Quantcast
Channel: 恵介の映画あれこれ
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live

「トランスフォーマー/最後の騎士王」(「Transformers: The Last Knight)(アメリカ映画):アメリカでコケても中国で救われ「疲労」したシリーズ大作の悲喜劇。ハリウッド映画は今

$
0
0
アメリカでは6月21日から上映が始まった
シリーズ第5弾は4069館で開け69.1M(76.9億円)と予想以上の低調。週末3日間に限れば5弾目で金属疲労(Rusty)を起こしているのだろうか。

07年の第1作ですら70.5Mの成績だった。

今日は夏のシリーズ大作がスタジオ関係者の思惑通りの成績を挙げられない金属疲労(Rusty)を起こしている状態をコメントする。

ハリウッドではシリーズ疲労(Serial Fatigue)と呼び、真剣に対応策に当たっている。

キャラが同じでやることなすこと似たようなことを大画面でやられても
飽きてしまっているのだ。

夏に登場したシリーズ大作は総てシリーズ疲労(Serial Fatigue)を起している。

Disneyの「Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales」(パイレーツ・オブ・カリビアン―最後の海賊―)やDisney-Marvelの「Guardians of the Galaxy Vol. 2」(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス)などは軒並み「疲労」している。

このトランスフォーマー第5弾には217M(242億円)と巨額な制作費を注ぎ込んでいる。

デビュー週末で制作費の1/3にも達しなければ、北米だけでは赤字になるのは必至だ。
ところが「救いの神」はアメリカ以外の海外市場。

23日から週末3日間で196.2M(218億円)をたたき出した。

例えば中国では初日のみで41Mを挙げ、週末3日で123.4M(137億円)を記録している。

ハリウッドは中国観客でもっていると言っても過言ではない。

入場料金が平均1230円とは日本の1250円とほぼ変わらない。
一昔前は映画初日の夕刻には海賊版が路上で100~200円程度で売られていた。
映画の著作権なぞ糞くらえで、官憲も手を拱いていた。

中国政府はハリウッド映画の輸入に対して制限(クォータ)をしていた。
政治的に自由や民主主義を唱える映画は輸入禁止にしていた。
民主活動家でノーベル平和賞を受賞した劉暁波などの主張する映画や文学は許さない。

ハリウッド大作(Tentpole)は一切政治に関係無いノー天気作品。
だから中国当局は殆どのテントポールに上映許可を与え、
これがウィンウィンゲームでハリウッドを救っているのだ。

大作は殆どIMAXや3D、中国人は何も考えずに済む大スペクトルな立体映画を好む。

 政府当局が輸入する映画はヴィデオ撮影が可能な2D作品を外し、立体映画だけ。
画像が二重になるのでヴィデオで撮っても売り物にならない。

かくして海賊版が一掃された中国観客はシリーズ大作であろうと何であれお墨付きの立体映画を見に映画館に駆けつける。

だからデビュー週末のワールドワイド総計はアメリカ国内が不振でも265.3M(295億円)に達した。

ひとつ日本の映画ファンにとって淋しいのは「日本パッシング」。
プレミアム上映や監督やスターの記者会見、更に映画のシーンなどを含め「日本抜き=パッシング」なのだ。
 
中国でロケし香港や上海でレッドカーペットのプレミアム上映は中国では当たり前のことになっている。

中国資本(ワンダパンダやアリババなど)のアメリカ映画界支配も目に余る。今やアメリカの映画館配給網のみならず、インディペンデントの大手映画制作会社(レジェンダリーなど)は中国の会社だ。
その後をフォローする。

2週目でアメリカでは3位に落ちるが、海外市場はFatigueは関係無く、44か国で開け68M、
累積で327.8M,ワールドワイド総計は429.9Mに達した。
内中国単独で193.5M(218億円)を挙げているから凄い。

7月16日現在ではアメリカでは125M、海外市場は392M,
ワールドワイド総計は517M(584億円)に達している。
勿論アメリカだけでは赤字になる。


「(北米がダメでも)私たちのビジネスゴールはワールドワイド総計よ。この映画は世界の観客に向けて制作されているのだから」
とパラマウントピクチャー(PP)配給社長のミーガン・コリガンが力説する。

観客の出口調査(CS)ではB+評価。
Tomatometerは15%と酷く、評論家はまっとうにコメント出来ないと匙を投げている。

PPとしては「Baywatch」や「Ghost in the Schell」がコケた後だけに、この世界的ヒットは嬉しい。
マイケル・ベイ作品の最後のLast Chapterと宣伝でうたっていますがスピンオフを含めてこの調子ならシリーズ疲労にも拘わらず後2-3本続けるのではないか。
これまでシリーズ4本は、北米で1.3B、ワールドワイド総計興行収入が3.5B(3,900億円)を記録するなど、世界中で圧倒的大ヒットを続けるシリーズだが「疲労」にどう対処するか?

物語は例によって荒唐無稽。

主人公は前回に引き続きケイド・イェーガー(マーク・ウォールバーグ)。
 地球に秘められたエネルギーを求めて、トランスフォーマーの故郷・サイバトロン星が地球に急接近し、衝突まであと12時間と迫っていた。
しかも人類の守護神オプティマス・プライムまでもが「創造主」に拘束されて敵側に堕ち、人類は絶体絶命の危機を迎える。

そんな中、オートボットの新たなリーダー、バンブルビーと人類は戦いの準備を始める。
謎の英国紳士、エドムント・バートン卿(アンソニー・ホプキンス)は1000年もの遥かな昔から秘かに地球で活動していたトランスフォーマーの秘密を守り続けていた。
オックスフォード大学の教授ヴィヴィアン(ローラ・ハドック)らとともに、
地球の運命をかけた戦いに身を投じていくケイドだったが、
人類が救われる一つのヒントは「アーサー王と円卓の騎士」伝説にあると言う。

タイトルにもある「最後の騎士」のことだが、どうにも唐突過ぎて納得しかねる。

共演にレノックス役でジョシュ・デュアメル、ジミーにジェロッド・カーマイケル、イザベラにイザベラ・モナーなどが顔を見せる。
渡辺謙がドリフトの声を拭き替えている。」

玩具の売り上げでは人類の救世主で守護神のオプティマス・プライムが最大の敵になり、大人気キャラのバンブルビーがついに主役の座を射止め、マスコットとして新キャラのTF版R2-D2が登場する。そっくりさんだ。

監督はシリーズ4本総てを演出したマイケル・ベイ。「アルマゲドン」や「パールハーバー」などの大アクション劇も演出したことは大衆の頭から消えている。
「Mr.トランスフォーマー」のマイケル・ベイだ。

8月頭から日本で上映が始まるが
「疲労」を気にするアメリカ観客態度か?
立体で大スペクトラなら大歓迎の中国観客気分か?
さて日本の映画ファンはどちらだろうかと興味が湧く。

8月4日よりTOHOシネマズ新宿他にてIMAX,3D,2Dで全国公開される。

日劇や丸の内ピカデリーなど銀座、有楽町、日比谷での上映は無い。
配給元東和ピクチャーの地域対策ポリシーを具体的に聞きたいものだ。

「ボン・ボヤージュ〜家族旅行は大暴走~」(Full Speed)(仏映画):バカンスにコックス一家は父親トムの真っ赤な新車でビーチを目指すが故障で160キロの猛スピードで暴走しはじめる 

$
0
0
昨日(22日)から始まったフレンチ・コメディ。
PRや広告も見ないのでがら空きだと有楽町駅前のヒューマントラスト有楽町に出かけた。
3時35分に始まるのに1時間前で既に殆ど満員。
スクリーン前の席D23で我慢しなければならなかった。

 期待していた以上に面白い。家族を乗せた車が猛スピードで暴走、登場人物の異常な性格、浮気や不倫の縺れ、ぼけ老人の祖父、傍若無人の子どもたち、それに暴走者に巻き込まれる脇役たちも個性豊かだ。
白バイ警官のカップルや母親に見捨てられた年増の娘、暴走車に愛車BMWのドアを跳ね飛ばされて頭に来る男など、十分に楽しませてくれる。

特にリュック・ベッソンが主導するフランス映画はカーチェイスを初め車を扱わせたら世界一、それにヤマカシのような軽業も得意だ。

昨年12月にフランスで公開されこんなに抱腹絶倒の面白さで大ヒットになっていると言うのにアメリカでは公開の予定は全く無い。ヨーロッパ以外では日本のGAGAが買い付けて日本のファンに楽しむ機会を与えてくれた。

夏休みになり、整形外科医である父トム・コックス(ジョゼ・ガルシア)、臨月を迎えている精神分析医の母ジュリア(カロリーヌ・ヴィニョ)、一風変わった9歳の娘リゾン(ジョゼフィーヌ・キャリーズ)、やんちゃな7歳の息子ノエ(スティラノ・ルカイエ)のコックス一家4人はリゾートへバカンスに出かけようとしていた。

そこへ呼びもしないのに乗り込んで来る祖父ベン(アンドレ・デュソリエ)。妻を亡くして長く、やたら女性にコナをかけるが片端から振られている。

一家はややこしいお爺ちゃんを煙たがるが、ファザコンで育ったトムは甘い。
結局嫌々ながら連れて行くことにするが、直前に「オシッコ!」とアパートに戻る。
流すトイレにペイパーのロールを大量に落とし、取り繕うために小さなタオルをかけ蓋を閉める。
トイレが溢れるのは火を見るより明らかだが祖父ベンは意にも介さず車に戻る。

主人公のトム・コックスは「フレンチ・ラン」「ル・ブレ」などのジョゼ・ガルシア。形成外科医だが金儲けにため美容整形外科医に転じたトム。案の定、手術の失敗で顔がグチャグチャになった女性患者の夫から怒りの電話と破壊された妻の顔写真が送られて来る。
祖父ベン・コックスも「パリよ、永遠に」「恋するシャンソン」などでお馴染みのベテラン、アンドレ・デュソリエ。

孫や嫁には弱いが息子トムには絶対的権力を振るう。暇に任せて片端から女性を口説く悪い癖。ドライブ途中のガソリンスタンドで母親に置いてきぼりにされたヌーディスト・ビーチへ向かうメロディー(シャルロット・ガブリ)を後部座席に隠しバレたことから騒動が始まる。

登場人物は誰も個性豊かな家族たちと脇でドタバタ跳ね回る警官たちや車のドアを壊された若い男。
小金持ちのトムは購買したばかりのAIコントロールの最新システムを搭載した真っ赤な新車で出発するが、その直後ブレーキが効かなくなってしまう。
祖父ベンは知ったかぶりの指示。アクセルを踏み直後にブレーキを掛ける、スピードは落ちる筈だ。アクセルを踏んだため一家の車は時速130kmから160kmにアップし高速道路を暴走し始める。

大体、車に「メデューサ」なんて名前はつけない。
ギリシャ神話に出て来る怪物の魔女で、宝石のように輝く目を持ち、見たものを石に変える能力を持つ。頭髪は無数の毒蛇で、イノシシの歯、青銅の手、黄金の翼を持っている。ああ気持ちが悪い。

パニック状態の中、ついつい家族の秘密が次々に露見するのが笑える。
トムもジュリアも浮気をしていたことがあっさりバレる。

高速道路パトロール警官2人は愛を交わした直後、暴走車を止めることもできない。一家の車を追走してくる男は愛車BMWのドアをこわされて怒り狂っている。

ニュース速報でフランス全土が知ることになったが、周囲にトラブルまき散らし突き進む車の向かう先には、大渋滞が待ち受けていた。
このままでは大惨事は必至。

果たして一家の運命や如何に?
このB級コメディはアッと思う解決法を観客に提供しハッピーエンドとなる。
見てのお楽しみに。

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中

「ダンケルク」(Dunkirk)(米・英・仏映画):ダンケルクからの敗残兵に迎えの友人が声をかける「良くやった!」「俺たちがやったことは生き残ることだけだった」「それで充分だったんだよ」

$
0
0
 アメリカで先週末の21日から上映が始まったクリストファー・ノーラン監督の「Dunkirk」は3720館で公開され50.5M(56億円)と関係者の予想(40Mを超える程度か)以上の成績を収めた。

海外も46か国で開け、55.4M、ノーラン監督の祖国UKで12.4M、韓国の10.3Mが目立つ。
(韓国はスパイダーマンでも25.8M)グローバル総計は105.9M(117億円)になる、

制作費の100M(111億円)や莫大な広告やPRなどマーケティング費用の回収があるので
興行成績は内外で脚長く頑張らなければならない。
これだけのストーリーをランニングタイム、僅か107分はノーラン作品としては最短映画だ。

興行成績を後押ししているのは好評なマスコミでの映画評論家や、観客の評判で、出口調査CSではA−評価(25歳以下ではA 評価)、 Rotten Tomatoesは91%と観客に受けている。観客層は男性が60%、25歳以上が76%を占める。.

