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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「しゃぼん玉」(日本映画):親に見捨てられ荒んだ心の伊豆見翔人は女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、逃げ込んだ山奥の椎葉村で年老いた村人たちの優しさ、情けに触れ人生のやり直しを決意する

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 知念実希人(ちねんみきと)と言う如何にも沖縄人だと分かる名前の現役医師が書いた推理小説「あなたのための誘拐」(祥伝社:2016年9月刊)は400頁を超える大部の小説で余り期待していなかった分面白かった。

高輪署管内で女子高生誘拐事件が起きた。
被害者佐和奈々子の両親は、犯人が、警察に通報するようそして指示を出したという。犯人は自らを「ゲームマスター」と名乗った。
ゲームマスターとは4年前に高輪で女子中学生を誘拐殺人を犯した犯人が名乗った名前だった。

「ハヤクボクヲミツケテ」
女子中学生を誘拐した謎の犯罪者・ゲームマスターが課したゲームに失敗、被害者を死なせてしまい、警視庁特殊班の刑事、上原真悟は職も家族も失い、しがない探偵で糊口を凌いでいる。

再びゲームマスターを名乗る誘拐犯が現われる。被害者は女子高校生、身代金は5千万円、警察への通報も指示されたという。

そして要求はもう一つ、身代金の受け渡しは、探偵・上原真悟にやらせること。
「ずっと君とまたゲームがしたかったんだよ」とヴォイス・チェンジャーを通して嘯く犯人に、真悟は失いかけていた刑事魂を燃えたぎらせる。

新たにゲームマスターを名乗る犯人から身代金を運ぶ指名を受けた真悟はゲームマスターに自力で迫ろうとする。相変わらず受け渡しの時間と場所を次々と変え慎吾はそれでも前回の失敗の轍を踏まないように懸命に走り回る。

スカイツリーでの鬼ごっこが一番迫力があった。未だ行ったことが無いがエレベーターや非常階段の仕組み、煙幕を張って身代金の強奪。クライマックスだ。

最後に、主人公が真犯人に辿り着く件、地図からペンダントに隠されたメモに至る迄は、余りに唐突過ぎる。
折角理詰めで物語を作り上げて来たのに最後の止めで不条理になりいい加減になるのはもったいない。

それにしてもこの真犯人はあり得ない。
最後にバカにされ、アカンベエで突き放されたようだ。


親に見捨てられ、女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返してきた
荒んだ心の伊豆見翔人(林遣都)。
大きな都市で人を刺し、長距離トラックに拾われ、逃亡中に迷い込んだ宮崎県日南市の郊外の山深い椎葉村。

村へ向かう橋の外れで老婆を殴り財布を奪って逃げる。

しかし雨が降るしすきっ腹を抱え人家の灯りを求めて再び椎葉村を目指しトボトボ歩いていると道端の草叢で怪我をして歩けなくなった老婆スマ(市原悦子)に出会い背中におぶって家まで届ける。

元はと言えば自分が襲って傷付けたお婆さん。
そんなことをオクビにも出さない。
「ぼう。ぼう」と呼ばれる伊豆見は婆の「孫」だと勘違いされてるようだ。
「ええとけえ来た、やれ助かった、なあ、ぼう」
感謝され助けたことがきっかけで、スマ婆の家に寝泊まりするようになる。
 
 俳優座出身の市原悦子のスマ婆さんは流石に上手い。舞台俳優のキャリアの途中でTVドラマ「家政婦は見た」で大ブレイクし、若い人は市原の芝居など観賞したことは無いだろう。
81歳で矍鑠としていたが先日脊髄炎の発症で休業を発表している。
半世紀以上も連れ添った亭主の塩見哲も死んで淋しい限りだろうが、同じ境遇のこのキャラクター作りには役に立つ。

 長老のスマは人気者、隣近所の人たちに紹介され、山向こうのシゲ爺(綿引勝彦)に頼まれ仕事で山へ入ってシイタケを採取したり、川へ魚釣りに出かけたり、猟銃で猪を仕留め方も学ぶ。村人からは力仕事を頼まれ、材木を運んだり、大きな荷物を整理したりして何でも屋と重宝がられる。

 初めは金を盗んで逃げるつもりだったが、 伊豆見をスマの孫だと勘違いした村の人々に世話を焼かれ、山仕事や祭りの準備を手伝わされるうちに、 伊豆見の荒んだ心は次第に癒される。

 そして伊豆見をもっと居心地良くしたのは美知(藤井美菜)との出会いだった。
2歳ほど年上だが東京の大学を出て会社勤めをしていたが、付き合い結婚した男性とその家族から子供が出来ないと冷たい仕打ちを受け離婚して10年ぶりに椎葉村へ帰って来たのだ。

 ある日家に帰ると部屋は滅茶苦茶に荒らされ見知らぬ男が部屋を物色している。
スマ婆さんも強く出ない。
だが二人の怒鳴り合いで男は一人息子の豊昭(相島一之)と知れる。
昔「平家まつり」の資金250万円を持ち逃げし、更に借金を重ね婆さんに無心に来たのだがそんな金は無い。

 勝手に人の家に入り込んだ浮浪者め!と伊豆見を追い出しにかかるが、自分がいなくなればヤス婆さんがいじめられるから必死に飛び掛かる。
首を絞められ気を失う寸前、シゲ爺が猟銃を構えて入って来る。
これには豊昭も捨て台詞を残して退散せざるを得ない。

美知と親しくなり会話の中で通り魔に襲われ流産をした話が出て伊豆見はショックを受ける。
突然伊豆見は汚れた過去を清算しなければならないと言う思いに取りつかれる。
何年かかっても贖罪を果たし、綺麗な身になって村へ帰って来ようと。

「婆ちゃん、..しゃぼん玉はさぁ、その場所にいたいって思っても、地面に着いた瞬間、ぱちんと弾けちゃうんだ。だから、風に吹かれて、ふらふらするしかねぇ。。。でも、俺、もうそれじゃあ。。。」

村の名前が椎葉村。平家の落人部落と言うが今時存在するのかね。落人の村民といえば部落民として差別を受ける。 年に一回の「平家まつり」には沢山の人々が集うと言う。小説上の架空の村かと思ったらしっかり実在している。

 宮崎県東臼杵郡椎葉村で人口は2800人弱。壇ノ浦の戦いで滅亡した平氏の残党が隠れ住んだ地の1つとされ、平美宗や平知盛の遺児らが落ち延びてきたという。
 那須の与一の兄、那須大八郎と鶴富姫のロマンス伝説もあり「侍行列」で二人は山車に乗る。

伊豆見翔人は村人の優しさと友情に触れて行くうちに、自分が犯した罪を自覚し始める。
この村に永遠に住みたいと思い一大決心をする。
「今まで諦めていた人生をやり直したい」

1996年「凍える牙」で直木賞を授与された作家・乃南アサの同名の小説を映画化。そういえば「「凍える牙」でも逃走中の犯人は軽井沢の山や森の中を彷徨って伊豆見と似ている。

主役の林遣都は16歳の時に主演した「バッテリー」で良い役者が出て来たな、と感じた。その後「荒川アンダー ザ ブリッジ」や「パレード」と演技を摘んでいる。もう26歳になっている。もう一枚皮が剥けると良いのだが、行定の作品に出たが、他に是枝や温の映画で鍛えられた方が良い。東監督では得るものは何も無いだろう。

ヒロインの藤井美菜は28歳で決して若く無いが初めて見る顔だ。楚々とした美人だが特徴が無く訴える芝居も無い。
韓国で活躍してそちらの人気女優だと聞く。

テレビドラマ「相棒」などのディレクター、東伸児監督が劇場映画初監督を務める。
映画とTVの違いを自覚して張り切って撮っていることが画面から伝わて来る。

3月よりシネスィッチ銀座にて公開される。

「ナイスガイズ!」(THE NICE GUYS)(アメリカ映画):オスカー俳優、R・クロウと今年のオスカー大本命のR・ゴズリングがバディ探偵。少女行方不明事件を解決した途端に政治陰謀に巻き込まれる

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 映画の背景は70年代の後半、(77年)としているが、この時代僕はLAにCMの撮影とタレント獲得に頻繁に出かけた。
 街の人たちは裾の広がったベルボトムのジーンズを履き、幅襟で光沢あるサイケなシャツを着て粋がっていた。

 ポルノ映画が解禁され「ディープ・スロート」や「ビハインド・グリーン・ドア」「デビル・イン・ミス・ジョーンズ」などのハードコアを撮影後デイリーを見終わったスタッフを連れて何度見たことか。
リンダ・ラブレースやマリリン・チェンバレンは大スターだった。
特にアイボリーソープのCMタレントだったマリリンは輝くような美人で剃毛したアソコをたっぷり拝ませてくれた。

サンセットBVDにはフッカー(売春婦)が、ハリウッドとラ・シエネガ辺りにはファグ(ゲイ)のクラブが密集し男娼が立ちんぼうでクルージングの車の窓を覗き込んでいた。

チューアップしたモンスターカーがガスをまき散らし轟音を挙げて走り回る。僕自身も中古だがカナリ―イエロウに真っ赤なフェニックスをあしらったトランザム・ファイアバード6500CCを買って日本に持ち帰ったが日本の排ガス規制がLAより遥に厳しく車検を通すのに数百万円もかかり絶えず故障をして持て余したことを苦々しく覚えている。

そんな雰囲気ムンムンのこの映画はLAの北東部、サンフェルナンド・ヴァレーの高級住宅街、パサデナが舞台。

 映画はバディ・ムービーで主演の二人に興味がある。「グラディエーター」(00)でオスカー主演男優賞のラッセル・クロウと「LA LA LAND」で今年のオスカー大本命のライアン・ゴズリングが共演していて、監督がメガヒットの「アイアンマン3」のシェーン・ブラックだからだ。

 だが気になるのはラッセル・クロウのデブになったことだ。3年前の「ノア 約束の舟」から5割増しの太りようだ。とても役作りで体重を増やしたとは思えない。

 1977年のロサンゼルス、パサデナ。
シングルファーザーの真面目だが無能な私立探偵ホリー・マーチ(ライアン・ゴズリング)は、酒浸りだが腕っ節の強い示談屋ジャクソン・ヒーリー(ラッセル・クロウ)に無理やりコンビを組まされ、行方不明になった少女、アメリア(マーガレット・クアリー)捜しを手伝うハメになる。

 少女の母、ジュディス・カットナー(キム・ベイシンガー)はカリフォルニア州司法省長官。
お偉方やマフィアには媚びを売らないが、ヒーリーは財布はからっけつ酒代にもことかく毎日なので二つ返事で引き受ける。

 探偵の仕事にマーチの父親の世話をやくこまっしゃくれた13歳の娘ホリー(アンガーリー・ライス)も加わり捜査を進めていく。
アメリアのトレースは簡単で直ぐに隠れ家も見つけ本人確保も終わるはずの仕事だったが、ここに大変な難題が降りかかる。

 アメリアの映画はポルノでボーイフレンドと一緒にセックスシーンに紛れて母親がデトロイトの自動車産業の賄賂を受け排ガス規制を無効にしようとする陰謀を暴露している。

 母親、カットナー司法長官はNYから殺し屋、ジョン・ボーイ(マット・ボマー)ブルー・フェイス(ボー・ナップ)オールドガイ(キース。デヴィッド)を呼び寄せ娘を殺しフィルムを取り上げようとする。

 ここから始まる殺し屋対二人の探偵&少女アシスタントの死闘はドタバタで凄絶でドジで笑える。ネタバレは避けたいので映画館で見てくれ。

 「リーサル・ウェポン」の製作・脚本コンビ、ジョエル・シルヴァーとシェーン・ブラックがタッグでバデイ・ムービーコメディ。

 ホリー役の15歳のオーストラリア生まれのアンガーリー・ライスと22歳モデル上がりのアメリア役のマーガレット・クアリー何れもういういしい少女役だが、ホリーは酔った父親に代わって車を運転するし、アメリアは母親を憎んでポルノ映画で陰謀を暴露する。
ライスはこの後「スパイダーマン:ホームカミング」(17)にも抜擢されている。

 皮手袋にスーツを着こなしサングラスをかけた執拗な殺し屋は「マジック・マイク」シリーズなどのマット・ボマー、娘を亡き者にしようとする大物政治家に「L.A.コンフィデンシャル」などのキム・ベイシンガーらベテランが名を連ねる。

 ポール・トーマス・アンダーソンの出世作「ブギーナイツ」(77)でも描かれている、40年前の風俗を伝えるこの手の映画は懐かしい。

 余りにドタバタ過ぎて途中からシラケるが結構楽しめる作品だ。
次々と襲い来る凄腕の殺し屋に標的とされ、3人は命がけで事件解決に奔走する

 2月8日より新宿バルト9他で公開される

「セル」(CELL)(アメリカ映画):「携帯は悪魔の通信道具」携帯を使うとゾンビになって暴徒化する、現代のIT時代への警鐘

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 何だ、「子ずれ狼」の亜流ではないかと読み始めた、神谷仁の「剣客子連れ旅 竜虎の父」(徳間文庫:2015年6月刊)が意外に面白い。

主人公は武蔵国川鍋藩秋月家勘定方に属する片岡虎之助.多美と言う美しい妻と夏生と言う3歳の女児それに生後2か月の虎太郎と言う男児がいる。

帰宅したのは遅く宵五つ半を過ぎた頃だが迎えに出る筈の多美の姿が無い。奥の間に息絶えた妻が横たわり、妻の身体の下には赤子の虎太郎が圧殺されている。
畳に血文字のダイイングメッセージ「りゅう」まさか親友の加川竜五郎が下手人だと言うのか?

