で映画をコントロールし猟奇的な富豪を演じる。
獲物となって逃げ惑う青年を「戦火の馬」などのイギリスの若手ホープのジェレミー・アーヴァイン。

監督はフランスの若手監督ジャン=バティスト・レオネッティだが、ハリウッドデビューのこの映画に掴みどころが無い自信がなさそうな演出をしている。
救いは大画面の美しい砂漠の風景。静寂で厳しく華麗な背景で悪魔の人間狩りが展開される。

5月14日よりシネマート新宿にて公開される。

「森山中教習所」(日本映画):高校の同級生で車に跳ねられた大学生の清高と跳ねたヤクザの轟木は非公認自動車教習所へひと夏通うことになる

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今日二回目の書き込みだが、このブログは今日、日曜日の分。

「土漠の花」が面白かったので月村了衛作品を次々と読んでいる。「ガンルージュ」(文藝春秋社;2016年2月刊)いつもの通り女性の主人公が大活躍するアクションものだが、少し引っ掛かる。

「槐(エンジュ)」に酷似しているからだ。
夏 のキャンプ地に中学生7人を引率してやって来た引率の脇田教頭に部活副顧問の由良季実枝先生。そこへ半グレ集団や暴走族が襲ってキャンプ中の人たちをみな殺しにする。教え子を守るために立ちあがる由良季実枝先生。実は国際警察に追われる日本赤軍派の最後の闘士。半グレ集団なんて物の数では無い。

「ガンルージュ」の主人公はシングルマザーの律子と女性体育教師の美晴。群馬県の山奥の別荘地に潜んでいた韓国の大物政治家を拉致しようと大物工作員、キル・ホグン率いる韓国最精鋭特殊部隊「消防士(ソバンサ)」が急襲しし
要人警護のボディガード全員を射殺する。山中で偶然出会った裕太郎と麻衣も人質にして逃走を図る。裕太郎の母、律子と麻衣裕太郎の担任の美晴先生は消防士団員を相手に死闘を繰り返す。

半グレ集団や暴走族とは違い韓国工作員特殊部隊は精鋭が揃っているが元公安の秋来律子は奪った銃と機銃で、澁矢美晴先生は得意の金属バットで次々となぎ倒す。
痛快なアクションだが裏では公安と警備の対立や親韓国派の大物政治家グループなどが露わになる。

韓国工作員の日本で暗躍していると聞くが、韓国最強の工作員特殊部隊が女性二人に完膚無きままに叩きのめされるは痛快だが、構図は「槐(エンジュ)」とそっくりなのが気にかかる。
  
韓国特殊部隊が使用する様々な火器の呼称や構造などは相変わらず詳しいがそれは抹消なこと。
肝心のアクション小説だが、月村先生,まさかネタ切れでは無いでしょうね。


真造圭伍の人気コミックが原作だというがトボケていて面白い。

何にも興味がなさそうでいいかげんな大学生・佐藤清高(野村周平)は、夏休みに自動車免許を取ろうと考える。

清高には松田(岸井ゆきの)と言う同級生のガールフレンドがいる。清高に想いを寄せ何十回とデートをしたのにあっさりと別れを告げる。
勉強も恋もアルバイトも何をするのも中途半端。
それでも何処かへ行ける運転免許書だけは取りたいと思う。

松田は牛丼並みを食べながらどうせ怠け者の清高に取れっこ無いと断言する。
別れを告げながら清高はいつも牛丼を食べている(牛丼以外の丼を食べた絵はない)松田と相談するのがおかしい。

ある日のデートの帰りの夜自転車に乗った清高は無免許運転のヤクザ・轟木(賀来賢人)に車に跳ねられる。

車で自転車もろとも撥ね飛ばしボンネットと屋根を超えて車の後ろへ落ちるシーンは日本映画にしては迫力がある。
死んだと思った親分(三石研)は何処かで処分しろと命令しトランクにそのまま車に積み込まれてしまう。
親分はいつもスコッチ・テリアを抱いてナデナデしている。

到着したのは非公認教習所。そこで清高と轟木が高校の同級生だったことが判明する。

轟木は高校では友達がおらず、清高が唯一の友達。もっとも鏑木が高校を止める日、窓際で本を読んでいるのに興味を惹かれた清高が近寄って尋ねただけ。
「何を読んでるの?」
「官能小説、作者はジャージー山口」
「面白いの?」
「面白いよ」
手に取ってパラパラめくる・
「その本あげるよ」
これだけの会話だが、轟木が高校生活で話したのは清高だけ。
轟木はそのままヤクザの子分になってしまったのだ。

非公認運転教習所は親分の伝手があり二人はそのまま入所を認められる。
その上清高が親分の車に跳ねられたことを警察に届けれられたら厄介なことになるから、口封じのため教習所の授業料は親分が払うことになる。
跳ねられ意識が無かったことも覚えていない清高は「ラッキー!」と大喜び。

そんな訳でヘンテコな人たちばかりが集まる教習所でひと夏を過ごす。
森山中教習所は上原家の家族経営。清高と轟木を教える教官はサキ(麻生久美子)、無愛想なサキの母(根岸季衣)も父(ダンカン)も教官として変わった教習生たちに運転技術を教えている。

だが清高は教官のサキに恋心を抱いてしまう。
そして恋の指南役を松田に頼むからややこしい。
サキも清高を可愛がるがあくまでも年の離れた弟扱い。
やがてサキが子持ちでバツイチだと知って落ち込む清高。

轟木は大人しいが親分に反感を抱いている。
夢想の中で大型ブルドーザーをヤクザの事務所に乗り付け親分の車を叩きつぶし銃を取り上げ親分に土下座をさせるシーンは愉快だ。
しかし轟木はそんな怨念憎悪をオクビにも出さず親分に忠実だ。


主人公を演じる野村周平と賀来賢人。マイペースで無神経な大学生や何を考えているかわからないクールなヤクザ役を無難の演技で盛り立てる
松田の岸井ゆきのもトボケテいて笑わせる。CMで見た顔だ。
脇を固めるベテラン勢、光石研、麻生久美子、根岸季衣ダンカンらが良い。

星野源の歌う主題曲「Friend Ship」が印象的だ。

監督は「ソフトボーイ」「花宵道中」「海のふた」などの豊島圭介。

7月9日より新宿バルト9他で公開される。

「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」(A ROYAL NIGHT OUT)(イギリス映画):ヒトラーに戦勝し6年間の抑圧から解放されたエリザベスとマーガレット王妃一晩だけの自由な外出を楽しむ

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1926年生まれでイギリス史上最高齢90歳。1952年2月6日に戴冠して最長在位64年の君主、エリザベス女王が19歳の王女時代に、お忍びの一夜を過ごした実話を基にした映画「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」だから興味が湧く。

1945年5月8日、VEDAY(ヨーロッパ戦勝記念日)を祝いたいと当時19歳のエリザベス王女(サラ・ガドン)と14歳のマーガレット王女(ベル・パウリ―)がエリザベス王妃(エミリー・ワトソン)に頼み込むが「あなた達の自分勝手にできる人生じゃないのよ」と断られる。
その遣り取りを聞いていた父である国王ジョージ6世(ルパート・エヴェレット)が「まあいいじゃないか」と許しを得る。
国王は戦勝のスピーチを何度も練習している。

吃音は完全に直ったがつっかえるところもある。
王妃は王女たちに国王の傍に居て(励まして)あげるように命じる。
映画「英国王のスピーチ」の続編を見ているようだ。
国王役はアカデミー賞を受賞したコリン・ファースよりエヴェレットの方が様になっていると思うのは僕だけかしら。。

午前0時からの「英国王のスピーチ」のラジオ放送を国民がどう反応するかこの目でみたいとエリザベスの主張が通る。
ヒトラーが戦争を初めてから6年間宮殿の外へも出られない窮屈な生活を送って来た王女たちは自由な外出は悲願なのだ。

考えてみれば「ローマの休日」も「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」もこの逸話からヒントを得ているのかもしれない。
現代と違いパパラッチも居ないしタブロイド紙も売られていない。エリザベスやマーガレットの顔は知られていない。だから自由が効く。

 王妃は、門限は1時までと厳しく言い渡される。ティアラを外しドレスに身を包んだ二人の王女は護衛役シャペロンとして二人の近衛大尉(ジャック・ラスキー&ジャック・ゴードン)を付けるが彼らは役立たず。自分たちも解放されて思いっきり遊びたいのだ。だからシャペロン役にも関わらずしっかり警護をしていない。

 最初のリッツ・ホテルに到着するが王妃が連絡を入れていたと見え、身分はバレていて次々と挨拶される煩わしさからホテルを抜け出す。
この時点でシャペロンは王女たちを見逃している。

 マーガレットはホテルで知り合った人たちと意気投合して二階建てのえバスでトラファルガー広場へ向かう。
追いかけるエリザベスはバスを逃し次のバスに乗り込む。
車掌がやって来て乗車賃を要求するが財布など持ち合わせない。
隣に座ていた空軍の兵士ジャック(ジャック・レイナー)が面倒くさいからと2シリングを払っててくれる。
ジャックは父親を戦争で亡くし王室には批判的。
おまけに無許可外出で憲兵に捕まれば脱走兵として軍法会議にかけられる。
出来れば脱走してカナダかパリへ行って暮らしたいと考えるがその前に母親に一目会いたい。

 しかしエリザベスは何故かジャックに惹かれる。

大混雑の中を妹を探しながらトラファルガー広場からソーホーやエースト・エンドの娼館などいかがわしい底辺お覗き見することとなる。

このお忍びでもP2(継承位2番目)のマーガレットもエリザベスも土壇場に追い込まれると王室を誇示する。やはり水戸黄門の葵の御紋だ。

 音楽がグレンミラーの「イン・ザ・ムード」や「リトル・ブラウン・ジャグ」など懐かしいものばかり。今は流行らないジルバも結構派手だ。

母親に会って義務を果たしたジャックをバッキンガム宮殿に連れ帰り、国王や王妃と朝食を食べるシーンは楽しい大団円。朝食後猛スピードで兵舎まで送り8時の点呼に間に合わせるエリザベス。お別れのキスは画面から外すのは現女王へのエチケットか。

他愛も無いロンドンの休日だが天真爛漫なエリザベス王女のキャラクターは結構楽しめる。
実際、エリザベスは王宮の外の居酒屋で「英国王のスピーチ」に耳を傾けて国民の反応を確かめ、リッツ・ホテルでワルツを踊ったというエピソードがあるという、
それを膨らませて映画化したもの。

 ヘレン・ミレル主演の「ペインティッド・レディ」や「キンキー・ブーツ」などのベテラン、ジュリアン・ジャロルドが監督の演出は軽いテンポでコミカルに展開する。

カナダ出身の「危険なメソッド」などのサラ・ガドン主演、王女に訪れた思いがけない出会いとロマンスに陥りながら踏みとどまり、そして「次期女王」としての自覚と覚悟の思い切りを熱演する。

コメディタッチで描かれる英国王室は気さくでオープンだ。
日本の皇室をこんな調子で描くと忽ち右翼の攻撃に会うだろう。

6月シネスイッチ銀座ほか全国公開。

「ラザロ・エフェクト」(THE LAZARUS EFFECT)(アメリカ映画):「死者を蘇らせる血清」は完成するが、「死のその先」の恐怖が待ち受ける。

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ドイツ・ハンブルグ生まれの43歳のトム・ヒレンブラント「ドローンランド」(河出書房新書:2016年1月刊)のSFは数十年先の近未来のヨーロッパはドローンとスーパーコンピュータを駆使する当局に完全に監視されている。高性能コンピュータによって将来犯罪に走る確率の高い市民は犯罪をおかす前に社会から抹殺されると言う。

