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Channel: 恵介の映画あれこれ
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「ソーセージ・パーティ」SAUSAGE PARTY)(アメリカ映画):ソーセージがバンの割れ目に生のまま入って合体することを夢見る、スパーマーケットの売り場。

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「マザー・ファッカー」「ジャック・オフ」「ビッチ」「カント」「ディック」など酷い4文字言葉が飛び交う映画。
翻訳者も苦労したことだろうと思う。

アメリカでも下層階級の男が使う下品な言葉が次々と発せられる。
その上人種差別、セクハラ、男尊女卑、いろんなタブーが山盛りだ。

アニメと言えば今年の夏も「ズートピア」「ファインディング・ドリー」「ペット」など大ヒットの連発。しかしこれらは子供向け、つまり両親付き添いのファミリーアニメだ。

だがこのアニメは子ども厳禁。大人向けで日本でも「R15+」の指定になっている。

アメリカでは8月12日の週末に新登場で「スーサイド・スクアド」に次いで2位にランキングされている。
デビュー週末3日間で3103館に公開され31.5M.
制作費は僅か19M(20億円).

シリーズものやスピン・オフの大作が支配するサマーシーズンにオリジナルで低予算作品のヒットは台所が苦しいソニー映画を救う映画。親会社もホッとする。

現在まで制作費の6倍、120億円ほど挙げている大ヒット作だ。

 企画・原案・主役吹き替えのセス・ローゲン(「スモーキング・ハイ」「ネイバーズ」など)が得意とするこの手のダーティジョークの映画はまず日本には来ないものだが、大ヒットに気を良くしたソニー映画が「ダメモト」で公開に踏み切ったと思われる。

Sausage Partyとは男だけで行うパーティーと言うスラング。
評論家の映画評は高い評価だが観客の出口調査(CS)ではB評価と普通。

「ショップウェル」は郊外にあるスーパーマーケット。
食材たちは選ばれ、買われることを夢見て毎日陳列されている。

 きっとスーパーを一歩出た外の世界は「楽園」に違いないと。
ソーセージのフランク(ローゲン)は、ホットドッグ・バンである恋人のブレンダ(クリスティン・ウィグ)の割れ目チャンに差し込まれ結ばれ(合体し)ホットドッ グになるのが幸せだと信じている。
合体前に「先っぽ」だけよ、と指でふれあう純情さ。

フランクは他のソーセージより背が低い。そのことをからかわれると「背が低くてもその分太い。バン(女)にとって太さが気持ちよくさせえる」と乗っけからセクシートーク。

そしてついに夢が叶う日が!二人揃って若い女性客がカートに放り込まれる。この女性客のピッチリのスラックスは割れ目もくっきり、裸で歩いているようだ。
だが二人を乗せたカートは他のカートと衝突横転のアクシデントが発生し、二人は外の「楽園」に出ることも叶わず閉店のスーパーマーケットに取り残されてしまう。

 夢に破れ絶望するフランクとブレンダ だが、実は命拾いしたことに気付く。なぜなら外に出てキッチンに入ると彼らは「食材」になるのだからだ。
「食われてタマるか!」をスローガンに定められた運命に逆う食材たちの闘いがはじまる。

「マダガスカル3」のコンラッド・バーノン、「劇場版きかんしゃトーマス」シリーズのグレッグ・ティアナンの共同監督。

 声の出演はローゲンのほか、クリスティン・ウィグ、ジョナ・ヒル、エドワード・ノートンなど。

 音楽は数々の「美女と野獣」などディズニー作品で知られるアラン・メンケンが担当。「腐っても鯛」、年を取ったメンケンの曲は相変わらずメロディアスで聞かせる。

 11月4日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で公開される

「ジェーン」(JANE GOT A GUN)(アメリカ映画):ナタリー・ポートマンの西部の鉄火女は元恋人と二人で悪漢ビショップ軍団と対決する

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 10月22日に始まったばかりだと言うのに丸の内ピカデリーでは最後の週だと言う。
29日(土)朝9時45分、1回だけの上映に駆けつけた。それでも30人程の観客が入っている。
 
 日本でもハリウッドでもウェスタンは苦戦する。
鳴り物入りでスタートした「マグイニフィセント・セブン」(日本では来年1月公開。オリジナルは黒澤明の「七人の侍」)もスタートはまずまずだったが脚が伸びていない。

ハーバードとイェール大学出身のインテリのナタリー・ポートマンは35歳になってプロデュースと主演を引き受けると並みのウェスタンは作らない。

「レオン」(94)で両親をマフィアに殺された少女でデビューしてから22年。
最近は「スター・ウォーズ」シリーズや「マイティ・ソー」などスーパーヒーロシリーズでロクな映画に出ていない。
自分でプロデュースして思い通りの作品に出たいと言う想いは分かる。

時代は19世紀後半、南北戦争後のニューメキシコの荒野の農園。
ある日出かけていた夫、ジョン・ハモンド(ノア・エメリッヒ)が農場の向こうまでやって来て倒れる。銃弾を数発浴びていて瀕死の重傷。

 今だったら救急車を呼ぶところだが、気丈なジェーン(ポートマン)はナイフを炙り肩や胸から鉛の弾を摘出し強いラム酒を掛けて傷口を焼いて消毒する。
悲鳴を上げる夫を叱咤激励しながら手術を終える。

しかし内臓に迄食い込んだ銃弾は摘出できないし、無理にすると致命傷になりかねない。

ベッドから動けない夫、ジョンはジェーンに娘を連れて逃げろと言う。
二人はビショップ一族と長い闘争を続けて来たのだ。

「後を追跡されている筈だ、2-3日の内に此処へやって来る」。
ジョン・ビショップは自分で町を建て人々を支配する大悪党でいつも軍団を12-4名率いて行動する。

ジェーンの夫も悪党でクビには2000ドルの賞金がかかっているから、保安官に助けを依頼することもできない。

ジェーンは幼い娘を連れて少し離れた知人の女性に預ける。
その足で助っ人になって欲しいとアバラ小屋に住む、ダン・フォレスト(ジョエル・エドガートン)を訪ねる。

 ダンは敏腕の早撃ちだがアルコール依存症。
この日もしこたま酔っていて、ムザムザ、ビショップ軍団にタマを取られる助っ人とはトンでも無いと断る。

「良いわ、一人でやる!」と捨て台詞にはこの時代の男には弱い。
西部劇では必ず男はフェミニストに変じるから面白い。

しかしジェーンとダンはただならぬ過去があった。
このことが徐々にフラッシュバックで観客に明らかにされて行く。

 南北戦争が勃発した1861年、北軍に徴兵されたダンは婚約者(何と!)のジェーンの耳元で囁く。
南部連合なんて人数も装備も北に比べれば子供だまし、
「なに、2-3カ月で戻って来るよ」
戦争は4年かかって終結したがダンは戻って来ない。
その間、ジェーンは手紙を書き続けたが一通も返事が無い。

そうこうしている内にビショップ一族に捕らえられ売春宿で客を取らされていたジェーンを救い夜逃げをしたのがジョン・ハモンド。
ビショップ軍団の幹部だったからボスのジョン・ビショップ(イーワン・マグレガー)の怒りもひとかどでない。

 避難させた娘は今の夫の子だが、ダンが出征した時に身籠っていた娘がいた。
それを聞いて飛び上がるダン・フォレスト。
戦場に出て直ぐに南軍の捕虜になり収容所で3年過ごしていたことを告白する。
その娘はジェーンがビショップの売春宿で働かされている最中に子分が川で溺れさせてしまったと。
身も心も絶望の果てに居たジェーンを今の夫が救ってくれた。

終戦後テキサスからニューメキシコとジェーンを訪ね歩いたが見つけた時にはジョン・ハモンドと結婚した後で娘までいる。

 ポートマンが制作する西部劇は複雑で屈折した女性が主人公で、二人の男に心から愛されている。
本来、ウェスタンは単純で素朴なものだが、この映画は一筋縄では行かない。

当然ダンはジェーンを助けることになるがダンディズムをひけらかすより「お金を貰って」口実を付けてビショップ軍団を待ち受ける。
1ダース以上の軍団と戦って生き延びる確率は低い。
お金は意味が無いのはジェーンもダンも知っている。

ここまでアクションも無い西部劇はいささか拍子抜けだが、準備万端を整える。
庭に灯油を詰めた瓶とダイナマイトを埋めトラップを作る。

ジェーンに射撃訓練をさせる。
ピストルは全くダメ。
「散弾銃で至近距離からぶっ放すから任せておいて」と大胆だ。

ナタリー・ポートマンの従来演じて来たキャラクターは嫋やかな優しさ溢れる女性だった。しかしここでは体格は肩幅広く頑丈で散弾銃をガンガンぶっ放すラストシーンに驚く。ビショップ軍団の殺傷力より前に娘を守ろうとする「母性本能」が強い。
言うこと行動に説得性があり、知識も資金も十分なタフなヒロインを演じ切る。

ダン役のジョエル・エドガートンは脚本・監督で「ギフト」を撮ったばかりで芝居の深みも幅も広まり恋人を取り戻そうと必死の演技が良い。

イギリスのベテラン俳優、ユアン・マクレガーがヒロインの前に立ちはだかる悪党ビショップを演じる。

監督は「ウォーリアー」のギャヴィン・オコナー。アクションよりも主人公たちの内面心理を鋭く抉り描いている。

 ビショップのクビには5000ドル、ジョン・ハモンドには2000ド。夫々の賞金を受け取り、ダンとジェーンと娘二人は夢の楽天地・カリフォルニアに向かう馬車のラストシーンは甘くて嬉しい。

丸の内ピカデリー他で公開中。

「僕と世界の方程式」(X+Y)(イギリス映画):自閉症だが数学は天才的な能力を発揮するネイサン少年は中国少年少女との合宿中に、これまでの人生が変わってしまう衝撃のロマンスを覚える

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この週末のアメリカの興行成績のチャートを見て驚く。

 当然、首位の座は海外に遅れること2週間で満を持したRon Howard監督の mystery-thriller「Inferno」(邦題「インフェルノ」ソニー映画配給:TOHOシネマズ日劇他で公開中)だと思っていた。

 トップは何とハロウィーン週末まで生き残ったキャリーオーバー2週目のTyler Perryの「Boo! A Madea Halloween」(日本公開未定)。2299館で16.7M.先週から僅かの41%ダウン。
タイラー・ペリーのお馴染みの女装「マディア」おばさん。腕白な10代の子供たちを守ろうとハロウィーンで現れる超常現象のポルターガイストや殺し屋や幽霊、ゾンビたちを退治して大暴れ。
LIONSGATEに10間で累積52Mをもたらした。

映画へ足を運ぶ人たちにいろいろと障害があった。
まず「ハロウィーン」の大騒ぎ。日本でもアメリカでもクリスマスに継ぐイベントに成長しています(日本では1345億円規模)。

 次いでワールドシリ―ズ中継、
「トランプvsクリントン」の最後のデベイト。

 「Inferno」にはジンクス「長く休んだシリーズものは当たらない」が呪いとしてある。

 コンビを組むのは3度目になるロン・ハワード監督と主演のトム・ハンクス。
ダン・ブラウン原作の「ダ・ヴィンチ・コード」(The Da Vinci Code)(06)から10年目、「天使と悪魔」(Angels & Demons)(09)から7年振りの第3弾だ。

SPEもジンクスを心得ていて、シリ-ズ3弾目が一番危険と制作費は150Mの「ダ・ヴィンチ・コード」と「天使と悪魔」の半分の75M(78億円)に落として臨んだ。

しかし「マディア」おばさんより1300館多い上映数3575館にも関わらず15.0Mの体たらく。「マディア」おばさんに1.7Mの差を付けられている。
SPE関係者は20-30Mを予測していただけに結果に失望は隠せない。


 さて今日の映画だ。
監督を務めたモーガン・マシューズは、この作品で長編劇映画デビュー。

 マシューズはテレビドキュメンタリー作家で「Beautiful Young Minds(原題)」で扱った神経発達障害を持つ児童の記録をもとにこの映画が作られている。
つまりいくらか手を加えたが事実に基ずく話だと言うことだ。

 自閉症スペクトラムと診断されているが、数学の理解力に飛びぬけた才能を持つ少年ネイサン(エイサ・バターフィールド)。
数字と図形だけが友だちだった孤独な天才少年ネイサン。

 ダスティン・ホフマンの「レイン・マン」やノーベル経済学賞受賞の実在の天才数学者、ジョン・ナッシュの半生を描く「ビューティフル・マインド」を思い出す。
彼らは多かれ少なかれ自閉症の症状を発症していた。

 大好きだった父ジェリー(マーティン・マッキャン)を交通事故で亡くす。
学校へネイサンを送る途中の交差点。
青で発進した父の車に赤信号で突っ込んで来る青いバン。
日本映画では音だけで処理するが父の運転する真横に凄いスピードでぶっつかるバンは信じられない。映画はこのようなビジュアルショックを抜かしてはいけない。

 父の死で母親ジュリー(サリー・ホーキンス)や周囲に心を閉ざしてしまった少年ネイサンは、他人とのコミュニケーションが苦手な反面、数学の理解力に関しては飛びぬけた才能を持っていた。

母親ジュリーは、普通の学校に適応できない息子の才能を伸ばそうと、数学教師マーティン・ハンフリーズ(レイフ・スポール)に個人指導を依頼する。
ポールはアン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ」で虎と一緒に漂流した役は秀逸だった。

