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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「無限の住人」(日本映画):SMAPを卒業し芸道一筋を目指す木村拓哉の意欲的な熱演も、三池崇史監督の拙い演出で報われず

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SMAPが解散して独立した最初の作品の木村拓也。
昨日(6日)の丸の内ピカデリーの3時半の回に期待して飛び込んだ。
GWの真っ最中、注目のスターの話題の映画だけに混雑を予想したが3割程度の入りでガラガラ状態。

永遠(無限)の命を持つ男に親の仇を頼み込んだ美少女と言う話も悪く無いのになんて有様だ。
映画が始まって10分も経たないが冒頭の妹が賞金狙いの無頼の一群に惨殺される回顧シーンが終わってから、まるで詰らない。

2時間近い長尺も相俟って、欠伸の連続。

試写室で見せて貰ったら遠慮もあるから本音は書けないが、
金を払っているからにはそれに見合う映画を見せて貰わねば。だからジャンジャン言いたいことを言える。

井筒和幸監督が週刊誌で毒舌の映画評を書いているがそれも映画館で金を払っているから
酷評も書けると明言しているのと同じ趣旨だ。

 余談になるが井筒和幸監督は「ガキ帝国」「パッチギ」など在日を描いた作品に秀作が多い。
そう言えば、木村拓哉と工藤静香は在日夫婦だ。

 先週末に始まったこの作品の興行成績が「美女と野獣」や「コナン」が強いとは言え新登場で6位と出遅れたことを思い出した。

 4月29,30の土日2日間のデビュー週末で、観客動員は僅か14万5千人、興収1億9千万円に過ぎない。
今週末、5月17日から開催されるカンヌ映画祭に特別招待作品として公式上映され、
フランスアメリカ、オーストラリア、ドイツなどで上映が決まっていると言う。

 セールスは上手く行っているがチャンバラの物珍しさだけで内容のお粗末さは直ぐにバレる。
いわば国辱映画で映画後進国の評判を更に高めるだけだ。

 主演のキムタクは頑張っている。熱演している。
映画のお粗末さは監督の三池崇史の唯我独尊の拙い演出の所為だが
1割程はヒロインの杉咲花の下手丸出しの芝居に原因がある。

 NHKの朝の連ドラでもどうってことが無い素人同然の少女に荷が重い大役は、目も当てられない程痛々しい。
ただ怒鳴って絶叫するだけで演技なんてもんじゃない。怒鳴るのもヴォイストレーニングも受けてないからアーティキュレ―ションの悪いこと.何を言っているか分からない。

 三池崇史監督に話を戻そう。
彼の作品は途轍もなく面白いか、クソ詰らないか両極端だ。
コミックを実写している映画が多いので選ぶマンガ原作に依るのかもしれない。

 傑作は「クローズZERO」シリーズ(07&09)「ゼブラーマン」(10)「十三人の刺客」(10)「愛と誠」(12)「藁の盾」(13)などで、特に「愛~」と「藁~」は僕の好きな映画ベスト10に入る。

 クソ詰らないのが「スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ」(09)「一命」(11)「悪の経典」(12)などだが、この「無限~」などはウォースト#1候補だろう。

 映画の梗概を追って見よう。
万次(木村拓哉)はかつて百人斬りと恐れられた伝説の男だったが、
万次のクビにかかった賞金目当ての無頼の群れに囲まれ人質に取られていた可愛い妹を惨殺される。

 怒った万次は数十人のならず者を全員倒すが自分も瀕死の重傷を負う。
最愛の妹を失い、生きる意味をなくした万次は、これで死ねれば良しと倒れていると、
物陰から見ていたと800年生きたと言う謎の老婆、比丘尼(山本陽子)により
強引に永遠の命を与えられ、斬られても傷が再生する不死の身体となる。

小さな黒いウジ虫のような気味の悪い不老不死の生物が万次の身体に入り込む。
ここまでは面白い。

それから50年後になると話がダレ始める。
矢が突き刺さっても、刀で突きさされても、銃で撃たれても身体は自然治癒し、
修練した腕も、どうせ死なないのだからと剣術の冴えも鈍る。

 刀での真剣勝負より、楽な鎖鎌やマサカリを改造した鈍器を多用するようになる。
これも詰らないシーンだ。
生きるに十分すぎる時間をただ退屈に孤独に過ごすだけだった。

 そんなある日、浅野凛(杉咲花)という一人の少女が現れる。
統主・天津影久(福士蒼汰)が率いる、ただ勝つことだけを目的にしている剣客集団・「逸刀流軍団」が「無天一流」の道場を襲撃し、道場主だった凛の両親は惨殺される。

 天津影久の福士蒼汰が悪役で万次に歯向かう準主役として画面を占める。
仮面ライダー出身の23歳の大根役者を、何故か三池監督は可愛がる。
「神様の言うとおり」や制作中の「ラプラスの魔女」でも起用している。
キムタクに戦いを挑む俳優としても力量不足なのは明らかで、
この両者のアンバランスも映画を詰らなくしている一因だ。

「仇を討ちたい」
強く願う麟は道場主だった両親に鍛えられていた剣術に励むが、とてもじゃない天都を倒すには程遠いことを自覚する。

そこで凛は天下無敵の噂の万次に仇討ちの助っ人を頼み込む。
道場も門弟も無く、大金を出せる由も無い凛は断られることを承知で、そこは必死の願い事だ。

どことなく妹に似ている凛、それも妹が死んだ歳と同じ麟を、万次は気に入り、「無限の命」を使って用心棒として凛を守ろうと決心する。

こうして万次は、天津影久一派との凄絶な戦いに巻き込まれていく。

 次から次へと戦闘シーンが続くが相手変われど死闘は変わらず、ワンパターン。
何の工夫もトリックも無い。最初はオヤと思うが直ぐに飽きる。
飽きたものを延々と見させられるのは業苦の責めだ。

原作は沙村広明による人気コミックで、
超能力を身に着けた人斬り男を木村拓哉主演で映画化した異色スーパーヒーロー時代劇だった筈だが、
三池崇史監督のお粗末な演出のお陰で詰らない映画になってしまった。

丸の内ピカデリー他で上映中

「帝一の國」(日本映画):超エリートの「海帝高校」一年生、帝一の夢は「総理大臣になって、自分の国を作る」こと。その夢を実現するためには、高校の生徒会長になること。

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 昔の海軍兵学校のような詰襟濃紺の制服を着た超エリート校「海帝高校」。
全国屈指の頭脳を持つ800人の最優秀の生徒が集う。現代に置き換えれば灘か開成、麻布と言ったところか。
 卒業生は政界、財界のトップを占める。
海帝高校でトップ=生徒会長になった者は将来は大臣はおろか首相を指呼の間に臨むことができる。

4月29日のゴールデンウイークからスタートしたこの学園政権闘争コメディは週末、土日2日間で観客動員16万6千人、興収2億14百万円をあげ4位のスタート。
木村拓哉のSMAP卒業作品「無限の住人」の14万5千人、興収1億9千万円の6位に比べ総てに勝っている。

観客の約9割が女性、20代以下の女性が8割と殆どを占めているという。殆ど女性が活躍しない、若い男子高校生が活躍する映画だが見るのは若い女性だ。

時代は昭和。
映画の冒頭は桜が満開の学校までの登校道路。
 
新一年生、赤間帝一(菅田将暉)は首席で入学を果たしている。

帝一の夢は「総理大臣になって、自分の国を作る」こと。その夢を実現するためには、海帝高校の生徒会長になることが絶対条件。

「ライバルを全員蹴落として、必ずここでトップに立。そのためならなんでもする。どんな汚いことでもやる」。

「2年後の生徒会長選挙で優位に立つには、1年生の時にどう動くかがベースとなる。1年になった時から戦いはもう始まっているのだ!」。

誰よりも早く動き始め、野望への第一歩を踏み出した帝一。

ソラ恐ろしいガキだ。未だ16歳だぜ。

帝一の父親、赤場譲介(吉田剛太郎)は通産事務次官だ。
位人臣を極めたと人は思うが会長選挙のライバル東郷静馬(野村周平)の父親は通産大臣で
帝一の父親譲介は頭が上がらない。
東郷大臣は高校時代会長選挙に勝ったので今の地位に就けたし、
総理の座も目の前だと豪語する。

息子にどんな汚い手を使っても会長の座を確保せよと命令する。

静馬の他に帝一のライバルは2人いる。
氷室ローランド(間宮祥太郎)。富豪の家に生まれた混血児で子分も多く支配力も抜群。
大鷹弾(竹内涼真)は貧乏な家庭に育ちながら成績抜群で奨学制度で海帝に入って来た正義の男。公明正大、仁義礼知信。総て併せ持つ理想的な男だが、会長になろうと言う野望は無い(今のところは)。

帝一には中学時代から恋心を抱いていた白鳥美美子(長野芽郁)と言う恋人が居る。毎晩出かけて行って糸電話でベランダの美美子と話すのを楽しみにしていたが、会長選のことばかりに集中する帝一に愛想を尽かし始める。

待ち受けていたものは、想像を絶する罠と試練。
そして友情と裏切りだった。
究極の格付けバトルロイヤル、命がけの「生徒会選挙」が展開される。

遣り取りされる丁々発止のセリフは主人公たちが真面目で真剣だけに可笑しくて笑える。
そうこれは根本的にはコミック原作の喜劇なのだ。

集英社ジャンプSQで2010年~6年間連載された、古屋兎丸著の漫画「帝一の國」を「仮面ライダー」出身の売れっ子若手俳優・菅田将暉を主演に実写化したもの。

既に2014年には舞台に載せ、この4月にフジTVで深夜放映されている。
映画はGWに真打として最後に登場した。

帝一のライバルたちで超個性的な生徒の面々を演じるのは、野村周平、竹内涼真、間宮祥太朗、志尊淳、千葉雄大ら菅田同様の若手イケメン俳優陣。
さらに恋人に永野芽郁、父親に吉田鋼太郎らが脇を固める。

監督は「ジャッジ!」「世界から猫が消えたなら」など少し毛色の変わった映画を送りっ出して来た永井聡。本業はベテランのCMディレクター

TOHOシネマズ六本木ヒルズ他で全国公開中。
銀座や日比谷の映画館では公開されていないのも不思議だ。

「ラプチャー~破裂~」(Rupture)(アメリカ映画):カンザスの田舎に住むシングルマザーのレネーは、13歳の息子を元夫の家へ送った帰り道、謎の集団に拉致され廃屋の病院へ連れて来られる

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 チープなホラー映画だが、DNAなどの遺伝子が絡んで来ることでミステリー調になり毛色が変わっていて面白い。

主人公はシングル・マザーのレネー(ノオミ・ラパス)は13才の息子、エヴァン(パーシー・ハインズ・ホワイト)とカンザス州カンザスシティの郊外に住んでいる。
周りを森や田畑に囲まれた田舎だ。

朝食を作りながらレネーは悲鳴を上げる。
大きな蜘蛛が流しを這っている。
駆けつけたエヴァン殺そうとするが押し止め庭に離してやってくれと頼むレネーは優しい。

画面は突如監視カメラ風に上空からレネーの家の俯瞰になりドライブウェイのレネーの車のタイヤに何か仕掛ける男を捉えている。

エヴァンは父親(レネーの別れた夫)と過ごす週末でレネーは車で送る。
息子を下ろしてこれから友達とランチの約束。

淋しい道路で突如タイヤがパンク。(先ほどの怪しい男の仕業だ)
1台のバンが近づき男が降りて手伝おうとする。
辺りに車一台見当たらないのを確かめて数人の男女がバンから降り、男はレネーを自分たちの乘ったバンに乗せようとする。
抵抗するのレネーはスタンガンを押し付けられ意識を失う。

気が付けば手枷足枷で締め付けられ、猿轡代わりにガムテープで口を塞がれ車輪付きのストレッチャーに拘束されている。

建物全体が病院か何かの廃屋で紫色の電灯が不気味だ。
鍵がかけられた部屋で拘束されたレネーを囲んで、小太りの禿男(マイケル・チクリス)金髪の若い女、ダイアン(ケリー・ビシェ)が過去の健康状態やカルテを検討している。
 
ここまではテンポ良く、誘拐されたレネーの運命は如何に?と観客は主人公に感情移入して闇のミステリーな雰囲気に引き込む。

初老の女医、Dr.ナイマン(レスリー・マンヴィル)やボスらしい髭面(だがイケメン)のテレンス(ピーター・ストーメ)も加わり何やらDNAの話をしているが、
レネーには何のことか分からない。
拉致をし監禁するのだから凶悪集団に違いないが
白衣の男女も交えて何やらアカデミックな組織にも見える。

謎の組織の実態が最後まで分からないので退屈になりプロットもダレる。
レネーはどう言う訳か手足の拘束が緩み、天井裏のダクトを通って各部屋を覗き見る。
ピンクの大蛇が足元から忍び寄り恐怖におののく中年男や
天井からロープに縛られた半裸の女が突如落下して来るとか、
何が何だか分からないホラーシーンが続く。

レネーもこの実験室を備えた廃屋の病院から逃れようと懸命の努力をする。
ダクトを這いずりまわり、パイプが張り巡らされた地下の狭い通路を走りまわり、
人の気配でサッと物陰に身を潜める。
これの繰り返しとこんなバカげた逃走ではスリルもテラーも感じない。