映画「マイノリティ・レポート」はコンピュータではなくて超能力者を使って犯罪予測をしていた。
EUで最も豊かな国は波動発電でエネルギーを各国に売っているポルトガルだが、世界全体を牛耳っている国はブラジルだ。アメリカと中国はその影響力を失い、韓国と広東が消費社会や文化を仕切っている。
残念ながら日本は殆ど小説に現れないほどの弱小国になっているようだ。
ロシアとイギリスのマフィアが結成したブリスキーズが闇の世界を仕切り、過激なキリスト主義者が人工中絶を行うクリニックを襲う。人々はメガネ型端末「スペックスをかけ、メディアフォイルが紙替わりになっている。

EU加盟国は37か国。イギリスはEUから脱退しようとしているがその為には新憲法が必要だ。この投票を巡って議員が次々と殺される。
主人公はユーロポールのヴェスターホイゼン主任警部。気候変動で世界で真っ先に水面下に沈んだオランダの出身。ハンフリー・ボガートの大ファン。「カサブランカ」のイメージとキャラクターが度々引用される。アシスタントのアヴァはユダヤ人。古代バビロンの踊り子の肉体と原子物理学者の頭脳の持ち主。ヴェスターホイゼンとアヴァとのロマンスが絡むので結構ロマンティックな面もある。

北イタリア選出の欧州議会議員パッツィが豪雨の降るブリュッセル郊外の農地で頭を撃ち抜かれて死んでいる。ヴェスターホイゼンはシュミレーショ空間「ミラースペース」を駆使して捜査を始める。

 新憲法採択に向けてユーロポール長官フォーゲル、自由党の女性党首,ヤナ・スヴェンソン、多国籍情報企業タルコンの会長、ジョン・タラン、影の警察RR,そして謎のジャーナリスト、ジョニー・ランダムなど登場人物は複雑な政治的な謀略に振り回されながら、主人公は見事に「解」に達する。



 先週の金曜日(3月25日)は聖金曜日(GOOD FRIDAY)でイエス・キリストの磔刑の受難、そして3日後の日曜日に「蘇える」。イースターに繋がるキリスト教徒の慣習だ。その「蘇えり」を化学の力や技術で実施しようと言うのだ。

 制作プロダクションがホラーのブラムハウス、「パラノーマル・アクティビティ」「パージ」「インシディアス」などのB級恐怖映画は得意中の得意。
医療チームが「ラザラス」というコードネームの血清で、死んだ犬やら人やらを生き返らせ、自然の摂理に反することばかり、やはりホラーな展開になる。

タイトルに出てくる「ラザロ」はイエス・キリストの友人、「ヨハネによる福音書の11章」によると、ラザロが病気と聞いてベタニアにやってきたイエスと一行は、ラザロが葬られてすでに4日経っていることを知る。

 イエスは、ラザロの死を悲しんで涙を流す。イエスが墓の前に立ち、「ラザロ、出てきなさい」というと、死んだはずのラザロが布にまかれて出てきた。
このラザロの蘇生を見た人々はより一層イエスをキリストと信じるが、ユダヤ人の指導者、パリサイ人たちはいかにしてイエスを殺すか計画しはじめることになる。

 さて映画は化学者、フランク(マーク・デュプラス)はカリフォルニアの大学でゾーイ(オリヴィア・ワイルド)と出会い、死者を蘇えるプロジェクトで意見が合い婚約までこぎつける。
いきなり人間は無理で犬や豚で実験を続ける。
フランクやゾーイを中心に研究者グループは、「人間の死者を蘇らせる」ことができる「ラザロ血清」の完成を目指して実験と研究に日夜没頭している。

 ゾーイは敬虔なカトリック信者で子供の頃の悪夢に絶えず悩まされているので「蘇えり」には距離を置いている・

ある日、実験中にゾーイが事故で感電死してしまう。ヒロインがあっけなく感電死とは、観客も唖然とする。

 悲しみに駆り立てられたフランクは仲間の化学者たちが止めるのを聞かず、未完成の「ラザロ血清」をゾーイに投与、何とかして彼女を死の淵から蘇らせようとする。その気持ちは分かる。

そしてゾーイは血清が効いて奇跡的に息を吹き返すが、それまでとは明らかに何かが違っていた。血清は完成していたのだ。
しかしゾーイは超能力の保持者になっている。テレキネシス、読心術、そして意志の力で教え子を消すことができる。

 この辺りは予測出来るがやはり怖い。
死からの再生、地獄からの復活と、禁断の領域に足を踏み入れた研究員たちは死よりも恐ろしい「死のその先の恐怖」を目撃することになる。。

監督は銀座数寄屋橋の寿司の名店「すきやばし次郎」を追ったドキュメンタリー「次郎は鮨の夢を見る」のデヴィッド・ゲルブ監督。この映画は二郎に長く張り付いて結構面白かった。その後「すきやばし次郎」でおまかせを食べたく思っているが予約が取れない。
ゲルフ監督はシェフだとか料理を追いかけるドキュメンタリ作家でフィクション劇場用長編映画を撮ったとは驚きだ。

 低予算B級映画と言いながら役者はソコソコの連中を集めていて2013年に完成したが配給会社が決まらずようやくオクラ寸前から陽の目をみて公開されると言う因縁付きの作品だ。

主演・研究者のフランクを「パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間」などのマーク・デュプラスが演じる。マークは俳優と言うより監督や脚本の映像作家。

 蘇ったフランクの婚約者ゾーイを『her/世界でひとつの彼女』のオリヴィア・ワイルド。美しい婚約者から地獄から蘇えった不気味な女性を演じわける。
脇を固める化学者たちは『オデッセイ』のドナルド・グローヴァー、「X-MEN:フューチャー&パスト」のエヴァン・ピーターズ、「モスダイアリー」のサラ・ボルジャーなど若手俳優たち。

6月11日より新宿バルト9他で公開される。

「海よりもまだ深く」(日本映画):「パパは、なりたかった大人になれている?」の幼い息子の問いに「こんな筈じゃなかったよな」と自堕落な大人になり切れない主人公の良多は呟く

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この週末「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」(Batman v. S(perman: Dawn of Justice)が丸の内ピカデリー他で日米同時公開された。

アメリカでは170.1M(193億円)を挙げダントツの首位だ。
海外市場での興行成績はアメリカを上回る254M、グローバルでは424.1(481億円)と歴代トップ6に入る大ヒットを記録した。

松竹系の丸の内ピカデリー他にもTOHOシネマズでも全国公開されたこの作品、何とくだらない「暗殺教室」「ドラえもん 新・日本誕生」などの日本映画の後塵を拝して3位。
 BOも6.4億円の「暗殺教室」の半分3.7億円と停滞している。

 世界どの国でも他の作品の追随を許さぬトップを走っているのに日本では3位だと。
「日本映画ガラパゴス」状況を如実に物語る。

 是枝裕和は好きな監督だ。デビュー作「幻の光」はFCCJでドナルド・リチーがべた褒めした。是枝監督は「幻の~」が評価を得てない中でリッチーの絶賛が大きな力となったと語っている。ベネツィア国際映画祭で金のオゼラッテ賞を獲得した。あれから21年になる。
日本映画の海外紹介に貢献したリチーは3年前の2月に88歳で亡くなり、FCCJで忍ぶ会があり是枝監督は出席しリチーへの感謝の言葉を述べた。

 是枝の作品は全部見ているが「空気人形」(09)を除いて気に入っている映画ばかり。
「海街diary」「そして父になる」が日本の観客に受けていて日本アカデミー賞などを総なめにしているのは嬉しい。

 だが僕の一番好きなのは「歩いても 歩いても」だ。石田あゆみのヒット曲「ブルーライト・ヨコハマ」からタイトルを得て、阿部寛の息子と樹木希林の母親の絆がユーモラスに描かれている。
この映画の中でもラジオからテレサ・テンの「別れの予感」が流れ「海よりもまた深く」とサビが高まる。

 阿部寛扮する出来の悪い息子篠田良多は15年前に文学賞でデビューしたがその後全く書けない。
ギャンブルで借金の山、愛想を尽かした妻、響子(真木よう子)に見捨てられ11歳の息子、真悟(吉澤太陽)の養育費も払えない状態。阿部の役名は「歩いても~」は横山良多、こちらも篠田良多、「ゴーイング マイ ホーム」では坪井良多。監督は「良多」に拘る。
そして団地に一人暮らしの母親淑子(樹木希林)の貯金を狙っている。

 映画の冒頭は年末の喪中ハガキの宛先を良多の姉、中島千奈津(小林聡美)がせっせと書いている。
父親が半年前に亡くなったのだ。
淑子は「下手な字だ」と酷評する。
宛名の字は良多の元妻響子が上手かったと世間話から段々境遇や環境が分かって来る。
良多は 父親の残した雪舟の掛け軸があった筈と母を攻めるが「お父さんのものは全部燃やしました」と取り合わない。

 15年前に文学賞を一度受賞したものの、その後は売れず、作家として成功する夢を追い続けている中年男性・良多。
現在は生活費のため探偵事務所で働いているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳していた。

 別れた妻・響子への未練を引きずっている良多は、彼女を「張り込み」して新しい恋人、福住(小沢征悦)がいることを知りショックを受ける。
グローブを真悟に買ってやると約束したが11歳の真悟は福住からプレセントされている。探偵事務所の後輩、町田(池松壮亮)は何故かダメ先輩を尊敬し何でも手伝ってくれる。

 競輪場で1万円を貸したばかりなのにまた「倍返し」をするからと5千円を借り忽ちパー。従順な池松は辛口の批判を良多の浴びせながらついて来るのもおかしい。
浮気調査を頼まれてその相手にネタをバラし黙っていてやると倍の料金をふっかけたり、中学生の悪行の写真を見せる小遣いを巻き上げたり。

 探偵事務所所長、山辺康一郎(リリー・フランキー)にバレている。警察時代の上司の息子だと叱られなど、金欲しさの探偵はロクなことをしない。

 月一回の真悟との面会日。夕刻から台風になる。
団地で一人暮らしの母・淑子の部屋に集まった良多と響子と真悟は、台風で帰れなくなり、ひと晩を共に過ごすことになる。
淑子は大喜びで4か月煮込んだカレーのルウで得意のうどん料理を振る舞う。

 元妻、響子に未練の残る良多はしつこく聞く。
「(福住と)しちゃったか?」
「したわよ、中学生じゃないんだから」
がっくり肩を落とす良多が笑える。

 姉の千奈津から母親の貯金通帳は米櫃の底か天井裏と聞いていた良多は真夜中に起きだし天井裏のストッキングに包んだ四角の紙束を見つける。
 期待を込めて開けると姉の字で「残念でした!」と書かれている。仏壇の線香の灰の下かと新聞紙にぶちまけて指で探っているところへ母親が起きてくる。父親への功徳だと勘違いしているところにテレサ・テンの歌。「
海よりもまだ深く」は小説のタイトルに使えるからメモしておけと。

 台風が激しく吹き荒れる中、良多は真悟を連れて公園の滑り台。上に雨風を凌げる小さな小屋がついている。
「パパは、なりたかった大人になれている?」の真悟の問いは辛い。
迎えに来た響子に「こんな筈じゃなかったよな」と呟く良多。

大人になりきれない男と年老いた母を中心に、夢見ていた未来とは違う現在を生きる家族の姿がユーモラスに描かれる。

ロケ地は是枝監督が9歳から26歳まで過ごした東京都清瀬市の旭が丘団地。隅々のディテイルまで細かく描かれている。
是枝監督は阿部寛と樹木希林にあて書きしたと言うが主役二人が監督の期待に応えて好演をしている。

 5月21日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「疑惑のチャンピオン」(THE PROGRAM)(イギリス映画):ドーピングで前人未踏の7連覇を達成した自転車ロードレース選手、ランス・アームストロング

