Quantcast
Channel: 恵介の映画あれこれ
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live

「ドラゴン・ブレイド」(DRAGON BLADE)(中国・香港映画):中国・北西部シルクロードで覇権を巡り中国・前漢連合軍とローマ帝国軍は凄絶な戦いを展開する

$
0
0
「三国志」とか「項羽と劉邦」など古代の中国内戦のものは数多くあるが、ローマ時代のアジア人と西洋人(ローマ人)との関係を描いたものは阿部寛主演の「テルマエ・ロマエ」しか見当たらない。

勿論コミック原作の武内英樹監督のコメディなのでこのローマ軍と中国軍との激突とは比較にはならないだろうが、中国では始めての巨額の制作費をかけ中国ナンバー1スターのジャッキー・チェンや「マップ・トゥ・ザ・スターズ」のジョン・キューザック、「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディなどハリウッドのスター共演の映画は始めてだ。

映画はローマ帝国軍と中国・前漢連合軍の戦いを描く。「300」のように血と血を洗う凄絶な戦闘にはならず、ユニセフ大使のような親善の仲直りをするのがこの時代の慣わしなのだろうか。東西の最初の激突も大スター三人の協働で結末は穏やかなものになる。
監督・脚本は「項羽と劉邦 White Vengeance」のダニエル・リー。出演は「マップ・トゥ・ザ・スターズ」のジョン・キューザック、「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディ。

映画の冒頭は見慣れた古墳発掘の情景から始まるプロローグ。
今から2000年前の前漢時代、中国シルクロードでは、数々の国や部族がひしめき合っていた。
西域警備隊としてシルクロードの平和を守る司令官フォ・アン(ジャッキー・チェン)は陰謀で反逆者の汚名を着せられ、西域辺境の関所・雁門関の街の外壁を修理するための奴隷労働者として、部下と共に追放される。

一方、ローマ帝国の執政官の息子ティベリウス(エイドリアン・ブロディ)から命を狙われているティベリウスの弟プブリウスを守り、自らの軍勢を引き連れて西域に逃れてきた将軍ルシウス(ジョン・キューザック)は、雁門関でフォ・アンと出会い、国の違いを越えて友情を深め合う。

ここで悪い奴はブロディ,良い奴はチェンとキューザックと分別される。ローマVS中国とならないので旗色鮮明にならないから「300」のような激烈な戦闘シーンにはならない。

そうは言うものの14億の民を持つ中国での戦闘ロケはふんだんのエキストラが甲冑兜と槍・弓矢・盾を持ち何万と勢ぞろいする様は壮観だ。
ハリウッド映画を確実に凌駕できるのはこう言うモブシーンだ。
広大な大地を無数の騎馬兵が駆け、ローマ帝国と中国、両軍の大軍勢が四方から突進してくる戦闘シーンなど度肝を抜く場面が続く。
製作に7年、総製作費6500万ドル(約80億円)、使用した馬400頭、スタッフ総勢700人というのも中国ならではの映画作りだ。中国政府も政治色が無く中国国威を発揮する映画だから無制限の撮影許可を与えている。

ルシウスはローマの先進的な建築技術を用いて雁門関の修復工事を完成させるが(あっと言う間に完成するが)、そこに中国侵略を目論むティベリウス率いるローマ帝国最強の大軍勢が攻め込んでくる。
フォ・アンはローマと戦うため、互いに抗争を続ける36の部族を一つに纏め中国軍としての共闘を提案する。ここがハイライトだ。36の部族は夫々お山の大将。自分が一番偉いと思っているから始末に悪い。ジャッキー・チェンのフォ・アンは各部族長たちに辞を低くして懇願し力を併せて戦おうと説く。

「三国志」「項羽と劉邦」などの歴史大作を数多く手掛ける名匠ダニエル・リーが脚本を書き演出をしている。

2000年前にシルクロードでローマ帝国と中国が戦っていたという史実を初めて映画化した歴史大作。
中国をはじめアジア各国で昨年(2015年)の旧正月(春節期)に公開され、中国では初日興行収入1億1000万元(約22億円)の新記録を樹立したメガヒット作。夏までには制作費は回収しアメリカやヨーロッパなど海外で稼いだ分は利益となる。

2016年2月よりTOHOシネマズ六本木他で全国公開される。

「パリの恋人」(FUNNY FACE)(アメリカ映画):ヘップバーンがアステアと歌って踊るミュージカル(1957年制作)

$
0
0
時代は半世紀以上違うがファッション誌「クォリティ」編集長の女王様然とした独善的で横暴振りは「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープ演じるヴォーグ誌編集長を思わせる。

出来上がったコスチュームや写真を全部ボツにして「これからはピンクだ!」と宣言する。
ニュー・ヨークのファッション雑誌クォリティ誌の編集長マギー・プレスコット女史(ケイ・トムスン)は思い込んだら他人の意見など聞く耳持たない。

編集長に扮するケイ・トムスンは余り女優として表に出ないがピアニスト、コメディアンヌ、歌手、ダンサー、作曲家、振付師、衣装デザイナーと何でも屋でこの映画でもアステアとヘップバーンとがっちり組んで、歌って踊って笑わせる。1998年に88歳で死ぬまで活躍した。

編集長の命令で新しいモデルを探し出して「ミス・クォリティ」と名づけ、パリの世界的デザイナー、ポール・デュヴァル(ロバート・フレミング)に衣裳を作らせてファッション・ショーを開き、その写真を独占して大いに雑誌を売ろうと計画する。

ミス・クォリティのモデルを探す役は、有名なファッション・カメラマンのディック・エヴリー(フレッド・アステア)。

僕は顎の突き出た花王石鹸のようなフレッド・アステアは余り好きでない。
「イースター・パレード」や「バンドワゴン」などで一世を風靡したがどうも貧乏臭くて嫌だった。
それがオードリーの相手役とは。1989年生まれだからこの時既に68歳。
28歳のヘップバーンの祖父にしても良いが、この映画はアステアを立てた映画。
だから相手役、恋人役で間尺に合わせようとしている。

苦労の末、ジョー・ストックトン(オードリー・ヘップバーン)という娘を見出した。
彼女はある古本屋の店番で、本ばかり読んでいる。
特にパリのフロストル教授が主宰する「共感主義」の哲学を信奉するインテリ娘だった。

「共感主義」とは余り聞かない言葉だが恐らく「実存主義」から脚本家が作り上げたイージーな名前だけの「主義」ではないだろうか。
その証拠にジョーの憧れるフロストル教授(ミシェル・オークレール)はサルトルをモデルにしていると言う。

 ジョーはファッション・モデルなどに興味はなかったが、パリに行けば崇拝するフロストル教授に会えるので、ミス・クォリティになるのを承諾する。

 クォリティ誌の編集長マギー・プレスコット女史とエヴリーやジョーの一行がパリにつくと、ジョーは早速、画家や詩人や共感主義者が集まる裏街のカフェーに行く。

 翌日、デュヴァルのオートクチュールを次々と試着するジョーは見ちがえるほど美しくなった。
このデュヴァルの衣装はHubert de Givencyが担当している。
ジバンシーはこの時30歳。
その後オードリーの「ティファニーで朝食を」や「シャレード」などを手がけヘップバーン映画と一緒にファッション・デザイナーの頂点を極める。

 ミス・クォリティを紹介するプレスや関係者たちのパーティの夜、ジョーはフロストル教授が裏街のカフェーで講演することを知ると、パーティのはじまる前の寸暇をぬすんで出かけて行った。
ジョーははじめてフロストル教授に会って、教授がまだ30代の青年であるのに驚いた。

 ジョーの後を追って来たエヴリーはパーティに出席せよとジョーをうながし、教授から引き離してデュヴァルのサロンへタクシーを走らせた。

 途中、2人の間に口論がはじまった。エヴリーは若い30代のフロストル教授が彼女に興味を抱いている様子が気に入らないのだ。
ジョーは教授の前でエヴリーが無礼なことを云ったと腹を立てていたのだ。2人の口論はサロンに着いてからもつづいていた。
そのお陰でパーティは滅茶々々になる。

 更に翌日、エヴリーはジョーがフロストル教授の部屋にいるのをみつけると、ジョーを連れ帰ろうとした。
教授のジョーに対する野心を見抜いたからだった。

 ジョーはエヴリーのそんな態度が気に入らず、絶対帰らぬと言い張って喧嘩別れしてしまった。
エヴリーが帰ると教授は、彼が見抜いたとおり、ジョーに愛を求めようとキスを強要する。

 ジョーははじめて教授の本心を悟り、掴んだ骨董品の置物で教授の頭をぶん殴り部屋をとび出すと、デュヴァルのサロンへ急いだ。

 難産だった「ミス・クォリティ」はやっと誕生し、ジョーの着けるデュヴァルの華やかな衣装は絶賛を浴びる。
 最後のマリエ(結婚衣装)を着たまま外へ飛び出したジョーを追って求婚すると言うメデタシメデタシの物語。

 最後に流れる「ス・ワンダフル」の懐かしい曲が二人を包むと言う他愛も無い話だが、フレッドアステアファンには堪らなかったろう。

 しかしオードリー・ヘップバーは「爺さんに付き合ってあげた」感覚だ。

 作曲家として知られているロジャー・イーデンスが製作、「我が心に君深く」のスタンリー・ドーネンが監督したミュージカル映画。
製作者イーデンスが作曲した新曲以外はジョージ・ガーシュウィンのもの。
振付けはユージン・ローリングとフレッド・アステア。

 曲はブロードウェイで1927年にヒットしたミュージカル「ファニー・フェイス」のものを主に使いつつ、台本は映画オリジナルだと言う。

 オードリー・ヘップバーンの作品としてはアステアの所為で余り評価は高くない。
しかしミューズとしてのヘップバーンは唄も踊りも素晴らしくキュートで光り輝いている。

有楽町スバル座でパラマウントクラシックス特集として公開中。次回は「ティファニーで朝食を」

「きみといた2日間」(TWO NIGHT STAND)(アメリカ映画):一夜だけのセックスが猛吹雪で閉じ込められて二晩過ごすうちにセックスから本物のロマンスが生じる逆向現象。

$
0
0
正月2日ー3日興行成績で,2週連続2位となっていた「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が、ようやく幼児向けアニメ「妖怪ウォッチ」を抜いて初の首位を獲得。

土日2日間で動員52万1980人、興収8億2665万5600円をあげ、前週動員比は117%と高稼動。累計動員も415万人、累計興収も70億円に迫っている。
動員数が20%近く増すというのは確実に口コミが効いている証拠。
見てきた友人知人親族から評判を聞きつけて劇場へ足を運ぶ。100億円突破も見えて来た。
3DやIMAXの観客数のシェアも増しており、平均入場料金の引き上げにも貢献している。


原題のTWO NIGHT STANDはONE NIGHT STAND=「一夜限りの興行から」=「俗語で性的な一晩だけの行きずりの関係」から「二晩続きのセックス」を意味するものだ。

 フィアンセに振られた女主人公がネットで一晩だけのセックス相手を求めたが猛吹雪に遭い一歩も外へ出られず二日もセックスを続ける。

 邦題はかなりロマンティックになっているがセックスから発展したロマンスと言う逆向現象を描く。

 ニューヨーク。医大を卒業したメーガン(アナリー・ティプトン)は、婚約していた彼に浮気をされた上に突然別れを告げられ、就職活動もダメで絶不調。
セックスレスも4ヶ月を越えてヤリたくて仕方が無い。

 イーストヴィレッジでシェアしているルームメイト・ファイザー(ジェシカ・ゾー)からは恋人の救急士セドリック(スコット・メスカディ)と暮らしたいので、家賃を払わないなら出て行ってほしいと言われてしまい、八方塞がりの状態。

 そんな現状を一晩だけでも変えようとWEBサイト「ロマンス.com」に登録。
そこでハンサムな写真を載せている男性アレック(マイルズ・テラー)を見つけ合意の上、彼のブルックリンのアパートで一夜を過ごすことになる。

 勿論セックスだけが目的のONE NIGHT STAND。

 セックスが目的だからどうでも良いがアレックが名前を気にする。
普通ならアレックスで最後はXだがCKで終わるアレック。
これは珍しい。セックス目的のメーガンがしょっちゅう呼び間違えるのが気になって仕方が無い。

 もう一つ日本人には気になるのが美人で色白のファイザーのボーイフレンド、セドリックが黒人だと言うこと。
 口にすると人種差別と言われる(実際そう言う場面もある)が本人同士は全く違和感が無いようだ。

 セックスが終わり互いに満足して(少なくともそう思える)翌朝、アパートを出ようとしたところ、いつの間にか大雪に埋もれたアパートの扉が開かないから外へ出られなくなってしまう。

 僕もNY駐在時代にこのよう猛吹雪に出会ったことが2度程ある。
緯度から言えば青森県の八戸辺りなどなので猛烈に寒いしブリザードは激しい。
TVでNY市長が「外へ出るな。家で過ごすように」と呼びかけるのを何度も聞いた。
アレックのTVでも市長が外出禁止を戒厳令のように施行している。

 こうなるとヴィレッジのアパートへ帰る訳にもいかず、やむなくメーガンはアレックの部屋でもう一晩過ごすことになり、ここから本格的な二人のコミュニケーションが始まる。

 メーガンは自分のGスポットを教え、どんな体位が感じるか、セックスが終わったら暫くは抱きしめていて欲しいなどの注文を付ける。
 
 アレックは着物の脱ぎ方やブラの外し方をもっと濃艶にとか、自分の右側乳首を舐めて貰うと感じるなどとセックスの再挑戦から始まり、そしてゆっくりと身の上話。
総ての悲劇は両親の離婚から始まったと共通項を並べ、銀行員であるアレック、医者であるメーガンと結構社会的には上層に属するが一文無しの30歳近い年齢層も気になっている。

 そして高まる二人のロマンスのムードだが、実はアレックはDJの彼女デイジーがサンフランシスコに出張中でその間のONE NIGHT STANDだと知ったメーガンは怒り来るって部屋を出る。

 主演のマイルズ・テラーは「セッション」でJ・K・シモンズに徹底的に苛め抜かれるドラマーですっかり気に入っている。「ファンタスティック・フォー」も二コール・キッドマンと共演した「ラビット・ホール」も良かった。
ヒロインの「ラブ・アゲイン」のアナリー・ティプトンはグリーンの大きな瞳が魅力的でセックスを通じて惹かれる女性を熱演している。しかし乳房も見せないシーツに包まれたヌードや絡みのシーンは少々がっかり。

 監督は「卒業」などの名匠マイク・ニコルズの息子で、本作が長編初監督作品となるマックス・ニコルズ。しっかりとツボを押さえた演出は流石に父を受け継いでいる。次回作品に期待が持てる。
結婚したカップルの1/3がネット経由での出会いという、アメリカの「ネット恋活」事情をはやはり目新しい。

 トイレの水がフロアに流れ出す。詰まりを吸い出すラバーカップ探しに留守の隣家へ窓を割って侵入し、食料が無いのでそこから即席ラーメンを失敬するコメディもおまけ付き。

 会話が中心なので字幕が相当に苦労しているがやはり追いきれていない。
昨日(5日)の武蔵野館スクリーン2は20名ほどの観客だがこの手のロマンスものを見たがるカップルで占められていた。

 新宿武蔵野館にて公開中。

「グリーン・インフェルノ」(THE GREEN INFERNO)(アメリカ・チリ映画):アマゾンの人食い族に捕らえられた熱帯雨林保護NGOの学生たちは次々と身体を切断され燻製にされて食べられてしまう

$
0
0
正月早々気色の悪い映画を見てしまった。
レインフォレスト伐採に反対するNGOグループの飛行機が密林に不時着し群がって来る食人種にムシャムシャと食べられてしまう。
臓器を取り出し生のまま食べ手足を切断し血を飲み最後は身体を蒸し焼きにして子供を含めた村人たちが夕食に舌つづみを打つ。

人工的なホラー映画なんて比べ物にならない気味の悪さと怖さ、檻に閉じ込め鶏を引っ張り出すように一人ひとりを惨殺し料理し食べてしまう。
アマゾンの山奥、密林の中にこんな食人種がいるのかね?