マーティンも変人だ。
かつて数学オリンピックに出場し将来を期待された教師だが多発性硬化症のため自分の夢を諦め数学教師で糊口を凌いでいるが、レイサン少年に出会って目の色が変わる。自分の夢をこの子に実現して貰おう。

マーティンの指導の下、ネイサンは国際数学オリンピックのイギリス代表チームの一員に選ばれるまでになる。
代表チームの台北合宿に参加したネイサンは、そこでライバルの中国チームの少女チャン・メイ(ジョー・ヤン)と出会う。
中国は数学オリンピックで必ず優勝をさらうチームだ。

実力で中国チームに選抜されたチャン・メイは才能溢れた可憐な少女だ。
彼女と共に学ぶ日々は、数学一色だったネイサンの人生をカラフルに変えていく。

そして、数学オリンピックの本番はロンドンへ移り、ケンブリッジ大学トリニティカレッジで行われることになる。
しかし眠れないとメイはネイサンの部屋へ忍んでやって来たことをネイサンを横恋慕する女子学生がメイの父親に告げ口することから起きる大騒動。

数学オリンピック当日、ネイサンは人生最大の選択を迫られる…

ネイサンは、亡き父の思い出と母の深い愛情に支えられて国際数学オリンピックで金メダルを目指す。でも、彼がそこで見つけたものは、メダルより貴重な宝物、それはロマンス、チャン・メイへの思慕だった。

主演は「ヒューゴの不思議な発明」などのエイサ・バターフィールド。ハリポタのような純真な顔つきが良い。しかし自閉症は芝居では見えない。この後ティム・バートンの新作「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」でも主役を務めている。

父亡きあとの唯一の理解者・母親役は「ブルージャスミン」などのサリー・ホーキンス、
寝食を忘れて指導する教師は「もうひとりのシェイクスピア」などのレイフ・スポールなど、イギリスのベテラン名優たちが脇を固める。

ロケが行われた数学オリンピックの舞台、ロンドンのケンブリッジ大学トリニティカレッジはインドの独学で数学を研究し数々の「定理」や「証明」を行った天才数学者、スルナヴァサ・ラマジャンの短い生涯を描く「奇蹟がくれた数式」(THE MAN WHO KNEW INFINITY)(イギリス映画)で描かれるニュートンやラマジャンなどの数学のメッカでもあり、また32人のノーベル賞受賞者や、フィールズ賞受賞者など数多くの著名人を輩出している。

実話だけに迫力ある青春物語だ。

2017年1月28日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「ザ・コンサルタント」(THE ACCOUNTANT)(アメリカ映画):表の顔は田舎町の会計士、裏は闇社会の掃除人のクリスチャン・ウルフをB・アフレックは飄々と演じる

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この映画、アメリカで10月14日のデビュー週末3日間で首位を取った。
 ベン・アフレック主演のアクション・スリラー「The Accountant」(邦題「ザ・コンサルタント」:WB配給1月21日より丸の内ピカデリー他で公開される)は3332館で開けて24.7Mと予測以上の成績だった。(計理士が何故「コンサルタント」かわからないが)

批評家は厳しい評を下しているが、観客は出口調査でA評価と好評。

制作費は40M(42億円)を切るのでリクープは問題ない。
観客層は25歳以上が86%、内35歳以上が68%を占める。

海外ではアジア中心に10カ国で開け2.8Mとゆっくりしたスタート。

WB国内配給社長、ジェフ・ゴールドスタインの事前予測は16-17Mと言うところだったので目標値を超えたとご満悦。

アフレック主演映画では「The Town」の23.8 Mやオスカー作品の「Argo」19.5Mを上回る。
ベン・アフレックは「Good Will Hunting」で親友のマット・デイモンを助け、ジェイソン・ボーンで大スターに仕立てた。
その後「タウン」や「アルゴ」で自前の道を歩んだがこの頃は「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」でバットマンを演じてバットマンのキャラが定着しそうだ。親友とイーブンの関係が保てる。

 と思っていたら、新たなアンチ・ヒーロー役でシリーズ化に挑戦する。
小さな田舎町で会計士として働くクリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)。
昨日のブログでも紹介した主人公と同様に「自閉症スペクトラム」。数字と図形にずば抜けた記憶力と才能を発揮する。

 クリスチャンの才能を見込んだ父親は武器の使用と数字の駆使を徹底的に鍛える。1マイル(1.6キロ)離れた瓶を粉々に砕く狙撃銃の腕前に驚かされる。
10桁の数字の計算も火器を扱うのと同様簡単にやってのける。素手で殴り合いの闘いに出場し3人の剛腕の大人をアッと言う間に悶絶させる。つまり会計士でありながら凄腕の暗殺者と言うキャラクターにつくりあげた。

 クリスチャンのもとに、ある日大手企業「リビング・ロボティックス」創立者ラマー・ブラック(ジョン・リスゴウ)からの財務調査の仕事が来る。
調査を進めるうちに彼は企業の計理士ダナ・カミングス(アナ・ケンドリックス)からの内部告発で重大な不正を発見する。

 依頼は突然取り下げられ、それ以来マフィアの陰がチラつきクリスチャンは身の危険を感じるようになる。
クリスチャンは闇の社会の会計士として各国の危険人物の裏帳簿を探る「闇の掃除人」だったのだ。

サイドストーリーで面白いのはアメリカ政府経済犯罪捜査課レイ・キング(J・K・シモンズ)。仕事もパッとしないし出世もしない。荷物を纏め辞職届を出そうとするとデスクの電話が鳴る。クリスチャンの秘密情報だった。それを切っ掛けにクリスチャンとの関係が出来とんとん拍子に出世し局長にまでなる。
「セッション」でオスカーを獲ったシモンズは相変わらずのスキンヘッドだが随分と控えめだ。
これからは若い世代に引き継ごうと白羽の矢を立てたのが部下のメディナ(シンシア・アッダイ・ロビンソン)。手柄は二人で共有する。

 ラストに突然ブラックの雇った暗殺者がクリスチャンに襲い掛かる。これが子供の時に別れて10数年の弟ブラックス(ジョン・ハーンタル)だから驚きだ。互いに精魂尽きて少年の頃の想い出話に耽る。
自閉症の主人公には何が起こるかわからない、予測不能だから面白いのかも。大人になっても人とのコミュニケーションが出来ない、表情がない、ルーチンの生活が破られると狂いそうになる、そんな男を、アフレックは淡々と虚ろな目の無表情で演じている。

「マイレージ、マイライフ」で注目されたアナ・ケンドリックもブラックに雇われているナイーブな計理士でそんな大切な書類と認識せずクリスチャンに漏らす芝居が良い。

 続編が楽しみだ。

1月21日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「ダーティ・グランパ (DIRTY GRANDPA)(アメリカ映画):祖母が死んで40年振りに独身に戻った祖父を、孫が慰めがてらフロリダ・デイトナビーチに連れて行くハチャメチャの旅。

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祖父と孫のロードムービーといえばブルガリア・ドイツ映画で2012年5月の「さあ帰ろう、ペダルをこいで」を思い出す。

国家の歴史に翻弄され離ればなれに暮らしていた祖父と孫が、ドイツから故郷ブルガリアへとタンデム自転車で旅をするロードムービーは胸キュンの映画だった。

それに引き換えMTVの人気番組「ジャッカス」の映画版で2014年3月の「ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中」は86歳のアーヴィンじいさんと8歳の生意気な孫ビリーの2人が、ビリーの父親を探す旅の途上で、スーパーでの万引き、結婚式に乱入してシャンパンタワーにダイビングなど、数々のイタズラを繰り広げる珍道中を描いていてこの映画に似ている。


8歳ではないがアリゾナで活躍して居る弁護士が祖母を亡くした祖父を慰めようと珍道中を重ねるバカバカしいドタバタ喜劇。オスカー俳優のロバート・デ・ニーロがこんな自分の輝かしいキャリアの終盤にこんなアホな映画に出るとは驚きの限りだ。
アメリカでは今年の1月22日に公開されそのデビュー週末で、4位に入っている。2192館で上映され11.5Mはまずまずの成績だ。2月の上旬まで30Mを少し超えたがそこでチョン。制作費は回収できたのだろうか?
でもまさか日本へやって来るとは思わなかった。

結婚式や出世について気もそぞろな孫ジェイソンに、祖母を亡くして40年振りに独身にもどった祖父は人生を謳歌するということはどういうことかを教えようとする。
観客の出口調査ではB評価で余り高くない。

1週間後に結婚式を目前に控えナーバスになっている若手弁護士の青年ジェイソン(ザック・エフロン)は、祖母を亡くしたばかりの退役軍人の祖父ディック(ロバート・デ・ニーロ)を慰めようとジョージアの祖父の家の葬儀にやって来る。
生真面目なコーポレイト弁護士のジェイソンは上司の娘、メレディス(ジュリアン・ハフ)との結婚を控えている。

結婚すれば、その事務所のパートナーになることができるのだが、独身に戻った祖父は祖母と毎年行ったフロリダ州デイトン・ビーチまで連れて行けと、一緒にドライブする羽目になる。車はメレディスのピンク色のミニ・クーパー。祖父は「ピンクのラビア(大陰唇)」と綽名をつける。
ことほど左様にディックは下品な言葉のオンパレード。

孫を「レズビアン」と呼び、屈むと必ず肛門に指を突っ込む。
何が面白いか訳が分からない。

人種差別的発言は数知れず、黒人の出現は余命一カ月のベトナム戦争時代の戦友・スティンキー(ダニー・グローバー)をホスピスに訪ねて旧交を暖めるシーンだけだ。
因みにディックは「オチンチン」、「スティンキー」は「臭い」の意。

オチンチンの落書きが顔に描き込まれていたり、エフロンが全裸になってモリモリの筋肉を見せたり。孫のチンポが隔世遺伝で祖父のモノを受け継いでいると自慢し、お前の父親は母親のDNAを受け継いでいるから「小さい」と訳が分からないことを言う。
ともかく日本人には理解できないジョークが多い。

旅の途中でゴルフ場へ寄り、そこでジェイソンの学友だった、シャディア(ゾーイ・ドゥイッチ)に出会う。シャディアは元恋人、今は写真家を目指している。祖父、ディックはシャイアの友達、レノーア(オーブリー・プラザ)に一目惚れ。彼女は年上男性が好きで「大学教授は憧れの的」だと。
祖父は「自分は大学教授だ」とでまかせを言う。

しかし旅先では、若者のように奔放なディックがやりたい放題。
ワイルドなパーティー、バーでのケンカ、カラオケ・ナイトなどでジェイソンはバーの乱闘に巻き込まれたり、麻薬を吸ったりと、牢獄にぶち込まれるなど終始振り回される。

72歳のロバート・デ・ニーロと29歳のザック・エフロンが共演し、自由奔放な祖父と真面目な孫が繰り広げる珍道中を描いたバディコメディ。

目的地のデイトナ・ビーチはスプリング・ブレイク(春休み)でムチムチの女子大生が溢れている。

ミュージカルタレント上がりのエフロンが得意の喉を聞かせるのは当然だが、デ・ニ―ロがアイス・キューブのラップ「It was a good day」を見事に歌うのにビックリ!
おまけにエフロンに負けない筋肉の締まったボディを見せる。元ベトナム戦争の特殊部隊、グリーン・ベレー中佐の腕前は与太者たちの喧嘩でも錆びついていない。

「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」の製作総指揮と脚本を手がけたダン・メイザーが監督を務める。
サシャ・バロン・コーエン並みの出鱈目さとジョークをデ・ニーロに求めているが、負けじと精一杯演じているデニ―ロも凄い。

1月6日よりTOHOシネマズみゆき座他で公開される

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(EYE IN THE SKY)(英国映画):ケニア・ナイロビの隠れ家のテロリスト達をミサイル攻撃の瞬間、外でパン売りの少女の姿が。

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 このブログでも以前紹介したがドイツの刑事弁護士で小説家・フェルディナント・フォン・シーラッハの「テロ」で描かれる裁判での議論がこの映画のテーマと似ている。

被告はドイツ空軍少佐ラース・コッホ。
2013年7月26日20時21分、空対空ミサイル・サイドワインダーでルフトハンザ航空機を撃墜し乗員乗客164人を殺害した。

少佐は戦闘機ユーロファイター・タイフーンを操縦していた。
ルフトハンザ機は19時20分、ベルリン=テーゲル空港を発ち20時30分にミュンヘン空港に到着予定だった。

 その旅客機は19時32分にテロリストにハイジャックされミュンヘン近郊のサッカー場、アリアンツ・アレーナに墜落させる積りだとテロリストは機長を通じて伝えて来た。
アルカイダから分派したテロ組織の自爆テロだ。

当日はドイツ対イギリスの国際試合が行われ、7万人近い観衆が集まっていた。
規則通りの航路妨害や威嚇の機銃掃射をするが無線は切られたまま、一直線にサッカー場へ下降している。
アリーナまで後25キロのギリギリの地点でミサイルを発射、ルフトハンザ航空機は撃墜され164人は全員死亡する。

しかし裁判では、7万人を救った数は問題にされない。
その数にいかなる差があろうと人間の生命を他の人間の生命と天秤にかけることは過ちであり許されない。

このような極端な状況下にあっても「人間の尊厳」は最上位の原則である。
乗客は殺害された。
人間としての尊厳、譲渡不能の権利、人間としての全存在が軽視された。
人間はモノではない、人命は数値化できない、と「有罪」判決を受ける。

