Quantcast
Channel: 恵介の映画あれこれ
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live

「話す犬を、放す」(日本映画):ようやく映画出演の話が来た売れない女優の母がタイミング悪く認知症を発症してしまう。

$
0
0
「終わりなき道」(REDEMPTION ROAD)(早川書房:2016年8月刊)は600ページになんなんとする大分な警察小説だが片時も読者を飽きさせない。著者ジョン・ハートの腕は大したものだ。50歳の推理作家は「川は静かに流れる」と「ラスト・チャイルド」でアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を連続受賞。
本作で5作目だから外れが無い。

主人公は女刑事エリザベス・ブラックは停職中の身。拉致された少女を救出の際、犯人2人に十八発の弾丸を撃ち込み過剰防衛でバッジを取り上げられたのだ。
舞台はノースカロライナの何処かの街、市街地に10万人、郊外に20万人が暮らすソコソコの規模なところだが、不景気で商店街ではシャッターを下ろす店が目立ち荒れ果てて来ている。

エリザベスの上司だったエイドリアン・ウォールが13年振りに出所する。捜査の過程で知り合った人妻、ジュリアン・ストレンジを殺害した罪だが、出所したとたん、同じような女性殺しが連続して発生する。エイドリアンは無罪だとエリザベスは信じている。誰かに嵌められたのだ。
エイドリアンをつけ狙うのは、服役していた刑務所の所長、エリザベスが救出した少女チャニングやエイドリアンに母親をころされたと信じる少年、ギデオンはエイドリアンを母親の仇と付け狙う。

家族を軸に考えれば推理の枠で物語は進行しない。エイドリアンの出所後似た犯行は誰が犯したのか?更に教会の地下には10数人の女性の遺体が発見される。

凄絶な犯行は誰がいつ犯したものか?
日経の書評で最高の5星が与えられている。


年を取って何が怖いかと言うとガンでもエイズでもない、「認知症」だ。ガンやエイズは痛みや意識があり人間として自覚しているが、まともに見えてまともじゃない「自分で無い自分」を世の中に晒すことになる。
 認知症は8年後の2025年には700万人に達すると言う。
アルツハイマーやボケ対策は真剣に考えなければならない。
 だからこう言う低予算のB級映画も「認知症」をテーマにすると皆関心を持って見る。

43歳にもなって芽の出ない女優、レイコ(つみきみほ)は俳優スクールの講師をしながら70代の母親ユキエ(田島令子)と細々と暮らしている。
レイコのもとに、昔の芝居仲間で売れっ子になった三田大輔(真島秀和)紹介で映画出演の話が舞い込む。天にも昇る気持ちのレイコに母からの電話。

「昔飼っていた犬のチロが時々帰って来て困るのよ」チロはとっくに死んでいる筈。
医師に診て貰うと母は「レピー小体型認知症」を発症して幻想し幻視するのだと言う。
1人にしておくわけには行かず母を連れて山本監督(木乃江祐希)の面接に臨む。山本監督自身子供を産んだ直後で「子どもを言い訳にしたら負けだと思う」の言葉に励まされ、レイコは映画出演と母の介護を両立させようと決意する。

しかし母の認知症は予測を超えた騒動を巻き起こす。ショッピンセンターでスニカ―を買いに行き事件を起こしリハーサル中に警備員から通報があったり、母の発作で巻き起こされる事件でレイコは映画に集中できず監督やスタッフが止めるのも聞かずスタジオを飛び出す。

チロは死んではいなかった。浮気をしていた父親と仲の良かったチロを母親は捨てたことが明らかになる。単に痴呆症と思われた言動の中に真実が隠されており、家庭内の秘密を解き明かすプロットも単純ではない。

つみきみほも「桜の園」(90)でブレイクしたが今では46歳と役柄相応の年齢で、昔売れた女優で久々の映画出演に張り切っている役柄相応dだ。

母親ユキエの田島令子は68歳。昔は連続TVドラマの花だったが、この役柄も年相応。

 一番若い監督の木乃江祐希は30歳だが母や祖母のようなつみきや田島を見事に演技指導をして映画をしっかりと作っている。

 第13回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016のオープニング作品として上映された本作は、若手監督に長編映画制作のチャンスを与える同映画祭のプロジェクトによって製作された。それで陽の目を見たラッキーな作品だ

 3月11日より有楽町スバル座にて公開される

「ムーンライト」(MOONLIGHT)(アメリカ映画): 南マイアミの貧困地域で暮らす内気な黒人少年シャロンは、学校ではLittle「チビ」と呼ばれいじめられている

$
0
0
マイアミを舞台に、自分の居場所と自身のアイデンティティを模索する黒人少年の成長を、10歳の小学生時代、ティーンエイジャー期、30代前半の成人期と16年に亘り、3つの時代構成で同性愛少年の大人へのトランジットを描く。

タレル・アルビン・マクラニーの小品の舞台劇「In Moonlight Black Boys Look Blue」(月の光の下では黒人少年たちは蒼く見える)を基に映画化されている。    タイトルの「ムーンライト」は、鮮やかな太陽光ではなく、月の明かりの下ではシャロンの黒い肌がブルーに見えることから付けられた。

来月末に発表される第89回アカデミー賞の作品、助演男優&女優、脚色など8部門にノミネートされている話題作でもある。

南マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロン(アシュトン・サンダース)は、学校ではLittle「チビ」と呼ばれいじめられているが、唯一同情し仲良くしてくれる男友達はケビン(ジャハール・ジェローム)だけ。

家庭では看護婦の資格(Registered Nurse)を有しながら真面目に働かず麻薬に溺れ売春をしながら薬代を稼ぐ、母親ポーラ(ナオミ・ハリス)からは育児放棄されていて、コンビニでジャンクフードを買い漁っていた。
 
 痩せぎすで真っ黒なサンダースは見るからに内気で人目をはばかる演技は新人ながら堂に入っている。
いじめっ子の大柄のレゲエと呼ばれるガキ大将とその仲間4人から逃れるように帰宅の道を急ぐのだがいつも捕まって苛めの暴力を浴びる。

 母親役のハリスは「007」シリーズに2本(12)(15)に立て続けに重要な脇役で顔を見せているから、無名の出演者ばかりのキャストでは唯一馴染みがある。黒いが小さな整った容姿で印象に残る美女だ。それでももう40歳になる。
 
中学生になってもシャロン(アレックス・ヒバートに代わっている)は苛められ続け、学友たちに襲われ逃げ込んだドラッグ密売地区で、シャロンを庇い優しく接してくれたのは、近所に住む麻薬ディーラーのファン(マハーシャラ・アリ)とテレサ(ジャネール・モネイ)夫妻だった。

ファンとテレサはどういう訳かシャロンを自分の息子のように可愛がる。
父親はいないし母親がジャンキーのシャロンは二人を両親のように想い懐き食事をジャンクフードを止めてテレサの手料理を腹いっぱい食べる。

色んなことを夫妻に相談する。
「Faggot」と苛めっ子たちに言われたがその意味は?
ゲイやホモを軽蔑する汚い言葉だがファンは傷つけないように説明する。

もっとドキッとすることを聞く。
「僕はFagなの?」
「シャロンは幾つだ?」
「10歳」
「それなら未だ分からない.大人になったら分かるから」

いかつい髭面で巨漢の優しいディーラー役のファン、マハーシャラ・アリはオスカーの助演男優賞の有力候補に挙がっている。

やがてシャロンは、ケビンに対して友情以上の思いを抱くようになる。互いに触りフェラをするシーンは一回だけだが、厭らしさはまるでない。パピーラブだ。
しかしシャロンは自分が暮らすコミュニティではこの感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、ケビン以外の誰にも思いを打ち明けられずにいた。

そんな中、苛め抜かれていたシャロンの癇癪玉が破裂しガキ大将のレゲエの頭を椅子で殴りつけ駆けつけた警官に逮捕され、そのままジョージア州アトランタの少年院に強制収容されてしまう。

少年院の仲間からドラッグ商売を教えられ出所したシャロンはアトランタで一端の売人のボスになっている。

懐かしがったケビンが10数年振りの電話で故郷に戻ったシャロンは介護を必要とする母親やフレンチレストラン(らしきもの)を経営するケビンに出会い少年時代を回顧する。
「アメリカン・グラフィティ」のゲイ黒人版のような印象が残る。カメラは手持ちで

母親ポーラ役に「007」シリーズや「マンデラ 自由への長い道」などのナオミ・ハリス。
麻薬ディーラーのファン役にテレビドラマで活躍している(と聞く)マハーシャラ・アリ。
大人になったケビンに「グローリー/明日への行進」などのアンドレ・ホランドらが出演。
プロデューサーとしてアカデミー賞受賞作「それでも夜は明ける」も手がけたブラッド・ピットが製作総指揮をとる。

監督は、短編やテレビシリーズを中心に活躍してきたバリー・ジェンキンズでこれが長編2作目となる。37歳の若さで今後の作品に期待したい。
 
ジェームズ・ラクストンの手持ちカメラの撮影はシャロンの周りの人間や地域を上下から前後からと流れるようなカメラワークで劣悪な主人公の環境をスクリーン上で再現して見せる。
黒人LGBT映画は商業的に難しいかもしれないが、見て何かが残るヒューマンドラマとして堪能できる。

4月,TOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「ジャッキー ファーストレディ最後の使命」(Jackie)(アメリカ映画):JFK暗殺から4日後でジャッキーは「100年経っても偉大な大統領として人々の記憶に残る」葬儀に仕立て上げようと決意する

$
0
0
昨日(7日)はキノフィルムズの試写室の柿落し。新宿から本社を移して来たキノフィルムズが、ミッドタウンから道路を挟んで反対側、6階建てのビルの1-3階を占める

63席の赤いシートはリクライニングになり階段式の試写室はスクリーンも見易い。地下鉄六本木駅から徒歩5分で交通の便も良く、六本木通りを挟んでアスミック・エースも近く、3ブロック先にはFOXもあるので六本木界隈は試写室のメッカになりそうだ。

GAGAの依田巽や角川映画の角川歴彦に異分野の映画に強引に引っ張り込まれた木下工務店の木下直哉社長は、やがて映画に興味を抱き積極的に足を踏み入れて来た。

そして2011年4月1日に木下グループの映画製作・配給事業を担当した部門が独立させた形で「キノフィルムズ」を設立、映画制作に資金を出し始める。
2013年には「くちづけ」「箱入り息子の恋」「人類資金」
2014年には「醒めながら見る夢」
2015年には「悼む人」「ジヌよさらば〜かむろば村へ〜」など邦画制作に力をいれてきた。

今年から洋画の提供配給に乗り出してきた。
その第一弾がこの「ジャッキー」だ。

 アメリカでは昨年12月2日にLA、NYの5館で公開され275Kの成績。映画興行的にはあまり成功した映画では無い。

 ヴェネチア国際映画祭では脚本賞やトロント映画祭ではプラットフォーム賞を獲得して関心を集め、
Fox Searchlightが配給権を買い、年の瀬も迫った12月公開したと言うことはアメリカでの賞狙いだ。
果せるかなオスカーでは主演女優賞を含む、3部門でノミネートされている。

 トピクッス的に言うとJFKとジャッキーの長女キャロライン・ケネディがオバマ大統領の任命で駐日アメリカ大使として2013年11月から2017年1月まで東京に滞在しつい先だって帰国したばかりだ。

 1957年の生まれだから、父親が暗殺された時は5歳、何も分からない3歳のJFKジュニアの面倒を見ていた映像も懐かしい。
 キャロラインを演じるのはサニー・ぺラント、ジュニアを演じるのは、双子のエイデンとブロディ・ワインバーグの2人だ。

 映画は重苦しいチェロの低音通奏をバックにジャッキー(ナタリー・ポートマン)のクローズアップから始まる。
 暗赤色のスーツを着て悲痛な面持ちのジャッキーはジャーナリスト(どこの雑誌か新聞か分からない)(ビリー・クランダップ)のインタビューを受け回想に入る。
    
 1963年11月22日、JFKの敵も多いテキサス州ダラスでのパレードの最中、オズワルドに射殺され頭蓋骨が吹っ飛んだ直後、JFKの血しぶきを浴びながらジャッキーは傷口を手で押さえる。如何ともし難く夫は即死するが、映画で展開される実録ドラマはそこまで。
   
 後は型どおりの儀式。遺体を乗せたエアフォースワンでDCへ戻る途中、副大統領のリンドン・B・ジョンソン(ジョン・キャロル・リンチ)の第37代大統領就任の儀式に立ち合い血しぶきで汚れたスーツも
「反ケネディ派がしたことを見せてやる」と気丈に着替えない。

 DCの空港では弟のロバート・ケネディ司法長官(ピーター・サースガード)が待ち構えていてようやくホワイトハウスに戻りシャワーを浴びて落ち着く。5歳のキャロラインとJFKjrには「ダディはもう帰ってこないのよ」と伝えるシーンは心が締め付けられる。
   
 翌日からジャッキーは葬儀の準備に取り掛かる。
周囲からはなるべく地味(low key)にの忠告を無視、就任後2年と10か月で殺されたのでは人々に直ぐ忘れ去られてしまうだろう。

 「JFKを史上最も偉大な大統領として人々の記憶に残る葬儀」にしようと決意する。これが邦題のサブタイトル「最後の使命」なのだ。

 暗殺2年前に放映されたTV番組「JFK夫人の案内するホワイトハウス(Tour of the White House with Mrs. John F. Kennedy)」が挿入される。家具調度品装飾品どれひとつをとってもジャッキーの心の籠ったものだ。
葬儀を前にジョンソンは壁紙をセンスの無い赤い色に変えている。

 有能な秘書のナンシー(グレタ・ガーウィグ)の助けを借りて葬儀の準備は着々と進む。
カトリックの司祭との打ち合わせ、
JFKが観劇したリチャード・バートンのブロードウェイミュージカルから「キャメロット」の主題曲。

 暗殺という悲劇的な最期を迎えたケネディ大統領の葬儀の映像が世界中に流された時、人々は初めて見るジャッキーの姿に驚いた。
「ただケネディの隣にいる美しいだけの平凡な女性」と思われていたが、毅然としたストイックなまでのたたずまいで、二人の幼い子供たちを励ましながら、荘厳な国葬を取り仕切ったのだ。
アーリントン墓地でJrが敬礼する姿は涙を誘った。

 夫の突然の死で人生が一変したわずか3日後に、今も人々の記憶に残る荘厳で医大な葬儀を成し遂げることができたのか?
 映画はジャッキーがケネディと結婚してからの10年間を徹底的にリサーチし、知られざるジャッキーの真実を描く作品だ。