「キャビン・フィーバー」で鮮烈な監督デビューを果たし「ホステル」でアメリカ人のバックパッカーの若者二人がイイ女をナンパしようとスロバキアのホステルに行き、美女とオイシイ思いをした後に様々な拷問を加えられ殺される残酷ホラー映画で一躍カリスマにまで上り詰めたイーライ・ロス。

 クェンティン・タランティーノとすっかり仲良くなりドバーっと血が大量に流れ出る「グラインドハウス」の役者で出演するなどタランティーノからも残酷スプラッターの影響を受けている。そして続編「ホステル2」以来6年ぶりとなる最新作。

 冒頭は新一年生の二人の女子大生。
大学の用務員たち(ジャニター)の待遇改善デモに関心を示す。主人公ジャスティンを演じるのは監督イーライ・ロスの新妻でペルーのモデルのロレンツァ・イッツォ。

 ブルネットの髪に大きな茶色の瞳、中々の美人だ。
親友のケイシー(スカイ・フェレイラ)と一緒の授業でアフリカのある部族で幼女たちが陰核(クリトリス)の割礼する習慣があることを知らされ憤る。
 ケイシーもジャスティンも怒るがどうしようもない。
ジャスティンは国連弁護士の父親(リチャード・ブルギ)と食事をしながら訴えるが国連としてもどうしようも無いと。

 髭面のハンサムな上級生・アレハンドラ(アリエル・レヴィ)の主宰する過激な慈善活動の学生グループは、資源を狙った悪徳企業がアマゾン沿岸の森林伐採により絶滅の危機に瀕しているヤハ族を救おうと学生たちに呼びかける。

ケイシーはユダヤ系だがブロンド美人。
コーシャーフード(ラバイの祝福を受けたユダヤ食)を無視する政治無関心派で皮肉屋。
学生運動を見ながら「ああ言う人たちってホモが多いんだよね」

 ジャスティンはアレハンドラのグループに加わりアマゾンに飛び現地へと乗り込む。
だが彼らの度を越した行動が目に余ったためチリ政府はグループ全員を強制送還することになる。
しかしその途中で双発の搭乗機がエンジントラブルを起こしてしまう。
アマゾンの熱帯雨林に墜落し、飛行機の生存者たちは救助を求めるが、彼らを待ち受けていたヤハ族は食人族だった。

 全員捕らえられ縛られて村へ舟で連れて来られる。小太りの隊員の男性ジムが村人に抑えられ大きな石の上に身体を横臥させられる。

 村の長老(アントニエタ・パリ)は大きな白い角を鼻の穴から突き出す怖ろしげな顔、先ずジムの目玉を抉って食べる。
次は舌を切断して口に放り込む。
血がドバーっと出ると石の椀で受けゴクゴクと美味しく飲む。
次いで手と足と胴体を細く刻み、屋外の窯で蒸し焼き、出来上がった燻製のジムは村人全員の夕食に。
見ていて気持ちが悪くなるがここがイーライ・ロス監督の真骨頂。

 犠牲者や捕らえられた団員たちのPOV(主観視点)で捉える映像は迫力がある。
1人1人殺されて行くが、勿論脱走計画もある。

 絶望し自殺した女子学生の胃袋に乾燥大麻を大量に押し込む。
蒸し焼きにされた女子学生はいつもの通り村人全員の夕食に。
そしてアーラ不思議、全員がハイになりゲラゲラ笑い出し監視もおろそかに。
その隙に檻の天井の隙間から脱走するがジャングルは抜け切れない。
覚醒した村人たちにまたもや捕らえられる。

 更に隙を見て逃げ出したジャスティンも捕らえられ裸身に剥かれ全身に白い粉を塗られ、
股を広げられ長老がナイフでクリトリスを切除しようとする。
ここはクローズアップでじっくり見せて貰いたいハイライトだが、突如森林伐採チームが銃を乱射して村に近づいて来る。

 ロス監督もカミさんの全裸を観客に見せるサービスを拒む。

 ジャスティンは伐採チームに村人を虐殺させて仲間のリベンジを果たすべきなのにレインフォレストとそこに住む村人の保護の目的を思い出し、これ以上が虐殺すると世界に訴える、ヴィデオで撮影したと侵攻を中止させる。

 NYに戻り父親をまじえた国連のスタッフに村人たちは友好的だった。
仲間は飛行機事故で死んだと虚偽の報告をするジャスティン。
そこで映画は終わりだから何か吹っ切れない。

 黒い食人族に捕らえられ体中を触られる白い半裸のロレンツァ・イッツォはセクシーだ。
この人食い人種はチリの先住民たちだが、カニバリゼーションは習慣のような顔や態度なのがおそろしい。
次々に人間が食われていく阿鼻叫喚の残酷シーンに身を硬くして映画を見終わる。夕食時だが血のしたたるステーキなどは喉を通らない。

 イーライ・ロスは本作に手応えを感じで次回作は「グリーン・インフェルノ」の続編「Beyond The Green Inferno」だと語っている。
 実際エンドクレジットの途中で悪役アレハンドラの妹が衛星写真をジャスティンに送ってくる。情報を頂戴、兄がレインフォレストの丘の上で空を眺めていると。

 新宿駅東口傍の武蔵野館で公開中。

「X-ミッション」(POINT BREAK)(アメリカ映画):空を飛び、大波に乗り、狭い山頂をモトクロスで走り、素手で絶壁をよじ登る。エクストリーム・スポーツ極意の技術を駆使して強盗団の首領を追うFB

$
0
0
昨日(7日)、渋谷スペイン坂の「シネマライズ」が閉館した。
JR渋谷駅ハチ公口から道玄坂より1本裏通りを歩いて5分、右に曲ってスペイン坂を登り切ったところパルコ3の手前にある。

出し物もユニークなアート作品が多く好きな小屋だった。外観が映画館らしくなく機械工場のように変わっている。だが駅前スクランブル交差点を渡ってからの狭い雑然とした、劇場までの小道で変な格好の若者たちとやたらとぶっつかって嫌だったが。

スクリーンは2つあったがいつの間にか1つになっていた。20年前には2スクリーンへ改装したが、下の方は10年前にはデジタル上映劇場「ライズX」と呼ばれていた。2010年からは開館当初の303席の1スクリーンに縮小したが遂に立ち行かなくなった。

在日台湾人で映画大好き人間の頼光裕が社長の「泰和企業」が経営し、頼さんの趣味でジャンル映画を上映していた。
「殯の森」(もがり の もり)なんてどう考えても客が入らない河瀬直美監督の作品の殆どは頼さんだけが面倒を見ていた。カンヌで数々の賞を得てマイストロと呼ばれるようになった河瀬直美は頼さんが育てたようなものだ。

だがやはりライズのジャンル映画は当たらず経営が傾き一旦は倒産し民事再生法に頼っていたが力尽きた感じだ。

30年前、ミニシアターの先端を切って欧米などのアート作品を次々と公開してきた。
「トレインスポッティング」(1996)や「アメリ」(2001)など頼さんが発掘し育てたヒット作もある。
商売になった作品は少なく、やはり宣伝やPRが行き届いたハリウッドの大作に客を取られるのは読めていたが、それでも頑張ったのは頼光裕の自尊心だった。
閉館後はライブハウスとして活用されると言う。

渋谷にはやはり独自で映画を引っ張って来た李鳳宇(リ・ボンウ)もいた。
彼の「シネカノン」も5年前に倒産した。

李鳳宇さんは在日の韓国人で渋谷を越えて映画文化の普及に努めた。
在日コリアンを主演に「月はどちらに出ている」などのユニークな映画でヒットを飛ばし、さらに韓国映画やドラマを日本に輸入紹介して漢流ブームの走りとなった。

 台湾人の頼さんと韓国人の李さんが渋谷文化を引っ張って来たが、二人とも力尽きた感じだ。彼らのこれまでの努力奮闘に拍手を送りたい。


 1991年キアヌ・リーブス主演のキャサリン・ビグロー監督デビュー作の「ハート・ブルー」のリメイク版。僕は好きな映画だったのでオリジナル版を頭に置いて見始めるが全く違った映画で戸惑う。
ビグロー監督の作品では、カリフォルニア、ヴェニス・ビーチで続発するニクソンやレーガンなどの大統領マスクを付けた銀行強盗から話が始まる。

 キアヌ・リーブス扮する新人FBIのジョニー・ユタは、犯人一味はサーファーではないかというベテラン捜査官の指示で潜入捜査のためビーチのサーファーに成りすまし、強盗団のリーダーであるボーディ(パトリック・スウェイジ)と女性サーファーのタイラー(ロリ・ペティ)と知り合う。
空・陸・海に展開されるアクション・シーンは四半世紀前では度肝を抜く出来ばえだったが、プロットのジョニーと彼にサーフィンの教えを説くカリスマ・サーファーにしてギャングのボーディとの確執は面白かった。


 リメイク版はユタやボーディにタイラーなどのキャラクターはそのまま登場するものの、プロットはそっちのけで、カリフォルニアに留まらない。
 世界中をサーフィンだけでなく、スノーボード、フライング・ウイングスーツ、フリーロック・クライミング、ハイスピード・モーターサイクルなどが次々と登場する。

 そして主役はFBI捜査官のユタ(ルーク・ブレイシー)では無くてむしろ強盗団の首領ボーダー(エドガー・ラミレス)だ。大団円、大海原でのサーフィンの後は法の網の目を潜って行方は知れない。

 そう、これは「X Games」「エクストリーム・スポーツ」を紹介する映画で、プロットはおまけで付いて来る感じだ。サーファーでは、レアード・ハミルトン、セバスチャン・ジーツ、マクア・ロスマン、ビリー・ケンパー、ブライアン・ケアウラナ、イアン・ウォルシュ、ローリー・タウナー、ディラン・ロングボトム、アルビー・レイヤー、ブルース・アイアンズといったビッグ・ネームがクレジットされている。

 特殊効果やCGを抑えて、生身のアスリートを立体画面一杯に展開して観客を圧倒する。だから撮影がアスリート以上に大変で、監督のエリクソン・コア自身が撮影監督兼オペレーターを勤めている。

 ビグローのオリジナルファンの多くは僕と同じ想いをしたのだろう。

 何しろ制作費は100M(120億円)を越えているが、アメリカの正月興行で累積22Mを挙げ、当たると予測したアジアでアメリカに先がけて上映した中国では40Mを積み上げて80Mになっているのが精々。
PR・広告とマーケティング費も嵩張りとてもネットで100Mはリクープできない。

 ロン・ハワード監督の大作「白鯨との闘い」もズッこけワーナーブラザースの日系社長ケビン・ツジハラも1000人を超すリストラを断行した直後の二つの大フロップに頭を抱え込んでいる。

 冒頭のアリゾナの砂漠から急峻な山頂の峰伝いにジョニー・ユタと友人の二人はフリースタイルのモトクロスで走り回る。崖から崖のジャンプで狭い山頂に着地した時親友のバイカーが崖から滑落して死亡する。それで自分の人生を反省し高校資格を取り法科大学を卒業して30歳で弁護士資格を持ちFBIに入ると言う動機が良く理解できない。モトクロスと弁護士資格のFBIって何か関係がある?

 最初の仕事が変な強盗団の追跡。数百億円もする多数のダイアモンドをを盗んでインド・ムンバイの貧民窟に撒き散らし、空飛ぶ現金輸送機をハイジャックして数百万ドルの札束の梱包をフリーフォールしたギャング団がメキシコの寒村上空で解き放つ。大量のドル紙幣は飢えと病気に苦しむ貧乏人には干天の慈雨だ。

 ギャングたちは日本の多種競技のアスリートであると同時に禅の指導者でもあるオザキの環境保全の修養「オザキ8」を達成しようとしていることが分かる。実践に挑む者は「地球の自然の力を利用して身体的な偉業を達成することを求められている」と。オザキ自身も3つ目を達成する途中にシロナガス・クジラを助けようと捕鯨船の前に飛び出してスクリューに巻き込まれて死んだと言う。
「オザキ8」とは「フォースの噴出」「空の誕生」「大地の覚醒」「荒れ狂う水」「風の躍動」「氷の生命」「六命の極意」「究極の信頼」

 こう書き連ねても何のことやらサッパリ。後付けのフィロソフィーは「フォースの覚醒」ほどのインパクトも意義も無い。もっとすっきりと義賊の強盗団vsFBIの死闘をやってくれた方がスッキリする。
ただ前述したように地球規模のエクストリーム・スポーツのビジュアルが、サーフィン、スノーボード、フライング・ウイングスーツ、フリーロック・クライミング、ハイスピード・モーターサイクルと目が眩む画面だ。

 これは3D上映を見なければ良さが分からない。

 主演のユタ役・ルーク・ブレイシーもボーダーに扮するエドガー・ラミレスも知らない顔だ。
ユタは正式にはブリンガムと言うんだそうだが、アメリカではブリンガムとヤングの両氏がモルモン教の教祖でユタ州を立ち上げたから皆がユタとあだ名を付けたのだろう。

 スタントマンで撮影監督が長いエリクソン・コアが監督と撮影を勤める。
自身もXゲームをしながらカメラを廻したのだろう。
凄いスタント撮影技術だ。
これが2本目の監督作品だと言うが最初の作品は当たらなかったし日本では未公開。実質的にデビュー作。

2月20日より丸の内ピカデリー他で2D3Dで公開される。

「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」(MR. HOLMES)(アメリカ・イギリス映画):ベーカー街を離れ田舎に引っ込み余生を送る93歳のシャーロック・ホームズ

$
0
0
10年振りだろうか、西銀座デパートの2Fにあるイタリア料理店「ブオーノ ブオーノ」を覗いて見た。相変わらず混んでいるが待たされずに席につけた。

店の奥行が浅くなっているのでキャプテンに聞いて見たらこの数年随分リフォームや改築をしたが、今月一杯でこの店は閉店すると言う。三笠会館の傘下にあるのでスタッフはクビになるのではなく新しいレストランに移行するのだと。しかし新レストランはイタリアンでは無さそうだ。

「ブオーノ」と言うのはイタリア語で「美味しい」と言う意味で、パスタやリゾット、アンチパスタも上品に少量な盛り合わせなので僕ら年寄り向きだ。
しかし一昨日の「シネマライズ」の閉館と言い「ブオーノ ブオーノ」の閉店と言い、淋しい日が続く。

