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「追憶」(日本映画):北陸の寒々とした日本海と背後に聳える山脈、3人の少年たちの友情と、彼らの罪を被ってくれた恩人のオバさん

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(承前) 僕の家は朝日新聞ファンで戦中から購読していた。
驚いたのは昭和25年の「伊藤律架空単独会見事件」で宝塚山中で共産党幹部と単独会見をしたとトップで大きな活字が躍っていた。
これが嘘っぱちだとバレたが朝日新聞ともあろうものが、と子ども心に憤慨した。

その後ロクな記事が無い。
南京大虐殺を煽る本多勝一記者の記事で中国人の日本人を見る目が変わり、済州島で慰安婦が強制連行のでっち上げ記事でパク・クネ大統領の「千年恨」を増長させ韓国ばかりか世界中に慰安婦像を建てさせる要因を作るなど朝日新聞は明らかに反日の「売国奴」だ。(安倍首相がラジオではっきりと朝日を名指しで「売国奴」と呼んだ)

そんな朝日が「電通ブラック批判」急先鋒で大キャンペーンを展開している。
 
週刊ポストの記事では、
 大手広告代理店・電通の女性新入社員が過重労働で自殺した問題は、(中略)これまで広告代理店の不祥事には及び腰と言われた大手メディアも一斉にこれを取り上げたが、中でも急先鋒となったのが朝日新聞だった。
 
10月12日付の「社説」では「形式的で不十分な労働時間の把握、残業は当然という職場の空気。企業体質の抜本的な改善が必要だろう」と厳しく指摘。家宅捜索のあった翌日の11月8日朝刊は、1面トップ、天声人語、さらに2面でも図表入りで解説する力の入れようだった。
 
ところが、である。その1か月後の12月6日、朝日新聞東京本社が社員に長時間労働をさせていたとして、中央労働基準監督署から是正勧告を受けたのである。
 財務部門の20代男性社員が2016年3月、法で定められた残業時間を4時間20分超過していたと労基署は指摘。
編集部門の管理職が部下の申告した出退勤時間を短く改ざんしていたことも判明した。さらに12月15日、社内調査の結果、他にも5人の社員が労使協定の上限を超える残業をしていたことが分かったと発表した。
 
紙面で労働問題を意欲的に取り上げている最中という「ブーメラン」だが、この最も身近な労働問題に関する報道は切れ味が鈍かった。

 是正勧告についてはインターネットメディア「バズフィードジャパン」を始め、毎日、産経、日経などが相次いで報じたが、真っ先に情報を入手していたはずの朝日新聞はまさかの「特オチ」。各メディアの報道が出た翌日になってから「労基署、本社に是正勧告」とわずか240文字の小さなベタ記事を載せただけだった。
 
その後も、電通事件については14日に「過労死の四半世紀」と題した記事をオピニオン欄を全面使って展開している一方で、その翌日に発表した追加の社内調査結果については、またしても小さなベタ記事なのである。
 
この落差には朝日社内でも疑問の声があがった。
朝日労組が実施した組合員アンケートの回答には、
〈電通以上のブラック企業だ〉
〈電通問題を胸を張って追及できなくなった〉
〈本来であれば会社が率先して外部公表する内容の事案だ〉
といった辛辣な言葉が並んでいる。

「朝日は詐欺師と共産党系の反日売国奴ばかりだ」と僕の友人Mさんは看破するが同感だ。

朝日ファンだった僕だがサンゴ礁事件(1989年)で朝日購読を打ち切った。
朝日新聞記者が八重山群島西表島の西端、崎山湾のアミサンゴを撮影に行った際に「K・Y」と落書きされているのを発見。
自然環境破壊のモラルを世に問い正そうとダイバーの低モラルぶりを報道。
しかしこれが完全なデッチ上げだったのだ。

その朝日新聞が自分の事を棚にあげて電通を「ブラック企業」キャンペーンを展開している。
誰かリベンジをしてくれ!


富山県警捜査一課の四方篤(岡田准一)は富山湾を臨む氷見漁港に佇んでいた。そこで刺殺体で発見された男は少年時代の親友だった。

荒れ狂う日本海、暗雲立ち込めた富山湾は印象に残る。
荒ぶる日本海、立山連峰を望む古い町並み、美しい間垣の集落、能登半島に沈む夕陽など、厳しく、寂しく、美しいスクリーン上の風景は絶景だ。
松本清張の「ゼロの焦点」を思い出す。

25年前の1992年、親に捨てられた13歳の四方は同じ境遇の田所啓太、川端悟と共に軽喫茶「ゆきわり草」を営む仁科涼子(安藤サクラ)と涼子を慕う山形光男(吉岡隆徳)に懐いていた。

しかし涼子には身持ちの悪いヤクザの夫(渋川清彦)がいた。
涼子に乱暴し絶えず金をせびっている。
少年たち3人は涼子を救うために夫を殺そうとする。

だが少年たちの力では無理だが3人寄ってタカって止めを刺す。
二階から駆け降りた涼子はナイフを握り虫の息の夫の胸を突き通す。

 夫役・渋川清彦のチョビ髭刺青の小物ヤクザは相変わらず上手い。
強烈なDVで観客の憎悪を掻き立てるからこそ少年たちの動機は正当化される。
しかし社会的には許されることでは無い。

 呆然と立ち尽くす男の子たち3人に、涼子は総て「自分がやったことで、君たちは関係無いのよ」
と言い含めて警察に自首する。
そして収監された刑務所で女の赤ちゃんを産む。

 少年たちはそれからバラバラになり涼子の言いつけ通り互いの連絡も取らなくなり
自分の目指す道を歩む。

そして25年、刑事になった四方の前に友人の小さなガラス店の親父、川端悟(柄本佑)が死体となって横たわり、事件の前日に会ったと言う大きな工務店を経営する田所啓太(小栗旬)が容疑者となっている。

 四半世紀振りの再会がこんな形ではと悩む四方は、刑事の勘で田所は何かを庇っている、絶対に犯人では無いと確信をしている。
だが警察の上司や同僚には通じない。

「駅 STATION」(81)「夜叉」(85)「あ・うん」(89)「鉄道員」(99)など12本の名作を世に送り出してきた監督・降旗康男とキャメラマン・木村大作のベテラン黄金コンビ。
(高倉健の顔が無いのは寂しいが)

81歳の監督、77歳の撮影監督の2人の巨匠が9年ぶりにタッグを組んで挑むのが「追憶」。

タイトルそのものは使い古された題名だがベテラン二人の作品には相応しいのだろう。

北陸の寒々とした日本海と背後に聳える山脈、3人の少年たちの友情と、罪を被ってくれた恩人のオバさん。

少年時代から四半世紀経った関係者の異変。
前半は見事な出来栄えで、観客は完全に画面と物語に引き込まれる。

しかし盛り上がるべき終盤のクライマックスが実に呆気なくご都合主義でテンションを外される。

原作無しで脚本家の2人、青島武と瀧本智行の力不足と想像性欠如から納得性が欠けているのだ。
辻褄を合わせたように旧友3人の友情を壊さず事件を解決しようとする。
それも唐突過ぎる。

おまけに出所した保子に付き添い、今は夫婦となった山形光男の存在があいまいな上に、
映画のフィロソフィーめいた言葉を呟くだけと言うのは不気味ですらある。

降籏・木村の黄金コンビが撮ると言っても、こんな半端な本ではエンディングは狐に摘ままれる。
オリジナル脚本と胸を張れる本ではない
後半を書き直して欲しいものだ。

 主演は全世代から幅広い人気を誇る国民的俳優の岡田准一。この人が歌手だと言ったって信じない人も居るだろう。
実に役者として上手くなった。
だが惜しむらくは背(タッパ)が低く共演の小栗旬の肩にも届かない。

小栗の他に、柄本佑、長澤まさみ、木村文乃、安藤サクラ、吉岡秀隆といった豪華俳優陣が脇を固める。

5月6日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される

「八重子のハミング」(日本映画):4度の癌の手術を受けながら50歳で若年性認知症にかかった妻を、没するまで12年間も看病し介護した元教師の老人、石崎誠吾の奮戦記

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松竹試写室での上映前にカーキ色の作業服姿の佐々部清監督が突然現れ挨拶する。新米の監督なら少ない観客の試写にも映画プロモートをお願いして回るがベテランの巨匠の域に達するディレクターとしては異例だ。

「陽はまた昇る」「半落ち」「夕凪の街、桜の国」など僕のお気に入りの佐々部清監督はこのところメジャーのスタジオの作品を撮っていない。
「群青色の、とおり道」(15)などは群馬県太田市のご当地映画で超ミニマム予算。しかし佐々部監督はメジャーの作品以上に力を入れて情熱を注いで佳作にしている。地元を離れ東京へ行った若者をUターンで地元に戻るミュージシャンを激励する。
この作品も山口県萩市のご当地映画で予算をクラウドファンディングで募集し低予算で感動の秀作に仕上げている。

映画は石崎誠吾(升毅)の講演で始まる。山口県のとあるホール。「やさしさの心って何?」と題された講演。
「私と八重子は38年間の夫婦生活を送りました。その内12年間は八重子の介護でした」

誠吾は4度のがん手術から生還することができたが、八重子の病状は進行し、徐々に記憶をなくしていく。介護に苦闘しながらも八重子との時間を愛おしむ家族たちと、妻に寄り添い続ける誠吾の12年にもわたる日々。

介護をする家族の苦悩は計り知れないものがあるが、妻・八重子の介護を通して経験したこと、感じたことを語る白髪の老人、石崎誠吾が聴衆に訴えかける。
若い頃、夫・誠吾(升毅)と妻の八重子(高橋洋子)は山村の分校で「男先生」「女先生」として出会い38年間も夫婦生活を送った。

4度のがん手術を受けた夫と、若年性アルツハイマー病を発症した妻との絆を、同名の著書「八重子のハミング」(小学館文庫刊)をもとに描く著者の陽信孝(みなみ のぶたか)。山口県萩市在住の陽信孝が自身の体験をつづった4度のガン手術から生還した夫が、若年性アルツハイマー病の妻を介護した4000日の記録だ。

互いに迫りくる死の影を見据えつつ、次第に子供に帰って行く妻との毎日を力強く歩んでいく。
赤ん坊みたいに言うことを聞かない、駄々をこねる。

かつて分校では音楽の教師だった八重子は、徐々に記憶を無くしつつも、大好きな歌を口ずさめば、笑顔を取り戻す。
そんな時は谷村新司の「昴」か「いい日旅立ち」を歌ってやるとハミングをしながら機嫌が良くなり言うことを聞く。

厄介なのはトイレ、膀胱が一杯になる時間を統計で計算し、その時間に便座に腰かけさせるとジャーと洩らす。

面白いことにこの時は谷村新司の歌は効果が無い。民謡「会津磐梯山は~」と大声を挙げる。長州の女なのに戦った会津藩の唄とはねぇ、と感心する。

病状が悪化して来ると最後には自分の大便を食べてしまう。
慌てて駆け寄るが指を突っ込んでも出て来ない。八重子が一瞬口を開けた瞬間、口を付けて大便を吸い込んだ。

発病後間近の50歳の時に泊まるところが無くてラブホテルで迫って強引にキスをして蹴飛ばされた以来だと、誠吾は冗談に紛らせて語るが糞を通して二人の愛情は本物だ。涙が零れる。

闘病・介護・夫婦愛を考え、著者が詠んだ余り上手いとも思えないが素朴な直情的な短歌とともに綴る夫婦の純愛物語。

三十一文字のラブレター
紙おむつ 上げ下げをする 度ごとに 妻は怒りで われをたたけり
小尿を 流しし床を 拭くわれの 後ろで歌う 妻に涙す
幼な子に かえりし妻の まなざしは 想いで連れて 我にそそげり

胃がんを発病した夫・誠吾(升毅)を支え続ける妻の八重子(高橋洋子)に若年性アルツハイマー病の疑いがあることが明らかになった。
誠吾は悔やむ。
「俺ががんを発症しなかったら、八重子はアルツハイマーなどにならなかったのでは」
「そのがんも胃から始まり小腸大腸と転移し4度のがんで入院生活も看病も大変なプレッシャーになったのではないか」
そのお返しに誠吾は50歳を過ぎたばかりで若年性アルツハイマーの八重子を愛おしみ心を配って介護する。

親友で医師の榎木貞之(梅沢冨美男)は「普通アルツハイマーにかかると5年で亡くなる、8年もつ場合も希にある。しかし八重子さんは12年だ」と慨嘆する。

誠吾の介護が如何に優れていたか分かる。榎木は誠吾の誠心誠意の思い遣りとケアに感心する。

佐々部監督の故郷である山口県で撮影され、公開も萩市で先行ロードショウが行われ既に25千人が涙を流したと言う。

5月6日より有楽町スバル座他で公開される。

「モアナと伝説の海」(MOANA)(アメリカ映画):海を愛する美しい少女モアナが、闇に包まれようとしている島の危機を救うために冒険の旅に出かける。

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デンマーク生まれの41歳、トーマス・リュダールの処女作「楽園の世捨て人」(EREMITTEN)(早川書房:2017年1月刊)はいきなり北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞を獲得した。

主人公エアハート・ヨルゲンソンは故国、デンマークを出て18年、カナリア諸島で最もアフリカ大陸に近いフェルテヴェントゥラ島でタクシーの運転手とピアノ調律師をやっている67歳の老人。
隠居して年金生活をしていてもおかしくないのだが、枯れても悟りもひらいていない。

左手の小指が欠けて4本しか無い。どうやら妻子を捨てて故郷を去ったことと関係があるらしいが小説には何も記述が無い。

エアハートはいつも何か考えるが、それは行動に結びつかない。
言おうと思うのだが言わない。理屈が多く思い込みが激しい。だから主人公の内面叙述が多いので600ページほどの長尺の小説になる。

ある夜、島の海岸に遺棄されたVW車の後部座席で段ボールに入れられたまま餓死している男の子の死体が見つかる。
生後3か月位だろうか。
警察は事件性なしとうやむやに葬ろうとしているのを知り、エアハートは憑かれたように事件の真相を追い始める。