 幼馴染の竜五郎とは子どもの頃から「一心無限流」の剣術道場で学び川鍋藩でも一二を争う剣の腕前を競う。
 急ぎ剣友の役宅を走ると、そこでは竜五郎の妻、佐和が懐剣で自死をしている。隣部屋には竜五郎の息子、三才の竜吉がいた。

 2人の赤子、生き残った夏生と竜吉を箱車に乗せ留五郎を追う、虎之助の長い旅が始まる。
 川越を前にして赤子もお藤と言う妖艶な女も船頭から乗せてもらえないが、家族として強引に乗り込み竜五郎が潜んでいると思われる江戸を目指して箱車の旅を続ける。

 お藤は壺振りで異能振りを発揮し竜五郎の情報を集めるし、虎之助は川鍋藩から200両の賞金がかかったお尋ね者となっている。

 竜五郎も藩から特命を受けて江戸へ来ており、虎之助の家族や自分の妻の自死とは関係が無さそうだ。

 山村江戸家老との確執で、どうやら何か良からぬことを企んでいる張本人は城代家老、草間兵部で留五郎も虎之助も草間の指令で動いている。

 「竜虎の父」シリーズは長い小説になりそうだ。
埼玉県生まれの神谷仁のデビュー作。



タイトルの「CELL」はCell-Phoneの略、携帯電話のことだ。

ボストン国際空港。コミック作家、クレイ(ジョンン・キューザック)は自分の描いたグラフィックノベル「闇夜の旅人」がゲーム化されると聞いて嬉しくなり、ニューハンプシャーに住む別居中の妻、シャロンに携帯から電話をする。
息子のジョニーに会えないかと。携帯のバッテリーが切れ公衆電話に歩み寄る。

その時異変が起こる。
周りで携帯で話していた人々が次々と暴れだし頭を抱え小刻みに震え口から泡を吹きながら携帯を持っていない人々に襲い掛かる。
クレイは大型の包丁を持った料理人が斬りつけてくる。
少女は壁に頭をぶっつけて自傷行為、口から血が流れ前歯が欠け落ちる。

これは明らかに「ゾンビ」だが、映画ではその名前は一度も使わない。
ゾンビになればパターン化してしまうからだろうか。
ウィルスや吸血鬼の毒の代わりに携帯のパルスが媒介となってゾンビになるのだろう。

後半に出て来るニューハンプシャーで息子が通う学校の校長(ステイシー・キーチ)がデジタル時代、携帯で学校の授業が妨げられているのに悩む。
「携帯こそ悪魔の通信」だ、と言い切るのが基本テーマだろう。

 空港はパニック状態と化す。なんとかターミナルを繋ぐシャトルへと逃げ込んだクレイ。だが車内はゾンビで溢れている。
コンダクターのトム(デンゼル・ワシントン)に助けてもらい、暴徒化した人びとの攻撃から身を守りながら、シャトルを降りて地上に出る。

 トムとクレイはゾンビを避けながらクレイのアパートに辿り着く。

そこで階上に住む少女アリス(イザベル・ファーマン)に出会う。
17歳の少女は血まみれ。母親が「あちらの人間になってしまった」ので殺したのだと。

 あちら側の人間とはどう考えてもゾンビだ。
ゾンビは人間ではないとアリスは割り切る。
母娘の関係は忽ち消えてなくなる。
恐ろしいね!

廃墟と化したボストンから3人はクレイの妻と息子が住むニューハンプシャーを目指す。

「キャリー」から始まり「IT」「炎の少女チャーリー」「ミザリー」などスティーブン・キングのホラー小説は新作が出ると貪るように読んだ。
文芸的な「スタンド・バイ・ミ-」「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」も映画化されてヒットした。

しかしこのゾンビものはキングらしくない、どこかで見たゾンビなので創造性も新奇性もなく面白く無いのだ。
ゾンビ映画の創始者ジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド (Night of the Living Dead)」が最高で、68年以降は亜流かコピーだ。

残念ながらキングのこの作品もゾンビ亜流だから面白くない。
その上、携帯ホラー話は日本の「リング」や「着信アリ」が先行している。

念の入ったことに原作に加えキング自身が脚本を書いているから拍車をかけて詰まらなくしている。
 作家も歳をとると創作力が落ちるものだろう。原作は06年で60歳前の作品だが若くして世にでて才能は枯渇してしまったか。

 プロットで驚かすことが出来なくなれば、CGの特殊効果で脅すしかない。ゾンビの大群は凄い。その中へバンを乗り入れるクレイ。どうして息子だけがゾンビにならなかったのだろうか?

本が詰まらなくても監督のトッド・ウィリアムズは頑張っている。
04年のジェフ・ブリッジスとキム・ベイシンガー主演の「ドア・イン・ザ・フロア」で脚本兼監督で注目され、オリジナルを超えた「パラノーマル・アクティビティ2」などの才能をフルに発揮している。

主人公のクレイ役を本作の製作総指揮も務めるジョン・キューザックが演じる。相変わらず器用な役者だ。
ほかにベテランの黒人俳優サミュエル・L・ジャクソンと「エスター」ですさまじい狂気を演じた新鋭女優イザベル・ファーマンが脇を固める。

2月17日よりTOHOシネマズ六本木他で公開される。

「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」(WEINER)(アメリカ映画):前途有望で大統領の座すら狙える連邦下院議員ウィーナーは、隠れた性癖の露出趣味で政治生命を絶たれる

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選挙キャンペーンのドキュメンタリー。日本語のタイトルが「ウィーナー」と言うから戦い抜いて勝ち上がり当選した勝者(Winner)の話かと思ったら、
その逆「負け犬」(Underdog)の密着記録映画だった。
この記録映画の主人公の名前が「アンソニー・ウィーナー」なのだ。

連邦会議員をドジなスキャンダルで辞職しリターンマッチでNY市長選に挑戦し世論調査でトップにいながらまたもやSNSにHな画面を流し選挙も大敗する。

ほとんどビョーキで「懲りない男」なのだ。

アンソニー・ウィーナーは1964年にNYブルックリン生まれの生粋のNYっ子。91年にNY市議員に当選するや、若くハンサムなルックスに鋭く明快なトークスキルでたちまち頭角を現し、98年には連邦下院議員に当選する。
民主党としてクリントンやオバマを継ぐ次世代のスターだと衆目の認めるところだった。

ヒラリー・クリントンの側近、才色兼備のフーマ・アベディンと結ばれる。
パーティでの二人は美男美女、政界のプリンス夫妻の出で立ちだった。

2011年のウィーナー絶頂期の映像がCSPANで紹介される。
下院議会で颯爽と演題に立つウィーナーは、イケメンでスリムな体躯、鋭い眼光と厳しい舌鋒を共和党員に浴びせる。
同僚議員からヤンヤの拍手。
顎を上げ得意顔で降壇するウィーナーは年寄りの多い民主党議員の中でも際立って輝いていた。

(因みにCSPANは議会の模様を中継する有線放送。僕も2001年、下院での公聴会に証人喚問されて証言しその後のQ&Aも全米に流された。)

好事魔多し、ウィーナーには人には言えない「セクスティング」の性癖がある。
性的なテキストメッセージまたは写真を携帯電話間で送る行為だ。
女性との絡みや男同志の裸の写真を撮ったり見せたりする。
自分だけで楽しんいれば良いものを何が悲しくて他人に見せるんだ!

ウィーナーは自分のブリーフをアソコがモッコリと大きくなって盛り上がっている写真をSNSに(誤って)流してしまったから大変。女性たちが束になってIike it(いいよ)を寄せたことから大衆の知るところになる。

「政治」に集中してれば良いのに趣味の「性事」に手を出したことで運命は逆転する。
イケメン下院議員の人気は急降下する。
マスコミのバッシングに、たまりかねた有権者の非難の声も高まり遂に議員辞職に追い込まれる。

さて映画の本番はこれからだ。
人の噂も75日、禊も終わったアンソニー・ウィナーは2年後の2013年5月のニューヨーク市長選に立候補し、再び時の人となり注目を集める。

監督&撮影はアンソニーの友人で選挙参謀を務めるジョシュ・クリーグマン。
ドキュメンタリーは密着取材が命。
密着もいいところで親しい友達で選挙も手伝っているから寝室からバスルーム、トイレまで手持ちカメラで追う。
それも選挙キャンペーンの初日から戦い終わって疲労困憊の敗軍の将の尾羽打ち枯らした姿までカバーしている。

キャンぺーン初日、「もう一度、チャンスを与えてほしい」と反省を込めて訴える真摯でモデストな姿に有権者は心を動かし、カリスマ性を帯びたキャラクターは受け入れられアッという間に支持率トップになる。

しかし選挙戦が始まる遥か前にながした「セクスティング」がSNSを賑わしたことで支持率は最下位に転落し、ウィーナーの政治生命はここに尽きる。
ドナルド・トランプに「Perverse(変態野郎)」と罵られながらも我が道を行く男のブレない生き方はある意味で貴重だ。
ただ妻、フーマの言動の描写が十分でなく彼女がどういう心理か考えかが分からない。

撮る方もよくカバーしているが撮られるウィーナーもカメラを遮ろうとはしない。
クリーグマン監督は是々非々主義、変にウィーナーの肩を持たずコメントをつけず淡々と事実だけを追っているのが良い。

日本では無名の政治家だけに興行的に成功は見込めないが記録映画として一見の価値はある。

2月18日より渋谷シアターフォーラムにて公開される。

「エイミー、エイミー、エイミー」(TRAINWRECK)(アメリカ映画):男とは深い関係にならずその場限りのセックスを楽しんでいたエイミーは真面目なスポーツドクター、アーロンに出会い人生設計が変わる

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ヘンテコな邦題だ。原題は「TRAINWRECK」だから列車事故かと思ったらTrainなど出てこない。辞書などを調べてこれは「ある出来事が原因で引き起こされる一連のゴタゴタ」だろうと推測する。

その一生涯のトラウマは冒頭の父親、ダグラス(コリン・クィン)が幼い二人の娘、エイミーと人形を抱いているキムに、何故母親と別れなければならないかを悦明する。

「その人形より可愛い人形が出てきたらどうする?人形は次から次へと沢山現れのだよ」

 離婚した父親に、幼いころから「一夫一婦制(MONOGAMY)を全否定された。
それから20年、エイミー(エイミー・シューマー)は雑誌記者になり、妹のキム(ブリー)・ラーソン)は子供3人と優しい夫に囲まれた幸せの結婚生活を送っている。

「ルーム」でオスカー主演女優賞の金髪美人のラーソンが端役で頑張っている。
主役のエイミーはTVで活躍する人気コメディアンヌ。
 小太りの茶髪ではっきり言ってブス。日本では馴染みのない顔だ。しかし喜劇の才能豊かでこの映画の脚本は彼女が自分を宛書にした自伝的要素があるのではないか。

 家庭的な妹と異なりエイミーは父の言葉がトラウマになり、異性には深入りせず気楽な関係を求めていた。
電話番号は教えない、絶対に一緒に泊まらず終わったら帰る、デイトは二度しない。

 映画館でマシュー・マコノヒーに似ていると言われ、舞い上がったハンサムなスティーブンの時は一晩過ごしてしまった。
 裸になると驚くほどの筋肉バカで、あそこも巨根、果たしてアソコに収められるかと逡巡するほどだ。演じるはプロレスの世界チャンピオン、ジョン・シナ。芝居も上手く、大先輩でスターになったザ・ロックことドウェイン・ジョンソンに追いつくか?