シャーロック・ホームズの映画と聞いて映画館へ駆けつける人たちは僕と同様少しばかりがっかりするだろう。

なにしろ現れるのは93才のヨボヨボのホームズ(イアン・マッケラン)。時代は1947年の田舎屋が舞台。

いつものロンドン・ベーカー街のアパートでなく、サセックス州の何処とも分からない田舎村。関節炎で痛むからだを杖を突き記憶力も洞察力も衰えている。
傍にはジョン・ワトソン医師も見えない。30年も前に奥さんを貰ってホームズと別れたのだ。
田舎家にはガミガミ大声で口うるさい初老のメイド・マンロー夫人(ローラ・リニー)とその14歳の息子、ロジャー(マイロ・パーカー)だけ。

このロジャーがホームズのような名探偵を目指しているのが唯一の救いだ。老人のあとを付いて回り色々と推理法や論理などを学ぶ。ホームズが教えたことの一つにスズメバチとミツバチの違い。スズメバチは人を襲い刺す。ミツバチは刺したら針が皮膚に残る。映画の後半の事件の解決で怒るマンロー夫人に説明するシーンがある。

だから日長時間を潰す趣味と言えばミツバチを飼い、ロイヤルジェリーを取ることで、これは若返りの秘薬と信じているから趣味と言うよりは実益だ。
それと同じ目的でハーバルなどの薬草を育てる。日本に生えていると言う「山椒」も効くというのでMr.ウメザキ(真田広之)を頼りに東京まで飛ぶ。

 ウメザキと外交官の父の話は老いたとは言えホームズの推察力で虚偽と見抜くエピソードが出てくるが本筋とは関係無く面白い話では無い。
真田の英語力発音が素晴らしくなっているのに驚くが。
山椒を無事山奥で採取して帰国し田舎に戻るホームズ。

 原作となったのはミッチ・カリンの小説「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」(2005年出版)。コナン・ドイル以外にもスピン・オフしたホームズの小説は他にもあると言う。

 ここで唯一、昔のホームズらしい探偵になる場面が訪れる。30年前に最後に扱った事件だ。悲嘆に暮れたトーマス・ケルモット(パトリック・ケネディ)と子供が出来ない妻アン(ハティ・モラハン)のケースだ。追憶の彼方から白いドレスのアンが浮かび上がりホームズに語りかける。奇妙な形の楽器と秘薬。
事件を解きホームズの話を聞いた夫人は静かに立ち去るが、やがて暗いトンネルの中で走ってくる列車に身を投げる。最後の事件もカタルシスは無い。

 老いに傷つくヨボヨボの老人が、昔の鋭い推理力の代りに、人生への深い洞察力で過去の事件を思い出しながら新たな糸口を見出し解きほぐす。
老いたホームズを演じるのは「ロード・オブ・ザ・リング」でアカデミー賞候補にもなったイアン・マッケラン。
家政婦のモンロー夫人に「ラブ・アクチュアリー」のローラ・リニー。
素晴らしいロジャー少年を演じるのは12歳のデビューしたばかり3作目のマイロ・パーカー。将来が楽しみな幼い俳優だ。

 監督・脚本は「ドリーム・ガール」や「トゥワイライト・サーガ」シリーズでヒットを飛ばしたトム・コンドン。地味な作品で勝負をかけた。

3月TOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「イット・フォローズ」(IT FOLLOWS)(アメリカ映画):「それ」(IT)に憑りつかれたら何処までも追っかけて来る。

$
0
0
是枝正彦のコメディショウ「OH MY GOD!」シリーズを毎回見ている。
と言うか主演の風祭ゆきから切符を買わされて通っている。
年に2回ほどの公演はいつも銀座の電通通りに面した地下劇場「銀座みゆき館」で行われていたが
今回は築地本願寺の中にあるブディストホールだ。

 場所は落ちるが狭い桟敷席だけのみゆき館と違い少々抹香臭いが本格的な小劇場スタイルで質は向上している。

相変わらず軽妙な一谷伸江のトークから始まり、歌(相原愛が上手い)と若いダンサーたちの踊りとコントだけのボードビル形式。無名の若者たちだがしっかりと歌って踊りコントをつとめる。

しかし昔にも出したコントが多い。例えば「ジュンコのお見合い」
振袖姿のジュンコ(風祭)と若い男性が見合いをしている。仲人が席を立ち「後は若い人だけに任せましょう」と立ち上がるとジュンコも一緒に立ち上がる。風祭が還暦を過ぎた62歳だと観客が知っているギャグだ。

今回面白かったのは是枝が牢獄の息子に面会に来るコント。是枝も囚人となっている。「お前に会いたくて人を6人殺して来た」と笑わせる。その中に自分の妻、息子の母も含まれる。ブラックユーモア大好きな是枝の真骨頂だ。
ファンも定着したと見え平日夜7時から2時間の公演で6000円のチケット。9割方埋まっている。


8日(金)から始まったこの映画、早くも口コミ効果で僕の耳に届いたので昨日(9日)の16時50分のTOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン3に駆けつけた。席は7割方埋まっている。

舞台はミシガン州デトロイト郊外の白人住宅街。
鉛色の重たい空気が立ち込めた町。風に揺れる電線。どの住宅も戸建で似たり寄ったりの家並みが続く寒々とした風景。

陽も陰って来た夕刻、若い女性(アン)が後ろを振り返りながら怯えた顔で家を飛び出してくる。
父親や姉が声を掛けるが応えもせずに、並木道を走って走って住宅街の細い道を走り抜け、湖岸で息をつき座り込む。
翌朝アンは不自然な形で脚が曲がったまま死体となっている。

19歳の女性ジェイ(マイカ・モンロー)が男友達グレッグ(ダニエル・ゾバット)と一夜の関係を持つ。目が覚めるとグレッグは豹変していてジェイは車いすに縛り付けられ、あるものをうつしたと告げる。
それ(IT)の特徴が分かって来る。
ジョン・カーペンターの1980年の映画で霧と一緒に住宅街に侵入する悪霊を描く「The Fog」があったがそれと酷似している。
但し悪霊はリベンジで動機があるがITは得体が知れない。

それ(IT)は憑りつかれたら確実に死を齎す。
だから生き延びたければ「それ(IT)に殺される前に誰かに移せ」と命令される。
それ(IT)は人に移すことができる。つまりグレッグからジェイに移されたのだ。

それは移された者にしか見えない。
それはゆっくりと歩いて近づいてくる。
歩くだけで走らない。
だから車や自転車で一時的に逃れることは出来るが執拗に歩いて追いかけて来る。
それはうつした相手が死んだら自分に戻ってくる。
そしてそれに捕まったら必ず死が待っている。あのアンのように。

それは屋根の上に全裸で佇む老人であったり、若いチアリーダーであったり、自分の知っている人だったり全く見知らぬ他人だったり突然現れジェイを付け狙うから怖さは一入だ。

ジェイには、いつ、どこで現れるかどんな姿で追い回されるか分からない「それ」の恐怖。
果たしてジェイは「それ」から逃げきることができるのか?
観客は一気に画面に引きこまれる。

 ジェイは自分を慕っているポール(キーア・ギルクリスト)に総てを話す。
ポールはどんな手段をとっても自分がジェイを守ってあげる。
「それを僕に移しても良いよ」とまで言ってくれる。

 ポールはヤラ(オリビア・ルッカルディ)などの仲間を集め、ジェイを屋内プールの真ん中に浮かべる。「それ」が追って来た時に罠にかけようと計画だ。姿が見えないのでジェイに何処にいるか指を指させる。
 水に入ったら感電死させようと電化製品に電流を通して放り込む準備をする。(けどそれが嵌ってもジェイが感電死したらどうするんだ?)
 姿が見えないのでジェイの指す方向にシーツを投げてそれにかぶせる。この作戦は上手く行く。人の形のシーツ目がけてポールは銃をぶっ放す。

 41歳の新鋭デビッド・ロバート・ミッチェルが監督・脚本を手がけたデビュー作「The Myth of the American Sleepover」(2010年:日本未公開)は斬新なアイデアでクエンティン・タランティーノから称賛され、全米で話題を呼んだ。監督のこの長編第2作も故郷デトロイトを舞台にしている。

 無名の役者ばかりのオールロケ作品は低予算。
だが確かに怖い。

TOHOシネマズ六本木ヒルズで公開中

「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(Star Wars: The Force Awakens):ようやく中国で上映され3日間で53Mの大記録。映画は僅か3週間で歴代3位の興行成績を記録する

$
0
0
12月21日に取りあげたこの映画を再び書くのは、この週末に僅か公開3週目にして史上3位の興収に登って来たからだ。
もう一度その「フォース」について触れねなければならないと思った。

昨日(10日)現在、なんとワールドワイドで1.73B(2014億円) となり3位だった「Jurassic World」(シリーズ4作目:2015年)を抜き去った。
因みに現在1位は 「Avatar」($2.78 billion)、2位は「Titanic」 ($2.19 billion)で、追い付くのは時間の問題だ。
つまり映画史上最大のヒット作になろうとしている作品をもう一度振り返ってみたいからだ。

この成績には世界第2位の映画の国、中国でのBOが寄与していることは言うまでもない。
中国の昨年の映画興行成績は前年比148%。何と5割増しの6.3B(7750億円)を達成した。
日本は2100億円を超える程度だから3.7倍。
しかし人口14億とし、入場料はベラボーに安いことを勘案すれば一人あたりの鑑賞本数はほぼ同じだろうと推察される。

 ハリウッド映画の輸入クォータでIMAXや3Dを増やし(立体映画は二重になるので)パイラシ―を根絶したことでウィンウィンゲームになった。

 その中国は世界のどの地域より遅れて、先週末の1月8日に初日を迎えいきなり33Mとなり、この3日間だけで53Mと言う記録的なBOを記した。
その結果海外市場の累積が921.4Mとなって北米の累積は812M(958.2億円)。
併せてワールドワイドで1.73B(2014億円)と史上3位に登って来た。
いつも蚊帳の外の日本でも100億円ラインを指呼の間に見る成績で洋画復興の要因となっている。

中国は欧米と違いこれまでの「スター・ウォーズ」シリーズ(機櫚此砲鮓ていないし、ハン・ソロやレイア姫、R2-D2,C3POも初めてなのに、この数字は信じられない。

そのバックには配給会社、ウォルト・ディズニー(WD)のマーケティングの並々ならぬ努力と工夫と創意があった。

先ず第一に挙げられるのは、WBは2012年に映画制作権として4B(4400億円)もの大金をジョージ・ルーカスに払って、シリーズからのスピン・オフ映画にしたことだ。そして新たな三部作が始まる。

J・J・エイブラムズに脚本(共同)を書かせ監督にしていることも大きな勝因だ。今までこのシリーズに何の関わりを持たなかったが、長期低落傾向にあった宇宙物「スター・トレック」を2009年リブートして蘇らせ大ヒットさせた卓越した映画作家だ。

ハリソン・フォードのハン・ソロ船長もキャリー・フィッシャーのレイア姫も主要なキャラクターで無くなり役柄もガラリと変えている。
 レイア姫は船長の妻となるばかりか反乱軍「レジスタンス」の指揮官・将軍になっている。

 昔のシリーズを知らなくとも新しい主人公、レイとフィン、そして新ロボットBB-8には直ぐ馴染める。
それも白人至上主義のシリーズに黒人男性のフィンをレイの相手役にしてロマンスを絡ませる。

中国人は立体映画が大好きだ。Imaxだけで,8.1Mを稼いでいる。全収益の 15%を超える。普通立体映画大作ではImaxは10% から11%位だ。

そんな努力の甲斐があってこの映画の興収で中国を含め海外市場は本家アメリカのBOを抜き世界一になる。

 新しい舞台は「スターウォーズ・エピソード6:ジェダイの帰還」から30年が経っている。
悪の帝国の軍隊「ファースト・オーダー」と反乱軍「レジスタンス」の戦闘は続いている。
新しい主人公デイジー・リドリー演じる若い女性スカベンジャー(ゴミ拾い)のレイ。離れ離れになった家族を待ち続ける砂漠の惑星ジャクーで孤独に生きるヒロイン。
相手役は悪の軍団兵士、ストームトゥルーパーの格好をしているが、戦うことに疑問を抱く兵士フィン(ジョン・ボイエガ)。

 ファースト・オーダーの洗脳に耐え反乱軍に味方して玉子状の丸い新型ドロイドのBB-8を連れて脱走する。
BB-8はB2-D2と同じ機能のようだ。
喋る言葉は特種な才能を持つ人しか分からない。

 ダース・ベイダーの暗黒面を受け継ぐファースト・オーダー司令官のカイロ・レン(アダム・ドライバー)はフィンを追跡し捕えるが、その前にフィンは何やらUSB状のものをBB-8に隠す。

 同じく拘束されていたパイロット・ボー・ダメロン(オスカー・アイザック)とスター・ファイター(シリーズ犬らお馴染みの戦闘機)を盗み出し逃走するが撃墜され砂漠に墜落。
ボーを失うがフィンはレイと出会い帝国に反抗するレジスタンスで二人は同志として帝国軍と戦いを続ける。

 追われるレイとフィンが立ち寄る砂漠のバーで、客の中古の貨物船「ミレニアム・ファルコム」を借りて帝国の追跡を躱すが、撃墜されて不時着する。
嬉しいのは、そこに「俺たちの船だ」とハン・ソロ船長(ハリソン・フォード)とゴリラ・パイロットのチューバッカが乗り込んで来る。

 フィンもレイも会うのは初めてだが伝説上の人物と話gできて興奮する。
しかもハン・ソロは結婚していて妻レイア姫(キャリー・フィッシャー)は反乱軍の将軍だ。
船長とレイア姫の2人の間の息子がダークサイドに転落したカイロ・レンらしく、ドラマは「家族のサーガ」で盛り上がる。

 しかしレンは一筋縄では行かない。
ネタバレになるので書けないが大きな悲劇が待ち受ける。テーマ「家族の愛と喪失」が描かれる。

 J・J・エイブラムス監督は第一弾の「帝国の逆襲」(シリーズ検砲量承嗚椶巴里蕕譴襯蹇璽譽鵐后Εスダンと組んで作り上げた。
G・ルーカスの意図を充分に汲んでそれ以上の作品に仕上げている。
83歳になるジョン・ウィリアムスは相変わらず荘厳で勇ましいバックミュージックを奏でる。スター・ウォーズ開始以来腕は衰えない。

 最初の三部作で活躍した懐かしいハン・ソロやレイア姫、R2-D2,C3POが出て来るがルーク・スカイウォーカーのマーク・ハミルだけが見えない。
しかし最後の最後、ミステリアスな山頂でレイが訪ねた老人がフードを取るとルーク・スカイウォーカー!
 新しい三部作のプロローグだ。
心の底から次回作が待ち遠しいと言う気持ちが湧きあがる。

 新しい主人公レイとフィンを演じる二人、無名の白人女優と黒人男優の組み合わせも時代の流れ。
レイのデイジー・リドリーはイギリスのTV俳優。美人では無いがひっつめ髪の丸顔はミ翠の大きな瞳は愛嬌がありキュート。

 相手役フィンの黒人俳優、ジョン・ボイエガもロンドンの舞台で育ちTVから映画へ。ベテランの有名大スターたちに囲まれても臆することなく伸び伸びと芝居をしている。

 果たして「真のフォースに目覚める者」は誰か?God をForceに置き換えて「Be Force with you!」
そしてこの映画が史上一位の地位を早く達成するように!

