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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「今夜、ロマンス劇場で」(日本映画):小道具係りの健司はスクリーンの美雪姫に夢中で毎晩同じ映画を繰り返し見ていると、姫が映画から現実世界に出て来る。

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スクリーンの憧れの人物に惚れ毎日通っているうちにその恋人が映画から現実の世界へ降りて来る。
ウディ・アレンの84年の「カイロの紫のバラ」だ。

惨めな生活と夫との愛のない結婚から逃れるため、ミア・ファーロー扮するセシリアは映画館に通っているのだが、今上映されている「カイロの紫のバラ」という映画に彼女は夢中になっているのだった。「カイロの紫のバラ」のジェフ・ダニエルズ演じる登場人物トムは白黒のスクリーンからカラフルな現実の世界へ現れる。

その真似をこの日本映画でやってのける。

主人公は牧野健司(坂口健太郎)と言う映画狂の青年。
映画監督志望だが美術の下働きで毎日大道具のペンキ塗りに明け暮れている健司は、
映画館「ロマンス劇場」に通い詰めていた。
通常の上映が終わった深夜、映画館主、本多正(柄本明)は健司を可愛がっていて
毎晩お姫様の御伽噺映画のフィルムを上映するのを許可する。
ニューシネマパラダイスだね。

毎晩健司が映画を上映するのは恋い焦がれてきたスクリーンの中のお姫さま・美雪(綾瀬はるか)の姿を見たいからだった。

ある夜、美雪はスクリーンのモノクロの世界から抜け出して、
健司のいる総天然色にあふれた現実の世界に飛び出して来る。

お姫さまにしてみてもスクリーンの向こう側から眺めていた憧れの世界。
お姫様が身近にやって来て念願の夢が叶ったと嬉しくてはしゃぎ回る健司を
美雪姫は健司の部屋に同居しながら下僕としてかしずかせカラフルな新世界を満喫する。

健司は姫が知らない一つ一つ「色」について丁寧に教えて行く。

宮殿を抜け出したオードリ・ヘップバーンのプリンセスに仕えるグレゴリー・ペックの「ローマの休日」を思い出させる。
雑然としたペックの小さな部屋に入って「これエレベーター?」と聞く、
似たシチュエーションもある。

美雪姫も打ち解け段々と健司に好意を寄せるようになるが、
ドッコイ、美雪姫は守らなければならない厳しいルールがある。

絶対に互いに「人のぬくもりに触れてはならない」のだ。
物理的接触で姫は「消える」と言う。

ここで昔の映画名場面のコピーが登場する。
ガラス越しの接吻だ。汽車の窓越に岡田英治と久我美子のキスシーン。
僕は戦後リアルタイムで見ていて驚愕の場面だった。
雷が落ちてタイムトラベルが出来る「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など
映画通のファンをくすぐるシーンの連続でいつの間にか健司と美雪姫のロマンスは満願成就している。

バカバカしいが楽しめる映画だ。

綾瀬はるかが三十路を超えてちょっとカマトトぽいが、着用のドレスが白黒ながらパターンの美しさで
もっている。
どこでドレスが色づくかと待ち受けるのも楽しみだ。
当然満願成就で大勢のジャーナリストの前でだ。
「ローマの休日」の記者会見を思い出す。

フジTVディレクターで「のだめカンタービレ」や「テルマエ・ロマエ」シリーズなどのようなヒット作を多く送り出している武内英樹が監督

「信長協奏曲」の宇山佳佑がオリジナル脚本を書いている。悪くないね。

主人公は「海街diary」などで売れっ子で32歳の綾瀬はるか
姫に憧れ追いかける健司を「ナラタージュ」などの坂口健太郎。
はるかより6歳下の実年齢も役造りに効いているかも。

虚構にヴァーチャルな世界の壁をつき破る現実のリアルな熱いロマンスと言う設定が良い。

2月10日より丸の内ピカデリー他全国公開される

「ニッポン国vs泉南石綿村」(日本映画):大阪泉南市の石綿工場の元従業員や近隣住民がアスベストによる健康被害を訴える「大阪・泉南アスベスト国家賠訴訟」を8年半にわたり追ったドキュメンタリー。

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週末(13-14日)の日本の興行成績を見ると全世界で「ジュマンジ」に圧倒されてランキングを落としている
「スター・ウォーズ」がダントツで強く5週連続で首位を獲得している。
土日2日間で動員14万2000人、興収2億700万円を売り上げて5週連続の1位を達成、累計興収は65億円を突破した。

日本などの貢献で海外累積は673.4M、ワールドワイド総計は1,265B(1404.2億円)に達し、昨年の大ヒット作「美女と野獣」を抜き歴代10位に到達。

昨日(16日)の渋谷美学校での試写は3時間25分間の上映終了後、原一男監督の挨拶があると事前アナウンスがあった。
楽しみにして登壇を待っていたら、眼鏡をかけた小男(原監督を初めて見た)が小走りにスクリーン前に立ち、小屋から7時に出て行けと言われたから何かしゃべる時間も無い。
ごめんなさい!と嫌に従順だ。彼の監督したどの映画を見ても反抗する怒りまくる、抗議する人々を描いているだけに,つい原一男もそんな性格だと思いこんでいたのだ。

「アスベスト」=「石綿」は耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ、安価であるため、「奇跡の鉱物」として重宝され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。

空中に飛散した石綿繊維を長期間大量に吸入すると「肺癌」や「中皮腫」の誘因となることが判明し
「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった。

国は70年前から調査を行い、健康被害を把握していたにもかかわらず、経済発展を優先し規制や対策を怠った。

大阪郊外の泉南市は明治の終わりから石綿産業で栄え、最盛期には200以上の工場が密集し「石綿村」と呼ばれていた。
工場は無くなったが発症した患者を多く抱える泉南アスベスト工場の元労働者らが国を相手に訴訟を起こす。

「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」など数々の作品を生み出した原一男監督が、
8年半にわたり石綿工場の元従業員や近隣住民がアスベストによる健康被害を国に訴えた「大阪・泉南アスベスト国家賠訴訟」を追った。

2006年5月、「大阪・泉南アスベスト国家賠訴訟」が始まる。
原監督のカメラが「市民の会」の調査などに同行し、裁判闘争や原告たちの人間模様を記録する。

しかし、長引く裁判は70人超の原告たちの身体を確実にむしばんでいき、撮影終了時の17年春までには20人が死亡している。
病床で酸素吸入を受けながら元気に当時の模様を語る原告の老人たちが次々と亡くなっていくのは胸を締め付けられる。

13年1月、原告・中谷親幸は自宅のベッドで控訴審に向け老いさらばえた身を横たえ臨床尋問を受ける。
そして8カ月後に亡くなる。

原監督はナレーションで繋がず、客観的に死亡、享年XX歳とだけ遺影の前に白抜きの字幕で告知する。
インパクトのある手法だ。

原告の発症した年老いた男性は、「アスベストを悪者みたいに言うけど、石綿のお陰で3人の子どもたちにキチンとした教育を受けさせ大学まで終了させた。
アスベストが無ければ食事も住居も無く野垂れ死にしていただろう」と正直な意見を述べる。

地裁、高裁で3度勝利するが厚労省が上告した最高裁の判決は未だだ。

原告団は上京して厚労省に詰めかけ役人に会い状況を説明しようとするが係争中の案件については責任者は対応できないと
下っ端の役人がそれでも会議室で会う。怒号が飛び交うが原のカメラはニュートラルで、どちらにも与しないのは良い。

特に「石綿被害者の市民の会」会長の抽岡一禎は過激だ。「建白書」を安倍首相に手渡すと言って首相官邸に原告8名とともに押し寄せ
警備の係官や警官に排除される。
弁護士たちはそれが「何の役に立つのだ」と怒る。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2017(17年10月5~12日)のインターナショナル・コンペティション部門に出品され、市民賞を受賞。
2017年・第18回東京フィルメックス(17年11月18~26日)では特別招待作品として上映され、観客賞を受賞した。

しかし途中インターミッションを入れなければならない程の3時間半の作品の長さは、観客の生理的(トイレ)な観点からいうと
「2時間が理想」という考え方を、監督自身も持っていた。
だが最終版の編集の過程で、「けっこうオモシロいじゃないか!」と思えてきた。

「神軍」や「極私的エロス」の質とは違う、原告・庶民=生活者の生き方が人様々に克明に描けている、と監督自身も実感し短縮するのを止めたと言う。

3月10日より渋谷ユーロスペースにて公開される

「スリープレス」(Sleepless)(米映画):拉致された息子が心配で夜も眠れず(スリープレス)苦しむダウンズ刑事は奪ったドラッグと引き換えにわが子を取り戻すべくマフィアの本拠へ単独で乗り込む。

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 2012年9月に公開された「Nuit Blanche」(邦題「スリープレス・ナイト」)のリメイク。
監督はフランスのフレデリック・ジャルダン、主演はトメル・シスレー、ジョーイ・スタールだから
役者の格がオスカー俳優、ジェイミー・フォックスを起用するなど、
こちらの方が豪華でアクションを更に強化している。
 
オリジナルのフランス・ベルギー・ルクセンブルグ映画をアメリカ制作映画として
リメイクしているからだ。
ややこしいのはイタリア映画で02年公開の同名の作品「スリープレス」があるがこの映画とは
関係無い。

冒頭は派手なカーチェイスから始まる。
ネオンライトがまばゆい光を放つアメリカ、ラスベガス。殺人課の刑事ヴィンセント・ダウンズ刑事(ジェイミー・フォックス)は相棒とともに、輸送中のドラッグの強奪に成功する。

ラスベガスの下町をギャングの車に追いかけられて逃走するSUV。
大量のコカインを積んだカジノのボス、ルビーノ(ダーモット・マルローニ)の車が襲撃され大ドラッグが奪われる。
 
ルビーノはマフィアのボス・ノヴァク(スクート・マクネイリー)との取引寸前だった。
ノヴァクは狂暴で最悪な男。
奪った犯人は二人の刑事だと探り当て、正体を見破られた首謀者のダウンズ刑事は
ティーネージャーの一人息子トーマス(オクタビアス・J・ジョンソン)を誘拐されてしまう。

トーマスと一緒に暮らしている元妻(ガブリエル・ユニオン)はダウンズに当たり散らすし、
相棒の刑事ショーン(ラッパーのティップ・“T.I.”・ハリス)は密通者と分かっているから信用出来ない。

更にややこしいのは二人の潜入刑事に疑惑を覚え内務調査班の2人の担当官、ブライアント(ミシェル・モナハン)とデニソン(デビッド・ハーバー)が取り調べに本格的に乗り出したことだ。

トーマスが心配で夜も眠れず(スリープレス)苦しむダウンズ刑事は
奪ったドラッグと引き換えにわが子を取り戻すべくマフィアの本拠へ単独で乗り込む。

カーアクションばかりかRPGなどの重火器や軽機関銃などの銃撃戦も含めアクションは派手だ。

アメリカでは2017年1月に上映され興行成績は20.5M(22.8億円).
制作費に30M(34億円)をかけているからMKT費用を加えると
真っ赤赤な大赤字だ。
観客のウケも19%の Rotten Tomatoesと最低。

監督はバラン・ボー・オダー。スイス生まれの40歳。ドイツでCMやTVドラマで活躍しドイツ映画「ピエロがお前を嘲笑う」(14)がヒットしハリウッドいりが叶った。

主演は「レイ」でオスカー俳優となったジェイミー・フォックス。「レイ」一本だけでフォックスはB級映画ばかりだ。
ヴィンセントを追う内務調査官ブライアント役には、「M:i:掘廚筺屮僖肇螢ット・デイ」などのミシェル・モナハン。

悪役勢も存在感は強烈で、カジノ王ルビーノには、ダーモット・マローニー、
マフィアのノヴァクには「アルゴ」で注目株スクート・マクネイリー。
他にデビッド・ハーバーなどが脇を固める。

派手なアクションも何処かで見た二番煎じ、ストーリーも先が読めるクリシェ、と良い所が見当たらないB級アクション映画だ。

2月3日より新宿バルト9他にて全国公開される。

「野球部員、演劇の舞台に立つ!」(日本映画):名門高校野球部員は演劇顧問の女先生の要請と野球部監督の「野球バカになるな」の命令で演劇コンクールの舞台に立つことになる。

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素晴らしい映画だった。
笑ってそして泣けて泣けて涙が止まらなかった。

昨日、17日(木)の夕刻、京橋にあるテアトル東京試写室で上映後、
監督の中山節夫と主将でキャッチャー役、リョータこと船津大地、
プロデューサー、鈴木一美、音楽&主題歌の小六禮次郎がスクリーン前に立ち挨拶をする。