 しかし次章では「無罪」判決を下している。
(読者にオプションを提供する)
それは「超法規的緊急避難」による判断だ。これはドイツ基本法、刑法以下いかなる法律にも規定されてはいない。

被告人が真摯かつ良心に従って正しい決断を試みたことに疑いは無い。被告人はスタジアムにいる人間を救うために旅客機を撃墜した。
客観的により「小さな悪」(Lesser Evil)を選択したのだと。


この映画では重要な指名手配のテロリスト4人と自爆テロ準備中の2人をミサイルで空爆したい。
だが彼らの家の前でパンを売っている9歳の少女をまきぞえにしたくない。

ここで攻撃しなければ直ぐに人混みの多い市場に出かけ自爆テロを行い80-100人が死ぬことは間違いない。
少女1人の命と100人の市民の死とどちらを選択するかと言う議論がたたかわされる。

メインの舞台はイギリス、ロンドンの「コブラ」(英国内閣会議室)。
軍の諜報機関司令官、キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、国防相のフランク・ベンソン中将(アラン・リックマン)と協力して、アメリカ軍の最新鋭のドローン偵察機を使い、英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮している。

上空6000メートルを飛んでいる空の目(EYE IN THE SKY)であるリーパー無人航空機が、ケニア・ナイロビの隠れ家に潜んでいるアル・シャバブの凶悪なテロリストたちをつきとめている。テロリストにはイギリス国籍が2人とアメリカ市民が1人いる。中でも若い白人の英国女性(レックス・キング)は注目の的だ。

その映像が、イギリス、アメリカ、ケニアの司令官たちがいる会議室のスクリーンに映しだされるが、彼らが大規模な自爆テロを決行しようとしていることが発覚し、任務は捕獲から殺害作戦へとエスカレートする。

アメリカ、ネバダ州ラスベガス近郊のクリーチ米空軍基地では、新人のドローン・パイロットのスティーブ・ワッツ中尉(アーロン・ポール)が、パウエル大佐からの指令を受け、強力なヘルファイア・ミサイルの発射準備に入る。
発射から50秒でターゲットを破壊する。

だが、ミサイル発射で破壊準備に入った時、殺傷圏内に9歳の少女(アイシャ・タコウ)がシャバブ邸宅の外でパンを売っていることがわかる。

予期せぬ民間人の巻き添え被害の可能性が生じたため、軍人や政治家たちの間で議論が勃発し、少女の命か?テロリストの殺害か?がたらい回しにされる。
パウエル大佐は、少女一人を犠牲にしてでも80人を間違いなく殺害するテロリスト爆撃を優先しようとする。

強力に反対意見を述べるのは政務次官でアフリカ担当のアンジェラ(モニカ・ドラン)。
例え自爆テロがこの後行われようと目先の少女の命が優先されなければならないと。

人道主義的考えに英国首相やシンガポールで武器を売りこんでいるウィレット外相(イアン・グレン)も巻き込むが、夫々言い逃れで決断を下さない。
外相がシンガポール料理に当たってスピーチの最中に腹を抑えて部屋に駆け込むのがオカシイ。

そこへ行くとアメリカはハッキリしている。北京でピンポン外交中のスタニック国務長官(マイケル・オキーフ)は「何を迷うことがあるのか」と言う調子でミサイル発射を命じる。

911の際ハイジャックされた4機目の「ユナイテッド航空93便」は明らかに米空軍のミサイルで撃ち落とされペンシルバニアに墜落している。

ホワイトハウスはテロに屈服しない、より「小さな悪」(Lesser Evil)を選択する。コブラに割り込んで来た国家安全保障会議上級顧問,ゴールドマン女史もグズグズするなと発破をかける。

アンジェラは強硬だ。少女を巻き添えにしたことがSMS動画でアップされたらイギリスの評判はガタ落ちだと。
コブラの面々も決断をくだせない。
自爆テロリストの準備は完了、すぐにでも家を出ようとしている。

この映画を見る前は昨年10月に公開されたアンドリュー・ニコル監督とイーサン・ホーク主演の「ドローン・オブ・ウォー」と同じテーマだと思っていた。

しかし全く違うテーマだし、映画の出来も違う、B級の戦争映画だった。

戦闘機ドローンにより、戦場に行かずしミサイル空爆を行う現代の戦争の実態と、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しめられるドローン操縦士の異常な日常を描いていた。アメリカだけに英国的悩みなないただパイロットのPTSDを問題にしていた。

主人公は「クイーンs」「黄金のアデーレ」など高い評価を受けてきたオスカー女優、ヘレン・ミレン。イギリス軍司令官キャサリン・パウエル大佐を演じる。

ドローン・パイロットには、日本では馴染みが無いがテレビドラマ「ブレイキング・バッド」で3度のエミー賞を受賞して注目されているアーロン・ポール。の

ベンソン中将で国防相役に、「ハリー・ポッター」シリーズのスナイプ先生でお馴染みのアラン・リックマン。これが遺作となりエンドクレジットに献辞が出る。

 ミサイル攻撃でテロリストを壊滅した後アンジェラはベンソン中将に「良心の呵責も無い」と嫌味を言う。
「私は現役の時自爆テロに5回立会い、散乱した何百の死体の跡片付けをしてきた」と映画人生最後のセリフを言い残して立ち去る。

さらに脇を固めるのはジェレミー・ノーサム、イアン・グレン、フィービー・フォックスなどベテラン出演陣。

監督は「ツォツィ」でアカデミー賞外国語映画賞を受賞し、南アフリカからハリウッドに乗り込み「ウルヴァリン:X-MEN ZERO』などで注目されているギャヴィン・フッド。

12月23日よりTOHOシネマズシャンテ他で公開される。

「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」(DEMOLITION)(アメリカ映画):ウォール街の投資銀行役員で出世コースの主人公は妻の突然の死に涙一つこぼれない、何かがおかしく人生総てが狂ってしまう。

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義父がCEOの投資銀行の役員としてなんの不自由もない日々を送っていた主人公デイヴィス・ミッチェル(ジェイク・ギレンホール)。

映画の冒頭、ウォール街へ向かう高速道路(FDR)を妻・ジュリア(ヘザー・リンド)が運転しながら色んな事を喋っている。

仲の良い「母とは喧嘩していてこの3日間、口をきいていない」とか
「冷蔵庫を直してくれない?」
「雨の日は気にならないが、晴れの日は水が漏れているのが気になるの」

 邦題はこのセリフのバリエーションだ。
原題の「DEMOLITION」は「破壊」とか「解体」の意味で主人公のその後の行動を指すのだが、
これでは客が集まらないと無意味なタイトルを付けた。

 主人公の気持ちはこんな甘いものでは無い。

 FDR(高速道路)でどうすればあんな事故が起こるか分からないが運転席の真横にいきなり衝突される大事故でジュリアは瀕死の重傷を負う。

 助手席のデイヴィスは一緒に救急搬送された病院で意識を取り戻すと隣りのベッドは空で妻は既に死亡し、自分のシャツやズボンは妻の返り血を浴びている。

 傍に誰も居ない、突然空腹を覚え廊下に出て自動販売機でm&mを買おうと25セント5枚を入れるが出てこない。
妻の死亡をそっちのけで販売機をバンバン叩き、近くのキオスクの従業員にしつこく聞く。
ジュリアの父、フィル(クリス・クーパー)や母マーゴット(ポリー・ドレイパー)が駆けつけて来るが、涙もこぼれない。
「彼女のことを本当に愛していたのだろうか?」

 フィルは涙を抑えているのだと勘違いしてデイヴィスを褒める。
「男はああでなければいけない」
葬儀の翌日から出勤(秘書が驚く)NYマンハッタン・ウォール街の高層タワーの上層階で空虚な数字と向き合う、味気ない日々。

 突然の交通事故で美しい妻を失ったのだ。
しかし一滴の涙も出ず、哀しみにさえ無感覚になっている自分に気づくディヴィス。

 仕事に手がつかないまま、熱心に自動販売機の「チャンピオン」のカスタマー・サービスに
長い苦情の手紙を書く。毎日書く。

 ある夜、午前2時に苦情受付の女性、カレン・モレノ(ナオミ・ワッツ)から手紙を読んで感動したと電話がある。
これこそデイヴィスが求めていたものだ。
モレノと言ってもラティノで無く白人で金髪だとカレンは告げる。

 デイヴィスはストーカーになり、カレンの家を突き止め訪ねるが真夜中に非常識だとボーイフレンドが出て来て追い返される。

それにも懲りず相変わらず訪問して来るデイヴィスをカレンは家に入れる。
カレンは心のどこかで既に受け入れていたのだ。

 カレンのローティーンの息子、クリス(ジュダ・ルイス)と仲良くなる。
学校での問題児で小太りで長髪、デイビッド・ボーイやローリング・ストーンズなどのクラシカルなロックファンなのもデイヴィスの趣味に合う。

  スパーマーケットで大きなハンマーやのこぎりなど解体作業の道具を買いながらクリスは聞く。
「僕はゲイなのだろうか?」
「1年下の男の子が気になり、その子のチンポを舐めたくなる」
「そりゃゲイだ。2-3年誰にも言わずサンフランシスコかLAに行ってからカミングアウトしろ」と適切なアドバイスも笑える。

「心の修理も車の修理も同じことだ。まず隅々まで点検して、組み立て直すんだ。」という義父。
フィルからの言葉が引き金となり、ディヴィスは、身の回りのあらゆるものを破壊しはじめる。

 会社のトイレから始まり、瀟洒な自宅の高価な家具や大型TV,パソコン、妻のドレッサー、鏡台、絵画あらゆるものをスレッジ・ハンマーや斧、鶴嘴でぶち壊し(Demolition)始める。

 そして自らの結婚生活の象徴である「家」さえもブルドーザーで根こそぎ押し倒し潰してしまう。
あらゆるものを破壊していく中で、ディヴィスは妻が遺していた幾つもの「メモ」を見付けるのだが、その一つが冷蔵庫の覚書だった。
周囲から虐められているクリスがでスレッジ・ハンマーを振るいながら生き生きとした表情は印象的だ。

 会社の仕事は放り投げ、唯一フィルの作った「ジュリア奨学基金財団」もおろそかにするデイヴィッドに流石の義父も怒る。

 自分の気持ちと向き合い、苦悩し、葛藤し破壊活動で精神を収め新しい恋人カレンとその息子クリスに救われていく様を描く過酷なヒューマンドラマだ。

 主人公デイヴィスは「ブロークバック・マウンテン」の同性愛の演技でオスカー助演賞にノミネートされるなど演技派の役者だったジェイク・ギレンホール。太ったり痩せたりつまらない作品に出ていたが久し振りに素晴らしい演技を見せる。

 無感情になってしまったデイヴィスの心を理解しその中へ入り込む自動販売機の苦情処理係りでシングルマザーを演じるナオミ・ワツも良い。

 監督は「ダラス・バイヤーズクラブ」「わたしに会うまでの1600キロ」など佳作を撮り続けるカナダ生まれのジャン=マルク・ヴァレ。
幸せを掴もうともがき苦しむ人間を情緒的な映像で押えるイヴ・べランジェの繊細なカメラが捉えている。

 しかし日本人はいくらもがき苦しんでも、あれほど瀟洒で高価な家や家財道具、美術品や装飾品をスレッジ・ハンマーやブルドーザーで破壊し尽しはしない。アメリカ人は「野獣」ですな。

2月14日より新宿シネマカリテで公開される

「ミス・シェパードをお手本に」(The Lady in the Van)(イギリス映画):誇り高い路上生活者のミス・シェパードのヴァンを15年も自分の家の庭に駐車させた劇作家の稀有な体験実話の映画化。

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冒頭のクレジットで「これは殆ど実話に基ずく」(a mostly true story)と断り書きが入る。
劇作家のアラン・ベネットが浮浪者のミス・シェパードの過去に一部不明な部分があり、それを想像(フィクション)で補わなければならなかったからだと断っている。

それにしても驚いた話だ。
ホームレスの婆さんを自宅の私道(ドライブウェイ)に15年も置いてやると言う優しさと寛容さ。
「年寄を追い出すほど冷酷になるには自分は余りに怠惰過ぎる」と、言い訳も可笑しい。

アラン・ベネット(アレックス・ジェニングス)が文化人や芸術家が多く住む北ロンドン・カムデンのクレセント通りに越して来た1960年代からすでにミス・シェパードは通りで暮らしていたと言う。

プライドが高いレイデイ然としたミス・シェパード(マギー・スミス)は、路上に停めたオンボロの黄色い車ヴァンを住居として自由気ままに生活していた。

近所の住人たちは(イギリス人って優しい)年老いた彼女を心配し親身に世話を焼こうとするが、お礼を言うどころか悪態をつくばかり。
梨を持って来た女性に「水分が多くオシッコが出るからキライだ」とか花束を呉れた男性には直ぐ枯れるから要らないと悪態をつく。
クリスマスプレゼントなどは次々と受け取りながら寒いからと直ぐに扉を閉めて、お礼も言わない。

最初に停めた家の子供たちの演奏する楽器が酷いと直ぐに車を移動する。音楽に対しては酷く潔癖で完全な音を求めているようだ。

通りに黄色い線が敷かれ路上駐車禁止となり、ヴァンが撤去されそうな姿を見かけた、ベネットは親切心から自宅の私道(ドライブウェイ)をひとまず避難場所として提供する。ベネットは車を持たず、自作自演のウェストエンドの劇場へ出演のために自転車で通っている。