カンザスシティの家に戻った息子の画像を見せられ、エヴァンに何かあったら大変だと、最終の人体実験を了承する。

結局はハゲ一派に再び捕まり、手足を拘束された上に宇宙服のようなマスク被せられ、
その中に大小無数の蜘蛛を放たれる。
大嫌いな「蜘蛛」が目の前にそれも顔中蠢き、
レネーは発狂寸前の恐怖を味わう。

ネタバレになるが、その究極の恐怖がDNAに変化を齎し
人類から「一歩進んだ」異性物になると言うのだ。
最後の最後までヒントも与えず観客を引きずりまわすので
途中から映画を諦める人もいる。

役者も見慣れない顔ばかり。

主人公レネーは「ミレニアム」シリーズで脇を務め、
「プロメテウス」で主役の座を掴み「
「デッドマン・ダウン」でハリウッド進出を遂げたノオミ・ラパス。

 スェーデン出身の37才は美人でも無ければ若くもない。
ただ人を惹きつける魅力はある。
この映画でSMのセクシーなシーンを期待したがダメだった。

ラストシーンでレネーに言い寄る髭面・イケメンのテレンス役ピーター・ストーメは
テレビシリーズ「プリズン・ブレイク」でおなじみの顔だ。

監督は「毛皮えのエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」などのスティーヴン・シャインバーグ。
弁護士と秘書のSM行為に耽る「セクレタリー」(02)は面白かったが、
そのテイストをこの作品にも活かして欲しかった。

6月3日よりヒューマントラスト渋谷にて公開される。

「家族はつらいよ2」(日本映画):高校時代から55年振りに出会い痛飲して自宅に泊めた老いた友人が翌朝隣で冷たくなっていた。山田ワールドは涙と笑いと感動で観客の心を満たす

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相変わらずの「山田節」が冴えを見せ、涙を零し笑いながら見終わる。

映画を見る前に既にみた友人が「70歳以上の人にはウケるでしょうね」と念を押された。彼は40代、あまり面白く無かったのかもしれない。

69年から始まった「男はつらいよ」シリーズが寅さんこと渥美清の死で終了してから20年ぶりの喜劇として山田洋次監督は昨年の「家族はつらいよ」で笑わせてくれた。70を過ぎた平田家当主の熟年夫婦の離婚を扱ったちょっと異色のコメディだった。

興行成績も「君の名は」のような240億円を超えるモンスターに比べるべくもないが、観客動員は120万を越え興収13.8億円で邦画BOの30位にランクされているのは立派なものだ。

「八重子のハミング」の佐々部清監督が嘆くのは、メジャースタジオはシニア層向けの作品に積極的ではないと。
コミックを原作に高校生や中学生向け映画が主流を占める邦画界に山田洋次のような大御所が撮ればスタジオは反対しない。
それに結果もしっかりついて来ている。

そんな訳で86才の山田洋次監督は、お馴染みの平田家の面々で引き続きシニア向けのコメディをプレゼントしてくれた。

今度は「死」をテーマにしている。監督が自分でも言っているが喜劇に「死」はそぐわない。だが山田監督は敢えて冒険に踏み切ったのは、シネ歌舞伎で勘三郎の亡くなる直前の舞台を撮った、フグに当たって「らくだの馬太郎のカンカン踊り」だろう。
業突張りの家主にお布施と酒食を出させるために白衣に額紙を付けた死人を踊りをさせる。捧腹絶倒する最高の喜劇だ。

この映画では、広島の高校時代から55年振りに出会った老いた友人と痛飲して正体無く酔っ払い自宅に泊めた男が翌朝隣で冷たくなっていたと言うクライシスをネタにしている。

親兄弟も友人もいない、現代の冷酷な「無縁社会での孤独死」をテーマに、お馴染みの平田家を襲う騒動と事件を描く。

前作の平田周造(橋爪功)と妻の富子(吉行和子)の熟年離婚騒動から数年後の話。

周造はマイカーでの気ままな外出を楽しみにしていたがあちこちにぶっつけて車は傷だらけ。
長男、幸之助(西村雅彦)と史枝(夏川結衣)夫婦は高齢者の危険運転を心配し、免許を返上させようとするが周造は耳を貸さない。

そんなある日、友人たちと北欧旅行で外遊中の富子を尻目に、周造は居酒屋の女将かよ(吹雪じゅん)とのドライブ中に、昔の広島で高校時代の同級生・丸田吟平(小林捻侍)が工事現場で赤い棒を振って交通整理をしているのに偶然出くわす。

丸田は大きな呉服屋の息子でサッカーの花形GKで背も高く女子高生にモテモテだったが、社会に出て事業の失敗から倒産、借金、離婚やらで73歳にもなって友人親戚にも見放され一人暮らしだと言う。

気の毒に思った周造は向井(有薗芳記)を誘い3人だけの高校同窓会をかよの居酒屋で開く。大好物の銀杏をつまみながら丸田は痛飲する。
周造は埼玉に帰るのは遅すぎる丸田を家に連れ帰り、更に深夜までバーボンを飲み喋りまくる。

翌朝丸田吟平は、周造の横で冷たくなっていた。

この日は周造の免許返還をさせようと平田家の面々が続々と集まって来た。
同居している長男夫婦に加え、長女、金井成子(中島朋子)と夫、泰蔵(林家正蔵)夫妻、次男の平田庄太(妻夫木総)と晴れて結婚に漕ぎつけた憲子(蒼井優)夫妻。
フルメンバーが父親の旧友とは言え見知らぬ老人の突然死に大騒動。交わすセリフの面白さに人ひとり死んだと言う実感は無い。

救急車は死人は扱わず、警察の手に引き渡された自治体の社会保険課。
丸田の住む小さなアパートがある埼玉県が葬儀を面倒見てくれることになる。

 
周造は丸田の野辺の送りに家族も参加してくれと頼むが皆冷たい。
しかし末っ子の庄太夫妻が葬儀に参加を表明してから続々と葬儀場に集まる。

大笑いするのは死者が額に着ける三角布「「額紙(ヒタイガミ)」を上海出張を焦る幸之助が着けてしまうことと、大好物の銀杏を棺桶一杯に詰め込んだのが破裂して焼き場の係員鶴瓶がテロだと飛び出して来ること。
涙の中で笑いが生じる。

平田家の常連メンバーに加え,山田組常連の笑福亭鶴瓶,山田組初参加となる劇団ひとりや,藤山寛美の孫にあたる藤山扇治郎らが加わり,パワーアップして爆笑のエネルギーは高まる。

いつもの山田マジックに魅せられて、ユーモアと涙の感動に満ちた平田家ドラマが繰り広げられる。

5月27日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「海辺の生と死」(日本映画):太平洋戦争末期、国民学校教師の大平トエは海軍特攻艇の部隊の隊長、朔(さく)中尉と出会い、明日をも知れぬ命を燃やす恋に陥る。

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これが2作目と言う越川道夫監督には才能があるのだろうか?
映画界で52才まで長く過ごしたキャリアは殆ど、宣伝PR製作などと現場以外のもので、15年に「アレノ」で初めて脚本を書き監督を果たした。

病弱な夫を愛人と企み溺死させようとする翻案ものの出来が悪い映画だった。監督業は始めたばかりで見る前から悪い予感がした。

ストーリーはしっかりしている。
小栗康平監督が映画化した陰陰滅滅たる私小説「死の棘」の島尾敏雄の戦時体験の短編小説「島の果て」と、「死の棘」の主人公であり自身も作家の妻・島尾ミホの「海辺の生と死」を原作にしているからだ。
敏雄とミホをモデルとした男女が出会い、2人が結ばれるまでの時間を戦争で極限まで追い詰められる姿を描いている。

第2次世界大戦末期、昭和20年夏の奄美群島・加計呂麻島(かけろまじま)が舞台。

映画の冒頭で林の中の小道をトエは子どもたちと歌を唄いながら峠を目指している。

国民学校教師であるトエ(満島ひかる)は、オルガンが弾けて歌も上手なので島の子どもたちからも慕われている。

子どもたちの村落への近道なので峠の道は毎日通る。
鶴嘴やスコップで作業をしている小隊を指揮している小隊長、朔(さく)中尉(永山絢斗)が近づいて来て明日からこの道は使えないと言う。
朔中尉率いる海軍特攻艇の部隊がこの島に駐屯することとなった。
海軍特攻艇は神風特攻隊のように爆弾を満載して敵戦艦に特攻する「suicide squqad」だ。

戦争を国民学校生徒としてリアルタイムで経験している僕には奇異なことが沢山目にする。
作業中の兵隊と同じカーキ色の第三種軍装で充分なのだが朔中尉は真っ白な第二種礼装で現れる。初対面だから勲章で煌びやかに飾った純白の礼装を着用させたのだろうか?

ともかくも、激戦区沖縄での時代考証がなっていない。
女性のモンペは必需品だがトエは稀にしか着ない。必需品の防空頭巾は遂に登場しなかった。
下着姿のスリップは当然木綿だろう。トエのシュミーズは絹か合繊に見える。
裸電灯はあり得ない。深い提灯のような電灯を覆う傘がある筈。

ガラス窓は爆風で飛び散らないように格子状に紙を短冊に切って張り付けていなければならない。

将校や兵士は相手が民間人であっても敬礼をする。頭を下げてお辞儀はしない。食べ物が無いから草の根っ子や樹の皮を剥いで食べる。
あんなに青々とした草原や林は戦時中には見られない。

トエは朔中尉に惹かれる。戦争で若い男は居なくなれば当然だ。
隊員たちとの酒盛りよりも島唄、「八月おどり」や「朝花節」を習いたがる朔という男の姿を好意をもって見つめていた。

 沖縄育ちの満島ひかるの沖縄弁は完璧だ。先日弟の満島真之介主演の沖縄伊江村を舞台の「Star Sands」を見たが標準語で喋るのでひどくがっかりした。

ある日、トエは朔から「今夜9時頃浜辺に来て下さい」と記された一通の手紙を受け取る。その手紙にトエは胸の高鳴りを感じていた。

二人は海岸の塩焼き小屋で何度も逢う瀬を重ねる。

夜の奄美群島・加計呂麻島の海岸の美しさは比類ない。ただ海鳴りをあれほど大きくするとセリフが聞き取りにくい。

「僕はもうすぐ死ぬだろう。僕の任務は君たちを守るためじゃない。時が来たら敵の軍艦に体当たりするためにここに隠れているんだ。もう会わない方が良いかもしれない」

会ってセックスをしたがる若い男の言葉とも思えないストイックさに、愕然とする。

トエは火照る身体を鎮めるために全裸になりドラム缶の冷水を何度もかける。グループ歌手のアイドル出身で8年前の映画「愛のむき出し」で小さな胸の細身のヌードを見せて貰ったがいささかも衰えず相変わらず眩しい美しさだ。
これが最後のデートだと去って行く男に激情し、着物(黒い和服)のままザンブと海に飛び込み、明日朝と朔中尉の特殊帝出航を見送ったら短刀で胸を突き、海に飛び込む決心をする。

昼になっても何も起こらず、やがて天皇の終戦の詔勅が背後に聞こえ「総て世は事も無し」 
朔中尉も森を抜け水辺で軍服を脱ぎ水に沈む。

しかし長い。ここまで2時間と35分。新人監督は撮ったフーテージは総て取り込もうとするから無駄なカットも多く長くなる。1時間は短縮できる。
ジョン・カーペンター監督が言っていた。映画は1時間半位で終わるのが一番快感だと。
小屋の商売のことも考えてやらねばならない。回転を多くして客をそれだけ沢山入れなければオマンマの食いあげだ。

主人公、国民学校教師の大平トエには「クヒオ大佐」や「悪人」やなどの31才の満島ひかり、芝居も上手いし、島唄に挑戦し澄んだ歌声を聞かせる。
朔中尉の永山絢斗は28才。TVドラマが主戦場で映画は余り出ていない。演技は可も無し不可も無し。もう少し存在感を示さなければ。これは演出の問題だ。
脚本を書き監督をした越川道夫。「アレノ」もこの作品も出来が悪い。彼のホームグラウンド、製作やPR、宣伝に戻った方が良さそうだ。

7月29日より新宿テアトルにて公開される。

「結婚」(日本映画);4才の時に母に捨てられた古海健児。女に復讐のため次々と「結婚詐欺」を重ねるのか?

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 系列のサンスポには報道されているが。昨日(11日)のハリウッドの業界紙Varietyに「フジテレビ、亀山千広社長退任」の大きな活字の見出しがフロントページトップで躍っている。

Chihiro Kameyama, who enjoyed an unparalleled record as film and TV producer, is to step down as network president of Fuji TV. Since he arrived in the top post in 2013 ratings have tumbled.
In June Kameyama will make way for Masaki Miyauchi, currently the head of cable, satellite and Internet broadcaster BS Fuji. The decision was approved by Fuji’s board on May 9.

東南アジア担当の特派員、マーク・シリングの署名記事だ。

2003年にフジの映画事業の責任者に就任以来「湾岸警察署」シリーズなどで業界トップとなった。
2013年に社長の座についてから主要な番組や人事を変革しようとしたが裏目に出て、
今やフジは在京民間5社の中で視聴率もセールスも最下位に転落した。

来月に開かれる株主総会で、亀山千広社長(60)が退任し、新社長にビーエスフジの宮内正喜社長(73)が就任する。 60才から73才と年齢は13才も退化する。

だが73才の宮内新社長は安定感や信頼性があり、60才の亀山前社長のように既存のものを破壊すれば良いと言う考えは持っていない、と亀山に対して厳しいコメントを残している。

At age 73, he is more a figure of stability, less the sort of disrupter that Kameyama, 60, tried to be. 