元福岡県八女市の高校教諭で国語と演劇部顧問の竹島由美子が10年間に亘る実体験を小説「野球部員、演劇の舞台に立つ!-甲子園、夢のその先なあるものを追いつづけて」(高文社)と言うシノプシスのように長い題名で発刊したのが2010年。
演劇の話だけに直ぐに青年劇場で舞台化され、これまでに全国で250公演、18万人を動員した。

八女市在住の中山節夫監督が出版直後に映画化権を獲得したが、311や熊本大地震など災害に阻まれ完成までに8年もかかってしまった。
80歳を過ぎ最後の作品として頑張ったと。

中山監督は語る。
「子どもから大人へと成長する青春時代にどんな仲間と出会い、どんな体験を積み上げるのか。
子どもたちには、向かい合う大切な仲間と生きる貴重な青春の瞬間に気づいてもらい、大人たちには、乗り越えてきた自らの青春を重ね合わせて、
今を生きる若者に向かい合ってほしい」、そんな願いを込めてこの映画を作ったと言う。

8年前に原作「野球部員、演劇の舞台に立つ」に出会った中山節夫監督は、なんとしても映画にしたいと動き始めた。

 その思いを引き継いだのがプロデューサーの鈴木一美。
7年前、東京在住の鈴木は、物語の舞台の八女市に移り住み、本気でこの企画に向かい合う映画人として粘り強く市民に「政策支援」を説き続け、
次第に市民の理解と協力が広がる中でこの映画は製作された。

八女市は福岡県南西部に位置する人口6万5千人の小さな都市。
エンドクレジットを見ると市の行政機関は勿論、JAを中心に制作資金集めに殆どの企業、団体、学校、個人が名を連ねている。

「残念なことに」と鈴木プロデューサーは告白する。
モデルとなった高校は甲子園の常連校で実話だけに、その高校の名前を出したかったが
「高野連」から待ったがかかり架空の「八女北高校」と名乗らなければならなかったのは残念だ。

物語はいきなり秋の予選一回戦の試合から始まる。
勝ち進めば「春の選抜」で甲子園の土を踏める。

甲子園出場は間違いないと誰しも思った八女北高校野球部。
中でもエースピッチャーのジュン(渡辺佑太朗)の左腕は、注目され期待されていた。
そして予想通り、8回まで1対0とパーフェクトに押さえていて勝利は目の前。

ところが青天の霹靂。
最終回ファースト、カズマ(川籠石駿平)のバント処理エラーをきっかけに、
キャッチャーのリョータ(舟津大地)とジュンの息が合わず、外角スライダーが中に入ったのを狙われ
フラフラ上がったフライがショートの後ろにポテンヒット、
まさかの逆転敗退。

プレイはCGを使っているのだろう。ジュンのアウトローへの速球や一塁への送球はプロ並みのスピードで描写される。

敗北の責任をめぐってチーム内に広がる不協和音。
そんな時、男性部員がほとんどいない演劇部顧問三上先生(宮崎美子)から
野球部員を助っ人にほしいという申し出があった。
ボクサーを主人公にする演劇だけに坊主刈りの体格ががっしりした筋肉質の男性の役者が欲しかった。

「野球だけの人間になるな」という指導理念を持つ八幡監督(宇梶剛士)はこれ受け、
ジュンとキャッチャーでキャプテンのリョータと、エラーをしたファーストのカズマの三人を演劇部の助っ人に送り出した。

「俺たちにそんなヒマはない」と反発する3人の野球部員たち。
突然の助っ人に役を奪われた演劇部員。とりわけ反発を示したのが
三人と同級のミオ(柴田杏花)であった。

頼まれて来たのに野球部員たちも「やっていられねー」
しかし三上先生の一言「何故一回戦で負けたのか、その原因が分かるわよ」で留まる。

野球部員への反発の声にイチゴ栽培農家の演劇部OB田川(林遣都)が応える。
演出の田川の指摘や指示は適切で反抗の余地が無い。

演劇部の目指すコンクールまで2ヶ月、とまどい、反発しあう日々も少なくなり、
部員と演劇部女子とのロマンスも芽生えたり、練習は順調に、チームワークもとれ一体感で動き始める。

 中山節夫と言う監督を全く知らなかった。
八女市在住のローカルの映画作家。。
子供たちの成長に熱い目を注ぐ「あつい壁」(70)で監督デビューを果たしと言うが東京で公開されたかどうか、僕は見ていない。
以降独立プロに身を置きながら数々の教育映画を送り出し続けたようだ。

 半世紀近く映画制作に携わって来ただけに人気番組の特番映画としてTVディレクターが映画監督をするのと違い映画の文法、基礎をしっかり身についているから監督の意図は着実に観客に伝わる。
最近、これほど笑い、そして泣いた作品は無い。
傘寿の中山監督に脱帽だ!

2月24日より渋谷ユーロスペース他にて公開される

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(Maudie)(加・愛蘭映画):カナダの田舎に住むモーディは重いリウマチを患い一族から爪はじきにされ、雇い主からは役立たずと罵られる

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カナダで最も愛されるフォークアートの女流画家、モード・ルイスの伝記映画。

1930年代、カナダ東部のノバ・スコシア田舎に住むモード・ダウンリー(サリー・ホーキンス)ことMaudie(=原題)は子供の頃から重いリウマチ(若年性関節炎)を患い、
そのため歩き方も足を引きずるので知恵遅れに見えた。痛みを和らげるためタバコを無暗に吸うチェイン・スモーカー。

しかし足がわるいだけで知恵遅れでも役立たずでもなく家事は充分にこなして来た。
両親が亡くなって以来一族から更に厄介者扱いされてきた。

モード・ダウンリーは両親の家も遺産も総て兄のチャ―ルス(ザッカリー・ベネット)に取り上げられ、
兄の家族と独身の叔母、アイダ・(ガブリエル・ローズ)と一緒に住むが、人間扱いはされず、家政婦として奴隷か家畜のようにこき使われる。

家を出て自活しようと仕事を探していると、雑貨屋に家政婦求むのビラ。
訪ねた先はオンボロ小屋に住む貧しい魚の行商人・エベレット・ルイス(イーサン・ホーク)。

ビッコでアホに見えるモーディを胡乱の眼差しで見詰める。
ビッコの女(Crippled Woman)なんて役に立たない。

日本の映画TVではビッコは禁句だがエベレットのセリフに何度もこの言葉が出て来る。

必死に頼み込むモーディに一緒に「寝る」こと「食事や掃除をする」ことを条件に週給25セントで雇うことにする。

モーディの作ったチキンシチューが絶品だったのだ

しかしセックスをし家政婦の仕事をしても給料は払ってくれない。
セックスをするなら「結婚をしてくれ」と懇願するがどこ吹く風。
何か気に入らないと直ぐに頭や顔を殴る。

俺にとって大切なものは1)に犬、2)にチキン、そして最後にチンバの女だと嘯く。

そんな彼女にとって唯一の生き甲斐が「絵を描くこと」だった。
狭い小屋の壁や窓には一杯絵が溢れている。

NYからノバススコシアに避暑に来ていたキャリア・ウーマンのサンドラ(カリ・マチェット)によってモーディの絵の才能は認められる。
彼女はエベレットが料金だけ取って魚を届けないことに文句を言いに2人の住む小屋に来ただけだった。

壁に描いたチキンの絵に感動したサンドラはカナダの美しい四季と動物を色鮮やかに素朴で愛らしい絵のカードを1枚5セントでエベレットは売る。
幾らでも払うわと言うサンドラに5セントで売れたと、二人は絵がお金になったと大喜び。

NYに帰ったサンドラは友人知人にモーディの絵を見せ、注文はドンドン増える。

噂を聞いて当時のアメリカ副大統領、リチャード・ニクソンから絵の注文を受けるほどの人気者になる。

TVも放っておかない。ニクソンから依頼を受けた女流画家としてモーディの作品の紹介とインタビューが北米に流れ彼女は突如有名人となる。

リッチになったモーディを繋ぎとめるためにエベレットは教会で式を挙げ籍を入れる。
DVで苛められ虐待されてもモーディはエベレットを心から「愛している」のだ。
幸せ一杯のモーディ。

TVを見た兄、チャールスも叔母、アイダも過去のモーディへの罵詈や苛めを謝る。

意図せずモーディにとっては「リベンジ」になり観客はカタルシスを覚えるが、
モーディは心が広く彼らを許し受け入れる。

孤児院で育ったエベレット、一族から爪はじきにされたモーディ、
居場所がなく孤独だった2人が運命的な出会いから、紆余曲折を経てモーディの隠れた才能を奇貨として
夫婦の絆を結び、美しい色にあふれた絵画に囲まれ、わずか4メートル四方の家で暮らす慎ましくも幸せな日々を手に入れる実話だ。

エンディングクレジットに実在のモーディが現れる。
部屋の片隅にTVカメラを嫌い逃れる白髪の小柄の老女は猫に狙われたネズミのように怯えている。
作品の数々がクレジットの合間に紹介されるがカナダの田舎の四季は原色でカラフルに美しく描かれている。

1970年に67歳で他界して今なお、小品でもオークションで500万円を超える人気を誇り、カナダで最も愛された女流画家といっても過言ではない。

主人公、モード・ルイスを演じるのは、「ブルージャスミン」でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、
「シェイプ・オブ・ウォーター」で今年のオスカーを狙う演技派サリー・ホーキンス。馬面で美人じゃないが芝居の上手さは右に出る人がいない。

無骨で無教養なエベレットを「6才のボクが、大人になるまで。」などでアカデミー賞ノミネートされた経歴を持つイーサン・ホーク。

イギリスのTVドラマ「荊の城」などのアイルランド人女性監督のアシュリング・ウォルシュ。デビュー作「Song for Raggy Boy」は数々の受賞で注目されるが日本未公開。女性のセンスでモーディの人生を見直し再評価する。
「どんな人生でも自由な精神で楽しめば、素晴らしいことが待っている」

3月3日より新宿ピカデリー他で公開される

「パディントン2」(PADDINGTON 2)(英・仏映画):モフモフのボディに赤い帽子を被りダッフルコートを着たパディントンは育ての叔母さんの誕生祝いに飛び出す絵本の稀覯本に興味を抱く。

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 昨日(20日)の「TOHOシネマズ日本橋」スクリーン5で6時50分の回を見た。
土曜の書き入れ時なのにシートは半分しか埋まっていない。

 このシネコンは地下鉄銀座線三越前のビルの3階から始まるシネコンプレックスは上野から常磐線で帰宅する僕にしてみれば交通の便が良いので好きだし、新宿や渋谷の劇場と違い人混みをかき分けなくともエスカレーターで「流れるように」劇場入口へ運んでくれるのが有難い。

 アメリカでは日本より1週間前の12日から公開された。
新登場で7位の成績は酷い。
 3702館で12-14日の週末3日間で$10.6M(11.8億円)は人気のファミリーアニメとしては予想外に低い。

これにはワケがある。
北米の配給権をワーナーブラザースが「セクハラ・スキャンダル」でハーベイ・ワインスタインが会長の座を追われ、ゴタゴタしているWeinstein Companyから譲り受けてたのだ。
時間が無くPR広告やマーケティングへの準備が充分でなかった。

年が改まった1月5日に「ニューヨーク・タイムス」にスクープされた記事を追ってみよう。
ハーベイ・ワインスタイン(65)は、ハリウッドで帝王のような権力を持つ映画プロデューサーだ。
 ニューヨーク出身の彼と弟ボブ(62)は、70年代末に、映画会社「ミラマックス」を創設。
 80年代末から90年代にかけて、ミラマックスは、
「セックスと嘘とビデオテープ」「クライング・ゲーム」「パルプ・フィクション」など、大人向けの良質で個性的な作品を次々に送り出し、質の批評面でも、量の興行面でも大成功を納めた。
そして「イングリッシュ・ペイシェント」で、初のオスカー作品賞を獲得。

これをきっかけに賞に貪欲になったワインスタインは、毎年その時期になると、過剰なオスカーキャンペーンを展開。
ミラマックス時代には、ほかに「恋におちたシェイクスピア」と「シカゴ」が、作品賞に輝いている。

ミラマックスは、93年ディズニーに買収されたが実質的な経営権は兄弟が握っていた。
しかし兄弟とディズニーのトップとの間に確執がはじまり、2005年ワインスタイン兄弟は
自分たちが作った「ミラマックス」を離れ、
「ザ・ワインスタイン・カンパニー」(TWC)を創設する。

TWCになってからも、賞狙いの政策とキャンペーンは変わらず、「アーティスト」「英国王のスピーチ」がオスカー作品賞を受賞したのは見事だった。

このようにオスカーを含め賞取りの質の高い作品と言えばワインスタイン兄弟のTWCと相場が決まっていたが、兄ハーベイは「性依存症」で映画出演をエサに女優達にセクハラやレイプを行っていたと言うのだ。

グウィネス・パルトロウ、アンジェリーナ・ジョリーら複数の女優が、被害者として名乗り出た
(「Me Too」が女優の間で広まっている)驚愕の事件が「パディントン2」と言うキュ ートな熊ちゃんにも影響を与えていたのだ。
この熊への被害は「パワハラ」に属する。