「まあ、3カ月も居たら何処かへ行くだろう」
それから15年も居座ることになるとは思いもしなかった。
正確には1974年から89年に息を引き取るまでベネットの書斎の鼻先の私道でに停めたヴァンの中で生活をしていたのだ。

15年も面倒を見ながら最後の目撃者を3カ月に一度しか来ない福祉事務所の黒人女性に奪われたことに腹を立てる。

この驚くべき経験談を「ヴァンに乗った淑女」(The Lady in the Van)と題して死後10年経った1999年に舞台に乗せ、M・スミスとA・ジェニングスが演じていたが、それをそのまま映画化することになった。

ベネットと組むのは3度目のニコラス・ハイトナー監督は映画化は単純ではないと考えた。
舞台ではカルカチュアの喜劇で通るものが、大型画面で展開すると隙間風だらけのウソになってしまう。
だから劇作家(夢想家)のベネットと生活者(常識人)のベネットの同一人物二役を登場させ夫々の視点でとらえる描き方を提唱する。
互いに議論しあい妥協しあって老婆を見て行く。

ミス・シェパードは駐車場に居座り続け、2人は家の外と中で奇妙な共同生活を送っている。
かなわないのは風呂に入ってないので体臭がひどく、特に健康のためと生の玉ねぎを常食とするので臭う。
家中が臭くなるのでトイレの使用を禁じると、クソ(Shit)を車の辺り一面にまき散らす。
「介護とはクソの始末をすることだ」と達観するのも笑える。

彼女の高飛車な態度や突飛な行動に頭を抱えつつも、いつしか不思議な友情が生まれていた。
ベネットはなぜかフランス語が堪能で音楽にも造詣が深いミステリアスなこの老浮浪者に作家としても惹かれてゆく。
若い頃を聞いてみると、嘱望されたピアニストでパリで先生について勉強したが、一方では敬虔なカトリック教徒で修道女を志すが司祭からピアノを禁じられてしまいキャリアは終わったのだと言う。
若き日のシェパードがフルオーケストラをバックにショパンのピアノ協奏曲を演奏するシーンがフラッシュバックする。

夜になると時々元警官のアンダーウッド(ジム・ブロードベント)がバンの老嬢を訪ねて来る。
「本当の名前はマーガレット・フェアチャイルドだろう」
シェパードは頑なに否定する。
「そんな人は知らない。自分はメアリー・シェパードだ」と。

実は交通事故で若者を殺し(勝手に暴走したオートバイが突っ込んで来たのだが)偽名で警察の拘束を逃れている疚しさがあったとアンダーウッドは葬儀でベネットに教える。

ミス・シェパードに見抜かれていたがベネットに弱みがある。
老いさらばえ認知症の母親、ヴォ―ン(フランシス・デ・ラ・トゥーア)の面倒を見ず老人ホームに送り込みながら自作芝居のネタとしていること。
それに一般市民の同情をかわない同性愛者だと言うことだ。

イギリスを代表する劇作家アラン・ベネットの実経験をもとにした稀有な物語の映画化は見どころ一杯だ。

「ミス・ブロディの青春」(68)や「カリフォルニア・スィート」(78)でアカデミー賞の名女優マギー・スミスだが最近では賞に引っかかる作品は無い。
この映画は、舞台でも同じ役を演じたマギー・スミスの間違いなくはまり役で受賞のチャンスがあるのではないだろうか。

劇作家ベネット役のアレックス・ジェニングスは余り馴染みがないが、英国ナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなど舞台で活躍する。

脇を固める、ジム・ブロードベント、フランシス・デ・ラ・トゥーア、ロジャー・アラムなどイギリスのベテラン俳優陣は皆芸達者で落ち着いて見れる。


監督のニコラス・ハイトナーは舞台演出家で、映画「英国万歳!」などでベネットと組んだほか、シェイクスピアの舞台劇を映画にして世界に紹介している。

12月10日より銀座シネスィッチで公開される。

「マダム・フローレンス!夢見るふたり」(FLORENCE FOSTER JENKINS)(英国映画):M・ストリープ演じるはNYの大富豪で音痴のくせにカーネギーホールを目指す歌姫

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68歳のメリル・ストリープはアカデミ-賞は19回ノミネートされ,主演女優賞を「ソフィーの選択」(82)、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(11)で、助演女優賞を「クレイマー、クレイマー」(79)でと、オスカーを3回受賞している名女優だ。

ミュージカル映画「マンマ・ミア」(08)でも澄んだ歌声を、「幸せをつかむ歌」(15)ではロック歌手役で見事な喉を披露している。観客は皆そのことを承知している。
それが音痴で聞くに堪えない歌姫を演じるのだから、如何に苦心して下手に歌うかを努力したのだろうか?

ストリープはいつだって「良い役」(plumb role)だけだが古稀を迎える歳になって人々が眉を顰め敬遠する役柄に挑むのはキャリア・チャレンジだろう。

 もう一つの話題は今年の春公開されたフランス映画で「偉大なるマルグリット」だ。
フローレンス・フォスター・ジェンキンスをモデルとして舞台を1920年のフランスに置き換え富豪で自由奔放な音痴の歌姫マルグリットの数奇な運命を、「大統領の料理人」のカトリーヌ・フロ主演で描く。、パリ郊外にある貴族の邸宅で開かれたサロン音楽会に参加する。しかし主役であるマルグリット夫人は、救いようのない音痴だった。
しかも周囲の貴族たちは礼儀から彼女に拍手喝采を送り、本人だけが事実に気づいていない。野心家のボーモンはマルグリットに近づくために翌日の新聞で彼女を絶賛し、パリの音楽会に出演者として招待する。音楽を心から愛するマルグリットは、本当のことを言い出せずにいる夫ジョルジュの制止も聞かず、有名歌手からレッスンを受けはじめる。

 同じ人物を描くのだから舞台や時代を変えてもストーリーは変わらない。
しかしこのフランス映画は金持ちや資本家を批判し皮肉っている。
映画のトーンもアートハウス向きだ。

メリル・ストリープは音痴でも、コメディアンヌでも一流。声量があるのでカトリーヌ・フロよりも数倍の調子外れ。
フランス映画に比べこちらは大喜劇なのだ。

しかし、こんな短い期間に日本人は誰も知らない「マダム・フローレンス・フォスター・ジェンキンス」が取り上げられて米仏の大物女優が競演するのは珍しい現象だ。

今でもカーネギーホールのアーカイブで人気が一番だという伝説の音「音痴歌姫」の実話をメリル・ストリープ&ヒュー・グラントの共演で描く喜劇。

 アメリカ人ソプラノ歌手(を夢見る)フローレンス・フォスター・ジェンキンス(ストリープ)は最初の夫フランク・ジェンキンス医師から梅毒をうつされ直ぐ離婚をするものの50年の長期にわたって難病を患っている。

 イギリスの伯爵の息子として生まれながら諸子なのでアメリカに渡りシェイクスピア俳優を舞台で時々演じている夫、シンクレア・ベイフィールド(St.Clair Bayfield)(ヒュー・グラント)とは結婚して25年になるが、別々の家に暮らしている。

 妻が寝込むとタクシーを拾い自由奔放な若い美人、キャサリーン(レベッカ・ファーガソン)のアパートへ出掛ける。

 副作用の強い薬を服用しているフローレンスは、自分の病気を夫にうつすことを心配していたのだ。寝る時に鬘を取ると頭はスキンヘッド。滅多に見られぬ大女優の禿げ頭だ。

 そんなある日、フローレンスは歌手と一生懸命にやろうとこれまで投げやりにしていたボーカルレッスンを、メトロポリタン・オペラの指揮者、カルロ・エドワーズ(デイビッド・ヘイグ)を雇って再開することに。カルロはどうしようもないことを知っているがシンクレアから莫大な金を受けっている。

ピアニストのコズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)を雇うが、マクムーンはフローレンスの
あまりの音痴さに唖然とする。

 音痴だと知っていながら彼女の歌唱力を称賛する夫シンクレアとそのボーカルコーチであるカーロ・エドワーズ(デイヴィッド・ヘイグ)を非難する。だがマクムーンにしても十分に払われて生計をたてねばならない。

 音程は外れてもリズムがしっかりしているのでピアノでおっかけながら必死に鍵盤を叩くヘルバーグの表情が笑える。

 その後フローレンスはシンクレアがセットアップした小さなコンサートで時々歌う。
コンサートに集まった人の中には、彼女の音痴を指摘する者もいるが殆どシンクレアに賄賂を貰っているので飲み食いに集中して歌など聞いていない。
 終わると「ブラボー」と拍手喝采。批評家も招いて新聞に提灯記事を書かせる。だから図に乗って益々
 自信を深めていくフローンレス。
そしてあろうことか自分の歌をレコードにすることを決める。レコード制作のミキサーがひどいのでもう一度とテイク2を指示するが、彼女は完璧だとお開きにするシーンも愉快だ。シンクレアはある日突然妻の歌声がラジオから聞こえて飛び上がる。
自主制作レコードはラジオ局にばら撒かれ、面白がったDJたちが競ってラジオで流すから忽ち人気者に。

 特に陸軍病院の負傷兵たちのリクエストが多かった。「大声で調子外れの唄を聞くとなぜか元気が出る」と。
ファンレターに励まされ世界が憧れる音楽の殿堂NYマンハッタンの「カーネギーホール」でリサイタルを実行する時期が来たと確信するフローレンス。

 シンクレアはここまで来たら腹を決めリサイタルの準備にはしり回る。
1000枚のチケットを傷痍軍人に寄付したとは言え3000人収容のホールはガラガラではないかと心配をよそに2000枚はソールドアウト。入りきらない人々がホールを取り囲む。

 コンサートの途中で耳を塞いで会場を去るNYポストの音楽評論家、アーリー・ウィルソンを玄関口で引き留めるシンクレア。
1000ドルまで出すから良い記事をと頼むがニベも無くことわられ、翌朝早く新聞売り場でポストを買い占めようとするシンクレアとピアノ弾きのマクムーンの奮闘。

 第二次大戦の終戦間近の1944年10月に戦争で疲弊した兵士を慰めるために開催されたフローレンス・フォスター・ジェンキンスの公演は、今なお伝説として語り継がれている。公演1か月後他界した彼女を悼む声が流れる。実話だけにコメディタッチにしてもリアリティがある。

 エンドクレジットで後日談が流れるが、マクムーンの自慢話しは大笑い。
「テキサスの田舎から出て来て30歳ソコソコで音楽の殿堂カーネギーでピアノを弾いたんだぜ」

監督はイギリス人、スティヴーン・フリアーズ。「マイビューティフル・ランドレッド」で大ヒットを飛ばした74歳の大ベテラン。スーパースターのストリープもグラントをも見事に仕切りコミカルな演出を全うしている。
 
12月1日よりTOHOシネマズ日劇他で公開される

「愚行録」(日本映画):閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件を追う週刊誌記者の調査で明らかになる陰惨で複雑な人間関係

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「一生懸命に生きたのだったが、それが愚かな行いだったのか?」
と言う光子(満島ひかり)の独白が映画のタイトルになっている。

彼女は週刊誌記者、田中武志(妻夫木総)の妹だ。
田中が取材していく内に光子が物語の中心になっていく。

人間関係の中隠された羨望や嫉妬、それに絡む駆け引きや苛め、日常的に積み重ねられた無意識の愚行が複雑に絡み合って人を傷付け、果ては死に至らせる。

主人公はこの2人。
シーン毎に視点を変えて描きながら物語を紡ぐ。

約1年前の5月17日の深夜1時頃、池袋駅から東京メトロ副都心線で4駅の氷川台駅を降りた先にある新築の一戸建て住宅で、一家3人が刺殺される事件が起きた。
閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件。

被害者・田向浩樹(小出恵介)は大手デベロッパーに勤めるエリートサリーマン。
妻の友季恵(松本若菜)は物腰が柔らかく、近所からも慕われる上品な美人。
ふたりは娘とよく買い物に出かけるなど、誰もが羨む仲睦まじい「理想の家族」として知られていたが、田向は1階で友季恵と娘は2階寝室で刺殺された姿で発見された。
未解決のまま一年が過ぎ、風化していく事件。

週刊誌記者の田中武志は、改めて真相を探ろうと関係者の証言を追い始める。しかし、そこから浮かび上がってきたのは田向夫妻の外見からは想像もできない噂の数々だった。

大学が問題になり架空の大学名が使われるが、被害者・田向を含め男は早稲田大学、妻の友季恵とその友人たち女性陣は慶応義塾大学だと観客にはわかる。

田中の取材は順調に進んでいるが心に影を落としているのが妹のことだ。

3歳の女児を衰弱死させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで母親の田中光子容疑者(35歳)が逮捕されたことを報じる新聞記事がよぎる。

 一家3人刺殺事件を追う田中が関係者にインタビューし判明する話と、「お兄ちゃん」を聞き手とする「わたし」の独白が交互に出て来る。
浩樹と友季恵の大学時代の友人や知人に話を聞く。

両親が高い経済力とステータスを持ち自身も洗練されている内部進学者(慶應の幼稚舎から慶應大学に進学した者)たちに憧れる外部進学者(大学になって慶應大学に入った者)の間に歴然とした差別があることが前提としてある。

友季恵は、外部でクラスメイトの恋人を奪っておきながら1か月でその男を振ったり、「公衆便所」を呼ばれていることを知りながらもなお、澄ました顔で内部進学者の男たちに迫り続けるなど異常な精神構造を持っていた。しかし美人で愛嬌のある友季恵は生き残り、玉の輿のエリート・田向浩樹と結ばれる。