第2次世界大戦でフランス北部の港町に追い詰められた40万人の英仏連合軍のうち33. 3 万人を超える(主としてイギリス軍)兵士の救出作戦を題材にした作品。
(チャーチルは「撤収は勝利とは呼べないが、この状況下でこれだけの兵士を救出したことは我が英国軍の勝利だ」と言っている)

ポーランドを侵攻し、そこから北フランスまで勢力を広げたドイツ軍は、戦車や航空機といった機械化新兵器を用いて電撃的な戦いで英仏連合軍をフランス北部のダンケルクへと追い詰めていく。海峡を隔て母国ドーバーの白い崖は目の前に見えるが34キロは近くて遠い。

1950年5月26日、イギリス首相のチャーチルは、軍艦はもとより、民間の船舶も総動員した「ダイナモ作戦」を発動する。80万人のドイツ軍によってフランス北端に追い詰められた英仏軍兵士たち40万人の運命と、救出に挑んだ者たちの活躍を描く。

ジョン・ウェインの「史上最大の作戦」(62)にしてもスピルバーグ監督「プライベイトライアン」(98)にしても、「戦争映画」は大同小異。そこで行われた激戦は歴史上事実だからd。
ところが「ダークナイト」三部作や「インセプション」などの巨匠、クリストファー・ノーラン監督の撮る戦争映画は「普通の戦争映画」では無い。

ドイツ軍兵士はヘルメットもハーケンクロイツも含めて全く画面に姿を見せず「敵」とか「悪人」と言う感じを観客に与えない。
だが見えないドイツ軍との陸海空での大激戦を追う。

冒頭、イギリス陸軍一個小隊がダンケルク市内でドイツ軍に襲撃される。逃げ惑うギリス兵士は次々と倒れただ一人、味方の塹壕に飛び込んで助かるのはイギリス軍二等兵トミー(フィオン・ホワイトヘッド=新人)で彼の目を通して、陸上の激戦を海岸や埠頭などの戦闘を描く。

空は制空権を握るドイツのメッサ―シュミットと対峙する少数精鋭の英空軍スピット・ファイアのパイロット(トム・ハーディ)の目だけのクローズアップで追う。戦闘機同士のドッグファイトは迫力満点だ。

そして海、遠浅のダンケルク沖は大型戦艦は乗り入れられずイギリスから動員された
民間の遊覧船・ドーソン船長(マーク・ライランス)は10代の息子ピーター(トム・ギリアン・カーニー)と一緒に兵士を運ぶ。
どんなに船に兵士が溢れていても溺れているパイロットなどを救出する勇気に感激する。

ドーバーの白い崖が近づいて来た時の兵士たちの歓声はドーソン船長とピーターへの報酬だ。

ダンケルク埠頭で殆どの兵士を送り出した英海軍ボルトン司令官(ケネス・ブラナー)は
副官のウィナント大佐(ジェイムス・ダーシー)から
「そろそろ我々も乗船しましょう」と誘われる。
「いや未だフランス軍を助け出すまで留まる」と、美しい軍人魂ではないか。

「ダークナイト」「インターステラー」のクリストファー・ノーラン監督が、初めて実話をもとにノーランのコンセプトで脚本を書いている。

9日間続いた史上最大の救出劇「ダイナモ作戦」の一部にハイライトを当て陸海空での激戦を代表させる手法。

主人公は居ない。夫々の闘いでの主役は英空軍パイロットとして「マッドマックス 怒りのデス・ロード」などのトム・ハーディ、

陸で活躍するトミ―二等兵と海岸出合い行動を共にする「プルートで朝食を」などのキリアン・マーフィ、
英海軍司令官を「ヘンリー五世」などのケネス・ブラナーらが出演。

カメラが素晴らしい。
IMAX65ミリとラージ・フォーマット65ミリ・フィルムと呼ばれる手法を組み合わせて、
陸海空3つの戦場で動き回るターゲットを確実に抑える。
圧倒的なスケールでクローズアップされる戦闘シーンなどは見事だ。

尾羽打ち枯らしボロボロの負傷兵が列車で送られて来た。迎えに出た駅頭の友人が声をかける。
「良くやった!」
「俺たちがやったことは生き残ることだけだった」
「それで充分だったんだよ」

こんなセンチメンタルで無い、実情報告のリアリティの会話が心に突き刺さる。
相手を打ち負かす「戦い」ではなく、生き残りをかけた「撤退」の映画をノーラン監督は贈ってくれた。

9月9日より新宿ピカデリー他で公開される

「エイリアン コヴェナント」(Alien: Covenant)(アメリカ・イギリス映画):40年前のオリジナル・エイリアンの恐怖を再現し味わせてくれる元祖・SF宇宙ホラー映画

$
0
0
最初のエイリアンを見た時の衝撃は忘れられない。
1979年5月末のNYタイムススクウエアに面した地下の小さな映画館だった。

未だ見てないと思ったメル・ギブソンの映画だとあるから飛び込んだ。
そしたら既に日本で公開済みの「マッドマックス」ではないか。

窓口へ行って他の映画にしてくれと言ったら、
無名の監督リドリー・スコットの如何にもB級映画「エイリアン」に代えてくれた。
主演の女優、シガニ―・ウィーバー(当時29歳)も新人で馴染みがない。

予備知識が無いところへ飛んでもない怖い映画を見させられることになる。
大型宇宙船の薄暗い閉鎖空間の中で、宇宙飛行士の腹を喰い破って飛び出すネバネバした怪物、顔に張り付いたら引き剝がせない亀の甲のような幼虫、
いつの間にか宇宙船に入り込んだ「異星人(エイリアン)」に
乗組員たちが次々と襲われる。

シガニ―とエイリアンが数センチの間近で対峙する恐怖は悲鳴をあげそうになる。
宇宙ものSFホラーの新しいジャンルがR・スコットが開発したのだ。

見終わって地上に出て来たら若者(僕もそのころは若者っだが)
「怖かっただろう」と話しかけてくる。

映画は未だ口コミも伝わらずガラガラの上映開始の翌日の土曜だった。
恐怖感を分かち合い意見を交換したかったのだろう。僕らは路上で20分ほど話し合ったが
エイリアンが誕生する瞬間とモンスターとウィーバーとの数センチの対決に興味が集中する。

NY中、いや世界中を震駭させたこの新機軸の宇宙ホラー映画はスコットとウィーバーの出世作になった。
この映画のお陰で地球外生物=エイリアンは悪の権化となるが、数年後S・スピルバーグが地球外生物をエイリアンと呼ばず、「ET」として人間との間に友情を育てイメージは多少改良される。

1979年制作のオリジナル「エイリアン」の流れを続ける、エイリアンシリーズも6作目を数える。
(2本の「Alien vs Predator」は勘定に入れない)

「シリーズ疲労」を考えすぎで色んな物を付け足したり、回り道をしたりしている。
例えば前作「プロメテウス」(12)はエイリアンの前日譚。

 考古学者のエリザベス·ショウとチャーリー·ホロウェイは新たに古代遺跡を発見した。その壁画の構図はそれまで複数の古代文明で見つかった物と明らかに共通点が見られる。ここから人類が追い続けていた種の起源の答えとなる未知の惑星の存在が浮かび上がる。

ウェイランド・コーポレーション選抜の科学者たちを中心に編成された調査チームは、
宇宙船プロメテウス号に乗り込み星図の示す別の太陽系を目指して出発する。

こうなると横道にそれすぎて我々の「エイリアン」で無くなる。

リドリー・スコットは聡いし慧眼だ。
どこが間違っていたかがすぐわかる。

忽ち横道、回り道を止めて正道に戻そうとしたのがこの新作だ。
オリジナル作品で味わった恐怖が再び襲って来る。

もっとも40年前の第一作など若い観客は知らない。
最初から人間の腹を喰い破って襲って来るエイリアンの恐ろしさを味わえる。

5月19日にアメリカで公開が始まったこの作品、
映画興行成績のチャート首位に踊り出た。
全米3761館で公開され36M(40億円)をあげ0.7Mの僅差をつけて前週首位の「GUARDIANS OF~」の35.3Mを抜いてトップになった。

制作費は100M(111億円)になるが、先行している海外77カ国で累積81.3Mを稼ぎ、
ワールドワイド総計は既に117.8M(132億円)に届いているので赤字にはならない。

FOX国内配給社長のクリス・アーロンは前作「プロメテウス」に比べてBOが劣るのは「通常のビジネスの成り行きだ」と言う。

この「Alien: Covenant」は79年からのシリーズ・ファン層と若い世代がシェアできる機会を与えていると。
60%の観客は18-34才の年齢層だ。ロットン・トマトのフレッシュネスは73%と悪く無い。

時系列的には「エイリアン」の前日譚を描いた2012年の「プロメテウス」の続編。

銀河系のはるか彼方の惑星「オリガエ6」を人類居住地とすべくコールド・スリープの男女2000人の移民を乗せて出航したコロニー船「コヴナント」号は、強烈な衝撃音を受けて船長を始め数十人が命を失い、謎の惑星に不時着する。

そこは、かつてプロメテウス号で発生した事故の生存者が発信したと思われる惑星だった。
夫の船長を亡くしたばかりのダニエルズ飛行士(キャサリン・ウォーターストン)と
アンドロイドのウォルター(マイケル・ファスビンダー)が降りたつ。
空気も水もありオリガエ6」よりも人類が移住するには適切だと思われる。
しかし好事魔多し。その惑星には忌み嫌うエイリアンが住み着いていたのだ。

卵や幼虫のエイリアンはいつの間にかコヴナント号に入り込んで乗組員たちを餌食にしようとしていた。
オリジナル「エイリアン」の恐怖を再体験することになる。

出演はキャサリン・ウォターストン、ノオミ・ラパス、マイケル・ファスビンダーなど。

新たな主人公となる女性ダニエルズを、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」で
注目されたキャサリン・ウォーターストンが演じる。

「プロメテウス」でアンドロイドのデヴィッド役を演じたマイケル・ファスベンダーが続投。
もう一人のアンドロイド、ウォルター役とダブルキャスト。
性格は違うがファスビンダーが二役なので容貌はそっくり。
ウォルターを信頼している観客は見事に騙される。
「X-Men」シリーズ常連のファスベンダーは「エイリアン」の顔になった。

尚「コヴェナント」(covenant)とは「契約」の意味。
コヴェナントはユダヤ人と神との契約を意味し、旧約聖書「出エジプト記」で神がイスラエルの民に与えることを約束した乳と蜜の流れる「約束の地」(promised land)を謳ったもので「オリガエ6」のことを意味する。
今はイスラエルが占拠しているヨルダン川西岸の地域だ。

結論から言うと原点帰りの「エイリアン6」は40年前の驚愕のショックを思い出し充分堪能した。

9月15日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される

「追想」(Le vieux fusil)(仏・西独映画):妻子をナチ親衛隊に惨殺された医師ジュリアンは天井裏から古い散弾銃を持ち出し、たった一人で10数人のドイツ兵と戦う

$
0
0
昨日(25日)のハリウッド業界紙「ハリウッド・レポーター」に興味深い記事が出ている。
中国で「不動産王」の王健林は総資産は2200億元(約4兆円)で世界のトップ10に入る大富豪。

大連万達(ワンダ)グループの総帥でここ10年はアメリカのエンターテインメント業界に進出してきた。

先ず全米最大の映画館チェーンAMC Entertainment Inc.を買収。AMCは6か国に358館、5,128スクリーンを持つ。

引き続き大連万達集団は米ハリウッドの大手制作会社「レジェンダリー・エンターテインメント」を35億ドル(約4000億円)で買収した。

インディペンデントの「レジェンダリー」が手掛けた最近のヒット作には
「ジュラシック・ワールド」や「インターステラー」、「バットマン」シリーズ
「エイリアン」シリーズ、
それに反日映画「アンブロークン」などがある。
ソフトバンクの孫正義はこの制作会社に270億円投資をしている。。

そして念願のハリウッドのメジャーのスタジオ買収の夢、特に経営が破綻している
「パラマウント映画」に狙いをつけていた。

ところが最近になり中国政府が海外投資を控えるようにと規制命令が入った。
軍人上がりの王は上からの命令に従順で、$1B(1113億円)で買収契約寸前のTVのディック・クラーク・プロダクションを諦めてしまった。

メジャースタジオ買収の計画も廃止になり王健林のハリウッド制覇の夢は大きく後退する。

買収計画中止で問題は広がる。
資金は殆ど世界の銀行からのローンで賄われていたが
計画中止で入って来るものが無くなると負債が大きく浮かび上がる。

大連万達は子会社の中国全土に持つ13のテーマパークを6.5Bで
77のワンダホテルを3Bで売却しローン返済に充てる予定と言う。

全体主義国家の枠組み中で資本主義企業自由闊達に活動する困難さを目の当たりに見る。


「追想」と言えばイングリッド・バーグマンとユル・ブリナーの
ロマノフ王朝の最後の皇女・アナスタシアを主人公にした作品しかないのだが、
邦題とは言え全く同名のフランス映画があるとは知らなかった。

原題は「Anastasia」で1956年の作品、更にこの「追想」より20年前、つまり半世紀を超す60年前の映画だ。パット・ブーンの歌う主題曲も大ヒットした。

こちらの原題は英語で言えば「The Old Gun」。
映画を見ていれば天井裏に隠した昔のショットガンを取り出すので分かる。

1944年、ナチスドイツ占領下のフランスの小都市、モントバン。
町の病院で働く外科医のジュリアン(フィリップ・ノワレ)は、家族の身を案じて、妻のクララ(ロミー・シュナイダー)と娘のフロランス(カトリーヌ・デラポルト)を自分の郷里の村に所有する古城へ疎開させることを決意。
ところが5日経っても電話が無いので、彼らを訪ねて郷里に戻ったジュリアンは、村人たち10数人がみなナチスたちに惨殺されていた。

フロランスは銃で撃たれクララは火炎放射器で黒焦げになっていた。
愛する妻子の変わり果てた姿に怒りに燃えたジュリアンは、復讐に立ち上がる。

ハリウッドなら得意のランボーかダイハード・スタイルの「ワンマンズ・アーミー」と言うパターンだ。
天井裏に隠してあるショットガンを取り出す。
長い間使っていないので大丈夫かなと気になるが、
ジュリアンが部品を磨き丹念に組み立てると屈強の武器になりそうだ。

但し散弾銃は二発だけ、ポンプ式の連発ではない。
ナチの軽機関銃にはとても太刀打ちできそうもない。

ここからがジュリアンの「ホームグラウンドの利」を活かす。
幼い頃から育った古城の地下トンネルの抜け道や壁の窪み、狙撃場所のポイントなど、
「ホームアローン」式の待ち受けの迎撃で、井戸の底から水汲みに来た兵士を射殺することから始める。

ナチ親衛隊は装甲車で逃げようと城の門を出た橋に差し掛かったところでジュリアンが細工をしてある渡り橋は崩落する。城は崖の上に建っているので落ちた装甲車は岩に叩き付けられ炎上する。

「それ、ゲリラの襲撃だ!」と門を閉じ城に籠って迎撃態勢に入る10数人のナチ。
武装親衛隊長(ヨアヒム・ハンセン)の命令一下、
副官の中尉(ロベルト・ホフマン)も兵士に窓の外の監視を強化する。
ところがジュリアンは城の中。隙きを見ては一人一人狙撃して行く。

筋立てを書いてしまえば上述のままだが、邦題の示す通り
ジュリアンは戦いの合間に絶えず昔を思い出している。

クララとの出会いと結婚、娘フランソワの成長、頑固な
ジュリアンの母親(マドレーヌ・オズレー)、
親友の同僚の医師フランソワ(ジャン・ブイーズ)と妻クララとの親しさ。