「ジャッキー」の愛称で親しまれた、ジョン・F・ケネディ大統領の妻ジャクリーン・ケネディを演じるのは、アメリカとイスラエルの国籍を持つ女優ナタリー・ポートマン。
イスラエルで生まれたポートマンは、リュック・ベッソン監督による1995年公開の映画「レオン」に12歳でデビューし強烈な印象を与えた。
「ブラック・スワン」(2011)で、白鳥を演じるために精神的に追い詰められていくバレリーナを演じアカデミー主演女優賞を受賞している。2012年には大ヒット作「スターウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」からの新三部作で主人公、クイーン・アミダラ役を演じるなど、35歳の油の乗り切った女優だ。

 ジョン・F・ケネディの弟で後年、大統領選キャンペーン中に兄同様に暗殺された司法長官(当時)、ロバート・F・ケネディを演じるのはアメリカの俳優ピーター・サースガード1996年の「デッドマン・ウォーキング」でデビューし、近年では「ブルージャスミン」(15)「マグニフィセント・セブン」(16)で渋い脇を固めている。

ジャッキーの有能な秘書、ナンシーには「フランシス・ハ」のグレタ・ガーウィグ。

「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督がプロデューサーとして参加し、
チリ代表の参加作品「NO」でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたチリ出身のパブロ・ララインが監督を務めている。スペイン語に代え英語で初めて撮る映画だけに我々もノラライン監督の作品は初めて接する。

 映画自体は良く仕上がっているが、ジャッキーの哲学、執念に終始しているのでドラマの見せ場が少ない。アメリカでの興行結果を見ている限り、アートハウス系の限定公開作品となっている。

 主演女優賞本命と言われるナタリー・ポートマンの熱演を堪能するだけだ。

3月31日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「カフェ・ソサエティ」(CAFÉ SOCIETY)(アメリカ映画):久しぶりに生まれ故郷NYブルックリンを舞台にウディアレン調、満開の作品を堪能する。

$
0
0
ウディ・アレン。1935年12月生まれの81歳。NYブロンクス生まれの小柄な(160cm)ユダヤ人。ユダヤ人を売り物の自虐的作品多数。

スタンダップ・コメディアンから映画の世界に入り、監督、脚本、出演の作品は60本を超える。大ヒットはしないが固定ファンを抱え低予算で赤字が出ない程度で好き勝手な映画を撮る。

 その上、カードマジシャンで映画の中で魔術師を扱う作品が幾つもある。
クラリネットは吹かせれば天下一品。

NY駐在時代に良く通ったのは、近くの「マイケルズ・プレイス」で、月曜は毎週アレンの率いる「Woody Allen and his New Orleans Jazz Band」のギグがあった。
ハリウッドで開かれるアカデミー賞を含む様々な賞の授与式は欠席しても演奏を続けていた。

 NYを離れロスアンジェルスへ行くのも嫌だった(「アニーホール」や「マンハッタン」)のにアメリカに嫌気をさし(「さよならさよならハリウッド」)ヨーロッパで映画制作を始める。

ロンドン、バルセルナ、ローマ、パリなど欧州に居つづけた。
パリを舞台にロストジェネレーション時代にタイムトラベルする「ブルージャスミン」の大ヒットをお土産に、コートダジュール(「マジック・イン・ムーンライト)を経てようやくアメリカへ戻って来る。

だが東部ボストンで寄り道をした完全犯罪の「教授のおかしな妄想殺人」を経なければシャイでトラウマに悩むウディ・アレンは、生まれ育ち、映画の原点であるNYブロンクスへ戻れない

そして遂にブロンクスを舞台のこの故郷に14年振りに帰郷する。
生まれ故郷では嬉しくて楽しくてストーリーも大まかで細部には拘らない。
 
だから見る前から僕は夢中になっていた。
「お帰りウディ・アレン!」

前半の舞台は1930年代末のハリウッド。業界に君臨していたタレント紹介業の大物フィル・スターン(スティーブ・カレル)はパーティーに出席中、ニューヨークに住む姉からの電話を受け取る。彼女の息子、フィルの甥であるボビー・ドーフマン(ジェシー・アイゼンバーグ)がハリウッドに憧れその業界で仕事をしたいと決めたので面倒を見てくれと。

今は多忙だから3週間後にフィルはボビーに会う約束をし、フィルは秘書のヴェロニカ、通称「ヴォニー」(クリステン・スチュワート)に、どうせ使い物にならない甥っ子と観光地を案内させる。ボビーは一目ぼれ美人のヴォニーと恋に落ちる。

そして時代の象徴とも言える映画スターや著名人が集まるきらびやかな上流階級社会「カフェ・ソサエティ」の熱狂の中でヴォニーは女神だった。

だがヴォニーは独身に見えるが自分にはジャーナリストの彼氏がいて、いつも旅ばかりしているのだと諦めさせようとする。
聞くところによるとヴォニーの恋人は妻帯者だ。
諦めて僕と一緒になろうとボビーは猛烈に口説き、ヴォニーもその気になるが、恋人、実はフィル叔父さんは離婚してヴォニーと結婚、ボビーは心を残してNYブロンクスへ戻って来る。

 後半のブロンクスでのボビーこそウディ・アレンの描きたかった世界だ。

 ギャングの兄ベン(コリー・ストール)の経営するナイトクラブ「レ・トロピック」で支配人として働き始めるとまるで水を得た魚。
バンドの生演奏を入れお客への気配りも万全を期し地元の名士や有名人を引き寄せ大盛況。ボビーの主宰する「カフェ・ソサエティ」もブロンクスで満開の花を咲かせる。

 そんな時、客として来店したゴージャスな美女、ヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)に惹かれる。ヴェロニカも愛称(ボビーがつける)ヴォニーだ。
ハリウッドに心を残してきたヴォニーと同じ誼(よしみ)だ。
ハリウッドのヴォニーはブロンド、ブルックリンのヴォニーはブルネット。
どちらも妖艶で魅力一杯の女神だ。

 ボビーは彼女を忽ちユダヤ教に改宗させラーバイの下で式を挙げる。初めての子供を授かり人生欠けることのない月のように円満で順調だった。

 だがそこへNYで仕事があると、叔父フィルがヴォニーを連れてやって来る。動揺するボビー、ヴォニーの気持ちも変わっていない。セントラルパークを馬車でランデブー、バックに流れる曲は「マンハッタン」。

 結ばれることは無いだろうが夢を見るようなボビーとヴォニーのクローズアップはそのままエンディングにフェイドインする。
ロマンティックな画面にうっとりするが、もう一面の家族想いの兄のベンのエピソードが捧腹絶倒。ベンこそアレンの描きたいヒーローだろう。

 ボビーの赤ちゃんが泣きだすので隣に住むエド(エドワード・ハイランド)にラジオの音を小さくしてくれと頼むと、却って大きくする。
ゴミは散らかすし、文句を言うと散弾銃を持ち出しぶっ放す。

 堪り兼ねたボビーの母親がベンに相談すると、
任せておけと子分二人を連れて燐家の扉を蹴破ってベンを拉致し森の中で頭を射ちぬき遺体はコンクリート詰めにしてその上に家を建てる。

 警察はベンの行状を前から内偵していたが状況証拠だけで第一級殺人罪で死刑判決を受ける。

 ここからが笑える。
ベンは獄中でユダヤ教は「未来が無い、キリスト教は復活があって生き帰れる」とあっさりキリスト教に改宗し洗礼を受ける。

 驚き怒るボビー一家が可笑しい。確かにユダヤ教は死後の世界など描いていない。
詩編を暗唱しながら逍遥と電気椅子に座るベンの姿に焦るボビー一家。
ユダヤ教への痛烈な批判皮肉がラマンティックコメディを切り裂く。

 主演はジェシー・アイゼンバーグ。「ローマでアモーレ」でもアレン監督と組んだ。カーリーヘアーで早口のジェシー・アイゼンバーグは2010年の「ソーシャル・ネットワーク」のマーク・ザッカーバーグ役でアカデミー賞にノミネートされた。
如何にもユダヤ人的風貌でアレンの出る幕は無い。
その他「イカとクジラ」「アドベンチャーランドへようこそ」「グランド・イリュージョン」、「ゾンビランド」などにも主演している芸達者の引っ張りだこのスターだ。

 相手役のヒロインはクリステン・スチュワート、大人気ヴァンパイア映画「トワイライト・サーガ」(10)のイザベラ・スワン、通称ベラで大ブレイクした。他にデヴィッド・フィンチャー監督の「パニック・ルーム」(02)でジョディ・フォスターと共演している。

 もう一人のヴォニーはTVドラマ「ゴシップガール」のブレイク・ライブリー。
女優陣が着こなすシャネルなどの華やかな衣装もこの映画の魅力の一つ。

 ハリウッドを牛耳るフィル叔父さん役のスティーブ・カレルはベネット・ミラー監督の「フォックスキャッチャー」(15)では実在の人物ジョン・デュポンでアカデミー主演男優賞にノミネートされたり、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」にも出演している。

 プレスに依れば「カフェ・ソサエティ」は1915年にモーリー・ヘンリー・ビード・ポールが作ったフレーズで、ニューヨークやパリ、ロンドンのカフェやレストランでパーティーを行い、人々と交流し、人目を引くような「美しい人々」のことを表現しているという。

 クレジットには出ないがウディ・アレン監督が自らナレーションを務める。声だけでもうれしい。
これは「ラジオ・デイズ」(87)以来初めてのことだ。

ウディ・アレンファンには楽しい映画で堪能するが、一般映画ファンには不条理ばかりでシラけるかもしれない。特にユダヤ教徒とキリスト教徒のエピソードは日本人には馴染めないが、低予算で作っており足は出さない。

 ブルックリンに里帰りのウディ・アレン、お帰りなさい!と僕にとっては大感激の作品だ。

4月末GWよりTOHOシネマズみゆき座他で公開される。

「ねこあつめの家」(日本映画):新人賞で華やかなデビューを飾った小説家、佐々木勝はスランプで一行も書けなくなる。

$
0
0
猫と犬が好きで絶やしたことが無い僕はタイトルに惹かれて試写初日に六本木のアスミック・エースの試写室に駆けつけた。
出るは出るは10匹ちかくの猫ちゃんたちの登場だ。
じゃれるのが好きな仔猫で種類は三毛や茶虎などの日本猫が殆どだが、スコティッシュ・ホールドなども二匹いる。
動物タレント事務所で慣らしたニャンコばかりで芸歴欄に「世界から猫が消えたら」とか「最悪の離婚」とかTVドラマ、ダイハツなどのCMと華やかで「素人猫」は一匹も居ない。
我が家にいた(もう死んじゃったが)シャムやヒマラヤン、アメリカン・ショートなどは出て来ない。庶民的な猫ばかりだ。

僕は良く知らないのだけど、庭先に訪れる猫たちをながめて楽しむ大人気のスマートフォン向けゲームアプリはCNNでも放映され日本のみならず世界に知れた優れものだと言う。累計ダウンロード数1900万を突破したアプリ「ねこあつめ」を原案にフィクションにし実写映画化したものだ。
若くして新人賞を受賞し、一躍人気作家となったものの、佐久本勝(伊藤淳史)はその後はまるで書けない。現在、雑誌に連載中の青春小説は単なるボーイ・ミーツ・ガールで面白くも何とも無い。担当の編集者、ミチル(忽那汐里)から締め切りになり原稿を求められるが一行も書けない。2回休載をしてしまう。

切羽詰まって街で老婆の占い師に聞くと一言「タコ」と。本物の占い師が老婆に頼まれて「タコ焼き」を買いに行った椅子にボケ老婆が座っていた。

佐久本は「タコ」を調べてて千葉県香取郡多古町を探し当てる。
僕はこの町のことを美味しい「多古米」で知った。東京などへは出荷されないが成田空港近く、例えば日航成田ホテルなどの和食はこの多古米で炊き上げたばかりのしっくりとする味わいは何とも言えない。
人口は1万5千人ほどの過疎の町で藁ぶきの大きな農家の空き家が沢山ある。おかしな不動産屋のおばさん(大久保佳代子)の案内で安い家賃で静かな環境の大きな農家に引っ越して来る。暮らしは変わらず、生活は下降線をたどる一方だった。

編集会議では編集長(田口トモロヲ)は下ろせと言う。あと一回だけ連載の結末編だけを載せて欲しいと懇願したミチルは同僚の編集者と相談して純情な主人公が突然「ゾンビ」になると言う奇案を持ち込む。

内気でシャイで純情な伊藤は佐久本役にピッタリ。子役で「チビノリダー」からそのまま「電車男」なり33歳にもなるが幼く見える伊藤淳史は大きな黒淵眼鏡の陰でオタオタするばかり。

熱血編集者ミチルの爽やかで早口な熱弁に抵抗しようがない。オーストラリア生まれの24歳、忽那汐里は相応しい役だ。おまけに後半出来ちゃった婚で子供を産むが、実生活でも出産で大学を中退しているのは本を書くときに宛書したのだろうか。

若い役者の中でベテラン、田口トモロヲの存在で画面が引き締まる。相変わらず美声だ。

純情主人公がゾンビに変化する案は更に佐久本を混乱させ、途方に暮れ、縁側でボーっと庭をながめる目の前に1匹の猫がふらりとやって来る。ミチルはコンパクトで光のボールを作ると猫はそれを追いかける。いつの間にか2匹に増え3匹になってじゃれまわる。

小説そっちのけで猫の飼育に夢中になる。ペット食、玩具などを町のペットショップで買い漁る。興味を持ったのはペットショップのオーナー、寺内(木村多江)から色々と教わり、一角の猫学者になって行く。

店主、寺内が不思議な人物。佐久本の処女作を読んでいて佐久本が猫好きだと最初の1ページに書いてあると言う。改めて本人が読み直して見るとなるほどその通り。「寝る子は育つ」で良く寝ている子どもの佐久本の目の前に黒猫が現れる。

しかし過疎の多古町にこんな立派なペット専門店があるとは思えない。中年とは言え妖艶な店主もミステリーだ。まあフィクション映画だから良いか。

連載がストップしギャラが入らなくなり不動産屋から家賃滞納を知らされる。寺内はペットショップのアルバイトをしないかと誘い、給与でようやく家賃が払える。
またしても過疎町で客も滅多に居ないペットショップにそんな余裕があるかい?