「愛してる、愛してない」(韓国)や「つやのよる」や「だれかの木琴」などが映画化されてる56才の女流作家井上荒野。
2008年「切羽へ」で第139回直木賞受賞。

 荒野が「結婚詐欺」をテーマに男女の孤独と欲望を描いた小説。
荒野の実父である井上光晴の同名小説にオマージュを捧げているから興味が湧く。 

 スラリとした長身で完璧なイケメン。
知性と優しさがにじみ出る会話、そして匂い立つ男の色気で女性たちに
会った瞬間から虜にする男、古海健児(ディーン・フジオカ)。

 映画のオープニングシーンで、埠頭から海を見ながら古海が歌うのは、
大正時代から歌い継がれた古い文部省唱歌「浜辺の歌」。
歌は細々としているが透明感と少年の純真さを帯びた歌声だが、どうも臭くて行けない。
このクリシェと違和感は映画を通して付きまとう。

 古海はある時は小説家、ある時はデザイナーを名乗っているが(片岡千恵蔵扮する多羅尾伴内の「七つ顔を持つ男」ようだ(笑))、
その真の姿は「結婚詐欺師」だ。

 年齢も境遇も様々違うが何れも孤独の女たちが共通して抱く
「愛されたい」と願う気持ちを手玉にとり、
心と身体と金銭を奪った途端、彼女たちの前から忽然と姿を消す。

 ある時は大病の母親の治療費と言い
ある時は結婚して住むマンションの敷金などと色んな理由を言うが口から出まかせ。
金を受け取った瞬間に行方知れず。

 後で被害者の女たちが集まって相談するが騙す金は殆ど100万円が限度。それポッチの金で豪勢な暮らしが出来るのやら?

 古海自身には妻初音(貫地谷しほり)が居て毎日営業の仕事で出かけていると繕っていた。
マンションの敷金礼金と虎の子100万円が消えたのは家具店で働く麻美(中村映理子)のケース。古海はネット小説の人気作家と名乗っていた。

 元々は自身も被害者だったるり子(柊子)は古海の相棒となって「結婚願望」の女たちを次々と罠に嵌める。
るり子は知り合いのキャリア志向の元編集者、真奈(松本若菜)を紹介された時は空間デザイナーとして騙す。

 古海は「結婚を前にぶら下げると女たちが本当に嬉しそうな顔をする。
そんな幸せな表情を見るのが堪らなく嬉しい」と相棒を超えて執着を抱き始めたるり子に語る。

 危機が訪れる。
母親の治療費と騙された市役所に勤める鳩子(安藤玉恵)が私立探偵矢島(古館寛治)に古海探しを依頼する。

 矢島は鳩子を麻美に紹介し、芋つる式に騙された女たちが繋がり、共に古海の行方を探し始める。なぜ、彼は嘘をつかなければ生きられないのか、彼の本当の目的は何なのか?

 古海が大切に財布の底に忍ばせている一枚の古い写真。幼い子が赤い鳥居の前で母親とおぼしき女性と佇んでいる。

 その後4才の古海は定かに覚えていないが、母親は結婚することになって、
「健児、お前が居ると幸せになれないの」と海に突き落とされる。
母親は神戸警察署に殺人未遂で逮捕され獄中で死ぬ。

 孤児院に引き取られた古海は女性に復讐を誓い「結婚詐欺」をはたらく。
どうもチープで行けないがそれ以外にも何かありそうだ。

 母親役は妻を演じる貫地谷しほりで妻は母と同じイメージと言う訳だ。
母を追いかけ妻になり、妻も幻想として消えるラストシーンはこの映画のフィロソフィーか?

 突然富豪の康江(萬田久子)の登場はのっぴきならないシチュエーションを抜け出す上手い手口だ。
若い燕として世界一周クルージングをオファーされた古海は念願の夢が叶ったと喜ぶ。
乗り込む寸前に女たちがドッと古海を取り囲む。

 主役のディーン・フジオカはNHK連続テレビ小説「あさが来た」で五代友厚役を演じ人気沸騰。
 
 監督は、そのNHK連続テレビ小説「あさが来た」の演出でディーン・フジオカの魅力を
 存分に引き出した西谷真一。

 小海の相棒役はNHK連続テレビ小説「まれ」の新鋭女優・柊子が抜擢された。

早い話がNHKの連続小説におんぶにだっこのスタッフ・キャストだ。

他に貫地谷しほり、萬田久子、中村映里子、松本若菜、安藤玉恵ら華やかで美人の女優陣が脇を固める。
 
 
 美しく霞む港や海が印象にのこるがロケは千葉県木更津の江川海岸で日本のウユニ塩湖と呼ばれる海岸が伊藤麻樹のカメラに収められている。
 
6月4日より角川シネマ有楽町他で公開される。

「アイム・ノット・シリアルキラー」(I Am Not a Serial Killer)(アメリカ映画):ティーネージャーのジョンは大量殺人に興味を持つサイコパス傾向がある

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「僕は連続殺人鬼(シリアルキラー)じゃない」と言うタイトルやキャッチフレ-ズの「社会変質者(サイコパス)vs連続殺人鬼(シリアルキラー)」など見てB級ホラーのロクな映画じゃないか、と決めかけていた。

オヤ!と思ったのは白雪を抱く富士山のエムブレム「松竹」が「松竹エクストリームセレクションシリーズ」と銘打って映画を公開することだ。
丸の内ピカデリーのような一流館では無いが新宿シネマカリテなら二流であっても三流の小屋ではない。

そして主人公、16才の高校生、ジョンを演じるマックス・レコーズの好演である。
つい最近、レコーズの主演した「怪物はささやく」(A MONSTER CALLS)が実に印象的だった。

13才の中学生役で、学校では苛められ祖母とは折り合いが悪く、身勝手な父は家庭を捨ててアメリカへ行ってしまい、末期がんの母親を抱え途方に暮れる少年コナーに庭のイチイの大樹が近づき3つの寓話を話してくれる。

サイコパスになりそうな少年ジョンはコナーの5年成長した姿だと僕の頭では解釈していた。

中西部の田舎町クレイトンに住む18才の高校生、ジョン・ウェイン・クリーバー(マックス・レコーズ)。
(ロケはミシガン州ベイシティで行われた。)

シングルマザーでいつもイライラしているエイプリル(ローラ・フレイザー)が眼鏡越しにジロリと見るレイトン校長(ジム・ゴールク)に呼び出される。

「ジョンは死体や大量殺人に異常な関心を持ち過ぎる。このままだと変質者になってしまう」と。

ジョンの家はママと叔母、マーガレット(クリスティン・ボールドウィン)が代々引き継いでいる葬儀屋で、地下に降りて行きさえすれば遺体はお馴染みなことだから、大量殺人に異常な関心を抱くようになる。

しかしティーネージャーなみにクラスメイトでキュートなローラ(ルーシー・ロウトン)への想いは必死に隠そうとする。

何度も映画の中で紹介されるが、死人の血管にカテーテルを繋ぎポンプで血を抜く装置が出て来る。
アメリカでは火葬は一般的では無く、遺体をそのまま埋葬するのだが、
例え埋めても腐敗が激しく強烈な異臭が漂うのでこのように血を抜いてミイラ化するのだ。
(と僕は解釈した)

校長が診察を受けろと命じたクリニックで、セラピストのDr.ネブリン(カール・ギアリー)からも反社会的な傾向があると診断される。

ある日、犠牲者の体から内臓の一部を持ち去るという連続殺人事件が発生する。殺人現場では血と一緒にタールの溜りが出来ている。
それも立て続けに連続殺人に発展する。

「商売繁盛で良いね」と母親に冗談を言いながらも、ジョンは興味をそそられ自ら犯人捜しに乗り出す。町の住人たちは自警団を作り自分たちの手で町を守ろうと
ライフルやショットガン、拳銃で武装しグループで行動し連続殺人鬼を探している。

そしてジョンは、全く偶然に殺人現場を見てしまう。
犯人は内臓を抜き取り、食べてしまうのだ。

ジョンの隣の家はくたばり損ないの爺さん、クローリー(クリストファー・ロイド)が奥さんと二人暮らし。
家計を支えるため妻は働きに出てクローリーはいつも一人だ。雪が積もると隣家のドライブウェイは誰も
雪掻きをしないので歩けない。

ロイドは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのドクで有名だ。38年生まれで79才。杖を突いてヨロヨロ歩くので雪掻きどころかトイレも満足に出来ず、家事なんかとんでもない。
町で一番連続殺人鬼に遠い人物だ。

杖で歩くのもやっとなクローリーが床屋へ入り、顔なじみの店主のグレッグ・オルセン(ティム・ラッセル)と世間話に興じているが、いきなり隣部屋へ連れ込む。
前々から怪しいと踏んでいたジョンはこの瞬間に火災報知器を押して消防車とパトカーを呼ぶ。
二人の警官が駆けつける。クローリーは素早く後ろに回りクビを掻き切る。

ついに猟奇殺人鬼の正体を突き止めるが、どうして?クローリーの正体は?など疑問は最後の最後まで持ち越される。
サイコパスからシャーロック・ホームズなみの名探偵に転じるジョンの華麗な転身が見事だ。

自身の奥底に眠る衝動的な行動を抑えながら、自分の手でこのシリアルキラーを阻止しなければならないと覚悟を決める。
凍てつく雪に覆われたクレイトンの町でモンスターとの死闘が始まる。

低予算で16ミリフィルムの撮影は暗いムードのストーリーはある意味でユーモラスでもある。
何て言ったって変質者がティーネージャーで連続殺人鬼がヨボヨボ爺さんだから。

 原作はダン・ウェルズのYAシリーズの処女作で、監督・脚色は「エイリアン パンデミック」などのビリー・オブライエンがつとめた。しっかりした演出は剽軽で怖ろしく秀作に仕上がっている。

世界各地でのファンタステック映画祭などで数々の栄誉に輝いている。

遺体安置所を舞台にしたホラー作品を上映する松竹メディア事業部の企画の第2弾。第一弾「ジェーン・ドウの解剖」より遥に面白い。ヒットして欲しいものだ。

6月10日より新宿シネマカリテにて公開される。

「ラスト・プリンセス ー大韓帝国最後の皇女ー」(The Last Princess)(韓国映画):日韓併合の時代、日本へ人質として留学させられた初代皇帝となった高宗の13歳の皇女・徳恵翁主の運命は

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「ラストエンペラー」(The Last Emperor)(1987)と言う、清朝最後の皇帝で後に満州国皇帝となった愛新覚羅溥儀の生涯を描いた歴史映画があった。

 イタリアのベルナルド・ベルトルッチが監督、脚本を、主人公の溥儀を中国系アメリカ人俳優のジョン・ローンが演じた。

「ラスト・プリンセス」も「ラストエンペラー」も、韓国と中国との違いはあるが、戦前の日本帝国主義の政策で大きく人生や運命が翻弄された皇帝と皇女の姿は似ている。

 日本帝国は関係無いが「追憶」(56)ではロシア・ロマノフ王朝の皇女・アナスタシアの亡命先パリでの生涯を描き、主演のイングリッド・バーグマンがアカデミー主演女優賞を取っている。
何れの主人公も夫々の祖国への想いが基底に流れる。

日本統治時代の韓国。
李氏朝鮮第26代国王から初代皇帝となった高宗(ぺク・ユンシク)の娘・徳恵(トッケ)翁主(ソン・イェジン)は、高宗56歳で生まれた娘だけにひとしおの可愛がりようだ。
母は側室(妾)のヤン貴人(パク・チュミ)で父、高宗と両親の愛を一身に受けて天真爛漫に育っていた。

高宗は日本帝国とその朝鮮総督府に反発をしていたが、側近たちは日本から賄賂を受け取り悉く高宗の政策に反発しており、
1919年1月に日本の密命を受けた李王職長官ハン・テスク(ユ・ジェムン)が高宗を毒殺する。

しかし待って貰いたい。
この映画は反日を旗色鮮明にしているので悪いことは総て日本帝国としている。

 09年に出版されたクオン・ピヨンの「朝鮮王朝最後の皇女徳恵翁主」は歴史的事実に基づくと言いながら、日本を悪魔のように描いている。

 日本が暗躍した毒殺など有り得なく。
高宗崩御直後の反日クーデター、「3.1事件」を正当化するものだ。

 何故韓国は日本に敵意を抱くのか?
「慰安婦問題」もそうだ。
飢えと貧困でどうにもならない両親が朝鮮人の女衒から金を受け取り
娘を慰安婦として売り飛ばした商売なのに
今頃になって日本軍が村を襲い、娘を拉致し性の奴隷にしたなどと口走り、
それでも自虐的な日本政府は謝り「10億円を払い」慰安婦像を取り除いて欲しいとの要求に、
金だけ受け取り実行しようとしない。

言いたいのは「日韓併合」も日本政府は韓国のために一生懸命に支援をしていると言う事実は無視されていると言うことだ。

日本の朝鮮統治によって、識字率は数パーセントで文盲殆どだった国民の間にハングルは普及し、
奴隷制度は廃止され、人口は倍増し、衛生状態も改善したのだ。

 明治後期から大正にかけ日本は朝鮮に国家予算の半分ほどを投入して、ダムを造り道路を整備しインフラを整え朝鮮半島を豊かにしたことは忘れられている。

同じ時期に日本の植民地だった台湾は「日本の貢献があったればこそ、今の台湾がある」と感謝をしていて決して恨んだり憎んだりはしない。
ましてや「慰安婦像」などは建てやしない。