いい加減に戦いに集中しろよ!と言いたいほどに戦闘シーン度々中断され
回顧シーンが入り、ゆっくりと進行する。

名匠と言われるロベール・アンリコが監督し本国フランスでは大ヒット、
その翌年のセザール賞では9部門ものノミネートを受け、
作品賞・主演男優賞・音楽賞の3部門を受賞した。

ヨーロッパのフランスやイタリアなどのペースに合っているが、
せっかちなアメリカ人観客には無理だ。
だから一般公開はされずに、DVDでの発売のみだ。

主人公のジュリアン医師を演じるフィリップ・ノワレはこの時46歳。シェイクスピアの舞台で鍛えた舞台俳優で演技はしっかりしている。
「最後の晩餐」(73)「ニューシネマ・パラダイス」(88)などの映画にも出演している。

息を呑むほど美しいのはクララ役のドイツ美人、ロミー・シュナイダー。碧眼、金髪、色白、ゲルマン人の典型だ。この時38歳、それから5年後に死去。ジャック・ドーシーと共演した「太陽が知っている」やジョセフ・ロージーの「暗殺者のメロディ」などが印象的で記憶に残っている。

9月9日より新宿シネマカリテで公開される。

「散歩する侵略者」(日本映画):地球を滅ぼすために3人の人間、の肉体を借り侵入して来た宇宙人たち

$
0
0
宇宙人の地球侵略などとハリウッドの手垢のついたテーマなど全く興味が無かったが、原作の劇作家・演出家の前川知大が結成した劇団イキウメの舞台をコメディタッチで映画化した黒沢清監督の作品はとても面白かった。

昨年のカンヌ映画祭の「ある視点」部門で上映された。黒沢清は主演の長澤まさみと松田龍平を連れて注文して敷いた派手なレッドカーペット・ウォークをして見せた。

「ある視点」部門はマイナーリーグ、河瀬直美の「光」が上映されるコンペティションがメジャーリーグだ。
そんなことも意に介さず正装の礼服で派手なショウアップをして見せる黒沢の邪気の無さを気に入っている。マイナーリーグでも箸にも棒にも掛からなかったがそれでもメジャーリーガーの「光」より遥に好きだ。

数日間失踪したのちに様変わりした夫が妻のもとへ戻ったのを機に、平穏だった町が変化するさまを描く。

日本海に面する小さな漁港の町が舞台。

映画の冒頭女子高生が自動車の往来の激しい道の真ん中を歩いている。乗用車はスレスレ通り過ぎるが、大きなトラックは除け損ないブレイキを掛けるが横転しドラム缶がゴロゴロ路上に散乱する。
タイトル前、ビックリするようなアクシデントだ。

週刊誌記者、桜井(長谷川博己)はデスクと電話で押し問答。その小さな町で老婆一家が殺され、現場にいた筈の女子高生、立花アキラ(恒松祐理)の行方を捜せと言う。

一旦は断りレンタルのTV中継車へ戻ると少年が興味深そうにくっ付いて来る。少年の名は天野ミツオ(高杉真宙)で自分は宇宙人で地球は慣れないのでガイドになってくれと言う。

ジャーナリストとして興味を持った桜井は天野の頼みを聞き入れる。天野は、自分は「宇宙人」で地球を滅ぼしに来たのだが、少し地球の人間が何を考えているかを探りたいと言う。

夏祭りの晩に行方の知れなくなった夫・真治(松田龍平)が、三日経って帰ってきた。加瀬鳴海(長澤まさみ)は夫が、数日間行方をくらまし、別人のようになって帰って来たのを責める。出張と言って女と一緒だったに違いないと追及するが真治は自分が誰でこの女は誰だ?と言う表情。

これまでの態度が一変した夫に疑念を抱く鳴海は、突然真治から「地球を侵略しに来た」と告白され戸惑う。

曖昧になった過去の記憶を精神科医から脳の障害と診断された彼は、会社を休み、散歩を日課とするリハビリの日々を送るようになるが、なぜか以前とは別人のように優しくなっていた。
介護にあたる妻の鳴海は、そんな夫を心穏やかな気持ちで見守りはじめる。

 失踪以来、まるで幼子に帰ったようにさまざまな言葉に好奇心を抱くシンジは、道で行きかう人ごとに、奇妙な頼みごとをしていた。

例えば引き籠りの丸尾(満島真之介)の家に入ろうとするとここは「自分の家」だから「他人のあなた」は入ってはいけない。ここで自分と他人の概念を学ぶ。

妻、鳴海はイラストの仕事を出版社の鈴木社長(光石研)から貰っているがセクハラも受けている。出版社に乗り込んだ真治は鈴木に「仕事」の概念を聞く。

こうして宇宙人たちはガイドを供に連れ、人間たちの「概念」を集めている。指で触ると「概念」は吸い取られる。取られた人間はヘナヘナとその場に崩れるが人間自身も概念に捉われなくなっている。
ひとつひとつ言葉を挙げては、相手にそれをイメージさせ「概念」を集めることを繰り返していたが、ある日両親と喧嘩をして家出をしてきた義理の妹、明日美(前田敦子)にも同じことを乞う。
気楽に応じ、その言葉「血縁」の意味するところ(概念)を心に浮かべた彼女だったが、真治が「それを貰うよ」と呟くや、たちまち激しい動揺に襲われてしまう。

それ以降、親しかった姉の鳴海に対して、明日美はなぜか冷たい態度をとりはじめ東京に戻ってしまう。

真治が帰ってきたのとほぼ時を同じくして、立花アキラが病院で昏睡状態から目を醒ました。老婆が引き起こした猟奇的な一家無理心中事件で、たったひとり地みどろで倒れていたの生き残りだった。

アキラは訪ねてきた謎の少年、天野ミツオの手引きで病院を抜け出し、やがてふたりは町を徘徊する真治と合流する。

彼ら3人は、地球を征服するために遠い星からやってきた宇宙人。真治、アキラ、ミツオの3人は、彼らに肉体を乗っ取られていたのだった。
「侵略者」とはエイリアン、「宇宙人」のことだ。
この映画は地球外生命体による地球侵略の物語。

古くはH・G・ウェルズの「宇宙戦争やTVディレクター、矢追純一、最近ではホーキンス博士など、宇宙人侵略の話は数えきれないが、黒沢の映画の宇宙人は暖かくフレンドリーだ。

天野と桜井は友情の絆で結ばれているし、真治は鳴海を愛している。
ただ一人、典型的な戦闘的で人間をバンバン殺すのはJKのアキラだけだ。

しかしアキラは鳴海の運転する車に跳ねられてあっさり死ぬし、天野は厚労省の秘密捜査官、品川(笹野高史)や串田刑事(児島一哉)との銃撃戦で重傷を負い死ぬ。
宇宙人は不死身じゃないのだ。

宇宙人ながら人間的要素を多分に残している真治の存在が大惨事を防ぐ。真治がずーっと追及しているのが「愛」と言う概念。教会へ行って牧師(東出昌大)の説教を聞くが却って分からなくなる。

結局「愛」を教えてくれたのは、妻の鳴海だった。「愛」を知った真治は仲間たちを説得し宇宙侵略をやめさせるのだが、これは最初から想定内の事柄だった。

黒沢清監督作品で僕が好きなのはベルリン映画祭で好評だった「岸辺の旅」(14)。
夫(浅野忠信)が幽霊になって戻って来るのはこの映画と一脈通じるところがある。
ラストシーンで愛する妻(深津絵里)と別れるシーンがあるがその海岸が、この映画で妻と別れることになる入江にそっくりだ。
ますます「岸辺の旅」の続編の感を強くした。

9月9日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「ネリー・アルカン  愛と孤独の淵で」(Nelly)(カナダ映画):娼婦としての人生にも作家としてのキャリアにも終焉を迎えたネリー・アルカン

$
0
0
久しぶりに読売ジャイアンツが宿敵赤ヘル軍団の広島に勝って、いい気分でNHKニュースを見終わると、いきなり「24時間戦えますか?」のCMソングが流れる。
僕が営業局長時代(1988~)にクライアントの三共さんの「リゲイン」のために時任三郎をタレントに使い大ヒットした精力剤(栄養ドリンク)で、大きな利益を挙げさせて貰った。
三共の担当役員のK専務は「時 任三郎(とき にんさぶろう)」と呼んでいたのを思い出す。

懐かしさにひたっていられない。
番組ではこのCMソングこそが電通の働き方だったと「叩く」ためのシンボルなのだと強調している。

新入女子社員の「過労死?」から電通が「ブラック企業」と非難を浴び、それでも罰金刑と書類送検で終わったと思ったら、裁判所が改めて法廷で電通と事件に関連した幹部社員を裁くことになった。

NHKは山本敏博新社長への単独インタビューを含め、どのように改革に取り組むか、その方策を聞き検証する番組だ。

すると僕らが現役時代に残した伝統と経験、治験は「負の遺産」になっているのだろうか?
心が痛む。
このブログで何度も取り上げているように高橋まつりさんは「過労死」ではない。

「週刊新潮」が今年1月、2月と2回にわたり記事にしているように、高橋さんは仕事そっちのけの関心事があったのだ。
4か月振りに正月休みで、任地アメリカから帰国しクリスマスイブを過ごした恋人に、突如「別れ」を告げられ、ショックから発作的にマンション4階から飛び降りた「失恋自殺」なのだ。

改めて議論はしないが、争点のスタートから間違っており、電通が「自虐的」に自分たちが間違っていたと世間に認めてしまったから、朝日新聞(自社社員の過重労働で労基から査察を受けている)を初めとして日頃電通に恨みを持っているマスコミに殴る蹴るの一方的な制裁を浴びているだけなのだ。

NHKの番組でも山本社長は一方的に今までの電通の働き方が間違っていたことを認めその改善の施策を述べている。
そもそも「過労死などでは無かった」と一言いえないのだろうか、見ていて苛々する。


今日紹介する「ネリー・アルカン」は1973年生まれのカナダ、フランスで人気がある女性作家の自伝映画。18年前の09年9月に36歳の若さで自ら人生に幕を閉じた。

映画公開と併行してアルカンの小説を舞台化した「この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える」あるいは「失われた七つの歌」と題して、PARCO Productionにより11月に銀河劇場で上演される。

出演は松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、霧矢大夢という女優6名と、ダンサーの奥野美和。

映画のネリー・アルカン役で主演を務めるマイリ―ン・マッケイ(Mylene Mackay)は自身も作家であり女優で日本では紹介されていない。
「Endorphine」(15)と言う作品を1本だけ撮っている。
30代だろうが年齢不詳、長身でスリム、馬面だがなかなかの美形。役柄、全裸シーンやファックシーンは多いが余り色気がある方で無い。
 他の出演者も馴染みの無い俳優ばかりで、PR会社から貰ったプレスも役に立たない。
 
 監督・脚本はアンヌ・エモン。
34歳の若い女性で、ショートフィルムで経験を積み、デビュー作「ある夜のセックスのこと モントリオール、27時」で釜山やトロントの映画祭で注目を浴び、この作品は長編3作目だ。

昨年9月の母国カナダのTIFF(トロント・インターナショナル・フィルム・フェスティバル)で初披露されたがUS、スェーデン、ドイツでは小さな映画祭で上映される予定だが、一般公開は日本が初めて。日本は凄いと言うか母国カナダでも一般公開してなく評価が決まっていないのにミズテンで配給するのはパルコで舞台の絡みからだろう。初めに舞台ありきだ。

ネリーは本名イザベル・フォルティエ(Isabelle Fortier)と言う。
少女時代の13歳のイザベルをミリア・コルベイユ=ゴーブロが演じているが、家族の中でも異端児だった。

長じて家族を離れ経済的に独立するためモントリオールで高級娼婦になる小説は、ほぼ自身の生涯を綴ったもの。

デビューしてたった8年で、大胆かつ悲劇的に去って行った小説家ネリー・アルカンの生涯はフツ―に暮らす我々にダイナマイトクラスの衝撃を与える。

振り返ると01年、小説「Putain」「邦題:キスだけはやめて」の原稿をフランスの歴史のある有名なSeuil出版社(出版社)に送ったところ、2週間で出版で決まり、処女作が出版され、一躍有名作家の仲間入りを果たした。

この処女作で作者自身がコールガールだった時代のことを大胆に述べている。
その後、04年に「Folle(「狂った女性」)」と07年に「A ciel ouvert (「野外」」の2冊を出版。
そして08年9月24日に自宅アパートにて自殺。
その数日後に4冊目にして遺作「Paradis, clef en main(「天国、鍵を掴んで」)」が店頭に並び、2年後の10年に「Burqa de chair(「肉のブルカ」)」が出版され、その中に所収された未発表の作品「La robe(「ドレス」)」と「La honte(「恥」)」が世に出た。

これまでの人生、家族の中でつねに感じていた疎外感、自分が「女」であること、心の内側に秘めたその怒りを爆発させ、強烈で目をそらしてしまいそうな感情などを赤裸々に小説の中で描いている。

映画は高給コールガール時代を中心に描く。ネリー・アルカン役で主演を務めるマイリ―ン・マッケイの七変化が興味深い。皆芸名と言うか妓名を使う。
イザベルは使う妓名で性格も顔つきも変わって来る。

例えばハリウッド女優、マリリン・モンローを意識した「マリリン」は見事な金髪で腰を大きく振ってマリリン・ウォーク。オーラルもアナルもお金さえ積めばセックスも奔放で客からも引っ張りだこ。