しかし最終章では主人公がゾンビになって「愛の告白」で小説は感動的な結末になる。
 続いての書き下ろし長編小説の原稿も仕上がり、赤ん坊を産んだばかりの産院のミチルの下へ送られて来る、と言うから能天気でご都合主義も良いところ。

 しかし瑕疵や欠点は総て、可愛い猫がカバーしてくれる。
良い映画だね。

監督はピンク映画出身で「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」でデビューした蔵方政俊。
助監督時代が長く、映画を良く知っている着実な演出だ。

4月8日より新宿武蔵野館他で公開される。

「ろくでなし」(日本映画):渋谷の街にはびこる「ろくでなし」たちの生き様を鋭く描く奥田監督独特のシャープな切れ味

$
0
0
奥田庸介は特異な監督で、24歳の若さで商業映画デビューの「東京プレイボーイクラブ」(11)次いでクラウドファンディングで自主制作の「クズとブスとゲス」(15)と何れも暴力絡みでタフな裏社会の青春を描い2作品しか撮っていない。自分の美学で気に入った作品しか撮らない我が儘な映画作家だ。

「クズ~」では監督ばかりか、スキンヘッド、ピアスだらけでのワルを主演している。
奥田の映画は僕の好みだが、久しぶりのこの映画は前作品より大衆受けする感情移入が出来て今までで一番興行的に行けるのではないか。

冒頭、夜の渋谷の喧騒をバックにヨハン・パッヘルベルの「CANON IN D」の静かで美しいピアノ曲が流れる。
タイトルが出て一転、ダンスホールのシーンでヒップホップの激しいリズムに踊り狂う若者たち。

主人公の一真(大西信満)はホームレス、流れ着いた渋谷の街で優子(遠藤祐美)に出会う。一方的に運命を感じ一目惚れした一真は、優子の勤めるナイトクラブに跡を付けて入り、そこで優子に付きまとう男たちを叩きのめす。

クラブ・オーナーの遠山(大和田獏)は店で暴れグラスや什器を壊した一真を、用心棒のひろし(渋川清彦)たちに取り押えさせての店長室へ連れ込む。
暴力を振るった右手をハンマーで叩きつぶすと宣言して,
シーンが変わると一馬は剛腕を買われて用心棒として採用されている。
奥田の手法では説明抜きでいきなり場面がガラリと変わることが多い。

ある夜、一真は優子にまとわり付くストーカー(茶髪の気持ち悪い男)を追い払う、ナイフで切りつけた茶髪をかわし階段から蹴落とす。軽傷で腕から血が出ている一馬を優子は部屋に入れて包帯を巻き、二人の距離は一気に縮まる。

寡黙で不器用な一真の態度に、自分に向けられた想いを知った優子は次第に心を許し始めていく。

一方で裏社会を飄々と生きるひろしは、舎弟の由紀夫(毎熊克哉)と久作(ヨウジヤマダ)を引き連れ、遠山の裏のドラッグの仕事を手伝いながら、プライベートでは優子の妹である女子校生の幸子(上原実矩)と付き合っている。
JKの制服で付きまとわれて辟易とするひろしが可笑しい。

渋川は相変わらず不良役は上手い。
口髭も似合うし腕っぷしも強い。半グレの勤め人を拉致し財布の中身を抜き取りキャッシュカードの暗証番号聞き出すシーンが冒頭にある。
ビルの屋上から逆さ吊りにされたら堪らない。

そんなひろしだが、突然現れた一真と行動を共にするうち、少年院に収監された経験も共有し次第に一真にバディとして友情を感じ始める。

一緒に遠山のお供をして兄貴分宅を訪れ際、借金返済を口汚くののしられた遠山は灰皿で兄貴分を殴り殺すのを目撃している。
 死体からハラワタを切り取る遠山は冷徹だ。
海に沈めてハラワタが腐り始めると遺体が浮いて来るからだと言う。

 こんな凄絶なシーンをサラリと描く奥田監督もクールだ。

 そんな頃、ひろしは大きな腫瘍が見つかり医師から悪性だと余命幾ばくも無いと宣告され、
自由気ままの生活態度も振り返り、今後の身の振り方を考えるようになる。

 事件が起こる。
ある日、優子の父親が死ぬ。
ぐうたらで何の役にもたたない父親が死んでも姉妹は何とも感じないが、
驚いたことに税務署からの督促状やマチ金からの督促で多額の借金を残していたことが分かる。

 1人暮らしの優子は残された認知症の祖母と、これまで家族を支えてきた高校生の幸子を面倒見なければならない。

 金銭的に追い込まれていく優子に、クラブオーナーの遠山が不気味な笑みを浮かべて近づく。
「悲しいのが気持ちいいんだろ?ほかに金稼ぐ方法ある」
遠山に連れられて小部屋に入った優子を下着姿にさせバレリーナ―のコスチュームを着せ魔手を延ばそうとした瞬間、一馬が飛び込んで優子を拉致する。

「私が好きならお金を頂戴!」優子の事情を知った一真は、オープン前のクラブに乗り込み金庫を鉄棒で開けようとするところへ遠山が入って来る。

 66歳と年だけは取っているが大根役者の大和田獏もワルのクラブオーナー役を不気味に演じて迫力がある。

「金はそんな所にねえよ」一馬襲撃を予知していた遠山は準備万端待ち受けていた。
クライマックスは銃撃戦を交えて修羅場となる。一馬とひろしのバディが土壇場でどんでん返しの反撃。

 寡黙で純粋な一馬役を「赤目四十八滝心中未遂」(03)の主演で鮮烈なデビューを飾り「さよなら渓谷」「キャタピラー」などの好演で地味だが地位を築いた大西信満、

 モデルから「ポルノスター」(98)でデビューし「盆の弟」や「下衆の愛」など多くの監督からお呼びのかかる渋川清彦がバディのひろし役を務める。

 ヒロインの優子役の遠藤祐美は初めて見る女優だが、モデル上がりの美人。クールで総てを取り仕切ろうと強い女性役を好演。

 各人の想いや願いが絡まり合い、隘路に追い込められた「ろくでなし」たちが暴走していく。
奥田のオリジナル脚本で都会の喧騒を生抜く登場人物たちの心の闇を描く。

 エンディングもヨハン・パッヘルベルの美しいピアノ曲が穢れた大都会のろくでなしたちの残した汚辱をクリーニングしている。
この調子で行けば、奥田の次作も期待できる。

 4月15日より新宿K’s cinema他で公開される。

「バーフバリ 伝説誕生」(Baahubali:The Beginning)(インド映画):50億円の巨費を投じた時代劇アクション映画はインド映画の枠を超えて世界を席巻してヒットしている

$
0
0
インド映画はどうも日本人に馴染めない。肌色が半黒に違和感があるが、女性は彫りが深くて大きな瞳で美人だが、男性はいかつい顔で大魔神のような大柄な体つきでとっつきにくい。
それに何よりも太鼓を叩いて物語の進行を歌いだしどこから集まった群衆がバックで砂ほこりをあげて踊りだす。

1時間半位なら我慢ができるが大抵は2時間半を超える。3時間なんて当たり前で4時間を過ぎても終わらないなんて猛者もいる。

しかし一度だけブームがあった。20年程前に、今は無き渋谷のシネマライズで「ムトゥ 踊るマハラジャ」が大ヒットした。
大地主に仕える主人公と舞台の美人女優との三角関係から主人公の出生の秘密と、美男美女の主人公たちの物語は複雑でミステリーさが単純なインド映画には珍しかった。
3時間近い長さも我慢できた。

 その後も鳴かず飛ばずのインド映画にイギリスのダニー・ボイル監督が「スラムドッグ$ミリオネア 」(08)でインドのスラム街の少年がTVクイズ番組で大金持ちになる話がアカデミー賞を総なめにする大ヒットしたがインド映画はそのまま世界では認められない内弁慶の作品を、毎年ハリウッドを超す2000本近い映画を送り出していた。

 今日紹介する時代劇アクション映画「バーフバリ」がインド国内で歴代最高の興行収入を記録したと言う。世界がインドを見る目が変わって来た。なにしろ3年をかけて制作しエキストラは5000人を超え制作費は50億円とインド映画史上最大の予算を使っている。

 12億の民が住み言語も42もあると言うから夫々の方言で制作していたら大変だ。喋る人が多いタミル語、ヒンディ語、テルグ語の三言語を中心に12言語程で制作されていると言う。この映画はテルグ語映画だ。

 テルグ語映画界の巨匠、S.S.ラージャマウリ監督の「バーフバリ 伝説誕生」は、「ムトゥ 踊るマハラジャ」以降に日本で上映されたインド映画では特異なテイストの作品だ。
ギリシャ・スパルタ少数精鋭軍がペルシャの大軍と死闘を繰り返すハリウッド映画「300 スリーハンドレッド」の趣きがある。

 インドの古代叙事詩「マハーバーラタ」を下敷きにしたインド的なストーリーはスケール感がある。
こういった時代劇大アクション映画は実写ではチャチになる。
ハリウッドのILMに劣らぬ見事なCGやSFX,VFXを駆使した大画面で描かれていて迫力は満点。インドのVFX技術も大したものだ。

 ストーリーは前編と後編に分かれる。
前編は敵に追われた王妃に仕える侍女が赤ん坊を抱いて川へ逃れる。自分は沈んでも水上に伸ばした手のひらに赤子が鳴き声を挙げているシーンは印象的だ。
侍女は見つからなかったが、川の中から救い上げられた男の子シヴ(プラバース)が成長し、滝の上にある土地へ登りたいとの想いを果たして、そこで美しい女戦士アヴァンティカ(タマンナー)と出会う。
 そして暴君バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)が統治する王国に戦士として乗り込むも、自身が同国の王子バーフバリであると知った青年シヴ。肝心なところで前編は終わり、後編のシヴの数奇な運命が待ち遠しい。
ナイアガラの瀧の数倍程水量に打たれながら、何十回と失敗して滝つぼに叩き付けられも物ともせず登り切り、美女アヴァンティを抱きしめるシーンは印象に残る。

 CGは瀧や宮殿や一面に広がる丘陵と森林の雪景色を実写に重ねて壮大な冒険の背景を作り上げる。

 主な登場人物は2人のバーフバリのほか、シヴドゥこと息子バーフバリが恋する女戦士アヴァンティカ(タマンナー)、父バーフバリから王国を乗っ取った現国王バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)、その父親(ナーサル)に、国母でもあった亡き母親(ラムヤ・クリシュナ)、囚われの妃(アヌシュカ・シェッティ)、警護隊長(サティヤラージ)など。

 S.S.ラージャマウリ監督はハエに生まれ変わった男が主人公のコメディ「マッキー」やロマンス映画「あなたがいてこそ」などジャンルが違う分野の作品でも大ヒットをとばしている。

主演のブラバースは筋骨隆々の肉体美を誇るイケメン、

敵役の暴君バラーラデーヴァのラーナー・ダッグバーティは如何にも憎々しげな髭面、最初に出て来た時から悪役と分かる

ヒロイン女戦士のタマンナーは美女の上に豊満な胸、露出して直接は見せてくれないがタマンネー。

 後編では、シヴが自分の出生の秘密を知り、自分の父バーフバリ(プラバース二役)とその競争相手(ラーナー・ダッグバティー)との争い、さらには二人を育てた国母とも言うべきシヴァカミ(ラーミヤ・クリシュナン)や、国を守る衛兵隊長カタッパ(サティヤラージ)の過去の話を聞いていく、という構成になっていると言うがプレス情報だけで確認できない。

4月8日(土)より、新宿ピカデリーほかで公開される。

「花戦さ」(日本映画):天下人になった豊臣秀吉の専横・圧制を諫めるに「刃」ではなく「花」を用いる池坊専好

$
0
0
この映画に主演する二世野村 萬斎は1966年(昭和41年)の生まれで50歳。
狂言方和泉流の能楽師だが映画にも随分と顔を出している。古くは85年19歳の時に黒澤明監督の「乱」で 鶴丸 役でデビューしてから、本格的な主演は滝田洋二郎監督の「陰陽師」(01年)「陰陽師II」 (03)の主演・安倍晴明役ですっかりファンになった。

[のぼうの城](12年)の 成田長親(のぼう様)役も、とぼけていて面白かった。
驚くのはシン・ゴジラ(16年)で ゴジラ 役をやったことだ。

 決して美男では無いが表情は能面ではなく豊か。役者そこのけで芝居は上手い。
だから豊臣秀吉に挑戦する茶坊主役、池坊専好役は期待して東映の試写室で最初の上映会に馳せ参じた。
天正年間の1570年。戦乱に荒れ果てた京の都に、花を生けることで世の平穏を祈り、人々に生きる希望を与えんとする「池坊」と呼ばれる僧侶たちがいた。

 織田信長(中井貴一)による天下統一を前に、戦国の世も終わりを告げようとする頃、「池坊」の中でもその生ける花がひときわ異彩を放つ池坊専好(野村萬斎)は、師匠の指示で信長の所望する「大砂物」なる大がかりな生け花を披露するため、岐阜城へと向かう。

 専好の同僚、池坊の弟子たちは短期でな信長の勘気に触れお手打ちにされるのを嫌う。だが信長は松が好き、専好は松を素材とする生け花が得意となれば嫌でも応でも専好しかいなかった。

 京都から岐阜への道中で専好は、千宗易(佐藤浩市)という得たいの知れないが魅力的な男に出会い、信長は登り龍が好きだと教えられる。

 岐阜城大広間で巨大な松を中央に据え「登り竜」になぞらた大砂物は信長の気に入るが、突如目の前でポキリと折れると言う思わぬ失態を招いて信長の怒りを買う。
しかしそのとき、軽妙に事態を取り繕い、専好を救ったのは、信長に仕える「サル」と呼ばれる若き武将、木下藤吉郎(市川猿之助)だった。

 藤吉郎は阿部サダヲかと期待していたらサルには似つかぬ市川猿之助だった。美男過ぎると思ったら名前の「猿之助」の猿を優先したのだろう。

それから12年。信長は本能寺の変によってすでにこの世を去り、天下はかつての木下藤吉郎、豊臣秀吉の手に委ねられていた。

 期せずして昇格して池坊の執行となった専好だが、その立場ゆえに、迷いながらも自らの奔放な「花」を封印して大衆受けする保守的な生け花に終始していた。

 そんなある日、今は豊臣秀吉の茶頭として、利休を名乗る宋易と再会する。
二人はしだいに心を通わせ、いつしか真の友として、互いが目指す「美」の世界を高め合う関係となっていく。ここからは男同志のバディムービーの感がある。

 専好は利休によって、自らが求める「花」の心をようやくつかみ始めるのだった。

 しかしやがて悲劇が訪れる。天下を握ってから人が変わったように驕り高ぶる秀吉に対し、諌めるように自らの茶を貫き通そうとした利休が、その頑なさゆえに、秀吉に命じられ、自害に至ったのだ。

打ちのめされる専好。さらに悲劇は続く。秀吉の乱心は嵩じ、罪もない街の者たちまでが、次々と捕らえられ命を奪われていく。

 そこでついに専好は立ち上がる。
時の最高権力者太閤秀吉に戦いを挑む専好。かけがえのない友、利休の仇討のため、彼が手に取ったのは、「刃」(やいば)ではなく「花」だった。それこそが、専好にしか成しえない「戦さ」であった。
タイトル「花戦さ」の言われだ。