流れ者の負け犬老人が素人探偵として活躍するのだから変わったミステリだ。



昨年のサンクスギビング祝日の11月25日に登場したこの作品は忽ち首位。簡単に「Fantastic Beasts」(邦題:「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」)を10.4Mの差をつけて首位の座から引き下ろしてしまった。

「Moana」は3875館で上映され81.1Mで、歴代感謝祭公開映画のトップ2に入る成績だ。
因みにトップは「アナユキ」の93.6Mで2位だった「トイ・ストーリー・2」の80.1Mを抜きました。
海外は少数の国でゆっくりと公開を始め、16.3Mだったが、その内中国だけで12.3Mです。ハリウッドは中国に随分と助けられている。

 観客にも受けは良く、出口調査(CS)でもA評価。

先週末(2月26日)で、北米では840Kで23位だが、ワールドワイド累計では580.4M(655億円)と言う成績で未だ積み上げている。

「アナと雪の女王」や「ズートピア」など、この数年往年のWDの威信を取り戻すヒット作を連発するディズニー・アニメーション・スタジオが、南の島と大海原を舞台に描いた長編アニメーションだ。

「リトル・マーメイド」(89)「アラジン」(92)のロン・クレメンツ&ジョン・マスカーが監督を務める。
この2作品はピクサーにアニメ界を席巻されるまで、ディズニーを代表する作品だった。
 しかも旧態の手描き動画だ。それを最新版CGを使ってベテランの両監督がどう表現できるかに僕は興味を持った。

 結論から言うと見事な仕上がりだ。
手描き動画のエッセンスを失うことなく最新CGの技術を駆使し、2Dばかりか3D、Imaxのフォーマットでも完璧なアニメ映画を送り出している。

ヒロイン・モアナは数々の伝説が残る島、モトゥヌイで生まれ育った16歳の美しい少女。
族長、トゥイの娘だから「モアナ姫」だ、白雪姫やシンデレラに比べれば小デブで半黒、とてもプリンセスには見えない。父親が言う。「ドレスを着て動物の親友が居ればプリンセスだ」と。

タラお婆ちゃんが子供たちに伝説を聞かす。
かつて世界を生んだ命の女神テ・フィティの心が、伝説の英雄と言われたマウイによって盗まれ、世界に闇が生まれた。

それから1000年にわたり、モアナの生まれ育った島モトゥヌイでは、外洋に出ることが禁じられていた。

そんなある時、島で作物や魚たちに異変が発生する。
海を愛する美しい少女モアナが、闇に包まれようとしている島の危機を救うために冒険の旅に出かけようと心に決める。

海が生きものようにモアナに触れ何かを伝えようとする不思議な絆で結ばれ選ばれた少女モアナは、いまもどこかで生きているマウイを探し出し、テ・フィティの心を元あった場所に戻すことができれば世界を救えると知り、父親の反対を押し切り大海原に旅立つ。

モアナの小さな手作りの帆船は大嵐に出会い強風に流され荒波に揉まれてある島に漂着する。
幸運なことにその島こそモアナが探し求めていた、マウイが閉じ込められていた孤島だった。
5000歳のマウイは英雄でバカでかい釣り針(神の釣り針)を使って何にでも変身できたが、女神テ・フィティの心を盗んだため釣り針を取り上げられ島に1000年もの間、幽閉されていたのだ。

マウイは相撲の小錦かサモワ島のラグビー選手のようなデブの大男。
実際ラグビー選手のような雄叫びと胸を叩くジェスチャーはアイコンだ。
大きな体で一見怖そうだが、本当は陽気で、歌も踊りも上手い。
体中に彫った刺青が魔法の手助けをする。

マウイと力を合わせ「女神テ・フィティの心」を手に入れ元の場所に戻す。
そして島の平安を取り戻す。

監督のジョン・マスカー&ロン・クレメンツが観客に優しい教訓を残している。
「いま、世界の均衡が崩れていく時代において
自然との関わり方がとても大切になっています。
特に、海は世界をつなぎ、たくさんの恵みを与えてくれる存在です。
だから私たちは、海に優しく語りかけ、愛情を持って接していくのです」と。

3月10日よりTOHOシネマズ日劇他にて全国公開される。

「ぼくと魔法の言葉たち」(LIFE, ANIMATED)(フランス・アメリカ映画):2歳の時から自閉所に罹ったウォルト少年にはディズニーアニメのセリフが詰まっていた。

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 26日夕刻(日本時間27日朝)LAドルビーホールで発表されたアカデミー賞は作品賞が担当者のミスで渡されなかった「ムーンライト」が読み上げられなかったという混乱があったものの、作品賞こそ逃したが監督賞、主演女優賞、主題歌賞、作曲賞、撮影賞、美術賞の6部門でオスカーを獲得した。

配給会社GAGAはオスカー複数受賞は計算済みで発表日3日前の24日から日本での公開を始め、予想通り堂々の初登場首位を獲得した。25と26の土日2日間で動員29万人、興収4億2千万円をあげて首位を飾ったのだ。

監督賞を受賞したデイミアン・チャゼルは32歳で、第2作の好評だった「セッション」撮影前のハーバード大学時代から温めていた企画だと言う。ハリウッド嫌いのトランプ新大統領が牙を剥く中、50年60年代のパックスアメリカーナの懐かしいミュージカルでスルリとギスギスした大統領の攻撃をかわして「桃源郷」(=La La Land)に逃避する作品だ。
タイミングも良かった。


今日紹介する「ぼくと魔法の言葉たち」は今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画の有力候補だったが、残念ながら、元アメフットのスターで夫人殺人容疑のO・J・シンプソンをテーマにした、上映時間7時間に及ぶ作品「O・J:メイド・イン・アメリカ」(日本公開未定)に持っていかれてしまった。

自閉症により2歳の時に突然言葉を失った少年、オーウェンが、ディズニー映画を通じて徐々に言葉を取り戻していく姿を追ったドキュメンタリー。

原作は父親のロン・サスカインドがオーウェンの幼少からの日々を追ったベストセラー「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」

元気いっぱいに庭を走り回って、パパや兄のウォルトと遊びまわっていた2歳半の男の子が、ある日突然、まともに歩くこともできなくなり、話しかけても激しく泣くばかりでまるっきり言葉が通じなくなってしまう。

ロンと妻、コーネリアは小さなオーウェンが目の前からかき消えてしまったように感じる。今までの男の子は何処に行ったのか?
医者に診せると、「自閉症スペクトラム」と診断される。専門医やセラピーにかかり、発達障害児向けの幼稚園に入れ、最新の治療法を試すが、男の子の言語能力は一向に回復しない。6歳まで誰ともコミュニケーションが取れない。

何か意味不明のモゴモゴ言っている言葉がディズニーの「リトル・マーメイド」の中のセリフだと気付いた父親ロンは「アラジン」のキャラクターであるオウムのイアーゴのぬいぐるみを手に取り、身を隠しながらオーウェンに語りかける。

父の問いかけに言葉を返すオーウェン。
観客も感動する瞬間だ。

その時、オーウェンは7歳になっており、5年ぶりに耳にした息子の言葉に涙をこらえながら、両親はディズニー映画を通じてオーウェンの言葉を取り戻そうとする。

毎日毎日擦り切れるほどにかけているディズニーのVHSヴィデオ。その登場キャラクターのセリフは殆どオーウェンの頭の中にはいっていたのだ。

ディズニーの「バンビ」から始まって「ピノキオ」「ダンボ」「きつねと猟犬」「リトル・マーメイド」「ライオン・キング」「美女と野獣」などなどがオーウェンの話す、書く、読むなど人とのコミュニュケーション能力の学習素材となり学校(特殊学級)へも通えるようになる。

ハイライトはパリで開かれた「自閉症会議」。オーウェンは克服してきた経験を語ることになっている。演台に立つ彼の唇から言葉が出てこない。両親はハラハラするが
ようやく「ボンジュール、メダム・エ・ムッシュー」と冒頭をフランス語でやって拍手喝采。ディズニーアニメで教わったことを少し述べて終わりだが、ロンとコーネリアは涙を流して大喜び。

 会話ができない少年を言葉の世界に連れもどしたディズニー映画。
この作品のために厳しく著作権を管理しているディズニーは特別許可でフーテージの使用を許可している。

しかしディズニーは編集を許さない。

最大の難関はディズニーアニメは「セックス」を教えない。唇にキスをするのが精いっぱい。
ガールフレンドのアニーが訪ねて来ても唇にチュで終わってしまう。兄ウォルトは舌を入れるフレンチキスを教えるのに難儀する。

その内にアニーがオーウェンをうっとうしいと「別れ」を宣告するから、落ち込むこと。
今はDCに住むウォルトは両親が亡くなった後,オーウェンを面倒見るのは自分だけだ。責任が重いとカメラに向かって嘆く。

監督のロジャー・ロス・ウィリアムズがカメラをサスカインド家に入れたのはオーウェンが22歳の時。幼少からの記録は家庭用8ミリカメラやアルバムに張られた写真に依るのだが、素晴らしいのはフランス人アニメーターグループが動画で欠けた部分を補い更にオーウェンの創造する「迷子の脇役たちの国」(The Land of the Lost Sidekicks)のアニメも作成する。

ロジャー・ロス・ウィリアムズで第82回アカデミー賞短編ドキュメンタリー「God Loves Uganda」(日本未公開)でオスカーを手にしている。
長編記録映画は初めてでオスカーを逃したものの、サンダンスほか数々の国際映画祭で受賞している。黒人でゲイのウィリアムズのセンスは素晴らしく、鋭い切り口で自閉症青年を追う。

父親のロン・サスキンド(Ron Suskind)は「忠誠の代償 ホワイトハウスの嘘と裏切り」などの著書があり、ウォールストリート・ジャーナルの国務関係のシニアライター時代に、ピュリッツァ賞を受賞している。
現在はハーバード大学にあるエドモンド・J・サフラ・倫理学センターの上級研究員。
妻コーネリア・ケネディと共にマサチューセッツ州ケンブリッジに在住。
長男ウォルトはワシントンDCに、次男のオーウェンはケープコッドで一人暮らしをしている。

4月8日よりシネスィッチ銀座にて公開される。見逃せない作品だ。

「パッセンジャー」(PASSENGERS)(アメリカ映画):宇宙船で120年をかけて理想の惑星に航行途中30年目で冬眠から目覚めた男女二人。

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 ソニー映画としては120M(135億円)もの巨費を投じて限定上映から、昨年のクリスマスを期に拡大興行に入ったが、どうしても首位は取れず90M(103億円)を稼いだだけで、1月中旬にはチャートから消えた。
中国ではこの手の3DSF大作映画は大好きで130億円程の成績だったが、マーケティング費などを入れると現在はトントンと言うところだろう。
 
だから3月24日から上映開始の日本では頑張らなければならない。
親会社のある東京では力の入れようが違う。

シチュエーションとしては面白い。宇宙船の中だけを舞台とする映画は「2001年宇宙の旅」から始まって沢山あったが、エイリアンと戦うのではなく船内のロマンスや主人公の倫理観を扱うのは目新しい。
これは面白そうだなと期待を込めて見始めるが、後半に入るとドラマが無くなり平凡な展開になってしまう。

近未来、乗客5,000人、乗員266人を乗せた豪華宇宙船「アヴァロン号」が、惑星間に設立された地球人たちの移住地「ホームステッド2」に向かうべく地球を出発。

到着までの120年、動きを止め冬眠装置で眠る乗客だが、エンジニアのジム・プレストン(クリス・プラット)が目覚める。
宇宙船が小さな隕石にぶつかった衝撃で目が覚めたのだ。
航海は終わったのだと思った。到着4カ月前に冬眠から覚める仕掛けになっている。

だが見まわしても目覚めた人間は自分だけ、動くと快活に喋りかける色んなホログラムが食事の案内、ジムやプールなど船内施設の説明などをしてくれる。

どうやら未だ30年しか経っていないようだ。
予定より90年も早い。
難破船に1人取り残されたような絶望的な状況だ。食事を注文してもエコノミー乗客だから粗末なものしか出て来ない。

だがバーに行くと赤いジャケットを着た如才無い中年のバーテンダー(マイケル・シーン)が素晴らしいカクテルを作ってくれる。
勿論彼もアンドロイドだ。下半身が無い。

もう一人仲間が欲しい。冬眠をのポッドを見て回るとプレミア・クラスに美人が寝ている。
倫理観の問題がここで起こる。

宇宙船の冬眠ポッドを見回り素晴らしい金髪美女を見つける。オーロラ・レーン(ジェニファー・ローレンス)だ。
仲間欲しさに無理矢理オーロラを冬眠から引っ張り出す。
彼女を「殺す」行為だ。

ジムは後々まで贖罪意識に付きまとわれる。

オーロラとジムの間のロマンスがジムの贖罪に免罪符として優しくカバーする。この映画の唯一のドラマはこの至高なロマンスにある。

オーロラとジムは残り90年間も生きられないから当然宇宙船の中で生涯を閉じる。
しかし彼女はジャーナリストとしてジムと宇宙での生き様を後世に残す。そこにオーロラのレゾン・デートルを見出し、いささかも後悔もしていない。

ドラマはそれだけで宇宙空間での遊泳もプールでのじゃれ合いも無重力状態も何処かで見たシーンだけの平凡なものばかり。

主人公のジム・プレストンを「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「ジュラシック・ワールド」などのクリス・プラットが贖罪意識でオーロラに想いを寄せる。
相手役のオーロラ・レーンに「世界にひとつのプレイブック」(12)で22歳でオスカーの主演女優になったジェニファー・ローレンス。その後「ハンガー・ゲーム」シリーズで大ブレイクする人気スター。

監督は「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」などのノルウェー生まれのモルテン・ティルドゥムが着実な演出をしているが、脚本の「プロメテウス」などのジョン・スペイツがドラマの盛り上げを平凡にしている。

3月24日よりTOHOシネマズ日劇他で2D3D公開される。

「スプリット」(SPLIT)(アメリカ映画):24の多重人格を持つ男が凶暴性を発揮する24番目になった時に3人の女子高生を拉致し監禁する。

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1月20日からの新登場で予想外の成績を挙げ首位に立った。Bluhouseと組んで3038館で上映され40.2M(46億円)のヒット。観客の出口調査CSではB+評価。ホラー映画にしては高い評価だ。