ブルネットに染め誠実そうな「アミ」にはステディなボーイフレンド、フランシス(ミカエル・グアン)がご執心で結婚を申し込まれる。

チョット太っちょで気さくな娼婦仲間ペギー(カトリーヌ・ブリュネネ)には「シンシア」の名で付き合いガールトークや飲食を共にして楽しむ。

コールガール、「ネリー」のマネジャーとしてはスザンヌ(シルヴィー・ドゥラポ)は客の注文やスケジュールを見事に捌く能吏。

フランスの出版社の担当編集者、エマニュエル・シュワルツ(ギヨーム・リヴァル)は処女作ほど読者へのアピール力が落ちて来たことを心配しネリーに苦言や忠告をする。

監督・脚本のアンヌ・エモンは「生きたいのに生きていくのに苦労する女性像」を追い続けている。

娼婦としての人生にも作家としてのキャリアにも影を迎えながら、生き抜こうと努力するネリーの生き様は凄絶だ。

10月よりYEBISU GARDEN CINEMAにて公開される。

「エル」(Elle)(フランス映画):突如窓から飛び込んで来た黒覆面の男にレイプされるゲーム会社女性社長のミシェル。だが、事件の真相よりも根深く恐ろしいのはミシェル自身の本性だった

$
0
0
「氷の微笑」(1992)で一躍名を挙げたポール・ヴァーホーヴェン監督が華麗なる官能映画を撮ると期待して見始めるが主演がフランスの大ベテラン女優、イザベル・ユペールと聞いて興味が半減する。

「氷の微笑」の大ヒットは何と言っても刑事マイケル・ダグラスと被疑者シャロン・ストーンの駆け引きが展開されるエロティック・サスペンスにある。

男達が大騒ぎをしたのはシャロン・ストーンが取調室でノーパンの足組み返しにあり、
そのシーンを狙って何度も通うファンも居たほどだ。

この時シャロンは33歳、濃艶な女盛りで男達は涎を垂らして画面に食い入った。

この「エル」ことミシェルも悪女。
ヒットを続出するゲーム会社社長の大富豪。
男を次々と手玉に取って弄ぶ。

しかし問題はミシェルを演じる女優の年齢。
シャロンの倍ほどのお婆さんだと言うこと。
大女優、イザベル・ユッペールは、還暦はとっくに過ぎた64歳。

いくら全裸になり(驚くことに整形の効果か豊満な胸だが)
上へ下へと体位を変えて強烈なファックシーンが展開されようとも、
はたまた彼女を憧れる男が寝室に侵入しネグリジェを引き裂きレイプしようとも
ボクはシラけるだけで興奮しない。

原作はフィリップ・ディジの小説「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」。

そんな年齢に偏見を持つのはボク一人だけらしい。
本国フランスでセザール賞を総なめにし、
ハリウッドのゴールデングローブ賞やアカデミー賞主演女優賞ノミネートも果たしている。

事件が始まるのは雨がそぼ降る夜、
ミシェル(ユッペール)が自宅の窓の外でニャーニャー鳴いている茶トラの飼い猫を入れた途端に
全身黒タイツで黒覆面の男が襲い掛かる。
ナイトガウンをズタズタに全裸に剥かれレイプされる。
猫が興味深そうに暴行されるミシェルを眺めている。

暴行魔は別れた夫か、恋人か、部下か、親友の夫か、向いの隣人か?
ざっと思い出すだけで何人もそれらしき男が数えられるのが男たらしの悪女の証拠。

覆面の男に襲われた後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。

自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。
39年前、殺人を犯した父親に10歳だったミシェルも関与した疑いを持たれていた。
忌まわしい過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。
ミシェルは警察に届けたらとの友人の忠告も聞き入れない。

ミシェルの周囲は手に負えないバカばかり。
暴行を受けた翌日一人息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)が訪ねて来て、
恋人のジョージ―(アリス・イザース)が妊娠したので結婚すると言う。
半年前までは家でブラブラしていた男はファーストフードで働き始めた。

翌朝いつものように出社したミシェルは親友で共同経営者のアンナ(アンヌ・コンシニ)と
新作ゲームのプレビューをしダメ出しをするミシェルにゲーム・デザイナーのキュルトは猛反発する。

帰宅すると待ち構えていたように送信者不明のメール。どうやら近くに居る者の仕業だ。

元夫で売れない小説家のリシャール(シャルル・ベリング)は自分の提案したゲーム案を却下されたのを恨んでいるのかも知れない。

向いの隣人パトリック(ロラン・ラフィット)は妙に慣れ慣れしく色目を使う。

そうこうする内にゲームの映像にミシェルの顔写真を貼って社員全員に送られて来る。

アンナは言う。社員は全員貴方のことを憎んでいる。
「誰が犯人でもおかしくない」と。
アンナこそ唯一の心を許せる友達だ。

新発売のゲームは大ヒットしその祝賀パーティでミシェルは夫ロベルトが浮気をしているとアンナはこぼす。
それは実は「私よ」と真実を告白してから色情狂的なミシェルの本性が次第に明らかになる。

黒覆面のレイプを回想場面で何度も堪能し、
親友の夫、スキンヘッドのロベルト(クリスチャン・バーケル)との荒っぽいセックスを貪るし、
部下の恋人、ケヴィン(アーサー・マゼ)も貪欲に攻めまくる。

観客にとって次第に明かされていくのは、事件の真相よりも根深くミステリアスで
恐ろしいミシェル自身の本性だった。

人種差別主義(レイシスト)だとも分る。
ヴィンセントの赤子の肌色が少しばかり濃い。
妻のジョージ―が黒人と寝ていると決めつける。

恋人ケヴィンの下半身を露出させペニスをチェックする。
「割礼」をしてないのでユダヤ人ではないと、安心する。

彼女こそが、犯人よりも遥かに危ない存在だった。 こんな複雑な多重人格キャラクターを演じられるのはベテラン女優ユッペウェールしか居ないかも知れない。

主演のミシェル役はカンヌで主演女優賞を受けた「ピアニスト」(01)やヴェネチアで主演女優賞の「主婦マリーがしたこと」(88)などのイザベル・ユペール。
他の出演者は隣人パトリック役に「ミモザの島に消えた母」などのロラン・ラフィット。
親友アンナに愛されるために、ここにいる」などのアンヌ・コンシニらが共演。

「ロボコップ」(87)でブレイクし「トータル・リコール」(92)の映像で世界を驚かせ「氷の微笑」(92)で官能的なサイコスリラーのジャンルを広げたオランダ人、ポール・ヴァーホーヴェン監督。
79歳の老監督がハリウッドから干されて6年、
フランスでは暖かく迎えられ昔取った杵柄と誇れる作品に仕上げた。

アメリカでは小さな映画祭を除いて一般公開の予定は無い。

8月25日よりTOHOシネマズシャンテ他全国公開される。

「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」(The Mummy)(アメリカ映画):中東の戦闘地帯で2000年前の石棺が発掘され、中に古代エジプトの王女アマネットのミイラが発見される

$
0
0
アメリカのように日本でも金曜(28日)から上映が始まった。
2日目の昨日(29日)4時10分の日劇を覗いた。

11階の日劇1は久しぶりで客席も7割の入りだったが、
意外なことに前の座席の頭が邪魔で字幕が読めない。

丸の内ピカデリーやスカラ座、シャンテではそんなことが無いのだが、P列の通路側と言う好位置だが前の席の座席から聳える頭が邪魔で見難い。
今後注意してチケットを買わねばならない。
見終わって6時15分、外へ出たら大雨だ。天気予報は曇りだと言っていたが。


さてこの映画はアメリカでは先月、6月9日に登場したが、
ホールドオーバー(前週から引き続き)の「ワンダー・ウーマン」を抜けず、
2位に甘んじて期待を裏切った。

4035館で上映され32.2M(36億円)と言う低い成績。
映画評は軒並み酷評で、観客のRotten Tomatoesもフレッシュネス18%の低調。

制作費は125M(138億円)もかけているので、
国内がダメでも、スタジオの期待するのはトム・クルーズが人気のある海外市場。

案の定66カ国で開けて141.8M, ワールドワイド総計はデビュー週末で174M(195億円)と、
ひと先ず赤字は回避できそうな雰囲気。

特に中国の貢献が大きく、初日の金曜1日だけで19M(21億円)を売り上げた。ハリウッドは中国に足を向けて寝られない。

ユニバーサルは他のスタジオと違い過去の財産を活かせる作品が少ない。ウォルト・ディズニーやフォックス、ワーナーブラザーズはマーベルやDCコミックと組んでヒット作を次ぎ次と送り出せる。

唯一のポピュラーシリーズ「ワイルド・スピード」も8本目を数えると「疲労」を起こしている。

そこで考えたのが1930-50年代に量産した「モンスター映画」。制作費も安いB級作品ながら多数ヒットさせユニバーサル・スタジオの基盤を築いた歴史がある。

1931年の「魔人ドラキュラ」を始めとする「フランケンシュタイン(1931)、
「ミイラ再生」(1932)、「狼男」(1941)などの
「ユニバーサル・モンスターズ」と呼ばれるモノクロ・ホラー作品をヒットさせ、
スタジオは恐怖映画で世界的に名を轟かせることになった。

その歴史と経験で「Dark Universal」名付けたプロジェクトを立ち上げ、
第一弾として大物、トム・クルーズ主演の「The Mummy」を登場させるに至った。

ハリウッド大通り(BLV)とヴァイン(Vine)の交差点に77フィートの大石棺を陳列し、
「Dark Universal」プロジェクトの「ホラー・クラシックハリウッド」と銘打ち、
「The Mummy」をプロモートしながら、
続く「Dracula」「The Wolf Man」「Invisible Man」や「Frankenstein」の看板を並べる。

これらの作品は既に制作に入っており、「Bride of Frankenstein」(フランケンシュタインの花嫁)は19年2月に「Dark Universal」の第2弾として公開予定となっている。

1932年のホラー映画「ミイラ再生」(The Mummy)をリブートしたのが、
99年のブレンダン・フレイザー主演の「ハムナプトラ 失われた砂漠の都」(The Mummy)で、
そして新たに生まれ変わったのが3度目の「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」(The Mummy)だ。

原題がThe Mummy一本なのに邦題がごちゃごちゃ言い立てているのがオカシイ。

さてこの映画に話を戻す。
映画の冒頭エジプトの格言らしきものがクレジットされる。
「我々は決して死ぬことはない。別の生物に変形し生き続けるのだ」
何とも意味不明だがミイラの王女が生きていることを指すのだろうか。

古代エジプトの強く美しい王女アマネット(ソフィア・ブテラ)は次期女王の座が約束されていた。
しかし、ファラオ(王)に息子が産まれ、その約束が裏切られ、絶望した彼女は「力」を手に入れるために「死者の書」に記された魔術を使い、死の神「セト」と契約を交わす。
邪悪な存在として生まれ変わったが、セト神を蘇らせる儀式の途中に捕えられる。
そしてアマネット王女は生きながらミイラにされる極刑を受けて棺に封印され、都から遠く離れた中東の地で地下深くに埋められていた。

それから2000年後、中東の戦闘地帯で石棺が発見される。
発掘に立ち会った米軍関係者ニック・モートン(トム・クルーズ)は、考古学者のジェニー(アナベル・ウォーリス)と知り合う。

実はニックは子分(ジェイク・ジョンソン)と古墳から出土されるアンティクの盗掘を副業としている、
ニックはジェニーらとともに軍用輸送機で石棺をイギリスに運ぼうとする途中でトラブルが発生。

この飛行機事故が凄い。一つしかないパラシュートをニックはジェニーに渡し彼女は脱出したものの、ニックを乗せた輸送機はロンドン郊外に墜落し、石棺が行方不明になってしまう。

石棺はジキル博士とハイド(ラッセル・クロウ)の考古学博物館に政府関係者の手で収集されていた。

棺から蘇る美しいアマネット王女は、顔中に象形文字を刻んだ入れ墨を施している。
王女はニックを契約した死の神「セト」と混同する。それと同時にニックに恋心を抱くからややこしい。

しかしニックの心はジェニーに占められ入る余地が無い。

ここでのニックの関心は「善と悪」との葛藤。自分は善の天使でなく悪魔(サタン)の化身だと友人にも話す。

物語のカギを握る秘密組織「プロディジウム(PRODIGIUM)」
この世に存在する悪を識別、分析、拘束、破壊するために作られた秘密組織。
モンスターの神話、歴史、モンスターと成り得る条件、様々な文化特有のモンスターやその起源などを研究しており、モンスターを「科学」として扱っている。

ロンドンの「自然史博物館」の地下に秘密施設があり、取り仕切るのは、天才博士のヘンリー・ジキル(ラッセル・クロウ)そして二重人格のエドモンド・ハイド氏。

ジキルとハイドこそ「ダーク・ユニバース」プロジェクトを繋ぎ合わせる重要な存在である。

強大な闇の敵に立ち向かう主人公ニック・モートンをトム・クルーズがいつものように
派手なアクションで演じる。
王女アマネット役を「キングスマン」のソフィア・ブテラ、ボブの黒髪に顔面入れ墨の異様な容貌で現れる。

映画の前半のナレーションをしていた「グラディエーター」のオスカー俳優、ラッセル・クロウが
総てを知っている、ヘンリー・ジキル博士とハイド役を渋い芝居で狂言をつとめる。

ニックと行動を共にし、いつしか恋に落ちる考古学者ジェニー役を
「アナベル 死霊館の人形」アナベル・ウォーリスが、
またしてもホラー映画を抜けきれないでいる。

監督は「ミッション・インポッシブル」などの脚本を手掛けたアレックス・カーツマン。
トム・クルーズの新シリーズを狙っているかも知れないが、どうにも出来は良く無いし、アメリカ国内では散々な目に会っている。

特にプロの批評家は辛辣だ。
しかしスタジオは「ダーク・ユニバース」プロジェクトは総て
B級作品と心得ており酷評は想定内。

観客にどれだけ堪能してもらえるかに関心を抱いている。

TOHOシネマズ日劇他で公開中

「エタニティ 永遠の花たちへ」(Eternity)(仏・ベルギー映画):フランス上流家庭の5世代にわたり169人の家族が登場する物語は断続的な寸描で人生のハイライト、誕生と死、そして結婚に焦点を当てる

$
0
0
「青いパパイヤの香り」「シクロ」や「夏至」などのベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督が「ノルウェイの森」以来6年ぶりに手がけた監督作品。

1962年生まれの55歳、ベトナム戦争終結にむかいつつある13歳の時に両親と弟と一家4人でパリに移住。
ベトナムでは大家族が当たり前だが4人家族でパリに住むことになり「大家族」に興味を持ったのがこの作品に取り組む動機の一つとなったようだ。

