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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「カルテル・ランド」(CATEL LAND)(メキシコ・アメリカ映画):メキシコとの国境に「万里の長城」を築かなければ不法移民も麻薬の密輸も防げないか?

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 思ったことを滅茶苦茶に本音を撒き散らすドナルド・トランプが共和党大統領候補のトップを独走している。
 私事ながら私がNY駐在時代に住んでいたセントラル・パークサウスのアパート「トランプ・パーク」の大家だったし、トランプJrは僕の主宰する「オペレーション・スマイル」本部の理事を最近まで勤めていた。
 
トランプ曰く。「メキシコからの不法移民を防ぐために『万里の長城』を国境に築け」移民も麻薬もアメリカに持ち込ませないと。

 麻薬密輸団の映画は目立つ。古くは「トラフィック」から注目され「ブレイキング・バッド」「ボーダーライン」とか実在の麻薬王をモデルにした「エスコバル」など中南米のカルテルの話が多いが、アメリカと国境を接しているメキシコはその件数の面からも凄まじい。

「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローがプロデュースして製作総指揮を手がけ、2006年から続くメキシコ麻薬戦争の最前線をとらえたドキュメンタリーを見るとドナルド・トランプの主張の正しさが良く分かる。

 メキシコ、ミチョアカン州の小さな町の内科医ホセ・ミレレスは、暴行レイプは当たり前、平気で殺人を犯して地域を苦しめる凶悪な麻薬カルテル「テンプル騎士団」に対抗するべく、市民たちと銃を手に蜂起する。メキシコ政府は腐敗しきり警察も頼り無い。
ミレレスは精力的に各地を訪問し「殺されるのを待つか、銃を買って自分たちを守るか」賛同した者たちは銃とユニフォームを与えられ各地でカルテルを撃退し大きな成果を挙げて行く。

 一方アメリカ側では、コカイン通りとして知られるアリゾナ砂漠のオルター・バレーでアメリカの退役軍人ティム・フォーリーが、メキシコからの麻薬密輸を阻止する自警団「アリゾナ国境偵察隊」をリオ・グランでの南部に結成する。「俺のやっていることは正しい事だ。自分たちが戦っている相手は悪なんだ」と。

 2つの組織は勢力を拡大していくが、問題なのはメキシコの自警団、カルテルを憎む人々が増え組織が巨大になって行くとやがて麻薬組織との癒着や政府や警察への賄賂が横行するようになる。
ミレレスの組織が大きくなるにつれ内部で違法行為を行う者、麻薬を製造するものまで現れる。
「俺たちの作る麻薬(アンタフェミン)などは学校で教わる化学の実験で簡単に作れる。これをアメリカに密輸するのは悪いことだとは分かっているが俺たちは貧乏だ。貧乏を抜け出すためにアメリカに少し犠牲になってもらうんだ」

 大きくなりすぎた自警団はやがて政府の介入で吸収される側と反発する分派の二つに分れることになる。

 監督とカメラは命がけで組織内部に入り込みインタビューをしたり、麻薬工場を撮影したりする。大変なドキュメンタリだ。

 こんな記録映画を見る限り、ドナルド・トランプの大統領立候補演説は暴言では無い、その場限りの言い逃れでは無い、アメリカの7割近くを占める白人の本音だと感じる。
今ではメキシコばかりかイスラム教徒の入国まで禁止をしようと訴える。

若き映画監督マシュー・ハイネマンが決死の覚悟で取材を敢行し、メキシコ社会の実態を明らかにしていく。惜しくも洩れたが今年の第88回アカデミー長編ドキュメンタリ賞にノミネートされた作品だ。

5月渋谷イメージ・フォーラムにて公開される。

「スィートハート・チョコレート」()(日本・中国映画):中国人美女リンユエを巡る三角関係と繋ぐチョコレート

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上海と夕張の荘厳で美しい舞台で展開されるロマンティック・ムード映画。確か3年半前(2012年10月)の東京国際映画祭の「アジアの風」部門で出品され、中国では翌13年に公開されたと聞くが何故今頃日本で初公開されるのか分からない。

 映画としてはシーンも上海の大都会の夜景、夕張の雪景色、それにリン・チーリンや池内博之の美男美女たちで良い気分にさせてくれるから気持ちが和む。

 映画の冒頭は夕張のスキー場。
ゲレンデでキャンバスを立てて絵を描いている中国人女性、リンユエ(リン・チーリン)の傍にスキーで急制動を掛け雪片がキャンバスに跳ね飛ばして星野守(福地祐介)が止まる。ゲレンデのレスキュー隊員である星野は釣瓶落としに陽が暮れるスキー場は危険だと警告を発し宿までエスコートしてくれる。しかし何で中国人の美女が日本で絵を学ぼうとするのだろう?それも山奥の雪深いところで。

 てっきりナンパ目的だとリンユエは守を疑うがその夜、守のレスキュー隊兄貴分の総一郎(池内博之)を交えて3人で楽しい飲み会を行う。

 守は毎年大晦日に手作りチョコレートトリュフを町の家々に配る。孤児で児童福祉所で暮す守はチョコレート作りの名手。美味しいチョコレート作りの秘密はやわらかいガナッシュを丁寧に溶かしたチョコレートを一つ一つ心を込めて包むこと。
 笑顔で話す守にリンユエは惹かれ愛し合うようになる。

 リンユエの泊まる旅館「木場」の息子、総一郎も密かにリンユエを愛していた。しかし守とリンユエの気持ちを知るようになり自分の想いは封印していたのだ。

 そんなある日、雪山で子どもたちと一緒に写生していたリンユエが遭難し意識が混濁した中で守に発見される。彼女は心臓に重い疾患があったのだ。総一郎が止めるのも聞かず守は単独で猛吹雪の中を車でリンユエを病院へ送ろうとして事故を起こし絶命する。命を取りとめたリンユエはICUで心臓の手術を受けて徐々に回復していく。

 どうもストーリーが悲劇を盛り上げるためにご都合主義になって行く。
意地悪な僕は心臓病&守の事故死&心臓移植と簡単に結びつけるストーリーに拒絶反応を起こす。

 リンユエが総一郎や養護施設長・加藤(山本圭)の前で守を生涯愛し続けることを誓っても当たり前だと、思うだけだ。

 音楽は久石譲の「冬のソナタ」調のピアノ曲が哀切を高める。それでも切々と訴えるムードピアノに流され涙が止まらない。

 事故から10年、上海に戻ったリンユエは守の夢だった「チョコレート店」を開き、同じく上海に渡った総一郎はギャラリーを開き夫々忙しい日々を送りながら人生を楽しんでいる。

 10年のアブセンスがあったとしてもリンユエと総一郎の気持ちは変わらず、二人は結ばれることになるのは当然の帰結だが、守が可哀相でひっかかるのは僕だけだろうか。
 
 監督の篠原哲雄は「月とキャベツ」以来「地下鉄(メトロ)に乗って」や「起終点駅」にいたるまでどちらかと言うと骨太のロマンスを描いているが、こんな子どもだましのロマンスを撮ったとは意外だった。美女リンユエも池内博之も素敵だがシナリオが大アマだ。チョコレートに何かしら香辛料を入れなければ久石のピアノ曲で綺麗に溶けてしまいそう。
 
 映画上映後の銀座8丁目高速道路下のTCCの控え室で目がねをかけた上品な監督は観客の質問に答えていたが、未だ52歳の若さで変に割り切った甘さだけが売り物のロマンスに満足しないで欲しいと思うだけだ。
 
 それにしても冬の夕張の雪景色と大都会上海の夜景の美しさは息を呑むほどだ。
 
3月26日よりシネ・リーブル池袋で公開される。

「黒崎君の言うなりにならない」(日本映画)強引な黒崎君と優しい白河君に言い寄られたウブな女子高生

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どうもPCの調子がオカシイ。今日は途中までで明日修理してから仕上げる予定。

先週末の映画ヒットチャートで並居る強豪オスカー賞作品をしりぞけて首位にたったこの映画。
銀座有楽町付近で上映館を探したが見当たらない。

 仕方なく渋谷道玄坂の東宝をスマホの地図で探して16時の回に潜り込んだ。
ここは昔ジョイシネマだった場所だ。近代的ビルにスクリーンが6つあるシネコンに生まれ変わっている。

 こんなに当たっているのに地下のスクリーン6では1日、2回しか上映しない。
周りを見回すとオジさんは僕一人。
後は女子中学生か高校生ばかり。男子生徒も見当たらない。そんなに人気のコミックとは知らなかった。
トイレは女子は長蛇の列だが男子はガラガラ。

 ヒロイン由宇には小松菜々。この子は見たことがあるが男性二人は初めて。
「SEXY ZONE」の中島健人と千葉雄大。やはり歌手はイケメンの上に芝居が上手い。

「俺の女になれ」「お前は俺の奴隷だ」なんて言葉にヨワインだ。
トイレの掃除も床の雑巾がけも言われるままに従う由宇。
バツとしてキスをされるとボーっとする。おまけに教室で後ろから耳タブを舐められる。
堪らない顔の小松の表情が良い。


 白河タクミの「白王子」の細やかな優しさより、黒崎晴人の「黒悪魔」的な強面が女性に受けるとするテーマは観客の女子生徒たちの共感を得ているのは間違いない。
観客を振り返るとうっとりとして画面に吸い込まれているんだな。

やきもちを焼いた同級生に騙されて男子風呂に入ってのぼせる由宇。
湯船から出るに出られず、失神した由宇の全裸をタオルで包んで「お姫様抱っこ」し、
密かに部屋へ運び込む黒崎君。
そんなエロっぽいシーンもどうやら女子生徒には憧れの世界のようだ。

まあ勝手にやってくれ。

監督の月川翔もその辺のところを良く心得ていると見えツボに嵌った演出だ。

 よみうりランドの観覧車で暗い森をバックに一つだけ灯りがともるコンパートメント。
ロングショットで抑えておいて、観覧者を降りる黒崎と由宇の乱れる足元のショットが上手い。

稚拙な脚本詰まらない話と思うのは大人の浅知恵。
女子生徒たちは何に興味があるか、教えてくれる。


渋谷TOHOシネマズ他で公開中。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(THE BIG SHORT)(アメリカ映画):リーマン・ブラザーズが倒産しサブプラムローンで大儲けをした金融の異端児たちがいる

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今回の第88回アカデミー賞では作品賞、監督賞など主要部門を含む合計5部門にノミネートされ、期待をもたせたが「脚色賞」を受賞した。

マイケル・ルイスのノンフィクションを原作としながら一般人に分かる大損や儲かる話など経済的に興味ある部分を取り出してコメディタッチで脚色したアダム・マッケイとチャールズ・ランドルフの脚色が注目を浴び、オスカー受賞に結びつく。
魑魅魍魎なウォール街の実情を暴いてみせるハリウッド映画業界の客観性や公正さ、正義なども観客に分かってもらえる。

僕は監督をしたアダム・マッケイは監督賞に値いすると思っている。

親会社のヴァイアコムがパラマウント映画社(PP)を中国企業(アリババとかワンダなど)へ売却しようとする騒動の中、パラマウント日本支社が遂に1月に閉鎖され、楽しみにしていたこの映画の試写が無くなった。
PP日本支社から東宝東和の子会社「東和ピクチャー」に配給権が移行したので試写状の案内も来ずに、封切りの翌日先週土曜の六本木ヒルズ12時50分の回に駆けつけた。