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昨日(30日)の電通株主総会は初めて荒れた。質問は今までは議長が催促しなければ手を挙げなかったが、多くの質問が次から次へ飛び出し僕にまで廻ってこない。
このところ株価は往時より1500円近くさげているものの前年比9%と増収増益で好調だ。買収したイージスがグローバルで活躍し国際関係の祖利益は半分以上の54%になる。国内でメディアを牛耳っていた電通の面影は薄れていく。

質問はFIFAの贈賄に電通は絡んでいたのではないか?と言うビッグなものから電通出資のISL倒産に遡ってキナくさい話も持ち出され、その際スイスの官憲から捜査を受けていた事実を指摘されオタオタする役員席。

そう言えば執行役員は多数いるが取締役は僅か5人、官憲が入った際の担当専務は高橋某、今は東京オリンピック組織委員会の理事の一人だ。
質問者は厳しい。高橋某と言い死んだ服部某と言い「悪」の噂が飛び交いダークな人だったが電通は高橋との関係はどうなっているんだ?の質問は厳しいい。未だコンサルタントとしてフィーを払っているからだ。

ようやく僕に順番が廻って来てユニバーサル映画「不屈の男」(Unbroken)に電通が協賛して制作費の一部を負担していることを質す。

前にも書いたが日本人の捕虜収容所長がベルリンオリンピック5000Mに出場したセレブのルイ(ジャック・オコンネル)は執拗な拷問を繰り返す。殴る蹴るは当たり前、水攻め、釘を打ち付けたこん棒、逆さ釣り、果ては180センチ20キロの材木を頭上に掲げて30分持ちこたえさせる。落とした瞬間に衛兵が射殺する仕掛け。ルイは頑張る。大森収容所から直江津収容所と終戦までの2年間苛め抜く。
2014年にアメリカで2015年から中国で上映され、喜んだのはユネスコの世界記憶遺産「南京大虐殺」を申請中の中国人。

残虐さ、暴力、冷酷無比、非人間性、日本人の本性を描いていて「南京大虐殺」は起こるべくして起こった事件だと大喜び。

私はこれは「売国奴」映画でこんなものに金を出して右翼に攻撃されたらどうするんだ?
担当の高田常務は映画は「反戦」と言うテーマを貫いていて新聞の投書にもその主旨の意見が散見される。それに何よりもユニバーサルとの契約(年間50億円)で内容チェックはできないと。
手が多数上がり、そんな契約は止めるべきだ、金が儲かりさえすれば良いと言う高田常務の考えは間違っている。
映画をしっかり見れば、キレイごとで「反戦」と言うがあくまでも日本人の品性を貶める作品であることは間違い無い。

総会での役員の返答は上辺だけで木で鼻を括ったようなコメントばかり。来年はもっと突っ込まなければならない。

シャラポワのドーピング問題で騒がしくなっているが、あの「ツール・ド・フランス」で7連覇を果たしたアメリカの元自転車ロードレース選手、ランス・アームストロング(ベン・フォスター)の物語。
1993年、21歳で「ツール・ド・フランス」にデビュー。体格が人より優れている訳でもない彼が他の選手と違うのは「勝利へのあくなき野心」、その為には何でもする。
しかし体調不良で咳き込んでスイスの薬局で血液中の赤血球を増加させる薬を購入しレースに優勝した直後に血を吐き倒れる。

重度な精巣癌に冒され脳にも移転しているとの医者からの宣言で絶望の淵に叩き込まれる。
しかしスポーツ医学の権威、イタリアン人医師、ミケーレ・フェラーリ(ギヨーム・カネ)の治療と指導とで復活を遂げる。フェラーリは自転車競技者のパーフォーマンスを向上させる独自の「ドーピング・プログラム」の実践者だった。

 しかし映画の観客は何も知らされていない。メガネをかけた小柄なフェラーリ博士は狭いラボにランスを招き入れトレーニングの「プログラム」(原題)を説明する。
弱小チーム「USポスタル」に所属したランスは1999年の第86回「ツール・ド・フランス」で驚異的な走りを見せて優勝する。
だがイギリスのスポーツ・ジャーナリスト、デイヴィッド・ウォルシュ(クリス・オダウド)は疑問を抱く。ランスの力量は前から買っていたがこの急激な復活はぎもんだった。
ウォルシュのこの追及からドーピングが明らかになるまでを本にしているが、事実に基づく映画だけに迫力がある。

 『ツール・ド・フランス』の全てのタイトルの剥奪および自転車競技からの永久追放処分に至ったアームストロングは、一瞬だが野心を満たしてくれたことに後悔はない。
主人公のアームストロング役を演じるのは、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』『ザ・ブリザード』などのベン・フォスター。

フォスターはこのために厳しい自転車トレーニングを敢行し、肉体改造を行なったという。
監督は『あなたを抱きしめる日まで』『クィーン』などのスティーヴン・フリアーズ。

7月2日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」(WHERE TO INVADE NEXT)(アメリカ映画):世界の常識はアメリカの非常識。アメリカ立て直しを探るムーア監督

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アポなしで突撃取材を敢行し、アメリカにくすぶり続ける社会問題をドキュメンタリーという手法で一刀両断して批判を続けてきたマイケル・ムーア。

自動車不振で大リストラをしてムーアの故郷デトロイトを荒廃させたGMのロジャー会長をストーカーよろしくとことん追い回す「ロジャー&ミー」(89)は大ヒットとなり、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を『ボウリング・フォー・コロンバイン』(03)ではコロンバス大学での銃乱射事件を取り上げライフル銃協会長のチャールトン・ヘフトンを追い回す姿は笑った。
2004年の「華氏911」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、医療問題を取り上げた「シッコ」でアカデミー賞ノミネート、リーマンショック後の金融界を描く「キャピタリズム~マネーは踊る」(09)など時宜を得たトピックを掘り下げ映像で批判を繰り返す。

基本的にはムーアは愛国者であり第二次大戦以来、朝鮮、ベトナム、イラン、アフガニスタンと総ての侵略戦争に負け続けているアメリカを立て直そうとする。そのために「世界のジョーシキ」で上手くいっている国に国防省に成り代わって「侵略」し、そのコツなら秘密を探りアメリカに持ち帰ろうとするものだ。

ヘリコプターの轟音で始まり、ホワイトハウスとペンタゴンが映し出され、陸・海・空・海兵の長官が雁首を揃えてダメになったアメリカを再建するアイディアをムーアに求める。

今までの作品は自主的にムーアがオカシイと思ったことが出発点だが今度はオカミから、政府の天敵の映画監督のマイケル・ムーアへの「伏してのお願い」と、これまでとは違った芝居がかった出だしだ。
ムーアは国防総省に代わって自らが「侵略者」となり、世界各国へ出撃することを提案受け入れられて、星条旗を一層太った身体に巻き付け、空母ロナルド・レーガンに乗り込み大西洋を越えて侵略先・ヨーロッパを目指す。

 マイケル・ムーアに狙われた国は9カ国。
まず訪れたデンマークでは麻薬所持や販売、使用は犯罪ではない。法律が施行されてから中毒患者は劇的に減ったと言う。取り締まるからこそ闇の組織が活躍し犯罪も増える。禁酒法時代のアルコールを思い出す。

フランスでは、小学校の給食はフルコース、しかもフランス人の子供は「フレンチフライ」を食べない。その上、アメリカの給食を見た子どもたちは、超マズそうと拒絶反応を起こす。

ルウェーでは牢屋が一軒家で独房は囚人のTVやインターネット付の個室、おまけに死刑制度も無い。殺人犯がムショでナイフを持つがこれは料理用。看守は4人しかいないぢ銃も携帯しない。

イタリアの会社では昼休みが2時間で年間の有給が8週間。
アイスランドはリーマンショック後に男性経営者の3大銀行は倒産したのに女性経営の銀行のみ生き残った。ブラザーズで無く「リーマン・シスターズ」がやればこんなドジは踏まない。女性は絶えず足元を見る現実主義で無謀な冒険は冒さないと。

また、ドイツでは会社の上司が社員の帰宅後や休日にメールや電話することは違法だと知らされる。ドイツは祖先たちが犯した罪を忘れることなく他国に対して思いやりのある政策をとっている。
一歩街に踏み出せば敷石や壁に過去の罪状を示すレリーフがある。
(難民受け入れもユダヤ人虐殺への贖罪)

 ある女性は「たとえお金を積まれもアメリカには住まない。社会の組織そのものがおかしくなって居る上に、隣近所が互いに信用していない。
基本的にアメリカ人は横柄で他人の言うことに耳を傾け無い」と手厳しい。「アメリカ人が非ジョーシキなだけ!」と断言する

 しかしこの「侵略」の果てに、思いもしなかった驚愕の事実を発見する。
例えば労働者の権利を主張する「メイデイ」はソ連でも中国でもない。発祥の地はアメリカシカゴだ。「インターナショナル」の大合唱に参加しながらムーアは悟る。
死刑廃止も自由な刑務所も金融の不正を働いたバンカーの訴追も総てアメリカから見習ったと各国の担当者は口をそろえて証言する。

星条旗を抱えて帰国の途に就いたマイケル・ムーアは「アメリカこそ偉大な国で原点を見直そう」と考える。
ムーアはトーンもマナーも柔らかで柔軟な姿勢で各国の当事者たちに耳を傾けているが、何か牙を抜かれたムーアの映画は冴えを欠く。

5月27日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほかにて公開される。

「葛城事件」(日本映画):抑圧的で自分の思いを家族に押し付ける父親。支配していた一家4人の家族はやがて凄絶な崩壊を遂げる

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この映画のヒントになった事件が土浦の無差別殺人事件だと思う。
僕の自宅最寄り駅からJR常磐線荒川沖駅までは20分もかからない近距離だから興味を持った。。

犯人の金川真大(24)は 私立霞ヶ浦高等学校卒業後、まともな就職もせずコンビニのアルバイトをやったりやめたりしテレビゲームに興じ、家族との会話はほとんどなかった。
主人公が剣や魔法を駆使するロールプレーイングゲームに熱中する一方、「現実の自分は才能がなく、希望を見いだせず、毎日がつまらないとの思いを強くしていった」とした。

一家は両親、弟、2人の妹の6人家族。大学に通う次女以外は土浦市内で同居。 父親は外務省のノンキャリア。 

金川真大は100本近いゲームが山積みになった2階の自室にほぼ引きこもりの状態だったうえ、父親は後日捜査査本部に「息子との会話は最近、ほぼなかった」と話しており、家族の全員が金川真大と会話をすることはほぼなく、一緒に食卓を囲むこともなかったという。

金川真大も一人で用意された食事をリビングでとる生活を続けていた。
その上で「父親が定年退職すれば、ゲームをする時間を削って働かなければならない」と考え、退職が近づいた昨年1月、「つまらない毎日と決別するため、確実かつ苦しまずに死ぬには死刑が一番で、何人もの人間を殺害する必要があると考えた」と動機を説明した。

犯行は計画的だとし、被害者に対し「痛かったであろうことは常識で考えたら分かるが、特に謝罪や思いはない」と話し、さらに笑顔を見せたという。
金川は、拘置所内では「日々、殺すことしか考えていない」と。

この辺りの金川の心情は映画の中の死刑囚、保の言葉で現されている。

事件の概要は、2008年3月19日、土浦市内で男性を殺害し逃亡。
3月23日、JR荒川沖駅構内で、8人を殺傷し電話をかけて自首。

2010年1月5日に死刑判決。
「死刑執行までの時間をいかに短くするか。(国が執行に)動かなければ、裁判に訴える」とした。
金川真大被告は水戸拘置支所に控訴取り下げ書を提出し、水戸地裁が受理した。