僕は31歳のデビュー作でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人賞)受賞した「青いパパイヤの香り」(93)2年後にベネチア国際映画祭のグランプリ受賞「シクロ」(95)の2本を高く買う。「夏至」(00)も悪くなかった。

いけないのはキムタクを主演に撮った「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」(I Come with the Rain)(09)と村上春樹原作で菊地凛子を主演にした「ノルウェイの森」(10)。日本人を入れたら足が地に着かなくなった。

 心余りて言葉足らず、何を言いたいのだろうかともかく駄作だった。
故郷のベトナムを舞台にしているのとは違う。「やはり野に置け蓮華草」

だから6年もオファーが無かったのだろうか。

この作品は第二の故郷フランスの大家族を描くものだから前作のようなドジは踏まない。
そして素晴らしい感動を持って見終わる。

中心人物は19世紀末に、ファミリーの礎をつくるために最初に花嫁となるヴァランティーヌ(オドレイ・トトゥ)。
息子の嫁のマチルダ(メラニー・ロラン)そしてマチルダの従妹、ガブリエル(ベレニス・ベジョ)だ。


19世紀末から現代至るまで、5世代にわたり169人の家族が登場するが、物語は断続的な寸描(ヴィグネット)で人生のハイライト、誕生と死、そして結婚に焦点を当てる。

貴族的な家族からのそれぞれの登場人物は、フランスの上流階級の華麗な衣装に包まれて気品のある性格の持ち主。

監督の妻、ドラン・ヌー・イエン・ケーのしっとりとしたナレーションは通奏されるクラシック音楽と相俟ってゴージャスな家族を更に引き立て浮き彫りにする。

宮殿と見まがう広大な邸宅と鬱蒼とした緑に包まれた庭園。
息の合った撮影監督、マーク・リー・ピンピンのカメラは光と影で貴族階級の人々を捉えている。
トラン・アン・ユン監督の「夏至」「ノルウェイの森」を担当し、「花様年華』で全米批評家協会賞を授与されている。

冒頭は19世紀末のフランス。ヴァランティーヌ(トトゥ)は、親が決めたジュール(アリ・ウォルター)との婚約を破棄してしまう。

ところが、彼女に惹かれしつこく食い下がるジュールに徐々に親近感を抱く。
やがて結婚した二人は夫婦として深い絆で結ばれ5人の子供が生まれるが、病気や戦争や病気で夫や子供たちが次々と亡くなってしまう。

失意の中、ヴァランティーヌは、一人残った息子のアンリ(ジェレミー・レニエ)と幼なじみのマチルド(ロラン)の結婚を通じ、更にマチルドの従妹ガブリエル(ベジョ)とシャルル(ピエール・ドゥランドンシャン)の家庭で再び人生に喜びを見いだす。

オドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ベレニス・ベジョとフランスを代表する3大女優が
主演を果たした女性賛歌。

原作はフランスで最も権威のある文学賞の一つであるフェミナ賞の最終候補にもなった
女流作家のアリス・フェルネが、華やかなベル・エポックから幕を開け、やがて激動の時代へと突入していくフランスを舞台に書いた小説。

ヴァランティーヌには、大ヒット作アメリ」で世界の注目を集め、「ココ・アヴァン・シャネル」でセザール賞と英国アカデミー賞にノミネートされたオドレイ・トトゥ。17歳で婚約し、喜びも悲しみも抱きしめながら、何人もの孫に囲まれるまでの女の一生を演じきった

息子の嫁、マチルドには、クエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」や「オーケストラ!」など多彩な役を演じ分けるメラニー・ロラン。初恋の相手と結婚し、夫と子供への愛に生きた女性を艶やかに演じた。

マチルダの従妹、ガブリエルには「アーティスト」でオスカーとゴールデン・グローブ賞候補だったベレニス・ベジョ。
親が決めた結婚に戸惑いと不安を抱いていたが、愛とは自分たちで育てていくものだと気付く女性をドラマティックに演じた。

その他男性陣はヴァランティーヌの息子で、マチルドの夫のアンリ役に、「最後のマイ・ウェイ」や「サンローラン」などのジェレミー・レニエ。

ガブリエルの夫シャルルに「万能鑑定士Q −モナ・リザの瞳−」などのピエール・ドゥラドンシャンらが共演。

大勢の子役が顔を出す。名前は分らないが淡い毛で美しく純血のフランス人たちはゴージャスだ。
美しい映像と出演者たち、見ているだけで恍惚のイメージに包まれ、ストーリーなどどうでも良くなるから不思議だ。

長いスランプから蘇えったトラン・アン・ユン監督の華麗な作品。

今秋、シネスィッチ銀座にて公開される。

「汚れたダイヤモンド」(Diamond Noir)(仏・白映画);パリで働くピエールは、生家から追われ惨めな死に方をした父親の無念さを晴らそうと、一族への「復讐」と金庫の「ダイヤモンド」強奪を狙う

$
0
0
 友人のNさんによると、村上春樹の最新作「騎士団長殺し」は出版社に大打撃を与えていると言う。
今年上半期ランキングのトップは昨年8月に出版された佐藤愛子の「90歳。何がめでたい」の90万部で、
村上春樹はそれ以下と言うことになると精々60~70万部しか売れていない。
130万部刷ったので裁断率50%だそうだ。発行元の新潮社は税金の関係で処理をせねばならないので大赤字
だと。
 Nさんは内容がスカスカだったから1時間で読み終わったと言うが、上下2巻で1000ページ近いので暇を見つけて軽く読めたがそれでも6日ほどかかった。

僕は読み始めて、スコット・フィッジェラルドの「Great Gatsby」を下敷きにしている手軽さを感じた。

禁酒法時代の密造酒で成金になるギャツビーとそっくりな背景で
インサイダー取引で前科があるIT富豪は丘陵の森に建つ邸宅の女性(実の娘)を
毎晩見張るために谷を隔てた豪邸を買い一人で住み始める。

ギャツビーはロングアイランドの小さな入り江を挟んだ対岸に家を建て
毎日秘かに愛した女性を瞠っていたのに酷似している。

これではノーベル文学賞は更に遠のきそうだ。

今日紹介するこのフランス映画の監督アルチュール・アラリは新人でこれがデビュー作だ。映画も如何にも低予算のB級フィルムノワールの安直な画面だ。

しかし凄いエネルギーと言うか復讐の怨念を忍ばせた作品だ。

主人公、ピエール・ウルマン(ニールス・シュネーデル)はパリで生活する独身男性。裏で記憶力の良さを買われ強盗団の一味をしながら表では建築現場で働いていた。

そんなある日、警察が行方不明だったピエール・の父ヴィクトルが直ぐ傍の簡易宿舎で野垂れ死にをしているのを知らせて来る。

父はアントワープのダイヤモンド商家の跡継ぎ息子だったが研磨機に手を挟み指先を切断してしまう。それから精神を病みピエールが15歳の時に家を出たのだ。

ヴィクトル葬儀の日、父の兄で今はダイヤモンド会社を継いで財を成している叔父のジョセフ・ウルマン(ハンス・ペーター・クロース)と息子のガブリエル(ギャビー)(アウグスト・ディール)に出会う。

叔父も従弟もピエールに好意的で、乞われるままにパリを離れアントワープの叔父のダイヤモンド会社で優遇されながら働くことになる。

しかし生家から追い出され惨めな死に方をした父親の無念さを晴らそうと、
ピエールは一族への「復讐」と会社の金庫にある大量の「ダイヤモンド」強盗を秘かに狙う。

映画の冒頭はピエールの眼球のクローズアップで始まる。
女性と見まがう長い睫毛に囲まれた瞳孔。その瞳孔の中心に様々な光を放ちながら耀くダイヤモンドが見える。
このシーンは何度も繰り返され映画のシンボルとなる。
見守っていた叔父ラシッドが呟く。「ダイヤは一面だけじゃない。いくつものカット面(Facet)を持っていることを理解しろ」と。

従弟のガブリエルもピエールに親しみを感じ近づいて来る。
博士号を持つ美人女性ルイザ(ラファエル・ゴダン)と同棲して幸福の絶頂にあるようだが、
パーティでも会食の最中でも襲う癲癇の発作。

叔父ラシッドも仕事を忽ちマスターするピエールを唯一の親族として自分の後継者に考えている。

そんな状況でもピエールの「復讐心」は挫折はしない。
ある夜叔父も外出し絶好の機会が訪れる。

主演のニールス・シュネーデルはカナダ生まれの29歳。
「マイ・マザー」や「胸騒ぎの恋人」などグザビエ・ドランの作品や
「ボヴァリー夫人とパン屋」などで顔なじみだが、主演は初めて。
ダイヤのようにきらめく大きな瞳と髭の似合うイケメンだ。

大ヒットする映画では無いがジャンル映画としての存在感をギラギラ主張している。

9月中旬より渋谷ユーロスペースにて公開される。

「アンダー・ハー・マウス」(Below Her Mouth)(カナダ映画):女性同士の愛し合う世界はかくも華麗で耽美的なものか、男性の割り込む余地など無い。

$
0
0
LGBT(レズ・ゲイ・バイセキュシュアル・トランスジェンダー)に特化したジャンル映画がある。

最近では主演女優がオスカー候補になった「リリーのすべて」や「キャロル」などが挙げられる。
日本映画でも生田斗真がトランスジェンダーの女性を演じる「彼らが本気で編むときは、」が注目を浴びた。

1992年から開催されているLGBT映画の「レインボー・リール東京」(別名Tokyo International Lesbian & Gay Film Festival)は今年で26回目を迎えたが、そのオープニング作品として上映されたのが今日紹介する「アンダー・ハー・マウス」(Below Her Mouth)だ。


と言う知識も無しに、いきなり映画を見始める。
ベッドの上で二つの裸身が絡みあっている。喘ぎ声が頂上に達し金髪の方が「行った?」と聞く。
聞かれた方は「まあ」と曖昧な返事。
驚くことに二人とも乳房がある、つまりレズなのだ。

短髪のブロンドで腕や足に小さなタトゥーを入れたダラス(エリカ・リンダー)は、昼間は屋根職人として働き、夜は毎晩のように違う女性を物色しセックスに耽るがどうも今一つ満足していない。

だがある日、屋根の上で作業をしていたダラスは、仕事現場近くに住むファッション雑誌の編集者、
ジャスミン(ナタリー・クリル)を見かける。

茶髪でエレガントな彼女をひと目見た瞬間、麗しい容姿に惹かれたダラスは、彼女に声をかけるがつれない返事。
車で去り行くジャスミンにダラスは熱い視線を送る。

それもその筈、ジャスミンは婚約者のライル(セバスチャン・ピゴット)との生活を堪能していた。
その夜はライルが出張中のため、久しぶりにジャスミンは女友達と夜遊びに繰り出し楽しんでいた。

そんなとき偶然入ったバーで、ダラスと再会する。一緒に帰ろうと出た路上でダラスにいきなりキスをされ、受け入れてしまう。

ライルは性格も良いしイケメンだが、ジャスミンは少々飽きが来ているのは事実だ。
小さな屋根職人会社の社長で、誰からも縛られない自由な生き方をしているダラスのボーイッシュな姿にキスを切っ掛けにいつしか惹かれていくジャスミン。

次第に、二人は固い絆で結ばれていくようになる。
ベッドで身体を重ね、バスで愛撫し合う毎に互いに気持ちが高まっていく。

仕事中のダラスと離れて一人のジャスミンのシャワーを強めての自慰はダラスを妄想している。
ダラスがディルド(張型)を使ってジャスミンに挿入して激しく腰を振ったり、互いに口だ舐め合ったりなどセックスの激しい描写の連続だが、残念ながら肝心なスポットにボカシが入っていてシラける。

結婚を控えたジャスミンは悩む。
これまで同様に愛するライルと添い遂げる生涯か、それともダラスとの愛に耽溺する人生か、ジャスミンの心の中で葛藤が生まれ始めていた。


主人公のダラスを演じるのは、ボーイッシュなユニセックスなトップモデル。スェーデン生まれのエリカ・リンダー。
「VOGUE」や「ELLE」をはじめとする世界的ファッション誌で特集が組まれるなどの有名人だが、
これが映画初出演で画面一杯にゴージャスなイメージを溢れさせる26歳のディーバ。
もっともこのダラス役は多分演技を必要としないエリカ・リンダーの地を
そのまま出せば良いのかも知れない。

ジャスミンを演じるのは、実力派女優のナタリー・クリル。活躍の場はカナダ、ロシアを中心とする限定の場だけで馴染みがないが、それでも映画「手紙は憶えている」(15)に出演しているから記憶の良い人は覚えている。

ライルとのストレートなセックスも楽しむがダラスと繋がってからのレズの世界に溺れて行く女性を熱演している。
惜しげもなく大胆に披露する全裸姿は刺激的だが、芝居は流石プロで年季が入っている。出会いから人生が変わって行く模様を繊細に演じている。

エイプリル・マレン監督は女優出身。

「セブン・シスターズ」(What Happened to Monday?)(スェーデン映画):地球は人口100億を超えたディストピア。人口爆発を抑える厳格な1人っ子政策がしかれた社会に生まれた7人姉妹

$
0
0
「ダヴィンチ・コード」の続編で、トム・ハンクス主演の映画「インフェルノ」ではマッド・サイエンティストのバートランド・ゾブリストが
「過激な方策を以ってしない限り地球の人口爆発に歯止めをかける事はできない」と主張し、
そして大量殺戮を可能とする「インフェルノ」なるウィルスを開発しばらまこうとする。

小説ではゾブリ博士は狂人扱いで、追い込まれて自殺をするが、基本的に彼の考えは正しく、どうやって人口増加を抑えるかは喫緊の課題だ。

国連関連機関の推計によると2015年に73億人だったが2050年には100億に達するという。
食料ばかりでなく、水が足りなくなり、特に人口増加が著しいアフリカで
飢饉による大量死亡が見られる。

現在人口ナンバー1は中国の13.7億人、インドが12.6億、アメリカ3.2億、インドネシア2.5億の順だが、中国はこれ以上増やさないように「一人っ子政策」を取っている。

この映画は近未来2073年を舞台としたのディストピア社会。既に世界人口は100億を越えている。
中国と同様、人口爆発を抑えるために 厳格な1人っ子政策がしかれた社会で、食料不足を補うために遺伝子組み換えで収穫増産をはかっている。