 文禄3年(1594年)、池坊専好が豊臣秀吉に前田利家邸で披露したといわれる「大砂物」(全幅7.2メートル、高さ3.5メートルに及ぶ立花)。
そこから生まれた伝説に着想を得て、新たな物語を作り上げたのが、鬼塚 忠の小説「花いくさ」(2011年発表 KADOKAWA刊)。

 小説で初めて知る、初代・池坊専好という花の名手と千利休の友情。戦国時代において京都の町衆である「六角堂」にいる花僧が、彼らの代表者として、時の権力者である豊臣秀吉の乱心に、刃ではなく、花をもって仇討する。

 花を生けることで、戦乱に生きる人々の心を救う花僧・池坊専好を演じる野村萬斎は撮影前に、華道の指導も受け1つ1つの細かい所作を丁寧に追う。

 専好と対立する天下人・豊臣秀吉には、若いながらも歌舞伎界を代表する市川猿之助。

専好と深い友情と信頼を築き、共に美を追い求めた茶人・千利休には、佐藤浩市。佐藤の芝居は父親の名優三国連太郎を超えるレベルまで来ている。

 織田信長役に中井貴一も凛々しく、前田利家役に佐々木蔵之介はユーモラスでもある。
石田三成に吉田栄作、吉右衛門に高橋克実 専好の弟子、専伯に山内圭哉、同じく専武に和田正人、
れんに森川葵、浄椿尼に竹下景子とオールスター・キャストだ。

 脚本は、「JIN-仁-」「ごちそうさん」「天皇の料理番」など、数々のTVドラマを生んだ森下佳子、映画は少々違和感があるのだろうか。

 篠原哲雄監督は、「月とキャベツ」(96)以来僕はファンだが、きめ細かい描写や情感を盛り立てる演出は優れており、藤沢周平原作の「山桜」や「小川の辺」などの時代劇や最近では佐藤浩市主演の「起終点駅 ターミナル」(15)もよくできていた。

 6月3日より丸の内TOEI他で公開される

「TAP THE LAST SHOW」(日本映画):舞台での大怪我で引退した天才ダンサー渡真二郎は30年振りに劇場のラストショウを演出、自分の夢を若きダンサーに託そうと決意する

$
0
0
「相棒」の映画は全部見ているが、水谷豊の杉下右京なんてキザで思わせぶりでねちっこくてキライだった。
だから監督して主演するこの作品は頭から否定して見始めた

冒頭のオーディションは「コーラスライン」のマイケルダグラスのコピーじゃないか。
反抗しながら見続けていると、30分程過ぎた頃から逆な気持、「おや、これは違うぞ」と言うムードになって来る。

舞台の若い役者たちのタップがタタタ、タタタと本場の響きに引き込まれ始める。

今年のオスカー本命の「LA LA LAND」は1940年―50年代のハリウッド・ミュージカルへのオマージュだが、その中心の踊りはフレッドアステアやジンジャ―ロジャース、ジーンケリーなどのコピーしたタップダンスだ。

今更ヴォーカル無しでタップダンスだけで映画、それも2時間半になんなんとする長尺が持つかとおもったが、踊りと言い夫々のエピソードの構築と言い実にしっかりと出来ている。

それに驚いたことにマスメディア向けの試写では珍しく,映画が終わると拍手が起こった程だ。

プレスによると
この企画が立ち上がったのは、今から遡ること40年前。23歳の水谷 豊が思い描いていたあるストーリーが元になっていると言う。

監督し主役をやりたいが水谷は63歳、今から幾ら練習しても自在に踊れない。そこで役柄を元・天才タップダンサーで、リハーサル中に大きな怪我を患い右足が不自由で杖を突いていて、今は一線を退いている。
しかし舞台への夢絶ちたがく、有望なタップダンサーの若者たちを鍛えてタップの素晴らしい舞台を作り上げたいと「師弟の物語」のコンセプトが生まれる。

渡真二郎(水谷)の回想シーン。
1988年12月24日、東京の劇場「The Tops」の舞台でタップ踊る若い男が宙高く舞い上がるも着地に失敗しドラム缶の下敷きで左足に大けがを負う。

それから30年、引退して振付師で生きているが酒に溺れ自堕落な生活を送っている。
 勿論独り身の負け犬ですな。良くあるパターン。酒はバーボン・ジャックダニエルの黒一筋の拘り。

ある夜、The Topsのオーナー毛利喜一郎(岸辺一徳)が訪ねて来る。近頃は客足が衰え商売も不振、寄る年波にも勝てず劇場をを閉めることにした。そこでラストショウの演出をやって呉れないかと。

互いにタメ口で会話をする昔からの盟友。渡の江戸前の喋りに毛利のねっとりした関西弁が絡んで聞いていて気持ちが良い。

サブプロットが渡と毛利のバディ・ストーリーだ。

オーディションは数百人の腕自慢(否、足自慢)が集まり渡の杖を叩いての指示で懸命に踊り始める。延々としかもテンポが上がる踊りに付いて行けずにしゃがみ込むダンサーは即失格。リハーサルはグループを変え何度も何度も繰り返され10数人に絞られたところに遅れたMAKOTO(清水夏生)が駆けつけリハに加わろうとするが、渡は遅れてくる奴には資格が無いと追い出す。

翌日のリハに潜り込んだMAKOTOは摘み出されるが委細構わず舞台の袖で踊りまくる。毛利がその踊りのダイナミックさに感激し彼を加えろと忠告。けれども渡は拒否。選ばれ踊り続けるグループ全員がへばった後も一人タップを踏むガッツに渡も根負け。

かくして中心ダンサー5人が選ばれる。
建設現場で働くMAKOTO,
夜はホストで有閑マダム相手のRYUICHI(HAMACHI),
厳格な父親が止めるのも聞かず踊り続けるMIKA(太田綾乃)
小太りのYOKO(佐藤瑞季)に自閉症気味のJUN(西川大貴)。
後の数十人はバックダンサーだ。

夫々のダンサーにエピソードが添えられる。
例えばMAKOTOは美容師をして生活を支えてくれる森華(北乃きい)がいる。
子供が出来て身体極まったところに渡が適切な助言をする。

滅多に会えないが母親の松原貞代(前田美波里)は長くTHE TOPSの事務員をしていた。子供が出来て退職して居所がわからなくなったが渡演出の「ラストショウ」の話を聞いて駆けつける。渡と松原、そしてMAKOTOはミステリアスな繋がりがありそうだ。

ホストのRYUICHIはマダムたちが100万単位で切符を買ってくれるがMAKOTOにヒケをとった彼は止めるとまで言い出す。

不愛想で自分勝手なカリスマ・渡眞三郎は一転してメインキャストの5人のケアをするのが微笑ましい。
だが毛利はリハを見ながら静かに息を引き取る。

ラストショウが大成功に終わった後、海岸のベンチで毛利の幻影に親しく優しく語りかける渡に涙する。自分たち二人が垣間見た夢の世界を、若きダンサーたちに託そうと。

ダンスのショウビジネス映画では無い、バディ映画だと主張する所以だ。

水谷は過去に生きる影ある主人公・渡役を熱演するが役者としては当然だが、驚くのは監督としての演出の構成力やキメの細かさ全体の俯瞰図の確かさだ。
総勢300名強の中からオーディションで選ばれた若きダンサーたちは、演技に関してはズブの素人。
本格的なタップダンスを見せることを第一としたので素人の演技指導は大変だったろうと思われる。

現在の日本のタップダンス界を牽引する、振付師のHIDEBOHがダンス監修として参加しているので劇中のダンスは見応えがある。

6月17日より丸の内TOEI他で公開される。

「人生タクシー」(TAXI)(イラン映画):イラン政府とイスラム教が民衆を圧制している実勢がギッシリと詰まった「娯楽作品」

$
0
0
昨年亡くなったアッバス・キアロスタミ監督の愛弟子で56歳のジャファル・パナヒ監督。
95年、34歳の時にデビュー作「白い風船」をカンヌ国際映画祭に出品し、カメラ・ドール(新人賞)を獲得して世界に注目された。

パナヒ作品はイラン社会の実像を描いている事で知られ、国内では上映を禁止されているが、今までに「白い風船」だけが上映許可を得ている。

2回逮捕され、2回目は86日間拘留されたものの、世界中の映画祭や著名なアーティスト及び映画作家達の尽力、そして自身のハンストによって、政府に圧力が掛かり、保釈に至る。

09年の裁判所の最終判決によると、映画製作・脚本執筆・海外旅行・インタビューを20年間禁じられ、違反すれば、6年間の懲役を科される可能性があるにも関わらず、尚も積極的に映画を許可なく製作している。

判決前の作品では、テヘランを舞台に過酷な社会の中で懸命に生きる女性達を描いた「チャドルと生きる」(00年)にヴェネチア国際映画祭金獅子賞、女性のスポーツ観戦は禁じているイスラム教の戒律を破りスタジアムでサッカーの試合を楽しむ少女たち「オフサイド・ガールズ」(06年)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)を立て続けに受賞した、一躍イランの名匠となったジャファル・パナヒ監督。

この作品の後、パナヒ監督はイランと言う国家を批判し反体制的なプロパガンダ活動を行い、加えて政治的には改革派の大統領候補を応援したとして2009年に逮捕され、懲役6年と映画製作20年間の禁止を言い渡された。

それにもめげず自宅監禁中の生活を撮影したドキュメンタリー作品「これは映画ではない」(THIS IS NOT A FILM)。「脚本を読むのは映画製作ではない」という持論で、監禁生活の中で脚本を読みながら構想中の映画を再現した。

パナヒ監督は完成した映画をUSBに収め菓子箱に入れ知人に託し、密かに国外へ持ち出すことに成功。2011年カンヌ国際映画祭でプレミア上映されてキャロッス・ドールを見事に受賞。
ついで「閉ざされたカーテン」(CLOSED CURTAIN) はカスピ海沿岸の別荘で一人の作家が執筆活動を行っている。そこに一組の男女が訪ねてくる。兄妹であるというその二人は、政府当局に追われ、逃げ場を探している。やがて、兄は車を探しに出てゆき戻ってこない、作家は妹をかくまう羽目になる。
これはベルリン国際映画祭で脚本賞(銀熊賞)を授与されている。

そして、自宅監禁7年目で第3弾となるこの映画では自宅を抜け出し、テヘラン市中を監督自身がタクシー運転手に扮して、ダッシュボードにカメラを据え、厳しい情報統制下にあるテヘランの街に暮らす乗客達の人生模様を描き出している。真面目風でユーモア一杯の楽しい映画になている。

映画自体は質の高い受賞に値する作品ではないが、ベルリン国際映画祭で審査員長、ロシアのダーレン・アロノフスキー監督から、「この作品は映画へのラブレターだ」と称賛され、金熊賞及び国際映画批評家連盟賞をダブルで受賞した。

監禁状態で「政府の目を盗んで良くこんなもの作ったよな」、と言うのが正直な受賞理由だろう。エンドクレジットで「政府はこの作品の上映許可を許さなかった」とオチョクッている。これで死刑にならないだけでもイラン政府は心が広い。

 古い形式の中型タクシーがテヘランの活気に満ちた色鮮やかな街並みを走り抜ける。
運転手は何とハンチングを被り眼鏡をかけたジャファル・パナヒ監督自身だ。

ダッシュボードに置かれたカメラを通して色んな客が乗り込んで来る。
ちゃんとした役者と台本があるのだろうが、アドリブの即興劇のように思える。
タクシーは日本と違って同じ方向を走ると相席で他の客が乗り込んで来る。
最初の中年男は止めておいた車のタイヤが一晩で4本とも盗まれた、捕まえて死刑にすべきだと興奮していると後ろの席の女性教師は死刑制度を廃止すべきだと議論する。男は実は路上強盗だったが運転手と女教師は傷つけない。

次の乗客はチビデブの男で、一儲けを企む海賊版レンタルビデオ業者、映画業界に通じていて一目で運転手はジャファル・パナヒと見抜き、昔黒沢のビデオをお宅に届けたことがあると、業界の話に花が咲く。
ハイライトはバイクで重傷を負った男が血だらけで妻と一緒に病院へ急行してくれと乗り込んで来る。息も絶え絶えに遺言をビデオに撮ってくれ、さもなくば「俺が死ねば親戚一同が財産を奪って妻に何も残らないから」

海賊ビデオ男が撮影したSIMを後でコピーして送ると言うが妻は夫をそっちのけで「早くコピーを呉れ」と矢の催促。

金魚鉢を抱えた老婆が二人,今日が誕生日で広場の泉に正午までに金魚を放ちたいと急がせる。ビデオ男は方向が反対だと降りて貰うが、交通渋滞で動きが取れない。学校が終わった姪をピックアップすることになっていたので老婆を他のタクシーに移し、小学校へ急行。
文句たらたらの姪は国内で上映可能になる映画の撮影条件を読み上げる。パナヒ監督がやっていることは総て規則違反だ。

その他の乗客に映画の題材に悩む監督志望の大学生、強盗に襲われた裕福な幼なじみ、政府から停職処分を受けた弁護士など、ヴァラエティに飛んだ乗客達がそれぞれのエピソードを持ち込んで来る。温和で反論もせずにこやかに受け答えする運転手、パナヒ監督、乗客との会話を通じて世界が知らないイラン社会の政治や核心など裏の世界が見えてくる。

1時間半にも満たない長さだがエンドクレジットも無いし中身はイラン政府とイスラム教が民衆を圧制している実勢がギッシリと詰まった「娯楽作品」に仕上がっている。

4月15日より新宿武蔵野香にて公開される

「娘よ」(DUKHTAR)(パキスタン・ノルウェー・アメリカ映画):パキスタンの北部山岳地帯、10歳の少女が政略結婚で父親より年上の族長と結婚させられそうになり母親が娘を連れて逃走。

$
0
0
これが実話だと聞いて驚く。10歳のあどけない少女が政略結婚で自分の父親より年上の爺いと結婚させられる。15歳の時に花嫁になった母親が娘に同じような労苦や惨めな想いをさせたくないと逃避をする話だから人権擁護ヒューマンドラマと逃走劇のアクションと大きな二つの流れで映画は観客を引っ張る。

パキスタン生まれで32歳、コロンビア大学大学院映画科でマスターを取りNYでドキュメンタリを撮っていたアフィア・ナサニエルが実際の事件を長編ドラマにしたデビュー作。
 監督と脚本作品は15年度アカデミー外国語賞候補に選ばれた。女流監督と言うと厳めしいオバちゃんをイメージするが眼鏡をかけた鼻筋の通った美人。
メガホンをとるより女優にしてカメラの前に立たせたいくらいだ。