 1925年、僅か13歳の時、朝鮮総督府によって日本に留学させられる。
数年後、徳恵は対馬藩の宗武志伯爵(キム・ジュンカ)と政略結婚させられ、更に母の訃報で祖国へ帰りたい一心だが許されない。

ある日、大日本帝国陸軍少尉になった幼なじみのキム・ジャンハン(パク・ヘイル)と再会。
ジャンハンは祖国の独立運動のメンバーで、徳恵を亡命させるための計画を進める。

 ジャハンと徳恵のロマンスをホ・ジノ監督は伝統的なクラシカル手法で描写する。

 東京の街を走る人力車や自動車、庶民の着物、帝国陸軍の制服制帽と時代考証が完璧なのには驚く。

 1945年8月、日本はポツダム宣言を受け入れ韓国は戦勝国側になるが、徳恵は李承晩大統領が旧皇族を嫌い帰国を許さない。

 この時政権で議長を務めていた次期大統領になる朴正煕(弾劾された朴槿恵の父親)に
ジャハンが陸軍士官学校の後輩として近づく。
朴正煕は日本名を高木正雄と言い士官学校を首席で卒業し、
終戦時は満州国に駐在する帝国陸軍中尉だった。

この白馬に乗った王子、高木正雄こと朴正煕の決断が徳恵は念願の夢を叶える。

士官学校先輩・後輩の縁で徳恵は帰国を許可され1962年37年振りに祖国の土を踏む。
金浦空港の税関を抜けロビーは徳恵に繋がる人々で溢れている。
土下座して迎え号泣し「万歳」を叫ぶシーンは感動する。

ホ・ジノ監督はツボを心得ている。試写室も皆涙、涙だ。

主役は「私の頭の中の消しゴム」「四月の雪」で人気が高まるソン・イェジンが、淡々と演じて清冽な印象を残す。

「四月の雪」「八月のクリスマス」のホ・ジノ監督が、徳恵翁主の激動の生涯を2時間超える長尺を飽きることなく見せる。

徳恵救出の立役者、キム・ジャンハンを「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」のパク・ヘイルが演じ、
日本からは英親王の妻、イ・パンジャを戸田菜穂が演じている。

反日のコンセプトはともあれ、ホ・ジノ監督の作品はテンポも良く人情の機微や仮初のロマンス、
それに燃え滾る祖国愛を見事に描いている。韓国を代表する名監督だと認めざるを得ない。

6月24日よりシネマート新宿で公開される。

「キング・アーサー」(King Arthur: Legend of the Sword)(アメリカ映画):誰でも知っているアーサー王の話だがガイ・リッチーがスタイリッシュに作り上げている

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アメリカでこの週末の興行成績が発表された。台所事情が悪いワーナーブラザーズがナケナシの200億円の巨費を投じた大作は辛うじて3位に食い込むのがやっと。
3702館で上映されたったの14.7M(15億8千万円)。

同じ新登場の小品コメディ「Snatched」(日本未公開)にも負ける程の不振。
制作費は「Snatched」の42M(48億円)に対し4倍以上の175M(198億円)(広告、PRなどMKY費用は除く)の大金をかけている。

頼みの海外市場も51か国で開けて29.1M,中国は僅か5.1Mで惨めな結果に終わってますが英連邦のオーストリアと本場英国は未だ公開されていないのが頼みの綱。

ワールドワイド総計で43.8M(496億円)とこれからどんなに頑張っても100M(113億円)を遥かに超える損失を計上せざるを得ないだろう。

2017年夏の大作「フロップ(コケタ)第一号」となった。
「キング・アーサー」はキャメロット城や聖剣カリバー、円卓の騎士など私たちにはお馴染みの中世の神話だ。児童文学にコミックにそしてゲームにとあらゆるメディアの素材に使われているから誰でも知っている。
カリスマ監督、ガイ・リッチー、マドンナの元旦那、(広告会社にいた僕には)CM界の巨匠、そして映画界に身を投じてからは「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998) の監督・脚本「スナッチ 」 (2000) などハチャメチャ映画で世間を沸かし、最近では「シャーロック・ホームズ 」(2009) 「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」(2011) 「コードネーム U.N.C.L.E.」(2015)などの推理やアクションもののリバイバルに手をつけているが、スタイリッシュに纏めようとするから映画自体は面白く無い。
だから何でガイ・リッチーかと思い悩む。いつも主役でリッチー監督を支えてくれたジュード・ロウを今度は悪役にしている。
冒頭のランスロット城での政権争いは興味が惹かれる。主人公アーサーはイングランド王(何人もいたんだ)の一人の息子。暴君て独裁者を目指すヴォーディガン(ジュード・ロウ)は兄であるユーサー王(エリック・バナ)に謀反を起こし、殺害するが、ユーサー王は絶命寸前に赤ん坊のアーサーを小舟で逃がす。
ヴォーディガンに加勢する魔法使いのマージ(ストリッド・ベルジュ=フィリスペ)が川底に潜む大イカの格好で現れ指示するのが面白い。
アーサーはロンドンのスラム街にの辺に流れ着いたのを親切な女性たちが拾い育てる。
ここまではエジプトの王女に拾われたモーゼの話に似ている。
亡き王の息子とは知らずに貧しいスラム暮らしを送る青年アーサーが、選ばれた者だけが手にできる聖剣エクスカリバーを獲得する。サクセスストーリーでトントンとエピソードが繋がり興味が持てる。
剣が持つ魔力を学び制することができたアーサーが仲間と共に立ち上がり、憎き両親の敵であり王国を独裁し君臨するヴォーティガンと手下たちを倒し、救世主として語り継がれる存在へと成長する姿が描かれる。
しかし長い、2時間を超える長尺は回想シーンや細かなフラッシュバックが重なり集中力が欠ける。 
主役のアーサーを演じるチャーリー・ハナムはTVドラマ「サン・オブアナーキー」シリーズや映画「パシフィック・リム」に主演したとは言え知名度は低い。
名が通ったジュード・ロウは叔父で悪王ヴォーティガンと敵役。
他にアストリッド・ベルジェ=フリスベが魔法使いを、グウィネヴィアを黒人のジャイモン・フンスーがベディヴィア卿を演じ、エイダン・ギレンやエリック・バナも脇を固める。
「この作品に大きな期待を寄せていただけに観客の皆さん共感を得られなかったことを残念に思う」とWB国内配給チーフ、ジェフ・ゴードンは言う。
何度も公開を延期してタイミングを狙っていたこの作品は、ヒットしたWDのファンタジーアニメのライブ映画化版「美女と野獣」のようなヒット大作戦略も水泡に帰した訳です。
専門の批評家には辛口で串刺しにされ、観客のウケは悪く、出口調査CSはB+評価,Rotten Tomatoesで26%と低調です。まさに泣きっ面にハチの様相を呈しています。
6月17日より丸の内ピカデリー他で2D3D公開される。

「ディストピア パンドラの少女」(The Girl with all the gift)(米・英映画):近未来の地球は荒廃したディストピア。真菌に感染した人間は生き肉を食らう「ハングリーズ」に変身する

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この週末の日本映画界、公開初週から4週連続1位を達成したウォルトディズニー(WD)の「美女と野獣」。
動員42万人、興収5億8千万円をあげ、洋画の実写としては驚異的な成績を収めている。何としても主題曲が良いのがヒットの原因だ。
累計動員は565万人、累計興収は79億4千万円となり100億円超えは確実となった。

後はやはり美しいテーマ曲に導かれて230億円を超えたWDの先輩「アナ雪」(アニメ)にどれだけ迫れるかだ。

欧米ではダントツ首位で突っ走ているマーベル/WDの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は動員16万3千人、興収2億5千万円をあげ初登場したがようやく3位。
やはり日本ではスーパーヒーローものは今一つヒットしない。

惨めなのはキムタク独立初主演の「無限の住人」が全く当たらず、それでもベスト10の最下位に繋がっていることだ。
木村は目を瞠る熱演だが三池崇の拙い演出が総てをぶち壊した。
来週は間違いなくチャートから消える。

地球の近未来は映画では必ず見渡す限り荒廃した「ディストピア」

「タイワンアリタケ」の突然変異による真菌が体内に入ると、
感染した人間は思考能力をなくし、生きた肉のみを食す「ハングリーズ」と化す。
名前こそ変わるが早い話「ゾンビ」だ。

普段は動かずただ道路端に立っているだけだが、音や生き物の「臭い」で目を覚まし凶暴な「捕食」に走る。
徐々に皮膚が白くなり木の皮のように変化する。最後は樹木となり体内から芽を出し美をつける。

爆発的に蔓延したその奇病により、人類は絶望の危機に瀕し、残った少ない人々は安全な壁に囲まれた基地内での生活を余儀なくされていた。

そんな中、英国ロンドン郊外の田舎町にある「箱のような倉庫」を要塞化した基地では
「二番目の子供たち(セカンド・チルドレン)」と呼ばれる2-30人の子供たちが、
奇病にかかってウィルスと共生していた。

パークス軍曹(パディ・コンシダイン)の率いる小隊が子供たちを守っていた。
臭いを嗅ぎ付けた「ハングリーズ」はいつ子どもたちを襲うかも知れないのだ。

女医、カロライン・コールドウェル博士(グレン・クロース)は罹病した子どもたちの身体から抗菌のウィルスを培養しワクチンを作り出そうとしていたのだ。

子供たちは感染しているにもかかわらず、思考能力を維持し、見た目は人間の子供そのものだった。

子どもたちに付き添うヘレン・ジャスティノー先生(ジェマ・アークートン)は同情しながらワクチンを作り出そうと模索する実験を見守っていた。

 その子供たちの中に高い知能をもった奇跡の少女メラニー(セニア・ナニュア)が見出される。 清純で素直で先生や博士の言うことを良く聞く。

 コールドウェル博士はメラニーをこのまま生かしておくのでなく、
殺して彼女の遺体でウィルスを培養しワクチンを作り出すのが
一番手っ取り早いし効率も良いと考え始める。

少女メラニーは遺体を提供し「人類の希望」となるのか?それとも断固拒否して「人類生存の夢」を絶つのか?

 ホラーアクション映画だが、肝心の「ハングリーズ」の大群が襲うシーは「ゾンビ」映画で見慣れているから怖くも怖ろしくも無い。
 ゾンビ映画のジャンルを抜ききれないこの作品の弱点だろう。

 原作はイギリスのM.R.ケアリーによるベストセラー小説「パンドラの少女」(東京創元社刊)。脚本もM.R.ケアリー自身が手掛けているのが良いことか悪いことか分からない。自著に思い入れがあるから1時間半で終わる話を2時間近く引っ張っている。

 監督は大ヒットドラマ「SHERLOCK シャーロック3」の「三の兆候」などヒットTVシリーズを数々手がけたコーム・マッカーシー。
映画は何本か撮っているが日本未公開だから日本の映画ファンには無名の人だ。

主人公の少女メラニーは、500人を超えるオーディションで選ばれた新人セニア・ナニュア。
撮影時は12才だった半黒のキュートな少女。生まれつき演技の才能はあったようだ。
この作品でシッチェス・カタロニア映画祭の女優賞を獲得した他、英国インディペンデント映画賞、ロンドン映画批評家協会賞、エンパイア賞などで新人賞にノミネートされた。

その他、付き添いの先生役で(007/慰めの報酬)などのジェマ・アータートン、
古稀(70才)を迎えた、白髪で額が禿げ上がった久しぶりの大女優、グレン・クローズ
子どもたちを守るパークス軍曹は「チャイルド44」などの43才、ベテランのパディ・コシンダイン
などが脇を固めている。

7月1日より新宿バルト9他で公開される

「海辺のリア」(日本映画);今年84歳となる仲代達矢と組んで3作目の小林政広監督。仲代の半自叙伝的要素を含んだこの映画は今までで最高の出来だ。

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小林政広監督が、今年84歳となる仲代達矢と組んで3作目。
仲代の俳優生活65年のキャリアを織り交ぜ半自叙伝的要素を含んだこの作品が一番面白かった。

最初の作品「春との旅」(10)は北海道の元漁師の老人が孫の春を連れて終の棲家を探すロードムービー。

2本目の「日本の悲劇」(13)は年金不正受給事件を扱う。余命3カ月と宣告された老人の不二男。父の金を頼りに無為無職の日々を過ごしていた息子の義男。

何れも小林が仲代をあて書しているが、作為的で作り物感が免れず、仲代もいやに張り切り過ぎて
演技過剰で鼻白んだ。

 そこへ行くとこの最新作の仲代扮する桑畑兆吉は仲代自身のキャリアや人生が重り合い符号する。

一世を風靡した大俳優で自分で後輩のために俳優養成所を作り指導に当たり、
それとは別にプロダクションを設立し映画や舞台製作をして
社員20名を超える事業として成功している。

三船敏郎の「三船プロ」や仲代自身の「無名塾」が基底にある。

功なり名を遂げた(仲代は「文化勲章」を授与されている)俳優が人生の終焉を迎える姿と言うのは、そうかも知れないと言うリアリティもあり、長年の仲代ファンとしては興味が尽きない。

 それを何度も演じたシェイクスピアの「リア王」になぞらえて認知症に冒された主人公、桑畑兆吉の
幻想と徘徊で過去と現在を混同してイメージする作品は
小林政広の仲代三部作で最高の出来となっている。

80才を過ぎた桑畑兆吉(仲代達矢)は、舞台や映画に俳優として半世紀以上のキャリアを積み大スターとなり、さらに俳優養成所を主宰し後輩を養成し、映画や舞台を制作するプロダクションを経営する大物だった。