難しい金融映画にも関らずサラリーマンカップルを中心に8割方の入り。
登場人物には名の知れたゼレブも実名入りで登場する。

映画が始まるのは2006年のアメリカ。
時限の低金利住宅ローンをブルーカラーの低所得者層に貸し付ける「サブプライム・ローン」のリスクを察知した、ウォール街では風変わりな金融トレーダーのマイケル・ブーリー(クリスチャン・ベイル)はそのローンの危機とカラクリを指摘するもウォール街では一笑を買ってしまう。

そこでリベンジ、頭を捻って「CREDIT DEFAULT SWAP」という金融取引でサブプライム・ローンを出し抜いてやろうと考える。
要するにCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは空売りで、ローンを高値で売りどん底で買い戻すスワップでその莫大な差額で大もうけ。

日本の池井戸潤描く銀行家の半沢直樹のように冷笑され痛めつけられた「リベンジ」なのだ。

同じころ、銀行家ジャレド(ライアン・ゴズリング)がマイケルの戦略を知り、ヘッジファンドマネージャーのマーク・バウム(スティーヴ・カレル)やネット仲間のライアン・ゴズリングそして伝説の銀行家ベン(ブラッド・ピット)らを巻き込み大量の軍資金を揃えて4人で、ウォール街の銀行家連合大軍と対決する。

「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」などテンポの速い演出が得意のアダム・マッケイの独断場。

老舗リーマン・ブラザーズは倒産し、その後失われた10年を齎した「サブプライム・ローン」を題材に切れ味鋭い解説に痛快無比のリベンジ、それに日本円にして250億円の儲けも付いて来るのだから久しぶりにスカッとする映画だ。

株式が乱高下し金融界が荒れれば、誰かが得をし誰かが損をする。
「勝てば官軍」

TOHOシネマズ六本木にて公開中

「団地」(日本映画):監督・脚本の坂本順治と15年振りにコンビを組む藤山直美。他愛も無い馬鹿げた与太話に大笑い。

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2000年に上映された阪本順治監督、舞台女優・藤山直美の「顔」を思い出す。

あれから15年、二人はタッグを組み、映画を製作した。
「顔」では妹を殺し逃走中のブス女、犯罪映画なのに笑えた。藤山直美はあの時32歳で映画初出演だったが40代の女性をやすやすとこなし数々の主演女優賞を総なめにした。

だから15年振りに相性の良い坂本監督のメガホンの下にスクリーンに戻って来たこのベテラン喜劇女優に見る前から期待一杯だ。それも舞台は大阪。
脚本も兼ねる坂本は撮影前から藤山を頭に置いて「アテ書き」したと言う。藤山のセリフが関西弁で踊り活き活きしている。

1人息子を交通事故で失い、代々続く漢方薬店をたたみ、半年ほど前に大阪近郊の小さな団地に越してきた山下清治(岸部一徳)・ヒナ子(藤山寛美)夫婦。
ある春の日、ヒナ子が窓から外を眺めていたら昔の漢方薬のお客さん、真城さん(斉藤工)が尋ねてくる。

若いハンサムな実直そうな青年、日傘をさし挨拶も丁寧だが日本語がオカシイ。山下さんの漢方薬5000人分が欲しいと。
仲間の命がかかっており、山下さんの漢方薬以外は効かないと。

静治は廃業したが薬研などの道具は捨てるにしのびなく団地の床下に一式揃えてある。
真城さんの命がけの依頼で腰を上げる。
しかし5000人分は薬草から薬石を最初から集めなければならない。
すくなくとも2ヶ月間の猶予を貰う。

 狭い団地ではあんなに深い「床下」がある筈は無い。
壁や階下の天井は薄い。
騒動が始まり、静治は「床下」に道具や行李、材料などと長い時間避難する。
ここは映画のフィクションとして目を瞑ろう。

 清治は毎日団地の主婦たちと挨拶し、裏手の山林へ入って行く。植物図鑑を片手に木々やキノコを観察し採取する。同じ団地に住む少年(小笠原弘晃)をたまに見る。少年は父親に虐待されても泣き言も言わず、いつも「バルタン星人」の唄を朗々と歌っている。

外出する夫を送り出した後はヒナ子は近所のスーパーでレジ打ちのアルバイト。
団地の住人は、大阪人らしい親しさで直ぐに友達になるが、マイペースな夫妻に対し好き勝手な噂を口にする。

ふたりは気にも留めていない。
ところが夫・清治が材料が手に入り漢方薬を床下に籠もって姿を見せなくなり、代わりに謎のスーツ男・真城貴史が山下家に出入りするようになったことから、離婚・蒸発・果てはヒナ子が夫静冶をバラバラ殺人にして冷凍していると噂はエスカレート。

関東なら隣が何をしてようと無関心だが、噂大好き大阪人の好奇心旺盛集団の姿は面白い。やがて警察やTVなどのマスコミを巻き込んだ事態へと発展していく。

団地の自治会長・行徳正三(石橋蓮司)が過激な発言を抑える纏め役、行徳の妻・君子(大楠道代)も夫を助ける。行徳老人の自慢は大学で物理学を専攻した。が就職したのは雛人形の会社で生涯そこで過ごしたことを後悔している。(何十回とこのエピソードが出てくる)

だが皆の声を代表して、団地の次期会長を狙う吉住(宅間孝行)が行徳会長を突き上げ、ヒナ子が夫をバラバラにしてタッパに詰めている現場だと、団地302号室の部屋に突入することになる。

 観客から見たら謎だらけなのは真城とその一派だけ、実は彼らは地球を訪れている「エイリアン」だと言うのがオカシイ。

何も興味を示さない達観している山下静治とヒナ子夫妻が突如交通事故で死んだ1人息子に会わせてあげるというので必死に漢方薬製造に走ったのだ。

ほかに麿赤兒、宅間孝行、竹内都子、濱田マリ、滝裕可里らベテランが出演する。

他愛も無い「与太話」を坂本順治が監督し脚本を書き、藤山直美と岸部一徳らの芸達者が演じるとトボケタユーモアの楽しい映画になる。久しぶりに腹を抱えて笑った。

6月4日より有楽町スバル座他で公開される。

「ルーム」(ROOM)(カナダ・アイルランド映画):5歳の誕生日までジャックは「部屋」の外の世界を知らず、マー以外の女性に会ったことが無かった

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日本でもこれに似た事件は幾つかあった。若い女性がレイプ目的で誘拐され長い期間監禁されているうちに妊娠をして子どもを生む。

原作はエマ・ドナヒューのベストセラー小説「部屋」(ROOM)。映画の脚色も度名ヒューが書いた。実話を基にしたのはオーストリアで24年間地下室に閉じ込められていたエリーザベト・フリッツルの事件だ。

ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が目を覚ます。周囲の壁が迫る小さな部屋で天窓が唯一の太陽の光の素。陽が昇り明るくなる。今日はいつもと違う特別な日、そうジャックの5歳の誕生日だ。部屋にはマーのジョーイ(ブリー・ラーソン)だけ。

ジャックは女の子のように髪を長くし後ろで束ねた優しい顔をしている。ジャックとマーは未だ「臍の緒」で繋がっているように、ジャックの接する世界で唯一の女性だ。

今年24歳、17歳でオールド・ニック(ショーン・ブリザーズ)に誘拐され何処かの小さな小屋に閉じ込められて7年になる。
髭面で近視の目がねをかけた鼠のような男が夜中に時々現れて食料や衣服を置いて行く。
「もっと栄養のあるものを」マーが言うと「半年前から失業して素寒貧だ」と。
ニックが来る時はママの言いつけで洋服ダンスに隠れて寝る。

この「部屋」の中にあるものがジャックの知っている全てだった。こんな狭い空間の中で、ママはジャックが肉体的にも精神的にも健康でいられるように最善を尽くしていた。

 ママと小屋の中しか知らないジャックには不満も不平も無い。歯磨き、壁から壁へと駆けっこ、ストレッチ運動。毎朝のルーティンだ。バースデイケーキに蝋燭も無い。おまけに電気代も払っていないので暖房が無く二人ともガタガタ震える。

ここへ来てマーは決心する。
読んで聞かせた「モンテクリスト伯」のように「死んだ振り」をして死体を外へ捨てさせようとする計画だ。
 カーペットにグルグル巻きにしたジャックの「死体」をニックのトラックで運び出させようと言う陰謀だ。

警察沙汰を恐れたニックは赤いトラックの荷台に絨毯を積んで街を走り始める。
監禁された部屋からどうにか二人が脱出するまでのホラーやスリラーは見事だ。しかし意外と呆気無い。

トラックが止まったところで荷台から落ちて警察に保護され救出されたジャックの記憶から小屋が発見されマーも救出されて映画は一段落するが、ここからの人間関係のドラマがもう一つの見ものとなる。
病院に運ばれた二人はそこでジョイの父母と再会する。ジャックにとってはお爺ちゃんのロバート(ウィリアム・メイシー)とお婆ちゃんナンシー(ジョアン・アレン)に会うのはこれが初めてだ。

しかしナンシーは精神に問題があるロバートと別れ新しい夫と暮している。そこでマーとジャックはおナンシー婆ちゃんの家に引き取られることになり、新しい生活がスタートします。そこへ押し寄せるマスコミの攻撃と野次馬の行列。

周囲に警戒しビクビクしながら過ごす生活。マスコミへの対応、社会への適応、他人に強い警戒心を抱き心を閉ざしてしまった息子に悩まされ、母親が精神的に崩壊していく。入院しているマーに伸びた髪の毛を切って届けて貰うジャック。
旧約聖書のサムソンにように長い髪にはパワーがあるのだ。

母親を演じたブリー・ラーソンはこの映画でアカデミー賞主演女優賞を獲得した。僕は「さざなみ」のシャーロット・ランプリングの方が上手かったと思うし、もしオスカーを与えるなら5歳のジェイコブ・トレンブレイに助演男優賞を与えるべきだと思った。
すくなくともラーソンの芝居よりはるかにこの映画に寄与している。

ジャックは5歳の男の子なのに最初からどう見ても仕草も容貌も女の子というとても難しかった筈だ。あまりにもトレンブレイ君の演技が上手いので僕は途中までてっきり女の子だと思って見ていた程だ。

4月8日よりTOHOシネマズ新宿他で公開される。

「シアター・プノンペン」(THE LAST REEL)(カンボジア映画):暗黒の70年代後半を生き延びた映画に出会い、自分の家族の辛苦を始めて知る女子大生

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カンボジアの映画を見るのは初めてかもしれない。
カンボジアで我々の脳裏に焼きついていることは、1975年ベトナム戦争終結後から始まった暗黒の3年8カ月と20日、カンボジア共産党「クメール・ルージュ」(指導者だった「ポル・ポト」の名で呼ぶこともある)の圧制で300万人、カンボジア国民の1/4が殺されたことである。

 イギリスのデヴィッド・パトナム監督「キリング・フィールド」(1984年)を見た人はポル・ポトの大虐殺を一生忘れられないだろう。
サム・ウォーターストーンの主演だったが、カンボジア人の助手として実際に圧制をのがれ難民としてアメリカに亡命した医師・ハイン・S・ニョールは素人ながらオスカー助演男優賞を受けた。(その後交通事故死するが)。

 この映画は4年の暗黒時代に300本の映画が制作されたと伝えて言るが、現在その1割30作品だけしか形を整えていない。
 その事実に若き女性映画作家、ソト・クォーリーカーが興味を抱き脚本を書き、演出をしている。ソトの父親は民間パイロットだったがポル・ポトに協力を拒み殺害されている。その体験も盛り込まれている。