TOHOシネマズ日劇他で公開中。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」(日本映画):短い命を懸命に走り抜けるAV女優、真白と一生懸命に友達になろうと付いて行く七海

$
0
0
ハリウッドの外国人記者の投票による第73回「ゴールデン・グラブ(GC)賞」が10日夜(日本時間で昨日)発表になった。

驚いたことに映画史上最大のヒット作になる「Star Wars: The Force Awakens」(邦題「スター・ウォーズ フォースの覚醒」)がどんなカテゴリーにも入っていない。
賞に値する価値がどの部門にも見当たらないということだろうか?

もっとも映画の宣伝PRにはGC賞受賞とかオスカー賞授与が踊れば客寄せになるが「スター~」は全く必要無いと言うので選考委員会に事前に断りを入れているか?
 ともかく不思議な話だ。

 FOXがドラマ部門で「The Revenant」(邦題「レヴェナント:蘇りし者」)
ミュージカル・コメディ部門で「The Martian」(邦題「オデッセイ」)で総なめ状態で圧勝した。

 Best Motion Picture作品賞–ドラマ
「The Revenant」 (邦題「レヴェナント:蘇りし者」FOX配給4月公開)

Best Motion Picture作品賞–コメディ・ミュージカル
「The Martian」(邦題「オデッセイ」:FOX 配給2月5日より公開)

Best Director監督賞 –映画部門
Alejandro G. Iñárrituアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ (“The Revenant”)

Best Actor最優秀主演男優賞 – ドラマ
Leonardo DiCaprio レオナード・デカプリオ(“The Revenant”)

Best Actress最優秀主演女優賞 -ドラマ
Brie Larsonブリー・ラーソン (“Room”)

Best Actress最優秀主演女優賞–コメディ
Jennifer Lawrenceジェニファー・ローレンス (“Joy”)

Best Actor最優秀主演男優賞–コメディ
Matt Damonマット・デイモン (“The Martian”)

Best Supporting Actor最優秀助演男優賞―ドラマ
Sylvester Stalloneシルベスタ・スタローン (“Creed”)

Best Supporting Actress最優秀助演女優賞―ドラマ
Kate Winslet ケイト・ウインスレット(“Steve Jobs”)

Best Motion Picture –外国語最優秀作品賞
“Son of Saul”(「サウルの息子」)(ハンガリー)

Best Screenplay 最優秀脚本賞–ドラマ
Aaron Sorkin アーロン・ソーキン(“Steve Jobs”)

Best Original Score最優秀オリジナル映画音楽賞
Ennio Morriconeエニオ・モリコーネ (“The Hateful Eight”)

Best Original Song最優秀オリジナル主題歌賞
“Writing’s on the Wall” from “Spectre”

Best Animated Feature Film最優秀アニメ映画
“Inside Out”(邦題「インサイド・ヘッド」)


僕は「ラブレター」を見てからその瑞々しい描写と女心の深耕に岩井俊二監督のファンになった。
一番面白かったのは「リリー・シュッシュ」だった。苛められっこの中学生がネットでリリーのファンサイトに逃避する。厳しい現実とサイトで知り合った青猫との対面。

もう一つ「スワロウテイル」は外国人が住む架空の「円都」に住む違法労働者「円盗」の物語。無国籍な世界観が岩井の世界にあるのかと意外だった。
作り度に作風が変わり何を言おうとするか段々着いていけなくなる。映画は付け足しでむしろ小説が主体ではないかとも思える。

そして「花とアリス」以来12年ぶりとなる実写長編作「リップヴァンウィンクルの花嫁」送り出す。
「花と~」は未だ分かりやすかった。幼なじみのハナ(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。ハナは落語研究会に所属する高校生・宮本(郭智博)に一目惚れ。同じ部活に所属し、なんとか宮本に近づこうとするハナ。そしてある嘘をついたハナは、宮本と急接近する。しかし、その嘘がバレそうになり、さらに嘘をつくはめに。しかもその嘘がきっかけで宮本がアリスに恋心を抱いてしまう。
ジューブナイル映画&小説は岩井の得意とするところ。

そしてこの映画も若い女性を主人公としている。。
派遣代用教員(そんなものがあるのだ)の皆川七海(黒木華)は生徒たちがやんちゃで言うことを聞かずPTAが煩いだけの教員にも打ち込めず結婚してしまおうと思う。
「婚活」はネット時代では難しく無い。

SNSで知り合った鉄也(千曳豪)と結婚することに決める。七海は親族が少ないため鉄也側に引けをとらぬよう挙式の人数を増やそうと代理出席を「なんでも屋」の安室行枡(綾野剛)に依頼する。互いに知らぬ同士が父母親戚になると確かに枯れ木も山の賑わいで式は盛り上がる。
「何でも屋」の安室はこれ以降何かと七海の相談に乗り必要とあれば何でも提供し状況を変えてくれる「便利屋」だ。

新婚早々、鉄也の浮気を見つけてしまう七海。
すると、鉄也の母・かや子(原日出子)から逆に浮気をしているのは七海だと罪をかぶせられ家を追い出される。
 息子が悪いのは知っているのにマザコン息子が可愛い原日出子が七海を追い詰める因業婆役は上手い。

お金も無い、住むところも無い、お腹も空いた七海は「何でも屋」安室を思い出し連絡を取る。早速手配してくれたのが自分も頼んだことのある結婚式の代理出席。そこで知り合った「変な」「寂しがりや」の女の子里中真白(Cocco).パーティのシャンペンですっかり酔っ払った二人は取りとめも無い話をしながら帰る途中ですっかり仲良くなる。が突如真白は消える。

苦境に立たされた七海に、安室は奇妙なバイトを次々と斡旋するようになる。
次に紹介されたのがお屋敷住み込みメイドで月給100万円という好条件の住み込みのメイドだった。
ゴシック風の大豪邸はゴミ屋敷。驚いたことに一緒に住み込みのメイドをしているのは結婚式のバイトで親しくなったばかりの里中真白。しかし真白は何もしない。夜遅く帰って来ると唯寝ているだけ。起きていて食事の時は冷蔵庫にある変てこな食べ物をとっている。

だが真白は起きている間は七海と仲良し。ベタベタと身体を寄せスリスリして来る。
しかしある日電話がかかって来るが真白は起きられない。「現場」からマネジャー・夏目ナナ(恒吉冴子)が飛び込んで来る。七重は真白が女優だと言っていたことを思い出す。女優は女優でもAV女優だと知る。

面白いことにマネジャー役の恒吉冴子は元AVのトップ女優。3年間AVで稼いで引退しフツーの女優をやっている。

真白はAVで大金を稼ぎ,あるだけ使ってしまう。
豪邸も真白が借りて家賃を払っているものだ。
真っ赤なアルファロメロに乗って買いたいと言っていたウェディング・ドレスを何着も試着し豪華の衣装で風に吹かれて豪華オープンカ-を乗り回す。

家に戻ってシャンペンを何本も空け抱き合って寝てします。フワフワのダブルベッドから起きると真白が貝を握って死んでいる。猛毒を出すイモガイを握っている。(「シェル・コレクター」と同じ貝だ)。
やりたいことをやって短い命を落とす真白。身体に傷つけてはいけないと乳がんの手術を受けず、女優が出来なくなると抗癌剤も飲まない。

凄い演技を見せるのは真白の母親里中珠代(りりい)。うらぶれた汚いアパートで焼酎を飲んでいる。娘の遺骨など引き取らないと。10年以上も会っていない。あんなもんは娘じゃない。
真梨幸子に「アルテーミスの采配」と言う小説があるがAV女優が次々と殺される。娘の職業を恥じた父母や親族が殺害を仕置き人に命じるのだ。

娘は可愛いが里中珠代はその職業を恥じ10数年前に真白をぶん殴り怪我を負わせて依頼絶縁している。
真白を演じるのCoccoは38歳の歌手だが、アンニュイの表情にAVを隠して七海と友達になり支えになって貰いたいという心情を素晴らしい演技で表現している。

主人公の皆川七海を演じた黒木華は、今作が映画単独初主演。
蒼井優に似た清純可憐な女優だ。
自分の自己主張を持たず人と時に流されるが真白との友情だけは本物だった。
岩井監督のストーリーは後半になり輪郭がはっきりして来るが,
映像世界はスタイリッシュで理屈抜きに瑞々しい。

僕は気に入った映画だが、商業的にヒットする作品では無いので渋谷の外れ円山町のラブホ街の真ん中にある小屋で単館興行される。

3月26日より渋谷ユーロスペースにて公開される。

「ジョッギング渡り鳥」(日本映画):「神」を探して遠い宇宙からやって来た宇宙人は母船が故障し帰れなくなり小さな町の地球人との交流が始まる。

$
0
0
「China’s Wanda Acquires Legendary Entertainment for $3.5 Billion」

ハリウッドの業界紙Varietyが昨日(12日)大きく伝えている。
中国の不動産大手・エンターテインメント会社、大連万達集団(Dalian Wanda)は11日、米国の映画会社レジェンダリー・エンターテインメント(Legendary Entertainment)を35億ドル(約4100億円)で買収すると北京での記者会見で発表したと。この買収については昨年暮れから噂されていた。

 大連万達集団は2012年には映画館運営会社としては世界最大の米国AMCエンターテインメントを買収している。

 大連万達集団の王健林(Wang Jianlin)会長は、中国の長者番付1位の大富豪で、劇場チェーンAMCを買収した後は、ハリウッドの映画制作会社を物色していた。

昨年は不振のドリームワークス・アニメーション(DWA)のジェフリー・カッツェンバーグ会長と交渉していたが譲渡価格で折り合わなかった。
DWAはソフトバンクの孫正義会長にも5000億円の買収金額を提示していたことが知られている。5000億円は手が出ないが4000億円なら賄えると言う訳だ。

 レジェンダリーは、「ジュラシック・ワールド」や「バットマン」の「ダークナイト」シリーズ、「GODZILLA ゴジラ」といったヒット作を送り出してきた。
レジェンダリーの創業者・CEOのトマス・タル(Thomas Tull)は責任者として残ることになり北京の記者会見に王健林会長と一緒に発表の席についている。

 このプロダクションは昨年、世界全体で120億ドル(約142億円)を超える興行収入の映画会社。
王会長は「ハリウッドに比べ中国映画は30-50年も遅れているが、世界最速で急成長する中国の映画市場とハリウッドの結びつきを拡大するのがねらいだ」と。

中国の昨年の映画興行収入は前年比148%。急成長もいいところで、何と5割増しの6.3B(7750億円)を達成した。2100億円を超える程度の日本と比べると3.7倍だ。

大連万達集団は映画配給ばかりでなく映画制作においても世界最大の存在のひとつになっていく。
レジェンダリーはLegendary Eastと言うポストプロダクションの会社を既に設立して中国に拠点を持っていた。

 しかしファッシズム国家・中国で映画の芸術性はどうなるだろう?
人権問題や政治問題に神経質な中国の検閲当局を納得させ、「中南海」に気に入られるような映画しか作れないのではないか?
世界の目は大連万達集団の制作する映画に注目する。

「急成長する中国市場で米国企業が利益を上げたいなら、中国の観客の好みに対応するべきだ。もしそれをしないなら、問題が起きるかもしれない」と不穏な発言もしている。

 新レジェンダリーは、万里の長城をテーマにしたファンタジー映画を150M(177億円)の巨費を投じて制作中だ。監督は中国のチャン・イーモウ(Zhang Yimou)監督、主演はマット・デイモンで、年末公開の予定。
「世界で最も有名な建築物の上で、エリート集団が人類を守るために最後の戦いを繰り広げる」物語だと。

まあこんなファンタジー映画なら「中南海」を刺激することも無いだろう。


 
 昨日(12日)の午後3時半からの美学校試写室上映前に監督鈴木卓彌以下若い出演者がズラリとスクリーン前に並んで挨拶をする。

 美学校は監督や脚本家と言う映画作家を養成する専門学校だが、2011年、東北大震災のあった年の5月に「アクターズ・コース」を新設。
 その講師だった監督の鈴木卓爾が映画美学校のアクターズ・コース第1期高等科の実習作品として、同校の生徒たちと作り上げたオリジナル作品。

 とてもプロの作品とは思えない稚拙極まり無い映画だが若さのエネルギーだけは溢れている。

 空を飛ぶ渡り鳥に自分を重ね、毎日ジョギングを続ける純子(中川ゆかり)達の居る入鳥野町が舞台。
遠い星からやってきたモコモコ星人は、神を探す長い旅を経て地球にたどり着いた。
母船が壊れ帰れなくなった彼らは不時着したこの町の人々をカメラとマイクで観察しはじめた。

 人間のように「わたし」と「あなた」という概念がない彼らは、いつしか町の人々が直面している「わたしはあなたではない」という近代人間的事実に直面する。
果たしてモコモコ星人は「神」と出会うことができるのか。

「神」どころかスタッフ・キャストの男性たちが美人の純子を追いかけ、ジョッギングで鍛えた足で逃げて行く最後。なんじゃこれ。ただエンディングのコーラスはメロディアスで美しく印象に残る。

 終わった途端に観客席から拍手。関係者一同の総見会場だったのか知らん。

 プレスに書いてある哲学的なテーマや概略は立派だがとてもじゃないが、見ていられない場面が続出。セリフは噛むし即興で喋らせるので余計な事を言う。
NGは出さないのだろうかそのまま流して合計2時間40分の長尺。
1時間半でも長いくらいの内容で見ている方ではうんざりする。

 地球人と宇宙人が入り乱れて織りなすドタバタでどちらがどちらか分からない。
変な言葉を喋る。プロローグはドイツ語じゃなかったか?