セクハラがあくまでもアメリカ国内の問題で海外では関係がなく、先行で既に17か国で開けており139.8Mを挙げてワールドワイド総計は150.4M(167億円)になる。

観客の評価のRotten Tomatoesでは100%フレッシュネスは驚異的な数字だ。
だからハーベイ・ワインスタインの89人の女優へのセクハラがアメリカで如何に大きな問題を引き起こしているか分かる

パディントンの声は前回に引き続きベン・ウィンショウ。
ウィンショウ自身は脇の役者だが、子熊の声は半分幼い甘ったれた彼の声でなければならない。
イギリスのシェイクスピアなどの舞台俳優だが14年のオリジナルの「パディントン」の声で人気が出た。

声の出演は顔も見えないし身体を見せて芝居をする訳でもないが声はこの人でなければならないと言う意識が見る方にある。

金曜(18日)に「Boss Baby」の試写を見た。
僕は既に字幕版を2度も見たがアレックス・ボールドウィンの赤ん坊に似合わない実業家の声のアンバランスが面白かった。

それを日本人の役者の吹き替えで興味が半減してしまった。

さて肝心のストーリーだが、前回はペルーから出て来た子熊の紹介に終始したが、今では西ロンドンのウィンザー・ガーデンでブラウン一家と幸せに暮らしている。
モフモフのボディに赤い帽子を被りダッフルコートを着たパディントンはどこへ行っても「元気!」の声かけと秘伝の「マーマレード」を振りまき、周囲から愛される人気者だった。

ペルーでの育ての親のルーシーおばさんの100歳の誕生日プレゼントを探していたパディントンは、アンティークショップ(骨董品店)でステキな飛び出すPop Up)絵本を見つける。世界にひとつの絵本(稀覯本)を買うお金を貯めるために、働き始める。

ところがある夜中、骨董店に強盗が入り絵本が盗まれ、現場に居合わせたパディントンが、容疑者として逮捕されてしまう。
お店にはアンティクの宝石や装飾品が一杯あるのに何故,稀覯本一冊だけなのか?

パディントンは強盗を追い駆けて分かる。

それは、絵本に隠された秘密(大量の宝物)を知る落ち目の俳優、フィニクス・ブキャナン(ヒュー・グラント)の仕業だった。

ブキャナンはドッグフードのCMが唯一の仕事だ。
落ち目のグラントのことを宛書したとも言われる

だがお店にはパディントンの足跡しかのこっていない。スコットランドヤードの刑事たちに現行犯逮捕され、裁判でも反論が出来ず、有罪になり刑務所に入れられる。
が厨房を任されている、凶暴な囚人ナックルズ・マクギニティ(ブレンダン・グリーソン)と、まさかの友情を結ぶ。

ナックルズに美味しいマーマレードのサンドウィッチを食べさせると乱暴者で直ぐ暴力を振るうナックルズまでもがパディントンを本当の友達だと認める。

ヒュー・グラントもブレンダン・グリーソンもカメオ出演か思ったが、二人ともレギュラー以上の重要なキャラクターを熱演している。

パディントンの正義の心、人々に優しく友達として、上流階級も下級の貧乏人にも平等に付き合う心が、マーマレードを媒介として広まって行く。

だがオリジナルでも問題となった他国からの難民、移民の受け入れ問題はこの映画の中でも解決していない。

果たして、パディントンはブラウン家の人々の助けを借りて、無実を証明することが出来るのだろうか?
熱気球で脱獄し昔懐かしいSL機関車での追いかけっこはアクションのクライマックスを迎える。
実写もさることながら、重要なポイントをアニメで表現する手法も面白い・

ペルーのジャングルからロンドンにやってきたクマのパディントンと周囲の人々とのふれあいがほのぼのと美しく、オリジナルを越えて良い出来で笑って楽しい時間を過ごした。

原作はマイケル・ボンドの児童文学を映像化したファンタジーの続編。

監督と脚本は前回に引き続いてポール・キング。

出演者は豪華だベン・ウィショー(声の出演)はともかく、ヒュー・グラント、ブレンダン・グリーソン、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、サミュエル・ジョスリンなど一流の役者が脇を固める。

TOHOシネマズ日本橋他全国公開中

「スタンド・バイ・ミー」(Stand By Me)(アメリカ映画):夏休み最後の日、仲良し少年たち4人はオレゴン州の山奥に列車に跳ねられた「少年の死体」を見付ける冒険に出かける

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ハリウッドの映画産業を支えているのは中国だ。
昨年(2017年)を見るとメジャースタジオの天下が崩れる。
サマーシーズン映画の国内BOはこの10年最悪の結果となっていた。

前年比でおよそ2%減、年トータルで11.1B-11.2 B(1兆2578億円)
入場者数も4-5%減となる。

新たに現れたNetflixなどのコンテンツの充実で劇場への足が止まる。

BOのグローバル総計で見ると中国と言う「救世主」が現われ
史上初の40B(4兆4920億円)に達する。

中国での興行成績は昨年のRMB45.6B(7840億円)を超えてRMB50Bを超えて日本円で9000億円近くに達する。
10%近く伸びている計算だ。

カナダを入れた北米が今年は2%減で1兆2500億円。
全米BOの不振で映画配給網会社へのウォールストリ―トの信頼はガタ落ち。
例えば大手AMCの株価はこの1年で70%もダウン。

北米が年々減り中国は毎年確実に伸びる。
5年も経てば中国は世界一の映画マーケットになるのは火を見るよりも明らかだ。
そうなるとスタジオは中国人の顔色を窺いながら映画を制作する。
嫌だね、中国人が一番喜ぶのは「鬼が来た」のように日本人が地獄の悪鬼のように邪悪な心を持ち

中国人を苛めているのを、バットマンやスーパーマンみたいなスーパーヒーローがジャップ退治に乗り出す。
ミッション・インポシブルのトム・クルーズも南京大虐殺の仇討をやられたらかなわない。

 しかし映画好きの中国人たちもアメリカ一辺倒ではなくなってきている。
地元中国映画が脚光を浴びて来た。

中国人は世界で一番強く暖かい心を持っていると宣伝臭フンプンの愛国映画「戦狼2」(日本でも公開中)は1000億円に到達した。

もっと驚いたのは昨年の大ヒットでナンバー1の映画「Star Wars: The Last Jedi」は中国でもダントツ1位になるとハリウッドの誰もが思っていた。

しかし1月5日に公開されると、1位の中国のロマンティックコメディ「The Ex-File 3: The Return of the Exes」(3週目累積275M=305億円)に
遥かに及ばない2位の28.7M(32億円)、

もっと驚くのは翌2週目に92%ダウンでたったの2.4Mしか挙げられない。

これでは最終的に50Mまで行けるかどうか?
(今週は新しい中国映画「Forever Young」が「Sar Wars」の上を行っている。)

ワールドワイド総計は1,27B(1404.2億円)に達しているが、ハリウッドの大作が本国でコケても中国は「救いの神」だった。
しかしその神話は崩れそうだ。

1986年公開と言うから32年前の作品だ。京橋のフィルムセンターで見ながら32年も経ったのかと言う感じ。
今やすっかり爺いさんの70歳、リチャード・ドレイファスが若い小説家ゴードン役で、少年時代の親友で弁護士になったクリスが喧嘩の
仲裁に入り逆に刺殺されたと言う新聞記事を読んでいる。

原作はモダン・ホラーの大家スティーヴン・キングの短編集」恐怖の四季」の中の夏の物語「THE BODY」(「死体」)である。

因みに春編は「刑務所のリタ・ヘイワース(Rita Hayworth and Shawshank Redemption)」で映画のタイトルは「ショウシャンクの空に」だった。

1950年代末のオレゴン州の小さな町キャッスルロックに住む4人の少年たちが好奇心から、線路づたいに“死体探し”の旅に出るという、レバーデイを翌日に控えた夏の冒険を描いている。

アカデミー脚色賞、ゴールデングローブ賞作品賞、監督賞にノミネート。また、ベン・E・キングが歌う同名の主題歌はリバイバルヒットした

時代は、彼が12歳だった頃にさかのぼる。
ゴーディ(ゴードン)は、オレゴン州キャッスルロックの田舎町で育てられる。
治安が良い場所では無く、何かしらの粗悪な家庭環境を持つ貧しい、下層階級の人たちが住む田舎に暮らす少年4人。

ゴーディ(ウィル・ウィートン)、クリス(リバー・フェニックス)、テディ(コーリー・フェルドマン)、バーン(ジェリー・オコネル)の4人は、

性格も個性も異なっていたが悪口や憎まれ口をききながら、どうにかウマが合い、いつも一緒に遊んでいる。
大木の上に組み立てた秘密小屋の中に集まっては、タバコを喫い、トランプをしたり、少年期特有の仲間意識で結ばれている。

ある日、バーンは不良グループである兄、エース(キーファー・サザランド)たちの会話を盗み聞きしてしまう。
3日前から行方不明になっているブラワーという少年が、30キロ先の森の奥で列車に跳ねられ死体のまま野ざらしになっていることを知る。

バーンがゴーディたちに話すと、「死体を見つければ有名になる。英雄になれる」と言う動機から死体探しの旅に4人で出かける。

途中、喧嘩もするが、泥沼にはまりヒルに吸いつかれる、犬に吠えられ逃げ回りながらも、助け合いながら、一昼夜をかけて山道を歩く。

鉄道の線路に沿って、冒険のような旅を続ける。鉄橋で危うく列車に轢かれそうになり、沼ではヒルにかまれながら、その夜は森で野宿をする。

クリスが持参したピストルを持って、交代で見張り(stand by)をする。
そのピストルが役に立ったのはエースと不良仲間たちが折角見つけた死体を横取りしようとした時だ。
飛び出しナイフをゴーディの喉に突き付けられた時に現れたクリスはピストルをエースに向ける。

12歳の時は毎日つるんで悪さをしていた少年たちは9月第一月曜日、「レイバー・デイ」を堺いに夏休みが終わり学校へ通い始めると冒険も終わり大人への通過儀式も終了し二度と会わなくなる。

そして20年振りに「死体」発見のアドベンチャーと仲良し4人の友達を思い出すのは弁護士になったクリスの死亡記事だった。

「滅びしものは懐かしきかな」

あの時代へは二度と戻れないが育んだ友情と思い出は永遠にゴーディの心に残る。
僕は死んだクリスと演じたリバー・フェニックスをダブルイメージで思い出す。
薬物接種過多で死んだのが23歳の時、弟のホアキン・フェニックスがスターとなって活躍しているが
才能はリバーの方が遥に上だ。4人の中でクリス役のリバーが図抜けて上手い。

監督は「「恋人たちの予感」 (1989) 「ミザリー 」(1990) 「ア・フュー・グッドメン」 (1992)などのロブ・ライナー。
少年時代の想い出をさわやかに丁寧に描き上げている。

国立近代美術館フィルムセンターにて9日と20日に上映された

「坂道のアポロン」(日本映画):自分の居る場所の無い転校生の薫はジャズを通して生涯の友人、律子と千太郎と知り合う

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青春映画は雨後の筍のように毎週新作を試写して貰うが似たり縁ったりでどれもこれもごっちゃになってしまう。
しかし、高校生同士の友情がジャズでそれもピアノとドラムのセッションで結ばれている。

絶えず繰り返され演奏される曲がサウンド・オブ・ミュージック」の中の「My Favorite Thing」。
薫がポロロンと弾くアート・ブレイキーの「Moanin’」どちらも僕の大好きなジャズのスタンダード・ナンバーだ。

映画はこの2曲をブレイキングポイントとして3人の男女高校生の青春を追う。

東京の病院。医師として忙しい毎日を送る西見薫のデスクに笑顔の3人の高校生の写真が見える。
1966年初夏、両親を亡くした男子高校生・西見薫(知念裕季)は病院を経営する叔母(山下容莉枝)夫妻に引き取られ横須賀から長崎県の佐世保市の高校に転校してきた。

医学部に進学して病院を継ぐことが学費や生活費を出す条件だった。
薫は医者になる積りだったから条件は問題無く受け入れた。

ただ学校まで続く坂道は長く急で虚弱体質の薫は息せき切って歩いていた
転校初日、同じクラスで後ろ席に座る大柄で腕っぷしの強そうな男・川渕千太郎(中川大志)が気にかかる。
授業もサボってばかりで学業も成績もビリ。

上級生だろうと同級生だろうと筋が通らないと必ず口より腕の方が先に出る。
千太郎が揉め事を起すと間に入って治めるのが成績優秀で学級委員の迎(むかえ)律子(小松菜奈)。
どんなに荒れていても千太郎は幼馴染の律子の言うことには従順だ。