パキスタン北部、カラコルム山脈に抱かれた山岳氷河地帯フンザ・ヴァレーは数多くの部族が存在し絶えず流血の紛争が続いている。女性や少女たちは部族間の取引の道具に使われている。
部族長ドーラット・カーン(アシフ・カーン)に嫁いだアッララッキ(サミア・ムムターズ)には、10歳になる娘ゼナブ(サレア・アーレフ)がいた。

 部族間の報復合戦が続き既に17名も死亡していた。
相手側の老部族長、トール・グルを訪ねたドーレットは、和平の交換条件としてまだ幼い娘ゼナブを彼に嫁がせることを受け入れる。
腰の曲がった爺いだぜ、グルの要求を受け入れざるを得ない父親、ドーラットも情けない。

 母親、アララッキの一番恐れていたことが現実となった。これで娘の人生は終 わってしまう。自分が15歳の時に経験したのと同じように。

 意を決したアララッキは結婚式当日、娘を連れて夜陰に紛れ式で賑わう部族を離脱する。
だが部族長同士で決めた約束は決して抗ったり破ったりできない鉄の掟。
掟に背く者には死が待つのみ。

 面子と誇りを傷つけられた両部族は共同で二人の追跡を開始する。
ここからはハリウッド並みの逃亡劇が始まる。

 グル部族長は殺し屋ゴルザング・ハーンを雇い執拗な追跡を始める。
髪一発を救ったのは白馬の騎士じゃない、オンボロトラックの運転手のソハイル(モヒブ・ミルザー)。崖っぷちの細い道でのカーチェイスは底深い谷へ落下しないかと肝を冷やす。

 途中の休憩所でソハイルに再会し匿おうとした友人はハーンに射殺される。
肝心のオンボロトラックはエンジントラブルでエンコして動かない。
 3人は車を捨てて徒歩で冬の山へ向かう。

 パキスタンとインド、中国の国境にそびえ立つカラコルム山脈は雪を真っ白な雪に覆われ壮大で神々しい。

 美しくて若い母親、アララッキとハンサムな運転手、ソハイルの間にはいつしかロマンスの炎が燃え上がる。

 俳優陣は誰も知らないがアララッキにパキスタンの舞台女優サミア・ムムターズ。ラホールで夫と子ども二人の主婦でもある。

幼い娘ザイナブにスクリーン・デビューのセーレハ・アーレフも小型美人。

 トラック運転手ソハイルはパキスタンで人気No.1男優と言われるモヒブ・ミルザー。笑顔が素敵なイケメンだ。

 監督・脚本・プロデュースはこの作品がデ ビュー作の女性監督アフィア・ナサニエル。パキスタンとNYの間を往復しながら映画制作にあたっている。

 第87回アカデミー賞外国語映画部門のパキスタン代表にも選出された。
 その後世界20カ国以上で上映されクレテイユ国際女性映画祭観客賞を始め、ソノマ国際映画祭最優秀作品賞など数多くの賞を受賞したと言う。

3月25日より岩波ホールにて公開される。

「美しい星」(日本映画):突然宇宙人だと覚醒した大杉一家4人は悪のET達の「地球温暖化」の魔手から地球を防衛しようと立ち上がる。三島由紀夫のSF小説の映画化。

$
0
0
三島ファンだった僕は小説が発売されるや直ぐに飛びついて読んだ。詰まらない三島らしからぬ宇宙人ものでガッカリしたのを覚えている。半世紀も前の1962年のことだ。
吉田大作監督 の換骨奪胎した新解釈の映画を見て出来の良いのに驚き、改めて原作を読み直そうかと思っている。

原作では地球を脅かすのは三島が小説を書く直前に行われたソ連の水爆実験で「核の恐怖」だった。
福島原発から日が浅い「核の恐怖」はより身近だが、余りに手垢が付き過ぎていてどういじくってもクリシェ(陳腐)は免れない。
それよりもじわじわと攻め上げる「地球温暖化」を悪魔の魔手にして地球を攻めた方が描きやすいと吉田大作以下スタッフは考えたのは正解だ。

小説を少し追いながら映画を考察して見よう。
埼玉県飯能市の旧家・大杉家の家族四人は、地球の人間ではなく、宇宙人だった。父・重一郎は火星、妻・伊余子は木星、息子・一雄は水星、娘・暁子は金星から飛来した宇宙人。

一家は、空飛ぶ円盤を見て、宇宙人としての自らの使命を自覚する。 
宇宙人としての使命とは、核戦争による絶滅の脅威から、地球人類を救うことだった。なかでも、父の重一郎はインテリで、使命感に燃えながらも、思い悩んでいた。
映画のアウトラインは似ているものの時代を近未来に変えもっと自由な発想をしている。

 僕の友人で三島の評伝を書いている西法太郎は映画を見てこう語っている。

「三島作品の中での(原作となった小説の)評価は高くはありません。
ソ連の水爆実験に触発されて速成で書かれたからです。
短い人生で沈滞していたことが看て取れるという意味での研究価値はあります。
(著名な日本画家、杉山寧の長女、瑤子と)結婚したものの失敗で、別れようと思ってもすでに妻は妊娠、(自身の分身を散りばめた)「鏡子の家」は売れましたが仲間内では不評、「宴のあと」では(都知事候補、有田八郎から)訴訟を起こされていました。
変名(榊山保)でホモの情死(愛の処刑)を書いたり、「憂国」で切腹する夫婦心中を書いたりして鬱憤を晴らそうとしていました。
ただ、三島はUFO愛好家の同好会(UFOふれあい館)に加わっていましたからその知見を生かされています。
娯楽作品にはなりにくい小説ですが、リリー・フランキーを猿回しにし、それに橋本愛の美貌をまぶし、ジャニーズの若造を入れてなんとか商業的な成功を狙っていますね。
しかし、流れは平板で2時間観るのは少々つらい。(笑)」(括弧内は恵介の注)

原作をもう少し追って見よう。
「誰かが苦しまなければならぬ。誰か一人でも、この砕けおちた世界の硝子のかけらの上を、血を流して跣足で歩いてみせなければならぬ」 
 これといった仕事をしているわけでもなく、先代の遺産で食いつないでいる平凡な小市民の重一郎は、そんな具合に思いつめていた。
 
 小説の山場は「仙台の大学からやってきた羽黒真澄助教授と、その教え子の銀行員と、大学の近くの床屋の三人組」のシーンだが、吉田監督は、3人を保守系衆議院議員鷹森紀一郎(森田純一)の秘書、黒木克己(佐々木蔵之助)に集約して大杉重一郎と対決している。

かれらは、白鳥座61番星あたりの未知の惑星からやって来た、ネガティブな宇宙人だった。
「汚れた人類を滅亡させ、この地球を浄化すること」が、彼らの使命。 「地球人類は不完全なのだから、核戦争で滅びるべきなのだ」と主張する。

これに対して、宇宙人一家の長、重一郎は、地球人類を擁護する。
 「人間それぞれが抱いている空虚な絶望が、虚無の連帯を生む。それによって、人類は、政治的な対立から離れるのだ」 
 

論争は白熱し、怒鳴りあいのケンカになった。1960年代は、アメリカとソ連が冷戦を繰り広げていて、一触即発のキューバ危機を経ていつ本当の核戦争が始まるか、怯えていた時代だった。そんな核兵器の廃絶をめぐる、長くて熱い論争。
 
この宇宙人一家は、人類を救済しようと熱く燃えている。自分たちは、他の平凡な小市民たちとは違うのだ。なんたって、「地球人類を救済する」という、崇高なミッションを帯びているのだと。

映画では一家のシチュエーションはガラリと変わる。
主人公は親の遺産を食い潰す高等遊民でなくTVニュースショウの気象予報士・重一郎(リリー・フランキー)。予報が当たらないと話題だが語り口やちょび髯や派手な両手を大きく使ったジェスチャーが面白いと視聴者に人気がある。

一家は全く不満もなく毎日を適当に楽しく過ごしていた。
ある日、空飛ぶ円盤・UFOを目撃した一家は夫々宇宙人だと意識し始める。
自分は火星人で人類を救う使命があると突然覚醒する重一郎。火星は地球に一番近い惑星だからこの美しい星:地球を守る義務は一番重いと深刻だ。

フリーターの長男、一雄(亀梨和也)は水星人、長女の女子大学生、暁子(橋本愛)は金星人として目覚め、それぞれの方法、立場で世界を救おうと使命感に燃える。

妻の伊余子(中嶋朋子)だけは(小説では木星人の筈だが)覚醒せず地球人のまま。四国の神秘な山奥で湧く「美しい水」のネズミ講でナンバー1の売り上げのセールスウーマンだ。
(「美しい水」は埼玉県川口市の廃業したゴム工場で製造されていたことが分かる)

冷たい美貌を誇る暁子は、周囲の俗物な男たちを寄せ付けず、金星タケミヤカオルと書かれたギターの音色に惹かれ石川県金沢市に住む自称・金星人武宮と文通する。

わざわざ金沢まで会いに行ったところ、竹宮薫(若葉竜也)は、この世のものと思えないほどの、神秘的な美男だった。2人は、金沢で美しいUFOを目撃する。暁子は、UFOを見ながら意識を失った。
 
飯能に帰ってきたところ、娘は妊娠していた。この「処女懐胎」事件が可笑しい。聖母マリアではあるまいし、母、伊与子は「私から生まれたことは私が一番知っているから処女懐胎はあり得ない」と頑張る。
やがて、この金星人の男は、偽者で女たらしでアチコチ放浪してるいい加減な人だったということなどが判明するが最後まで、神秘的な存在で終わる。

ネズミ講で金儲けだの女たらしに引っ掛って妊娠だの俗世間の汚辱に塗れながらも夫々の母星を代表して一家のメンバーは地球防衛の精神は絶やさない。

実際のところ、「美しい星」は、あくまでも、「宇宙人の物語」ではなく、「自分を宇宙人だと信じた人の物語」として書かれているが、映画をそれを「地球温暖化」に置き換えているので、主人公はTV局の気象予報士を職業としている。

この換骨奪胎の映画の設定は悪く無い。
「未知との遭遇」のように一人宇宙船に乗り込む重一郎が窓から見下ろす地球は青くて美しい。
大杉一家が手を振って見送るが、その中に重一郎も大きく手を振っているのはどうしたのだろう?

監督は「桐島、部活やめるってよ」(第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞および最優秀作品賞を受賞)「紙の月」の吉田大八。僕は宮沢リエ主演の紙の月を買う。
力のある作家だけに乗って作った映画には勢いがあり観客を惹きつける。甲斐聖太郎とともに近未来の設定にして大胆な脚色をしている。

主人公の父・重一郎に役者がすっかり本業になり油の乗っているリリー・フランキー。情熱と使命感に燃える火星人になり大きなジェスチャーがセリフを補う。

長男・一雄にはジャニーズ事務所で歌手(KAT-TUN)だった亀梨和也。芝居も上手く「PとJK」で女子高生と結婚したがるコメディが良かった。

長女・暁子には橋本愛。美を象徴する金星人に覚醒するが美人の橋本に相応しい。子供だと思っていたが21歳になるんだ。

母・伊余子には中嶋朋子。「北の国から」の蛍も成長して母親役か。一人だけ地球の常識人を主張するのが笑える。

5月26日より公開される。

「トリプルX再起動」(xXx: Return of Xander Cage)(アメリカ映画):死んだ筈のヴィン・ディーゼルのザンダー・ケイジが戻って来て世界制覇を企む巨悪と戦う。

$
0
0
 アメリカでは1月20日から公開され、シャマランのホラー映画「スプリット」に次いで2位につけた。IMaxも含め3Dが売り物で、3600館で公開され20.0M(22.9億円)、 出口調査はA+と高い。

観客層は人種的にも多国籍で、ヒスパニックは25%、アフリカン・アメリカンが17%、アジア系が14%となっている。

これは出演者が香港のカンフースター、インドの美人女優、韓国のポップ歌手、ブラジルのサッカー選手と国際色豊かな役者を投入すれば生じる現象だが、しかし日本だけはパッシング、誰もお呼びじゃないのは淋しい。

北米と同時に海外では53か国で開けインドを初め4.2Mを挙げているがこんなもんじゃない。
中国はエンタメ系の2社が出資しているだけに国内でのマーケティングに力を入れて、先週の金曜、2月10日から上映開始して海外市場に一挙70M(80億円)を積み上げに貢献している。

これで海外累積は186.5M(212億円)北米累積が僅か43.1Mにも拘わらず、ワールドワイド総計は229.3M(260億円)にもなる。出資するだけでなく人口世界ナンバー1の興行成績が映画を大きく後押しする。
制作費は85M(97億円)、この程度のB級映画には大金でVFXに予算を割いたことが分かる。
 昨年の「ベンハ―」の大失敗以来、親会社ヴァイアコムもろとも身売りが囁かれている「パラマウント」は1月19日に中国のHuahua Mediaと上海フィルム・グループと3年間1B(1140億円)の出資を受け入れたばかりで、その第一弾がっこの作品だ。

 パラマウントは中国側に演出に口を挟まれないように支配権を握られるように制作費の半分を超えないと言う条件だ。
中国が全米の映画配給網(AMC)を抑えたばかりかばかりか、ハリウッドの制作に食指を動かしている例として注目される作品だ。

 プロレスラー「ザ・ロック」を卒業したヴィン・ディーゼルがエックストリームスポーツとタトゥをスパイ映画に持ち込んだ型破りなシークレットエージェントを演じるスパイアクション「トリプルX」の1作が2002年。

特殊スパイ道具、世界をまたにかけての計画と陰謀、巨悪組織による世界滅亡計画、美女との競演、などのシーンなど盛り沢山。
興行成績も世界で280M(319億円)の大ヒット。

 にも拘わらず2005年には主演をアイス・キューブに変えての続編「トリプルX ネクスト・レベル」が制作されたが、2作目が興行的に70M(81億円)に大失敗したため3作目の制作も白紙になっていた。アイス・キューブじゃダメに決まっているでしょう。

 もう一度やろうよとの話が浮上し、主演をやはりヴィン・ディーゼルに戻して制作されたのでシリーズものと言いながら12年の間が空いたのだ。

 映画の冒頭はいきなり宇宙。
乗っ取られた人口衛星が指示された地球の目的サイトを攻撃するシーンから始まる。
地球制覇を企む闇の勢力が「パンドラの箱」とと呼ばれる人工衛星を自由に制御できる究極の武器を操作して次々と大都市を破壊している。

 死んだと思われていたザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)だが新たなミッションのため戻ってきた。そして敵の手中にある「パンドラの箱」を取り戻そうとするアクション大冒険が始まる。
危険分子たちの手に渡ってしまった「パンドラの箱」と呼ばれる軍事兵器奪還のため、エクストリームスポーツ界のカリスマであるザンダー・ケイジが再び国家安全保障局(NSA)ギボンズ長官(サミュエル・L・ジャクソン)や諜報将校ジェーン・マルケ(トニ・コレット)に召集される。