 「わたし」光子の独白では「お父さんがあたしに手を出したのがいつ頃だか、見当がつく?」などとあっけらかんとした様子で尋ね、「正解言ってあげようか。三年生のとき」。
近親相姦がもう一つの大きなテーマだ。

光子は小学3年生の時から父親の性欲の相手をさせられていた。そんな光子を守ろうと父親に立ち向かい、逆に容赦なくボコボコにされていた中学生の「お兄ちゃん」は「いつも優しくて、あたしのことを庇ってくれて、理想の人だった」と語る。

 田中光子は「公衆便所」とあだ名を付けられていた友季恵のクラスメイト。両親が離婚して父親が家を出た後、祖父の経済的援助を受けて慶應大学に入る。
 光子は、頭がよくて金持ちのエリートと結婚したいと願い、慶應では、必死になって内部進学者の男子に取り入ろうとする。抜群の容姿を持っていたので、そこそこ内部進学者の男子にも相手にされることはあった。

インタビューを受けた同級生は「内部生の毛並みのよさやバックグラウンドに恋してるわけだから、男の気持ちも冷めるでしょう」と振り返っている。

 慶応の女子大生のことは良く分からないがこれが殺人事件の遠因となって行くのだから怖い。
 玉の輿狙いの女子大生たち、主人公の暗い過去。映画は重いトーンで展開する。
「泥棒を捕らえてみれば我が子なり」的落とし穴があるが、田中の調査自体が、動機を含めてやや不条理。

しかし終盤で驚天動地のサプライズがあるから恐ろしいし、その面では良く出来ている。

原作はミステリー文学界でのし上がって来た貫井徳郎による直木賞候補作の同名小説。
妻夫木聡、満島ひかりを主人公に、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満など実力派俳優が脇を固める。

監督は本作で長編映画監督デビューを飾った石川慶。新人監督の常で撮ったものを全部詰めこむからどうしても2時間を超える長尺になる。後30分削れていればもっとすっきりスリムなスリラーになっただろうに、と惜しまれる。

ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に参加したが、掠りもしなかった。新人監督作品で由緒ある映画祭に出品出来たことだけで十分だ。

2月18日より公開される。

「シークレット・オブ・モンスター」(THE CHILDHOOD OF A LEADER)(英・仏・ハンガリー映画):両親の手に負えない美少年が15年の時を経て大衆をコントロールする「独裁者」に変身する

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この週末のアメリカの興行成績は嬉しいサプライズだった。
9月10月とは興行成績は前年比10%減で映画興行界の先行きが危ぶまれていたが週末に新登場の作品がそんな懸念を吹き飛ばしてくれました。

首位はMarvel StudiosとDisneyの「Doctor Strange」(邦題「ドクター・ストレンジ」WD配給:1月27日より公開される)3882館で上映され、65-70Mとの予測値を遥かに上回る85Mと言う好成績だった。
特に1週先行上映されていた海外では今週末で118.7M、特に中国だけで44.3Mと言うスーパー・ヒーロ―ものの最高記録だった。先週分を併せた累計が240.4M。ワールドワイド総計は325M(338億円)と言う驚異的数字をはじき出している。

3D上映での興収は47%を占め、内Imaxは世界1000館で上映され24.4Mを稼ぎだしているから驚きだ。日本ではImaxは数えるしかないが中国へ行くと場末にもある。

スピンオフして余り知られていないDoctor Strangeでも(Deadpoolもそうだが)「Marvelブランド」がついているとハロウイフェクト、幅をきかせそのまま観客に受けいれられている。僕は題名Doctor Strangeと聞いてスタンリー・ユーブリックのリメイクかと早とちりをしていたが、アメコミに詳しい男に聞くと半世紀以上前に登場しているキャラクターだそうだ。

事故で腕に大怪我を負い、手術ができなくなった天才外科医(ベネディクト・カンバーバッチ)は、どんな怪我でも治せるというチベットの魔術師Ancient One(ティルダ・ウィルソン)のもとを訪れその弟子になる。
7年の歳月をかけて正しい魔術を身につけ、ドクター・ストレンジとなった彼の前に、強大な敵が現れる。

「アメイジング・グレイス」(06)、「つぐない」(07)、「ブーリン家の姉妹」(08)といったクラシカルな映画で知られるカンバーバッチなんて地味な役者でもスーパー・ヒーローになると恰好良い。


邦題「シークレット・オブ・モンスター」じゃ何のことだかわからない。
原作はジャン=ポール・サルトルの短編小説「一指導者の幼年時代」で小説の「THE CHILDHOOD OF A LEADER」が原題になっている。

念頭にあるのはアドルフ・ヒトラーのことだろうが、前半の幼年期(CHILDHOOD)が第一次世界大戦の後始末のベルサイユ会議でノンフィクション、ニュース映画や新聞などがフラッシュバックで挿入され、父親やその同僚が乗っている自動車もその時代(1918年)のベンツ・リムジンで納得する。

両親はアメリカからやって来た国務長官首席補佐官の父親(リアム・カニンガム)と遥かに年下のドイツ美人の母親(ベレニス・ベジョ)。
 ベジョは少年を愛しながら、冷たい突き放した芝居が上手い。

 主人公の少年は親の手に余る腕白と言うか精神異常としかおもえない7歳の男の子、プレスコット(トム・スィート)。
 一見髪が長く美しい風貌は少女のように見える。それにあろうか、やたらと裸になる。冒頭では教会から出て来た村人に石を投げて追いかけられ、木の根っこに引っ掛って転び泥だらけ。風呂に入れられて母親にゴシゴシ洗われる素っ裸。
 
 高官が集まるパーティにガウンをはだけて下半身を隠そうとしない。
部屋に籠城してスケスケのガウンだけを付けさせ、老女中のモナ(ヨランダ・モロー)しか相手にせず、若くて美人のフランス語の先生アダ(ステイシイー・マーティン)もクビにする。

 ブラディー・コーベット監督は美く女性的な、トム・スィートをやたらと脱がせて、児童ポルノの線を狙っているのかとさえ思える。

 美少年プレスコットの放埓な行動をTantrum(癇癪)としてFirst Tantrum、Second Tantrum, Third Tantrumと3章に分けて、エスカレートする様子を追う。

 ヒトラーがドイツ国籍を取って首相にのし上がって来るのが1933年だから15年後、プレスコットは22歳だ。
随分若い独裁者だが、カリスマ性は年齢に関係ない。

 だから「癇癪」を飼いならして大人になった最終章が「New Era」(新時代)とタイトルを付け、突然プレスコットがヒトラーらしい人物に変身して、軍服を着た大衆の歓呼に応えている場面で終わる。

 禍々しいハーケンクロイツにも見えない太陽のマークのような中途半端な大人しいシンボルには戸惑う。
最初の3章のようにノンフィクションかそれに近い描写でナチスの総統として欲しかった。

 映画の殆どを少年の癇癪(Tantrum)の描写に終始する。
両親の言いつけを聞かずに悪戯と悪行ばかり。石を投げ、着物を着換えずに裸で走り回る。正式なディナーで母親の代わりに簡単な「お祈り」を頼まれるだけで「癇癪」を起こし、お祈りなんかするものかと大声を挙げ走り回って晩餐会を台無しにする。

 監督は「メランコリア」などの、俳優ブラディー・コーベット。
初監督で張り切り過ぎて独特のスタイリッシュな画面を貫くが、
それは良いとしても最終章への納得性や説得性の「ケジメ」が出来ていない。
 観客サービスに腐心して欲しい。

ウォーカー・ブラザーズの大物、スコット・ウォーカーを引っ張り出して音楽監督に据えたのは良いがシーンよりBGMが目立って煩くてかなわない。

 11月25日よりTOHOシネマズシャンテにて公開される。

「こころに剣士を」(THE FENCER)(フィンランド・エストニア・独映画):ソ連の圧政を逃れ田舎の体育教師として身を隠していた元フェンシング選手が子供たちに剣技を教えるうちに剣士の心を取り戻す。

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「君の名は」は公開から10週連続週末動員ランキング首位を逃したが、今週末は土日2日間で動員21万8000人、興収2億9700万円をあげてランキング首位に返り咲いた。
累計では興収180億円を突破し、「もののけ姫」(1997年7月12日公開)の興収193億円に次ぐ歴代興収第7位となっていると言う。この調子でいけば200億突破も時間の問題だ。
 悪くはないがそんなに大ヒットする映画で無い。ああガラパゴス状態の日本興行界!


この映画の舞台になるエストニアと言う小国は人口僅か134万人。フィンランド、ロシアと共にフィンランド湾に面する3つの国の一つで、湾をはさみフィンランドから約90km南に位置し、バルト海東岸に南北に並ぶバルト三国の中で最も北の国でもある。

 第二次世界大戦中の1941年からはドイツに侵攻され、ドイツが敗色濃く撤収した戦争末期の1944年8月から戦後を通して独裁者、ヨセフ・スターリンのソ連に占領された、二つの国に翻弄された人々は鬱屈した生活を強いられていた。

 戦争やソ連の圧政によって父親がいなくなり、母親は働きに出て子供たちは放っておかれ、誰もが下を向いてひっそりと暮らしている。

 なかでも幼い妹たちの面倒を見る少女マルタ、(リーサ・コッペル)と、祖父(レンビット・ウルフサク)と二人暮らしの少年、ヤーン(ヨーナス・コッフ)は淋しい思いでくらしていた。

少年、少女たちは何れもエストニア生まれのティーネージャーの素人たち。生のままで素直な芝居は好感が持てる。

時代は1953年のエストニア。
ソ連の秘密警察に追われる元フェンシング選手のエンデル・ネリス(マルト・アヴァンディ)は、レニングラードを逃れ小学校の教師として田舎町ハープサルに身を隠す。

何で追われているのか映画ではハッキリしないが、どうやら戦時中はドイツ側のゲリラでソ連と戦ったらしい。
しかしソ連なら無辜の市民でも追うだろうと観客は納得している。

そんな閉塞感の満ちる日常に、まっすぐに相手と向き合い、必要とあれば立ち向かっていくフェンシングというスポーツを、体育教師で元フェンシング選手のエンデルは課外授業として教えることになるが、実は昔から子供が苦手だった。

そんなエンデルを変えたのは、学ぶことの喜びにキラキラと輝く子供たちの瞳だった。
息の詰まる生活をしていた子供たちはたちまちフェンシングに夢中になり、そこに希望が芽生え始める。

保守的な校長と衝突しながら、また秘密警察に追われるエンデル自身だが、子どもたちとの交流を通していつしか剣士の精神を取り戻していく。

ある日、レニングラードで開催される全国大会に出たいと子どもたちにせがまれたエンデルは、秘密警察に見つかることを恐れながらも子どもたちの夢をかなえるべく出場を決意する。

 自身が追われたレニングラードで開催されるフェンシング国際大会がハイライト。

貧しくてフェンシング胴衣も他校からの借り物ながら決勝へ進む子供たちに都会の観衆も声援を送る。

逃げてばかりで人生は拓けないと勇気を持って逆境に立ち向かおうとするフェンシングの元スター選手と子どもたちの絆を、「実話」にヒントを得て描いたドラマだけにリアリティがあり迫力満点。

 エランド役のマルト・アヴァンディ。35歳の油の乗りきったキャリアの頂点でエストニア一の人気男優。口髭顎鬚に覆われた面長の美男子。

監督は「ヤコブへの手紙」の他は日本では余り知られていないクラウス・ハロ。数多くのTVドラマをてがけて演出に磨きをかけている。
映画は「ELINA―AS IF IWASN’T THERE」や「MOTHEROFMINE」など、この作品を含め米アカデミー賞の外国語映画賞のフィンランド代表作品に選ばれた。

 そしてこの作品は今年のゴールデン・グローブ外国語賞を授与されている。

12月24日より正月映画としてヒューマントラスト有楽町で公開される。

「ホワイトリリー」(日本映画)」:究極の愛は女性同士の耽美的なレズビアンか?

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 サプライズでドナルド・トランプが大統領になった!
前にも触れたが僕がNY駐在の1991年から4年間住んだアパートがセントラクパークを見下ろす、CPS(57丁目)と6番街の「トランプ・パーク」だった。不動産会社を通しての大家さんだったのだ。
 
話はしたことが無いが(パーティやプラザホテルで姿は何度も見かけた)大家としての親しみは感じる。いつも美人を連れていた。ロシア人の奥さんだったのかな?
 