律子は転校生に学校や街を案内する係りで、薫のリクエスト、音楽が一杯聞けるところと言われ連れていかれたのが
学級委員の律子の家。
ふんだんにあるLPレコードが整然と並び、サッチモやアート・ブレイキ―のポスターが所狭しと店の壁に張り巡らされている。
そう、律子の家はレコード店で、楽曲はLPレコードが主流でCDもウォークマンも未だ発売されていない時代だ。

驚いたことに「迎レコード店」の地下はジャズ・セッションが出来るスタジオになっている。
あの乱暴者の千太郎がドラムソロを叩いているがプロの腕前だ。

薫は引っ越しや進学の勉強のため弾いてないが
子どもの頃より習っていたピアノに思わず手が伸び
いつの間にか「モーニン」のキーを叩いている。千太郎はドラムで受ける。

そこへ薫のお父さん、迎勉(中村梅雀)がベースで割って入り低音でリズムを刻む。
出演者の嬉しそうに楽しむ顔が観客に伝染し「モーニン」から「マイ・フェイボライト・シング」のテーマに移る頃は至福の絶頂にある。

リズムセクションだけで淋しいと思っていたら地下室に現れた、東京から帰郷した薫の従兄、桂木淳一郎(ディーン・フジオカ)のトランペットが甘いメロディで鋭く切り裂く。
学生運動をドロップアウトし、しばらくジャズにこもりながら考え方を整理したいためだ。

淳一郎を追いかけ画家の真野恵里菜(深堀百合香)が現れる。

淳一郎は時間をとり今後に人生を考える必要があり、恵里菜を相手にしている暇もない。

そこで余った時間で絵を描こうと、大柄で筋肉質の千太郎にギリシャ風のローブを着せ学校へ登る坂道に立たせデッサンを始める。
「こりゃ、何かとばい?」
惚れた恵里菜のことは何でも聞き届ける千太郎の質問に
「ギリシャ神話でゼウスの息子で、詩歌や音楽などの芸能・芸術の神よ」
誉められたと思った千太郎は恵里菜に無我夢中になる。

だがやがて恵里菜は淳一郎以外には恋人はいないと気が付いた千太郎は
薫も律子も気付いていと知り、怒り狂って2人に絶交を宣言する。

ジャズ専門の千太郎が怒りの余り軽薄なロックに加わる。
高校文化祭の舞台で突然の電気系統の事故でアコースティックではないロックの演奏が中断する。
間を繋ごうと薫は「モーニン」のメロディを弾き始める。

何よりも大切な「友情」をピアノの音色で思い出した千太郎はドラムでソーっと入って行く。
ロックバンドの子供じみたケバケバ軍服姿の千太郎と文化祭委員の地味な白いシャツ姿の薫。

何回も練習した「モーニン」と「マイ・フェイボリット・シング」の闊達な演奏は中断でだれた満員の観客の興味を取り戻しピアノ&ドラムのクライマックスでは万来の拍手。

高校生の青春ドラマなんてタイプじゃないと見始めたのだが
半世紀前ののめり込んだ懐かしい華麗なメロディにすっかり陶酔して涙が止まらない。
良いものを見せて貰った。

主演の2人、チビでインテリの知念侑李と大柄で能天気の中川大志の凸凹コンビは
大人の心の一番センシティブな部分に忍び込む。

監督は、「青空エール」「ホットロード」などの漫画原作映画を手がける三木孝浩だが上手い演出だ。

3月10日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ 公開される

「Man Hunt」(追補)(中国映画):高倉健主演、西村寿行原作の映画「君よ、憤怒の河を渉れ」(1976)を中国の巨匠、監督ジョン・ウーが42年の時空を超えてリメイクした。

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ジョン・ウーは、香港で「男たちの挽歌」シリーズで大ヒットをとばしてハリウッドに迎えられ、「ブロークン・アロウ」や「フェイス・オフ」「ペイチェック」など93年から10年間、10本もアクションスリラー作品を撮った巨匠だ。

しかし彼のスタイルも飽きられて故郷へ戻る。
中国映画界は大喜びで大作「レッドクリフ」シリーズ2本を任せるが昔の面影や勢いはない。その後中国のタイタニック版と言われる「大平輪」シリーズは日本未公開だ。

日本大好き、高倉健の猛烈なファンで71歳になるチビ禿げのジョン・ウーは
14年にプロデューサーとして全編オマージュのドキュメンタリー「健さん」を制作。

ハリウッドを去って以来、捲土重来を期すには高倉健の映画のリメイクをオール日本ロケで撮ると言うのは当然の帰結だった。

取り上げた映画は1976年に高倉健主演で映画化された西村寿行の小説「君よ、憤怒の河を渉れ」だ。

巨匠の名が響いているだけに俳優は簡単に集まる。
「戦場のレクイエム」のチャン・ハンユー、
「三度目の殺人」の福山雅治と日中のスターをダブル主演に迎えて、お馴染みのサスペンスアクションだ。

酒井義弘(國村隼)が会長の大手製薬会社顧問をつとめる国際弁護士、ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)は、パーティの翌朝、社長秘書・田中希子(TAO)の死体の横で目を覚ます。

 現場の状況証拠は彼が犯人だと示しており、突如として殺人事件に巻き込まれてしまう。
罠にはめられたことに気づき逃走するドゥ・チウ。

 孤高の敏腕刑事の矢村(福山雅治)は独自の捜査でドゥ・チウを追っていく。
矢村は捜査が進む程に、この事件に違和感を覚え、徐々に見解を変えていく。
やがて2人の間に親和感や友情が芽生えていく。

ドゥ・チウを捕えた矢村は警察への引き渡しをやめ、共に真実の追及を決意する。
追われながらの追跡、闇が濃くなる度に増していく危険。

鍵を握るのはドゥ・チウに近づいてきた謎の美女・遠波真由美(チー・ウェイ)。
事件の裏にはどんな黒幕が陰謀を仕掛けているのかに焦点が絞られる。

セリフの基本は日本語なのでハンユーもウェイもぎこちない日本語だがキュートだ。
福山の中国語は明らかに吹き替えなのが面白くない。
共演に「第7鉱区」のハ・ジウォン、「哭声 コクソン」の國村隼、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の
桜庭ななみら日中韓のスター俳優が顔を並べる。

冒頭の居酒屋で乱暴狼藉のヤクザ集団を仲居姿の女性が銃をぶっ放して皆殺しにするシーンは
ウー監督の独特のスタイルでこれから血沸き肉躍るアクションの連発かと期待するが、それだけ。

物語の展開と描写は、弾丸が相変わらず滅茶苦茶に飛び交うがフツーにアクション監督並みになってしまう。

もう、ジョン・ウーの時代は去ったのかと実感される映画だ。

2月9日よりTOHOシネマズ系で全国公開される

「デビッドとギリアン 響きあうふたり」(Hallow, I am David!)(独映画):神経を病んだデビッド・ヘルフゴットはピアニストとして再起不能と思われたが妻となるギリアンとの出会いで蘇える。

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第90回アカデミー賞のノミネート作品が発表された。

最多ノミネートとなったのは、ギレルモ・デル・トロ監督のファンタジーロマンス「シェイプ・オブ・ウォーター」の13部門。
次いで、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」が8部門で追っている。

ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ)、主演女優賞(ドラマ)、助演男優賞、脚本賞の最多4冠に輝いた、マーティン・マクドナー監督・脚本「スリー・ビルボード」は、「シェイプ・オブ・ウォーター」「ダンケルク」に次ぐ3番手として、6部門7ノミネート。
世界的な人気を誇った話題作「ブレードランナー2049」は5部門、
「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」は4部門に名を連ねている。

毎年、監督賞の候補は白人とか男性だけだと非難されるオスカーだが、
「レイディ・バード」の女優出身のグレタ・ガーウィグが監督・脚本を務めている。ハートロッカー」のキャサリン・ビグロウ以来11年振りだ。
また「シェイプ~」の監督はメキシカンのギレルモ・デル・トロだから白人ではない。

僕はマーティン・マクドナー監督・脚本の「スリー・ビルボード」が作品、監督、脚本、主演女優など主要部門を総ざらいすると予想している。

 今日紹介する映画ほど感動したことは最近無い。
伝説的なピアニストでアカデミー賞受賞映画「シャイン」でジェフリー・ラッシュが演じたデビッド・ヘルフゴットの自伝ドキュメンタリ映画だ。

ヘルフゴットはもう亡くなったと思っていたが、未だ70歳、現役パリパリで映画の中で65歳の誕生日を迎えて「引退なんか考えない」と威張っている。

一旦ピアノの前に座り、繊細な指が鍵盤を走り出すと美しいメロディが迸り出る。「天才だ!」
しかしピアノを離れ愛妻ギリアンのもとへ歩み寄ると「子ども」になる。精神病の影響でやたらと会う人毎に愛想を振りまき、楽しい雰囲気になる。精神を病んでいてもこういう人がいれば平和で皆、オプティミストになる。

説明的だが訳の分からない邦題に比べ、原題の「Hallow, I am David!」はコンサートの聴衆は勿論のことレストランやパーティや海岸、道端や列車飛行機などで出会う見知らぬ人でも「ボク、デビッドだよ!」と声を掛ける。

ホロコーストで親類家族を総て亡くしたポーランド系ユダヤ人一家はオーストラリアに移住し、厳格な父からピアニストになるべく英才教育を受け神童と言われる天才的ピアニストとして讃えられていた。

23歳の時イギリスのロイヤル・アルバート・ホールで難解なラフマニノフの「ピアノ協奏曲第三番」を演奏し万雷の拍手を受ける。

その直後に統合失調感情障害との診断を受けオーストラリアに帰国し、ピアノを離れ精神科病院や施設を転々として11年間の歳月がながれる。

デビッドのピアニストとしてのキャリアは終わったかと思われたが、妻となる15歳年上のギリアンとの出会いが人生の転機となる。

このエピソードも素晴らしい。パースの友人宅のプールで泳いでいたデビッドはギリアンを一目見て濡れた体で抱きつく。そして「ワインバーでピアノを弾いているので来ないか」との誘い。
「靄が晴れ耳が聞こえるようになり、生き返った」と述懐するデビッドは、コーヒーを飲み絶えず煙草を吸いながらワインバーでピアノを弾いている。
ピアノを離れるとギリアンに近づき抱きしめて「結婚しよう」とプロポーズ。会って2日目だ。

ギリアンの助けや愛を得て、デビッドはコンサートの舞台へのカムバックを成功させていく。

カメラは情熱的な演奏を披露し、観客に大きな感動をもたらしたドイツ、シュトゥットガルト交響楽団のヨーロッパ・コンサートツアーを追う。

指揮者を含め楽団員総てが黒のタキシードの中「紅一点?」真っ赤なシルクのシャツ姿の小さい痩せたデビッドは前かがみでチョコチョコと団員の黒の森を抜けピアノの鍵盤を前にするとシャキッと繊細な指が伸び変身する。

監督を務めたコジマ・ランゲが、3週間に亘るデビッドのドイツ・シュトゥットガルト交響楽団とのヨーロッパ・コンサートツアーに密着取材し公的な演奏は勿論ホテル内での私的な夫妻の模様を披露する。

個性と感情に溢れた演奏の魅惑的な世界観を映し出すとともに、
デビッドのコミカルで子供っぽい人間像や妻ギリアンの夫を深く理解し寄り添う深い愛についての映画は実話だけに観客に大きな感動を呼び起こす。必見の作品だ。

3月上旬より渋谷イメージフォーラムにて公開される

「おもてなし」(日・台湾映画):夫亡き後5年間も琵琶湖の湖畔に立つ老舗旅館「名月館」を切り盛りしてきた母、美津子を支えるため東京の仕事を辞めて帰郷した梨花。

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今朝はブログを早目に書く。
飯田橋の逓信病院で、9時から採血、10時から神経内科・椎尾先生のパーキンソン病の診断、10時半から眼科・大島先生の緑内障の治療、そして明朝(27日)は銀座4丁目の木挽町病院で糖尿病と痛風の施薬。医療費高騰の被告のような心境だ。

夫亡き後5年間も琵琶湖を見渡す湖畔に立つ老舗旅館「名月館」を必死に切り盛りしてきた母、美津子(余貴美子)を支えるため出版の仕事を辞めて帰郷した梨花(田中麗奈)。

ある日、その業績不振の旅館を買い取った台湾人の実業家、チャールズ(ヤン・リエ)と息子、ジャッキー(ワン・ポーチエ)が姿を現す。

チャ-ルズは美津子の大学時代の恋人だった。美津子の夫とチャールズは親友で美津子を挟んで三角関係となったが夫を選んだ美津子は、互いに独身同士でヨリを戻そうとするチャールズに「友情」を大切にしたいとやんわり断る。
そんな関係でもなければ田舎の寂れた旅館に目をつける実業家はいない。