 役者たちは入れ替わり立ち代りブームマイクを担いだり、レフを持ったりCDカメラを廻す。役者の修行をしていても撮影技術を学んでおらず、手持ちカメラはグラグラ揺れるしフレームは外すし気持ち悪くなる。

 CGや特殊効果が使えないからと言って風船の宇宙船を竿で吊らしてユラユラさせて宇宙人だと信じ込ませようとするのではない「シャレ」の域だが、それにしても画面に風船が出すぎだ。

 キャストは試写会会場でも受付を担当し観客の質問に答えている。
実際僕の受付をしてくれた小柄な女性は名刺「Migrant Birds Association」(渡り鳥会社)宣伝チーム「茶田茜」で映画の中にも登場していた。

「私は猫ストーカー」や「ゲゲゲの女房」「楽隊のうさぎ」といったそこそこ見られる映画を監督して来た鈴木卓爾が、何故こんなにグレードの落ちる映画を作ったか疑問に思う。
それも3年がかりの初のオリジナル脚本の長編。スラプスティックコメディは鈴木卓爾の「任」ではなさそうだが。

 3月19日より新宿Ks CINEMASにて公開される。

「フローレンスは眠る」(日本映画):社長就任の日に誘拐された社長長男英樹。身代金は伝説のブルーダイア時価200億円の「フローレンスの涙」。

$
0
0
12日のVariety紙で日本での「Star Wars: The Force Awakens」が週末で2週連続首位を維持し成人の日「Coming of Age Day」祝日をいれると5.3百万枚のチケットを売り$70 million (82.7億円)に達したと報じている。
公開から僅か20日でこの成績だ。
WDの大ヒット$250 million(300億円)の「Frozen」(アナと雪の女王)よりも3日も早くこの数字だから$100 million(120億円)達成は直ぐだろうと。

ハリウッド映画の日本での興行成績がVariety紙のトップを飾るのは久しぶりなので嬉しくなる。


 知らなかったが日本の企業の95%は「同族会社」だと言う。もっとも企業の殆どを占めるのは中小きぎょうだが、日本人の家族しか信用しない同族経営は世界でも異例だろう。
昔ながらの小さな会社は確かに親から子へと引き継がれる。

その典型的な同族企業である中堅化学工業会社「佐藤理化学工業」の次期社長・佐藤英樹(宮川一朗太)が就任の取締役会議の開催の日、出社の途中に誘拐されるところから映画は始まる。

英樹は真面目に仕事をしない、遊びばかりで秘書を孕ませ、カジノで3億円も借金を背負う放蕩息子。
スケールが一桁違うが、何処かの製紙会社の御曹司に似ている。
カジノで大損をして会社から85億8,000万円を不正に借り入れたとして特別背任罪に問われた東大法学部卒の三代目御曹司は懲役4年の実刑判決で収監されている。

さて現社長・佐藤善一郎(山本學)の妾腹の息子と言えど英樹は長男は長男。社長の健康がすぐれず出社も覚束ない状態になり同族会社故に長男の英樹に社長禅譲を決め、今日がその初日になる筈だった。しかし任命を受ける取締役会に姿を見せない。
そしてそこに脅迫状が。
英樹を拉致した。犯人が英樹の命と交換に要求したのは、幻のダイヤモンド「フローレンスの涙」だ。

佐藤善一郎の弟で副社長の佐藤勇次郎(前田吟)はチャンスとばかりに自分の息子である佐藤雅彦(池内万作)と佐藤直也(東幹久)を使い、会社の乗っ取りを画策し始める。
この若い兄弟たちもさもしい根性丸出しの若者だ。

 ところが社長・佐藤善一郎は、犯人の要求に応じず、ダイヤモンド「フローレンスの涙」は渡せない、息子の英樹を見捨てるというのだ。

 社長秘書・牧羽剛(藤本涼)はその決断に驚愕する。
なぜなら剛が仕組んだ誘拐劇だからだ。
誘拐犯を追うミステリーだと思っていた映画がどうも違うらしい。
どうやら牧羽の復讐劇のようだ。
拉致され何処かの地下室に閉じ込められ椅子に縛り付けられている英樹は勿論牧羽の友達、と言うか従兄弟でもある。

 剛は25年前自分の母親が「フローレンスの涙」のために会社の犠牲となって自殺に追い込まれたことを大人になって知り、復讐の機会を狙っていたのだ。

しかし犯人が告知した英樹の命の期限が迫っても、善一郎は交換を拒絶。剛と手を組んだ英樹の元恋人で英樹の子を堕胎した秘書の氷坂恵(桜井ユキ)は、剛の暴走と止めようとする

しかしエスカレートする脅迫文に善一郎は病が重くなり動けなくなり病床から起き上がれない。

 剛はこのまま英樹の命を奪いとってしまうのか?
長男の命を犠牲にしてまで守ろうとする「フローレンスの涙」に隠された秘密は何なのだろうか?

秘密は結局明らかにならないが、会社乗っ取りの副社長とその息子たちの策略と展開には興味が持てる。

 初監督作品「369のメトシエラ」以来、7年ぶりとなる小林兄弟(小林克人、小林健二)監督作品。
兄の小林克人はTV制作会社を経営し200本以上の番組を制作しているという。
弟、小林健二は俳優。兄と一緒に劇団を立ち上げて役者兼プロデューサー。

 渋谷の外れの小屋で上映され恐らく誰も見ていない「369のメトシエラ」はプレスで名作と自画自賛している。
 他人との接触を避けて暮らす区役所勤務の若者が、400年生きていると言い張る隣人の老婆に出会い、彼女の素性を探るうちにある感情に目覚めていくと言う奇想天外の物語。

 それとガラリと変わった今回の経済スリラーの方が受けが良さそうだ。
試写が終わった後小林兄弟は話が出来ますよ、とPR会社が呼びかけていたが誰も知らない兄弟監督に興味を抱く人は少なかった。

 それより出演の俳優陣が凄い。これだけでも一見の価値があるかもしれない。

 主人公・剛役には、500人のオーディションで選ばれた藤本涼で新人だが、剛の一味の役員秘書の氷坂恵役に「リアル鬼ごっこ」「極道大戦争」の桜井ユキ。
主要な役柄で脇を固める宮川一朗太、池内万作、東幹久らも大した俳優ではない

しかし大ベテラン陣がズラリと並ぶ。山本學、前田吟、山本陽子、山口果林、村上ジョージら久しぶりの顔見世だ。

タイトルに引用されている「フローレンスに涙」は、アメリカ・スミソニアン博物館の一つ自然史博物館に展示されているブルーダイアで推定価格200億円を超えると言う。
フランス皇帝ルイ14世が所有していた当時は112カラットを超える原石だったが皇帝がほぼ半分の69カラットにカットされたため「もう一つブルーダイアがある」との噂が広がりそれが「フローレンスの涙」と呼ばれている。

前回の渋谷ユーロスペースから一躍今回は桧舞台のTOHOシネマズ日劇での上映と言うのは何かウラがありそうだ。

3月5日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される。

「さざなみ」(45 YEARS)(イギリス映画):結婚45周年記念パーティを6日後に控えた夫ジェフに50年前に山で遭難した婚約者の手紙が届く。心穏やかででない妻マーサ。

$
0
0
 第88回アカデミー賞の候補作が発表された。
作品賞最有力はレオナード・デカプリオ主演の「レヴェナント:蘇りし者」で監督は昨年「バードマン」で同賞のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが2年連続となる。

近年作品賞候補は大安売りで通常5本程度だが今年も8本が上がっている。ノミネートだけで客が呼べるオスカーならではのブランド商法だ。

「スター・ウォーズ~」は史上第一位のヒット作になるにも関わらず主要の部門ではノミネートはならず特殊効果などでお茶を濁している。

注目すべきは長編アニメ賞(Best Animated Feature Film)で久しぶりに宮崎駿以外の作品が候補になったことだ。

米林宏昌監督(Hiromasa Yonebayashi)プロデューサー西村善昭(Yoshiaki Nishimura)の
「思い出のマーニー」(When Marnie Was There)。
他の候補はゴールデングローブ受賞の
「インサイド・ブレイン」(ウォルト・ディズニー)(Inside Out)
「ひつじのショーン」(Shaun the Sheep Movie)
「父を探して」(ブラジル)(Boy and the World)
が挙げられている。センシティブで懐かしさがこみ上げる「思い出のマーニー」を僕は気に入っているので是非とって欲しいと期待している。

その他主な部門の候補作は
 Best motion picture of the year:最優秀作品賞
“The Big Short” 「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
“Bridge of Spies”「ブリッジ・オブ・スパイ」
“Brooklyn”「ブルックリンの恋人たち」
“Mad Max: Fury Road”「 マッドマックス 怒りのデス・ロード」
“The Martian”「オデッセイ」
“The Revenant” 「レヴェナント:蘇りし者」
“Room”「ルーム」(日本公開未定)
“Spotlight”「スポットライト」

Performance by an actor in a leading role:最優秀主演男優賞
Bryan Cranston:ブライアン・クランストンin “Trumbo”
Matt Damon:マット・デイモンin “The Martian”
Leonardo DiCaprio:レオナード・デカプリオin “The Revenant”
Michael Fassbender:マイケル・ファスベンダーin “Steve Jobs”
Eddie Redmayne:エディ・レッドメインin “The Danish Girl”

Performance by an actress in a leading role:最優秀主演女優賞
Cate Blanchett:ケイト・ブランシェットin “Carol”
Brie Larson:ブリー・ラーソンin “Room”
Jennifer Lawrence:ジェニファー・ローレンスin “Joy”
Charlotte Rampling:シャーロット・ランプリングin “45 Years”
Saoirse Ronan:サオワース・ローナンin “Brooklyn”

Performance by an actor in a supporting role:最優秀助演男優賞
Christian Bale:クリスチャン・ベイルin “The Big Short”
Tom Hardy:トム・ハーディin “The Revenant”
Mark Ruffalo:マーク・ラファロin “Spotlight”
Mark Rylance:マーク・ライランスin “Bridge of Spies”
Sylvester Stallone:シルヴェスタ・スタローンin “Creed”

Performance by an actress in a supporting role:最優秀助演女優賞
Jennifer Jason Leigh:ジェニファー・ジェイソン・リーin “The Hateful Eight”
Rooney Mara:ルーニー・マーラin “Carol”
Rachel McAdams:レイチェル・マクアダムスin “Spotlight”
Alicia Vikander:アリシア・ヴィカンデルin “The Danish Girl”
Kate Winslet:ケイト・ウィスレットin “Steve Jobs”

Achievement in directing:最優秀監督賞
“The Big Short” アダム・マッケイAdam McKay
“Mad Max: Fury Road”:ジョージ・ミラーGeorge Miller
“The Revenant”:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(Alejandro G. Iñárritu)
“Room”:レニー・エイブラハムソンLenny Abrahamson
“Spotlight”:トム・マッカーシーTom McCarthy

Adapted screenplay:最優秀脚色賞
“The Big Short”:チャールス・ランドルフ&アダム・マッケイ Charles Randolph and Adam McKay
“Brooklyn”:ニック・ホーンビーNick Hornby
“Carol”:フィリス・ナギイPhyllis Nagy
“The Martian”:ドリュー・ゴダードDrew Goddard
“Room”:エマ・ドナヒューEmma Donoghue

Original screenplay:最優秀オリジナル脚本賞
“Bridge of Spies”:マット・チャーマン。イーさん&ジョエル・コーエンMatt Charman and Ethan Coen & Joel Coen“Ex Machina” Written by Alex Garland
“Inside Out”:ピート・ドクター、メグ・ルファアーブ、ジョッシュ・クーリー他Pete Docter, Meg LeFauve, Josh Cooley; Original story by Pete Docter, Ronnie del Carmen
“Spotlight”:ジョッシュ・シンガー&トム・マッカーシーJosh Singer & Tom McCarthy
“Straight Outta Compton”:ジョナサン・ハーマン他Jonathan Herman and Andrea Berloff; S・リー・サヴィッジ&アラン・ウェンカス他S. Leigh Savidge & Alan Wenkus and Andrea Berloff

注目のBest foreign language film of the year:最優秀外国語賞は
“Embrace of the Serpent” Colombia:大河の抱擁
“Mustang” France
“Son of Saul” Hungary:サウルの息子
“Theeb” Jordan
“A War” Denmark


 2015年の第65回ベルリン映画祭銀熊賞(主演女優&男優賞)ダブル受賞で注目を集めた、シャーロット・ランプリング。ゴールデン・グローブ賞では見向きもされなかったが上記のようにオスカーでは堂々とノミネートを受けている。

 ランプリングは、ベルリンのほかロサンゼルス批評家協会賞、ヨーロッパ映画賞でも主演女優賞を獲得しており、3月28日の第88回アカデミー賞主演女優賞の有力候補と目されている。

 映画(特にイギリス映画)にはリタイアした老人たちを主人公の作品が目立つ。すっかりシリーズ化したジュディ・デンチ、ビル・ナイ、 マギー・スミス、トム・ウィルキンソンらの群像劇「マリーゴールド・ ホテルで会いましょう」やMI6の元腕利きスパイ(ヘレン・ミレン)たちが大活躍の「レッド」や、老人ホームで暮らす元音楽家たちが、ホームの存続のために復活コンサートに挑むダスティン・ホフマン監督の「カルテット」など感傷抜きでアクティブな老人たちを描いている。

 しかしこの中に69歳のシャーロット・ランプリングの姿は見当たらなかった。そのランプリングが名演技でアカデミー・主演女優賞を狙うのがこの映画だ。

 イギリスの田舎町ノーフォークに住む中産階級の老夫婦。土曜日に結婚45周年の記念パーティを控えるジェニアル・ジェフ(トム・コートネイ)と妻のケイト・マーサ(シャーロット・ランプリング)。二人の月曜日からの6日間を時系列的に追う。

月曜日にドイツ語の手紙がジェフに届く。
50年前の1962年婚約者のドイツ人カーチャからのラブレターだ。
休日を利用してスイスで山歩きをしていた二人。
カーチャは氷河で足を滑らせクレバスに滑落行方不明になっていたのだ。
暖冬で氷河が溶け冷凍化したカーチャが氷の中から所持品と共に現れたという。

 ジェフが辞書を引き懸命に昔のカーチャを思い出そうとする姿にマーサは大きな動揺を覚える。二人が結婚したのはカーチャが死んで5年後の1967年、今年(2012年)が結婚45周年にあたり友人たちが周年パーティを土曜日に開いてくれることになる。
ジェフはカーチャとの思いでを慈しみ感慨に浸っている。マーサと出会う前にアルプスでの事故で死んでしまったかつての夫のフィアンセのゆるぎない存在が、そして未だ夫の心に大きく占めている事実が、突如として夫婦の関係に入りこんでくる。

 更に夫の棚に飾ってある写真立てにカーチャと狩猟に出かけた色あせたカラー写真を見つけマーサはイラだって来る。
ジェフは過去の恋愛の記憶を日毎に蘇生させ、マーサは存在しない女への嫉妬心を夜毎重ねていく。
二人の間に子供は居ない。それは二人で話し合った結果だが、マーサは心を紛すものは何も無い。昔二人が好きだったロイド・プライスの「スタッガー・リー」でぎこちなくダンスをし、果てはセックスまでしようと試みる。

 だが心の中の棘はやがて夫へのぬぐいきれない不信感へと肥大に変わり、夫婦の土曜日までの6日間が、45年の関係を大きく揺るがしていく。
コートニーの能天気さ、ランプリングのプレッシャーが熱演でたくみに描かれている。

 原作はデヴィッド・コンスタンティンの短編小説「In Another Country」をもとに、「ウィークエンド」のアンドリュー・ヘイが監督を務めた。てっきりホモだと思っていたヘイ監督が老夫婦の心の機微をこれほど上手く描けるとは思っても見なかった。

「愛の嵐」の69歳のS・ランプリングと、「長距離ランナーの孤独」「ドレッサー」の78歳のトム・コートネイの両ベテランが老夫婦を演じている。
静かだがじっくりと見応えのある作品に仕上がっている。

 土曜日の結婚45周年記念パーティでジェフは「私の人生で最大の収穫はマーサ、君と出会い結婚できたことだ」と涙ながらのスピーチ。

 そして45年前のウェディングパーティで最初のダンス曲、プラッターズの「煙が目に沁みる」に合わせて抱き合いながら情熱的に踊る、ジェフ&マーサ。だがマーサの目は宙に浮いている。

 4月よりシネスィッチ銀座にて公開される。

「ボーダーライン」(SICARIO)(アメリカ映画):麻薬組織と戦うアメリカFBIの特殊班では社会的正義も道徳観も法律も適応しない。

$
0
0
原題「SICARIO」とはヘブライ語で「暗殺者」を指すと言う。
不思議な人物、コロンビア人のアレハンドロのことを言っているのだ。
昔、メキシコの辣腕検察官だった男だが、麻薬組織に妻の首を斬られ、娘を硫酸に漬けられて残酷に殺されて以来検察官を辞め「復讐の鬼」となる。
だからUSサイドの味方かメキシコ側か得体が知れない。