 プノンペンに暮す女子大生ソポン(マー・リネット)は、青春を楽しみたいが、過程では病床に伏せる母(ディ・サヴェット)、厳しい軍人(大佐)の父、口うるさい優等生の弟などで息が詰まりそうだった。
おまけに父の紹介する男と結婚を強制されている。

ある夜、仲間と遊園地やディスコで遊んだ後、バイクを取りに戻るとうらぶれた映画館が目に入る。客が殆ど居ない昔の映画に、自分にそっくりな女性が出ている。
よく見ると何と若き日の母が主演女優ソテアとして出演しているではないか。
現在の病を得た母とは想像も出来ないほど美しく輝いている。
だが映画は白馬に乗った王子様が現れた途端唐突に切れる。

 その映画「長い旅路」は1974年、クメール・ルージュの大弾圧の時代につくられたラブロマンスだった。内戦の混乱で最後の20分(The Last Reel=原題)が紛失していて結末が見られない。
映写技師のソカ(ソク・ソトゥン)は、実情を良く知っていることから、ソポンは彼こそがこの映画の監督だと確信する。

ソポンはソカに頼み込み映画の後半を撮ってほしいと思う。生気を失った母に生きる希望を取り戻して欲しいからだ。
ソカはソアテとそっくりのソポンを見て40年前に彼女と愛し合った日々を思い出していた。二人の愛はクメール・ルージュによって残酷に引き裂かれていたのだ。
別れ際に生き延びていたならこのシアター・プノンペンで会おうと約束をしており、毎晩客が来なくとも未完の「家への長い旅路」を上映して彼女を待ち続けたのだ。

お伽噺だが、子ども時代にクメール・ルージュに苦しめられたブノンペンの人たちに受けた。カンボジアで大ヒットとなり国外では日本で初めて公開される。  

昨年のオスカー外国語賞にカンボジア代表として出品されたが、カスリもしない。まあこんな大アマに話は映画のレベルも低いし脚本もお粗末だからひっかからない。

ソト・クォーリーカー監督はドキュメンタリ出身で、これが劇場用長編初監督作品。2014年・第27回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞した作品(映画祭上映時タイトル「遺されたフィルム」)。

主演のマー・リネットはこれが映画初出演だがすっかり人気女優になった。鼻が胡坐をかいているが中々キュートな現代風の容貌だ。
母親役のディ・サヴェット(こちらはシワクチャ婆さんだが)も映写技師のソク・ソトゥン(奇妙な昆虫のような顔つき)もクメールを生き延びたベテランの俳優。アメリカに亡命しオスカーを貰いながら不慮の死を遂げた医師・ハイン・S・ニョールを思い出す。

最後のエンドクレジットでポル・ポトに殺された映画人300人に捧げると献辞が出てポートレートが延々と続く。

邦題「シアター・プノンペン」は良く考えた素晴らしいタイトルで原題を超える。

映画の意義はカンボジア共産党の圧制で犠牲になった映画作品と映画作家への追悼、オマージュにある。

7月2日より岩波ホールにて公開される。

「追憶の森」(THE SEA OF TREES)(アメリカ映画):死を決意してアメリカ人と日本人の二人の男が富士山麓の樹海「青木ケ原」で出会う。

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これに似た日本映画が3年前にあった。石原慎太郎の短編「生死刻々」を原作とし、新城卓が監督し勝野洋が主演した「青木ケ原」。

富士の麓「樹海・青木ケ原」に隣接する山梨県忍野村でペンション経営者の松村雄大(勝野)はある夜、行きつけのバーで1人の男(矢柴俊博)と出会う。

滝本と名乗るその男は翌日に行なわれる、毎年恒例になっている青木ヶ原樹海での遺体一斉捜索に同行したいと申し出る。すると捜索で滝本が約2年前の遺体となって発見される。東京の紙問屋若旦那だった。だがその後も滝本の幽霊は松村の前に現れ続ける。住職に相談すると滝本は村松に頼み事がある筈だと。

樹海の死体、幽霊との出会いなどこの「追憶の森」(原題=樹海The see of Trees)は同じ要素が揃っているがドラマはまるで違ってミステリアスなドラマで盛り上がっている。

ボストンの高校教師アーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)は人生に深く絶望し、日本にやって来て死に場所としてアメリカにも知れ渡っている富士山麓の青木ヶ原樹海を訪れる。
マサチュセッツから片道切符で自殺場所の樹海に辿りつき係員からの警告や忠告を無視して森に入り込む動機が不明だ。

アーサーは森林の奥地までたどり着き、薬を大量に呑んで死ぬばかりの態勢だったが、樹木の間に垣間見るけがを負って出血し歩くこともママならない日本人男性、ナカムラ・タクミ(渡辺謙)を見つける。薬を呑むのを止め彼のもとへ駆けつける。

アーサーと同じく死のうとして樹海に来たものの考え直し、妻子のところへ戻るため助けを求めてきたタクミと互いのことを語るうちに、二人はこれまでの人生を見つめ直し、生きるため樹海からの脱出を模索するようになる。

タクミは何度も「白人には私どもの文化は分からないだろうが」と繰り返すが、脚本家の無知を告白しているようだ。それに日本文化を軽視し侮辱しているような気もする。

アーサーが何故これほどまでに人生を諦めたかが、回想の形で描かれる。
最愛の妻、ジョーン・ブレナン(ナオミ・ワッツ)は低賃金の高校教師のアーサーを低く見てジャーナリストに憧れる彼を諌める。
だがジョーンの脳に腫瘍が発見され放射線治療を受けながら脳腫瘍ではないかと摘出手術をするものの、その後のがん細胞の転移が懸念される。

しかし腫瘍は良性でガンの心配が無くなったブレナン夫婦は大喜び。退院した病院から救急車で自宅へ送られる途中、携帯を通してアーサーとショーンの会話が弾む。今晩は久しぶりに濃厚なセックスまで約束した後にショーンは夫に聞く。
「でも貴方は私のことを何も知らないじゃないの?」
「何でも知っているさ」
「じゃ、好きな色は?好きな季節は?」

答えられないアーサー。
とその時十字路に差し掛かった救急車の横腹に大型トラックが突っ込む。
ガンからの死を逃れたジョーンは晴天の霹靂の交通事故で命を落とす。

「好きな色は?」
「好きな季節は?」
トラウマになったアーサーが自殺を決意して青木ケ原で死に場所を求めていたのだ。
人生にも失望し、自分の命を絶つ為、自殺の名所として有名な富士の樹海にやってきたアメリカ人男性アーサー。

同じように死ぬ目的でその樹海を訪れていた日本人男性、タナカ・タクミに出会ったのはその時だ。だがタナカは、一時自殺を決意したが、その気持ちを変え妻(キイロ)と娘(フユ)の元へ戻ろうとしており、樹海から抜け出すために助けを求めてきた。教えた道は行き止まりだし雨も降って来る。
怪我を負っていて雨に打たれ震えるタクミを放っておくことも出来ず自分のコートを着せて小さなテントを見つけその中へ避難する。

自殺を遮られたことでアーサー自身も死ぬことを決意するまでの出来事を考え直すようになる。
アーサーとタクミは互いの人生や家族の事を打ち明けつつ、極寒の森を脱出するための、サバイバルな旅を始める。

しかしナカムラが倒れ動けなくなり、アーサーはようやくもと来た道を見つけ人里にたどり着く。
早速救助隊がナカムラの救出に向かうが影も形も見えない。
心療内科の女医は駐車場の監視カメラにも写っていないし、大体キイロとかフユは妻子の名前として意味をなさないと。

アーサーが森で会っていたナカムラはかなり昔に死んだ男らしい。
「Spirit」(魂)と言う言葉を口にしていたことを思い出す。

そして数ヵ月後、ボストンの高校で父親の軍関係で沖縄に住んでいた教え子が「先生から借りた本の間からメモが出て来た」。
「KIIRO(キイロ)」「FUYU(フユ)」は日本語だと教える。
日本人女性の名前では無かったのだ。

 目から鱗のこのラストシーンは最大のクライマックスを迎える。
 
日本映画「青木が原」と殆ど同じ要素と構成で作られながら、監督と脚本の力量の差が歴然と映画のレベルを上げる。

俳優を兼ねながら実験的なアート映画に取り組むガス・ヴァン・サント監督は「ミルク」などではオスカー候補にもなっている
脚本を「リミット」などの若手クリス・スパーリングが担当。

「ダラス・バイヤーズクラブ」など体重を2/3に減らしての熱演でアカデミー主演男優賞受賞のマシュー・マコノヒー。
延々と死ぬほど退屈なマコノヒーのセリフは余りの繰り返しの多さにウンザリするが彼の責任では無い。

日本映画を代表してハリウッドに乗り込んでいる「インセプション」などの渡辺謙が相手役の幽霊で頑張る。しかしワンパターンのヘロヘロの芝居しか許されず渡辺らしさを発揮する暇が無いのは日本人ファンとしては残念だ。

「インポッシブル」などのナオミ・ワッツも出演。絶えず怒りの表情を浮かべるワッツも貫禄が出て来た。
日米豪の国際スターの顔合わせだ。

天国でも地獄でも無い「煉獄」の幽界の世界でのヒューマンドラマはミステリアスな要素を満杯にして観客を堪能させてくれる。

4月29日よりTOHOシネマズシャンテにて公開される。

「獣は月夜に夢を見る」(WHEN ANIMALS DREAMS)(デンマーク・フランス映画):デンマークの海辺の寒村で育った楚々とした少女、マリーは成人すると凶暴な「人間狼」に変身する

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「ドラゴン・タトゥーの女」や「ぼくのエリ、200歳の少女」など北欧ホラーは悪くない。ハリウッドやJホラーとは違い鉛色の薄明るい環境をバックに粘質的なキャラクターが異常な行動を起こす。
タイトルも最近では不気味だが神秘的でシャレていて気に入った。

映画が始まると、予想通り「ぼくのエリ~」同様に吸血鬼(正確にはワーウルフ=人間狼)映画だったが、凡庸な出来の悪さに唖然とする。

これでは素人映画ではないか!
主人公や舞台など素材は良いのだが、ストーリーの展開や演出が何処かで見たことのあるマンネリでお粗末なのだ。

海にほど近い小さな村で、少女マリー(ソニア・ズー)は両親と暮らしていた。
母(ソニア・リクター)は鬱病なのか身体は衰弱し病気を抱えて車椅子生活をしているが、父ソア(ラース・ミケルセン)はそのことについて何も教えてくれない。

映画の冒頭では医者ラーセン(スティグ・ホフマイア)が母親の上半身を脱がせて丁寧な診察と注射をする。
傍で父親が心配そうに見守っている。
村の住人たちはなぜか車椅子に乗る母を恐れており、マリーに対してもなにやら訝しむような目で見てくる。

マリーは高校を卒業し働き口としては最低だと思うが他に無いので魚処理工場に就職する。職場仲間は新入りで女性のマリーに辛く当たりセクハラまがいのイジメにも会う。
不思議なのは主人公のマリーは、この村で生まれ育ち地元の工場に就職して友達も仲間も誰もいないことだ。

職場ではフェリックス(マッズ・リイソム)とダニエル(ヤーコブ・オフテブロ)とは気が合う。フェリックスとはセックスにまで進む。フェリックスがマリーを抱きしめた時に背骨が隆起しているのに左乳房の上の赤い痣に気付く。