息子のジャッキーも日本留学中に知り合った昔のガールフレンド、尚子(藤井美菜)ともう一度やり直したい言う秘かな動機もある。

チャールズの本意はジャッキーを送り込み何としてでも美津子の旅館を立て直すことだった。

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたシャープが1年で赤字解消した例もあり日本人観客はすんなり台湾企業の買収などと言う大ごとを受け入れるられる。

もう一つ映画制作にはウラがある。

関西の観光旅客来訪促進と地域活性化を図るために前大阪商工会議所会頭・故佐藤茂雄氏の企画の地元プロパガンダ映画なのだ。
つまりひも付きの作品だが、映画の質には影響していない。

父親に言われて乗り込んで来たジャッキーは財務諸表を精査(デュー・デリ)するがどう足掻いてみても旅館の再建は無理だ。
どこかへ売却するか、和風の旅館を取り壊し現代的なリゾートホテルに立て直す必要があると考える。

いつまでも父親、チャールズの駒使いでいたく無い。
和室の広間を覗くと若い男女を集めて何やら授業が行われている。
これも今日までで明日からは使わせないとジャッキーは宣言する。

しかし授業内容を聞くと「おもてなし教室」と言い日本固有の文化「おもてなし」を教えていると。和服姿も美しい木村先生(木村多江)がそのおもてなしの精神を説いている。

ジャッキーはアフリカとか中近東などいろんな国から京都へ来たそれぞれ文化や言葉も違う生徒たちに興味を覚え、短期間ながらも「おもてなし教室」に加わり共に学ぶことになる。

それぞれ断ち切れない過去へのわだかまりを抱く者たちが、旅館の再起をかけて「おもてなし教室」で修行を積む。
文化、性別、歴史背景の違いが作用し、周囲を巻き込みながらそれぞれの人生が転換していく。ジャッキーの冷徹な計画も見通しも「おもてなし教室」での授業で変わって行くのが面白い。

田中麗奈と台湾のワン・ポーチエが主演を務める日本・台湾合作映画。

「犬と私の10の約束」などの、中国語が得意な田中麗奈が旅館の跡継ぎ娘の梨花、
「9月に降る風」で注目され「ライフ・オブ・パイ」などの人気俳優ポーチエが実業家の息子のジャッキーを演じる。
ほかに、余貴美子、ヤン・リエ、木村多江、香川京子、藤井美菜、ヤン・リエ、ルー・シュエフォンらが脇を固める。

監督のジェイ・チャンは台湾生まれのアメリカテキサス育ち。2007年に台湾へ帰国し短編映画の制作や撮影監督、TVドラマの演出などを手掛けており、この作品が監督デビュー作となる。

脚本の砂田麻実は是枝裕和監督の現場でトレーニングを受けた人で、会社役員だった父親の末期を記録した「エンディング・ノート」(11)で注目を浴びたが、本作りの基礎訓練を受けていないので、ストーリー自体齟齬を来したりロジカルでない部分が散見される。

ジャッキーの動きや姿勢に納得性が無いのもその表れだ。おもてなしをテーマにしながら和風旅館でフレンチかよ。ジャッキーの元恋人、尚子がフィアンセに不満で別れると延々聞かされた結果だからケジメもつかないし余計に理解に苦しむ。

監督のジェイ・チャンは撮影監督の経験が長い。紺碧の琵琶湖、美しい紅葉、深緑の森林など荘厳で華麗な背景をじっくりと見せてくれる。

3月3日より有楽町スバル座にて公開される。

「リメバー・ミ―」(Coco)(アメリカ映画):メキシコの「死者の日」のお祭りを背景に、12歳の少年ミゲルは先祖を訪ね死者の国に足を踏み入れる

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アカデミー賞ノミネーションが発表されたが長編アニメーションでガチガチの本命はこの映画だ。ピクサーのアカデミー賞受賞作と言えば「トイ・ストーリー3」(2010)だが、こちらの方が遥に面白い。
子どもが主役だが推理やミステリーの要素に加え南米に敷衍している「死者の世界」の文化を垣間見せてくれるから啓蒙的でもある。

邦題は「リメバー・ミ―」でこれ以外に適切な題名を思い浮かべられないが、厄介なのは2011年に同名の映画が公開すされていたこと。
兄の死を悼む22歳の学生ロバート・パティンソンとエミリー・デ・レイヴィン主演のヒューマンドラマ。
ハリウッドもそれがあるから登場人物の死にそうな老婆の名前「ココ」にしたのだろう

WDとピクサーの「Coco」アメリカでは11月の感謝祭休日の週に3987館で上映され、感謝祭休日を入れた5日で71.2M、
週末3日間で49Mと首位を獲得した。感謝祭休日の5日間で「Toy Story 2」,「Frozen」と「Moana」に次いで史上4位の記録だ。

先行している海外市場ではメキシコでは史上最高の53.4Mの他に中国の18.2Mも加えると海外市場累積は82.2M、グロ-バル総計はいきなり153.4M(171億円)となった。

公開から2か月後の先週末(1月21日)で興行の累積成績は北米で201M(219億円),海外で455M(496億円),ワールドワイド総計は656M(715億円)にもなる大ヒットアニメだ。
これでオスカーでもとろうものなら1000億円レベルに達する。

「Coco」の公開と同時にピクサーの創立者の1人、ジョン・ラッセターは(詳細は明らかにされないが)、何らかのWDとの内紛や確執で6か月の休職をとることになった。
ジェフリー・カッツェンバーグを追い出した経緯に似ている。

TWCのハーベイ・ワインスタインのセクハラとは様相が違うが、ピクサーを引っ張って来たラセターの挫折は大きい。

WDとしてはピクサーはディズニーアニメと一体化し発展して来たのでピクサーのアイコンは必要ないのだろうか。

ハリウッド・ウォッチャーの僕としては真相を突き止めたい。
監督は「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチと共同監督エイドリアン・モリーナ。

ピクサーとして初ミュージカルであり、初めて「死」をテーマにしている。
「死者の日」とはラテンアメリカ諸国の祝日であり、メキシコではとりわけ大きな祝祭が行われる日。

主人公ミゲル(声:アンソニー・ゴンザレス)は、ごく平均的な家庭であるリヴェラ家に生まれた12歳の少年。

しかし靴づくりを代々受け継ぐリヴェラ家が、ただひとつ普通の家庭と違うのは、何世代にもわたって「音楽が禁じられている」ことである。

その理由は、リヴェラの高祖母イメルダの夫、ヘクターが、音楽家を目指して家を出たまま家族を捨ててしまったことにあった。

それ以来、リヴェラ家では厳しく音楽が禁じられている。現在は、主にミゲルの祖母ココがその家訓を重んじているのだった。
もちろん、いくら禁じられてもミゲルの好奇心を抑えることはできない。
音楽を愛し、故人である大歌手エルネスト・デ・ラ・クルーズ(声:ベンジャミン・ブラット)を目指して練習に励み、アドバイスを受けながら成長したミゲルはある日クルーズの墓を訪ねる。

そこでミゲルは、クルーズの墓に掛けられていたギターを「借りる」ことにする。
しかし折悪く、その日は「死者の日」だった。

亡き憧れの歌手の墓で遺品のギターを演奏した彼は死者の国に迷い込み、
そこで音楽を禁じられてきたリヴェラ家の先祖たちと出会う。
驚いたことに先祖たちは音楽大好きの陽気な人たちだった、

そしてそこで仲良くなった魔術師ヘクター(声:ガエル・ガルシア・ベルナル)と一緒にリヴェラ家の謎を解いていく。

WD配給チーフのデイブ・ホリスは語る。
「ピクサーは過去に遡って音楽を忌み嫌うようになった謎を解きミステリーの素晴らしいストーリーを作り上げ,

死者の日という南米に敷衍する習慣や文化的なレベルまで世界に知らせている引き上げている。
ラテン系の観客ばかりでなくすべての人々の共感を得られる」と。

「死者の国」と言っても陰隠滅滅な暗い世界では無い。
明るくカラフルな建物や馬車、ただ人々は「死者」だけに骸骨姿でカチャカチャ動き回っている。
「生者」が入り込んでいることが分かると追放されるのでミゲルの顔も骸骨風に白と黒で縁取りされてる。

主題曲の「リメンバー・ミー」がメロディアスなバラードで素晴らしい。ミゲルもエルネストも何度も繰り返して唄うので覚えてしまうほどとっつき易い曲だ。
「アナと雪の女王」の「レット・イット・ゴー」を手がけたロペス&ロバート・ロペス夫妻の作詞作曲だから当然だ。
この曲もきっと流行する。
歌も魅力的だが踊りも凄い。ココナッツの統制のとれたリズミカルな集団ダンスは見事だ。

死者の国のパーティーは、夢のように美しく、何十万と言うガイコツたちが楽しく歌って踊る。

しかし、日の出までに元の世界に帰らないと、ミゲルの体は消え、永遠に家族と会えなくなってしまう。
唯一の頼りは、孫のココに会いたいと願う、陽気だけど孤独なガイコツのヘクター()。
このヘクターの正体が最後に明かされると「家族の絆」のテーマが浮き彫りになる。

「死者の日」、ミゲルは死者たちご先祖様を繋ぐ生きている家族との絆や一体感を固めるためギターを奏で、「リメンバー・ミー」を絶唱する。

3月16日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほ全国公開される

「リバーズ・エッジ」(日本映画):閉ざされた学校の中で爆発寸前の男女高校生たち。河原で見つけた「死体」が心の拠りどころとなっている

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コミックを見ないし岡崎京子と言う(有名らしい)漫画家も知らない僕は30年ほど前の同名のアメリカ映画の日本版リメイクかと思った。
実は中らずと雖も遠からずで、岡崎京子がその映画にインスパイアされたコミックが「リバーズ・エッジ」なのだ。映画は岡崎のコミックを原作とした実写映画化。

オリジナルのアメリカ映画を僕は見ている。
ティム・ハンター監督の青春映画。キアヌ・リーブスやデニス・ホッパーが出ている。オレゴン州ポートランド郊外。町外れに河が流れている田舎町だ。

男子高校生、ジョンが川原で女友達を絞殺する。女友達を殺害したことを他の友人たちに隠すふうでもない。仲間たちは彼と連れ立って現場に行くが、女友達の死体を発見しても全員が無感動に眺めるだけで、その後は何ごともなかったように日常に戻っていく。
だがその一人、キアヌ・リーブスは警察に通報するが、女友達の死体を見ても実感がわかなかったし、全員がそう思っていて、そのことが怖くなったと。
元暴走族のならずもので妻殺害の前科があるデニス・ホッパーがジョンを匿う。

彼はその死の願望を見透かしたようにジョンを河原で射殺する。
仲間たちは普段と変わらない様子で殺された女生徒の葬儀に出席する。
デニス・ホッパーが出て来る辺りからアメリカ的になるがストーリーラインは岡崎のコミックと変わらない。

 先々週、京橋のフィルムセンターで見た「スタンド・バイ・ミー」も少年たちが放置された死体を山奥まで見に行く話で同年代の少年の死体に無感動なのが似ている。
場所もオレゴン・ポートランドの田舎町だ。

本題に戻そう。
1993年と言うから今から15年前に雑誌「CUTiE」で連載されていた岡崎京子の同名漫画だ。このようなシチュエーションでは時代考証も背景や環境も関係無いだろう。

監督は行定勲。この人は多作で「世界の中心で、愛をさけぶ」(04)、「ナラタージュ」(17)や、 『GO』(01)をはじめ、『パレード』(10)、『ピンクとグレー』(16)などがあるが、作品は傑作か駄作、はっきりしている。
この映画は傑作に数えて良いだろう。
主演は人気の二階堂ふみ、吉沢亮だから興味は湧く。

女子高生の若草ハルナ(二階堂ふみ)は、元恋人の観音崎(上杉柊平)に苛められている同級生・山田一郎(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、仲が良くなった一郎からある秘密を打ち明けられる。

それは河原に放置された人間の死体の存在だった。
「これを見ると勇気が出るんだ」

ハルナの後輩で過食しては吐く行為を繰り返すモデルの吉川こずえ(SUMIRE)も、この死体を愛していた。

ゲイで夜の街で売春する一郎に一方通行の好意を寄せる田島カンナ(森川葵)、観音崎と身体を重ねるが妊娠したと彼に訴えると「父親の分からない子どもだ」とはねつけられる小山ルミ(土居志央梨)ら、閉ざされた学校の中でそれぞれの事情を抱え爆発寸前の鬱屈した気持ちを抱えている少年少女たち。

行定勲監督はおぞましい「死体」を媒介に、客観的で感情移入をせずに少年少女たちを淡々と描写している。
ティーネージャーたちの奔放なセックス描写は淡々とでなくねっちりと見せてくれる。あの二階堂ふみも小ぶりな胸をはだけての絡みもレアもので必見の価値があり。