ザンダーはNSAがそろえた精鋭部隊を一蹴し(輸送機から突き落とす)、新たに一騎当千でいわくつきな厄介な仲間たちによって構成されたチーム「トリプルX」を率いて、全世界の政府最高権力者たちをターゲットとして世界壊滅を企む邪悪な集団と戦うことになる。

パラシュート無しでPC3から飛び降りたり、スキーで雪の急斜面を滑降しスケボーで崖や谷を駆け降りたり、フィリピン沖で4Mの大波をバイクのサーフィンで乗り切ったり、お定まりの壮絶なカーチェイスに凄惨な銃撃戦とアクションシーンは留まるところを知らない。

物語自身はそれほど意味を持たないので3DやIMAXの大画面で映画の一部になって(IMAX宣伝文句)あまり考えずに見るだけで良い。

出演者の顔ぶれが凄い。
ザンダー役のディーゼルをはじめ、前2作でも国家安全保障局の局長役を演じたサミュエル・L・ジャクソン、トップモデルのルビー・ローズが狙撃兵アデルを、ニーナ・ドブレフがベッキー役を続投する。

 新顔で加わるのが中国の人気カンフースター「イップ・マン」シリーズのドニー・イェン、
インドの美人女優デーピカ・パーデュコーン、
韓国のアイドルグループEXOのクリス・ウーや
UFC世界ミドル級王者マイケル・ビスピン、
FCバルセロナ所属でブラジル代表のサッカーの名選手、ネイマールJr、が国際色豊かに顔を揃える。

 特に最強の敵となるジャン役のドニー・イェン、カンフーの全国大会で太極拳のチャンピオンを持っている。既にに「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」でも重要な役柄を演じ、これからは香港を離れハリウッド映画のレギュラーになるだろう。

サッカー選手ネイマールJrのミドルシュートのフリーキックが大きく右から左へカーブしてポストに吸い込まれる有名なシーンがエンドクレジットで繰り返される。。

監督は「GIジョー」や「トランスフォーマー」「イーグルアイ」とアクション得意のD・J・カルーソ。VFXをふんだんに使ってやりたい放題の絵を撮っている。

 2月24日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される。

「バーニング・オーシャン」(DEEPWATER HORIZON)(アメリカ映画):2010年4月、メキシコ湾で石油掘削施設の爆発大火災の原油流出で史上最悪の自然・環境破壊がなされた。その象徴として世界

$
0
0
昨日(18日)は昼から「沙翁午餐会」。
BBC制作のシェイクスピア劇を2か月に一度ランチを食べながら3時間を超す時代物のビデオを見る。

「ロミオとジュリエット」とか「ベニスの商人」などポピュラーな番組は既に終え
昨日の出し物は「ヘンリー4世」(HENRY THE FOURTH PART ONE)

 NHK国際放送アンカーのスチュアート・ヴァーナム・アトキンが解説。日常仕事などで使っているのはアメリカ英語だが、解説の白い顎鬚に三つ揃いのスーツを着た英国紳士アトキンさんのイギリス英語は流石に綺麗だしぼくら日本人にも分かりやすい。

 満席の80人程がテーブルを囲んでいる。
9割は中高年の女性たちで顔見知りは居ないところを見ると会員のスパウス(奥方)が友達を引き連れて来たように思える。

 悪疫、裏切り、激動の英国でハル王子の教育は宮廷でなされるべきかそれとも居酒屋でとぐろを巻くぐうたらなフォルスタッフ達に任せるべきか?
ヘンリー四世自身の王座は安泰なのか?余りポピュラーの芝居では無いが一度は観劇しており、ユーモラスな論議は退屈させない

 これは、シェイクスピアの第2四部作ヘンリアド(『リチャード二世』『ヘンリー四世 第1部』『ヘンリー四世 第2部』『ヘンリー五世』)の2作目にあたる。
1402年のホットスパーとダグラス伯アーチボルドとのホームドンの丘の戦いから、1403年のシュルーズベリーの戦いでの反乱軍の敗北までが描かれる。


 さて今日紹介の映画は、世界中の注目を浴びた、2010年4月20日に起きた石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」の爆発大火災を描くディザスター映画。

メキシコ湾のルイジアナ州ベニス沖80キロで掘削施設から原油490万バレル(78万キロリットル)が流出し2日間燃え続けると言う史上最悪の事故の実話に基づく。
126名の施設労働者はいち早く逃がれたが、それでも11名の命が失われた。

原油流出で何よりも影響を受けたのは自然・環境破壊で「黒いペリカン」の画像がその象徴として世界中のマスコミに流されたので覚えている人も多い。

 最先端テクノロジー搭載の石油プラットフォームで何が原因でどのように起こったかは、テクノロジーに暗い僕みたいな観客に分かる訳が無く、次々と連鎖して発生する爆発と火災に画面を見ながらオロオロするだけだ。

関係が無いが、海上に浮かぶ石油掘削基地をハッキリ認識したのは、007シリーズ「ダイアモンドは永遠に」で悪漢ブロフェルドが悪の要塞として使っていた。シャーリー・バッシ―の歌と一緒に石油基地は印象深かった。半世紀前のことだ。

 ラオンズゲイト制作のこの映画はアメリカでは昨年9月30日より公開され新登場2位だった。3259館で公開され20.6M。観客の出口調査(CS)はA−評価で悪く無い。

 主演の Mark Wahlbergと監督 Peter Bergの共同制作。
批評家は好意的に書いておりロットントマトも82%で好評だが、チケットのセールスに結びついていないのが問題。

上映開始から1か月後の10月末には国内累積60M(60億円)でチャートから消えている。ただ海外市場では健闘しワールドワイド総計では180M(205億円)は超えている筈で赤字にはなっていない。

 被害の拡大を食い止めようとする作業員たちの奮闘と閉じ込められた作業員たちの決死の脱出劇は迫力充分だ。

 2010年4月20日早朝、トランスオーシャン社のエンジニア、マイク・ウィリアムス(ウォルバーグ)は愛妻フェリシア(ケイト・ハドソン)と幼い娘とにしばしの別れを告げる。一度掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」に上がれば電気技師として縛られ3週間は戻れないからだ。

 施設のヘリポートで待ち構えている上司のジミー・ハミルトン主任(カート・ラッセル)に挨拶する。最先端テクノロジーの巨大施設だが電気系統の事故が続出しているからだ。
更に大きな問題は雇い主のBP社、管理社員のヴィドリン(ジョン・マルコヴィッチ)が掘削作業終了前に必要なパイプラインテストの担当者を独断で帰してしまったことだ。

ジミーはヴィドリンを責める。
大幅な工期遅れを取り戻そう、予算を削ろうとテストをカットしたことを見抜いたからだ。

 その夜、異変が起きる。海底のメタンガスが猛烈な勢いでライザーパイプに噴き上げた影響で大量の原油がドリルフロアに漏れ始め作業員ケイレブ(デイラン・オブライエン)らは一瞬にして吹き飛ばされ、原油に火が付き施設内に爆発が連続して起こる。

ここからは原油混じりの泥水の噴出と引火しての大爆発の連続で作業員たちは原因や消火法も分からないまま避難ボートに乗り移る。

 唯一のドラマは逃げ遅れた女性作業員アンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)を助けて施設屋上に連れ出したマイクが火災を避けて10Mほどの高さから海へ飛び込ませる。怖気付き尻込みして動けないアンドレアを励ますのに彼女の唯一の趣味、69年型フォード・マスタングのエンジンチューンで気を紛らわす。

 技術者作業員たちの必死のサバイバルで126人中、11人の死者行方不明で済んだが後遺症の環境破壊が社会的に大きな波紋を投げかけた。

 エンドクレジットで登場人物の写真とその後の消息を長々と紹介するのは実話映画の常套手段だ。
マイクは一家4人でテキサスに残り今でも電気技師を続けているが、
アンドレアはカリフォルニアに引っ越し結婚して幸せな家庭を持っていると。

 事故の責任を追及する米国民は英国・BP社のガスをボイコットしたが、大企業はビクともしない。

「ローン・サバイバー」のピーター・バーグ監督とマーク・ウォールバーグが再びタッグを組んだディザスター・ムービー。
迫力満点だが事故の内容や原因はどうにも映画では分かり難い。

 他の共演に「ヘイトフル・エイト」などのカート・ラッセルや「RED」シリーズなどのジョン・マルコヴィッチらベテラン俳優が顔を揃えている。
「黒いペリカン」を覚えている人は是非この映画を見て欲し。

4月21日よりTOHOシネマズスカラ座他で公開される

「グレートウォール」(THE GREAT WALL)(米・中国映画):巨大な武器と数万の武装した兵士が並ぶ壮大な「万里の長城」に襲い掛かる巨大な怪獣の大群。ナンセンスな荒唐無稽の展開をImaxの巨大画

$
0
0
アメリカでは中国に遅れること2か月でこの映画が17日より公開された。
3325劇場で上映され18.1M、4日間21Mの平凡な興行成績。

首位は取れずに3位に甘んじている。
観客層は58%が男性、25歳以上が75%を占める。

この作品は中国では昨年暮れから上映が始まり、先週末で既に171M、この週末で海外累積が244.6M(276億円)、ワールドワイド総計262.7M(342億円)を挙げている。
制作費は150M(170億円)。中国では最大の予算だ。

中国の巨匠、張芸謀(チャン・イーモウ)監督が、初めてハリウッド制作した(撮影は中国だが)セリフが総て英語の「The Great Wall(中国名は長城)。

万里の長城がモンスターの襲撃から守る様子を描いたファンタジー映画で、日本の高い壁を作って怪物を排除しようと言うのは日本の漫画や映画の「進撃の巨人」とコンセプトは同じだ。

特撮CG映画で3DやIMAXでの上映に人気が集まっている。ストーリー自体が荒唐無稽だから大画面で立体で見なければ時間の浪費と言うものだ。

 宋代の中国。 シルクロードからゴビの砂漠を歩く傭兵のウィリアム・ガリン(マット・デイモン)たちは万里の長城付近で得体のしれない怪物に襲撃される。
ウィリアムスたちは中国に黒火薬の秘密を探り盗み出してヨーロッパへ持ち帰り高値で売って儲けようとやっ来たのだが万里の長城でのモンスターとの戦いに巻き込まれる。

モンスターは中国の「饕餮」という伝説の化け物。
イナゴを巨大化の怪物かミニ・ゴジラの形相で、60年に一度ワラワラとゾンビのごとく湧いて来て人間を襲う。

偶然にも怪物の腕を切り落として生き残ったウィリアムとペロ・トバール(ペドロ・パスカル)は翌日に万里の長城に忍び込み黒火薬を捜索するが、皇帝軍に拘束される。
長城での会議では即刻処分すべしの武将たちの声を抑えたワン軍師(アンディ・ラウ)はウィリアムが切り落とした怪物の腕に興味を示す。

宮殿にはウィリアムと同様に黒火薬の秘法を探りに来てそのまま20年も居ついたイギリス人、
バラード(ウィリアム・デフォー)が住んでいて、
シャオ将軍(チャン・ハンユー)の部下で鶴軍チェン司令官(ケニー・リン)は英語もラテン語もバラードから教えられ喋れる。

キリリと引き締まった美人のチェン司令官とウィリアムにはロマンスが生じるのかと思いきやリンの表情は硬く何も起こらない。

二人は皇帝の五軍、虎軍、熊軍、鷺軍,鷲軍,鶴軍とともに怪物たちと戦い、 万里の長城で防衛する。それでも怪物は長城を乗り越え、皇帝のいる宮殿に迫る。

怪物たちの中心は巨大な「女王」でウィリアムは女王を爆破すれば数万といる怪物たちの動きが止まると知り女王を狙う。

映画では長城は怪物から二つの宮殿(パゴダ)を守るためとされているが、このコンセプトなら日本の漫画と実写映画「進撃の巨人」(15年)の前後編で描かれているのと同じだ。
共演は中国の新進女優ジン・ティエン,アンディ・ラウ、ウィリアム・デフォー、台湾のエディ・ポンなど。

制作費の150M(170億円)の大半は大連不動産王、ダーリン・ワンダの子会社レジェンダリー・イーストが出し、残りはユニバーサル。

ダーリン・ワンダは「少林サッカー」「西遊記 はじまりのはじまり」などのチャウ・シンチー監督が、人間界と人魚界という異なる世界に住む男女のロマンスを描いた低予算のローテク映画「人魚姫」の中国本土の興行記録489M(550億円)を破れとスタッフに大号令をかけている。
だからマーケティングも必死でここまで漕ぎつけたが北米が予想外の体たらく。

「アメリカ人は中国に馴染みが無いのと、中国が文化や科学に欧米より優れているのが気に食わないのでしょうね。頼りはマット・デイモン印だけだ」と、映画調査会社のcomScoreの幹部は語っている。

中国を代表する巨匠・チャン・イーモウ監督。
初のハリウッド制作映画(ロケは中国本土)で総て英語のセリフ。

大アクションとストーリーの荒唐無稽さでイ―モウ監督独特の持ち味、人間同士の感情の触れ合いや親密な関係までは描かれていない。

荒唐無稽と言えばジョエル、イーサン・コーエン兄弟の「ブラッド・シンプル」を中国に置き換えてリメイクしたノワールタッチの時代劇「女と銃と荒野の麺屋」でワイヤーアクションなどを駆使した戦闘から美しい映像と何でもありの監督だが、怪物VS中国・万里の長城は少し違うようだ。
長さ21196.18キロメートル、約1700年かけて造られた、人類史上最大の建造物「万里の長城」は、その建造の目的について、史実とともに数々の逸話・伝説が伝えられてきた。そんな中で「怪物伝説」が物語のベースとなっている。

主演は 「ジェイソン・ボーン」シリーズ、 「コンテイジョン」(11年)、 「エリジウム」(13)、 「オデッセイ」(16)などのマット・デイモン。ハリウッドを代表するスターの一人だ。 Cマット・デイモン演じる主人公ウィリアム・ガリンが、中国の王朝と力を合わせ、そのモンスターとの戦闘を繰り広げていく。
デイモンは、矢の名手として戦場に出る。体を長城にくくりつけ、たくさんの兵士が戦うシーンは圧巻。

ウィリアムスのバディ、ペロ・トバール役のペドロ・パスカルはチリの俳優で「アジャストメント」(11)でデイモンと共演している。眼光鋭く口髭が似合ういい男でウィリアムスは黒火薬を諦め裏切りで捕らえられたバディのペロを貰い受ける。
世界最大の建造物「万里の長城(グレートウォール)」を襲う未知の怪物との壮絶な戦いが、ハリウッドのVFXの最新技術と映像美によって展開される。エキストラの兵士は14億の民を誇る中国ならではの超大軍だ。