 2013年2月21日、東京拘置所にて死刑執行。29歳没。

映画は金川真大被告を題材として取り上げながら、主人公を犯人ではなくその父親。葛城清(三浦友和)として彼の眼を通して無差別殺人犯の次男、稔(若葉竜也)と自殺した兄、保(新井浩文)そしてやがて気が狂って行く妻、伸子(南果歩)を描いている。
そして家族以外で死刑反対運動から獄中結婚をする星野順子(田中麗子)が稔の婚約者として登場する。

 金川の父親は外務省のノンキャリアで勤勉なサラリーマン。荒川沖駅から霞が関に通っており、金川とは殆どコミュニケーションが無かったようだが、葛城清は道教郊外の住宅地で祖父代々から受け継いだ小さな「金物屋」を営んでいる。

 美しい妻、伸子を娶り店から遠くない住宅街に立派なマイホームを建てて家族4人で引っ越して来た時には得意満面で友人知人を呼んでシャンペンを開けながら家族自慢に花を咲かせていた。

 
長男保は清が自慢するように一流大学を出て大企業の営業職。結婚をし娘が二人生まれて3LKのアパートに住んでいる。しかし対人関係が苦手な清は営業成績が伸びずリストラされるが誰にも言えないまま自殺をしてしまう。

 次男の保は三流大学に入るが中途退学しバイトも中途半端、TVゲームに夢中だ。清は事あるごとに保を責め、そんな息子に育ててしまった妻の責任だとなじる。妻、伸子は強圧的に自分の思い通りに家族を支配しようとする清に耐えかねて稔と共に家を出て秘かに借りた粗末なアパートへ移る。離婚するつもりだ。

 稔はゲームの「一発逆転」と称してネットで購入したサバイバルナイフを構えて、駅構内で無差別殺傷事件をおこし2人の死者6人の重傷者を出す。

映画の冒頭は住宅地に立つ葛城家の外観。

「バラが咲いた、バラが咲いた~」とボソボソ口ずさみながら、葛城清は、古びた自宅の外壁に大量にスプレイされた「人殺し」「死刑」などの罵詈雑言を白ペンキで消している。
そして庭へと移動し庭木にホースで水を撒きながら、ふと、この家を建てた時に植えた、みかんの木に生る青い果実に手を延ばす。呑気な父さん風で顔には犯人の父親としての苦悩は現れていない。
振り返って、念願のマイホームを建てた当時に想いを馳せる。

 自分が頭の中で描いた理想の家庭を作れたはずだった。
しかし、清の思いの強さは、気づかぬうちに家族を抑圧的に支配するようになていた。

 夢を託した長男・保は、意志の弱い遺書を残して飛び降り自殺。
堪え性がなく、アルバイトも長続きしない次男・稔は、清の最も嫌うタイプでそれを責められ、理不尽な思いを募らせフラストレーションは鬱積している。

 清に言動を抑圧され言いなりに過ごしていた妻の伸子は保の葬儀の夜から精神がおかしくなる。
そして、次男稔の犯行で迎えた一家の修羅場を通して葛城家は一気に崩壊へと向かっていく。

 赤堀雅秋は、2012年に監督・脚本で堺雅人主演「その夜の侍」で長編劇場映画のデビューを果たし、同年の新藤兼人賞金賞、ヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ている。

 もともとは舞台の演出家で、劇団THE SHAMPOO HATの旗揚げ以来、全作品の作・演出・出演を担当。この映画も2013年に舞台で上演したものを映画化。

 赤堀が描く主人公とその生き様は、人間の本質に根ざす無様さや滑稽さ、残酷さや狂気を描く。その独特の世界観は「赤堀ワールド」と呼ばれ芝居や映画の根幹を築く。

 例えば映画の大団円。死刑が実施された午後、稔の婚約者だった星野順子が一度も面会に行かなかった父親、清に執行されたことを報告に来る。
最後のコーラを所望して断頭台に消えた模様を聞きながら平然とソーメンを啜っている。
何の感慨も無さそうだ。

 やおら立ち上がると順子を押し倒しレイプしようとする。
必死に戸口の逃れた順子を追おうとせず、カーテンを引きちぎり、道具類を投げて怖し、部屋をめちゃくちゃにして、掃除機ごと長いコードを引きずって庭のミカンの木の枝に輪を作ったコードを下げる。
登るために用意した椅子を蹴飛ばし首吊り自殺。

 観客は人非人で諸悪の根源の清が「ケジメ」を付けると安堵する。
だがやがて小太りの清の体重に耐えかねた枝が折れ、清は裸足のまま庭から居間に入り、食べかけのソーメンを平然と啜るり続ける。

清の人格、品性を映す冷徹なシーンは「啜る音」で暗転してエンディングとなる。舞台の達人らしいテクニックは印象的だ。

6月18日より新宿バルト9他で公開される。

「二ツ星の料理人」(BURNT)(アメリカ映画):パリで破滅した天才シェフ、アダムはロンドンで再起し「三ツ星レストラン」を目指す

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「宮廷料理人」だの「大統領の料理人」だの「南極の料理人」だの「シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ」だの次から次への料理人の映画が溢れる。確かにスクリーン一杯にジューシで涎が垂れそうな料理のクローズアップだけで映画は持つ。

vしかしアカデミー賞の「アメリカン・スナイパー」を演じ武闘派のイメージのブラッドリー・クーパーが繊細な味覚を誇るシェフになるとは意外だ。クーパー自身は昔からクッキングは大好きでシェフになりたかったと言う。

vグルメの街パリの二ツ星レストランで腕をふるう料理人アダム・ジョーンズ(ブラッドリー・クーパー)は、人気に溺れ傲慢さから酒とドラッグでトラブルを引き起こしシェフを辞めざるを得ない。そして人気の「ジャックの店」は潰れてしまう。
このトラブルは一体何だったか?この後の展開されるシーンに登場する人物を巻き込んでいるから、もどかしい。

パリを追われるように離れ、臥薪嘗胆のニューオーリンズでオイスター・バーの牡蠣の殻を剥く下働きで3年間。100万個の牡蠣をこなしたアダムは再起を図り、因縁のパリを避け、ロンドンで一旗揚げようとする。

パリのレストランでキャプテン(給仕長)だったトニー(ダニエル・ブリュール)は父親のホテルの中の店を受け継いでいた。
トニーにシェフをやらせろと迫るアダムを受け入れる筈は無い。

そこで一計を案じたアダムは友人で有名な料理評論家のシモーネ(ユマ・サーマン)に頼み込む。彼女の厳しい批評で潰された店は多数ある。予約を見たトニーは絶望するがそこに偶然?現れたアダムに即席にシェフをやらせる。

 アダムの料理を一口味わってうっとりするシモーネを見て「アダムは石だって料理にできる」と部下に語る。かくして無事にシェフに収まりワンマンでキッチンを仕切る「完全主義者」の暴君に逆戻りする。少しでも料理法を間違えると皿を壁に投げつける。それ程レシピ―に自信があるのだ。
ユマ・サーマンはカメオ出演。もう1カットだけで姿を消す。
 
 パリを追われた諸悪の根源の酒も女も絶ち世界一のレストランを作り「ミシェランの三ツ星を獲得する」と打ち上げその目標に向かい部下の料理人を叱咤激励する。 
最初にリクルートしてスーシェフに据えたのはパリでの一緒に働いていた黒人のミシェル(オマール・シー)。アダムの為にキャリアを傷つけられたが恩讐を超えて手伝うことになる。
トニー親子は毎週金曜に女性医師(エマ・トンプソン)の診察を受け、酒やドラッグに手を出していないかチェックする。

 アダムはさらに女性パティシェリのエレーヌ(シエナ・ミラー)や、腕はいいがアダム以上に気の短い元囚人のイタリア人マックス(リカルド・スカマルシオ)や若いのに天才的なクッキング才能を誇り、アダム二世と目されるよになるデイビッド(サム・キーリー)など最高のスタッフを集め、レストランをリニューアル・オープンさせる。

 ロンドンで既に三ツ星を獲得しているパリ以来のライバルリース(マシュー・リス)が「君はすでに俺を超えている」と打ち明けるシーンも印象的だ。

 ドラメディとしては先が読める単純なプロットだが、セレブ・シェフの作るフレンチ料理の美味しそうなこと。
画面一杯に見せる撮影監督のアドリアーノ・ゴールドマンの見事な映像だ。

 メインのフレンチだけで無い。キッチンでの賄い料理でカジュアルな燻製のサバやブイヤベ-ス、エレーヌの幼い娘(レキシ・ベンバウーハート)のために作ったピンクのロセットを飾ったバスデイケイキも涎が垂れそう。

 ミシェランの調査員は必ず二人連れ。一人は30分遅れてアラカルトを一人はフルコースを注文する。テーブルの下にフォークを落としていつ気づくかもチェックするとキャプテンのトニーの情報は確か。
トニー演じるドイツ俳優のダニエル・ブリュールはおカマっぽくてキャプテンはうってつけのキャラだ。

 監督は「ER 緊急救命室」「ザ ホワイトハウス」などの大ヒットTVドラマを手掛けたジョン・ウェルズが劇場用長編映画では「8月の家族たち」に続く2作目だ。画面が数百倍大きくなってもTVで培った技術を生きている。
 
 傲慢で破天荒だが芸術的な料理を創りだすカリスマ天才シェフ、アダム・ジョーンズをクーパーは熱演している。
強面の芝居だけでない。やはり皆が賭けるようにアダムに女は欠かせない。シエナ・ミラー扮する女性シェフに「君が必要なんだ」と告白するラブシーンもあるが今回は破滅に繋がらない。職場内でのことだから。
 
 過酷を極めたというキッチンでの撮影では原題通り「火傷」(BURNT)したキャストやスタッフも多数出たという。連日40℃の暑さで、キャストもスタッフも汗びっしょりだったと言う。

 脇を固めるの黒人のスーシェフはフランス映画で大ヒットした「最強のふたり」のオマール・シー。映画半ばでミシェルの起こすサプライズで得意満面のシーの表情。

 史上初めての性転換手術映画「リリーのすべて」で今年の第88回アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ビカンダーも顔出す。
 ジャックの娘でアダムの元彼女。パリから借金取りで追い回すヤクザに金を払って消え去る。何が何打だか分からないところが良いんだろうな。
カメオ出演の批評家でユマ・サーマンが、トラウマを扱う心理学者でエマ・トンプソンという豪華な顔ぶれがそろう。

6月11日より新宿ピカデリー他で公開される。

「ダーク・プレイス」(DARK PLACES)(英・仏・米映画):8歳の少女、リビーが見たものは兄ベンが一家を惨殺する悪魔の姿だった。

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全体としては同じ原作者のギリアン・フリン「ゴーン・ガール」よりはどんでん返しも強烈で面白かっただが、見終わって振り返ると、カルト的「悪魔信仰」やシリアルキラー、それに殺人事件を趣味で解決しようと言う「殺人クラブ」の出現や複雑な家庭環境などバラバラに取っ散らかっている。

リビー・デイ(スターリング・ジェリンス)は8歳の時、真夜中に母とふたりの姉ミシェル(ナタリー・プレクト)とデビー(マライ・マクガイア)が殺される。

いつもベッドで甘えても何も言わない母、パティ(クリスティナ・ヘンドリックス)がリビーを抱きしめ「リビー、愛しているわ、そのことだけは忘れないで」と囁く。

28年後の現在、大人になったリビー(シャーリーズ・セロン)の頭に未だその言葉がこだましている。

生き残ったリビーの証言によって、15歳の兄ベン(タイ・シェリダン)が殺人犯として逮捕され収監された。何故リビーがベンがやったと証言するのか分からない。検察官に言い込められたのか?