演技を愛し続けた大スターも、今や仕事の声もかからなくなって引退同然だ。
その上、認知症の疑いがあり、長女・由紀子(原田美枝子)とその夫で、兆吉の可愛がった一番弟子の行男(阿部寛)に裏切られている。

現金や不動産、有価証券など総ての財産は長女夫妻に残すと遺書を書かされた上に
高級老人ホームへと送り込まれたのだ。
言わば拘置所で幽閉されたようなものだ。

映画の冒頭は年の暮れ、
シルクのパジャマの上に黒いコートを羽織り黒い荷物ケースを引きずりながら、
兆吉は海岸通りをセカセカと歩いている。
海浜の砂の白さと兆吉の黒いコートのコントラストが目を引く。
モジャモジャのグレイの頭髪に顔の半分を覆う白い髭、
窪んだ目に嵌め込んだようなメタルフレームの小さな眼鏡。

どうやら高級老人ホームを脱けだし徘徊しているようだ。
なにかに導かれるように、あてもなく海辺を歩き続ける。

兆吉の彷徨い歩く行く手に黒いコートを羽織った若い女が立っている。
兆吉が徘徊して来るのを待ち受けたようだ。

兆吉は誰か分からない。
「どなた様ですか?」
「私は伸子、あなたの娘よ」

妻とは別の女に産ませた娘、伸子(黒木華)は東京から会いに来て携帯にメッセージを残していたが
そんなものを見る兆吉ではない。

 結果的に二人は突然の再会を果たす。

一緒にくらしていたが私生児を産んだ伸子を兆吉は許せず、
家から追い出した過去があったことも覚えていない。

しかし会った瞬間、伸子に「リア王」の最愛の娘・コーディリアの幻影を見る兆吉。

兆吉の身にも「リア王」の狂気が乗り移る。長女、次女(は実在しないが)には
巧言で騙され、正直で唯一父、リア王を愛した実直なコーディリア。

仲代のリア王のセリフは波の音や海風の中でもくっきりと朗々と聞こえる。
さすが千両役者だ、良いシーンで印象的だ。

かつて舞台の記憶が溢れ出したとき、兆吉の心に人生最後の輝きが宿る。


伸子と兆吉だけでは単純すぎて間が持てず増量剤として原田美枝子の長女・由紀子と
阿部寛扮する夫で一番弟子、そしてプロダクション社長の行男のエピソードが挿入される。
兆吉を拾って車に乗せ、逃げられてまた追う、詰まらない繰り返しをしているが時間潰しに過ぎない。

プレスを読むと由紀子に隠れた愛人がいてそれが運転手の小林薫と言うが、
もう一台の車を運転し、暇だから蝙蝠傘をだしてゴルフの練習をするだけ、と言う小林監督の本も運転手の存在については苦しい。

共演陣は多いが仲代達矢と黒木華の映画だ。

監督・脚本は、小林政広。
カンヌ国際映画祭へ四作品を公式出品し。さらにロカルノ国際映画祭では、「愛の予感」(2007)が最高賞の金豹賞を得ているが、国内ではヒット作が無い。
商業的には受け入れられていない。

仲代と小林は、映画「春との旅」(2010)で巡り会い、意気投合し、「日本の悲劇」(2012)そして、本作品はコンビ三作目となることは上述した。小林監督も仲代を主演に日本観客に阿っているが、今までの2作品ではダメだった。

だからこの作品に賭ける。三度目の正直。

仲代の芝居もその突き出た下腹部のように飾らず気張らず素直で好感が持てる。
初めて仲代の素顔に接した感がある。
僕は気に入っている。

6月3日よりテアトル新宿他にて公開される。

「アリー・キャット」(日本映画);猫好きの世間からはみ出し者二人が、猫を介して親友となり闇社会の巨悪と戦うバディ・ムービー

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 洒落たタイトルだが、最初の発想は野良猫から出た筈だ。
そこから和英辞典を頼って行き着いた「alley cat」は、字面では「路地(alley)をうろつく野良猫」と言う意味だが、一般的には「売春婦」として使われている。

 だから洒落てはいるが無法者気取りの男達、バディ・ムービーとしては難がある。
それにどう見ても、実際の映画の中でも猫好きとされる窪塚も降谷も猫に関心を示していない。
これは窪塚や降谷の資質と言うよりも榊監督の演出力に依るものだろう。

 元東洋フェザー級チャンピオンで今は警備員の朝秀昌(窪塚洋介)は世の中のことは何も関心が無い、唯白と黒斑のマルと言う猫を可愛がっている。

 ある日マルが居なくなりアチコチさがして保健所まで辿り着くと茶髪の若い男、梅津郁巳(降谷健志)がマルを抱えて出て来る。

 それは俺のマルだ、返せと言うと自動車整備工の梅津は俺の猫でリリィと言うんだ。「猫は9つの命があってマルは消えてりりィになった」と日本人には通用しない「Cat has 9 lives」を持ち出してりりィを連れて工場へ戻ろうとする。

 当然喧嘩になるが元チャンピオンにしては朝秀は少しも強く無い。
でもどう言う訳かお互い猫を通して気に入り、朝秀は「マル」と呼び、梅津は「リリィ」と呼び合うバディ=親友になる。

 出だしからハリウッド映画を真似た「バディ・ムービー」で何か問題が起これば簡単に先が読める。
後は窪塚と降谷の役者としての魅力次第だが、それを引き出す脚本の清水匡と監督の榊英雄が力不足のようだ。

 一緒に行動するようになった2人は、ひょんなことで、ひとりのシングルマザー、土屋冴子(市川結衣)からボディ・ガードの依頼を受ける。

 警備員のマルこと朝秀が警備会社の上から受けたものだが、
猫なみに好奇心旺盛なリリィの梅津が付いて来る。

どうも冴子に惚れて暫く付き合っていた玉木敏郎(品川祐)が復縁を迫ってつき纏っているようだ。

ストーカーの玉木役の品川が上手い。
お笑いの「品川庄司」の品川だが「ドロップ」や「漫才ギャング」など小説を書き監督をした才能は役者をやらせても只者では無い。

 小太りの丸っこいからだでターミネーターの殺人鬼と化して付きまとう。
窪塚と降谷も完全に品川に食われている。

 冷たくされた玉木は「リベンジポルノ」を実行する。
冴子が付き合っていた時のセックス時の動画や写真がSNSでばら撒かれ、
その上保育園の子どもも巻き込まれそうになって、
二人の俄か探偵はストーカー事件の裏を探り、根本から絶とうと東京へと向かう。

そして冴子がデリヘリ時代に付き合った大物政治家やら経営コンサルタントの黒幕やらヤクザの大幹部(火野正平)などが出て来ては消えハチャメチャになる。

少しは話を整理しなくては、
特に警察を名乗る二人の黒服が出て来て拳銃をぶっ放すなど、
どうなっているんだよ!と言いたくなる。
大体ヤクザの大幹部で火野正平を出す意義が何処にあるんだろう?

冴子役の市川麻衣は「愚行録」で見直したが、裸もセックスシーンも中途半端で少々がっかり。

マルとリリィの猫好き二人に、「猫」は全く関わらないのも不満のタネ。
折角大上段に「猫好き」バデイ・ムービーをうたいながら猫は何処へ行ったんだ?

しかし終盤のストーカーのターミネーター、品川祐の怪演で映画は救われる。

折角の窪塚洋介と「Dragon Ash」の降谷建志がW主演でがんばっているが、猫に関心を示さない猫好き役で空回りをしているのが淋しい。

「木屋町DARUMA」や一旦オクラになった映画を引っ張り出した「トマトのしずく」の榊英雄が監督。映画の構成や演出をもう少し考えて貰えれば良いのだが。

 主人公のマルは、今年一番ずっこけた映画となったM・スコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」で、宣教師役として注目された窪塚洋介。 
窪塚の「ピンポン」での鮮烈なデビューは忘れられない。

 相方のリリィ役にはDragon Ash(ドラゴンアッシュ)ボーカル・ギターの降谷建志。
ミュージシャンは芝居が上手いが
特に降谷は名優古谷一行の息子で演技のDNAは受け継いでいる。
NHK大河ドラマ「八重の桜」で新選組の斎藤一役も印象的だった。

主題歌「Lost and Found」、挿入歌「Pussy Cat」はシンガーソングライターで監督夫人の榊いずみが新たに書き下ろした。

 猫だとかストーカーとかリベンジポルノとか大物政治家にヤクザの親分と
消化が出来ないままのごった煮の内容だが、
役者の芝居で楽しめるのが良い。

7月15日よりテアトル新宿他で公開される。

「夜明けの祈り」(Les Innocentes)(フランス映画):フランス軍軍女医中尉のマチルドはソ連兵のレイプと殺戮など乱暴狼藉で危機に陥ったポーランドの田舎の修道院を地獄から救う。

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ポーランドと言う小国は歴史上可哀相な国だ。
この映画を見ているとポーランド人に対する極悪非道のソ連兵への怒りがフツフツと沸き滾る。

日本人も女性は、ソ連兵にレイプなどの乱暴狼藉を受け、
男性は奴隷としてシベリアへ送られ強制労働を戦後長く従事させられ
多くの人間が殺された。

ソ連(ロシア)は悪魔のような国なのだ。

これに比べ、自国の女性が慰安婦として戦場へ行ったくらいで騒ぐ韓国人の気が知れない。
少なくとも飢餓に苦しむ親が韓国人女衒から金を受け取り、
娘を売り飛ばした事実を見逃している。
そして少なくともしっかりと生き残り、
日本からの賠償金でヌクヌクと豪勢な暮らしをしているのだから。

1939年に第二次大戦が始まるとナチス・ドイツとスターリン・ソ連は夫々侵攻したポーランドを分割して占領する。英仏はドイツと全面戦争になるのを恐れて知らぬ顔。

ソ連の占領下では、100万人以上がシベリアや中央アジアに強制移住させられた。
NKVD(秘密警察)はポーランドの軍人・将校・官僚など2万1千人を超える捕虜を射殺した(カティンの森事件)。

1941年にはドイツ軍がソ連支配圏に侵攻して独ソ戦が始まり、ドイツの勝利によりポーランドの全土がドイツの支配下に置かれた。
ポーランド国内では英仏を後ろ盾とする亡命政府系の反ドイツ運動とは別に、ソ連を後ろ盾とする共産主義系パルチザンの人民軍が蜂起してドイツ軍に抵抗し、大戦中のポーランド人の犠牲者は数百万人を数えた。

独ソ戦でソ連が反撃に転ずるとドイツ占領地域はソ連軍によって解放されていった。そして1945年にはポーランドはソ連の占領下に置かれた。

この映画では触れていないが、そのような悲劇的側面を持ちながらポーランドが世界的に非難を浴びるのは、ナチス・ドイツに協力してユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)に手を貸したことである。
ポーランドはヨーロッパでも最大規模のユダヤ人を抱える国であったが、
隣人知人のポーランド人の密告で殆どのユダヤ人がアウシュヴィッツなどの強制収容所に収監され、
1944年までにユダヤ人人口300万人の約9割が殺害された。

そんな歴史的背景を持つ中でこの映画に取り上げられたソ連兵のレイプ事件が起きる。

この映画と関係無いが、
1945年8月9日に日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連軍は無抵抗の満州国に侵攻し
日本人家庭に乱入し男性は殺害し婦女子は赤ん坊に至るまれレイプしその後殺傷する。
野獣のような振る舞いはソ連人(ロシア人)のサガなのだろう。

さて1945年12月のポーランド。
赤十字で負傷したフランス兵たちを治療して故郷へ送り返すよう
医療活動に従事している若いフランス人女性、中尉医務官のマチルド・ボーリアック(ルー・ドゥ・ラージュ)のもとに1人の修道尼(シスター)、マリア(アガタ・ブゼク)がポーランド語で助けを求めて走り込んで来る。

マリアは院長マザー・オレスタ(アガタ・クレシャ)が修道院のスキャンダルになるから誰にも知らせるなと言う命令を無視し、無断で修道院を抜け出して赤十字までやって来たのだ。

軍用ジープで雪の道を修道院に駆けつけると臨月ながら正常な分娩ができず泣き叫び苦しんでいるゾフィア(アンナ・プロフェニック)の姿。

ゾフィアには急場の帝王切開手術を行い母子を救うが、修道院には臨月の近い妊婦が7人もいた。
繰り返して修道院を襲ったソ連兵の蛮行によって妊娠していたたのだ。

事実と違うのは25人の修道女が40回も襲われ20人が殺され5人が妊娠をしていたのだが映画では実数を緩やかにして7人が妊娠していることになっている。

そこでマチルドは7人を救わなければならない院長が文句をつける。
「出来れば、神様の意志なのだから、そのままにして置きたい」
「事実が公になると修道院はスキャンダルで閉鎖されるかもしれない」と。

何とか公になることを避けたい修道院長の意向で、彼女は本来の病院任務をこなしたうえ、早起きをして明け方の「祈りの時間」に極秘裏に修道院まで通う。

睡眠不足で本来の任務がおろそかになりそうになります。また妊娠したシスターも医師の診察を受けること自体が信仰に反することであり、簡単には診察を受けようとしません。

シスターの中にはソ連兵と恋仲になっている者がいたり、そして老齢の院長までがレイプ(されていたのだ)の結果、梅毒に冒されていたりする。

やがて順次分娩が進んで子供が生まれて来るが、二人のシスターが同時に産気づいたときには、マチルドの上司の男性医師、サミュエル(ヴィンセント・マカイーネ)男性医師の手助けが必要になる。