 やはり数々の男と一夜を共にするワンナイト・スタンドこそ自分の生きざまだと人生を謳歌していた。アル中の上、大麻でハイになり見境もなく男と寝る。編集部にインターンで来ていた16歳の学生(エズラ・ミラー)にまで手をつけてしまう。

 そんなある日、男性雑誌の鬼編集長ダイアナ(ティルダ・スィントン)の命令で、プロスポーツマンの間で人気なスポーツドクター、アーロン・コナーズ(ビル・ヘイダー)の取材を命じられる。
 アーロンは一目でエイミーに心を奪われ、いつものように流れのまま一晩を共にする。
彼女にとっては遊びでも、アーロンにとってはエイミーは特別な存在へと変わっていく。

 アーロンの患者は有名人ばかり。
特にバスケットボール・クリーブランド・キャバリアーズのレブロン・ジェームス(本人)とは親友の間柄。アーロンとレブロンがワン・オン・ワンでシュート合戦をするが子供と大人でマンガみたい。

 友達のニックス・アマーレ・スタウダマノスは右靭帯の手術をアーロン名指しで依頼するが恋煩いでボーッとしているアーロンを見て手術の延期を申し込む。

 他にテニスのクリス・エバートやトニー・ロモなどが集まる。エイミーはトニーをつかまえ「あなたフットボール(サッカー)の選手?」と聞くのがおかしい。
トニーこそはアメフットのダラス・カウボーイズのQBで知らない人が居ない。

 想い出すのはクライアントにたのまれた広島での講演を終えた小森のオバちゃまを搭乗させた時、カープの選手が一緒になった。
「オバちゃま、コンニチワ、僕、山本浩二です」と挨拶されて「コージちゃん、背が高いのね、バレーボールの選手?」と尋ねて衣笠はじめ乗客が大笑いした。

 閑話休題、しかしエイミーもいつしか一本気のアーロンと恋に落ちたことに戸惑い、思い切って一歩を踏み出せずにいた。

 2005年の監督デビュー映画「40歳の童貞男」が大ヒットしたコメディ得意のジャド・アパトーが、良く書き込んだエイミー・シューマーの脚本の演出をした。
 親友アダム・サンドラーを主演にするなど男性主人公のコメディは慣れているが女性は初めて。
しかしアパート監督作品の中では間違いなく最高傑作になっている。

 だがこの手のコメディで2時間を超す長尺はいただけない。

3月4日より新宿武蔵野館他にて公開される

「マギーズ・プラン −幸せのあとしまつ−」(MAGGIE'S PLAN)(アメリカ映画):子供が欲しいばっかりに大学教授の妻から作家志望の男を略奪し結婚するマギー。

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昨日(21日)が初日。ヒューマントラスト有楽町の4時20分の回は殆ど満員。地味だがこう言うロマンティック・コメディに若い人たちが関心を持つのは良いことだ。特撮VFX駆使のスーパーヒーローものより余程「映画」を見ている気がする。

この映画のヒロインは昨日紹介したエイミーに似ている。エイミーは父親の一夫一婦制否定のトラウマで男との付き合いは一晩限り。マギー(グレタ・ガーウィグ)はそれより遥かに長い6か月はもつがそれ以上になると飽きが来て別れてしまう。

だから40歳を前に突如子どもが欲しくなる。その手段は恋愛や結婚、ましてセックスも抜きで優秀な精子を人工授精する。

3年に亘り子ども3人を巻き込み、男一人に女2人の夫々の結婚生活を送る、こじれた三角関係を描く。

NYのニュースクール大学で、アーティストの学生と企業などのビジネスを結びつけるコーディネータとして働く主人公・マギー。

これまでの恋愛が6ヶ月以上長続きしたことがなく、30歳を過ぎても結婚の兆しがまったくないことから、40歳を前に優秀な男友達から精子をもらって、シングルマザーになる決意をする。
これが映画のタイトル、「マギーズ・プラン」だ。

白羽の矢が立ったのは、元は学友で理系の数学者で、現在はピクルス屋のベンチャー企業を営む変わり者のトニー・ガイ(ビル・ヘイダー)。
エイミーと似ていると言ったのは、ヘイダーは真摯な求愛者でエイミーに迫るスポーツドクターを演じていたからだ。

トニーは妻、フェリシア(マヤ・ルドルフ)と子供がいる家庭人。だからマギーに子どもが生まれても、子育てには一切関わらないという約束のもと、人工授精の協力を依頼する。排卵日になって精子をいれた容器の代わりに本人が現れクラシックな方法で(要するに性交で)受精しようよと迫るのを必死で押し返し、トイレで自慰を強制し精子を取り上げる。笑えるシーンだ。

トニーの受精を終えたある日、大学構内で、ハンサムで知的な文化人類学者のジョン(イーサン・ホーク)と出会う。

学者になるより小説家になるのが夢のジョンは、自分の小説についての意見をマギーに聞くようになり、ふたりの中は急接近。アッと言う間に二人は親密になりベッドを共にする仲になる。

そしてマギーは妊娠。困ったことにトニーの子かジョンの子か分からない。マギーは女の勘でジョンの娘と決めつけリリーと名付ける。

ジョンには、コロンビア大学の教授として仕事に夢中で高慢な妻・ジョーゼット(ジュリアン・ムーア)と2人の子ども、13歳のジャスティン(ミナ・サンドウォール)と8歳のポール(ジャクソン・フレイザー)がいたが、子どもの世話や家のことをジョンに任せっきりの妻に疲れた彼は、離婚を決意し、マギーと再婚する。

マギーのプランはここまでは順調だ。ジョンとの間に生まれたリリー(アイダ・ロハティン)は3歳になる。

40歳になる前に子どもが出来た上にハンサムでインテリなジョンと結婚出来娘も生まれたのだから。
だが仕事も辞め小説家の夢を追い続けるジョンとの結婚生活にマギーは不安を感じ始める。

忙しいジョーゼットの子供たちの面倒を見るうちにマギーは彼女とも親しくなり、ジョーゼットがジョンの言うような冷たい妻ではなく知的で魅力的な女性であり、さらに今でもジョンを深く愛していることに気付く。

ジョンはジョーゼットと一緒にいた方がきっと幸せになれる。そう思ったマギーは、夫を前妻に返そうとする。

思わぬ出来事が持ち上がる。ジョーゼットはカナダ・ケベック州の田舎で学会に出ていた時に偶然旅行中のジョンと出会う。
豪雪でホテルに閉じ込められた上に退屈で森の中を散歩していた2人は道に迷い必死に助け合い身体を暖め合う。
焼け棒杭に火が付くのは時間の問題。ジョンとジョーゼットはその夜ベッドを共にする。

NYから離れていてもジョンの最近の言動から自分から離れているのが分かるマギー。熨斗を付けてもここで前妻ジョーゼットに返すべきだと決心する。

しかしジョーゼットは一筋縄では行かな。自尊心とジョンの才能を見限り学者へ戻れと忠告しながらジョンから預かった小説の原稿を焼いて灰にしたものを返す。

マギーのプランは最後に来てどうやら齟齬を来したようだが、夫の前妻の思いを知り、彼を返そうとするマギーの奮闘は楽しめるコメディに仕上がっている。

マギー役は監督や脚本家としても活躍する「フランシス・ハ」などのグレタ・ガーウィグ。三角関係の軸をベテランのイーサン・ホーク、段々芝居が上手くなっている。大学教授をオスカー女優ジュリアン・ムーアが演じる。
監督は男女の恋愛描写で高い評価を受けるレベッカ・ミラー。著名な劇作家アーサー・ミラーの娘で夫はオスカー俳優のダニエル・デイ・ルイスだ。
監督・脚本・原作の自伝的要素を含んだ「50歳の恋愛白書」(The Private Lives of Pippa Lee (09年))などは見事な作品だった。 -

ヒューマントラスト有楽町他で公開中

「彼らが本気で編むときは」(日本映画):男好きの母親に育児放棄された11歳の少女トモはマキオ叔父さんと美しいパートナーのトランジスター、ヒロミさんと3人で暮らし始める

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荻上直子監督が日本は同性愛の人間が少ないのかと訝ったと。
20代で映画の勉強にLAで6年間過ごしたが英語の分からない彼女に親切に声をかけてくれたのはゲイの学生だったし、アパートの大家もパートナーは男性だった。アメリカでの生活でLGBT(レズ、ゲイ、バイ、トランスジェンダー)の友人たちは一杯いる。

僕自身もアメリカで生活し,直ぐ傍に多くのLGBTの人々が居た。

日本でもバイオロジー的に言えば同じ率でマイノリティの人々が居る筈なのにカミングアウトしない。日本人は皆隠そうとしているのだと思う。

友人のY君はずーっと独身だったがNYに移り住んで10年過ぎて初めて自分はゲイだと僕に告げた。
LGBTの人たちに囲まれていると気軽にカミングアウトできるのだ。

この日本での実態、窮状(閉塞感?)を見て荻上直子監督が5年ぶりに映画を作る気になったのだろう。

 11歳の女の子トモ(柿原りんか)は、母親のヒロミ(ミムラ)と2人暮らし。ヒロミはだらしが無い、部屋はごみ屋敷。食事はコンビニの弁当かオムスビ、サンドウィッチ、インスタント・ラーメン。

 ところがある日、ヒロミが育児放棄して家を出てしまう。
夫を早く亡くしたヒロミは大の男好き。
 男が出来ると何もかも放り出して男の許へ走る。
だからトモは母親の家出には慣れている。
何か連絡があるか2-3日で帰って来るのだが、今度は長引きそうだ。

 ひとりぼっちになったトモが母の弟の叔父、マキオ(桐谷健太)の家を訪ねると、マキオは美しい恋人リンコ(生田斗真)と暮らしていた。
髪型も化粧をした容姿も女性だが、背も高いしがっちりした体格で直ぐに男だと分かるが、
リンコは女以上に女らしい。

 元男性であるリンコは、老人ホームで介護士として働いている。
美しいリンコはきちんと整理された部屋の飾り立てた食卓に綺麗に盛り付けたおいしい手料理をふるまい、3人揃って食卓の団らんと優しく接する。
トモには初めての経験だ。
コンビニの弁当かインスタントラーメンしか作ってくれない母以上に自分に愛情を注ぎ、家庭の温もりを与えてくれるリンコに戸惑いを隠しきれないトモだった。

 何か悔しいことがある度に一心に編み物をして心を落ち着かせて来たリンコ。観客は一体何を編んでいるだろう?と疑問に思う。
マキオもトモもリンコに加わり編み物に励む。

トランスジェンダーのリンコと育児放棄された少女トモ、リンコの恋人でトモの叔父のマキオが織り成す奇妙な共同生活が血が繋がっていないと言え一つの家族となって行く。
本当の幸せって何だろう?

 際どいセックスの話が出てくる。
トモの質問に答えて、睾丸や男根の処理、ヴァギナの手術を教えるリンコは恥も衒いも無く淡々と事実を伝える。

 女性として人生を歩もうとするトランスジェンダーの主人公リンコを生田斗真、
その恋人マキオを桐谷健太、
母親に置き去りにされたトモを子役の柿原りんか。

 彼らを取り巻く人々を、ミムラ、田中美佐子、小池栄子、りりィ、門脇麦が演じている。

「かもめ食堂」「めがね」の荻上直子が5年ぶりに脚本監督の作品は今までのノホホンムードからガラリと人間ドラマ。

トランスジェンダーのリンコを演じる生田斗真は美しい。リンコを生涯のパートナーとして世の荒波から守る優しい恋人。マキオには桐谷健太、子役のトモに映画初出演の柿原りんか。
巧みな演出で優しい助け合う美しい家族像が出来上がった。

日本人の間でこの映画を通してLGBTへの理解が深まれば良いのだが。

2月25日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「マリアンヌ」(ALLIED)(アメリカ・イギリス映画):第二次大戦中、ナチに打撃を浴びせる作戦で、カサブランカで出会ったカナダ軍情報将校とフランスのレジスタンスの美女は忽ち恋に陥る。

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64歳のロバート・ゼメキス監督は作品ジャンルを決めていない。
1978年に26歳で「抱きしめたい」で監督デビュー以来40年間のキャリアで何でもこなしてきた。

近未来にタイムトラベルするSF「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで大当たりを取ったかと思うと、「フォレスト・ガンプ/一期一会」では自閉症の主人公を実際の歴史に登場させヒーローに仕立てる。
「ロジャー・ラビット」はトゥーンキャラと、実際の人間が登場する。
「ウォーク」は実話でNYのワールドトレードセンターを綱渡りをするフランス人の軽業師を描いている。
寓話仕立ての「ポーラー・エクスプレス」やホラー映画「ベオウルフ/呪われし勇者」では3DCGで制作している。

しかしどの映画でも何気ないシーンでCGやVFXを駆使する事が多い。

この前提で原題「ALLIED」(連合軍)、邦題「マリアンヌ」を見てみよう。

時代は1942年、第二次大戦真最中だ。
映画の冒頭はモロッコ。空が白み始めたサハラ砂漠の窪みに、パラシュートでひとり降り立ったカナダ軍のマックス・ヴァタン中佐(ブラッド・ピット)。

見渡す限り真っ白で荒涼とした砂漠の大地。そこで迎えの車に拾われカサブランカに着く。
イギリスの特殊作戦執行部(SOB)から送り込まれたカナダ人のマックスは、ヒトラーのナチスに打撃を与える極秘任務を負っている。つまりスパイだ。