否定もしないベンは悪魔崇拝とドラッグで心が病んだ末の犯行として検察も判事も疑いもせず死刑判決を下すがベンは上告もせず受け入れたことで世間もベンを悪魔と糾弾する。
ロマン・ポランスキーの妻、シャロン・テートが狂信的カルト集団に殺された事件も記憶に新しく人々は納得したのだろう。

孤児となったリビーは全国から寄せられる励ましの手紙や義援金それにゴーストライターに書かせた自叙伝の印税で仕事もせずに暮らしていたが、30年近くになると事件は風化し寄付は途絶え本も売れず基金も底をつきはじめていた。管理をしている弁護士によると残金400ドルと少し、家賃は2か月も滞納し電気、ガス、電話も止められる寸前。

驚くのはリビーの態度はデカいし横柄で言葉使いはファックなど4文字を羅列する完全な「ビッチ」になっている。上品なセロンがこんな太々しいビッチを演じるのは初めてだろうが、野球帽にTシャツ、ジーンの出で立ちでビッチを熱演する。

そんなとき、ライル(ニコラス・ホルト)に話しかけられる。
ライルは有名事件の真相を語り合う「殺人クラブ」の事務局長で、顔を出してくれれば700ドル払うと言う。

謝礼目当てで20人ほどのクラブ会員に家族に降りかかった事件を語るのだが、会員の結論は、ベンは殺人など犯していない、「冤罪」だと言う。

乗り気では無いがリビーが事件を振り返って調べてくれれば更に追加で謝礼が出る。
物腰の柔らかなライルから更に謝礼を受け取りながら初めて刑務所のベン(コリー・ストール)に面会する。

ベンはすっかり頭が禿げむさ苦しい髭が口の廻りから顎に生やしているが、「リビー、お前に会いたかった」と証言を恨みもせずに歓迎する。
殺人については「デイ家の者はそんな残酷なことが出来ないことはお前にも分かるだろう」と冤罪を認めるがそれを司法に訴えることもしないのは、謎だ。何か裏がある。

リビーも金欲しさに始めた真相追及だが身が入り始める。

鍵を握っているのはベンの当時のガールフレンド、ディオンドラ(クロエ=グレース・モレッツ)。ベンの2歳上だがベンの子供を妊娠していた筈だ。

リビーはディオンドラの行方を捜す。彼女の同級生たちを次々と尋ねる。汚いストリップ劇場でアファフォーの醜いストリッパー(ドゥリー・ド・マテオ)や幼い頃家を出た実父、ラナー(ショーン・ブリッジャーズ)に会う。
ラナーは簡易旅館も追い出され産業廃棄物の中のテントに住んでいる。

誰も幸せでは無いが、遂に訪ね訪ねて瀟洒な家に住んでいるディオドラン(アンドレア・ロス)に行き着く。

そしてリビーは命がけで「衝撃の真実」を発見する。

主人公リビーを演じるのは「マッドマックス/怒りのデス・ロード」で女戦士を演じたシャーリーズ・セロン。彼女は実際に幼い頃、正当防衛で母親が父親を銃殺するという痛ましい事件を経験していると言う。

怠け者でビッチなリジーを金で釣って事件の真相へと導く役を「マッドマックス~」でも共演したニコラス・ホルトが演じる。
変わった掴みどころが無い優男だが信頼できる。

脇を固めるのは「アス・キス」のヒットガールで当たりを取ったクロエ・グレース・モレッツ。悪魔信仰に浸るディオンドラはここでは悪役だ。

6月TOHOシネマズみゆき座他で公開される。

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(DALTON TRUMBO)(アメリカ映画):1940年代後半から吹き荒れた「赤狩り」旋風に抵抗し拘置されてもハリウッドで金字塔を打ち立てる不撓不屈の脚本家、

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今ではアメリカの歴史にこんな汚点があったとは知る人も少なくなっている。
映画の冒頭のクレジットで若い人たちに時代の背景を説明している。
1950年代初め、朝鮮戦争の時期に共和党上院議員マッカーシーを中心とて行われた「反共産主義」にもとづく政治活動で、多数の政治家、役人、学者、言論人、芸術家、映画人などが親共産主義者として告発された。

マッカーシーの執拗な共産主義者の摘発は、「赤狩り」と言われ熾烈を極めた。
背景には第二次大戦直後のソ連との冷戦の進行の中で、マスコミなどでも共産主義の脅威が宣伝され、「赤狩り」に拍車をかけた。
その結果、1945年には10万人近くの党員がいたアメリカ共産党は、10年間に4分の1の数に落ち込んだ。

活動の中心となったのは下院に設けられた非米活動委員会(HUAC)だった。
46年から共和党保守派の主導下に置かれ、民主党が共産主義を許容しているという攻撃が始まった。
特にハリウッドの映画産業の中にソ連のプロパガンダが入り込んでいる、という告発が行われた。FBIも共産主義の摘発に動き、映画にも登場するが50年に共産党員のローゼンバーグ夫妻をソ連のスパイとして告発し、真相究明されないまま夫妻は翌年死刑となる。酷い話だ。

1940年代のアメリカは「パックス・アメリカーナ」を標榜する本当に嫌な時代だった。第二次大戦が終わっても好戦的なムードが国中を覆い、ナチとジャップの次の矛先はコミュ(共産主義者)に向けられた。
そして赤狩りだ。共産主義者を公的性の高い職場から追い出すという政治運動で1940年代後半にはハリウッドもその対象となる。

チャーリー・チャップリンやジョン・ヒューストン、オーソン・ウェルズ、ロイド・ブリッジス、リー・グラント、ジョン・ランドルフなどが被害者として有名だが、赤狩りと映画芸術の関係を最も象徴する存在と言えば、「ハリウッド・テン」と呼ばれ、ジョン・ウェインらが主導したハリウッドに隠れる共産主義者を糾弾する議会での証言を拒み有罪判決を受けた人々だろう。

この映画に登場するデューク(ウエイン)は頭一つ背が高い大男で「愛国者」ぶって共産主義の映画人を糾弾する。ドキュメンタリ作家、マイケル・ムアの追い回すライフル協会会長のチャールトン・ヘストンに似ている。
「ハリウッド10」の10人のメンバーのなかで才能があり最も有名であるがゆえにマスコミの中傷非難に晒されたのがこの映画の主人公、ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)だ。

物語はダルトン・トランボと、のちに「ハリウッド・テン」と呼ばれる仲間たちの苦難から始まる。
仲の良かった売れっ子俳優、エドワード・G・ロビンソン(マイケル・スタールバーグ)が密告して、下院非米活動委員会に召喚された。映画には出て来ないが「波止場」や「エデンの東」などを撮ったエリア・カザンも密告者の一人で赤狩りが収まった後はハリウッドから村八分にされた。

トランボらは「言論の自由」(アメンドメント第一条)を保障する合衆国憲法に基づき証言を拒否するも、議会侮辱罪で有罪となり、親友の脚本家、アーレン・ハード(ルイス・C・K)などと一緒に収監されたトランボは愛妻、クレオ(ダイアン・レイン)と長女のニコラ(エル・ファニング)や長男クリス、末娘ニッキなど3人の子供たちと離れ1年間、刑務所生活を余儀なくされる。
子供たちも学校で虐めにあったりするが元旅芸人一家に生まれた妻クレオの頑張りで一家は支えられる。ダイアン・レインは内助の功を十分発揮する。

映画協会MPPで「愛国者」の大演説をうつジョン・ウェイン(デヴィッド・J・エリオット)やサイレント時代の女優でエンタメ・コラムニスト「愛国セレブ」ヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)らが率先する形でハリウッドからの共産主義者の迫害がはじまっていた。

ダルトンが愛国とコミュ追放を叫んだウェインをMPP会場で捕まえて「僕は従軍記者で沖縄に居た。10の仲間も戦場で戦っていた。あなたは戦時中何処にいて何をしていたか?」何もしていなかったウェインが取り巻きを促し逃げるシーンは観客は拍手喝采、痛快なシーンだ。
嫌な婆あはミレン扮するヘッダ。ダルトンが偽名で脚本を書いた映画の制作者を脅し、映画館にデモをかけさせる。

出所してからもブラックリストに載せられたために事実上ハリウッドから干された状態となり、仕事はなくなってしまう。ダルトンはB級低予算映画を乱造するキング・ブラザースを訪ねる。
兄のフランク・キング(ジョン・グッドマン)は儲かりさえすれば政治なんて糞くらえ。酒と女と博打に溢れる作品を次々と作っているが本が弱く芯が無い。

有名脚本家のダルトンの力は喉から手が出るほど借りたい。
ギャラも値切り3日で書き上げた本は期待通りB級映画なのに芸術性もありエンタメ豊富。客が入ってホクホクのフランクは次から次へと発注する。
ダルトンは仕事が無く貧困の底で喘ぐ仲間に仕事を分け、(多くの)未熟な部分を手直ししてキングに届ける。

1日18時間、週7日間働き腰を痛め座ってタイプライターも叩けない。そこで風呂に浸かり板をタブに差し渡した上にタイプと灰皿を置き腰痛を癒しながら仕事を続ける。家族が提供し雑誌に載った写真では黒縁メガネに口ひげが似合いたばこを咥えてタイプに向かう、風格堂々と様になっているダルトンが映し出される。

キング兄弟の映画にトランボは脚本を書き続けた。
ハリウッドの人気作家だった彼は、名前を変え、そして仲間の名前を借り、衰える事ない創作意欲で干されたハリウッドで作品に関わり続ける。

しかしやがてその事実はハリウッドに漏れ、カーク・ダグラス(ディーン・オゴーマン、似ている)が自分のブライナ(母親の名)プロダクションの大作「スパルタカス」の脚本が気に入らずS・キューブリック監督の機嫌も悪いと書き直してくれと訪ねて来る。

前後して大監督、オットー・プレミンジャー(クリスチャン・バーケル)がポール・ニューマン主演の「栄光への脱出」の本を何度も頭を下げて頼み込む。
彼らほどの大物になると赤狩りも手を出せない。ダルトンの本名をクレジットにだして脚本を書くことはカークもオットーも大賛成だ。
マッカーシズムの終焉を告げるクライマックスだ。
ロバート・リッチと言う他人名義で書き「ローマの休日」と「黒い牡牛」の2作品がアカデミー賞を受賞したのは脚本家イアン・マクレラン・ハンター(アラン・テュディック)だが、イアンは実際にはその脚本はダルトン・トランボが書いたと公表する。

「ゴジラ」や「ブレイキング・バッド」などのブライアン・クランストンと言われても咄嗟に顔を思い出さなかったが、波乱の人生を歩んだ不屈の脚本家ダルトン・トランボを演じたクランストンは今年のアカデミー主演男優賞にノミネートされている。

40年代から60年代にハリウッドを覆った閉塞感のなかで、共産主義者排斥の流れには押し流されず不撓不屈の男の半生を描いている。歴史上の事実にエンターテインメント要素を付け加えた傑作で2時間を超える長尺も飽きを感じさせない。

ラストのトランボによるSWG受賞記念演説シーンでは彼の生きざま哲学が披露され胸にこみ上げるものがある。

7月22日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「I AM A HERO アイアムアヒーロー」(日本映画):漫画アシスタントので「負け犬」の英雄はゾンビの大群相手に散弾銃で死闘を繰り返す

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死者が蘇えり生者を襲う。
ゾンビ映画はアメリカでは花盛りで吸血鬼とならんでホラー映画の雄。
1930年代のサイレント時代からあるが中興の祖はジョージ・A・ロメロだろう。
ゾンビの足跡はロメロの辿った軌跡だ。

1968年のデビュー作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は新境地を開くもので死者が蘇えり生者を襲うゾンビ映画のパターンを作り上げる。
1978年の「ゾンビ」は巨大なショッピングセンターに何千何万のゾンビが取り囲み障壁を破り中の閉じこもる人間を襲う。「I AM-」終盤はこれのコピーだ。
1985年の「死霊のえじき」には死者の数が生者を超える近未来のSFを持ち込む。ゾンビ撃退を研究している科学者たちが立て籠もる地下基地にゾンビの大群が押し寄せる攻防戦。

日本版ゾンビは謎の感染によって人々が忽ち変貌を遂げる生命体「ZQN」(ゾキュン)と呼ばれ、街に溢れ生者を襲う。

鈴木英雄(大泉洋)35歳。職業は漫画家アシスタント。15年前に漫画の新人賞で華々しく登場したが鳴かず飛ばず人気漫画家、中田コロリ(片桐仁)の下絵を仲間4人、松尾(マキタスポーツ)三谷(塚地武雅)アベサン(徳井優)などと不眠不休で塗りながら生活費を稼いでいる。だが同棲している彼女、てつこ(片瀬那奈)とは破局寸前の状態。

そんな平凡な毎日が、ある日突然、終わりを告げる。
徹夜仕事を終えアパートに戻った英雄の目に映ったのは、てつこの「異形」の姿。いきなり英雄を襲い噛みつこうとする。

命からがら外へ飛び出すと、大勢の人たちが血にまみれてフラフラと歩き、動いている人を見つけると飛びついて首や手足に噛みつく。
どうやら謎の感染によって人々が変貌を遂げた生命体『ZQN(ゾキュン)』で街は溢れ、日本中は感染パニックに陥っているようだ。

噂で標高の高い場所では感染しないという情報を頼りに富士山に向かう英雄。
その道中で出会った女子高生・比呂美(有村架純)と元看護師・藪(長澤まさみ)と共に生き残りを賭けた極限のサバイバルが始まる。

果たして3人は生き延びることが出来るのか。そして、英雄は、ただの英雄(ひでお)から本当の英雄(ヒーロー)になれるのか!?