しかしその影響は作物ばかりか人体に及び逆に多生児の出生率が増加する皮肉な現象が起こった。
遺伝子組み換えが人間に影響を与え多生児の出産を促すと言う発想が面白い。
それも双子どころじゃない、7つ子が産まれてしまうと言うのがこの映画の出発点だ。

そこで危機感を抱いた欧州連邦(EUの発展したものか?)は
中国と同様に1家族に子ども1人だけを認める「児童分配法」を実施、
違法に生まれた2人目は機械で赤ん坊を冷凍保存する「クライオスリープ」を強制実施する。
親たちも人口が減れば冷凍保存された我が子を返してもらえると分配法に従順に従う。

この背景で7人子が生まれたセットマン家の物語が始まる。
母親は産褥熱で死亡、7人も頑張ったんだから当然ありうるよな。

唯一の身寄りは母親の実父、つまり7つ児の祖父、テレンス・セットマン(クリストファー・ウォーケン)。
若い頃中東で戦ったことのある筋金入りの軍人、テレンス・セットマンは人一倍家族愛が強い。
「児童分配局」に見つからず、7人揃って生き延びるための施策を考え出す。

それは7人で「1人」を演じる7つ子姉妹に成りきることだ。
7人で生まれた順に、曜日の名前が付けられる。
「マンデイ」「チューズデイ」「ウェンズデイ」「サースデイ」「フライデイ」「サタデイ」
「サンデイ」と週に一度自分の名前の日に外出できる。

 共通の名前は「カレン・セットマン」だ。

 7人のカレンの少女時代をクララ・リードが演じる。
テレンス爺ちゃんは厳しい。
手とり足とり言動をチェックして同一にし、誰が見ても7人が同一人物に見えるようにトレーニングする。

月日が経ち祖父は亡くなり7人姉妹(ノオミ・ラパス)は政府の目を欺きながら30歳まで生き延びていた。成長しても自分の曜日だけに外出すると言う祖父の決めた方針には忠実に守っている。

 姉妹それぞれは大人になると性格や趣味も変わっている。
マリファナを吸うヒッピーなような自由な精神の持ち主、
恐怖を感じない武術の戦士、ワイルドな反逆者、天才エンジニア、
セクシーでロマンテッィクな官能女性、慈愛に満ちた皆の仲裁役など頭が切れる姉妹たちのブレーン、
と曜日毎の落差が激しい(激しすぎる)にも関わらず祖父の定めたように、
週1日ずつ外出してやり手の銀行員カレン・セットマンとして生きる7人の姉妹を演じ分けた。

ある日,深夜になってもマンデイ(月曜)が帰宅しなかったことで
一家挙げての大騒動になる(原題;何がマンデイに起こったのか?)
マンデイは子どもの頃から自分を犠牲にし家族の期待に応えようとして来た
頭の切れるリーダー的長女だ。

 ここから欧州連邦「児童分配局」の官憲と一家との熾烈な戦いが始まる。
そして姿を消したマンディは分配局を仕切るベテランの
ニコレット・ケイマン上院議員(グレン・クローズ)の陰謀と野望を見つけ出す。

トランプ大統領は全く気にしないだろうが、地球温暖化と人口爆発と言う「今そこにある危機」をテーマに取り込んだ中々良く出来たSFスリラーだ。気に入った。
 
 主演として1人7役を演じるのは、世界的にヒットしたノルウェーのミステリー「ミレニアム」シリーズのヒロイン役で注目を浴びたノオミ・ラパス。もう38歳になる。美人でも無いしブルネットで真面目くさった顔は余り好きではない。

祖父役の「プラトーン」や「スパイダーマン」など、62歳になったウィレム・デフォーも厳しい軍人並みの躾と規則で7人姉妹のサバイバルを指導する。

70歳になったグレン・クロースも「危険な情事」(87)「アルバート氏の人生」(11)などでオスカー候補になったのは昔の話だが、過激な思想で世界の秩序を保とうとする老練で欺瞞に満ちた上院議員役は適している。

アメリカを代表する両ベテラン俳優が顔を揃えているのにアメリカでの上映の予定は一切無いのは淋しい。

演出はトミー・ウィルコラ。
ノルウェーのアルタ出身でハリウッドに乗り込んだ37歳の監督。
「ヘンゼルとグレーテル」などブラックユーモアやアクションが得意。

期待以上の楽しめる作品だった。

10月21日(土)より新宿シネマカリテにて公開される。

「海の彼方」 (日本・台湾映画):1930年代に台湾から沖縄へ渡った玉木玉代婆ちゃん。2015年、婆ちゃんは、88歳の米寿を祝った。曾孫を入れると100人近い親族がお祝いに日本全国から駆けつけて来た。

$
0
0
昨日(3日)の試写は台湾文化センターで行われた。
外堀通りと日比谷通りの「西新橋一丁目交差点角に建つ「虎ノ門ビル」2階にワンフロアと集会所を設ける文化センターはむしろ台湾観光案内インフォーメーションセンターの感がある。

この6年程台湾へ行っていないが、酒井充子監督の台湾三部作、日本帝国統治下にあった日本語世代の台湾人の人生を描く「台湾人生」「台湾アイデンティティ」そして「台湾萬歳」を見て感銘を受けた。

そして黄インイク監督の逆の立場、台湾人が日本に移住して来て戦中戦後そして現代にいたる80年の物語にも興味を持つ。

台湾は1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)までの51年間、日本統治下にあった。
同じように日本の支配下にあった韓国や満州(中国)は日本を恨み(千年恨)、
大虐殺(南京)だの拉致慰安婦(少女像)だの歴史的裏付けのない噂だけで
(朝日新聞の売国奴的虚偽報道の所為もある)大騒ぎをしているのに対し、
同じように統治下で教育や道路、産業のインフラを作ってくれた日本に今でも感謝の念を忘れない。

暗殺された韓国・朴正煕大統領(弾劾された朴槿恵大統領実父)が陸軍士官学校を首席で卒業し終戦時に帝国陸軍中尉に昇進している。

 何よりも創氏改名で日本名「高木正雄」を誇りに思っているように、台湾の日本語世代は付けて貰った日本人の姓名を今でも大切にしている。

 1930年代、日本統治下の台湾からおよそ70世帯の農家の人々が、沖縄県の石垣島へと移住してくる。太平洋戦争末期、沖縄が戦場になったので台湾へ集団疎開し戦後改めて戻って来たことは余り知られていない。

 玉木家の祖先も彼らと同じように海を渡り、八重山諸島に移り住んだ。
沖縄県石垣島の「嵩田」と「名蔵」という二つの地区を中心に形成された台湾人村落がある。

 石垣島を含む10の島々で沖縄本島の那覇より台湾の方が近く肉眼でも見える。
それから80年後、2015年春、88歳の玉木玉代さんは、米寿を祝った。
子供たちは5人、孫が29人、そして曾孫が40人。
つれ合いも含めると100人近い親族が玉代婆ちゃんの米寿の祝いに日本全国から飛んで来る。

 八百屋(屋号アップル)の甥っ子が作ってくれた円筒形のテーブルがオカシイ。
丸いテーブルにはおめでとうの赤や黄色の派手な文字。
その上に1ダースものバースデイケイキが並べられ、婆ちゃんは回転椅子に座ってグルリと廻りながら
とり囲んだ親族の挨拶をし,ケイキを食べる。

そこで出た提案は娘や孫たちと5人で生まれ故郷の台湾・埔里へ最後の里帰りをしようと言うもの。

 石垣島に渡った台湾家族は70世帯。フェリーが毎日島と台湾南部を繋ぎ、
パイナップルや蔗糖などの台湾特産品を輸入していた。

 ところが原油価格が上がり採算が取れないフェリーが廃止になって事態が一変する。
島の産業を支えていたパイナップル缶詰工場はフィリピン産の低価格品に太刀打ちできず次々と倒産。
島の人々も沖縄本土ばかりか内地に散って行った。

1972年アメリカ統治からの日本返還よりも大きなショックは
同じ72年の台湾(中華民国)の国連脱退だ。
ニクソンの突然の中国との平和条約締結で台湾は弾き飛ばされた。

このままだと石垣島移住の台湾家族は中国籍になってしまう。
台湾政府の指示で一斉に日本国籍を取得し戦中とは異なる意味で日本人としての創氏改名が行われる。

お婆ちゃんの故郷訪問のおよそ70年間の変化は想像以上に大きく、現地の人たちの言葉が分からなかったり、台中、台北の大都会ぶりに度肝を抜かれる。

一緒に付いて行った次女は語る。
「私たち台湾移民は台湾人とも日本人とも認められずあの時代はサンザンだった。
台湾語を喋ると学校で虐められるから家でも日本語で通した。
だから母(玉代)が喋る台湾語は分るけど喋れない」

台湾旅行で一番若いのが孫の玉木慎吾、32歳。
普段はミュージシャンでボーカルとギターを担当し5人のバンド仲間と全国ツアーをしている。

婆ちゃん子で、時間があると石垣島に戻って婆ちゃんのパーティやお祭りを担当する。
このドキュメンタリのナレーションを担当する慎吾は
「玉木家を継ぐのはボクなのかな」と言う自覚がある。

バンドの全国ツアーと言っても小さなジョイントのギグ程度だが、
慎吾の歌は中々行けるし、イケメンでは無いが人懐こい好青年だ。
台湾旅行では疲れた婆ちゃんを負ぶって移動するなど優しい。

監督は、日本の大学(東京造形大学)を卒業し沖縄在住、主にドキュメンタリー作品を手掛けている黄インイク。
沖縄移民の長編ドキュメンタリー「狂山之海」三部作の第一弾がこの「海の彼方」で
二弾目三弾目が楽しみだ。

8月12日よりポレポレ東中野にて公開される。

「猿の惑星:聖戦記」(War for the Planet of the Apes)(米映画):半世紀続いた「猿の惑星」8本の最終章。シーザーはモーゼのように猿たちを「約束の地」に連れていく

$
0
0
宇宙から帰還したチャールトン・ヘストンなどの飛行士たちが着陸した地球は滅亡しており、自由の女神の首が海岸に打ち上げられているショックな「猿の惑星」第一弾から数えて半世紀。「猿の惑星」シリーズ全5作+リブート3作品計8本をこの50年飽きもせずに見続けた。

「猿の惑星」シリーズからリブートする前日譚。「猿の惑星:創世記」(11)に次いで「猿の惑星:新世紀」(14)そしてこの第3弾「猿の惑星:聖戦記」。これでトータル8作目だ。
アメリカでは7月13日より登場し首位の座についた、FOXのシリーズ8作目「War for the Planet of the Apes」は4022館で56.5M。

大作の「シリーズ疲労(Sequel Fatigue)」を受けている今夏最後のテントポール映画だがスパイダーマンと言う強敵に11Mの差をつけてのトップだ。

FOXにしてみればこのホールドオーバー2作との一騎打ち、接戦になるのではないかと危惧していたが、「Spiderman~」が61%の大幅なダウンで45.2Mにまで落ちたことで安堵したようだ。

制作費は150M(169億円)の巨費を投じている。
映画を見終わった観客の受け入れ状況はRotten Tomatoesで94%、出口調査(CS)はA−と高い評価を受けている。観客層は男性57%、内25歳以上が65%を占める。

海外市場は1/3以下しか上映が始まっていなかったが、62か国から46Mでグローバル総計は102.5M(128億円)。
海外ではUKがトップで9.5Mを挙げているが、総じて3年前の「「Dawn of the Planet of the Apes」(猿の惑星:新世紀)(14)と同レベルのBO。

しかし「シリーズ疲労」は免れられない。「猿の惑星:創世記」(11)に次いで前作「Dawn of the Planet of the Apes」(猿の惑星:新世紀)(14)は72.6Mだったから22%の下落だ。

他の大作に比べてそれほど大幅な打撃ではないがFOXの責任者はこのリブートした知的霊長類シリーズは、これが最後の作品になると明言している。

3週目を終えた現在では、先週末で国内累積は118.8M, 海外累積は思ったほど伸びず105.9M, ワールドワイド総計は224.6M(250億円)に終わっている。

日本などを含めて未公開地区はあるが、赤字にならないギリギリの成績だ。珍しく海外市場が足を引っ張っている。

最終の収支は「猿の惑星:創世記」(11)は482M(532億円)、前作「猿の惑星:新世紀」(14)は710M(785億円)行っているが、この作品は300M台に留まるかもしれない。FOXが最終章にするのは正しい判断だろう。

この「聖戦記」と名付けられた最新作は、高度の知能を得た猿たちの氾濫、人類の文明崩壊、そして人類と猿との戦争と言う衝撃的なシリーズの終焉を告げるものだ。

親友のコバ(トビ・ケペル)を殺したことで2年経っても苦しんでいるシーザー(アンディ・サーキス)。
映画の冒頭で猿のコミュニティは分裂している。
シーザーはそれを一つに纏めようと努力しリーダーとして辛い責任を果たそうとする。人間も猿もどちらの種にも絶滅してほしくない。

しかし自分の家族に起こった悲劇を考えると人間とは共存できない、逆に人間への「復讐」の念に取りつかれる。

その復讐の的はアメリカ軍大佐(ウディ・ハレルソン)。冷酷な大佐が率いる人間たちとの凄絶な戦いで、想像を絶する数の仲間の死に直面する。久しぶりに熱演するハレルソンを見る。

猿たちを捕らえ強制キャンプに収容し食料も水も与えずに石を積み上げ壁作りに従事させている。
猿たちも分裂してコバ派のレッドや白いゴリラ、ウィンターは人間に付き看守や戦闘の手伝いをしている。

シーザーは捕らえられ独房に入れられ拷問を受けている。バッドエイプ(スティーブ・ザーン)やモーリス(カリン・コノヴァル)ロケット(テリー・ノタリー)などは忠実な部下として強制労働に従事している。

ブロンドの小さな女の子、ノバ(アミア・ミラー)が登場する。天使のような可愛い子だが口がきけない。
ウィルスが流行り兵士も猿も罹っている。

シーザーの役目は囚われた仲間たちを開放し鬱蒼とした森に囲まれた「約束の地」に連れていくことだった。猿だから乳と蜜は必要無いが旧約聖書「出エジプト記」のモーゼがシーザーとダブルイメージとなる。