カサブランカで待ち受けていたのは、伝説のフランス軍レジスタンスの女性マリアンヌ・ボ-セジュール(マリオン・コティヤール)で、偽装夫婦を演じパーティに潜り込み、ドイツ大使暗殺作戦に挑む。

頭に浮かぶのは、第二次大戦中で舞台もカサブランカ、ナチに抵抗する男女と来ればハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの美男美女が演じる「カサブランカ」での熱愛と悲恋だ。
 最後の双発プロペラ機で飛び立とする暗い空港のエンディングはそっくり。

 任務は成功し後半の場所はロンドンに移るがゼメキス監督の狙い通りのクラシカルロマンスのドラマは沸々と観客に迫る。

 ロンドンの郊外に落ち着き子供もできたマックスは、こうして美貌の妻マリアンヌと幸せな結婚生活に浸る。

 スパイはジェームス・ボンドのように女は抱くもので愛するものではない。
それが結婚して子供を作り幸せで平凡な家庭など営むものでは無いというのがマックスの信条だった。

 これまでの人生で誰かを愛する人並みの幸せなど望みもしなかったマックスは、彼に向って愛に満ちた微笑を浮かべるマリアンヌの瞳に、内心たじろぐ。

任務のために偽りの夫婦を演じる男女がいつしか心から愛し合う「永遠の一瞬」を、美しくエモーショナルに撮っている。

 ロンドンの街角の小さなカフェでのささやかな結婚式。
マックスの信頼する上司、フランク・ヘスロップ大佐(ジャレッド・ハリス)やマックスの妹でレズのブリジット・ヴァンタン(リジー・キャプラン)たちの前で祝福を受け、アナと言う娘まで授かる。

 これはその後に襲うカタストロフィの序曲でもある。そしてそのことは観客が気づくスポイラーでもある。

「マリアンヌはマックスが考えていたような人物では無かった。」

 主演はいうまでもないが、ハリウッドを代表する俳優ブラッド・ピット。b冒頭パラシュートで砂漠に降り立った瞬間からオーラを感じる。

ヒロインは「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」でアカデミー賞主演女優賞に輝き、世界的に活躍する実力派マリオン・コティヤール。

 マックスの妹には「127時間」などのリジー・キャプラン、
優しい上司、ヘスロップ大佐には「リンカーン」などのジャレッド・ハリス。二人の熱愛を理解しながらも軍規に従いマリアンヌに関しての疑惑を出す大佐の複雑な心境を演じる。

 余談になるが、制作配給会社のパラマウント・ピクチャー(PP)の親会社のヴァイアコムが債務超過になりパラマウントには中国資本が制作費で手をさし伸ばし始めた。

 
 この映画の冒頭クレジットで中国のHuafua Mediaが堂々と一枚看板を出しているのに気づく人は多いだろう。
Huafua Mediaはこれまでに、トムクルーズの「Jack Reacher: Never Go Back」や (2016)や「Star Trek Beyond 」(2016)に制作費をだしている。

この作品にも半分の制作費を負担している。

 先週19日(木)にはHuahua Mediaに加え、上海フィルム・グループと3年間1B(1144億円)の出資を発表したばかりで、その第一弾がVin Diesel主演「xXx:Return of Xander Cage」(邦題「トリプルX:再起動」東宝東和配給:2月24日よりTOHOシネマズ新宿他で公開される)だ。

 PPは製作費の半分を超えないと言う条件付きでクリエイティブ・コントロールをしている。映画に毛沢東思想など盛り込まれたら商売にならなくなるからだ。

80年代後半、日本が映画会社、コロンビアとパラマウントを買収したのと同じように中国資本がハリウッドに浸食し支配し始めている。

中国嫌いなトランプ大統領は気が付けば口ばかりか手を出して来るだろう。ハリウッドは大のトランプ嫌い。誰も近寄りもしないので中国侵入情報が伝わらないことが今後、問題になるだろう。

2月10日よりTOHOシネマ日本橋他で公開される。

「SURVIVAL FAMILY サバイバルファミリー」(日本映画):ある日突然電気ガス水道電話PCすべて止まり絶望のどん底に叩き落される日本で生き残りを賭けて祖父の住む鹿児島へ向かう4人の鈴木一家

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早朝から第89回アカデミー賞候補作品が発表されている。(授与式は1か月後の2月27日ハリウッドのドルビーシアターで行われる。)

やはりダントツで強いのは「La La Land」(邦題「ラ・ラ・ランド」GAGA配給:2月24日よりTOHOシネマズみゆき座他で公開)は作品、監督、主演男・女優を含め14部門でのノミネート。これは「タイタニック」と「イブの総て」の史上最多と並ぶタイ記録だと言う。32歳の若いダミアン・チャゼル監督は巨匠の列に並ぶ。

コンペティションで追う作品は「MOONLIGHT」(邦題「ムーンライト」:ファントムフィルム配給:3月TOHOシネマズシャンテにて公開) アマゾン・スタジオのベン・アフレック主演「Manchester by the SEA」(日本公開未定) メル・ギブソン監督の沖縄戦をえがいたあ「Hacksaw Ridge」(日本公開未定) ソニー映画のエイミーアダムス主演の「Arrival」(邦題「メッセージ」)(5月19日公開)など8作品だが差は歴然としている。

左傾インテリのハリウッドは新大統領の右翼主義とソリが合わず、投票者は「La La Land」などのパックス・アメリカーナの時代に逃避している感もある。

そんな中、敢然とトランプに立ち向かいその態度を諫めたメリル・ストリープは音痴歌手を演じた「FLORENCE FOSTER JENKINS」(邦題「マダム・フローレンス!夢見るふたり」公開中)で主演女優賞にノミネートされ4度目のオスカーを狙っている。

68歳の年齢もモノともせず大統領の「過大評価」(overestimated)女優だと罵詈にもめげずハリウッドの逃避主義者の中で立ち上がっているのは凛々しく立派だ。

トランプに言わせると当たり前だと言うだろうが、この2年間、黒人が全く候補にもあがらないと問題が昨年論争となったが、今年は20人の主演、助演の候補の内7ンが有色人種だ。

日本人(角川映画)期待のM・スコセッシ「Silence」(沈黙)は先週末日本で公開され週末2日間で1.3億円を挙げ面目を保ったが肝心のアメリカでは1500館以上公開して日本の成績に追いつかない体らく。ノミネートの撮影賞のみ。
ネットでのノミネート中継で渡辺謙もプレゼンターを務めている。

さて今日紹介する映画はエネルギーが途絶えた日本で生き残りを賭けた一家の話。
東京の郊外に暮らす平凡な一家、鈴木家。

仕事一筋で家庭を顧みない父親・義之(小日向文世)、家族を纏めようと懸命な母、光恵(深津絵里)、寡黙な息子の賢司(泉澤祐希)、スマホが総ての娘の結衣(葵わかな)と4人はバラバラ家族。
お母さんが話しかけても、お父さんはテレビに夢中で生返事、息子はヘッドホンから流れる音楽に集中して口を利かない、娘はスマホでLINEで友達とつながるのに懸命。
一緒に食卓を囲んでいるのに会話は成り立たないし、意思の疎通も無い。

ある朝、目を覚ますと突然全ての電化製品が停止している、鈴木家だけでなく隣近所、集合住宅中で同じことが起きていた。

これは原発を止め廃炉にしている報いかと思ったが、ガスや自動車のスパークスやライターに至るまで総てのエネルギー源が絶たれているのだ。

電化製品ばかりじゃない。電車に自動車、そればかりかガスや水道まで。
連絡しようにも電話が通じない、会社に行くにも電車が動かない。
1日だけ我慢すればと思ったのに、翌日になっても、その翌日になっても状況は変わらない。ただの停電かと思っていたけれど、どうもそうじゃなさそう。

「ウォーターボーイズ」(01)「スウィングガールズ」(04)「ハッピーフライト(08)「ロボジー」(12)「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」(14)など突拍子もないことを考えて映画を作る矢口史靖監督だがここまで破天荒で非現実的で不条理な前提は初めてだ。

スイッチを捻れば点く電球、友人学友会社など外界を繋ぐパソコン、携帯電話、食料を保存する冷蔵庫、汚れを落とす風呂や洗濯機、通常当たり前に使っているものが、ある日突然使えなくなったらどうなるのか?

 突然訪れた超絶不自由な生活に困ってしまう人々。そんな中、鈴木家の亭主関白な父親が下した一世一代の大決断!
「そうだ鹿児島のお爺ちゃんの家へ行こう!」

主人公・鈴木義之を演じるのは、矢口作品常連だが「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」以来、NHK大河ドラマ「真田丸」の豊臣秀吉役で少し休んでいた小日向文世。

お母さんの光恵には、シリアスからコメディまで、器用な深津絵里。43歳になるんだ、老け顔になったね。

息子の賢治はこの4月からのNHK連続テレビ小説「ひよっこ」に出演する泉澤祐希。現代っ子の中学生の娘、結城はCMやドラマで活躍する葵わかな。

鹿児島へ向かう途中に出会うアウトドア一家の斎藤家に時任三郎、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳。

孤独な老人、大地康雄が豚の燻製を餌に鈴木一家に一緒にいてくれと頼むシーンは胸キュンとなる。

米屋のがめつい婆さん渡辺えりはロレックスやマセラッティなど要らない、食べ物飲み物しか興味がなく、ペットボトルの飲料水で自転車を譲ってくれる。

電気の要らない釣った魚で食料を補給している祖父の柄本明は一家を迎えて大喜び。2年半の同居生活は天国へ行く前のはなむけだ。

そして何よりも幸せな結末は、この試練を通してバラバラ家族は互いの気持ちを理解し労わるリユニオンを果たしたことだ。
総移動距離10,000kmの日本全国オールロケを敢行。さらに、約1,500名ものエキストラが参加した壮大な撮影を実施し、矢口作品史上最大級のスケールの撮影となった。

2月11日よりTOHOシネマズ日本橋他で公開される

「午後8時の訪問者」(La fille inconnue)(ベルギー・フランス映画): 夜更けに診療所を訪ねて来た患者にドアを開けなかったばっかりに、翌日河岸で少女は遺体で見つかる

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昨年のカンヌ国際映画祭に出品した時の英語のタイトルは「THE UNKNOWN GIRL」=見知らぬ少女だ。ミステリー調の邦題も悪く無い。ただし午後8時ではなくて9時過ぎ、10時近くの訪問者だった。

若い女性医師、ジェニー・ダヴィアン(アデル・エネル)が診療時間を大幅に過ぎてから鳴らされたドアベルに応対しなかった翌日、ムース河の川岸で身元不明の黒人少女の遺体が発見される。

「息子のまなざし(02)で注目されて以来社会派ドラマで「ロゼッタ」(99)「ある子供」(05)でパルムドールを受賞し、カンヌ国際映画祭の常連のジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ兄弟の新作だ。

これまで兄弟は10本長編を撮っているが、筋立てや面白さから言ったらこの作品が一番傑作だと思ったが、昨年のカンヌでは無冠に終わっている。

ある日の夜、診療受付時間を過ぎた診療所のドアベルが鳴るが、若き女医のジェニー(アデル・エネル)はそのベルに応じなかった。若い研修医(インターン)のジュリアン(オリビエ・ボノー)が扉を開けようとするが止める。
貴方は「患者の感情にインヴォルブし過ぎる」と注意する。ジュリアンは怒ってクリニックを辞める。

しかし翌日、身元不明の少女の遺体が診療所近くの河岸で見つかり、その少女が助けを求める姿が診療所の監視カメラに収められていた。少女はなぜ診療所のドアホンを押し、助けを求めていたのか。そして何故一回押しただけで姿を消したか?