メキシコとの国境地帯、アメリカ・アリゾナ州で麻薬組織による犯罪が広がっていた。
FBIの誘拐即応班のチーフ、女性捜査官ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)はアリゾナ州の廃屋でその実態の恐ろしさを目の当たりにした。かつては麻薬組織ソノラ・カクテルのボス、マヌエル・ディアス(ベルナルド・サラチーノ)の所有した屋敷跡の壁の中から数十体の腐乱死体が隠されていたのだ。
離れの物置を捜査中に爆発が起こり、警官二人が殉死しケイトも頭部を負傷する。壁板を剥がすと遺体はビニールに包まれて立っている。ケイトはカルテルの無軌道なバイオレンスに驚愕するシーン。
ブラントの大きな緑の瞳が見開れる様をカメラはしっかりと捉えている。

 その日の内にFBIの上司デイヴ・ジェニングス(ヴィクター・バーガー)に呼び出されUS政府機関よりメキシコの麻薬組織のボスを逮捕するための特殊部隊にスカウトへ加わるように要請される。

 そこでは国防省のコンサルタントと称するマット・グレーヴァー(ジョシュ・ブローリン)がボスだが同僚のレジー・ウェイン(ダニエル・カルーヤ)と一緒に検討するが、どう見てもCIAのエージェントだ。
 そしてマットと一緒に顔を見せたのはメキシコ系のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と称する謎の男。
どうやら秘密裏にメキシコ国内に侵入しては違法性の高い捜査を続けているようだ。
「俺たちのやることはアメリカ人には理解できないだろう」と呟く。

 麻薬密輸の取材を積み重ねたオリジナル脚本のテイラー・シェリダンはデル・トロを想定して書き上げたという。
 顔の下半分を覆う顎鬚や口髭の上の鋭い不気味な眼はデル・トロ独自のミステリアスで不屈の気構えを示している。

 より大きな敵のために手段を選ばない特殊部隊の方針に反発しながらもケイトは任務に参加する。
男社会のFBIでは服従は絶対だ。
 モラルも正義も法律も無く殺し殺される現場のなかで彼女は苦悩を深めていくのだった。

 メキシコ国境を潜り抜けるトンネルの中に麻薬工場があり荷物がメキシコ警察のポリスカーに積み込まれるのを目撃してしまうケイト。
 1人の警官を殺し負傷した警官に運転させてカルテルのボス宅を一人で襲うアルハンドロ。
 一言も喋らず1人股1人とサイレンサー付きの銃で消していく「暗殺者」の手法は凄い迫力で観客に襲い掛かる。

 カクテルのボス、マヌエル・ディアスは妻と二人の息子とで一家団欒の夕食を楽しんでいる。
突然現れた旧知の「悲劇の検察官」にせめて息子たちだけは生き延びさせて欲しいと命乞いをする。
あっと言う間に銃声が3発。
 妻子3人は床に倒れている。
「お前に個人的な恨みは無かった」(It’s not personal)。訳しにくいが「It is personal to me」と言い返して全員射殺して立ち去る。

 ケイトの泊まっているモーテルに現れるアレハンドロ。
総て衛星カメラで見守って暗殺を見ていたケイトに「総て法規的に正しい処置だった」と言う書類にFBIとして署名を求める。
 ケイトは拒否するが「自殺体で発見されたいか」と銃を突きつけられる。

 「ケイト、君はこんな狼の住む町を離れろ。生き延びていけないぞ」と忠告して立ち去る彼にベランダから銃を向けるが引き金を引けないケイト。

 最後の20分は息もつかせぬ思い雰囲気。同じ国境越えの麻薬と言うテーマを扱ったスティーブン・ソンダーバーグの「トラフィック」とは重圧感もサスペンス感も異なる。

 カナダ人の「プリズナーズ」「灼熱の魂」のドゥニ・ヴィルヌーブ監督が「プラダを着た悪魔」や「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のエミリー・ブラントを主演に迎え、「羊たちの沈黙」の新米のFBI、ジョディ・ファスター役をやらせた。
アメリカとメキシコの国境町・フアレスを舞台に、麻薬組織とFBIの攻防でナイーブな捜査官を熱演する。
そんな混沌とした世界で、彼女の守護神なのか?恐ろしい悪魔?かを演じるのが「トラフィック」でアカデミー賞助演男優賞を受賞のベニチオ・デル・トロ演じるミステリアスなコロンビア人アレハンドロだ。主役はブラントでは無くデル・トロだ。

4月9日より新宿ピカデリー他で公開される。

「鼠小僧次郎吉」(日本映画)(1965年制作):駆け出し林与一が義賊鼠小僧と美男浪人小谷新九郎を気持ち良く演じている

$
0
0
色んな警察小説があるものだ。書き下ろしの文庫本に初めて見る小説が多い。
麻見和史の警視庁捜査一課十一係「蝶の力学」(講談社:2015:12月刊)は新人女刑事・如月塔子シリーズの7弾目。新人女性刑事・如月塔子が個性豊かな捜査一課の仲間と共に難事件に挑む、『石の繭 警視庁捜査一課十一係』が、警察小説の新機軸に挑んだ作品としてシリーズ化。

麻見和史は1965年生まれの50歳。2006年、「ヴェサリウスの柩」で第16回鮎川哲也賞を受賞し、小説家デビュー。
講談社ノベルスシリーズはタイトルだけは凝っていて「石の繭」「蟻の階段」「水晶の鼓動」「虚空の糸」「聖者の凶数」「女神の骨格」と動植物や神話を織り込んで興味を引く。

不動産会社社長の資産家天野秀雄が殺害されその妻真弓が連れ去られる殺人誘拐事件が発生する。秀雄は遺体は死後に喉が搔き切られ4本の青い花・ブルーデージーが挿しこまれていた。警視庁捜査一課十一係の如月塔子は警部補の鷹野秀明と組み捜査に当たる。鷹野は3年前に相棒で部下の沢木刑事を殉職させてしまったトラウマを抱えていた。だから塔子には人一倍気を遣い塔子は誰の目にも鷹野のお荷物になっていた。
 
新聞社に警察を挑発し真弓の居場所を教えるカタカナだけのメイルが届く。翌日に真弓の死体が見つかり切られた喉には青いローズマリーが4本。
犯人はCL16と名乗っている。クラスター爆弾のCLで16は青い花16本を意味するのだと。
 犯人CLは追い詰められ逆に鷹野と塔子のコンビを襲う。
負傷し入院する鷹野。塔子は他の刑事と組むことになる。

 足手纏いの筈の塔子が鷹野が入院してから抜群の勘を働かせて犯人を追い詰めるのが唐突でオカシイ。蝶の力学は思ったように「バタフライエフェクト」を意味するが、小さな蝶が羽ばたいてやがて大きな竜巻を起こす現象が、この小説でどう関連するか分からない。

 開けて見れば犯人は家屋を修理する小心の男で何処にこんな大胆な犯罪を引き起こし大胆で色んな挑発を警察に突きつけるのか動機も分からない。生命保険と遺産がキーとなるが後半1/3はバタバタだ。

 併行して佐々木譲の「犬の掟」(新潮社:2015年9月刊)を読んだが同じ警察小説と言ってもレベルや質では天と地の差がある。
こんな300Pになんなんとするクズ小説を読んで時間と金の無駄だった。

 今年になって初めて国立フィルムセンターへ行った。
上映は三隅研二監督の特集だ。

 65歳以上は310円と言う低料金なので老人がやたらと多く、7割の観客は剥げ頭や白髪の皺だらけの爺さん婆さんだ。特に爺さんが多い。
 1日多くて3本の上映、1000円札でお釣りが来る懐かしの映画鑑賞は粗大ゴミ扱いをされる老人たちの暇つぶしの場所だ。「やあやあ、今年も宜しく」などと言う挨拶があちこちで取り交わされる。

 三隅研次(1921-1975)は1921年に京都に生まれ、子供の頃から映画が好きで1941年、20歳で念願の日活京都撮影所に助監督として入社する。しかし翌年1942年に召集されてそのまま満州で敗戦を迎え、シベリアで3年間の抑留生活を送り、1948年にようやく帰国し、大映京都に復職する。27歳になっていた。
衣笠貞之助、伊藤大輔ら名匠の助監督に就き、1954年33歳で「丹下左膳 こけ猿の壷」で監督デビュー。
以後大映が1971年に倒産するまでの17年間で60本の映画を撮る。

 その後は翌72年に西岡善信ら旧大映スタッフと共に製作プロダクション「映像京都」の設立に参加し、監督としては勝プロダクションや松竹で7本の映画を撮ると同時に、テレビドラマの演出を数多く手がけた。
だが1975年、撮影中に倒れ、54歳の若さで急逝した。

 三隅の時代劇は特異な画面構成やスピーディーな語り口でそれまでの時代劇と一線を画し、現在もなお通用するシャープな作風だ。

大胆な表現で極限的な状況における愛と死を描き続け、戦後の日本映画に新風を送りこんだ監督だ。映画の全盛期を体験しTVに圧倒され斜陽になった時代はTVと映画両舞台で独自のトーンとマナーで存在意義を誇示したと思う。

 このフィルムセンターの特集企画は、三隅の手がけた劇場公開映画51本と、テレビドラマ「必殺」シリーズ19本を60プログラムに組んで上映する大回顧特集だ。三隅研二作品をこのように纏めて振り返って見る機会はまたと無い。

さてこの映画「鼠小僧次郎吉」は大佛次郎の原作を新藤兼人が脚色した異色の世話物風鼠小僧。
映画制作の前年、64年にNHK大河ドラマ「赤穂浪士」(1964)の堀田隼人役でスターの座を掴んだ林与一を東宝から借りて一人二役、鼠小僧と浪人小谷新九郎の一人二役で演じさせている。
林は歌舞伎役者だが無名のポット出の新人を大切に大スター扱いの制作意図が読み取れる。のっぺりした美男子で小川知子と結婚していたが離婚、今年72歳になるが役者としては活躍していない。

怪盗鼠小僧(林)は大江戸の夜の闇をぬっての必死の探索を尻目に、大名や富商を襲っては奪った金銭を貧乏人にばらまいて、庶民の英雄として人気を集めていた。
ある夜鼠小僧は浪人小谷新九郎(林)に救われた。そして二人はいつまでたっても浮びあがれない世の中に絶望して、貧乏人のために尽そうと深い友情で結ばれた。

 一方江戸の暗黒街を牛耳る博徒の親分梵字の安五郎(神田隆)は、ある夜鼠小僧に痛めつけられ、妾のお滝(長谷川待子)も新九郎にイカサマ博打を見破られて二人を深く恨むようになった。

この前半の次郎吉と新九郎の悪人どもをやっつける活躍は痛快だ。
安五郎は江戸中の岡っ引きを集め100両の賞金を出して鼠小僧の捕縛をたきつけた。

ある夜新九郎は、ならず者に囲まれた豪商伊勢屋の一人娘小夜(姿美千子)を助けた。小夜はさっそうとゴロツキを叩き伏せる新九郎に一目惚れ。

町方に追われる破目となった新九郎が、隠れ家の崖下の貧民窟に帰ったことを知った目明しは、網を張ったが、次郎吉の手でとり逃した。

 次郎吉は、昼間は小間物商大阪屋仁吉として堅気の仮面をかぶっていたが、商売上の出入りから伊勢屋の娘小夜を新九郎が助けたことを知るや、彼を伊勢屋の別邸にかくまう話をつけた。一方小夜は新九郎に次第に魅かれていった。
 次郎吉が捕らぬことに業を煮やした安五郎は、次郎吉の幼な友達虎吉(工藤堅太郎)を探し出した。
小悪党の虎吉は、良心に責められながら次郎吉を売ることを承知した。
大阪屋仁吉であることが露見した次郎吉は、崖下の貧民窟に逃げ込んで町方衆に包囲されたが、図らずも新九郎の友人立見雄一郎の機転で逃れた。

 この四谷と市ヶ谷に挟まれた谷底の蛸壺のような貧民窟の美術が秀逸だ。

 虎吉が次郎吉を売ったことに怒った新九郎は虎吉を斬り復讐を果たす。

 次郎吉は人を殺めないが新九郎は刀を振り回しバッタバッタと悪人を斬るのが対照的で面白い。
殺伐たる義賊と捕物の世界にロマンスを盛り込む。浪人の小谷と小夜は江戸を逃れて大阪へ駆け落ち、鼠
 鼠小僧は幼馴染のお咲(藤村志保)の船宿の舟で捕り方を巻いて朝焼けの太平洋へ漕ぎだす。

 新藤兼人もこんな甘いロマンを書いていたんだ。三隅&新藤コンビの時代劇は一風も二風も変わっている。

いつも思うのだがこの頃の映画は洋画も邦画の終わると「END」とか「完」の壱字でパット明かりが点く。今の映画は終わってからエンドクレジットで延々10分ほども付き合わされる。運転手は誰それで食事(ケイターリング)は誰それと映画制作の下働きで関係無い人たちの名前を馬の小便みたいに長々とつき合わさせられる。試写会の時などエンドクレジットの途中で出るとPR会社の人たちから睨まれる。
このエンドクレジットの悪習を昔のスタイルに変えてくれるスタジオは現れないものだろうか。

1月17日と2月3日にフィルムセンターにて上映される。

「ちはやふる」(日本映画):「小倉百人一首」の高校生の競技かるたを通して「強くなりたい」真摯な競技への情熱と競技選手に絡む憧れとロマンスを描く

$
0
0
小倉百人一首は私事で申し訳ないが父親に仕込まれて3歳頃から高校生まで「かるた」は我が家で死闘を繰り返していた。勿論上の句を読めば下の句は瞬時に出てくる。上の三文字が同じでも下が変わる札もあり、三文字を待って手を出すよう必死に覚え鍛錬した。
子供の頃は意味も分からず覚えた。僕の得意札は「この度は幣も取りあえず手向け山~」で「たぬき」のことを詠んだ句だと思い、弟は「つくばねの峰よりおつる~」は「バネ」の話だと考えて得意札にしていた。

 思い出したが、タイトルの「ちはやふる」にひっかけた落語に大笑いしたことを覚えている。
ちはやふるは神代にかかる枕言葉で神代でも聞いたことが無いと言う「紅葉」の素晴らしさを詠った歌だが、落語になると、相撲取り立田川が花魁の「千早」に惚れるが振られてしまう。そこで妹分の「神代」に言い寄るが「聞く耳」を持たない。これで「ちはやふるかみよもきかずたつたがわ」と上の句の解釈だ。下の句で最後の「とは」の解釈で迫られた大家が「それが千早の本名だ」と。


 今頃の若者はこんなカルタを忘れてしまったかと思っていただけにこの映画は嬉しかった。コミックを通じて小倉百人一首が見直されていると言う。
「小倉百人一首」は100人の歌人の和歌を、一人一首ずつ選んでつくった秀歌撰で藤原定家が京都・小倉山の山荘で選んだとされる。

高校生のかるた競技と言えば7月下旬に滋賀県大津市の近江神宮で行われている。通称は「かるた甲子園」が有名だ。しかしこの映画では地方の予選で全国大会はその先の話だ。

現在かるた競技人口は100万人とされているが、これは学校や子供会活動における正月の百人一首大会の参加者も含んだ数字で、かるた会に所属し継続的に「競技かるた」活動を行っている者はこれよりもはるかに少ない。正会員となる必要がないD級以下の者・有段者であるが正会員登録していない者などを含めても精々1万人~2万人程度とされる。