制作費は9M(10億円)程に抑え、他はシャマラン自身がクリエイティブコントロールのため出資している。観客層は多様化していて、女性が52%、25歳以下が52%。
ユニバーサルの配給チーフ、ニック・カポウは語る「シャイマンの名前をタイトルに付けることは意味がある、ファン層は固定している。プロットはどんでん返しが待ち構えているし、サイコロジカル・スリラーのこの映画は先行きが楽しみだ」

因みに北米ではこの後、3週連続トップを占め、5週目のお先週末時点で北米の累積は130.8M、海外は57か国で開けて累積で90.4M、ワールドワイド総計では221.2M(252億円)と大ヒットだ。

多重人格ものはヒチコックの「サイコ」からデ・パルマの「殺しのドレス」に至るまで多くの映画作家が取り組んできた素材だが、M・ナイト・シャマランが取り上げた解離性同一性障害=DID(Dissociative Identity Disorder)24の人格に変化すると言う華やかなものだ。
パトリシアと言う女性もいれば、ヘドウィグと言う9歳の子供もいる。24番目のケイシーと言うのが凶暴で3人の女子高生を誘拐し監禁する。

映画の冒頭で、高校生のケイシー(アニャ・テイラー=ジョイ)は、クラスメートのクレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の誕生パーティに招待される。帰りは、彼女とクレアの親友マルシア(ジェシカ・スーラ)をクレアの父親が車で送ってくれることになるがが、父親が乗り込んで来るどころか、見ず知らずの男性(ジェームズ・マカヴォイ)が運転席に座る。騒ぐ女子高生っちを催涙ガスで眠らせる。拉致された三人は、窓が無い密室で目を覚ます。

ケイシーと名乗る男が部屋から立ち去り、必死に脱出方法を思案している最中、ドアの外から男と女が会話する声を耳にした3人は助けを求めて声を上げるが、そこに現れたのは、女性の服に身を包み、女性のような口調で話す先ほどの男だった。

男には幾つもの人格があり、9歳の少年やエレガントな女性など、ひとりの体の中で人格が激しく入れ替わっていく。

ストーリーもさることながら、このDIDで分裂する24の人格を演じ分ける、ジェイムス・マカヴォイの好演と怪演がある。
「つぐない」であれほどの優しい青年を演じた俳優が筋肉モリモリで凶暴なビーストになった時は鉄格子を捻じ曲げ鍵のかかったドアを力任せに破る。

二人の女子高生を殺害した上にその男を定期的に診察し治療をしていた精神科医のカレン・フレッチャー博士(ベティ・バックリー)も荒れ狂う男の犠牲になる。

しかし彼女は24の人格の中で男が従順になる名前を知っていて殺される前にその名を紙に書き残す。
ケイシーはその名を利用して散弾銃と弾丸を手に入れるが、ビーストになった男は散弾銃を浴びてもビクともしない。

しかし彼女に迫ったその時ケイシーの身体に刻まれた無数の傷跡を見て大人しくなる。
ケイシーの過去も徐々に明らかになる。父母を早くに亡くし叔父に育てられ幼児暴行を受け、動物を狩る日常も思い出される。

「シックス・センス」で大ヒットを飛ばしてスリラー映画界の星となったM・ナイト・シャマランはその後次々と送り出す作品は詰らない作品ばかりだった。

ただ2年前の「VISIT」は祖父母の家を訪ねた孫たちを襲う魔手が復活の兆しを見せ1億ドル(114億円)の成績を挙げその勢いでこのDIDの24変化に取り組んだ。そして既にDID男はVISITの2倍半を稼ぎ更に興行成績を伸ばしている。シャマラン監督の復活だ。

複雑なキャラクターを見事に演じ分ける熱演したのは、「つぐない」や「X-MEN」シリーズなどのジェームズ・マカヴォイ。

いつものようにシャイマンの住んでいるフィラデルフィアがロケ地。動物園の地下室に秘密の隠し部屋があったとは。
「シックスセンス」以来のインド生まれ、シャイマン監督の復活した作品は怖いしドキドキする。

5月12日よりTOHOシネマズ他全国2D3Dで公開される。

「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」(日本映画):岡山の田舎で小さな自動車修理工場を営む父、モモタローと2人きりで暮らす女子高生の森川ココネは所かまわず昼寝をしては怒られている

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「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズや「東のエデン」の神山健治監督による長編アニメ。
自動車自動運転装置ソフトの機密を巡るストーリーはアニメと言っても大人向けかも知れない。

2020年、オリンピックを2日後に控えた日本。岡山県倉敷市の児島・下津井が舞台。瀬戸内海を見下ろす美しい町だ。

小さな自動車修理工場を営む父、森川モモタロー(声:江口洋介)とふたりで暮らす女子高生の森川ココネ(声:高畑充希)は、所かまわず昼寝をしては怒られていた。

ココネはいつも同じ夢を見ていることに気づく。窮屈だがどこか温いその夢は、家族の秘密につながっているようだ。

特に最近は常に眠気に襲われ、家や学校でも居眠りばかり。
そんなある日、父親が突然、警察に逮捕され、東京へ連行されてしまう。

絶えず見え隠れして二人につき纏う男がいる。ピシッとダークスーツに身を固めているが髭面の鋭い眼光はどう見ても悪役だ。

しかしココネは彼のアタッシェケースを盗み、IDを見つけ身元を調べる何と日本一のメーカー志島自動車の専務、渡辺一郎(声:古田新太)。
モモタローの開発したソフトを狙っているようだ。

 うちだって「森川自動車」だよ、とココネが頑張るが、モリオが笑いながら志島自動車は日本一の車メーカーだと教える。ココネは本当に世間を知らない。

ココネは父がなぜ逮捕されたのか、その謎を解くため、幼なじみで帰省中の大学生、佐渡モリオ(声:満島真之介)を強引に連れて東京へ向かう。二人ともお金を殆ど持っていないが、どうしようと悩むと何処からか作業服を着た男たちが現れ新幹線の切符を呉れる。お腹が空いたと呟くと豪華な幕の内弁当が届けられる。

そして、いつも見る自分の夢の中で、顔を見たことのない母親と父親には出会いの秘密があることを知る。

 夢の中ではココネは機械作りの国「ハートランド」の姫君、エンシェン。
モモタローはハートランドで働くエンジニア、ピーチ。

ハートランド王は機械こそ人々を幸せにすると信じ、ハートランド国を襲う巨大な「鬼」を倒そうとする。

王様は実世界では「志島自動車」会長の志島一心(声:高橋英樹)。
渡辺専務は王の家臣、ベワンだが裏で王座を奪おうと画策している。

ココネの母親、イクミ(清水理沙)はココネを産んだ時の産褥熱で死んだのだ。
このイクミはアメリカのピッツバーグにあるエリート校、カーネギ・メロン大学で工学修士を取り自動運転ソフトの開発に取り組んでいた。

シェイクスピアの「リア王」を思い出す。
王は意に従わぬ末娘コーデリアを勘当するが最後は末娘に救われる。
ココネはリア王の窮地を救うコーデリアだ。

一心会長と志島自動車取締役の一人娘イクミは自動運転技術の開発で意見が合わず、まして一介のエンジニアの森川モモタローなどと恋に落ちるとは飛んでもない。勘当したイクミはココネを産んで直ぐ亡くなる。

それを夫のモモタローが受け継ぎ、実用化すべく試作品を作り上げサイドカー「ハーツ」に取り付けてある。

渡辺は驚きの技術を仲間に報告し、二人の乗った新幹線を追ってプライベイトジェットで先回りしモモタローのアップグレイドの自動運転技術の報告を志島自動車会長,志島一心に報告する。

会長の頭は東京オリンピックでオフィシャルカーとして採用された自動運転装置付きの志島乗用車の成功で頭が一杯だ。

どこで祖父が孫娘ココネと遭遇するかが、観客の最大の関心事でこの映画のクライマックスだ。

人はどうして夢を見るのだろうか。
自分では気づかない無意識のストレスや心の乾き。
心の中で足りなくなっていものを補ってくれる。
または家族の血が互いに呼び、ファミリツリーの欠けた部分を補ってくれるのが、夢の役割だろう。

 神山健治監督が最新作のモチーフに選んだのが、その「夢」の不思議さミステリーだ。

 ココネの声はNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のヒロインでブレクした高畑充希。
その他、声の出演は満島真之介、古田新太、釘宮理恵、高木渉、前野朋哉、清水理沙、高橋英樹、江口洋介といったベテラン男女優が揃った。

主題歌はかの名曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」がエンドクレジットに流れる。
高畑充希が主人公・森川ココネとして歌う。

「君の名は」が250億円の大ヒットを飛ばし、「この世界の片隅に」がアニメーションのクォリティを高め、アニメは今や映画産業を引っ張る。

「ひるね姫」は、夢を通じてとても身近な世界に注目することで、不透明な時代の中で生きる観客の指針を示唆する。
作画の佐々木敦子、黄瀬和也の描くキャラクターがさわやかで親しみやすく観客の心の中にスムースに受け入れられる。

上記アニメ2作にも勝るとも劣らない感動的な動画作品だ。

3月18日より丸の内ピカデリー他で公開

「キセキ −あの日のソビト−」(日本映画):全員歯医者の人気ポップグループ「GReeeeN」誕生の秘話

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丸の内TOEIで 1月28日(土)から始まり今週3月9日(木)で終わりだと言うので土曜(4日)の7時15分の回に駆けつけた。
流石に最終週だけに客もパラパラとしか居ないが映画の中身は熱く若いカップルは感激していた。

映画を見ながら昨年暮れに上映されたイギリスのロックバンド「オアシス」のドキュメンタリを思い出していた。

ノエルとリアム・ギャラガー兄弟の「オアシス」はビートルズ以来と言われる人気バンドだが兄弟喧嘩をしながらも16年間活動を続け2009年に解散をする。
「オアシス」の中心メンバーではリアム&ノエル・ギャラガー兄弟だが、母親ペギーの話では2人は仲がそれ程良く無く、バラバラで活躍していた。
兄のノエルはローカルのバンド「インスパイラル・カーペット」をクビになると即座にリアムのバンドに加わり、事実上のバンドリーダーになる。

天才的な作詞作曲のシンガーソングライターだがわがまま。ヴォーカルは弟リアム以外は考えられず,喧嘩してはバンドを解散しまた一緒になる、を繰り返して「スーパーソニック」などと言う超メガヒットを飛ばしている。

この映画は記録映画で無く実話を基にしたフィクションだが、主人公たちのポップロックバンド「GReeeeN」に似ているのは自分のバンドがダメになった兄のジンが弟ヒデに頼まれて素朴な曲をアレンジして売れるようにしたと言う兄弟愛から始まっていることだ。
日英の気性の差があるものの兄弟の信頼関係、兄への尊敬と憧憬などは異常な程だ。

映画では場所は何処か特定していないが家庭は大阪にある。
父親(小林薫)は苦学して心臓外科の医師になり兄弟には医者になって欲しいと強く望んでいる。

音楽なんて何の役にも立たない、人間を助けるもの人から尊敬される医者になって欲しいと兄弟が子どもの頃から強く望んでいるし、口に出し時には腕力を振るって説き伏せる。
僕が父親だったら同じことを言うだろうな、と共感を覚える。だって才能があると言っても本人の主観だもの。

父子の間をオロオロしながら取り持つ人の好い母親、珠美(麻生未来)が好演。麻生も母親役が似合う年齢になったんだ。
 
そんな厳しい父(小林薫)の反対を押し切って大喧嘩をして家を飛び出しバンドを始めたのは兄のJIN(松阪桃李)。
ヘビメタ・バンド「ハイ・スピード」は一応メジャーデビューを飾る。
小さなGigで松阪は絶叫ロックをたっぷり聞かせる。上手いものだ。

しかしレコード会社のプロデューサー売野(野間口徹)は今頃ヘビメタじゃ売れない、ポップロックをやれと命令する。野間口の芝居は冷酷だが、ビジネスセンスはピカ一でクールな物言いが冷たく楽屋の空気を切り裂く。
頭に来たメンバーは次々と辞めて行く。

父の想いを受けて医者は無理だが一つ下の歯医者を目指す弟ヒデ(菅田将暉)も、浪人を2年もしながら東京の予備校で仲間と共に音楽の魅力に引き寄せられていた。

そして都落ちだが福島県郡山市の「奥羽大学」の歯学部に合格し下宿し通学する。大学の名も地名も映画では特定していない。

ヒデは同じ歯学部の同級生、ナビ(横浜流星)、クニ(成田浚)ソウ(杉野遥亮)と4人のグループ「GReeeeN」を組むがヒデの作詞作曲のメロディは良いが今イチ迫るものが無い。そこでヒデはバンドを解散して暇そうな兄のジンに頼んでアレンジしてもらう。ジンの編曲は見事なものでヒデたちは先ず学校内のコンサートから始める。
そこからの次々と出すCDがオリコンのヒットチャートに連続してトップを含め上位を占める。

そして2008年5月、「キセキ」は遂に一位に輝く。
 
ヒデが出だしの「明日は今日よりも好きになれる」でダメを何度もジンから出されるシーンは印象的だ。
レコーディングはスタジオでの普通の録音では無く、4人が全員ヴォーカリストなので、ジンのアパートの別間で先に録音したバンド演奏をカラオケのように一人一人歌い重ねて行く。
ジンはPCを駆使し多重録音やアレンジをやってのける。中小企業だ。

映画のタイトル「キセキ -あの日のソビト-」。「ソビト」とは、GReeeeNによる造語で「素人」または「空人。自由に新しいことに挑戦していく人のことだそうだ。

ジンは弟ヒデの音楽の才能は並々ならぬものと悟り、父親に歯医者には必ずなるから音楽活動をさせて欲しいと頼み込む。
また顔を出さなくて済むようにTVの出演やイベントは控え、レコードのプロモーションも行わないとプロデューサーの売野に頼み込む。売りたい一心の売野の渋い顔が笑える。どうしても顔出しは「GReeeeN」のマスクをつける。小文字の4つの「e」は歯並びと4人のメンバーを表すと、プロデューサーのジンは誇らしげだ。

ヒデのロマンスも描かれる。
CDやDVDのレンタルHMVの店員、理香(忽那汐里)が店に並んだヒデの曲の感想を述べ励ます。

父親の患者、心臓拡大症で余命幾ばくも無い少女、結衣(平裕奈)がキセキを聞いて元気になる。担当医としては嬉しく、夏休みに音楽合宿をするため出発する兄弟に「お前たちも『GReeeeN』のような曲を作れ」と送り出すのはいささか出来過ぎ。
お喋りで嬉しがり屋の母親、珠美が夫に話して無いなんてことは無い筈だから。しかし映画の盛り上げのために目を瞑ろう。

メンバー全員が歯科医師免許を持ち、医療との両立を考えて顔を伏せて活動する覆面ボーカルグループ、GReeeeN。

その結成秘話と名曲「キセキ」の誕生に迫る青春ストーリー。

プロデューサージンを演じるのは「マエストロ!」「日本のいちばん長い日」の松坂桃李
ジンの実の弟でGReeeeNのリーダー、ヒデは「暗殺教室」「ピンクとグレー」などの菅田将暉。
このふたりは「王様とボク」「麒麟の翼 ~劇場版・新参者~」「ピース オブ ケイク」などこれで4度目の顔合わせ。

監督は「海街diary」「そして父になる」など多くの是枝裕和監督作品の助監督を務めた兼重淳。これが監督デビュー作だ。輝かしきスタートとなった。

脚本は「秘密」でシチェス・カタロニア国際映画祭最優秀脚本賞を受賞した斉藤ひろし。
少しご都合主義の展開だが大衆受けする本にしている。

丸の内TOEI他で公開中

「キングコング:髑髏島の巨神」(KONG:SKULL ISLAND)(アメリカ映画):南太平洋のチャートにも載っていない孤島を守る巨大生物「コング」は人間の敵か味方か?