タクシーを止め乗り込んだ3人は富士山に向かうが途中で運転手はZQNに冒される。160キロの猛スピードで高速を飛ばし、衝突追突を繰り返し最後は横転して大破する。ハリウッドやフランスでしか見られないカーアクションは日本では初めてだ。
しかし東京無線の緑色のタクシーは会社イメージを損なわないか?

最後のショッピングセンターで英雄は皆を守るために持参した散弾銃を乱射する。2発しか撃てないので100個以上の弾丸を込めて撃ちまくる。頭を撃ち抜かれたゾンビは見事に破裂して血しぶきが散る。相撲取りのような大男もさることながら清原選手に似た体育学校生徒が一番手強い。散弾を浴びても浴びても生き返り襲う。ホラーも高まる。

退屈だけど平和な日常が、ある日突然、衝撃のサバイバル・ワールドに変貌する!
現実世界と地続きのパニックが得意の花沢健吾の累計500万部超の人気コミック「アイアムアヒーロー」が原作。

「図書館戦争」「GANTZ」シリーズでヒットを飛ばしている佐藤信介が監督。
原作コミックの世界観をリアルに再現するため、韓国の閉鎖されたアウトレットモールで大規模なロケを敢行。

世界三大ファンタスティック映画祭のひとつ=スペインのシッチェス・カタロニア映画祭で、観客賞と最優秀特殊効果賞の2冠を受賞している。
手垢のついたゾンビ映画の日本版は鑑賞に堪える作品になっている。

4月23日より全国のTOHOシネマズ系で公開される。

「シークレット・アイズ」(SECRET IN THEIR EYES)(アメリカ映画):親友の愛娘を殺害した犯人を15年に亘って追う元FBI[捜査官

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 2010年の第82回アカデミー賞で外国語映画賞に輝いたアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」のリメイク。オリジナルはブエノスアイレスの定年退職したベンハミン刑事が25年前に起きた悲惨な事件を描いた小説を執筆しようとしている。新婚の美しい女性が自宅で暴行殺害された事件で、ベンハミンが苦労の末に真犯人を逮捕した。だが事件は解決したかに見えたのに、その後不可解な経緯をたどっていたと言うもの。

 舞台をアメリカのLAに移し時代を911後の厳しいテロ対策で政治や司法や警察機構に変化させている。単純な犯人探しでは無く複雑な内部組織が絡む。
02年、ロサンゼルス。テロを警戒して下町にある監視を続けているアル・カン・モスクの隣に死体が発見される。(テロ=イスラムのトランプのような短略的発想が気になる)

FBI捜査官レイ・カステン(キウェテル・イジョフォー)は、殺人事件発生の報を受け検察局捜査官ジェシカ“ジェス”・コブ(ジュリア・ロバーツ)やチームのシーファート(マイケル・ケリー)やバンピー(ディーン・ノリス)らと現場に駆けつける。

 被害者は若い女性、駆けつけたレイは死体が放り込まれた大きなゴミ箱をのぞき込むと何と仕事上のパートナーで親友でもあるジェスの娘、キャロリン(ゾーイ・グラハム)ではないか。離婚後シングルマザーとして娘を溺愛していたジェスは狂ったように泣く。

 捜査に乗り出したレイとエリート検事補クレア・スローン(ニコール・キッドマン)はやがて捜査課のピクニックの写真の中でキャロリンを見つめている不審な男に気づく。
彼の名はマージン(ジョー・コール)でシーファートが使っている情報屋でモスクに潜入させていた。
検察局のボス、モラレス検事(アルフレッド・モリーナ)も事情を了解していて「第2の911を阻止する方がより大」とあっさり釈放されるがレイはどうも納得が行かない。

それから13年後、レイはFBIを辞め警備会社に勤めているが真相を暴くことを諦めていない。
確かな証拠を挙げようとマージンをバンピーと一緒に追い始める。熱烈なドジャースファンだと知り連日スタジアムに通いマージンを探す。満員のドジャース・パークは5万6千人の盛況。それでも5日目にマージンを見つけ出す。
この追跡シーンは現地ロケをしたのだろう、観衆の間を避け階段を飛び降りスタジアム下の迷路を駆けまわる。

 日本映画でも「野良犬」で野球好きの犯人を志村喬と三船敏郎が後楽園球場で追う名場面を思い出す。

 ようやく捕らえたマージンをクレアが、こんな小男でチンポも短そうで犯人では無い釈放しようと言うとマージンは怒って性器(映らないが)を取り出し「見ろ!こんなにデカいぞ」とレイプ犯を認めさせるシーンは笑える。
しかしマージンはまたもや政治的理由で釈放される。

2002年以来の過去と現在が絶えず行来し、事件に関係ないレッドへリングが多く観客は戸惑うばかり。
マージンでは無くとらえた男はベックウィックスで自動車窃盗犯だったり、911絡みの情報屋を検察が潜入させたりと、オリジナルより話が複雑に成り過ぎて興を削ぐ。
だが終盤に入り大サプライズがジェスの口からレイに漏らされる。
ネタバレになるから書けない。

犯人逮捕に執念を燃やす主人公のレイ役に「それでも夜は明ける」のキウェテル・イジョフォーで好演をしているが、ロバーツやキッドマン程知名率も人気も無いのが足を引っ張る。イジョフォーを日本人の観客は知らない。

ングルマザーのジェス役をジュリア・ロバーツが演じるが事実上は彼女が主役。母親としての執念と復讐に燃える凄まじさ。美しく若かったロバーツも54歳、やはり老け顔になっている。

レイやジェスの友人で検事補のクレア役を演じるニコール・キッドマンは出世意欲を燃やすがそれ以上に友情に厚い。真相を知ったクレアはどうするんだろう?

「ニュースの天才」のビリー・レイが監督と脚色。本の出来が良くないので映画のスリリングなインパクトが薄れる。
6月TOHOシネマズ シャンテ他全国公開公開される。

「エルヴィス、我が心の歌」(THE LAST ELVIS)(アルゼンチン映画):自分はエルヴィス・プレスリーの生まれ変わりだと妄想と執念に取りつかれたそっくりさん。

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エルヴィス・プレスリーのそっくりさん映画は沢山ある。
「スコーピオン」(2001)ではそっくりさんがカジノの上がりを強盗するし「トラブルINヴェガス(05)ではそっくりさんが次々と不慮の死を遂げていくミステリー。

ファンが多い日本でも1987年、東京原宿にファンの寄付金で建てられたELVIS PRESLEYの銅像。設置場所であったロック・キャラクターの専門店「ラヴ・ミー・テンダー」の閉店に伴い日本におけるジャズ発祥の地であり音楽を愛する街神戸、中でもウォーターフロントの新しい街「神戸ハーバーランド」が最適候補地として挙がり、2009年8月にやって来た。今や神戸に新名所となっている。

 特に今年は全米デビュー60周年を記念して「ジャパニーズ・エルヴィスを探せ!!2016」 と銘打ち「ELVIS FESTIVAL 2」を神戸松方ホールで3月に開催されたばかり。プレスリーの物まねを生業とする人々が世界に存在し、その数は8万5000人と言われている。また、エルヴィスを尊敬するアーティストも多く、そのようなアーティスト達が一堂に会した「トリビュート・コンサート」もラスベガスで開かれたこともある。

ことほど左様にはエルヴィス・プレスリーのそっくりさんは世界的現象なのだ。
主人公は電気器具組み立て工場で働きながら、夜はエルヴィス・プレスリーの物まね、気取って「トリビュート・アーティスト」と称するとしてステージに立っているカルロス・グティエレス(ジョン・マキナニー)。

人一倍不器用なカルロスは2日かかりでオーブン一台しか仕上げられず、ボスから馘首寸前だと仄めかされる。そんな俗世間のシノギなど気にはしない。夜はファンの集まったジョイントでプレスリーを歌いまくる。
タイトル前に絶唱する「See,See,Rider」などは見事なものだ。

 しかしエルヴィスの生まれ変わりであると妄想に囚われるカルロスは、ジャンプスーツの作業着から古いキャデラック、ピーナツバターサンドウィチと食べるものに至るまで、本物のエルヴィスとそっくり同じものを身につけて生活している。
どうもつなぎの作業衣もパンパンのカルロスはエルヴィスの晩年、デブの体つきのようだ。
ブエノスアイレスにはそっくりさんが溢れているのが可笑しい。ジーン・シモンズやバーブラ・ストライサンドをそこここに見かける。

 更には周囲の人間に自らを「エルヴィス」と呼ぶことを強要し、娘にはエルヴィスの娘と同じリサ・マリー(マルガリータ・ロペス)と名付ける程の徹底ぶりに、かつて愛したはずの妻アレハンドラ(グリセルダ・シチリア)は愛想をつかし、娘を連れて別居してしまう。
そんな中、アレハンドラが交通事故を起こして入院し、カルロスは娘の面倒を見ることになるのだが、次第に父親としての自覚が芽生え始めていく。

 しかし、彼には絶対に叶えなくてはならない、あるひとつの夢、人生の目標があった。
妻と最愛の娘を残し、全財産を叩いて飛行機に乗りメンフィスへやって来る。聖地<グレイスランド>へ向かうためだった。メンフィスで到着な夜、小さな食堂でバナナケーキに「42」の蝋燭に火を灯し一人で誕生日を祝う。

 エルヴィスは12歳でデビューし22歳で豪邸「グレイスランド」を建て42歳で死ぬ。多種多様の薬を飲み過ぎて多臓器不全を起こしたのだ。

 ツアーでグレイスランドに観光客に紛れて入り込み、クロークに隠れ夜になってエルヴィスの寝室に忍び込んだカルロスは多種多様なピルを手に盛って飲み続けやがて意識を失う。
カルロスは決してバカで知能遅れのオタクでは無い。妄想に取りつかれ自分をエルヴィスと同一視して同じ行動をとるのだ。

 バックに流れる「アメイジング・グレース」は本物エルヴィスの歌だ。カルロスは42歳になって死ぬのが定められた運命だった。
最後の「アメイジング~」は声のハリと言い伸びと言い音程と言い完璧にプレスリーだが、カルロスの歌も悪くは無いが比べようも無い。
しかし「ハワイアン・ウェディングソング」「アンチェインド・メロディ」など次から次へと懐かしのヒット曲のオンパレードは楽しい。