やがて生まれた子供を修道院に置いておくと総てがバレるからと、院長がどこかに子供を預けにいく。

とても暗い落ち込む映画で、修道院の中だけのシチュエーションだがビッシリと感動的で印象に残る話だけに2時間近くの長尺も感情移入が起きて飽きない。

救われるのはラストシーン。
どこかに預かってもらった赤ちゃんを夫々母親のシスターが胸に抱き記念写真の収まるシーン。
悪夢のエピソードが天使の夢に一瞬で変わる。

監督は「ココ・アヴァン・シャネル」や「ボヴァリー夫人とパン屋」など女性を主人公にその生き様と人生を描くのが得意なアンヌ・フォンテーヌ監督。

特に今回は修道女やレイプ、妊娠など女性に纏わる特異な問題を扱うだけに女流監督のセンシティビティは必要だった。

主演のマチルド役は「待つ女たち」「世界にひとつの金メダル」など未だ26才の若さながら美貌と芸歴を誇るルー・ドゥ・ラージュ。軍医の要職にありながら修道女たちを理解し救う女医を熱演する。

修道院長のマザー役に「ハミングバード」の40才のポーランド女優、アガタ・ブゼク、最初に危機を伝えるシスター、アンナに「イーダ」のアガタ・クレシャ、
マチルドの男性上司、サミュエルに「EDEN エデン」のヴァンサン・マケーニュ。

8月5日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「ゴールド~金塊の行方~」(GOLD)(アメリカ映画):インドネシアの熱帯雨林で170億ドル(1兆9千億円)の金鉱脈をアメリカ・ネバダ州にある鉱山採掘社のダメ経営者が発見したニュースは世界を駆け巡る。

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実話に基づく、と冒頭のクレジットが出るが、それにしても破天荒な話でストーリー展開は滅茶苦茶だ。

 ただ映画の価値と質に貢献しているのは主演のマシュー・マコノヒーの熱演。

堂目するのはマコノヒーの肉体改造(フィジカル・トランスフォーミング)だ。
売れてる役者がここまでするかと思われたのが「ダラス・バイヤーズ・クラブ」(13)で、エイズの麻

薬売人役に成りきるために38ポンド(18キロ)の減量をした。
ガリガリに痩せたマコノヒーはしぼんだイケメンだった。この演技で14年度のアカデミー賞とゴールデン・グローブの主演男優賞の栄冠を獲得し、ハリウッドBLVDの「ウォーク・オブ・フェイム」に名前が刻まれた。

この映画での彼の役柄は祖父の代から引き継いだ鉱山採掘社の、無気力な社長で怠け者の資本家だ。
今度は2か月かけて過去最高の95キロの体重にまで太り、
禿げ頭のカツラが合うようにスキンヘッドに剃り上げ、
曲がった人工歯を差し込んだ。

これほどまでに役柄に合わせて肉体改造をするスターはマシュー・マコノヒーを置いてはいないだろう。

時代は1981年ネバダ州リノ。
ケニー・ウェルス(マコノヒー)は、先祖代々続く鉱山採掘会社「ワショ―」社のCEO(経営責任者)。
しかし目ぼしい山も掘り尽くし業績不振で株価は低迷する。
投資家も銀行もいくらウェルスが頼み込んでもソッポをむくだけ。

自宅も担保物件で差し押さえられ恋人ケイ(ブライス・ダラス・ハワード)の家に身を寄せる。ケイは昼は家具店の店員、夜は働きながら献身的にウェルスに尽くす。

ウェルスは酔いつぶれて夢を見る。
どういう訳かインドネシアで金の採掘をしている幻想だ。
直感で「正夢」と信じたウェルスは
地質学者のマイケル・アコスタ(エドガー・ラミレス)を雇いインドネシアに飛ぶ。

マイケルはかつて最高の銅鉱脈を掘り当てた男だが、いかさまの「山師」の評判もつき纏う。
アチコチに借金をして二人は一攫千金の夢を実現させようと大勝負に出る。
インドネシアのジャングルで金鉱の発見に乗り出したのだ。

ウェルスがマラリヤに感染し数日間意識が無いが回復した途端、吉報が齎される。
マイケルが4か所で金鉱を見つけ、
その産出量は1万オンス、170億ドル(1兆9千億円)にもなると言う。

さあそのニュースが世界を駆け巡り、ワショ―社の株価はうなぎ登り、
銀行や投資家は手の平をかえしてスリスリ身を寄せ、資金ならいくらでも出すと言う。
実話だから信じない訳には行かないがここから完璧にコメディの世界だ。

採掘のライバル社「ニューポート」がパートナー経営を持ち込んで来るが
ウェルスは冷たく断る。

するとニューポート社はスハルト大統領に賄賂を掴ませ金鉱脈を国有化にしてしまう。
負けじとウェルスもスハルトの息子を取り込み泥試合がくり返される。

だが何と何と、金鉱石は只の岩石に金メッキをしたものだと分かり大どんでん返し。

これは史上最大級の詐欺事件だったのだろうか?
どん底男が抱いた野望の白昼夢だったのだろうか?
ウェルスには詐欺の動機は全くない。

170億ドル相当の黄金が、こともあろうか一夜にして消失したこの事件。
株式市場に大混乱をもたらし、鉱山史上、最も大胆な偽装を疑われたクライム・サスペンス映画だが、
実話と言えど破天荒過ぎて実感が無く、ましてや「納得性」はまるでない。

上述のようにケニー・ウェルスを演じるマシュー・マコノヒーの熱演に振り回され映画に撮り込まれる。

舞台はネバダ州リノからインドネシアの熱帯雨林、そして株式市場と変わるがメインのロケ地、インドネシアのボルネオ島のシーンは、タイ南部で撮影され、広大なジャングルの熱気が伝わってくる。

ケニー・ウェルシュを支える恋人のケイ役は「ジュラシック・ワールド」(15)などのブライス・ダラス・ハワード。茶髪のカーリーヘアのブライスはキュートだ。

学者のくせに怪しげな詐欺師っぽい地質学者のマイケル・アコスタ役に「X-ミッション」(15)「ガール・オン・ザ・トレイン」(16)などのエドガー・ラミレス。
共演陣は芸達者が揃った。

監督は「シリアナ」(05)のスティーヴン・ギャガン。監督よりも脚本家として有名で「トラフィック」(00)でアカデミー賞脚本賞を受賞している。

6月1日よりTOHOシネマズ シャンテ他で公開される

「僕とカミンスキーの旅」(Me and Kaminski)(独‣白映画):無名の美術評論家はスイスの山奥に引退している盲目の天才画家に単独インタビューを申し込む

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試写を見逃し、GWに封切られたこの作品を追いかけ上映館をチェックすると恵比寿のYEBISU GARDEN CINEMA。ここは足が悪い僕にとっては鬼門だ。
日比谷線恵比寿駅で降りて動く歩道を幾つも乗り換え、三越デパート前の迷路のような階段を登って、何度も来たのにマンションへ入ってしまい、ムビチケで予約したチケットで席に座るまで30分もかかってしまう。
 
 こんな面白い映画なのに、2時間を超える長尺の所為か、ドイツ映画は嫌われるのか、土曜5時20分の回に半分程の客しかいない。
アメリカでは公開されないのでヨーロッパ以外では日本くらいだろう。

東西ドイツ統合という歴史的な一大事を背景に、反体制の考えを持っていたブリュール扮するアレックスが反社会主義デモに参加し警察と衝突するところを偶然目撃した愛国者の母親、クリスティアーネはショックで心臓発作を起こし、昏睡状態に陥ってしまう。その間にベルリンの壁が崩壊、統一ドイツは資本主義国家となる。
やがて8ヶ月後、クリスティアーネは奇跡的に覚醒するのだが優しいアレックスは未だレーニンが支配しているように偽装する話に大笑いした。その「グッバイ、レーニン!」(03)は、公開当時のドイツにおける歴代興収記録を塗りかえ、ベルリン国際映画祭やヨーロッパ映画賞ほかで数多くの賞に輝いた。

 愛する母親のために「優しい嘘」をつき続ける主人公アレックスを好演したダニエル・ブリュールは、僕の好きな役者で今年38歳になるが、大ヒット作に恵まれていない

 スペイン生まれのドイツ人、
語学の天才でドイツ映画ばかりか2004年にイギリス映画「ラヴェンダーの咲く庭で」、
2006年にはスペイン映画「サルバドールの朝」、
2007年にはハリウッド映画「ボーン・アルティメイタム」などに出演するなど今や国際派スター俳優となっているが今一つなのだ。

 この作品は、ブリュールを世に出してくれた大恩人のヴォルフガング・ベッカー監督と「グッバイ、レーニン!」以来12年ぶりに組んだ「僕とカミンスキーの旅」は、世代も境遇もまったく異なる31歳の青年と85歳の老人が織りなすコメディ。

31歳の無名の美術評論家ゼバスティアン(ダニエル・ブリュール)は友達もいないし収入も無い。同居しているガールフレンド、エリカ(ジョディス・トリーベル)に食べさせてもらっている。

ここいらで一発当てて金と名声を手に入れる評論か伝記を書こうと思い立ち、スイスの山奥で隠遁生活を送る画家カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)を訪ねることにした。

ゼバスティアンはこう考えた。
今生きている中でもう直ぐ死にそうな大物は90歳をこえたカミンスキーだけだ。
若い頃はマティスやピカソと親交があり、アンディー・ウォーホールとライバル視された。
カミンスキーの人気が出たのはウォーホールと競いあっているときに段々と目が見え
えなくなってきたことだった。

そして盲目の天才画家としてスイスの山奥に引退して30年になる。
ゼバスティアンは盲目のカミンスキーは、実は目が見える筈だ、それをインタビューを通して暴いて見せよう。そして書き終わって暫くしたら老衰のため死んでくれる。
彼の「ミンスキー伝」は大ベストセラーになる筈だ。

ようやく辿り着いた山奥の邸宅で老画家は娘のミリアム(アミラ・カサール)にがっしりと保護されていた。
ヨボヨボ歩きの爺さんに喋らせない。
独身の年増美人のミリアムは独裁者だ。

「質問は私にして、私が答えるわ」
「そうは行かない。これは私のインタビューなのだ」

壁にはミリアムのヌードの絵が飾ってある。
ゼバスティアンのイメージの中でミリアムはヘアヌードになる。

カミンスキーはマティス最後の弟子でピカソの友人、そしてポップアート隆盛の60年代NYでウォーホールと競う「盲目の画家」として脚光を浴びた伝説的な人物だ。

在り物のフーテージで実際の有名人たちのシーンが、フィクションのカミンスキーを実在の人物のように浮き立たせる。

ゼバスティアンはミリアムの外出中に地下の倉庫で数枚の自画像を見つける。
サインが入っていないが、目が見えなくなってから描いたものだ。

何とかして老画家の隠された新事実を暴く為、
ヨボヨボのカミンスキーが未だ未練を残していいるガールフレンドの居場所を知っていると、
言葉巧みに自宅から誘い出す。

古いジャガーEタイプの真っ赤なオープンカーに乗ってスイスからフランス、ドイツ、ベルギーの雄大で美しい風景をバックに、車を盗まれたり、財布を無くしたりのドタバタ続きの珍道中を繰り広げる。

そしてスペインを横断して大西洋岸に住んでいる若き日に愛した女性、テレーズ(ジェラルディン・チャップリン)のもとへ連れて行く。
チャップリンの孫娘は未だ綺麗でおしとやかだ。見えないのに感激するカミンスキー。

しかしミリアムに突き止められて二人の珍道中はいつしか奇妙な方角にねじれ、互いに相手を思いやる友情が芽生える。

ゼバスティアンはスクープを収めた録音機とカメラを海に捨て、カミンスキーは自画像に「ゼバスティアンへ」とサインしてシグネチャーを書き込む。

映画の魅力は主人公ふたりの型破りなキャラクターの差だ。

他人の迷惑を顧みないエゴイストで、行き当たりばったりの突撃取材を行うゼバスティアン。これほど自己チューの男も珍しい。

美術史にその名を刻んだカリスマで、病弱な見た目からは想像もできないしたたかさで相手を振り回すカミンスキー。サングラスを取った窪んだ眼は鷹のような鋭さと深い憂いを湛えている。

そんな彼らがいつの間にか、摩訶不思議な友情で結ばれていくロードムービーは観る者を魅了する。
セレブたちの本当かどうか分からない裏話や美術界の蘊蓄、エンドクレジットを飾る有名絵画をおちょくったアニメ動画など最後まで観客サービスを忘れない。

原作者のダニエル・ケールマンは1975年ミュンヒェン生まれの41歳。2003年に発売した「僕とカミンスキー」は18万部のベストセラーとなり26カ国語に翻訳されている。

監督ヴォルフガング・ベッカーと主演ダニエル・ブリュールが12年ぶりにタッグを組み、崖っぷちの青年美術評論家と盲目の老画家がヨーロッパをめぐる旅を描いたロードムービー。
これがベッカーの監督2作目だと言うから驚く。

カミンスキー役を「007」シリーズの悪役ミスター・ホワイトなどのイェスパー・クリステンセンが演じる。
クリステンセンのもっともらしい盲目天才画家のキャラクター作りは素晴らしい。

楽しい映画を見て興奮気味に恵比寿ガーデンプレイス地下の「ビヤステーション」へ入ったら、映画チケットの半券でエビスビール小ジョッキーがタダになるオマケもついていた。
ここのカリカリ焼いたパンにはさんだ「カツサンド」はビールのおつまみにピッタリの絶品だ。