フェリックスもイジメの元凶エスベン(グスタフ・ギーセン)も翌日から行方不明になる。

マリーは身体に異変を父親に話す。医者のラーセンは診察を終え母親と同じ病気に罹っていると告げる。父親と医者はマリーに忠告する。
「外出をしないように。家に閉じこもり人に会うな。気短になり性格が攻撃的なって行くから」と。薬を渡しながらラーセンが注射をしようとするがマリーは拒否し夜間にも関らず外出する。
奇妙な感覚が強まっていき、やがてそれを抑えきれなくなってしまっている。マリーの身体に起きた異変や彼女の母は「人間狼」になってしまう秘密が隠されていたのだ。

工場の仲間や村人たちがバイクに乗ってマリー追いかける。逃げ惑うマリー。
マリーは捕らえられ漁船の倉庫に閉じ込められ沖に向う。変身した(画面には現れないが)マリーには荒くれ漁師が何人いても物の数では無い。
倉庫で、甲板で、操舵室で血の海が流れる。狼人間の姿も漁師たちが襲われる様子も写し出されない。
ホラー映画のキモなのに気が抜けたビールのようで水っぽいだけだ。

マリーを心から愛するダニエルは漁船に乗り込みこの村から脱出し一緒になろうと打ち明ける。こんな取ってつけたエンディングは救いにも何もならない。

 原案・脚本・監督はこれがデビューのヨナス・アレクサンダー・アーンビー。期待していただけに素人の域を脱していないレベルにガッカリする。カメラや不気味な低音通奏の音楽は雰囲気を醸し出しているが演出がお粗末なのは致命的だ。

主役のマリーを演じるソニア・ズーは映画初出演。美人でもないし金髪を肩まで垂らした楚々と少女だが芝居は上手くない。

脇を固める母親役のソニア・リクターはベテラン女優でこちらの方が美人だ。
北欧のバイキングの子孫風の髭もじゃ男たちは存在感がある。

第67回カンヌ国際映画祭批評家週間正式出品した映画だが会場では受けはいまひとつだったようだ。

美術出身のアーンビー監督はもっと映画を基礎から勉強をしなくてはならない。

4月16日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「エヴェレスト 神々の山嶺(かみがみのいただき)」(日本映画):エヴェレスト登頂に取りつかれた男の狂気と執念を追う感動のドラマ

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昨日(12日)のTBS「王様のブランチ」で岡田准一、阿部寛、尾野真千子の3人が映画の魅力や撮影の裏話を語っていてすっかり見る気になった。
実はエヴェレスト登頂の映画は最近もいくつか見ていてこの映画も試写で見ていた気になっていたのだ。

昨年だけでもエドモンド・ヒラリーとシェルパ、テイジン・ノルゲイのエヴェレスト初登頂の「ビヨンド・ザ・エッジ」。1953年のエリザベス女王戴冠式に間に合わせる時間との戦いと政治的人種的な絡みのドラマ。
それにエヴェレスト登頂が商業化して、1996年に多くのベテラン登山家が大量遭難する実話に基づく「エベレスト3D」。
この1年で3本目のエヴェレスト映画だ。見た気になるのも当然だ。

しかしこの「エヴェレスト 神々の山嶺」は全く違う。完全なフィクションの上に日本人の感情に訴えかける涙のドラマになっている。だから登頂シーンなどは前2作に較べれば児戯に等しいし(それでも手に汗握る迫力だが)ヒマラヤにロケしたと言っても日本的な皮膚感覚の描写だ。

それでもTBSの番組は中々説得力がある。4000Mの処からロケを始めるがヘリで飛べば1時間以内で着くが高山病に罹る。麓のカトマンズから10日間かけて歩いて登るんだそうだ。その間風呂もシャワーも浴びられない。クールな美人の尾野真知子が10日も下着も替えられずシャンプーもしなかったと聞くだけで興味が湧く。

早速午後3時40分の回のTOHOシネマズ日本橋に駆け付けた。
チケット予約をしていて良かった。
結構大きなスクリーン6は満席の盛況。TVPRが効いたのだろう。

映画はネパールの首都・カトマンズの質屋の店先から始まる。
ヒマラヤ山脈を望むネパールの首都カトマンズで、山岳カメラマンの深町誠(岡田)が発見した1台の蛇腹式の古いカメラ。

深町はそのカメラは登山家ジョージ・マロリーの遭難した時のカメラだと思った。そのカメラに撮影済みのネガがあればマロリーが遭難直前の1942年6月8日にエヴェレスト初登頂に成功した映像が残っている筈。
もし登頂が成功したなら、1953年のヒラリーでは無く11年前のマロリーに栄誉が与えられ登山史が書き換えられる大事件になる。

 ストーリーは一つ大きなミステリーを投げかけて展開する。
レンズにヒビが入ったものだが150ドルで買い取った時にネパール人の老人(テインレイ・ロンドゥップ)を伴った髭面の男が入って来て盗んだカメラだと、取り上げる。老人はシェルパで連れの日本人の大男を出版のネタになるとカメラの過去と出自を探っていた深町は二人の後を追いかける。

間違い無い。
その髭面の日本人こそ、かつて天才クライマーと呼ばれながらも、無謀で他人を顧みないやり方のために孤立した伝説のアルピニスト・羽生丈二(阿部)ではないか。7年前エヴェレスト単独登頂を試みて死亡したと伝えられている。しかし二人は雑踏の中に消える。

深町は日本に帰って来て羽生の過去を調べるうちに、羽生という男の生き様に感情移入され引き込まれて行く。


深町が羽生を追っていると聞いてある女性が訪ねて来る。涼子(尾野)は死んだ岸文太郎の妹で兄の死を通して羽生と付き合い始めた。
ネパールに渡ってからも毎月お金が匿名ど送られて来ていた。
しかし3年前に大きなヒスイの首飾りを送って来たのを最後にプッツリと消息を絶っていると言う。
 ミステリアスで謎の人物、羽生を追う二人の男女。3年間の空白は何なのだろう?ネパールの老人との関係は?

主題は着実に絞り込まれて行く。登山家、山男の執念と狂気。
マロリーは何故エヴェレストに登るかと聞かれ、「そこに山があるからだ」と答える。羽生は「俺がいるから、山に登るんだ」と「われ思う故に我在り」的な言辞を至る所にちりばめる。「生きている限り登れ、足がダメになれば手を使い、手がダメなら歯を使い一歩でも山に向かって登って行く」

夢枕獏の小説が雑誌に連載されてから20年以上にわたり映画化TV化が企画されたがそのスケールの壮大さや莫大な予算故に実現できなかった

標高8848M、氷点下50℃、最大風速は50M以上、頂上を極めながら吹き飛ばされる人影、極限の世界は描かれている。

実際にロケはカトマンズの街の他は、標高5200Mのヒマラヤの中腹での撮影は行われた。

主人公のカメラマン深町誠には、「永遠の0」などの演技で、歌はすっかり忘れて素晴らしい役者となった岡田准一。
深町を突き放しながら優しい羽生丈二に「テルマエ・ロマエ」シリーズなどでコミカルな演技もシリアスな芝居も上手い阿部寛。
男たちに運命を翻弄される岸涼子に、カンヌ映画祭で名を馳せた河瀬直美が発掘し育てた尾野真千子。

脇を佐々木蔵之介、ピエール瀧、風間俊介、甲本雅裕など、演技派俳優陣に加え、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品「キャラバン」で演技初挑戦にして主演したシェルパのテインレィ・ロンドゥップが素朴な演技で羽生を支える。

監督を務めるのは「愛を乞うひと」などで地味ながら着実な仕事師の平山秀幸。
脚本に「クライマーズ・ハイ』の加藤正人、音楽には『蜩ノ記』の加古隆と、日本映画を代表するメンバーが揃った。そして、この魂と想いが詰まった本作を希望で包み込む主題歌はヴォーカル・ユニット、イル・ディーヴォの「喜びのシンフォニー」。これってベートーベンの「第九」でしょ?

TOHOシネマ日本橋他で公開中

「マクベス」(MACBETH)(イギリス映画):シェイクスピアの4大悲劇の中で暴力的で野蛮で復讐があり魔女の予言が当たるという一番映画的な作品だ

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シャーリー・ジャクソンと言うアメリカの女性作家。半世紀前の1965に死亡していて日本では殆ど知られていない。
「山荘奇談」だけは映画化され「たたり」と言う邦題で日本でも公開された。

「日時計」(THE SUNDIAL)(文遊社:2016年1月刊)は残された長編小説の一つ。
ニューイングランドの大地主ハロラン家に「地球最後の日」のお告げが齎されるドタバタ騒動を描く。中心となる登場人物はオリアナ・ハロラン夫人。当主のリチャードが痴呆症気味で車椅子に縛られているので采配を振るう。オリアナの亭主で本来なら当主のライオネルは小説の始まる前に階段から転落死をしているが死因に怪しいところが多い。

リチャードの妹のファニーおばさんは50歳近い独身女性で兄ライオネルの娘、姪のファンシーを連れて屋敷では突飛な行動で動き回る。

そのファニーおばさんが祖父の幽霊のお告げで「最後の日」を知る。半信半疑だが屋敷に閉じこもっていれば「ノアの方舟」のように破滅の日を免れることから、ハロラン家の人々はその日の準備を始める。

屋敷を囲む村人たちを呼んで最後の晩餐会、パーティを開き、最後の日は使用人たちに暇を出すなど準備に余念が無い。

そして嵐におそわれた朝、王冠を付けた女王然のオリアナが階段から墜落死して嵐が暴れまわり彫像が倒れ大木の枝が吹き飛ばされて倒れかかっている日時計の真ん中に死体が置き去られて小説は終わる。

最後にさりげなく「ケジメ」を付けているのが凄い。


字幕は久しぶりに戸田奈津子さんでこなれた訳で落ち着いて見られる。

物語はマクベス夫妻の子供の葬式から始まる。夫妻は子供を失った悲しみで胸も張り裂けんばかりだった。
これで爵位の後継ぎが無くなる、静謐だが美しい程クールな場面はいきなり戦場へと移る。
歌舞伎の悪役のように顔中汚いウォーペイントを塗りたくったマクベス(マイケル・ファスビンダー)は一緒に戦う親友のバンクォ-(バディ・コシダイン)と共に悪魔の形相になる。

静かな高原は裏切者のマクドンワルド(ヒルトン・マクレー)の軍隊との死闘で雄たけびと剣や鉾の響きがパーカッションの打楽器をバックに展開する。
スローモーションでの敵証との一騎打ちも美しい。ただ予算の関係か軍の衝突は俯瞰のモブシーンで無くミドルショットかクローズアップで処理される。

マクベスはダンカン王(デイヴィッド・セウリス)の部下として従軍し、勝利を手にしたものの、多くの部下が犠牲になってしまった。その闘いの様子を怪しげな女性3人姉妹(K・ファロン、L・ケネディ、C・バクスター)が眺めていた。

その3人は王の元へ向かうマクベスとバンクォーの前に姿を現し、マクベスには「万歳、コーダーの領主」「万歳、いずれ王になるお方」と呼びかけ、バンクォーには「将来の王の父親となられるお方」と呼びかける。