普通はAPEと呼ぶが、軽蔑するとMonkeyになる。
アフリカン・アメリカンを「ニッガー」と呼ぶようなものだ。政治的、差別的な問題を含んだ背景で収容所を脱獄した猿たちと大佐率いるアメリカ軍との熾烈な戦闘が始まる。

大佐の部下で弓矢の名手、プリーチャー(ガブリエル・キャバリア)に脇腹を射抜かれあわやと言う時に裏切り大佐の軍についたドンキーが間一髪グルネード・ランチャーでプリーチャーを爆破してくれる。

それでも劣勢な猿軍に支援する訳でもないが大佐のアメリカ軍を目がけて、
機関砲やロケット弾で攻撃するアパッチタイプのヘリコプターに先導されて白いコートに身を包んだ巨大な人間の軍隊が攻め込んでくる。この戦闘も凄まじい。

様々な大型火器の使用で谷を埋め尽くす雪崩が発生する。猿たちが雪崩の上に聳える大木から大木へとジャンプし生き残るシーンは手に汗握る。

かくして地球の未来を切り開く「希望の地」「約束の地」に辿り着ける猿たちは「復讐」を悪と認めたシーザーのもとで繁栄を続けることになるだろうと希望を込めて映画&シリーズ8本は終わりを告げる。

監督は前回に引き続きマット・リーヴス、低予算「クローバーフィールド」で大ヒットを飛ばし「モールス」でスリリングな作品を演出した。

主演のシーザー役はアンディ・サーキス、モーション・キャプチャーのCGで顔を出さない。ストレスが溜まりそうだが引き続きのシーザー役はお手の物。

アメリカ軍大佐のウディ・ハレルソンも禿げ頭を振り振り熱演している。猿に囲まれても違和感を覚えない。

他にジュディ・グリア、アミア・ミラー、スティーヴ・ザーン、カリン・コノヴァル、そしてテリー・ノタリーも出演している。

半世紀続いたシリーズに名残りを惜しんで別れを告げるに相応しい充実した映画になっている。

10月13日よりTOHOシネマズ日劇他にて全国公開される

「野獣死すべし」(日本映画)(1959年6月9日公開):60年前の本邦初のハードボイルド映画。28歳の仲代達矢扮する伊達邦彦はクールでカッコ良い。

$
0
0
京橋の国立近代美術館フィルムセンターは今年の1月半ばから5月まで4カ月近く閉館していた。
最後に行ったのは、確か昨年冬以来だから、8カ月振りに出かけたが、どこもリフォームの跡も無い。
音響と照明を入れ替えただけと係員の女性は言うが、確かに映画の音響が澄んで聞こえ明らかに改良された感じだ。

何しろ入場料が安い。65歳以上だと310円だから暇な老人で上映20分前には満席。家にいては粗大ゴミ扱いされかねない。1000円で3本の映画を見てお釣りが来る。老人たちの天国だ。椅子の座り心地も悪く無い、半分の観客はぐっすり寝込んでいる。

7月から9月は2015-2016年に鬼籍に入った映画人(監督、脚本家、俳優、作曲者など)の作品を「逝ける映画人を偲んで」と題して上映が連日行われている。

脚本家の松山善三や白坂依志夫、監督の瀬川昌治、実相寺昭雄や、黒木和雄、浦山梧郎、映画音楽の富田勲、俳優の平幹次郎、安藤昇、愛川欣也、根津甚八、川崎敬三など、この2年に亡くなった人たちの作品がリストに連なる。

さて昨日上映されたこの映画は3人の物故者を抱える。
監督の須川栄三(但し死亡9年前の1998年10月で満68歳没)はリストに入らない)。
脚本の白坂依志夫(2015年1月82歳で没)、
準主役の小泉博(2015年5月に88歳で没)。

日本初のハードボイルド作家と騒がれた大藪春彦のデビュー小説を原作とし、「氾濫」の白坂依志夫が脚色。白坂は何度目になるか、役者としても劇中に登場している。

監督の須川栄三は大阪府大阪市出身、1930年生まれで1998年10月に68歳で没しているが、
平凡な才能で傑出した作品はない。

唯一この「野獣死すべし」は30代後半で油の乗った時期に撮り、須川の代表作とされる。他に「大人には分らない・青春白書」「君も出世ができる」「蛍川」」「などの作品がある。
妻は女優の真理明美。

60年ほどの大昔の白黒映画だからプレスも無い、ストーリーを細かく紹介しよう。

「岡田さん!」深夜の住宅街を歩く岡田刑事(瀬良明)は車の中から何者かが呼びかける声に何の警戒心もなく近づいた。

突如窓から差し出したピストルから小さく鋭い銃声、歩道に倒れる岡田は。車から降りたった青年は精悍な体つきの伊達邦彦(仲代達矢)だ。

演じる仲代達矢は今年、84歳。2015年に文化勲章を授与されるなど日本を代表する俳優だ。

公開されたばかりの「海辺のリア王」は仲代自身の体調を思わせるような認知症老人を好演していた。

伊達邦彦を演じたこの時26歳、鋭く光る大きな眼、水も滴るイイ男。

岡田刑事のS&Wレボルバー拳銃と警察手帳をポケットにつっ込み、死体を車のトランクに押しこむと、シボレーはすごいスピードで走り出す。

引金を引いてから一分とたっていない。
でもその拳銃の音のチャチなこと、そしてルーガーだろうか伊達の持つ拳銃もどう見ても玩具だ。この当時は戦後も間もないこととあって銃器などの取り扱いにスタジオは相当気を使っている。

伊達邦彦は大学院の学生だった。
ハードボイルド文学の杉村教授(中村伸郎)のゼミの助手としてのアルバイトをする傍ら、論文をアメリカのある財団の主催するコンクールに出して留学の機会をねらっていた。
秀才、勤勉、誠実というのがもっぱらの評判だ。

サッカーで鍛えた強靭な体、巧みな射撃術、冷徹無比な頭脳。
その伊達邦彦に「完全犯罪の夢」がくすぶり始めていた。
動機はない。

殺す瞬間のスリルと殺人の英雄らしさを味わいたい、それだけだった。

女にしてもそうだ。彼は決して一人の女を3度以上愛さない。
ゼミの院生、妙子(団令子)も例外ではなかった。

乗り捨てられたシボレーから岡田の死体が発見された。
警官殺しは罪が重い。厳重な捜査網がはられた。

新米刑事真杉(小泉博)もその一人だ。

2015年6月に88歳で亡くなった小泉博が初々しい新米刑事と言うのも見もの。
俳優の小泉の出演作、白坂の脚本と役者と言うことでこのシリーズ企画に含まれる。

伊達は岡田のS&W拳銃と警察手帳を巧みに使い、闇の国際賭博団のカジノ「マンドリン」を襲っては留学資金をためていた。

数日後、伊達は血眼になって彼を捜している賭博団の用心棒、三田(佐藤充)と安(西村潔)に出会った。

とっさに追手の目くらましのため行きずりのゲイボーイの手をつかむと、伊達は路上のキャデラックで熱いキスをして見せ、一瞬の隙を見てエンジンをかけて逃げた。
場末の川端でタクシーでつける三田たちに追いつめられた。

この時代はシボレーだのキャデラックだのアメ車が憧れの車。

一瞬止めた車からゲイが解放される。悲鳴をあげて駈け出したゲイを追う三田は橋の上に姿を現したところを伊達の拳銃に撃ち倒された。

ゲイの男の子を追跡者の目くらましに伊達の恋人に仕立てキスをさせるなど洒落ている。助けて貰ったらゲイの子の面倒を見なくてはならないののほっぽり出すとは冷たいね。

真杉の先輩、桑島刑事(遠野英治郎)をチーフとする捜査は進まなかった。当局は見当違いのやくざ関係を洗っていた。

一人真杉にはこれが意外な者の犯行と思えた。

新聞でみた杉村教授の現代犯罪論が真杉の気をひいた。教授を訪れた真杉は伊達を見てあっと叫んだ。
この男だ。この男こそ教授の云う「時代が創造した新しい犯罪者」に他ならない。
犯人は伊達だ、真杉は確信する。

留学資金をかせぐ伊達の最後の仕事は大学の入学金を奪うことだった。
伊達は手塚(武内亨)という男と知り合った。二人は大学を襲った。
筋書通りに運んだ。逃走する伊達には超短波でパトカーの指令が手にとるように分った。帰途、もはや不要になった手塚は車もろとも海底深くぶち込まれた。

惜し気もなくシボレーを燃やし、クラウンを海中に飛び込ませる。当時の日本映画にとっては贅沢で大胆なシーンに酔いしれたことを思い出す。

金は2000万円あった。下宿に帰るとアメリカに出した論文がパスして、ただで留学出来る旨の通知が来ていた。

警察は真杉の先導で伊達の下宿を襲ったが無駄だった。
翌日、伊達は空路アメリカに向った。
茫然と見送る妙子を真杉達は追った。

「完全犯罪なんて成立せんよ。電話一つであいつは死刑台さ……」
捜査班班長の桑島刑事がつぶやいた。
負け犬の遠吠えだ。

この当時の映画は「完」または「終」の一文字でエンドクレジットが無い。
トラックの運転手(ドライバー)は誰で飯は誰が作った(ケイタリング)なんて
観客が興味を持たないクレジットを延々5-8分程流す。
いつからあのバカバカしい習慣が始まったのだろうか。

「野獣死すべし」は筆書きの「終」で館内の照明が点く。
スカッと爽やか、気持ちが良い。

近代美術館フィルムセンターで8月5日(土)、に上映された。

「AMY SAID エイミーセッド」(日本映画):映画同好会のマドンナ、エミが死んで20年。命日に集まった仲間たちにエミの死の真相が見えて来る

$
0
0
昨年(2016)5月に70歳で亡くなったアメリカ人女性作家、キャサリンン・ダン。
生涯3冊しか書ていないが1989年に28年振りに欠いた「異形の愛」(Geek Love)(河出書房新社:2017年5月刊)が名前の通り全くの「サーカスの変わり者」(ギーク)を描いた小説は度胆を抜かれる。

語り手のオリーは「ビネウスキの奇天烈カーニバル」団長、アロイシャス・ピネウスキの娘。
父であるサーカスの団長は、傾きかけたサーカスを繁盛させるため、妊娠中の妻にヒ素などあらゆる毒薬を飲ませ、見世物用のフリークス(奇形児)を人工的に造りあげサーカスを盛り立てる。

Geekと言うのは「南米やボルネオから来た原始人」と言うアメリカでやるお馴染みのサイドショウ。
鶏を追い回し、首を食いちぎり、生血を飲むなどと言う詰まらない芸をうりものにするのだが、アロイシャスのやるのはそんな陳腐なショウでない。

長男でオリーの兄、アルチューロは両手足の欠損した「アザラシ少年」として生まれ、10代の頃からサーカスの実質的支配をする。姉のエリーとイフィーの姉妹はシャム双子として生まれた。
強姦のような形で妊娠させられマンボと言う元気な赤ちゃんを産む。

語り手のオリーはせむしでアルビノ(シロコ)、弟のチックは、見た目はノーマルだが超能力の持ち主で出産や外科手術は得意。

そして、彼らの一家の存在は破壊的な身体損傷カルトを生みだす。手足切断を望むファンたちが蝟集し、サーカスは大繁盛する。
オリーはアルチュールとの子どもを欲しがり、チックに頼み兄の精液を採取し娘、ミランダを誕生する。

フリークスたちの愛と憎悪の行きつく先にはとんだカタストロフィーが待ち受ける。
500頁になんなんとする大分でギークなカルト小説は最初な読むのに難儀だったが、後半から盛り上がる。基本的には「愛の物語」だ。
読者を飛んでもない世界へ連れ出し、正常と異常が逆転する家族の異常な愛憎に惹かれる。

ただの「キワモノ小説」ではない。読者は、読み進めていくうちに登場人物たちがフリークスであることを忘れ、彼らの世界観にいつしか感情移入してしまう。

僕も多くの小説を読んでいるがこんな「異形な」カルト小説は初めてだ。

俳優のマネージメント集団「ディケイド」が設立25周年を記念の大人の青春映画

あの日、エミは言った。(Amy said)映画のタイトルだ。
若い学生を中心の映画同好会の面々。
仲間のエミが死んで20年、その命日に小さな居酒屋の地下に集まる。
全員が、心の片隅に鳴り響いていたエミの言葉をしまい込んでいた。

少しジャンルが違うが集まった連中が議論している内に思い違いや早とちり、美しい回顧の情に埋もれていたものの真相がわかると言う手段だ。
古くは「怒れる12人の男」で陪審員が殆ど有罪死刑を決めているのに、唯一人(ヘンリー・フォンダ)が違う角度から焦点を定めると今までの考えや決定が覆る。

しかし余程脚本を齟齬の無いよう矛盾な違いが無いように書き込まなければならないから大変だ。
しかも無毛な議論を繰り返している内に観客は興味を失ってしまう。
監督、村本大志が共同脚本を狗飼恭子とチャレンジする。狗飼は小説も書き、脚本も何度もこなしているから大丈夫だろうが、ズブの素人の村本が塗炭の苦しみだったことは想像がつく。

8ミリで自主映画を撮っていた映画研究会の仲間9人。
その中のマドンナ(ファムファタル的と言う表現を使うが間違いだ)な存在だったエミ(柿木アミナ)がある日突然彼らの人生からいなくなった。自殺をしたのだ。

彼女の命日に久しぶりに集まったのは、パン屋を営む朝田(三浦誠己)、無農薬野菜をつくる飯田と直子(渋川清彦、中村優子)、売れない俳優岡本(山本浩司)、キャリアウーマンの美帆(石橋けい)、 介護士の五島(松浦祐也)、IT会社を経営する木塚(テイ龍進)。

「わたし本当は知ってるの、エミが死んだ理由。ずっとみんなに言いたかった」
死ぬ直前に会ったと言う直子の言葉に、それぞれの中で止まっていた時間が動き出す。
エミは浅田と川崎と二人と付き合っていて赤ちゃんが出来ちゃった。どちらが父親か分からず自殺したのよ。