YEBISU GARDEN CINEMAで公開中

「歓びのトスカーナ」(La Pazza Gioia)(伊・仏映画):美しい田園風景に囲まれたトスカーナの精神病院。出会った女性2人は環境も出自も性格も正反対だが親友となり隔離された息子に会いに脱走する

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タイトルのイタリア語を英訳すると「Like Crazy」。
二人の狂った女性が映画の中を駆けずりまわる少し変わった映画だ。

主演の二人は僕のお気に入りの数少ないイタリア女優だ。
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、53歳。彼女より妹のサルコジ元フランス大統領夫人、カーラ・ブルーの方が有名だが何れにしても美人姉妹だ。ブロンドのカーリーヘアを振り乱して機関銃のように喋りまくるセリフは字幕でなくイタリア語で理解できたらと思う。

4年程前に見た「人間の値打ち」はひき逃げ事件を巡る経済格差のある3家族のドラマは結構考えさせられたが、その映画のコンビ、パオロ・ヴィルズィ監督と女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキが再び組んだ。

もう一人のお気に入り女優は、37才のミカエラ・ラマッツォッティ。
役造りでガリガリの痩せ面やつれしているので見間違えそうだが、
体中に入れ墨を彫り、落ち込んで物を言わない姿は、
ここが精神病院だと思い出させる。

どうも大きな邸宅で住んでいる女性たちは多いが、家族でも無ければ普通の家では無い。塀は高く鉄の門は施錠されており、警護の男たちはそこここに散見される。

ここ、トスカーナの精神医療施設「ヴィラ・ビオンディ」では精神に異常を来した女性患者を収容しているのだ。
主人公は虚言癖でおしゃべりな自称・伯爵夫人ベアトリーチェ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)。二言目に高貴な出自を誇り、そして機関銃のように喋る。
明らかな嘘を言ってもそれを取り繕う術も凄い。
初めて会った人は暫くは「正常な人だ」と思い込む。

ある日新しく入所して来た全身タトゥー女、ドナテッラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)に興味を持つ。
持前の社交好きの饒舌さで話しかけるが、ドナテッラ自分の殻に閉じこもって
うるさそうに部屋に引き籠る。

ドナテッラを演じる、昏いが目を惹く程の美しいミカエラ・ラマッツォッティはガリガリに痩せていて身体の外も内側も傷だらけに見える。
役造りに体重を激減し肉体改造をしたのだろう。

彼女の誰にも言えない秘密は、自分の息子を殺そうとし、
人々は息子を隔離したことにある。
大量の抗鬱剤を処方されており更にマリファナを常用しているのだ。
ベアトリーチェは彼女を守り支えようと心に決める。

ある日、患者たちはバスに乗り診療所の職員たちと一緒に自分たちが関わっている種苗店へ行く。久しぶりの賑わうモール街だ。

そこのショッピングモールから二人は脱走を図る。
奪った真っ赤なフィアット・アッピアのカブリオーレで
トスカーナの息を飲む美しい草原の道を突っ走り、
行先も決めずにバスを捕まえ、列車に乗り込んで、ドナテッラの息子に会いに旅を始める。
途中で出会うドナッテラの堕落した母親、
彼女の身体を通り過ぎて行った過去の親しかった男達。
そして伯爵夫人と称するベアトリーチェの元カレは家庭を持って瀟洒なヴィラに収まっている。

無事に息子のもとに辿り着き胸に抱きしめ頬を濡らすドナッテラに
感情移入してもらい泣きの声が観客席に広がる。

性格も環境も背景も正反対の2人は、破天荒な逃避行を繰り広げるなか、いつしか掛け替えのない絆で結ばれていく。アウトロー女性のバディ・ムービーだ。

イタリアの「アカデミー賞」にあたる「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」で17部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演女優賞など主要5部門の受賞を果たしたメガヒット作品だ。

監督は「来る日も来る日も」(12)「人間の値打ち」(13)などの、トスカーナ生まれ、53才のパオロ・ヴィルズィ。
この映画もそうだが、脚本家フランチェスカ・アーキブージとの協働が多い。ウィットに富んだセリフがテンポを刻み精神病院は楽園になる。


7月上旬よりシネスィッチ銀座にて公開される。

「君の膵臓を食べたい」(日本映画):12年前に亡くなった恋人、桜良の「闘病日記」と「星の王子さま」が懐かしい切ない昔の日々を思い出させる

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昨年本屋大賞2位を受賞した時、住野よるの原作小説を読んで泣かされた。
映画化されたなら是非見たいと東宝の試写室へ駆けつける。
昨夕(22日)6時半の回は満席の盛況だ。

 しかし、どうも読んだ原作と違う。主人公の名前は同じだが小栗旬が演じる主人公「僕」はどうみても高校生では無い。

 冒頭は高校の職員室で、僕が扮する「国語教師」は移転する図書館の本の整理を教頭から頼まれるシーンから始まる。

本の整理をしている最中に、整理を手伝ってくれる教え子の栗山(森下大地)と話すうちに、ボロボロの「共病日記」が出て来て、高校時代のクラスメイト・山内桜良と過ごした数カ月間の思い出が懐かしくも切なく思い出される。

12年前、高校時代の「僕」(北村匠海)は、レベル5の膵臓癌を抱える桜良(浜辺美波)の秘密の闘病日記「共病日記」を偶然見つけたことをきっかけに、図書委員長の僕を手助けしてくれる図書委員として毎日放課後は山内桜良と一緒に過ごすようになる。

短い日々の余命を数え懸命に生きる桜良に惹かれ彼女の望むままに博多への小旅行を含め楽しい日々を過ごす。桜良の親友、恭子(大友花恋)からは手をだしたら「ぶっ殺す!」と脅かされていた。

しかし運命は冷酷にも桜良の生涯に終焉を告げる。
葬式にも出席できない「僕」。

小説もそうだが「僕」には名前が無い。桜良の勧めるようにいつの間にか「国語の教師」になっている。

映画は高校時代はサラリと描き、原作には無い12年後のシーンに力が入っている。高校時代の役者は北村匠海と言い浜辺美波と言いスターでは無い

 小栗旬や北川景子が顔を出す現代の方に力が入っているのは明らかで、
見る前に不快感があったが、見終わって、
更に泣けるこの現在もこれで良かったのかと思う。
小説のエッセンスは大事に扱われているからだ。

「君の膵臓を食べたい」とドラキュラかゾンビを思わせる不気味なタイトルと甘い切ないロマンティックなストーリーのギャップで話題を集めた住野よるの同名の小説は良く出来ていて偶然読んだのだけど泣かされた。

映画もラストシーンは盛り上がる。
そして桜良の死から12年後、彼女の親友だった恭子(北川景子)もまた、結婚を目前に控え、桜良と過ごした日々を思い出していた。式の当日、僕は整理中の本の中から桜良の愛読書「星の王子様」(Le Petete Prince)を見つけそこに挟み込んだ恭子宛ての手紙を見つけ
ドレスを纏った結婚式場の恭子のもとへ駆けつけ届ける。

使い古された(クリシェ)で
「あなたがこれを読むころは私はお墓で眠っていると思いますが。。。」
で始まる手紙でこれには堪らず泣かされる。

ほぐれたストーリーを整理し解くのは、図書館での本の整理と整理番号、
それに愛読書「星の王子さま」とそれに挟まれていた手紙と、
糸口を辿って行くのも面白い。

12年後の現在、大人になった“僕”役を小栗旬、恭子役を北川景子が演じるが違和感を覚えるのは高校時代の恭子はブスだったのに12年後は輝く美人だと言うこと。大友花恋ではひど過ぎる。

監督は「黒崎くんの言いなりになんてならない」など、東京藝術大学院映像研究科を終了した新鋭・月川翔監督は才能がある。
しっかりとドラマのツボを押さえ活かす演出は並大抵ではない。
次回作も期待しよう。

脚本は「ホットロード」「アオハライド」など青春映画専門の吉田智子が原作を換骨奪胎のみごとな脚本に仕上げている。

7月28日よりTOHOシネマズ系にて全国公開される。

「少女ファニーと運命の旅」(Fanny’s Journey)(仏・白映画):第二次大戦の最中、ユダヤ人の少女ファニーは7人の子供たちを率いてドイツ兵の追跡を逃れスイスへ逃亡する

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「美女と野獣」(Beauty and Beast)がこの週末2日間で動員30万7千人、興収4億4千万円をあげ、初週から5週連続での首位を達成。累計動員は637万4000人、累計興収は89億2千万円と90億円間近となり、近く100億円突破も指呼の間だ。全世界興収は12億2百万ドル(1358億円)全世界歴代興行収入のトップ10入りとなっている。

この主題曲「美女と野獣」(Beauty and Beast)は映画で歌っているのがエマ・ワトソンだが、アルバムでベストセラーはアリアナ・グランデの独壇場だ。

5月22日のイギリス・マンチェスターでのコンサートでISの自爆テロがあり22人も死亡し300人近く負傷している。アリアナのせいではないが映画のヒットともに人気もいや増しテ2万1千人も収容する欧州最大のマンチェスターアリーナも若い観客で満員の盛況だった。

アリアナは1993年6月26日、フロリダ州ボカ・レイトン生まれの23才、イタリア系アメリカ人。身長が153センチしかない小柄だと言うこともあり日本での人気も凄い。8月に来日予定もキャンセルされてしまった。



子どもたちを連れてナチスドイツを逃れる話は「サウンド・オブ・ミュージック」でつとに知られている。家庭教師をしている修道女マリアがトラップ一家の子供たちを連れてsオーストリアへ侵攻して来たナチスドイツの追跡を逃れ徒歩で国境を越えスイスへ逃げ込む。

実話を基にしたこの映画が凄いのは「サウンド~」より5年後、既に占拠したフランスでフランスのヴィシー政権下、警官や官僚、それに当然SS親衛隊員がユダヤ人狩りをする中、僅か13才の少女ファニーが指揮をとり国境の町からスイスへ逃げ込む。
1939年のオーストリアも1943年のフランスともナチスドイツは悪魔のような圧政を行ったいる。

1943年、ナチスドイツの脅威はヨーロッパ中に広がり、フランスもその支配下にあった。
勝ち気さを内に秘めた13歳のユダヤ人の少女ファニー・ベンアミ(新人のレオニー・スーショー)は幼い2人の妹、エリカとジョーゼットと共に、ユダヤ人への協力者たちが秘かに運営する児童施設に匿われていた。

ファニーを演じるレオニー・スーショーは楚々とした茶髪の美少女、画面の中で絶えずオーラを振り撒く。
ファニーの楽しみは、検閲の目をくぐって届く母からの手紙と、夜中にベッドの中で父からもらったカメラのファインダーを覗いて楽しかった日々を思い出すこと。

だが、ある日、心ない密告者の通報により、児童施設は閉鎖され、子どもたちは別の協力者の施設に移らなくてはならなくなる。
やっと落ち着いたと思ったのも束の間、その施設にもナチスの手が伸びて来る。
ファニーたちは列車を使って移動するが、ドイツ兵による厳しい取り締まりのせいで引率者、マダム・フォーマン(セシル・ドゥ・フランス)とはぐれてしまう。

見知らぬ駅で取り残された9人の子どもたち。いつの間にか一番年上なので、彼らのリーダー役となったファニーは、バラバラになりかける子どもたちの心を1つにし、いくつもの窮地を勇気と知恵で乗り越え、ひたすらスイスの国境を目指す。
しかし、追っ手は彼らのすぐそばまで迫っていた。

両親からユダヤ人除けに教えられたのだろうカトリックの「主の祈り」や「聖母マリアの祈り」を唱える男の子モーリス(イゴール・ヴァン・デッセル)の頭をポカリと殴るファニー、
「お前はユダヤ人だろう」には笑える。

橋が爆破され列車が動かず何とかアンマスまで辿り着きそこで大人たちと国境請負人のトラックに大人たちと乗り込むがドイツ兵の検閲に会い全員捕まってしまう。

ファニーの機転で脱出に成功し国境近くの農家に辿り着き、人の良さそうなジャッン(ステファン・ドゥ・グルート)に農作業や家畜の世話をするからと、食事と納屋の一隅に泊まらせて貰う。乳牛やヤギ、可愛い子犬(ジャック・ラッセル・テリヤ)などが現れ子供たちと仲良くなる。

美しい国境の田園風景、絵に描いたような静謐な景色と迫りくるライフルを構えた悪魔のドイツ兵とシェパード、ハラハラしながら画面を食い入るように見る。

ジャンの家にもジープに乘り込んだ偵察隊が点検に入り,一刻も猶予がなくなるラストシーンは緊張が高まる。

途中までトラックの荷台に隠れ歩いて5キロ、ドイツ兵と犬の探索を樹に登って逃れ,国境に張られ金網の小さな穴をから脱出し草原を突っ走って戦車バリケードへ到着した時は安堵の息をつく。
だがそこにジョルジェットの鳴き声が。

5才の末妹は皆と一緒に走れない。ドイツ兵が金網越しにライフルを構える中を決然と妹を助けに戻るファニー。手に汗握る瞬間だ。

ナチスの追跡を逃れ、フランスからスイスの国境を目指す13歳の少女の決してあきらめない旅は、ファニー・ベン=アミの自伝に基づく実話。

エンドクレジットに86才で尚イスラエルに生存するファニーが、(当然のことだが)昔の美少女の面影は微塵も残さず現れて観客に語り掛ける。

この映画の監督ローラ・ドワイヨンは映画監督ジャック・ドワイヨンを父に持ち、女優で歌手のルー・ドワイヨンが異母姉妹、夫は「スパニッシュ・アパートメント」など青春3部作で知られるセドリック・クラピッシュという映画作家ファミリーの一員。