2人はその意味を3人に問いただそうとしたが、3人は霧の中へと消えてしまった。

マクベスが夫人(マリオン・コティヤール)の示唆でダンカンを暗殺する。
躊躇するマクベスを叱咤激励する恐ろしい女だ。

酒に薬を入れて熟睡させ短刀で胸を刺す。暗殺者の従者の二人だと酒で寝ている二人のクビを刎ねるマクベス。そんないい加減な策略があっさり通ってしまうのもおかしい。ダンカン王の息子マルコム(ジャック・レナー)はマクベスの仕業と知って逃走する。

ダンカン王を殺めその地位を奪い王となるが、良心の呵責でマクベス夫妻は人が変わって行く。
圧制で人気を失ってから現れる魔女は年をとっている。バンクォ-の一家を皆殺しにするが幼い息子は逃げる。
最初の預言、王になるのはこの息子だ。あどけない10歳位の少年はオドオドしながらマクベスの魔手を逃れる。
預言に再びマクベスは安心する。森が城のある丘までおしよせて来ない限りは負けない」「女の腹から生まれた男には負けない」

二つともあり得ない話だがイギリス軍が攻めて来て実現する悲劇。
この予言が当たる過程で世にも恐ろしい悲劇が引き起こされてしまうのだった。

「ハムレット」「オセロー」「リア王」と並ぶ、シェイクスピアの4大悲劇のひとつなのだが一番短く一番過酷で一番暴力的であり、舞台も屋外のスコットランドのハイランドと外界が多く一番映画にするには適した悲劇だろう。

画面のトーンは血を想わせる灰赤色。鉛色の赤い血に染めると美しい筈のスコットランドの大平原もおぞましく見える。
中世スコットランドを舞台に、勇敢で有能だが、欲望と野心にとらわれた将軍マクベスが、野心家の妻とともに歩んだ激動の生涯を描き、2015年・第68回コンペティション部門に出品された。

主人公マクベスを演じるのは「それでも夜は明ける」などのマイケル・ファスベンダー、見る前にどうかと思ったレイディ・マクベス「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のマリオン・コティヤールが扮する。こんな難しいキャラクターの内面まで見事に演じている。

監督は、日本未公開だが、初長編作「スノータウン」がカンヌ国際映画祭映画祭批評家週間で特別審査委員賞を受賞するなど、各国の映画祭で注目されたオーストリア出身のジャスティン・ガーゼル。逸材はオーストラリアに埋もれてイいた。

5月13日より劇場公開される

「王の運命」(THE THRONE)(韓国映画):李朝を代表する名君・英祖。可愛い跡継ぎの息子だが反発し意のままにならない世子を米櫃に閉じ込め飢死させる「米櫃事件(壬午禍変)」を描く

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韓国の王朝の話はTV、映画、小説と色んな所で接しているから知らないうちに結構詳しくなっている。
慰安婦もパク・クネも出てこないから気軽に優しく接することが出来る。

例えば「トンイ」。賎民の宮中に仕える官女から粛宗に見出されて大后との確執を制して側室になるサクセスストーリーの小説は一気に読んだ。
そのトンイの産んだ第21台国王が英祖(ヨンジョ)となると、知っている人に出会ったようだ。
しかしこの英祖はひねくれている。可愛い跡継ぎの息子を言うことを聞かないからと米櫃に閉じ込めて飢え死にさせた「米櫃事件(壬午禍変)」は余りにも残酷故に有名だが、しかしこの映画を見るまでは詳しくは知らなかった。

朝鮮王朝500年の歴史で52年も王位について18世紀の朝鮮の中興の祖といわれた英祖に何が起こったか興味が湧く。

英祖を演じるのは韓国の国民的俳優ソン・ガンホ韓国の国民的俳優。「シュリ」から始まって「殺人の追憶」「グムエル」「スノーピアサー」など世界に向けた大作には必ず顔を出す。未だ49歳だが達観したようなそれでいて茫洋とした顔つきは好きじゃない。イケメン俳優の多い韓国では独自のポジショニングでしっかりと役者生命を保ち育てている。

「李朝最大の謎」と言われる米櫃事件。
李朝史上最も悲劇的な事件の起きる8日間を隠された真実を求めてカメラは粘質的に追う。
少なくともこの8日間で見る限り英祖は決して名君ではない。残酷無比なワンマンに見える。
金正恩が爺様になったらこうなるんじゃない。

可哀相に学問よりも芸術と武術を好んだばっかりに米櫃に閉じ込められ一旦は脱出するものの再び米櫃に押し込められて上から荒縄をかけられおまけに櫃の上に苔を生やす。朝鮮人のやることはわかんねー。
「わしが王ではなく お前が王の息子でなければ こうはならなかっただろう」と愚にも着かないキャッチフレーズ。

映画の視点は振り返って事件を客観的に見る、思悼の息子で第22代国王となる正祖(チョンゾ)。「反逆者の息子」にならないように歴史を書き換える努力をする。
演じるのはモデル出身でTVドラマに活躍する38歳のソ・ジソブ。髭が似合うハンサムだ。

父王の期待とは裏腹に芸術を好む自由奔放な青年へと成長していく思悼を「ワンドゥギ」などのユ・アインが演じている。29歳で息子役のソ・ジブより10歳下だが若くして殺されたから説明がつく。

英祖の正妻・暎嬪(ヨンビン)を「テロ,ライブ」のチョン・ヘジン。元ミス・コリア称号を持つだけあって50歳でも未だ美しい。

監督は大ヒット作「王の男」などのイ・ジュニク。人間ドラマの名手だ。英祖より世子に感情移入をして撮っている。

6月4日よりシネマート新宿にて公開される。

「夢の女(ユメノヒト)」(日本映画):大震災で福島の精神病院を退院した男が高校時代に童貞を捧げたディーバに会いに自転車で東京を目指す

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柚木麻子の「ナイルパーチの女子会」(文藝春秋社:20153月刊 )は若い独身女性の考え方を教えてくれる。

すべては98円均一の回転寿司のネタから始まる。
ナイルパーチはタンザニアのナイルで捕れるモンスター魚。河や湖に放たれると他の魚を食い尽し生態系を壊す要注意外来生物。スズキ目アカメ科の淡水魚だから回転寿司ではスズキとして出される。

 主人公は一流大学を出て大手商社に勤める栄利子。「おひょうのダメ奥さん日記」に妙に共感を覚え専業主婦の翔子に近づき友達になろうとする。

おひょうは2Mもする巨魚でロシアで獲れる。
散弾銃で殺さなければならないほどのモンスター。おひょうのえんがわも巨魚だけに沢山とれ、カレーやヒラメの100倍はある外側の「えんがわ」は 寿司ネタになっている。「えんがわ」であることは間違いないので安いすしネタになっているが客を騙している訳ではない。

栄利子はそれを踏まえた上のおひょうだと思ったら名前の翔子は「ひょうこ」と呼ぶ故の命名なのだった。

「おひょうのぐうたら主婦日記」のブログを通じて感情移入をしてしまったエリートOL栄利子が一方的に友達になろうと必死でダメ主婦の翔子に迫る様相がユーモラスで笑える。逃げる翔子、そうはさせじと追いかける栄利子のバトルが全編を通して描かれる。

筆者の柚木は立教大学仏文卒の34歳。
主人公たちも30歳を過ぎたばかりの女性だが女友達を求めて焦る様に実感が籠もり迫力満点。

親しい友人もいない孤独で独身エリートOLに結婚はしているが料理、洗濯、家事一切放棄のぐうたら主婦の交流が凄まじい。
栄利子は何から何まで自分の思い通りにならなければ気がすまない。
ストーカーだと逃げ回る翔子が若い男と浮気デートをしている証拠写真を撮り、旦那にバラスと脅かして小田急のロマンスカーに乗って箱根温泉旅行に連れ出す。強引に女子会をやろうとして却って翔子の逆鱗に触れ一人温泉に残る羽目になる栄利子。

「ひどい」彼女の声が震えている。目がつり上がり充血していた。
「なんの権利があって、そこまで攻撃するの」
「友達だからよ」
「友達」とは何だ。特に女友達とは?

男の知らない見ることの出来ない世界をじっくりと教えてくれる秀作だ。



京橋の地下にある東京テアトル試写室での上映後監督と主演の二人挨拶をする。
監督の坂本礼は「この世界に入って22年、今日ガ一番興奮した」と。
意味が良く分からない。
多分ピンク業界に長くいて初めてR指定ながら一般映画を作りマスコミ関係者の前でお披露目できたからだろう。

主演の佐野和宏は咽頭がんで声が出ない。
監督主演した「Butオンリー・ラブ」もボードに言いたいことを書く初老の男を演じたがそのままだ。
還暦を迎えて年月を経たいい顔をしている。

ピンクで活躍した伊藤清美は原価償却済みの単なる婆あだ。
ピンクでは売り物のパーツがあるが57歳ともなると誰も見てくれない。
そうかと言って芝居が上手い訳でもないし潰しが効かないよね。
日活の方では宮下順子、美保純、風祭ゆき、水原勇紀などは今でもアクティブだ。

心の病により10代から50代まで精神病院に入院していた永野(佐野)は、2011年3月11日の東日本大震災で病院が倒壊し避難する。
するとすでに病が完治していることがわかり、40年ぶりに外の世界で生活することとなった。
ふざけた話だが面白い。精神病院じゃなくとも病人か健常人か見分けらない。

自由の身になって何をやりたいか考える。真っ先の頭に浮かんだのは10代の高校生の時に初体験をした同級の女性に一目会いたいという思い
考えている内にその思いが募のって来た永野は、震災のために息子夫婦の住む東京へと移住した「あの人」、幸子(さっちゃん)に会うために、福島から東京へと自転車を走らせる。
自転車で行こうとするなんて未だ病気は治っていないのじゃないの。

止めていた自転車に軽トラがぶっつかる。運転していたのは若い女性、葵(和田華子)。
背が高くスリムでスタイルは良いがブス。
もう少しマシな女の子は居ないの?

自転車を壊したお詫びに東京までは行かないが途中の日立まで送ってやると言う。
常磐線特急「スーパー日立」なら2時間少しで着く。
未だ次の列車まで1時間もあるからと二人で居酒屋へ入って呑み始めるが泥酔。
未だ明けやらぬ日立市の裏道を葵は佐野を負ぶって駐車場の軽トラックの荷台へ運ぶ。

そして驚くのは荷台でパンティを下ろしセックスを始める。駐車場の横を何人も通行人が通る。
なんでこんなシーンが必要か訳分からん。

上野駅に着くと風子(西山真来)が待っていていきなりラブホへ。
これも訳が分からない。
風子はコールガールでおまけに永野がシャワーを浴びている隙に財布から現金を抜き取りトンズラ。
ようやく尋ねた幸子の家。風子が顔を出すのでビックリ。
観客も驚くよな、コンテクストはどうなってんだ?