少女は身元不明のまま荼毘にふされ市営の無縁仏の墓に埋葬される。
大病院へ迎えられ皆から歓迎を受けながらも、ジェニーは時間外の応対を拒んだ少女が亡くなったことをきっかけに、医師である前に自分自身の正義や良心について葛藤し始め、少女の謎を解くために素人探偵を始める。
カメラに映った少女の写真を携帯で写して生前の足取りを追う。

また小さな診療所こそが大病院へ行くことが出来ない貧困層や国籍不明の密入国者が求めるところだと悟り、大病院を辞めて小さなクリニックへ戻って来る。

足跡を辿ると市内でもいかがわしい場所で麻薬の売人や売春宿の亭主やマフィアの手下に絡れたり散々な目に会う。

しかしジェニーは「贖罪」の意識が強く忍耐強く調査を進める内に殺された少女の姉が現れる。

ヒロインの女医には、「水の中のつぼみ」「スザンヌ」などのアデル・エネルが演じているが兄弟監督とは初めてで、エネルの熱演が映画を救っている。

脇役はダルデン兄弟作品の常連俳優、ジェレミー・レニエ、オリビエ・グルメ、ファブリツィオ・ロンジョーネらが脇を固める。

4月8日 よりヒューマントラスト有楽町ほかで公開される

「フレンチ・ラン」(Bastille Day)(英・仏・米映画):革命記念日前夜、テロが勃発し4人が死亡更にテロリストたちは記念日にパリを制圧すると宣言する

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「フレンチ・ラン」なんてフレンチ・レストランと間違そうな詰らない邦題を付けたものだ。
原題は「Bastille Day」日本では「パリ祭」と呼ぶ7月14日の革命記念日だ。
市民が圧制のシンボル「バスティーユ監獄」を襲い政治犯を解放した日だ。

しかしテロリストに襲われたばかりのパリでテロ事件を扱った映画とはデリカシーに欠けるかもしれない。

冒頭のシーンは面白い。
広場の群衆をかき分けて全裸の美女が降りて来る。(残念なことに正面からのショットは臍から上、セーヌ河へ向かう後ろ姿は全身だが)

呆気にとられる人々の間を縫って走り回る若い男。財布や時計、装飾品を神業の指先で抜いているのだ。
物陰に戻り金髪のカツラを取り服を着るヌ―ド女性がアルバイト代300フラン(4万円)を請求する。ラスベガス生まれの不良アメリカ人、リチャード・マッデンン(マイケル・メイソン)と二人で仕込んだ掏摸の一儲けなのだ。

掏った獲物をエジプト人の故買屋へ持って行く。ロレックスの腕時計や装飾品に混じって「注文通り日本人のパスポート2通もあるぜ」と謝礼900ユーロを受け取る。

それから更に一仕事と見渡すと何やら大切な品物を入れた袋を傍においた若い女性が考え事をしている。置き引きもリチャードの得意技。

 しかし女性はボーイフレンドから右翼の国民党をちょっとばかり脅してくれと人形にしかけた爆弾を預かってきたのだ。
名前はゾーエ(シャルロット・ルボン)。
心優しい女性で誰も居ないと言われた国民党本部は掃除夫たちが一杯。
時限装置付き爆弾を抱えて悩んでいたところだ。

盗んだ袋はガラクタばかり、マッデンはジュバリエ広場近くのゴミ捨て場に捨てる。途端の大爆発、通行人4人が巻き添えを食って死亡する。

テロリストたち一味は声明を出す「革命記念日までの36時間以内にパリの街を制圧する」と。

サベイランスカメラは爆弾魔としてリチャードの写真をマスメディアに流しパリ警察はテロリスト一味を追い始める。

ここで登場するのがアメリカCIAパリ支局の捜査官、ショーン・ブライアー(イドリス・エルバ)。武闘派捜査官で、イラクで命令を無視して凶悪テロリスト6人を独断で射殺し、左遷されて平和な街パリに駐在となったのだ。

 動物的勘でリチャードdの居所を突き止め逮捕しようとする。
この追跡劇が何処かで見たことがある(例えばベンソンのYAMAKASIや96時間)家から家へ、ビルからビルへ飛び移り、屋根上を疾走する。(邦題の「フレンチラン」はこのシーンからか)。でも凄い迫力。捕らえて尋問するがマッデンはテロリストでは無いと確信したブライアーはCIAの仕事を手伝わせることにする。

一旦CIA取調室から逃走するもテロリストに襲われたリチャードを助けたことでブライアーとマッデンは仲良くなる。
ここからがバディー・ムービーの誕生だ。

この映画は何処かで見たシーンに溢れている。

「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」などのジェームズ・ワトキンスは70年代80年代のアクション映画の大ファンでその中のシーンを模倣したと明言している。

コピーでも何でもスリル満点の追跡劇は観客を楽しませる。決して質は高くないがB級アクショナーは僕の好きなジャンルだ。

「パシフィック・リム」や「マイティ・ソー」シリーズで活躍するニュー・ジャージー出身の俳優のイドリス・エルバが主演。

相棒のリチャードはイギリスのTVドラマで活躍しているがハリウッドでは「シンデレラ」の王子役のリチャード・マッデン。ハンサムな白人で醜い黒人のエルバと対照的。ラスベガス出身と言う役柄にアメリカ訛りの英語は苦労している。

ゾーエ役はフランス人のモデル出身、シャルロット・ルボン。大きな瞳の美人だ。

真犯人探しを進める中、36時間後の革命記念日にパリを制圧するとの犯行予告が出され、二人は国家的危機に立ち向かっていく。

ストーリーはドンデンに次ぐドンデンで、実は。。。と言うのが多い。
凶悪テロリストの黒幕が実は大金5億ユーロ(600億円)を狙っていたり。
B級アクショナーのドタバタは奥深く面白い。

3月4日より渋谷シネパレスにて公開される。

「イップ・マン 継承」(葉問3/Ip Man 3)(中国・香港映画):余命幾ばくも無い妻の願いで「本家・詠春拳」の看板を掲げイップ・マンを挑発するチョン師匠と死闘を展開する

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イップ・マンの映画はこれで3本目だが、僕はこの作品が一番気に入った。

「イップ・マン 序章」(08)では池内博之演じる日本人空手家と戦い、「イップ・マン 葉問」(10)では英国人ボクサーと戦うなど、1950年代と言う時代背景にある英国に支配される香港の鬱屈と葛藤、人種的反目が戦いの動機となっていた。

しかし3作目にして香港カンフーアクションに加え、韓国風お涙頂戴物語が頭角を現す。
初めてイップ・マンが戦う動機は、妻への愛のためであり、息子を含めた家族の幸せのためであり、そして自分自身の信条ためだ、とアクション映画ながら愛を崇高な目標としているのが心に響く。

1959年、長男を故郷佛山に帰した、イップ・マン(ドニー・イェン)は妻、ウィンシン(リン・ホン)と小学生の次男、チン。

映画の冒頭道場で木人椿を相手に鍛錬に励んでいるところに1羽の蝶が舞い込んでくる。
蝶は椿に止まり飛び立つ。
映画はアクションばかりでなく「愛」に溢れていると言うシンボルなのだろうか?

そして次のシーンではイップ・マンのもとを一人の青年が訪ねてくる。自信満々な立ち振る舞いの若きブルース・リー(チャン・クォックワン)だ。

イップ・マンに詠春拳の指導を受けようと弟子志願にくるが、イップ・マンはブルース・リーの突きも蹴りも早いことを認めるが何も言わずにドアを開けて彼を見送る。悔しそうに去っていくブルース・リーを見送るイップ・マンの顔は嬉しそう。

話の主流は外国人の地上屋、フランク(マイク・タイソン)が手下のサン(パトリック・サム)とその手下を使い学校の土地を奪おうとする。

放火や児童の拉致などを繰り返し校長や教職員を守ろうとするイップ・マンとの戦いが始まる。息子同士が同級生の車引きのチョン(マイケル・チャン)も加勢するが強い強い。
しかし新聞記者(ベビージョン・チョイ)はイップ・マンの密着取材をしていたからイップ・マンの雄姿が一面トップを飾る。

シングルファーザーのチョンはアンダーグラウンドの賭けファイトで連戦連勝、いつかは武館を立て自分の武術を広めたいと思っている。チョンも佛山出身の詠春拳の末裔。チョンはイップ・マンにどちらが本家か決着をつけたいと挑戦状を突きつける。

同門武術家との最強を巡る戦いは新聞記者や多くの武術者などを前に開かれる予定だがイップ・マンは現れない。

その時刻に脳腫瘍で余命6カ月と宣告された妻の傍に付き添うことの方がより重要なのだ。ジャッキー・チェンが社交ダンスの教師と言うのも笑えるが、チェンの指導で踊れるようになったイップ・マンは挑戦状を無視し妻と社交ダンスを踊っている。

そのままダンスを踊り続けたら観客は納得しないだろう。妻は私のために戦ってと黙ってチャンへ挑戦状を送り、それを知ったイップ・マンは木人椿を相手にトレーニングを始める。

妻との残された時間と武術家としての思想。イップ・マンは妻の為にも、渾身の力を発揮して本当の強さを証明する。元祖詠春拳の看板を掲げたチャンの武館で、妻を待たせてチャンとの死闘が展開される。

大ヒット作「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)や「トリプルX 再起動」(17)など、ハリウッド映画で活躍するドニー・イェンが、ブルース・リーの師のイップ・マン(葉問)を演じるアクションシリーズ第3作。

前2作に続き、ウィルソン・イップが監督を務める。
SPL/狼よ静かに死ね」などでコンビを組んでいるドニー・イェンとはこれが最後となるだろうと、監督は語っている。

 小柄で優男、とても武闘家と見えないドニー・イェンは中国・広東省広州市生まれの53歳。11歳でボストンへ移住。
 10代で武術をマスターし香港のアクション映画で活躍し「HERO」(02)で世界的な注目を集める。
中国資本がハリウッドに乗り出したのに乗じ上述の映画などで活躍が始まる。
 香港から世界へと知名度は広がる。

妻、ウィンシン(リン・ホン)は中国南京市生まれの35歳。モデルから「イップ・マン」シリーズで映画入り。

元ボクシング世界ヘビー級王者のマイク・タイソンが地上げ屋、フランク役で特別出演するが上手いものだ。「ハング・オーバー」シリーズで芝居は経験済みだ。

ライバルのチョン・ティンチ役のマックス・チャンも素晴らしい武術を見せる。中国生まれの42歳。全国武術部門の太極拳部門の優勝者。

カンフー・アクション映画なのに泣いてしまう。初めての体験だ。

4月22日より新宿武蔵野館にて公開される

「LION/ライオン ~25年目のただいま~」(LION)(オーストラリア映画):5歳で迷子になったインドの子どもがオーストラリアで養子となり25年後、サル―は年老いた母親を探し当て涙の再開を果たす

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具グーグル・アース(Google Earth)のPR映画かと思う程さんざ探しあぐねた故郷がPCであっさり見つかる。実話に基づく映画なので嘘偽りはなさそうだ。

 ストリート・チルドレンは12億人のインドでは世界最多で年間8万人も生まれるとエンドクレジットで述べられる。

 僕も旅したインド・ニューデリーでの思い出は、行く先々で物乞いの浮浪児たちに取り囲まれ身動きが出来なくなったことだ。
 
 インドの10大都市で控えめにみて50万人以上のストリート・チルドレンが存在すると推定されるが、ボンベイ、カルカッタ、デリーのような都市は各々10万人以上の子どもたちがいると推定される。
 この主人公はカルカッタ(コルコタ)の路上で暮らしていた。 

これらの子どもたちは生来独立心があり、親や大人が権力を持っていることを不満に思っている。たいてい集団で動き、グループに対する強い絆と忠誠心を持っている。

 世話をしてくれる大人の保護もなく、安心して住める家も無いために、彼らは過酷な自然と人間からのさまざまな攻撃の前にさらされる。その生活は非常に健康を害しやすく、持ち物を剥奪されり、また食い物にされる状況にある。

 ダニー・ボイルのオスカー受賞作「スラムドッグ$ミリオネア」の主人公もストリート・チルドレンだった。

 この映画は5歳のときに故郷を離れ大都会で迷子になって以来25年間、家族と離れて生きた男の実話だが、2時間の映画になるような素材ではない。
 
 CMディレクターの経験しか無いオーストラリアのガース・デイビスが初監督をして、それが一挙にゴールデングローブ賞やアカデミー賞にノミネートされるなど全米賞レースを賑わせているから、シンデレラボーイは舞い上がっている。

 2008年、オーストラリア・シドニーでホテル経営学を学びながら友人たち、特にガールフレンド、ルーシー(ルーニー・マーラ)に囲まれ幸せに暮らす青年サルー(デヴ・パアテル)。

 しかし、彼には隠された波乱万丈の過去があった。
インドの何処かで生まれた5歳のサル―(サニー・パワール)はシングルマザーの母と兄妹たちの4人家族。

 何処へ行くでも兄、グドゥ(アビシェーク・バラト)に付き纏って離れない。
遊び疲れて家の近くを走る回送列車に乗り込んでしまう。
 目を覚まし「兄ちゃん助けて!」と呼べど叫べど轟音に消され成すすべもなく数日後にインド西部の大都市カルカッタ(コルコタ)のハウラー駅に着く。
 故郷から1600マイル(2600)も離れていることを後で知る。

 インドは広い。
コルコタでは人々はベンガル語を喋り、サル―は分からないままにヒンズー語を喋る。
話が通じず内気で臆病になったサル―は街に打ち捨ててある段ボール箱で寝泊りする。
 
 魑魅魍魎の世界、有象無象の輩が寝ているサル―を起こす。
マフィアの人さらいだったり、サリーを着た中年婦人が家に招き食事を与えた後、スケベ男色爺に売ろうとしたり、食べるものを探しゴミ箱を漁ったり、インドのホームレスの子どもたちは如何に厳しい苦難の道を歩んでいるかをリアルにガース・デイビス監督は描く。
 