子ども、特に思春期の少女を主人公にするセンシティブな演出は女性監督特有の配慮がなされている。

出演者は、レオニー・スーショーなど素人の子供たちに混じって、マダム・フォーマン役でベテラン女優、セシル・ドゥ・フランスや農夫ジャン役でベルギー生まれのステファン・ドゥ・グルートらが名を連ねている。

宗教の違い、人種の違いで憎しみを巻き起こすドンルト・トランプは、アドルフ・ヒトラーの引き起こした大惨事の前兆と再来を思わせるが、この映画はアメリカでは上映されていない。

8月11日TOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」(Mrs. B.- A North Korean Women)(韓国・仏映画):主人公、マダム・Bは1年の予定の出稼ぎの中国で騙され10年前に中国人の嫁に

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久しぶりに宮本輝の小説を読んだら作風が変わっていて、初期の「泥の河」などと違いミステリー調の展開にインターナショナルの要素が加わっていて面白かった。

「草花たちの静かな誓い」(集英社:2016年12月刊)の舞台はロスアンジェルス郊外ロングビーチに近いトーランスだ。

主人公、小畑弦矢は1年前に夫、イアン・オルコットと死別して以来久しぶりに来日した未亡人の叔母、菊枝・オルコットの温泉旅行をスケジュールし手配していた。

ボストンに住んでいた叔母夫妻は甥の弦矢を可愛がり、もっと生まれながらの資質を伸ばすべきだと日本でサラリーマン生活を送っていた弦矢に奨学金や生活費まで出して、名門のUSC(南カリフォルニア大学)でMBAやCPA(公認会計士)を取らせてアメリカ企業で働かせていた。

叔母の遺書から遺産を渡すというので叔母の親友の弁護士、スーザンに会う。驚いたことに現金と有価証券だけで日本円で42億円、それに築10年の豪邸が10億円相当合計50億円の巨額の遺産に目を丸くする。
ただしと遺書の最後に娘が生きていたら遺産の2/3は彼女に渡すこととあったものが墨で消されている。

巨額相続人の弦矢は、5歳の年に幼くして白血病で死んだと聞いていたが、実は27年間も行方不明なのだと知り、謎を追い始める。

叔母の家があるロサンゼルスのランチョ・パロス・ヴァーデスという街は、白人の金持ちのために造成された海辺のリゾート地。ジャカランダの巨木が立ち並ぶ丘陵地があり、夜景もきれいなところだが遺産で引き継いだ弦矢はそこを基地に行方不明の少女(生きていれば、今では30過ぎの女性の筈)

 そこであまり当てになりそうもないパートタイムの探偵、ウクライナ系アメリカ人のニコライ・ベルセロスキー(通称ニコ)に少女探しを依頼する。
真っ黒なポロシャツを着たものすごい大男の、憂愁のある佇まいはフィリップ・マーロウを彷彿させる。ニコが少女が行方不明になったボストンの大型スーパーの監視カメラの映像を探し出して来たことから足跡が掴めはじめる。

27年前のテープの発見なんて凄いではないか?トイレで服装を変え野球帽(ボストンレッドソックス)を被った少女は母親にバイバイをして見知らぬ夫婦と空港へと向かう。
かなり無理があるがこれが決定的瞬間の5秒にも満たないざわついた映像。ここからニコはカナダトロントに飛び成長した娘に会い保護者の夫婦をLAに呼んで弦矢に会わせる。

失踪以来27年間も音信無しだった保護者夫婦は、菊枝は自殺したものと思い込んで「遺産は一切受け取らない」ことを条件に弦矢に会う。

叔母菊枝は匿名で養育費や奨学金を送り続け、オンタリオ大学の卒業式には双眼鏡を持って戸口から娘がディプロマを受け取る姿を見ていた。

何故菊枝が娘を意図的に行方不明にしたかはネタバレになるから漏らせないが、カンの良い読者ならレッドソックスのBマークのキャップで動機が分かる。

タイトルのように花が咲き乱れる植物の花と料理の話が満ち溢れる。叔母のストックしたスープが評判になるが、ニコはそれ以上のスープ食堂を作ろうと弦矢を「ボス」と呼びパートナーとして起業するエンディングも良い。


この1時間半に満たない(75分)のドキュメンタリ映画は驚くことが一杯詰まっている。
韓国人女性監督、ユン・ジェホの経歴も変わっている。

姉と同様にピアノを習いにフランスへ渡り、ピアノより美術に興味を持ち、国立高等装飾美術学校でクラッシック映画やドキュメンタリを学ぶ。卒業後短編映画を撮り始め「赤い道」(10)や「約束」(11)で数々の映画祭で受賞する。

2013年ユン・ジェホは中国へ渡り「脱北者」の劇映画を撮るために何人かの脱北ブローカーに会ううちに「私を撮りなさい」と積極的に声をかけてきたのが有能なブローカーの北朝鮮女性、マダム・Bだっ

昔はモンゴルやベトナム経由で最終目的地、韓国へ渡るのが一般的だったが、金正恩体制で暮らしが更に厳しくなり脱北ルートは国境鴨緑江から天津・済南.昆明を経てラオスからタイを経由するルートが激増。中国公安の目を盗み、ジャングルを抜け川を渡る苦難の逃避行だ。最終目的地韓国・ソウルは遠い。

戸籍のないマダム・Bも脱北ルートを行くしかなかった。
Bも1年の予定の出稼ぎで、10年前に家族のため北朝鮮から中国へと出稼ぎに来た北朝鮮女性B(ベー)。
しかし、彼女はだまされて中国の貧しい農村に嫁として売り飛ばされていた。

その事実に直面した彼女は、憎んでいた中国の夫と義父母との生活を受け入れ、そこで生きていくために北朝鮮からの脱出を請け負う脱北ブローカーとなることを決意する。毒をもって毒を制する計画だ。

しかし売り飛ばされた筈の中国人の夫と義父母が良い人だ。夫は無口で思いやりがあり、義父母はいつも気を遣ってくれてどちらが主人か分からない。

一人脱北者の面倒を見ると1000元(約17万円)が入るから数をこなせば結構いい稼ぎになる。

そして彼女は北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じ、彼らを脱北させたのち、夫の許可をとり彼女自身も韓国へと渡る。母そして女としての葛藤。脱北者Bの人生に、安らぎは、幸せはあるのか?この後の顛末は映画には入っていない。

この間ジェホ監督は密着取材で私生活の中にドンドン入って行く3。
北朝鮮に夫がいて中国に家族が居る。韓国では息子たちと住んでいる。
アラフォーのBは小太りだがエネルギッシュに飛び回り、周囲を巻き込み人生を驀進する。過酷な道を選択するマダム・B。

フランスと韓国を拠点に映画製作をつづけるユン・ジェホ監督もマダム・Bに負けず劣らず執念の人だ。

この映画は昨年のカンヌ映画祭ACID部門に出品され、モスクワ映画祭とチューリッヒ映画祭で賞に輝いたドキュメンタリ。

6月10日より渋谷イメージフォーラムにて公開される

「ヒトラーへの285枚の葉書」(Alone in Berlin)(英・独・仏映画):第二次大戦下、愛息を戦死させられた嘆きの老夫婦がヒトラーを非難するポストカードをベルリンの街に2年に亘り撒き散らした

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昨日(25日)は2本の試写を見た。
どちらも第二次大戦下の話だが、見ていてどうも落ち着かない。

ジャッキー・チェン主演の「レイルロード・タイガー」はコメディだけに悪役の日本帝国陸軍が愚弄され翻弄され殲滅される話には笑えない。

1941年の中国。鉄道で働くジャッキー・チェン扮するマー・ユエンは地元の男たちと一緒に鉄道内に侵入し日本軍の物資や武器弾薬を盗み出し「レイルロード・タイガー」と呼ばれる泥棒一味は日本軍は目の敵とされる。
更に大がかりな列車ごと奪い、積んだ戦車や大砲で日本軍守備隊を襲い、最後は交通のかなめの高架大橋梁を爆破して日本軍にダメージを与える。

何でこんな日本を愚弄する映画を上映するのか分からないが、6月16日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で全国公開される。
今の若い人は自分たちの祖先がチャンコロにやっつけられる映画を見たがるのだろうか?
エンドクレジットで列車泥棒に過ぎなかったマー・ユエンたちは、その後正規の「八路軍」に加わり日本軍を叩きのめす、とある。

同じ日本軍との戦闘でもメル・ギブソン沖縄戦を描く「ハックソウ・エッジ」とは天地の差がある。
手強い帝国陸軍を前にアメリカ海兵隊の苦戦で死者や負傷者が続出するが、決してに日本軍守備隊をバカにしていない。むしろそのヒロイックな突撃隊を賛美し畏怖している。
洞窟に立て籠もる守備隊長は敗色濃い中、責任を取り毅然として儀式に乗っ取り切腹し部下に介錯させクビを落とす。


このように戦後70年以上経った今も、第二次世界大戦下で日本帝国軍やナチスドイツの恐怖政治を題材にした映画は絶え間なく作られている。
ジャッキー・チェンが日本軍にサボタージュするより少し前、ナチスドイツがフランス軍に戦勝し国民的歓喜に湧くなか、フランスの森の中で20才になったばかりの若いドイツ兵がレジスタンスの放った一発の銃弾で射殺される。

これが総ての始まりだ。
1940年6月、戦勝ムードに沸くベルリンで質素に暮らす労働者階級の夫婦オットー(ブレンダン・グリーソン)とアンナ(エマ・トンプソン)のもとに一通の封書が届く。
それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという残酷な知らせだった。

心のよりどころを失った二人は悲しみのどん底に沈む。オットーは機械工で工場で武器を作って戦争に役立っている。アンナはナチ党の国家社会主義女性同盟のメンバー。会合で「ハイル・ヒトラー」と挨拶し合うのが奇妙に感じるが女性同盟の活発な委員としては当然だろう。二人とも労働者階級の教養も教育も無い人々だ。

打ちひしがれたオットーは息子の写真を見て胸像を彫り始める。
夫婦の会話は無く冷え切った日々を送るうちに、突然オットーはペンを手にして「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」と書いて、翌日アンナを同行し工場のオフィスビルの階段の下に置く。二人にとって精神治癒剤になる行為だったろう。聖書にもある「真実は汝を自由の身に解き放つ」
最初は「ホブゴブリン」(悪戯)程度に見ていた官憲も反体制派に共鳴者が出て暴動に繋がることを恐れ始める。

その後も黙々とオットーはペンを走らせ取り付かれたように総統を非難する言葉を描き続ける。
画面に実物(?)が現れるがタイプで打ってある訳でもなく、金釘流の下手くそな手書きのカードは女性同盟の募金活動を抜け出したアンナと共に街中に置かれる。

それは見つかり逮捕されれば反ナチを煽る者として死刑は免れない。

ゲシュタポに親衛隊大尉からハッパをかけられたベルリン市警、エッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)やゲシュタポ親衛隊の熾烈な捜査が夫婦に迫りつつあった。

しかし逮捕は呆気なかった。工場でポケットから中傷非難のカード数枚を落としたオットーはエッシャリヒ警部に身柄を拘束される。妻のアンナは無関係、自分1人の仕業だと認めてくれれば総てを告白すると言う条件で署名するが、勿論空約束。
二人はギロチンの切断首機に送られる。
 
逮捕されるまで2年間、なんと285枚ものカードを軒下や階段、戸口にそっと置いてまわったことが明らかになる。内268枚が警察により回収され、18枚は市民の誰かが隠匿した。

実話に基ずく地味なエピソードだが、3人の力量のある役者でこの映画は支えられる。
オットー役のブレンダン・グリーソンはアイルランド生まれの61才。M・ギブソンの「ブレーブ・ハート」(95)の準主役で注目され、「ハリポタ」シリーズでは脇を固めている。TVドラマの活躍が多い。

派手なキャリアはアンナ役の57才のエマ・トンプソン。「ハワーズ・エンド」(92)でオスカー主演女優賞を獲得している。「日の名残り」「父の祈り」でもアカデミー賞ノミネートと英国を代表する女優だ。

芸歴は二人に追いつかないがエッシャリヒ警部役の39才、ダニエル・ブリュールは「グッバイ・レーニン!」でデビュー以来語学が堪能なのでスペインやイタリアなど欧州映画の他にハリウッド映画にも進出している国際スターだ。

この3人の芝居の質の高さで映画はもっている。

原作は、ドイツ人作家ハンス・ファラダがゲシュタポの記録文書を基に、わずか4週間で書き上げたと言われる「ベルリンに一人死す」。
実在したオットー&エリーゼのハンペル夫妻をモデルにしたこの小説は1947年の初版発行から60年以上経た2009年に初めて英訳されたことで世界的なベストセラーとなった。
 
本来は俳優である、監督のヴァンサン・ペレーズで、この反戦小説に深い感銘を受け、自らメガホンを執って念願の映画化を実現させた。
俳優としては1990年代に「シラノ・ド・ベルジュラック」「インドシナ」「王妃マルゴ』などにとフランス映画美男スターと出演している。

アメリカではNYでアート劇場での上映のみ。
多くの人たちに見て欲しい映画なのに残念だ。
日本では、
7月8日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される
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