幸子(伊藤清美)は永野を思い出せない。千円払って海辺で下着を取る前に童貞永野は洩らしてしまう。更に千円追加してようやくことに及んだところで思い出すが、何の感慨も無い。共同便所だった幸子は一人一人覚えていられない。

その後はまた幸子の経営する小さな飲み屋のシーン。呑まなきゃ間がもたないんかね。それにしても声が出ない永野にカラオケ歌わせるかね?それもワンコーラスたっぷりと。

下手な脚本、ダメな演出、ハチャメチャ映画だが、佐野のキャラクターと震災後の福島の無人の街のロケでえ救われている。

制作しても2割はオクラ入りの厳しい興行界。ポレポレ東中野と言う一流では無いが立派な小屋にかかることを栄誉だとしなければならない。

ピンク路線を狙うなら女優を少しはマシなのを使わなければ客は来ない。
アート系を狙うなら脚本を根底から練り直さなけれ将来は無い。

福島という震災の洗礼を受けた荒涼な土地、
精神病が震災で救われた男。
童貞を捧げたディーバに会いに自転車で出かけるなど着想や企画には新奇な素材があるのにそれを活かせない脚本と監督の力不足や努力の無さを否めない。

4月9日より3週間ポレポレ東中野で公開される。

「ヘイル・シーザー!」(HAIL,CAESAR!)(アメリカ映画):ハリウッドが光り輝く絶頂期からTVの出現で影を落とし始めた1950年代のスタジオの苦悩と嘆き怒りを描くドタバタ喜劇

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タイトルは劇中劇のローマ時代の大作の題名。

舞台となっているのは1950年代前半だがTVの台頭でハリウッドに影がさし始めた。
スタジオは対抗策とし大画面のシネマスコープ(CS)を導入する。そして聖書から、例えばCS第一作の「聖衣」とか「ベンハー」などのスペクタクル大作を映画化して大ヒットをさせた。

「ヘイル、シーザー!」は飛ぶ鳥落とす勢いのローマ軍のシーザーがキリストと出会う映画だ。
スターはスタジオと専属契約をしているベアード・ウィットロック(ジョージ・クルーニー)。酒と女が大好きな自堕落な男だがそれはスタジオ内だけのこと。

TVと大きな差をつけるにアクション・スペクタクルの他に「ミュージカル」がある。
唄って踊れるミュージカルスター、バート・カーニー(チャニング・テイタム)のセーラー服姿はジーン・ケリーと重なって「踊る大紐育」を思わせる。

 E・ウィリアムスを思わせる水中レビューの得意なティアナ・モラン(スカーレット・ヨハンソン)の「百万弗の人魚」のように華やかだ。

 面白いのは若手の西部劇スター、ボビー・ドイル(アルデン・エーレンライク)。セリフを喋れば南部なまり丸出しの間延びしたアクセント、演技はまるでダメだが拳銃と馬と投げ縄は超一流。プレミアショウに若手女優をデイト相手としてマスコミに披露せよと命じられ「馬を連れて行きたかった」と。何とそのボビーがタキシードを着てミュージカルの出演を要請される。

スタッフでも変人奇人が多数登場する。絶対に自分の作業所の他人を入れないネガ編集者、アクション監督のタッド・グリフィスは西部劇と水中ダンスショウの演出を同時にやらされてパニックっている。

このスタジオを取仕切り、わがままなスターたちを管理し(大スターの頬を平手打ちをするのにビックリ)映画製作が予定通りキチンと進んでいるか、あらゆる問題を解決するフィクサーがこの映画の主人公,所長エディ・マニックス(ジョシュ・ブローリン)だ。

映画の冒頭で真剣に神父に懺悔をしている「夫人に内緒でタバコを1本吸ってしまった」

 流石にこのマニックスも仰天する事件が勃発する。
「ヘイル、シーザー!」のローマ軍大勝利・凱旋を祝うパーティで大酒を飲んだ主役のウィットロックが誘拐され巨額の身代金が「ザ・フューチャー」と名乗る謎のグループから要求される。

スタジオはスターのスキャンダルを含めて色んなことを大衆から隠している。賄賂や腐敗も蔓延している。
栄光に包まれたキャピトル・スタジオはあくまでも華やかな虚像のイメージを提供し続けなければならない。

マニックスは一日30時間も働きその処理に追われている。
謎のグループはどうやらコミー(共産党員)たちでソ連のコミュンテルンに資金提供が必要だったのだ。
これもその当時ハリウッドを襲ったマッカーシー旋風「赤狩り」を反映している。

映画が光り輝く絶頂期から影を落とし始めた頃のスタジオの苦悩と嘆き怒りをドタバタ喜劇にしたジョエルとイーサン・コーエン兄弟の脚本と監督はその時代に青春時代を過ごし、スペクタクル大作をリアルタイムで味わった僕には一入感慨に耽られる作品だ。

アカデミー賞作品賞に輝いた「ノーカントリー」や「ファーゴ」などとは一味も二味も変わったドタバタコミカルなサスペンス。

コーエン監督兄弟の作品ならではの豪華キャストが集まっている。
ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、監督作常連のフランシス・マクドーマンドやティルダ・スウィントン、レイフ・ファインズ、ジョナ・ヒルらも大した役でもないのに顔を出している。

5月13日よりTOHOシネマズ新宿他で公開される。

「下衆の愛」(日本映画):下衆が蝟集するインディフィルムの底辺で酒と女に溺れて蠢く自堕落な監督テツオ。

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このところ3台あるPCの2台がウィルスに冒されてどうにもならない。ブログのアップもままならずこんな時間になってしまった。

昨夜(17日)の外国特派員協会で上映され、監督の内田英治、主演の渋川清彦、プロデューサーのアダム・トレルが顔を揃えた。

映画も面白かったが上映後の3人の話が楽しかったし笑えた。
ベレー帽を被り丸渕眼鏡の手塚修虫のような内田英治監督が口火を切る。
この映画は長らく温めていた企画だ。週刊誌(週刊プレイボーイ)の記者を辞めて憧れの映画界に入って10年この世界の辛酸を舐めて来た。

この映画の底辺で蠢く下衆な映画人の経験を映画にしたいと思っているところでイギリスからやって来たトレルに出会う。
トレルはアメリカ映画が嫌いでこれまで日本で「福福荘の福ちゃん」や「希望の国」などをプロデュースしてきた。「グレイトフルデッド」で知り合った内田と会った。
下北沢映画を作りたいと言う内田と意気投合したと言う。
ロケはその周辺で自分の下宿を使い、スタッフは9人だけ。そして500万円程で上げた。
役者やスタッフにはすくないけどちゃんと払ったよ。

三池崇・石井岳龍・豊田利晃監督など色んな監督に愛される「怪優」渋川清彦にはファンが多い。僕もいつもは脇の渋川が堂々の主演だから見に来たようなものだ。60本以上の作品に登場しているが僕は「お盆のおとうと」が一番好きだ。渋川が経験した下衆の話。
あるベテランの俳優と共演した時、「僕に直ぐに殺される役だったのに、どうも監督を脅したらしい。映画の最後まで生きていた」

内田は映画界に入って助監督をやっていた。
「映画の打ち上げで30人程のスタッフといっしょにカラオケを深夜まで絶唱した。お開きにしようとしたらプロデューサーの姿が見えない。結局ペーペーの僕が払うことになりました。」


カネなし、甲斐性なし、どん底のインディーズフィルム映画監督のテツオ(渋川)は40歳を目前にしながらも夢を諦めきれないパラサイトニート。

新人の時、ビギナーズラックなのだが、ある映画祭で受賞経験が唯一の自慢。
監督とは名ばかりで出演をエサに女優のたまごを自宅に連れ込む自堕落な毎日をおくっている。

しかしある日、才能溢れる新人女優・ミナミ(岡野)との出会いにより新たな希望が生まれて新作映画の実現に奔走する。

 映画ってのは「ヌードと犬か猫を出してれば当たる」が口癖の団塊世代の引退したプロデューサー貴田(でんでん)や、枕営業にすべてをかける売れない女優・響子(内田慈)自らのハメ撮りAVで生計をたてる助監督のマモル(忍成修吾)など、映画界の底辺に巣くう仲間たちと最後の賭けに出ようとする。

しかしテツオの前に立ちはだかる現実の壁は高い。
どんなに苦しくともどんなに下衆になろうとも映画作りの夢は諦めきれない。自分が育てて今はスターになったみなみのロケ現場に踏み込み、土下座したテツオは自分の映画に出て欲しいと頭を地べたにすりつける。

主演の売れないアラフォーのゲス監督を演じる渋川清彦は41歳。内田監督が宛て書きしたと言うだけあって渋川のキャラを充分に発揮している。
才能溢れる新人女優役みなみは「図書館戦争 THE LAST MISSION」にも顔を出した新星、岡野真也。
さらに木下ほうか、津田寛治をはじめ、内田滋、忍成修吾、細田善彦、古舘寛治ら個性派が脇を固める。

内田英治監督は日本より海外で人気がある。前作の「グレイトフルデッド」は世界30ヶ国で上映。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセルファンタスティック祭などの主要映画祭に出品された。
更にこの映画も台湾やイタリアでの国際映画祭に招待されていると言う。

4月9日よりテアトル新宿で公開される。

「サウスポー」(SOUTHPAW)(アメリカ映画):最愛の妻を自分の巻き起こした騒動で失い、酒とドラッグで世界チャンピオンの座ばかりか可愛い娘の親権も奪われるボクサー。

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PC3台の内WINDOW7の2台が郵政ジャパンと如何にも郵政グループを名乗る会社からお届け物を預かっていると内容を記したメイルが届き、ファイルを開けた途端ウィルスに冒されマイクロソフとのアウトルックやエクセル、ワードがマルファンクション。
唯一生き残ったのがACERのXPだけ。博物館行きのPCで悪戦苦闘、だからブログが遅れてしまうのを許されたい。

今日紹介するボクシング映画は目新しいものは何も無い。
「ロッキー」シリーズや今上映中の「クリード」のように底辺から這い上がるボクサー映画だ。
要素はラブロマンスに絡んだ人情噺とリングの上のボクシングだけだだが、激しい死闘と亡き妻への想いそして一人娘への情愛に感動し泣かされる。

主人公のビリー・ホープを演じるジェイク・ギレンホールは「ドニー・ダーコ」で初めて見て上手い役者だなと思ったが、裸になるとこれほど素晴らしい筋肉をもった肉体派だとは思いもしなかった。
役柄のライトヘビー級 チャンピオンに遜色は無い。
肩から腹への筋肉の盛り上がりは男から見て惚れ惚れするし、グラブを交えて打ち合いは手に汗握る。

かつてモハメド・アリは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と言ったが、ロープに囲まれたリングの上でダンスコリオグラフィーだ。
特に最後に右打咄嗟に左打ちに変え「サウスポー」のアッパーカットはダンスの締めのポーズだ。

ビリー・ホープは怒りをエネルギーに相手を倒すというスタイルでボクシング。相手に打たれぱなし、途中でドクターストップ寸前の出血やダウンをとられながら最終ラウンドで奮起し逆転勝利するのがビリーのパターン。
デビューから44戦無敗、ライトヘビー級世界チャンピオンにまで上り詰め防衛も4回を数えたビリー・ホープ。

最愛の妻モーリン(レイチェル・マクアダムス)とは貧民窟・ヘルスキッチンの児童養護施設からの仲。幼いモーリンは入所するやビリーに取りついて離れなかった。ワールド・チャンピオンのそんなエピソードにファンは感動を覚える。

 4回目の防衛戦に勝利した記者会見場で南米のチャンピオンで世界を目指すミゲル・ゴメス(ミゲル・エスコバル)に絡まれる。ロビーで待ち伏せしたミゲルは「力は俺の方が上だ」と言うのは聞き流すが、「お前をぶちのめしお前のカミさんをレイプする」の猛然と怒り飛びかかる。互いの取り巻きを含めての大乱闘で銃を撃った者がいてモーリンの胸を貫き絶命する。