日本についても言いたいことを言う。
原爆を装備として持たせろとか、負担をしなければ沖縄の米軍基地を引き上げろなど暴言を吐いている。すると憲法改正は賛成と見える。

基地放棄では沖縄県知事、翁長雄志と気が合うかも知れない。
そうなると連日のように中国の戦艦が隊を組んで沖縄諸島を縫って尖閣諸島へ軍艦マーチだ。


 生誕45周年を迎えた「日活ロマンポルノ」のリブート・プロジェクトとして製作された、中田秀夫監督作品。
釜山映画祭で招待作品として上映された。

中田は1961年生まれの55歳。
東大文学部を卒業し映画監督を志して日活へ入社し(日活以外は募集していなかった)たのが1984年。
既に日活ロマンポルノ(NRP)が熱気に包まれ始まって10数年経っていて油の乗った小沼勝監督の助監督について長く勤めた。

僕は小沼ファンで彼の「妻たちの性体験 夫の目の前で、今」(80年:風祭ゆき主演)は何度見たか知れないし、今でも名作だと思っている。
(その年のピンクリボン大賞授賞)

女だてらに日活ロマンポルノをずーっと称賛して来た評論家北川れい子によると小沼は病床に伏せて長く映画は撮れないと。
鬼籍に入った神代勝巳や藤田敏八などよりずっと若い78歳(1937年生まれ)なのに残念だ。

中田秀夫は日活助監督時代は一本も撮らせて貰えなかったが日活卒業後90年代から薫陶を受けたテクニックを駆使し「リング」シリーズや「クロユリ団地」など一連の「J-ホラー」でハリウッドにまで進出したのは周知のこと。(根本吉太郎も卒業後目を見はる活躍だ)

1971年から始まった「ロマンポルノ」の45周年を記念し、日本映画界の第一線で活躍する監督たち5人が新作ロマンポルノを手掛ける「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」なら中田秀夫以外はまさにピッタリの監督で、青春の80年代に果たせなかった夢を実現できたパッションがこもった作品に仕上がっている。

中田監督は師匠・小沼勝監督へオマージュを込め、たとえば「レスビアンの世界 恍惚」(75)など旧作の魂を継いだレズビアンの世界をテーマに描いている。

傷ついた過去を慰め合うように寄り添って生きてきた、結城はるか(飛鳥凛)と乾登紀子(山口香緒里)。登紀子は焼き物の師匠で名の知れた存在。
はるかは登紀子の家に同居して、轆轤を廻して指導を受けているが気もそぞろ。登紀子に抱かれたい一心だ。
ところが登紀子は飲んだくれで男にだらしんがない。夜毎男をひっぱりこんで大声を挙げてよがる。
壁一枚隔ててはるかの指は胸から下半身に移り登紀子と一緒にイッテしまう夜がつづく。

有名陶芸家の息子、悟(町井祥真)が同居することになり一層激しくなる。
悟のガールフレンドが焼き餅の挙句包丁を持出すまでは3P、4Pまがいの乱交。

「仮面ライダーW」で人気が出、TVドラマ「そして、誰もいなくなった」などに出演する25歳の飛鳥凛。可愛いくて初々しい全裸を披露してくれる。

日活のテクニックはヘアを見せずに前張り処理だが、中田は上手いものだ。

中田監督は、オーデションをうけた飛鳥について
「ロマンポルノの主演女優には、まずルックスの美しさが必要だ。
飛鳥はただ美しいだけでなく、現代的な女性の空気感をまとっていた」と評している。

登紀子を演じる山口香緒里は42歳ともおもえないスリムで瑞々しいヌード。テレビドラマ「大奥」では見られないベッドシーンに固唾を飲む。

 中田監督は「物理的な到達点を目指す男女の交わりではなく、エモーショナルな交わり合いを描く女性同士のラブシーンの方が美しく耽美的に撮ることが出来るだろう」と考えた。
傷ついた過去を慰め合うように寄り添って生きてきた、はるかと登紀子。2人の秘密に踏み込んできた男・悟によって、それぞれの愛が暴走を始める。

10分に一度のポルノシーンと言い自由なテーマと言いNPRの原則を守りながらじっくりと観客を堪能させる佳作を作りあげた。

2月11日より新宿武蔵野館にて公開される

「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(日本映画):グータラ貧乏の建築コンサルタントと強面ヤクザのコンビが借金回収で愛人と逃げた詐欺師を追ってマカオのカジノへ。

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TV地上波のヒット番組を特番風にして映画化する「踊る大捜査線」シリーズや「TRICK」シリーズなどあるが、この映画は昨年初頭からBSスカパー!でテレビドラマ化されたオリジナル連続ドラマ作品の特番映画化だ。
だから僕などはBSスカパー!を見ていないし小説も読んでいないので初めて「破門」シリ-ズに接する。

原作は黒川博行の昨年の第151回直木賞受賞作「破門」を佐々木蔵之介と横山裕(関ジャニ∞)のダブル主演で映画化したアクションというかドタバタ喜劇。

主人公は怠け者のグータラでだからビンボーな建設コンサルタントの二宮啓之(横山)。アシスタントの悠紀(北川景子)にお給料を払えないどころか家賃も半年溜まっている。
悠紀は二蝶会の若頭補佐の桑原保彦(佐々木)と組むからロクなことが無い、「ケイちゃん縁を切りなさい!」と忠告する。
汚い事務所で細身の白いスーツでソファに寝転がる桑原を一喝する悠紀役の北川は掃き溜めに鶴だね。

戸口ですっかり聞いていた桑原がのそっと現れる。
ダークなスーツにキザな眼鏡の佐々木はヤクザが良く似合う。

映画プロデューサーの小清水(橋本功)が持ち込んだ映画映画企画に、二蝶会の若頭、嶋田(國村隼)が二宮の頼みで1500万円を出資をすることとなった。
二宮の死んだ親父は嶋田と同じ組で死ぬときにくれぐれも息子のことを宜しくと頼まれていた。

しかし小清水は愛人の玲美(真鍋恵美)を連れて映画製作の金を持ったまま行方をくらましてしまった。
真鍋恵美の玲美もミニで太ももあらわで男達の目をくらます。

小清水のアパートはもぬけの殻。
そこへ同じようなヤクザがアパートの前にいてイチャモンを付けて来る。

桑原は邪魔をするゴロツキ2人をボコボコにして病院送りにする。
しかし、その相手はなんと本家筋、滝沢組長(宇崎竜童)傘下の構成員。
滝沢も1億5千万円出資していて「オトシマエ」としてそれも回収して来いと二蝶会組長に命じる。

國村も宇崎も強面の佐々木もヤクザの風貌が良く似合う。日本の男優は芝居が下手でもヤクザの風貌やキャラ演技は上手い。

桑原の喧嘩が原因で組同士の揉め事へと発展し、追う立場だった桑原と二宮がいつしか追われる側になってしまう。

二蝶会の強面ヤクザ桑原は経営コンサルタントのグータラ・弱気の二宮を巻き込み、資金回収のために小清水探しの奔走を始める。

繁華街で聞き込みをして、分かったことは、、小清水はギャンブル好きな玲美の頼みでマカオのカジノホテルに逃亡していた。

二宮はおかん、悦子(キムラ緑子)に飛行機代を借りて香港からマカオにのりこむ。
カジノクレジットカードを見つけチップに変え極道のシノギの博打で貸金回収に入る桑原の得意な顔。
マカオでのロケは本物かな?(どうもチヤチなんだが)

滝沢組の狡猾な補佐役、初見(木下ほうか)、スキンへッドの牧内(佐藤佐吉)など手強い相手を桑原&二宮コンビは熾烈な戦いを凌いで辛くも投資金回収する活劇は余り迫力が無い。

コンビを演じる佐々木、横山は、ともに関西出身で、大阪を舞台に手慣れた関西弁による掛け合いはお手のもの。

監督は「毎日かあさん」「マエストロ!」などの小林聖太郎で力がある人なのだが、どうもトッ散らかったアクション劇になってしまっている。

映画の中で「捌き」と言う言葉が頻繁に出て来る。
二宮の職業、建築コンサルタンツでは建設現場ではヤクザが纏わりつく。
やくざをつかってヤクザを押える、毒を持って毒を抑える方法を建設業界では「前捌き」、略して「サバキ」と呼ぶのだと言う。
 
この「サバキ」を通して二宮と佐々木は繋がったようだ。
互いに「嫌い=好き」の仲でヘンテコだが典型的なバディ・ムービーだ。

滝沢組との「手打ち」は桑原の「破門」で終わったが、「堅気」の桑原がカミさん真由美(中村ゆり)のカラオケボックスで1人横文字のバラードを歌っている。佐々木は良い声で歌唱力もある。二宮は歌唱力もさることながら、強面ヤクザがナンで真由美のような楚々とした美人を妻として抱けるかと戸惑うのは観客と同じ気持ちだ。

1月28日より丸の内ピカデリー他で公開される。

「TOMORROW パーマンとライフを探して」(DEMAIN)(フランス映画):女優が監督した、「目から鱗」の発想が詰ったドキュメンタリ映画。

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ボブ・ディラン、ノーベル文学賞受賞と聞いて「ボブ・ディラン自伝」(CHRONICLES VILUME ONE)(ソフトバンクパブリッシング(株):2005年7月刊)を読んでみた。

 自伝と言っても時系列的な過去ではなく、ミネソタの田舎アイアンレンジから出て来てNYのヴィレッジのガス・ライトでフォークソング歌っている頃の模様を描いている。
祖母はロシア南部のオデッサからアメリカへやって来た。トルコの出身だ

60年代初め未成年の頃にコロンビアと契約し著作権登録した頃のこと、70年代半ば引退状態だったウッドストックの暮らし、89年の「オー・マーシー」録音時の後の人生に影響する貴重な体験などが記載されている。文章は上手いし哲学的な思考は奥深い。

おどろくのは一度レコードで聞くと完璧にメロディと詩を覚える記憶力。
シンガーソングライターとして興がのれば一日に何曲も作ってしまう。それも歌詞が20番もある長い歌だ。
ツアーでコンサートをしながら一回で80曲くらい歌うからスーパーマンだ。

小さい頃から読書量が凄い。
クラウゼヴィッツの「戦争論」に夢中になりシンガーになる前にウェストポイントへ行きたいと思った。ベッドの上でなく英雄的に戦って死ぬ自分の姿をいつも想像していた。

ロバート・グレイヴズの「白い女神」に感動し、後年ロンドンでグレイヴスに会って話をしている。
フランスのバルザックも好きで「あら皮」や「従兄ポンズ」など多く読む。ジャック・ケルアックの「路上」は聖書だった。他にはロバート・フロストが強い影響を与えている。
ニーチェ、トルストイ、マルクス、チャンドラー、ブラッドベリー、メイラーハックスリーとジャンルを問わず手あたり次第だ。

歌手で最初に強い影響を受けたのはウディ・ガースリーだ。それにマイク・シーが-。出演しているギャスライトでシーガ-を見かける。中世の騎士のようでフォークミュージシャンの最高の手本だと、書いている。
ハリー・ベラフォンテ、ハンク・ウィリアムスの歌唱法も学ぶ。

セロニアス・モンクなどのモダンジャズも好きだったが、特定の言葉を持つ通常の言葉が無く、簡単明瞭な標準英語を求めていたディランに一番直接的に語り掛けて来たのはフォークソングだった。



フランス人女優メラニー・ロランと言えば子どもを持つ母親ながらキャリアでも「イングロリアス・バスターズ」「オーケストラ!」などで世界的に活躍しているが、何とドキュメンタリ映画の監督を務め、フランスでヒットし話題を集めた。
そして第41回セザール賞でベストドキュメンタリー賞を受賞した。


2012年に学術雑誌「ネイチャー」に掲載された「今のライフスタイルを続ければ人類は滅亡する」という科学者たちの予測を基に、ロランの友人であるジャーナリスト/活動家のシリル・ディオンと二人で、未来(TOMORROW)を幸せに暮らすための新たなライフスタイルを探す旅に出る。

「農業」「エネルギー」「経済」「民主主義」「教育」の5つの分野にスポットを当て、パーマカルチャー、トランジション・タウン、ゼロ・ウェストなど、世界各地で新しい取り組みを行っているパイオニアたちを次々と紹介していく。

アメリカ・デトロイト
 大半の住民が自動車産業に従事する単一工業都市だったデトロイトは、1960年以降、工場閉鎖に伴い従業員は失業、人口は200万から70万に減少した。
新鮮な食品が手に入らなくなり、残った貧しい住民たちは、自給自足を始める。この密集地帯には約1600のアーバンファームがあり、2400ヘクタールもの未開墾地がある。大都市で必要にせまられた農業。

イングランド
マンチェスター近郊にある人口1万4000のトッドモーデンは、世界的なインクレディブル・エディブル(みんなの菜園)の生まれた地。
これは町の真ん中で花壇や公共の土地に作物を植え、共有するというもの。
何百種類もの果物の木、豊富な種類の大量の野菜を植え、園芸農業の訓練センターを設立し、農民たちの移住を受け入れた。このやり方は数十カ国と数百の町にも広がった。

フランス
 ル・ベック・エルアンには、フランスのパーマカルチャーで最も成功した農場がある。
自然のままをモデルとし、人間が介在するのは、生産性の向上と資源のエコシステム構築のためだけ。何も加えず、石油も、除草剤も、機械も動力も使用しない。収穫は量も質も充実しており、更には腐植土をつくり、植物多様性を守り、CO2の削減にも寄与している。

以上はプレスからの引き写しだが、メインのテーマでないコメントが面白い。

「目から鱗」が一杯ある。
政治や官僚機構に詳しくても常識や人間性に欠けている政治家が多い。
直際に本能的に物を言うトランプに負けたクリントンが頭に浮かぶ。

政治は民主主義や多数決でやるものでは無い、という常識も覆る。
「くじ引き」が良いだろう。
エッと思うが、コメントは続く。
「例えば裁判員制度だ。くじで選ばれた裁判員は真剣に問題と対処し理解し正しい結論に至っている」

統計に頼ってもイケない。
テキサスは全米で最大の石油産出州だ。
しかし熱心に地球温暖化やエネルギーの転換を説いたところ、全米で一番風力発電所が多い州になった。

教育こそ一番のリソースだ。
フィンランドは資源も無い、鉱山やレアメダルも石油石炭も何も無い。
しかし教育で人材を産むことは世界一だ。子ども15人に教師は2人だ。教師は5年制の修士を取らせる。
授業時間は世界で一番少ない。その分児童に任せ好きなことに集中させる。
7歳から16歳まで授業料、教科書代、給食は無料だ。