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この映画を見ていて仲の良かったMR.BIGことバート・I・ゴードン監督の「巨大生物の島」(Foods of the Gods)(76)を思い出す。必ずしもコングだけがバカでかいだけでは無く現れる生物総てが巨大で凶悪だからだ。
MR.BIGの作品は巨大生物ものが殆どだが、映画界入りする前はCMを数百本も撮っており、80年代に僕が現役の電通マンの頃、カークダグラスのMaximコーヒーを撮って貰った。
マット合成の特撮が得意で「巨大蟻の帝国 (Empire of the Ants 」(77)などのSFものと、テロリストを扱う「マッド・ボンバー」(The Mad Bomber)(73)の3本しか紹介されていない。
大してヒットしないB級SFしか撮っていないが、ベバリーヒルズのプール付き豪邸に度々招かれた。さすがユダヤ人、蓄財の才はたけていると思った。
2-3本CMを終えてひと段落した後,数年友人として付き合ったが、ドイツロケで若い奥さんを貰い、僕とも仲良しだったフローラと離婚して以来、ここ4半世紀は連絡を取っていないが94歳で存命のようだ。


この作品、制作がほぼ完成した段階でユニバーサル配給と聞いていたが突如ワーナー・ブラザースに変更になった。制作の主体がレジェンダリーと言う中国資本の会社だからだ。
ジュラシック・パークやゴジラなどを制作していた「レジェンダリー」(LEGENDARY)は債務超過に陥り去年(16年)1月に中国大連の不動産王で映画配給会社(AMCは傘下)のダーリン・ワンダに$35B(4000億円)で買収されいる。

つまり資本的には中国の会社だから主導権を持っていてアメリカでの配給をユニバーサルからワーナーに変えられる訳だ。
このことは配役にも影響している。調査遠征隊の一員に何も役に立たない中国女性生物学者、サン(ジン・ティエン)が顔を出す。ティエンはやはり中国資本の「グレイト・ウォール」で皇帝軍の司令官としてマット・デイモンと絡む重要な役をやっているが、ここでも中国資本の後押しで唯一の中国人として出演している。

「コング」は、1933年に美女を片手にエンパイア・ステート・ビルで大暴れした大ヒット作「キング・コング」以来、1976年(86年には2も公開)のジョン・ギラーミン版、2005年のピーター・ジャクソン版と3度映画化されており、日本の「ゴジラ」シリーズにも2度登場。今回の「キングコング:髑髏島の巨神」では、コング最大の神話のひとつ――これまで一度も語られることのなかったコングの起源を探ることになる。

神話の中だけに存在すると思われていた島が実際にあることが分かり、遠征隊が派遣される。その海図に載っていない「孤島」で人間と自然との間で壮絶な闘いが展開するなか、巨大生物「コング」の驚くべき真実が明らかになっていく。

それはゴジラシリーズで最初は凶悪で日本に上陸して大暴れするだけの「ゴジラ」が実は情も実もある人間のシンパだと分かるように、巨大生物の島ではコングだけがジャイアントでなく巨大な爬虫類やタコ、蟻,怪鳥などが人類に襲い掛かって来るのを「コング」が守ってくれるという優しさを最後に発見するのだ。

映画は1944年秋、米軍戦闘機グラマンからパラシュートで脱出したハンク・マーロウ中尉(ジョン・C・ライリー)と空中戦ドッグファイトでゼロ戦から降下した日本海軍イカリ・ダンペイ少尉(MIYAVI)の死闘から始まる。くんずほぐれつの取っ組み合いは決着がつかないがそこへ雲を突く巨大な影が二人を覆う。
それから26年後の1973年ウォーターゲイト事件が発生したころ、謎の政府組織「モナーク」の上級工作員、ビル・ラング(ジョン・グッドマン)が地球資源探索の使命を帯びて衛星・ランドルサットより視認した孤島を発見する。米ソ冷戦のさなか、ソ連がこの孤島にレアメタル発掘隊を送るやもしれぬと国防の上院議院委員会に働きかけ遠征隊の護衛を依頼する。

ベトナム・サイゴンから撤退途中の攻撃ヘリ隊長パターソン大佐(サミュエル・L・ゴードン)に政府高官から突然命令が来る。ヘリの一個大隊を南太平洋の孤島に資源開発とレアメタルを探すべく調査遠征隊を護衛し、人跡未踏の神話上の謎の島に潜入せよと。
英国特殊空挺部隊中佐を退任し傭兵として糊口をしのいでいるコンラッド(トム・ヒドルストン)は金に釣られ、報道カメラマン、ウィーバー(自称、反戦カメラマンと本音を吐く)の(ブリー・ラーソン)が加わる。
「ROOM」のオスカー女優、ラーソンがB級アドベンチャー映画の端役をやるとは思わなかったが色取りを添えるには中国女優、ジン・ティエンより客を呼べる。
しかし、その島は人間が足を踏み入れるべきではない「髑髏島」だった。島には骸骨が散乱しており、さらに岩壁には巨大な手の形をした血の跡を目撃する。
そして彼らの前に、その島の神なる存在であるキングコングが出現。人間は、凶暴なキングコングに立ち向かうすべがなくヘリコプターは次々とコングの手と足で撃墜される。
 
コンラッドがいう。コングは狂暴では無い。自分の棲み処を爆弾で破壊されたから怒っているんだ。誰でも平和に暮らしているのに土足で踏み込んで暴れまわったら怒るのも当然だ。
コングが怒るばかりではない。冬眠中の巨大な爬虫類が続々と目を覚まし、兵隊たちを襲う。コングは阻止しようとモンスターと戦う。巨大な口を開けて噛みつこうとする爬虫類をコングが手で口を割こうとし,尻尾を捕まえてぶん回し岩にたたきつける。
CGだと分かっているが凄絶な戦いにIMAX大画面(品川TJoy)は観客を巻き込み体中が振動する。やっぱりImaxだ。中身が少しばかりお粗末でも感動する。
「コング」ではないが、中国で今週末「バイオハザード:ザ・ファイナル」が3日観で100億円を突破したのも理解できる。

資源探索を超えて未知生命体の存在を確認しようと、学者やカメラマン、軍人からなる調査隊が南太平洋の孤島“スカル・アイランド(髑髏島)”にやって来る。 
米軍ヘリ隊長・サミュエル・L・ジャクソンのコングに対する怨念に部下が犠牲になる様を見ると戦争の隊長の資質で生かすも殺すもボス次第だと分かる。コンラッドもウィーバーも、最後にはパターソン大佐の部下も隊長を見限るのが面白い。
コングの島に無断で踏み込まない限り、彼は人間の味方だと温かい気持ちで島を去る息の凍った人たち。
エピローグで痛快なのは故郷に28年振りに帰ったカブスファンのハンクがサヨナラホームランで「ヤギの呪い」を破ったカブスがワールドシリーズを制覇し大喜びの場面が入る。

3月25日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「T2 トレインスポッティング」(T2: Trainspotting)(イギリス映画):世界的に大成功した巨匠ダニー・ボイルとスター、ユアン・マクレガーが懐かしい故郷エジンバラへ帰って来た

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1996年のオリジナルはショッキングな映画だった
アーヴィン・ウェルシュの同名小説の映画化したもので、スコットランド・エジンバラを舞台に、ジャンキー(ヘロイン中毒)の若者達の日常が斬新な映像感覚で生々しく描かれている。興行成績は18億円程度だから赤字は出さなかったが商業的に成功しとは言い難い。。

無名だった監督のダニー・ボイル(Danny Boyle)と男優ユアン・マクレガー(Ewan McGregor)の出世作でもある。
マクレガーは主演した「スターウォーズ」シリーズ(99-05)の世界的大ヒットでスーパースターの座についている。ボイル監督は08年に「スラムドッグ$ミリオネア」でオスカーを獲得している。
 
世界的に大成功した巨匠とスターが懐かしい故郷エジンバラへ帰って来たのだ。

前編を振り返ると、マクレガー扮するヘロイン中毒のレントンは不況のスコットランドでヤク中仲間と怠惰な生活を送っている。
人のいいスパッド、モテモテのジャンキーシックボーイ、アル中で喧嘩はやいベグビーらと悲惨な生活の中でドラッグやナンパ、軽犯罪やクラビングを繰り返す毎日。
スパッドが逮捕され刑務所へ送られたことを契機にレントンは何度目かのドラッグ断ちを決意。必死の麻薬治療を受けロンドンで仕事を見つけようとエジンバラと仲間を離れる。

20年経ってすっかりおじさんになったマーク・レントン(ユアン・マクレガー:46歳)、サイモン/シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー:44歳)、スパッド(ユアン・ブレムナー:45歳)、ベグビー(ロバート・カーライル:51歳)の四人の仲間が懐かしく再会し、ポルノの世界に手を出すといったストーリーだ。
マクレガーを始め男優たちはオリジナルと同じメンバーで、確かに皺は多く老人(40台半ば)になったとは言え面影はしっかり残っている。

エジンバラの街に20年振りに仲間でヤクの取引で奪った大金(1万6千ポンド)を持ち逃げしたマーク・レントン(ユアン・マクレガー)がオランダ・アムステルダムから戻って来る。逃走中の母親は死亡し、年老いた父親が一人暮らし。実家の自分の部屋で青春を回顧するマーク。
マクレガーの若い頃の実写が何度も現れる。
スキンヘッドで痩せた全身にタトゥーを入れたマークの姿は時代が変わっていることを示している。

昔の仲間もロクなことをしていいない。
血の気が多く喧嘩はやいベグミー(ロバート・カーライル)は酒場で喧嘩相手を殺して20年の刑で刑務所に服役中だった。仮釈放を申請して却下された彼は仮病で病院へ入り、看守がトイレに行った隙に医者に化けてまんまと脱走する。

老けたカーライルの口ひげの容姿は似合う。脱走したベグミーはアパートに戻る。そこで妻と息子に再会する。
息子に(泥棒)仕事を手伝わせようとすると大学でホテル経営学を専攻する彼はきっぱりと断る。

マークと特に仲の良かったサイモンことシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)は表向きの商売は叔母から譲り受けたパブを経営し、裏では売春、ゆすりを稼業とし、稼いだ金でドラッグを常用している。

常連のキャストの他にブルガリア生まれのベロニカ役でアンジェラ・ネディヤコバが加わる。前作公開時は未だ5歳だたと言う、25歳のブルネットの美人だ。
サイモンの女で、ベロニカが拾った客のセックスシーンを盗撮してドラッグの金を稼ぐ。

ディルドをつけたベロニカが全裸の厳めしい教育長を後ろから攻める変態シーンを盗撮して月に1000ポンド払えと脅かすシーンは笑える。

しかし教育長が警察に駆け込み御用となるがかつてマークが付き合っていたダイアン(ケリー・マクドナルド)が弁護士となっていて共謀の疑いを持たれたベロニカの窮地を救う。ベロニカは徐々にマークに惹かれている。

人の良いジャンキーのスパッド(ユエン・ブレムナー) 家族に愛想を尽か され、孤独に絶望していた。故郷に帰ってマークが最初に訪ねたのはスパッドでその時首吊り自殺を図っていて間一髪、スパッドを救うことになる。

マークが想像していた通り、昔の仲間は相変わらずのジャンキーで、モノ分かりの良い大人になれずに荒んだ人生を歩んでいる。

マークは持ち逃げした金を返済しつつ彼らとの友情を復活させていくが、肝心の彼らが選ぶ未来とは何だろうと映画は追いかける。

タイトルのトレインスポッティング」の意味はネットで教えられた。本来は鉄道ファン=「鉄チャン」の意味だが、ここでは麻薬常用者を指す。

映画の舞台となったスコットランドの首都エジンバラの北部にリースと呼ばれる地域があります。現在はショッピングセンタとして再開発されている場所に、かつては鉄道の操車場がありました。そこは長らく廃線になったまま朽ち果てるままに放置されていたのですが、いつしかヤク中の人々が集い、ドラッグを売買したり一本キメる場所として有名になった。これをエジンバラのリース地区のローカルなジョークで「奴らはトレインスポッティングだ」と呼ぶようになった。