さあビリーの嘆きは常軌を逸している。自身が起こした乱闘騒ぎの結果、妻を死なせてしまった悔悟で、酒と麻薬で荒れ狂い交通事故を起こしてボクサーライセンスまで剥奪されてしまう。

税金を払っていないしローンも山とある。豪邸も贅沢な家財道具も車も全て差し押さえられる。
更に追い打ちをかけたのは12歳の娘レイラ(ウーナ・ローレンス)の親権も失い失い児童保護施設に引き取られてしまう。

失意のどん底にあったビリーだったが、対戦した相手で唯一負けた(実際は八百長で判定勝ち)ボクサーを育てたトレーナー,ディック(フォレスト・ウィテッカー)の元を訪れ、アマチュアしか入れないジムに清掃夫として雇って貰い泊まり込みでトレーニングに励む。

この辺りはクリシェの連続。
ジムはフィラデルフィア(ロッキーの故郷)にあるし、ディックのキャラは「クリード」でスタローンが演じた人物に酷似している。

ビリーは過去の自分と向き合いながら、ディックの厳しい トレーニングに耐え再びリングへ上がる道を模索していく。

 「トレーニング デイ」などを手がけた実力派のアントワン・フークア監督が、ボクシング元世界チャンピオンの再起と家族の絆を着実な演出でみせて涙を誘う。   
ギレンホールは6カ月におよぶトレーニングモリモリマン・ボクサー体型を作り上げたという。

一つ気になること。
制作会社はワインスタインカンパニーだが漢字の会社名がクレジットに並ぶ。
中国の不動産王「ダーリン・ワンダ」だ 。
映画ビジネスに興味を抱き既に大手インディ制作会社リージェンシーを手中に収め、最大の 映画館チェーンAMCを傘下に収め、今売りにでているパラマウントピクチャーに7000億円の値をつけ、中国のEコマースの「アリババ」と「10セント」と競り合っている。

アメリカ映画と言いながら中国資本の作品を見なければならなくなる日はそう遠くない。

6月公開される。(小屋未定)

「サブイボマスク」(日本映画):寂れた商店街でレスラーだった父親の形見のマスクを被り一人コンサートで客寄せをする熱血青年団員の春雄

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外国特派員協会(FCCJ)は都労委で労組と和解し元会長グループのSOSFCCJは東京地裁で手を打って平和が戻って来たように見える。
しかし解雇された組合員は復職できる訳でも無い。
Save Our Club Save Our Friendとスローガンは何一つ達成されていない。
3年にわたる法廷闘争は意味が無かったのではないかと僕は思う。
タウンミーティングでウィリアムの言うように労組も協会もLooser唯一得をしたWinnerは協会側の300代言弁護士さまだけだった。

それでも昨年8月から会長として選ばれ急遽登板したスリランカのMrsカクチは今までの理事会に新風を吹き込み守旧派と戦って風通しの良いトランスペアレントな政策を実施して来た。

しかし彼女に対するアンシャンレジームの根強い抵抗は強い。
既得権益を守るのに必死だ。

すっかり嫌気がさしたカクチ会長は改革半ばで会長職を降りる。
かなり良い報酬のジョブをオファーされたのを奇貨として次回6月の理事選挙に立候補しない。

喫緊の問題はアウトソーシングしているIRS(東急レストランチェーン)との不平等契約の見直しだ。8%のキックバックでは家賃光熱費厨房器具提供し更に予約や案内をするフロントの仕事まで協会側が負担している。
寿司バーの方は20%なのに満席のバー食堂で毎月800万円近く赤字を垂れ流していると言う。
(これらのデータはタウンミーティングでのリックの資料に基づく)
カクチ会長以外誰がFood&Beverageに真剣に取り組んでくれるのか?


舞台は日本のどこかにある寂れた地方都市、道半町(みちなかばまち)。 若者は都会に出てゆき、残された者には働く場所もない。 近隣の巨大ショッピングモールに客を奪われ、商店街はほぼゴーストタウン。 消滅可能性都市に認定され、このままではダム底に沈みかねない状況だ。

なんとかしなければと立ち上がる「サブイボマスク」は覆面レスラーだった父の形見のタイガーのマスクをかぶり、ミカン箱の上で立ち上がってマメカラ片手に誰もいないシャッター街で「1人ライブ」で徐々に集まる人たち に感動をと願う。

地元に何とか元気を取り戻そうと、孤軍奮闘の日々を送っていた。
今日もミカン箱の上に立って、暇なジジババを相手に1人感動ライブ

僕は知らなかったがサブイボとは「鳥肌」のことだと。若い人たちは皆使う言葉らしい。元々は関西言葉だった。

街を何とかしようと熱血青年団員・春雄(ファンキー加藤)の歌う謎のシンガー、その名も「サブイボマスク」の朗々とした歌声が 感動を齎しジジババばかりか評判が近隣に広まり次々と寂れた商店街に集まる人たちに 「心のトリハダ」の感動を呼び覚ます。
元気溢れる主題曲もメロデイアスでテンポも良く心に残る。
人がむらがるライブを町長(泉谷しげる)が気に入り県知事にライブを見せて街おこしの予算は5倍にもなる。

「町おこし」はやる気の無い「人おこし」で住民に発破をかけ彼らの心にもう一度火を灯そうとする。

もっとも「謎のシンガー」と言っても皆春雄だと分かっている。
脚本でバカげているのは「街おこし」とは老人を殺し、平均年齢を若返らせることだと、サブイボマスクを被り次々と年寄りを襲う若者を登場させたことだ。コメディでも許されない。

春雄の付ける覆面レスラーだった父とは、46歳の「ザ・グレート・サスケ」を思いだす。寂れた東北地方を盛り立てようと悪役にも取り組んだ人気者。みちのくプロレスは東北の復興にも寄与した。その後岩手県会議員まで勤めている

主人公・春雄を演じるのは八王子バンド「FUNKY MONKY BABYS」のはリーダーだったファンキー加藤。映画初主演だと言うが、歌は本職で演技は一流なのに驚く。
幼なじみで自閉症のピュアな心を持つ春雄の相棒・権助を小池徹平、 元カノで勝ち気な出戻りシングルマザー・雪を平愛梨が演じる。

雪は折れそうな春雄の気持ちを奮い立たせ、春雄に悪いことを全て押しつける商店街の弱気な連中を叱咤激励する。31歳の平愛梨の熱演が映画をひっぱる。
脇を温水洋一、斉木しげる、いとうあさこ、大和田伸也、泉谷しげるなどベテランの芸達者たちがコメディを盛り上げる。
 
監督は「ホテルコパン」に次いで2作目の門馬直人。どうにも未熟な点が散見される。

6月11日より公開される

「殿、利息でござる!」(日本映画):年貢や使役に困り抜いた百姓・庶民が「お上」に大金を貸し付け、その利息で年貢の軽減を図る

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 美人ストリたッパーのヒモになり小屋の楽屋に寝泊まりしながらドサまわりしたいな、とは男なら誰でも(僕だけかな?)描く夢だが、50歳を過ぎた新聞記者、坂上琴が会社を辞めて小説にしている。

読む前は題名から川端康成風の明治時代の物語かと思ったが、そこがトリック。
応募時の題名が「ヒモの穴」だった。
これでは前述の夢が忽ちばれてしまう。
 
坂上は京都大学時代は相撲部の主将、毎日新聞に入社して社会部記者を長年務めたがアルコール依存症で入院し2014年に退社して執筆した長年の夢が小説現代長編小説新人賞を受賞し「踊り子と将棋指し」(講談社:2016年1月刊)でデビューを飾る。

30年近くも記事を書いていたので文章は簡潔明瞭、変に振りかぶったフィロソフィも大義も無いので読みやすい。
横須賀のアルコール依存症の病院を抜け出して市内の居酒屋で飲んでいて気を失い、ペリー公園のベンチで子犬に顔を舐められ目が覚める。

自分は誰?ここは何処?状態で自分の名前さえ分からない。
犬を探していた金髪の聖良(せいら)さんに拾われ子犬のヨークシャーテリアのマイちゃんのいるアパートに担ぎ込まれる。前の晩に松田聖良さんとデュエットをしたというが覚えていない。
着ていたTシャツに「オダ」と書いてあったから小田三郎ととりあえずの名をつけられる。

病院では患者の下着に名前を書くことを知っている聖良は病院からの脱走兵と見抜く。目を離すと直ぐにビールを飲むしアルコールに走るし依存症でインポになっているから「人畜無害」
昼は仕事をしているのでマイちゃんの子守として三ちゃんと暮らし始める。

若いころはAV女優として名を馳せ、同棲していたAV映画監督がやはり依存症で突然死をしたので生まれ変わりのような小田三郎を病院へ送り返したくないのだ。
聖良は全身にピアスを埋めている。舌のピアスのために好きな蕎麦やスパゲッティが引っ掛かるので食べられないと言う。

未だ見ていないが左右の陰唇にも1ダース近くのピアスが金色銀色の光を放っていると言う。
太ももには真っ赤なバラの大輪が咲き誇っている。
35歳の聖良は通信制の動物技能専門学校の授業を取り、ストリッパーを引退したら好きな犬のトリマーになりたいと。

いよいよ大阪の繁華街の名物「天満劇場 」に10日間出演することになる。
「自縛AV 松田聖良」と銘打った舞台が凄い 。
下着を取って全裸になると鞭で白い裸身を打ち、荒縄でグルグル巻いて最後に股間を通す。

「左右に割れた性器から銀色のピアスがのぞく」舞台をまわり客の目の前でV字型にオープンして御開帳。
圧巻は暗い舞台で手に持った燃える蝋燭を2本、性器に突っ込んでジュっと消すと言う芸だ。
7千円を払っているうるさい大阪の客も静まりかえる一瞬だ。

この後和歌山の白浜温泉の田舎小屋の様子も含めてストリップの舞台と裏の楽屋をこまごまと描き男たちの興味をかき立てる。

大阪には将棋好きが多い、照明の師匠、劇場の支配人、オーナーから賭け将棋の勝負を挑まれ千円単位の小遣い稼ぎからプロ棋士崩れとの1局百万円の賭けをする。勿論負ける筈が無いが酒を飲み過ぎて失神の愚を繰り返す。

踊り子とプロ将棋師の組み合わせの妙 で小説は楽しく痛快に展開する。
久しぶりで堪能出来た小説だった。元新聞記者、坂上琴の次回作に期待する。


いまから250年前の江戸中期、仙台藩・吉岡宿。
年貢の取り立てや労役で村を捨て逃げ出す百姓が多くなる。
困窮する宿場町を守るため、知恵と工夫と決死の覚悟で立ち上がり、ついに地域を立て直した住人たちがいた。

歴史学者、磯田道史教授は日本近世の古文書を読み漁り「武士の家計簿」などの秀作を世に出している。
1773年に仙台藩に1000両(約3億円)を貸付、年間の利子は100両(3億円)が払われたと言う史実を「無私の日本人」に書いた。
その中の一編「穀田屋十三郎」を原作として中村義洋が脚色と監督を行った。

 造り酒屋を営むかたわら、宿場町の行く末を心から憂える主人公・穀田屋十三郎(阿部サダヲ)。
町一番の知恵者である茶師・菅原屋篤平治(瑛太)。
そして十三郎の弟で、吉岡宿一の造り酒屋「浅野屋」に婿養子に入った浅野屋甚内(妻夫木聡)。
彼らを中心にした庶民(身分・百姓)9人が「藩にまとまった金を貸し、その利子を全住民に配る」という誰も思いつかない秘策を使い、宿場町を蘇らせるため奔走する。
吉岡宿で集め貸し付ける金は千両。現在価値では3億円になる。