そして酒場に訪れる、話題の招かれざる客、川崎(大西信満)。
彼が現れた理由は、朝田にとって思いもよらないものだった。昔のことだがエミに心底惚れていて結婚しようとしていた浅田は川崎に掴みかかり殴る。

間に入った直子の夫、飯田が取り成す。「脚本家志望の直子って夫婦になって見て初めてわかったが『虚言癖』があるんだよな。自分が輪の中心にいられるように、そして話を盛り上げるように作ってしまう」

川崎が頷く。「エミと付き合ったこともセックスもあり得ない」と。
やおら美帆が立ち上がる。
「最後にエミに会ったのは私よ」
エミみたいな美しいが「軽薄で中身の無い女が浅田を独占しているのは許せない。貴女は手を引け!」と強く命令したらその後直ぐに死んじゃったの。

かつて同じ夢を見て、同じ夢に破れた。20年後、ようやく本当に語るべきことを語り合えるようになる。「生きること」、「死ぬこと」、そしてまた「生き続けること」

居酒屋パーティに借金取りのヤクザが殴り込んで来るとか、コッポラの「盗聴」の時のハックマンが来ていた透明ビニールのレインコートがカッコ良いとかトリビアは不要。

本当はエミが最後に言いたかった言葉と何故死んだかが明らかになるが、脚本としては60点くらいかな
役者としては三浦誠己をはじめ、大ファンの渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍進、石橋けい、大西信満、村上虹郎、ちょっとしか出ないがいつもおかしいい渡辺真起子、村上淳ら脇役総出演は楽しめた。
大橋トリオの書き下ろし「AMY SAID」。テーマ曲をピアノで弾く大橋の姿を始めてみた。甘い楽曲が取り留めも無くなった画面を引き締める。

9月30日から テアトル新宿ほかで公開される

「婚約者の友人」(FRANTZ)(仏・独映画):戦死した婚約者の墓を毎朝訪れるアンナ。ある日墓前に真っ赤な薔薇を供える、パリで親友だったと言うアドリアンに出会う。

$
0
0
映画はモノクロ、第一次大戦後の1919年で馬車などが走っているから白黒画面の方が雰囲気が出るかも知れない。

漆黒の喪服のコートに身を包んだアンナ(バウラ・ベーア)は
毎朝、ドイツ・ベルリンのクヴェードリン
ブルクの美しい街並みを抜け、フランスで戦死した婚約者、フランツ(アントン・フォン・ラック)の墓に向かう。

その日の墓には真っ赤な(と思われる)薔薇が供えられている。

身寄りの無いアンナはフランツの戦死後も彼の両親ハンスとマグダと暮らしていてる。
フランツの想いは片時も忘れることなく、
友人のクロイツ(ヨハン・フォン・ビューロー)から結婚をもうしこまれても言下に断る程フランツへの想いは断ちがたい

アンナを演じるバウラ・ベーアはベルリン生まれの21歳。2本ほど小品に顔をだしていたがオーディションを受けてオゾン監督に気に入られ主役へ抜擢された。見詰められたらゾクゾクする大きな瞳の持ち主。ドイツにもこんな美人がいるんだ。

しかしその朝は既に誰かが墓に花を供えて泣いている。
男は、フランツが戦前パリに留学していた時に知り合い親友となったと言う、アドリアン(ピエール・ニネ)と名乗る。

2人はともに反戦論者で詩と音楽を愛した。2人ともバイオリンを弾かせたら名人。
ルーブルへ良く行き、好きな絵(マネの死んだ男を抱く「自殺」と言う題)の前で何時間も過ごす。
話だけ聞いていれば「ホモ」友達じゃなかったかと思う。

アンナはアドリアンを家へ連れて来るが、
精神科医の父、ハンス(エルンスト・ストッツナー)は
「息子を殺したフランス人は皆敵だ!」と受け入れない。

しかしアンナの説得とアンドリアンの口髭を生やした優しい美しい容貌にシャイな性向が、
ハンスとマグダの両親に気に入られフランツの代わりの息子のように扱われる。

不思議なことが幾つか起こる。
パリ管弦楽団の第一バイオリンだったと言うアンドリアンにバイオリンを弾いてくれるように頼むが途中で気を失う。
両親との夕食をすっぽらかした彼をとっちめるためホテルへ向かうが居ない。墓地でアンドリアンを見つけるが「これ以上、無理だ!」と叫び衝撃の事実を語り始める。

謎を残したまま、やがてアンドリアンはパリへ戻りアンナとの文通は行われるがそれも途絶える。

アンナはアンドリンを訪ねてパリへ行くが既にアパートは引き払っている。
訪ね訪ねて地方の貴族の一家に辿り着く。
両親に可愛がられるアンドリアンには親しいガールフレンド、ファニー(アリス・ドゥ・ランクザン)が居た

第一次大戦後のドイツを舞台に、戦死した男の謎めいた友人と残された婚約者らが繰り広げる人間ドラマ。
大戦後の100年近い昔、ミステリアスな登場人物と醸しだされるロマンスの香り。
理屈ではどうしても分からないことが多いが荒廃した大都市、ベルリンとパリに漂う高貴な上流社会の毅然とした雰囲気に圧倒される。

脚本は過去に「私の殺した男」(エルンスト・ルビッチ監督)として映画化されたモウリス・ロスタンの戯曲をオゾン監督が大胆に翻案したオリジナル物語のようだ。

前半は優しいメロドラマ調に進むが、
後半は行方が知れずアンナの手紙が返送されて来る辺りからヒチコック調のミステリーになる。

親しい友達の筈のアドリアンが突如謎を秘めた得体の知れない男になり、嘘の積み重ねが暴露される。

 アドリアン役を、「イヴ・サンローラン」で第40回セザール賞最優秀男優賞を受賞したピエール・ニネ、
相手のアンナ役を、オゾン監督が自らオーディションで見出したドイツ人女優ポーラ・ビールが演じる。ロミー・シュナイダー以来の美人だね。

監督は「スイミングプール」や「8人の女たち」などヒットを飛ばすフランスの気鋭、49歳のフランソワ・オゾン。

この映画は第73回ベネチア国際映画祭に出品され、ビールは新人に与えられる「マルチェロ・マストロヤンニ賞」を受賞している。

しかし映画が終わってもアンドリアンの態度は腑に落ちない。アメリカ映画なら「ケジメ」を付けてくれるのにと迷いながら映画を見終わる。

10月21日からシネスイッチ銀座で公開される。

「ポルト」(PORTO)(ポルトガル.仏・米・ポーランド映画);犬だけが友達の孤独なアメリカ人のジェイクは、パリから来た考古学専攻の女子留学生、マティと知り合い一目で恋に落ち、僅か一晩の灼熱のロマンス

$
0
0
この映画はアントン・イェルチン抜きには語れない。
ソ連レニングラード生まれのユダヤ系ロシア人。
オリンピックのフィギュア・スケート・チャンピオンだった両親が、
ユダヤ系であったため冬季オリンピックに出場出来なかったことを理由に
難民として一家はアメリカに移住する。

アントンは4歳だった。
南カリフォルニア大学で映画を学び、
ハリウッドで才能を認められ
僅か9歳で出演した「アトランティスのこころ」(07)でヤング・アーティスト賞主演男優賞で
注目を集め、
その後「アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン」「スター・トレック」「ターミネーター4」など順調にスターの道を歩んで来た。

それが昨年(16年)6月、自分の車と門に取り付けられた郵便受けの間に挟まれて
死亡しているのを友人が発見。
27歳だった。
映画のエンドクレジットに献辞が出るが、彼の遺作となる。

スターに付き物の薬や酒で無く、詰らない事故でハリウッドは惜しい才能を失ったものだ。


ポルトガル北部の港湾都市ポルトで暮らすジェイク(アントン・イェルチン)は26歳のアメリカ人。
父は外交官で今一家はリスボンに住んでいるが家族と折り合いが悪く家を飛び出し
定職もつかず日雇いで生活している。友人も居らず心を通わすのは黒い小さな犬だけ。

32歳のマティ(ルシー・ルーカス)は考古学を学ぶフランス大学院生。
ソルボンヌ大学で知り合った恋人の教授、ジョアン(パウロ・カラトレ)ともにこの地へやってきた。

ジョアンは妻子がいるがマティに求婚している。
自由を大切にしているマティは応じない。

ジェイクは臨時雇いで考古学の採掘現場で2日働いた夜、カフェに1人でいたマティに声を掛ける。

「私とよそへ行かない?」と誘うマティはジェイクに引っ越しの手伝いをさせる。
ヘトヘトになりながらマティのアパートに荷物を運びこむジェイク。
2人は一瞬にして夫々感じるものがあり、家具もベッドも無い部屋で一夜の関係を結ぶ。

ドキュメンタリーしか撮ったことが無いゲイブ・クリンガー監督は二人の感情や感性、周囲の他人にあわせてカメラを変える。
一番多いのがスーパー8、あの70年代に「私にも写せます」で一世を風靡した遺物だ。
ざわついた画面とサイズの小いささでマティやジェイクの心情を捉える。

クリンガー監督はレトロのヨーロッパ映画を念頭に置いているのではないか。
ジャン・リュック・ゴダールとかフランソワーズ・トリュフォーの「ヌーベルバーグ」のトーンが
画面を染める。

セリフはミニマムで8ミリや16ミリ35ミリHDカメラとモノクロからカラーと画質や画面を変えて
観客に挑戦している。

マティと言う不思議なマドンナを挟んでジェイクとジョアン教授の恋の鞘当てなど
ストーリーも忘れてはいない。

ジム・ジャームッシュが製作総指揮を務め、最初はギリシャのアテネを舞台にする予定が
経済危機で、ポルトガル第2の都市ポルトを舞台に替えた経緯も興味深い。

しっとりと落ち着いた前世紀の面影だらけのポルト。市街電車が海からの霧を裂き、月が古都を照らし出す。アテネで無くて正解だった。

ジェイク役に鬼籍に入ったアントン・イェルチン。

マティ役に本作がデビュー作となるフランス人のルシー・ルーカス。
コンパクトに自分の想いをアート映画に込めている。
役の上ではジェイクの6歳上のファムファタールだ。派手でなく落ち着いたキャラの美形。

2人の熱演がこの1時間半に満たない(75分)を長編ロマンス劇のように仕上げる。

監督は第70回ベネチア国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、この作品で長編劇映画デビューとなったゲイブ・クリンガー。

9月30日より新宿武蔵野館にて公開される。

「ブラッド・スローン」(Shot Caller)(アメリカ映画):家族を守り、監獄で生き延びるためには頂点を極めなければならない。アメリカ式「牢名主」合戦の首位の座争い。

$
0
0
原題「Shot Caller」とは決定権を持つ者、つまり「ボス」のこと。

刑務所に収監された囚人たちの人種差別や暴力などは始終話題になるがその実態は知られていない。

監督・脚本・制作のリック・ローマン・ウォーは刑務所に2年も潜入取材をしている。
刑務所映画三部作、「プリズン・サバイブ」(日本未公開)や前作「オーバードライヴ」(13)では受刑者の減刑制度を描いている。
そしてこの映画では「看守がコントロールするのは門と扉で、刑務所の中を牛耳っているのはギャングだ」と看破していてその実態をこの作品で描いている。

主人公のジェイコブ・ハーロン(ニコライ・コスター=ワルド―)は金融ビジネスで成功し、LAの高級住宅街に妻ケイト(レイク・ベル)と二人の幼い娘たちと幸せな生活を送っていた。

しかしたった一回の自動車事故で一変して実刑判決を受け犯罪人になり収監される。
飲酒運転で信号無視、助手席の親友トム(マックス・グリーンフィールド)を殺してしまったのだ。

刑務所は犯罪人の巣窟。ギャングのヒエラルヒーの中で生き抜かなければならない。
白人至上主義(アーリアン・ブラザーフッド)(AB)の中で「マネー」と呼ばれ、腕力と頭脳で頭角を現していく内に、社会の常識でなくABのプロトコールに従いサバイバルしていくようになる。

釈放されるが、メキシコギャングに付き纏われ、従わねば「家族に害が及ぶ」と脅かされ違法武器の取引に巻き込まれる。

真っ暗闇の野原での取引き。僅かな光は武器を運ぶトラックのヘッドライトだけ。武器の量が凄い。トカレフの拳銃にAK47自動小銃を始めとしてソ連で開発され中国で生産されたものばかり。

マネーはメキシコギャングを殲滅しわざと司直の手に落ち、刑務所のボスからの指示を裏切ったことで家族の命が危なくなることを悟り、ショット・コーラーのビースト(ホルト・マッキャラにー)に勝負を挑み隠し持ったカミソリで頸動脈を斬り倒す。
 これでマネーはショット・コ-ラーの地位を獲得し刑務所を支配する。

論理が面白い。
今「終身刑」だ。例え殺人を繰り返してもカリフォルニア州法では「終身刑」以上の刑は無い。
ビーストを倒さなければ愛するケイトや娘たちの命が危ないと。

しかし金ぴかのメルセデスE320を運転していた、金融ブローカーのジェイコブが、
刑務所から仮釈放されメキシコギャングと取引するマネーはハウイのオンボロピックアップトラックで取引サイトへ出かける。

このジェイコブとマネーのキャラクターの天地とも開く格差に、ストーリーの納得性が無いのが惜しい。職業や人格を比べても、いくらなんでもここまでやるか、と言う感じだ。

知的で能吏のジェイコブ役のデンマーク人、ワルド―はマネーになった途端、筋肉モリモリのマッチョマンで体中に先祖キルト語で入れ墨だらけ。白人至上主義の表現だ。口髭に鋭い目付きは周囲を圧倒する。

ボスの座に居座るビースト役のホルト・マッキャラにーは頭が薄い分口から顎にかけてモジャモジャ髭で威嚇する。

ワルド―もマッキャラニーも脇で顔を見たことがある。

どの囚人たちを見ても面構えの凄さに怖くなる。

アメリカでは昨年のLA映画祭で一回上映されただけ。
一般公開は行われない。日本人はジャンル映画に興味があるのかシネマカリテで上映される。


9月30日より新宿シネマカリテにて公開される
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live




Latest Images