 1990年代ポップカルチャーを象徴する作品として知られる96年製作のイギリス映画「トレインスポッティング」の20年ぶりとなる続編だが、テーマは変わっていない。

 ヘロインを注射するのに同じ針を使ったことで「お前の血は俺の中に混じっている」だの、マークが慎重に針を落とすLPレコード、「Lust For Life」の延々と流れる曲だの、メランコリックでノスタルジック、ユーモアでバイオレント、何が起こるか予測もつかない展開。
オリジナルのドラッグ文化を引きずっている。
マークの「Choose Life」のスピーチ。
ボイルド監督は続編でも同じことを繰り返している。

6月3日より新宿ピカデリー他で公開される。

「パトリオット・デイ」(PATRIOTS DAY)(アメリカ映画):2013年4月15日。「愛国の日」に行われたボストンマラソンで爆弾テロが発生

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北米では1月13日より全国公開。
12月23日よりNYとLAそれにボストンの5館で公開された
ボストンマラソン爆弾事件を扱った「Patriots Day」は
1月13日週末からマーティン・ルーサー・キングJrデイ祝日にかけて、
3120館に拡大興行して国民の愛国心にうったえようとしたが僅か12Mで6位に留まった。

アメリカでは上映を終わっている。45M(51億円)の制作費をかけて北米での総計は38.8M(44億円)。PRや広告などマーケティング費が倍以上かかるし、アメリカ国民向け映画だけに日本を含めた海外市場でそれほど稼げるとも思えない。
結局は制作のライオンズゲイトとCBSフィルムは赤字を抱えることになった。

だが観客の出口調査(CS)ではA+評価。
映画を見れば評価は良いが映画館まで足を運ばないのだ。事件が風化したのか、ボストンと言う地域限定映画とされたのか、はたまたトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」に反発したのか分からないが余りヒットはしなかった。

ボストンと言えば今年もフットボールでは「ニューイングランド・ペイトリオッツ」がスーパーボールで5度目の制覇をし、
野球ではボストン・レッドソックスが「バンビーノの呪い」が解けた03年以来3度も優勝している。
スポーツのメッカだ。

 映画のタイトル「パトリオット・デイ」(愛国者の日)とは、マサチューセッツ州、ウィスコンシン州、メイン州での休日のことで全国的な祝日ではない。

 アメリカ独立戦争でボストン北西部のレキシントン・コンコードの戦で勝利した4月19日を記念して「愛国者の日」とし、例年4月の第3月曜日の愛国者の日に開催されている1897年より毎年、パトリオット・デイに、ボストンマラソンが行われている。

 敗戦間もない1951年に田中茂樹が1953年に山田敬蔵が優勝し敗戦国民の国威発揚として日本中が湧いた。
その後瀬古利彦も2回優勝していて日本人にはゆかりが深いマラソンだ。

 2013年4月15日。例年の「パトリオット・デイ」(愛国者の日)に開催されるボストンマラソンの最中に爆弾テロ事件が発生する。

 ボストン市警殺人課巡査部長、トミー・エドデイヴィス(マーク・ウォルバーグ)の視点で事件の前後とテロリストの捜索が描かれる。

 今から4年前の2013年4月15日。ボストン警察の殺人課に所属する刑事トミーは、 「愛国者の日」に毎年開催されるボストンマラソンの警備にあたっていた。
 
 50万人の観衆で会場が埋め尽くされる中、ゴール近くのトミーの背後で突如として大規模な爆発が発生。
トミーらボストン警察の面々は事態を把握できないまま、必死の救護活動を行なう。

そんな中、現場に到着したFBI捜査官捜査官チーフのリック・デローリエ(ケヴィン・ベイコン)は、事件をテロと断定し。
 ボストン警察署警視総監エド・デイヴィス(ジョン・グッドマン)やマサチューセッツ州知事・ドバル・パトリック(マイケル・ビーチ)らの裁定で、市警からFBIの管轄になる。

 エンドタイトルで夫々本人が登場するが、デブの警視総監に扮するグッドマンも黒人知事のマイケル・シーンもそっくりだ。

 ボストンに生まれボストンに育ったトミーは「パトリオット・デイ」と「ボストン」を冒涜する犯人に対し激しい怒りを抱え、独自に病院に収容された負傷者たちから丁寧に話を聞いてまわる。
(因みに遠視うウォルバーグ自身もボストン生まれのボストン育ちだ)

やがて、群衆を写した監視カメラで「黒い帽子の男」と「白い帽子の男」が容疑者として浮かび上がる。

監視カメラの他に観客がスマホで写した爆発の瞬間が何度も繰り返される。
ランナーが続々ゴールに迫る14:29PMに2つの手作りパイプ爆弾が、ゴール付近で爆発した。爆弾は地面に置いたデイパックの中で爆発したので死傷者は下半身にダメージを受ける。

 死者はレストランマネージャーの29歳女性、クリストル・マリエ・キャンベル、ボストン大学卒業生の中国人女性、ルー・リッジ、8歳の男の子マーティン・ウィリアム・リチャードの3名。負傷者は手足を失った重傷者16名を含め、数百名に昇った。

 ゴールでぞくぞくと到着するランナーで現場は大混乱し、中止が実行されるまで、爆発から8分かかった。
 監視カメラに映っていた「黒い帽子の男」と「白い帽子の男」が容疑者として浮かび上がり、トミーは2人の行方を追う。

 チェチェン共和国の出身であったことからアルカイダ等のテロ組織との関連が疑われたが、その後FBIによるとテロ組織との関連は見つからなかった。
名前も特定される。
黒い帽子は、タメラン・ツァルナエフ(22歳)と弟のジョハル・ツァルナエフ(19歳)でマサチューセッツ工科大学構内で警官を襲って射殺し中国系移民ダニーの車を奪って逃走する。

 普通のアクション映画なら犯人側の視点で彼らの事情やシチュエーションが描かれるが、タメランのアメリカ白人妻でイスラムに改宗した、メリッサ・ベノイストが紹介されるだけだ。

 隣り町ウォータータウンで警官隊との激しい銃撃戦が行われ兄のタメランが射殺される。アクションシーンのハイライトだ。

 FBIは事件をテロと断定。FBIの指揮で捜査は始まるが、犯人に対し激しい怒りを抱えるトミーは独自に捜査を行う。

 しかし映画のヒーローはトミーで無い、マーク・ウォルバーグが主演であっても主人公でないところが映画観客にとってもどかしい。

 ヒーローは最初に911に電話をした中国系移民のダン・メン(ジミー・O・ヤング)であり、タメランを射殺したウォータータウン署のベテラン巡査部長、ジェフ・ピュジリーズ(J・K・シモンズ)であるからややこしい。

ニュースで知っているだけに映画で勝手に変更は出来ない。トミーは唯々「ボストン・ストロング」を唱えて走り回るだけだ。

 トビアス・A・シュリッスラーの手持ちカメラのブレてザラつく画面はニュースリールやスマホ動画、監視カメラとマッチして迫力はある。ポール・グリーングラスのドグマ95手法で摂った「United 93」に匹敵する。

事件発生からわずか102時間で犯人逮捕に至った実録アクション映画を「ローン・サバイバー」「バーニング・オーシャン」でもコンビを組んだマーク・ウォールバーグ主演&ピーター・バーグ監督の仲良しタッグで映画化したもの。

 6月9日よりTOHOシネマズ・スカラ座他で公開される。

「パーソナル・ショッパー」(Personal Shpper)(フランス映画):仏の巨匠、オリビエ・アサイヤス監督が前作同様セレブの奴隷の買い物代行役でハリウッドのスター、クリステン・スチュワ-トを主演

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 2年前、朝日新聞社ホールで開かれたフランス映画祭でオリビエ・アサイヤス監督の「アクトレス~女たちの舞台~」(Sils Maria)をみたが大女優(ジュリエット・ビノシュ)にこき使われる忠実なマネージャーのヴァレンティーヌ役のクリステン・スチュワ-ト役はセザール賞の助演女優賞を受けた。

彼女は「トワイライト」シリーズが大ヒットしたハリウッドきっての売れっ子スター。
その恩返しかフランスに留まり続いてのオリビエ・アサイヤス監督のカンヌ出品作品に主演する。
 
今回も前作同様セレブの奴隷で、忙しい女優、キーラ(ノラ・フォン・ヴルトシュッテン)のために服やアクセサリーの買い物を代行する「パーソナル・ショッパー」としてパリで働くアメリカ人のモウリーン・カートライト。モーターサイクルでブティックからブティックを廻り依頼の品を取り揃えて行く。不満なのは決してモーリンに試着をさせないことだ。

指示は一方的な伝言メモばかり。

それでもモーリンがパリを離れないのは、3カ月前に双子の兄ルイスをパリで心臓発作で亡くし、悲しみから立ち直れない。
兄妹は先に死んだ方がサインを送ることになっていた。ドーンと1回ならイエス、2回ならノーと。

一方で、仕事で鍵を預かり他人の家に出入りし、時にはプライベートをものぞき見ることに、欲望をふくらませていた。
買い付けでロンドンに出かけようとする彼女に謎のメールが届き始める。
まるで彼女を監視しているかのような差出人不明のメッセージだ。

この辺りから映画は超現象と言うかゴーストの世界に入って行く。

頭がついて行けない僕などはあれよあれよと言う間に訳が分からなくなる。
指定のホテルに着くと、キーラも死体となって壁に寄りかかっている。携帯を取ろうとするとドーン、ドーンと部屋を揺るがす不気味な音が響く。

クリステン・スチュワートもキャリアを積む上でこんな幽霊映画に出るべきでは無かったかもしれない。
カンヌで上映終了後、観客から「ブーイング」の嵐だったようだ。

欧米では幅広く浸透していると言う「Personal shopper:パーソナル ショッパー」の仕事が文字通りカッコ良く、スタイリッシュなのに惹かれる。だから前半は金銭に糸目をつけないキーラの指示が映画を引っ張る。

しかしこの作品でオリビエ・アサイヤス監督は、第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞している。
心理ミステリーも評価する人もいるんだ。

シャネルが衣装協力として参加し、劇中にではカルティエなどのブランドショップが登場する。

5月12日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で公開される

「トンネル 闇に閉ざされた男」 (Tunnel 터널)(韓国映画):手抜き工事のトンネルの崩落事故で35日間も閉じ込めらた男のサバイバルゲーム。

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韓国のディザスター映画。
手抜き工事で大事故が発生したと言う設定でも誰も異論を唱えない。
さもありなんと昨年8月に上映が開始され連続28日間興行成績の首位を走り続けたヒット作だ。

主人公が閉じ込められたハド・トンネルを含め121トンネルの内に68も手抜き工事(鉄骨をとめるボルトの数が少ない)が行われていたと言うセリフもある。
マスタープラン通りにやったら利益が出ないからな、と建設会社の管理職が嘯く。

1994年には手抜き工事で「聖水大橋」が40メートル以上突然崩落。32人が死亡した。1995年にはソウルの5階建てデパート「三豊百貨店」が営業中に突然崩壊。死者502名・負傷者937名を出す。

国内ばかりか海外へ行って日本の建設会社と争って安値で落札するから大惨事があちこちで起きている。マレーシアの石油会社が所有する 当時世界一の高さを誇るツインビル「ペトロナスタワー」は日韓が夫々1棟ずつ担当したが韓国製タワーは間もなく傾く。土台に手抜きがあったのだ。


冒頭はソウル郊外にぽつりと一軒離れて建つ高速沿いの給油所。
3万ウォン分とのイ・チョンス(ハ・ジョンウ)の注文にも関わらず、耳の遠い給油所の親父は満タンの8万8千ウォンにしてしまう。

息子が出てきて謝るが、親父は、謝罪のつもりか、500mlのボトル水2本をチョンスに渡す。実はボケ親父の満タンとボトル水が後で大助かりになることをチョンスは知らない。

キア(起亜)自動車代理店セールスマンのチョンスは8台分の成約がとれたとウキウキしながら、殆ど車の通らない山間の道路を走りながら、妻セヒョン(ペ・ドゥナ)と携帯で8歳になった娘スジンの誕生日プレゼントの話をしている。
後部座席にはスジンへのバースデーケーキがある。

注文を取ったばかりの得意先からキャッチホンが入る。500m先には「ハド・トンネル」が迫る。
車がトンネル内に入り、客との会話を終えると、突然妙な地響きがして、トンネル内の灯が消える。暫く走っていると、突然トンネルの天井が崩落してくる。

真っ暗闇の中でチョンスは気がつく。
室内灯を付けると、周りは崩れたコンクリートの瓦礫に埋まっている。携帯は圏外だったが、あちこちの緊急ボタンを押している内に電波を拾い911の消防本部につながり、現状を伝えることが出来る。

オペレーターは、6分で向かうと言う。やがて911救助隊が到着するが、山もがけ崩れをしてトンネルに落下し内部はコンクリートの塊が崩落して入口をふさいでいる。
救助隊は言葉も出ない。駆けつけたTV中継車は現場からわずか開通一カ月のトンネル崩落を大きく報道する。
携帯のバッテリー残量は78%、ボトルの水2本、バースデーケーキ一箱。

この時点で閉じ込められたイ・チョンスは確認されているが別車線で同様に崩落で閉じ込められた女性新入社員の話は伝えられない。

彼女は下半身を岩石や鉄骨に挟まれチョンスが水を飲ませたり、スマホを貸して母親と話をさせているが、やがて絶命する。

 ただ「テンイ」テンイてんという名の茶色のパグ犬が残される。
目がギョロリとしチンクシャのテンイが可愛い。折角買った娘のバースデーケーキを食べてしまい、チョンスが怒るが平気の平左。

救出は7日ほどかかるとハド消防団のキム救助隊長(オ・ダルス)からの通報も我慢して生き延びなければならないと我慢する。

妻セヒョンはスーパーで買い物をしているが、TVニュースで、閉じ込められているのが夫チョンスだと知る。
閉じ込められたチョンスの携帯が鳴る。
出ると、それはSNC局のレポーターだ。インタビューは全国放送され、レポーターは事態は深刻だと伝える。

ハド消防団のキム救助隊長は、携帯のバッテリーを消耗させるので、インタビューを止めさせろと叫んでいる。キム隊長は救助マニアルを見るが、災害の定義とかばかりで救助に役立つことは何も書いてない。
そこへチョンスから電話が入る。キム隊長はチョンスを落ちつかせようとするが、チョンスはいつ助けに来るのかと興奮状態だ。
しかも、悪いことに現場に国民安全省長官(大臣)(キム・ヘスク)が視察に来るとの連絡が入る。