この映画をしっかり理解するには競技のルールを覚えていなければならない。
百人一首の100枚の字札のうち50枚を使用する。その50枚を裏返した状態でよく混ぜ、25枚ずつ取り、それを自陣の畳に、上段、中段、下段の3段に分けて並べる。敵陣にも同様に25枚が並べられた状態となる。その後15分間の暗記時間が設けられ、その間に自陣・敵陣の50枚の位置を暗記した後、競技が開始される。

 競技開始時にはまず百人一首に選定されていない序歌・王仁の「なにはづの歌」が詠まれる。映画でも毎回王仁の歌が詠まれる。
そこから百首の札がランダムに詠まれる。自陣にある札をとった場合、その札を自身の横に置いて自陣から除外する。敵陣にある札をとった場合、自陣の札の好きな札を敵陣に送ることで自陣の札が1枚減る。
地方の決勝戦で主人公、綾瀬千早は相手のお手つきで勝ちを辛くも拾うが、このお手つきも解説が必要だ。

 詠み札は百首全てが用意されるのに対して、場にある札は半分の50枚のため、詠まれた歌の札が自陣・敵陣どちらにも存在しない場合もあり、これを「空札(からふだ)」という。空札が詠まれているのにも関わらず、自陣または敵陣のいずれかの札に触った場合や、詠み札が自陣にあるのにも関わらず、敵陣の札を触ってしまった場合は「お手つき」となる。

 また、お手つきには、「ダブル」や「空ダブ」と言われるものもある。「空ダブ」は、空札のときに、敵陣、自陣をともに触ってしまったときに成立する。綾瀬は相手のこの「空ダブ」で勝利するのだ。それから大切なことだが札を取る手は、1試合を通してどちらか「片方の手」のみが認められる。

 さて物語、綾瀬千早(広瀬すず)真島太一(野村周平)綿谷新(あらた)(真剣佑)の3人は幼なじみ。幼児の頃から新に教わった「競技かるた」でいつも一緒に遊んでいたが、小学校卒業を境に中学校が夫々違い離ればなれになってしまう。

 千早はたった一人になってしまっても新に教えられた「競技かるた」に懸ける情熱に夢を持っていた。「かるたを教えてくれた新に『強くなったな』って言われたい」と純粋な想いで競技かるたを続けていた。

「海街」で幼い純情な顔をしていた広瀬すずは恋する乙女役で恋心をかるたに置き換えての情熱は凄まじい。

端沢高校に入学した千早は、中学で別れて以来久しぶりに再会した太一と共に学校に「競技かるた部」を作り、呉服屋の娘で古典大好きな大江奏(上白石萌音)競技かるた経験者西田優征(矢本悠馬)秀才「机くん」の駒野勉(森永悠希)たちを必死に口説き勧誘して選手人数をクリアすると練習に励み東京都予選を目指す。

 「全国大会に行けば、新に会えるかもしれない!」
千早の新への気持ちを知りながらも、かるた部の一員となる太一。

太一は家が金持ちで超イケメン。勉強もスポーツも何でもやらせればナンバー1.性格も良いボンボンだが千早の惚れ、新とのロマンスを陰ながら応援するような格好になる。演じる野村周平は美男子。今までの映画では脇ばかりだが主人公に絡む役で実力を発揮している。
肝心の新役の真剣佑は「下の句」で出番が多そうだが北陸に住んでいるので「上の句」では電話でしか登場しない。ソニー千葉の息子だ。

千早、太一、新、そして瑞沢高校競技かるた部の高校生の勝負への情熱と夢を懸けたロマンスが交錯する、熱い東京都大会予選が始まる。
 クライマックスシーンの海老茶色トレパン姿の男子校と古式豊かな羽織袴の太一たちや和服姿千早たち女子の瑞沢高校との5人ずつの対戦は一進一退、文字通り手に汗る盛り上がりを見せる。


原作は既刊29巻で累計発行部数1400万部を突破する末次由紀による大人気コミック「ちはやふる」(講談社「BE・LOVE」連載)

映画初主演となる綾瀬千早役の広瀬すず。真島太一役の野村周平。綿谷新役の真剣佑。千早のライバル、若宮詩暢役に松岡茉優。何れも駆け出しの新人レベル。

2006年のデビュー作「タイヨウのうた」で注目され「Flowers」や「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の小泉徳宏が監督と原作の脚色。若手や新人の役者たちを育てるのが上手い監督だ。

この映画は二部作。「上の句」と「下の句」に分けて上映される。

上の旬は3月19日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で公開される。

「蜜のあわれ」(日本映画):金魚の三年子「赤子」(出目金)と同棲する70歳の老作家の奇妙で哀しいロマンス。

$
0
0
前途有望な大学生が13人も死亡したスキーバス事故。
バス事故が酷似している三谷幸喜監督・脚本の映画「TOO YOUNG TO DIE」に憂慮する。
冒頭、修学旅行バスが崖下に転落して主人公の男子高校生・大助(神木隆之介)が死んで地獄へ落ちてしまう。
行き着いた地獄ではロックバンドの地獄図(ヘルズ)のリーダーである赤鬼のキラーK(長瀬智也)が現れてハチャメチャのコメディになるが、現実のスキーバス事故は悲惨で社会的に許されないし笑って済まされない。

後2週間半に迫った2月6日の公開と言う間の悪さに製作・配給会社の東宝の態度がどう出るか、関心がある。

昭和の文豪・室生犀星、晩年の1959年(昭和34年)70歳の時に発表された作品「蜜のあわれ」(正確には「蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ」)の映画化。

犀星自身のような70歳の老作家の「おじさま」と赤い三年子の金魚「あたい」の会話のみで構成された物語だ。

湊岳彦の脚色では原作を絵になるように膨らませ、石井岳龍の艶聞的演出に委ねている。
あのインディーズ界の先鋭的旗手だった石井聡互がいつの間にか名前を岳龍と変えて還暦近くの穏やかな演出家になっているのに驚く。

自分のことを「あたい」と呼び、まあるいお尻と愛嬌のある顔が愛くるしい赤子(二階堂ふみ)は、古びた住宅に独りで暮らす老作家(大杉漣)を「おじさま」と呼んで、かなりきわどいエロティックな会話を繰り返し、夜は身体をぴったりとくっ付けて一緒に眠る。
赤子はある時は若い女性、ある時は居間の大きな金魚鉢で尾ひれをひらひらさせる真っ赤な出目金だった。女性になっているときは絵になるが,本性をあらわし金魚になってしまったら映画にならない。

二階堂ふみは好きな女優だが美人と言うより愛くるしく、エロっぽさは感じない。
だから赤子の役は、ぴったりかも知れなかったが、僕はもっと官能的な女優を選んで欲しかった。

赤子は普通の女とは何かが違う。普通の人間には赤い紗のワンピース姿の赤子は金魚だとわからないが、野良猫には正体がバレてしまう。

ある日外出した赤子はドラ猫に襲われお尻に引っかき傷を負い尾鰭が外れそうになる。丸い裸のお尻を出して「おじさま」にツバをつけて傷口の「ノメノメの割れ目を開けると筋があるからそこを濡らして」貰い尾鰭を元通りにする。赤子と老作家の言葉だけの遣り取りでヴィジュアルが無いのにガッカリ。

そんな或る時、老作家への愛を募らせこの世へと蘇った幽霊の田村ゆり子(真木よう子)が現れる。赤子はゆり子こそは老作家の恋人だと思い何とか仲を取り持とうとする。

 赤子の真っ赤なドレス、ゆり子の真っ白な和服、そして老作家の黒ずくめの着物姿とくっきり色分けされているのは何だか漫画みたいだ。

作家仲間の芥川龍之介(高良健吾)や赤子を見つけて売ってくれた屋台の金魚売り(永瀬正敏)が3人の行方を密かに見守る。
 老作家が「芥川君!」と呼ぶ高良扮する芥川龍之介は有名な写真のように顎を撫でながら上目遣いで言葉を交わす。作家仲間に荻原朔太郎の名前が上がるが姿は出さない。永瀬の金魚売りは何かと赤子と老作家の世話を焼く。

同世代の谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」を彷彿とさせるがそれほどしつこく無くどちらかと言うと猫に食われた死体に涙を流す純情老作家の面目躍如だ。

70過ぎの老人が「アソコが硬くなり元気になった」なんてホザクよりもう少し枯れて欲しいが、大杉蓮はまだまだ老作家を演じるには若すぎるのではないか。

主演は「私の男」や「この国の空」などに堂々の主演を勤めた21歳の二階堂ふみと脇役の大ベテラン、64歳の大杉漣。ちょっと芝居の臭さが気になる。
二人でモダンなダンスのデュオを踊るが様にならない。
トーンとマナーが最後まで一貫してないのも気に掛る。

徳田秋聲、泉鏡花と並び、「金沢三文豪」の一人である室生犀星だが、僕の頭の中には「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの」の詩の一片しか残っていない。

4月1日より新宿バルト9他で公開される。

「モンスターズ/新種襲来」(Monsters: Dark Continent)(イギリス映画):不況のデトロイトでドラッグの売人になるか、モンスターと戦うために軍隊へ入るか選択を迫られる若者。

$
0
0
 昨日(19日)の午後3時50分の回に間に合うように新宿東口駅隣りの「シネマカリテ」に出かけた。
5年前の「モンスターズ 地球外生命体」(2010)が面白かったのでその続編と期待したのだ。

 しか案に反して酷い出来にガッカリ。

どうして続編ならオリジナルを踏襲しないのだ?
登場人物も舞台も設定もまるで変わっている。

シネマカリテの70人は座れるスクリーン2も数えて見たら7人しか居ない。早くこんな2時間近くの大ゴミ映画を終映して新作に切り替えなければ。

 前作で監督デビューしたVFX畑出身のギャレス・エドワーズが監督を降りて製作総指揮に退いているのも質の低下を招いているのではないか。
エドワーズは大作「ゴジラ」に取り組んでいてこんなB級低予算に割く時間も無い。

 オリジナル版は才能に溢れたエドワーズが監督したので、低予算ながらも斬新なアイデアと魅力的なストーリーで話題を呼んだ。
NASAの探査機が地球外生命体のサンプルの収集に成功し、地球帰還目前に大破し、メキシコの上空で大破してエイリアンがばら撒かれ、メキシコ北半分がモンスターの繁殖する危険地帯として隔離される事態に陥る。

6年後、アメリカ軍とメキシコ軍によるモンスター封じ込め作戦が懸命に続けられる中、現地を取材中のカメラマン、コールダーに本社からある指令が出される。それは、メキシコに足止めされている社長の令嬢サマンサを無事にアメリカまで送り届けろというもの。当初は安全なフェリーを利用するはずが、思わぬトラブルに巻き込まれ、危険な陸路での縦断を余儀なくされる2人だったひょんなことからその危険地帯を通って一緒に帰国するハメになった一組のアメリカ人男女の運命を、迫力のVFX映像を盛り込みつつ、美しい映像とドキュメンタリー・タッチの演出で描き出していく。

 こうして前作のプロットを書いているだけでも面白そうだが続編はまるで興奮しない。メキシコを超えて全世界に広がった筈のモンスターと人類の戦いを描く筈だがこれが後述するが期待外れ。
監督・脚本は新鋭トム・グリーンなんて聞いたことが無い無能の男に任せたのがイケなかった。

 トム・グリーン監督はこれまでテレビシリーズや短編映画を手がけてきたがエドワーズの遺産を受けてメガホンをとった。地球外生命体を乗せた宇宙探査機が地球に到達して16年。いまやモンスターがうごめく危険地帯はメキシコを越えて地球全土に広がっていた。

 ところが中東(ロケ地はヨルダン)では、モンスターに対する米軍の空爆で被害を受けた武装勢力と米軍との間に起こった軍事衝突が激化。
シリア国内で米ソの空爆を受ける「イスラム国」を思わせる。
だが武装勢力などと言うテロリストの要素を入れるからモンスターvs米軍と言う図式が曖昧になる。

大きく分けて3つの舞台に分けられる。

 映画の冒頭は不況の街デトロイト。若いマイケル・パークス(ジョニー・ハリス)は「このままでは麻薬の売人しか仕事が無い」と呟きながら、選択の余地なく志願してモンスター退治に中近東の砂漠地帯に出兵することになる。仲間たちフランキー・マックガイア(ジョー・デンプシー)やショーン・ウィリアムス(パーカー・ソイヤーズ)たちと一緒に、明日からは入隊と言う前夜の過ごし方は酒に女に博打。思い出すのはベトナムに出兵する前夜の「ディア・ハンター」に似ている。

 中近東の戦場、巨大なカマキリと言うかイカのようなエイリアンの群れにヘリコプターで攻撃を加える。
 この戦いが映画のメインだと思っているが、モンスターは、それからは遠景にしか写しだされない。
モンスターをよそに人間同士の戦争が続いている中に、新たに派兵されたマイケルたち若き米兵は、危険地帯の深部で連絡を絶った部隊の救出に向かうが、そこでかつてない巨大モンスターに遭遇する。
当然のことながら機関銃もロケット砲も通用しない。
だがモンスターは積極的に攻めてこない。

 脅威はアラビア人のテロリストだ。敵や悪役の男性は白い「カンドゥーラを着、縞模様のスカーフを被る。イスラム教の教え通り髭を生やしアラブ人と相場が決まっている。マイケルたち4人の偵察隊は武装勢力のテロリストに囲まれ捕えられる。

 何とか脱出し仲間を探すマイケルはでっぷり太った中年のノア・フレイター軍曹(ジョニー・ハリス)と砂漠を捜索中に武装勢力に襲われ皆殺しになったスクールバスを発見する。
そこで虫の息で生き延びていた男の子を救ったことでモスリムの村人に迎えられて食事を与えられ一息つく。

 戦闘のベテラン、フレイター軍曹は一刻も落ち着かない。M16ライフルを所構わずぶっ放し策敵行動に出ようとする。丁度「ハート・ロッカー」のジぇレミー・キーナーのような戦闘依存症なのだろう。
軍曹も死に、ようやく廃墟で見つけたフランキーもショーンも息絶え絶えの重傷を負っておりマイケルの腕の中で亡くなる。

 モンスターvs米国精鋭部隊の図式はいつの間にか消え去り、アフガンやシリアのような対テロリスト戦闘と米兵たちの友情の映画になってしまっている。

 出演はスターがおらず無名の俳優ばかり、主役の二等兵は「ビトレイヤー」に顔を出したジョニー・ハリス位が認識できる程度。長身を迷彩服に身を包み、短い髪に精悍な目つきのイケメン・ハリスは1人熱演をしている。

 観客が7名しかいない謎が映画を見終わって分かる。

新宿のシネマカリテにて公開中。

「世界から猫が消えたなら」(日本映画):涙、涙の「セカ猫」は「セカ中」や「今会い」を超えるだろうか?