雄大な「万里の長城」に巨大な武器と数万の武装した兵士が並ぶ姿は圧巻。
久し振りでナンセンスな荒唐無稽の展開をImaxの巨大画面で堪能した。

4月14日よりTOHOシネマズ日劇他にて2D/3D/Imaxにて公開される。

「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」(日本映画):3月はドラえもんの季節。のび太とドラえもんの友情は固く、10万年の昔に戻って滅びゆく惑星を救う。

$
0
0
 たった一冊の処女作「アラバマ物語」(To Kill a Mockingbird:1960刊)と言う名作を残した女流作家、ハーパー・リーには、並行して書いてお蔵入りした「さあ、見張りを立てよ(Go Set A Watchman)」(早川書房:2016年12月刊)があり、2014年に発見されリーの死ぬ直前に発刊されている。
 
時代は1950年代になっているが「アラバマ~」は成人した主人公、スカウトことジーン・ルイーズ・ケリーがお転婆の子どもの頃を振り返り、弁護士の父親、アッティカスが黒人青年の白人女性レイプ事件の冤罪を裁判で弁護する話だ。
 
 スカウトと仲良しの子ども3人で兄のジェフは若くした亡くなり、ディルはアラバマを出て長じて有名な小説家になるトルーマン・カポーティだ。

 殺人事件のノンフィクション「冷血」(In Cold Blood)の取材にはスカウトは助手として幼馴染のカポーティに付き添い助けている。

 僕自身小説は読んでいないが、1962年制作の映画「アラバマ物語」は何度も見た。
リンチにしようとする暴徒に立ち向かい裁判では弁護士役のグレゴリー・ペックが白人陪審員たちを説得する熱演でオスカーを勝ち取った。

裁判から20年後の「さあ、見張り~」のスカウトは26歳で働いていたNYから久しぶりに故郷アラバマ州メイコムに帰って来る。

リーの描きたかったのは公民権法以前の1950年代深南部は黒人たちが白人に激しい差別を受けていたと言う事実で、テーマは同じだが続編では無く、並行して書かれ完成している。

 だからドラマを盛り上げる裁判の話は無い。
比べて見れば「アラバマ~」程の出来ではないので編集者たちがお蔵入りにしていたものを
リーの死ぬ直前に見直され別ストーリーとして2015年に発刊されたもの。
リーは丁度1年前の2016年2月に89歳で亡くなった。

 時代は1956年のアラバマで、ここで描かれているスカウトはNYから12日間の休暇をとりメイコム(故郷モンロービルがモデル)に帰郷する。

 KKKに反対しない父親アティカスとの葛藤、父親の法律事務所に勤める恋人、ヘンリー・クリントンの思想など、白人至上主義に心を乱される毎日を過ごす。

 父と恋人が人種差別的集会のメインテーブルに並んで座り白人優越主義者の演説を聞いている。二人とも黒人の公民権運動に批判的なように見える。
 怒り狂ったスカウトは父親と大喧嘩をしヘンリーに別れを告げてNYへ戻ろうとする。

 医師のジャック叔父が2人の真意を説いて再考を促して小説は終わるがやや尻切れトンボ風でもある。やはりリーの小説は全米の名作に数えられる「アラバマ~」の1冊だけで良い。


 3月は「ドラえもん」映画の季節。
僕は子ども向けの沢山公開されるアニメでもこの「ドラえもん」シリーズは好きだ。

 40年弱前の1980年より3月に限定して子どもの「春休み」に合わせ
確実にシリーズが公開されている。

 そして毎年、40億円近い興行成績を残して毎年興行成績トップ10に入っているから大したものだ。因みに昨年(16年)は「新・のび太の日本誕生」で41.2億円で7位、15年は「のび太の宇宙英雄記」の39.3億円で5位、14年は「新・のび太の大魔境」で35.8億の8位。

 14年は夏休みの8月にもう一本特別編が出ている。
シリーズで一番好きな作品で、「三丁目の夕日」などの山崎貴が監督・脚本の原点帰りの「Stand By Me どらえもん」で3Dだった。

 死ぬ前の藤子・F・不二雄が脚本を監修している。
興収も80.3億円2位に食い込んで、普通のどらえもん映画の2倍だ。
東宝はどうして3Dに力を入れないのだろうか?
アメリカではアニメは殆ど立体だ。

 漫画原作者の藤子・F・不二雄(本名:藤本 弘)が20年前の1996年(平成8年)に
62歳で既に死亡してるのにシリーズはドンドン続く。
もう37本になると言うから驚きだ。

 この映画はドラえもんシリーズ通算第37作(アニメ第2作2期シリーズ第12作)。
キャッチコピーは
「小さなきっかけが、壮大な冒険のはじまりだった」
「その友情は、10万年先まで凍らない」
いつもドラえもんのキャッチコピーは大言壮語だ。
宣伝やPR担当は一生懸命考えるんだろうね。

ドラミから暑いと言って気を付けなければいけないよ、とのび太にメイルが届く。
「氷難の相」が出ている。
特に気を付けなければいけないのは「ペンギン」だと。

 ドラミの忠告は無視できない。
かき氷を食べたいが我慢をする。

 しかしドラえもんは「かき氷」を避けて冷える良いアイディアが浮かぶ。
暑さに耐えかねたのび太たちが向かったのは、南太平洋に浮かぶ巨大な氷山。
ひみつ道具「氷細工ごて」で遊園地を作っていたのび太たちは、氷漬けになっている不思議な腕輪(リング)を見つける。
調べてみたところ、なんと腕輪が埋まったのは、人が住んでいるはずもない10万年前の南極だった。

 腕輪の落とし主を探して南極へと向かうドラえもんたち。
一行の目の前に、氷の下に閉ざされた巨大な都市遺跡が姿を現す。

「10万年前に行って、腕輪の落とし物を届けよう!」
ひみつ道具「タイムベルト」で10万年前に向かうドラえもんたち。そこで、凍りついてしまった自分たちの星を救うため、宇宙を旅し、腕輪の謎を追う少女カーラとヒャッコイ博士に出会う。
だが腕輪の所為で、ドラえもんたちは、地球が凍結する危機に直面する。
いつもながらの荒唐無稽の話も織り込み済みで楽しめる。

 偽物のドラえもん対決が面白い。ドラえもんのシンボルのポケットも鈴も同じだ。本物の方が偽物のトリックにかかって口もきけない弁明も出来ない。
スネ夫やジャイアンは本物を処罰しようとする。心優しいのび太は例え偽物でも処刑したらダメとドラえもんを庇って強く反発するシーンが良い。一番の親友だからどちらとも仲良くしようよと。

 2013年からテレビアニメの絵コンテ・演出・脚本・原画を担当している高橋敦史が
映画ドラえもんシリーズで初監督と脚本を務める。

3月4日よりTOHOシネマズ日劇他で全国公開される。

「劇場版 ソードアート・オンライン −オーディナル・スケール−」(日本映画):AIロボットの人気アイドル、ユナを人間に戻そうと企む父親のマッドサイエンティスト、重村博士

$
0
0
誉田哲也の「硝子の太陽N-ノワール」(中央公論新:2016年5月刊)が沖縄の基地返還に絡む殺人事件を描いている。

フリージャーナリストの上岡は沖縄の反米軍事基地闘争の裏側にあるものを掴みかけていた。
沖縄は鉄道が無く交通渋滞が激しい。
モノレールは空港から首里城までの短い区間だけ。
上岡は普天間基地を返還させそこに鉄道をひく計画を嗅ぎ付ける。
軍用地転売が花城数馬と言う男に集約されている。(基地の土地1/3を所有している)

花城が仲間を集めて中学生の世良麻尋を誘拐し輪姦してビデオを撮り父親の世良内閣官房副長官を脅そうと言うもの。世良は副長官だが実力者。

10年毎に更新される日米安保条約は日米両国のどちらかが一方的に破棄を宣言しさえすれば継続されない。
それに伴い、軍事基地を定める日米地位協定も無効になる。
 
凌辱ビデオをSNSにアップするぞと脅かせば、1人娘を目の中に入れても可愛がる世良は命を賭しても地位協定破棄に奔走するだろう。

 ジャーナリストの上岡に嗅ぎ付けられた花城一味は新宿の雑踏で彼をバンに引き込み拉致して隠れ家に連れ込みナイフで彼を刺殺する。

仲間を殺されて怒心頭の「歌舞伎町セブン」(実はシックスになってしまったが)東警部補と共闘して花城一派を心臓麻痺や脳溢血に見せかけて暗殺をする。
池波正太郎の頸椎に針を突き通す仕置き人と手口は同じだ。
金正男がクアラルンプール空港でやられたような派手な毒殺では直ぐにばれる。

ストーリー自体、単純な復讐劇だが、沖縄の偏ったマスコミのこと、革マルなどプロの左翼の連中だけ本土から乗り込み騒いで機動隊と衝突するが、肝心の沖縄住民が冷静だと言うことなど知らないことばかり。

沖縄の新聞は2紙、「琉球新報」と「沖縄タイムス」は夫々10万部以上読まれているのに朝毎読の中央紙はどれも数百部程度、TVもNHKを含め本土で流すニュースと違う報道がされているなど、興味深い。

尖閣諸島を目指して中国の戦艦や海上警備船、漁船が領海侵犯しても構わない。
追い払ってくれる(少なくとも抑制力のある)アメリカ軍の基地は返還して貰おう。
それだけ沖縄と日本内地との温度差は大きい。

翁長沖縄知事がトランプ大統領やその側近に会いにDCへ飛んだが、日米同盟を強化しようと言う逆の空気が読めない人は誰にも相手にされないで手ぶらで帰って来た。

何の予備知識もなしに一番苦手のゲームアニメ作品「ソードアート・オンライン」が先週末トップだとランキングを知って品川プリンスのTJOYの4時半の回に出かけた。
「君の名は」とか「この世界の片隅で」などアニメ映画がランキングの上位を占めるので驚かない。

平日の仕事をしている若者には勤務時間のも関わらず6割ほどの入りに映画の人気を知る。若いカップルが多い。

映画動員ランキングは、「劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール」が18日と19日の終末2日間で150館と言う比較的少ない小屋数で動員30万人超、興行収入4億2500万を突破し、初登場で首位を飾った。
1館あたりの興収が280万円を超える効率の良さ、さらにこのオープニング記録は「アニプレックス」の配給作品での最高記録だ。
3月10日(金)からは4D版の上映が4DX、MX4Dを導入する国内の全劇場66館すべてで決定し更なる興行成績の飛躍が見込まれる。

2位は先週ダントツだった「相棒-劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」は2日間で動員18万人、興収2億2700万円を引き離す。

因みに「アニプレックス」社とはソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)の子会社。20年ほど前に設立されアニメーションを主とした映像作品の企画・製作および販売・映画配給を主な事業内容とする。

「劇場版 空の境界」シリーズとか「Project Itoh」して 「屍者の帝国」「ハーモニー」「虐殺器官」「劇場版NARUTO」シリーズなど多数。
謎の次世代オンラインゲームでの少年の戦いを描いた、川原礫による人気ライトノベルが原作のテレビアニメの劇場版。

2022年、天才プログラマー・茅場晶彦(声:山寺宏一)が開発した世界初のフルダイブ専用デバイス「ナーヴギア」はVR(仮想現実)世界に無限の可能性をもたらした。
その4年後。

「ナーヴギア」の後継VRマシン「アミュスフィア」に対抗するように、一つの次世代ウェアラブル・マルチデバイス「オーグマー」が発売された。
小型ヘッド・ホンのようにウェアラブルで、フルダイブ機能を排除した代わりにAR(拡張現実)機能を最大限に広げた最先端マシンは、覚醒状態で使用することが出来る安全性と利便性から瞬く間にユーザーへ広がっていく。その爆発的な広がりを牽引したのは「オーディナル・スケール(OS)」と呼ばれる「オーグマー」専用ARMMO RPGであった。

映画の説明に何のことだか分からず、ついて行くのがやっとだ。

現実世界をフィールドとして各所に出現するアイテムの蒐集、モンスター討伐などを経てプレイヤーのランクを上げていくゲームで、全てのプレイヤーのステータスは基数(カーディナル数)ではなく序数(オーディナル数)であるランクナンバーによって決定される。ランク上位のプレイヤーには圧倒的な力が与えられる。

アスナ(声:戸松遥)たちもプレイするそのゲームに、キリト(声:松岡禎丞)も参戦しようとするが、事件が勃発する。

人気絶頂のARアイドル、ユナ(声:神田沙也加)のコンサートに仲間と一緒に招待されたアスナたち観客の脳に異変が起こり始めるのだ。

ユナはARデバイスの開発者でプレイ・マシン・インタフェース研究の第一人者、東郷工業大学教授の重村博士(声:鹿賀丈史)の一人娘。。
 実はユナはAIロボット。重村はユナのコンサートに集まった1万を超えるファンの脳をスキャンしてユナを人間に戻そうとしている。

ようやく人間臭いドロドロした陰謀がドラマの後半を盛り上げる。え

TJoy品川プリンス他で上映中

「ハードコア」(HARDCORE HENRY(アメリカ・ロシア映画):全編一人称視点:FPS(ファースト・パーソン・シューター)で描くアクションは臨場感もあり迫力満点だ

$
0
0
2015年12月25日、世間が浮かれているクリスマス当日に門前仲町の電通借り上げ女子社員アパート4階から、新入社員・高橋まつりさん(当時24歳)が投身自殺をした。

以降、電通は女子社員に過労を強い死に追いやった「ブラック企業」としてマスコミや世論に叩かれ、労働基準監督署から立ち入り検査を受けたばかりか、塩崎厚労大臣の陣頭指揮で「一罰百戒」の晒し者になっている。
行くところまで行くと「電通は20世紀と共に終わった会社」だと裁きに走っているメディア(日経デジタル)もある。

今にも書類送検や逮捕者も出るかも知れない不穏な空気が感じられる。

経営陣は世間に向けひたすら謝り、石井直社長は1月末で退任し、「働き方を見直す」と電通人の精神的支柱の「鬼十則」の否定にまで走っている。

電通一筋に42年在籍した僕は「レゾン・デートル」の喪失感を抱いていく今日この頃だ。

 株主総会まで1か月と1週間、毎年経営陣に批判的な質問を繰り返す僕としては今年はなすすべもなく「炎上」した電通に対し叱咤激励のエールを送る積りでブログにその主旨のドラフトを掲載する。

 半年以上の調査と聞き込みにより、高橋さんの自死は決して「過労」などのフィジカルなことなどでなく、もっとメンタルでイモーショナルな原因だと証明しようとする。

「ブラック企業」のレッテルを貼られて更に「私どもが悪うございました」と自虐的態度をとり続ける電通の目を覚まさせ,少しでも自己弁護(Cover his ass)をしなければ地獄の底に叩き落される二度と這い上がれない。