繰り返されるリアルなセックスと暴力、日常を生きることの違和感といった、若者たちの心の揺らぎを描いてきた岡崎京子。

主演の自由に生きる女子高生・若草ハルナを演じるのは、日本アカデミー賞優秀主演女優賞の「私の男」(14)など数々の映画賞に輝く二階堂ふみ。
河原の死体を心の拠り所にしているゲイの山田役には「オオカミ少女と黒王子」(16)、「銀魂」(17)などの吉沢亮。

脇では、後輩でモデルの吉川こずえ役にファッションモデルとして活躍するSUMIRE。横暴な観音崎役にモデルとして活躍しながらも、 俳優としてキャリアを登り始めた上杉柊平。山田への異常な愛を加速させる田島カンナ役に森川葵。

2月16日よりTOHOシネマズ新宿他にて公開される

「マルクス・エンゲルス」(The Young Karl Marx)(ドイツ映画):科学的社会主義を構築したカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの若き日の活躍を描くヒューマンドラマ

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今年はカール・マルクス(Karl Heinrich Marx)生誕200周年に当たると言う。
マルクスと言えば「共産主義」の基礎理論を築いた学者と言うイメージから敬遠しがちだが
この映画はエンゲルスと一緒に考えそのフィロソフィーを発展させたか分かり易く啓蒙してくれる。

映画の冒頭はショッキングなシーンだ。森の中で朽ちて地面に倒れている枯れ木を拾っている貧しい人々にプロイセンの騎馬警官が襲来する。容赦なく鞭で打たれ馬に蹴散らかされ
挙句の果てに銃で殺される。プロイセン政府の「木材窃盗取締法」の違法性を非難するマルクス。

ドイツ・プロイセン王国生まれの哲学者、思想家、経済学者、革命家のマルクスは革新的進歩的フィロソフィーのため政府を怒らせ
26歳で夫婦してプロイセンを国籍を離脱して(追い出されて)パリに移住し、
以降は無国籍者となった。妻、ジェニー(ヴィッキー・クリープス)は貴族の娘、若くて美しい女性がユダヤ人の学者に惹かれて一緒になり、そのために迫害に会い苦労している。

イギリス・マンチェスターのエンゲルスと知り合い忽ち親友となり二人して労働者や無産者を支援する著作や論文を発表している
1849年(31歳)に渡英以降はイギリスを拠点として活動した。

ロンドンにあるマルクスの写真や彫像は髯もじゃの爺さんだが
この映画はプロイセンを追い出される26歳からパリを経てロンドンに定住する31歳までを描くから髭無しのイケメンだ。
原題は「若き日のカール・マルクス」(The Young Karl Marx)と呼ばれる。

フリードリヒ・エンゲルス(シュテファン・コルナスケ)はマルクス同様、プロイセンの生まれだがマンチェスターの大きな紡績工場の社長の息子。
工場の労働者たちの実情を調査しその劣悪な労働条件や人権も持たず貧困に喘いでいるのを見て義憤に駆られる。

エンゲルスの父親がクビにしたアイリッシュの従業員アリー・バーンズ(ハンナ・スティール)と結婚し労働者の実情を聴取し労働者階級(プロレタリアート)への理解を深める。

パリで一度会っているが2人はロンドンで再会し互いの意見に賛同する。
盛り上がる2人の若い学者の感動をラウル・へッケ監督は淡々と描いている。
マルクスはエンゲルスの協力を得つつ、包括的な世界観および革命思想として科学的社会主義(マルクス主義)を打ちたて、資本主義の高度な発展により共産主義社会が到来する必然性を説いた。

後に資本主義社会の研究は「資本論」に纏まりその理論に依拠した経済学体系はマルクス経済学と呼ばれ、20世紀以降の国際政治や思想に多大な影響を与えている。

昨年のオスカーノミネーションの長編ドキュメンタリ映画「私はあなたの二グロではない」(I am not Your Negro)(マジックアワー配給:5月ヒューマントラスト有楽町他全国公開)のラウル・へッケ監督の長編劇場映画。

ドイツの思想家カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの若年期の交流を描く伝記映画であるとともに歴史映画である]。

2017年2月12日、ベルリン国際映画祭で初公開され、同年ドイツやフランスで劇場公開された。史劇映画を対象とするフランスの映画賞fr:Festival international du film de fiction historiqueの最優秀映画賞ならびに脚本賞を受賞した。

4月28日より岩波ホールにて公開される

「港町」(Inland Sea)(日米映画):瀬戸内海に面した小さな港町に残された年老いた人たち。その姿と言葉を通して、日本の古い文化と生活、慣習が失われつつある様を「観察」する

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「選挙」「精神」「演劇」などのドキュメンタリーを発信し続ける想田和弘監督が、岡山県瀬戸市の港町、「牛窓」で暮らす人々にフォーカスを当てた。

牛窓町は日本のエーゲ海を自称する瀬戸内海に面し、正面に浮かぶ「前島」を含めて小さな島がいくつか点在する港町だ。

監督の想田和弘は自分の故郷、足利には目もくれずロケ地はいつも製作を担当する妻、柏木規与子の実家のある岡山県内の市町村に限っている。

グローバリゼーションに晒される小さな港町の前作「牡蠣工場」の撮影で岡山県牛窓を訪れた想田監督は、撮影の合間に港を歩き回り、その最中に出会った町の人々を再び訪れる。

想田は自分の作品を「観察映画」と呼ぶ。 
先ず大切なことは「リサーチをしない」。リサーチをして、先に知識を仕入れてしまうと、それが先入観になって、自分のすでに「知っている」ことばかりを撮ろうとしてしまうからだ。
 
次に「被写体になる人たちと打ち合わせをしない」、そして「台本を書かない」。とにかく、行き当たりばったりでカメラを回す。

つまりは予定調和を避けるということ。
先にテーマや言いたいことを設定して、それに合致することにカメラを向けるのではなくて、
まずは「見させてもらう」。
そこで何が起きるかはわからないし、もしかしたら映画にならないかもしれない。

だけどとにかくカメラを向けて、そこから何が出てくるかなという態度で撮っていくのが「観察映画」だと。
だからナレーションやBGMなど、そして今回は色彩までも一切排している。

「牛窓」は典型的な過疎の町だ。古い日本が失われる様がモノクロのカメラにしっかりと捉えられる。

カメラに興味を抱き案内をしながらついて回る85歳の老婆、クミさん。
小さな漁港から丘の上にある墓地まで空き家ばかりの町並み、見かけるのは老人と猫ばかり。
猫の「シロ」は「牡蠣工場」でも出て来たが人懐っこい、いつも腹をすかせた痩せた猫だ。

クミさんは漁師のワイちゃんと仲が良い。腰が曲がったままピンと背筋が立たない身体で小さな焼玉エンジンの小舟で海に乗り出す。
網を巻き上げると大小色んな魚が舟の上で飛び跳ねる。
美味しい魚、不味くて売れない魚を峻別するワイちゃんの手は身体と違って手早く鋭い。
耳が遠いのでクミさんは大声で怒鳴りながら会話をする。

不要な魚の周りに野良猫が集まり食べ始める風景は何故か牛窓の町に似合っている。

クミさんは自分は不幸だと嘆く。3年前、育てていた子供を福祉の人たちが押し寄せて「ドロボー」して行った。
帰して貰おうと何度も施設へ行ったが追い返されるばかり。「子どもを預かるとお金が国から出る」ので手放さないのだと。

悲しくなって死にたいと海に入ったが死ねなかった。
嘘か本当か知らないが延々と同じ話を繰り返す。

クミさんに後を追って90代だろうか、見事な白髪の小さな老女が付いて回るが殆ど喋らない。

想田・柏木夫妻が帰ると言うと、干し魚を10匹も包んでお土産だと渡してくれる。

この撮影後、クミさんは亡くなり、エンドクレジットに遺影と献辞が出る。

失われつつある土地の文化や共同体のかたち、小さな海辺の町に暮らす人びとの姿と言葉が、モノクロームで映し出される。

エンドマークの出た後に一瞬モノクロから総天然色の瀬戸内海が映し出される。

想田和弘監督・観察映画第七弾。
2018年のベルリン国際映画祭への正式招待が決まったと言うが、映画祭での小さな一部門、「グラスヒュッテ・オリジナル・ドキュメンタリー賞」にノミネートされた18本の1本で、賞金はたった5万ユーロ(650万円)と言うから想田のつましい映画ですら賄えない。大騒ぎするほどのこともない。

監督・製作・撮影・編集:想田和弘/製作:柏木規与子

4月より渋谷シアター・イメ-ジフォーラムにて公開される

「息衝く(いきづく)」(日本映画):東日本大震災以降、新興宗教団体の中で育った二世・三世信者のいまだに大人としての自立を実感できないでいる男女の姿を描く

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電通新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)が自死したのが2015年12月25日のクリスマスの朝。
以降電通は「ブラック企業」と世間からバッシングを受けるばかりか、自治体や政府機関、オリンピック組織委員会からアカウントを引き上げられ名実ともに苦難の道を歩んでいる。

昨年10月初め電通の違法残業事件で、東京簡裁は、労働基準法違反罪に問われた法人としての同社に求刑通り罰金50万円の判決を言い渡した。

過労自殺した(とされる)高橋まつりさん(当時:24)の母、幸美さん(54)は厚生労働省内で記者会見し、罰則強化の法改正を求めるとともに、NHK女性記者の過労死にも触れ「企業の『二度と起こさない』という言葉が空虚に思えるほど、過労死は繰り返されている」と改めて電通を非難したうえに、関係のないNHKの女性記者の過労死を3年隠ぺいした体質を詰っている。
すっかり「過労死遺族代表」の肩書を持ったアイコンとして定着した自分の宣伝している。

ここでいくつかの問題がある。

そもそも高橋まつりさんは「過労死」では無いのだ。
米国駐在の正月休みで一時帰国して4か月ぶりに会ったボーイフレンドから突如別れを切り出された
「失恋」による衝動的な飛び降り自殺なのだ。

「週刊新潮」も昨年、2度に亘り「クリスマスイブの訣別」と「失恋自殺」を記事にしている。

NHKの首都圏放送センターに勤務していた佐戸未和記者(当時:31)が2013年7月、長時間労働で過労死だった。これはハッキリと証明が出来る。
何しろ残業は月200時間を超えていて就寝中にうっ血性心不全で亡くなっている。明らかに過労死だ。

高橋まつりさんは東大現役で合格している。そのため月600時間は机に向かっていた。
「19時間の残業時間」では過労にはならないし、佐戸さんの1/10にも満たない残業なんて屁でもない。

NHKはこの過労死を3年間も公表せず、高橋まつりさんの自殺を勝手に過労死と断定し、電通を「ブラック企業」と批判するキャンペーンを大々的に展開した。

母親の高橋幸美さんは2000年の大島自死事件で最高裁まで持ち込み1億8千万円を獲得し「人権弁護士」と名乗りをあげた川人博弁護士が付いていて、2億円に近い多額の慰謝料を電通から受け取っている。

多額の現金を受け取れば、当然表立って電通批判はしないことになっていると思うのは常識だ。
にも拘らず上述の記者会見で電通批判を機銃のように浴びせている。

 2016年秋、労災の認定を受けた母幸美さんはまつりさんの服装を纏い髪型を三つ編みにして遺影を抱いて劇場型記者会見を開き涙ながらに電通を娘を殺した極悪非道の企業と訴えたのが始まりだ。

お涙頂戴の題材に飢えていたマスメディアが飛びついたのは言うまでも無い。
まして電通は広告界のガリバーでマスメディアを痛みつけることも屡々あった。

全く関係のないNHK女性記者過労死事件でも「過労死遺族代表」の肩書を引っ提げて記者会見をしNHKに罵詈雑言を浴びせるのは良いが返す刀で「電通=ブラック企業」論をアクセレレートする。

 電通OBとして心の支え「鬼十則」まで引っ込めてひたすら「私どもが悪うございました」と自虐的態度を取り続けている電通幹部に苛立ちを覚える。

高橋幸美さんは図に乗って益々「アイコン化」度を高め、事ある毎にマスメディアに登場し電通を叩く。

山本敏博社以下電通幹部はこの事実(失恋死)を世間に披露し自己弁護をすべきだと考える。
自虐的態度は幸美さんの言いたい放題を認めたことになる。

次回の電通株主総会で「自虐的態度への批判」と改めて「失恋死のPR」を電通幹部に求める質問をする予定だ。


 さて今日紹介する作品は宗教団体で育った子どもたちを描く「息衝く(いきづく)」

 38歳の木村文洋監督の作品を最初に見たのは「愛の行方」(12)で、オウム真理教幹部とその逃亡を助ける女性の実話に基づく愛憎劇で強烈なインパクトがあった。一連のオウム真理教事件に関与し、全国指名手配された平田信容疑者の17年間に及んだ逃亡生活と、その生活を支え続けた女性をモチーフに、いつか終わりが訪れることを予感しながら愛し合う男女の姿を描いたドラマ。