主人公カルロスを演じるのは、アルゼンチンでエルヴィスのそっくりさん(トリビュート・アーティスト)として、実際に活躍するジョン・マキナニー。

 映画初出演だが、いつもやっているライブシーンはお手の物だし、小太りの体型や頬を覆う揉み上げなどの容姿、そして声質まで似ている歌声など彼にしかできない役柄を見事に演じきった。
そんなマキナニーから物語の着想を得て脚本を書き監督したのは作り上げたのは37歳のアルマンド・ボー。

 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督(この映画の製作総指揮)の「BIUTIFUL ビューティフル」、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で共同脚本を務めた実績を持つ。
長編劇場用映画の監督デビュー作ながらも高く評価され、カンヌ映画祭に出品するなど国内外の映画祭で数々の賞を受賞し大きな脚光を浴びている。

 5月28日(土)より渋谷ユーロスペースで公開される。

「スノーホワイト/氷の女王」(THE HUNTSMAN,WINTRE’S WAR)(アメリカ映画):サラとエリックの二人の猟師は悪の女王姉妹やモンスターたち相手に死闘を繰り広げる

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 白雪姫なんて出て来ないのに「スノーホワイト」の邦題は誤解を招くし混乱する。
グリム童話の「白雪姫」を大胆にアレンジしたアクションファンタジー4年前の「スノーホワイト」(原題:SNOW WHITE AND THE HUNTMAN)(白雪姫と猟師)の続編なのだが、後編では無くて時代が遡る前編だから白雪姫は登場しない。

 だが観客を惑わせるのは猟師役のエリックを演じるクリス・ヘムズワース。ヘムズワースは同じ猟師でも時代が違うので同じ人間では無いのだ。
鏡のラヴェンナ女王は同一キャラだからシャーリーズ・セロンで構わないが、他のキャストが一新する中でヘムズワースがどういう訳か残り「THE HUNTSMAN,WINTRE’S WAR」(猟師:冬の戦争)と主人公を演じるのだから混乱する。全く新しい人にすべきだった。

 前編では、類い稀なる美貌と邪悪な魔力で王座を奪い世界を闇で支配したラヴェンナ女王(セロン)は、白雪姫(スノーホワイト)とハンターのエリックの手によって滅ぼされ、世界に平和が訪れた。
この映画の時代は滅ぼされる前のラヴェンナ女王が権勢を誇っている最中の出来事。

 女王には可憐で美しい妹、フレイヤ(エミリー・ワトソン)がいる。言い寄る男たちでフレイヤの選んだのは婚約者のいる家臣。おまけに妊娠までしている。家臣に裏切られ赤ん坊も死んでしまう。悲しみと怒りに自暴自棄になったフレイヤは人が変わり強力な「魔力」を手に入れる。
女を怒らせたら怖いの見本だ。
総ての物を凍らせてしまう強烈な魔力を振う「氷の女王」となり自分の王国を持ち更に益々拡大しようと言う野心を持つ。

 姉のラヴェンナは死んだと聞き、鏡を手に入れ姉の王国に侵攻しようとする。植民地を増やして領土を広げる「帝国主義」だ。
フレイヤは王国を築くや否や、軍隊の強化育成に励む。村落を襲い大人たちを虐殺して孤児となった子供たちを集めて武術を教え精神を鍛える。
軍隊の掟は女王に対する「忠誠」で「誰も愛してはならぬ」と人間的な温かみは強く否定する。
デ・カプリオ主演の「ブラッド・ダイアモンド」(02)にアフリカの小国の内戦で部落を焼き払い大人を
 
 皆殺しにした反乱軍が、孤児の子供たちを兵士に鍛え上げるシーンがある。アフリカの内戦では当たり前のことらしい。「氷の女王」はそうして無敵の軍隊で近隣諸国を占領して行った。美しい緑に覆われた山脈や大平原は灰色か白い無機質な風景に変わっていく。
軍隊の中で最優秀な兵士はエリック(ヘムズワース)と美しい弓矢と格闘の名人サラ(ジェシカ・チャステイン)。

 二人は女王の眼を盗んで愛し合うようになる。
おいおいチャステインは確かに「ゼロ・ダーク・サーティ」「ヘルプ」などでオスカー候補の実力派女優だがアラフォーの38歳だぜ。相手役のヘムズワースは「マイティ・ソー」などで人気が出てきたが32歳の若さだ。つり合いの取れないコンビだと思っていたが7年後に再会する二人はそれ相応の老け顔になっている。

 女王は二人の仲を裂き、フレイヤを捕らえ地下牢に放り込み、暴行で失神したエリックを凍てつく川に投げ込む。

 密林の中で7年ぶりに再会するサラとエリック。私を見捨てたと憤懣やるかた無いがエリックの胸に下る母の形見の鋼鉄製ペンダントを見て仲直りをする。このペンダントは後に重要な意味を持つ。

 氷の女王が探している鏡を先に見つけようと仲間になったドワーフ(小人は日本語で禁止用語)の騎士二人に女たちを加えてゴブリンの森に足を踏み入れる。モンスター、ゴブリンたちとの死闘は凄い。3Dで見たかった。

 邦題に騙され、白雪姫のお伽話を期待する向きにはスーパーヒーローの二人が悪の女王二人とモンスターたちと凄絶な戦いを繰り広げるSFアクションに唖然とする。

だから「バットマンvスーパーマン」や「アヴェンジャー」などを頭に入れて準備することをお勧めする。

 5月27日よりTOHOシネマズ日劇他で全国公開される。

「モヒカン故郷に帰る」(日本映画):年老いた父母に孫ができる報告をするために瀬戸内海の戸鼻島に7年振りに戻って来るモヒカン刈りのミュージシャン・栄吉。

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 昨日(9日)午後、評判が良いので伊勢丹裏で新宿通りに面したビルのB1にある新宿テアトルに出かけてみた。やはり8割方の入りで柄本明と松田龍平親子の会話に笑い声が湧く。日経の映画評では「孤独のススメ」や「さざなみ」など辛気臭い映画が4つ星なのに「モヒカン~」は3つしか獲れていない。日経の評論なんていつでも信用しない僕は低い星の評価作品を見歩く。

広島、瀬戸内海に浮かぶ四島を架空の島「戸鼻島」が舞台。
公民館で田村治(柄本明)の指揮で吹奏楽を演奏する中学生6人。トランペットが音を外しスローテンポの曲に他の部員も乗っていない。

演奏後,
白いスーツに白いソフト帽の治は館外に集め整列をさせた全員に反省と説教を垂れる。
薄灰色のサングラスをかけた治は明らかに矢沢永吉の井出たちだ。栄吉の言葉を引用しても知らない中学生の反応は鈍い。
そこへ飲み仲間がどっと押し寄せ説教中の治を拉致する。
家に戻った時は完璧にグロッギー。
玄関の三和土にぶっ倒れてゲーゲー吐き、妻、春子(もたいまさこ)やたまたま家に戻って来ている高校生の次男の浩二(千葉雄大)はオロオロするばかり。

その頃、戸鼻島にフェリーでついた若い男女。
モヒカン頭がトレードマークの売れない音楽活動をしている田村永吉(松田龍平)は、付き合っている会沢由佳(前田敦子)が身ごもったことを報告するために7年ぶりに東京から戸鼻島の実家へ戻ってくる。

頑固な父親・治は息子の永吉につっけんどんな口調で接するが、内心はうれしくて片端から友人知人を誘い、その夜は飲めや歌えの大宴会。
矢沢永吉の大ファンの治は「ビッグになれよ」と息子に栄吉と名付けている。

しかし、矢沢の歌声がバックに流れる居間での大宴会の最中に治が血を吐いて倒れ、救急病院へ担ぎ込まれる。
老医師がMRI診断でレベル4の肺癌であることが発覚。その癌は、既に全身に転移して余命幾ばくも無いと宣告を受ける。

永吉は父親の喜ぶ顔が見たいと治に今したいことをメモに書けと渡す。「そんなものは無い」と頑固に言い張る。妻の春子は「1年間広島カープの采配を振るわせて欲しい」と真っ先に手を挙げるが問題外。春子はカープでは菊池のファンだがTVやラジオの中継ではダブルプレーなどの凡打。自宅療法の治が危篤状態になった時にサヨナラ打を放つのが皮肉だ。

ようやく紙に書いたのが「えいちゃんにあいたい」と。一計を案じた栄吉は真夜中に真っ白なスーツに白いソフト帽サングラスをかけて治のベッドに近寄り肩を揺する。
飛び起きた治は動けないが狂喜乱舞のムード。50年前武道館のコンサートで握手をしたのを覚えていますか?と真剣な顔つきで聞く。栄吉は声を出すとバレるから大きく頷き暗闇に消える。余韻で感動に震えている治が可笑しいが涙が零れる。

食べたいものが無いかと聞かれ「還暦の時にデリバリーして貰ったソーセージ入りのピザ」が食べたいと。

どこから取ったか分からない。3軒あるピザハットなどのピザ屋は隣島、フェリーに乗らなければ配達出来ない。
「親父がガンで死ぬ前にお宅のピザを食べたい」と泣き落とし作戦で3台のスクーターが波止場から抜きつ抜かつビッグヒートの競争。

 肝心の治は片っ端から少しづつ摘まむがどうにも分からない。皆が席を外した隙に妻の春子が夫の耳に「これだって、言いなさいよ」はオカシイ。
「これだ、これだ」とパクパク食べる治を見て3人のピザ屋と栄吉は大泣きをする。。
 
しかし治の病状は毎日悪化して行く。

監督と自身のオリジナル脚本脚本は「南極料理人」や「横道世之介』などの沖田修一。
奇妙奇天烈なモヒカン刈りのミュージシャン栄吉は7年振りの父親に献身的な看病と思いやりを示す。
観客は松田龍平の熱演に感情移入をし画面に引きずり込まれている。

数々の受賞に輝く「舟を編む」の主演などで成長した松田龍平が主人公・永吉の熱演に対抗して頑固で息子を愛している父・治を柄本明が飄々と務める。

永吉の恋人・由佳を演じるのはAKB48出身の前田敦子。女優として成長著しい。
素朴でやさしく、広島カープの熱狂的ファン、母・春子はもたいまさこ。
いつもベタベタした芝居は鼻につくが今回はサラリとしていて良かった。

料理ができない由佳に料理のコツを教える。「煮もの」は「めんつゆ」を入れれば美味しくなるし誤魔化せると。

弟・浩二には期待の若手俳優、千葉雄大が出演。いつも何か食べている。その他豪華なキャストが顔を揃えて暖かなアンサンブルを沖田監督の演出は醸し出している。

 モヒカン刈りに艶を出した栄吉とお腹がパンパンに張った由佳のウェディングシーンは印象的だ。

エンディングに流れるのは元YMOの細野晴臣による4年ぶりのオリジナル楽曲「MOHICAN」はメロディアスで耳に残る。

 新宿テアトルで公開中

「在る終焉」(CHRONIC)(メキシコ・フランス映画):終末期患者と親しい関係を結ぶ看護師デヴィッドの生きざま

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映画の冒頭、顔は見えないが車に乗った人間のPOVで家から出てきた中年の女性が車に乗り込み住宅街を抜け広い通りに出て走るのを延々と追っかける。ようやくパンすると痩せたジャージ姿の男性、デヴイッド(ティム・ロス)の横顔が見える。

デヴィッドは看護師、終末期の患者だけを見る。ホスピスでは無く個人的に患者の自宅や病院の個室で熱心に看護する。自分の勤めを完璧にするため患者の家族や親戚を調べて人間関係を知る必要があると考える。