 私のブログを読んで下さる方々の意見を聞かせて欲しい。(続く)


 2014年「Bad Motherfucker」と題するMV(ミュージック・ヴィデォ)がネット上に公開され1.2億以上の驚異的な再生回数を記録した。
タイトルにブッタまげてアクセスした訳では無い。

 全編一人称視点:FPS(ファースト・パーソン・シューター)の画面の臨場感と迫力が凄いのだ。

 このMVの作者・ロシア人、イリヤ・ナイシュラーにFPS手法で映画を作らないかと、LA在住のロシア人、ティムール・ベクトマンベトフからオファーがある。

ベクトマンベトフは06年の「ナイト・ウォッチ」でロシア国内興行記録を塗り替え、続編「デイ・ウオッチ」(08)の後、ハリウッドへ引き抜かれ「ウォンテッド」などを撮った監督だ。
 
 見知らぬ研究施設で目を覚ましたヘンリー。
彼の身体は事故によって激しく損傷しており、妻と名乗る女性エステル(ヘイリー・ベネット)によって機械の腕と脚が取り付けられる。

 左側の破損された手足を機械に取り換えてサイボーグ化され「ロボコップ」のように無敵になるヘンリー。

 さらに声帯を取り戻す手術に取り掛かろうとした時、研究室を謎の組織が襲撃。
超能力を使う白子で茶髪の不気味なエイカン(ダニーラ・コズロフスキー)の指揮する傭兵たちは研究者たちを次々と惨殺する。

空中にあるラボから脱出を試みたもののエステルをさらわれてしまった。
ヘンリーは超人的な身体能力を駆使して救出に向かう。

 エイカンは何者で何の目的でヘンリーとエステルは襲われるか皆目見当がつかない。
強敵エイカンの前にあわや危機一髪の際に現れヘンリーを助けてくれるジミー(シャルート・コブリー)。むしろジミーが実質的な主人公だ。

男性が愛する妻を救うべく壮絶な戦いに身を投じるアクションだけと言う単純なストーリー。

主人公・ヘンリーの一人称視点のみで描いた新感覚活劇では、ヘンリーのPOVだけだから
ヘンリーがどんな顔をしてどんな男か全く分からない。
手に持った拳銃と軽機関銃と、踏みしめる両足が写るだけ。
だからタイトルを見てもヘンリーの名はキャストに載っていない。
主人公は強いて言えばジミー役のシャルート・コブリーだ。

 コブリーは南ア出身でエイリアンと戦う「第9地区」(10)でブレイクした43歳のユニフォームと口髭が似合う中年俳優。
「特攻野郎Aチーム」(10)や「マレフィセント」(14)などに顔を見せている。

 エステル役の「イコライザー」などのヘイリー・ベネット。
外国人出演者たちの中で唯一のハリウッド女優。29歳、金髪をなびかせながらジミーやヘンリーと行動を共にしエイカンの魔手を逃れ死線をさ迷う。

 2015年トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門でプレミア上映され、ピープルズチョイス・ミッドナイトマッドネス賞を受賞した。

4月1日より新宿バルト9他にて公開される。

「雪女」(日本映画):杉野希妃が監督・主演の第3弾として選んだ小泉八雲原作の「雪女」。現代の目で見直す新解釈で描く雪女のユキ。

$
0
0
(承前)
  「新派大悲劇」の幕が切って落とされたのは高橋さんの自殺からほぼ半年後、高橋まつりさんの母親幸美さん(54歳)が娘の服を着て遺影を胸に抱き記者会見を開いた時からだ。
母親は4月に労働基準監督署に労災申請を行ったこと、9月に労災が認定されると11月に厚労省東京労働局が電通本社支社に強制捜査に入った。そして年の瀬の12月28日に社員に違法長時間労働をさせた「労働基準法違反」の疑いで、法人としての電通と高橋さんの上司が書類送検され、責任をとった石井直社長も1月末に辞任すると言う大事件に発展した。
 
記者会見はTV・新聞のニューストップに飛び出し、石井社長以下経営陣は赤塗りの悪人として舞台に引っ張り出され、セリフも台本も用意の無いままひたすら頭を下げるだけ、一言の弁解もせず自虐的態度を取り続けている。

自虐的な電通幹部を尻目に、ここぞとばかり母親幸美さんは次々と会見を開き、娘とのLINEやフェースブックで交信した内容や文書を公表し、安倍首相にまで面談している。
命日に花束を貰ったお礼だと言うのだが。

首相も愛妻、昭恵夫人(森永製菓松崎社長令嬢・松崎昭恵)が聖心女子専門校を卒業し20歳で電通に入社し、5年間も電通社員として勤務した過去(「アッキー」と呼ばれた人気者)があるだけに複雑な気持ちだろう。
しかも首相に紹介したのは電通の上司だった。

僕はここで「労働基準法違反」かどうかと言うより、高橋まつりさんを自殺に追いやったとされる「過労」について論じるたい。
そして「過労」が自殺の引き金では無いことを明らかにする。

高橋まつりさんは最高学府の東京大学に現役で入学している。
不肖、私も東大現役合格組だ。
誤解を恐れず言うと現役合格組は「頭が良く無い」。
ストレートでパスするために猛烈に勉強し頑張る。

続に「4当5落」と言う。4時間しか眠らなければ合格するが5時間寝ると落ちる、と。
その伝で言えば高橋さんは月に5-600時間も机に向って頑張った筈だ。
36協定を30時間や40時間オーバーしても「屁」でもない。

フィジカル面で修羅場を入社前に経験していれば、新入社員の残業などでは死に至る「過労」など齎さない。

だから高橋さんは「過労」で自死したのでは無いと確信を持って言える。
フィジカルな労働や作業の過多は直接の引き金では無い。

それでは何故?
何かメンタルな、エモーショナルな要因があった筈だ。
才女は情緒に弱い。

「腑に落ちた」のは今年の1月に発行された「週刊新潮」1月12日号の記事だった。
マスコミで初めて高橋さんの自死の真相の一端を誌面で披露してくれた。

高橋まつりさんには長年付き合って来た「恋人」がいたのだ。(続く)


 
昨夜(23日)の外国特派員協会(FCCJ)で上映された「雪女」終映後に監督・主演の杉野希妃と相手役の青木崇高が登壇し挨拶とQ&Aを行った。
32歳の杉野はこれで3回目のFCCJ記者会見。
すっかり会員と馴染みになっている。相変わらず楚々とした美人だ。特に役柄に合わせた純白(花嫁みたいな)な和服が細身の身体にピシリと決まってオーラを放っている。

映画の原作は100年以上前に、ギリシャ人、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が、日本各地の伝説を怪奇文学に昇華させた作品著した「怪談」。
その中の一つの短編「雪女」を、独自の解釈で杉野希妃が映画化した。

杉野希妃が「マンガ肉と僕」「欲動」などの監督・主演を経て第3弾として選んだのが、この「雪女」。

ある吹雪の夜、猟師の緒方巳之吉(青木崇高)は、山小屋で仲間の茂作(佐野史郎)が雪女(杉野)に命を奪われるのを目撃してしまう。
雪女は巳之吉に、「お前は若いから殺さない。だがこの事を誰かに言ったらお前の命も奪う」と言って消える。

1年後、巳之吉は茂作の一周忌法要の帰り道で美しい女ユキ(杉野)と出会う。
2人は恋に落ちて結婚し、やがてウメという娘が生まれる。14年後、聡明な美少女に成長したウメ(山口まゆ)は、村の有力者の息子である病弱な少年・幹夫と親しくしていた。
ところがある日、かつて茂作が死んだ山小屋で、幹夫が亡くなってしまう。しかも幹夫の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡があった。

記者会見で杉野は小林正樹監督の「雪女」には「予算の面」(少し突っ張りがある)で追いつけないと。
自分は大映の監督だった吉村公三郎や溝口健二、増村保造の影響を受けて映画界に入った。

私なりにウメと言う「混血娘」を世にだすことで幽界と人間界との繋ぎを付けた。今アメリカ新大統領ダグラス・トランプが人種差別問題を起こしている。杉野ははっきりと言わないが、ウメはその緩衝役をシンボライズしていると仄めかす。

雪の中を象徴的に彼我二つの世界を分ける川を流しているのはその所為だ。
巳之吉がある夜どれだけユキを愛しているかを語るため、はずみで雪女との出会いを口にした瞬間「お前を好きだから殺さない」と言って戸外の闇に消えるユキ。
この辺りは原作と違い「夫への愛情」「優しさ」が充満している。

大ベテランの水野久美が村の医者を演じ、狂言まわしとして雪女と巳之吉の行く末を見つめ予言する。これも原作に無い新解釈だ。

2016年・第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。

主人公の巳之吉役に、活躍目覚ましい「るろう人剣士」などの、
娘のウメに注目の若手16歳の山口まゆ。
他に佐野史郎、宮崎美子、山本剛史、松岡広大などが脇を固める。


3月4日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される

「日々と雲行き」(DAYS AND CLOUDS)(伊・仏・スイス・映画):薄茶色の薄い膜を剥ぎながら修復すると、その下には古代の鮮やかなフレスコ画が隠れている。比喩的に描く、長年連れ添った夫婦の生き

$
0
0
(承前)
 高橋まつりさんはクリスマスイブの24日はいつもよりはしゃいでいて楽しそうだったと同僚の社員たちは振り返る。とても自殺するような気配は無かったと。
 
それもその筈、アメリカ駐在の派遣会社社員のボーイフレンドが4カ月振りに帰国し、イブの晩を一緒にマンションで過ごすことになっていたからだ。

 早めに退社した高橋さんは心尽くしの手料理でご馳走を作って待っていた。深夜にようやく顔を見せた恋人は思いがけないことを口にした。
「別れよう」と。

「青天の霹靂」とはこのことだろう。一方的に別れを宣言されても受け入れられる筈が無い。
納得できない高橋さんと冷たくなった恋人との話し合いは午前零時を廻っても続けられたが、無駄だった。
 心が折れた高橋さんがマンションの4階から飛び降りたのはそれから数時間後で陽は昇り、クリスマスの午前中になっていた。

事件を扱う所轄の警察はボーイフレンドを伴ってその日の午後から夜にかけて現場検証を行った。
 この検証はマスコミの知る処となったが、NHKも含めどの社も一言も言及しない。

唯一,時間がかかったが「週刊新潮」が1月12日号と2月16日号で原因に触れた記事を載せているだけだ。

マスコミは電通を憎んでいるのか?
何故このボーイフレンドのことを書かないのだろうか?
黙っていれば世間は100%電通が悪い。
過労を強いた、パワハラで苛めたと思う。

24日深夜の事件は、過労で気鬱になっていたとしても、自殺の主たる原因は突然の失恋による衝動行為だと明らかだ。
 当然その経緯を知る電通は「免罪符」を持ちながら公表しないのは何故だろうか?
 
自虐的態度でひたすら謝っていれば「人の噂も75日」で一過性に忘れられてしまうだろうと思ったのだろうか?
電通OBのやりきれない気持ち、レゾンデートルを否定された悲しみなどは誰に訴えれば良いのだろう?

株主総会で聞きたいことを長々と述べているが、気に入らないのは朝日新聞の報道姿勢だ。(続く)



10年前の作品だが古さを感じない。
「ベニスで恋して」(00)や「風の痛み」(04)などのベテラン、シルヴィオ・ソルディーニ監督が、港街ジェノヴァを舞台に、突如豊かな生活から逆境に落ち込んだ1組の夫婦の生き様を描く。

中年の女性、エルサ(マルガリータ・ブイ)は大学で遺跡修復のコースを終え、卒論を教授に認められ長年の夢だった美術史の学位を手にして喜びの絶頂にいる。
友人たちが集まりその祝賀パーティの中で1人暗い影を落とす夫のミケーレ(アントニオ・アルバネーゼ)。この後は夫婦水入らずでカンボジア旅行の予定だ。

夫婦は50台の前半だろうか?ミケーレの額は後退し禿ているが多少の皺は見えるが生活をエンジョーイしているエルサは若く見える。

ミケーレは祝賀パーティで1人沈んでいる。
妻には言えなかったのだが、ミケーレは友人と共同経営していた会社から新しいパートナーを引き入れた途端、彼らから2ヶ月前に追い出されて失業していたのだ。
借金が溜まり銀行ローンの抵当に差し出しているネオクラシックな豪華な自宅やヨットも手放さねばならない。

現実は厳しく、二人の暮らし向きが激変する。
今までの豪邸から、友人たちの手を借りて修理して、やっと住めるようにした小さなアパートへ引越してくる。

その片付けもそこそこに、生活費を稼ぐためにいくためにエルサは求職活動に出て2つの仕事を掛け持ちする。昼はウェイトレス、夜6時半からは貿易会社の秘書。外国からの連絡が多いため夜間に秘書をおく会社だ。

連日ボロ雑巾のように働いて深夜遅く帰宅する彼女の前には、面接もすっぽかし歯切れの悪い言い訳ばかりの夫ミケーレがソファーでゴロゴロしている。

過去の功績や見栄や妙なプライドが邪魔して、なかなか仕事が見つからないのだ。
疲労と焦りと情けなさとやるせなさで2人は常にイライラし一触即発の状態にあった。

 エルサに言い負かされミケーレは大喧嘩の末、「出て行く!」と見得を切って成り行きで転がり込んだ娘、20歳のアリス(アルバ・ロルヴァケル)のアパートに来て、初めて意固地な自分に気づく。

かけ持ちの仕事の合間をぬって関わってきたフレスコ画の修復が終わり、天井壁に全貌が現れる。
床に寝転んでぼんやりと見つめていたエルサの胸のうちには、様々な思いが去来する。
薄茶色の表面を剥ぐとエルサの預言通り、古代のフレスコ画が現れる。誉めそやす教授も院生たちが祝杯を挙げに行った後、1人っ床に寝転がってドームに描かれた古いフレスコ画を見つめる

そこへ入って来たミケーレはエルザの隣りに横たわり天井を眺める。
絵画ばかりか夫婦の修復も完成する。

2人の人間が一緒に暮していく中には、晴れの日もあれば曇りや豪雨や雪の日もあり、笑ったり泣いたり言い争ったり、そんなことは当たり前なのだ。
タイトル「日々と雲行き」の由来で、誰にでも起こりうるのだ、とシルヴィオ・ソルディーニ監督は観客に説く。

「VIVAイタリア」と題して余り紹介されないイタリア映画の中から3本を選んで日本の映画ファンに興味をもってもらおうと言う企画、今年で3回目だ。
フェリーニやデ・シーカ、ビスコンティの時代から半世紀も経つとイタリア離れの人ばかり。イタリア映画はこんなに面白いですよ、見捨てないで欲しいと。

5月27日よりヒューマントラスト有楽町にて上映される。
Viewing all 1415 articles
Browse latest View live




Latest Images