キム隊長は、今ある水を一週間もつほど大事にしろと言い、電話を切る。
チョンスの携帯が鳴る。妻セヒョンからだ。泣きながらセヒョンは、幼い娘スジンの声をチョンスに聞かせる。
スジンは誕生日プレゼントに小犬を買ってくれと頼むが団地では飼えないと言い渡す。

電話を切って、チョンスは休める場所を作り、室内灯を消すが、周りでは崩落の音が絶えない。トンネルは1961mあり、長官の下で救助プランが練られるが、救助法は見通せない。翌日、無事な南側入り口から、ドローンを飛ばしての調査が始まるが入口は大丈夫だが少し中へ入ると山崩れでトンネルは塞がれていてまだ北口の方が近い。

しかしこの必死の救出劇は何処かで見たことがあるイメージで目新しくない。

後半に入り掘削口を間違え更に日時がかかる(30日以上)となってからが、脚本・監督のキム・ソンフンの意図がはっきりしてくる。

二次災害が起こり、機材を張り付けて置くことの無駄が指摘され、生死が分からに男を放り出し、ハド・第二トンネルの建設を進める案が急上昇始める。

生死が不明なため次第に諦観が広がる中、この事故で中断しているすぐ隣の第二トンネル工事再開を望む政府や、わずかな被害者のため費やされる救助負担に対する不満を抱く大衆が、救出を断念しようとする圧力でドラマは盛り上がる。

キム隊長は生死の分からぬ「男」じゃない、イ・チョンスと言う娘と妻思いの若い父親だと強調し、救助隊が手を引くのを自分だけで単独現場に潜り探索を始める。

このヒューマニズムがこの映画の特徴であり他のディザスター映画と差をつける点だ。

サバイバルもあの手この手。一番大切なのは「水」。とっくに無くなっているがキム隊長は小便を貯めて飲めと助言する。
「あんたは飲んだことがあるのか?」と聞かれ、自分も飲んでみる。
「冷やして飲む方が美味しい」と変な助言が笑える。

緊迫した場面をほぐすのはパグ犬「テンイ」とのやり取りだ。何かモグモグしているのを口を開けさせて摘みだすとドッグフード。「ケーキを食べたからこれは俺がもらう」と口に放り込む。
「塩気が無いじゃないか!」
腹が減っているので文句は言えない。争って食べる。

キム隊長の英雄的行動で35日目にチョンスとテンイは救われヘリで病院に運ばれる。
国民安全処長官がTVに映ろうとヘリに乗る前の担架のチョンスに近寄る。
担架に付き添うキム隊長に長官へ伝言、「糞ったれ!」と。

主人公の自動車セールスマンのチョンスに、「チェイサー」や「お嬢さん」など、悲劇喜劇など芸域が広いハ・ジョンウ。
その妻セヒョンに「空気人形」や「グエムル」などのペ・ドゥナ、
救助隊キム隊長に、「国際市場で逢いましょう」や「ベテラン」などオ・ダルスと3人が軸となって映画をまわしている。

キム・ソンフン監督は「最後まで行く」(14)に次いで、これが二作目と言う若い映画作家だが、才能に富んだ作品に仕上げている。

5月13日よりシネマート新宿にて公開される

「ReLife リライフ」(日本映画):27歳で定職もないニートの海崎新太が、17歳の高校3年生になって人生をもう一度やり直そう(ReLife)とする

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27歳で定職にもつけないニートの主人公が、17歳の高校三年生になって人生を
もう一度やり直そう(ReLife)と言うコンセプトは面白い。

原作は人気No.1のマンガアプリ「comico」で現在も連載中。作者(名前は明らかにされていない)がリアルタイムで読者の反応を見ながら楽しめる物語を編み出していくと言うフィードバック方式は軸が覚束ないが即興でフレクシブルなストーリーが展開できる。

2013年スタート時よりランキング1位を独走し国内1400万ダウンロードを突破し、アニメ化、舞台化、単行本化された大ヒットコミックだと言う。

主人公たちが繰り返し「今を生きろ!」と声を挙げるがどうも手垢のついた言葉だ。
1989年のアメリカ映画で、ロビン・ウィリアムズ主演、ピーター・ウィアー監督の「いまを生きる」(原題: Dead Poets Society)はアカデミー脚本賞受賞したほどの素晴らしい作品だったが日本の観客には少々難しかった。

原題の「Dead Poets Society」は、劇中の教師ジョン・キーティング(ウィリアムス)がウェルトン校在学中に結成した読詩サークルで、故人となった古典的詩人たちの作品のみ読む。そのサークルをイーサン・ホーク(今ではすっかりオジさんだが)などの学生たちがキーティング先生に頼み復活させる。
この映画では学生を導く、教師の大切さを実感させるが、その影響かニートの海崎は高校生活から28歳に戻ると教職に就く。

「いまを生きる」は劇中でキーティングが発するラテン語「Carpe Diem」の日本語訳。厳密には「いまを生きろ!」ないしは「いまを掴め!」といった意味になる。30年程前の映画だけに若い人は知らない。
作家はこのウィリアムスの映画からヒントを得たのだろう。17歳を1年しか生きられないので「今この瞬間を大切にし、今を生きよう」とクラスメイトに呼びかける。

主人公、海崎新太は皆の頭の中から消え忘れ去られることになるのだが、このフレーズだけは唯一残って記憶に残る。

海崎新太(中川大志)はある事件をきっかけに勤めていた会社を5ヵ月で辞め、27歳にもなっているのに定職も無くニートのその日暮らしをしていた。大学時代の友人たちと呑む時は未だ前の会社に勤務している振りをするが割り勘を払うと財布のカラッケツ。

ある日道端で、小柄な男が近寄り、海崎新太にオイシイ話を持ち込む。
リライフ研究所の夜明了(千葉雄大)と名乗る男は新太に「今の人生、もう一度やり直してみませんか?」と社会復帰プログラム「リライフ」に誘い込む。

確かに今のニートの生活は親の期待を裏切る、将来が見えない底辺の生き方だ。
夜明の説明では、外見が10歳若返る薬を飲み、1年間限定で高校生活をやり直すこと。
ただしこのことはゼッタイ秘密、1年後には周囲の人々から海崎に関する記憶は消えると言う。
その間の生活費は総て研究所が持ち、さらに治験期間終了後は就職の世話もしてくれる。

半ば自暴自棄で二度目の高校生活に飛び込んだ海崎は、成績はトップだが極度のコミュニケーション音痴の日代千鶴(平裕奈)やチャラ男だが男子トップの優秀な大神和臣(高杉真宙)ら個性豊かなクラスメイトと出会い、いつしかかけがえのない仲間となっていく。

夜明は研究所へレポートをしなければならないので海崎かれ目を離さない。夜明も高校生が良く似合う。海崎の真後ろの席を確保し一挙手一投足を観察しノートに付ける。「001は失敗したが002は成功しそうだな」と気になるセリフを呟く。

海崎は友達ゼロから変わろうと懸命にもがく日代に先ず笑い方を教えているうちに恋心を抱くようになる。
笑えと言われ口角を無理に吊り上げる平の顔は不気味でもありユーモラスでもある。
だが日代は10歳も年下の女子高生だ。

1年後には記憶から消え、二度と会えなくなる。
一方、日代にも、誰にも言えない秘密があることは観客は察知するがそれが何であるかは、終盤にならなければ分からない。

気になるシーンがある。海崎の最初に就職した会社で先輩で営業成績トップの女子社員、佐伯みちる(市川実日子)が妬む同僚の男子社員たちの罠に嵌りミスを犯して部長に激怒され左遷される場面だ。みちるは退職し鉄道自殺をしてしまう。

殆どナレーションで済ませるのだが、これがショックで退職するならば、海崎は何かしらのリベンジを見せて欲しかった。
市川がクールにエリート社員を演じるだけにフォローがあっても良かったのではないか。

04年に「ロスト★マイウェイ」で監督デビュー「オトシモノ」や「今日、恋をはじめます」などの44歳の古澤健が監督を務める。

17歳の高校生と27歳のニートの主人公・海崎新太はNHK大河ドラマ「真田丸」などTVドラマで育った18歳 の中川大志。
映画は「通学途中」や「4月は君の嘘」(これは良く出来ていた)などがある。

相手役の日代千鶴には同じく18歳の平裕奈。昨年は「キセキ」や「サクラダリゼット」など大活躍だった。

研究所から派遣された監視役、夜明了は主人公二人より10歳も年上の26歳だが一番若い高校生に見える。

他に10代の出演者たち、高杉真宙や池田エライザ、岡崎紗絵などがクラスメイトとして脇を固める。

4月15日より新宿ピカデリー他で全国公開される

「メットガラ ドレスをまとった美術館」(The First Monday in May)(米映画):服飾業界最大イベント「メットガラ」をヴォグ―編集長A・ウィンターと美術館学芸員A・ボルトンを追う

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 昨年(2016)のNYトライベッカ・フィルム・フェスティバルでオープニングを飾ったドキュメタリ映画。

 監督・撮影・編集のアンドリュー・ロッシの故郷の街へのオマージュもある。
ロッシはイェール大を卒業後、ハーバードのロースクールを出た俊才。卒業後直ぐに自分のスタジオを創立し記録映画に専従している。

NYタイムス紙の内情を追う「Page One」は数々の記録映画賞を授与されているようだが、日本では未公開。
この作品がロッシの日本でのお目見えとなるが、1時間半にギッシリと素晴らしいシーンが詰まっている。


 NYに5年も住んでいたが、ファッションに興味が無い僕はこんな煌びやかなイベントが開かれていることすら知らなかった。

 メリル・ストリープ主演の「プラダを着た悪魔」のモデルになったと言う米ヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンターに移動性カメラは密着し、彼女が仕掛ける「ファッション界のアカデミー賞」とも言わる業界最大のイベント「メットガラ」を追ったドキュメンタリー。

 米ヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンターはメリル・ストリープより美人で優しい。薄い茶髪を短めのボブにしたヘアスタイルは良く似合い、俊敏に反応できる頭脳を覆っている。今年67歳のアナはぱりぱりの現役、ロンドン出身だけにイギリス訛りの英語はガサツな米語が飛び交う準備期間では一際際立って聞こえる。

 ロンドンの高校を中退して百貨店、ハロッズのトレイニングプログラムに入学、20歳の70年、「ハ―パース・アンド・クィーン」誌の編集アシスタントとして業界に足を踏み入れ、25歳の75年にNYへ移り、「ハーパース・バザー」「NEW YORK」の編集を手掛け、83年、34歳でUS Vogue誌のクリエーティブ・ディレクターに就任、86年イギリス版Vogue誌編集長、同誌を立て直したことで、88年7月38歳でUS版Vogueの編集長に呼び戻される。

 業界の申し子、Vogue編集長になるべくして生まれて来たような人物だ。
チャンと結婚して娘も二人育てていることは「プラダを着た悪魔」(06)で描かれている。
その娘のために「ハリポタ」のゲラ刷りを手に入れろと無茶な命令を秘書のアン・ハサウェイは仰せつかって東奔西走する姿が可笑しかった。

 さてその米ヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンター主催により、ニューヨークのメトロポリンタン美術館(MET)で毎年開催される「メットガラ」。

 ガラのオープニングのスピーチでウィンター編集長は
「この『メットガラ』は劇場みたいだ。ファッションは夢とファンタジーを創り上げる」と挨拶する。

1946年にスタートし、一流メゾンによるオートクチュールの数々、豪華セレブリティたちが集うガラパーティは、ファッション界のアカデミー賞と称されている。

2015年5月の最初の月曜日(The First Monday in May=原題)に向けてメットガラは中国文化を主軸とし関連衣装を展示する。

その開催に向けて8カ月にわたる準備、そしてガラ当日の模様を、アナ・ウィンターと、企画展示を担当したメトロポリタン美術館のキュレーターのアンドリュー・ボルトンの2人を中心に追っていく。ボルトンは黒縁眼鏡の学者風タイプ、上司のハロルド・コーダーが引退したのでこのイベントから主任キュレーターに就任し張り切っている。

 ジャン=ポール・ゴルチエ、カール・ラガーフェルド、ジョン・ガリアーノ、トム・フォード、グオ・ペイといった米仏中の錚々たる著名デザイナーも協力している。イヴ・サンローラン財団はパリのアトリエに保管されたコレクションから名作を貸し出し、ボルトンの野心的な企画に協賛する。

2015年5月2日(月曜日)、NYメトロポリタン美術館(MET)。
アート・ファンとファッショニスタが注目する伝説のイベント「メットガラ」が華やかに幕を開ける。

ファサードの50M幅の大階段にはレッドカーペットが敷き詰められ、ポップスターのジャスティン・ビーバーやリアーナやレディ・ガガ、アカデミー賞の常連、ジョージ・クルーニーやアン・ハサウェイ、フランスを代表するデザイナーのジャン=ポール・ゴルチエ、映画界からは中国の巨匠、ウォン・カーウィ、オーストラリからバズ・ラーマンなど世界中から招待されたセレブがフラッシュの光を浴びてそぞろ歩く舞台に早変わり。

 リアーナはガラの宴会の最中にテイルが9mもあるドレスで歌うが、新人なのでぼくらは知らない。カリブ海の小島、バルバドス・セント・マイケル出身の17歳、R&Bとカリブミュージックをミックスした曲で彗星のように現れたディーバ。澄んだ高音はリズムに乗って絶唱し満席のセレブの賓客たちの万雷の拍手。

 因みにレッドカーペットをバックに観衆に応えるリアーナの写真は6月号のVogueの表紙を飾っている。半黒のキュートな顔は親しみやすい。

 1人あたり25,000ドル(約285万円)と高額な席料にもかかわらず600席が瞬時に満席になるのは、彼女の人脈と情熱の賜物だ。
そしてこの収益金はメトロポリタン美術館服飾部門の1年間の活動資金に充てられる。

 展覧会は題して「鏡の中の中国(China: Through The looking Glass)」
その準備に奔走するのは、MET服飾部門を指揮する革新的キュレーターのアンドリュー・ボルトン。
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」のThrough The looking Glass and what found thereからの引用。「鏡を通して見たチャイナ」のタイトル。