$
0
0
19日のブログに書いた懸念通り東宝とアスミック・エースからバス事故で学生の死亡事故から映画が始まる「TOO YOUNG TO DIE!」に関し、下記のような「上映延期」の通知が届いた。
公開まで2週間余りを数える今ではTOHOシネマズの主要劇場を抑えている番組の調整は大変な苦労があるだろうと思われるが、この状況下では、延期は避けられないだろう。
______________________________
報道関係各位
映画「TOOYOUNGTODIE!」公開延期のお知らせ

このたび、2016年2月6日(土)より全国映画館にて上映を予定いたしておりました映画「TOO YOUNG TO DIE!」の公開を延期することを決定いたしました。
本作品のシーンの一部ではありますが、先般のスキーバス転落事故を想起させる可能性がございますので、このような判断をさせていただきました。

新たな公開時期につきましては、決定次第お知らせ申し上げます。
引き続き、ご支援のほど、宜しくお願い申し上げます。

また、公開延期に伴い、予定いたしておりましたマスコミ試写会は中止させていただきます。
2016年1月20日
「TOO YOUNG TO DIE!」
製作委員会幹事:
アスミック・エース株式会社
東宝株式会社
________________________________________


 こんなに泣かされる映画はこのところ無かった。
感傷・泣かせ映画で余命幾ばくかの主人公は常套手段だが、それに仔猫が絡むのが辛い。

最初はキジ虎の「レタス」そして10数年経ってサバ虎の「キャベツ」に代わる。

映画の冒頭、ボク(佐藤健)の沈んだ声の独白から胸に迫る。
 「世界から猫が消えたなら、この世界はどう変わるのだろうか?
これはボクに起きた本当の出来事です。
もう直ぐボクは死にます。
この手紙はあなたに残した最初で最後の手紙です」

そしてシーンはボクの回顧に進む。

市街電車がゆっくり走る函館の街並み。
郊外へ続くコンクリート道を30歳の郵便配達員のボクはその日の勤務を終え自転車で家路へ急ぐ。
突然ボクは猛烈な頭痛に襲われ自転車もろとも転倒する。
スローモーションで宙に浮くボクは一回転して地上に叩きつけられる。

救急病院に担ぎこまれて傷の手当を受け、序に全身をMRIを撮った医者は厳かに宣言する。
「君は重症の脳腫瘍に冒されている。脳動脈はいつ切れるかもしれない。余命は幾ばくも無い」と。

ガランとした家に戻ると卓袱台にボクが座っている。

ボくの前にボクと同じ姿をした悪魔が現れたのだ。同じ顔、同じ姿、同じ着物、
唯一の違いはマフラーをクビに巻いていることと、ボクは転倒した時に右目の下に負った切り傷に絆創膏を張ってあることだ。

映画上映後の記者会見で、「ボク」と「悪魔」の二役を演じた佐藤健が可笑しかった。
Screenで見るより小柄だ。良く喋る。

 悪魔のメイキャップをさせてくれると思ったら、違いは両手の指が1.5センチ長いだけだったと。
でも見ている方は誰も気付かない。

悪魔が言う。「何か大切なモノを消すのと引き換えに1日の余命を与える」と。
嫌いなパセリを消して貰おうと注文を出すと
こちらから指定するものだけだ、とニベもない。

最初は携帯電話を消せと。

何かを得るためには
何かを失わなくてはならない。
電話が無い生活はそれでも重大な支障はきたさない。

電話の次は「映画」。
映画を通じて親友となったDVDレンタル屋・店長ツタヤ(浜田岳)とも別れる。浜田が幅広い顔をクシャクシャにして泣く。古い映画館「ナミヤ劇場」も消える。

 「時計」は父さん(奥田瑛二)と結びついている。先祖から受け継いだ家業は「カモメ時計店」。
職人気質の父さんはボクが産まれた時も病院に駆け付けず、母さん(原田美枝子)に抱かれて家の敷居を跨いだ時に「生れてくれてありがとう」とひと言呟いたと母から聞いた。
母が倒れて入院した時も時計の修理をしていて現れない。
ボクは父さんと距離を置いて疎遠になる。

別れた彼女(宮崎あおい)との想い出はアルゼンチンへの旅行。「イグアス」の豪壮な滝は函館のこじんまりした絵を圧倒する激しさだ。
しかしこの旅の後で別れることになる彼女が母さんの手紙を預かっていてくれた。

やはり母さんとの想い出は泣かせる。
小学生のボクが雨の中でキジ虎の「レタス」を拾って来る。
猫アレルギーの母さんはダメだと言うが無理してボクの言う通りにしてくれる。その10数年後、レタスは母さんの病気に付き合って息を引き取る。母さんはボクへの手紙を残して癌で亡くなる。

そして猫。今の猫「キャベツ」はサバ寅。キャベツを消せばボクは一日生き延びる。

ここで冒頭のシーンに戻る。
「世界から猫が消えたなら、この世界はどう変わるのだろうか?」

記者会見に原作者の川村元気が出席している。
驚いたことに川村は東宝社員で映画のプロデューサー。5年前、吉田修一原作・妻夫木総主演「悪人」を制作した時に映画と小説の表現の差や違いに気付いて興味を抱いたと言う。
だから原作を永井聡監督がどう料理するか予想はついたと言う。
永井は劇場長編映画の経験は殆ど無く、もっぱらCMのディレクターで名を馳せている。

だからストーリーを追わずイメージ寄りのスタイリッシュな手法だ。

プロデューサーは、東宝は市川南に博報堂の春名慶。二人とも「世界の中心で愛を叫ぶ」と「今逢いに行きます」の大ヒットを制作している。記者会見でこの二作を超えられるだろうかとの質問を受けていたが、「超えられる」と自信満々。

 余命わずかの主人公の前に現れた、自分と同じ姿の悪魔と言う発想が面白く、
大切なものをひとつ「消す」こととひきかえに、1日の命をもらえると言う展開に惹きつけられて2時間弱の長さも気にならない。泣きながら物語を追った。

「僕」と「悪魔」の二役に挑むのは、佐藤 健。
そのかつての恋人に宮あおい。

たった一人の親友は映画オタクの濱田 岳。
疎遠になった父に奥田瑛二、元彼女の宮崎あおい、
そして小さい頃に死別した母が原田美枝子と実力派の俳優陣が仔猫・キャベツと一緒に
長編劇場映画デビューの永井聡の演出に従う。

 数々のCMで広告賞を受賞してきた永井 聡のスタイリッシュな画像は、「セカ中」などの職人脚本家・岡田惠和の脚色に支えられている。哀しいメロディアスな主題曲がエンディンに流れる。澄んだ歌声はこれがデビューの16歳の新人歌手HARUHI。

5月14日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて公開される。

「人生は小説よりも奇なり」(LOVE IS STRANGE)(アメリカ映画):同性婚が法律上認められて39年振りに晴れて結婚した老ゲイカップルは却って周囲からのプレッシャーに潰されそうになる。

$
0
0
「事実は小説よりも奇なり」を文字った邦題は映画の内容とも異なっている。「愛情とは不思議なものだ」が原題の意。同性婚を扱う映画は最近話題のLGBT(レズ・ゲイ・バイスクシュアル・トランスベスタイト)の運動が盛り上がりに乗っている作品だ。
オスカー候補にも「キャロル」や「リリーの総て」の2作品が上がっていることでも分かる。

この背後にはLGBTの権利の擁護と国際人権法確立を目的とした「モントリオール宣言」が2006年7月に採択され、性的指向による差別禁止や社会参加の観点から、同性結婚や登録パートナーシップ制度の必要性が盛り込まれた。世界各国で同性婚は認められることになった訳だ。

しかしカトリック教会の総本山であるローマ教皇庁のバチカン市国や、政教一致のイスラム国家であるサウジアラビアなどのように、同性結婚や異性装に否定的な見解を表明している国や地域、団体なども多々存在するし,一般人でも毛嫌いしている保守的な人も多い。

この映画の舞台となるNYでは2011年にアンドリュー・クオモ知事(民主)は、同性結婚を合法化する法案に署名し、法案が発行された。同年7月24日に法案が施行された。
今日紹介する映画は長い間事実上の結婚生活を送っていたゲイカップルが、法律上同性婚が認められ晴れて結婚できる老人を描いた作品だ。

ニューヨーク、マンハッタン。39年来連れ添ってきた画家のベン(ジョン・リスゴー)と音楽教師のジョージ(アルフレッド・モリーナ)はNY州法が改正され同性婚が合法となり念願かなって結婚した。

周囲の祝福を受けて、二人の新たな人生は順調に始まるはずだった。
しかし入籍を公表し届け出た途端にジョージは勤務先の学校、厳しいカソリック系の学校をクビになる。
学校関係者はジョージのゲイ性向やベンと同棲していることは知っていた。だが大っぴらになると教区の神父や信者が黙っていない。

ベンの絵は売れないしこれまでジョージの月給で暮していてモーゲージやローンを払っていた生活はいとも簡単に崩れてしまう。
ともかくアパートを出なければならない。宿無しになるばかりか保険や年金など現実問題が次々と押し寄せ、二人はそれぞれ知人や親戚のもとに身を寄せることになる。

晴れて結婚した途端に別居生活を強いられる。

法律的には認められLGBTの権利の擁護は強く唱えられながら、住む社会からの根強い差別と肩身の狭い居候生活に心が押しつぶされそうになりながら、ベンとジョージは互いの存在の大切さ、自分を理解してくれる人がいることの幸せに改めて気づく。

世の中未だ保守的で差別やプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも愛情を育むカップルの姿が、周囲の人々を変えていくというストーリーは感動的だ。

いつもは脇役ながら実力派のベテラン俳優たちの熱演に圧倒される。
普通映画上でのゲイは若い美男子同士が多く絵になるが、老人のホモは最初気色が悪い。
特にジョージ役を「スパイダーマン2」の悪役、デブの62歳、アルフレッド・モリーナの姿に僕の目は最初は敬遠していた。

 久しぶりの登場で少し太った主人公・ベン役を「愛と追憶の日々」のジョン・リスゴーは花王石鹸のような横顔のシャープさは消えている。70歳で主演は肩の荷も重かっただろう。

 脇を固めるのはマリサ・トウメイやダーレン・バロウズ、チャーリー・ターバンら若手俳優。もっともトウメイは「いとこのビニー」でオスカーを貰ってから23年も経ち51歳のオバさんになっている。

 懐かしいのはニューヨークのミッドタウンからヴィレッジに至る街並みとクラシックの名曲の数々。
マンハッタン側からブルックリンの眺望やイーストリバーを挟んで高層ビルのシルエット。
流行りの今風の主題歌は無く老人たちにあわせてショパン、ベートーベン、ヘンリク・ヴィエニャフスキたちのクラシックの楽曲が背景に流れる。

 監督・脚本は「あぁ、結婚生活」(2007年)のアイラ・サックス。
サックス監督自身もゲイであることをカミングアウトしている。
劇中でベンの描く絵はサックスのパートナーで画家のボリス・トレスの作品だ。
同性婚の主人公たちの心理や行動、周囲の目や扱いを体験しているからこそ描ける作品だろう。

3月シネスィッチ銀座他で公開される。

「エスコバル 楽園の掟」(ESCOBAR:PARADISE LOST)(仏・西・白・パナマ合作映画):実在のコロンビア麻薬王と旅行者、カナダ人サーファーの友情と裏切り

$
0
0
ついせんだって「ボーダーライン」(SICARIO)を見たばかり。メキシコとアメリカの国境を我が物顔で自由に往来する麻薬密輸王を元メキシコ検察官で妻子を虐殺されたベニチオ・デル・トロ扮する暗殺者(SICARIO)アレハンドロが単身麻薬王の一家団欒の夕食の席に乗り込み妻子も含め4人を冷酷無残に射殺して復讐を果たすもの。

クールで冷徹な暗殺者から一転して実在の麻薬王、パブロ・エスコバルに扮するデル・トロは体重を10キロも増やし、下腹は飛び出し、顔中髭だらけの二重顎。 
 役柄は麻薬王と暗殺者・アレハンドロと善悪入れ替わって当然イメージも天地の差がある。 

 映画は1991年6月、どうにも動きが取れようも無くなり官憲に自首し収監されようとする前夜のパブロ・エスコバル(デル・トロ)。収容される監獄と言っても自分用に資金を出して建設されたル・カテドラルで愛人同伴だ。出国を前に29歳のカナダ人ニコラス(ニック)・スパークス(ジョシュ・ハッチャーソン)が邸宅に呼びつけられる。エスコバルの莫大な財産を政府や官憲の目から秘匿するために信頼の置ける人間が10数人集まっている。

 何故、半黒のコロンビア人に混じってニックのような白人(グリンゴ)がいるのかが不思議だ。

 エスコバルは国会議員として様々な慈善事業に携わり、民衆に愛されながらも、その裏では仲間にも容赦しない残忍非道な麻薬カルテルのボスとして世界を震撼させていた。
 麻薬は治療に使われアメリカに密輸して大金を稼ぐことなど悪いことだとは思われていない。むしろ稼いだ大金を皆にばら撒くロビン・フッドのような義賊だと思われている。

 収監される数年前の回想シーン。
コロンビアに住んでサーフィングをおしえている兄(ブラッドリー・コルベット)が足を負傷したので代

代理教師として兄一家を訪れたカナダ人サーファーのニック。
たまたまエスコバルが娘以上に可愛がる姪のマリア(クラウディア・トライサック)がエスコバルの支援している病院で看護婦としてやって来る。
そして二人は出会い熱烈な恋に陥り結婚する。

 エスコバルは自分の裏のビジネス、麻薬密輸出にも義理の息子のようにしているニックを重用し事業を手伝わせる。
 ニック(エスコバルは「ニコ」と呼ぶ)はエスコバルファミリーの重要な一員になっている。 
 
 冒頭の1991年6月のシーンに戻る。
呼び寄せられニックはエスコバルから指示を受ける。
エスコバルの資産(現金宝石類)を積んだ小型トラックに乗って遠く離れた山の洞窟に埋めるようにと。

その時、農村の百姓がトラックに同乗し洞窟の入口をダイナマイトで爆破するのを手伝わせる。
しかし終わったらその男を射殺して口封じをしろと。
村の百姓に会うと未だ15歳の少年、仕事を終わったが殺したくないのでエスコバルに電話を入れるとどうも様子がおかしい。
マリアも焦っていて逃げろと。

エスコバルマフィアは警察や軍隊にも顔が利く。
その網の目を潜っての逃走劇がクライマックスとなる。

イタリア人生まれ俳優上がりのアンドレア・ステファノが監督・脚本。
長編劇場映画デビュー作だが、何故ニックや兄一家、更にマリアまで魔手が伸びてくるのか良く分からない。皆殺しにしなければいけない動機が釈然としない。エスコバルファミリーが全員白い礼服を纏って記念写真を撮るシーンが印象的だけに、皆殺しにはしっかりした理由が欲しい。

エスコバルは実在の麻薬王で1993年脱獄して逃走中に射殺される。
44歳の短い生涯だったがコロンビアばかりでなくアメリカでも知らない人は居ない麻薬王だった。

カナダ人サーファーのニックというのはフィクションで、寒々としたクライム劇にロマンスの色添えをしてドラマを盛り上げている。

B級ドラマとしては頑張っているがステファノ監督の未熟さが終盤の盛り上げに影を落としているのが惜しい。

世界7番目の富豪にまで上り詰めた実在の麻薬王パブロ・エスコバルに成りきるために体重を増加させスタイルを変え顔の輪郭まで崩したオスカー受賞者(トラフィック)、べネチオ・デル・トロと「ハンガー・ゲーム」シリーズで売り出したジョッシュ・ハッチャーソンの異色の組み合わせは上手く噛みあって良かったと思う。

3月12日よりシネマサンシャイン池袋他で公開される。
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live




Latest Images