人目を避けて生きる男・浩司と、本名を隠して社会生活を送りながら男を生かし続けている女・陽子。2人は、2011年3月11日の大震災から1年がたった春、いつも通りの生活を送っていた2人に17年間を清算する長い夜が訪れる。

 次いで見たのが、核燃料再処理工場のある青森県六か所村を舞台に、そこで生きる男女の別れと再会を描いた愛の物語。ゴールイン目前で放射能汚染事故という不幸に見舞われる男と、その恋人がたどる決して平坦ではない現実を真摯(しんし)に見つめる「へばの」(07)でこれが処女作だった。

何れも1時間半以内のコンパクトな作品で。エロチックな愛欲生活を挟みながら社会と個の関わりに問題を投げかけてきた木村文洋監督。

そしてこの作品は長編第3作となる。
大河ドラマでこれまでの2作品より40分以上長い2時間10分の長尺だ。

東日本大震災から数年後の東京。
政権与党の政治団体であり新興宗教団体でもある「種子の会」信者の則夫(柳沢茂樹)と大和(古屋隆太)は、種子の会青年幹部で国会議員となった森山周(寺十吾)の失踪後、何年かぶりに選挙に呼び戻される。
森山は幼少期からの師で、精神的支柱であり、父親的存在でもあった。
則夫と大和、そして種子の会を離れて母親となった慈(長尾奈奈)の3人は森山を探し出して会いにいくことにする。

彼ら3人は宗教団体という特殊な生育環境で育ち、いまだに大人としての自立を実感できないでいた彼ら3人は失踪した森山に会うことで、3人が背けていた何かを取り戻そうとする。

木村文洋監督の基盤にあるのは「オウム真理教」と「東日本大震災」。
着想から10年かけて仕上げたこの映画は二本柱がしっかり支えるから納得性もありリアリティすら感じる。

物語の中心となる主人公、男女3人は知名度は高くないが演劇・映像界で活躍する「知らない町」などの柳沢茂樹、「KOKORO」などの長尾奈奈、「At the terrace テラスにて」などの古屋隆太が演じる。

他に木村作品にお馴染みの木村知貴、齋藤徳一、川瀬陽太、坂本容志枝、小宮孝泰、寺十吾らが脇を固める。

2月下旬、ポレポレ東中野にて公開される

「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(Darkest Hour)(英映画):イギリスの政治家ウィンストン・チャーチルが首相就任からダンケルクの戦いまで苦難の知られざる27日間を描く

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興味深く、感動をもたらす映画だ。ウィンストン・チャーチルと言う偉大なイギリス首相の名前は知っているが、ヒトラーに攻められ土壇場を国民の支持をうけて乗り切る史伝とチャーチルの人となりやキャラクターを「博士と彼女のセオリー」などのアンソニー・マクカーテンの脚本は不安定な政局を乗り切る政策や手腕に視点を変えてスポットを当てている。
アメリカでは11月24日よりLAとNYで4館からスタート。4館でスタートし700館そして943館に今や1672館に拡大興行となり4.5M。累積は36.74M。
1月14日に行われたゴールデン・グローブ賞でチャーチルに扮したゲアリー・オールドマンはGG主演男優を授与されたことで興行に刺激を与えた。
先週末で北米累積は45.2M、イギリスを含めた海外累積は53.1M、ワールドワイド総計は98.3Mと100M(110億円)寸前のところまで来ている。
第2次世界大戦初期、オーストリアやポーランドを併合したナチスドイツによってスェーデンやオランダなど北欧諸国やベルギーは占拠された1940年春、フランスが陥落寸前にまで追い込まれ、英仏連合軍はフランス北東部の港町ダンケルクの浜辺に追い詰められていた。
穏健派のネビル・チェンバレン首相(ロナルド・ピックアップト)は具体的な対抗策も打ち出せず、不信任案が可決され外相で親友の子爵ハリファックス(スティーブン・ディレイン)貴族院議員に首相の座を譲り渡したかった。
しかし国民の間で人気のある海軍大臣・チャーチルが選ばれる。

保守党の中ではチャーチルは嫌われ者だ。直ぐカッとなる、大食漢で大酒飲み。朝にウィスキー、昼と夜にシャンペンを一本ずつ開ける。
デブで髪の毛は薄く、前頭部は禿げ、顎の肉は垂れどこでも手放せない葉巻のチェーンスモーカー。(この見事なメイクアップで日本人辻一弘はオスカー候補になっている)

国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)もチャーチルと肌が合わずガリポリでの大敗やインドでの失策をあげつらい嫌っている。しかしチェンバレン辞任を受けバッキンガム宮殿でチャーチルに首相就任を命じる。

就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルの手にヨーロッパ中の運命が委ねられることになる。

ヨーロッパはナチスに渡すがイギリス本体は維持存続させようと、チェンバレン元首相とハリファックス元外相は既にヒトラーの子分、イタリアのムッソリーニ首相を通してナチスドイツとの平和条約交渉の道をつけている。

ヒトラーは欧州を手に納めたら遅かれ早かれ英本土を取りに来るだろうとチャーチルは考える。
やはり祖国の自由と理想のために戦うか?それとも人命を尊重し死亡者を出さない和平か?
ヒトラーとの和平交渉か徹底抗戦か、究極の選択を迫られるチャーチルだった。
ダウニング街10番地の居間のベッドに座り頭を掻きむしっていると妻、妻クレメンタイン(クリスティン・スコット・トーマス)が
「キングが来たわよ」と知らせる。

これからのシーンが笑えるが映画のハイライトだ。
「どこのキングだ?」とチャーチル。
「私たちのキングよ」
問答の途中で国王ジョージ6世がツカツカと居間に入って来る。

慌てて服装を改めようとするチャーチルに
「そのまま、そのまま」と手で制しながら、
「チャーチル、君に私のサポートを全面的に与える。街に出て市民の声を聞いてこい!」

生まれて初めてチューブ(地下鉄)に乘り様々な庶民の客に意見を求めるシーンは感動的だ。
乗客は肝が座っている、口を揃えて「人間いつかは死ぬ。遅いか早いかの違いだ。しかしヒトラーに屈して死ぬのだけは嫌だ!」

意を強くしたチャーチルは閣議を開き「和平案」を破棄、徹底抗戦を叫ぶ。
「We Shall Fight、空で、海で、陸で」
そして「We Shall Never Surrender!」後世に言い伝えられる名文句だ。

主演は「裏切りのサーカス」などのゲアリー・オールドマン、チャーチルの前の首相ネビル・チェンバレンに、妻クレメンタイン役に「イングリッシュ・ペイシャント」などのクリスティン・スコット・トーマス、チャーチルの個人秘書役エリザベス・レイトンは「シンデレラ」などの可憐なリリー・ジェームズ、エリザベスの兄はダンケルクで戦死する。

もう吃音は直った英国王ジョージ6世にベン・メンデルソーン、チャーチルの妻クレメンタインに「イングリッシュ・ペイシェント」などのクリスティン・スコット・トーマスら

「つぐない」「プライドと偏見」「アンナ・カレーニナ」などのジョー・ライトが監督。
デビュー作「つぐない」では嫉妬にかられた妹が姉の婚約者を冤罪に落し兵士としてダンケルクへ送り込み戦死をさせる。チャーチルは民間の船舶を徴収して英兵士33万人を脱出させた政策の成功はクリストファー・ノーマンの「ダンケルク」で描かれている。
3本並べると壮大な「対ヒトラー戦争」大河ドラマになる。

3月30日よりTOHOシネマズシャンテ他全国公開される。

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(The Post)(米映画):長期化し泥沼のベトナム戦争について、国防総省が作成した膨大な文書の全貌を「報道の自由」を盾に新聞人たちは開放せよと迫る、。

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アカデミー賞ノミネーションが発表されオスカーシーズンに入り、候補作が注目を浴び興行成績も伸びている。

先週末、5位に入ったのはUNI配給、スティーブン・スピルバーグ監督の「The Post」はLANYで9館の限定公開からスタートして6週目に2640館と全国公開に拡大したが前週より24%ダウンの8.8M、国内累積は58.5M。海外では20か国で公開され22.1M。いつもは海外での興行成績が後押ししてくれるが、やはりアメリカ国内の問題なので低く半分以下。ワールドワイド総計では80.6M(89億円)
制作費は50M(55億円)とモデストだがPRや宣伝などマーケティング費をいれると黒字化まで遠い。

映画の邦題、「ペンタゴン・ペーパーズ」とは何ぞや?
邦題と異なり、原題は「The Post」とワシントン・ポスト紙に焦点を当てている。

政府は30年間、4代の大統領に亘り7千枚の機密文書を作成していた。
政治や戦争など国際問題などについて政府・国防省は機密分書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれる内部文書だ。

何のための文書か?何から政府を守るのか?目的も動機も分からない。

分からなくても良かった。機密書類など誰も気にしなかった。
ところが1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国民の間にホワイトハウスや政権政党に疑問や反戦の気運が高まっていた。

その中で「ニューヨーク・タイムズ」が「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在を暴露する。
断っておくが機密文書があることをスクープするが、文書の全容までは分からない。

関心の高いベトナム戦争について、国防総省は客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。

新聞人はライバル同士が手を組んで、政府がひた隠す真実、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書の全貌を公表せよと、一斉に連携して立ち上がある。
各社とも共同のキャンペーンを張るが映画は原題通り「The Post」(ワシントン・ポスト紙)に焦点を当てる。

「ニューヨーク・タイムズ」と競合関係にある「ワシントン・ポスト」の社主(発行人)のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、部下で編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らとともに、報道の自由を統制し、記事を差し止めようとする政府と戦うため、ニューヨーク・タイムズと時に争いながら「報道の自由」を旗印に連携し真実を世に出すため奮闘する。

ベトナム戦争の客観的な記録をまとめた資料の一部をNYタイムズ、ワシントン・ポストが報道し、その記事の差し止めを巡り、ニクソン大統領と国防省の政府側と新聞社が最高裁で争うクライマックス。
固唾をのんで9人の最高裁判事の評決を待つキャサリンやベンなどの緊張した表情。「6対3」での判決は至福の時を齎す。

巨匠スティーブン・スピルバーグ監督のもとで、メリル・ストリープとトム・ハンクスという2大オスカー俳優が初共演を果たした社会派ドラマ。
実在の人物をモデルに、都合の悪い真実をひた隠しする政府に対して一歩も引かない姿勢で挑んだジャーナリストたちの命懸けの戦いのドラマだ。

脇を固めるのはベンの妻、トニー役で「コンテンダー」などのサラ・ポールソンや
実際に機密文書を手に入れるポスト記者、ベン・パクティキアン役でボブ・オデンカークらが、
役柄で馴染みのある国防長官、ロバート・マクナマラをブルース・グリーンウッド、
文書の執筆者で合衆国軍事アナリスト、ダニエル・エルズバーグを「ジャングル・ブック」などのマシュー・リスなどが出演している。

脚本は脚本家と映画製作関係者のマッチングをする「ブラックリスト」からピックアップされたもので最初に脚本ありきの映画だ
共同脚本で「スポットライト 世紀のスクープ」で第88回アカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーとこれがデビュー作となるリズ・ハンナ。

エンドクレジットの後、真夜中のウォーターゲイトホテルの遠景が浮かび上がる。
暗闇に蠢くライト、警備員が気が付き部屋へ侵入した男達を捕らえた模様。
物語の続編は「ウォーターゲイト事件」に連なりニクソン大統領辞任を頭に入れながら観客は映画を見終わる。

3月30日よりTOHOシネマズ新宿他にて全国公開される。

「グレート・アドベンチャー」(侠盗聯盟The Adventures)(中国映画):アンディ・ラウの怪盗とジャン・レノの敏腕刑事の息詰る対決

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新聞報道に依れば、大手広告会社・電通の違法残業事件で、2015年12月に過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)の母・幸美さん(55)が東京地検がまつりさんの元上司の男性を不起訴(起訴猶予)としたのを不服として、東京の「検察審査会」に審査を昨年12月27日付で申し立てたと公表した。

 申立書では、元上司がまつりさんに「過重な業務量を課した上、長時間労働を隠すため、『社内飲食をしていた』と虚偽報告するよう指示した」と主張。
「違法残業は電通の組織的体質によって発生した側面はあるが、元上司の違法行為の責任が過小評価されてはいけない」としている。
 
東京労働局が16年12月、法人としての電通と元上司らを労働基準法違反容疑で書類送検。
東京地検は昨年7月、電通を略式起訴する一方、元上司らを不起訴(起訴猶予)としていた。
東京簡裁は正式裁判を開いた上で、同10月、電通に対し、罰金50万円の判決が確定した。

記者会見した幸美さんは検察審査会への申し立ての理由について、「長時間労働をさせた上、実労働時間を隠し、その方法も指示していた元上司の行為が許されていいのか、日本全体に問いたかった」と説明している。