ある日親切な紳士が現れサル―を警察署へ連れて行く。
住んでいた場所、母親の名前、更にはサル―何て言うのかと姓を聞かれても分からない。
警察もお手上げで郊外の孤児院に引き取って貰う。

 そこに現れたのがオーストラリア、タスマニア島に住むジョンとスー・ブライアリー夫妻(デイヴットウェンハムとニコール・キッドマン)。

 一際可愛いサル―に目を付け早速養子縁組をする。
 オーディションで勝ち抜いたサニー・パワールは実に見事な演技とキュートな容姿でサル―役をこなす。
 
パワールを得て主役に据えたことでこの映画の価値が決まったようなものだ。
オーストラリアの生んだオスカー女優、ニコール・キッドマンは役柄に合わせたのか薄いメイクにやつれた顔で現れる。50歳の年齢を嫌でも知らされる。

 初監督のデイビスは恵まれていたのは才能豊かな子役のパワールやオスカー女優のキッドマン、
そして08年のアカデミー賞8部門総なめの「スラムドッグ$ミリオネア」に主演したデヴ・パテルをキャストされたことだ。
適材適所、長年CMやプロモヴィデオで培ったスタイリッシュな映像と演出が活かされている。
 
映画は時代を超えて一気に20年後、サル―(デヴ・パテル)は成人し、幸せな学生生活を送れば送るほど募る、インドの家族への想い。
だが故郷の母を想うと育ててくれたママに悪いと、悩む優しいサル―。
人生を取り戻し未来への一歩踏み出すため、そして母と兄に、あの日言えなかった「ただいま」を伝えるために決意する。

「家を探し出す。そして母や兄や家族に会う」と。
手がかりはおぼろげな記憶と、友人が教えてくれたGoogle Earthだけ。
インドの地図にピンを留め、1歩近づくごとに少しずつ蘇る記憶のカケラは、次第にこれまで見えなかった真実を浮かび上がらせていく。

育ててくれたママやパパに感謝をしながら果てしない「探し物」をPC上のグーグル画面を見つめるサル―。
そして遂に彼が見つけたのはインド西部の丘陵地帯、ガネシュ・タライ。
彼はガネストレイと覚えていた。

2012年ようやく故郷に辿り着き、年老いた母親と若い妹に再開し皆で抱き合うシーンは涙が零れる。兄クドゥはサル―が行方不明になった夜の列車にひかれて死んでいた。エンディングでクドゥへの献辞が出る。

 ところでタイトルのライオンは何だ?と言う疑問に答えるのが最後の最後。幼いサル―は本名シェルウを発音できず自分をサル―と呼んでいた。
本名は「ライオン」の意味、と字幕の説明に続いて映画タイトル「LION」が画面一杯に映し出される。
 洒落た扱いの結末はカタルシスを覚える。

4月7日よりTOHOシネマズみゆき座他で公開される。

「ラビング 愛という名前のふたり」(LOVING)(米映画):南部の白人労働者、リチャードが幼馴染の黒人ミルドレッドと結婚は「犯罪」と収監される。応援する弁護士たちの助けで州法が憲法違反と最高裁へ上告

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黒人の血が一滴でも入っていれば黒人で白人と結婚すれば懲役刑になると知ったのは昨年見た映画「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」(Free State of Jones )。
南北戦争時に黒人の女性を妻にしたニュートン・ナイトの曾孫、デイビス・ナイトが1/8有色人種にも関わらず白人の妻と結婚した罪で懲役5年の刑の判決を受ける。1985年、わずか30年前のことだ。

ジム・クロウ法(Jim Crow law)は、1876年から1964年にかけて存在したアメリカ合衆国南部の州法。黒人を奴隷として扱い労働力を確保するための法律で、白人と黒人の結婚は禁止され、4世代前までに黒人の血が一人でも含まれれば(16分の1)、純粋な黒人と同様「黒人」として扱われた。公民権法が確立した1964年以降も州によって異人種間の婚姻は禁止されていた。

この映画は公民権法樹立前の1958年、アメリカ南部ヴァージニア州を舞台に、異人種間の結婚が違法だった当時結ばれたラビング夫妻の実話を元した感動のラブストーリーだ。
ライフマ・ガジーンに大見出し「結婚することは犯罪」(The Crime of Being Marridge)を見て愕然とするリチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)。弁護士から裁判に有利になるからと夫婦そろって取材を受けたものだが、世間での評判を初めて実感する。

黒人の妻のミルドレッドが、ケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディ司法長官に書いた1通の手紙をきっかけに、ジム・クロウ法に基づいた異人種間結婚禁止がヴァージニア州では却下されDCの最高裁で憲法違反として法律そのものが無効とされる経緯を描いている。

しかし裁判が重要なのにこの映画では、地裁でのディポジション(証言聴取)は出て来るが晴のひのき舞台・最高裁判所へは二人は出頭しない。

 煉瓦職人のリチャード・ラビングは、恋人のミルドレッド(ルース・ネッガ)から妊娠したと告げられ、大喜びで結婚を申し込む。
1958年、ヴァージニア州では、異人種間の結婚は法律で禁止されていた。だが、子供の頃に出会って育んだ友情が、愛情へと変わっていったリチャードとミルドレッドにとって、法律が禁じているからと別れることなどあり得ないことだった。

 ミルドレッドに赤ん坊が出来たと聞いてリチャードは大喜び。ヴァージニア州では結婚出来ないので法律で許される隣のワシントンDCへ行き結婚し、新居の壁には判事が署名した「結婚許可書」を飾る。

 地元に新居を構えて暮らし始めるが、ある夜、突然現れた保安官に逮捕されてしまう。その罪の名は「白人が黒人と結婚したからだ」2人は、離婚か生まれ故郷を捨てるか、選択を迫られる。故郷を捨てる場合は25年間帰れない。
今からわずか60年前のこと、アメリカの南部でいくつもの州で異人種間の結婚が禁じられていた。

ごく普通の労働者階級のラビング夫妻の訴えによって長い闘争の末、合衆国最高裁判所で憲法違反の判決が降り、1967年に遂にヴァージニア州の法律が変わる。

この驚くべき実話に深い感銘を受けた名優コリン・ファースがプロデューサーを名乗り出て、映画化が実現した。
実在の夫妻の慎ましくも美しい人生。主演の二人の一点の曇りもない演技が、観る者すべての心を揺さぶる。
二人は自分たちの“LOVING(ラビング)”という名前の通り、ただひたすらに愛を貫いた。歴史や法律までを変えた、最も純粋な愛を描いた感動作だ。

スクリーンに焼きつけられた実在の夫妻の慎ましくも美しい人生が心を揺さぶる。
「ずっと、そばにいた。ずっとそばにいたい」とキザなセリフをリチャードが吐くが板についた真剣さが籠っている。

 主人公のレンガ職人のリチャード・ラビングを演じるジョエル・エガートンはハッキリ言って醜男。表情の少ない目が細い顔。だから「スター・ウォーズ」シリーズでも「キンキーブーツ」などでも脇、ようやく監督脚本の「ザ・ギフト」で主演を果たした。

 南部で「クズ白人」(White Trash)と呼ばれる白人最下層のリチャードを演じるにはピッタリの容貌。

 相手のミルドレッド役のルース・ネッガは黒人美人「ワールド・ウォー2」や「コンフィデンスマン」などに顔を出しているが初めての主役だ。

 監督・脚本はジェフ・ニコルズ。「テイク・シェルター」(11)「MUD」(12)で注目された38歳の若手監督。

 3月3日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開

「SINGシング」(SING)(アメリカ映画):街に古くからある劇場が不景気のため銀行に差し押さえられ取り壊される寸前、支配人・コアラのバスター・ムーンは起死回生の名案を思い付く

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動物映画は昔から人気がある。
古くは「名犬ラッシー」や「ベンジー」など実写の犬の映画が流行った。スチュアート・リトル」のネズミの映画もヒットを飛ばした。

しかし何といってもCGが発達してアニメが年々見違えるほどの動きを見せるようになると、主流は子供向けCGアニメ映画で両親引率のファミリー映画は映画興行成績の上位を占める・
 
「シュレック」からスピン・オフの「長靴をはいたネコ」、
オーストラリアからは可愛いブタの「ベイブ」、
NY動物園から脱走した「マダガスカル」シリーズ、
ペンギンが踊りまくる「ハッピー・フィート」、
シマリスさん兄弟が喉を競う「アルビン」
(残念ながら日本では上映が無かったが僕は一番好きな動物アニメだ)

 WDに負けるかとユニバーサル映画がフォックスから買い取った「Illumination」が動物アニメではないが「怪盗グルー」でヒットを飛ばし、その脇でちょこまか動く黄色の小人、ミニヨンンズがブームを巻き起こす。
 
 調子に乗った「Illumination」がシリーズに関係ない飼い犬たちのアニメ「PET」をだして当たったのに味を占め、送り出したのが動物たちが喉を競って歌いまくる「シング」。

 アメリカで12月21日から登場したこの作品は大ヒットの「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」に健闘し2位に食い込んだ。

 観客出口調査(CinemaScore)はA評価と最高点。最初の週末で56.1M(64億円)を挙げている。
 公開して6週間経った現在、アメリカ国内の累積興行成績は257.4M(360億円)世界では463.9M(530億円)になり未だ伸びているから凄い。

 ただ動物映画はすべてうまく行くとは限らない。
先週末から始まった「DOG’S PUOPOSE」(日本公開未定)などはジャーマンシェパードが何世代も輪廻して数人のご主人様に仕える話だが、ロケ風景を撮ってアップした動画にシェパードが水に漬けられているシーンがあった。

動物愛護の団体が「水責めの拷問」だと怒り狂って映画館前で入口を塞ぐデモをしたり、SNSで映画ボイコットを呼びかけている。とばっちりを食らったスタジオは予想額2/3しか儲からなかったとコボシテいる。

 さて今日紹介するのは喋る動物が人気TV番組「アメリカン・アイドル」なみに歌いまくる、アニメ「ペット」と同様擬人化した動物たちだ。

 動物だけが暮らすどこか人間世界と似た世界が舞台。
劇場支配人バスター・ムーン(コアラ)(声:マシュー・マコノヒー)は、父祖から受継いだ古びているが歴史と栄光に包まれた劇場は銀行から借りた運営資金が返却できず、劇場は取り壊し更地にして豪華なレジャー施設が予定されている。

 バスターはかつての全盛時代を取り戻ため世界最高の歌のコンテストを開催することを思いつく。
一人だけ残った老イグアナ、クローリー(声:ガース・ジェニングス監督)はオーディション募集のチラシ制作を任せられるが、PCを打つ手が震え優勝賞金「1000ドル」(11.4万円)の桁を打ち違えて「100,000ドル」(1140万円)としたから貧乏な街は大騒ぎ。

 いつもはからっぽの劇場も押すな押すなの超満員。

オーディションを勝ち抜いた主要候補は5名。

アガリ症で内気なティーンエイジャーのミーナ(ゾウ)(トリー・ケリー)、
ギャングファミリーを抜け出し歌手を夢見るジョニー(ゴリラ)、(タロン・エガートン)
ボーイフレンドと喧嘩しても自己流の歌法を変えないパンクロック少女のアッシュ(ヤマアラシ)(スカーレット・ヨハンソン)、
25匹の子ブタ達の育児に追われる主婦のロジータ(ブタ)(リース・ウィザースプーン)、
貪欲で高慢な自己チューのマイク(ハツカネズミ)(セス・マクファーレンン)
常にパーティー気分の陽気なグンター(ブタ)(ニック・クロール)。

 ぐうたらなライフスタイル、閉塞感満ちた生活、貧乏な生き方を変えるチャンスを掴むため、彼らはオーディションに参加する。

声を吹き替えた俳優たちが歌ってくれるのだ、上手い上手い。絶妙なダンスを踊りながら役者仲間では抜群の歌唱力のウィザースプーンや「マイ・ウェイ」を絶唱するセス・マクファーレンンなどは本家シナトラを超えているのでは、とさえ思わせる。

 登場人物(動物?)夫々のエピソードも愉快だ。
ヤマアラシのアッシュは大声を上げると空気がびりびり震え体中の針がぶっ飛ぶ。
MCのバスターも針千本の状態で舞台に上って来る。
 
 歌われる曲は冒頭のビートルズの「ゴールデン・スランバー」から始まり、
ドリー・バートン、レディー・ガガ、ワム、エルトン・ジョン、マイケル・ジャクソン、ビング・クロスビー、ビヨンセ、スティービー・ワンダーなどの持ち歌のコピー、
クラシック(ヴィヴァルディやバッヘルベル)やオペラ(トゥランドット)果てはアルトサックスソロで「テイク・ファイブ」など64曲のジュークボックス状態。