4月15日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。

「レゴ バットマン ザ・ムービー」(The LEGO Batman Movie)(米映画):宇宙の「極悪ゾーン」を抜け出し地球を狙う巨悪軍団と戦うヒーロー・バットマン。コングやゴジラなどと死闘を展開

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この映画、2月10日にアメリカで公開されいきなりダントツ首位になった。
この週は新登場が3本。
「The Lego Batman Movie」は子どもやティネージャーなどを含めたファミリー層へ、「Fifty Shades Darker」(日本公開未定)は女性層はクリスチャン・グレイの赤い部屋へ惹きつけられ、「John Wick: Chapter 2」(邦題「ジョン・ウィック・2」)男性はキアヌ・リーブスの暗殺のテクニックに驚嘆します。

激戦を勝ち抜いて首位は「The Lego Batman Movie」(邦題「レゴ バットマン ザ・ムービー」WB配給4月1日より新宿ピカデリー他で公開される)
4088館で開け55.6Mでトップを勝ち取りました。
アニメは一般的に200M(230億円)ほどかかるにレゴ・アニメは80M(91億円)と半分以下で収まっている。

この週末(10日―12日)で北米では7.1M、これで国内累積は159.0M、海外累積は116.5M、ワールドワイド総計は275.5M(316億円)になる。

3年前の「LEGOムービー」はそれほど面白くなかった。
普通の作業員、エメットがバットマンと間違われる。ヒーローになる覚悟も自覚もないエメットだったが、世界を救うため個性的な仲間や人気ヒーローたちと悪に立ち向かっていく。
当たり前の想定内の展開でがっかりしたのでこの映画は期待していなかった。

しかしこの2作目は遥かに面白い。バットマンは既に存在しそのパラドックスでストーリーを構築する。つまり観客はバットマンを知り尽くしていることを前提とする。

先ずバットマンことブルース・ウェインはエゴイスティックでナルシスト、自分が一番と信じて仲間を寄せ付けない。しかしお友達は居ない、淋しがり屋。ヒーローとしてチヤホヤされると嬉しがる。団体行動は嫌いで大邸宅で執事のアルフレッドにかしずかれながら一人でディナー。笑えるのは豪華バットマンカー「一人乗り」。バットマンの声はウィル・アーネットが吹き替えているのだが低いハスキーな声で印象に残る。

バットマンを慕うロビン少年は元気は良いが能天気。キツイパンツを脱いでパンツ一つになって走る廻る。

天敵のジョーカーがもっと笑える。バットマンに「最強の敵」に認めさせるためには何でもする。いやにフレンドリーな天敵ジョーカーなのだ。
しかしジョーカーはドジ。宇宙に閉じこめられていた巨悪軍団を目ざませてしまう。軍団は「極悪ゾーン」を抜け出し地球を狙う。キングコングやゴジラ、ハリポタのヴォルデモート卿まで出て来るのには驚く。

レゴバットマンは巨悪と戦い、地球やゴッサムシティは自分が守ると言う意識は強い。

街も空も基地もマシーンも宇宙も皆レゴブロックで出来ている。バットマンも顔から下の胴体から手足はあるものの、顔の表情は一切無い。

「レゴ」はデンマーク製の玩具ブロックのアニメで、ヒーローも悪者も皆「レゴ」になって大集合のファミリーアニメ。ワルたち、ヴォルデモートや機銃たちまでが極悪ゾーンを逃げ出し地球を襲う。バットマンと半人前のパンいちロビンがコンビを組んで立ち向かう。

ワーナーブラザーズはウォルトディズニーの「スターウォーズ」やMarvel、ピクサーのヒットアニメに対抗するため、DCコミックスやハリポタ・スピンオフの「ファンタスティック・ビースト~」「The Lego Ninjago Movie」などを総動員してレゴのアニメ化を計画していると言う。
既にワールドワイドで300億円以上を稼いで上昇気流は続いている。ドル箱映画になっているのだ。

前作「レゴ ムービー」に引き続きウィル・アーネットがバットマンの声優を務め、宿敵ジョーカー役はザック・ガリフィアナキス、相棒ロビン役はマイケル・セラ、バッドガール役はロザリオ・ドーソン、執事アルフレッド役はレイフ・ファインズがそれぞれ担当。

前作でアニメーション共同監督を務めたクリス・マッケイが今回は単独で監督と脚本を書いている。

4月1日(土)より 新宿ピカデリー他全国で公開される

「草原の河」(RIVER)(中国映画):「草原のチベット」と呼ばれる、厳しい自然に囲まれチベット・アムド地方で牧畜を営む一家。

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ジプシー(ロマ、フランスではジタン)を主人公にした映画は何本も見たが彼らを取り上げジプシーの暮らしに入り込んだ小説は初めて読む。
フランスの女流作家、アリス・フェルネ(Alice Ferney)の「本を読む人」(Grace Et Denuement)(新潮社:2016年12月刊)は、400年前からフランスに住むと言うジプシー一族の話だ。

パリ郊外のガラスや金属片を捨てるゴミ捨て場に女家長のアンジェリーヌに率いられたジブシーの大家族。長男のアンジェロだけは独身で、5人の息子に4人の嫁、7人の孫に囲まれ、アンジェリーヌ婆さんは一日中、焚火の傍に陣取っている。

おんぼろのキャンピングカーにトラックで乗り付けた空き地は元女教師が地主だがジプシーたちを追い立てはしない。
息子たちは土地を市に売って近所迷惑なジプシー一家を追い出そうとするが老嬢はがんとして許さない。

 ジプシー一家は部族の誇り、自由と濃密な家族愛に満ちているが、市役所に登録していないので社会保障や健康保険も受けられず、子どもたちも学校へ行かないから字も読めないし書けない。男たちには仕事も無くその日暮らし、社会保障も稼ぎも無いから腹が減ると盗みを働く。

 そんなジプシー一家を毎週水曜に黄色いルノーに乗って「よそ者」「外人」がやって来るようになる。エステールと言う子どもが2人いる母親でユダヤ人の図書館員だ。
 雨の日も風の日もババルーからアンデルセン、サンテクジュベリー、ラ・フォンテーヌまで様々な物語を子どもたちに読んで聞かせる。

 先ずは子どもたち、次いでアンジェリーヌ婆さん、嫁たち、しまいには息子たちはその訪問を待ち受ける。
 長男アンジェロはエステールに恋心を抱くが口には出せない。

 小さなサンドロが車に跳ねられ死んだり、三男のシモンが気が狂い妻、ヘレンと大喧嘩してヘレンは二人の子供を連れて家を出る、シモンは喧嘩で刑務所へ入りそのまま精神病院へ送られる。

エステールが学齢に達したアンナを連れて地元の小学校を訪ね、女校長と談判して入学を許可される。アンナは一族で初めて字が読め書ける子どもになる。
女教師が死んで息子たちは土地を市に売り、ジプシーは追い出されるがまた近いところに荒地があり、そこへ移る。
アンジェリーヌ婆さんは衰弱して死ぬが婆さんと言っても57歳だ。
嫁たちは次々と妊娠して元気な赤ん坊を産む。
 
エステールは遠くなってしまったので月に一回の訪問になったが子どもたちは待ち受ける。エステールの友人が火曜にやって来て字の読み書きを教える。
泥まみれで襤褸を着て腹を空かせ地を這うような生活をしていても人間は人間だと言う尊さ、そして誰にも「本」が必要だと言うことを教えてくれる感動の書物だ。

 ジプシーもユダヤ人もヒトラーによって強制収容所で惨殺された。アンジェリーナ婆さんが「あんたも私たちも戦争を生き延びたんだ」としみじみ語る。

 ジプシーの起源は北インドの最下層の人々。10世紀頃イスラム教徒に侵略され東欧州に移住を始めた。数百年をかけて移住は東から西へ進み、エジプト、トルコ、スペイン、ドイツ、北欧にまで広がる。
 
15世紀頃から「ボヘミア王国」の移動許可書を持ちアルザス地方に移住し「インド人とかマヌ―シュ(人間)と自称するようになったが、人々は「エジプト人」を意味する「ジプシー」の他称が使われる。
 移住した国では夫々の名前がつけられるが日本人は「ロマ」と呼ぶ。
反対にジプシーで無い人たちを「gadjo」=「外人」「よそ者」と呼ぶ。

 15世紀頃、王侯貴族は私有軍を持ちジプシーたちは傭兵となったがルイ14世の私有軍禁止令でジプシーたちは行商を始め、産業革命が始まると農奴になり西方へ移住に拍車がかかる。サーカスや旅興行を営み幌馬車で移動した。

1895年の国勢調査ではフランスに40万人のジプシーが登録されている。
定住を好むジプシーと放浪が好きなジプシーがいるため一般社会での生活態度が違うので法律の適応を難しくしている。

 フランスで20年前に発刊されたこの本は未だ売れ続けているロングセラーだ。


チベット映画だと聞いたが冒頭に中国電影集団公司の大きな紋章が出る。国家広播電影電視総局管理の下で国営企業の認可を受けての制作だと言うことだ。

「無言歌」「三姉妹」などの反体制のウォン・ビン(王兵)の映画はセリフは中国語を喋っても中国電影集団公司のエンブレムは出ない。撮影は中国内で撮っても制作は香港やベルギーに逃げている。
ダライ・ラマが頭にあるとチベットは中国と喧嘩をしているかと錯覚するが、チベットは間違いなく中国の一部だ。

だから政治に関係無いチベット人の家族を描く映画は「国家広播電影電視総局」のお墨付きと言う訳だ。
脚本・監督は1973年、「草原のチベット」と言われるアムド地方生まれの43歳のチベット人、ソンタルジャ。

 1970年代と言うとバカげた文化大革命の嵐の中で76年に終結してからの激変でチベットの田舎にも時代の波は押し寄せ、経済建設とグローバル化が進んだ。
ソンタルジャは時代の変遷が家族三世代のジェネレーションギャップで父と娘や息子の複雑な関係を描きたかったと言う。

 冬の終わり、酔った男がバイクで転倒する。ロングショットで草原の中に男がひっくり返るシーンはシリアスには思えないが冒頭のアクションで一遍に映画に引き込まれる。
男の名はグル(グル・ツェテン)妻のルクドル(ルンゼン・ドルマ)と娘のヤンチェン・ラモ(ヤンチェン・ラモ)と3人で暮らしている。

 役名と本名が同じなのは皆素人だから。歌手のルクドル以外は全員他の職業で(ルクドルも演技は初めて)子役は監督の遠い親戚で撮影時は6歳。
グルも遠い親戚で本業は牧畜。

 物語に戻る。
グルの父親は出家し、村から離れた洞窟で仏教の修行に励んでいる。村人からは「行者さん」と尊敬されているが、グルは4年前のある事件で父親を許せない。

 父が病気になったと聞いた妻のルクドルに尻をひっ叩かれて幼いヤンチェン・ラモを連れ、花束はバターなど見舞いの品を持ち、バイクで洞窟へ向かうが氷が割れて見舞いの品は水浸し。

 グルはどうしても父に会う気になれずぐしょ濡れの土産をヤンチェンに持たせて洞窟へ送り込む。見舞いの品は重くて幼い娘は手ぶらで祖父に会う・
洞窟から出て来たヤンチェンは「お爺ちゃんは私にキスして泣いた」と父に報告する。「父は元気だ」と顔を見ていないのに妻へ報告する。

 そして夏の放牧には早すぎるのにグルは移動すると言い張り、放牧地へ向かう。
放牧地で子羊を巡るエピソードで心が和む。
3人とも殆ど無表情で無感動に見えるが内部で激しく感情が蠢いているのが伺える。ソンタルジャの演出力は優秀だ。

 ソンタルジャ監督のデビュー作「陽に灼けた道」(11)は自伝的映画で事故で母を亡くした青年の魂の軌跡を追っている。

 長編第二作となる「草原の河」(River)は賞こそ取れなかったがベルリン映画祭のGeneration部門に出品され、子役のヤンチェン・ラモは第18回上海国際映画祭新人賞部門で最優秀女優賞を獲得している。
 日本では15年、第28回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で上映(映画祭上映時タイトル「河」)。

 監督ソンタルジャは故郷へ帰省した時に先ずヤンチェン・ラモを見つけ、それから脚本を書いたとコメントしている。それ程ヤンチェンのオーラは凄いのだ。美少女ではないが素朴な微笑みが人を惹きつける。

 ロケ地は海抜3060メートル、寒冷期にはマイナス30度となる青海省海南チベット族自治州で撮影は行われた。厳しくも美しいチベットの草原で牧畜を営む暖かく結ばれている家族の心情を描き、深い感動をもたらす。

 厳しい自然の中で牧畜を営む一家。やがて生まれてくる赤ん坊に母を取られてしまうのではないかと恐れる幼い娘、ある出来事をきっかけに溝が生まれてしまった父グルと祖父の姿が、急に降り出す雨や凍った川といった風景で象徴的にイメージされる。

4月29日から、東京・岩波ホールで公開される。

「笑う招き猫」(日本映画):女漫才師のアカコとヒトミ。「出会ってから8年、コンビを組んで6年、夢はでっかく武道館をお笑いで満員にすること」

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芥川賞受賞作、劇作家本谷有希子の「異類婚姻譚」(講談社:2016年1月刊)は夫婦の話をSF的に描く短編4作が収められている。

「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」と言う出だしもショックだ。
子供もなく職にも就かず、安楽な4年間の結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。

「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、
いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって似た顔になって行く。
他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、
夫の中身は藁だったと言う「藁の夫」や山小屋に犬たちに囲まれて暮らす「〈犬たち〉」この世が突然消えて無くなるクイズに答えている「トモ子のバウムクーヘンなど短編3篇を収録。

 劇作家本谷有希子の2年半ぶりの新作だ。
1979年生まれの37歳。
21歳で「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。
2006年上演の戯曲『遭難、』により第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少で受賞。
2008年上演の戯曲『幸せ最高ありがとうマジで!』により第53回岸田國士戯曲賞受賞。
2011年に小説『ぬるい毒』で第33回野間文芸新人賞、2013年に『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞、2014年に『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞を受賞。