キャストは豪華だ。阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平らが集い、「百姓・庶民VSお上」の銭バトルを描くコメディ。成るほど何れ「札差し」から借りる金を年貢を取り立てる相手から借りて、利息代わりに年貢を軽減するのは良い策だ。

「予告犯」などのベテラン中村義洋監督は着実な演出でじっくりと物語をすすめる。

 映画のタイトルにもなっている「殿」役、第7代藩主、伊達重村を演じるのは日本が世界に誇るフィギュアスケーターであり、仙台出身の羽生結弦が演じる。
これが白塗りが似合い顔つきも時代劇風、セリフもプロ並みと、困窮する庶民(百姓)たちの前に颯爽と現れる大団円で羽生の登場する5分ほどのシーンは充実している。

5月14日より新宿ピカデリー他で公開される。

「ズートピア」(ZOOTOPIA)(アメリカ映画):田舎者で理想主義の兎の警官、ジュディと都会育ちでひねくれ者のキツネの詐欺師ニックは親友となり謎の大事件に取り組む

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昨日もJCOMの訪問支援をうけてSEが半日がかりで3台のPCの修復を懸命にはかるものの、マイクロソフトの入れ替えやアンチウィルス対策をしたが効果無し。
元はと言えばアメリカからパッケージが届いたと郵政ジャパン?なる会社からの案内。
ファイルを開けるや否や全面に紗がかかったような画面になりワードやフォトがデリートされアウトルックもエクセルもワードもアウト。
PCのメーカーやJ.COMやUCOMなどのサーバーは相談しても力になってくれない。結局彼らから紹介されたMicrosoft PartnerのRe Imageと遠隔支援のTeam Viewerに300ドル払って3週間。毎晩ロンドンにいる技術者(日本語を喋らない)と遣り取りをして最後にWindow7から10にアップグレードして作業完了の電話を最後に、先方からチェエックの電話も無い。

PCは最初の2PだけでF2、F10、EXITなどの画面から一歩も中へ入れない。
こちらから何度も電話を入れるが直ぐに出たオペレータ(スーザンとかアイラなど)は電話を受けない。待ち時間のオルゴールが鳴りっぱなし。彼女たちも片言日本語の応対。これはスティング並みの詐欺だ。
訪問支援は有料だしロンドンからの遠隔支援は電話代だけでもバカにならない。
PCが直りさえすればどうってことはないが、時間と金の無駄使いに終わった。

BICカメラでNECの重さ980gと言う最軽量PC(LAVIE)を土曜に購入、今はサクサクとブログを書いている。嬉しいね。

さて仲間のPIXARが低迷する中、絶好調のウォルト・ディズニーの3Dファミリーアニメ「ZOOTOPIA」。金曜から公開が始まった中国が3日間で33Mを挙げ、20日に終わった週末のグローバル総計で600M(672億円)を超した。

北米で公開して3週間で最速の大台突破だ。それにしても14億の中国人は映画が好きだ。2D映画の時は初日公開の夕刻には海賊版が通りの露店に並んだ。観客席にヴィデオを持ち込んで録画したものだから前の客がトイレに立つと画面が途切れたりする。知的財産保護でハリウッドが再三再四申し入れるが中国政府は馬耳東風。

そこで考えたのは3DやImaxに限ってハリウッド映画の輸入を認めるという輸入クォータ制度。ヴィデオで録画しても画像が二重になって見られない。途端に中国の興行成績は伸び、映画大国になった。

中でも大連の不動産王「ワンダ」はアメリカでの最大の映画館チェーンAMCを保有し大手インディにリージェンシーを買収し、経営が危ういパラマウント映画の買収に7000億円の値をつけ、中国Eコマースの「アリババ」や「10センツ」と熾烈な鍔競り合い。
ハリウッドのスタジオは中国ロケを増やし、プレミアショウやスターの記者会見は香港や上海で行うようになる。

一昔前は日本が世界二位の映画大国だったがロケもスターもジャパン・パッシング。仕方が無い、本国アメリカより興行成績の良い大作映画が多いのだから。


さて本筋に戻り「ズートピア」だ。
動物たちがまるで人間のように暮らしている近代都市ズートピア。ZOOLANDとUTOPIの合成語。
哺乳類の動物たちは服を着て二本足で歩き、スマホまでも使いこなしている。
そこは肉食動物も本来なら餌になるような草食動物も仲良く平和に共存し、「誰もが何にでもなれる」という楽園。

主人公は兎のジュディ・ホップス(声:ジニファー・グッドウィン)。
家業は人参栽培農家だが「この世をもっと良い世界にして見せる」と警官を志しポリスアカデミーを首席で卒業する。

早速意気揚々と都心の警察本部へ乗り込むが図体の大きな犀の本部長は駐車違反係を命じる。本部は14件の行方不明者を追うのに手一杯で新人のまして兎などの出番は無いと。
100枚チケットを切るノルマを午前中に達成し200枚を超えたところでキツネの親子に出会う。

象のマンモスアイスを子供に買わせて数百個のポプシクルにして大儲けをする詐欺師ニック・ワイルド(声:ジェイソン・ぺイトマン)。
都会育ちで金儲けの現実主義のニック・ワイルドと、田舎育ちで理想主義な兎の警官ジュディ・ホップは気が合い親友となる。彼らは知恵を絞って14匹の行方不明者を探そうと乗り出す。

先ず14匹ともおとなしい市民だが肉食動物だという糸口。ユートピアは90%の草食動物と10%の肉食動物で占められ、市長は平和なライオン、副市長は羊。これは政治絡みの陰謀では無いかとジュディとニックは考える。

ストーリー的にミステリー要素が濃くなり大人も楽しめる。犯人は肉食動物のライオン市長だと目星をつけるがとんだアテ外れ。

人間社会よりもつれた政治陰謀は面白い。
事件を解決し英雄になったジュディと影武者のニックの確執のストーリーもエピローグで楽しめる。

世界で大ヒットしている3Dアニメ。日本ではゴールデンウィークに向けて公開される。

4月23日よりTOHOシネマズ日劇他で公開予定。

「神様メール」(THE BRAND NEW TESTAMENT)(フランス・ベルギー・ルクセンブルグ映画):神様はパソコンで世界を支配する嫌な奴。10歳の娘エアは父親に反発して人々に余命を知らせるEメ

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キリスト教は世界中に広まり20億人(33%)の信者がいる。イスラム教徒は11.9億人(11.6%)。
この2大宗教を生んだユダヤ教は信者、僅か1400万人(0.2%)に過ぎない。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の神は、同じ「アブラハム・イサク・ヤコブの神」だが
ユダヤ教はエホバの神を唯一無二の絶対神として、イエス・キリストを単なるナザレの大工の息子でキリスト(救世主)では無いと否定する。
イスラム教の「アラー」は絶対神でイエス・キリストも預言者の一人に過ぎない。

だからキリスト教徒向けのこの映画では神は薄汚いイヤな奴で世界をパソコンでコントロールするキャラに設定しても誰も怒らない。

原題は「新・新約聖書」(THE BRAND NEW TESTAMENT)

「神様」(ブノワ・ポールヴールド)は下着姿のむさ苦しい姿で人の世に実在し、4人家族でベルギー・ブリュッセルの下町で3LDKの狭いアパートに住んでいる。

 相当に嫌な奴で、自分の部屋のパソコンで世界を支配しているのだが、面白半分に事故や災害を起こしたりしている。「創世記」でアダムをスッポンポンでベルギーの市街地へ放り出し恥ずかしがって逃げ惑う姿を見てゲラゲラ笑っている。

 妻(女神)(ヨランド・モロー)は刺繍と野球に夢中で夫に文句ひとつ言わない。
兄のJC=イエス・キリストは外出が多い。

 父の世界支配とその嫌らしい態度とに憤慨した10歳の娘エア(ピリ・グロワーヌ)は、生まれてから一歩も出たことのなかったアパートから家出することを決意する。

 兄のJCがアパート地下室の洗濯機から温度や時間を設定すれば下水道に逃げ出せると教えて貰う。

 その前に、エアは家族立入禁止となっている父親の部屋に忍び込み、パソコンを勝手に使って世界中の人々にそれぞれの死期を知らせる(余命がどれだけあるか)メールを送ってしまう。
膨大な人間ファイルから選んだ数名を一人一人救済しようと街に繰り出すエア。
エアを追って「神様」も街に出る。

 大笑いするのは父に追いつかれそうになったホームレスの老人、ヴィクトール(マルコ・ロレンツィーニ)を連れたエアは運河の水の上を歩いて渡り始める。
ガリレア湖を徒歩で渡るJCの聖書の中の故事を思い出す。

俺は神だ!と自分も渡るが運河は深い。
泳げない神は忽ち溺れてエアに救い出される。ダメ神さま。

余命を知らせた人たちが12人の使徒たちに加わるエピソードが次々と短編映画のオムニバスのように繋がる。

 勤勉なサラリーマン、ジャン=クロード(ディディエド・ネック)は余命を知ると趣味の鳥を追って北極まで大冒険。小鳥の大群が鈍色の空に幾何学的模様を美しく描く。

生命保険のセールスマン、フランソワ(フランソワ・ダミアンズ)はライフル銃でやたらと殺し歩くシリアルキラーになる。
そして橋を渡る美女、オーレリー(ローラ・ヴェルリンデン)の肩を撃ち抜くが平気な顔。
なんと右手は肩から義手だった彼女と忽ち恋に落ちる。

夫との冷たい関係に耐えられなくなった主婦マルティーヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)は突如現れた凶暴なゴリラに惚れてベッドイン。72歳のドヌーブが瑞々しく美しいことに驚く。30歳以上若返っているよ。

辛くても希望の持てるのは最後に登場する、余命54日のウィリー(ロマン・ジェラン)。生まれた時から「女の子」になりたかった少年は念願の赤いワンピースを着てエアと談笑する姿は楽しい。

レオナルド・ダヴィンチの壁画「最後の晩餐」に使徒は18人になって描かれているオチ。

昨年のカンヌ国際映画祭に出品されゴールデン・グローブ賞外国語賞にノミネートされるなど、世界各を笑わせたコメディーだと言うが、僕にはピンと来ない。

監督と脚本はデビュー作「トト・ザ・ヒーロー」で大ヒットを飛ばし「八日目」や「ミスター・ノーバディ」などのジャコ・ヴァン・ドルマル。

薄汚い神様役は「チャップリンからの贈りもの」などのブノワ・ポールヴール。
古稀を過ぎた名女優のカトリーヌ・ドヌーヴが健在振りを誇示し、「エール!」などのフランソワ・ダミアンが殺し屋を演じる。
名前は知らないがフランスやベルギーの達者な役者が器用な芝居をする。

しかし何と言っても主役は10歳の神様の娘、イエス・キリストの妹役のぴリ・グロワーヌ。昨年公開された「サンドラの週末」では脇ながらピリリと辛い演技を見せていたがこの主人公の慈悲あふれる少女役を熱演している。

如何にもフランス人的なユーモアと奇想天外な発想、奇抜なストーリーと映画としては魅力溢れる作品になっている。
不条理一杯のこの手の映画はフランスやベルギーでは受けるだろうが、ハリウッドでは敬遠され制作はされないだろう。

5月27日よりTOHOシネマズシャンテにて公開される。
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