 日本から「カワイイ」を口癖のきゃりーぱみゅぱみゅの3曲が舞台外で邪魔者扱いに歌われる。

 映画自体にとってつけたようなテーマ、「人生を変える絶好のチャンスだ!自分を信じて!ど行き先はひとつ!上にあがるだけ!!」というバスター・ムーンの前向きなメッセージがそここに出てくる。

 映画は字幕版を見ること。
ハリウッドの俳優たちは本職顔負けで絶唱している。
 日本語版は日本人俳優が吹き替えているが彼ら以上に上手いとは思えない。

監督・脚本は「銀河ヒッチハイク・ガイド」のイギリス人のガース・ジェニングス。自分でもミス・クローリー役で声の出演(歌わない劇場の使用人)をしている。

 懐かしい歌を聴きながら気楽に楽しめる動物アニメ。

3月17日よりTOHOシネマズ系で全国公開される。

「シチリアの恋」(NEVER SAID GOOGBYE)(中国映画):涙そうそうの中国製韓流映画。上海で同棲生活を送る内に不治の病が見つかり、何も言わずに別れを告げシチリアに戻る若い韓国人建築家。

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 中国製韓流映画。相思相愛、熱愛の男女に訪れる不治の病。姿を消す恋人を追い求めるが行方は知れない。数年後墓前に花を手向け涙するフィアンセ。

 このフォーマットに場所、時代、環境を設定していけば少なくとも「涙そうそう(Tearjerker)」の哀しいヒューマンドラマが出来上がる。

台湾のリン・ユゥシェン監督、韓国で人気のイケメン・スター、イ・ジュンギ、中国の若手女優、チョウ・ドンユイと理想的なコマを揃えた。
後は場所と環境を整える。

中国・上海とイタリア・シチリアを行き来しながら、国境と地域を越えて愛を育む男女のラブストーリーが始まる。

韓国人ジュンホ(イ・ジュンギ)は中国に建築を勉強するために留学生としてやってくる。同級生のシャオユウ(チョウ・ドンユイ)に一目惚れ。
「俺の彼女になってくれ」と強引に言い寄られるが、シャオユウも彼のまっすぐな性格に惹かれ同棲するに至る。
 
 中国でも愛する男女やサッサとやることはやるね。美男子のイ・ジュンギに口説かれたら清純だがソコソコ美人のチョン・ドンユイも一たまりもない

同じ建築事務所に入社しプロポーズも受けた。

幸せの日々も束の間、突然ジュンホから「別れよう」と切り出される。
音痴な彼が、イタリアのシチリアへオペラ留学をしたいと宣言され、中国を離れるのでフィアンセであるシャオユウとの関係にもピリオドが打たれた。

 別れ際にジュンホはフレンチ・ブルの「カンカン」をプレゼントする。
「俺がいなくなってもずっと君の傍にいる俺の心だ」と。

絶望したシャオユウは、ジュノの突然のシチリア行を不信に思い、本当の理由を探ろうとする。

そう、韓流パターンでは「実は。。。」が映画の軸。

音信も無いままに3カ月が過ぎようとしている時にシャオヨウはフィレンツェで登山中に滑落事故で死んだと言うニュースが入って来る。

 前半はシャオユウの視点で描かれるが後半はジュンホの視点。出会って3年、結婚の約束を交わした後に脳腫瘍が発見される。
 韓流18番の不治の病。オペラ留学と嘘をつき中国は来る前に育ち住んでいたベネチアは戻って来て治療を受けることになる。

3カ月経って偽りの登山事故の「生前葬」でシャオユウが現れるのを待つが姿を見ない。

 不安に思ったジュンホは上海へ戻り、二人が住んだアパートの上の階を借りて住む。階下からは泣いてばかりのシャオユウの声。

 ある日失踪していたカンカンを見つけたシャオユウは激しく車が行き交う道路を信号無視で渡り始める。
 後を着けていたジュンホは「危ない!」と思わずシャオユウの名前を呼ぶ。
道の真ん中で振り向いた彼女は車に跳ねられ病院へ担ぎ込まれる。

 不自然で不条理なプロット。後でじっくり考えると「どうしてそうなるの?」ばかりだが、作りが上手いのでつい涙線が緩み始める。
そこをこれでもかこれでもかと攻撃するのが韓流。

 ボロボロ泣いて終映後明るくなると恥ずかしい。

アパートの階上に住んでいるのに気付かないとか一階のカフェに大きな壁画を描いていてジュンホのダイイング・メッセージを真っ赤な風景のバックに描き込む。「最後の一葉が落ちて見える風景がある」と。

理解したシャオユウはジュンホの墓前に膝まづく。

無理無理なストーリーやご都合主義な展開も純愛大悲劇で非難されることは無い。映画を見て涙を流してそれを友達に話してもう一度見に来てくれれば良いのだ。映画賞が取れるような作品じゃないことはプロデューサーや監督は承知済みだ。

 昨年8月に公開された中国では、上半期の恋愛映画としては初日観客動員数ナンバーワンを記録し、話題をさらった。韓国でも富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭で上映され注目を集めている。
 夫々の国を代表するスターが出ていれば当然だ。
 日本だけが「蚊帳の外」で小屋もシネマート新宿と言うちっぽけな劇場だけに火が付くかどうか心配だ。

愛する女性シャオユウを最後まで守ろうとするパク・ジュンホ役を演じるのは、第2のペ・ヨンジュンと呼ばれるイ・ジュンギ。
2001年からモデルとして活躍後、オーディションを受け、大ヒット作「王の男」(05)で女性と見まがうほどの端正な容姿を持つコンギル役でブレイク。日本では見られないが韓国TVドラマで大活躍をしている。
エンディング曲「For a while」はイ・ジュンギの楽曲。

ヒロインにはチャン・イーモウ監督の「サンザシの樹の下で」で主演デビューし、人気女優として活躍するチョウ・ドンユイ。

 香港の3大監督の中の1人、スタンリー・クワンが制作を総括し、
「ジャンプ・ボーイズ」など青春ものが得意な台湾の林 育賢監督が演出を務める。

韓流の新派大悲劇には息を飲む美しい景色がつきものだ。シチリア、別名シシリーはイタリアン・マフィアを多く送り出した島だが観光スポットとしては人気の地中海最大の島だ。

紺碧の海に囲まれたラビット・ビーチやオルティシャ、古代遺跡の神殿の谷、ヴィッテ・ロマーノ・デル・カサーレなど名所観光も手抜かり無い。

4月シネマート新宿他で公開される

「トトとふたりの姉」(TOTO AND HIS TWO SIDTERS)(ルーマニア映画):ブカレスト郊外の貧民窟で、両親に見捨てられた幼い三人姉弟が叔父たちジャンキーに囲まれて生きている

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ルーマニアのアレクサンダー・ナナウ監督が、社会と隔絶したロマ(ジプシー)のコミュニティに15か月間、密着取材をしたドキュメンタリー。

甘えん坊の10歳の男の子トトとふたりの姉、14歳のアンドレア、17歳のアナが、貧困や薬物に蝕まれたおんぼろアパートで暮らす日常を記録。

父親は家を出ているようで、シングルマザーのシミニカ・ぺトレは麻薬取引の罪で7年の禁固刑を受け刑務所で服役している。
 4年目に仮釈放を申請するが棄却され残り3年間は出所できない。

 両親不在の3人姉弟アナ、アンドレア、トトは叔父たちや親類たちの保護のもと(名目だけだが)ブカレスト郊外の荒れ果てた風呂も台所もない公共団地の狭い一室に住んでいる。
床は足の踏み場も無い。
部屋にソファが1つ、そこで子供たちは寝ているが、叔父たちが真夜中にドヤドヤと入って来てドラッグ(注射)をやっている。

 ある夜、麻薬捜索隊が部屋に乱入してきて薬物中毒の男たちを拘束したが、もうドラッグはやらないと言っていたアナもハイになっていて逮捕されてしまう。裁判でも傍聴人はアンドレアだけ。抗弁も出来ないアナは未成年ながら拘置期間は延長される。

長姉が収容され名目上の保護者シレおじさんが刑務所へ送られ、アンドレアとトトは孤児院に収容されることになる。

 時間を問わす子供たちの家庭内の生き様が描写されている。
カメラに興味を持ったアンドレアにナナウ監督が家庭用ハンディカムを渡してあり、アンドレアがカメラを向けても誰も抵抗しないからだ。
その画像が挿入されているから密度の濃い記録映画になっている。

トトも姉たちも半黒だが大きな瞳を輝かせ、キュートで愛くるしい顔をしている。ロマ人は美男美女が多い。

 そんな中トトは学校へは行かず、フリースクールのような児童クラブに通い読み書きを習う。そして課外授業で触れたダンスに夢中になる。
トトは生まれつきのダンサーだ。音楽を聴くと一人でに手足が動き出す。

 HIVに感染していたアナが行方不明になる暗いニュースの中で一筋の光明が差す。
国際ヒップホップコンテストに出場したトトはポッピング・ジュニア部門に出場し見事2位の栄冠を勝ち取る。
満員の客席に戻るとコーチたちが高くトトを担ぎ上げ「お前が真のチャンピオンだ」と叫ぶ。
感激の涙に咽ぶ素晴らしいシーンだ。


 刑期が1年短縮され母親ペトラが出所する。出迎えるアンドレアとトト。幼い頃から離れていた母親は自分の言い分だけをベラベラと喋るだけ。

 心が通わない母親と行状が収まらないアナと別れてアンドレアとトトは自分たちだけで生きようとする。

主人公はトトと言うよりアンドレアだ。
叔父も親戚も長姉も母親も頼りになれず、弟のトトを励まし育て上げた気丈な14歳。
最初は薬に手を出し人生の落伍者になりかけたアンドレアは自分が何とかしなければという責任感で立ち直って行く。
その過程が映画のメイン・ストリームになっている。

アンドレアとトトの将来は明るい雰囲気に包まれて映画は終わる。

 監督のアレクサンダー・ナナウはルーマニア生まれのドイツ人で37歳。10年制作のホームレスのアーティストの成長を描いた「The World According to Ion B」は全世界で50以上の映画祭(山形国際映画祭も含めて)上映されていると言うが、僕にはこの作品がナナウに接した初めてのドキュメンタリーだ。
 監督の主観を抑え観察型記録に専念している。

4月下旬よりポレポレ東中野にて公開される月下旬

「3月のライオン」(日本映画):ライオンのような闘志を秘めながら、深い孤独を抱えてすがりつくように将棋を指し続けてきた17歳の高校生プロ棋士、桐山零。

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映画の冒頭とエンディングに長い石段を上る主人公、桐山零(神木隆之介)。

 冒頭は姫路市郊外の書写山・円教寺だ。西の比叡山と称される天台宗の古寺。西国27番札所で、高校生の制服から初めての水色の羽織の和服姿の桐山零、既に座敷で待ち構えているのは愛憎の因縁浅からぬA級棋士の後藤正宗(伊藤栄明)で名人戦第一局の対戦だ。

 エンディングは山形県立石寺。1070段の石段を登り詰めると7冠王の天才棋士、宗谷冬司(加瀬亮)が待ち受けている。
竜王戦を争う対局が始まろうとしている。

 二つの山寺とも、石段を登り切れば見渡す限り深山幽谷の世界だ。古寺の長い石段を一歩一歩踏みしめながら頂点を目指す桐山零の挑戦する姿をシンボライズしていて映画に一気に引き込まれる。

「ハチミツとクローバー」で知られる人気漫画家、羽海野チカの将棋を題材にした「3月のライオン」が前後編の2部作で映画化された。
 コミックは連載10年を終えてもまだ継続中。
長くなるのも無理は無い。
前編は2時間33分、後編は2時間20分、昨日(2日)は前後編一気に試写があり5時間近くを東宝試写室で上映された。
5時間全く飽きが来ない。
登場人物は夫々ユニークで興味深いエピソードを秘めているから関心が絶えることは無い。

 9歳の時、両親と妹の3人を交通事故でなくした主人公の桐山零はいつも孤独だ。

 父親の友人だったB級棋士の幸田柾近(豊川悦治)に引き取られ養子となって、幼い頃から幸田一家で好きな将棋の世界に浸る。
この辺りのシーンは回想として何度もくどい位に登場するがカットして尺をもう少し短く出来たのではないか。

 子供時代の零はトレードマークの大きな黒縁の眼鏡だけは一緒だ。
内にライオンの闘志を秘める若き才能あふれる棋士零はグングンと実力をつける。

 幸田家の長女、香子(有村架純)も女流棋士を目指していたが柾近は零に勝てない香子に引導を渡して諦めさせる。
 プロ棋士だけを目指して来た香子は一家に入り込んできて平和な家庭を滅茶苦茶にしたと零を激しく憎む。
そして妻子あるA級棋士の後藤正宗と付き合いはじめる。

 物語は中学2年生でプロ棋士に合格し、現在は17歳の高校生でC級5段となっている。
収入もある零は香子の非難もあり幸田家を出てアパートを借り独立する。
窓の外を見ると東京湾を望むお台場の部屋らしいが、年俸760万円で賄えるかな?