実際家族や親戚、知人はデヴィッドのような看護師には必要ないと言うかむしろ邪魔になる。この映画では4人の終末期患者を扱うが如何に患者に害を及ぼしているかが明らかになって行く。
裸の若い女性、サラ(レイチェル・ピックアップ)を椅子に座らせ全身をシャンプー&シャワーで丹念に洗うデヴィッド。美しい女性だが痩せさらばえ骨が浮かび上がっている。時間をかけて丁寧に股間などにもタオルを入れて洗う。カメラはミドルショットで窓から斜めに差し込む太陽、陽にさらされる裸身、懸命に洗い流すデヴィッド。

サラが死んだ夜バーで飲んでいると女性客たちに囲まれてサラの話をする。死因はエイズだったと聞いて引く女たち。

 終末患者専門の看護師、デヴィッドは妻ローラ(ネイレア・ノーヴィトン)と娘ナディア(サラ・サザーランド)と暮らしていたが息子ダンの病死から疎遠になり今は離婚している。ナディアは医学部に進み形成外科医を目指している。娘とは心が通うデヴィッドだ。

サラのあとは脳卒中で半身不随の老人、ジョン(マイケル・クリストファー)。エロ爺いで目を離すとPCでエロサイトを見ている。デヴィッドとジョンは仲が良すぎて老人の家族が焼き餅をやく。「セクシュアルハラスメント」で裁判所から接近禁止の命令を受けデヴィッドは職を失う。このセクハラが良く分からない。

 デヴィッドは看護が終わるとジョッギングに明け暮れる。病院では室内のルームランナー、自宅介護の場合は住宅街を走り回る。

 友人の紹介で末期ガンに冒された中年女性マーサ(ロビン・バートレット)を担当する。夫に先立たれ一人暮らしのマーサはデヴィッドに懇願する。「苦しい化学療法はもうイヤ、そうかと言って痛くてたまらない。どうか手を貸して欲しい」と。

この映画でも終末期患者が摂りつかれるのは「安楽死」だ。
アメリカでは許されていない。
映画は「安楽死」の問題はあっさり処理し、デヴィッドの運命を描くことになる。
看護の合間を縫って毎日励むジョッギングの果てに何かが待ち受けている。

アカデミー賞をこのところ連続して受賞している、メキシコ映画作家。
「バードマン」 あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14)と「レヴェナント: 蘇えりし者」(16)のアレハンドロ・G・イニャリトゥや「ゼロ・グラビティ」(15)のアルフォンソ・キュアロンなどの世界的巨匠を輩出し、常に一歩先を行く大胆かつ繊細な視点と唯一無二のエンターテイメント性で世界を熱狂させてきたメキシコの映画芸術。

この二人につづき、メキシコ次世代を担う36歳と若い才能は、女流監督、ミシェル・フランコ。
2009年に長編監督デビューをして以来、わずか2作目の「父の秘密」(12)が第65回カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門にてグランプリを受賞。
続く、3作目の本作が昨年の第68回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞している。「人間」を深く抉り出す、研ぎ

澄まされたその観察眼は鋭い。監督自身の末期患者の看護の体験から紡ぎだされた脚本は説得力がある。
最近流行りの手持ちカメラなどは使わず固定カメラで遠距離・中距離ショットを多用する。リアルに定点観測のごとく冷静に映し出す長廻しが多く、カット数も90を切る。

看護師・デヴィッドを演じるのは「レザボア・ドッグス」「海の上のピアニスト」などのイギリス人俳優ティム・ロス。エグゼクティブプロデューサーとしても携わっている。

5月BUNKAMURAル・シネマにて公開される。

「あなた、その川を渡らないで」(韓国映画):韓国山奥の寒村に住む、結婚して76年の89歳のカン・ゲヨル婆さんと98歳のチョ・ビョンマンの老夫婦は互いに慈しみ愛し合う

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老夫妻を追った韓国映画を見る前に5月にポレポレ東中野にて公開される日本映画「ふたりの桃源郷」にも触れてみたい。

山奥の夢見たユートピアで二人仲良く生涯を送る老夫妻の生き様は両映画に通じるテーマだ。
山口県岩国市美和町から車で30分程入った山の中。主人公は小さな山小屋で暮す田中寅夫・フサコ夫妻。
電気も水道も電話も通じていない山奥のポツンと立つ侘しい山小屋。傍に廃車のバスがあり二人の寝室だ。

韓国の老夫妻の家には電気が通じていて電気釜で炊飯TVも見られるからより文化的だ。しかし風呂が無いので盥に浸かって行水をし老妻が頭を洗ってくれる。

昭和13年(1938年)二人が結婚した時、寅夫は24歳、フサコ19歳。
寅夫は兵隊にとられ中国から南方へ転戦したが幸い五体満足で終戦(1945年)と同時に復員。フサコの故郷に近い山を買い、開墾して田畑を耕し始めたのが昭和22年(1947年)、寅夫33歳、フサコ28歳だった。
山で暮して14年、昭和36年(1961年)に3人の娘たちを育て上げるため高度成長に湧く大阪に戻ってタクシーの運転手をしながら18年振りに山小屋へ帰って来る。

時に昭和54年(1979年)寅夫は65歳、フサコは60歳になっていた。
この時から山口放送(KRY)のカメラが追い始める。25年も追い続けた忍耐と労苦持続性に敬意を払う。
平成19年(2007年)寅夫は93歳で亡くなる。天寿を全うしている。アルツハイマーのフサコは「お爺ちゃん何処だ?」と探し回る。山へ薪を取りに行っていた日常を思い出し、峰に向って「オジーチャーン!」と叫ぶ大声は澄んで綺麗で年寄りの声では無い。
そのフサコも平成24年(2012)に入院した施設で寅夫と同じ93歳で後を追う

日本人の老夫妻と韓国人の老夫妻の映画を見比べる。
日本の方はKRYの報道番組として25年間散発的に撮り始めているが、韓国のチン・モヨン監督は最初からドキュメンタリー映画として15か月、二人に密着して撮影している。

日韓の老夫妻間の愛情は変わり無いが日本人は控えめで表に出さず、韓国人は喜怒哀楽を隠すことをしない。
それに上は白、下は青とかオレンジとか赤とか派手な晴れ着の「韓服」を常時着用し手をつないで何処でも歩き回る。日本人は恥ずかしいと感じるのだろう。老夫妻の物理的接触は韓国人ほどでは無い。
モヨン監督は撮影も兼ねており、二人の私生活への浸透の深さが違うし、TVと映画の視点の差が明瞭に出ている。ナレーション抜きで二人の会話だけと言うのも良い。
舞台は韓国の田舎、小さな川の流れる江原道(カンウォンド)、横城(フェンソン)のこぢんまりした村。山裾と田畑に囲まれて隣家も離れた粗末な一軒家に住む二人。台所と土間、それに寝室兼居間の一部屋しか無い。

少女のように表情豊かな89歳のカン・ゲヨル、98歳ながらしっかりした物言いのチョ・ビョンマン。結婚して76年にもなるが、どこに行くにもきれいなお揃いの韓服を着て、手をぎゅっとつないで歩く。
両親を亡くし孤児になったチョ・ビョンマンは17歳の時に8歳のカン・ゲヨルさんの家に引き取られた。そしてカンさん14歳、チョさん23歳の時に結婚する。兄妹で育てられたので夫婦と言ってもピンと来なかった。
字幕を読んでいるので滑舌や言語の明瞭さは不明だが卒寿直前の老婆にしては腰が少し曲がっている他は真っ白な髪の毛に流石しわくちゃな顔や手足だが、健康的で歩みもしっかりしていて論理的で頭も明瞭だ。

98歳のチョの方も細身の体はシャキッとし、足取りも確かだ。ただ咳が出て夜になると激しく咳き込む。カン婆さんの耳や顔の触っていなければ寝られないと二人並んで手を伸ばし婆さんの顔に手を置き安堵の鼾をかいている爺さんの穏やかな顔はこの映画のシンボルだ。
ベッドで無く床に寝ているのはオンドルのせいか。それにしても家具が無い食器棚くらいで直径30センチほどの低いチャブ台を囲んで料理皿は床に置いて食べる。ふっくら炊けた白米に韓国式におかずを何種類も載せて金属の箸を使う。
春はタンポポを手折って互いの頭にさし、(カン婆さんは両耳に一杯さしてもらい)夏は小川のほとりで水かけっこ、秋はせっかく掃き集めた落葉の山から枯葉を掴んで投げ合い、冬は初雪を口に含んで病気除けの祈願の後は雪合戦をする、毎日が新婚のような夫婦だ。(しかし90代の夫妻がこんなにもじゃれ合うのはヤラセじゃないかと疑うが)

2人は12人の子供を作り、6人を育て上げたけれど、6人を途中で亡くした。
成長した6人の子供たちは、全員大都市へ巣立ってしまい、二匹の小さな雑種犬、白いチビと黒いゴンスンがいるだけだ。
(食べられずに良く生き延びていると僕は意地悪な印象を持つ)
老夫婦は互いを頼って穏やかに生きてきた。

そんなある日、チョ・ビョンマンさんがかわいがっていた子犬のチビが突然死ぬ。嘆き悲しむ老夫婦、チョは穴を掘りチビを埋めて塚を建て立派な墓にチビの好きな物を供えるシーンが良い。
チビを葬って家に戻ってからというもの、チョ・ビョンマンさんはだんだんと気力を失っていく。

夫婦の誕生日や結婚記念日には子供や孫達が集い、長寿と健康を祝ってくれるが、それはカン・ゲヨルにとって、幼い時分に世を去った6人の子供たちを思い出す哀しいひと時でもあった。
今残っていて顔を出してくれる長男と長女、二人は両親の目の前でもう少し親の面倒を見ろと喧嘩をする。病院へ連れて行っただの両親への訪問回数の多寡など、夫妻にとってはどうでも良いことだ。
どこにでもいそうな、韓国の典型的老夫妻ながら、その姿が清く崇高な神様のように感じられ、こんな韓国人老夫妻なら「慰安婦問題」も持ち出さないだろうと安心して見ていられる

雨が降る庭で、ひどくなっていくチョ・ビョンマンさんの咳を聞いたカン・ケヨルさんは、友達を失って独りぼっちになった子犬を遠くから眺めながら、近づいてくる、また別の別れの準備をすることになる。
驚いたことにカン婆さんはチョ爺さんの服をカマドで燃やし始める。あっちへ行った時の準備だと。普段着から初め死んで初めて晴れ着を焼くというのだ。
(病名は明にされないが)呼吸器の病気で眠れない夜を過ごすことが増えていたチョ・ビョンマンだったが、医者もこのような老齢では投薬も意味が無いと匙を投げ、症状が重篤化し、危篤状態に陥ってしまう。

知らせを受けた子供たちは実家に駆けつけるが、僻地故に病院は遠く、薬も医療機器もなく、救急車を呼ぶことも出来ない。
家族たちの献身的な看病の末、一時的に意識を取り戻し小康状態を回復するが、チョ・ビョンマンがカン・ゲヨルを一人残して「三途の川」を渡る時は刻々と迫っていた。
実在する夫婦とその家族の姿を、江原道の素晴らしい自然と四季の美しさを背景に描くドキュメンタリー。

2009年に韓国で封切られて、累計480万1608人。韓国人の10人に1人は見ている勘定になる。
45歳のチン・モヨン監督はTVドキュメンタリーのディレクター出身。長編記録映画は初めてだ。
制作費1千万円足らずの自主制作映画がその350倍を超える売り上げを記録し、当初、186館で公開だったものが、口コミで評判が高まり301館で上映された
すでに韓国の「今年の映画賞」の「独立映画賞」を受賞している。

素人だけでスターも登場せず、劇的な盛り上がりも無いが、老夫婦の心温まる愛情物語に思わず涙が零れる映画だ。

7月シネスィッチ銀座にて公開される。
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