12月渋谷イメージフォーラムにて公開される。

「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」(MISS PEREGRINE’S HOME FOR PECULAR CHILDREN)(アメリカ映画):邪悪な異能者たちに大好きな祖父を殺された高校生ジェイコブ

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アメリカで9月30日から公開され首位になった。3522館で開けて26M。海外では好調で59か国で36.5Mを挙げた。その後は伸びず1か月半を過ぎても100Mに達していない。
バートン監督としては初めて巨額な制作費110Mもかけているから海外市場でBOを上げない限り黒字は難しい。

観客の出口調査CSではB+評価でそう高いものではない。
エイサ・バターフィールドが扮する高校生ジェイコブ・ポートマンが主人公。フロリダの学校で苛められているジェイコブは話し相手も居ない。祖父が唯一の友達だ。 
バターフィールドは見覚えがある筈だ。5年前のマーティン・スコセッシの「ヒューゴの不思議な発明」で可愛い長い耳を持った子供として主役をはっていた。ティーネージャーの子どもたちは見違える程成長している。

電話の向こうの祖父エイブ(テレンス・スタンプ)の様子がおかしいので家に駆けつけると、窓ガラスは破られ祖父は裏の森の中で倒れている。
「早くここから離れろ。島へ行くのだ。わしの言う通りにしろ」祖父はそう言い残して息を引き取る。森の中で怪しい影を見るが何者か分からない。 

ジェイコブは悪夢に悩まされノイローゼ気味。精神科医のミス・ゴラン(アリソン・ジャネイ)は現在の状況を変え転地療法したらと両親に話す。
謎の死を遂げた祖父エイブの昔話に出て来たイギリス・ウェールズへの旅を勧める。但しボロボロの父親(クリス・オドウド)に付き添われることが条件だ。しかし間抜けな父親を巻くのは造作が無い。少年がヒーローになる映画には必ずダメ両親が現れるものだ。

祖父の昔話と古びた写真をもとにイギリスへ渡り、謎めいたウェールズ島に行く。
泥にまみれ川を渡り、森を抜けると火事で焼けた大きな建築の残骸が。ナチのドイツ爆撃機の爆弾を受けたのだった。

ジェイコブは爆撃前の1943年の時代に戻っている。だから急激に新しい立派なゴシック風の建築が現れる。祖父の言っていたペレグリン(エヴァ・グリ-ン)の孤児院だ。

古い写真の子どもたちは特異な才能を持っている。空気より軽く浮く少女エマ(フィンレイ・マクミラン)、指先から火を放つ少女、オリーブ(ローレン・マクロスティ)、玩具などに命を吹き込み動かせる少年、イーノック(フィンレイ・マクミラン)、体の中に無数のハチを飼うヒュー(ミロ・パーカー)、透明人間のミラード(キャメロン・キング)予言的夢をスクリーンに投影することが出来るホレース(ヘイデン・キ-ラー=ストーン)年少の少女ブロンウィン(ピクシー・デヴィス)はとてつもない怪力の持ち主。後頭部に口があるお人形のようなクレア(ラフィエラ・チャップマン)、でも祖父エイブが惚れていたブロンドで白子のエマに一番惹かれるのは遺伝子のせいだろうか。

普通の監督がこんな映画を作れば誰も相手にしない。
しかし「フランケン・ウィニー」や「ビートル・ジュース」「シザーズ・ハンズ」や「ダーク・シャドウ」「ナイト・ビフォア・クリスマス」など奇妙なキャラクターを得意とするティム・バートンなら誰も不思議がらない。

だから原題のタイトルには「ティム・バートンのミス・ペレグリン~」と冠りが着いているのも不思議で無い。

 祖父を襲った邪悪な異能者たちのリーダーはグレイヘアの老黒人のバロン(サミュエル・L・ジョンソン)。不死の身になるためには孤児院の子どもたちを捕らえ目を食べること。
ジョンソンも悪役を飄々と憎々し気に演じる。子どもたちが代わる代わる超能力を発揮しても見極めて逆襲する憎らしさの上手さ。

 ミス・ペレグリンは外界では生きて行けない特殊な子供たちを守り、時間を支配するループを操る。
ナチの爆撃前に時間を1940年の9月3日に設定しその日を毎日繰り返して動かさなければ建物も子供たちも無事だ。
ペレグリン(ハヤブサ)に変身して空から子供たちを監視し保護をする。
驚くべき力を持つ子供たちゴシックが収容されている孤児院を見つけ一緒にバロンと戦う冒険ファンタジー。

 FOXのクリス・アーロン配給チーフは「今までの興行成績は満足のいくものだが続編を制作するかどうかは未だ決めていない」と。先週末(11月6日)までのワールドワイド総計は233Mだからモトは回収できただろう。

ランサム・リグズのベストセラーだと言う「ハヤブサが守る家」は読んでいないが如何にもティム・バートン監督にピッタリのファンタジー小説でバートンのために書き下ろしたように思える。

 主人公ジェイク役は「ヒューゴの不思議な発明」デビューしたエイサ・バターフィールド。
ミス・ペレグリン役は「007 カジノ・ロワイヤル」「ダーク・シャドウ」のエヴァ・グリーンが務めている。B・ベルトリッチ監督の「ドリーマー」でデビューした時が22歳だったが、今年で36歳,老けたね。無理も無い。

2月3日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて公開される

「ヒッチコック/トリュフォー」(HITHCOCK/TRUFFAUT)(フランス・アメリカ映画):半世紀以上前のインタビュー。トリュフォーがヒッチコックの映画術を探る

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僕がヒッチコック監督を凄い人だと思ったのは1953年(昭和28年)中学生の時に「見知らぬ乗客」(Stranger on the train)で感動したからだ。(先生の目を盗んで長野駅前の千石劇場に潜り込んだ)

交換殺人で動機が無ければ犯行はバレない。
フェアリー・グレンジャー扮する名のしれたプロ・テニスプレイヤーが若い青年(ロバート・ウォーカー)に不仲になった妻を殺してあげる,
代わりに自分の父を殺害して欲しいと言う。

勿論断るが妻は何者かに殺され自分は恋仲のガールフレンド(ルース・ローマン)とラブラブになる。しかし青年は突如現れ父親を消すことを強く要求する。
青年の言うことはもっともだと思いながら最後の遊園地場面で青年に追い詰められる場面は怖かった。

それからはヒッチコック・ファンを自認し,すべての映画を見た。
「北北西に進路を取れ」「知り過ぎていた男」「サイコ」「鳥」など満足させてくれる作品ばかりだったが、やはり年齢か、70年代に入ってからの「フレンジー」や「ファミリー・プロット」などは駄作だった。

黒沢明も「デルス・ウザーラ」から酷かった。
d「8月の狂詩曲」や「まあーだだよ」なんて見ちゃいられなかった。


さてこの映画は半世紀以上前のフランソワ・トリュフォーによるアルフレッド・ヒッチコックへのインタビューを収録し、「映画の教科書」として長年にわたって読み継がれている「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社:1981年12月刊・山田宏一‣蓮實重彦訳)を題材にしたドキュメンタリー。

二人の対談が行われたのは1962年で映像は無い。1899年生まれのヒチコックは62歳、「サイコ」を撮った後で「鳥」の前、油の乗り切っている時代だ。
一方のトリュフォーは29歳、半分以下の年齢だが丁寧に受け答えをしている。
トリュフォーは映画評論家から映画監督になり「大人は分かってくれない」や「ピアニストを撃て」などで注目され始めた青二才。

トリュフォー自身も分かっているから監督同士というより、評論家が大監督にインタビューをしている、感じはぬぐえない。

ニューヨーク国際映画祭のディレクターを務めるケント・ジョーンズがこの記録映画の監督だが、ジョーンズは当時の(因みにジョーンズが生まれたのは60年だから2歳になるかならずやの時だ)ヒッチコックとトリュフォーの貴重な音声テープを聴きながら現代を代表する監督たちにインタビューしている。監督たちの受け答えが興味を引く。

74歳のマーティン・スコセッシは「彼のどの映画もストーリー・テリングの傑作だ」とリアルタイムで見ているヒッチの作品を誉める。

デビッド・フィンチャーは「父の本棚から勧められるままに読んだら素晴らしかった」フィンチャーの生まれた年に書かれた本だ。映画の教科書としたと言う。

66歳に黒沢清は「アメリカ映画があったからヒッチコックはあそこまでなれた」と言う意見に僕も賛成だ。ハリウッド前と後はイギリスで撮っているが駄作ばかりだ。

ウェス・アンダーソンは「何しろ厚い本だからね」と翻訳本でも4,000円もする、B5版380ページは重い。

評論家上がりの監督、ピーター・ボグダノビッチは「ヒッチコックの正当な評価はこの本のお陰だ」との意見に賛成だ。

その他リチャード・リンクレイターらヒッチコックを敬愛する10人の名監督たちにインタビューを敢行し、時代を超越したヒッチコックの映画術を新たな視点で解明する。

「サイコ」の前半、不動産会社事務員のジャネット・リーが10万ドルを銀行に預けず持ち逃げし、モーテルでアンソニー・パーキンズにシャワーの下で殺されるまでをヒッチコック自身が心理描写を交えて解説するシーンは目から鱗だ。そんな意味があったのかと今更自分の不明を恥じる。二重人格の映画がこれを契機に流行るが僕は多重人格映画が犯罪の言い逃れになるので嫌いなのだ。
しかし持ち逃げするジャネット・リーの視線やシャワーのレンズに掛かる水飛沫は良く計算されているのが分かる。

時間の長期スパンで名作を生み続けている、リチャード・リンクレイターは「ヒッチコックは時を刻む彫刻家だ。時間と空間を想いのままに映画で支配した巨匠だ」と手放しで賛辞を贈る。

「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」の翻訳を手がけた映画評論家・山田宏一が日本語字幕を担当。

ヒッチコックは1980年に生まれ故郷のロンドンで80歳の時に逝去し、
トリュフォーは4年後の1984年、脳腫瘍で52歳の若さで亡くなっている。。

12月10日より新宿シネマカリテほか全国で順次公開される。

「人生フルーツ」(日本映画):山間の雑木林に囲まれた木造平屋建てに住む、爽やかな90歳と87歳の老夫婦の生き方に感動する

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アメリカ先週末の興行界の動きは興味深い。

LA、NY、SFなど大都市は民主党に肩入れしており、クリントンの勝利を信じて疑わなかった。とくに映画産業の人たちは共和党大嫌い、共和党はド田舎の百姓やカウボーイや保守的キリスト教徒の党だと信じている。

それが青天の霹靂、思いもかけなかった「トランプ・ショック」を逃避するために映画館に逃げ込み、動員に多くの影響を与えているようだ、とハリウッドの業界紙「ハリウッド・レポート」が伝えている。

大都市の市民たちはこれまでの政党の主張やトランプvsクリントンの雑音や煩悩に惑わされないよう「逃避して」暗い小屋で映画に引き込まれて2時間を過ごすことで「集団セラピー」に役立っているのだと言う。

更に投票直後の11月11日は「ベテランズ・デイ」(VD)で、久し振りに金曜にあたる祝日のため、ムシャクシャした気持ちをスーパーヒーローの「Dr. Strange」やアニメの「Trolls」で鬱憤晴らしをしようと言う気持ちになった。
昨年のべテランズ・デイに比べ80%アップだと映画興行の統計会社コウスコアの分析官は意見を述べる
「ベテランズ・デイ」について言えば、アメリカでは日本と違い国民休日は少ないのだがVDはその一つの祝日にあたる。

昔は「アーミース・ティスデー」と呼ばれ1918年11月11日午前11時に第一次世界大戦が終わったことを記念して制定されたもの。今では「復員軍人の日」としてベトナムやイラク、アフガニスタンでの戦争などあらゆる戦争の復員軍人が含まれている。

このトランプ・ショックとVDの2つの要因で前年同週比では何と映画館のチケット売り上げは50%のアップだ。


東海TVの報道番組は定評がある。
ローカルTVながら7年に亘り報道番組をじっくりと見せる手法は中々のものだ。そればかりでは無い。一過性のTV番組を映画化して上映する。

現在(10月29日より11月18日まで)ポレポレ東中野で「東海テレビドキュメンタリーの世界」と題して22本の作品を公開している。
関東に住む僕はTVで見られないが、映画になった作品を今回も含めて7本見た。
何れも長い年月をかけて主人公の人生や主義主張を追いかけて来た画面は含蓄があり説得力があり、見終わって感動しない作品は無い。

 僕も東南アジアへ医師団を派遣し口唇口蓋裂の子どもたちに無償手術を施す慈善団体「オペレーションスマイル」の活動を取り上げて貰えないかとプロデューサーの阿武野勝彦さんとそのスタッフを名古屋に本社を置く東海テレビ報道部を訪ねてお願いしたことがある。

 真摯に検討をしていただいたのだが東海TV放送域内に活躍している適任の形成外科医とORナースが見つからず断念したことがある。

 これは何とかしてリターンマッチでこの報道番組で取り上げて貰いたいと今でも執念を燃やしている。
 TV番組のような一過性でなく、映画になりポレポレ東中野で上映されるからだ。DVDにして販売しない頑固さも気に入った。