「過労死遺族代表」として増々自身をアイコン化し、「日本全体に」影響力をアクセレレートしようとする高橋幸美さん。自殺した娘、まつりさんの方はそっちのけでモンスターのように惨劇を齎した(とされる)電通と元上司への執拗な攻撃を続ける。

僕が(状況証拠ながら)このブログで主張しているように、まつりさんはそもそも「過労死」では無いのだ。
米国駐在のボーイフレンドが正月休みで帰国し、4か月振りに会える喜びを同僚にはしゃぎ回りながら話した。
数時間後に過労死で自殺する女性とは思えないとその時まつりさんと話した社員たちは語っている。

夢に見たような水入らず、一緒にクリスマスイブを過ごしていたその恋人に、思いもかけず「別れ」を告げられ、その数時間を置いたクリスマスの朝、衝撃的に飛び降りた「失恋死」なのだ。

電通が自虐的に「悪うございました」と無抵抗に謝罪をしてしまい、いつの間にか「失恋死」が週刊新潮以外のマスコミや母幸美さんの頭の中から消え去ってしまった。

幸美さんが「検察審査会」に不服の審査を申し立てているが、上司の違法行為への不起訴(起訴猶予)は、当然の措置で当時の東京地裁の判断は正しい。

元上司は部下で唯一人の新入社員のまつりさんを可愛がり、早く一人前にしようと細かな仕事上の指示や注意をしていた好意の人だ。
面倒を見なく突き放すだけの上司も電通には多い。

途中入社で電通を最適な職場として張り切っていた上司の熱心さは人一倍だったろう。
東大出の社員は上司が東大卒でない限り、幾ら叱られても心の中で「バカにする」余裕がある。

僕自身も同じ東大卒の仲間も新入社員の時に苛められた上司に対して皆同じ考えだった。
「私大卒の癖に生意気な!」という東大エリートの厭らしさだが、まつりさんもそんな気持ち(いささかな侮蔑)もあった筈だ。

可哀相なのは元上司、まつりさんの自死から出社拒否のノイローゼに陥り、
昨年辞表を出して退社している。
元上司の父親も自死していると言う不幸な家庭だ。
元上司の人生は終わってしまった。

2000年のラジオ局・大島事件以来電通の内情に詳しい川人博弁護士は当然知っており幸美さんと知識をシェアしている。
それなのに幸美さんの、上司の不起訴は「許せない」と「検察審査会」に審査を申し立てたとは「死者に鞭打つ」冷酷非情な行為だと僕は悲しむ。


 香港アクション映画かと気楽に(バカにして)見始めて驚く。
香港随一の人気スターのアンディ・ラウに対抗してフランスの大御所、ジャン・レノがカッコ良く顔を見せる。

舞台もフランスのパリやカンヌと少しも中国映画らしくない。
役者も舞台も豪華一流なのに惜しむらくはスクリプト(3人の共同脚本)がチープで三流、詰らないクリシェだらけの展開になっている。

世界を股にかけて国宝級のお宝を狙う怪盗ダン(アンディ・ラウ)。
5年前、3つのピースで構成される首飾り「ガイア」の一部分「森の瞳」をパリのルーヴル美術館から盗み出した直後に襲われ、首飾りは奪われる。
さらに泣きっ面に蜂、何者かの通報によりパリ市警察に逮捕されてしまう。

刑期を終え、愛する人の為に足を洗おうと決意するダンだったが、5年前に自分を陥れた人間(Rat)を探し出そうと敢えて盗みの世界へ舞い戻り、最後の大仕事へと着手する。

相棒ポー(トニー・ヤン)と、新たに加わった紅一点レッド(スー・チー)らとともに、最新テクノロジーのガジェットの数々を駆使し、ターゲットのルーブルに飾られている 「ガイア」の残り2点、「命の翼」と「魂の泉」を狙う。

俊椀刑事、ピエール(ジャン・レノ)らフランス警察の追手が迫るなか、一触即発の危険なアドベンチャーが始まる。

フランス映画の誇るカーチェイスはCGを使わず身の毛がよだつスピードで高速道路やカンヌの断崖絶壁の曲りくねった道路を突っ走る。
車が海に落ちたと思った瞬間に小型船に早変わりとは007も顔負け。

レッド役のスー・チーは41歳だが、相変わらずの美女。
今ではフォン監督夫人に収まっている。

 ギャングのボス、コングが首飾りの取引相手として登場する。
僕の好きなエリック・ツアンだから大立ち回りがあるかと思えば何も起こらない。
ポーのトニー・ヤンも出番が少ない。

「どんでん返し」は幾つかあるが、観客は予知できるほどのクリシェ。

歌手、俳優を経て監督となった43歳イケメンのスティーブン・フォンのデビュー作「エンター・ザ・フェニックス」(04)や「ドラゴン・プロジェクト」(05)が良かったがその後の「太極」シリーズは感心しない。この作品は太極シリージ三部作の3弾目だろうか?

主演は中華圏の大スター、「インファーナル・アフェア」や「グレートウォール」
などの56歳、アンディ・ラウと

フランス映画界が誇る大ベテラン69歳、「フィフスエレメント」や「ピンクパンサー」などのジャン・レノが初共演を果たした画期的な映画なのに中身が伴わなかった。

他に「黒衣の刺客」などの台湾女優スー・チー、「カンフー・ヨガ」のエリック・ツァンら豪華なキャストが脇を固める。

3月31日より新宿武蔵野館他で公開される。

「ルイの9番目の人生」(The 9th Life of Louis Drax)(カナダ映画):9歳の誕生日を迎える迄に9回も死にかけた少年ルイ・ドラックスの昏睡状態での短い人生の回顧

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 昨日(3日)のヒューマントラスト有楽町で満席の4時15分の回を見た。
20日からスタートして2週間目も経っているのに、スクリーン2は狭い20席超の小屋とは言えスターも出ていないノワール映画にこの人気は凄い。

 天使のように愛くるしい少年ルイ・ドラックスの人生は、まるで何かに呪われているようだった。
出生からわずか8年間で生死の境をさまよう大事故を8度経験してきたルイは、9歳の誕生日に両親と一緒に海辺のピクニックに出かけ、断崖絶壁から転落するという9度目の悪夢に見舞われてしまったのだ。

9年間で9度も死にかける少年を主人公にした9つの命を持つ猫のような奇妙奇天烈な物語。

イギリス人作家リズ・ジェンセンの2004年に発表した世界的なベストセラー小説に基づくこの映画は、人間の「心」と言う他人が覗き見もミステリアスな領域に踏み込み、その謎を解くサスペンススリラーだ。

2008年に他界した「イングリッシュ・ペイシェント」のアカデミー賞監督アンソニー・ミンゲラが生前に映画化を熱望していた企画を、その遺志を継いだ息子のマックス・ミンゲラがプロデューサー兼脚本家として実現したもの。

ユダヤ系フランス人のジャンル映画監督アレクサンドル・アジャが「ハイテンション」(03)で認められハリウッドに進出し、「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ピラニア3D」やダニエル・ラドクリフ主演の「ホーンズ 容疑者と告白の角」などB級ホラー映画を撮り続けていたが、今までの彼のレパートリ―から全く異なる、SFやホラーやコメディやメロドラマや推理劇などを混ぜ合わしリアルな心理を神秘的なイメージで描く作品を送り出した。

サンフランシスコの海辺の崖から転落したひとりの子供が、病院に救急搬送された。しかし全身にむごたらしい大ケガを負っており、昏睡状態に陥ってしまう。著名な小児神経科医アラン・パスカル(ジェイミー・ドーナン)がルイの担当医として外部から招かれる。

 映画は昏睡状態の9歳の少年、ルイ・ドラックス(エイダン・ロングワース)が自分の短い人生を回想するところから始まる。
ルイはごく普通の家庭に生まれ育ったにも拘わらず、命を落としかけたことが9回もある。生まれる時は逆子で帝王切開、ベイビー寝台の上に天井からシャンデリアが落下、食中毒、食物アレルギーなどなど何度も命を落としかけた。

 救急病院に搬送された9番目の事故は、ルイの9歳の誕生日を祝うため一家でピクニックに出かけた際、崖から転落したというものだった。何故自分が転落したのかは、ルイにも分からなかった。

これまでルイは小児精神科医のDr.ペレーズ(オリバー・プラット)の施術をうけていた。
Dr.ペレーズが過去の体験を調べると、ルイはかなり奇矯な振る舞いをしていた。極度の人間不信に陥ったり、ペットのハムスターたちを次々と殺したりしていたことが分かる。
Dr.ペレーズはルイの両親ピーター(アーロン・ポール)とナタリー(サラ・ガドン)が鍵を握っていると考えた。

確かに、ボクサーのピーターとナタリーの夫婦仲は険悪であった。
シーンは現在に戻る。崖から転落したルイはコーマに陥ったまま、医者から死亡宣告が下された。心肺停止2時間後に火葬寸前の霊安室で突如息を吹き返したため、ルイは病室に戻され昏睡状態のまま治療が続けられることとなる。

 事故後行方をくらましたピーターに容疑が向けられた。
ルイの一件に関心を持ったアラン・パスカル医師(ジェイミー・ドーナン)は、ルイの主治医に志願した。

ルイの看護でナタリーと頻繁に会う中で、パスカルは彼女に惹かれていった。
その直後、ルイは突然意識を取り戻した。しかし、「お父さん」と一言呟いた直後、再び昏睡状態に陥った。
ナタリーとパスカル宛に関係を終わらせるよう脅迫する手紙が届いたが、その差出人の名前はルイ・ドラックスとなっていた。

事件の捜査のサンフランシスコ市警の責任者であるダルトン刑事(モリ―・パーカー)は、その脅迫状がピーターによって書かれたものであると断定したが、念のため、病院内にいる全員の筆跡を検査した。
ナタリーの身に危険が迫っていると判断した警察は、病院の一室でナタリーを警護することにした。

ダルトン刑事はパスカル医師に「ナタリーに恋愛感情を抱くな」と忠告したが、彼は聞く耳を持たなかった。
その頃、ルイを養子に出す手続きを進めていたナタリーはパスカルに「ルイは他の男にレイプされたときにできた子供なの」と涙ながらに語る。

ピーターの母親、ルイの父方の祖母であるヴァイオレット(バーバラ・ハーシー)が孫を見舞うために病院へやって来た。

無名の俳優陣に混じっておいたとは言えバーバラ・ハーシーは懐かしいし貫禄がある。
長年の人生経験から、彼女はナタリーとパスカルが恋愛関係にあることを見抜いた。
彼女は「ナタリーは気性が不安定で、嘘をつくのが得意なんですよ。」とパスカルに語った。
その矢先、ピーターの死体が発見されたとの一報が入ってきた。
崖から転落し、それ以降も2週間ほど生きてはいたが、洞窟の中で肺炎で死亡したことがわかる。脅迫状を出したのはピーターではないことが明らかに。

上述の出来事が起きているとき、ルイはまるでそれらを見たかのようなうわ言を呟いていた。その語りの中で、ルイは海藻に覆われた謎の生物に遭遇した。その生き物はルイを励ましたのである。ルイのベッドの側で寝落ちしたとき、パスカルも同じような生き物を夢で見た。

ルイはとある洞窟の中でその生き物に会っていた。驚くべきことに、ピーターの死体は洞窟の中で発見され、しかも海藻が体に巻き付いていたのである。ルイが夢で会っている生き物はピーターだと考えるよりなかった。

夢を媒介にしてパスカルはルイの意識と接触することに成功した。そこで彼から聞かされた真実は、何ともおぞましいものであった。

もうロジカルには説明できない超自然現象の世界に足を踏み入れている。
だから素晴らしい映画と見るか妻穴井ジャンク作品とするか分かれる。

僕は面白かったし異次元のスーパーナチュラルの話は好きだから楽しめる。
ルイはお母さんは美人だから悪人だ、と呟く。


主人公の「眠れる美少年」ルイに扮するのは、何ヵ月にも及んだオーディションの末に発掘されたエイダン・ロングワース。ハーレイ・ジョエル・オスモント似のあどけないルックスと映画のナレーションの滑舌の良さ、更にプロ顔負けの演技は、新たな天才子役の登場か。

ルイを目覚めさせようと奮闘する医師パスカルを演じるのは、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」シリーズなどの新進二枚目俳優ジェイミー・ドーナン。
美しいカナダ人女優サラ・ガドンが母親、映画では馴染みが無いがTVドラマで活躍しているアーロン・ポールが義父ピーターを演じているが好演で印象に残る。

謎だらけの少年の心に渦巻く深い「闇」と、そこに差し込む一筋の「光」が深海の青白く光るクラゲのイメージを通して鮮烈なコントラストを織り成す超自然のSFドラマ。

ヒューマントラスト有楽町他で公開中
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