映画化された作品で言えば07年にカンヌ映画祭の招待作品の「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を原作にサトエリこと佐藤江梨子の我が儘ぶりの映画は面白かった。
姉の私生活を漫画で暴露する妹のとぼけ振りは笑えた。



 舞台の演出家で映画監督の飯塚健も才能豊か。
脚色し編集もしたこの「笑う招き猫」には驚いた。
これまでの「荒川アンダーザブリッジ」や「大人ドロップ」などの作品も好きだが、それらを超えて新境地を開いている。

漫才コンビを演じる二人の女優がお笑い芸人そっちのけで上手く間もテンポも完璧で2時間を超える作品を全く飽きさせない。
「出会ってから8年、コンビを組んで6年のアカコとヒトミ、夢はでっかく武道館をお笑いで満員にすること」との挨拶もトントンと心に届く。
 
茶髪の松井玲奈と漆黒髪のボブカットの清水富美加はTVを見ない僕には初めての顔だが、唯清水が「幸福の科学」に入信したことはどういう訳か知っていた。こんな将来性のある若い(25才)芸人が活動をやめてしまうのは勿体ないが、宗教の力は大きいんだ。これが清水の最後の作品になる。


 お笑いの世界を駆け上る悲喜劇ドラマは芥川賞の又吉直樹「火花」がNetFlixが昨年10話にわけて放映したのを見た。1話40分程度で10話もあり原作自体が短いのでお笑いのネタ仕込みの増量剤をいれまくってもスカスカの内容だった。
俳優も林遣郎と浪岡一喜じゃ格落ちだし、監督も2-3人で分けて演出するので一貫してないし熱も籠らない。
1年半前にいきなり日本上陸の黒船、NetFlixが金に糸目をつけずにショウケースとして作った映画だけに残念だ。

 男のコンビと女漫才師の違いがあるものの、出来から言ったら天と地の差がある。
 飯塚健の才能と松井玲奈と清水富美加の演技力に負うところ大だ。

小説すばる新人賞を受賞した山本幸久の作家デビューの同名小説を映画化。

シーンはフラッシュバックを多用し過去に屡々戻る。
この映画に欠点があるとすれば回想シーンが多過ぎて何かとペシミスティックに陥ることだ。それにスタイリッシュな文体に拘り過ぎてやたらと暗転する。手持ちカメラも悪く無いが落ち着かない。

 大学時代に出会い、結成5年目の売れない女漫才師「アカコとヒトミ」。短髪で突っ込み高城ヒトミと金髪でボケ担当本田アカコは、小さな劇場で常連客相手に漫才を披露する冴えない毎日を送っていた。
彼氏もお金もない2人はそれでも笑いが欲しくて漫才師を頑張っていた。

 お笑いの世界でのし上がっていくのはビジネスで億万長者を目指すように厳しい。
ある日、いつも2人がネタ合わせをしている河川敷でヒトミの自転車を盗もうとする中学生を捕まえた一件から、2人にチャンスが舞い込むようになる。TVバラエティ番組に初出演、明るい未来が垣間見えてきた。

これでようやく、漫才師としてようやく売れる兆しが見えた2人だったが、とある事件をきっかけに「アカコとヒトミ」は過去の売れない時代に戻り、未来はますますわからなくなってしまう。

女漫才師の周りで活躍する脇役のエピソードが面白い。
アカコとヒトミが所属する芸能事務所のマネージャー、永吉(角田晃広)は辣腕で義理も人情も備わりこの世界で生き抜く才覚を二人に授ける。
所属する芸能事務所社長、岩倉(岩松了)は度量が広く、二人を何としても売り出したいと考える。
大黒柱の永吉の父親が倒れ故郷で農業を引き継ぐための事務所を辞めた時は二人以上にパニックに襲われる。

アカコとヒトミの大学時代の先輩、和田(浜野謙太)が可笑しい。学生時代は男気一本、左肩から腕にかけて刺青をしていたが、就職して大人しくなり年下の同僚から無能呼ばわりされているが、二人と呑んでいて昔の意地が蘇えり大暴れする。

その他のキャストに落合モトキ、荒井敦史、前野朋哉、菅原大吉、戸田恵子らとベテラン揃い。

4月29日より新宿武蔵野館にて公開される。
こんなちっこい劇場でかける作品ではない。

「おじいちゃんはデブゴン」(My Bodyguard)(中国・香港映画):中央警衛団の要職を引退し故郷に帰ったディンは少々ボケて来たが誘拐された隣家の少女を救おうと地元やロシアのマフィアと戦う

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地方の武術大会で優勝したディン(サモ・ハン・キンポー)は招聘を受け「中央警衛団」で要人保護の任務に長年ついていた。「中央警衛団」は、中共中央弁公庁警衛局に所属しその指揮を受ける。中共中央弁公庁内の任務は、警衛局長が兼任する。

要するに主人公ディンはアメリカのSEALSやCIAのような特殊部隊の精鋭だった。
ハリウッド映画にはこの手のパターンの作品が多い。特殊部隊やスパイを引退し殺人テクニックに長けた主人公がやむにやまれぬ事情で敵対する敵と対決しなくてはならなくなる。

「ボーン・アイデンティティ」や「ミッション・インポシブル」「ランボー」など元XXXが大活躍する。特に「96時間」や「ジョン・ウィック」シリーズなどは身内(子犬)の拉致、誘拐、殺人への報復する。
拳法の達人で中央警衛団のディン(サモ・ハン)は、現役時代に娘夫婦から預かった孫娘をちょっと家を空けた隙に誘拐され現在も行方不明だと言う過去のトラウマを抱えている。

 少しボケも始まったので66歳で引退してスモッグに悩まされる北京からロシア国境に近い、故郷でもある中国最北東部の綏鎮市に帰って来て一人暮らしを始める。
単なる武術家のボケ老人と言うので説得力が無い。

 観客は73年のブルース・リー主演の「燃えよドラゴン」で24歳の若いデブがリーと戦うシーンを覚えている。それから始まる「燃えよデブコン」シリーズ。ユーモラスなデブが強い強い。日本未公開も含めて10本以上は制作された筈だ。
61年に映画入りして56年、67歳のサモ・ハンは日本では「デブゴン」としてファンも多いが、しばらくご無沙汰している。最後のシリーズ作品が90年代の初めの30年以上前だから若い人たちはDVDかTVでしか知らない。

 それが67歳でデブゴンが戻って来るとはリアルタイムでサモ・ハンを追っていた僕は感謝、感激だ。
懐かしい故郷、綏鎮市での一人暮らしは快適だった。だがどうも物忘れがひどくなり医師には認知症の初期症状だと診断される。

  一人暮らしのディンが一人心を許すのは麟家に住む少女チュンファ(ジャクリーン・チャン)だけ。娘と断絶している原因となった行方不明の孫娘に似ているからだ。勿論10数年の歳月が経っていて別人だが。
チュンファの父親、レイ・ジンガウ(アンデイ・ガウ)は大工だが真面目に働かずギャンブルに溺れ中国人マフィア、チョイ(フォン・ジャーイー)に多額の借金をしている。

 長年サモ・ハンと友情を育み映画を撮って来たアンディ・ラウはこの映画のプロデューサーでありチュンファのダメ父親役で登場する。若いと思っていたラウも55歳、それでもサモ・ハンと一回り違う。
チュンファは父親と喧嘩をする度にディンの家へ泣きながら転がり込む。

チョイはジンガウに借金の返済を待ってやるからウラジオストックへ行き、ロシアン・マフィアの宝石や現金を奪って来いと命令する。国境を挟んで綏鎮市とウラジオストックは自動車で2時間足らずの距離。

 ジンガウはまんまと宝石現金入りのボストンバックを盗み出すが、チョンに渡さず、持ち逃げしてチュンファと一緒に街を出ようとする。当然ジンガウの動きを見張っていたチョイはチュンファを誘拐して人質にとり、バッグを返せとジンガウに迫り、抵抗する彼を刺し殺す。ロシアン・マフィアも宝石現金を盗られて黙っていない。チャン一味に襲い掛かる。

 一方ユンファを探し求めるディンはチャンのアジトのビリヤード場のある賭博場へ乗り込む。昔取った杵柄、必殺殺法を用いてチョンの部下たちの手足を折り全滅させるが、そこへロシアン。マフィアの殴り込み。必殺カンフーは延々と発揮される。

老齢で昔変わらぬデブ大男は飛んだり跳ねたりは出来ない。ナイフや小刀、清流刀などを鼻先など1センチ位の差を空けてやり過ごす運動神経の素晴らしさ。
いつも思うのだがカンフーでの殴る蹴るもコリオグラファ-指導の下美しいがナイフも清龍刀もマドロッコしい。拳銃を取り出し一発ドンとやれば解決するんじゃないの?サモ・ハンはアクション監督も務め、
 ジンガウ役ばかりか親友、アンディ・ラウは製作、主題歌も担当している。
何れにしてもサモ・ハンの久しぶりの必殺拳でスカッとする。B級映画でもオールドファンには大満足の作品だ。

サモ・ハンの監督復帰を祝して、ユン・ピョウ、ツイ・ハークら香港映画界のレジェンドたちが多数友情出演しているのも嬉しい。

5月27日より新宿武蔵野館にて公開される。

「いぬむこ入り」(日本映画):家伝の犬婿伝説の宝物を追って南の小島を目指すアラフォーの女教師、二宮梓

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上映時間・245分、4時間を超える長尺でトイレタイム10分をいれて上下2編ずつ4部構成で、これはもう体力勝負だ。

 ダメダメな東京のアラフォーで小学校教師をつとめる二宮梓(あずさ)(有森也美)には、自分の家に先祖代々伝わる物語があった。

アラフォーが強調されるが有森は49歳、アラフィフだぜ。

その物語は影絵と人形で簡潔に纏められている。
敵の大軍に包囲され敗色濃い城主が敵大将の首を獲れば大軍はバラバラになると家臣たちに討ちとれと命令する。素直に聞いて首を落とした城の番犬が約束通りお姫様と結婚させて貰うが、城から追い出されるという不思議な犬婿伝説だった。

ある日、梓は学校で悪意の生徒たちのPTAとの間で問題を起こし、長年つきあっていたフィアンセには別の18歳の恋人が居ることが分かりあっさり振られる別れる、大喧嘩になって、警察沙汰になる。

何もかもうまくいかない梓が落ち込んでフラフラと街に出たとき、空からお告げの声が聞こえる。「イモレ島へ行け。そこには、おまえが本当に望んでいる宝物がある」と神のお告げがある。

小学校教師の職などすべてを捨てて宝探しの旅に出る梓の行く先には たいへんな苦難が待ち受けていて、それが家に代々伝わる伝説と関係があることが少しずつわかってくる。

 旅は日本を南下し沖縄群島の外れの小島、沖之大島に辿り着く。
旅に出て出会う素っ頓狂な人物たち。オフビートな詐欺師アキラ(武藤昭兵)に荷物と財布を奪われ、中指がペニスの変態男に弄ばれ、沖縄三線やのお爺、奥本(柄本明)は口もきかない。

それでも三線の練習に励んでいると島の全貌が明らかになる。島の市長、鈴木海老蔵(ベンガル)は腐敗して賄賂を撮りまくっている。
そこで怒り狂うゴロツキ革命家で共産党の沢村芳蔵(石橋蓮司)に担ぎ上げられ市長の対立候補に、激しい選挙戦が展開される。

 この2章が世俗的で一番分かり易い。

3章でもイモレ島に暴風雨に襲われて届かず、無人島へ打ち上げられると、亡命王子と称する翔太(山根和馬)に介抱される。

梓にとっては突如犬に変身する亡命王子とはロマンティックな雰囲気で恋に陥る。
黒犬の顔をした王子と激しいセックスはこの映画の一番の見せ場。胸はペッタンコだがスリムで白い全裸に野獣が襲い掛かるシーンはエロ満点。犬の仮面も怖ろしく迫力がある。

かつてのアイドル、有川也美も49歳の老骨に鞭打って下着を剥ぎ取り全裸になって抱き合い、声をだして喘ぎ上に下にセックスポジションを変えて頑張る。
この「犬男」との過激なラブシーンが一番盛り上がる、それに放尿シーン、と有森はすべてをさらけ出す熱演だ。

幸せの日も長続きしない。突如舟を漕いで島へ上陸してきたキツイ顔の花子(韓英恵=片嶋監督令夫人)が自分は王子のフィアンセだと梓に殴りかかる。男を巡る女の争い。
しかし王子はSM趣味でS女の花子と寄りを戻す。

諦めた梓は本来のイモレ島を目指し宝さがしを始める。
どこか狂った連中との出会いと別れの中に、数々の煩悶と挫折を繰り返しながら、各人固有の情熱と悲哀、そして彼らを取り巻く、社会の抑圧と、繰り返される絶望を目の当たりにして行く。

監督は片嶋一貴。少年少女のいびつな行動を描いた「アジアの純真」で11年のロッテルダム映画祭で話題を呼んだ。「例えば檸檬」(12)や「TAP 完全なる飼育」(13)などの片嶋一貴監督は思い通りの作品に満足している。「エロス表現を極めたいと思いました」と女主人公、梓を痛めつけながら辿り着けない宝物に向かって邁進させて行く。
「ピストルオペラ」や「オペレッタ狸御殿」で組んだ鈴木清順監督の持ち味であるカオスや不条理が全編覆いつくす。

 主人公の小学校教師、梓には「小森生活向上クラブ」などの有森也実、山田洋次監督の「キネマの天地」(86)のヒロイン役はキュートだった。あれから30年も経つんだ。

ペテン師役にはジャズバンド「勝手にしやがれ」のリーダー武藤昭平、
武器商人のレイコは「戦争と一人の女」などの劇団「東京乾電池」の江口のりこ、
レイコとコンビを組むのは変態武器マニア・ユリナ(尚玄)三線弾きの「ハブと拳骨」が良かった。

 イモレ島女王卑弥呼の緑摩子には驚かされる。
あの大きな瞳でスリムな美女が単なるデブの糞婆になっている。

商業的には成功しないだろうが、ジャンル作品として心に残る映画になっている。

5月10日より新宿K’s cinemaにて公開される
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