 この作品で第10弾になる。
 
この作品の主人公は今まででは最高齢ではなかろうか。
90歳と87歳の老夫婦の「フルーツの生き方」を説く。
 
 愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの一隅。
300坪の雑木林に囲まれた一軒の木造平屋建て。大きな家だ。中に入ると間仕切りが無く大きな部屋が一つだけ。天井が高く公会堂の小ホールのような開放感がある。
建築家の津端修一(90)が、師であるアントニン・レーモンドの自邸に倣って建てた家。
四季折々、キッチンガーデンを彩る70種の野菜と50種の果実が、妻・英子(87)の手で美味しい料理やデザートに早変わりする。

 刺繍や編み物から機織りまで、何でもこなす英子。
ふたりは、たがいの名を「さん付け」で呼び合う。長年連れ添った夫婦の暮らしは、細やかな気遣いと工夫に満ちている。

 東大工学部を卒業し「日本住宅公団」のエースだった修一は、阿佐ヶ谷住宅や多摩平団地などの都市計画に携わってきた。

 1960年代、風の通り道となる雑木林を残し、自然との共生を目指したニュータウンを計画。けれど、経済優先の時代はそれを許さず、完成したのは理想とはほど遠い無機質な大規模団地。
30代前半だった修一は、それまでの仕事から距離を置き、公団を辞め自ら手がけたニュータウンに土地を買い、家を建て、雑木林を育てはじめた。
30畳一間の家に住み、裏には雑木林、家の前には果林や畑、農機具小屋などがあり。夏の雑木林は自然なクーラーだ。

 修一のマンガ字で書いて絵を添えた看板が可愛い。
「小鳥さんの水のみ場」にはちゃんと小鳥が水を飲みにやって来る。

 生活費は2か月に一度支給される修一の年金38万円だけ。
食料は自給自足だからひもじい思いはしない。

 二人の朝の食事が羨ましい。
修一は朝はしっかり食べるということで、赤飯やうなぎ、カマス、ミョウガ、スダチなど栄養価が高くて美味しい食事をする。
英子はこんがり焼いたトーストにブルーベリージャムをたっぷり塗る。差が激しい。

 あれから50年、ふたりはコツコツ、ゆっくりと時をためてきた。そして、90歳になった修一に新たな仕事の依頼がやってくる。
「風の通り道となる雑木林を残し、自然との共生を目指したニュータウン」と言う初期の修一の理想コンセプトを活かせる機会が訪れたのだ。ラフなスケッチを仕上げて突然ショックなシーンが出現する。

 2015年6月2日。
修一は畑の草むしりをして昼寝したまま起きて来ない。英子が揺さぶっても口を開けて目をつぶりソファに横たわってビクとも動かない。

 修一の荘厳な「死に目」をカメラはしっかりとらえている。  
英子は「おじいさん、命尽きて灰になったら、そちらへ行くから待ってて。そしてハワイの海に散骨してもらおう」と語りかける。
涙が流れるシーンだがからっとしている英子。
「お父さんが亡くなって、寂しいというより、むなしい」と。

 修一は1925年1月3日生まれ。東京大学を卒業後、建築設計事務所を経て、日本住宅公団へ。数々の都市計画を手がける。広島大学教授などを歴任し、自由時間評論家として活動。

 3歳年下の英子は1928年1月18日生まれ。
愛知県半田市の老舗の造り酒屋の一人娘。
東大ヨット部の合宿で半田市を毎年訪れていた修一と27歳で結婚し、娘2人を育てる。
畑、料理、編み物、機織りなど、手間ひまかけた手仕事が大好きだ。

 修一は「お金よりも人が大切」ということを信条としている。
「できるものから、小さくコツコツと。時をためて、ゆっくりと。」

樹木希林のナレーションも感情を込めず淡々と客観的なのが良い。
爽やかな90歳と87歳の夫婦の生き方に感動する。

1月2日よりポレポレ東中野にて公開される。

「トマトのしずく」(日本映画):一旦、ゴミ箱に捨てられた映画だが「お蔵出し映画祭」で拾われて陽の目を見る。

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2週前に首位に返り咲いた「君の名は。」がこの土日2日間で動員19万人、興収2億6千万円をあげて2週連続の1位。
 累計では興収185億円となっておりこの勢いで行けば200億円突破も夢では無い。宮崎アニメ以外でこの新海監督の健闘は目を瞠る。

 新登場で巴亮介原作のサイコ・スリラーコミックを小栗旬主演、大友啓史監督で実写映画化した「ミュージアム」が、土日2日間で動員18万人、興収2億44百万円で2位にランクイン。二枚目の妻夫木聰がスキンヘッドで怖し気な役をこなしている。

 リー・チャイルド原作の「ジャック・リーチャー」シリーズでトム・クルーズ主演で映画化した「アウトロー」の続編「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」(東和ピクチャーズ)が、土日2日間で動員14万人、興収1億9千万円をあげて3位に食い込んだのが精々。トム・クルーズも久しぶりに来日してリッツ・カールトンで派手な記者会見をしていたが、昔日の勢いは無い。
ハリウッド映画もがんばらねば今年も邦画天国で終わってしまいそうだ。


「お蔵出し映画祭」の2015年グランプリ作品だと言う。
年間400本前後が製作されている日本映画で、一般公開されていないモノが非常に多く、「もしかしたら公開すべき作品があるかも」と云う希望的観測で開催されている映画祭。

 基本的に興行主が既に試写で見て篩にかけたダメ映画なんだが、ひょっとしたらと言う「ダメモト」作品のゴミダメを漁って見つけて光を当てた作品と言う訳。

「公開のメドが全く立ってない」映画か「お蔵入りして何年も経っている」映画を募集し、同映画祭で公開する。
別名「不良債権映画祭」とも云われる。
 
この映画も2012年に制作されたがダメ映画でお蔵入りしていたものを昨年の「お蔵出し映画祭」で拾い出されたものだ。

確かに脚本も監督も下手だが、役者は立派な芝居をしているし、泣かせる場面も唐突に現れる。だから「まあいいか」の映画なのだ。敗者復活戦で頑張って貰おう。

5年の交際を経て入籍したさくら(小西真奈美)と真(吉沢悠)は、2人でヘアサロンを経営しながら、幸せな新婚生活を送っていた。

 目黒川の川岸の桜並木に囲まれた中目黒の美容院はお得意さんがついて繁盛している。
映画の冒頭、食卓に並ぶトマト料理を前に、「幸せになあれ」とおまじないを唱えることが日課のさくら。真も唱和する。

 だが何でこんなにトマトばかりだ?
トマトなんて主食には成り得ないないだろう。
せめてゴートチーズを
挟んだサラダが精々だ。

 近く結婚パーティーを開く予定の二人だったが、さくらの父・辰夫(石橋蓮司)を呼ぶか呼ばないかで言い争いになる。

 父子家庭で育ったさくらの胸中には、幼い頃、母を亡くした時の出来事が大きく残っていた。
ここが良くわからない。
20年に亘る父娘の口もきかない大喧嘩は母親の葬儀の後父親がいきなり庭のトマトを引き抜きはじめる。中学生のセーラー服姿のさくらは止めようとして突き飛ばされる。
それが結婚式に呼びたくない程嫌いな原因か?

 一方、どこかの田舎に住んでいる父の辰夫も亡き妻が残した家庭菜園のトマトを前にして決意する。
久しく会っていない娘の結婚を機に、自分の想いを言葉にしようと直接会いに行くことだった。

 辰夫はさくらたちのヘアサロンを訪れる。娘に、面と向かってお祝いをうまく言えない辰夫に対し、どうしても素直になれないさくらは、気持ちを高ぶらせて辰夫を追い返してしまう。
真が思わず追いかけると、辰夫はそっと紙袋を差し出した。
それは、辰夫自身が一生懸命に育てたトマトだった。
トマトのぎっしり詰まった紙袋を真に託しその場を去っていく。
20年振りの娘にトマトなんて持っていくか?

涙を流させようと頑張る結婚式の「オンブ」には監督の陰謀に嵌って無理無理泣かせられる。

トマトをテーマにした所為で動機も行動も父娘の関係もガンジガラメになって説得性に欠ける。そんな大きな問題じゃないぜ、こんなのは。
お蔵入りした原因はダメ脚本の展開だ、と見ていて分かる。

「のんちゃんのり弁」(10)で映画賞を賑わせた小西真奈美も38歳。その後も顔を出していない。
共演に夫、真役で吉沢悠、さくらの父・辰夫には、ベテランの石橋蓮司、名優・石橋蓮司。ほかに真の母に原日出子や角替和枝、柄本時生など個性派キャストが揃う。これだけの役者を揃えてオクラはきつかった

 俳優の榊英雄が、脚本と監督。これで3本目の作品のようだがどうも役者に徹した方がよさそうだ。幸いゴミダメから拾ってもらい陽の目を見ることになったがどれだけ行けるか?

 1月14日より渋谷シネパレスにて公開される。見てあげてねー。

「A.I.I love you」(日本映画):パティシエ志望の女の子がアドバイスを呉れるAIに恋をする。

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人工知能(AI)をテーマとした映画は嫌と言うほどある。いずれもハリウッドの巨匠が生み出したAIを主題にしているが、邦画で敢えてAIとの恋愛を描いてみようとは無謀な試みだ。

振り返ってみると、
スティーブン・スピルバーグ監督のその名もズバリ「AI」(10)は彼の作品の中でも最悪。
AIの「デイビット」は11歳 体重27キロ 身長137センチ 髪の色、ブラウン その愛は真実なのに偽りの「愛」をインプットされて生まれてきたA.I.(人工知能)の少年の数千年にわたる壮大な旅をえがく。

クリス・コロンバス監督の「アンドリューNDR114」(09)郊外に住むマーティン家に届いた荷物は,父親のリチャードが家族のために購入した家事全般ロボット“NDR114”だった。
最新鋭の機能を持ちながらも,礼儀正しく,どこかアナログ感も漂わせるこのロボットは「アンドリュー」と名付けられた。今は亡きロビン・ウィリアムズの演技が印象に残る。

「チャッピー」(15)は南アのニール・ブロムカンプ監督が手掛けたSFアクション。人¬工知能を搭載したロボットのチャッピーが自身を誘拐したストリートギャングたちと奇妙¬な絆を育みながら、壮絶な戦いに巻き込まれていく

一番成功したのはウォルト・ディズニーの「ベイマックス」(15)。日本とサンフランシスコの合いの子・架空都市「サンフランソウキョウ」を舞台に、最愛の兄タダシを失い心に深い傷を負った14歳のヒロの前に現れたのは、何があっても彼を守ろうとする一途なケア・ロボット「ベイマックス」だった。

スパイク・ジョーンズ監督の「her/世界でひとつの彼女」(13)が一番似ている。ある日セオドアが最新のAI(人工知能)型OSを起動させると、画面の奥から明るい女性の声が聞こえる。 彼女の名前はサマンサ。AIだけどユーモラスで、純真で、セクシーで、誰より人間らしい。セオドアとサマンサはすぐに仲良くなり、 夜寝る前に会話をしたり、デートをしたり、旅行をしたり・

ざっと思い出すだけで、こんなにAI映画があるのに敢えて古いネタに取り組もうとするには脚本に新味がなければ観客にバカにされる。
だが残念ながらAIと友達の女の子がパティシェになろうとする夢を実現する以外に何もない。
 
カメラもスマホで撮ると言う大胆でチープな方法だし、主演の森川葵も残念ながら聞いたことが無い。取り立てて美人でも無い、フツーの若い女性だ。
 東北大震災に駆けつけた記録映画作家がスマホで作った作品「大津波の後に」(だったかな)は2K位の密度があり充分観賞に耐えたし、この映画でも問題は無い。

 パティシエになって自分の店を開きたいという夢を持つ23歳の星野遥(森川葵)。
いくつもの洋菓子店のアシスタント採用に応募するも不採用の連続。
そんなある日、一通のスパムらしきメールがとどく

「あなたはラッキーです!AI搭載通話型アプリ試用期間につき完全無料」
夢を諦めかけていた遥は、「溺れる者は藁でも掴む」。
そのスパムメールをなんとなく開いてしまう。

そこには「あなたの夢、叶えます」のキャッチフレーズが。
遥はつられてインストールボタンをタップする、と画面上に「A.I.」というアイコンが浮かび上がる。
アプリは起動したがそれ以上の変化はなかった。しかし、突如、遥のスマートフォンから男性の声(斎藤工)が聞こえる。

「こんにちは」この一言から始まる二人?の出会いが、遥の運命を変えることになる。

遥はその「A.I.」に「ラヴ」というコードネームを付け、その日からやりとりが始まる。
パティシエになるためにも恋をするべきだという「ラヴ」の無茶な提案をきっかけに、遥は上司のスー・シェフ・相田直斗(上杉柊平)を意識するようになる。

一方、遥は「ラヴ」に頼り始めてから何か不思議な感情を抱き始める。
「ラヴ」は遥の夢を叶えるためにいろいろなアドバイスをくれる。
その助言で急接近する遥と直斗。
しかし、遥の中では「ラヴ」への想いが徐々に膨れ上がっていく。

噴飯もののバカバカしい三角関係だ。
どうも真剣に映画を見る気にならなくなる。

唯一の救いはバラエティ豊富なケーキの数々。どれも涎が垂れそうな逸品に見える。しかしどうもオリジナリティには欠けているのでは。
何処かで見たようなデコレーション・ケーキばかり。

監督の宮木正悟はベテランのフジTVのディレクターだが、映画は余り経験が無い。
脚本がヤワだからもう少し自分のアイディアを出しても良かったのではないか。

吉本興業の低予算映画。
沖縄では見られているのかな?
 
12月10日より新宿武蔵野館にて公開される。
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