 タイトルは春を表現するイギリスの格言。「3月はライオンのように荒々しい気候で始まり、子羊のように穏やかに終わる」 

 ライオンのような闘志を秘めながら、深い孤独を抱えてすがりつくように将棋を指し続けてきた零。
ひとり寂しく暮らしていたが、ある夜、ムシャクシャして生まれて初めての酒で酔いつぶれてベンチで寝ていた時に川本あかり(倉科カナ)が見つけ家へ連れ帰る。

 あかりは母が亡くなり父親は外で若い女性と産ませた子と暮らして家に寄りつかず、母代わりに二人の妹、中学生、ひなた(清原果那)と4歳のモモ(新津ちせ)の面倒を見ている。

 設定上不自然なのは、長姉、あかりと三女、モモの年の差は20歳以上。
偶然出会った香子が「今度は二人の子持ちの人妻を口説いたのね」と誤解するのは当然だ。

 川本一家は和菓子屋を営み、祖父、相米二(前田吟)が一家の主。
彼女たちとの賑やかで温かい食卓に自分の居場所をようやく見出していく。

零のライバルで親友のC級棋士・二海堂晴信(染谷将太)は大コンツェルンの御曹司。
不治の難病を抱えデブの特殊メイクで染谷とは分からない。

 実話を基にした映画「聖の青春」で、29歳で夭逝した村田聖をモデルにしているのだおうか、そうなると聖が挑戦し続け対局で互角に持ち込んだ7冠の羽生善治が宗谷冬司だろう。

 将棋の盤面の展開、76歩だとか87銀なんてよく分からないがそれでも対局ノバトルロワイヤルは理解できる。

家族愛、友情、子弟関係、不倫などいろいろなエピソードが出て来るが大きなトピックスは「いじめ」。

 クラス中で苛められてる同級生を救おうとしたひなたはターゲットを変えて狙われるようになる。
めげず臆せず堂々と苛めに立ち向かうひなたから零は大きい教訓、「思いやりと正義感」を得る。
恋愛に関してはウブな零が思わず「ひなたちゃんと結婚します」と口走るシーンはきいて失神するひなたも含めて笑える。

 主人公桐山零を演じる神木隆之介の熱演が映画を引っ張る。
無表情な高校生が少しずつ人間の心を知って行く。

A級棋士8段の島田開に扮する佐々木蔵之助も上手い。
山形弁を喋りながら独身、自炊の生活。
零や晴信を弟子にして自宅の道場で鍛える
 
豊川悦治のB級8段の幸田柾近も零の育て親として最後までプロ棋士の心構えや根性を叩き込む。

 NHKでヒット作を次々放ち、独立して「るろうに剣心」シリーズなど大当たり大作を連発している大友啓史の監督と脚色が見事だ。

 登場人物が何れも独自のエピソードを持っており、その一つ一つに触れ理解することで零が成長して行くストーリー展開の演出は冴えている。

久し振りに堪能できる邦画に出会った。

前編は3月18日より、後編は4月22日よりTOHOシネマズ新宿他全国で公開される

「光をくれた人」(The Light Between Oceans)(米・豪・ニュージーランド映画):度重なる流産で絶望的になった孤島の夫妻のもとに赤ん坊と死んだ父親を乗せたボートが流れ着く

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アメリカでは昨年、9月2日より公開されたこの映画、1500館で上映され5.0Mで6位。 制作費は20M(22.6億円)だから赤字にはならないだろう。

オーストラリア生まれのマーゴット・L・ステッドマンの処女作「The Light Between Oceans」(翻訳本タイトル:「海を照らす光」早川書房刊)の映画化。世界40か国で翻訳されAmazonでは4800を超える星を獲得していて読者の評価は高い。

舞台は二十世紀初頭のオーストラリア。1918年、トム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)は第一次大戦の激戦区西部戦線から帰還するものの、心は深く傷ついていた。

戦場で彼の周りは死人だらけ。イギリスやオーストラリアの戦友もドイツ・オーストリアの敵兵も死体の山を築いていた。
自分だけどうして生き残ったのだと、自戒の念に囚われている。この命も要らない捨てたも同じ、「人間をやめたい」人と接触する現実社会から逃げだしたいとの思いが強い。
だから上司の大佐が提示した孤島ヤヌス島の灯台守の仕事に飛びつく。
ヤヌス・ロックは架空の島だが設定ではオーストラリア西部の岬からおよそ160キロメートルも離れている無人島。

一人で生活することが条件だが他人に会わずに済むとは願ったり叶ったり。前任者は孤独に堪えられず閉所恐怖症にかかって精神病院に収容されている。 誰も志望者が居ない灯台守に手を挙げたトムは正式に採用される。

契約のために町に戻り、送別会で土地の名士の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)に出会う。
若いブロンド美人で聡明なイザベルはトムに一目ぼれ。寡黙な態度の下に「善良(Good Man)」の性格が垣間見えるし、ちょっとだらしない口髭でせ魅力的だ。

マイケル・ファスビンダーの素顔は実に不愛想。とても人好きに見えないから適役だろう。
人間嫌いのトムも美女のアタックに一たまりもない。一緒に島へ行こうと気分は盛り上がるが、灯台で住めるのは夫婦だけ。じゃ、結婚しようと交際期間も殆ど無いままに結婚式を挙げヤヌス島へ二人はやって来る。

琴瑟相和しイザベルとトムは幸せの絶頂にあった。ただ一つ欠けているのは子供がいないこと。折角妊娠したのに流産し、待望の二度目も流れてしまった。
度重なる流産によってイザベルは絶望し憔悴しきってしまう。
ある日、海岸に手漕ぎボートが打ち上げられる。父親らしき男は冷たくなって死んでおり,お腹をすかせた女の赤ん坊が大声で泣いている。

「神様の贈り物だわ」と大喜びのイザベルをよそにトムは報告を上げ上部の判断を待つという。
本土の人は私の妊娠を知っているし、少し早く生まれたと思うだけ、それに「身元もわからない赤ん坊は施設に預けられまともなケアも受けられない。私が母親になって育てるわ」とルーシーと名づける
トムも正論だしイザベルも正しい。イザベルを愛しているトムは、結局は彼女の言い分を聞く。
責任と義務を弁えながら愛情故の苦渋の決断だった。

これでルーシーの身元が分からなければ問題はない。
本土の教会でルーシーの洗礼式集まりがあった時に墓地でぬかずく喪服の女性、ハンナ(レイチェル・ワッツ)を見かけ気になって墓碑銘を読む。
フランクとグレースに捧ぐ。死亡日はトムがボートを発見した日だ。

ドイツ人のフランクと結婚したハンナは富豪の父親ビル(ギャリー・マクドナルド)から勘当されていた。フランクはグレースを連れて散歩途中に大戦で家族をドイツ軍に殺された不良たちに痛めつけられ海へ逃れたのだった。

トムは責任と悔恨を痛烈に感じ、「貴女の子供は生きています」と墓前にメモを残す。
灯台創立60周年のスピーチでトムは子供を返すことを光を暗い海に届けると比喩的の述べ、更にボートでルーシーが抱いていた人形を届ける。

警察が島を訪れトムは逮捕される。トムはすべて白状しイザベルは何も知らないでルーシーの面倒を見ていただけだと主張する。

フランクを殺害し赤ん坊を奪ったことになりトムには死刑判決が予測される。

トムの底知れない愛情にも泣かされるが、ハンナに引き取られたルーシー(グレース)が「ママに会いたい。ママのところへ帰る」と泣き叫ぶシーンをイザベルは垣間見る。
「ママは私よ、ハンナよ」「違う本当のママ(Real Mama)」に会いたい!と泣き叫ぶルーシー(グレース)に涙する。

 Tearjacker(お涙頂戴映画)と言ってしまえばそれまでだが、幼い女の子を挟んでの三角関係の話はよく出来ていて涙が止まらない。

主演の心にトラウマを抱えた帰還兵を演じるのは「スティーブ・ジョブズ」や「それでも夜は明ける」などのマイケル・ファスベンダー。
夫を愛しながら夫の愛情につけ込み子供を手元に置きたい妻役を「リリーのすべて」などのアリシア・ヴィキャンデル。

「ブルー・バレンタイン」や「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」などのデレク・シアンフランスが監督と脚色。彼の映画の主人公はいつも心に闇を抱えている。

3月31日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される

「アラビアの女王 愛と宿命の日々」(QUEEN OF THE DESERT)(米・モロッコ映画):砂漠の遊牧民ベドウィン族と親交を深めイラクの建国に情熱を注ぐガートルード・ベル

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あと1週間の興行で終映と聞き、昨日(4日)は4時から丸の内TOEIに駆けつけた。
客の入りは半分を切る位で3週目を迎えた作品としてはまあまあだろう。

19世紀後半のイギリス。「アラビアのローレンス」以前に多くの部族のシャイフと交わりアラビアの世界に君臨した女性がいたとは、この映画を見るまで知らなかった。

裕福な鉄鋼王の家庭で何不自由なく育ちオックスフォード大学を首席で卒業した才女ガートルード・ローシアン・ベル(ニコール・キッドマン)は、上流社会のコースで定められた通り社交界デビューをするがその空気になじめない。

女性はお飾りとしか見なされない退屈なイギリスの官僚的保守的社会に嫌気がさし、父に頼み込んでイギリス以外の何処でも良いから旅立たせてくれと頼み込む。父親はテヘラン駐在公使である叔父がいるペルシャへと送り出す。

すっかりアラビアの砂漠に魅了された彼女は、ペルシャの公使館で三等書記官ヘンリー・カドガン(ジェームス・フランコ)と運命的に出会い、いつしか恋に落ちる。退屈だが魅力的なヘンリーをフランコは眉を動かしながら演じる。

ヘンリーはマケドニアの古銭を二つに割り、愛する者同士が片方づつを持とうと結婚を申し込む。
しかし父親は身分が違うと2人の関係を認めようとしない。説得すべく、一時帰国するガードルードだった無駄足で恋は成就しない。

再びアラビアへの旅に出かけそこで若いT.E.ローレンス(ロバート・パティンソン)に出会う。「ガーティ、僕と結婚しないでくれる?」20歳年下の若いローレンスの変なプロポーザルに驚くベル。10年以上に亘り二人の関係は続く。

2人の前にウィンストン・チャーチル植民地大臣がオットーマン帝国の政策を述べるシーンがある。
我々が良く知るローレンスやチャーチルが現れることでガートルード・ベルの存在感とカリスマ性が現実味と重要性を増す。

ベルはエジプト大使館でチャールズ・ドーティ=ワイリー少将と熱烈な恋に落ちるが、チャールズは妻帯者。離婚すると言えば自殺は間違いないと確信したチャールズは第一次大戦の激戦区・ガリポリに大隊長として志願し戦死する。これもヘンリーと同様自殺だとベルは思い涙する。

愛し合ったヘンリーやリチャードの死を乗り越え、不安定なアラブ情勢の中、第一次大戦も知らずに旅を続け、やがて大きな時代のうねりとともに、英国にとって欠かせない存在となっていく。

考古学者でありイギリス諜報部員としてアラビアの砂漠、2500キロを旅し、遊牧民ベドウィンの部族を解放してイラクの建国に情熱を注ぐ。

ローレンスのようなアラブの立場を英国政府へ明確にする動きをした訳でもないが、イギリス植民地局の中東課に勤務となったベルは若きシャイフの王子二人がシリアとイラクの王に就任する手助けしシナイ半島に国境線を敷いた。

20世紀初頭にイラン、ヨルダン、シリアなどアラビアの各地を約2500キロメートルにわたって旅し、やがてイラク建国のために尽力してイラクとヨルダンの国境線を引く功績を残したイギリス人女性ガートルード・ベルの半生を描いた作品だ。

女王、ベル役を演じるのはオーストラリア出身のオスカー女優、二コール・キッドマン。
ベルと悲恋に終わるペルシャ駐英大使館の書記官役に「スパイダーマン」などのジェームズ・フランコ、

若きローレンスのロバート・パティンソンは「トワイライト」の大ヒットで若者たちのアイドルだ
激戦区を志願して自殺のように戦死するダミアン・ルイスら芸達者で人気男優たちが脇を固める。

撮影はモロッコやヨルダンの砂漠地帯で4Kカメラを駆使して行なわれた。

 74歳のドイツ人、ヴェルナー・ヘルツォーク監督は個性派俳優クラウス・キンスキーとのコンビで「ノスフェラトゥ」、「フィッツカラルド」、「アギーレ/神の怒り」など強い個性の人物や驚異の大自然を描く話題作を立て続けに送り出しているが、そのラインの女性版でキッドマンを主人公に、過酷な運命に抗いながらも誇り高く生き続けた女の、愛と歴史の女傑の伝記映画を撮った。

 丸の内TOEI他で公開中
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